説明

ボツリヌス神経毒素を得るためのプロセスおよびシステム

研究、治療、および美容用途のための、高効力、高収率のボツリヌス神経毒素を得るための、迅速な、動物性タンパク質を含まない、クロマトグラフィープロセスおよびシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2009年7月13日出願の米国特許出願第12/502,181号の利益を主張し、その開示全体は、このように具体的に参照することにより、本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、クロストリジウム神経毒を得るためのシステムおよびプロセス、そこから医薬組成物を作製するための方法、ならびにそのように作製された医薬組成物の治療的および美容的使用に関する。具体的には、本発明は、高効力、高純度、高収率の生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、迅速な、動物性タンパク質を含まないクロマトグラフィープロセスおよびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
治療、診断、研究、または美容目的でヒトまたは動物に投与するのに好適な医薬組成物は、有効成分と、1つ以上の賦形剤、緩衝液、担体、安定剤、等張化剤、保存剤、および/または増量剤とを含む。医薬組成物中の有効成分は、ボツリヌス神経毒素等の生物製剤であってもよい。医薬組成物中の有効成分として有用なボツリヌス神経毒素を得るための既知の方法(Schantz法等)は、培養および発酵培地中で使用される肉汁およびカゼイン等の動物由来タンパク質ならびに動物由来の精製酵素を使用した、数週間にわたる培養、発酵、および精製プロセスである。動物由来成分の使用を介して作製される医薬組成物を患者に投与することは、プリオン等の病原体または感染性病原体を投与するリスクを伴い得る。また、ボツリヌス毒素を得るための既知の動物性タンパク質を含まない方法も、多数の上流(培養および発酵)ならびに下流(精製)ステップを伴う時間のかかるプロセスであり(すなわち、完了するまで1週間以上かかる)、それでもなお、検出可能な不純物を含むボツリヌス神経毒素を生じる結果となる。
【0004】
ボツリヌス毒素
クロストリジウム属は、形態および機能によって分類された127を超える種を有する。嫌気性グラム陽性菌であるクロストリジウム・ボツリナムは、ボツリヌス中毒として知られるヒトおよび動物における神経麻痺疾患の原因となる強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素(「毒素」と同意語)を産生する。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難、および発話困難から、呼吸筋の麻痺および死亡まで進行し得る。
【0005】
ボツリヌス毒素の1単位は、それぞれが約18〜20グラムの体重である雌のSwiss−Websterマウスに腹腔内注射したときのLD50として定義される。ボツリヌス毒素の1単位は、雌のSwiss−Websterマウスのグループの50%を死滅させるボツリヌス毒素の量である。一般に免疫学的に異なる7つのボツリヌス神経毒素が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒素血清型A、B、C、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素の異なる血清型は、それらが影響を及ぼす動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重症度および期間が異なる。ボツリヌス毒素は、コリン作動性運動ニューロンに高い親和性で結合し、ニューロン内に移動してアセチルコリンのシナプス前放出を阻止すると考えられる。
【0006】
ボツリヌス毒素は、例えば、骨格筋の活動亢進によって特徴付けられる神経筋障害を治療するために臨床的設定において使用されてきた。A型ボツリヌス毒素は、12歳を超える患者における本態性眼瞼痙攣、斜視、および片側顔面痙攣の治療、頸部ジストニアおよび眉間(顔面)のしわ、ならびに多汗症の治療のために、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている。FDAはまた、頸部ジストニアの治療のためのB型ボツリヌス毒素も承認している。
【0007】
すべてのボツリヌス毒素の血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害すると考えられているが、それは、異なる神経分泌タンパク質に影響を及ぼすこと、および/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。A型ボツリヌス毒素は、細胞内小胞関連タンパク質(VAMP、シナプトブレビンとも称される)である、25キロダルトン(kDa)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP−25)のペプチド結合を特異的に加水分解することができる亜鉛エンドペプチダーゼである。E型ボツリヌス毒素もまた、SNAP−25を切断するが、A型ボツリヌス毒素と比較した場合、このタンパク質中の異なるアミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は、VAMPに作用し、それぞれの血清型が異なる部位でタンパク質を切断する。最後に、C型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP−25の両方を切断することが分かっている。作用機序におけるこれらの相違は、種々のボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続期間に影響を及ぼし得る。
【0008】
ボツリヌス毒素複合体由来の活性ボツリヌス毒素タンパク質分子(「純毒素」または「神経毒成分」としても知られる)の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つ全てについて約150kDaである。興味深いことに、ボツリヌス毒素は、1つ以上の関連する非毒素タンパク質とともに、150kDaの神経毒成分を含む複合体として、クロストリジウム属菌によって放出される。したがって、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kDa、500kDa、および300kDaの形態(およその分子量)として、クロストリジウム属菌によって産生され得る。B型およびC型ボツリヌス毒素は、500kDaの複合体としてのみ産生されると考えられる。D型ボツリヌス毒素は、300kDaおよび500kDaの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型ボツリヌス毒素は、約300kDaの複合体としてのみ産生される。複合体(すなわち、約150kDaを超える分子量)は、ヘマグルチニン(HA)タンパク質と、非毒素・非ヘマグルチニン(NTNH)タンパク質とを含有する。したがって、ボツリヌス毒素複合物は、ボツリヌス毒素分子(神経毒成分)と、1つ以上のHAタンパク質および/またはNTNHタンパク質とを含むことができる。これらの2種類の非毒素タンパク質(ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒素複合体を含み得る)は、ボツリヌス毒素分子への変性に対する安定性、そして毒素が摂取される際の消化酸からの保護を提供すように作用することができる。また、より大きい(約150kDaを超える分子量)のボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からボツリヌス毒素が拡散する速度をより遅くし得る。A型ボツリヌス毒素を用いた様々な臨床症状の治療の成功により、他のボツリヌス毒素血清型への関心を集めることになった。したがって、少なくともA型、B型、E型、およびF型のボツリヌス毒素がヒトにおいて臨床的に使用されてきた。また、神経毒成分の製剤(すなわち、関連する非毒素タンパク質を含まない)が、ヨーロッパにおいてXEOMIN(Merz Pharmaceuticals、Frankfurt, Germany)の商標名で販売されている。
【0009】
A型ボツリヌス毒素は、pH4〜6.8で希薄水溶液に可溶であることが分かっている。約7を超えるpHでは、神経毒から安定化非毒素タンパク質が解離し、その結果、特にpHおよび温度が上昇すると、毒性が徐々に失われる(Schantz E.J.,et al Preparation and characterization of botulinum toxin type A for human treatment (特に44〜45ページ)、Jankovic,J.,et al,Therapy with Botulinum Toxin, Marcel Dekker,Inc,1994の第3章)。
【0010】
酵素一般についてそうであるように、ボツリヌス毒素の生物学的活性(細胞内ペプチダーゼ)は、それらの三次元構造に少なくとも一部依存する。ミリグラム量の毒素を1ミリリットル当たり1ナノグラムを含有する溶液まで希釈することは、例えば、毒素が表面に付着する傾向があるため、利用可能な毒素の量を減少させる等の著しい困難を提示する。毒素含有医薬組成物が調合されてから数ヶ月後または数年後に毒素が使用される可能性があるため、アルブミン、スクロース、トレハロース、および/またはゼラチン等の安定化剤で毒素を安定化させる。
