説明

ボイラ装置における石炭カロリ制御システム

【課題】基準燃料カロリ設定値と使用石炭のカロリとの間に乖離を生起していても基準燃料カロリ設定値を使用石炭のカロリに見合うように自動且つ迅速に補正することができるボイラ装置における石炭カロリ制御システムを提供する。
【解決手段】主蒸気圧力設定器2に設定した主蒸気設定値と、主蒸気圧力検出器3による主蒸気圧力の実測値である主蒸気圧力実測値との偏差をボイラ負荷目標設定器1に設定した負荷目標設定値に加算することにより、前記偏差を加味した燃料量を重油の燃料量として出力する一方、基準燃料カロリ設定器7に設定した使用石炭のカロリを表す基準燃料カロリ設定値と前記重油のカロリとの関係から前記重油の燃料量を使用石炭の燃料量に換算して出力することによりボイラに供給する使用石炭の量を制御するように構成するとともに、前記負荷目標設定値に基づく燃料量と前記使用石炭の燃料量との差に基づきこの差が小さくなるように前記基準燃料カロリ設定値を補正する基準燃料カロリ補正手段10を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラ装置における石炭カロリ制御システムに関し、特にボイラの運転状態を表す物理量の設定値の一種である主蒸気圧力設定値との偏差に応じてボイラに供給する石炭の量を制御するように構成したボイラ装置に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
石炭焚きボイラ装置の一種として主蒸気圧力の実測値と主蒸気圧力設定値との偏差に応じてボイラに供給する石炭の量を制御するように構成したものがある。この種のボイラ装置では、石炭の炭種等を考慮して基準燃料カロリ設定値を設定し、この基準燃料カロリ設定値に基づき前記偏差を加味してボイラに供給する石炭の量を制御する石炭カロリ制御を行っている。
【0003】
従来技術に係るボイラ装置における石炭カロリ制御システムのブロック線図を図3に示す。同図に示すように、ボイラ負荷目標設定器1には当該ボイラ装置の出力目標値(MW)が、また主蒸気圧力設定器2には主蒸気圧力(MPa)がそれぞれ設定してある。主蒸気圧力検出器3は主蒸気の圧力をリアルタイムで検出するものである。これにより主蒸気圧力の実測値を得る。補正器4は主蒸気圧力設定器2に設定した主蒸気圧力と主蒸気圧力検出器3で実測した主蒸気圧力とを比較し、その偏差をボイラ出力(MW)に変換して出力する。加算器5ではボイラ負荷目標設定器1に設定した出力目標値に補正器4の偏差に基づく出力を加算する。
【0004】
関数設定器6では加算器5の出力(MW)をこれに見合う基準燃料である重油の燃料量(ton/h)に変換する。基準燃料カロリ設定器7には使用する石炭のカロリとして基準燃料カロリ設定値を設定するようになっており、重油のカロリを前記基準燃料カロリ設定値で除した値である係数を出力するようになっている。ここで、基準燃料カロリ設定値は、使用する石炭の炭種等を考慮してこの石炭が有するカロリであると予測される値として運転員が経験に基づき設定する。
【0005】
掛算器8は関数設定器6の出力である重油換算燃料量に基準燃料カロリ設定器7の出力である係数を掛算して出力する。このことにより重油の燃料量で表された関数設定器6の出力を使用石炭の燃料量(ton/h)に変換することができる。具体的には基準燃料である重油のカロリとして、例えば43,124(kcal)を用い、基準燃料カロリ設定値(使用石炭のカロリの設定値)として、例えば28,040(kcal)を設定した場合、係数は1.538となる。この係数を関数設定器6の出力である重油換算燃料量に掛算して算出された値がボイラに供給すべき実際に使用する石炭の燃料量(ton/h)となる。
【0006】
燃料流量指令部9は掛算器8の出力である使用石炭に換算した燃料量に基づきボイラに供給する石炭の量を制御する。具体的には使用石炭の重量を計測し、その重量が指定された所定重量になるようにボイラに供給する使用石炭の供給量を調整する。
【0007】
ところで、かかる石炭カロリ制御システムにおいて、実際に使用している石炭の燃料カロリと基準燃料カロリ設定値として設定した石炭の燃料カロリとの間に乖離が発生すると、主蒸気圧力が変動し、主蒸気設定値との間に偏差が生じる。この偏差はボイラに供給する使用石炭の量の調整により修正することになるが、主蒸気圧力に影響が出てから使用石炭の量を調整するため、空気流量制御・ガスO制御の遅れによる燃焼不良及び蒸気品質の低下に基因して当該ボイラ装置の安定運転に問題が出てくる。ちなみに、空気流量制御・ガスO制御は関数設定器6の出力に基づいて行っている。また、ボイラ内で石炭を完全に燃焼させるためには十分な酸素量が必要である。そこで、排気ガス中の余剰酸素量を計測することによって、酸素量の管理を行うべく空気流量制御・ガスO制御を行っている。
