説明

ボア計測装置

【課題】船舶用大型ディーゼルエンジンのシリンダ内径計測のような大掛かりな計測であっても簡単かつ正確に内径を計測することができ、潤滑油を必要適切な量に設定できるようにしてコストを低減できるようにしたボア計測装置を提供する。
【解決手段】測定状態においてシリンダSの中心線に沿って配設される基体20と、基体20からシリンダSの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム35を有する位置保持部30と、基体20から放射状に延ばされる計測アーム45の先に変位センサ50を有する計測部40とを有し、ディーゼルエンジンEのシリンダS内への挿入時には保持アーム35および計測アーム45を縮長してボアBより小径の挿入口HよりシリンダS内に全体を挿入可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンのシリンダ内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るボア計測装置は、主に船舶用大型ディーゼルエンジンのシリンダ内径計測を目的として開発されたものである。国内外で行われているシリンダ内径の計測方法は、人がシリンダ内に入り、ボアーゲージと呼ばれる棒状のマイクロメーターにて測定するものが一般的である。計測作業はシリンダが冷えない内に行われるのが望まれ、シリンダには潤滑油が内壁に付着しており、精度が要求される測定環境としてはかなり劣悪であり、このため、人によって測定結果が異なったり、説明のつかない結果が出たり、その信頼度に問題をかかえていた。
【0003】
ボア計測に関する従来の技術としては、例えば特許文献1に示すようなものがある。すなわち、同特許文献には、プローブユニットをプラグ孔からシリンダ内に挿入し、片側のみに張り出し自在のプローブ片を、シリンダの内壁面に接触するまで拡げて径寸法を測定した後、ゲージユニット上において再現して目的のシリンダボアを計測する手法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−194506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の技術では、小さなプラグ孔からシリンダ内部の径を計測可能とするものではあるが、再現という工程を必要とし、計測が煩雑でありシリンダのボアの内径を直接に計測することができず、かつ、大型化しにくいという問題点があった。
【0006】
また、大型ディーゼルエンジンの場合、シリンダ内壁とピストンリングとの接触面には常にシリンダオイルと呼ばれる潤滑油が注油されており、循環型の潤滑油ではなく、消費されるものであり運航コストのかなりを占めている。
【0007】
したがって、これを節約してコストを減らしたいが、注油量を減らしすぎれば当然のこととしてシリンダ内壁の磨耗を早めることになる。このため、どの運航会社も多少なりとも多めに注油しているのが現状であり、適切な注油量にしてコスト削減することが望まれている。
【0008】
本発明は、このような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので、船舶用大型ディーゼルエンジンのシリンダ内径計測のような大掛かりな計測であっても簡単かつ正確に内径を計測することができ、潤滑油を必要適切な量に設定できるようにしてコストを低減できるようにしたボア計測装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1] ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置(10)であって、
測定状態においてシリンダ(S)の中心線に沿って配設される基体(20)と、該基体(20)からシリンダ(S)の内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム(35,35…)を有する位置保持部(30,30)と、該基体(20)から放射状に延ばされる計測アーム(45,45)の先に変位センサ(50)を有する計測部(40)とを有し、
ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長して前記ボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に全体を挿入可能としたことを特徴とするボア計測装置(10)。
【0010】
[2] ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置(10)であって、
測定状態においてシリンダ(S)の中心線に沿って配設される基体(20)と、該基体(20)からシリンダ(S)の内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム(35,35…)を有する位置保持部(30,30)と、該基体(20)から放射状に延ばされる計測アーム(45,45)の先に変位センサ(50)を有する計測部(40)とを有し、
前記位置保持部(30,30)は、前記基体(20)に固設された保持基部(31)に前記保持アーム(35,35…)が延設され、該保持アーム(35,35…)は蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部(40)は、前記基体(20)に固設された計測基部(41)に前記計測アーム(45,45)が延設され、該計測アーム(45,45)は計測状態において、シリンダ(S)の内壁面に前記変位センサ(50)が当接するよう設けられ、
ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長して前記ボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を延伸して計測可能とすることを特徴とするボア計測装置(10)。
【0011】
[3] ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置(10)であって、
測定状態においてシリンダ(S)の中心線に沿って配設される基体(20)と、該基体(20)からシリンダ(S)の内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム(35,35…)を有する位置保持部(30,30)と、該基体(20)から放射状に延ばされる計測アーム(45,45)の先に変位センサ(50)を有する計測部(40)とを有し、
前記位置保持部(30,30)は前記基体(20)の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、前記基体(20)に固設された保持基部(31)に前記保持アーム(35,35…)が延設され、該保持アーム(35,35…)は蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部(40)は前記基体(20)の上端部と下端部とに設けられた両前記位置保持部(30,30)の間に配設され、前記基体(20)に固設された計測基部(41)に前記計測アーム(45,45)が延設され、該計測アーム(45,45)は計測状態において、シリンダ(S)の内壁面に前記変位センサ(50)が当接するよう設けられ、
ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長して前記ボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を延伸して計測可能とすることを特徴とするボア計測装置(10)。
【0012】
[4] ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置(10)であって、
測定状態においてシリンダ(S)の中心線に沿って配設される基体(20)と、該基体(20)からシリンダ(S)の内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム(35,35…)を有する位置保持部(30,30)と、該基体(20)から放射状に延ばされる計測アーム(45,45)の先に変位センサ(50)を有する計測部(40)とを有し、
前記位置保持部(30,30)は前記基体(20)の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、前記基体(20)に固設された保持基部(31)に前記保持アーム(35,35…)が延設され、該保持アーム(35,35…)は次第に細くなる相互に挿嵌した中間筒(35a,35b)により空気圧で蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部(40)は前記基体(20)の上端部と下端部とに設けられた両前記位置保持部(30,30)の間に配設され、前記基体(20)に固設された計測基部(41)に前記計測アーム(45,45)が延設され、該計測アーム(45,45)は該計測基部(41)に起倒可能に支持され、計測状態において起立してシリンダ(S)の内壁面に前記変位センサ(50)が当接するよう設けられ、
ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長して前記ボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を延伸して計測可能とすることを特徴とするボア計測装置(10)。
【0013】
[5] ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置(10)であって、
測定状態においてシリンダ(S)の中心線に沿って配設される基体(20)と、該基体(20)からシリンダ(S)の内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム(35,35…)を有する位置保持部(30,30)と、該基体(20)から放射状に延ばされる計測アーム(45,45)の先に変位センサ(50)を有する計測部(40)とを有し、
前記位置保持部(30,30)は前記基体(20)の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、前記基体(20)に固設された保持基部(31)に前記保持アーム(35,35…)が延設され、該保持アーム(35,35…)は次第に細くなる相互に挿嵌した中間筒(35a,35b)により空気圧で蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部(40)は前記基体(20)の上端部と下端部とに設けられた両前記位置保持部(30,30)の間に配設され、前記基体(20)に固設された計測基部(41)に前記計測アーム(45,45)が延設され、該計測アーム(45,45)は該計測基部(41)に起倒可能に支持され、計測状態において起立してシリンダ(S)の内壁面に前記変位センサ(50)が当接するよう設けられ、
