説明

ホスホール化合物の製造方法

【課題】様々な置換基を有する3−オキソ−λ5−ホスホール化合物の製造方法の提供。
【解決手段】下記式で表されるホスホール化合物(1)の製造方法。


[R1、R2およびR5は、C6-12アリール基等を、R3およびR4は、アリール基等、R6はC1-6アルキル基を、Halはハロゲン原子基を示す。]或いは、式(15)と(16)で表される化合物の付加環化反応からホスホール化合物(1)が製造される。


[R11、R12およびR15は、H、C6-12アリール基等を、R13およびR14は、アリール基等を、Xは脱離基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホール化合物を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホスホールはピロールの窒素原子がリンに置き換わった構造を有する複素環化合物であるが、芳香族性を有さないなど、その化学的性質はピロールとは異なる特異なものである。
【0003】
例えば、ホスホールとしては2H−ピロールや3H−ピロールと同様に2H−ホスホールや3H−ホスホールが存在する上に、ホスフィンオキシドやスルフィドなどのようにリン原子が5価状態にある場合がある。このようにホスホールには多様な構造の異性体が存在するためにその研究は十分に為されているとはいい難い。
【0004】
これらホスホール化合物の合成や反応性についての初期の研究は、非特許文献1にまとめられている。また、リン原子を含むπ共役系化合物の用途や合成方法が種々検討されており、非特許文献2〜3中に例示されている。さらに特許文献1ではホスホール化合物の、光学材料や金属配位子としての特性が実証されており、その製造方法も提案されている。また、特許文献2には、ポリマー原料としての用途とその製法が開示されている。その他、非特許文献4〜5にはπ共役系が拡大したホスホール化合物の合成と物性が記載されており、また、非特許文献6ではホスホール化合物をコアとするデンドリマーの合成と蛍光特性が報告されている。
【0005】
上記文献に記載されているホスホール化合物は、主に3価リン原子を含むλ3−1H−ホスホールと、オキシドやスルフィドなどその酸化体である。一部に2H−ホスホールの合成と反応について報告があるものの、その物性などについては未知である。
【0006】
本発明者らは、これまでホスホール化合物につき研究してきた。例えば非特許文献7〜8の通り、tert−ブチルジメチルシリルジフェニルホスフィンまたはジフェニルホスフィンとアセチレンジカルボン酸ジメチルとを反応させることによって、5価リン原子を含み且つ3位にカルボニル基を有する3−オキソ−λ5−ホスホールが2個直結したホスファインジゴ誘導体が得られることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−238570号公報
【特許文献2】特開2003−261585号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F.Mathey,アカウンツ・オブ・ケミカル・リサーチ(Acc.Chem.Res.),第37巻,第954頁(2004年)
【非特許文献2】F.Mathey,アンゲヴァンデ・ケミー・インターナショナル・エディション(Angew.Chem.Int.Ed.),第42巻,第1578頁(2003年)
【非特許文献3】T.Baumgartner,R.Reau,ケミカル・レビューズ(Chem.Rev.),第106巻,第4681頁(2006年)
【非特許文献4】T.Baumgartnerら,ケミストリー−ア・ヨーロピアン・ジャーナル(Chem.Eur.J.),第11巻,第4687頁(2005年)
【非特許文献5】H.-C.Su,R.Reau,ら,ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.),第128巻,第983頁(2006年)
【非特許文献6】T.Sanjiら,オーガニック・レターズ(Org.Lett.),第9巻,第3611頁(2007年)
【非特許文献7】林実,西村康伸,森田絵美,松浦豊,渡辺裕,日本化学会第86春季年会講演要旨集,1J307(2006年)
【非特許文献8】林実,西村康伸,森田絵美,岡坂未穂,河口桂子,渡辺裕,日本化学会第87春季年会講演要旨集,4E427(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に、これまでにも様々なホスホール化合物が製造されている。しかし、十分に簡便で且つ効率的な製法はなかった。
【0010】
例えば、特許文献1〜2に開示されているホスホール化合物の製造方法はいずれも遷移金属錯体を経由するものであるが、遷移金属化合物は比較的高価であり、また、環境汚染の原因になるためにそれを含む廃液の処理の問題もあることから、これら方法は大量合成に適するものではない。
【0011】
また、本発明者らは、非特許文献7〜8のとおり、アセチレンジカルボン酸ジエステルとホスフィン類から3−オキソ−λ5−ホスホール化合物を合成した。しかしこの方法によると、ホスホール環上には原料であるアセチレンジカルボン酸ジエステル由来のアルコキシカルボニル基を持つホスホールのみしか合成することができない。それにもかかわらず、3−オキソ−λ5−ホスホール化合物に関しては他に報告例がなく、従って他の合成法も知られていない。
【0012】
そこで本発明が解決すべき課題は、様々な置換基を有する3−オキソ−λ5−ホスホール化合物を簡便かつ効率的に製造できる方法と、新規なホスホール化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の構造を有するλ3−ホスフィン化合物とハロゲン化合物からホスホール環を構築すれば、遷移金属錯体を経由することなく、様々な置換基を有する3−オキソ−λ5−ホスホール化合物を簡便且つ効率的に製造できることを見出すことによって上記課題を解決し、本発明を完成した。
【0014】
本発明に係る式(1)で表されるホスホール化合物の製造方法は、
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、
1、R2およびR5は、独立に水素原子基、置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいC1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、C1-7アシル基もしくはC2-7アルコキシカルボニル基を示すか、またはR1とR2は、夫々が結合する炭素原子と共に置換基を有していてもよいC6-10アリール基もしくは置換基を有していてもよいヘテロアリール基を形成してもよく、
3およびR4は、独立に置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す]
式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物から、
【0017】
【化2】

