説明

ボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法

【課題】 本発明は、ボイラ本体だけでなく脱気器、給水配管、給水ポンプ、給水プレヒーター、エコノマイザー等のボイラの給水系統も含むボイラシステムにおいて、有害なヒドラジンを用いることなく、環境調和型のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法を提供することである。
【解決手段】 (A)重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキル置換ヒドロキシルアミンを有効成分として含有することを特徴とするボイラの腐食抑制剤及びボイラシステム水系に(A)重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキル置換ヒドロキシルアミンを組み合わせて添加するボイラの腐食抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害なヒドラジンを用いない環境調和型のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラの給水には酸素やニ酸化炭素等の気体が溶解しているが、これらはボイラの腐食を促進する作用を示す。例えば水に溶解している酸素は鉄表面で鉄から電子を引き抜いて水酸化物イオンを生成することにより、鉄が鉄イオンとして溶解する反応を促進する。また、ニ酸化炭素は水に溶解して炭酸となり、水素イオンを放出して水のpHを低下させる。水素イオンは鉄表面で鉄から電子を引き抜いて水素を生成することにより、鉄が鉄イオンとして溶解する反応を促進する。特に、ボイラ水のような高温下では水の解離定数が大きくなり、25℃における純水のpHは7であるが、100℃ではpH6.15、250℃ではpH5.6まで低下するため、水素イオン濃度が増加して腐食が促進される。また、ボイラ給水中に塩化物イオンや硫酸イオン等の腐食性イオンが含まれていると、上記の腐食反応を促進する作用を示す。更には腐食により生成した金属の水酸化物や酸化物はボイラの伝熱表面に沈着し易く、これらの沈着物の下の隙間部と健全部の間で酸素濃淡電池を形成したり、隙間内部に塩化物イオン等の腐食性イオンが濃縮されて腐食が進行し易くなる。
【0003】
上記の要因によりボイラにおける水と接触する金属は腐食が発生し易いため、腐食抑制のために水中の溶存酸素の除去やpH上昇により水素イオン濃度を低下させる方法が実施されてきた。具体的には従来から溶存酸素の除去のためにヒドラジンや亜硫酸塩等の脱酸素剤が使用されてきたが、ヒドラジンはIARC(国際癌研究機関)における評価においてクラス2Bの人に対して発癌性を示す可能性がかなり高い物質とされている。亜硫酸塩は、ヒドラジンほど毒性は高くないが、酸素と反応すると腐食性の高い硫酸イオンとなるため、亜硫酸イオンの残留濃度を十分に維持しないと、かえって腐食を促進する問題点があった。
【0004】
そこで、ヒドラジンや亜硫酸塩に替わる脱酸素剤として、エリソルビン酸(例えば特許文献1参照)、ヒドロキシルアミン化合物(例えば特許文献2参照)、オキシム化合物(例えば特許文献3参照)、カルボヒドラジド(例えば特許文献4参照)等が開示されているが、未だ十分な腐食抑制効果を示すものは得られていない。
【0005】
【特許文献1】特許公報昭45−14202号公報
【特許文献2】特許公報昭58−28349号公報
【特許文献3】特許公報昭62−56950号公報
【特許文献4】特許公報昭63−63272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ボイラ本体だけでなく脱気器、給水配管、給水ポンプ、給水プレヒーター、エコノマイザー等のボイラの給水系統も含むボイラシステムにおいて、有害なヒドラジンを用いることなく、環境調和型のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、有害なヒドラジンを用いることなく、ボイラにおける水と接触する金属の腐食を抑制する腐食抑制剤について鋭意検討した結果、ボイラ水系において特定の末端修飾ポリアクリル酸とN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを併用することにより優れた腐食防止効果が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、(A)重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸と、(B)一般式(1)(式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から3のアルキル基である。)で表されるN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを有効成分として含有することを特徴とするボイラの腐食抑制剤である。
