説明

ボイラ構造およびボイラの改造方法

【課題】炉底灰処理設備を設けることなく、簡素かつコンパクトな構成により、石油コークス等の安価な固体燃料を使用可能にして運転コストを低減させるとともに、重油やガス焚きのボイラを容易に固体燃料焚きのボイラに改造可能にする。
【解決手段】炉壁部2および炉底部3を有する火炉4と、炉壁部2および炉底部3を冷却するように配設された炉壁管31と、炉壁部2に設置される固体燃料燃焼バーナ5と、炉底部3を冷却する炉壁管31と火炉4の燃焼室14との間を断熱するように炉底部3上に敷設された断熱材40とを備え、固体燃料燃焼バーナ5の下端から断熱材40の燃焼室14と接する面までの鉛直方向の高さHを、固体燃料燃焼バーナ5に供給される固体燃料の灰45が断熱材40の上に堆積した際に、この灰45が溶融温度以上に保たれる高さに設定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、価格の安い石油コークス等の固体燃料を燃焼させるボイラ構造およびボイラの改造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所等のボイラに供給される燃料としては、石炭等の固体燃料、重油等の液体燃料、液化天然ガス等の気体燃料があるが、昨今では原油価格の高騰や温室効果ガスの排出量規制等により、安価で低公害な液化天然ガスがボイラ燃料の主流になりつつある。一方、重油等と共存できる固体燃料として石油コークスが注目されてきている。石油コークスは、石油精製装置から出るアスファルト級の重質油を、コーキング装置等にて約600℃で処理して熱分解を行ったときの残査分であり、主成分が炭素の固形物である。
【0003】
これまで、石油コークスは極めて燃えにくいことから燃料としての活用が困難であり、わずかにアルミ精錬用の電極といった限定された用途以外には活用方法がなく、処理に困る物質であった。したがって、石油コークスは燃料としては安価であり、また着火条件および燃焼条件さえ整えば強力な火力が得られるため、本発明の出願人らは、1980年代から石油コークスをボイラ燃料として用いるべく研究を行い、その末に、特許文献1,2等に開示されるように、石油コークス等を直接燃焼させることができる画期的なボイラを開発し、実用化するに至った。これに伴い、各地の発電所等において重油に代わるボイラ燃料として石油コークスの検討がなされている。
【0004】
一般に、固体燃料を焚くボイラでは、燃焼後の灰を排出するために、例えば特許文献3に開示されているように、火炉の炉底部にホッパ状の炉底灰処理設備が設置されている。この炉底灰処理設備は、例えば半年間程度の連続運転を可能にするために所定の容量が必要である。石油コークスも固体燃料であるため、石油コークス焚きのボイラを新造する場合は炉底灰処理設備を設ける必要がある。このため、ボイラの炉底部下方に高さ方向に相応のスペースが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−91235号公報
【特許文献2】特開2008−209062号公報
【特許文献3】特開昭58−88527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石油コークス焚きのボイラは、バーナを除いた火炉の構造が重油焚きのボイラに近似しているため、重油焚きのボイラのバーナを石油コークス用のもの(固体燃料燃焼用バーナ)に変更し、前述の炉底灰処理設備を追加すれば、石油コークス焚きのボイラに改造することができる。
【0007】
しかしながら、重油焚きのボイラに炉底灰処理設備を追加するには、火炉が設置されている地面を掘り下げて炉底灰処理設備を設けるスペースを形成するか、あるいは火炉を丸ごと持ち上げて炉底灰処理設備を設置することになり、いずれにしても技術的・コスト的にハードルが高い。石油コークスをボイラ燃料として使用する最大の目的は燃料のコスト低減にあるため、石油コークス焚きのボイラに改造するための改造費用が嵩むのでは早急なコストダウン効果を期待できない。
【0008】
