説明

ホウ素含有化合物

【課題】有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができるホウ素含有化合物を提供する。
【解決手段】特定の構造を有する例えば式(7)のようなホウ素含有化合物。


(式中、X1、X2、X3及びX4は、同一又は異なって、水素原子又は1価の置換基を表し、n1は2、Y1は縮合環構造を含む2価の炭化水素基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有化合物に関する。より詳しくは、有機EL素子材料や有機半導体の材料等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができるホウ素含有化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素原子を構造中に有するホウ素含有化合物は、ホウ素原子の分子軌道における電子状態に起因する電子的特性から有機電子デバイス材料として注目されているものである。例えば、電子受容性などの特性が必要とされる有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の電子輸送/注入材料もしくは正孔阻止材料などや有機電子デバイスのn型半導体材料として期待されている。特に有機EL素子は、ディスプレイとしての種々の優れた特性を有することから、より一層の高性能化を実現できる材料の開発が盛んに進められている。
【0003】
このような用途に利用できるホウ素含有化合物としては、これまで数例が知られているが、それらのほとんどは3つのアリール基がホウ素原子上に結合したものに限られていた。ホウ素含有化合物は、その電子的な特性に起因して安定な構造とすることが困難であり、そのために電子デバイス材料用途に実際に用いることができるものが限られているというのが現状である。
このような状況下、ホウ素含有化合物を次世代の有機電子デバイス材料として活用するために、ホウ素原子に起因する優れた特有の性質を発揮させつつ、安定的に取り扱うことが可能な新規化合物の開発が進められている。
【0004】
これまで、有機電子デバイス材料としての利用を目指して検討が行われているホウ素含有化合物としては、例えば、不対電子を持ちホウ素と配位結合可能な元素を含み、特定の構造を有する有機ホウ素含有化合物である有機EL素子材料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、分子内にホウ素原子を3〜15個有する特定の構造の有機ホウ素含有化合物である有機EL素子材料が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
更には、窒素がホウ素へ分子内配位した構造を含み、特定の構造を有する構成単位を1〜400個鎖状に結合した構造を有する有機ホウ素系π電子系化合物を電子輸送材料として用いることが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。あるいは、光電子デバイス材料用途への展開を念頭に、特定の構造を有するN,C−キレートボリル化合物が検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4600288号公報
【特許文献2】特許第3994573号公報
【特許文献3】国際公開第2006/070817号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】チョル・ベク(Chul Baik)、外3名、「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of the American Chemical Society)」、2009年、第131巻、第40号、p.14549−14559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ホウ素含有化合物は、ホウ素原子がその分子軌道に空軌道を有し、それによって最高被占軌道(HOMO)や最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位が低いという、ホウ素原子の電子状態に由来する特性を有する。特にLUMOのエネルギー準位が低いことに起因して、上記のように有機EL素子の材料やn型半導体の材料としての用途が期待されている。例えば、りん光発光を利用した有機EL素子の一般的な構成、すなわち、透明電極から形成される陽極、ホール(正孔)輸送層、りん光発光層(発光ドーパント、りん光ホスト材料)、電子輸送層、正孔阻止層、Mg、Al、Ca等から形成される陰極といった構成において、電子輸送層や正孔阻止層にLUMOのエネルギー準位が低い材料を使用すれば、有機EL素子としての性能が向上することになる。
一方で、ホウ素含有化合物における課題は、ホウ素原子が空軌道を有することに伴って、安定な化合物が少ないということである。安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位を下げることができれば、有機電子デバイス材料としての用途に有用である。そのような化合物のバリエーションを増やすことは、有機EL素子やn型半導体等の有機電子デバイスの分野で当該化合物をデバイス材料として用いる場合において大きな技術的意義がある。
【0009】
上述のように、ホウ素原子に起因する優れた特有の性質を発揮させながら、安定的に取り扱うことができるホウ素含有化合物の開発を目指して種々の構造を有するホウ素含有化合物が検討されているが、今後、有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料の開発の中では、様々な特性が要求されることになると考えられ、そのような有機電子デバイス材料として、安定で更に種々の特性に優れたホウ素含有化合物の開発が期待されているところである。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができるホウ素含有化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、有機電子デバイス材料に好適に用いることができるホウ素含有化合物の開発を行う中でその構造について種々検討したところ、ホウ素含有化合物を安定的な化合物とするためには、ホウ素原子に対して窒素原子が配位した構造を有するようにすればよいことに着目した。そして、下記一般式(1)又は(2)で表されるような特定の構造を有する化合物が(i)安定な化合物である、(ii)HOMO、LUMOのエネルギー準位が低い、(iii)HOMOとLUMOの軌道が分離している、(iv)酸化にも還元にも強い、(v)良好な膜、特には塗布膜、を作製することが可能である等の種々の特性を有することを見出した。このようなホウ素含有化合物は、HOMO、LUMOのエネルギー準位が低く、還元に強くて、良好な膜を製造することができることから、有機トランジスタのn型半導体や有機EL素子の電子輸送材料、正孔阻止材料として好適に用いることができる。また、酸化にも強いことから有機EL素子の発光材料や太陽電池のn型半導体としても優れた性能を発揮することができ、更に、HOMO、LUMOの軌道が分離していること、及び、良好な塗布膜を作製することができることから、りん光発光を利用した有機EL素子のりん光ホスト材料や量子ドットのホスト材料としても好適に用いることができる。このように種々の用途に好適に用いることができるホウ素含有化合物を見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。なお、Xの結合する点線の円弧部分を形成している環構造はその環構造骨格が炭素原子からなる。nは2を表す。Yは直接結合であり、2個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)で表されることを特徴とするホウ素含有化合物である。
【0015】
本発明はまた、下記一般式(2);
