説明

ホログラム媒体及び転写箔

【課題】布のように伸縮のある繊維性の基材上でも破壊されることのない転写箔及びこれを用いたホログラム媒体を提供すること。
【解決手段】単一の繊維からなるか又は繊維が撚り合わされてなる糸が周期的に配置されて構成された基材上に、ホログラム層を設けたホログラム媒体であって、前記ホログラム層は、回折構造体と、該回折構造体上に形成された金属反射層とを備え、前記糸の伸びる方向に平行となるように周期的に配置され、少なくとも縦糸と横糸の一方に平行な方向において糸の周期ピッチと金属反射層の周期ピッチが一致していることを特徴とするホログラム媒体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服等の繊維性素材にホログラムを貼り付けるための転写箔及びホログラム媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
エンボスホログラムの基本構造は、図9に示されているように、樹脂等からなる回折構造体1に金属反射層2を設けたものであり、回折構造体1側から回折された反射光を視認することにより、変化に富んだ画像表現が可能である。このようなエンボスホログラムを例えば転写箔のような形態で物品に貼り付けて用いることで、意匠性、偽造防止性の高い商品にすることができる。
【0003】
ところで、衣料品のように、綿、麻等の天然繊維、ナイロン、セルロース等の化学繊維からなる布の表面にホログラムを設ける場合、当該の繊維の伸縮性が問題となっていた。
すなわち、プラスチック基材などの基材に設ける場合には、伸縮性が少ないために接着層を介して直接的に貼付してもホログラムは劣化しないが、布の表面に貼付すると、布の伸縮により、金属反射層が、そのストレスにより破壊され、ホログラムが白濁してしまう。特に図10に示すように、ホログラムを転写箔から、被転写媒体上に転写する際に、繊維の縦糸と横糸の重なりによって生じる凹凸によってホログラムに矢印で示したようなストレスが掛かり、金属反射層が断裂してしまうという問題が生じる。
【0004】
伸縮性のある素材に対応したホログラムとして、特許文献1は、布、合成皮革などの表面に、伸縮性の樹脂層を介してホログラムを設けることで、素材の変形を緩衝してホログラムの損傷を低減させている。しかしながら、伸縮性の樹脂層の緩衝は膜厚によっては一定程度の変形にしか対応できず、伸縮・変化が大きい場合には、やはり金属反射層が破壊されてしまうため十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−34342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本願発明の課題は、布のように伸縮のある繊維性の基材上でも破壊されることのない転写箔及びこれを用いたホログラム媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために為された本願請求項1に係る発明は、単一の繊維からなるか又は繊維が撚り合わされてなる糸が周期的に配置されて構成された基材上に、ホログラム層を設けたホログラム媒体であって、前記ホログラム層は、回折構造体と、該回折構造体上に形成された金属反射層とを備え、前記糸の伸びる方向に平行となるように周期的に配置され、少なくとも縦糸と横糸の一方に平行な方向において糸の周期ピッチと金属反射層のパターンのピッチが一致していることを特徴とするホログラム媒体である。
また本願請求項2に係る発明は、前記金属反射層の各パターンの幅は、糸の1周期の凹凸の凹部又は凸部の幅に一致するか、当該幅以下であることを特徴とする請求項1に記載のホログラム媒体である。
また本願請求項3に係る発明は、前記基材は縦糸と該縦糸に直交する横糸によって構成され、前記縦糸及び横糸のそれぞれのピッチと略同一のピッチで前記金属反射層が周期的に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のホログラム媒体である。
また本願請求項4に係る発明は、前記金属反射層パターンの間に、高屈折率層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のホログラム媒体である。
また本願請求項5に係る発明は、請求項1乃至4に記載のホログラム媒体に用いる転写箔であって、ホログラム層と、基材に貼着するための接着層を備えた転写箔である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ホログラム層の回折光を反射させる金属反射層が、布基材を構成する糸の周期に一致するパターンで構成されているので、布基材の変形によっても金属反射層が破断せず、ホログラムの損傷を低減させたホログラム媒体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る基材の例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るホログラム層の構成例を示す断面模式図である。
