説明

ホットプレス用搬送装置

【課題】ホットプレスを行う生産ラインの各工程間において搬送中の被搬送物を焼き入れに必要な温度に維持する。
【解決手段】鋼板10の上面側全域を覆う天板6a、及び天板6aの外周縁から下方に突出し天板6aとで下方に開口する保温空間Sを内側に形成する側板6bからなる保温カバー6を備える。保温空間Sの互いに対向する開口周辺に複数の掛止杆62を接近・離間可能に設ける。掛止杆62は互いの接近動作により保温空間Sに側方から進出し、鋼板10の外周縁に下方から掛止して鋼板10を次工程に搬送すべく保持する一方、互いの離間動作により保温空間Sから側方に後退し、次工程に搬送された鋼板10を移載する。掛止杆62が鋼板10を保持した状態で、保温空間Sの開口を鋼板10で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットプレスを行う生産ラインの各工程間において加熱状態のパネル状被搬送物を搬送するホットプレス用搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車業界では、軽量で、且つ、安全性の高い車体構造が求められていて、この要求に対し、板厚を厚くすることなく高強度な車体構造を得るために、ホットプレスにより高強度のプレス成形品を得るようにしている。
【0003】
このホットプレスは、一般的に、加熱炉で加熱された鋼板から金型の型閉じ動作によるプレス成形でプレス成形品を得て、当該プレス成形品を型閉じ状態で冷却して焼き入れすることにより強度を高めるようにしている。
【0004】
ところで、ホットプレスの生産ラインにおける加熱炉から金型への鋼板の搬送や、2つ以上の金型でホットプレスを行う生産ラインの金型間のプレス成形品の搬送は、例えば、特許文献1に開示されている搬送装置で行われる。該搬送装置は、アーム先端にマテリアルハンドリング(以下、マテハンと呼ぶ)が取り付けられた6軸汎用ロボットからなり、上記マテハンは、水平方向に延びるフレームと、該フレームから下方に突出する複数の吸着パッドとを備えている。そして、上記被搬送物に上記複数の吸着パッドを上面から接触させて当該吸着パッド内部を真空又は減圧することにより、上記マテハンが上記被搬送物を吸着保持し、上記搬送装置は、上記マテハンに吸着保持された被搬送物を持ち上げて、目的とする金型まで搬送するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4494871号公報(段落0002、0015欄、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の搬送装置では、上記被搬送物を搬送する際、当該被搬送物の吸着パッドと接触する箇所以外が大気に晒されてしまう。したがって、搬送中に上記被搬送物から多くの熱が放散して当該被搬送物の温度が低下してしまい、冷却を行う金型内に搬入する際に上記被搬送物を焼き入れに必要な温度に維持できず、プレス成形品の焼き入れが十分になされなくなってしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ホットプレスを行う生産ラインの各工程間において、搬送中の被搬送物を焼き入れに必要な温度に維持できるホットプレス用搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、加熱状態の被搬送物を保温カバーで覆いながら搬送するようにしたことを特徴とする。
【0009】