【0011】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(A型ボツリヌス毒素を精製した神経毒素複合体)の商標名で販売されており、Irvine,CaliforniaのAllergan,Inc.から商業的に入手可能である。BOTOX(登録商標)の100単位の各バイアルは、約5ngの精製A型ボツリヌス毒素複合体、0.5mgのヒト血清アルブミン、および0.9mgの塩化ナトリウムの真空乾燥形態からなり、保存剤を含まない滅菌生理食塩水(0.9%塩化ナトリウムの注入)により再構成することが意図される。他の市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、Dysport(登録商標)(ヒト血清アルブミンおよび乳糖をボツリヌス毒素医薬組成物中に含むA型ボツリヌス菌毒素とヘマグルチニンの複合体)、使用前に0.9%塩化ナトリウムで再構成される粉末として、Berkshire,U.KのIpsen Limitedより入手可能)、ならびにMyoBloc(商標)(約pH5.6でB型ボツリヌス毒素、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウム、および塩化ナトリウムを含む注射液、San Diego,CaliforniaのSolstice Neurosciencesより入手可能)を含む。神経毒成分(150kDaの毒素分子)およびボツリヌス毒素複合体(300kDa〜900kDa)は、例えば、List Biological Laboratories,Inc.(Campbell,California)、Centre for Applied Microbiology and Research(Porton Down,U.K)、Wako(Osaka,Japan)、およびSigma Chemicals(St.Louis,Missouri)から調達することができる。
【0012】
ボツリヌス神経毒素を得るための、動物性タンパク質を含まないおよび/またはクロマトグラフィーの方法は、米国特許第7,445,914号、第7,452,697号、第7,354,740号、第7,160,699号、第7,148,041号、および第7,189,541号に開示される。また、2006年12月12日出願の米国特許出願第11/609,449号、標題「Media for Clostridium Bacterium」、2008年4月7日出願の第12/098,896号、標題「Animal Product Free Media and Processes for Obtaining a Botulinum Toxin」、2007年10月31日出願の第11/932,689号、標題「Chromatographic Method and System for Purifying a Botulinum Toxin」、2007年10月31日出願の第11/932,789号、標題「Chromatographic Method and System for Purifying a Botulinum Toxin」、および2008年9月19日出願の第12/234,537号、標題「Animal Product Free Media And Processes For Obtaining A Botulinum Toxin」も関連している。
【0013】
医薬組成物に使用するためのボツリヌス毒素は、周知のSchantz法を用いたクロストリジウム・ボツリナムの嫌気発酵によって得ることができる(例えば、Schantz E.J.,et al.,Properties and use of botulinum toxin and other microbial neurotoxins in medicine, Microbiol Rev 1992 Mar;56(1):80−99、Schantz E.J.,et al.,Preparation and characterization of botulinum toxin type A for human treatment,chapter 3 in Jankovic J,ed.Neurological Disease and Therapy.Therapy with botulinum toxin(1994),New York,Marcel Dekker;1994,pages41−49、およびSchantz E.J.,et al.,Use of crystalline type A botulinum toxin in medical research,in:Lewis GE Jr,ed.Biomedical Aspects of Botulism(1981)New York,Academic Press,pages143−50を参照)。ボツリヌス毒素を得るためのSchantz法は、例えば、試薬として、また培養および発酵培地の一部として、動物性成分を利用する。
【0014】
治療、診断、研究、または美容目的でヒトまたは動物に投与するのに好適なクロストリジウム毒素医薬組成物を作製するためには、多くのステップが必要である。これらのステップは、精製したクロストリジウム毒素を得ることと、次いで、精製したクロストリジウム毒素を配合することを含み得る。第1のステップは、加温嫌気性雰囲気中等の嫌気性菌の成長の助けとなる環境において、典型的には血液寒天プレート上にクロストリジウム属菌のコロニーをプレーティングして増殖させることであってもよい。このステップにより、所望の形態および他の特徴を有するクロストリジウムのコロニーを得ることが可能となる。第2のステップでは、選択されたクロストリジウムのコロニーを、第1の好適な培地中で、そしてさらに所望される場合は第2の発酵培地中で、発酵させることができる。特定期間の培養後、クロストリジウム属菌は、典型的には溶解し、培地中にクロストリジウム毒素を放出する。第3に、バルク毒素を得るために培地を精製することができる。典型的には、バルク毒素を得るための培地の精製は、他の試薬の中でも、核酸を分解させ、その除去を促進するために使用されるDNaseおよびRNase等の動物由来酵素を使用して行われる。生じたバルク毒素は、特定の特異的活性を有する高度に精製された毒素であり得る。好適な緩衝液中で安定化させた後、バルク毒素を1つ以上の賦形剤と配合して、ヒトへの投与に好適なクロストリジウム毒素医薬組成物を作製することができる。クロストリジウム毒素医薬組成物は、医薬品有効成分(API)としてクロストリジウム毒素を含むことができる。医薬組成物はまた、1つ以上の賦形剤、緩衝液、担体、安定剤、保存剤および/または増量剤も含むことができる。
【0015】
クロストリジウム毒素の発酵ステップは、クロストリジウム菌全体、溶解した菌、培養培地の栄養分、および発酵副産物を含有する液体発酵培地を生じ得る。菌全体および溶解した菌等の全体的要素を除去するためのこの培養液の濾過は、採取/清澄化された培地を提供する。清澄化された培地は、クロストリジウム毒素および種々の不純物を含み、バルク毒素と呼ばれる濃縮されたクロストリジウム毒素を得るために処理される。
【0016】
1つ以上の動物由来成分(牛乳カゼイン消化物、DNaseおよびRNase等)を用いたバルククロストリジウム毒素を得るための発酵および精製プロセスは既知である。ボツリヌス毒素複合体を得るためのそのような既知の動物性成分を含む(「NAPF」)プロセスの例は、Schantz法およびそれに対する変更例である。Schantz法(最初のプレーティング、細胞培養から発酵および毒素精製まで)は、例えば、培養バイアル中の動物由来Bactoクックドミート培地、コロニーの増殖および選択のためのコロンビア血液寒天プレート、および発酵培地中のカゼイン等の、動物源に由来する多くの成分を利用する。また、Schantzのバルク毒素精製プロセスは、発酵培地を含む毒素内に存在する核酸を加水分解するために、ウシ源由来のDNaseおよびRNaseを利用する。APIを得るためのプロセスにおいて、および/またはそのようなAPIを使用して医薬組成物を作製するためのプロセス(配合)において動物性成分が使用される場合の汚染である、ウシ海綿状脳症(BSE)等のウイルス性および伝染性の海綿状脳症(TSE)の可能性に関する懸念が提示されてきた。
【0017】
少ない量の動物由来成分を使用する、破傷風菌を得るための発酵プロセス(動物性成分を含まない、または「APF」と称される発酵プロセス(APFは、動物性タンパク質を含まない、を包含する))が既知である(例えば、米国特許第6,558,926号を参照)。クロストリジウム毒素を得るためのAPF発酵プロセスは、ヒトに投与するために医薬組成物に配合される際に、ウイルス、プリオン、または医薬品有効成分であるクロストリジウム毒素に付随し得る他の望ましくない要素による、次に生じるバルク毒素の汚染の可能性(すでに非常に低い)を減少させる潜在的な利点を有する。
【0018】
例えばカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィーは、分画または精製として知られるプロセスにおいて、タンパク質、核酸、細胞残屑等の混合物から特定のタンパク質(ボツリヌス神経毒素等)を分離するために使用することができる。タンパク質混合物は、典型的には、例えば、多孔質媒体(ビーズまたは樹脂と称されることが多い)であることが多い固体を含有するガラスまたはプラスチック製のカラムを通過する。異なるタンパク質および他の化合物は、それらの固有の化学的特徴、およびそれらの特徴が利用される特定のクロマトグラフィー媒体とそれらを相互作用させる様式に基づいて、マトリックスを異なる速度で通過する。
【0019】
媒体の選択が、タンパク質の分画の基となる化学的特徴の種類を決定する。カラムクロマトグラフィーには、イオン交換、ゲル濾過、アフィニティー、および疎水性相互作用の4つの基本的な種類がある。イオン交換クロマトグラフィーは、正電荷または負電荷を帯びた小さなビーズが充填されたカラムを使用して、表面電荷に基づいて分画を達成する。ゲル濾過クロマトグラフィーでは、それらのサイズに基づいてタンパク質が分画される。アフィニティークロマトグラフィーでは、カラムマトリックス内のビーズに付着した特有の化学基(リガンド)に結合する能力に基づいてタンパク質が分離される。リガンドは、標的タンパク質に生物学的に特異的であってもよい。疎水性相互作用クロマトグラフィーは、表面の疎水性に基づいて分画を達成する。
