説明

ホウ素含有排水の処理方法

【課題】ホウ素を吸着したイオン交換樹脂やイオン交換繊維などの吸着材から、塩酸を用いてホウ素を溶離させた排水のように、反応工程において、塩化物イオンが高濃度で存在する場合であっても、効率的で、かつ、汚泥発生量も低減することができるホウ素含有排水の処理方法を提供する。
【解決手段】ホウ素を500mg/L以上含むホウ素含有排水に、アルミニウム塩およびpH調整剤を添加して不溶性析出物が分散した反応液を形成させる反応工程と、反応液中の不溶性析出物を分離し、処理水を取り出す固液分離工程とを有し、反応工程において、(1)〜(4)の条件を全て満たす。(1)反応液のCl濃度がホウ素濃度以上;(2)反応液のAl3+濃度がホウ素濃度以上;(3)反応液のCa2+濃度とSO2−濃度の合計がAl3+濃度の5倍以下;(4)反応液のpHが5〜11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほうろう製造工場からの排水や石炭火力発電所の排煙脱硫装置からの排水、ごみ焼却場からの洗煙排水、ニッケルめっき工場からの排水、ガラス製造工場からの排水などのホウ素を含むホウ素含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素は、微量であれば植物の生長に必須の物質であるが、人体に有害な物質にも指定されている。2001年に水質汚濁防止法施行令が改正され、各種事業場からの放流水に対して、ホウ素の含有量に関する規制が定められた。この規制には、ホウ素含有排水を海域に放流する場合、ホウ素の含有量が230mg/L以下となるようにホウ素含有排水を処理すること、および、ホウ素含有排水を海域以外に放流する場合、ホウ素の含有量が10mg/L以下となるようにホウ素含有排水を処理することが定められている。
【0003】
従来、ホウ素含有排水の処理方法としては、ホウ素含有排水に、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)などのアルミニウム塩と、消石灰(水酸化カルシウム)などのカルシウム化合物とを加えることにより、この排水のpHを調整し、pH9以上、好ましくはpH12以上の強アルカリ性で、これらの物質を反応させて、この反応により生成した不溶性析出物を分離することによって、ホウ素を除去する方法が開示されている。
この方法は、非特許文献1に開示されているように、アルミニウム化合物(アルミニウム塩)として、塩化アルミニウムやポリ塩化アルミニウム(PAC)を用いた場合よりも、硫酸アルミニウムを用いた場合に処理効率が高く、かつ、中性ではほとんど処理できないという特徴がある。一方、この方法は、強アルカリ性では処理効率が大きく向上することから、塩化物イオンが処理を妨害する効果があり、かつ、pH12以上で適切な処理を行うことができるという特徴がある。
【0004】
さらに、ホウ素含有排水を処理する場合、この排水におけるアルミニウムイオン、カルシウムイオン、硫酸イオンの最適な比率が存在するため、これらのイオンが最適な比率となるように、ホウ素含有排水に処理剤を添加して、処理効率の向上を図る方法が開示されている(例えば、特許文献1、2および3参照)。
ホウ素含有排水におけるイオンの最適な比率が存在する理由は、ホウ素の除去がアルミニウム単独により行われるのではなく、特許文献3に記載されているように、pH12以上で、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、硫酸イオン、水酸化物イオンが結合して生成する不溶性析出物、すなわち、カルシウムアルミニウムトリサルフェート(一般名:エトリンガイト、組成式:3CaO・Al・3CaSO)の中にホウ素が収着されるか、あるいは、そのカルシウムアルミニウムトリサルフェートとホウ素が共沈するなどの作用により、ホウ素が除去されるためと考えられている。
【0005】
また、上述のアルミニウム塩とカルシウム化合物を用いた強アルカリ性における処理を、イオン交換樹脂やキレート樹脂などの吸着材から発生する溶離廃液に適用する方法も開示されている。
この方法は、アニオン交換樹脂にホウ素含有排水を吸着させた後、酸を用いてホウ素を溶離させて、高濃度のホウ素を含有する廃液を抽出し、その廃液に硫酸アルミニウムと消石灰を添加することにより、反応工程におけるpHを12以上に調整し、不溶性析出物が分散した反応液を形成させた後、この不溶性析出物を固液分離することによりホウ素を除去する方法である(例えば、特許文献4参照)。ここで、反応液とは、ホウ素含有排水に、処理のために薬剤や凝集剤を加えた液体であって、固液分離する前段までの状態を意味している。
【0006】
一方、ホウ素が高濃度で含まれる排水に限って、反応工程のpHが中性前後でもある程度の処理が可能であることも知られている(例えば、特許文献5参照)。
この方法では、処理水中のホウ素含有量を数百mg/L程度とするのが限界であり、海域への放流規準であるホウ素含有量230mg/Lすら満足できないものの、反応液を強アルカリ性にする必要がないため、pH調整剤として使用される水酸化カルシウムの添加量が少なくて済むという効果はある。
【0007】
また、ホウ素が高濃度で含まれるホウ素含有排水に適用されるアルミニウム塩による中性付近での処理方法は、pH調整剤として必ずしも水酸化カルシウムを必要としない(例えば、特許文献6参照)。すなわち、この方法は、ホウ素含有排水に、必ずしもカルシウムイオンを供給する必要がないことから、従来、広く用いられてきたエトリンガイドを用いた処理方法とは原理的に全く異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−233881号公報
【特許文献2】特許第3333483号公報
【特許文献3】特開2007−301456号公報
