説明

ボグリボースの製造法

【課題】ボグリボースを短い工程で効率的に製造するための中間体、及びこの中間体からボグリボースを製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(5):
【化1】


(式中、R及びRは、炭素数1〜6の低級アルキル基、又は共同して =O 基を表わす。R及びRが低級アルキル基の場合は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、またRとRとで共同して炭素数4〜7のシクロアルキル環を形成してもよい。)
で表される化合物を中間体とし、この中間体を還元的アミノ化反応に付した後、保護基のすべてを除去してボグリボースを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボグリボースを製造するための中間体及び該中間体の製造方法、並びに該中間体からボグリボースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボグリボースは、グルコシダーゼ阻害作用を持つ擬似アミノ糖であるバリオールアミンのN−置換誘導体で、より強いグルコシダーゼ阻害作用を持つことから抗糖尿病薬として利用されている。ボグリボースは、バリオールアミンと1,3−ジヒドロキシアセトン二量体との還元的アミノ化反応によって得られる(特許文献1)ことから種々の合成法が報告されている。しかし、従来報告された合成法は、多くの合成工程を要する。例えば、イノソース誘導体を原料とする合成法(特許文献2)では13工程を要し、キナ酸を原料とする合成法(非特許文献1)では16工程を要し、グルコースからFerrier転位反応を利用して得られる[2S-(2a,3a,4a,5a)]-5-ヒドロキシ-2,3,4-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサノンを中間体にした合成法(特許文献3)では17工程を要する。
【0003】
また、D−グルコノ−1,5−ラクトン誘導体を原料とし、擬似ハロ糖誘導体を経由する合成法(特許文献4)は短工程で効率のよい合成法であるが、脱ハロゲンの工程で有機スズ試薬を用いており安全性、環境の面で問題がある。同様の出発原料から擬似チオ糖誘導体を経由する合成法(特許文献5)は、この問題を解決しているが、使用したジチアンの脱保護工程で生じるジチオールの臭気が問題となる。バリオールアミンをストレプトミセス・ハイグロスコピクス・サブスピーシス・リモネウス(Streptomyces hygroscopicus subsp. Limoneus)培養物から単離する方法(特許文献6)は最も簡潔な方法であるが、収量の面で工業的方法としては問題がある。また、バリダマイシンを酵素反応に付して得られるバリエナミンの製法(特許文献7、特許文献8)は副生成物が利用されないため効率的とは言えない。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−200335号公報
【特許文献2】特開平8−40998号公報
【特許文献3】特開2003−146957号公報
【特許文献4】特開昭63−295526号公報
【特許文献5】特開昭63−246361号公報
【特許文献6】特開昭57−169446号公報
【特許文献7】特開昭57−179174公報
【特許文献8】特開昭58−46044号公報
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1995,34,1643)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、ボグリボースを短い工程で効率的に製造するための中間体、及びこの中間体からボグリボースを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式(5):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1及びR2は、炭素数1〜6の低級アルキル基、又は共同して =O 基を表わす。R1及びR2が低級アルキル基の場合は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、またR1とR2とで共同して炭素数4〜7のシクロアルキル環を形成してもよい。)
で表される化合物を中間体とするボグリボースの製造法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、上記の一般式(5)で示される化合物である。
また、本発明は、次式(1):
【0010】
【化2】

【0011】
で示されるケトン化合物を、イソプロポキシジメチルシリルメチルグリニヤール試薬を用いて次式(2)
【0012】
【化3】

【0013】
で示されるシリル体を合成し、このシリル体を酸化して次式(3)
【0014】
【化4】

【0015】
で示されるトリオールとなし、その後アセタール化又はカーボネート化して次式の一般式(4)
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
で示されるスピロ型二環式化合物となし、その後酸化することを特徴とする一般式(5)
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
で示される化合物の製造方法である。
【0020】
更に、本発明は、上記の一般式(5)で示される化合物を、2−アミノ−1,3−プロパンジオールと還元的アミノ化反応させて次式の一般式(6)
【0021】
【化7】

