説明

ホイールボルト及びその製造方法

【課題】キャップの取付けの際にかしめ加工や溶接も不要で、かつフランジの形状もある程度自由にできるとともに、液密性を高めたホイールボルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】キャップ20は、ボルト本体10のフランジ部12の傾斜部12bに対向するように筒部22から半径方向外方へ遠ざかるように斜面状に形成されたスカート部23とを有している。キャップ20の筒部22がボルト本体10の六角部13の外周面に締まりばめで圧入される際に、スカート部23がボルト本体10のフランジ部12の傾斜部12bに押圧されて弾性変形し、スカート部23の弾性力でフランジ部12の傾斜部12bに沿って密着されるとともに、スカート部23の先端部23cが、ボルト本体10のフランジ部12の段差部112cに沿う形態で、その段差部112cに係合して密着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側のハブとディスクホイールとを締結するために用いられるホイールボルト(ハブボルトとも称する)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体側のハブとディスクホイールとを固定する方法として、ハブ側に設けられる雌ねじ部にディスクホイール介してホイールボルトを締結して固定する方法が知られている。また、ハブ側に設けられるホイールボルトにディスクホイールを介してホイールナットを締結して固定する方法もある。そして、これらホイールボルト或いはホイールナットには、外観の審美性を改善するためにキャップが被せられて用いられることがある。従来、ホイールナットにおいて、そのキャップの取付け方法として、例えば特許文献1に示すようにキャップの縁をフランジの周りに曲げた(かしめ加工した)構成とし溶接による取付けを不要とした提案がある。
【0003】
【特許文献1】特開平11−051031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、かしめ加工を必要としかつキャップの縁をフランジの荷重受け面から間隔を隔てて、キャップを移動させるように作用しない構造が必須となり、フランジの形状が制約される。
【0005】
本発明は上記した背景をもとになされたもので、ハブ側に設けられる雌ねじ部にディスクホイールを介して締結されるホイールボルトにおいて、キャップの取付けの際にかしめ加工や溶接も不要で、かつフランジの形状もある程度自由にできるとともに、液密性を高めたホイールボルト及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のホイールボルトは、ディスクホイールを車体側のハブに締結するためのホイールボルトであって、
ハブ側に設けられた雌ねじ部と螺合する雄ねじ部と、その雌ねじ部との螺合による締結力を受け止める受圧面を有するとともにその受圧面と反対側にその受圧面からの高さが内周側より外周側が低くなる傾斜面を有しその傾斜面の外周縁部に周状に形成された段差部を有するフランジ部と、そのフランジ部の傾斜面側に連設された工具係合部とを有するボルト本体と、
ボルト本体の工具係合部の頂部を被うキャップ端部と、そのキャップ端部に連設されボルト本体の工具係合部の横断面形状と相似形状の横断面形状を有してその工具係合部に締まりばめで圧入されて工具係合部の側面部を被う筒部と、フランジ部の傾斜面に対向するように筒部から半径方向外方へ遠ざかるように斜面状に形成されたスカート部とを有するキャップと、を備え、
キャップの筒部の軸線に対する直角方向とスカート部とのなす傾斜角度が、ボルト本体の軸線に対する直角方向とフランジ部の傾斜面とのなす傾斜角度よりも大に形成され、キャップの筒部がボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで圧入される際にスカート部がフランジ部の傾斜面に押圧されて弾性変形し、そのスカート部がその弾性変形による弾性力でフランジ部の傾斜面に密着されるとともに、スカート部の先端部が、フランジ部の段差部に沿う形態で、その段差部に係合して密着されていることを特徴とする。