【0008】
なお、石炭焚ボイラにおけるこの種の燃料カロリの補正に関する技術を開示する公知文献として特許文献1を挙げることができる。
【特許文献1】特開平10−288301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術においては、上述の如く使用石炭の燃料カロリと基準燃料カロリ設定値として設定した石炭の燃料カロリとの間に発生した乖離に基づく不都合を解消するため、現在燃焼している使用石炭の燃料カロリと思われる値に前記基準燃料カロリ設定値を変更している。この変更は運転員が手入力で行っている。このため、基準燃料カロリ設定値を適切な値、すなわち使用石炭の実際の燃料カロリを表わす値に短時間で調整することが困難である。この結果、基準燃料カロリ設定値と実際の使用石炭の燃料カロリとの乖離が大きいほど、また乖離を小さくするための調整に時間を要するほど、当該ボイラ装置の安定運転に悪影響を及ぼす。ちなみに、同一炭種の石炭でもその性状、例えば含有する湿分等により単位重量あたりの燃料カロリは大きく異なる場合がある。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑み、基準燃料カロリ設定値と使用石炭のカロリとの間に乖離を生起していても基準燃料カロリ設定値を使用石炭のカロリに見合うように自動且つ迅速に補正することができるボイラ装置における石炭カロリ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
ボイラの運転状態を表す物理量の設定値である運転状態設定値と、前記物理量の実測値である運転状態実測値との偏差を前記ボイラの負荷目標設定値に加算することにより、前記偏差を加味した燃料量を基準燃料の燃料量として出力する一方、使用石炭のカロリを表す設定値である基準燃料カロリ設定値と前記基準燃料のカロリとの関係から前記基準燃料の前記燃料量を前記使用石炭の燃料量に換算して出力することにより前記ボイラに供給する前記使用石炭の量を制御するように構成したボイラ装置における石炭カロリ制御システムであって、
前記負荷目標設定値に基づく燃料量と前記使用石炭の前記燃料量との差に基づきこの差が小さくなるように前記基準燃料カロリ設定値を補正する基準燃料カロリ補正手段を有することを特徴とするボイラ装置における石炭カロリ制御システムにある。
【0012】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載するボイラ装置における石炭カロリ制御システムにおいて、
前記運転状態設定値は主蒸気圧力の設定値であり、前記運転状態実測値は主蒸気圧力の実測値であることを特徴とするボイラ装置における石炭カロリ制御システムにある。
【0013】
本発明の第3の態様は、
第1又は第2の態様に記載するボイラ装置における石炭カロリ制御システムにおいて、
前記基準燃料カロリ補正手段は、前記基準燃料カロリ設定値と前記基準燃料のカロリとの関係から、前記負荷目標設定値に基づく前記燃料量を、前記使用石炭の燃料量に換算するとともに、前記使用石炭の前記燃料量との差を求め、この差に応じて予め定められた補正値の分だけ前記基準燃料カロリ設定値を補正するようにしたことを特徴とするボイラ装置における石炭カロリ制御システムにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボイラの負荷目標設定値に基づく燃料量と使用石炭の燃料量との差に基づき基準燃料カロリ設定値を補正するようにしたので、この基準燃料カロリ設定値を自動的に変更することができる。すなわち、実際に使用している使用石炭の性状により異なるそのカロリと使用石炭の炭種等に基づき予め設定しておいた基準燃料カロリ設定値とに乖離が生じていても使用石炭の実際のカロリに合致するように基準燃料カロリが自動的に調整される。したがって、基準燃料カロリ設定値が速やかに適正な値に補正され空気流量制御及びガスO制御の遅れによる燃焼不良及び蒸気品質低下を未然に防止して当該ボイラ装置の安定な運転に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態に係るボイラ装置における石炭カロリ制御システムを示すブロック線図である。同図に示すように、本形態に係るボイラ装置における石炭カロリ制御システムは図3に示す石炭カロリ制御システムに基準燃料カロリ補正手段10を追加したものである。