【0020】
クロストリジウム毒素を精製する(分画する)ためのカラムクロマトグラフィーは周知である。例えば、以下の文献を参照のこと:
1.Ozutsumi K., et al,Rapid,simplified method for production and purificationof tetanus toxin,App&Environ Micro,Apr.1985,p939−943,vol49,no.4.(1985)は、破傷風毒素を精製するためのゲル濾過高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)の使用を開示している。
2.Schmidt J.J.,et al.,purificationof type E botulinum neurotoxin by high−performance ion exchange chromatography,Anal Biochem 1986 Jul;156(1):213−219は、E型ボツリヌス毒素を精製するためのサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーの使用を開示している。また、リボヌクレアーゼ(RNase)の代わりの硫酸プロタミンの使用も開示されている。
3.Simpson L.L.,et al.,Isolation and characterization of thebotulinum neurotoxin s Simpson LL;Schmidt JJ;Middlebrook JL,In:Harsman S,ed.Methods in Enzymology.Vol. 165,Microbial Toxins:Tools in Enzymolog San Diego,CA:Academic Press;vol165:pages76−85(1988)は、重力流によるクロマトグラフィー、HPLC、親和性樹脂を用いた初期精製ステップ、サイズ排除クロマトグラフィー、および2つの異なるイオン交換カラムの使用を含むイオン(陰イオンおよび陽イオン)交換クロマトグラフィーを用いたボツリヌス神経毒の精製を開示している。種々のSephadex、Sephacel、Trisacryl、SおよびQカラムが開示されている。
4.Zhou L., et al.,Expression and purification of the light chain of botulinum neurotoxin A:A single mutation abolishes its cleavage of SNAP−25 and neurotoxicity after reconstitution with the heavy chain,Biochemistry 1995;34(46):15175−81 (1995)は、ボツリヌス神経毒素の軽鎖融合タンパク質を精製するためのアミロースアフィニティーカラムの使用を開示している。
5.Kannan K., et al.,Methods development for the biochemical assessment of Neurobloc(botulinum toxin type B),Mov Disord 2000;15(Suppl 2):20(2000)は、B型ボツリヌス毒素をアッセイするためのサイズ排除クロマトグラフィーの使用を開示している。
6.Wang Y−c,The preparation and quality of botulinum toxin type A for injection (BTXA) and its clinical use, Dermatol Las Faci Cosm Surg 2002;58(2002)は、A型ボツリヌス毒素を精製するためのイオン交換クロマトグラフィーを開示している。この参考文献は、沈殿およびクロマトグラフィー技術の組み合せを開示している。
7.Johnson S.K.,et al.,Scale−up of the fermentation and purificationof the recombination heavy chain fragment C of botulinum neurotoxin serotype F, expressed in Pichia pastoris,Protein Expr and Purif 2003;32:1−9(2003)は、F型ボツリヌス毒素の組換え重鎖断片を精製するためのイオン交換および疎水性相互作用カラムの使用を開示している。
8.公開米国特許出願第2003 0008367 A1号(Oguma)は、ボツリヌス毒素を精製するためのイオン交換およびラクトースカラムの使用を開示している。
【0021】
上に要約した精製方法は、900kDaのボツリヌス毒素複合体全体の精製とは対照的に、ボツリヌス毒素複合体の神経毒成分の小規模な精製(すなわち、約150kDaの神経毒素分子)、または神経毒成分の特定の成分に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
さらに、ボツリヌス毒素医薬組成物中に配合するのに好適なボツリヌス毒素を得るための、商業規模のプロセスを含む既存のプロセスは、典型的には、発酵プロセスからボツリヌス毒素に付随する不純物から毒素複合体を分離するための一連の沈殿ステップを含む。特に、沈殿技術は、生物医薬産業においてボツリヌス毒素を精製するために広く使用されている。例えば、冷アルコール分画(Cohnの方法)または沈殿は、血漿タンパク質を除去するために使用される。残念ながら、ボツリヌス毒素を精製するための以前の沈殿技術は、低分解能、低生産性、操作の困難性、制御および/もしくは検証の困難性、ならびに/またはスケールアップもしくはスケールダウンの困難性という欠点を有する。以前に公開された米国特許出願公開第11/452,570号(10月12日 2006日公開)は、種々の動物性タンパク質を含まないプロセスおよびNAPFプロセスにおいて用いられる、遠心分離、酸沈殿、エタノール沈殿、酸性化ステップ、および硫酸アンモニウム沈殿等のステップを開示している(詳細な考察については、米国公開特許公報番号第2006/0228780号を参照のこと(参照により、その全体が本明細書に組みこまれる))。ボツリヌス神経毒素を得るための動物性タンパク質を含むプロセスと動物性タンパク質を含まないプロセスとの間のいくつかの相違点を本明細書に示す。
【0023】
このように、研究目的のためにおよび/または医薬組成物を作製するために使用することができる、高純度、高効力のボツリヌス神経毒素を得るための、迅速な、比較的小規模であるが高収率のシステムおよびプロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、この必要性を満足させ、迅速な、より小規模の、商業的に有用な、高収率の、動物性タンパク質を含まないクロマトグラフィーシステムおよびプロセスによって得られる、高純度、高効力のボツリヌス神経毒素を提供する。結果として得られたボツリヌス神経毒素は、医薬組成物を作製するために有用である。我々の発明の実践によって得られるクロストリジウム毒素は、好ましくはボツリヌス神経毒素であり、最も好ましくはその約900kDaまたは150kDaの神経毒成分のA型ボツリヌス神経毒素複合体である。我々の発明は、DNaseおよびRNase等のNAPF試薬を必要としない。
【発明の詳細な説明】
【0025】
定義
本明細書で使用される以下の単語および用語は、以下の定義を有する。
【0026】
「約」とは、そのように修飾される事項、パラメータ、または用語が、記載される事項、パラメータ、または用語の値の±10%の範囲を包含することを意味する。
【0027】
「投与」または「投与する」とは、医薬組成物または有効成分を対象に与える(すなわち、投与する)ステップを意味する。本明細書に開示される医薬組成物は、例えば、筋肉内(i.m.)、皮内、皮下投与、髄腔内投与、頭蓋内、腹腔内(i.p.)投与、局部(経皮)および移植(すなわちポリマーインプラントまたはミニ浸透圧ポンプ等の徐放性デバイスの移植)投与経路によって「局所的に投与」される。
【0028】
「動物性成分を含まない」または「実質的に動物性成分を含まない」は、それぞれ、「動物性タンパク質を含まない」または「実質的に動物性タンパク質を含まない」ことを包含し、血液由来、血液プール、および他の動物由来の成分もしくは化合物の不在または実質的な不在を意味する。「動物」とは、哺乳動物(ヒト等)、鳥、爬虫類、魚、昆虫、クモ、または他の動物種を意味する。細菌等の微生物は、「動物」から除外される。したがって、本発明の範囲に含まれるAPF培地もしくはプロセス、または実質的にAPFである培地もしくはプロセスは、ボツリヌス毒素またはクロストリジウム属のボツリヌス菌を含むことができる。例えば、APFプロセスまたは実質的にAPFであるプロセスは、免疫グロブリン、肉消化物、肉副産物、および牛乳または乳製品または牛乳消化物等の動物由来タンパク質を実質的に含まないか、本質的に含まないか、または全く含まないかのいずれかのプロセスを意味する。
【0029】
「ボツリヌス毒素」または「ボツリヌス神経毒素」とは、クロストリジウム・ボツリナムによって産生される神経毒、ならびに修飾、組換え、ハイブリッド、およびキメラのボツリヌス毒素を意味する。組換えボツリヌス毒素は、非クロストリジウム種を用いて組換え的に作製されるその軽鎖および/または重鎖を有することができる。本明細書で使用される「ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス毒素の血清型A、B、C、D、E、F、およびGを包含する。本明細書で使用される「ボツリヌス毒素」はまた、ボツリヌス毒素複合体(すなわち、300、600、および900kDaの複合体)、ならびに純粋なボツリヌス毒素(すなわち、約150kDaの神経毒素分子)の両方も包含し、それらは全て本発明の実践において有用である。「精製ボツリヌス毒素」とは、培養または発酵プロセスから得られる際にボツリヌス毒素に付随し得る他のタンパク質および不純物から単離された、または実質的に単離された、純粋なボツリヌス毒素またはボツリヌス毒素複合体を意味する。したがって、精製ボツリヌス毒素は、少なくとも90%、好ましくは95%を超える、また最も好ましくは99%を超える非ボツリヌス毒素タンパク質および不純物を除去することができる。神経毒ではないボツリヌスCおよびC細胞毒は、本発明の範囲から除外される。