【0022】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
となし、次いで脱保護基することを特徴とする次式(7)
【0023】
【化8】

【0024】
で示されるボグリボースの製造方法である。
【0025】
また、本発明は、上記の一般式(5)で示される化合物にヒドロキシアミンを反応させて次式の一般式(8)
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
で示されるオキシムに変換し、還元して次式(9)
【0028】
【化10】

【0029】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
で示されるアミンに変換後、次式(10)
【0030】
【化11】

【0031】
で示される1,3ージヒロキシアセトン二量体と還元的アミノ化反応させて次式の一般式(6)となし、
【0032】
【化12】

【0033】
次いで,脱保護することを特徴とする次式(7)
【0034】
【化13】

【0035】
で示されるボグリボースの製造方法である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、ボグリボースを短い工程で効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、上記の一般式(5)で示される新規な化合物を中間体とし、ボグリボースを製造する方法である。この中間体は、次に示す反応スキームで製造できる。
【0038】
【化14】

【0039】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
すなわち、文献(Tetrahedron lett.,1996,37,649)記載の入手容易なケトン(1)を出発原料として、工程A〜工程Dを経て製造する。
【0040】
工程A(グリニャール反応工程)
出発原料であるケトン(1)に、Org.Synth.,1990,69,96-105に記載されるように、イソプロポキシシリルジメチルグリニャール試薬(11)を用いて立体選択的なグリニャール反応を行ないシリル体(2)を得る工程である。この反応は通常不活性溶媒中で行われ、好適な溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、塩化メチレン、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは0℃から室温である。
【0041】
工程B(酸化反応工程)
シリル体(2)を、Org.Synth.,1990,69,96-105に記載されるように、フッ化カリウム、炭酸水素カリウム存在下30%過酸化水素水によって酸化し、トリオール(3)を得る工程である。他にJ.Am.Chem.Soc.,2004,126,84に記載されているように、テトラフルオロホウ酸を加え、m−クロロ過安息香酸で酸化する方法を用いてもよい。この反応は通常不活性溶媒中で行われ、好適な溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、塩化メチレン、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、メタノール、エタノール等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは室温から35℃である。
【0042】
工程C(スピロ型二環式化合物合成工程)
トリオール(3)の3個のアルコールの内、1級と3級アルコールをスピロ型二環式化合物(4)に変換する工程である。この反応は、通常の1,2−ジオールを同一環状保護基で保護する方法を用いて行なうことができる。例えばトリオール(3)を、カンファースルホン酸の存在下、アセトン又はアセトンジメチルアセタールと反応させることによって、R1、2がいずれもメチルのスピロ型二環化合物(4)(=イソプロピリデンアセタール)を得ることができる。アセトンジメチルアセタールの代わりにベンズアルデヒドを用いた場合は、R1、2のいずれかがフェニルのスピロ型二環化合物(4)(=ベンジリデンアセタール)を得ることができる。また、シクロヘキサノンを用いた場合は、R1、2が共同して炭素数6のシクロアルキル環を形成したスピロ型二環化合物(4)(=シクロヘキシリデンアセタール)を得ることができる。これらの反応は酸の存在下で行うが、酸としては、上記のカンファースルホン酸の他に、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、又はアンバーライト等の強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。また、トリオール(3)のトルエン溶液に1,1'−カルボニルジイミダゾールを作用させると、R1、2が共同して=Oを形成したスピロ型二環化合物(4)(=カーボネート)を得ることができる。この反応に用いられる溶媒としては、上記の他にテトラヒドロフラン、塩化メチレン、アセトニトリル、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは室温である。
【0043】
工程D(酸化反応工程)
スピロ型二環式化合物(4)の水酸基を酸化してケトンにする工程である。この酸化によって、本発明の中間体(5)が得られる。この反応は、オキサリルクロリドージメチルスルホキシドを酸化剤として用いるSwern酸化などの方法を用いることができる。他に用いられる酸化剤としてはピリジニウムクロロクロマート、ピリジニウムジクロロクロマート、トリフルオロ酢酸無水物-ジメチルスルホキシド、無水酢酸-ジメチルスルホキシド、三酸化硫黄-ジメチルスルホキシド、Dess-Martin's periodinane等が挙げられ、好ましくはトリフルオロ酢酸無水物-ジメチルスルホキシドである。この反応は通常不活性溶媒中で行われ、好適な溶媒としては塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは−60℃〜0℃である。
次に、本発明の一般式(5)で示される中間体からボグリボースを製造する方法を説明する。次の反応スキームはその一方法を示したものである。
【0044】
【化15】

