説明

ボイラ伝熱管およびボイラ

【課題】伝熱管の噴破を防止することができるボイラ伝熱管およびボイラを提供する。
【解決手段】内部に流体が流されるとともに、少なくともCrを含有する鋼材から形成されたボイラ伝熱管10と、ボイラ伝熱管10の内表面を冷間加工することにより形成された表面加工層と、が設けられ、表面加工層における加工度が、内表面における各区間11A,11B,11C,11D,12A,12B,12C,12Dにより異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、火力プラントにおけるボイラ伝熱管およびボイラに適用して好適なボイラ伝熱管およびボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボイラの伝熱管の内面には、水蒸気酸化スケールが生成および成長し剥離限界スケール厚さを超えると、ボイラの起動時や、停止時に水蒸気酸化スケールが剥離することがある。
このように剥離した水蒸気酸化スケールの剥離片は、伝熱管の内部を落下して下部ベンドに堆積する。堆積した剥離片は、下部ベンドを閉塞するおそれがある。下部ベンドが閉塞された状態で、ボイラの運転が開始または再開されると、伝熱管の内部における水蒸気の流量が低下する。すると、伝熱管が過熱により噴破するトラブルが発生するおそれがあった。
【0003】
上述のトラブルの発生を防止するために、ステンレス鋼から形成された伝熱管の内面に対してショットブラスト等の冷間加工を施す方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このように、ステンレス鋼に対してショットブラストなどの冷間加工を施すと、耐水蒸気酸化特性が向上するため、水蒸気酸化スケールの生成および成長が抑制され、水蒸気酸化スケールが剥離しにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−132437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ショットブラスト等の冷間加工が施されたステンレス鋼は、冷間加工が施されていないステンレス鋼と比較して、耐水蒸気酸化特性が向上する。しかしながら、それでも、水蒸気温度が650℃程度の状態でボイラが長時間運転されると、伝熱管の内面に水蒸気酸化スケールが成長し、水蒸気酸化スケールが剥離するという問題があった。
【0006】
言い換えると、上述のようなショットブラスト等の冷間加工は、水蒸気酸化スケールの成長速度を遅くさせることができ、これにより、水蒸気酸化スケールの剥離や、下部ベンドの閉塞が発生する時期を、冷間加工を施していない場合と比較して遅らせることができる。
【0007】
しかしながら、水蒸気酸化スケールの剥離や、下部ベンドの閉塞の発生を完全に防止することは困難であるため、伝熱管が過熱により噴破するトラブルを完全に防止することは困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、伝熱管の噴破を防止することができるボイラ伝熱管およびボイラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明のボイラ伝熱管は、内部に流体が流されるとともに、少なくともCrを含有する鋼材から形成された管材と、該管材の内表面を冷間加工することにより形成された表面加工層と、が設けられ、前記表面加工層における加工度が、前記内表面における位置により異なることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、管材の表面加工層における加工度が、内表面における位置により異なるため、内表面における酸化スケールの生成速度も異なることになる。そのため、生成された酸化スケールが剥離する時期も内表面における位置により変わることとなり、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0011】
ここで、表面加工層における酸化スケールの成長速度が、他の部分と異なる理由について説明する。
上述のように、冷間加工により形成された表面加工層には、他の部分と比較して高密度の転位が形成される。すると、管材を構成する鋼材から内表面へ、当該転位を通って鋼材に含まれるCrが拡散しやすくなる。このため、保護性の高いCr層が酸化初期に内表面に均一に生成されやすくなり、他の部分と比較して、表面加工層における酸化スケールの成長速度は低下する。
【0012】
一方で、表面加工層における加工度が変化すると、表面加工層における転位の密度も変化する。すると、鋼材から内表面に向かうCrの拡散量も変化し、酸化初期におけるCr層の生成されやすさが変化する。このため、表面加工層における加工度を、内表面の位置により変えることにより、酸化スケールの成長速度も内表面の位置により変わり、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0013】