【0009】
【化1】

【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のボイラの腐食抑制剤であり、末端修飾ポリアクリル酸がイソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸、スルホン酸修飾ポリアクリル酸、チオエーテル修飾ポリアクリル酸から選択される1種以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載のボイラの腐食抑制剤であり、(A)成分と(B)成分を重量比10:90〜90:10で含むことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、ヒドラジンを用いないボイラシステムの腐食防止方法であって、(A)重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸と、(B)一般式(1)(式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から3のアルキル基である。)で表されるN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを組み合わせて添加することを特徴とするボイラの腐食抑制方法である。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4記載のボイラの腐食抑制方法であり、末端修飾ポリアクリル酸がイソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸、スルホン酸修飾ポリアクリル酸、チオエーテル修飾ポリアクリル酸から選択される1種以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5記載のボイラの腐食抑制方法であり、(A)成分と(B)成分を重量比10:90〜90:10で添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のボイラの腐食抑制剤あるいはボイラの腐食抑制方法の使用により、溶存酸素に起因する腐食を抑制できるだけでなく、腐食により生成した金属の水酸化物や酸化物の沈着を抑制することにより、沈着物の下の隙間部で発生する腐食を抑制することができるため、ボイラの腐食による事故やボイラの補修・更新等による経済的損失を未然に防止できる。またヒドラジン等の有害な化合物を使用していないため、環境への影響が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明におけるボイラシステムは、ボイラ本体だけでなく脱気器、給水配管、給水ポンプ、給水予熱器、エコノマイザー等のボイラの給水系統ならびに過熱器、タービン、蒸気配管、復水器、復水配管等の蒸気・復水系統も包含し、ボイラシステム水系は補給水、給水、復水、ボイラ循環水、蒸気に関わるボイラの給水系統から蒸気・復水系統を含むボイラシステム全般を流れる水系であり、脱酸素剤としてヒドラジンを用いていない水系である。
【0017】
本発明のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法の対象となるボイラの種類は、立てボイラ、炉筒ボイラ、煙筒ボイラ、炉筒煙筒ボイラ等の丸ボイラ、水管ボイラ、特殊循環ボイラ、各種廃熱ボイラ等であるが、蒸気圧が7.5MPaを超える貫流ボイラでは固形分を含むため適用できない。また、本発明のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法を適用するボイラの蒸気圧は12MPa以下であることが好ましい。蒸気圧が12MPaを超えるボイラでは、本発明のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法で用いる末端修飾ポリアクリル酸が熱分解するため十分な腐食抑制効果が期待できない。
【0018】
本発明のボイラの腐食抑制剤及び腐食抑制方法を適用するボイラの補給水は、イオン交換水、軟化水、工業用水、水道水、地下水等が使用できるが、好ましくはイオン交換水と軟化水である。また蒸気圧が3MPaを超えるボイラでは補給水としてイオン交換水を使用するのが好ましい。また、ボイラのブロー率は特に制限はないが、通常は給水量に対して1〜20%のブローダウンを連続的あるいは断続的に実施する。
【0019】