一方、炉底灰処理設備を追加する代わりに、炉底部に堆積する灰を定期的に除去する作業を行うことが考えられるが、この除去作業は頻繁に行う必要があり、その度にボイラの運転を停止しなければならないため、長時間(数十日〜数ヶ月以上)の連続運転が困難である。このため、発電所のように昼夜を問わずに稼動し続けていなければならないボイラにおいては実用的ではない。
【0009】
なお、重油焚きのボイラからの改造ではなく、石油コークス焚きのボイラを新造した場合のように、所定の炉底灰処理設備を設けた場合であっても、この炉底灰処理設備の信頼性確保が難しく、運用メンテナンスに手間を要するといった問題点があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、炉底灰処理設備を設けることなく、簡素かつコンパクトな構成により、石油コークス等の安価な固体燃料を使用可能にして運転コストを低減させることができ、しかも重油やガス焚きのボイラを容易に固体燃料焚きのボイラに改造することのできるボイラ構造およびボイラの改造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
即ち、本発明に係るボイラ構造の第1の態様は、炉壁部および炉底部を有する火炉と、前記炉壁部および前記炉底部を冷却するように配設された炉壁管と、前記炉壁部に設置される固体燃料燃焼バーナと、前記炉底部を冷却する前記炉壁管に対して前記火炉の燃焼室を断熱するように前記炉底部上に敷設された断熱材と、を備え、前記固体燃料燃焼バーナの下端から前記断熱材の前記燃焼室と接する面までの鉛直方向の高さを、前記固体燃料燃焼バーナに供給される固体燃料の灰が前記断熱材の上に堆積した際に、前記灰が溶融温度以上に保たれる高さに設定したことを特徴とする。
【0012】
上記のように炉底部に配設された炉壁管と火炉の燃焼室との間を断熱する断熱材を炉底部上に敷設した事により、炉底に堆積する固体燃料の灰が炉壁管によって冷却されることなく高温な状態に保たれる。そして、この灰は固体燃料燃焼バーナに加熱され続けて溶融状態に保たれる。このように、燃焼した固形燃料の灰が断熱材により保温されるとともにバーナによって加熱されて溶融温度に保たれるため、炉底に溜まった灰のうち、未燃炭素分は蒸し焼き的な状態で酸素と反応し、一酸化炭素または二酸化炭素となって消失する。また、残った灰分は、バナジウムを主成分としてナトリウムやカリウム等の成分を含んだ化合物であって、溶融状態に保たれることによって徐々に揮発する。したがって、灰が堆積していく量と、灰が消失していく量とを均衡させることができる。
【0013】
このため、石油コークス等の固体燃料を使用してボイラを長時間運転しても、ボイラの炉底に灰分が多く堆積することを防止し、通常の固体燃料焚きのボイラに装備されている炉底灰処理設備を省いた簡素な構成としつつ、長時間の連続運転が可能なボイラとすることができる。しかも、炉底灰処理設備を設けなくてもよい分、ボイラの特に高さ方向の寸法をコンパクト化することができる。
【0014】
また、本発明に係るボイラ構造の第2の態様は、前記第1の態様において、前記固体燃料は石油コークスであることを特徴とする。
【0015】
このように、燃料として石油コークスを用いることにより、燃料費を安くしてボイラの運転コストを低減させることができる。
【0016】
また、本発明に係るボイラ構造の第3の態様は、前記第1または第2の態様において、前記炉底部は、その外縁部から中央部に向かって下降する傾斜面であり、その傾斜角度は、前記灰が溶融した状態で前記炉底部の中央部に流動し得る最小限の角度であることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、炉底部に敷設された断熱材の上に堆積する固体燃料の灰が、重力により炉底部の中央部に集められる。このため、一般に炉壁部に複数基設置されて互いに対向する固体燃料燃焼バーナの火炎が、炉底部の中央部に集められた固体燃料の灰を良好に加熱することができ、前述のように灰を消失させる作用を高めることができる。
【0018】
また、炉底部の傾斜角度が、溶融した灰が炉底部の中央部に流動し得る最小限の角度であるため、炉底部の高さ寸法を小さくすることができ、これによってボイラの高さ方向の寸法をコンパクト化することができる。
【0019】