具体的には、ホットプレスを行う生産ラインの各工程間で加熱状態のパネル状被搬送物を保持して搬送するホットプレス用搬送装置において、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明では、上記被搬送物の上面側全域を覆う天板、及び該天板の外周縁から下方に突出し当該天板とで下方に開口する保温空間を内側に形成する側板からなる保温カバーと、上記保温空間の互いに対向する開口周辺に接近・離間可能に設けられ、互いの接近動作により上記保温空間に側方から進出し、上記被搬送物の外周縁に下方から掛止して当該被搬送物を次工程に搬送すべく保持する一方、互いの離間動作により上記保温空間から側方に後退し、次工程に搬送された被搬送物を移載する掛止手段とを備え、上記掛止手段が被搬送物を保持した状態で、上記保温空間の開口を上記被搬送物で覆っていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、上記側板の少なくとも一部で構成され、互いに対向して接近・離間する一対の可動プレートと、これら可動プレートを互いに接近・離間させる作動手段とを備え、上記掛止手段は、上記可動プレートの下端縁に設けられ、上記可動プレートの上記作動手段による接近・離間動作で上記保温空間に対して進退するようになっていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、第1の発明において、上記掛止手段を互いに接近・離間させる作動手段を備え、上記掛止手段は、上記保温カバーと別体で設けられ、上記作動手段の作動による接近・離間動作で上記保温空間に対して進退するようになっていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、第2の発明において、上記掛止手段は、上記可動プレートの下端縁に所定の間隔をあけて内方に突設された複数の掛止杆からなり、該各掛止杆上面には、上記被搬送物の外周縁に下方から点接触する点接触部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
第5の発明では、第4の発明において、上記点接触部は、軸部と、該軸部の一端に連続して繋がる頭部とを備え、上記各掛止杆部には、上記軸部が取り外し可能に嵌挿される貫通孔が形成され、上記軸部を上記貫通孔に嵌挿した状態で、上記頭部が上記各掛止杆部上面に膨出していることを特徴とする。
【0015】
第6の発明では、第5の発明において、上記点接触部は、セラミック材で形成されていることを特徴とする。
【0016】
第7の発明では、第5の発明において、上記点接触部は、軽量コンクリート材で形成されていることを特徴とする。
【0017】
第8の発明では、第1から第7のいずれか1つの発明において、上記天板及び側板の少なくとも内面は、セラミック材からなることを特徴とする。
【0018】
第9の発明では、第1から第8のいずれか1つの発明において、上記天板下面には、上記被搬送物を加温する加温手段が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明では、被搬送物が搬送される際、当該被搬送物の上面側から放たれる熱が被搬送物で開口が覆われた保温空間に留まって大気中に放散しなくなる。したがって、保温空間に留まる熱によって当該保温空間の温度が被搬送物と同程度の温度で維持され、被搬送物と保温空間との間における熱交換が抑えられて被搬送物の温度が低下しなくなり、金型に搬入する直前の被搬送物の温度を焼き入れに必要な温度に維持しておくことができる。
【0020】
第2の発明では、保温カバーを被搬送物に上方から近づけて当該被搬送物を掛止手段で掛止する際、側板の一部を構成する一対の可動プレートが互いに離間しており、保温カバーと被搬送物との間で接触が起こり難いので、被搬送物の変形や保温カバーの破損を防ぐことができる。
【0021】
第3の発明では、搬送装置が被搬送物を保持する際に、上述の第2の発明とは異なり、側板が可動しない。したがって、可動プレートの可動に起因して保温空間から大気中に熱が放散するといった事態が生じず、上記保温空間の温度が下がり難く、搬送時の被搬送物と保温空間との間における熱交換をさらに抑えて上記被搬送物の温度低下を防ぐことができる。
【0022】
第4の発明では、被搬送物が搬送される際、当該被搬送物に接触する掛止杆の接触面積が吸着パッドで被搬送物を吸着保持する特許文献1の場合に比べて小さくなるので、被搬送物から掛止杆に熱が伝わり難い。したがって、これによっても被搬送物の搬送中に熱が被搬送物から保温カバー側に伝わることによって引き起こされる被搬送物の温度低下を抑え、金型に搬入する直前の被搬送物の温度を焼き入れに必要な温度に維持できる。