ここで、表面加工層における加工度としては、表面加工層における歪量や、硬さなどを例示することができる。
さらに、表面加工層を形成する冷間加工としては、ショットブラスト加工を例示することができる。
【0014】
上記発明においては、前記表面加工層における加工度は、前記管材の長手方向に沿って変えられていることが望ましい。
【0015】
本発明によれば、内部を流れる流体の温度が変化する管材の長手方向に沿って、表面加工層における加工度を変えているため、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0016】
具体的には、管材の内部を流れる流体の温度は、当該流れの下流側になるほど高くなる。そして、表面加工層における加工度は、高温に晒される時間が長くなるほど低下しやすい。
【0017】
そのため、例えば、当該流れの上流側における表面加工層の加工度を相対的に高くし、当該流れの下流側における表面加工層の加工度を相対的に低くした場合、ボイラ伝熱管を長時間にわたって使用しても、当該流れの上流側における表面加工層の加工度と、当該流れの下流側における表面加工層の加工度との差を容易に維持する、あるいは、差を拡大させることができる。
その結果、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0018】
上記発明においては、前記管材は、周囲の高温流体の流れに対して交差する方向に延びて配置され、前記表面加工層における加工度は、前記管材の径方向に沿って変えられていることが望ましい。
【0019】
本発明によれば、高温流体の流れに対して交差する方向に延びる管材の径方向に沿って、表面加工層における加工度を変えているため、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0020】
具体的には、管材における温度の分布は、周囲の高温流体の流れに対する上流側が高く、下流側が低くなる。言い換えると、管材の径方向に沿って、当該流れの上流側の部分は下流側の部分よりも温度が高くなる。そして、表面加工層における加工度は、高温に晒される時間が長くなるほど低下しやすい。
【0021】
そのため、例えば、当該流れの上流側における表面加工層の加工度を相対的に低くし、当該流れの下流側における表面加工層の加工度を相対的に高くした場合、ボイラ伝熱管を長時間にわたって使用しても、当該流れの上流側における表面加工層の加工度と、当該流れの下流側における表面加工層の加工度との差を容易に維持する、あるいは、差を拡大させることができる。
その結果、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0022】
ここで、管材における温度の分布を形成する原因としては、上述の高温流体を発生させるボイラにおける熱源から放射される輻射熱を例示することができる。
【0023】
本発明のボイラは、上記本発明のボイラ伝熱管が設けられていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、上記本発明のボイラ伝熱管が設けられているため、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することが防止され、ボイラにおける不具合の発生が防止される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のボイラ伝熱管およびボイラによれば、管材の表面加工層における加工度を、内表面における位置により異ならせているため、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できることから、剥離した大量の酸化スケールによる伝熱管の噴破を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるボイラに設けられたボイラ伝熱管の構成を説明する模式図である。
【図2】水蒸気酸化スケールの厚さと、表層の歪量との間の関係を説明するグラフである。
【図3】表層の歪量と、表層のビッカース硬さとの間の関係を説明するグラフである。
【図4】表層のビッカース硬さと、ショットブラスト処理における投射材の流速との間の関係を説明するグラフである。
【図5】ボイラ伝熱管の内表面における歪量、ショットブラスト加工における表面硬さの上昇量、および、ショットブラスト加工を施していない供試材の水蒸気酸化スケール厚さに対する水蒸気酸化スケールの厚さ比の関係を説明するグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態のおけるボイラに設けられたボイラ伝熱管の構成を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係るボイラついて図1から図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態におけるボイラに設けられたボイラ伝熱管の構成を説明する模式図である。