【0045】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
以下に各反応工程を説明する。
【0046】
工程E(還元的アミノ化工程)
本発明の中間体(5)を還元剤の存在下、2−アミノ−1,3−プロパンジオールと反応させて、ボグリボースに変換可能なアミン(6)を得る工程である。用いられる還元剤としては、シアン化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等がある。この反応は通常不活性溶媒中で行われ、好適な溶媒としてはメタノール、エタノール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは室温〜35℃である。
【0047】
工程F(ボグリボースへの変換工程)
上記アミン(6)のアルコールの保護基、すなわちアセタール又はカーボネートとベンジルとを脱保護して、目的化合物のボグリボース(7)を得る工程である。アセタールの除去は水と塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、アンバーライト等の強酸性イオン交換樹脂等の酸を用いた加水分解によって行われる。カーボネートの除去は水と水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンバーライト等の強塩基性イオン交換樹脂等の塩基を用いる加水分解、又は水素化リチウムアルミニウム、シアン化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等を用いた還元によって行われる。ベンジル基の除去はパラジウム炭素、水酸化パラジウム、パラジウム黒、ラネーニッケル等を触媒とし、水素ガス、ギ酸などを還元剤とする水素化分解反応によって行われる。
この反応は通常不活性溶媒中で行われ、好適なものとしてはメタノール、エタノール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは0℃〜室温である。
この合成法を用いると、出発原料のケトン化合物(1)から6工程でボグリボース(7)が得られる。
【0048】
更に、本発明の一般式(5)で示される中間体からボグリボースを製造する他の方法を、次の反応スキームで説明する。
【0049】
【化16】