【0007】
上記本発明のホイールボルトには、キャップのスカート部が筒部から半径方向外方に遠ざかるように斜面状に形成され、そのキャップの筒部の軸線に対する直角方向とスカート部とのなす傾斜角度が、ボルト本体における工具係合部の軸線に対する直角方向とフランジ部の傾斜面とのなす傾斜角度よりも大に形成されている。例えばキャップにおける筒部の軸線に対する直角方向とスカート部とのなす傾斜角度を、ボルト本体における工具係合部の軸線に対する直角方向と傾斜面とのなす傾斜角度よりも0.5度〜10度だけ大きく設定することができる。このようにスカート部が形成されることにより、キャップの筒部がボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで圧入される際に、スカート部がフランジ部の傾斜面に押圧されて弾性変形し、そのスカート部がその弾性変形による弾性力でフランジ部の傾斜面に密着し、スキマのない密着状態を呈し、キャップとボルト本体との間の液密性を維持し、水の内部への侵入を防止する機能を高められる。上記のようにキャップのスカート部の変形による弾性力でフランジ部の傾斜面に密着されるため、かしめ加工が不要で、溶接による取付けも不要で簡便にキャップを取付けることが可能である。フランジ部の形状も工具係合部とつながる部分に傾斜面を形成するのみで他に構造上の制約を必要とせず形状をある程度自由にできる。そして、ボルト本体の傾斜面の外周縁部に、周状に段差部を形成するとともに、キャップのスカート部の先端部が、段差部に沿う形態で、その段差部に係合して密着するようにしており、スカート部の先端部におけるフランジ部の傾斜面への密着性をよりよくし、水の内部への侵入をより防止でき、錆びにくくできる。
【0008】
その際、ボルト本体の工具係合部を、六角断面形状とし、一方キャップの筒部も六角断面形状に形成し、そのキャップの角部のアールが、ボルト本体の角部のアールと同じまたは大に形成され、キャップの筒部がボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで圧入される際にキャップ側の筒部の角部が伸びてボルト本体側の工具係合部の角部に密着するようにできる。これにより、キャップの筒部とボルト本体の六角形状部との密着性を良くし、キャップとボルト本体との間の液密性をさらに高めることができる。
【0009】
また、その際、ボルト本体部の工具係合部には、フランジ部の受圧面とは反対側に開口する穴部を形成することができ、その穴部により軽量化が図れるとともに、その穴部の開口をキャップ端部で被い、水の浸入を抑制できる。
【0010】
ところで、本発明のホイールボルトの製造方法について次のように表すことができる。ディスクホイールを固定するためのハブ側に設けられた雌ねじ部と螺合する雄ねじ部と、その雌ねじ部との螺合による締結力を受け止める受圧面を有するとともにその受圧面と反対側にその受圧面からの高さが内周側より外周側が低くなる傾斜面を有しその傾斜面の外周縁部に周状に形成された段差部を有するフランジ部と、そのフランジ部の傾斜面側に連設された工具係合部とを備えたボルト本体を形成する工程と、
ボルト本体の工具係合部の頂部を被うキャップ端部と、そのキャップ端部に連設されボルト本体の工具係合部の横断面形状と相似形状の横断面形状を有し工具係合部の側面部を被う筒部と、フランジ部の傾斜面に対向するように筒部から半径方向外方へ遠ざかるように斜面状に形成されたスカート部とを備え、筒部の軸線に対する直角方向とスカート部とのなす傾斜角度が、ボルト本体の軸線に対する直角方向とフランジ部の傾斜面とのなす傾斜角度よりも大となるように、キャップを形成する工程と、