【0030】
「クロストリジウム神経毒」は、クロストリジウム・ボツリナム、クロストリジウム・ブチリクム、またはクロストリジウム・ベラチ等のクロストリジウム属菌から産生されるか、またはそれらに固有の神経毒、および非クロストリジウム種を用いて組換え的に作製されるクロストリジウム神経毒を意味する。
【0031】
「全く含まない」(「〜からなる」という用語法)とは、使用される計器またはプロセスの範囲内で、物質が検出できないこと、またはその存在を確認できないことを意味する。
【0032】
「本質的に含まない」(または「〜から本質的になる」)とは、微量の物質のみが検出され得ることを意味する。
【0033】
「修飾ボツリヌス毒素」とは、天然ボツリヌス毒素と比較して、そのアミノ酸のうちの少なくとも1つが欠失、修飾、または置換されたボツリヌス毒素を意味する。さらに、修飾ボツリヌス毒素は、組換え的に産生された神経毒であるか、または組換え的に作製された神経毒の誘導体もしくは断片であってもよい。修飾ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素受容体に結合する能力、またはニューロンからの神経伝達物質の放出を阻害する能力等の、天然ボツリヌス毒素の生物学的活性を少なくとも1つ保有する。修飾ボツリヌス毒素の一例は、ボツリヌス毒素血清型(血清型A等)由来の軽鎖と、異なるボツリヌス毒素血清型(血清型B等)由来の重鎖とを有するボツリヌス毒素である。修飾ボツリヌス毒素の別の例は、サブスタンスP等の神経伝達物質に結合したボツリヌス毒素である。
【0034】
「医薬組成物」とは、有効成分がボツリヌス毒素であり得る製剤を意味する。「製剤」という単語は、医薬組成物中に、ボツリヌス神経毒素の有効成分の他に少なくとも1つの追加成分(例えば、これらに限定されないが、アルブミン[ヒト血清アルブミンもしくはヒト組換えアルブミン等]および/または塩化ナトリウム等)が存在することを意味する。したがって、医薬組成物は、ヒト患者等の対象への診断的、治療的、または美容的投与(例えば、筋肉内注射もしくは皮下注射による、またはデポー剤もしくはインプラントの挿入による)に好適な製剤である。医薬組成物は、凍結乾燥もしくは真空乾燥した状態であるか、凍結乾燥もしくは真空乾燥した医薬組成物を、例えば生理食塩水もしくは水で再構成した後に形成される溶液であるか、または再構成を必要としない溶液であり得る。有効成分は、ボツリヌス毒素の血清型A、B、C、D、E、F、もしくはGのうちの1つ、またはボツリヌス毒素であってもよく、それらは全てクロストリジウム属菌により自然に作製され得る。記載したように、医薬組成物は、例えば真空乾燥された液体または固体であってもよい。ボツリヌス毒素有効成分の医薬組成物を調合するための例示的な方法は、2002年11月5日出願の公開された米国特許公開第20030118598号に開示され、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0035】
「実質的に含まない」とは、培養培地、発酵培地、医薬組成物、またはある物質(動物性成分、動物性タンパク質、または動物由来成分もしくはタンパク質等)の重量パーセントが、測定される他の材料の1重量パーセント未満で存在することを意味する。
【0036】
「治療用製剤」とは、製剤が、末梢筋または末梢腺(例えば、汗腺)の活動亢進(例えば、痙縮)によって特徴付けられる障害または疾患等の、該製剤と関連する障害または疾患および/もしくは症状を治療し、それによって軽減するために使用され得ることを意味する。
【0037】
「治療的に有効な量」とは、著しい負の副作用または有害な副作用を引き起こすことなく、疾患、障害、状態を治療するために必要な薬剤(例えば、ボツリヌス毒素、またはボツリヌス毒素を含む医薬組成物等)のレベル、量、または濃度を意味する。
【0038】
「治療する」、「治療すること」、または「治療」とは、傷害されたもしくは損傷した組織を治癒することによって、あるいは、既存のもしくは認知された疾患、障害、または状態を軽減する、変化させる、増強する、向上させる、寛解させる、および/または美化すること等によって、所望の治療的または美容的な結果を達成するための、臀部奇形等の疾患、障害、または状態の軽減または減少(ある程度の減少、著しい減少、ほぼ完全な減少、および完全な減少を含む)、回復または予防(一次的または永久的)を意味する。ボツリヌス神経毒素の投与による軽減効果等の治療効果は、例えば、患者へのボツリヌス神経毒素の投与後1〜7日間は臨床的に現れない可能性があり、例えば、治療される状態および特定の症例によって、約1ヶ月から約1年、またはその間のいずれかの時間の範囲の効果持続期間を有し得る。
パーセンテージは、別途記載のない限り体積当たりの重量に基づく。
APFは、動物性成分/タンパク質を含まないことを意味する。
CVは、カラム体積を意味する。
DFは、ダイアフィルトレーションを意味する。
ELISAは、酵素結合免疫吸着検定法を意味する。
「IAPFシステム」または「IAPFプロセス」におけるIAPFとは、「改良された、動物性タンパク質を含まない」システムまたはプロセスを意味する。IAPFシステムまたはプロセスは、本明細書に具体的に詳述するように、ボツリヌス毒素または神経毒成分を精製するための2つのクロマトグラフィー媒体または3つのクロマトグラフィー媒体のいずれかの使用を含む。クロマトグラフィー媒体は、当該技術分野において既知であるように、クロマトグラフィー樹脂を含む。2つのクロマトグラフィー媒体の使用によって得られたボツリヌス神経毒素のバッチは、本明細書においてIAPFと表す。
「FAPFシステム」または「FAPFプロセス」におけるFAPFとは、「さらに改良された、動物性タンパク質を含まない」システムまたはプロセスを意味する。したがって、FAPFはIAPFプロセスであり、FAPFシステムまたはプロセスは、ボツリヌス毒素または神経毒構成要素を精製するために3つのクロマトグラフィー媒体が使用されることを意味する。3つのクロマトグラフィー媒体の使用によって得られたボツリヌス神経毒素のバッチは、本明細書においてFAPFと表す。
NAPFは、動物性タンパク質を含むことを意味する。
SDS−PAGEは、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動を意味する。
SEC−HPLCは、高性能サイズ排除クロマトグラフィーを意味する。
UFは、限外濾過を意味する。
【0039】
本発明の一実施形態において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスであって、該プロセスは、以下の連続的なステップ:(a)実質的にAPFである発酵培地を提供するステップと(b)発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと、(c)発酵培地を陰イオン交換クロマトグラフィー媒体と接触させ、その後、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からの溶離液を陽イオン交換クロマトグラフィー媒体と接触させることによって、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するステップと、を含み、それによって、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得る、プロセスが提供される。特定の実施形態において、プロセスは、得られたボツリヌス神経毒素各1ミリグラムにつき100万分の1(ppm)未満の残留核酸(1ナノグラム以下の残留核酸)を含むボツリヌス神経毒素を提供することができる。さらに別の態様において、プロセスは1週間以内に行われる。
【0040】
一例において、3:1:1の比率を有する培地は、3%HySoy、1%HyYeast、および1%グルコースを含有するボツリヌス毒素の培養/発酵培地を意味する。HySoy(Quest製品番号5X59022)は、大豆の酵素加水分解によって作製されるペプチドの源である。HyYeast(HyYest、Quest製品番号5Z10102または5Z10313)は、パン酵母エキスである。別の例において、5:1:1の比率を有する培地は、5%HySoy、1%HyYeast、および1%グルコースを含有するボツリヌス毒素の培養/発酵培地を意味する。
【0041】