【特許文献4】特開昭57−81881号公報
【特許文献5】特開2001−198581号公報
【特許文献6】特許第3942235号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】恵藤良弘、朝田裕之著、新規健康項目に追加されたホウ素の対策、用水と廃水、Vo.41、No.10(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ホウ素が高濃度で含まれるホウ素含有排水にのみ適用可能なアルミニウム塩を用いた中性付近の処理方法においては、特に、塩化物イオンが共存する排水では処理効率が低下するという課題があった。すなわち、特許文献5の比較例2に記載されているように、塩化物イオンは、ホウ素含有排水の処理反応を阻害する効果が著しく、処理水のホウ素濃度が大幅に上昇してしまうという問題があった。
【0011】
塩化物イオンを含むホウ素含有排水の代表例としては、例えば、ごみ焼却場から排出される洗煙排水、廃棄物最終処分場の浸出水などの塩濃度が高い排水、ホウ素を吸着したイオン交換樹脂やキレート樹脂などの溶離廃液などが挙げられる。
例えば、ホウ素含有排水の処理に広く用いられているN−メチルグルカミン基を導入したイオン交換樹脂やイオン交換繊維に吸着させたホウ素を溶離するには、硫酸もしくは塩酸が用いられる。硫酸もしくは塩酸を用いることにより、ホウ素とともに、塩化物イオンまたは硫酸イオンが高濃度で含まれる溶離廃液が発生する。そして、この溶離廃液の処理のしやすさの観点から、硫酸を用いてホウ素が溶離されることが多い。
【0012】
しかしながら、硫酸を用いてホウ素が溶離される場合、イオン交換樹脂やイオン交換繊維などの吸着材が設けられた吸着塔内にカルシウムイオンが存在すると、硫酸カルシウムが析出して、吸着塔内が閉塞するという障害が生じることがあった。また、アルミニウム塩とカルシウム化合物を用いて、溶離廃液を処理した場合、難溶性の硫酸カルシウムが析出して、汚泥発生量が極めて多くなるという問題があるため、塩酸によるホウ素の溶離が望まれていた。
【0013】
また、塩化物イオンによるホウ素含有排水の処理反応の阻害は、使用可能な処理剤が限定される要因となる。現在、水処理剤として安価に市販されているアルミニウム塩のうち代表的なものとしては、硫酸バンドとポリ塩化アルミニウムが挙げられる。しかしながら、ポリ塩化アルミニウムは、塩化物イオンを高濃度で含むため、使用が困難であるという問題があった。
【0014】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、ホウ素を吸着したイオン交換樹脂やイオン交換繊維などの吸着材から、塩酸を用いてホウ素を溶離させた排水(溶離廃液)などのように、排水自体に高濃度でホウ素と塩化物イオンを含む場合や、アルミニウム塩としてポリ塩化アルミニウムを用いる場合など、反応工程において、塩化物イオンが高濃度で存在する場合であっても、効率的で、かつ、汚泥発生量も低減することができるホウ素含有排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、アルミニウム塩を用いて高濃度のホウ素含有排水を処理する方法について鋭意検討した結果、以下の新たな知見を得た。
すなわち、塩化物イオンによるホウ素含有排水の処理反応の阻害は、カルシウムイオンまたは硫酸イオンのうち少なくとも一方が高濃度で存在している場合にのみ大きく発現すること、さらに、カルシウムイオンまたは硫酸イオンが一定量以下で存在する場合に、塩化物イオンが共存すると、ホウ素含有排水の処理反応を阻害するどころか、逆に処理効率が向上するという特殊な効果についての知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0016】
以上の知見に基づいて本発明はなされたものであって、本発明に係わるホウ素含有排水の処理方法は、ホウ素を500mg/L以上含むホウ素含有排水に、アルミニウム塩およびpH調整剤を添加して不溶性析出物が分散した反応液を形成させる反応工程と、前記反応液中の不溶性析出物を分離し、処理水を取り出す固液分離工程と、を有するホウ素含有排水の処理方法であって、前記反応工程において、以下の(1)〜(4)の条件を全て満たすことを特徴とするものである。
(1)前記反応液における塩化物イオン濃度がホウ素濃度以上
(2)前記反応液におけるアルミニウムイオン濃度がホウ素濃度以上
(3)前記反応液におけるカルシウムイオン濃度と硫酸イオン濃度の合計がアルミニウムイオン濃度の5倍以下
(4)前記反応液のpHが5〜11
【0017】
また、本発明に係わるホウ素含有排水の処理方法は、前記ホウ素含有排水が、アニオン交換樹脂、希土類元素の含水酸化物を担持した造粒体、N−メチルグルカミン基を導入したイオン交換樹脂、または、N−メチルグルカミン基を導入した繊維状吸着材の群から選択される1種または2種以上の吸着材に吸着させたホウ素を、酸またはアルカリで溶離もしくは再生させた排水であることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明に係わるホウ素含有排水の処理方法は、前記アルミニウム塩が、ポリ塩化アルミニウムであることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明に係わるホウ素含有排水の処理方法は、前記反応工程において、前記反応液のpHを5〜11に調整する第一ステップと、該第一ステップの後、前記反応液のpHを、前記第一ステップにおけるpHよりも2以上低下させる第二ステップと、該第二ステップの後、再度、前記反応液のpHを5〜11に調整する第三ステップとからなる操作を少なくとも1回行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