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。nは、2〜10の整数を表す。Yは、n価の連結基であり、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)で表されることを特徴とするホウ素含有化合物でもある。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載される本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の好ましい形態である。
【0018】
本明細書において、上記一般式(1)で表されるホウ素含有化合物、すなわち、特定の構造単位が直接結合した二量体を本発明のホウ素含有化合物(1)と記載する。また、上記一般式(2)で表されるホウ素含有化合物、すなわち、特定の構造単位がYで表されるn価の連結基を介してn個結合した多量体を本発明のホウ素含有化合物(2)と記載する。
なお、以下の説明において、「本発明のホウ素含有化合物」という場合、本発明のホウ素含有化合物(1)及び(2)の両方を含む。つまり、「本発明のホウ素含有化合物」についての説明は、本発明のホウ素含有化合物(1)及び(2)のいずれにも適用できるものとする。
【0019】
本発明のホウ素含有化合物が、HOMO、LUMOのエネルギー準位が低く、HOMOとLUMOの軌道が分離しており、更に、還元にも強いものである理由は以下のとおりである。
ホウ素含有化合物を、一般式(1)におけるY以外の構造部分を有するもの、又は、一般式(2)におけるY以外の構造部分を有するものとすることにより、その構造から、ホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分を含む面と、ホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分を含む面とが直交し、ホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分を含む面よりもホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分を含む面の方に電子が偏った電子分布となることから、安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位が低く、HOMOとLUMOの軌道が分離しており、更に、還元にも強いものとすることができる。本発明のホウ素含有化合物が、ホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分を含む面と、ホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分を含む面とが直交し、HOMOとLUMOの軌道が分離している様子を、本発明のホウ素含有化合物に該当する具体的な化合物を一例として図1(A)に示す。図1(B)は、図1(A)で示した化合物の化学式を表している。
本発明のホウ素含有化合物は、一般式(1)におけるY以外の構造部分、又は、一般式(2)におけるY以外の構造部分を複数有することにより、更に酸化にも強く、良好な膜、特には塗布膜を作製することが可能である。
なお、膜の作製方法として大きくは、塗布法と蒸着法とが挙げられ、どちらの方法であっても良好な膜を作製することができれば膜としては問題ない。ただし、一般に低分子化合物は塗布法により製膜することは難しく、蒸着法によって製膜することになるのに対して、塗布法は蒸着法よりも省エネルギーなプロセスである。このことから、本発明のホウ素含有化合物のように、低分子化合物であるにもかかわらず、塗布法により製膜することができることは、製膜を行う上で大きな利点を有していると言える。
【0020】
まず、本発明のホウ素含有化合物(1)について、以下に説明する。
本発明のホウ素含有化合物(1)は、下記一般式(1);
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。なお、Xの結合する点線の円弧部分を形成している環構造はその環構造骨格が炭素原子からなる。nは2を表す。Yは直接結合であり、2個存在するY以外の構造部分どうしがそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)で表される構造を有する化合物である。
【0023】
上記一般式(1)において、点線の円弧は、実線で表される骨格部分、すなわちホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部又はホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分の一部、と共に環構造が形成されていることを表している。これは、一般式(1)で表される化合物が構造中に少なくとも4つ環構造を有し、一般式(1)において、ホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分及びホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分が、該環構造の一部として含まれていることを表している。なお、Xの結合する環構造は、その環構造骨格が炭素原子以外の原子を含まず、炭素原子からなるものである。
上記一般式(1)において、実線で表される骨格部分、すなわちホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分及びホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分、における点線部分は、それぞれの骨格部分において点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。
【0024】
上記一般式(1)において、窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。ここで、配位しているとは、窒素原子がホウ素原子に対して配位子と同様に作用して化学的に影響していることを意味する。
【0025】
上記一般式(1)において、Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しているものであって、置換基を有していてもよい。これは、Q及びQがそれぞれ、該環構造の一部として組み込まれていることを表している。
上記一般式(1)において、X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。すなわち、X、X、X及びXが水素原子である場合には、一般式(1)で表される化合物の構造中、X、X、X及びXを有する4つの環構造は置換基を有していないことを示し、X、X、X及びXのいずれか、又は、全てが、1価の置換基である場合には、該4つの環構造のいずれか、又は、いずれもが置換基を有することとなる。その場合には、1つの環構造の有する置換基の数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0026】
上記一般式(1)において、Yは、直接結合であり、2個存在するY以外の構造部分どうしが、それぞれ独立に点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表している。これはすなわち、2個存在するY以外の構造部分の一方の、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所と、もう一方の、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所とが直接結合していることを表している。当該結合位置は特に制限されないが、Y以外の構造部分の一方のXが結合している環又はXが結合している環と、もう一方のXが結合している環又はXが結合している環とが直接結合していることが好ましい。より好ましくは、Y以外の構造部分の一方のXが結合している環と、もう一方のXが結合している環とが直接結合していることである。
また、2個存在するY以外の構造部分の構造は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
上記一般式(1)におけるQ及びQとしては、下記一般式(3−1)〜(3−8);
【0028】
【化4】