前記基体(20)の上端部と下端部とに設けられた上下の両前記位置保持部(30,30)の間に前記計測部(40)に螺合するねじ軸(46)を架設し、該ねじ軸(46)を回転駆動することにより前記計測部(40)を移動可能にし、
ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長して前記ボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を延伸して計測するとともに、前記計測部(40)を移動した位置で計測可能とすることを特徴とするボア計測装置(10)。
【0014】
[6] 前記計測部(40)において、前記計測基部(41)と前記計測アーム(45,45)との間に該計測アーム(45,45)を起倒させる空気圧シリンダ(43)が架装され、計測状態において該空気圧シリンダ(43)により該計測アーム(45,45)が起立してシリンダ(S)の内壁面に前記変位センサ(50)が当接するよう設けられていることを特徴とする[4]又は[5]に記載のボア計測装置(10)。
【0015】
[7] 前記位置保持部(30,30)の保持アーム(35,35…)の先端には、緩衝ばね(36)を介して接触子(37)を設けてあることを特徴とする[1]〜[4]又は[5]に記載のボア計測装置(10)。
【0016】
前記本発明は次のように作用する。
本発明に係るボア計測装置(10)はディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内に挿入して要所の内径を測定するためのものであって、比較的大型の船舶用ディーゼルエンジン(E)に適したものであり、計測時にシリンダ(S)内部に挿入して計測作業がなされる。
【0017】
ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長して小さくし、シリンダ(S)のボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に縮長して折り畳まれた状態のボア計測装置(10)をシリンダ(S)上部の穴より挿入する。実際にはウインチ等で吊り下げる。
【0018】
通常、容易に取り外すことが可能な排気弁ブロック(K)を外した後のシリンダ(S)より小径の挿入口(H)を利用する。これにより、大変な作業であるところのシリンダカバ(C)全体を外したり復旧を要することなく簡便に計測作業を進めることができる。
【0019】
したがって、シリンダカバ(C)を取り外すこと無く排気弁ブロック(K)の穴より測定ユニットを挿入でき、測定ユニットを収縮状態にて挿入した後、空気圧により必要部分を展開させ計測可態な状態にすることが可能である。
【0020】
つまり、ディーゼルエンジン(E)のシリンダ(S)内への挿入時には保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を縮長してボア(B)より小径の挿入口(H)よりシリンダ(S)内に全体を挿入可能であり、挿入後には保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)を延伸して計測可能となる。
【0021】
測定状態においては、位置保持部(30,30)の保持アーム(35,35…)が基体(20)からシリンダ(S)の内壁面に先端部が当接するよう放射状に伸ばされ、基体(20)がシリンダ(S)のほぼ中央部で中心線に沿う姿勢になってボア計測装置(10)の位置が定まる。
【0022】
保持アーム(35,35…)が次第に細くなる相互に挿嵌した中間筒(35a,35b)により構成されている場合、空気圧で蛇腹状に伸縮可能であり、計測時には空気圧を注入して伸張させる。
【0023】
位置保持部(30,30)が基体(20)の上端部と下端部とにそれぞれ設けられているものでは、上下で基体(20)に固設された保持基部(31)から保持アーム(35,35…)が蛇腹状に伸びてシリンダ(S)の内壁面に先端部が当接し、安定した姿勢が保たれる。
【0024】
計測部(40)は基体(20)に固設された計測基部(41)から計測アーム(45,45)が延びて計測状態になり、シリンダ(S)の内壁面に変位センサ(50)が当接してシリンダ(S)の内径であるボア(B)が計測される。
【0025】
なお、基体(20)がシリンダ(S)中心から多少ずれたとしても、センサデータを加算して計測データとして使用すれば、測定誤差を最小限に抑えることができる。実施例では基体(20)の傾きは構造的に0.3度以上にはならないことが確認されており、この場合の測定誤差は最悪でも10ミクロン以内である。
【0026】
基体(20)の上端部と下端部とに設けられた上下の両前記位置保持部(30,30)の間に前記計測部(40)に螺合するねじ軸(46)を架設してあると、ねじ軸(46)を回転駆動することにより前記計測部(40)を移動させることが可能であり、移動範囲内で位置を変えて計測することができる。
【0027】