係わるホウ素含有排水の処理方法によれば、ホウ素を500mg/L以上含む比較的高濃度のホウ素含有排水の処理において、ホウ素を吸着したイオン交換樹脂やイオン交換繊維などの吸着材から、塩酸を用いてホウ素を溶離させた排水などのように、排水自体に高濃度でホウ素と塩化物イオンを含む場合や、アルミニウム塩としてポリ塩化アルミニウムを用いる場合など、反応工程において、塩化物イオンが高濃度で存在する場合であっても、効率的で、かつ、汚泥発生量も低減することができるホウ素含有排水の処理方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のホウ素含有排水の処理方法の第一の実施形態を示した工程説明、および、その実施に用いられるホウ素含有排水の処理装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明のホウ素含有排水の処理方法の第二の実施形態を示した工程説明、および、その実施に用いられるホウ素含有排水の処理装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明のホウ素含有排水の処理方法の第三の実施形態を示した工程説明、および、その実施に用いられるホウ素含有排水の処理装置の概略構成を示す図である。
【図4】実施例2の処理実験結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のホウ素含有排水の処理方法の実施を、図面を用いて説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
(1)第一の実施形態
図1は、本発明のホウ素含有排水の処理方法の第一の実施形態を示した工程説明、および、その実施に用いられるホウ素含有排水の処理装置の概略構成を示す図である。
この実施形態におけるホウ素含有排水の処理装置10は、反応槽20と、凝集槽30と、沈殿槽40と、中和槽50と、汚泥脱水機60とから概略構成されている。
図1は、ホウ素含有排水を処理後に、海域に放流する場合など、処理水7のホウ素濃度を230mg/L以下にする方法を示したものである。
【0024】
反応槽20は、ホウ素を500mg/L以上含むホウ素含有排水1が導入され、アルミニウム塩11およびpH調整剤12が投入され、pHを調整して、不溶性析出物が分散した反応液2を形成させるところである。
【0025】
凝集槽30は、反応槽20から、不溶性析出物を含む反応液2が導入され、高分子凝集剤13が投入されて、不溶性析出物が凝集した状態とするところである。
【0026】
沈殿槽40は、凝集槽30から、凝集した不溶性析出物を含む反応液2が導入され、上澄水3と、沈殿した不溶性析出物である沈殿汚泥4とに分離するところである。
沈殿槽40には、反応液2を、上澄水3と沈殿汚泥4に分離する固液分離手段が設けられ、その固液分離手段としては、沈降分離を適用した装置が用いられる。また、固液分離手段としては、膜濾過や遠心分離などの公知の技術を適用した装置も用いられる。
【0027】
中和槽50は、沈殿槽40から、上澄水3が導入され、また、汚泥脱水機60から脱水ろ液6が導入され、必要に応じてpH調整剤12が投入されて、上澄水3と脱水ろ液6のpHを中性付近に調整し、最終的な処理水7とするところである。
【0028】
汚泥脱水機60は、沈殿槽40から沈殿汚泥4が導入され、この沈殿汚泥4を脱水処理し、脱水汚泥5と脱水ろ液6に分離するところである。
汚泥脱水機60としては、フィルタープレスやベルトプレスなど加圧式脱水機が好適であるが、遠心分離機や真空濾過器などの公知の技術も適用することができる。
【0029】
次に、このホウ素含有排水の処理装置10を用いたホウ素含有排水の処理方法を説明する。
【0030】
まず、反応槽20に、ほうろう製造工場からの排水や石炭火力発電所の排煙脱硫装置からの排水、ごみ焼却場からの洗煙排水、ニッケルめっき工場からの排水、ガラス製造工場からの排水などの、ホウ素を500mg/L以上含むホウ素含有排水1を導入し、ホウ素含有排水1にアルミニウム塩11およびpH調整剤12を添加し、pHを調整して、不溶性析出物が分散した反応液2を形成させる(反応工程A)。
【0031】
pH調整剤12としては、消石灰(水酸化カルシウム:Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)などが用いられる。
【0032】
反応工程Aでは、生成した不溶性析出物の表面に、ホウ素含有排水1に含まれるホウ素が吸着されるか、または、その不溶性析出物の内部に、ホウ素含有排水1に含まれるホウ素が取り込まれる。
反応工程Aでは、反応液2のpHを5〜11に調整し、反応液2のpHを8〜9に調整することが好ましい。
反応工程Aにて生成する不溶性析出物は、水酸化アルミニウム(Al(OH))を主成分としている。この水酸化アルミニウムは、水に不溶な析出物である。
【0033】
また、反応工程Aでは、ホウ素含有排水1にアルミニウム塩11を添加するとともに、反応液2の塩化物イオン(Cl)濃度を、反応液2におけるホウ素濃度以上とする。
アルミニウム塩11としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミニウム(AlCl)、硫酸アルミニウム(Al(SO)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、アルミン酸ナトリウム(NaAlO)などが用いられる。
これらの中でも、ホウ素含有排水1に塩化物イオンが含まれていない場合、塩化物イオンを高濃度で含むポリ塩化アルミニウムまたは塩化アルミニウムを用いることが好ましく、水処理剤として安価に市販されているポリ塩化アルミニウムを用いることがより好ましい。
【0034】
