説明

ボイラ下部ホッパの耐火構造、及び該耐火構造を備えたボイラ

【課題】ボイラ下部ホッパに施工された耐火構造であって、飛灰中のアルカリ成分と反応してアルカリ膨張により座屈、破損することを防止でき、耐久性を向上させることを可能としたボイラ下部ホッパの耐火構造、及び該耐火構造を備えたボイラを提供する。
【解決手段】焼却炉に併設されたボイラの耐火構造において、前記耐火構造は、SiCを主成分とし、600〜800℃の温度域下でアルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤を添加した耐火キャスタブル232を、ボイラの下部に設けられ焼却炉からの排ガスに含まれる飛灰を集塵するホッパ23に施工してなり、好適には前記SiO・Al系結合剤の添加量を、耐火キャスタブルの全重量に対して10〜25重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却炉の排ガスから熱回収するボイラの下部に設けられたボイラ下部ホッパの耐火構造、及び該耐火構造を備えたボイラに関し、特に、ボイラ下部ホッパに施工された不定形耐火物からなる耐火構造にて、排ガス中の飛灰に含有されるアルカリ成分により耐火物が膨張して破損することを防止できるボイラ下部ホッパの耐火構造、及び該耐火構造を備えたボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却炉や溶融炉、ボイラ等の熱処理設備においては、ケーシングを保護するために耐火構造を採用していた。耐火構造は、使用温度、腐食性ガス等の環境条件によってその構造が決定される。温度条件が厳しい部位では、耐火レンガを採用することが多い。耐火レンガは一般にSiCの緻密焼結体を用いることが多く、この緻密焼結体は高強度であり耐火性能が高い。例えば特許文献1(特開昭62−283869号公報)には、SiC、SiO、Alを主成分とする燃焼炉用耐火レンガが開示されている。
しかしながら、原料であるSiC粉末は難焼結性であり、緻密焼結体を作製するには高圧、熱間でプレスをしたり、高温で焼結する等の工程が必要となるため、施工する現場で製造することはできない。
【0003】
一方、温度条件が比較的緩い部位、或いは施工面の形状が複雑で耐火レンガの施工が困難な部位等には、不定形の耐火キャスタブルを施工することが多い。耐火キャスタブルは、粉末を水で混練してスラリーを作り、これを現場に組んだ型枠に流し込み、乾燥し固めて施工する方法、或いは吹き付けにより施工する方法などがあるが、何れも現場で施工でき、複雑な形状にも容易に対応できることから多く用いられている。
例えば、特許文献2(特開平10−324561号公報)には、灰溶融炉の耐火物において、炭化けい素5〜90重量%、アルミナ5〜90重量%からなる材質のプレキャストブロックを用いた構成が開示されている。
このように耐火構造は、その適用部位や使用環境により耐火物材料、形態が適宜選択される。
【0004】
一般廃棄物や産業廃棄物等を焼却処理する焼却炉は、高温の排ガスから熱回収を行うためにボイラを併設している。ボイラは、焼却炉から排出される高温の排ガスが通流するため、内面が耐火構造となっている。焼却炉からの排ガスは飛灰を含むため、この飛灰を回収するためボイラ下部にはホッパが設けられている。排ガスは950〜800℃程度で焼却炉から排出された後水管で冷却され、ホッパを通過する排ガスは800℃以下となり温度条件は炉内よりも厳しくなく、またその形状の制約上、ホッパには不定形の耐火キャスタブルが施工されることが多い。しかし耐火キャスタブルを現場施工する際には、緻密焼結体のようにプレスをかけられず、且つ焼成もできないため、高強度化は困難であった。
【0005】
また、ボイラに施工される耐火キャスタブルは焼却炉からの排ガスに含まれる飛灰と接触するが、飛灰中にはアルカリ成分が多く含有されるため、ホッパの耐火キャスタブルはアルカリ成分と反応して低密度の化合物を形成し、膨張してしまい、そのうち座屈により破壊することがある。破壊して脱落した耐火キャスタブルの補修、或いは破壊する前に行なう補修は手間がかかり、また補修費が高額になるという問題を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−283869号公報