キャップの筒部がボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで、かつスカート部がフランジ部の傾斜面に密着されるとともに、スカート部の先端部がフランジ部の段差部に沿う形態でその段差部に係合して密着されるように、キャップをボルト本体に圧入する圧入工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態につき、図面に示す実施例を参照して説明する。図1は、本発明のホイールボルト1の正面半断面図、図2は同平面図である。図1に示すホイールボルト1は、互いに対向配置される自動車等の車体側のハブ2とディスクホイール3とを締結するために用いられる。ディスクホイール3には、ハブ2とは反対側に向かって拡開するテーパ状のボルト挿通孔3aが所定数形成されている。つまり各ボルト挿通孔3aは、ハブ2側に形成された円柱状の孔と、それに続いてハブ2側と反対側(車体外側)に拡がる円錐状(又は円錐台状)の孔とを有している。また、ハブ2には、ボルト挿通孔3aと軸線Oを共通にする雌ねじ部2aが形成されている。このホイールボルト1は、ボルト本体10とキャップ20と座金30とを備えている。
【0012】
図3はボルト本体10の正面半断面図、図4は同平面図、図5は同斜視図である。図3に示すように、ボルト本体10は、ボルト挿通孔3aに挿通されてハブ2に形成された雌ねじ部2aと螺合する雄ねじ部11と、雌ねじ部2aとの螺合による締結力を受け止めるフランジ部12と、フランジ部12に連設され断面形状が六角形の六角部13(工具係合部)とを有している。
【0013】
六角部13は、レンチ等の工具と係合しホイールボルト1にトルクをかけることが可能とされている。六角部13には、フランジ部12の座面12aとは反対側に開口し外部に露出するように、その内側に丸い有底状の穴部14が形成されている。ボルト本体10における雄ねじ部11のフランジ部12とつながる軸状部15には、外周面にローレット加工によるローレット目16が形成され、座金30を保持可能とされている。
【0014】
フランジ部12の座面12a(受圧面)は、ボルト挿通孔3aの軸線O方向と直行する方向に形成され、締結時において座金30の端面30aと接触するようになっている。六角部13からフランジ部12にかけては、六角部13から半径方向外方に遠ざかるように延びた傾斜部12b(傾斜面)が形成されている。すなわちフランジ部12の座面12aと反対側にその座面12aからの高さが内周側より外周側が低くなるように傾斜部12bが形成される。
【0015】
図6はキャップ20の正面半断面図、図7は同平面図である。ボルト本体10への組付前の状態を示している。図6に示すように、キャップ20は、全体として上部が塞がれた筒形状をなし、ボルト本体10の穴部14を塞ぐキャップ端部21と、そのキャップ端部21に連設され六角部13を被覆するように、その六角部13の横断面形状と相似形状の六角横断面形状をなす筒部22と、その筒部22に連設され、フランジ部12の傾斜部12bに対向するように外方に傾斜して拡がり、少なくとも外周部がフランジ部12の傾斜部12bに密着するスカート部23とを有している。すなわちスカート部23は筒部22から半径方向外方に遠ざかるように斜面状に形成され、フランジ部12の傾斜部12bの上に対向配置される。スカート部23は、その下端(先端)が、ボルト本体10の六角部13の下端とフランジ部12の外周縁との間における外周縁より手前(内周側)に位置するように半径方向の寸法が定められている。つまりキャップ20が組付けられたときに、スカート部23の周縁部下端が、フランジ12の外周縁より内周側に位置する(図1参照)。
【0016】
座金30は、ボルト挿通孔3aの軸線O(図1参照)を含む半断面において台形状に形成され、ディスクホイール3とボルト本体10との間に位置し、ボルト本体10の軸状部15(ローレット目16を有する軸状部15)に嵌合され、取付けられている。つまり座金30は、締結時においてボルト本体10のフランジ部12の座面12aに接触する端面30aと、ボルト挿通孔3aのテーパ状の拡径面に接触するテーパ状の外周面30bと、内周縁部に端面30aと反対側に開口した座ぐり部30cとを有するテーパ座金を構成している。座金30は、圧入によりボルト本体10のローレット目16をこえて押し込まれ、圧入後はローレット目16に係止して抜け落ちることなく、非締結時においては回転自在に保持される。ローレット目16は、座ぐり部30cにより隠れた状態とされる。
【0017】