また、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどの塩化物イオンを含まないものを用いる場合、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)などの有害性がなく、安価な塩を添加することにより、反応液2における塩化物イオン濃度を、反応工程Aにおいて必要とされる濃度に調整することができる。
一方、ホウ素含有排水1における塩化物イオン濃度が、ホウ素濃度以上である場合、ポリ塩化アルミニウムや塩化アルミニウムを用いる必要はなく、また、塩化ナトリウムや塩化カリウムを添加する必要もない。
【0035】
また、反応工程Aでは、ホウ素含有排水1にアルミニウム塩11を添加することにより、反応液2におけるアルミニウムイオン(Al3+)濃度を、反応液2におけるホウ素濃度以上とする。
アルミニウム塩11の添加量は、反応液2におけるアルミニウムイオン濃度が、ホウ素濃度の1倍〜5倍となる量であることが好ましく、2.5倍となる量であることがより好ましい。
【0036】
さらに、反応工程Aでは、反応液2におけるカルシウムイオン(Ca2+)濃度と硫酸イオン(SO2−)濃度の合計を、反応液2におけるアルミニウムイオン濃度の5倍以下とする。
例えば、ホウ素含有排水1に、アルミニウム塩11としての硫酸アルミニウムと、pH調整剤12としての水酸化ナトリウムとを添加する場合を考えると、硫酸アルミニウムは、アルミニウムイオンの5.3倍の濃度で、硫酸イオンを含むため、この組み合わせでは、ホウ素含有排水1の処理効率が向上しない。したがって、アルミニウム塩11として、硫酸アルミニウムを単独で用いることはできない。
一方、水処理剤として安価に市販されているポリ塩化アルミニウムは、硫酸イオンを少量含んでいるが、ポリ塩化アルミニウムと、水酸化ナトリウムまたは水酸化カルシウムとを組み合わせても、反応液2におけるカルシウムイオン濃度と硫酸イオン濃度の合計を、反応液2におけるアルミニウムイオン濃度の5倍以下とすることができるので、ポリ塩化アルミニウムと水酸化ナトリウム、もしくは、ポリ塩化アルミニウムと水酸化カルシウムの組み合わせが好ましい。
【0037】
次いで、反応槽20から凝集槽30に、不溶性析出物を含む反応液2を導入し、この凝集槽30にて、この反応液2に高分子凝集剤13を添加して、攪拌混合し、不溶性析出物を凝集させる(凝集工程B)。
【0038】
高分子凝集剤13としては、アクリルアミドとアクリル酸の共重合体などのアニオン性有機系凝集剤などが用いられる。
【0039】
この凝集工程Bにより、不溶性析出物の粒子の沈降速度が増大するため、後段の固液分離工程Cにて、より短い時間で、反応液2の固液分離を行うことができる。
【0040】
次いで、凝集槽30から沈殿槽40に、凝集した不溶性析出物を含む反応液2を導入し、上澄水3と、沈殿した不溶性析出物である沈殿汚泥4とに分離する(固液分離工程C)。
【0041】
次いで、沈殿槽40から汚泥脱水機60に、沈殿汚泥4を導入し、この沈殿汚泥4を脱水処理して、脱水汚泥5と脱水ろ液6に分離する(汚泥脱水工程E)。
【0042】
次いで、沈殿槽40から中和槽50に上澄水3を導入し、また、汚泥脱水機60から中和槽50に脱水ろ液6を導入して、中和槽50にて、必要に応じて、上澄水3と脱水ろ液6の混合液にpH調整剤12を添加し、この混合液のpHを中性付近に調整し(中和工程D)、最終的な処理水7を得る。
【0043】
この実施形態のホウ素含有排水の処理方法によれば、海域に放流する場合などに対応した、ホウ素の濃度が230mg/L以下の処理水7が得られる。
【0044】
(2)第二の実施形態
図2は、本発明のホウ素含有排水の処理方法の第二の実施形態を示した工程説明、および、その実施に用いられるホウ素含有排水の処理装置の概略構成を示す図である。
図2において、図1に示した第一の実施形態の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
この実施形態におけるホウ素含有排水の処理装置70は、ろ過装置80と、pH調整槽90と、吸着塔100と、溶離廃液処理槽110と、中和槽50と、汚泥脱水機60とから概略構成されている。
図2は、ホウ素含有排水を、処理後に海域以外に放流する場合など、処理水7のホウ素濃度を10mg/L以下にする方法を示したものである。
【0045】
ろ過装置80は、ホウ素含有排水1が導入され、後段の吸着塔100にて目詰まりの原因となるホウ素含有排水1に含まれる微粒子(不溶物)を除去するところである。
ろ過装置80としては、砂ろ過、メンブレンフィルターなどを用いた装置が挙げられる。
【0046】
pH調整槽90は、ろ過装置80から微粒子が除去されたホウ素含有排水1が導入され、pH調整剤12が投入されて、ホウ素含有排水1のpHを、後段の吸着塔100におけるホウ素の吸着に適した値に調整するところである。
【0047】
吸着塔100は、pH調整槽90からpHが調整されたホウ素含有排水1が導入され、この中に充填された吸着材に、ホウ素含有排水1に含まれるホウ素を吸着させ、ホウ素含有排水1からホウ素を除去するところである。
吸着塔100内に充填される吸着材としては、アニオン交換樹脂、希土類元素の含水酸化物を担持した造粒体、N−メチルグルカミン基を導入したイオン交換樹脂、または、N−メチルグルカミン基を導入した繊維状吸着材の群から選択される1種または2種以上の公知の吸着材が用いられる。これらの吸着材の中でも、特に溶離速度が速く、後述する溶離廃液8中のホウ素の濃度を2000mg/L程度か、それ以上まで高めることができる点から、N−メチルグルカミン基を導入した繊維状吸着材がより好適に用いられる。
【0048】
また、吸着塔100は、ホウ素含有排水1を通水し続けると、吸着材におけるホウ素の吸着量が飽和するため、定期的に吸着塔100内へ溶離薬剤14を通液して、吸着材からホウ素を脱着させて、高濃度のホウ素を含む溶離廃液8を取り出す必要がある。