【0029】
で表される構造が挙げられる。なお、一般式(3−2)は、炭素原子に水素原子が2つ結合し、更に3つの原子が結合する構造であるが、当該水素原子以外の、炭素原子に結合する3つの原子は、いずれも水素原子以外の原子である。上記一般式(3−1)〜(3−8)の中でも、(3−1)、(3−7)、(3−8)のいずれかが好ましい。より好ましくは、(3−1)である。すなわち、Q及びQが、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0030】
上記一般式(1)において、点線の円弧と、実線で表される骨格部分の一部とによって形成される環構造は、Xの結合する環構造の骨格が炭素原子からなる限り、環状構造であれば特に制限されない。
一般式(1)においてXが結合している環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環が挙げられ、これらはそれぞれ、下記一般式(4−1)〜(4−9)で表される。これらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環が好ましく、より好ましくは、ベンゼン環である。
【0031】
【化5】

【0032】
上記一般式(1)においてXが結合している環としては、例えば、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、フェナントリジン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられる。これらはそれぞれ、下記一般式(5−1)〜(5−17)で表される。なお、下記一般式(5−1)〜(5−17)中の*印は、Xが結合している環を構成し、かつ、一般式(1)におけるホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分を構成する炭素原子が、*印の付された炭素原子のいずれか1つと結合することを表している。また、*印の付された炭素原子を除く位置で他の環構造と縮環していてもよい。これらの中でも、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、フェナントリジン環が好ましい。より好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環である。更に好ましくは、ピリジン環である。
【0033】
【化6】

【0034】
また、上記一般式(1)においてXが結合している環及びXが結合している環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環が挙げられ、これらはそれぞれ、下記一般式(6−1)〜(6−32)で表される。これらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環である。
【0035】
【化7】

【0036】
すなわち、本発明のホウ素含有化合物(1)が、下記一般式(7);
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X、X、X、n及びYは一般式(1)と同様である。)で表されるホウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。本発明のホウ素含有化合物は上記一般式(7)で表される構造を有することにより、ホウ素原子に配位している窒素原子を除いて、X、X、X、Xが結合している環が炭素原子のみで構成されることとなるため、Sなどのヘテロ原子を環内に含む化合物の場合に比べて、軌道の広がりが小さくなり、一般論としてHOMO−LUMOのエネルギーギャップが広く保たれるといった特徴を有することとなる。このような特徴から、例えば、有機EL素子のりん光ホスト材料としてより好適に用いることができる。
【0039】
上記一般式(1)において、X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表す。該1価の置換基としては特に制限されないが、X、X、X及びXとしては、例えば、水素原子、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基、シリル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、チオール基、エポキシ基、アシル基、置換基を有していてもよいオリゴアリール基、1価のオリゴ複素環基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アゾ基、スタニル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルフィニル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基;メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基等のアルキルスルホネート基;ベンゼンスルホネート基、p−トルエンスルホネート基等のアリールスルホネート基;ベンジルスルホネート基等のアリールアルキルスルホネート基、ボリル基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、アリールスルホネート基、アルデヒド基、アセトニトリル基等が挙げられる。
【0040】
上記X、X、X及びXにおける置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2〜20のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2〜20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル−tert−ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6−キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基;チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基;カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基等のN,N−ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で置換されていてもよく、更に、これらの基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0041】
これらの中でも、X、X、X及びXとしては、水素原子;ハロゲン原子、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオール基、エポキシ基、アミノ基、アゾ基、アシル基、アリル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等の反応性基;炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;アリール基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アリール基;オリゴアリール基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、オリゴアリール基;1価の複素環基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、1価のオリゴ複素環基;アルキルチオ基;アリールオキシ基;アリールチオ基;アリールアルキル基;アリールアルコキシ基;アリールアルキルチオ基;アルケニル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アルケニル基;アルキニル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アルキニル基が好ましい。
より好ましくは、水素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アミノ基、ボリル基、アルキニル基、アルケニル基、ホルミル基、シリル基、スタニル基、ホスフィノ基、該反応性基で置換されたアリール基、該反応性基で置換されたオリゴアリール基、1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基、該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基、アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基、アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基である。中でも、X及びXとして更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、含窒素複素芳香族基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基等の還元に強い官能基である。特に好ましくは、水素原子、アリール基、含窒素複素芳香族基である。また、X及びXとして更に好ましくは、水素原子、カルバゾリル基、トリフェニルアミノ基、チエニル基、フラニル基、アルキル基、アリール基、インドリル基等の酸化に強い官能基である。特に好ましくは、水素原子、カルバゾリル基、トリフェニルアミノ基、チエニル基である。このように、X及びXとして還元に強い官能基を有し、X及びXとして酸化に強い官能基を有するものとすると、ホウ素含有化合物全体として更に還元にも酸化にも強い化合物となるものと考えられる。
なお、上記式(1)において、X、X、X及びXが1価の置換基である場合、環構造に対するX、X、X及びXの結合位置や結合する数は、特に制限されない。
【0042】
次に、本発明のホウ素含有化合物(2)について、以下に説明する。
本発明のホウ素含有化合物(2)は、下記一般式(2);
【0043】
【化9】