図8は図6のA部拡大図(キャップ20のスカート部23の拡大図)、図9は図3のB部拡大図(ボルト本体10の傾斜部12bの拡大図)である。ボルト本体10のフランジ部12の傾斜部12bにおいて、ボルト挿通孔3aの軸線Oと軸線を共通にするボルト本体10の六角部13の軸線Oに対する直角方向と傾斜部12bとのなす傾斜角度をθ2とし、キャップ20のスカート部23において、ボルト挿通孔3aの軸線Oと軸線を共通にするキャップ20の筒部22の軸線Oに対する直角方向とスカート部23とのなす傾斜角度をθ1とした場合、θ1>θ2の関係となるように構成している。すなわちキャップ20のスカート部23の傾斜角度が、ボルト本体10の傾斜部12bの傾斜角度よりも大としている。スカート部23の下部端面23aは、キャップ20の筒部22の軸線Oとほぼ平行な形状とされ、スカート部23の板厚方向とは一定量傾斜した端面となっている。これは直角となっているとカドができるため、これを解消して鈍角とするためで、スカート部23を備えた形状にプレス(絞り加工)した後、板素材(ブランク)を打ち抜いて、そうした端面が形成される。なお、ブランクを予め打ち抜いてから、スカート部23をプレス加工(絞り加工)する場合は、スカート部23の外周縁には、図8(b)に示すようにそのスカート部23の板面と直角な(板厚方向の)端面23a’が表れるが、もちろんそうした端面であっても差し支えない。
【0018】
キャップ20は、本実施例ではヤング率の高い材料として、例えばステンレス鋼板(例えばオーステナイト系)の厚さが0.4〜0.8mmを用いることができ、特に0.5〜0.6mmを使用するのが好ましい。傾斜角度の差(θ1―θ2)は、0.5度〜10度に設定することができ、1度〜6.5度に設定するのが好ましい。
【0019】
ボルト本体10の六角部13の寸法と、キャップ20の筒部22の寸法とについて説明する。図4及び図7に示すように、組付前の状態において軸方向からみて六角部13の2面幅(外面寸法)をL2とし、軸方向からみて筒部22の2面幅(内面寸法)をL1とした場合、L1<L2の関係となるように構成している。すなわちキャップ20の筒部22の2面幅(内面寸法)がボルト本体10の六角部13の2面幅(外面寸法)よりも小さくしている。本実施例においては、キャップ20の筒部22における締まりばめ比率は、0.2〜5%に設定することができ、0.25〜1%に設定するのが好ましい。
【0020】
次に、ホイールボルト1の製造方法について説明する。
(1)キャップ20は、図10に示す順送型と称される方法で製造される。図10に示すように、「ガイド押し」工程、「2重押し」工程、「部分切り(スリット形成)」工程を経て、1枚の平らな板がガイドを利用して底付きの容器状に段階を追って成形され中間段階で部分切りされる。続いてさらに複数段階の「絞り」工程を経て段階的に再絞り加工され深さを増し所定形状に成形され、最終の「切り離し」工程で所定寸法に切り離され、完成品ができる。
(2)ボルト本体10は、冷間鍛造品としている。ボルト本体10の六角部13の内側に丸い有底状の穴部14を形成し、その穴部14にパンチを挿入して、六角部13を外に張り出させて、六角部13の角部の形状を形成している。穴部14は、ボルト本体10の軽量化と六角部13の角部の形状をシャープに形成するために設けられている。
(3)座金30は、別途に製造する。
【0021】
(4)図11はホイールボルト1の製造方法を示す説明図である。ボルト本体10にキャップ20を固定する場合に、図11に示すように、圧入型40(押し型41と受け型42からなる圧入型)内にキャップ20とボルト本体10とが配置される。受け型42は、ボルト本体10のフランジ部12の傾斜部12bに対応したテーパ面42aを有し、キャップ20のスカート部23の変形を可能とされている。押し型41は、ボルト本体10の雄ねじ部11及び軸状部15に対応した穴部41aを有している。
【0022】
(5)圧入される前、キャップ20のスカート部23は所定の傾斜角度θ1を有し、一方ボルト本体10のフランジ部12は所定の傾斜角度θ2を有する。本実施例では、例えば傾斜角度θ1は「20度+3度〜+1度」、傾斜角度θ2は「20度+0度〜−2度」にそれぞれ設定されている。
【0023】
(6)また、圧入される前において、キャップ20の筒部22は所定の2面幅(内径)の寸法L1を有し、一方ボルト本体10の六角部13は所定の2面幅の寸法L2を有する。本実施例では、例えばL1は「18−0.3〜−0.35(mm)」、L2は「18−0.2〜−0.25(mm)」にそれぞれ設定されている。