【0049】
溶離廃液処理槽110は、吸着塔100から溶離廃液8が導入され、アルミニウム塩11およびpH調整剤12が投入され、溶離廃液8のpHを調整して不溶性析出物が分散した反応液2を形成させ、さらに、高分子凝集剤13が投入されて、不溶性析出物が凝集した状態とするところである。
【0050】
中和槽50は、吸着塔100でホウ素のほぼ全量が吸着除去されたホウ素含有排水1が導入され、また、汚泥脱水機60から脱水ろ液6が導入され、必要に応じてpH調整剤12が投入されて、中和槽50内の液体のpHを中性付近に調整し、最終的な処理水7とするところである。
【0051】
汚泥脱水機60は、溶離廃液処理槽110から凝集した不溶性析出物を含む反応液2が導入され、この反応液2を脱水処理し、脱水汚泥5と脱水ろ液6に分離するところである。
【0052】
次に、このホウ素含有排水の処理装置70を用いたホウ素含有排水の処理方法を説明する。
【0053】
まず、ろ過装置80にホウ素含有排水1を導入し、このろ過装置80にて、後段の吸着塔100にて目詰まりの原因となるホウ素含有排水1に含まれる微粒子(不溶物)を除去する(ろ過工程F)。
【0054】
次いで、ろ過装置80からpH調整槽90に、微粒子が除去されたホウ素含有排水1を導入し、このホウ素含有排水1にpH調整剤12を添加して、ホウ素含有排水1のpHを、後段の吸着塔100におけるホウ素の吸着に適した、pHに調整する(pH調整工程G)。
【0055】
次いで、pH調整槽90から吸着塔100に、pHが調整されたホウ素含有排水1を導入し、吸着塔100の中に充填された吸着材に、ホウ素含有排水1に含まれるホウ素を吸着させることでホウ素を除去する(吸着工程H)。
この実施形態では、上記の吸着材が用いられる。
【0056】
なお、吸着塔100内の吸着材におけるホウ素の吸着量が飽和して、吸着材がホウ素を吸着することができなくなるのを防止するために、定期的に、吸着塔100内へ溶離薬剤14を通液して、吸着材からホウ素を脱着させて、溶離廃液8を取り出すことにより、吸着材を再生する。ここで取り出された溶離廃液8は、2000mg/L程度か、それ以上の高濃度のホウ素を含有する。
吸着塔100内へ溶離薬剤14を通液する間隔は、吸着塔100内に充填された吸着材のホウ素の飽和吸着量(吸着可能なホウ素の総量)と、pH調整槽90から吸着塔100に導入されたホウ素含有排水1に含まれるホウ素の量とに応じて、適宜調整される。
溶離薬剤14としては、塩酸、硫酸などの酸、水酸化ナトリウムなどのアルカリが用いられる。
【0057】
次いで、溶離廃液処理槽110に、吸着塔100から取り出された溶離廃液8を導入し、この溶離廃液処理槽110にて、溶離廃液8にアルミニウム塩11およびpH調整剤12を添加し、反応液2のpHを5〜11にして、不溶性析出物を生成させる。すると、その不溶性析出物の表面に、溶離廃液8に含まれるホウ素が吸着されるか、または、その不溶性析出物の内部に、溶離廃液8に含まれるホウ素が取り込まれる。
その後、さらに、この不溶性析出物が分散した反応液2に高分子凝集剤13を添加して、攪拌混合し、不溶性析出物を凝集させる(溶離廃液処理工程I)。
【0058】
なお、この溶離廃液処理工程Iは、上述した第一の実施形態における反応工程Aと凝集工程Bを併せた工程である。すなわち、溶離廃液8がホウ素含有排水1に相当し、溶離廃液8にアルミニウム塩11およびpH調整剤12を添加し、反応液2のpHを5〜11にして、不溶性析出物を生成させるまでが反応工程Aに相当し、不溶性析出物が分散した反応液2に高分子凝集剤13を添加して、攪拌混合し、不溶性析出物を凝集させるまでが凝集工程Bに相当する。
【0059】
溶離廃液処理工程Iでは、上述の第一の実施形態の反応工程Aと同様にして、反応液2における塩化物イオン濃度を、反応液2におけるホウ素濃度以上とする。
また、溶離廃液処理工程Iでは、上述の第一の実施形態の反応工程Aと同様にして、溶離廃液8にアルミニウム塩11を添加することにより、反応液2におけるアルミニウムイオン濃度を、反応液2におけるホウ素濃度以上とする。
【0060】
さらに、溶離廃液処理工程Iでは、上述の第一の実施形態の反応工程Aと同様にして、反応液2におけるカルシウムイオン濃度と硫酸イオン濃度の合計を、反応液2におけるアルミニウムイオン濃度の5倍以下とする。
溶離廃液処理工程Iにおいて、反応液2におけるカルシウムイオン濃度と硫酸イオン濃度の合計を、アルミニウムイオン濃度の5倍以下とするには、上述の溶離薬剤14による吸着材の再生には、硫酸を単独で用いることはできない。
溶離薬剤14は、吸着材の種類に応じて適宜選択されるが、吸着材として、N−メチルグルカミン基を導入したイオン交換樹脂、または、N−メチルグルカミン基を導入した繊維状吸着材を用いる場合、反応液2における塩化物イオン濃度を、ホウ素濃度以上とすることができることから、溶離薬剤14としては塩酸を用いることが好ましい。
【0061】
また、高分子凝集剤13による不溶性析出物の凝集により、不溶性析出物の粒子のろ過抵抗が減少するため、後段の汚泥脱水工程Eにて、より短い時間で、不溶性析出物が分散した反応液2を、脱水汚泥5と脱水ろ液6に分離することができる。
【0062】
次いで、溶離廃液処理槽110から汚泥脱水機60に、上記の不溶性析出物が分散した反応液2を導入し、この反応液2を脱水処理して、脱水汚泥5と脱水ろ液6に分離する(汚泥脱水工程E)。
【0063】
この実施形態では、高濃度のホウ素を含有する溶離廃液8を処理することから、溶離廃液処理工程Iにおけるアルミニウム塩11の添加量が比較的多く、反応液2中の不溶性析出物を沈殿分離することがやや難しくなるため、汚泥脱水機60により、反応液2の全量を脱水することを想定しているが、第一の実施形態と同様に、沈殿槽を用いた固液分離工程により、反応液2を、上澄水と、沈殿した不溶性析出物である沈殿汚泥とに分離してから汚泥脱水機60で脱水処理してもよい。