本発明で用いる末端修飾ポリアクリル酸(以下、「末端修飾ポリアクリル酸」とする)は、重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸である。重量平均分子量の測定は、特に限定されるものではなく、一般的なゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーの手法により分子量既知のポリエチレングリコールを標準物質として測定され、市販の分子量計算用コンピュータソフトウェア、例えば日立製作所(株)製「D−2520型GPCデータ処理システム」(商品名)を用いて重量平均分子量が計算される。重量平均分子量が1,000未満では、本発明の腐食抑制効果が低下し、重量平均分子量が3,000を超えると腐食抑制効果が低下するだけでなく、N−アルキル置換ヒドロキシルアミンとの相溶性が低下するため、好ましくない。
【0020】
末端修飾ポリアクリル酸はラジカル重合法により製造できるが、該分子量範囲に調整するための分子量調整手段としてラジカル開始剤の増量のみでは不十分であり、重合時において十分な量の連鎖移動剤を添加する必要がある。必要な連鎖移動剤の量は重合条件や連鎖移動剤の種類によって異なるが、通常はアクリル酸モノマーに対して5〜100モル%、好ましくは10〜50モル%の範囲である。連鎖移動剤としては、イソプロピルアルコ−ル、イソブチルアルコール等のアルコール、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノール、アルキルメルカプタン等のメルカプト基を有する化合物等の活性水素を有する化合物が使用できる。重合時においてアクリル酸モノマーに対する連鎖移動剤の比率を増加させるほど、重合度の低い末端修飾ポリアクリル酸が製造でき、連鎖移動剤の比率を調整することにより任意の重量平均分子量の末端修飾ポリアクリル酸が製造できる。
【0021】
本発明の末端修飾ポリアクリル酸の具体的な合成例は、特公昭47−11487号公報、特開平11-315115号公報、特許公開2002−294273号公報に開示されている。具体的に末端スルホン酸修飾ポリアクリル酸の製造方法を例にあげると、攪拌装置、還流冷却器、温度計、窒素ガス通気孔を付した500mL4ツ口フラスコに水50gを入れ、窒素ガスの通気下で100℃に加熱し、過硫酸ナトリウム3gを水15gに溶解した水溶液、アクリル酸20g、35%重亜硫酸ナトリウム12gをそれぞれ別々の口から同時に2時間かけて添加し、添加終了後、100℃で2時間加熱して、活性分20重量%の末端スルホン酸修飾ポリアクリル酸水溶液が得られる。
【0022】
連鎖移動剤共存下におけるラジカル重合は連鎖移動剤ラジカルを経由して開始され、連鎖移動剤への連鎖移動によって比較的重合度の低い末端修飾ポリアクリル酸が生成するため、生成物は連鎖移動剤断片を末端に有する構造を有する。例えば、連鎖移動剤としてイソプロピルアルコ−ルを使用した場合、下記一般式(2)に示す末端イソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸が生成する。必要な連鎖移動剤の量は、重合条件によって異なるが、通常はアクリル酸モノマーに対して20〜100モル%、好ましくは30〜60モル%の範囲である。
【0023】
【化2】

【0024】
また、連鎖移動剤として亜硫酸ナトリウムを使用した場合、下記一般式(3)に示す末端スルホン酸修飾ポリアクリル酸が生成する。必要な連鎖移動剤の量は、重合条件によって異なるが、通常はアクリル酸モノマーに対して5〜50モル%、好ましくは10〜30モル%の範囲である。
【0025】
【化3】

【0026】
連鎖移動剤としてメルカプト化合物を使用した場合、末端チオエーテル修飾ポリアクリル酸が生成する。例えば、連鎖移動剤としてβ−メルカプトプロピオン酸を使用した場合、下記一般式(4)に示す末端カルボキシエチルチオエーテル修飾ポリアクリル酸が生成する。必要な連鎖移動剤の量は、重合条件によって異なるが、通常はアクリル酸モノマーに対して5〜50モル%、好ましくは10〜25モル%の範囲である。
【0027】
【化4】

【0028】
連鎖移動剤としてアルコールを用いて合成したポリアクリル酸は、N−アルキル置換ヒドロキシルアミンとの相溶性が良好であるため、両者の混合物を調製する場合に有利である。上記のように末端基を修飾したポリアクリル酸は、未修飾のポリアクリル酸よりも耐加水分解性が優れており、ボイラのような高温水で使用する場合に好適である。中でも末端スルホン酸修飾ポリアクリル酸の耐加水分解性は、特に優れており好適である。本発明の末端修飾ポリアクリル酸は、アクリル酸以外にアクリル酸と共重合が可能な他の不飽和モノマーとの共重合体であっても良い。