[式中、R1〜R5は上記と同義を示し、R6はC1-6アルキル基を示し、Halはハロゲン原子基を示す]
式(4)で表される化合物を得、
【0018】
【化3】

[式中、R1〜R6およびHalは上記と同義を示す]
上記化合物(4)を環化反応に付すことを特徴とする。
【0019】
上記本発明方法においては、上記環化反応を塩基性条件下で行う態様、加熱により行う態様、および減圧加熱により行う態様がある。
【0020】
また、本発明者らは、特定の構造を有するλ3−ホスフィン化合物とアセチレン化合物からホスホール環を構築すれば、遷移金属錯体を経由することなく、様々な置換基を有する3−オキソ−λ5−ホスホール化合物を簡便且つ効率的に製造できることを見出すことによって上記課題を解決し、本発明を完成した。
【0021】
本発明に係る式(11)で表されるホスホール化合物の製造方法は、
【0022】
【化4】

【0023】
[式中、
11、R12およびR15は、独立に水素原子基、置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいC1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、C1-7アシル基もしくはC2-7アルコキシカルボニル基を示し、
13およびR14は、独立に置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す]
式(15)で表される化合物と式(16)で表される化合物を付加環化反応に付すことを特徴とする。
【0024】
【化5】

[式中、R11〜R15は上記と同義を示し、Xは脱離基を示す]
【0025】
本発明において「脱離基」とは、上記付加環化反応において容易に脱離することができる基をいう。例えば、ハロゲン原子基、C1-6アルコキシ基、−OCO−C1-6アルキル基を挙げることができる。
【0026】
上記方法において、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基またはC1-6アルコキシ基の置換基としては、C6-10アリール基、ヘテロアリール基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基、カルボキシ基およびハロゲン原子基からなる群より選択される1または2以上を挙げることができ、C6-10アリール基またはヘテロアリール基の置換基としては、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C6-10アリール基、ヘテロアリール基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基、カルボキシ基、ハロゲン原子基、C1-7アシル基およびC2-7アルコキシカルボニル基からなる群より選択される1または2以上を挙げることができる。
【0027】
本発明において、「C1-6アルキル基」とは、炭素数1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等を挙げることができる。これらのうち、C1-4アルキルが好ましく、C1-2アルキルがより好ましい。
【0028】
「C2-6アルケニル基」とは、炭素原子間の二重結合を1以上有し且つ炭素数が2〜6である直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基をいう。例えば、ビニル、1−メチルビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル等である。好ましくはC2-5アルケニル、より好ましくはC2-4アルケニルであり、最も好ましくは2−プロペニル(アリル)である。
【0029】
「C2-6アルキニル基」とは、炭素原子間の三重結合を1以上有し且つ炭素数が2〜6である直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基をいう。例えば、エチニル、1−メチルエチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−メチル−1−プロピニル、2−ブチニル、3−ブチニル、3−メチル−2−ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル等である。好ましくはC2-5アルキニル、より好ましくはC2-4アルキニルである。
【0030】
「C3-10シクロアルキル基」とは、炭素数3〜10の環状脂肪族炭化水素基をいう。例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル等を挙げることができる。これらのうち、C3-6シクロアルキルが好ましい。
【0031】
「C6-10アリール基」とは、炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基をいう。例えば、フェニル、ナフチル、インデニル等であり、好ましくはフェニルである。
【0032】
「ヘテロアリール基」とは、窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環芳香族ヘテロシクリル基、6員環芳香族ヘテロシクリル基または縮合環芳香族ヘテロシクリル基をいう。例えば、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チエニル、フリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾール等の5員環ヘテロアリール基;ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル等の6員環ヘテロアリール基;インドリル、イソインドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル等の縮合環芳香族ヘテロシクリル基を挙げることができる。好ましくは窒素原子を含むヘテロアリールであり、より好ましくはピリジニルである。
【0033】
「C1-6アルコキシ基」とは、炭素数1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキソキシ等であり、好ましくはC1-4アルコキシであり、より好ましくはC1-2アルコキシである。
【0034】
「アミノ基」には、無置換のアミノ基のほか、1個の上記C1-6アルキル基に置換されたモノC1-6アルキルアミノ基と2個の上記C1-6アルキル基に置換されたジC1-6アルキルアミノ基が含まれるものとする。かかるアミノ基としては、アミノ;メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n−ブチルアミノ、イソブチルアミノ、t−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、n−ヘキシルアミノ等のモノC1-6アルキルアミノ;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ(n−プロピル)アミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ(n−ブチル)アミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(n−ペンチル)アミノ、ジ(n−ヘキシル)アミノ、エチルメチルアミノ、メチル(n−プロピル)アミノ、n−ブチルメチルアミノ、エチル(n−プロピル)アミノ、n−ブチルエチルアミノ等のジC1-6アルキルアミノを挙げることができる。好ましくは、無置換のアミノ基である。
【0035】
「ハロゲン原子基」としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、およびヨード基を例示することができ、クロロ基またはブロモ基が好ましく、クロロ基がより好ましい。
【0036】
「C1-7アシル基」とは、炭素数1〜7の脂肪族カルボン酸からOHを除いた残りの原子団をいう。例えば、ホルミル、アセチル、エチルカルボニル、n−プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、n−ブチルカルボニル、イソブチルカルボニル、t−ブチルカルボニル、n−ペンチルカルボニル、n−ヘキシルカルボニル等であり、好ましくはC1-4アシル基であり、より好ましくはアセチルである。
【0037】
「C2-7アルコキシカルボニル基」は、上記C1-6アルコキシ基がカルボニル基に結合した基をいう。例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−ペントキシカルボニル、n−ヘキソキシカルボニル等である。当該基としては、好ましくは(C2-6アルコキシ)カルボニル基であり、(C3-5アルコキシ)カルボニル基がより好ましい。
【0038】
アリール基やヘテロアリール基等が置換基を有する場合、置換基の数は、置換可能であれば2以上であってもよい。置換基数が複数である場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
化合物(1)および化合物(11)は、水和物の様な溶媒和物の形態であってもよく、それらは本発明範囲に含まれる。
【0040】
化合物(1)および化合物(11)は塩であってもよく、それらは本発明範囲に含まれる。化合物(1)および化合物(11)の好適な塩としては、例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ギ酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩などの有機酸塩;塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのアミノ酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明方法によれば、遷移金属錯体を経由することなく、様々な置換基を有する3−オキソ−λ5−ホスホール化合物を簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明のホスホール化合物(1)は、下記スキームにより製造される。
【0043】
【化6】