【0064】
また、汚泥脱水工程Eにて分離された脱水ろ液6は、ホウ素を数百mg/L含むので、ろ過装置80の前段に移送して、再度、吸着塔100にて処理することが基本となる。しかしながら、吸着塔100内の通水後におけるホウ素の濃度は、海域以外の放流規制値10mg/Lよりも遥かに低い1mg/L以下になることが多く、また、脱水ろ液6の水量に比べて吸着塔100の通水量がはるかに多いことから、処理水7のホウ素の濃度が10mg/Lを超えない範囲で、脱水ろ液6の一部を吸着塔100の出口側(中和槽50側)に移送してもよい。
【0065】
次いで、吸着塔100から中和槽50にホウ素が除去されたホウ素含有排水1を導入し、また、汚泥脱水機60から中和槽50に脱水ろ液6の一部を導入して、中和槽50にて、必要に応じて、処理水8と脱水ろ液6の混合液にpH調整剤12を添加し、中和槽50内の液体のpHを中性付近に調整し(中和工程D)、最終的な処理水7を得る。
【0066】
この実施形態のホウ素含有排水の処理方法によれば、海域以外に放流する場合などに対応した、ホウ素の濃度が10mg/L以下の処理水7が得られる。
【0067】
(3)第三の実施形態
図3は、本発明のホウ素含有排水の処理方法の第三の実施形態を示した工程説明、および、その実施に用いられるホウ素含有排水の処理装置の概略構成を示す図である。
図3において、図1に示した第一の実施形態の構成要素、および、図2に示した第二の実施形態の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
図3は、ホウ素含有排水を、処理後に海域外に放流する場合など、処理水7のホウ素濃度を10mg/L以下にする方法を示したものである。
【0068】
この実施形態のホウ素含有排水の処理方法が、上述の第二の実施形態と異なる点は、溶離廃液処理工程Iにおいて、溶離廃液8にアルミニウム塩11およびpH調整剤12を添加し、反応液2のpHを5〜11に調整する第一ステップと、第一ステップの後、反応液2のpHを、第一ステップにおけるpHよりも2以上低下させる第二ステップと、第二ステップの後、再度、反応液2のpHを5〜11に調整する第三ステップとからなる操作を少なくとも1回行う点である。
【0069】
このように反応液2のpHを、pH5〜11(第一ステップ)→第一ステップにおけるpHよりも2以上低下させる(第二ステップ)→pH5〜11(第三ステップ)を1つのサイクルとして変化させる場合、それぞれのpHの範囲を維持する時間は、特に限定されないが、それぞれの時間が等しいことが好ましい。
また、このpH調整の操作を行う回数は、溶離廃液8におけるホウ素の濃度に応じて、適宜調整される。すなわち、溶離廃液8が、ホウ素をより高濃度に含む場合、pH調整の操作を2回以上行うことが好ましい。
【0070】
このように、溶離廃液処理工程Iにおいて、上記のように、反応液2のpHを調整する操作を1回以上行うことにより、不溶性析出物が脱水しやすい性状に変化し、処理効率を維持したまま、より含水率の低い脱水汚泥5が得られる。
このようにすれば、脱水ろ液6におけるホウ素濃度および溶離廃液処理槽110内のSS濃度を維持したまま、脱水汚泥5の含水率を低減すること、すなわち、汚泥発生量を低減することができる。
【0071】
この実施形態のホウ素含有排水の処理方法によれば、海域以外に放流する場合などに対応した、ホウ素の濃度が10mg/L以下の処理水7が得られる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
図1に示したホウ素含有排水の処理方法の工程に準拠したビーカー実験を行った。
この実験には、ホウ素含有排水として、ホウ酸および塩酸を純水に溶解させて、ホウ素濃度を2000mg/L、塩化物イオン濃度を18000mg/Lに調整した模擬排水を用いた。
この模擬排水に、アルミニウム塩として、JIS K 1475に規定されている水道用ポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液(大明化学工業社製、Al含有量10%、Cl濃度125000mg/L)を、アルミニウムイオン(Al3+)に換算して10000mg/Lとなるように添加した後、さらに、pH調整剤として、25%水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を添加し、pHを8.5に調整して、30分間反応させた。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離する前のSS濃度を測定した。その結果、SS濃度は39g/Lであった。
また、沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。その結果、ホウ素濃度は150mg/Lであった。
これらの結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2)
pH調整剤として、水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた以外は実施例1と同様にして、模擬排水と、アルミニウム塩およびpH調整剤とを反応させた。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離する前のSS濃度を測定した。その結果、SS濃度は45g/Lであった。
また、沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。その結果、ホウ素濃度は130mg/Lであった。
これらの結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