ボイラ1は、外部から供給された燃料を燃焼させることにより熱を発生させ、発生した熱を用いて水から蒸気を生成する機器である。
ボイラ1には、図1に示すように、燃料が燃焼される火炉(図示せず)や、ボイラ伝熱管10から構成された過熱器などが設けられている。
【0028】
ボイラ伝熱管10は、少なくともCr(クロム)を含む鋼、例えばステンレス鋼から構成された管材であって、その内部に高圧の水蒸気が流れるものである。
ボイラ伝熱管10は、火炉における燃料の燃焼により発生した高温の燃焼ガス(高温流体)が図1における左側から右側に流れる火炉後部に配置されている。なお、本実施形態では、図1に示すように、ボイラ伝熱管10が略U字状に折り曲げられた例に適用して説明する。
【0029】
ボイラ伝熱管10は、燃焼ガスの上流側(図1の左側)の端部から、水蒸気(流体)が供給されるように構成され、かつ、下流側(図1の右側)の端部から、ボイラ伝熱管10において発生した水蒸気が蒸気タービンなどの他の機器に供給されるように構成されている。
【0030】
さらに、ボイラ伝熱管10には、図1に示すように、水蒸気が流出する端部(図1の右側の端部)から順に、第1区間11A,第2区間11B,第3区間11C,第4区間11D,第5区間12A,第6区間12B,第7区間12Cおよび第8区間12Dが設定されている。
【0031】
具体的には、水蒸気が流出する端部から折り返し部分までのボイラ伝熱管10が直線状に延びた部分、言い換えると、図1における右側の直線状に延びた部分には、第1区間11Aから第4区間11Dまでが設定されている。その一方で、上述の折り返し部分から水蒸気が供給される端部までのボイラ伝熱管10が直線状に延びた部分、言い換えると、図1における左側の直線状に延びた部分には、第5区間12Aから第8区間12Dまでが設定されている。
【0032】
ボイラ伝熱管10の内表面、つまり、水蒸気と接触する面には、ショットブラスト処理が施されており、当該ショットブラスト処理の程度が各区間11A,11B,11C,11D,12A,12B,12C,12Dにおいて異なっている。
【0033】
具体的には、第1区間11Aおよび第5区間12Aでは、ボイラ伝熱管10の内表面にショットブラスト処理が施されておらず、第2区間11Bおよび第6区間12Bでは、低程度のショットブラスト処理が施されている。さらに、第3区間11Cおよび第7区間12Cでは、中程度のショットブラスト処理が施され、第4区間11Dおよび第8区間12Dでは、高程度のショットブラスト処理が施されている。
【0034】
なお、ボイラ伝熱管10を上述のように8つの区間に分割してショットブラスト処理の程度を変えてもよいし、8つよりも多くの区間、または、8つよりも少ない区間に分割してショットブラスト処理の程度を変えてもよく、特に限定するものではない。
【0035】
本実施形態では、ボイラ伝熱管10の内表面が、ビッカース硬さにおいてショットブラスト加工による表面の硬さ上昇量が110%程度になるショットブラスト処理を低程度のショットブラスト処理とし、ショットブラスト加工による表面の硬さ上昇量が150%程度になるショットブラスト処理を中程度のショットブラスト処理とし、ショットブラスト加工による表面の硬さ上昇量が300%程度になるショットブラスト処理を高程度のショットブラスト処理としている。
【0036】
なお、上述のように、ショットブラスト処理なし、低程度、中程度、高程度のショットブラスト処理の4段階に分けてショットブラスト処理の程度を変えてもよいし、4段階よりも多くの段階に分けて、または、4段階よりも少ない段階に分けてショットブラスト処理の程度をかえてもよく、特に限定するものではない。
【0037】
次に、上記の構成からなるボイラ1における作用について説明する。
ボイラ1の運転が開始されると、ボイラ伝熱管10に水蒸気が供給されるとともに、当該水蒸気は燃焼ガスの熱を吸収して過熱水蒸気となる。過熱水蒸気は、ボイラ伝熱管10から蒸気タービンなどの他の機器に供給される。
【0038】
ボイラ1の運転が継続されている間、ボイラ伝熱管10の内部では、内表面に対して施されたショットブラスト処理の程度などに応じて、水蒸気酸化スケールが成長し続ける。
具体的には、ショットブラスト処理が施されていないボイラ伝熱管10の第1区間11Aおよび第5区間12Aにおいて水蒸気酸化スケールの成長速度が最も速く、以下、ショットブラスト処理の程度が高くなるに伴い、水蒸気酸化スケールの成長速度が遅くなる。つまり、第2区間11Bおよび第6区間12B、第3区間11Cおよび第7区間12C、第4区間11Dおよび第8区間12Dの順に水蒸気酸化スケールの成長速度が遅くなる。
【0039】
水蒸気酸化スケールが所定の厚さにまで成長した状態で、ボイラ1の運転停止が繰り返されると、ボイラ伝熱管10と水蒸気酸化スケールとの間の熱膨張率の差により、水蒸気酸化スケールがボイラ伝熱管10の内表面から剥離する。
【0040】