【0044】
以下、実施の順番に従って、本発明に係るホスホール化合物の第一の製造方法を説明する。
【0045】
工程A
工程Aは、ホスフィン化合物(2)とハロゲン化合物(3)からホスホニウム塩(4)を合成する工程である。
【0046】
ホスフィン化合物(2)は、公知の方法により合成することができる。例えば、R.K.Dieterら,J.Org.Chem.,67,p.847-(2002)やS.Maら,J.Org.Chem.,57,p.709(1992)に記載の方法に従って置換プロピオル酸エステルにHIを付加した後、S.E.Tunney,J.Org.Chem.,52,p.748(1987)に記載の方法によりシリルホスフィンとパラジウム触媒を用いたヨウ素−リン交換反応を行うことで製造することができる。また、R1とR2がそれぞれ隣接する炭素原子と共にアリール基などを形成しているホスフィン化合物(2)については、市販または既知の合成法により製造したオルトヨウ化安息香酸エステル化合物を原料として、S.E.Tunney,J.Org.Chem.,52,p.748(1987)の方法に従ってヨウ素−リン交換反応を行うことで製造することができる。また、A.Krasovskiy,Chem.Int.Ed.,43,p.3333(2004)に記載のハロゲン−金属交換反応によりオルトハロゲン化安息香酸化合物と有機リチウムや有機マグネシウムから得た有機金属化合物を用い、リン−炭素結合生成反応により製造することができる。
【0047】
ハロゲン化合物(3)は市販のものがあれば購入すればよいが、比較的シンプルな構造をしていることから一般的方法により市販化合物から製造してもよい。
【0048】
なお、R1、R2またはR5が置換基を有さないアミノ基である場合や、アリール基上にカルボキシ基などの活性置換基が存在している場合などでは、これら活性基をいったん保護した上で反応を進め、保護基を適時除去してもよい。
【0049】
上記工程Aの反応条件は特に制限されないが、例えば、ホスフィン化合物(2)の溶液にハロゲン化合物(3)を添加した上で攪拌すればよい。また、反応は窒素気流下で行うことが好ましい。また、ハロゲン化合物(3)を溶媒としても用いるなど、さらに溶媒を添加することなく反応を行うことも可能である。
【0050】
工程Aで用いる溶媒は、化合物(2)と化合物(3)を適度に溶解することができ且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素;アセトニトリルやクロロアセトニトリルなどのニトリル;ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミドなどから選択することができる。
【0051】
本反応時の温度は、出発原料や溶媒などに依存するが、室温〜110℃程度とすることができる。なお、当該温度を高めることにより、工程Aと工程Bを連続的に行うこともできる。この点については後述する。
【0052】
添加後の反応時間も出発原料や溶媒などに依存するが、通常は1〜24時間程度とする。反応の終了は、TLCなどで確認すればよい。
【0053】
工程Aの反応は非常に容易に進行し且つ副生物もほとんど生成しないことから、反応後は溶媒を留去するのみでホスホニウム塩(4)がほぼ定量的に得られる。或いは、溶媒を留去することなく、溶液状態のまま工程Bを実施することもできる。即ち、本発明の範囲には、ホスホニウム塩を単離することなく次の工程を行う態様も含まれる。
【0054】
工程B
工程Bは、ホスホニウム塩(4)を環化反応に付して本発明に係るホスホール化合物(1)を合成する工程である。かかる環化反応としては、塩基性条件下で行うもの、加熱により行うもの、および減圧加熱により行うものがある。以下、これら反応条件により説明する。
【0055】
・塩基条件下での環化反応
ホスホニウム塩(4)は、R5がシアノ基などの電子吸引基であり安定なリンイリドが生成する場合には、その溶液の液性を塩基性とすることで容易に環化する。具体的には、ホスホニウム塩(4)を水に溶解した上で塩基性化合物を少しずつ添加していけばよい。
【0056】
ホスホニウム塩(4)の水溶液へは、溶解性を高めるために、メタノールやエタノールなどの水混和性有機溶媒を添加してもよい。
【0057】
塩基性化合物は、用いた溶媒に対する溶解性を示すものであれば特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどアルカリ金属の水酸化物などを用いることができる。これら塩基性化合物は、反応の急激な進行を抑制するために、1〜4N程度の水溶液として添加することが好ましい。
【0058】
反応混合液が塩基性となった時点の確認は、pHメーターなどによっても行うことができるが、反応混合液へフェノールフタレインなどのpH指示薬を加えておき、その呈色により行うのが簡便である。具体的には、ホスホニウム塩(4)の水溶液へ少量のフェノールフタレインを添加しておき、さらに塩基性化合物の水溶液を少しずつ加えてはよく攪拌する操作を繰り返し、反応混合液が赤色となった時点で反応を終了させることができる。
【0059】
反応終了後は、一般的な方法で目的化合物であるホスホール化合物(1)を精製することができる。例えば、反応混合液を酢酸エチルやクロロホルムなど水と混和しない有機溶媒で抽出し、有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムなどで乾燥した後に減圧濃縮する。さらに必要に応じて、カラムクロマトグラフィや再結晶などの方法で精製してもよい。
【0060】
以上の方法の他、Wittig反応の条件と同様に、THFなど適切な溶媒中、ホスホニウム塩(4)に、ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、カリウムヘキサメチルジシラジド(KHMDS)などの強塩基;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどアルカリ金属の水素化物などを作用させてリンイリドを調製することにより分子内環化を行うことも可能である。通常、リンイリドの調製と環化反応は低温で行われるが、環化反応が遅い場合には加熱により環化を促進することもできる。
【0061】
・加熱による環化反応
ホスホニウム塩(4)は、単に加熱するのみでも容易に環化してホスホール化合物(1)となる。
【0062】
例えば、工程Aにおける反応温度を80〜150℃程度で行い、ホスホニウム塩(4)の合成とその環化反応を連続的に実施することも可能である。この場合の反応時間は、予備実験や原料化合物の消費の確認などにより決定すればよいが、通常は6〜48時間程度とすることができる。
【0063】
反応終了後は、通常の方法により精製すればよい。例えば、反応混合液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィや再結晶などにより精製することにより、ホスホール化合物(1)が得られる。
【0064】
・減圧加熱による環化反応
ホスホニウム塩(4)は、単に加熱するのみでなく減圧下で加熱することによって、より効率的に環化させることができる。
【0065】
例えば、工程Aで得られたホスホニウム塩(4)をよく乾燥した上で、減圧したまま100〜200℃程度で加熱することによって、ホスホール化合物(1)が得られる。この場合の反応時間は、予備実験や原料化合物の消費の確認などにより決定すればよいが、通常は1〜12時間程度とすることができる。この際、原料化合物の構造によっては150℃程度以下での反応ではホスホール構造を持たない副生成物を生じることがあるが、その場合にはより高い温度で反応を行うことで副反応を抑制することができる。
【0066】
反応終了後は、通常の方法により精製すればよい。例えば、反応物を室温まで冷却した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィや再結晶などにより精製することにより、ホスホール化合物(1)が得られる。
【0067】
本発明のホスホール化合物(11)は、下記スキームによって製造することができる。
【0068】
【化7】