アルミニウム塩として、硫酸アルミニウム(Al(SO)を用いた以外は実施例1と同様にして、模擬排水と、アルミニウム塩およびpH調整剤とを反応させた。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離する前のSS濃度を測定した。その結果、SS濃度は53g/Lであった。
また、沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。その結果、ホウ素濃度は460mg/Lであった。
これらの結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
アルミニウム塩として、硫酸アルミニウム(Al(SO)を用い、pH調整剤として、水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた以外は実施例1と同様にして、模擬排水と、アルミニウム塩およびpH調整剤とを反応させた。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離する前のSS濃度を測定した。その結果、SS濃度は105g/Lであった。
また、沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。その結果、ホウ素濃度は280mg/Lであった。
これらの結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から、カルシウムイオンの濃度と硫酸イオンの濃度の合計を、アルミニウムイオンの濃度で除した値(アルミニウムイオンの濃度と、カルシウムイオンの濃度と硫酸イオンの濃度の合計との比)が5以下である実施例1および2では、処理水のホウ素濃度が海域への放流規準である230mg/L以下になるとともに、沈殿汚泥の発生量が40g/L前後と少なくなり、発生SS量当たりのホウ素の除去量(g)は4%以上であった。
一方、アルミニウム塩として、硫酸アルミニウムを用い、カルシウムイオンの濃度と硫酸イオンの濃度の合計を、アルミニウムイオンの濃度で除した値が5以上である比較例1および2では、処理水のホウ素濃度が海域への放流規準である230mg/Lを超えているばかりでなく、発生SS量当たりのホウ素の除去量(g)は2%前後と低かった。
以上の結果から、実施例1および2は、沈殿汚泥の発生量が極めて少ない条件でホウ素濃度を低減できる、処理効率の高い方法であることが確認された。
【0079】
(実施例3)
図2に示したホウ素含有排水の処理方法の工程に準拠したビーカー実験を行った。
この実験には、ホウ素含有排水として、ホウ酸を純水に溶解させてホウ素濃度を17mg/Lに調整した模擬排水を用いた。
この模擬排水を、JIS No.5Cのフィルターによりろ過した後、この模擬排水に水酸化ナトリウム(NaOH)を添加してpHを6.5に調整し、さらに、pH調整後の模擬排水を、吸着材を充填した吸着塔に、40mL/minで通液した。
吸着材としては、キレスト株式会社製キレート繊維GRY−JWを0.3g/mLの密度で、容積40mLの空間に充填したものを用いた。
吸着塔への模擬排水の通液開始から100BedVolume通液時までは、吸着塔の出口のホウ素濃度が0.1mg/L以下で推移していたが、120Bed Volume通液時に、ホウ素濃度が10mg/Lを超えたため、模擬排水の通液を停止し、溶離薬剤として、1NのHClを用いて、吸着材に吸着されたホウ素を溶離し、吸着塔からホウ素を含む溶離廃液を取り出した。
得られた溶離廃液のホウ素濃度は1900mg/L、塩化物イオン濃度は18000mg/L、pHは0.3であった。
【0080】
この溶離廃液に、アルミニウム塩として、JIS K 1475に規定されている水道用ポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液(大明化学工業社製、Al含有量10%、Cl濃度125000mg/L)を、アルミニウムイオン(Al3+)に換算して5000mg/Lとなるように添加した後、さらに、pH調整剤として、水酸化カルシウム(Ca(OH))または水酸化ナトリウム(NaOH)を添加し、pHを5〜11に調整して、1時間反応させた。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。
結果を図4に示す。
【0081】
(実施例4)
実施例3で調製した溶離廃液に、塩化ナトリウム(NaCl)粉末を、塩化物イオン(Cl)に換算して30000mg/Lとなるように添加した後、アルミニウム塩として、JIS K 1475に規定されている水道用ポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液(大明化学工業社製、Al含有量10%、Cl濃度125000mg/L)を、アルミニウムイオン(Al3+)に換算して5000mg/Lとなるように添加した後、さらに、pH調整剤として、水酸化カルシウム(Ca(OH))または水酸化ナトリウム(NaOH)を添加し、pHを8.5に調整して、1時間反応させた。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。
結果を図4に示す。
【0082】
図4の結果から、ホウ素および塩化物イオンが高濃度で含まれ、かつ、カルシウムイオンの濃度と硫酸イオンの濃度の合計を、アルミニウムイオンの濃度で除した値が5以下である実施例3および4では、反応液のpHが5〜11の範囲、特に、反応液のpHが8〜9の範囲で、処理効率が最も高くなることが分かった。
さらに、実施例4において、塩化ナトリウムを添加して、塩化物イオン濃度を高くしても、処理効率が低下するどころか、逆に向上していることが分かった。
【0083】