また、計測部(40)において、計測基部(41)と前記計測アーム(45,45)との間に該計測アーム(45,45)を起倒させる空気圧シリンダ(43)が架装されているものでは、計測状態において空気圧シリンダ(43)により、計測アーム(45,45)が起立してシリンダ(S)の内壁面に変位センサ(50)が当接する。
【0028】
また、位置保持部(30,30)の保持アーム(35,35…)の先端に緩衝ばね(36)を介して接触子(37)を設けてあるものでは、緩衝ばね(36)により確実に保持アーム(35,35…)の先端がシリンダ(S)の内壁面に当接する。
【0029】
ねじ軸(46)を回転駆動させることによる変位センサ(50)の移動はモニターによりコントロールでき、位置(深さ)は同じくマウントに装備されたメジャーにて知ることができる。モニターはセンサデータからシリンダ(S)内径を計算し、リアルタイムで液晶ディスプレイに表示する。
【0030】
当該シリンダ(S)番号、位置(深さ)及びセンサヘッド方向(角度)をキーボードにより入力し、確定キーを押すことで一回の計測となる。一つのシリンダ(S)で計80回程度の計測をする。また、モニターをパソコンに接続することで計測データすべてを転送し保存することができ、これまでに比べより精緻なデータ管理を行うことも可能である。
【0031】
計測が終了すると、空気圧が抜かれ逆に吸入することにより保持アーム(35,35…)および計測アーム(45,45)が縮長し、あるいは折りたたまれて小さくなり、小さくなったボア計測装置(10)を吊り上げれば容易にシリンダ(S)内から外へ搬出することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るボア計測装置によれば、大掛かりな分解作業を要することなく、エンジンのシリンダの内径を計測することができ、計測操作も容易で工数がかからず、また、位置決めもしやすいので、精度の良い計測結果を得ることができる。
【0033】
そして、シリンダ内径が高精度に計測され、その経時変化を正確に把握することができればシリンダオイルの最適注油量は確定可能で余分な注油を不要にしてコスト低減を図ることができる。例えば、5万馬力のエンジンで一日あたり約20万円にもなるシリンダオイルのコストを相当に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面に基づき本発明の好適な一の実施の形態を説明する。
【0035】
各図は本発明の一の実施の形態を示している。
計測対象とするのは図8に示すようなディーゼルエンジンEである。ディーゼルエンジンEは、シリンダライナL中にピストンPが移動するシリンダSが形成され、上部にシリンダカバCが設けられ、その上に排気のためのバルブVを支持する排気弁ブロックKが固設されている。
【0036】
ボア計測装置10は、ディーゼルエンジンEのシリンダS内に挿入して要所の内径であるボアBを測定するためのものであって、図7に示すように排気弁ブロックKを外すと、ボアBより小径の挿入口Hが開口し、説明図である図7において、ボアBの上部に示すように、畳まれた状態のボア計測装置10をシリンダS上部の挿入口Hより挿入してボアBを計測するものである。
【0037】
前記のように、挿入口Hの上には排気弁ブロックKが取り付けられているが、容易に取り外すことが可能である。シリンダカバC全体を外すことは極めて大変な作業となり、また復旧することも容易ではないが、これを取り外すこと無く排気弁ブロックKを外した後の挿入口Hより、吊下げリングRにウインチWのフックFを引掛けて吊下げ、下方に移動しながらボア計測装置10を挿入でき、ボア計測装置10を収縮状態にて挿入した後、図7において、ボアBの下部に示すように、空気圧により必要部分を展開させ計測可態な状態にすることが可能である。
【0038】
図1〜図3に示すように、ボア計測装置10は、測定状態においてシリンダSの中心線に沿って配設される基体20と、基体20からシリンダSの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アーム35,35…を有する上下の位置保持部30,30と、基体20から放射状に延ばされる計測アーム45,45の先に変位センサ50を有する計測部40を具備して成る。
【0039】
位置保持部30,30は基体20の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、基体20に固設された保持基部31に保持アーム35,35…が延設されている。保持アーム35は次第に細くなる相互に挿嵌した中間筒35a,35bにより空気圧で蛇腹状に伸長可能で、図示省略したばねにより空気圧を抜くと縮長するようになっている。
【0040】
位置保持部30,30の保持アーム35,35…の先端には、緩衝ばね36を介して接触子37を設けてあり、接触子37には接触ローラ37aが空転可能に装着されている。
【0041】
計測部40は基体20の上端部と下端部とに設けられた両位置保持部30,30の間に配設され、基体20に固設された計測基部41に計測アーム45,45が延設され、計測アーム45,45は計測基部41に支持軸42により起倒可能に支持され、計測状態において起立してシリンダSの内壁面に変位センサ50が当接するよう設けられている。
【0042】
計測基部41と計測アーム45との間に計測アーム45を起倒させる空気圧シリンダ43が架装され、計測状態において空気圧シリンダ43に空気圧をかけると計測アーム45が起立してシリンダSの内壁面に変位センサ50が当接するよう設けられている。また、空気圧を抜くと、図示省略したばねにより計測アーム45が倒れるようになっている。