【0023】
第5の発明では、点接触部が掛止杆から取り外せるので、被搬送物の熱等により点接触部が劣化した際、当該点接触部を簡単に取り替えることができる。
【0024】
第6及び第7の発明では、被搬送物が搬送される際、当該被搬送物と接触する点接触部の熱伝導率が低いので、被搬送物から掛止杆に熱が伝わり難い。したがって、この場合においても、熱が被搬送物から保温カバー側に逃げることにより引き起こされる被搬送物の温度低下をさらに抑え、熱が被搬送物から保温カバー側に伝わることによって引き起こされる被搬送物の温度低下を防ぎ、金型に搬入する直前の被搬送物の温度を焼き入れに必要な温度に維持することができる。
【0025】
第8の発明では、保温カバーの熱伝導率が低くなるので、保温空間の熱が保温カバーの外部へ伝わり難くなる。したがって、保温カバーの断熱効果が高まり、さらに、搬送中における被搬送物の温度低下を防ぐことができる。
【0026】
第9の発明では、加温手段から発せられる熱で保温空間の温度を常に高温状態にできるので、被搬送物と保温空間との間における熱交換をさらに抑え、搬送中における被搬送物の温度低下を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係る搬送装置が配置されたホットプレス用生産ラインのレイアウト図であり、(a)は、搬送装置が加熱炉で加熱された鋼板を持ち上げた直後の状態を、(b)は、搬送装置が金型に鋼板を搬入した直後の状態を示す側面図をそれぞれ示す。
【図2】本発明の実施形態1に係る搬送装置の保持機構の斜視図であり、一対の可動プレートが互いに接近した状態を示す。
【図3】本発明の実施形態1に係る搬送装置の保持機構の斜視図であり、一対の可動プレートが互いに離間した状態を示す。
【図4】図2の断面A−A図である。
【図5】図3の断面B−B図である。
【図6】図4のC部拡大図である。
【図7】本発明の実施形態1の変形例に係る図6相当図である。
【図8】本発明の実施形態2の図2相当図である。
【図9】本発明の実施形態3の図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る搬送装置1が配置された生産ライン9を示す。該生産ライン9は、ホットプレスによる鋼板(被搬送物)10の成形が行えるようになっていて、上記鋼板10を加熱する加熱工程2と、加熱状態の鋼板Sをプレス成形してプレス成形品を得た後、当該プレス成形品を冷却して焼き入れする成形工程3とを備え、上記加熱工程2と上記成形工程3との間に上記搬送装置1が配置されている。
【0029】
上記加熱工程2は、上記生産ライン9の上流側から下流側に沿って延び、上記鋼板10を加熱する加熱炉20を備えている。該加熱炉20は、下方に設置された下側炉体21と、該下側炉体21と対向するように上方に設置された上側炉体22とを備え、上記下側炉体21には、モータにより回転駆動する複数のローラ21a(図4及び図5にのみ示す)と、上記上側炉体22との間の雰囲気ガスの温度を高めるヒータ(図示せず)とが設けられている。そして、上記加熱炉20の上流側に搬入された鋼板10は、上記各ローラ21aによって生産ライン9の下流側へと搬送され、搬送過程で、ヒータによってホットプレスに適した約800℃〜1000℃の温度に高められるようになっている。
【0030】
上記成形工程3は、油圧式プレス31を備え、該油圧式プレス31には、プレス成形及び冷却を行う上型4a及び下型4bからなる金型4がセットされ、上記油圧式プレス31は、上記金型4の上型4aを下型4bに対して上下動させるようになっている。そして、加熱状態の鋼板10を下型4bにセットした状態で上記油圧式プレス31により上型4aを下死点まで下降させると、プレス成形によりプレス成形品(図示せず)が得られ、当該プレス成形品を金型4の型閉じ状態で冷却して焼き入れすることにより上記プレス成形品の強度が高められるようになっている。
【0031】