【特許文献2】特開平10−324561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、焼却炉から排出される排ガスから熱回収を行なうボイラにおいては、飛灰に含まれるアルカリ成分により耐火キャスタブルがアルカリ膨張し、座屈により破壊する惧れがあるため、耐久性の高い耐火構造が求められていた。
【0008】
特許文献1には、SiC、SiO、Alを主成分とする燃焼炉用耐火レンガが開示されているが、これは定型の耐火レンガであり、ボイラ下部ホッパに好適に適用される不定形キャスタブルとは形態が異なるものである。また、特許文献1では、SiCの酸化膨張によりレンガが迫り出してしまう問題に対して、低純度SiCを使用することにより防止するとともに、残りの成分のSiO/Alに対してこの比を高くすることにより、クリンカとの反応に際して反応面の弱体化(付着面の気泡生成)を促すようにしている。しかしながら、本発明が適用されるボイラ下部ホッパでは、適用温度が低いためSiCの酸化膨張は考慮する必要がない。従って、耐火構造を適用する部位が違うと条件が全く異なってくるため、特許文献1に記載される耐火構造をボイラ下部ホッパの耐火構造に用いることは適切ではない。
【0009】
特許文献2には、炭化けい素を主成分としアルミナを添加したプレキャストブロックについて開示されている。しかし、これは溶融炉に適用されるものであり、特にスラグとの接触による耐久性を考慮した構成となっている。即ち、スラグの浸透を止めるために炭化けい素を5〜90重量%とし、また、アルミナを10重量%以下にすると強度性を十分に出すための焼結機能が発揮されず、90重量%以上にすると耐熱スポーリング性に劣るため、アルミナを5〜90重量%としている。
これに対して、本発明の適用部位であるボイラ下部ホッパに施工される耐火構造は、焼却炉排ガスと接触する気相雰囲気下で用いられ、且つアルカリ成分を多く含有する飛灰との接触が最も懸念される事項であるため使用環境が全く異なり、特許文献1に記載される耐火構造をそのままボイラ下部ホッパに適用することは困難である。また、溶融炉の温度は約1600〜1800℃程度と高温であるためアルミナによりガラス融体が形成されやすいが、ボイラ下部ホッパの温度は約600〜800℃であるため高融点を有するアルミナ単独ではガラス融体が形成されにくく、耐火キャスタブルが高強度化されないため特許文献1に記載される耐火構造はボイラ下部ホッパには不適である。
【0010】
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、ボイラ下部ホッパに施工される耐火構造であって、飛灰中のアルカリ成分と反応してアルカリ膨張により座屈、破損することを防止でき、耐久性を向上させることを可能としたボイラ下部ホッパの耐火構造、及び該耐火構造を備えたボイラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
焼却炉に併設されたボイラの耐火構造において、
前記耐火構造は、SiCを主成分とし、600〜800℃の温度域下にてアルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤を添加した不定形耐火物からなり、該不定形耐火物を前記ボイラの下部に設けられたホッパに施工して構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明は、SiCを主成分としたSiC系不定形耐火物において、緻密化を促進させるために結合剤としてSiO・Al系のガラス成分を添加したものである。SiO・Al系結合剤は、アルカリ成分と反応とするとガラス状態をより安定化させるとともに粘性を低下させる。このような不定形耐火物は、ボイラ運転中に飛灰のアルカリ成分と反応とすると、まず結合剤中のSiO・Al系結合剤と反応してガラス状態の安定化、粘性低下をもたらす。ガラス状態の安定化とは、結晶化して固体になるよりも液相として存在する方がエネルギー的に安定であることを指し、焼結は液相が存在するとこれを経由して拡散速度が大幅に増大するので、焼結に大きく寄与する。同様に、粘性低下も焼結し易い方に寄与するので、この結果不定形耐火物はより一層高強度化する。また、本発明ではAlに加えてSiOを含む結合剤を用いているため融点が低下し、上記したガラス状態を適切に形成することができる。