また、本発明に係るボイラ構造の第4の態様は、前記第1から第3のいずれかの態様において、前記固体燃料燃焼バーナの下端から前記断熱材の前記燃焼室と接する面までの鉛直方向の高さを調整可能にするバーナ高さ調整手段を有することを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、バーナ高さ調整手段により、固体燃料燃焼バーナ下端から断熱材の燃焼室と接する面までの鉛直方向の高さを調整することができるため、固体燃料の種類や性状に応じて固体燃料燃焼バーナの高さを調整し、炉壁部(断熱材)の上に堆積した灰を最適な温度で加熱することができる。このため、灰を溶融状態に加熱するのに必要以上の熱が消費されてボイラ効率が低下する、あるいは灰を溶融状態に加熱できずに灰を炉底部に堆積させてしまう、といった不具合を解消することができる。
【0021】
また、本発明に係るボイラの改造方法は、炉壁部および炉底部を有する火炉と、前記炉壁部および前記炉底部に近接して配設された炉壁管と、前記炉壁部に設置されて前記炉壁管を加熱する液体または気体燃料燃焼バーナと、を備えたボイラの改造方法において、前記液体または気体燃料燃焼バーナを固体燃料燃焼バーナに換装し、前記炉底部に断熱材を敷設することにより、前記炉底部を冷却するように配設された前記炉壁管に対して前記火炉の燃焼室を断熱し、前記固体燃料燃焼バーナの下端から前記断熱材の前記燃焼室と接する面までの鉛直方向からの高さを、前記固体燃料燃焼バーナに供給される固体燃料の灰が前記断熱材の上に堆積した際に、前記灰が溶融温度以上に保たれる高さに設定することを特徴とする。
【0022】
このボイラの改造方法によれば、既存の重油焚きもしくはガス焚きのボイラを、固体燃料焚きのボイラに容易に改造することができる。さらに、このように固体燃料焚きのボイラに改造した後でも、固体燃料燃焼バーナを液体燃料燃焼バーナまたは気体燃料燃焼バーナに再換装すれば、再び重油やガス焚きのボイラに戻すことが容易にできる。したがって、ボイラプラントにおける燃料調達状況に応じて使用する燃料を臨機応変に変更できるようにし、経済的なボイラプラントとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明に係るボイラ構造およびボイラの改造方法によれば、炉底灰処理設備を設けることなく、簡素かつコンパクトな構成により、石油コークス等の安価な固体燃料を使用可能にして運転コストを低減させることができ、しかも重油やガス焚きのボイラを容易に固体燃料焚きのボイラに改造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るボイラ構造を適用可能なボイラプラントの概略構成図である。
【図2】図1のII部を拡大して本発明の一実施形態に係るボイラ構造を示す縦断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う炉壁部の縦断面図である。
【図4】図2のIV-IV線に沿う炉底部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るボイラ構造を適用可能なボイラプラントの概略構成図である。このボイラプラントのボイラ1は、炉壁部2および炉底部3を有して鉛直方向に延びる有底函状に形成された火炉4を備えている。火炉4の下部には固体燃料燃焼バーナ5が設置され、火炉4の上部に煙道7が連結されている。そして、火炉4の上部から煙道7にかけて、過熱器8、再熱器9、脱硝装置11、エコノマイザ12等の機器類が内蔵されている。
【0026】
火炉4の内部は燃焼室14(図2参照)とされ、この燃焼室14に燃焼用の空気を供給する送気管15が火炉4の外部に設けられている。送気管15は煙道7の下流部と並ぶように配置され、煙道7と送気管15に跨って空気予熱器16が設けられている。また、火炉4の上部に蒸気ドラム18が設置され、火炉4の下部に水ドラム(ヘッダ)19が設置されている。上記の構成および各部の機能は周知のボイラと同様である。
【0027】
本発明に用いられる固体燃料としては、炭素を主成分とし、灰分が4.0重量%以下であり、且つSiなどの高融点元素の灰分含有量が半分以下のものである。この中で、石油コークスが本発明の目的を達成する上で最も好ましい。また、その条件を超えた固体燃料を用いた場合、灰の量が増加して後述する炉底部3の上に堆積する灰45の量が増えてしまうため好ましくない。