【0024】
(7)押し型41により押圧されることにより、キャップ20の筒部22がボルト本体10の六角部13の外周面に締まりばめで圧入され、固定される。
(8)圧入される際に、キャップ20のスカート部23は、フランジ部12の傾斜部12bに押圧され、弾性変形領域をこえて塑性変形領域まで変形させられる。この変形により、スカート部23に弾性力が生じ、この弾性力でフランジ部12の傾斜部12bに沿って密着された状態で固定される。
【0025】
図12はキャップ20の材料として用いるステンレス鋼板(例えばオーステナイト系)の応力とひずみの関係を示す「応力―ひずみ線図」である。弾性変形領域をこえて塑性変形領域まで変形され、例えばP点で力が除去された場合、弾性のひずみ分が減ってP1のひずみとなる。元に戻ろうとする弾性ひずみ量P2がスプリングバックとして作用する。すなわちスカート部23が元に戻ろうとするがフランジ部12の傾斜部12bに当接した状態のため、元に戻ろうとする力が押さえつける力として作用する。
【0026】
なお、スカート部23の変形領域について、弾性変形領域の中でもよいが(本発明の効果を奏する弾性力は得られるが)、弾性変形領域をこえて塑性変形領域まで変形させることにより次のような効果がプラスされ、より望ましい。キャップ20の製造においては、スカート部23の傾斜角度公差を大きくとりたい。そうすることにより製造し易くなり製造の均一性が維持できる。そのためにスカート部23の傾斜角度(傾斜角度差)を大き目に設定して、塑性変形領域にまで変形させることにより、スカート部23の傾斜角度公差を大きくとることが可能となる。従って、塑性変形領域における弾性ひずみを活かした形態(言い換えればスプリングバック効果を活かした形態)とすることにより、キャップ20の製造とホイールボルト1へのキャップ固定との双方に効果的である。
【0027】
また、キャップ20の六角形状の筒部22において、六角形状の角部22aのアールR1は、ボルト本体10の六角部13における角部13aのアールR2と同じ、またはアールR2よりもわずかに大(例えば0.1〜0.3mm大きく)となる関係に構成されている。キャップ20の角部6箇所において、上記関係となるように形成される。このように形成されたキャップ20は、前述の圧入型を用いて圧入される際に、キャップ20の筒部22の角部22a部分が伸びてボルト本体10の六角部13の角部13aに密着した状態を呈する。
【0028】
上記のようにキャップ20のスカート部23が、筒部22から半径方向外方へ遠ざかるように斜面状に形成され、キャップ20の筒部22の軸線Oに対する直角方向とスカート部23とのなす傾斜角度θ1を、ボルト本体10の六角部13の軸線Oに対する直角方向と傾斜部12bとのなす傾斜角度θ2よりも大としており、キャップ20の筒部22がボルト本体10の六角部13の外周面に締まりばめで圧入される際に、スカート部23がフランジ部12の傾斜部12bに押圧されて変形し、スカート部23の変形による弾性力でフランジ部12の傾斜部12bに密着し、スキマのない密着状態を呈し、水の内部への侵入を防止できる。このように、キャップ20とボルト本体10との間の液密性を高め、シ−ル部材を兼ねるものとすることもできる。そして、スカート部23の弾性力でフランジ部12の傾斜部12bに密着されるため、かしめ加工が不要で、溶接による取付けも不要で簡便にキャップ20を取付けることが可能である。フランジ部12の形状も六角部13とつながる部分に傾斜部12bを形成するのみで他に構造上の制約を必要とせずフランジ部12の形状をある程度自由にできる。
【0029】
また、ボルト本体の六角部13には、内側に外部に露出して穴部14が形成され、軽量化が図れるとともに、その穴部14をキャップ端部21で塞ぎ、水の浸入を防止できる。さらに、スカート部23の下端(先端)は、六角部13の下端とフランジ部12の外周縁との間における外周縁より内周側に位置し周状に形成されることによって、スカート部23の端部が突出せずにフランジ部12(フランジ部12の傾斜部12b)に沿って密着し、引っ掛かることがなく、かつ安全である。また、スカート部23の下部端面23aをボルト本体10の軸線Oと平行な形状とし、角部23bが鈍角になるようにしており、引っ掛かりがより抑えられる。