【0069】
以下、本発明に係るホスホール化合物の第二の製造方法を説明する。
【0070】
上記工程Cは、ホスフィン化合物(15)とアセチレン化合物(16)とを反応させてホスホール化合物(11)を合成する工程である。
【0071】
ホスフィン化合物(15)は、公知の方法により容易に合成することができる。例えば、XがC1-6アルコキシ基であるホスフィン化合物(15)が必要である場合、当業者公知のα位置換反応によりホスフィノ酢酸エステル化合物のα位へR15を導入すればよい。また、XがC1-6アルコキシ基であるホスフィン化合物(15)は、R15が置換しているメチル基を有するホスフィン化合物またはそのボラン錯体に対して、当業者公知のα位置換反応により当該メチル基へアルコキシカルボニル基を導入することによっても合成できる。さらにホスフィン化合物(15)は、α位にハロゲン基が導入されているホスフィノ酢酸エステル化合物の当該ハロゲン基を、当業者公知の求核置換反応により所望のR15に置換することによっても合成することができる。
【0072】
原料であるホスフィン化合物(15)は、空気中で酸化分解され易い場合がある。その場合には、ホスフィン化合物(15)を式(17)で表されるボラン錯体へ誘導しておき、ホスホール化合物(11)を合成する際に分解してホスフィン化合物(15)へ戻してもよい。
【0073】
【化8】