上記搬送装置1は、アーム先端に上記鋼板10を保持する保持機構5が取り付けられた6軸汎用ロボットからなり、上記加熱工程2の加熱炉20で加熱された鋼板10を上記成形工程3の金型4に順次搬送するようになっている。
【0032】
上記保持機構5は、図2乃至図5に示すように、上記鋼板10の上面側全域を覆う矩形状の天板6a、及び該天板6aの外周縁から下方に突出する側板6bを有する扁平なセラミック製保温カバー6を備え、上記天板6aと上記側板6bとで当該側板6bの内側に下方に開口する保温空間Sを形成している。
【0033】
上記天板6aの長辺側で互いに対向する側板6b部分は、一対の可動プレート61を構成し、該一対の可動プレート61の上端縁は、4つのヒンジHで上記天板6aの外周縁に回動可能に軸支され、下端側が互いに接近・離間するようになっている。
【0034】
上記一対の可動プレート61の下半部分内面には、当該可動プレート61の長手方向に所定の間隔をあけて4つの略L字状掛止杆(掛止手段)62がそれぞれに設けられている。
【0035】
該掛止杆62は、上記可動プレート61の下端縁から内方に突出する水平突出部62aを有し、該水平突出部62aの先端側には、内面に雌螺子部63aを有する貫通孔63が略上下方向に貫通形成されている。
【0036】
上記貫通孔63には、セラミック製ボルト(点接触部)66が取り付くようになっている。
【0037】
該ボルト66は、外周面に雄螺子部64aが形成された軸部64と、該軸部64の一端に連続して繋がる頭部65とを備え、上記軸部64の雄螺子部64aと上記貫通孔63の雌螺子部63aとが螺合・螺脱することにより、上記水平突出部62aに取り付け・取り外し可能となっている。そして、上記軸部64を上記貫通孔63に嵌挿した状態で、上記頭部65が上記水平突出部62a上面に膨出している。
【0038】
上記天板6aの上面中央には、6軸汎用ロボットのアーム部先端に取り付く略円板状取付部6cが設けられ、該取付部6cの側方には、上記可動プレート61を可動させる作動機構7(作動手段)が平面視で点対称に一対配置されている。
【0039】
尚、上記一対の作動機構7はそれぞれ同じ機構であるので、以下、一方の作動機構7についてのみ詳細に説明する。
【0040】
上記作動機構7は、上記保温カバー6の幅方向に沿って延びるシリンダ71を備え、該シリンダ71は、細長円筒状をなすシリンダ本体71aと、該シリンダ本体71aの長手方向一端から外側方に延びるロッド71bとを有し、上記シリンダ本体71aの長手方向他端は、上記天板6a上面に揺動可能に軸支されている。
【0041】
上記ロッド71bの先端には、側面視で略J字状をなす板状第1リンク部材72の一端が回動可能に軸支されている。
【0042】
該第1リンク部材72の他端は、上記一方の可動プレート61表面に固定され、上記第1リンク部材72の中途部には、当該第1リンク部材72の形状に沿って緩やかに湾曲する長孔72aが形成されている。
【0043】
上記天板6aの幅方向一端縁には、上記第1リンク部材72に対応する位置に略長方形板状の第2リンク部材73が斜め上方に向かって突設され、該第2リンク部材73の突出端には、上記長孔72aにスライド可能に嵌合するガイド軸73aが設けられている。
【0044】
上記作動機構7には、図示しない制御部が接続され、該制御部の指令により、シリンダ本体71aに対してロッド71bが縮むと、図5に示すように、長孔72aを移動するガイド軸73aによって上記第1リンク部材72が第2リンク部材73にガイドされながらシリンダ71に近づくように移動して上記一対の可動プレート61が互いに離間する一方、上記シリンダ本体71aに対してロッド71bが伸びると、図4に示すように、長孔72aを移動するガイド軸73aによって上記第1リンク部材72が第2リンク部材73にガイドされながらシリンダ71から離れるように移動して上記一対の可動プレート61が互いに接近するようになっている。
【0045】