【0050】
(式中、R1及びR2は前記と同じ。)
以下に各反応工程を説明する。
【0051】
工程G(オキシム合成工程)
本発明の中間体(5)にヒドロキシルアミンを反応させてオキシム(8)を得る工程である。この反応は通常不活性溶媒中で行われる。好適な溶媒としてはメタノール、エタノール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは0〜20℃である。
【0052】
工程H(還元工程)
オキシム(8)を還元剤してアミン(9)を得る工程である。パラジウム炭素、水酸化パラジウム、パラジウム黒、ラネーニッケル等を触媒とし、水素ガス、ギ酸などを還元剤とする水素添加反応によりオキシムを還元する。またこの反応は還元剤を用いて同様の還元を行ってもよく、還元剤としては水素化リチウムアルミニウム、シアン化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム-塩化ニッケル等が挙げられる。この反応は通常不活性溶媒中で行われ、好適な溶媒としてはメタノール、エタノール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは0〜20℃である。
【0053】
工程I(還元的アミノ化工程)
アミン(9)と1,3−ジヒドロキシアセトン二量体(10)とを還元的アミノ化反応させてボグリボースに変換可能なアミン(6)を得る工程である。用いられる還元剤はシアン化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムなどである。この反応は、通常不活性溶媒中で行われ、好適な溶媒としてはメタノール、エタノール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、好ましくは室温〜35℃である。
【0054】
工程J(ボグリボースにする工程)
先に述べた工程Fと同様にして、アミン(6)のアルコールの保護基、すなわちアセタール又はカーボネートとベンジルとを脱保護して、目的化合物のボグリボース(7)を得る工程である。
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
本発明の中間体化合物(5)を製造する実施例である。
A.(3S,4S,6S,1R,5R)-1-(イソプロポキシ-ジメチル-シラニルオキシ)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1,3-ジオールの合成
アルゴン気流下、文献(J.Org.Chem.,1994,59,3135,Tetrahedron lett.,1996,37,649)に記載の製造方法に従ってグルコースから得た(2S,4S,5S,3R)-5-ヒドロキシ-2,3,4-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1-オン4.5gをテトラヒドロフラン21.0ml溶液とし、氷冷下調整したイソプロポキシシリルジメチルグリニャール試薬0.48M、54.2ml(Org.Synth.,1990,69,96-105)を20分かけて滴下し、さらに同温度で1時間撹拌した。同温度で飽和塩化アンモニア水溶液を加え,10分撹拌した後反応液を減圧下濃縮した。残渣を酢酸エチル150mlで抽出し、有機層を飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し(3S,4S,6S,1R,5R)-1-(イソプロポキシ-ジメチル-シラニルオキシ)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1,3-ジオール2.8g(47.7%)を無色油状物として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 0.16(s, 3H), 0.16(s, 3H), 0.62(d, 1H, J=14.8Hz), 1.13(d, 3H, J=2.0Hz), 1.14(d, 3H, J=2.0Hz), 1.38(d, 1H, J=14.8Hz), 1.43(dd, 1H, J=2.0, 15.2Hz), 2.35(dd, 1H, J=3.2, 15.2Hz), 3.22(d, 1H, J=9.6Hz), 3.41(dd, 1H, J=2.8, 10.0Hz), 3.74(s, 1H), 3.98(quin, 1H, J=6.0Hz), 4.05-4.15(m, 3H), 4.65-4.85(m, 4H), 5.01(d, 1H, J=11.2Hz), 5.04(d, 1H, J=11.6Hz), 7.25-7.40(m, 15H).
ESI(positive): 587(M+Na)+, ESI(negative): 563(M-H)-
【0056】
B.(1S,3S,4S,6S,5R)-1-(ヒドロキシメチル)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1,3-ジオールの合成
(3S,4S,6S,1R,5R)-1-(イソプロポキシ-ジメチル-シラニルオキシ)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1,3-ジオール2.8gをテトラヒドロフラン25.0ml溶液とし、室温で炭酸水素カリウム551mg、フッ化カリウム405mg、30%過酸化水素水1.9gを加え2時間撹拌した後35℃に昇温し1.5時間撹拌した。反応液に飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え2時間撹拌し、減圧下半濃縮した反応液を酢酸エチル200mlで抽出した。有機層を飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル:塩化メチレン=2:1:1)にて精製し(1S,3S,4S,6S,5R)-1-(ヒドロキシメチル)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1,3-ジオール1.9g(82.6%)を無色結晶として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.38(m, 1H), 1.53(dd, 1H, J=2.4, 15.2Hz), 2.12(dd, 1H, J=3.2, 15.6Hz), 3.25-3.45(m, 2H), 3.47(dd, 1H, J=3.2, 9.6Hz), 3.75(s, 1H), 4.15-4.25(m, 2H), 4.65-5.05(m, 4H), 4.74(s, 2H), 7.25-7.40(m, 15H).
ESI(positive): 465(M+H)+, 482(M+NH4+, ESI(negative): 463(M-H)-
【0057】
C.(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オールの合成