【0013】
さらに、本発明ではSiO・Al系結合剤のうち、アルカリ膨張の度合いが低いものを選択し、添加している。これにより、ボイラ下部ホッパの温度条件において、飛灰との接触によるアルカリ膨張を最小限に抑えて、不定形耐火物の座屈による破壊を防止し、耐火構造の耐久性を向上させることが可能となる。尚、アルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤とは、アルカリと反応しても密度変化が殆ど生じないようなSiOとAlの成分比率を有する結合剤、若しくは最初からアルカリ成分を含む結合剤などが挙げられる。
【0014】
また、前記SiO・Al系結合剤の添加量が、前記不定形耐火物の全重量に対して10〜25重量%であることが好適である。
これは、前記SiO・Al系結合剤の添加量が10重量%以下だと少なすぎてSiC粒子を十分に結合することができず、25重量%以上だと多すぎてSiC粒子の高強度性を生かすことができないためである。従って、SiO・Al系結合剤の添加量を10〜25重量%とすることにより、SiCの高強度性を保ちつつSiC粒子の結合を強化してさらなる緻密化を図ることができ、耐火構造の耐久性を向上させることが可能となる。
【0015】
また、アルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤としては、以下のものが好適に用いられる。
前記SiO・Al系結合剤は、AlとSiOの総重量(Al+SiO)に対してAlの比率が30〜40重量%の結合剤である。
上記した成分比率を有するSiO・Al結合剤は、アルカリと反応して低密度化合物に反応しても密度低下が極めて低いためアルカリ膨張を殆ど生じることがなく、耐火構造の耐久性に対する影響を最小限に抑えることが可能である。
【0016】
前記SiO・Al系結合剤は、シャモットを主成分とする結合剤である。
シャモットを主成分とした結合剤は、AlとSiOの比率が上記とほぼ同様であり、アルカリと反応して低密度化合物に反応しても密度低下が極めて低いためアルカリ膨張を殆ど生じることがなく、耐火構造の耐久性に対する影響を最小限に抑えることが可能である。またシャモットを用いることにより、資源の再利用が可能となる。
尚、シャモットとは、耐火粘土を一度焼成したものを粉砕した粉末のことをいい、瓦(煉瓦)等の原料を粉砕したもがある。
【0017】
前記SiO・Al系結合剤は、アルカリ成分を含む結合剤である。
アルカリ成分を含んだSiO・Al系結合剤は、純粋なSiO・Al系結合剤よりも密度が低いが、ボイラ運転中にアルカリ成分との反応が殆ど起こらないため、アルカリ膨張の度合いが極めて低い。従って、最初からアルカリ成分が入った低密度化合物を結合剤として用いることにより、大きな密度変化が起こらず、耐火構造のアルカリ膨張による座屈、破壊等が発生する惧れがない。
【0018】
また、前記不定形耐火物は、複数のブロックに分割されて前記ホッパに施工されるとともに、前記温度域における不定形耐火物の膨張率に基づいて、隣接する前記ブロックの間に隙間を設けることを特徴とする。
このように、本発明において適切な膨張代となる隙間をブロック間に設けることにより、アルカリ膨張した場合においても座屈が生じないようにでき、耐火構造が破壊、脱落することを防止できる。また、本発明は従来の不定形耐火物よりアルカリ膨張を低く抑えることができるため、小さな隙間でアルカリ膨張を吸収することが可能である。
【0019】
さらに、前記耐火構造は、前記ホッパの内側から順に上層と中層と下層からなる3層構造であり、
前記上層は、上記したようにSiCを主成分としSiO・Al系結合剤を添加した不定形耐火物で形成され、前記中層は軽量で且つ断熱性を有する耐火物で形成され、前記下層は前記中層より断熱性が高い耐火物又は保温材で形成されることを特徴とする。
このように、ボイラ下部ホッパの耐火構造を3層構造とすることにより、高い耐久性を有しながら保温性能を保持した耐火構造とすることが可能となる。
即ち、飛灰を含む排ガスと接触する上層には、耐食性を有し高い耐久性を有する材料を配し、飛灰と接触することはないが上層を介して熱が伝わり易い中層には、断熱性を有する材料を配し、最もケーシング側に配置される下層には最も断熱性が高い材料を配することにより、耐久性と保温性能の両方を兼ね備えた耐火構造を提供することを可能としている。また、メンテナンス時には、上層のみを補修すればよいため工期の短縮化、及びコスト低減が可能となる。