そして、上記鋼板10の上方に保温カバー6を対応させた状態で、上記作動機構7の作動により上記一対の可動プレート61を互いに接近させると、上記各掛止杆62が上記保温空間Sに側方から進出し、上記鋼板10の外周縁に下方から頭部65が点接触することにより上記鋼板10を掛止して成形工程3に搬送すべく保持するようになっていて、上記各掛止杆62が鋼板10を保持した状態で、上記保温空間Sの開口を上記鋼板10で覆っている。
【0046】
一方、上記各掛止杆62が上記鋼板10を保持した状態で、上記作動機構7の作動により上記一対の可動プレート61を互いに離間させると、上記各掛止杆62が上記保温空間Sから側方に後退し、成形工程3に搬送された鋼板10を移載するようになっている。
【0047】
次に、上記搬送装置1による上記加熱工程2と上記成形工程3との間における鋼板10の搬送について詳細に説明する。
【0048】
上記搬送装置1は、図1(a)に示すように、加熱工程2において加熱炉20で加熱されながら生産ライン9の下流側に搬送された鋼板10の上方に保持機構5を移動させる。
【0049】
次に、上記搬送装置1は、図3及び図5に示すように、上記作動機構7を作動させて、上記一対の可動プレート61を互いに離間させる。
【0050】
そして、上記搬送装置1は、上記鋼板10が上記保温空間Sに入り込むように上記保持機構5を下方に移動させ、その後、作動機構7を作動させて、図2及び図4に示すように、上記一対の可動プレート61を互いに接近させる。すると、上記各掛止杆62が保持空間Sに側方から進出して上記鋼板10の外周縁下側に潜り込み、各ボルト66における頭部65の頂点が鋼板10下面に点接触して各掛止杆62が下方から鋼板10を掛止(保持)する。
【0051】
しかる後、上記搬送装置1は、鋼板10を保持した状態の保持機構5を持ち上げて型開きした金型4の上型4a及び下型4bの間まで移動させる。
【0052】
そして、上記搬送装置1は、作動機構7を作動させて、上記一対の可動プレート61を互いに離間させる。すると、上記各掛止杆62が保持空間Sから側方に後退し、成形工程3に搬送された鋼板10を下型4b上に移載する。しかる後、上記保持機構5を上型4a及び下型4bの間から退避させる。
【0053】
その後、上記搬送装置1は、上記保持機構5を加熱炉20へと移動させ、次に加熱された鋼板10を順次金型4まで搬送する。そして、上記搬送装置1は、上記加熱炉20から金型4までの鋼板10の搬送を順次繰り返す。
【0054】
以上より、本発明の実施形態1によれば、鋼板10が搬送される際、当該鋼板10の上面側から放たれる熱が上記鋼板Sで開口が覆われた保温空間Sに溜まって大気中に拡散しなくなる。したがって、保温空間Sに留まる熱によって当該保温空間Sの温度が鋼板10と同程度の温度で維持され、鋼板10と保温空間Sとの間における熱交換が抑えられて鋼板10の温度が低下しなくなり、金型4に搬入する直前の鋼板10の温度を焼き入れに必要な温度に維持しておくことができる。
【0055】
また、保温カバー6を鋼板10に上方から近づけて当該鋼板10を各掛止杆62で掛止する際、側板6bの一部を構成する一対の可動プレート61が互いに離間しており、保温カバー6と鋼板10との間で接触が起こり難いので、鋼板10の変形や保温カバー6の破損を防ぐことができる。
【0056】
さらに、鋼板10が搬送される際、ボルト66が鋼板10下面に点接触しているので、鋼板10に接触する掛止杆62の接触面積が吸着パッドで鋼板Sを吸着保持する特許文献1の場合に比べて小さくなるので、鋼板10から掛止杆62に熱が伝わり難い。したがって、これによっても鋼板10の搬送中に熱が鋼板10から保温カバー6側に伝わることによって引き起こされる鋼板10の温度低下を抑え、金型4に搬入する直前の鋼板10の温度を焼き入れに必要な温度に維持できる。
【0057】
それに加え、ボルト66が掛止杆62から取り外せるので、鋼板10の熱等によりボルト66が劣化した際、当該ボルト66を簡単に取り替えることができる。
【0058】
そして、ボルト66がセラミック製なので、鋼板10が搬送される際、当該鋼板10と接触するボルト66の熱伝導率が低く、鋼板10から掛止杆62に熱が伝わり難い。したがって、この場合においても、熱が鋼板10から保温カバー6側に逃げることにより引き起こされる鋼板10の温度低下を防ぎ、金型4に搬入する直前の鋼板10の温度を焼き入れに必要な温度に維持することができる。