(1S,3S,4S,6S,5R)-1-(ヒドロキシメチル)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキサン-1,3-ジオール1.0gをアセトンジメチルアセタール4.0ml懸濁液とし、室温でカンファースルホン酸50mgを加え1時間撹拌した。反応液を1%水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ酢酸エチル200mlで抽出した。有機層を飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オール1.0g(97.2%)を無色結晶として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.40-1.50(m, 1H), 1.41(s, 3H), 1.48(s, 3H), 2.21(dd, 1H, J=3.6, 14.4Hz), 3.24(d, 1H, J=8.8Hz), 3.41(dd, 1H, J=2.8, 9.2Hz), 3.62(d, 1H, J=8.4Hz), 3.90-3.95(m, 1H), 3.97(d, 1H, J=8.4Hz), 4.05-4.15(m, 2H), 4.60-4.85(m, 4H), 4.98(m, 2H), 7.25-7.40(m, 15H).
ESI(positive): 505(M+H)+, 522(M+NH4)+, 527(M+Na)+.
【0058】
D.(5S,9S,10S,8R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オン(中間体(5))の合成
アルゴン気流下ジメチルスルホキシド2.3mlの塩化メチレン70ml溶液を−78℃に冷却し、トリフルオロ酢酸3.0mlの塩化メチレン20ml溶液を15分かけて滴下し、同温度で45分撹拌した。(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オール2.6gの塩化メチレン20ml溶液を20分かけて滴下し、同温度で1時間撹拌した。トリエチルアミン6mlの塩化メチレン20ml溶液を15分かけて滴下し、同温度から終夜撹拌し、室温まで昇温した。反応液を水に注ぎ、有機層を分液し減圧下濃縮した。残渣を酢酸エチル溶液とし、水、飽和食塩水洗浄し、硫酸マグネシウム乾燥し減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル:塩化メチレン=4:1:2)で精製し、目的の中間体化合物である(5S,9S,10S,8R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オン2.6g(定量的)を無色結晶として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.36(s, 3H), 1.41(s, 3H), 2.47(d, 1H, J=14.0Hz), 2.65(d, 1H, J=14.0Hz), 3.60-3.70(m, 2H), 4.04(d, 1H, J=8.4Hz), 4.05-4.10(m, 2H), 4.57 4.96(ABq, 2H, J=11.2Hz), 4.76, 4.91(ABq, 2H, J=10.8Hz), 7.20-7.45(m, 15H).
ESI(positive): 520(M+NH4)+.
【実施例2】
【0059】
中間体化合物(5)よりボグリボースを製造する実施例である。
A.2-{[(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカ-7-イル]アミノ}プロパン-1,3-ジオールの合成
(5S,9S,10S,8R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オン(中間体化合物(5))108mgのメタノール0.7ml、テトラヒドロフラン0.7ml溶液に2−アミノ−1,3−プロパンジオール23mgを加え室温で4時間撹拌し、シアン化ホウ素ナトリウム29mgを加えて20時間撹拌し35℃に昇温し5時間撹拌した。反応液に水5mlを加え、塩化メチレン50mlで抽出した。有機層を水、飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=39:1)で精製し、2-{[(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカ-7-イル]アミノ}プロパン-1,3-ジオール2.0mg(1.7%)を無色結晶として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.32(d, 1H, J=14.0Hz), 1.41(s, 3H), 1.52(s, 3H), 1.75(m, 1H), 1.90(m, 1H), 2.34(d, 1H, J=14.0Hz), 2.39(brd, 1H, J=6.4Hz), 2.87(m, 1H), 3.25-3.45(m, 1H), 3.28(d, 1H, J=10.0Hz), 3.37(d, 1H, J=10.0Hz), 3.50-3.60(m, 1H), 3.54(d, 1H, J=8.0Hz), 3.75-3.85(m, 1H), 3.91(d, 1H, J=8.4Hz), 4.22(dd, 1H, J=0.4, 9.6Hz), 4.64, 5.03(ABq, 2H, J=11.2Hz), 4.73, 5.10(ABq, 2H, J=12.0Hz), 4.93(s, 2H), 7.25-7.40(m, 15H).
ESI(positive): 578(M+H)+.
【0060】
B.(1S,2S,4S,5S,3R)-5-{[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}-1-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラオール(ボグリボース(7))の合成
2-{[(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカ-7-イル]アミノ}プロパン-1,3-ジオール8mgを酢酸0.4ml、水0.1ml溶液とし、室温でトリフルオロ酢酸0.1mlを加え3.5時間撹拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウムに注ぎ、10%水酸化ナトリウムを用いてpH11とし、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=9:1)で精製し、2-{[(1S,3S,4S,6S)-3-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキシル]アミノ}プロパン-1,3-ジオール5mg(62.5%)を無色油状物として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.23(dd, 1H, J=2.0, 15.2Hz), 1.25(m, 1H), 1.95(m, 1H), 2.12(dd, 1H, J=3.2, 15.2Hz), 2.35(m, 1H), 2.72(m, 1H), 2.77(m, 1H), 3.20(d, 1H, J=10.8Hz), 3.32(d, 1H, J=9.2Hz), 3.42(d, 1H, J=3.2Hz), 3.50(dd, 1H, J=3.2, 11.2Hz), 3.61(dd, 1H, J=4.4, 9.6Hz), 3.71(m, 4H), 4.14(dd, 1H, J=0.4, 9.2Hz), 4.63, 4.73(ABq, 2H, J=11.2Hz), 4.63, 4.93(ABq, 2H, J=11.2Hz), 4.84, 4.95(ABq, 2H, J=10.8Hz), 7.07(m, 1H), 7.25-7.40(m, 15H).