このとき、水蒸気酸化スケールの成長速度が最も速いボイラ伝熱管10の第1区間11Aおよび第5区間12Aのみにおいて水蒸気酸化スケールの剥離が発生する。このとき、他の区間では水蒸気酸化スケールは上述の所定の厚さまで成長していないため、ボイラ伝熱管10から剥離しない。
言い換えると、ボイラ伝熱管10の全内表面において水蒸気酸化スケールの剥離が発生することがない。
【0041】
その後、ボイラ1の運転を継続すると、次に水蒸気酸化スケールの成長速度の速い第2区間11Bおよび第6区間12Bにおいて水蒸気酸化スケールの剥離が発生し、以下、第3区間11Cおよび第7区間12C、第4区間11Dおよび第8区間12Dの順に水蒸気酸化スケールの順に水蒸気酸化スケールの剥離が発生する。
【0042】
ここで、水蒸気酸化スケールの成長速度と、内表面に対するショットブラスト処理および内表面における表層のビッカース硬さと、の間の関係について説明する。
図2は、水蒸気酸化スケールの厚さと、表層の歪量との間の関係を説明するグラフである。
【0043】
ボイラ伝熱管10の内表面に付着する水蒸気酸化スケールの厚さは、図2に示すように、内表面(表面加工層)における表層の歪量(加工度)が大きくなるほど薄くなり、所定の歪量を超えると水蒸気酸化スケールの厚さは変化しなくなる。言い換えると、水蒸気酸化スケールの成長速度は、内表面における歪量が大きくなるほど遅くなる。
【0044】
具体的に説明すると、ボイラ伝熱管10の内表面に歪みがある部分には、歪みがない部分と比較して高密度の転位が形成されている。すると、ボイラ伝熱管10を構成するステンレス鋼から内表面へ、当該転位を通ってステンレス鋼に含まれるCrが拡散しやすくなる。このため、保護性の高いCr層が酸化初期に内表面に均一に生成されやすくなり、歪みがない部分と比較して、歪みがある部分における酸化スケールの成長速度は低下する。
【0045】
図3は、表層の歪量と、表層のビッカース硬さとの間の関係を説明するグラフである。
そして、上述の内表面の表層における歪量は、図3に示すように、内表面における表層のビッカース硬さ(加工度)に略比例している。つまり、表層のビッカース硬さが高くなると、内表面における歪量も増加し、ビッカース硬さが所定の値を超えると、内表面における歪量は略一定となる。
【0046】
図4は、表層のビッカース硬さと、ショットブラスト処理における投射材の流速との間の関係を説明するグラフである。
さらに、表層のビッカース硬さは、図4に示すように、内表面に対してショットブラスト処理を行う際の投射材の流速に略比例している。つまり、投射材の流速が速くなると、表面加工層である表層のビッカース硬さの値も大きくなり、投射材の流速が所定の値よりも大きくなると、表層のビッカース硬さの値も略一定となる。
【0047】
なお、ショットブラスト処理を施す場合におけるパラメータとしては、上述の投射材の流速の他にも、投射材の粒子量や、ボイラ伝熱管10の送り速度などを挙げることができる。
【0048】
つまり、上述の図2から図4に示されたグラフから、ショットブラスト処理を施す際における投射材の流速を調節することにより、ブラスト処理が施された表面加工層を有する内表面における水蒸気酸化スケールの成長速度を制御することができる。
【0049】
具体的には、ボイラ伝熱管10の内表面における表面加工層の歪量が変化すると、内表面つまり表面加工層における転位の密度も変化する。すると、ステンレス鋼から内表面に向かうCrの拡散量も変化し、酸化初期におけるCr層の生成されやすさが変化する。このため、内表面における歪量を調節することにより、水蒸気酸化スケールの成長速度も調節することができる。
【0050】
図5は、ボイラ伝熱管の内表面の表層における歪量、ショットブラスト加工における表面硬さの上昇量、および、ショットブラスト処理を施していない供試材の水蒸気酸化スケール厚さに対する水蒸気酸化スケールの厚さ比の関係を説明するグラフである。
具体的には、ボイラ伝熱管10の内表面における表面加工層における歪量と、ブラスト処理されていない水蒸気酸化スケール厚さに対するブラスト材の水蒸気酸化スケール生成率(%)との関係と、表面加工層における歪量と、母材に対する表面加工層の硬さ率(%)との関係を説明するグラフである。
【0051】
なお、このグラフの作成に用いられたデータは、ステンレス鋼(18Cr−8Ni)を用いて形成されたボイラ伝熱管10に、675℃の水蒸気を2000時間流通させることにより得られたものである。
【0052】
表面加工層における歪量が大きい(図5における左側)場合、言い換えると、高程度のショットブラスト処理が施されている場合には、図5における白抜きの丸(○)で示すように、内表面に付着する水蒸気酸化スケールの厚さが薄くなり、黒塗り三角(▲)で示すように、表面加工層の硬さの値が大きくなる。
【0053】
その一方で、表面加工層における歪量が小さくなる(図5における右側に移動する)と、言い換えると、中程度や低程度のショットブラスト処理が施されると、内表面に付着する水蒸気酸化スケールの厚さの値が次第に大きくなり、ショットブラスト処理が施されていないスケール生成量に近くなる。一方、表面加工層の硬さの値は次第に小さくなり、ショットブラスト処理が施されていない内表面の硬さに近くなる。