【図3】本発明に係るホログラム媒体の例を示す模式図である。
【図4】本発明に係るホログラム媒体の例を示す模式図である。
【図5】本発明に係る基材の例を示す模式図である。
【図6】本発明に係るホログラム媒体の例を示す模式図である。
【図7】本発明の転写箔の構成例を示す断面模式図である。
【図8】本発明の転写箔の別の構成例を示す断面模式図である。
【図9】従来のホログラムの構成例を示す断面模式図である。
【図10】従来のホログラムの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(A)、(B)は、本発明のホログラム媒体の基材を構成する基材の例を示す模式図である。周期的に配置された繊維からなる基材を用いることができる。以下、これを布基材と称する。一般的に布基材は、平織、綾織、朱子織等の織物である。繊維は、羊毛、蚕糸等の動物繊維、木綿、麻等の植物繊維、ポリアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレン系、ポリエステル系、セルロース等の合成・化学繊維が挙げられる。
【0011】
図1(A)は縦糸と横糸が交互に交差させた平織りの例である。各糸は一本の繊維からなっていても良いし、繊維を紡いだ集合体であっても良い。図1(B)は、図1(A)の縦糸に平行な線での部分的な断面模式図である。このように、縦糸と、横糸の交差によって、凹凸が生じる。
【0012】
図2は、本発明のホログラム媒体に用いるホログラムの構成例を示す断面模式図である。ホログラム層200は、視認する側から、入射した光を回折させる回折構造層201、入射した光を反射する金属反射層202と、基材に貼着するための接着層204を備える。さらに、金属反射層パターン同士の間に回折構造層よりも屈折率の大きい高屈折率層203を設けることができる。金属反射層のパターンが形成されていない領域においても入射光を反射させてホログラムの輝度を向上させることができる。
【0013】
図3(A)、(B)は、布基材上に前述のホログラム層を接着層を介して貼着した本発明のホログラム媒体の構成例を示す。図3(A)、(B)では、ホログラム層はいずれも金属反射層202のみ図示している。図3に示した構成では、布基材の縦糸と横糸の交差を基準としたピッチ(縦糸方向d1、横糸方向d2)と一致するように金属反射層パターンを形成している。図3(A)では縦糸のライン上で横糸が上で交差する領域に金属反射層が来るように配置されている。すなわち、縦糸方向のピッチd1と金属反射層の縦糸に平行な方向のピッチを略同一とし、また横糸に平行な方向では、横糸のピッチd2と略同一となるように金属反射層が形成されている。図3の構成例では(B)に示すように、縦糸のラインで横糸上に金属反射層が配置されるようにピッチd1を縦糸と横糸の交差点を基準とする周期でとっているが、図4のように、糸の配置の間隔(d3、d4)を金属反射層のピッチに一致させても良い。なお金属反射層のピッチは布基材の寸法変化を考慮し、寸法変化率を超えない範囲で調整しても良い。
【0014】
図3(b)では、金属反射層202の一片が凹部(横糸が縦糸の上で交差している領域)の幅b1と等しいか、それ以下の幅で形成されている。特に平織りのように凸部(横糸が縦糸の下で交差している領域)の幅a1と等しい場合には、図10で示したように複数の凹部あるいは凸部に跨って金属反射層が形成されることがないため、糸の方向と金属反射層のパターンのピッチ方向を一致させれば、正確な位置合わせは要求されない。
【0015】
また図5は、綾織りの場合の布基材の模式図である。綾織りように、縦糸と横糸の露出比が異なる場合、図6(A)のように、縦糸の幅a2又は横糸の幅b2に対応した金属反射層202パターンを形成しても良いし、(B)のように小さい幅(図ではb2)に合わせて金属反射層のパターンを形成しても良い。
【0016】
次に、本発明の転写箔及びホログラム媒体の各構成並びにこれらの製造方法を、図7を参照しつつ説明する。
【0017】
まず、支持体301上に回折構造層201を形成する。また、転写時に支持体からホログラム層200を剥離するための剥離性保護層302を支持体層と回折構造層の間に設けることができる。
【0018】
支持体301には樹脂フィルムやシートが使用され、その樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、耐熱ポリ塩化ビニル樹脂等でなるフィルムやシート等が挙げられる。
【0019】
これらの樹脂の中で、耐熱性が高く厚みが安定していることから、ポリエチレンテレフタレート樹脂のシートやフィルムが多く使われ、10〜50μm程度の厚みが好ましい。また、これら樹脂シートやフィルムには、帯電防止処理、マット加工、エンボス処理、文字や絵柄の印刷、レーザーマーキング等の加工を施したフィルムも使用することができる。