【0044】
(式中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。nは、2〜10の整数を表す。Yは、n価の連結基であり、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)で表される構造を有する化合物である。
【0045】
上記一般式(2)において、点線の円弧、実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印は、一般式(1)と同様の意味である。ただし、一般式(2)においてXの結合する環構造は、その環構造骨格が炭素原子以外の原子を含んでいてもよいし、炭素原子からなるものであってもよい。
【0046】
上記一般式(2)において、Q及びQは、一般式(1)におけるQ及びQと同様である。すなわち、本発明のホウ素含有化合物(1)と同様、一般式(2)において、Q及びQが、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記一般式(2)において、X、X、X及びXも、一般式(1)におけるX、X、X及びXと同様である。
【0047】
上記一般式(2)において、nは2〜10の整数を表し、Yは、n価の連結基である。すなわち、一般式(2)で表される化合物においては、一般式(2)におけるY以外の構造部分が複数存在し、それらが連結基であるYを介して結合することとなる。このように複数存在する一般式(2)におけるY以外の構造部分が連結基であるYを介して結合する構造は、本発明のホウ素含有化合物(1)のように一般式(1)におけるY以外の構造部分が直接結合している構造よりも、更に酸化に強くなり製膜性も向上することから、より好ましい。
なお、Yは、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合しているものであるが、これは、Y以外の構造部分が、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所でYと結合していればよく、Y以外の構造部分のYとの結合部位は、n個存在するY以外の構造部分それぞれに独立であって、全て同一部位であってもよいし、一部が同一部位であってもよいし、全て異なる部位であってもよい、ということを意味している。当該結合位置は特に制限されないが、n個存在するY以外の構造部分の全てが、Xが結合している環又はXが結合している環でYと結合していることが好ましい。より好ましくは、n個存在するY以外の構造部分の全てが、Xが結合している環でYと結合していることである。
また、n個存在するY以外の構造部分の構造は、全て同一であってもよいし、一部が同一であってもよいし、全て異なっていてもよい。
【0048】
上記一般式(2)におけるYは、n価の連結基であるが、該連結基としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ元素を含む基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基が挙げられる。これらの中でも、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基といった芳香環を有する基であることが好ましい。すなわち、一般式(2)におけるYは、芳香環を有する基であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
更に、Yは、上述した連結基が複数組み合わさった構造を有する連結基であってもよい。
【0049】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基としては、下記一般式(8−1)〜(8−8)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記一般式(8−1)、(8−7)がより好ましい。
上記へテロ元素を含む基としては、下記一般式(8−9)〜(8−13)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記一般式(8−12)、(8−13)がより好ましい。
【0050】
上記アリール基としては、下記一般式(8−14)〜(8−20)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記一般式(8−14)、(8−20)がより好ましい。
【0051】
上記複素環基としては、下記一般式(8−21)〜(8−27)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記一般式(8−23)、(8−24)がより好ましい。
【0052】
【化10】

【0053】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、アリール基、複素環基が有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のアルキル基を有するジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、スチリル基等の炭素数2〜30のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基等の炭素数2〜30のアルキニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基等で置換されていてもよいアリール基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基で置換されていてもよい複素環基;N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基等のN,N−ジアルキルカルバモイル基;ジオキサボロラニル基、スタニル基、シリル基、エステル基、ホルミル基、チオエーテル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
これらの中でも、Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、アリール基、複素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、ジアリールアミノ基が好ましい。より好ましくは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジアリールアミノ基である。
上記Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、アリール基、複素環基が置換基を有する場合、置換基が結合する位置や数は特に制限されない。
【0054】
上記一般式(2)におけるnは、2〜10の整数を表すが、好ましくは、2〜6である。より好ましくは、2〜5であり、更に好ましくは、2〜4であり、特に好ましくは、溶媒への溶解性の観点から、2又は3である。最も好ましくは2である。すなわち、本発明のホウ素含有化合物(2)は、二量体であることが最も好ましい。
【0055】
上記一般式(2)において、点線の円弧と、実線で表される骨格部分の一部とによって形成される環構造は、環状構造であれば特に制限されない。
一般式(2)においてXが結合している環としては、一般式(1)においてXが結合している環、Xが結合している環、及びXが結合している環と同様である。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環が挙げられ、これらはそれぞれ、下記一般式(9−1)〜(9−32)で表される。これらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環である。
【0056】
【化11】