【0074】
ボラン錯体(17)を分解する場合には、溶媒中、求核性の高いアミンを作用させればよい。
【0075】
ボラン錯体(17)の分解反応で用いる溶媒としては、ボラン錯体(17)を適度に溶解することができ且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素などから選択することができる。
【0076】
求核性の高いアミンとしては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、モルホリン、キヌクリジンなどの環状アミンの他、N,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)などを用いることができる。
【0077】
ボラン錯体(17)の分解反応におけるボラン錯体(17)の濃度は適宜調整すればよいが、通常、0.1mg/mL以上、1mg/mL以下程度とすればよい。また、使用するアミンの量は、ボラン錯体(17)と同モルまたは略同モルとすればよい。反応時においては、生成したホスフィン化合物(15)の酸化分解を抑制するために、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスにより系内を置換することが好ましい。
【0078】
ボラン錯体(17)の分解反応の温度と時間は適宜調整すればよいが、通常、室温で1時間以上、10時間以下程度とすることができる。
【0079】
反応終了後、生成したホスフィン化合物(15)は単離精製してもよいが、ボラン錯体(17)の分解反応は定量的に進行するのが一般的であり、また、ホスフィン化合物(15)を空気に接触させると酸化分解するおそれがあるので、そのまま次の工程に進むのが好ましい。
【0080】
上記工程Cは、ホスフィン化合物(15)の溶液へアセチレン化合物(16)を添加し、加熱攪拌することにより行えばよい。ボラン錯体(17)を分解してホスフィン化合物(15)とした場合には、当該反応溶液へアセチレン化合物(16)を加えればよい。
【0081】
アセチレン化合物(16)は比較的シンプルな構造をしていることから、市販のものがあれば購入すればよいし、市販のものが無い場合には当業者公知の方法により市販化合物から製造することができる。
【0082】
アセチレン化合物(16)の使用量は適宜調整すればよいが、ホスフィン化合物(15)と同モル量または略同モル量とすればよい。一般的には、安価に入手できる方か容易に製造できる方を過剰に用いる。
【0083】
工程Cで用いる溶媒は特に制限されないが、ボラン錯体(17)の分解反応で使用できるものとして挙げた溶媒を使用することができる。即ち、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素などを使用することができる。
【0084】
工程Cの反応温度は適宜調整すればよいが、通常、室温程度から120度程度とすることができる。反応時間も適宜調整すればよいが、通常は5時間以上、20時間以下程度とすることができる。反応の終了は、TLCなどで確認すればよい。
【0085】
反応終了後は、通常の方法により精製すればよい。例えば、目的化合物であるホスホール化合物(11)は比較的脂溶性が高いといえるので、反応液をクロロホルムや酢酸エチルなどで抽出した後に洗浄と乾燥を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィや再結晶などにより精製すればよい。
【0086】
工程Cの反応温度や原料化合物によっては、式(18)で表されるホスホール還元体が得られる場合がある。その場合には、ホスホール還元体(18)を酸化剤で酸化することにより容易にホスホール化合物(11)が得られる。
【0087】
【化9】

【0088】
本反応で用いられる溶媒としては、ホスホール還元体(18)を適度に溶解することができ且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などを使用することができる。
【0089】
本反応で使用できる酸化剤としては、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)やクロラニルなどを用いることができる。並行して置換基を酸化したい場合には強い酸化剤を用いても良いが、一般的にはDDQなどを用いることが好ましい。
【0090】
本反応におけるホスホール還元体(18)の濃度は適宜調整すればよいが、通常、10mg/mL以上、30mg/mL以下程度とすることができる。酸化剤の量は、使用する酸化剤の種類などに応じて適宜調整すればよいが、通常、ホスホール還元体(18)に対して1.0モル倍以上、5.0モル倍以下程度とすることができる。
【0091】
本反応の温度は、酸化剤の種類などに応じて適宜調整すればよいが、通常、室温とすることができる。反応時間も適宜調整すればよいが、通常は30分間以上、10時間以下程度とすることができる。反応の終了は、TLCなどで確認すればよい。
【0092】
反応終了後は、通常の方法により精製すればよい。例えば、溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィや再結晶などにより精製すればよい。必要に応じて、酸化剤の分解処理を行ってもよい。
【0093】
さらに必要であれば、置換基において官能基変換反応を行なってもよい。かかる反応は、当業者公知の方法により実施することができる。
【0094】
本発明方法により製造されるホスホール化合物は、少なくともリン−炭素間の二重結合およびオキソ基が共役している。その他の位置の置換基によっては、共役はさらに高度なものとなる。よって本発明のホスホール化合物は、優れた電子輸送材料や発光材料として利用できると考えられる。例えば、真空蒸着法などにより本発明のホスホール化合物からなる薄膜を形成し、これを有機ELの発光層とすることができる可能性がある。また、本発明に係るホスホール化合物は優れた蛍光性を示すことから、色素として用いることもできる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0096】
実施例1 新規ホスホール化合物の合成法A−塩基性条件下でのホスホニウム塩の環化
【0097】
【化10】