【0020】
さらにまた、上記した耐火構造を備えたボイラを提供する。
このように、アルカリ膨張を最小限に抑えることができ、耐久性の高い耐火構造を備えることにより、焼却炉からの排ガスが通流し、排ガスの高温雰囲気下、及び排ガス中に含まれる飛灰によるアルカリの影響に対しても耐久性が高く、且つメンテナンスの手間やコストを低減することができるボイラを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上記載のごとく本発明によれば、ボイラ下部ホッパに施工する不定形耐火物にて、高強度のSiC系キャスタブルを用いているため、座屈強度が高くなり破損を抑制することができ、またSiO・Al系結合剤を添加することにより、飛灰中のアルカリと反応してガラス状態をより安定化するとともに粘性を低下させ、不定形耐火物をより一層高強度化することが可能である。
また、不定形耐火物のSiO・Al系結合剤の添加量を10〜25重量%とすることにより、SiCの高強度性を保ちつつSiC粒子の結合を強化してさらなる緻密化を図ることができ、耐火構造の耐久性を向上させることが可能となる。さらに、本発明の耐火構造はボイラ下部ホッパに適用され、温度条件が800℃以下と比較的低いため、Alを含有することによるアルカリ膨張は殆ど問題とならず、耐火構造の破損を防止できる。
【0022】
また、(Al+SiO)に対してAlの比率が30〜40重量%の結合剤、或いはシャモットを主成分とした結合剤を用いることにより、アルカリと反応して低密度化合物に反応しても密度低下が極めて低いためアルカリ膨張を殆ど生じることがなく、耐火構造の耐久性に対する影響を最小限に抑えることが可能である。
さらに、最初からアルカリ成分が入ったSiO・Al系結合剤を用いることにより、飛灰中のアルカリと接触しても大きな密度変化が起こらず、耐火構造のアルカリ膨張による座屈、破壊等を防止できる。
【0023】
また、不定形耐火物を複数のブロックに分割し、アルカリ膨張に応じて隣接する前記ブロックの間に隙間を設けることにより、アルカリ膨張した場合においても座屈が生じないようにでき、耐火構造が破壊、脱落することを防止できる。
さらに、耐火構造を3層構造とし、上記したように夫々に異なる材料を用いることにより、高い耐久性を有しながら保温性能を保持した耐火構造とすることが可能となる。
さらにまた、上記した耐火構造を備えたボイラとすることにより、焼却炉からの排ガスが通流し、排ガスの高温雰囲気下、及び排ガス中に含まれる飛灰によるアルカリの影響に対しても耐久性が高く、且つメンテナンスの手間やコストを低減することができるボイラを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施形態の耐火構造は、焼却炉に併設されるボイラ下部に設けられたホッパに適用される。
【0025】
図1に本発明の実施形態が適用される焼却炉併設ボイラ設備の全体構成図を示す。
焼却炉併設ボイラ設備は、都市ごみ等の一般廃棄物又は産業廃棄物等を焼却処理する焼却炉1と、該焼却炉1に併設されたボイラ2とから構成される。
前記焼却炉1は一例としてストーカ式焼却炉を示したが、これに限定されるものではなく、例えば流動床式焼却炉、ロータリーキルン式焼却炉等の他の形式の焼却炉にも適用可能である。
【0026】
ストーカ式焼却炉1では、ホッパ11から投入された廃棄物がストーカ(燃焼火格子)12上に供給され、該廃棄物はストーカ上を搬送されながら、下方より供給される一次空気により燃焼し、燃焼により生じた灰は灰シュート13から排出される。廃棄物の燃焼により発生した排ガスは、ストーカ上方の燃焼室14を通過する際に二次空気の供給により未燃分を完全燃焼した後、飛灰を含む排ガスは煙道15を通って焼却炉1よりボイラ2へ供給される。このとき、焼却炉1上方の排ガス出口における排ガス温度は、800〜950℃程度である。
【0027】
飛灰を含む排ガスは、ボイラ2の排ガス通路21を通って熱交換により蒸気を生成するとともに、排ガスは冷却される。ボイラ2にて冷却された排ガスは、排ガス通路25を通って後段に設けられた排ガス処理設備(図示略)に送られる。