【0020】
剥離性保護層302は、ホログラム層200を被転写体である布基材に転写し、支持体から剥離するものである。剥離性保護層としてのインキの主たる材料の例としては、アクリル系の樹脂が挙げられる。そのほか、塩化ゴム系樹脂及びニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、ポリスチレン、塩化ビニル、塩酢ビ系樹脂等が使用できる。さらには、メラミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の使用も可能であり、シリコーン樹脂、パラフインワツクス、反応型フッ素樹脂等の使用も可能である。その厚さとしては0.5〜5.0μmが好ましい。これらは剥離性保護層2として、支持体1上にグラビア印刷法やマイクログラビア法等、公知の塗布方法によって形成される。
【0021】
回折構造層201の材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂等が使用できる。例えば、熱可塑性樹脂では、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられる。また、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加して架橋させたウレタン樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等が使用できる。また、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂としては、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等が使用でき、その厚さとしては0.5〜5.0μmが好ましい。
【0022】
支持体層301上に回折構造層201を形成した後、回折構造層に回折構造を形成する。回折構造を回折構造層にエンボス成形するには、回折構造のマスター版を回折構造層に重ね合わせ、90〜150℃の条件にて加熱、加圧した後、冷却を行う。
【0023】
次に、回折構造層201の回折構造を形成した面に金属反射層202を形成する。金属反射層にはアルミニウム、金、銀、銅及びこれらの金属を含む合金を使用することができる。金属反射層のパターンは、全面に形成した後、不要部をエッチングして形成しても良いし、マスクを介して金属層を形成することで金属層の積層とパターン化を同時に行っても良い。
【0024】
次に金属反射層202上と、金属反射層間を含む回折構造201上に、高屈折率層203を形成する。高屈折率層の材料としては、酸化スズ、酸化チタン、酸化インジウムあるいは硫化亜鉛等を使用することができる。厚みとしては10〜100nmが好ましい。
【0025】
また、金属反射層間のスペースが小さい等の理由で高屈折率層が不要の場合には、ホログラム層の柔軟性を高めるための樹脂層を金属反射層間に形成しても良い。あるいは同様の目的で高屈折率上に樹脂層を設けても良い。樹脂層としては、回折構造層と同様の材料を用いることができる。
【0026】
また、金属反射層202上に、金属反射層の破断を防ぐ補強層401を設けても良い。補強層としては、金属反射層と密着性が良い材料で、金属反射層と同程度か、それ以上の剛性を有する材料が好ましい。例えば、クロムめっき等の金属めっきや、酸化アルミニウム等の金属酸化膜が挙げられる。補強層は、図8に示すように、金属反射層と同じパターンに形成することが好ましい。
【0027】
布基材にホログラム層を貼着するための接着層204には、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ゴム系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル酢酸共重合樹脂等の熱可塑性樹脂が使用できる。膜厚は1〜20μmが好ましい。
【0028】
最後に被転写媒体である布基材を接着層204に加熱圧着して貼り付けると共に、支持体301及び剥離性保護層302を分離することで、ホログラム媒体を作製することができる。
【実施例】
【0029】
<布基材の準備>
まずホログラム付き転写箔を転写する、繊維が周期的に配置された布基材を用意した。繊維はポリエステルサテンからなり、JIS L1096による布基材の寸法変化率は縦横いずれも1%である。布基材を光学?顕微鏡で観察し、縦糸と横糸のそれぞれの方向について、周期パターンの周期と凹凸の幅を測定した。測定結果は以下のようになった。
縦方向:0.7mmの縦糸露出部分(凸部)と0.5mmの横糸露出部分(凹部)の繰り返し(縦方向周期 1.2mm)