【0030】
また、キャップ20の筒部22の角部22aのアールR1が、ボルト本体10の六角部13における角部13aのアールR2と同じ、またはアールR2よりもわずかに大に形成されることによって、圧入された際に筒部22の角部22a部分が伸びてボルト本体10の六角部13の角部13aとの密着性を良くし、キャップ20とボルト本体10との間の液密性をさらに高めることができる。
【0031】
(変形例1)
図13は変形例を示す。変形例ではボルト本体の傾斜部の形状を変更している。図13に示すように、ボルト本体110の傾斜部112bの外周縁部付近(フランジ部112の傾斜部112bの外周縁から半径方向内方に離間しかつ外周縁に近い位置)に、周状に段差部112cが形成されている。そして、図13(a)に示すG部分を加圧し、キャップ20のスカート部23の先端部23cが、段差部112cに沿う形態で、その段差部112cに係合して密着するようにしている。すなわちキャップ20が圧入される際、所定の治具を介しスカート部23の先端部23cが段差部112cに押し付けられて、その段差部112cに沿うように変形して係合部が形成される(図13(b)参照)。
【0032】
そして、変形例では図13に示すように、キャップ20のスカート部23の先端部23cのフランジ112対向面側(フランジ112の傾斜部112bに対向した面)に周状に電池作用による腐食防止のための絶縁性部材として絶縁接着剤125を圧入前に予め塗布している。これはキャップ20とフランジ部112とが異種金属で構成された場合(例えばキャップがステンレス鋼板で形成され、フランジ部(ボルト本体)が炭素鋼で形成されその表面が亜鉛鍍金処理された構成或いはその他金属被覆材料で被覆された構成の場合など)、それらの接触部における接触影響による腐食作用の促進を防止するためのものである。絶縁性部材としては、絶縁性と防水性をあわせもったものが望ましい。例えばエポキシ系樹脂を絶縁接着剤として用いることができる。圧入後において、図13(c)に示すように、スカート部23の先端部23cとフランジ部112の傾斜部112bとの間に絶縁接着剤125が積層状態に形成され、絶縁接着剤125がフランジ112端部から僅かにはみ出す程度が望ましい。また、スカート部23の端面23aがフランジ部112の端部より僅かに半径方向外方に長く突出するのが望ましく、これによりキャップ20側への接着剤の流れ出しを抑えることができ、キャップ20側から見た場合の美観を損なうおそれを軽減できる。このように絶縁接着剤125によって絶縁層を形成することにより、腐食防止効果を付加することができる。
【0033】
なお、図14に示すように、スカート部23の外周部に、予めフランジ部112の段差部112cに係合する係合部23dが形成され、この係合部23dがスカート部23の圧入工程でその段差部112cに嵌まるように構成することもできる。なお、図13及び図14において、図1と同一の機能を有する部分には同一の番号を付して説明を省略する。
【0034】
このようにキャップ20のスカート部23の先端部23cが、段差部112cに沿う形態で、その段差部112cに係合して密着するようにされ、また、スカート部23の外周部がその段差部112cより外側の傾斜部112b’に密着(好ましくは弾性変形状態で押し付けられる)することにより、傾斜部112b’と段差部112cとの二重の密着効果、ひいてはそのような屈曲した密着面の一種のラビリンス効果により、キャップ20とフランジ部112との間への水の侵入を抑制し、錆びにくくできる。また、図14の例の場合、スカート部23の外周部のフランジ部112の傾斜部112b’に対向した面側に、圧入前に予め前述同様に絶縁接着剤を塗布しておくことにより、圧入後、キャップ20のスカート部23の先端部23cとフランジ部112の傾斜部112b’との間に絶縁層を形成することができる。これにより腐食防止効果を付加できる。
【0035】
(変形例2)