【0057】
また、上記一般式(2)においてXが結合している環、Xが結合している環、及びXが結合している環としては、一般式(1)においてXが結合している環、Xが結合している環、及びXが結合している環と同様である。
【0058】
すなわち、本発明のホウ素含有化合物(2)が、下記一般式(10);
【0059】
【化12】

【0060】
(式中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X、X、X、n及びYは一般式(2)と同様である。)で表されるホウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。本発明のホウ素含有化合物が上記一般式(10)で表される構造を有することにより、一般式(7)で表されるホウ素含有化合物と同様に、ホウ素原子に配位している窒素原子を除いて、X、X、X、Xが結合している環が炭素原子のみで構成されることとなるため、Sなどのヘテロ原子を環内に含む化合物の場合に比べて、軌道の広がりが小さくなり、一般論としてHOMO−LUMOのエネルギーギャップが広く保たれるといった特徴を有することとなる。このような特徴から、例えば、有機EL素子のりん光ホスト材料としてより好適に用いることができる。
【0061】
本発明のホウ素含有化合物は、Suzukiカップリング反応等の通常用いられる種々の反応を用いることにより合成することができる。また、ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of the American Chemical Society)、2009年、第131巻、第40号、14549−14559頁に記載の手法によっても合成可能である。
本発明のホウ素含有化合物の合成スキームの一例を挙げると下記反応式のように表される。下記反応式(I)は、本発明のホウ素含有化合物(1)の合成スキームの一例を表し、下記反応式(II)は、本発明のホウ素含有化合物(2)の合成スキームの一例を表している。ただし、本発明のホウ素含有化合物の製造方法は、これに制限されない。
なお、下記スキームにおいて、原料となる(a)の化合物は、例えば、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、2010年、第75巻、第24号、8709−8712頁に記載の手法により合成可能である。また、原料となる(b)の化合物は、(a)の化合物に対して下記反応式(III)で表されるホウ素化反応により合成することができる。
【0062】
【化13】