ボイラ2は、排ガス通路21に複数のボイラ水管26が配設されており、該ボイラ水管26内を通流するボイラ水との熱交換により排ガスの熱を回収する構成となっている。
排ガス通路21には、上流側から第1ホッパ22、第2ホッパ23、第3ホッパ24が設けられており、これらのホッパにて排ガス中の飛灰を捕集する。尚、図1には第1〜第3までの3つのホッパからなる構成を示しているが、ホッパの数はこれに限定されるものではない。
【0028】
また、図1には第2ホッパ23及び第3ホッパ24の上部のみにボイラ水管26を記載してあるが、第1ホッパ21の上部にも水管が配設されており、排ガスを冷却するとともに熱回収を行なうようになっている。
本実施形態における耐火構造は、このホッパに適用されるものであるが、その中でも800℃以下の排ガス雰囲気に存在するホッパに適用される。特に、本構成においては第2ホッパ23が600〜800℃の排ガス雰囲気下に存在するため、この第2ホッパ23に適用されることが好ましい。勿論、上記温度条件に位置するホッパであれば何れのホッパにも適用可能である。
【0029】
図2に、本実施形態に係る耐火構造を備えたホッパ23の側断面図(図1のA拡大図)を示す。
ホッパ23は下方に向けて縮径した構造を有し、下端に飛灰排出部233を備えており、ホッパ上部にはボイラ水管26が配設されている。ホッパ23の最外面にはケーシング231が設けられ、該ケーシング231の内側には不定形耐火物である耐火キャスタブル232が施工された耐火構造が設けられている。このホッパ23は、排ガスの通流する排ガス通路に設けられ、600〜800℃の温度雰囲気下で、且つ排ガス中の飛灰を集塵するため飛灰との接触が多い。従って、飛灰中のアルカリ成分と耐火キャスタブル232が反応して低密度の化合物を形成し、膨張してしまい、そのうち座屈により破壊することがある。従って、本実施形態では、このアルカリ膨張を抑制することができる耐火構造232としている。
【0030】
即ち、この耐火構造232は、SiCを主成分とし、且つ600〜800℃の温度域下でアルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤を添加した耐火キャスタブルを施工して形成される。
これは、SiCを主成分としたSiC系キャスタブルにおいて、緻密化を促進させるために結合剤としてSiO・Al系のガラス成分を添加したものである。SiO・Al系結合剤は、アルカリ成分と反応とするとガラス状態をより安定化させるとともに粘性を低下させる。このような耐火キャスタブル232は、ボイラ運転中に飛灰のアルカリ成分と反応とすると、まず結合剤中のSiO・Al系結合剤と反応してガラス状態の安定化、粘性低下をもたらす。ガラス状態の安定化とは、結晶化して固体になるよりも液相として存在する方がエネルギー的に安定であることを指し、焼結は液相が存在するとこれを経由して拡散速度が大幅に増大するので、焼結に大きく寄与する。同様に、粘性低下も焼結し易い方に寄与するので、この結果耐火キャスタブル232はより一層高強度化することになり、条件によっては約2倍も強度が向上することもある。
【0031】
図3に、上記したSiC系耐火キャスタブル232において、温度に対する曲げ強さを評価する試験を行なった結果を示す。実施例(アルカリあり)として、焼却炉から採取した飛灰を耐火キャスタブルに載置して加熱し、各温度における耐火キャスタブルの曲げ強さを測定した。また比較例として、耐火キャスタブルに飛灰を載置しない場合(アルカリなし)においても試験を行なった。試験に用いた耐火キャスタブルは、SiCを主成分としてSiO・Al系結合剤を添加したSiC系耐火キャスタブルを用いた。耐火キャスタブルの全重量に対するSiO・Al系結合剤の添加量は15重量%とした。
同グラフに示されるように、実施例、比較例ともに、加熱温度が高くなるほど耐火キャスタブルは曲げ強さが高くなる。これは焼結が進むためと考えられるが、本実施形態のボイラ下部ホッパが適用される温度範囲(600〜800℃)においては、実施例のアルカリありの場合にて格段に曲げ強さが高いことがわかる。この試験からも明らかなように、ボイラ下部ホッパの温度範囲においては、耐火キャスタブルは飛灰との接触により、高温で焼結した時に近い曲げ強さを得ることができる。
【0032】