横方向:0.1mmの縦糸露出部分(凸部)と0.1mmの横糸露出部分(凹部)の繰り返し(縦方向周期 0.2mm)
【0030】
<実施例1>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる透明な支持体の片面に、剥離性保護層を下記の配合比からなる組成物をグラビア印刷法により、塗布膜厚1.0μm、乾燥温度110℃で塗布することで形成した。
(剥離性保護層組成物)
アクリル樹脂 20部
エタノール 40部
水 20部
【0031】
次に回折構造層として、下記の配合比からなる組成物をグラビア印刷法により塗布膜厚1μm、乾燥温度110℃で塗布し、その後、ロールエンボス法により回折構造を形成した。
(回折構造層組成物)
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とウレタン樹脂との混合物 25部
メチルエチルケトン 70部
トルエン 30部
【0032】
次に金属反射層として、膜厚80nmのアルミニウム薄膜を真空蒸着法により回折構造層上に形成した。その後、蒸着したアルミニウム層をレジストパターンでマスクし、不溶部をエッチングすることにより、以下のような金属反射層のパターンを形成した。
縦方向:0.7mmの金属反射層と0.5mmの除去部分(縦方向周期 1.2mm)
横方向:0.1mmの金属反射層と0.1mmの除去部分(横方向周期 0.2mm)
【0033】
次に高屈折率層として、金属反射層を形成した回折構造層面上に、膜厚80nmのZnS薄膜を真空蒸着法により形成した。
【0034】
次に接着層として、下記の配合比からなる組成物をグラビア印刷法によって、塗布膜厚4.0μmで塗布し、乾燥温度110℃で乾燥させて形成した。
(接着層組成物)
ポリエステル樹脂 30部
トルエン 50部
メチルエチルケトン 50部
以上の工程で、ホログラム層付き転写箔を作成した。
【0035】
最後に上記ホログラム層付き転写箔を、布基材の方向と、金属反射層のパターンの方向が一致するようにして布基材に転写し、ホログラム媒体とした。
【0036】
(比較例1)
上記工程のうち、金属反射層のパターニングを行わなかったこと以外は同様の工程で、ホログラム媒体を作成した。
【0037】
(比較結果)
実施例1、比較例1のホログラム媒体を、それぞれ光学?顕微鏡で観察した。比較例1のホログラム媒体では、金属反射層の破断が数mmごとに見られたのに対し、実施例1のホログラム媒体では金属反射層の破断はほとんど確認されなかった。また、ホログラムの視認性も、比較例1ではホログラム層が白濁していたのに対し、実施例1ではホログラム層の絵柄が鮮明に視認できた。
【符号の説明】
【0038】
1・・・回折構造層
2・・・金属反射層
3・・・被転写媒体(布)
101・・布基材
201・・回折構造層
202・・金属反射層
203・・高屈折率層
204・・接着層
301・・支持体
302・・剥離性保護層
401・・補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の繊維からなるか又は繊維が撚り合わされてなる糸が周期的に配置されて構成された基材上に、ホログラム層を設けたホログラム媒体であって、
前記ホログラム層は、回折構造体と、該回折構造体上に形成された金属反射層とを備え、前記糸の伸びる方向に平行となるように周期的に配置され、少なくとも縦糸と横糸の一方に平行な方向において糸の周期ピッチと金属反射層のパターンのピッチが一致していることを特徴とするホログラム媒体。
【請求項2】
前記金属反射層の各パターンの幅は、糸の1周期の凹凸の凹部又は凸部の幅に一致するか、当該幅以下であることを特徴とする請求項1に記載のホログラム媒体。
【請求項3】
前記基材は縦糸と該縦糸に直交する横糸によって構成され、前記縦糸及び横糸のそれぞれのピッチと略同一のピッチで前記金属反射層が周期的に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のホログラム媒体。
【請求項4】
前記金属反射層パターンの間に、高屈折率層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のホログラム媒体。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のホログラム媒体に用いる転写箔であって、ホログラム層と、基材に貼着するための接着層を備えた転写箔。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−123160(P2012−123160A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273366(P2010−273366)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】