別の実施形態は、生物学的に活性なA型ボツリヌス神経毒素複合体を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスであって、該プロセスは、以下の連続的なステップ:実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと、約2L〜約75Lの実質的にAPFである発酵培地中で、より好ましくは約2L〜約50Lの実質的にAPFである発酵培地中で、さらにより好ましくは約2L〜約30Lの実質的にAPFである発酵培地中で、培養培地からのクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと(特定の実施形態は、植物性タンパク質および/または植物性タンパク質誘導体、例えば、加水分解された植物性タンパク質を含む培養培地ならびに発酵培地のうちの少なくとも1つを有する)、濾過または遠心分離を用いて発酵培地に存在する細胞残屑を除去することにより、発酵培地を採取するステップと、採取済みの発酵培地を濾過により(例えば、限外濾過(UF)等により)濃縮するステップと、緩衝液を加えることにより、濃縮済みの発酵培地を希釈するステップと、を含む、プロセスを提供する。緩衝液による希釈後、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素が陰イオン交換媒体によって捕捉されるように、希釈した採取済みの発酵培地を陰イオン交換媒体と接触させる、第1の接触ステップが行われ;その後、陰イオン交換媒体から捕捉されたボツリヌス神経毒素を溶出し、それによってボツリヌス毒素を含有する第1の溶離液を得;第1の溶離液から不純物を除去するために、第1の溶離液を陽イオン交換媒体と接触させ、それによってボツリヌス毒素を含有する第2の溶離液を得る、第2の接触ステップが行われ;その後、第2の溶離液をダイアフィルトレーション(DF)によって処理し;処理した第2の溶離液を濾過し、それによって実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスを用いて、生物学的に活性なA型ボツリヌス神経毒素複合体を得る。得られたA型ボツリヌス神経毒素複合体は、A型ボツリヌス神経毒素複合体の約2.0×10単位/mg〜約6.0×10単位/mgの効力を有することができる。特定の実施例において、例えば約2.4×10単位/mg〜約5.9×10単位/mgの効力を有するA型ボツリヌス神経毒素複合体を得ることができる。
【0042】
特定の実施形態において、プロセスは、約5%w/v以下の植物由来タンパク質成分、約2%w/v以下の酵母エキス、および約2%w/v以下のグルコースを含む発酵培地を用い、発酵ステップの開始時の発酵培地のpHレベルは、約6.5〜約pH8.0、より好ましくは約pH6.8〜約pH7.6である。特定の実施形態において、培養ステップは、約540ナノメートル(nm)での培養培地の光学密度が約0.8吸高度単位(AU)〜約4.5AUになるまで行われる。培養ステップは、好ましくは、クロストリジウム・ボツリナムのAPFワーキングセルバンクの内容物を培養培地に導入することにより開始され、ワーキングセルバンクの内容物は、ワーキングセルバンク1ミリリットル当たり少なくとも約1×10コロニー形成単位、好ましくは約1×10〜約5×10コロニー形成単位のクロストリジウム・ボツリナムを含み、ワーキングセルバンク中のクロストリジウム・ボツリナム菌は、実質的に均一の形態を有する。さらに別の実施形態において、発酵ステップは、約60〜80時間、および約890nmでの発酵培地の光学密度が約0.05AU〜約0.7AUに減少するまで行われる。一態様において、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスによって得られたボツリヌス神経毒素は、1ppm未満の残留核酸を含み、該プロセスは1週間以内に行われる。
【0043】
さらに別の実施形態において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るためにクロマトグラフィーを利用するAPFプロセスであって、該プロセスは、以下の連続的なステップ:(a)APFワーキングセルバンクからのクロストリジウム・ボツリナム菌をAPF培養培地に加えるステップと、(b)培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと、(c)ステップ(b)からのクロストリジウム・ボツリナム菌を、クロストリジウム・ボツリナムの細胞溶解が起こるまでAPF発酵培地中で発酵させるステップと、(d)発酵培養物を採取して、採取済みの発酵培地を提供するステップと、(e)採取済みの発酵培地を濾過による濃縮に供するステップと、(f)緩衝液の添加により濾過済みの発酵培地を希釈して、希釈済みの発酵培地を得るステップと、(g)希釈済みの発酵培地を初期精製クロマトグラフィー媒体と接触させ、初期精製クロマトグラフィー媒体は陰イオン交換媒体である、第1の接触ステップと、(h)第1の接触ステップからの溶離液を最終精製クロマトグラフィー媒体と接触させ、最終精製クロマトグラフィー媒体は陽イオン交換媒体である、第2の接触ステップと、(i)第2の接触ステップからの溶離液を濾過し、それによって改良されたAPFプロセスにより生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップと、を含み、得られたボツリヌス神経毒素は、1ppmの残留核酸または1ppm未満の残留核酸を含み、該プロセスは1週間以内に行われる、プロセスが提供される。
【0044】
一態様において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的に動物性成分を含まない(APF)クロマトグラフィーシステムであって、該システムは、実質的にAPFである発酵培地と、発酵培地中で発酵させるためのクロストリジウム・ボツリナム菌と、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するための、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体と、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からの溶離液から、さらに生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するための、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体と、を備え、それによって、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得る、システムが提供される。特定の構成において、システムは、実質的にAPFである培養培地中で、クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に培養するための第1の装置をさらに備えることができ、実質的にAPFである発酵培地中で、クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に発酵させるための第2の装置をさらに備えることができ、クロストリジウム・ボツリナム菌は第1の装置から得られる。清澄化のために、システムは、第2の装置から得られた発酵培地から細胞残屑を除去するための採取装置をさらに備えることができ、それによって、採取済みの発酵培地を提供する。採取済みの発酵培地は、濃縮および希釈装置を通過させて、採取済みの発酵培地を濃縮し、続いて希釈することができる。特定の例において、システムはまた、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体からの溶離液から、さらに精製された生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するための、疎水性相互作用媒体を備えることができる。さらに、2つまたは3つのいずれかのクロマトグラフィー媒体を利用することによって得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素のバイオバーデンを減少させるために、得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素中のバイオバーデンを減少させるための濾過装置がシステムを構成してもよい。特定の例において、実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するために、そのワークスペース内に統合型高性能微粒子エアフィルタを有する嫌気性チャンバが用いられてもよい。例示的なシステムは、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約2.0×10単位/mgの効力を有するボツリヌス神経毒素を提供することができ、得られたボツリヌス神経毒素は、得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含む。特定の実施形態において、実質的にAPFである発酵培地は約2L〜約75Lの量で提供され、約200mL〜約1Lの実質的にAPFである培養培地が用いられる。
【0045】
我々の発明の別の態様において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るためにクロマトグラフィーを使用する、実質的にAPFであるシステムであって、該システムは、クロストリジウム・ボツリナム菌を培養するための第1の装置であって、実質的にAPFである培養培地を含有することが可能な第1の装置と;第1の装置において培養されたクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるための第2の装置であって、実質的にAPFである発酵培地を含有することが可能な第2の装置と;発酵培地を採取するための第3の装置と;採取済みの発酵培地を濃縮し、濾過済みの発酵培地を希釈するための第4の装置と;採取済みの培地からのボツリヌス神経毒素の第1の精製を行うための第5の装置であって、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって、第1の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第5の装置と;ボツリヌス神経毒素の第2の精製を行うための第6の装置であって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第2の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第6の装置と、を備え、得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約2.0×10単位/mg〜ボツリヌス神経毒素の約5.9×10単位/mgの効力を有し、得られたボツリヌス神経毒素は、得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含み、プロセスは1週間以内に行われる、システムが提供される。特定の実施形態において、得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも4.4×10単位/mgの効力を有することができる。システムの特定の実施形態において、システムは、第6の装置から得られたボツリヌス神経毒素のさらなる精製を行うための第7の装置であって、疎水性相互作用媒体を備え、それによって、第3の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第7の装置をさらに備えることができる。追加の実施形態において、システムは、第7の装置からの溶離液を濾過するための膜を備える第8の装置をさらに備えることができる。