【0098】
o−ジフェニルホスフィノ安息香酸メチル(200mg,0.63mmol)をベンゼン(0.5mL)に溶解した。窒素気流下、ブロモ酢酸エチル(108mg,0.64mmol)を当該溶液へ加え、55℃で1時間攪拌した。次いで、溶媒を留去することによりホスホニウム塩を定量的に得た。NMRによるホスホニウム塩の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ1.06(t,3H,J=7.2Hz,CH3),3.74(s,3H,OCH3),4.00(q,2H,J=7.2Hz,O-CH2),5.28(d,2H,J=16Hz,P-CH2),7.54-8.42(m,14H,aromatic H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3)δ27.4
【0099】
上記ホスホニウム塩を水(50mL)に溶解した。当該溶液へフェノールフタレインの2%メタノール溶液を2滴加え、激しく攪拌しながら、僅かな赤色が残るまで2N水酸化ナトリウム水溶液を1滴ずつ加えた。当該混合液を酢酸エチルで抽出し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮することによって、白色固体である2−エトキシカルボニル−P,P−ジフェニルベンゾ−3−オキソ−λ5−ホスホールを得た。収量は152mg、収率は66%であった。当該化合物の分析結果と蛍光特性を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ1.18(t,3H,J=7.2Hz,CH3),4.16(q,2H,J=7.2Hz,CH2),7.45-8.12(m,14H,aromatic H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3)δ20.4;
FABMAS 375[M+H]+
R=0.20(CHCl3/AcOEt=3/1)
λem=450.5nm
【0100】
実施例2 新規ホスホール化合物の合成法B−加熱によるホスホニウム塩の環化
【0101】
【化11】

【0102】
o−ジフェニルホスフィノ安息香酸メチル(104mg,0.33mmol)をクロロアセトニトリル(0.4mL)に溶解し、窒素気流下、120℃で2時間攪拌した。次いで溶媒を留去し、クロロホルム/酢酸エチル=3/1の混合溶媒を溶出液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィで残渣を精製することによって、白色固体である2−シアノ−P,P−ジフェニルベンゾ−3−オキソ−λ5−ホスホールを得た。収量は106mg、収率は100%であった。当該化合物の分析結果と蛍光特性を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ7.50-8.15(m,14H,aromatic H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3)δ18.5;
FABMAS 328[M+H]+
R=0.70(AcOEt)
λem=464.5nm
【0103】
実施例3 新規ホスホール化合物の合成法C−減圧加熱によるホスホニウム塩の環化
【0104】
【化12】

【0105】
o−ジフェニルホスフィノ安息香酸メチル(121mg,0.38mmol)をトルエン(2.0mL)に溶解した。臭化ベンジル(0.1mL,0.84mmol)を当該溶液へ加え、室温で2日間攪拌した。次いで、溶媒を留去することによりホスホニウム塩を定量的に得た。NMRによるホスホニウム塩の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ3.67(s,3H,OCH3),5.28(d,2H,P-CH2),6.90-8.40(m,19H,aromatic H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3)δ27.2
【0106】
上記ホスホニウム塩を50℃で1時間減圧乾燥した後、減圧したまま昇温して150℃で5時間加熱した。次に冷却した後、酢酸エチルを溶出液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィで反応混合物を精製することによって、アモルファス状固体である2−フェニル−P,P−ジフェニルベンゾ−3−オキソ−λ5−ホスホールを得た。収量は3.3mg、収率は15%であった。当該化合物の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ6.83-8.18(m,19H,aromatic H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)δ73.7(d,J=115Hz),122.4(s),122.9(d,J=85Hz),123.6(d,J=12Hz),124.4(d,J=9Hz),125.7(d,J=89Hz),126.9(d,J=7Hz),128.1(s),129.5(d,J=13Hz),129.8(d,J=11Hz),133.2(d,J=11Hz),133.3(d,J=3Hz),133.6(d,J=2Hz),136.9(d,J=13Hz),147.0(d,J=14Hz),178.3(d,J=33Hz);
31P-NMR(162MHz,CDCl3)δ17.6;
R=0.65(AcOEt)
【0107】
実施例4 新規ホスホール化合物の合成法C−減圧加熱によるホスホニウム塩の環化
上記実施例3において、ホスホニウム塩の減圧加熱の条件を190℃で4.5時間とすること以外は同様にして、目的化合物を約80%の収率で得た。但し、目的化合物には少量の不純物が混入していたため、さらに精製条件を検討中である。
【0108】
実施例5 新規ホスホール化合物の合成法B−加熱によるホスホニウム塩の環化
【0109】
【化13】