この基準燃料カロリ補正手段10はボイラ負荷目標設定器1に設定する負荷目標設定値に基づく燃料量と使用石炭の燃料量との差に基づきこの差が小さくなるように基準燃料カロリ設定器7に設定する基準燃料カロリ設定値を補正するものである。さらに詳言すると、この部分を抽出して詳細に図2に示すように、本形態における基準燃料カロリ補正手段10は、関数設定器10a、掛算器10b及び補正器10cを有している。これらのうち、関数設定器10aはボイラ負荷目標設定器1に設定した負荷目標設定値(MW)を入力してこれに見合う基準燃料である重油の燃料量(ton/h)に変換する。すなわち、関数設定器6と同様の機能を有するものである。掛算器10bは関数設定器10aの出力である重油換算燃料量に基準燃料カロリ設定器7の出力である係数を掛算して出力する。このことにより重油の燃料量で表された関数設定器10aの出力を使用石炭の燃料量(ton/h)に変換することができる。すなわち、掛算器10bは基準燃料カロリ設定器7に設定する基準燃料カロリ設定値と基準燃料である重油のカロリとの関係から求めた所定の係数を使用して前記負荷目標設定値に基づく重油の燃料量を、使用石炭の燃料量に換算するもので、掛算器8と同様の機能を有するものである。補正器10cは掛算器8の出力である使用石炭に換算した燃料量と掛算器8の出力をフィードバックして得る使用石炭の燃料量との偏差を求め、この偏差に応じて予め定められた補正値の分だけ基準燃料カロリ設定器7に設定した基準燃料カロリ設定値を補正する。かくして、ボイラ負荷目標設定器1に設定する負荷目標設定値に基づく燃料量と使用石炭の燃料量との差に基づきこの差が小さくなるように基準燃料カロリ設定器7に設定する基準燃料カロリ設定値を補正する。なお、補正器10cにおける偏差に応じた補正値は、例えば両者の関係を予めマップ化した情報として補正器10cに記憶させておくことで容易に求めることができる。
【0016】
かかる基準燃料カロリ補正手段10以外の構成部分に関しては、図3に示す従来技術と全く同一である。すなわち、ボイラ負荷目標設定器1には当該ボイラ装置の出力目標値(MW)が、また主蒸気圧力設定器2には主蒸気圧力(MPa)がそれぞれ設定してある。主蒸気圧力検出器3は主蒸気の圧力をリアルタイムで検出するものである。これにより主蒸気圧力の実測値を得る。補正器4は主蒸気圧力設定器2に設定した主蒸気圧力と主蒸気圧力検出器3で実測した主蒸気圧力とを比較し、その偏差をボイラ出力(MW)に変換して出力する。加算器5ではボイラ負荷目標設定器1に設定した出力目標値に補正器4の偏差に基づく出力を加算する。
【0017】
関数設定器6では加算器5の出力(MW)をこれに見合う基準燃料である重油の燃料量(ton/h)に変換する。基準燃料カロリ設定器7には使用する石炭のカロリとして基準燃料カロリ設定値を設定するようになっており、重油のカロリを前記基準燃料カロリ設定値で除した値である係数を出力するようになっている。ここで、本形態においては、基準燃料カロリ補正手段10の補正機能により、基準燃料カロリ設定値を、ボイラ負荷目標設定器1に設定した負荷目標設定値に基づく燃料量と実際にボイラに供給する使用石炭の燃料量との差に基づいてリアルタイムで補正するようになっている。この結果、基準燃料カロリ設定器7の出力である前記係数もリアルタイムで補正した値として出力される。すなわち、使用する石炭の炭種等を考慮してこの石炭が有するカロリであると予測される値として運転員が経験に基づき初期設定した基準燃料カロリ設定値は使用石炭が実際有するカロリに基づき逐次補正される。
【0018】
掛算器8は関数設定器6の出力である重油換算燃料量に基準燃料カロリ設定器7の出力である係数を掛算して出力し、このことにより重油の燃料量で表された関数設定器6の出力を使用石炭の燃料量(ton/h)に変換するが、本形態においては、上述の如く前記係数が使用石炭が実際有する燃料カロリを加味して補正されているので、その出力はボイラに実際に供給すべき使用石炭の燃料量をより適切に反映したものとなる。具体的には基準燃料である重油のカロリとして、例えば43,124(kcal)を用い、基準燃料カロリ設定値(使用石炭のカロリの設定値)として、例えば28,040(kcal)を初期設定した場合、係数は1.538となる。したがって、最初は前記係数を関数設定器6の出力である重油換算燃料量に掛算して算出された値がボイラに供給すべき使用石炭の燃料量(ton/h)として所定の制御が開始される。かかる制御において、使用石炭が多くの湿分を含む場合等、基準燃料カロリ設定値よりも実際の使用石炭のカロリが小さいことに起因して両者の乖離が発生した場合には、基準燃料カロリ補正手段10により基準燃料カロリ設定値がより小さい値(<28,040(kcal))に補正され、その分基準燃料カロリ設定器7の出力である係数は大きい値(>1.538)に補正される。この結果、実際の燃料カロリを反映したより適切な燃料カロリに基づく使用石炭の燃料量が算出される。