【0054】
上記の構成によれば、ボイラ伝熱管10の表面加工層における歪量が、第1区間11Aから第4区間11Dの間、および、第5区間12Aから第8区間12Dの間で異なるため、各区間における内表面における水蒸気酸化スケールの生成速度も異なることになる。
そのため、生成された水蒸気酸化スケールが剥離する時期も各区間11A,11B,11C,11D,12A,12B,12C,12Dにより変わることとなり、ボイラ伝熱管10における全内表面から一度に水蒸気酸化スケールが剥離することを防止できる。その結果、ボイラ1においてボイラ伝熱管10などが噴破することを防止できる。
【0055】
さらに、内部を流れる水蒸気等の温度が変化するボイラ伝熱管10の長手方向に沿って、表面加工層における歪量を変えているため、ボイラ伝熱管10における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0056】
具体的には、ボイラ伝熱管10の内部を流れる水蒸気の温度は、当該流れの下流側になるほど高くなる。そして、表面加工層における歪量などは、高温に晒される時間が長くなるほど低下しやすい。
【0057】
本実施形態では、水蒸気等の流れの上流側、つまり第4区間11Dおよび第8区間12Dにおける表面加工層の歪量を相対的に高くし、当該流れの下流側、つまり第1区間11Aおよび第5区間12Aにおける表面加工層の歪量を相対的に低くしている。そのため、ボイラ1の運転時間が長くなり、ボイラ伝熱管10を長時間にわたって使用しても、当該流れの上流側における表面加工層の歪量と、当該流れの下流側における表面加工層の歪量との差を容易に維持する、あるいは、差を拡大させることができる。
【0058】
つまり、表面加工層における歪量は、高温に晒される時間が長くなるほど低下しやすく、ボイラ伝熱管10の内部を流れる水蒸気等の温度は、流れの下流側になるほど高くなる。そのため、水蒸気の温度が比較的高い下流側における表面加工層の歪量を相対的に低くし、水蒸気の温度が比較的低い上流側における表面加工層の歪量を相対的に高くすることで、歪量が熱により低下しても、両者の歪量の差を容易に維持する、あるいは、差を拡大させることができる。
【0059】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図6を参照して説明する。
本実施形態のボイラの基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、ボイラ伝熱管におけるショットブラスト処理を施す方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図6を用いてボイラ伝熱管について説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
図6は、本実施形態のおけるボイラに設けられたボイラ伝熱管の構成を説明する模式図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
ボイラ1には、図6に示すように、燃料が燃焼される火炉(図示せず)や、ボイラ伝熱管20から構成された過熱器などが設けられている。
【0061】
ボイラ伝熱管20は、少なくともCr(クロム)を含む鋼、例えばステンレス鋼から構成された管材であって、その内部に高圧の水蒸気が流れるものである。
ボイラ伝熱管20は、火炉における燃料の燃焼により発生した高温の燃焼ガス(高温流体)が図6における左側から右側に流れる火炉後部に配置されている。言い換えると、ボイラ伝熱管20は、燃焼ガスの流れに対して略直交する方向に延びて配置されている。
なお、本実施形態では、図6に示すように、ボイラ伝熱管20が略U字状に折り曲げられた例に適用して説明する。
【0062】
ボイラ伝熱管20は、燃焼ガスの上流側(図6の左側)の端部から、水蒸気(流体)が供給されるように構成され、かつ、下流側(図6の右側)の端部から、ボイラ伝熱管20において発生した水蒸気が蒸気タービンなどの他の機器に供給されるように構成されている。
【0063】
さらに、ボイラ伝熱管20には、図6に示すように、燃焼ガスの上流側(図6の左側)の第1領域21A、および、下流側の第2領域21Bが設定されている。
具体的には、ボイラ伝熱管20における水蒸気が流出する端部から折り返し部分までの直線状に延びた部分、および、上述の折り返し部分から水蒸気が供給される端部までの直線状に延びた部分であって、火炉側に配置された領域に第1領域21Aが設定され、反対側の領域に第2領域21Bが設定されている。
【0064】
ボイラ伝熱管20の内表面、つまり、水蒸気と接触する面には、ショットブラスト処理が施されており、当該ショットブラスト処理の程度が第1領域21Aおよび第2領域21Bにおいて異なっている。
【0065】