【0063】
【化14】

【0064】
【化15】

【0065】
本発明のホウ素含有化合物は、LUMOのエネルギー準位が低いために、有機EL素子の材料やn型半導体の材料等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができるものであるが、そのような用途として用いられるホウ素含有化合物のLUMOのエネルギー準位としては、例えば、3.0eV〜5.2eVであることが好ましい。そのような範囲であると、有機EL素子材料やn型半導体の材料等の有機電子デバイス材料として用いた場合に、充分に性能を発揮することができる。LUMOのエネルギー準位としてより好ましくは、3.2eV〜5.0eVであり、更に好ましくは、3.4eV〜4.8eVである。特に好ましくは、3.6eV〜4.6eVである。
なお、LUMOのエネルギー準位は、例えば、後述する本願明細書の実施例において行っているようにして求めることが好適である。
【0066】
ただし本発明のホウ素含有化合物は、HOMOとLUMOの軌道が分離していれば、LUMOのエネルギー準位は必ずしも上述した範囲でなくとも、有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができる場合がある。
上記ホウ素含有化合物におけるHOMOとLUMOの軌道のギャップとしては、2.8eV以上離れていることが好ましい。この範囲でHOMOとLUMOの軌道が分離していれば充分に性能を発揮することができる。HOMOとLUMOの軌道のギャップとしてより好ましくは、3.0eV以上である。
ただし本発明のホウ素含有化合物は、HOMOとLUMOの軌道が分離していれば、HOMOとLUMOの軌道のギャップは必ずしも上述した範囲でなくとも、有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができる場合がある。
なお、HOMOとLUMOの軌道のギャップは、紫外可視分光分析により求めることができる。
【0067】
本発明のホウ素含有化合物は、一般式(1)又は(2)で表される構造を有するものであり、そのような構造に由来して、安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位が低く、HOMOとLUMOの軌道が分離しており、更に、酸化にも還元にも強く、また、良好な膜、特には塗布膜、を作製することが可能なものである。そして、本発明のホウ素含有化合物はこのような特徴を有していることから、有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができるものである。すなわち、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成される有機電子デバイス材料もまた、本発明の1つである。
【0068】
有機EL素子は、陽極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を順に積層させた構造のもの、又は、更にホール注入層、電子注入層、正孔阻止層を有する構造のもの等がある。有機EL素子は、薄膜電子デバイスであることから、上記各層には良好な膜を製造することができる材料を用いることが必須である。
上記素子においては、陰極から注入された電子が電子輸送層を通過して発光層に到達することになるが、エネルギー効率の点から、電子輸送層、正孔阻止層や発光層の材料の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位は、電子注入層の材料の有するLUMOのエネルギー準位及び陰極の価電子帯との間でエネルギーギャップが小さいことが好ましい。陰極としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム等の金属やこれらの合金等が用いられるが、これらのうち価電子帯のエネルギーが高いものは、酸化されやすい性質を有するため、エネルギーの低いものを用いることが好ましい。このような理由から、最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位の低いホウ素含有化合物を用いることで、陰極として価電子帯のエネルギーが低く、酸化されにくい物質を陰極に用いることが可能となるため、陰極の選択の自由度を広げることができる。また、電子輸送層や正孔阻止層は電子の流れを制御する層であるため、還元に強い材料を用いることが好ましい。
したがって、これらのことから、本発明のホウ素含有化合物は、有機EL素子の電子輸送材料や正孔阻止材料、又は、n型半導体の材料として好適に用いることができるものである。すなわち、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成される電子輸送材料、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成される正孔阻止材料、及び、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成されるn型半導体材料もまたそれぞれ、本発明の1つである。
【0069】
現在、一般的な太陽電池は、p型とn型の半導体を接合した構造を持っているが、そのうち、p型半導体としては種々の構造のものが開発されているのに対して、n型半導体は選択肢が少なく、概ねフラーレン系の誘導体が用いられているのが現状である。ここで、上述した特性に加えて更に、本発明のホウ素含有化合物は酸化にも強い特性を有することから、太陽電池のn型半導体としても優れた性能を発揮することができる。すなわち、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成される太陽電池のn型半導体もまた、本発明の1つである。
【0070】
また、有機EL素子の中でもりん光発光を利用した有機EL素子の場合、その発光層は、通常、発光ドーパント及びりん光ホスト材料を含む。りん光発光を利用した有機EL素子においてりん光発光は、りん光ホスト材料の励起一重項状態、励起三重項状態を経由して、そこから発光ドーパントの励起三重項状態に電子が渡って基底状態に戻ることで起こる。その際、りん光ホスト材料の安定性の観点から、りん光ホスト材料の励起一重項状態と励起三重項状態との間でエネルギーギャップが小さいことが好ましく、このエネルギーギャップを小さくする一つの方法としてHOMO、LUMOの電子軌道が分離している化合物をりん光ホスト材料に用いることが挙げられる。また、りん光ホスト材料には、上述した有機EL素子材料や、n型半導体に求められると同様の特性も求められる。
したがって、これらのことから、本発明のホウ素含有化合物は、りん光発光を利用した有機EL素子のりん光ホスト材料として好適に用いることができるものである。すなわち、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成されるりん光ホスト材料もまた、本発明の1つである。
【0071】
更には、量子ドット太陽電池や量子コンピュータ等への応用が期待されている量子ドットは、その安定化等のためにホスト材料と共に用いられるが、ここで量子ドットのホスト材料は、塗布膜を作製できることが求められるものであり、上述した本発明のホウ素含有化合物の有する特性の全てを必要とするものである。
このことから、本発明のホウ素含有化合物は、量子ドットのホスト材料として好適に用いることができるものである。すなわち、本発明のホウ素含有化合物を用いて形成される量子ドットのホスト材料もまた、本発明の1つである。
【0072】
なお、上述したように、有機電子デバイス材料は薄膜であることが要求されることが多いことから、上述したように有機電子デバイス材料用途においては、良好な膜を作製することができることが求められる。ここで、一般式(1)におけるY以外の構造部分、又は、一般式(2)におけるY以外の構造部分に対応する単量体は、分子量が小さく、当該単量体が複数連結した構造を有する一般式(1)又は(2)の化合物に比べて、自由度が低いことから、結晶性が高いものである。有機電子デバイス材料に用いられる薄膜は、アモルファスであるものが好ましいため、一般式(1)におけるY以外の構造部分、又は、一般式(2)におけるY以外の構造部分に対応する単量体は、溶媒への溶解性は有していたとしても、有機電子デバイス材料用途に適した良好な膜を形成することができないものである。したがって、有機電子デバイス材料用途としては、一般式(1)におけるY以外の構造部分、又は、一般式(2)におけるY以外の構造部分に対応する単量体よりも本発明のホウ素含有化合物がより適当であると言える。
【発明の効果】
【0073】
本発明のホウ素含有化合物は、上述の構成よりなり、安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位が低く、HOMOとLUMOの軌道が分離しており、更に、酸化にも還元にも強く、また、良好な膜、特には塗布膜、を作製することが可能なものであることから、有機EL素子材料やn型半導体等の有機電子デバイス材料として好適に用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1(A)は、本発明のホウ素含有化合物の一例として、2,7−ビス(3−ジベンゾボロリル−4−ピリジルフェニル)−9,9’−スピロフルオレン(ホウ素含有化合物(A))の、HOMO軌道及びLUMO軌道を示した模式図であり、図1(B)は、その化学構造式である。
【図2】図2は、ホウ素含有化合物(A)をTHFに溶解させた溶液を、ITO付き透明ガラス基板に塗布した際のSEM写真である。
【図3】図3は、ホウ素含有化合物(A)を用いて得られた素子について、定電圧下での電流値の経時変化を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味するものとする。
以下の実施例において、H−NMRスペクトルは以下のようにして測定した。
得られたホウ素含有化合物を、重水素化クロロホルムの溶液とし、高分解能核磁気共鳴装置(製品名「Gemini 2000」;300MHz、Varian,Inc.社製)を用いて測定した。化学シフトは、テトラメチルシランから低磁場側における100万分の1(ppm;δスケール)として記録し、テトラメチルシランの水素核(δ0.00)を参照とした。
【0076】
(実施例1;6,6’−ビス(2−ジベンゾボロリル)−3,3’−ピリジンの合成)
100mL二口ナスフラスコに、2−(ジベンゾボロリルフェニル)−5−ブロモピリジン(1.2g、2.7mmol)、2−(ジベンゾボロリルフェニル)−5−ピナコラトボリルピリジン(1.07g、2.7mmol)、Pd(PBu(70mg、0.14mmol)を入れた。フラスコ内を窒素雰囲気下にし、THF(27mL)を加え、攪拌した。
これに、2M リン酸三カリウム水溶液(4.1mL、8.1mmol)を加え、70℃で還流させながら加熱攪拌した。12時間後、室温まで冷却し、反応溶液を分液ロートに移して水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を3N塩酸、水、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過した濾液を濃縮して、得られた固体をメタノールで洗浄した。クロロホルム及びヘキサンで再結晶し、6,6’−ビス(2−ジベンゾボロリル)−3,3’−ピリジンを収率89%で得た(1.5g、2.4mmol)。
その物性値は以下の通りであった。
H−NMR(CDCl) : δ6.81(d,J=7.2Hz,2H),6.99(dt,J=7.2,1.2Hz,2H),7.26−7.38(m,5H),7.76(d,J=7.2Hz,2H),7.86−7.89(m,2H),7.93−7.95(m,1H),8.01(dd,J=7.8Hz,1.2Hz,1H)
なお、Pd(PBuは、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウムを、THFは、テトラヒドロフランを表している。また、実施例1の反応は、下記反応式のように表される。
【0077】
【化16】