なお、この溶離廃液の処理後のホウ素濃度が200〜500mg/L程度であるが、図2に示したホウ素含有排水の処理方法の工程において、脱水ろ液の水量は吸着塔の出口水量の1%以下であることから、脱水ろ液の全量を吸着塔の出口で平均的に混合しても、処理水のホウ素濃度は、海域以外の排水基準10mg/L以下を達成することができる。
【0084】
(実施例5)
図3に示したホウ素含有排水の処理方法の工程に準拠したビーカー実験を行った。
ホウ素含有排水の吸着塔による処理、および、溶離廃液の取り出しまでは実施例3と同様に行った。
この溶離廃液に、アルミニウム塩として、JIS K 1475に規定されている水道用ポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液(大明化学工業社製、Al含有量10%、Cl濃度125000mg/L)を、アルミニウムイオン(Al3+)に換算して5000mg/Lとなるように添加した後、さらに、pH調整剤として、水酸化カルシウム(Ca(OH))または水酸化ナトリウム(NaOH)を添加し、pHを8.5に維持して、20分間攪拌した。
次いで、pH調整剤として、塩酸(HCl)を添加し、pHを4.5に維持して、20分間攪拌した。
次いで、再度、pH調整剤として、水酸化カルシウム(Ca(OH))または水酸化ナトリウム(NaOH)を添加し、pHを8.5に維持して、20分間攪拌した。
この反応液に、高分子凝集剤を添加した後、沈殿を分離する前のSS濃度を測定した。
また、ろ過により沈殿を分離し、得られた清澄な処理水のホウ素濃度(mg/L)を測定した。
【0085】
次に、ろ過により分離された汚泥を、真空ろ過して水分を極力除去し、得られた脱水汚泥の含水率を測定した。
また、比較のために、反応液のpHを8.5に一定に維持した以外は実施例3と同様にして生成した汚泥を、真空ろ過して水分を極力除去し、得られた脱水汚泥の含水率を測定した。
これらの結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2の結果から、反応液のpHを8.5に調整した後、一旦、反応液のpHを4.5に低下させ、再び、反応液のpHを8.5に調整する操作を行うことにより、処理効率を維持したまま汚泥の脱水性が高まり、より含水率の低い脱水汚泥が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るホウ素含有排水の処理方法は、ほうろう製造工場からの排水や石炭火力発電所の排煙脱硫装置からの排水、ごみ焼却場からの洗煙排水、ニッケルめっき工場からの排水、ガラス製造工場からの排水などのホウ素含有排水の処理に適用される。
【符号の説明】
【0089】
1 ホウ素含有排水
2 反応液
3 上澄水
4 沈殿汚泥
5 脱水汚泥
6 脱水ろ液
7 処理水
8 溶離廃液
11 アルミニウム塩
12 pH調整剤
13 高分子凝集剤
14 溶離薬剤
10 第一の実施形態におけるホウ素含有排水の処理装置
20 反応槽
30 凝集槽
40 沈殿槽
50 中和槽
60 汚泥脱水機
70 第二および第三の実施形態におけるホウ素含有排水の処理装置
80 ろ過装置
90 pH調整槽
100 吸着塔
110 溶離廃液処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を500mg/L以上含むホウ素含有排水に、アルミニウム塩およびpH調整剤を添加して不溶性析出物が分散した反応液を形成させる反応工程と、前記反応液中の不溶性析出物を分離し、処理水を取り出す固液分離工程と、を有するホウ素含有排水の処理方法であって、
前記反応工程において、以下の(1)〜(4)の条件を全て満たすことを特徴とするホウ素含有排水の処理方法。
(1)前記反応液における塩化物イオン濃度がホウ素濃度以上
(2)前記反応液におけるアルミニウムイオン濃度がホウ素濃度以上
(3)前記反応液におけるカルシウムイオン濃度と硫酸イオン濃度の合計がアルミニウムイオン濃度の5倍以下
(4)前記反応液のpHが5〜11
【請求項2】
前記ホウ素含有排水が、アニオン交換樹脂、希土類元素の含水酸化物を担持した造粒体、N−メチルグルカミン基を導入したイオン交換樹脂、または、N−メチルグルカミン基を導入した繊維状吸着材の群から選択される1種または2種以上の吸着材に吸着させたホウ素を、酸またはアルカリで溶離もしくは再生させた排水であることを特徴とする請求項1に記載のホウ素含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記アルミニウム塩が、ポリ塩化アルミニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のホウ素含有排水の処理方法。
【請求項4】
前記反応工程において、前記反応液のpHを5〜11に調整する第一ステップと、該第一ステップの後、前記反応液のpHを、前記第一ステップにおけるpHよりも2以上低下させる第二ステップと、該第二ステップの後、再度、前記反応液のpHを5〜11に調整する第三ステップとからなる操作を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のホウ素含有排水の処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−218338(P2011−218338A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93556(P2010−93556)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(390013262)NECファシリティーズ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】