アクリル酸と共重合が可能な他の不飽和モノマーの例としてマレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸等のモノエチレン性不飽和カルボン酸およびその水溶性塩、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸等のモノエチレン性不飽和スルホン酸およびその水溶性塩、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸等のモノエチレン性不飽和ホスホン酸およびその水溶性塩、(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリレートエステル、アルキル(メタ)アリルエーテル、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートエステル、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルアルコール等の非イオン性のモノエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。アクリル酸の重合比が低下すると腐食抑制効果が低下するため、アクリル酸と共重合が可能な他の不飽和モノマーの比率はモノマー全体に対して20重量%以下が好ましい。
【0029】
本発明のN−アルキル置換ヒドロキシルアミンは、一般式(1)で表され、式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から3のアルキル基である。具体的には、N−メチルヒドロキシルアミン、N−エチルヒドロキシルアミン、N−n−プロピルヒドロキシルアミン、N−イソプロピルヒドロキシルアミン、N、N−ジメチルヒドロキシルアミン、N、N−ジエチルヒドロキシルアミン、N、N−n−ジプロピルヒドロキシルアミン、N、N−ジイソプロピルヒドロキシルアミン、N−メチル−N−エチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。好ましくはN、N−ジエチルヒドロキシルアミンである。
【0030】
本発明のボイラの腐食抑制剤(以下「腐食抑制剤」とする)は、(A)末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキルヒドロキシルアミンを含む腐食防止剤であり、目的とするボイラの腐食抑制の程度により適宜、この両者の比率を決定され、一律に決めることはできないが、通常は(A)末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキルヒドロキシルアミンを重量比10:90〜90:10の範囲で含み、好ましくは20:80〜50:50である。
【0031】
腐食抑制剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、(A)末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキル置換ヒドロキシルアミンを撹拌しながら溶媒に溶解させて調製される。溶媒としては、水が最も好ましく、場合によっては水溶性有機溶媒であるエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジオキサン等を併用してもよい。本発明の腐食防止剤における(A)末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキル置換ヒドロキシルアミンの合計量は、特に限定されるものではなく、通常、5〜50重量%である。腐食抑制剤の効果を損なわない範囲で他の腐食抑制剤を配合してもよい。
【0032】
腐食抑制剤の添加は、対象とするボイラシステム水系の水質及び目的とする腐食抑制効果の程度を考慮して適宜決定されるものであり、一律に定めることはできないが、通常、末端修飾ポリアクリル酸の添加量として、給水に対して0.05〜10mg/L、ボイラ水に対して0.5〜200mg/L、好ましくはボイラシステム水系中のカルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛の合計量に対して2〜30重量部の末端修飾ポリアクリル酸量になるような腐食抑制剤の添加量である。また、N−アルキル置換ヒドロキシルアミンの添加量としては、給水中の溶存酸素濃度により異なるが、通常は溶存酸素1モルに対して0.2〜5モルのN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを添加するか、あるいは給水中に10〜1000μg/LのN−アルキル置換ヒドロキシルアミンが残留濃度として検出されるようなN−アルキル置換ヒドロキシルアミンの添加量である。
【0033】
腐食抑制剤の添加方法は、特に限定されるものではなく、一般的な薬注ポンプを用いて添加される。本発明の腐食抑制剤の添加箇所は、通常、ボイラの給水に対して添加するが、ボイラに直接添加しても良く、またボイラ本体だけでなく給水系統の腐食抑制が必要な場合は、給水系統の上流側に添加するのが好ましい。
【0034】