【0059】
また、保温カバー6の天板6a及び側板6bがセラミック製なので、保温カバー6の熱伝導率が低く、保温空間Sの熱が保温カバー6の外部へ伝わり難くなる。したがって、保温カバー6の断熱効果が高まり、さらに、搬送中における鋼板10の温度低下を防ぐことができる。
【0060】
図7は、本発明の実施形態1の変形例を示す。この変形例は、以下の点が上記で詳述した実施形態1と異なっている。すなわち、変形例の貫通孔63内面には、雌螺子部63aが形成されていない。
【0061】
また、この変形例では、ボルト66ではなく、軸部67と、該軸部67の一端に連続して繋がる頭部68からなる軽量コンクリート製ピン69を上記水平突出部62aに取り付けるようになっている。そして、上記貫通孔63の上方から上記軸部67を押し込んで嵌挿し、上記軸部67が上記貫通孔63に嵌挿した状態で、上記頭部68が上記水平突出部62a上面に膨出するようになっている。
【0062】
したがって、この変形例では、ピン69が熱伝導率の低い軽量コンクリート製なので、セラミック製のボルト66を用いた実施形態1と同様に、熱が鋼板10から保温カバー6側に逃げることにより引き起こされる鋼板10の温度低下を防ぎ、金型4に搬入する直前の鋼板10の温度を焼き入れに必要な温度に維持することができる。
《発明の実施形態2》
図8は、本発明の実施形態2に係る搬送装置1の保持機構5を示す。この実施形態2では、保持機構5の一部構造が実施形態1と異なるだけでその他は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分のみを説明する。
【0063】
実施形態2の保持機構5は、搬送中に上記鋼板Sを加温する加温装置8を備えている。該加温装置8は、ヒータ本体8aと、該ヒータ本体8aによって加温調節がなされる発熱線8b(加温手段)とを備え、該発熱線8bは、蛇行しながら上記天板6aの下面全体に配設されている。
【0064】
したがって、本発明の実施形態2によれば、発熱線8bから発せられる熱で保温空間Sの温度を常に高温状態にできるので、鋼板10と保温空間Sとの間における熱交換をさらに抑え、搬送中における鋼板10の温度低下を確実に防止することができる。
《発明の実施形態3》
図9は、本発明の実施形態3に係る搬送装置1の保持機構5を示す。この実施形態3では、実施形態1の如き側板6bの一部が可動プレート61で構成されておらず、掛止手段としての掛止フレーム60が保温カバー6と別体で設けられている点が実施形態1と異っている。以下、実施形態1と異なる部分のみを説明する。
【0065】
実施形態3の掛止フレーム60は、側板6bの下端縁に沿って延びる断面略L字状のフレームからなり、上記掛止フレーム60の下端縁には、内方に突出する板状フレーム部60aが設けられている。
【0066】
実施形態3の第1リンク部材72は、側面視で長細板状をなしていて、一端がロッド71bの先端に回動可能に軸支され、他端が上記掛止フレーム60の長手方向略中央に固定されている。そして、実施形態1の如き長孔72aは形成されていない。
【0067】
また、実施形態3の第2リンク部材73は、上記天板6aの幅方向一端縁から略水平に突設されている。上記第1リンク部材72の長手方向中央上寄りの部分が上記第2リンク部材73の他端に軸支され、上記第1リンク部材72は、上記第2リンク部材73の他端を支点に揺動可能となっている。
【0068】
そして、図示しない制御部の指令により、シリンダ本体71aに対してロッド71bが縮むと、第2リンク部材73の他端を支点に第1リンク部材72が揺動して上記一対の掛止フレーム60が互いに離間する一方、上記シリンダ本体71aに対してロッド71bが伸びると、第2リンク部材73の他端を支点に第1リンク部材72が揺動して上記一対の掛止フレーム60が互いに接近するようになっている。
【0069】