【0043】
変位センサ50は、センサ本体51の先に付勢ばね52を介して測定子53が設けられ、測定子53の先には接触ローラ54が設けられている。センサ本体51は例えば差動トランスである。
【0044】
基体20の上部には収納ボックス21が設けられ、空気圧導入口22、電源コネクタ23、センサ信号用コネクタ23a、センサ用電磁弁24が設けられている。空気圧導入口22は収納ボックス21の内部でセンサ用電磁弁24を介して空気接続管26により計測部40の空気圧シリンダ43に接続され、保持部用電磁弁25を介して基体20の内部を通して位置保持部30の保持アーム35の中間筒35a,35bに接続されている。
【0045】
基体20の上端部と下端部とに設けられた上下の両位置保持部30,30の間に計測部40の計測基部41に螺合するねじ軸46が架設され、ねじ軸46を回転駆動することにより計測部40を移動可能にしている。
【0046】
すなわち、ねじ軸46は、下部の位置保持部30の保持基部31に対しては空転可能に軸支され、計測部40の計測基部41にはナット部材47に螺合している。基体20の収納ボックス21内には電動モータ27が配設され、電動モータ27の出力は伝動ベルト27a,27aを介してねじ軸46の上端部に固設された歯車48,48に連結されている。
【0047】
前記構成により、ボア計測装置10は、ディーゼルエンジンEのシリンダS内への挿入時には保持アーム35,35…および計測アーム45,45を縮長してボアBより小径の挿入口HよりシリンダS内に全体を挿入し、挿入後に保持アーム35,35…および計測アーム45,45を延伸して計測するとともに、計測部40を移動した位置で計測可能となっている。
【0048】
次に作用を説明する。
本発明に係るボア計測装置10はディーゼルエンジンEのシリンダS内に挿入して要所の内径を測定するためのものであって、比較的大型の船舶用ディーゼルエンジンEに適したものであり、計測時にシリンダS内部に挿入して計測作業がなされる。
【0049】
ディーゼルエンジンEのシリンダS内への挿入時には空気圧導入口22からセンサ用電磁弁24,保持部用電磁弁25を介して減圧し、図6および図7の上部に示すように、位置保持部30の保持アーム35,35…および計測アーム45,45を縮長して小さくする。シリンダSのボアBより小径の挿入口HよりシリンダS内に縮長して折り畳まれた状態のボア計測装置10をシリンダS上部の穴より挿入する。
【0050】
吊下げリングRにウインチWのフックFを引掛けて吊下げ、下方に移動しながらボア計測装置10を挿入口Hに挿入する。ボア計測装置10を収縮状態にて挿入した後、図1および図2、図7のボアBの下部に示すように、空気圧により必要部分を展開させ計測可態な状態になる。
【0051】
このように、容易に取り外すことが可能な排気弁ブロックKを外した後のシリンダSより小径の挿入口Hを利用することにより、大変な作業であるところのシリンダカバC全体を外したり復旧を要することなく簡便に計測作業を進めることができる。
【0052】
より詳しくは、ディーゼルエンジンEのシリンダS内への挿入時には、センサ用電磁弁24から空気接続管26の空気圧を抜き、保持部用電磁弁25から位置保持部30の保持アーム35の内部への空気圧も抜く。これにより保持アーム35,35…および計測アーム45,45は縮長してボアBより小径の挿入口HよりシリンダS内に全体を挿入可能になる。挿入後にはセンサ用電磁弁24から空気接続管26に空気圧をかけ、保持部用電磁弁25から位置保持部30の保持アーム35の内部へも空気圧を導入することにより、保持アーム35,35…および計測アーム45,45が延伸して計測可能となる。
【0053】
測定状態においては、位置保持部30,30の保持アーム35,35…の蛇腹状の中間筒35a,35bが基体20からシリンダSの内壁面に先端部が当接するよう放射状に伸ばされ、基体20がシリンダSのほぼ中央部で中心線に沿う姿勢になってボア計測装置10の位置が定まる。
【0054】
位置保持部30,30が基体20の上端部と下端部とにそれぞれ設けられているので、上下で基体20に固設された保持基部31から保持アーム35,35…が蛇腹状に伸びてシリンダSの内壁面に先端部の接触子37,接触ローラ37aが当接し、緩衝ばね36が位置誤差等を緩衝して安定した姿勢が保たれる。
【0055】
計測部40は基体20に固設された計測基部41から計測アーム45,45が延び、変位センサ50の測定子53の接触ローラ54が付勢ばね52に付勢されながら計測状態になり、シリンダSの内壁面に当接してシリンダSの内径であるボアBが計測される。
【0056】
基体20の中心からのずれは問題にならない。基体20がシリンダS中心から多少ずれたとしても、センサデータを加算して計測データとして使用すれば、測定誤差を最小限に抑えることができる。実施例では基体20の傾きは構造的に0.3度以上にはならないことが確認されており、この場合の測定誤差は最悪でも10ミクロン以内である。
【0057】
基体20の上端部と下端部とに設けられた上下の両前記位置保持部30,30の間に前記計測部40に螺合するねじ軸46を架設してあり、ねじ軸46を回転駆動することにより計測部40を移動させることが可能であり、移動範囲内で位置を変えて計測することができる。