腐食抑制剤とともに給水ならびにボイラ水のpHを調整するためにアルカリ金属水酸化物、リン酸塩、揮発性アミン、アンモニアから選択される1種以上の化合物と併用してもよい。ボイラ水のpHは通常8.5〜12.0の範囲に調整されるが、pHが低過ぎてもpHが高過ぎても腐食が発生し易くなる。補給水として腐食性イオン濃度が高い軟化水を使用しているボイラ蒸気圧が2MPa以下のボイラではボイラ水のpHは11.0〜12.0程度に調整するのが好ましい。一方、ボイラの蒸気圧が2MPaを超えるボイラではpHは8.5〜11.0程度に調整するのが好ましいが、アルカリ腐食の防止のため蒸気圧が高いボイラほどpHの上限値を低く抑えることが好ましい。蒸気圧力が3MPaを超えるボイラでは、水酸化カリウムやリン酸カリウム等のカリウム塩を使用するとアルカリ腐食が発生し易くなるため、アルカリ金属水酸化物としては水酸化ナトリウム、リン酸塩としては第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のナトリウム塩を使用するのが好ましい。使用圧力別のボイラ水pHの適正値は、例えばJIS B8223:1999『ボイラの給水及びボイラ水の水質』に規定されている。
【0035】
本発明のボイラの腐食抑制方法(以下「腐食抑制方法」とする)は、ヒドラジンを用いていないボイラシステム水系に前記(A)末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキル置換ヒドロキシルアミンを組み合わせて添加する腐食抑制方法である。
【0036】
末端修飾ポリアクリル酸の添加量は、対象とするボイラシステム水系の水質及び目的とする腐食抑制効果の程度を考慮して適宜決定されるものであり、一律に定めることはできないが、通常、給水に対して0.05〜10mg/L、ボイラ水に対して0.5〜200mg/L、好ましくはボイラシステム水系中のカルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛の合計量に対して2〜30重量部の末端修飾ポリアクリル酸量である。
【0037】
また、N−アルキル置換ヒドロキシルアミンの添加量は、給水中の溶存酸素濃度により異なるが、通常は溶存酸素1モルに対してN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを0.2〜5モルの比率で添加する、あるいは給水中のN−アルキル置換ヒドロキシルアミンの残留濃度が10〜1000μg/Lとして検出されるように添加する。さらに(A)末端修飾ポリアクリル酸と(B)N−アルキル置換ヒドロキシルアミンは、重量比として10:90〜90:10、好ましくは20:80〜50:50で組み合わせて添加される。
【0038】
腐食抑制方法では、末端修飾ポリアクリル酸とN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを混合した一液性組成物として薬注ポンプで添加する方法、両者をそれぞれ別々に薬注ポンプで添加する方法があり、いずれでもよい。末端修飾ポリアクリル酸及びN−アルキル置換ヒドロキシルアミンの添加箇所は、通常、ボイラの給水に対して添加するが、ボイラに直接添加しても良く、またボイラ本体だけでなく給水系統の腐食抑制が必要な場合は、給水系統の上流側に添加するのが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(末端修飾ポリアクリル酸)
A−1:イソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸(Mw2700)
A−2:スルホン酸修飾ポリアクリル酸(Mw2200)
A−3:カルボキシエチルチオエーテル修飾ポリアクリル酸(Mw2000)
A−4:イソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸(Mw5000)
【0041】
(N−アルキル置換ヒドロキシルアミン)
B−1:N、N−ジエチルヒドロキシルアミン
B−2:N−イソプロピルヒドロキシルアミン
B−3:N−tert−ブチルヒドロキシルアミン
【0042】
(その他)
C−1:イソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸(Mw5000)
C−2:スルホン酸修飾ポリアクリル酸(Mw4500)
C−3:アクリル酸−イタコン酸共重合体(Mw3000)
C−4:アクリル酸−メタクリル酸共重合体(Mw3000)
C−5:アクリル酸−マレイン酸共重合体(Mw3000)
C−6:アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(Mw2000)
C−7:マレイン酸共重合体(Mw1000)
【0043】
(腐食試験1)