【0028】
石油コークスは火炉4の近傍に設置されたミル装置21のホッパ22に貯蔵され、ミル装置21によって微粉状に粉砕されて圧縮空気と共に固体燃料燃焼バーナ5に供給される。一方、煙道7の終端部から延びる排気管24に電気集塵器25、誘引通風器26、脱硫装置27が接続され、排気管24が煙突28に繋がっている。
【0029】
火炉4を構成する炉壁部2および炉底部3には、固体燃料燃焼バーナ5が発生させる高熱からの保護、および燃焼室14内の高熱を有効に利用して水を蒸発させる目的で、一般に図3および図4に示すような水冷炉壁が採用されている。炉壁部2は、火炉外板30の内側に多数の炉壁管31が密集して配設された構造である。炉壁管31は、その間を接続板32で接続されて壁状に形成されていて、炉壁管31の内部を流通する水や蒸気と、燃焼室14内の高熱とが熱交換されて炉壁部2が冷却される。
【0030】
また、炉底部3は、炉壁部2と同じく壁状に形成された炉壁管31により構成されており、その外縁部から中央部に向かって下降する傾斜面であり、火炉4の底板33から延びるサポート部材34によって下方から支持されている。炉底部3の傾斜角度は、後述するように石油コークスの灰45が固体燃料燃焼バーナ5の熱によって溶融状態となった時に、炉底部3の最も低い箇所である中央部に流動し得る最小限の角度5°以上であれば良く、15°程度が望ましい。特に、ボイラ1の高さ方向の寸法をコンパクト化するためには60°以下に設定することが望ましい。なお、図2に示すように、各炉壁管31からはヘッダ管36が延びて炉底部3の下方に設置された水ドラム19に接続されている。図1にも示すように、水ドラム19と蒸気ドラム18との間が蒸気管37で接続されている。
【0031】
炉底部3を構成する壁状の炉壁管31の上面には、所定の耐熱性を有する断熱材40が敷設されている。この断熱材40の一例として耐火煉瓦が例示できるが、他の材質であってもよい。断熱材40の耐熱温度は、固体燃料燃焼バーナ5が発生する最大温度(例えば1600℃)よりも高い必要がある。また、断熱材40の厚みT(図4参照)は、固体燃料燃焼バーナ5が発生する最大温度の中で、炉壁管31に対して燃焼室14を確実に断熱できる寸法とされる。なお、炉壁部2には炉底部3よりも高い位置にマンホール43が設けられている。
【0032】
一方、固体燃料燃焼バーナ5は、バーナ高さ調整機構46(バーナ高さ調整手段)を介して炉壁部2に取り付けられている。固体燃料燃焼バーナ5の下端から断熱材40の燃焼室14と接する面までの鉛直方向の高さ寸法Hは、固体燃料燃焼バーナ5に供給される石炭コークスが燃焼して、その灰45が断熱材40の上に降り積もった際に、灰45が溶融温度以上に保たれる高さに設定する必要がある。また、上記高さ寸法Hは、灰45が溶融温度以上に保たれる高さであればバーナ5の下端と断熱材40の燃焼室14と接する面のどの位置との高さを採っても良い。この高さ寸法Hは、バーナ高さ調整機構46によって上下方向に寸法Sの範囲だけ調整可能である。
【0033】
以上のように構成されたボイラ1において、ミル装置21により微粉状に粉砕されて圧縮空気と共に固体燃料燃焼バーナ5に供給された石油コークスは、燃焼室14内で燃焼し、その灰45が炉底部3の断熱材40の上に落下する。落下した灰45は、断熱材40の断熱作用により、炉壁管31によって冷却されることなく高温状態に保たれる。そして、この灰45は、固体燃料燃焼バーナ5に加熱され続けて溶融状態に保たれる。このように燃焼後の灰45が断熱材40により保温されるとともに固体燃料燃焼バーナ5に加熱されて溶融温度に保たれるため、炉底部3に溜まった灰45のうち、未燃炭素分は蒸し焼き的な状態で酸素と反応し、一酸化炭素または二酸化炭素となって燃焼ガスと共に煙道7から排出されて消失する。
【0034】
例えば石油コークスを燃料として用いた場合には、上記のように未燃炭素分が消失した後で炉底部3に残された灰45は、バナジウムを主成分としてナトリウムやカリウム等の成分を含んだ化合物となる。この化合物が炉底部3に貯留されて溶融状態に保たれることにより、灰45が徐々に気相に抜けて減量していく。このように、灰45を高温な溶融状態に保つことにより、炉底部3に灰45が堆積していく量と、消失していく量とを均衡させることができる。