図4に、SiC系耐火キャスタブルとSiO・Al系耐火キャスタブルのアルカリ膨張の度合いを比較したグラフを示す。この試験では、SiCを主成分とするSiC系耐火キャスタブルと、SiO・Alを主成分とするSiO・Al系耐火キャスタブルを用いて、ボイラ下部ホッパの温度雰囲気である600℃と、それより高温である850℃(例えば焼却炉内)におけるアルカリ膨張を測定した。
この結果、SiC系耐火キャスタブルは何れの温度でもアルカリ膨張はそれ程変化がなく、SiO・Al系耐火キャスタブルは850℃にてアルカリ膨張が大きいことがわかる。しかし、本実施形態が適用されるボイラ下部ホッパの温度600〜800℃においてはSiO・Al系耐火キャスタブルもアルカリ膨張はわずかであり、この結果からSiO・Alを結合剤として用いてもアルカリ膨張が問題とならない程度であることがわかる。
【0033】
従って、ボイラ下部ホッパに施工する耐火キャスタブルとして、SiO・Al系結合剤を添加したSiC系キャスタブルを用いることにより、飛灰中のアルカリ成分との反応によってガラス状態をより安定化するとともに粘性を低下させ、耐火キャスタブルをより一層高強度化することができ、またSiO・Al系結合剤によるアルカリ膨張の影響は殆ど問題とならないため、高強度で耐久性の高い耐火構造とすることが可能である。
【0034】
さらに、前記耐火キャスタブルは、SiO・Al系結合剤の添加量が、前記耐火キャスタブルの全重量に対して10〜25重量%であることが好適である。
これは、前記SiO・Al系結合剤の添加量が10重量%以下だと少なすぎてSiC粒子を十分に結合することができず、25重量%以上だと多すぎてSiC粒子の高強度性を生かすことができないためである。従って、SiO・Al系結合剤の添加量を10〜25重量%とすることにより、SiCの高強度性を保ちつつSiC粒子の結合を強化してさらなる緻密化を図ることができ、耐火構造の耐久性を向上させることが可能となる。
【0035】
また、上記した600〜800℃の温度域下でアルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤とは、以下のものが挙げられる。
(1)アルカリ成分と反応しても密度変化が殆ど生じないようなSiOとAlの成分比率を有するSiO・Al系結合剤
具体的には、AlとSiOの総重量(Al+SiO)に対してAlの比率が30〜40重量%の結合剤、または、シャモットを主成分とする結合剤である。
【0036】
図5に、Al/(Al+SiO)比とアルカリ膨張の関係を示す。同グラフに示されるように、ボイラ下部ホッパの温度雰囲気である600〜800℃において、Al/(Al+SiO)の比が30〜40%のとき、アルカリ膨張は殆ど発生していないことがわかる。
図6に、Al/(Al+SiO)比と密度の関係を示す。同グラフにおいて、Al/(Al+SiO)比は実線Aで示される関係を有する。従って、この比を有するAl+SiO系結合剤は、飛灰中のアルカリ成分により低密度化合物に反応しても密度低下は僅かであるため、アルカリ膨張を最小限に抑え、耐火構造の耐久性を向上させることが可能である。
【0037】
一方、粘土鉱物を一度焼成したものを粉砕して粉末にしたものはシャモットと呼ばれるが、これは図6中の破線Bで示すAl/(Al+SiO)比を有する。従って上記と同様に、アルカリと反応して低密度化合物に反応しても密度低下が最も低いため、アルカリ膨張を最小限に抑え、耐火構造の耐久性を向上させることが可能である。またシャモットは廃瓦等を粉砕した原料を用いているため、資源の再利用が可能となる。
【0038】
(2)アルカリ成分を含むAl・SiO系結合剤
最初からアルカリ成分が入ったAl・SiO系結合剤を用いる。例えば、(K,Na)2O・Al・6SiO(sanidine)、KO・Al・4SiO(leucite)、(K,Na)2O・Al・2SiO(kalsilite)、KO・Al・2SiO(kaliophilite)等の鉱物が挙げられる。これらの鉱物におけるAl/(Al+SiO)比と密度の関係を図6に示す。
一般的にAl・SiO系化合物はアルカリと反応すると密度が下がって膨張する。特にムライト(3Al・SiO)組成は密度低下の割合が著しい。耐火キャスタブルの密度はAlとSiOの比率に対して図6に示すような関係がある。従って、最初からアルカリが入って低密度になった材料を主成分とすることにより、飛灰中のアルカリ成分と接触しても大きな密度変化が起こることはなく、耐火構造の耐久性を向上させることができる。