【0058】
ねじ軸46を回転駆動させることによる変位センサ50の移動はモニターによりコントロールでき、位置(深さ)は同じくマウントに装備されたメジャーにて知ることができる。モニターはセンサデータからシリンダS内径を計算し、リアルタイムで液晶ディスプレイに表示する。
【0059】
当該シリンダS番号、位置(深さ)及びセンサヘッド方向(角度)をキーボードにより入力し、確定キーを押すことで一回の計測となる。一つのシリンダSで計80回程度の計測をする。また、モニターをパソコンに接続することで計測データすべてを転送し保存することができ、これまでに比べより精緻なデータ管理を行うことも可能である。
【0060】
計測が終了すると、センサ用電磁弁24から空気接続管26の空気圧を減圧し、保持部用電磁弁25から位置保持部30の保持アーム35の内部への空気圧も減圧する。減圧されて空気圧がなくなると、図示省略したばねにより保持アーム35,35…および計測アーム45,45が縮長し、あるいは折りたたまれて小さくなり、小さくなったボア計測装置10を吊り上げれば容易にシリンダS内から外へ搬出することができる。
【0061】
なお、前記実施の形態においては計測アームを折りたたむようにしたものを示したが、直線的に伸縮して位置決めして計測状態になる構成にしても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置を示す計測状態の斜視図である。
【図3】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置の空気系を示す縦断面図である。
【図4】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置の計測部を示す平面図である。
【図5】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置の計測部を示す正面図である。
【図6】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置を示す縮長状態の斜視図である。
【図7】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置の計測操作を示す説明図である。
【図8】本発明の一の実施の形態に係るボア計測装置による計測対象であるディーゼルエンジンの一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0063】
B…ボア
C…シリンダカバ
E…ディーゼルエンジン
F…フック
H…挿入口
K…排気弁ブロック
L…シリンダライナ
P…ピストン
R…吊下げリング
S…シリンダ
V…バルブ
W…ウインチ
10…ボア計測装置
20…基体
21…収納ボックス
22…空気圧導入口
23…電源コネクタ
23a…センサ信号用コネクタ
24…センサ用電磁弁
25…保持部用電磁弁
26…空気接続管
27…電動モータ
27a…伝動ベルト
30…位置保持部
31…保持基部
35…保持アーム
35a,35b…中間筒
36…緩衝ばね
37…接触子
37a…接触ローラ
40…計測部
41…計測基部
42…支持軸
43…空気圧シリンダ
45…計測アーム
46…ねじ軸
47…ナット部材
48…歯車
50…変位センサ
51…センサ本体
52…付勢ばね
53…測定子
54…接触ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンのシリンダ内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置であって、
測定状態においてシリンダの中心線に沿って配設される基体と、該基体からシリンダの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アームを有する位置保持部と、該基体から放射状に延ばされる計測アームの先に変位センサを有する計測部とを有し、
ディーゼルエンジンのシリンダ内への挿入時には前記少なくとも3本の保持アームおよび計測アームを縮長して前記ボアより小径の挿入口よりシリンダ内に全体を挿入可能としたことを特徴とするボア計測装置。
【請求項2】
ディーゼルエンジンのシリンダ内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置であって、
測定状態においてシリンダの中心線に沿って配設される基体と、該基体からシリンダの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アームを有する位置保持部と、該基体から放射状に延ばされる計測アームの先に変位センサを有する計測部とを有し、
前記位置保持部は、前記基体に固設された保持基部に前記保持アームが延設され、該保持アームは蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部は、前記基体に固設された計測基部に前記計測アームが延設され、該計測アームは計測状態において、シリンダの内壁面に前記変位センサが当接するよう設けられ、
ディーゼルエンジンのシリンダ内への挿入時には前記保持アームおよび計測アームを縮長して前記ボアより小径の挿入口よりシリンダ内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アームおよび計測アームを延伸して計測可能とすることを特徴とするボア計測装置。