【0035】
したがって、石油コークス等の固体燃料を使用してボイラ1を長時間運転しても、炉底部3に灰分が多く堆積することを防止し、通常の固体燃料焚きのボイラに装備されている炉底灰処理設備を省いた簡素な構成としつつ、長時間の連続運転が可能なボイラとすることができる。しかも、炉底灰処理設備を設けなくてもよい分、ボイラ1の特に高さ方向の寸法をコンパクト化することができる。さらに、低コストでボイラ1を構築することができるとともに産業廃棄物を処理する為に発生するランニングコストが不要となる。
【0036】
また、燃料として安価な石油コークスを用いることにより、燃料費を安くしてボイラ1の運転コストを飛躍的に減少させることができる。なお、煙道7から排出された燃焼ガスは、誘引通風器26に誘引されて排気管24に設けられた電気集塵器25を通り、ここで未燃焼の炭素の粉を回収された後、脱硫装置27で硫黄分を除去され、煙突28から外部に排出される。なお、脱硫装置27には石灰石と酸化用空気が供給され、その代わりに石膏と脱硫排水が生成される。
【0037】
ボイラ1の炉底部3は、その外縁部から中央部に向かって下降する傾斜面であり、その傾斜角度は、石油コークスの灰45が溶融した状態で炉底部3の中央部に流動し得る最小限の角度であるため、炉底部3に敷設された断熱材40の上に堆積する石油コークスの灰45が、重力により炉底部3の中央部に集められる。このため、炉壁部2に対向設置された固体燃料燃焼バーナ5の火炎が、炉底部3の中央部に集められた灰45を良好に加熱することができ、前述のように灰45を消失させる作用を高めることができる。
【0038】
しかも、炉底部3の傾斜角度が浅いため、炉底部3の高さ寸法を小さくすることができ、これによってボイラ1の高さ方向の寸法をコンパクト化することができる。固体燃料を使用する一般のボイラでは、多量に生成される灰の排出性を向上させるために炉底部の傾斜角度を深くしてホッパ状にしなければならず、これがボイラの高さ方向の寸法を大きくしていた。これに加えて、炉底部の下に炉底灰処理設備を設ける必要があったため、熱量が同じ規模のボイラであれば、本実施形態のボイラ1よりも格段に大型なものとなっていた。
【0039】
また、このボイラ1では、固体燃料燃焼バーナ5の下端から、断熱材40の燃焼室14と接する面までの鉛直方向の高さ寸法Hを調整可能にするバーナ高さ調整機構46を有しており、固体燃料燃焼バーナ5の高さを変更することができるため、炉底部3(断熱材40)の上に堆積した石油コークスの灰45を最適な温度で加熱することができる。このため、灰45を溶融状態に加熱するのに必要以上の熱が消費されてボイラ効率が低下する、あるいは灰45を溶融状態に加熱できずに炉壁部3に堆積させてしまう、といった不具合を解消することができる。しかも、固体燃料の種類や性状に応じて固体燃料燃焼バーナ5の高さを適宜調整できるため、性状が不安定になりがちな石油コークスの灰の量を常に最小限に抑えることができる。また、石油コークスに限らず、他の固体燃料にも適合させることができる。
【0040】
なお、バーナ高さ調整機構46は、ボイラ1の運転中であっても作動可能であることが望ましい。これにより、ボイラ1の運転を停止することなく、遠隔監視手段等により灰45の溶融状態を確認しながら固体燃料燃焼バーナ5を最適な高さに設定し、その状態を維持することができる。
【0041】
次に、本発明に係るボイラの改造方法について説明する。
一般の重油焚き、もしくはガス焚きのボイラの火炉は、図2に示す石油コークス焚きのボイラ1の火炉4と同様な構造であり、相違点は炉底部3に断熱材40が敷設されていないことと、固体燃料燃焼バーナ5の代わりに液体または気体燃料燃焼バーナが設けられていることである。
【0042】
したがって、石油コークス焚きのボイラへの改造項目は以下の3点となる。
(1)液体または気体燃料燃焼バーナを固体燃料燃焼バーナ5に換装する。
(2)炉底部3を構成する壁状の炉壁管31の上面に断熱材40を敷設して、炉壁管31に対して燃焼室14を断熱する。