【0078】
(実施例2;2,7−ビス(3−ジベンゾボロリル−4−ピリジルフェニル)−9,9’−スピロフルオレンの合成)
100mL二口ナスフラスコに、2−(ジベンゾボロリルフェニル)−5−ブロモピリジン(2.6g、6.5mmol)、2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラニル)−9,9’−スピロフルオレン(1.5g、2.7mmol)、Pd(PBu(170mg、0.32mmol)を入れた。フラスコ内を窒素雰囲気下にし、THF(65mL)を加え、攪拌した。
これに、2M リン酸三カリウム水溶液(11mL、22mmol)を加え、70℃で還流させながら加熱攪拌した。12時間後、室温まで冷却し、反応溶液を分液ロートに移して水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を3N塩酸、水、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過した濾液を濃縮して、得られた固体をメタノールで洗浄し、2,7−ビス(3−ジベンゾボロリル−4−ピリジルフェニル)−9,9’−スピロフルオレンを収率47%で得た(1.2g、1.3mmol)。
その物性値は以下の通りであった。
H−NMR(CDCl) : δ6.67(d,J=7.6Hz,2H),6.75(d,J=1.2Hz,2H),6.82(d,J=7.2Hz,4H),6.97(dt,J=7.2,1.2Hz,4H),7.09(dt,J=7.2,0.8Hz,2H),7.24−7.40(m,14H),7.74−7.77(m,6H),7.84−7.95(m,10H)
また、実施例2の反応は、下記反応式のように表される。
【0079】
【化17】