図15は第2変形例を示す。圧入型で押す場合における荷重のかけ方を実施例と異ならせている。キャップ20のスカート部23の先端部(外周縁部)に近い部分(スカート部23の外周縁から半径方向内方に離間しかつ外周縁に近い位置)において、図15に示すF部分を加圧し、加圧時の圧着しろがスカート部23の外周縁部に周状に形成されるようにする。すなわちキャップ20が圧入される際に、スカート部23の筒部22に近い部分(根元部分)から押さえるのではなく、外側(外周縁部)から押さえるようにしている。その際、型(受け型)142は、図15に示すように、スカート部23の先端部23cがフリーの状態(型が当接しない)とするのが望ましい。圧入後の形態として、2つの形態を示すことができる。図15(b)は内周側に隙間が生じないように密着させる形態であるが、外周側の方が密着(面圧)が高い。図15(c)は外周側が密着して、内周側は隙間が生じる(外周側が必ず密着するようにしている)形態である。なお、図15において、図1と同一の機能を有する部分には同一の番号を付して説明を省略する。
【0036】
このようにキャップ20が圧入されることにより、スカート部23の外周部におけるフランジ部12の傾斜部12bへの密着がよりよくなる。スカート部23の先端部23cがフリーの状態としており、スカート部23のテーパ(傾斜角度θ1)がフランジ部12の傾斜部12bのテーパ(傾斜角度θ2)よりも大であることによって、F部分が加圧されることによりその先端部23cがフランジ部12の傾斜部12bに程よく押圧された状態となって、外周部の密着性がよくなる。これは、スカート部23が弾性変形状態でフランジ部12の傾斜部12bに押圧され、この弾性力で両者の密着状態が維持されるともいうことができる。
【0037】
なお、本実施例に次のような変形を加えてもよい。
(1)キャップ20の材質は、本実施例ではステンレス鋼板を用いたが、これに限定されることなく、ヤング率の高いものであれば、例えばアルミニウムやチタンなどを用いることができる。
(2)座金30は、本実施例ではテーパ座金としたが、これに限定されることなく、ハブ側の形状に応じて例えば平座金を用いることもできる。
【0038】
(3)ボルト本体10の六角部13の形状は、六角形状に限定されることなく、レンチ等の工具と係合しホイールボルト1にトルクをかけることが可能であれば種々の形状が採用できる。例えば図16(a)に示すように、外周が円形で内側に六角形状の穴部50aを有したボルト本体50としたり、図16(b)に示すように、外周に複数の歯部55aを有する(セレーションにより形成された)ボルト本体55としてもよい。また、これに対応してキャップ20の筒部22の形状も変更できる。
【0039】
(4)キャップ20のスカート部23とフランジ部112の傾斜部112bとの間に設けられる絶縁性部材について、変形例1の段差部を設けた例に限定されず他にも適用できる。例えば図15において、スカート部23の先端部23cの傾斜部12bに対向した面側に絶縁性接着剤を圧入前に塗布して、その後圧入して絶縁層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のホイールボルトの一例を示す正面半断面図。
【図2】ホイールボルトの平面図。
【図3】ボルト本体の正面半断面図。
【図4】ボルト本体の平面図。
【図5】ボルト本体の斜視図。
【図6】キャップの正面半断面図。
【図7】キャップの平面図。
【図8】図6のA部拡大図。
【図9】図3のB部拡大図。
【図10】キャップの製造方法を示す説明図。
【図11】ホイールボルトの製造方法を示す説明図。
【図12】キャップ材料の応力とひずみの関係の一例を示す応力―ひずみ線図。
【図13】ホイールボルトの変形例を示す説明図。
【図14】図13のスカート部の変形例を示す説明図。
【図15】ホイールボルトの他の変形例を示す説明図。
【図16】ボルト本体の変形例を示す説明図。
【符号の説明】
【0041】
1 ホイールボルト
2 ハブ
3 ディスクホイール
10 ボルト本体
11 雄ねじ部
12 フランジ部
12b 傾斜部(傾斜面)
13 六角部(工具係合部)
13a 角部
14 穴部
20 キャップ
21 キャップ端部
22 筒部
22a 角部
23 スカート部
23c 先端部
112c 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクホイールを車体側のハブに締結するためのホイールボルトであって、