また、上記鋼板10の上方に保温カバー6を対応させた状態で、上記作動機構7の作動により上記一対の掛止フレーム60を互いに接近させると、上記一対の掛止フレーム60が上記保温空間Sに側方から進出し、上記鋼板10を外周縁に下方から上記板状フレーム部60aが面接触することにより上記鋼板10を掛止して成形工程3に搬送すべく保持するようになっていて、上記一対の掛止フレーム60が鋼板10を保持した状態で、上記保温空間Sの開口を上記鋼板10で覆っている。
【0070】
一方、上記一対の掛止フレーム60が上記鋼板10を保持した状態で、上記作動機構7の作動により上記一対の掛止フレーム60を互いに離間させると、当該掛止フレーム60が上記保温空間Sから側方に後退し、成形工程3に搬送された鋼板10を移載するようになっている。
【0071】
尚、実施形態3の搬送装置1による鋼板10の搬送は、掛止フレーム60が保温カバー6と関係なく作動する点と、板状フレーム部60aが鋼板10に面接触して掛止する点とを除いて実施形態1の搬送装置1による鋼板10の搬送と同じであるので、以下、詳細な説明は省略する。
【0072】
以上より、本発明の実施形態3によれば、搬送装置1が鋼板10を保持する際に、上述の実施形態1とは異なり、側板6bが可動しない。したがって、側板6b(可動プレート61)の可動に起因して保温空間Sから大気中に熱が放散するといった事態が生じず、上記保温空間Sの温度が下がり難く、搬送時の鋼板10と保温空間Sとの間における熱交換をさらに抑えて上記鋼板10の温度低下を防ぐことができる。
【0073】
尚、本発明の実施形態1、2では、天板6aの長辺側で互いに対向する側板6b部分が可動プレート61で構成されているが、天板6aの短辺側で互いに対向する側板6b部分が可動プレートで構成されるようにしてもよく、側板6bの少なくとも一部が可動プレートで構成されるようにすればよい。
【0074】
また、本発明の実施形態3では、側板6bの長辺側に掛止フレーム60を設けているが、これに限らず、側板6bの短辺側に設けてもよいし、側板6bの長辺側及び短辺側の両方に設けてもよい。
【0075】
また、本発明の実施形態1、2では、合計8つの水平突出部62aで鋼板10を支持しているがこれに限らず、例えば、掛止手段が可動プレート61下端縁に沿って延びる板状をなし、当該部分で鋼板10を支持するようにしてもよい。
【0076】
また、本発明の実施形態1、2では、水平突出部62aに取り付けたボルト66又はピン69の頭部65、67を鋼板10に点接触させているが、水平突出部62a上面に先端尖鋭の突起を一体に形成し、当該部分を鋼板10に点接触させるようにしてもよい。
【0077】
また、本発明の実施形態3では、板状フレーム部60aが板状をなしていて、鋼板10に面接触するようになっているが、実施形態1、2の如くボルト66やピン69を設けて鋼板10に点接触する構造としてもよい。
【0078】
また、本発明の実施形態1、2では、ボルト66の材質をセラミック材とし、ピン69の材質を軽量コンクリート材としているが、熱伝導が小さい材質であれば、それぞれその他の材質で形成してもかまわない。
【0079】
また、本発明の実施形態1、2では、天板6a及び側板6bをセラミック材で形成しているが、鋼材やアルミ材等で形成した基板内側にセラミック材を貼り付けて形成するようにしてもよく、上記天板6a及び側板6bの少なくとも内面がセラミック材であればよい。
【0080】
尚、本発明の実施形態1〜3では、加熱工程2から成形工程3への加熱状態の鋼板10の搬送に搬送装置1を適用した場合について説明したが、プレス成形を行う成形工程とプレス成形品を冷却して焼き入れを行う冷却工程とが分かれているホットプレスの生産ライン9において、成形工程から冷却工程への加熱状態のプレス成形品の搬送に上記搬送装置1を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、ホットプレスを行う生産ラインの各工程間において加熱状態のパネル状被搬送物を搬送するホットプレス用搬送装置に適している。
【符号の説明】
【0082】
1 搬送装置
6 保温カバー
6a 天板
6b 側板
7 作動機構(作動手段)
8b 発熱線(加温手段)
9 生産ライン