【0019】
かかる本形態によれば、ボイラの負荷目標設定値に基づく燃料量と、ボイラに供給する使用石炭の燃料量との差に基づき基準燃料カロリ設定値を補正するようにした。すなわち、基準燃料カロリ設定値を掛算器8の出力側から基準燃料カロリ補正手段10の入力側に至るフィードバック系を形成して逐一自動的に変更するように構成したので、実際に使用している使用石炭の性状により異なるそのカロリと使用石炭の炭種等に基づき予め設定しておいた基準燃料カロリ設定値とに乖離が生じていても、基準燃料カロリ設定値は使用石炭の実際のカロリに合致するように迅速に自動調整される。
【0020】
なお、上記実施の形態においてはボイラの運転状態を表わす物理量として主蒸気圧力を用いた、すなわち運転状態設定値は主蒸気圧力設定値であり、運転状態実測値は主蒸気圧力実測値を用いたが、これに限るものではない。例えば、主蒸気温度、ガスO又は負荷を前記物理量として利用することもできる。ただ、所定の偏差を短時間で取得する手段としては主蒸気圧力を利用した場合が最も迅速に取得できる。したがって、制御性の観点からは主蒸気圧力が最適であるといい得る。
【0021】
また、本形態における基準燃料カロリ補正手段10では、重油換算の燃料量を石炭換算の燃料量に変換して補正器10cにおける補正のための偏差を求めるようにしたが、これは掛算器8の出力側からフィードバックされた使用石炭の燃料量を重油の燃料量に換算して同様の補正を行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明はボイラ装置の建設、運用、保守を行う産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る石炭カロリ制御システムを示すブロック線図である。
【図2】図1の基準燃料カロリ補正手段の部分を抽出して詳細に示すブロック線図である。
【図3】従来技術に係るボイラ装置における石炭カロリ制御システムを示すブロック線図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ボイラ負荷目標設定器
2 主蒸気圧力設定器
3 主蒸気圧力検出器
4 補正器
5 加算器
6 関数設定器
7 基準燃料カロリ設定器
8 掛算器
9 燃料流量指令部
10 基準燃料カロリ補正手段
10a 関数設定器
10b 掛算器
10c 補正器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラの運転状態を表す物理量の設定値である運転状態設定値と、前記物理量の実測値である運転状態実測値との偏差を前記ボイラの負荷目標設定値に加算することにより、前記偏差を加味した燃料量を基準燃料の燃料量として出力する一方、使用石炭のカロリを表す設定値である基準燃料カロリ設定値と前記基準燃料のカロリとの関係から前記基準燃料の前記燃料量を前記使用石炭の燃料量に換算して出力することにより前記ボイラに供給する前記使用石炭の量を制御するように構成したボイラ装置における石炭カロリ制御システムであって、
前記負荷目標設定値に基づく燃料量と前記使用石炭の前記燃料量との差に基づきこの差が小さくなるように前記基準燃料カロリ設定値を補正する基準燃料カロリ補正手段を有することを特徴とするボイラ装置における石炭カロリ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載するボイラ装置における石炭カロリ制御システムにおいて、
前記運転状態設定値は主蒸気圧力の設定値であり、前記運転状態実測値は主蒸気圧力の実測値であることを特徴とするボイラ装置における石炭カロリ制御システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するボイラ装置における石炭カロリ制御システムにおいて、
前記基準燃料カロリ補正手段は、前記基準燃料カロリ設定値と前記基準燃料のカロリとの関係から、前記負荷目標設定値に基づく前記燃料量を、前記使用石炭の燃料量に換算するとともに、前記使用石炭の前記燃料量との差を求め、この差に応じて予め定められた補正値の分だけ前記基準燃料カロリ設定値を補正するようにしたことを特徴とするボイラ装置における石炭カロリ制御システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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