【0046】
我々の発明の別の態様は、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィーシステムであって、クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に培養するための第1の装置であって、約200mL〜約1Lの実質的にAPFである培養培地含有することが可能な、第1の装置と;第1の装置を含むことが可能な、チャンバ内に統合型高性能微粒子エアフィルタを有する嫌気性チャンバを備える、第2の装置と;第1の装置において培養されたクロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に発酵させるための第3の装置であって、約2L〜約75Lの実質的にAPFである発酵培地、好ましくは約2L〜約30Lの実質的にAPFである発酵培地を含有することが可能であり、酸化還元プローブ、pHプローブ、および濁度プローブからなる群から選択される少なくとも1つの使い捨てプローブを含む、第3の装置と;発酵培地を採取するための第4の装置と;採取済みの発酵培地を濃縮し、濾過済みの発酵培地を希釈するための第5の装置と;採取済みの発酵培地からのボツリヌス神経毒素の第1の精製を行うための第6の装置であって、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第1の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第6の装置と;ボツリヌス神経毒素の第2の精製を行うための第7の装置であって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第2の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第7の装置と;第2の精製ボツリヌス神経毒素の第3の精製を行うための第8の装置であって、疎水性相互作用媒体を備え、それによって第3の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第8の装置と;第3の精製ボツリヌス神経毒素を濾過するための第9の装置であって、濾過膜を備える第9の装置とを備え、得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の2.4×10単位/mg〜ボツリヌス神経毒素の約5.9×10単位/mgの効力を有し、得られたボツリヌス神経毒素は、得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、約1ngまたは約1ng未満の残留核酸を含み、プロセスは1週間以内に行われる、システムを含む。これらのプロセスによれば、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素が得られ、特定の例において、得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約4.4×10単位/mgの効力を有する。
【0047】
本明細書に開示されるプロセスおよびシステムによれば、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素が得られる。特定の実施形態において、本明細書に開示されるプロセスおよびシステムによって得られる生物学的に活性なボツリヌス神経毒素は、約900kDaの分子量を有する。
【0048】
我々の発明は、有効成分が生物学的に活性なボツリヌス神経毒素である、実質的にAPFである医薬組成物を作製するための方法をさらに含み、該方法は、(a)(i)実質的に動物性成分を含まない発酵培地を提供することと、(ii)発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させることと、(iii)陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用し、その後に陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用して、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収することによって、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップであって、回収されたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約2.0×10単位/mg、好ましくはボツリヌス神経毒素の約2.4×10単位/mg〜ボツリヌス神経毒素の約5.9×10単位/mg、いくつかの実施形態においてボツリヌス神経毒素の少なくとも約4.4×10単位/mgの効力を有し、ボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含み、ステップ(i)〜(iii)は1週間以内に完了する、ステップと、(b)ボツリヌス神経毒素を少なくとも1つの好適な賦形剤と配合し、それによって実質的にAPFである医薬組成物を作製するステップと、を含む。特定の実施形態において、配合ステップは、フリーズドライ、凍結乾燥、および真空乾燥からなるプロセスの群から選択されるプロセスによってボツリヌス神経毒素を乾燥させるステップを含み、好適な賦形剤は、アルブミン、ヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、ゼラチン、スクロース、トレハロース、ヒドロキシエチル澱粉、コラーゲン、ラクトース、スクロース、塩化ナトリウム、多糖、カプリル酸、ポリビニルピロリドン、およびナトリウムからなる群から選択される。したがって、我々の発明の一態様は、本明細書に開示されるプロセスおよびシステムによって得られる生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を配合することによって作製される、実質的にAPFである医薬組成物も提供する。
【0049】
さらに、我々の方法は、患者の状態を治療するための方法であって、該方法は、有効成分が本明細書に開示するAPFプロセス(すなわち、IAPFおよびFAPFプロセス)によって得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素である、実質的にAPFである医薬組成物を作製するための方法によって作製される、治療的に有効な量の医薬組成物を患者に投与するステップを含む方法も含む。治療される状態の例は、例えば、頭痛、偏頭痛、緊張型頭痛、副鼻腔炎性頭痛、頸性頭痛、発汗障害、腋窩多汗症、手掌多汗症、足底多汗症、フライ症候群、顔面の多動によるしわ、顔のしわ、眉間のしわ、目尻のしわ、ほうれい線、鼻唇溝、皮膚障害、アカラシア、斜視、慢性裂肛、眼瞼痙攣、筋骨格痛、線維筋痛症、膵炎、頻拍、前立腺肥大、前立腺炎、尿閉、尿失禁、過活動膀胱、片側顔面痙攣、振戦、ミオクローヌス、消火器疾患、糖尿病、流涎症、排尿筋−括約筋協調障害、脳卒中後の痙縮、創傷治癒、若年性脳性麻痺、平滑筋痙攣、限局性筋失調症、癲癇、頸部ジストニア、甲状腺疾患、高カルシウム血症、強迫性障害、関節炎痛、レイノー病、皮膚伸展線条、腹膜癒着、血管攣縮、鼻漏、筋拘縮、筋肉損傷、喉頭ジストニア、書痙、および手根管症候群からなる群から選択される。
【0050】
一実施形態において、患者の状態を治療するための方法であって、該方法は、以下のステップを含む方法によって作製される有効量の実質的にAPFである医薬組成物を患者に局所投与するステップを含む:(a)(i)実質的に動物性成分を含まない発酵培地を提供することと、(ii)発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させることと、(iii)陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用し、その後に陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用して、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収することによって、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップであって、回収されたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約2.0×10単位/mgの効力を有し、ボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含み、ステップ(i)〜(iii)は1週間以内に完了する、ステップと、(b)ボツリヌス神経毒素を少なくとも1つの好適な賦形剤と配合し、それによって実質的にAPFである医薬組成物を作製するステップであって、実質的にAPFである医薬組成物の局所投与は状態を治療するステップ。
【0051】