10 鋼板(被搬送物)
60 掛止フレーム(掛止手段)
61 可動プレート
62 掛止杆(掛止手段)
63 貫通孔
63a 雌螺子部
64 軸部
64a 雄螺子部
65 頭部
67 軸部
68 頭部
S 保温空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットプレスを行う生産ラインの各工程間で加熱状態のパネル状被搬送物を保持して搬送するホットプレス用搬送装置であって、
上記被搬送物の上面側全域を覆う天板、及び該天板の外周縁から下方に突出し当該天板とで下方に開口する保温空間を内側に形成する側板からなる保温カバーと、
上記保温空間の互いに対向する開口周辺に接近・離間可能に設けられ、互いの接近動作により上記保温空間に側方から進出し、上記被搬送物の外周縁に下方から掛止して当該被搬送物を次工程に搬送すべく保持する一方、互いの離間動作により上記保温空間から側方に後退し、次工程に搬送された被搬送物を移載する掛止手段とを備え、
上記掛止手段が被搬送物を保持した状態で、上記保温空間の開口を上記被搬送物で覆っていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホットプレス用搬送装置において、
上記側板の少なくとも一部で構成され、互いに対向して接近・離間する一対の可動プレートと、
これら可動プレートを互いに接近・離間させる作動手段とを備え、
上記掛止手段は、上記可動プレートの下端縁に設けられ、上記可動プレートの上記作動手段による接近・離間動作で上記保温空間に対して進退するようになっていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項3】
請求項1に記載のホットプレス用搬送装置において、
上記掛止手段を互いに接近・離間させる作動手段を備え、
上記掛止手段は、上記保温カバーと別体で設けられ、上記作動手段の作動による接近・離間動作で上記保温空間に対して進退するようになっていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項4】
請求項2に記載のホットプレス用搬送装置において、
上記掛止手段は、上記可動プレートの下端縁に所定の間隔をあけて内方に突設された複数の掛止杆からなり、
該各掛止杆上面には、上記被搬送物の外周縁に下方から点接触する点接触部が設けられていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項5】
請求項4に記載のホットプレス用搬送装置において、
上記点接触部は、軸部と、該軸部の一端に連続して繋がる頭部とを備え、
上記各掛止杆部には、上記軸部が取り外し可能に嵌挿される貫通孔が形成され、
上記軸部を上記貫通孔に嵌挿した状態で、上記頭部が上記各掛止杆部上面に膨出していることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項6】
請求項5に記載のホットプレス用搬送装置において、
上記点接触部は、セラミック材で形成されていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項7】
請求項5に記載のホットプレス用搬送装置において、
上記点接触部は、軽量コンクリート材で形成されていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載のホットプレス用搬送装置において、
上記天板及び側板の少なくとも内面は、セラミック材からなることを特徴とするホットプレス用搬送装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載のホットプレス用搬送装置において、
上記天板下面には、上記被搬送物を加温する加温手段が設けられていることを特徴とするホットプレス用搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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