【請求項3】
ディーゼルエンジンのシリンダ内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置であって、
測定状態においてシリンダの中心線に沿って配設される基体と、該基体からシリンダの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アームを有する位置保持部と、該基体から放射状に延ばされる計測アームの先に変位センサを有する計測部とを有し、
前記位置保持部は前記基体の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、前記基体に固設された保持基部に前記保持アームが延設され、該保持アームは蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部は前記基体の上端部と下端部とに設けられた両前記位置保持部の間に配設され、前記基体に固設された計測基部に前記計測アームが延設され、該計測アームは計測状態において、シリンダの内壁面に前記変位センサが当接するよう設けられ、
ディーゼルエンジンのシリンダ内への挿入時には前記保持アームおよび計測アームを縮長して前記ボアより小径の挿入口よりシリンダ内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アームおよび計測アームを延伸して計測可能とすることを特徴とするボア計測装置。
【請求項4】
ディーゼルエンジンのシリンダ内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置であって、
測定状態においてシリンダの中心線に沿って配設される基体と、該基体からシリンダの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アームを有する位置保持部と、該基体から放射状に延ばされる計測アームの先に変位センサを有する計測部とを有し、
前記位置保持部は前記基体の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、前記基体に固設された保持基部に前記保持アームが延設され、該保持アームは次第に細くなる相互に挿嵌した中間筒により空気圧で蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部は前記基体の上端部と下端部とに設けられた両前記位置保持部の間に配設され、前記基体に固設された計測基部に前記計測アームが延設され、該計測アームは該計測基部に起倒可能に支持され、計測状態において起立してシリンダの内壁面に前記変位センサが当接するよう設けられ、
ディーゼルエンジンのシリンダ内への挿入時には前記保持アームおよび計測アームを縮長して前記ボアより小径の挿入口よりシリンダ内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アームおよび計測アームを延伸して計測可能とすることを特徴とするボア計測装置。
【請求項5】
ディーゼルエンジンのシリンダ内に挿入して要所の内径を測定するためのボア計測装置であって、
測定状態においてシリンダの中心線に沿って配設される基体と、該基体からシリンダの内壁面に当接するよう放射状に伸ばされる少なくとも3本の保持アームを有する位置保持部と、該基体から放射状に延ばされる計測アームの先に変位センサを有する計測部とを有し、
前記位置保持部は前記基体の上端部と下端部とにそれぞれ設けられ、前記基体に固設された保持基部に前記保持アームが延設され、該保持アームは次第に細くなる相互に挿嵌した中間筒により空気圧で蛇腹状に伸縮可能であり、
前記計測部は前記基体の上端部と下端部とに設けられた両前記位置保持部の間に配設され、前記基体に固設された計測基部に前記計測アームが延設され、該計測アームは該計測基部に起倒可能に支持され、計測状態において起立してシリンダの内壁面に前記変位センサが当接するよう設けられ、
前記基体の上端部と下端部とに設けられた上下の両前記位置保持部の間に前記計測部に螺合するねじ軸を架設し、該ねじ軸を回転駆動することにより前記計測部を移動可能にし、
ディーゼルエンジンのシリンダ内への挿入時には前記保持アームおよび計測アームを縮長して前記ボアより小径の挿入口よりシリンダ内に全体を挿入し、挿入後に前記保持アームおよび計測アームを延伸して計測するとともに、前記計測部を移動した位置で計測可能とすることを特徴とするボア計測装置。
【請求項6】
前記計測部において、前記計測基部と前記計測アームとの間に該計測アームを起倒させる空気圧シリンダが架装され、計測状態において該空気圧シリンダにより該計測アームが起立してシリンダの内壁面に前記変位センサが当接するよう設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のボア計測装置。
【請求項7】
前記位置保持部の保持アームの先端には、緩衝ばねを介して接触子を設けてあることを特徴とする請求項1〜4又は5に記載のボア計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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