ESI(positive): 538(M+H)+, 536(M-H)-
【0061】
2-{[(1S,3S,4S,6S)-3-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)-4,5,6-トリス(フェニルメトキシ)シクロヘキシル]アミノ}プロパン-1,3-ジオール5mgをメタノール1.0mlに溶解させ、水酸化パラジウム31mgを加え、水素置換し室温で15時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、ろ液を減圧下濃縮し、残渣を水30mlに溶解させDowex50WX8を10ml加え室温で1.5時間撹拌した。反応液をろ過し、Dowex50WX8を水洗した後、1%アンモニア水30mlに加え1時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ液を減圧下濃縮し淡黄色油状物を得た。残渣を3%含水エタノールで再結晶し、目的化合物である(1S,2S,4S,5S,3R)-5-{[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}-1-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラオール(ボグリボース)1mg(20.0%)を無色結晶として得た。
1H-NMR(D2O+DSS)δ: 1.49(dd, 1H, J=4.0, 15.2Hz), 2.40(dd, 1H, J=2.0, 15.2Hz), 2.84 (m, 1H), 3.35-3.90(m, 10H).
ESI(positive): 538(M+H)+, 536(M-H)-
【実施例3】
【0062】
中間体化合物(5)よりボグリボースを製造する実施例である。
A.(5S,8S,10S,9R)-7-(ヒドロキシイミノ)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカンの合成
(5S,9S,10S,8R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン-7-オン(中間体化合物(5))105mgのメタノール5.7ml、テトラヒドロフラン3.7ml溶液に室温で酢酸ナトリウム115mg、ヒドロキシルアミンの塩酸塩223mgを加え30℃で14時間撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し(5S,8S,10S,9R)-7-(ヒドロキシイミノ)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン150mg(定量的)を無色油状物として得た.
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.36(s, 3H), 1.48(s, 3H), 2.57(d, 1H, J=13.6Hz), 3.18(d, 1H, J=13.6Hz), 3.49(d, 1H, J=5.6Hz), 3.73(d, 1H, J=8.8Hz), 3.90-4.10(m, 3H), 4.45-4.55(m, 2H), 4.65-4.85(m, 4H), 7.15-7.40(m, 15H), 7.54(m, 1H).
ESI(positive): 518(M+H)+, 535(M+NH4)+.
【0063】
B.(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デク-7-イルアミンの合成
アルゴン気流下、(5S,8S,10S,9R)-7-(ヒドロキシイミノ)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカン150mgのテトラヒドロフラン4ml溶液に氷冷下水素化リチウムアルミニウム68mgを加え室温で30時間撹拌した。反応液を氷冷し、テトラヒドロフラン10ml、10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温で2時間撹拌し、硫酸マグネシウムを加え1時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ液を減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=19:1)で精製し(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デク-7-イルアミン30mg(29.9%)を微黄色油状物として得た。
1H-NMR(CDCl3)δ: 1.41(s, 6H), 1.45-1.50(m, 1H), 2.20(dd, 1H, J=3.2, 14.8Hz), 2.30(m, 2H), 3.22(d, 1H, J=9.2Hz), 3.28(m, 1H), 3.43(dd, 1H, J=4.0, 8.8Hz), 3.63(dd, 1H, J=4.8, 8.4Hz), 3.90-4.00(m, 2H), 4.60-5.60(m, 6H), 7.20-7.35(m, 15H). ESI(positive): 504(M+H)+
【0064】
C.2−{[(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカ-7-イル]アミノ}プロパンー1,3−ジオールの合成
(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デク-7-イルアミン101mgのメタノール0.7ml、テトラヒドロフラン0・7ml溶液に、1,3−ジヒドロキシアセトン二量体21mg、10%HClの10μlを加え室温で4時間攪拌し、シアン化ホウ素ナトリウム28mgを加えて15時間攪拌し、35℃に昇温して5時間攪拌した。反応液に水10mlを加え、塩化メチレン50mlで抽出した。有機層を飽和食塩水洗浄、硫酸マグネシウム乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=39:1)で精製し、2−{[(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカ-7-イル]アミノ}プロパンー1,3−ジオールの5.0mg(5.0%)を無色結晶として得た。
【0065】
D.(1S,2S,4S,5S,3R)-5-{[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}-1-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラオール(ボグリボース(7))の合成
上記の2−{[(5S,7S,8S,10S,9R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサ-8,9,10-トリス(フェニルメトキシ)スピロ[4.5]デカ-7-イル]アミノ}プロパンー1,3−ジオールを用い、実施例2に記載の方法に従ってボグリボース(7)を合成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式の一般式(5)
【化1】