本明細書に開示されるIAPFプロセス/システム/方法によって提供される、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を含む治療的に有効な量の医薬組成物の局所投与は、例えば、約2ヶ月〜約6ヶ月の間隔で、または約2ヶ月〜約3ヶ月の間隔で繰り返されてもよい。本開示にしたがって作製される実質的にAPFである医薬組成物の治療的に有効な量の、患者に局所投与される例示的な有用な投与量は、約0.01単位〜約10,000単位のボツリヌス神経毒素単位量を有することができる。特定の場合において、ボツリヌス神経毒素は、約0.01単位〜約3000単位の量で投与される。特定の例において、医薬組成物中の医薬品有効成分{いやくひん ゆうこう せいぶん}である生物学的に活性なボツリヌス神経毒素は、例えば、A型またはB型ボツリヌス神経毒素である。
【0052】
我々の発明は、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るためにクロマトグラフィーを利用する、実質的にAPFであるプロセスを含む。プロセスは、以下の連続的なステップ:実質的にAPFである発酵培地を提供するステップと、その後の発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用し、その後に陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用して、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するステップと、を含むことができ、それによって、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得る。回収ステップはまた、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体の使用後に、疎水性相互作用媒体の使用を含んでもよい。得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素複合体であるか、またはそこから単離された、ボツリヌス毒素複合体の複合体形成タンパク質を含まない、約150kDaの分子量のボツリヌス毒素の神経毒成分であってもよい。APFプロセス(2カラム(IAPF)、例えば、陰イオンの後に陽イオンクロマトグラフィーを用いるか、または3カラム(FAPF)、例えば、陰イオンの後に陽イオン、その後に疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いる)は、A、B、C、D、E、F、およびG型ボツリヌス神経毒素等の生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るために使用することができる。得られたボツリヌス神経毒素は、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素複合体である。
【0053】
我々の発明の一態様において、使用される発酵培地の量は、約2L〜約75Lの実質的にAPFである発酵培地、好ましくは約2L〜約30Lの実質的にAPFである発酵培地を含むことができる。一例として、約100mg〜約5グラム、好ましくは約100mg〜約3グラム、より好ましくは約100mg〜約1グラムの生物学的に活性なボツリヌス神経毒素が、このプロセスから得られる。一例として、使用される発酵培地1リットル当たり約20mg〜約100mgまたは約20mg〜約80mgの生物学的に活性な神経毒が得られてもよい。発酵培地は、例えば、植物由来タンパク質成分、酵母エキス、およびグルコースを含むことができる。一例として、発酵培地は、約5%w/v以下の植物由来タンパク質成分を含む。さらに別の例において、発酵培地は、約2%w/v以下の酵母エキスを含む。さらなる実施例において、発酵培地は、約2%w/v以下のグルコースを含む。特定の例において、発酵培地は、約5%w/v以下の植物由来タンパク質成分、約2%w/v以下の酵母エキス、および約2%w/v以下のグルコースを含み、植物由来タンパク質成分、酵母エキス、およびグルコースは、列挙したw/vパーセント量にしたがった任意の割合である。いくつかの実施形態において、発酵ステップは、約60時間〜約80時間継続する。
【0054】
一実施形態において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るためにクロマトグラフィーを利用する、実質的にAPFであるプロセスであって、以下の連続的なステップ:実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと、次いで、培養培地からのクロストリジウム・ボツリナム菌を、約2L〜約75Lの実質的にAPFである発酵培地、より好ましくは約2L〜約30Lの実質的にAPFである発酵培地中で発酵させるステップであって、実質的にAPFである培養培地および実質的にAPFである発酵培地のうちの少なくとも1つは、植物性タンパク質を含む、ステップと、その後、発酵培地に存在する細胞残屑を除去することによって発酵培地を採取するステップと、採取済みの発酵培地を濾過により濃縮するステップと、緩衝液を加えることにより濃縮済みの発酵培地を希釈するステップとを含む、プロセスが提供される。一旦緩衝されると、第1の接触ステップが実行され、希釈された採取済みの発酵培地を陰イオン交換媒体と接触させることで、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素が陰イオン交換媒体と関連付けられ、次いで、捕捉されたボツリヌス神経毒素を陰イオン交換媒体から溶出することで第1の溶離液を得、その後、第2の接触ステップでは第1の溶離液から不純物を除去するために第1の溶離液を陽イオン交換媒体と接触させ、それによって第2の溶離液を得、次いでUFおよび/またはDF等によって処理され、次いで処理された第2の溶離液を濾過することによって、クロマトグラフィーを利用する実質的にAPFプロセスを用いて生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得る。
【0055】
一例として、菌の培養から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るまでのプロセスの完了時間は、例えば、約50時間〜約150時間、より好ましくは約80時間〜約120時間であってもよい。特定の実施形態において、培養培地は約4%w/v以下の植物由来タンパク質成分を含み、別の実施形態において、培養培地は約2%w/v以下の酵母エキスを含み、さらに別の実施形態において、培養培地は約2%w/v以下のグルコースを含む。培養培地は、列挙したw/vパーセント量にしたがって、任意の割合で植物由来タンパク質成分、酵母エキス、およびグルコースを含むことができる。特定の例において、培養ステップ開始時の培養培地のpHレベルは、約pH6.5〜約pH8.0、好ましくは約pH6.8〜約pH7.6、より好ましくは7.3であってもよい。培養ステップは、約33℃〜約37℃の温度で、好ましくは約34.5℃で、嫌気性チャンバにおいて、約8時間〜約14時間、約10時間〜12時間、好ましくは約11時間行われてもよい。特定の例において、嫌気性チャンバは、培養が行われるそのワークスペース内に統合型高性能微粒子エアフィルタを含んでもよい。発酵ステップは、約33℃〜約37℃の温度で、好ましくは35℃で、約60時間〜約80時間、好ましくは約72時間行われてもよい。我々の発明の一態様によれば、採取ステップは、発酵培地に含有されるRNAおよびDNAの少なくとも約80%を除去することができ、陰イオン交換媒体は、採取済みの発酵培地中の全ての測定可能な残りのDNAおよびRNA(検出限界未満)を除去することができる。別の態様において、採取ステップは、約1時間〜約3時間、好ましくは約2.5時間行われてもよい。特定の例において、採取ステップは、元の発酵培地の体積の75%が収集されるまで実行されてもよい。実施形態の一態様において、濃縮ステップは、約30分〜約2時間、好ましくは約0.75時間行われてもよい。別の態様において、希釈ステップは、採取済みの発酵培地を希釈して、採取ステップ開始時の発酵培地の初期重量まで戻す。第1の接触ステップは、例えば、約4時間〜約5時間行われてもよい。一例において、陰イオン交換樹脂からの第1の溶出液は、分光光度計の読み取り値約150mAU以上で、280nmでの分光光度計の読み取り値がピーク頂点から減少して約150mAUまで戻るまで収集される。第2の接触ステップは、1時間〜約3時間、好ましくは約2時間行われてもよい。この第2の溶出液は、例えば、分光光度計の読み取り値約100mAU以上で、分光光度計の読み取り値がピーク頂点から減少して約100mAUに戻るまで陽イオン交換樹脂から収集されてもよい。濃縮およびダイアフィルトレーションによってこの第2の溶離液を処理するステップは、約1時間〜約2時間、好ましくは約1.5時間行われてもよい。特定の実施形態において、濾過ステップは、第2の溶離液をバイオバーデン減少フィルタに通過させることによるバイオバーデンの減少を含む。バイオバーデン減少フィルタは、約0.1μm〜約0.3μm、好ましくは0.2μmの孔径を有することができる。特定の実施形態において、プロセスは、第2の溶離液から不純物をさらに除去し、それによって第3の溶離液を得るために、第2の溶離液を疎水性相互作用媒体に接触させることにより、第2の接触ステップの後に第3の接触ステップをさらに含むことができる。この第3の接触ステップは、約1時間〜3時間、好ましくは約2時間行われてもよい。第3の溶出液は、例えば、分光光度計の読み取り値約50mAU以上で、分光光度計の読み取り値がピーク頂点から減少して約50mAUに戻るまで疎水性相互作用媒体から収集されてもよい。第3の接触ステップが存在する場合は、濃縮およびダイアフィルトレーションによる処理のステップが第3の溶離液に適用され、約2時間〜約4時間行われる。濃縮およびダイアフィルトレーションされた(2カラムまたは3つカラムのいずれかのプロセスからの)溶離液をバイオバーデン減少フィルタに通過させることによるバイオバーデンの減少が、それに応じて行われてもよい。特定の実施形態において、プロセスは、得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を冷凍するステップをさらに含む。