一方、Al/(Al+SiO)比を下げることで融点の低下が生じるが、本実施形態の適用部位であるボイラ下部ホッパでは運転温度が600〜800℃と高くはないため、問題にはならない。
【0039】
また、上記したような耐火構造において、耐火キャスタブルを複数のブロックに分割して施工するようにし、600〜800℃の温度域における耐火キャスタブルの膨張率に基づいて、ブロック間に膨張代となる隙間を設けることが好ましい。ブロック間に隙間を設けることにより、耐火キャスタブルがアルカリ膨張した場合においても座屈が生じないようにでき、耐火構造が破壊、脱落することを防止できる。また、本実施形態では従来の耐火キャスタブルよりアルカリ膨張を小さく抑えることができるため、この隙間でアルカリ膨張を吸収することが可能であり、膨張による座屈、破壊が発生しない構造にすることができる。
さらに、ブロック間の隙間に長繊維状の耐火物を充填することが好ましい。長繊維状の耐火物は、フェルト状でクッション性を有する耐火物が適している。このように、長繊維状の耐火物を隙間に充填することにより、飛灰が隙間に侵入することを防止できる。
【0040】
本実施形態に係る耐火構造の施工方法は、まずSiCを主成分とし、結合剤としてAl・SiO系結合剤を添加した原料を水で混練しておく。必要に応じて、セメント等の固化材を加える。そして、ホッパの施工面に対して所定間隙を有するごとく配置された型枠内に、水と原料とが混ぜ合わされたスラリーを流し込み、乾燥させた後型枠を取り外す。このようにして施工された耐火キャスタブルは、運転時に通流する排ガスからの熱により焼結して高強度化される。尚、本実施形態の耐火構造は、流し込みによる施工方法以外にも吹き付け又は圧入による施工方法等の方法を用いることができ、特にその施工方法は限定されない。
また、膨張代を設ける場合には、複数に分割したブロック毎に膨張代となる隙間を空けて型枠を設置し、耐火キャスタブルを施工することにより膨張代を形成する。別の方法として、耐火キャスタブルの原料を流し込むときに、膨張代の隙間に相当する介在体を設置しておき、キャスタブルが乾燥した後にこの介在体を取り外すことにより隙間を形成してもよい。
【0041】
また、図7に示すように、ホッパ23に施工される耐火キャスタブル232を、ホッパ内側から順に上層232aと中層232bと下層232cからなる3層構造とし、上層232aは上記したうようなAl・SiO系結合剤を添加したSiC系耐火キャスタブルで形成し、中層232bは軽量で且つ断熱性を有する断熱キャスタブルで形成し、下層232cは中層232bより断熱性が高い断熱キャスタブル又は保温材で形成することが好ましい。
本実施形態の耐火構造が適用されるボイラ下部ホッパ23は、上部構造との熱膨張率を合わせるために保温する必要がある。しかし一般的に、断熱性に優れた耐火物は耐食性が低く、耐食性に優れた耐火物は断熱性が低い。
【0042】
従って本実施形態では、耐食性が要求される耐火物を上層232aに用い、その下側232b、232cには断熱性に優れた耐火物又は保温材を用いることにより、耐食性と断熱性を併せ持った耐火構造とすることが可能となる。
また一般的に、断熱性(熱伝導性)と耐熱温度も相反する関係にあるので、より高い断熱性(より低い熱伝導率)が必要なときには適用温度を下げる必要がある。即ち、断熱性が必要な耐火物層をさらに分けて、中層232bにはより耐熱性の高い耐火物、下層232cにはより断熱性の高い耐火物を適用すると、全体の層の厚さや重量(断熱性の高い耐火物は空気を多く含むので軽い)を抑制することができ、且つ耐食性も高いものとすることができる。さらに、メンテナンス時には、上層のみを補修すればよいため工期の短縮化、及びコスト低減が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るボイラ下部ホッパの耐火構造は、焼却炉からの排ガスによる高温気相雰囲気下、及び排ガスに含有されるアルカリ成分による影響に対しても耐久性を高く維持することができるため、流動床式焼却炉、ロータリーキルン式焼却炉等の各種焼却炉に併設されるボイラに好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態が適用される焼却炉併設ボイラ設備の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る耐火構造を備えたボイラ下部ホッパの側断面図である。