【0110】
(Z)−3−ジフェニルホスフィノケイ皮酸メチル(112mg,0.31mmol)をクロロアセトニトリル(0.4mL)に溶解し、窒素気流下、120℃で18時間攪拌した。次いで溶媒を留去し,クロロホルム/酢酸エチル=3/1の混合溶媒を溶出液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィで残渣を精製することによって,黄色のアモルファス状固体である2−シアノ−5−フェニル−P,P−ジフェニル−3−オキソ−λ5−ホスホールを得た。収量は81mg,収率は74%であった。当該化合物の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ7.17-7.79(m,16H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)δ46.8(d,J=137.5Hz),117.2(d,J=17.5Hz),120.2(d,J=87.6Hz),127.1(d,J=5.9Hz),129.5(s),130.1(d,J=13.1Hz),130.6(s),130.8(d,J=8.5Hz),133.0(d,J=11.1Hz),134.5(d,J=3.1Hz),136.6(d,J=73Hz),145.4(d,J=9.2Hz),183.7(d,J=34.5Hz);
R=0.25(CHCl3/AcOEt=3/1)
【0111】
実施例6 新規ホスホール化合物の合成法A−塩基性条件下でのホスホニウム塩の環化
【0112】
【化14】

【0113】
窒素で満たした反応器に、o−ジフェニルホスフィノ安息香酸メチル(50mg,0.16mmol)のトルエン溶液(0.5mL)を入れ、さらに臭化ベンジル(30mg,0.17mmol)を加え、110℃で3時間撹拌した。次いで、溶媒を留去した。残渣を減圧下50℃で乾燥した後、THF(2.0mL)を加えて懸濁液とした。当該懸濁液に水素化リチウム(3.7mg,0.46mmol)を加え、50℃で19時間撹拌した。その後、水を加えて反応を停止させた。反応混合物を酢酸エチルで2回抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:酢酸エチル)で精製することによって、目的化合物を得た(収率:74%)。
【0114】
実施例7 新規ホスホール化合物の合成法A−塩基性条件下でのホスホニウム塩の環化
【0115】
【化15】

【0116】
窒素で満たした反応器に,o−ジフェニルホスフィノ安息香酸メチル(50mg,0.16mmol)の臭化プレニル溶液(0.2mL)を入れ、室温で7時間撹拌した。次いで、溶媒を留去した。残渣を減圧下50℃で乾燥した後、THF(2.0mL)を加えて懸濁液とした。当該懸濁液に水素化リチウム(3.7mg,0.46mmol)を加え、室温で8時間撹拌した。その後、水を加えて反応を停止させた。反応混合物を酢酸エチルで2回抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:クロロホルム/酢酸エチル=1/1)で精製することによって、黄色のアモルファス状物質である目的化合物を得た(収量:30mg,収率:54%)。
【0117】
参考例1 新規ホスホール化合物の官能基変換
【0118】
【化16】

【0119】
上記実施例2と同様の方法により、ブロモ体を合成した。アルゴンで満たした反応器にブロモ体(100mg,0.25mol)を入れた。別途、バイアル瓶中、酢酸パラジウム(27mg)とトリフェニルホスフィン(12mg)を乾燥DMF(1mL)に溶解し、触媒溶液とした。上記反応器へ当該触媒溶液を加えた後、スチレン(35μL,0.30mmol)と酢酸ナトリウム(32mg,0.37mmol)を加えて140℃で5.5時間加熱した。減圧下溶媒を留去し、残渣をクロロホルムに溶解した後、水と飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:クロロホルム/酢酸エチル=8/1)で精製することによって、淡黄色の目的化合物を得た(収率:62%)。
【0120】
参考例2 新規ホスホール化合物の官能基変換
【0121】
【化17】

【0122】
上記実施例2と同様の方法により、ブロモ体を合成した。アルゴンで満たした反応器に、ブロモ体(100mg,0.25mol)、フェニルボロン酸(45mg,0.36mmol)、炭酸ナトリウム(78mg,3.0eq.)、酢酸パラジウム(5.37mg,10mol%)、トリフェニルホフフィン(13mg,20mol%)および乾燥DMF(1mL)を加え,100℃で3.5時間加熱した。減圧下溶媒を留去し、残渣にクロロホルムを加え、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:クロロホルム/酢酸エチル=8/1)で精製することによって、淡黄色の目的化合物を得た(収率:92%)。
【0123】
実施例8 本発明に係る第二製法による新規ホスホール化合物の製造
【0124】
【化18】

【0125】
アルゴンで満たした反応器にジフェニルホスフィノフェニル酢酸メチル−ボラン錯体(49.5mg,0.14mmol)のDMF溶液(1mL)を入れ、さらにDABCO(15.9mg,0.14mmol)を加えて室温で2.5時間撹拌した。次いで、4−フェニル−3−ブチン−2−オン(26.5mg,0.18mmol)を加えて100℃で12時間加熱撹拌した。反応混合物に水を加え、クロロホルムで2回抽出し、1N塩酸、水および飽和食塩水で各1回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:クロロホルム/酢酸エチル=9/1)で精製することによって、赤色のアモルファス状物質である目的化合物を得た(収量:45.6mg,収率:72%)。
【0126】
実施例9 本発明に係る第二製法による新規ホスホール化合物の製造
【0127】
【化19】