具体的には、第1領域21Aでは、ボイラ伝熱管20の内表面にショットブラスト処理が施されておらず、第2領域21Bではショットブラスト処理が施されている。言い換えると、ボイラ伝熱管20の径方向に沿ってショットブラスト処理の程度を変えることにより、ボイラ伝熱管20の内表面に形成される表面加工層の硬さを変えている。
本実施形態では、第2領域21Bに対して、ビッカース硬さにおいてショットブラスト加工による表面の硬さ上昇量が300%程度になるショットブラスト処理を施す例に適用して説明する。
【0066】
次に、上記の構成からなるボイラ1における作用について説明する。
ボイラ1の運転における蒸気の生成方法等については、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0067】
ここで、ボイラ伝熱管20における水蒸気酸化スケールの成長について説明する。
ボイラ1の運転が継続されていると、ボイラ伝熱管20の内部では、内表面に対して施されたショットブラスト処理の程度などに応じて、水蒸気酸化スケールが成長し続ける。
具体的には、ショットブラスト処理が施されていないボイラ伝熱管10の第1領域21Aにおいて水蒸気酸化スケールの成長速度が相対的に速く、ショットブラスト処理が施された第2領域21Bにおける水蒸気酸化スケールの成長速度が相対的に遅くなる。
【0068】
水蒸気酸化スケールが所定の厚さにまで成長した状態で、ボイラ1の運転停止が繰り返されると、ボイラ伝熱管20と水蒸気酸化スケールとの間の熱膨張率の差により、水蒸気酸化スケールがボイラ伝熱管20の内表面から剥離する。
【0069】
このとき、水蒸気酸化スケールの成長速度が最も速いボイラ伝熱管20の第1領域21Aのみにおいて水蒸気酸化スケールの剥離が発生する。このとき、第2領域21Bでは水蒸気酸化スケールは上述の所定の厚さまで成長していないため、ボイラ伝熱管20から剥離しない。
言い換えると、ボイラ伝熱管20の全内表面において水蒸気酸化スケールの剥離が発生することがない。
【0070】
その後、ボイラ1の運転を継続すると、次に水蒸気酸化スケールの成長速度が相対的に遅い第2領域21Bにおいて水蒸気酸化スケールの剥離が発生する。
【0071】
本実施形態では、燃焼ガスの流れに対して略直交する方向に延びるボイラ伝熱管20の径方向に沿って、表面加工層の硬さを変えているため、ボイラ伝熱管20における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【0072】
具体的には、ボイラ伝熱管10における温度の分布は、周囲の燃焼ガスの流れに対する上流側が高く、下流側が低くなる。言い換えると、ボイラ伝熱管10の径方向に沿って、当該流れの上流側の部分は下流側の部分よりも温度が高くなる。このボイラ伝熱管10における温度の分布を形成する原因としては、上述の燃焼ガスを発生させる火炉から放射される輻射熱を例示することができる。
そして、表面加工層における歪量などは、高温に晒される時間が長くなるほど低下しやすい。
【0073】
本実施形態では、ボイラ伝熱管20における第1領域21Aには、ショットブラスト処理を施さず内表面の歪量を相対的に低い状態とし、ボイラ伝熱管20における第2領域21Bには、ショットブラスト処理を施し、内表面における表面加工層の歪量を相対的に高い状態としている。そのため、ボイラ伝熱管20を長時間にわたって使用しても、ボイラ伝熱管20の第1領域21Aにおける歪量と、第2領域21Bにおける表面加工層の歪量との差を容易に維持する、あるいは、差を拡大させることができる。
その結果、ボイラ伝熱管における全内表面から一度に酸化スケールが剥離することを防止できる。
【符号の説明】
【0074】
1 ボイラ
10,20 ボイラ伝熱管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が流されるとともに、少なくともCrを含有する鋼材から形成された管材と、
該管材の内表面を冷間加工することにより形成された表面加工層と、
が設けられ、
前記表面加工層における加工度が、前記内表面における位置により異なることを特徴とするボイラ伝熱管。
【請求項2】
前記表面加工層における加工度は、前記管材の長手方向に沿って変えられていることを特徴とする請求項1記載のボイラ伝熱管。
【請求項3】
前記管材は、周囲の高温流体の流れに対して交差する方向に延びて配置され、
前記表面加工層における加工度は、前記管材の径方向に沿って変えられていることを特徴とする請求項1記載のボイラ伝熱管。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のボイラ伝熱管が設けられていることを特徴とするボイラ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−164207(P2010−164207A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4852(P2009−4852)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】