【図3】耐火キャスタブルの温度と曲げ強さの関係を示すグラフである。
【図4】SiC系耐火キャスタブルとSiO・Al系耐火キャスタブルのアルカリ膨張の度合いを比較したグラフである。
【図5】Al/(Al+SiO)比とアルカリ膨張の関係を示すグラフである。
【図6】Al/(Al+SiO)比と密度の関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態に係る3層構造を有する耐火構造の断面を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0045】
1 焼却炉
2 ボイラ
21 排ガス通路
22 第1ホッパ
23 第2ホッパ
24 第3ホッパ
26 ボイラ水管
231 ケーシング
232 耐火キャスタブル(耐火構造)
232a 上層
232b 中層
232c 下層
233 飛灰排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却炉に併設されたボイラの耐火構造において、
前記耐火構造は、SiCを主成分とし、600〜800℃の温度域下にてアルカリ膨張が小さいSiO・Al系結合剤を添加した不定形耐火物からなり、該不定形耐火物を前記ボイラの下部に設けられたホッパに施工して構成されることを特徴とするボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項2】
前記SiO・Al系結合剤の添加量が、前記不定形耐火物の全重量に対して10〜25重量%であることを特徴とする請求項1記載のボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項3】
前記SiO・Al系結合剤は、AlとSiOの総重量(Al+SiO)に対してAlの比率が30〜40重量%の結合剤であることを特徴とする請求項1若しくは2記載のボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項4】
前記SiO・Al系結合剤は、シャモットを主成分とする結合剤であることを特徴とする請求項1若しくは2記載のボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項5】
前記SiO・Al系結合剤は、アルカリ成分を含む結合剤であることを特徴とする請求項1若しくは2記載のボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項6】
前記不定形耐火物は、複数のブロックに分割されて前記ホッパに施工されるとともに、前記温度域における不定形耐火物の膨張率に基づいて、隣接する前記ブロックの間に隙間を設けることを特徴とする請求項1若しくは2記載のボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項7】
前記耐火構造は、前記ホッパの内側から順に上層と中層と下層からなる3層構造であり、
前記上層は請求項1乃至5の何れかに記載の不定形耐火物で形成され、前記中層は軽量で且つ断熱性を有する耐火物で形成され、前記下層は前記中層より断熱性が高い耐火物又は保温材で形成されることを特徴とするボイラ下部ホッパの耐火構造。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載したボイラ下部ホッパの耐火構造を備えたボイラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−204223(P2009−204223A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46937(P2008−46937)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(501370370)三菱重工環境エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】