【0128】
アルゴンで満たした反応器にジフェニルホスフィノフェニル酢酸メチル−ボラン錯体(50.0mg,0.14mmol)のアセトニトリル溶液(1mL)を入れ、さらにDABCO(16.1mg,0.14mmol)を加えて室温で2.5時間撹拌した。次いで、4−(2−チエニル)−3−ブチン−2−オン(23.7mg,0.16mmol)を加えて80℃で12時間加熱撹拌した。反応混合物に水を加え、クロロホルムで2回抽出し、1N塩酸、水および飽和食塩水で各1回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:n−ヘキサン/酢酸エチル=1/2)で精製することによって、赤色のアモルファス状物質である目的化合物を得た(収量:51.9mg,収率:80%)。
【0129】
実施例10 本発明に係る第二製法による新規ホスホール化合物の製造
(1) ホスホール還元体の製造
【0130】
【化20】

【0131】
アルゴンで満たした反応器にジフェニルホスフィノフェニル酢酸メチル−ボラン錯体(99.3mg,0.29mmol)のトルエン溶液(2mL)を入れ、さらにDABCO(32.0mg,0.29mmol)を加えて室温で2.5時間撹拌した。次いで、アセチレンジカルボン酸ジメチル(44.6mg,0.31mmol)を加えて室温で12時間撹拌した。反応混合物に水を加え、クロロホルムで2回抽出し、1N塩酸、水および飽和食塩水で各1回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、乾燥剤を濾別し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶出液:クロロホルム/酢酸エチル=8/1)で精製することによって、黄色のアモルファス状物質であるホスホール還元体を得た(収量:64mg,収率:50%)。
【0132】
(2) ホスホール化合物の製造
【0133】
【化21】

【0134】
上記反応で得られたホスホール還元体(30.0mg,0.067mmol)のジクロロメタン溶液(1.5ml)に、DDQ(1.7mg,0.074mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。当該反応溶液を1H−NMRと31P−NMRにより分析したところ、充分純粋なホスホール化合物が定量的に得られていることが明らかにされた。
【0135】
以下、上記実施例または参考例と同様にしてホスホール化合物を製造した結果を表1〜5にまとめる。表中、実施例1と同様に水酸化ナトリウムによる塩基性条件下で環化反応を行なう本発明に係る第一方法をA1;上記実施例6と同様に水素化リチウムによる塩基性条件下で環化反応を行なう本発明に係る第一方法をA2;上記実施例2と同様に加熱により環化反応を行なう本発明に係る第一方法をB;上記実施例3と同様に減圧加熱により環化反応を行なう本発明に係る第一方法をCとする。但し、実施例35においては、塩基として水素化リチウムの代わりにKHMDSを用いた。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【0138】
【表3】

【0139】
【表4】

【0140】
【表5】

【0141】
以上のとおり、本発明方法によれば、様々な置換基を有する3−オキソ−λ5−ホスホール化合物を、非常に簡便かつ効率的に製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるホスホール化合物を製造するための方法であって、
【化1】

[式中、
1、R2およびR5は、独立に水素原子基、置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいC1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、C1-7アシル基もしくはC2-7アルコキシカルボニル基を示すか、またはR1とR2は、夫々が結合する炭素原子と共に置換基を有していてもよいC6-10アリール基もしくは置換基を有していてもよいヘテロアリール基を形成してもよく、
3およびR4は、独立に置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す]
式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物から、
【化2】

[式中、R1〜R5は上記と同義を示し、R6はC1-6アルキル基を示し、Halはハロゲン原子基を示す]
式(4)で表される化合物を得、
【化3】

[式中、R1〜R6およびHalは上記と同義を示す]
上記化合物(4)を環化反応に付すことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記環化反応を塩基性条件下で行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記環化反応を加熱により行う請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記環化反応を減圧加熱により行う請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基またはC1-6アルコキシ基の置換基を、C6-10アリール基、ヘテロアリール基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基、カルボキシ基およびハロゲン原子基からなる群より選択される1または2以上とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
6-10アリール基またはヘテロアリール基の置換基を、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C6-10アリール基、ヘテロアリール基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基、カルボキシ基、ハロゲン原子基、C1-7アシル基およびC2-7アルコキシカルボニル基からなる群より選択される1または2以上とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
式(11)で表されるホスホール化合物を製造するための方法であって、
【化4】

[式中、
11、R12およびR15は、独立に水素原子基、置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいC1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、C1-7アシル基もしくはC2-7アルコキシカルボニル基を示し、
13およびR14は、独立に置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC2-6アルケニル基、置換基を有していてもよいC2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC6-10アリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す]
式(15)で表される化合物と式(16)で表される化合物を付加環化反応に付すことを特徴とする方法。
【化5】

[式中、R11〜R15は上記と同義を示し、Xは脱離基を示す]
【請求項8】
1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基またはC1-6アルコキシ基の置換基を、C6-10アリール基、ヘテロアリール基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基、カルボキシ基およびハロゲン原子基からなる群より選択される1または2以上とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
6-10アリール基またはヘテロアリール基の置換基を、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C6-10アリール基、ヘテロアリール基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基、カルボキシ基、ハロゲン原子基、C1-7アシル基およびC2-7アルコキシカルボニル基からなる群より選択される1または2以上とする請求項7または8に記載の方法。

【公開番号】特開2009−209130(P2009−209130A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14684(P2009−14684)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】