(式中、R及びRは、炭素数1〜6の低級アルキル基、又は共同して =O 基を表わす。R及びRが低級アルキル基の場合は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、またRとRとで共同して炭素数4〜7のシクロアルキル環を形成してもよい。)
で示される化合物。
【請求項2】
次式(1):
【化2】

で示されるケトン化合物を、イソプロポキシジメチルシリルメチルグリニヤール試薬を用いて次式(2)
【化3】


で示されるシリル体を合成し、このシリル体を酸化して次式(3)
【化4】

で示されるトリオールとなし、その後アセタール化又はカーボネート化して次式の一般式(4)
【化5】

(式中、R及びRは前記と同じ。)
で示されるスピロ型二環式化合物となし、その後酸化することを特徴とする請求項1記載の一般式(5)
【化6】


(式中、R及びRは前記と同じ。)
で示される化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の一般式(5)で示される化合物を、2−アミノ−1,3−プロパンジオールと還元的アミノ化反応させて次式の一般式(6)
【化7】

(式中、R及びRは前記と同じ。)
となし、次いで脱保護基することを特徴とする次式(7)
【化8】

で示されるボグリボースの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の一般式(5)で示される化合物にヒドロキシアミンを反応させて次式の一般式(8)
【化9】

(式中、R及びRは前記と同じ。)
で示されるオキシムに変換し、還元して次式(9)
【化10】

(式中、R及びRは前記と同じ。)
で示されるアミンに変換後、次式(10)
【化11】

で示される1,3‐ジヒドロキシアセトン二量体と還元的アミノ反応させて次式の一般式(6)の化合物となし、
【化12】

(式中、R及びRは前記と同じ。)
次いで脱保護することを特徴とする次式(7)
【化13】

で示されるボグリボースの製造方法。

【公開番号】特開2006−8548(P2006−8548A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184891(P2004−184891)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(592086318)壽製薬株式会社 (24)
【Fターム(参考)】