【0080】
実施例2において合成された2,7−ビス(3−ジベンゾボロリル−4−ピリジルフェニル)−9,9’−スピロフルオレン(「ホウ素含有化合物(A)」とも称する。)について、以下に示す素子物性を評価した。
【0081】
(1.塗布製膜性)
ホウ素含有化合物(A)をTHFに溶解させた溶液をITO付き透明ガラス基板に塗布すると、平滑な薄膜を得ることができた。そのSEM(走査型電子顕微鏡)写真(倍率:10000倍)を図2に示す。この結果から、ホウ素含有化合物(A)は、低分子でありながら、溶液からの塗布製膜が可能な化合物であることが実証された。
【0082】
(2.酸化還元安定性)
酸化還元安定性は、あらゆる電子デバイスにおいて基本的特性である。本特性が安定であるかどうかは、電子デバイスとしての使用に耐えうる化合物かどうかの重要な指標となる。以下のようにして、ホウ素含有化合物(A)について、より電子デバイス用途に近い素子形状における薄膜の酸化還元安定性を評価した。
酸化及び還元安定性を評価するために、それぞれ正孔のみが薄膜中を媒介する素子(以降、「HOD」とも称する。)、及び、電子のみが薄膜中を媒介する素子(以降、「EOD」とも称する。)を作製した。作製手順を示す。
HOD:
[1]市販されている平均厚さ0.7mmのITO付き透明ガラス基板を用意した。
[2]このITO電極上に、真空蒸着法により、平均厚さ10nmの酸化モリブデン(MoO)層(電子阻止層)を形成した。
[3]ホウ素含有化合物(A)を1%でTHFに溶解させ、上記MoO層上に、スピンコート法(1000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。その後、嫌気下で150℃1時間ホットプレートにてアニールを行った。
[4]ここからの正孔注入層と対向電極の作製工程は、真空蒸着機内で行う。ここで、ホウ素含有化合物(A)上に酸化モリブテン(MoO)層(正孔注入層)を平均厚さ10nmで蒸着した。
[5][4]の連続工程で、対向電極として金(Au)を平均厚さ30nmで蒸着した。
EOD:
[1]市販されている平均厚さ0.7mmのITO付き透明ガラス基板を用意した。
[2]このITO電極上に、真空蒸着法により、平均厚さ10nmのアルミニウム(Al)層(正孔阻止層)を形成した。
[3]ホウ素含有化合物(A)を1%でTHFに溶解させ、上記アルミニウム層上に、スピンコート法(1000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。その後、嫌気下で150℃1時間ホットプレートにてアニールを行った。
[4]ここからの電子注入層と対向電極の作製工程は、真空蒸着機内で行う。ここで、ホウ素含有化合物(A)上にフッ化リチウム(LiF)層(電子注入層)を平均厚さ0.5nmで蒸着した。
[5][4]の連続工程で、対向電極としてアルミニウム(Al)を平均厚さ50nmで蒸着した。
このようにして得られた素子について、定電圧(4V)下での電流値の経時変化を測定した。測定結果を図3に示す。図3から、いずれの素子においても一定時間、電流値に大きな変動がないことが分かった。このことは、酸化及び還元が劣化することなく初期状態と同等に行われていることを示している。この結果から、ホウ素含有化合物(A)は酸化及び還元安定性を有していることが実証された。
【0083】
(3.LUMO準位、及び、HOMO、LUMO電荷密度分離)
ホウ素含有化合物(A)について、サイクリックボルタモグラム測定を実施した結果およびこれまでの類似物質のサイクリックボルタモグラム測定と紫外光電子分光測定の相関関係から、ホウ素含有化合物(A)のLUMO準位は4eV以上であることが推定された。また、Dmol(Accelrys Software社製)による分子軌道計算結果から、図1に示す通り、ホウ素含有化合物(A)のHOMOの分子軌道とLUMOの分子軌道はほぼ重なることなく完全に分離していることがわかる。これにより励起一重項状態と励起三重項状態との間でのエネルギーギャップは限りなく小さくなり、結果として、ホウ素含有化合物(A)は大きな三重項エネルギーギャップを有する材料であることが示された。
【0084】
以上の素子物性評価の結果から、本発明のホウ素含有化合物は、有機トランジスタ材料としては、還元耐性に優れておりLUMO準位が低いことから、電子を流すn型材料として、加えて、酸化耐性も有することから、バイポーラー(電子も正孔も流すことのできる)な材料としても用いることができる。
有機EL材料としては、低いLUMO準位(深いHOMO準位)を有することから電子輸送材料や正孔阻止材料として用いることができ、なおかつ、HOMO、LUMOの電荷分離から見出される大きな三重項エネルギーギャップにより、りん光(特に青色)発光材料のホスト材料として好適に用いることができる。
そして更に、上述した有機トランジスタ材料としての使用と合わせて考えると、電荷発光トランジスタ材料としても使用できる。また、上述したこれら3要素は、量子ドットを用いた電界発光素子のホスト材料として必要不可欠もしくは有用なものであり、電界発光素子のホスト材料としても好適に用いることができる。
有機太陽電池材料としては、n型材料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。なお、Xの結合する点線の円弧部分を形成している環構造はその環構造骨格が炭素原子からなる。nは2を表す。Yは直接結合であり、2個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)で表されることを特徴とするホウ素含有化合物。
【請求項2】
下記一般式(2);
【化2】

(式中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。nは、2〜10の整数を表す。Yは、n価の連結基であり、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)で表されることを特徴とするホウ素含有化合物。
【請求項3】
前記Q及びQは、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すことを特徴とする請求項1に記載のホウ素含有化合物。
【請求項4】
前記Q及びQは、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すことを特徴とする請求項2に記載のホウ素含有化合物。
【請求項5】
前記ホウ素含有化合物は、下記一般式(7);
【化3】

(式中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X、X、X、n及びYは一般式(1)と同様である。)で表されることを特徴とする請求項1又は3に記載のホウ素含有化合物。
【請求項6】
前記ホウ素含有化合物は、下記一般式(10);
【化4】

(式中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X、X、X、n及びYは一般式(2)と同様である。)で表されることを特徴とする請求項2又は4に記載のホウ素含有化合物。
【請求項7】
前記Yは、芳香環を有する基であることを特徴とする請求項2、4又は6のいずれかに記載のホウ素含有化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のホウ素含有化合物を用いて形成されることを特徴とする有機電子デバイス材料。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53123(P2013−53123A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194181(P2011−194181)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】