400番研磨紙で研磨仕上げした寸法が1×13×75mmの炭素鋼製試験片(材質:JIS G3141 SPCC−SB)をアセトンで脱脂後、乾燥して試験前の質量を測定した。表−1に示す腐食抑制剤を添加した試験液100mLと試験片1枚をステンレス鋼製オートクレーブに入れ、温度180℃、蒸気圧0.7MPaを3日間維持した。試験水の炭酸イオンと重炭酸イオン濃度の合計は300mgCaCO/L、シリカは300mg/L、塩化物イオンは150mg/Lであった。水酸化ナトリウムを添加して試験液のpHを11.0に調整した。オートクレーブを冷却後、試験片を取り出して付着物を除去後、試験後の質量を測定し、下記式より腐食速度を計算した。
腐食速度(mdd)=(W−W)/(S×T)
:試験前の質量(mg)、
:試験後の質量(mg)
S:試験片の表面積(dm
T:試験期間(day)
結果を表1に示いた。
【0044】
【表1】

【0045】
重量平均分子量が1,000〜3,000のポリアクリル酸とN−アルキル置換ヒドロキシルアルキルアミンを併用する本発明の方法では、腐食速度は2.1〜3.5(mdd)となり、それぞれを単独で使用した場合よりも腐食抑制効果が優れていることが確認された。また、重量平均分子量が1,000〜3,000の範囲を超えるポリアクリル酸を使用した場合では、腐食抑制効果が劣っていることが確認され、本発明の重量平均分子量が1,000〜3,000のポリアクリル酸が有効であることを示している。
【0046】
(腐食試験2)
蒸気圧力3MPa、給水量15t/hの水管ボイラーにおいて本発明の腐食抑制剤の実機試験を実施した。ボイラの補給水はイオン交換水であり、腐食抑制剤添加前の給水中の溶存酸素濃度は0.03mg/Lであった。表2に示す腐植抑制剤を給水量に対して8mg/L添加した。ボイラーのブロー率は1〜3%、濃縮度は33〜50倍であった。ボイラー水のpHは10〜11、給水中のN、N−ジエチルヒドロキシルアミンの残留濃度は100〜300mg/Lの範囲であった。1年間運転後の開放結果では、ボイラのドラムと水管内は清浄であり、腐食やスケールは認められなかった。
【0047】
【表2】

【0048】
(相溶性試験)
重合体を活性分として1.5重量%、N、N−ジエチルヒドロキシルアミンを5重量%、水酸化ナトリウム4.5重量%、水酸化カリウム4.5重量%を含有し、残部が水である腐食抑制剤を調製して溶解安定性を調べた。結果を表3に示した。重量平均分子量が1000〜3000のポリアクリル酸に替えて重量平均分子量が3000を超えるポリアクリル酸を使用した場合、N、N−ジエチルヒドロキシルアミンとの相溶性が劣っていることが確認された。ポリアクリル酸以外のポリマーを用いると、重量平均分子量が1000〜3000の範囲であってもN、N−ジエチルヒドロキシルアミンとの相溶性が劣っていることが確認された。
【0049】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸と、(B)一般式(1)(式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から3のアルキル基である。)で表されるN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを有効成分として含有することを特徴とするボイラの腐食抑制剤。
【化1】

【請求項2】
末端修飾ポリアクリル酸がイソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸、スルホン酸修飾ポリアクリル酸、チオエーテル修飾ポリアクリル酸から選択される1種以上である請求項1記載のボイラの腐食抑制剤。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分を重量比10:90〜90:10で含む請求項1又は2記載のボイラの腐食抑制剤。
【請求項4】
ヒドラジンを用いないボイラシステムの腐食防止方法であって、(A)重量平均分子量が1,000〜3,000の末端修飾ポリアクリル酸と、(B)一般式(1)(式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から3のアルキル基である。)で表されるN−アルキル置換ヒドロキシルアミンを組み合わせて添加することを特徴とするボイラの腐食抑制方法。
【請求項5】
末端修飾ポリアクリル酸がイソプロピルアルコール修飾ポリアクリル酸、スルホン酸修飾ポリアクリル酸、チオエーテル修飾ポリアクリル酸から選択される1種以上である請求項4記載のボイラの腐食抑制方法。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分を重量比10:90〜90:10で添加する請求項4又は5記載のボイラの腐食抑制方法。











【公開番号】特開2007−239064(P2007−239064A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65826(P2006−65826)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】