前記ハブ側に設けられた雌ねじ部と螺合する雄ねじ部と、その雌ねじ部との螺合による締結力を受け止める受圧面を有するとともにその受圧面と反対側にその受圧面からの高さが内周側より外周側が低くなる傾斜面を有しその傾斜面の外周縁部に周状に形成された段差部を有するフランジ部と、そのフランジ部の前記傾斜面側に連設された工具係合部とを有するボルト本体と、
前記ボルト本体の工具係合部の頂部を被うキャップ端部と、そのキャップ端部に連設され前記ボルト本体の工具係合部の横断面形状と相似形状の横断面形状を有してその工具係合部に締まりばめで圧入されて前記工具係合部の側面部を被う筒部と、前記フランジ部の傾斜面に対向するように前記筒部から半径方向外方へ遠ざかるように斜面状に形成されたスカート部とを有するキャップと、を備え、
前記キャップの筒部の軸線に対する直角方向と前記スカート部とのなす傾斜角度が、前記ボルト本体の軸線に対する直角方向と前記フランジ部の傾斜面とのなす傾斜角度よりも大に形成され、前記キャップの筒部が前記ボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで圧入される際に前記スカート部が前記フランジ部の傾斜面に押圧されて弾性変形し、そのスカート部がその弾性変形による弾性力で前記フランジ部の傾斜面に密着されるとともに、前記スカート部の先端部が、前記フランジ部の段差部に沿う形態で、その段差部に係合して密着されていることを特徴とするホイールボルト。
【請求項2】
前記ボルト本体の工具係合部は、六角断面形状をなし、一方前記キャップの筒部も六角断面形状に形成され、そのキャップの角部のアールが、前記ボルト本体の角部のアールと同じまたは大に形成され、前記キャップの筒部が前記ボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで圧入される際に前記キャップ側の筒部の角部が伸びて前記ボルト本体側の工具係合部の角部に密着されている請求項1に記載のホイールボルト。
【請求項3】
前記ボルト本体部の工具係合部には、前記フランジ部の受圧面とは反対側に開口する穴部が形成されており、前記キャップのキャップ端部はこの穴部を被うものである請求項1または2に記載のホイールボルト。
【請求項4】
前記キャップにおける前記筒部の軸線に対する直角方向と前記スカート部とのなす傾斜角度が、前記ボルト本体の軸線に対する直角方向と前記フランジ部の傾斜面とのなす傾斜角度よりも0.5度〜10度だけ大きい請求項1ないし3のいずれか1項に記載のホイールボルト。
【請求項5】
ディスクホイールを固定するためのハブ側に設けられた雌ねじ部と螺合する雄ねじ部と、その雌ねじ部との螺合による締結力を受け止める受圧面を有するとともにその受圧面と反対側にその受圧面からの高さが内周側より外周側が低くなる傾斜面を有しその傾斜面の外周縁部に周状に形成された段差部を有するフランジ部と、そのフランジ部の傾斜面側に連設された工具係合部とを備えたボルト本体を形成する工程と、
前記ボルト本体の工具係合部の頂部を被うキャップ端部と、そのキャップ端部に連設され前記ボルト本体の工具係合部の横断面形状と相似形状の横断面形状を有し前記工具係合部の側面部を被う筒部と、前記フランジ部の傾斜面に対向するように前記筒部から半径方向外方へ遠ざかるように斜面状に形成されたスカート部とを備え、前記筒部の軸線に対する直角方向と前記スカート部とのなす傾斜角度が、前記ボルト本体の軸線に対する直角方向と前記フランジ部の傾斜面とのなす傾斜角度よりも大となるように、キャップを形成する工程と、
前記キャップの筒部が前記ボルト本体の工具係合部の外周面に締まりばめで、かつ前記スカート部が前記フランジ部の傾斜面に密着されるとともに、前記スカート部の先端部が前記フランジ部の段差部に沿う形態でその段差部に係合して密着されるように、前記キャップを前記ボルト本体に圧入する圧入工程と、
を含むホイールボルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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