(3)固体燃料燃焼バーナ5の下端から断熱材40の燃焼室14と接する面までの鉛直方向の高さ寸法Hを、石油コークスの灰が断熱材40の上に堆積した際に、灰が溶融温度以上に保たれる高さに設定する。
【0043】
このボイラの改造方法によれば、既存の重油焚きもしくはガス焚きのボイラを、固体燃料焚きのボイラに容易に改造することができる。さらに、このように固体燃料焚きのボイラに改造した後でも、固体燃料燃焼バーナ5を液体燃料燃焼バーナまたは気体燃料燃焼バーナに再換装すれば、再び重油やガス焚きのボイラに戻すことが容易にできる。その際に炉底部3に敷設した断熱材40を撤去する必要はない。したがって、ボイラプラントにおける燃料調達状況に応じて使用する燃料を臨機応変に変更できるようにし、経済的なボイラプラントとすることができる。
【0044】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。例えば、上記説明では、高さ寸法Hは、灰45が溶融温度以上に保たれる高さであればバーナ5の下端と断熱材40の燃焼室14と接する面のどの位置との高さを採っても良いとしたが、固体燃料燃焼バーナ5の下端と断熱材40の燃焼室14と接する面との高さ寸法Hを、最も大きくなるように設定しても良い。高さ寸法Hを最も大きくなるように設定することによって、炉底部3側のどの位置に灰45が落下しても確実に溶融温度以上に保つことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 ボイラ
2 炉壁部
3 炉底部
4 火炉
5 固体燃料燃焼バーナ
14 燃焼室
31 炉壁管
40 断熱材
45 固体燃料の灰
46 バーナ高さ調整機構(バーナ高さ調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁部および炉底部を有する火炉と、
前記炉壁部および前記炉底部を冷却するように配設された炉壁管と、
前記炉壁部に設置される固体燃料燃焼バーナと、
前記炉底部を冷却する前記炉壁管に対して前記火炉の燃焼室を断熱するように前記炉底部上に敷設された断熱材と、を備え、
前記固体燃料燃焼バーナの下端から前記断熱材の前記燃焼室と接する面までの鉛直方向の高さを、前記固体燃料燃焼バーナに供給される固体燃料の灰が前記断熱材の上に堆積した際に、前記灰が溶融温度以上に保たれる高さに設定したことを特徴とするボイラ構造。
【請求項2】
前記固体燃料は石油コークスであることを特徴とする請求項1に記載のボイラ構造。
【請求項3】
前記炉底部は、その外縁部から中央部に向かって下降する傾斜面であり、その傾斜角度は、前記灰が溶融した状態で前記炉底部の中央部に流動し得る最小限の角度であることを特徴とする請求項1または2に記載のボイラ構造。
【請求項4】
前記固体燃料燃焼バーナの下端から前記断熱材の前記燃焼室と接する面までの鉛直方向の高さを調整可能にするバーナ高さ調整手段を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボイラ構造。
【請求項5】
炉壁部および炉底部を有する火炉と、
前記炉壁部および前記炉底部に近接して配設された炉壁管と、
前記炉壁部に設置されて前記炉壁管を加熱する液体または気体燃料燃焼バーナと、を備えたボイラの改造方法において、
前記液体または気体燃料燃焼バーナを固体燃料燃焼バーナに換装し、
前記炉底部に断熱材を敷設することにより、前記炉底部を冷却するように配設された前記炉壁管に対して前記火炉の燃焼室を断熱し、
前記固体燃料燃焼バーナの下端から前記断熱材の前記燃焼室と接する面までの鉛直方向からの高さを、前記固体燃料燃焼バーナに供給される固体燃料の灰が前記断熱材の上に堆積した際に、前記灰が溶融温度以上に保たれる高さに設定することを特徴とするボイラの改造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−247137(P2012−247137A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119374(P2011−119374)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】