【0056】
特定の実施形態において、実質的にAPFである培養培地は、約100mL〜約500mLの体積を含む。特定の培養ステップは、約100μL〜約500μLのクロストリジウム・ボツリナム含有APFワーキングセルバンクの培地を、実質的にAPFである培養培地に導入することによって開始される。次いで、培養ステップが、例えば、嫌気性チャンバにおいて、少なくとも約8時間、好ましくは約11時間、約34.5℃±1℃の温度で行われてもよい。一例において、ワーキングセルバンクの培地は、ワーキングセルバンクの培地の少なくとも約1×10コロニー形成単位/mL、例えば、ワーキングセルバンクの培地の約1×10〜約5×10コロニー形成単位/mL生存細胞数アッセイを有することができ、ワーキングセルバンク中のクロストリジウム・ボツリナム菌は、実質的に均一な形態を有するように選択されていてもよい。
【0057】
一実施形態において、ワーキングセルバンクの培地は、例えば、約20体積%のグリセロール、例えば滅菌グリセロールを含む。ワーキングセルバンクの培地は、(a)約34.5℃±1℃の温度で、約540nmの波長で測定される培地のアリコートの光学密度が約2.5±1.0AUになるまで、嫌気性チャンバの約2%w/vの大豆ペプトン、約1%w/vの酵母エキス、および約1%w/vのグルコースを含有するAPF培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を増殖させ、グリセロールを加えて培地中のグリセロール濃度約20%を得、それによってワーキングセルバンクを得ることによって作製されてもよい。ワーキングセルバンクの保存形態は、例えば、ワーキングセルバンクを約−135℃未満で冷凍することによって調製することができる。本開示にしたがった例示的プロセスにおける使用のためのワーキングセルバンクの保存形態は、周囲温度で解凍して、培養ステップを開始するために使用されてもよい。
【0058】
培養ステップは、嫌気性チャンバ、例えば、好ましくはそのワークスペース内に統合型高性能微粒子エアフィルタ(HEPA)を有する嫌気性チャンバ/キャビネット等において、約33℃〜約37℃の温度で、好ましくは約34.5℃で、約8時間〜約14時間、好ましくは約11時間行われてもよい。発酵ステップは、約20時間〜約80時間、好ましくは約60時間〜約80時間、より好ましくは約72時間、約33℃〜約37の温度で、好ましくは35℃で行われてもよい。プロセスは、例えば、培養ステップの前に、培地を嫌気性チャンバの大気に曝露することにより、実質的にAPFである培養培地の酸化還元を可能にするステップをさらに含むことができる。プロセスはまた、発酵ステップの前に、同様に発酵培地を嫌気性チャンバの大気に曝露することにより、実質的にAPFである発酵培地の酸化還元を可能にするステップを含むことができる。一例として、実質的にAPFである培養培地の酸化還元を可能にするステップは、嫌気性チャンバにおいて約10時間〜約14時間行われてもよい。同様に、発酵槽内の実質的にAPFである発酵培地の酸化還元を可能にするステップが、発酵ステップの開始前に約10時間〜約14時間行われてもよい。
【0059】
一実施形態において、以下の連続的なステップを含む、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、クロマトグラフィーを含むAPFプロセスが開示される:APFワーキングセルバンクからのクロストリジウム・ボツリナム菌をAPF培養培地に加えるステップと、培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと、培養ステップからのクロストリジウム・ボツリナム菌を、クロストリジウム・ボツリナムの細胞溶解が起こるまでAPF発酵培地中で発酵させるステップと、APF発酵培養物を採取して、採取済みの発酵培地を提供するステップと;採取済みの発酵培地を濾過による濃縮に供するステップと、緩衝液の添加により濾過済みの発酵培地を希釈して、希釈済みの発酵培地を得るステップと、希釈済みの発酵培地を初期精製クロマトグラフィー媒体と接触させ、初期精製クロマトグラフィー媒体は陰イオン交換媒体である、第1の接触ステップと、第1の接触ステップからの溶離液を最終精製クロマトグラフィー媒体と接触させ、最終精製クロマトグラフィー媒体は陽イオン交換媒体である、第2の接触ステップと、第2の接触ステップからの溶離液を濾過し、それによって改良されたAPFプロセスにより物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップ。特定の実施形態において、プロセスは、第2の接触ステップの後かつ濾過ステップの前に、第2の接触ステップからの溶離液を疎水性相互作用媒体と接触させることによって、第3の接触ステップを行うステップをさらに含むことができる。クロストリジウム・ボツリナムの溶解段階は、例えば、発酵ステップの開始から約35時間〜約70時間後に起こり得る。発酵培地は、例えば、約2L〜約75L、約2L〜約30L、または約2L〜20Lの体積の発酵培地を有することができる。このプロセスは全体で約50時間〜約150時間、より好ましくは約80時間〜約120時間の間行われてもよい。このステップによってこのように得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素は、例えば、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素の約2.4×10〜約5.9×10単位/mgの効力を有することができる。
【0060】
一態様によれば、発酵終了時には、発酵培地1リットル当たり約40mg〜約85mgのボツリヌス神経毒素を得ることができる。種々の処理段階(濾過/クロマトグラフィー/濾過運転)に続いて、発酵培地1リットル当たり約30mg〜約60mgのボツリヌス神経毒素、発酵培地1リットル当たり約5mg〜約25mgのボツリヌス神経毒素、発酵培地1リットル当たり約6mg〜約20mgのボツリヌス神経毒素を得ることができる。
【0061】
一実施形態として、発酵培地のpHは、発酵ステップの開始時に約pH6.0〜約pH8、好ましくは約pH6.8〜約pH7.6、より好ましくは約pH7.3に調整することができる。別の例として、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスもまた提供され、該プロセスは、ボツリヌス神経毒素を含有する実質的にAPFである発酵培地を得るステップと、培地を陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂と接触させて、ボツリヌス神経毒素を含有する精製された溶離液を提供するステップと;溶離液を陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂と接触させ、それによってさらに精製された溶離液を得るステップと、さらに精製された溶離液を濾過し、それによって実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから精製された生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップとを含む。特定の構成において、約600mL〜約800mLの陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を含有する陰イオンクロマトグラフィーカラムが用いられてもよい。陰イオンクロマトグラフィーカラムは、例えば、約8cm〜約10cmの直径と、カラム内に約9cm〜約16cmの陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂床の高さを有することができる。陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過する発酵培地の流速は、例えば、約140cm/時間〜約250cm/時間、または約150cm/時間〜約160cm/時間であってもよい。別の態様において、プロセスにおいて、クロマトグラフィーカラム内に約150mL〜約300mLの陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂が用いられてもよく、陽イオンクロマトグラフィーカラムは、例えば、約5cm〜約8cmの直径および約5cm〜約11cmの陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂床の高さを有することができる。プロセスは、ダイアフィルトレーションステップおよび/またはバイオバーデン減少ステップのうちの少なくとも1つを含むことができる。バイオバーデン減少ステップには、カプセルフィルタを利用することができる。精製された溶離液のダイアフィルトレーションは、好ましくはバイオバーデン減少ステップの前に行われる。一例において、さらに精製された溶離液のダイアフィルトレーションステップは、ダイアフィルトレーション後のさらに精製された溶離液の濃度を調整すること、および濃度調整したダイアフィルトレーション後のさらに精製された溶離液にバイオバーデン減少フィルタを通過させることの前または後にいずれかである。プロセスは、マウスのLD50バイオアッセイによって決定されるように、ボツリヌス毒素の少なくとも約2.0×10単位/mg、例えば、ボツリヌス神経毒素の約2.4×10〜約6.0×10単位/mg等の効力を有する、得られたボツリヌス神経毒素を提供することができる。プロセス終了時の例示的な回収率、例えば、発酵培地1リットル当たり約4mg〜約25mgのボツリヌス毒素が回収されてもよい。
【0062】
別の実施形態において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を精製するための、本質的にAPFであるプロセスは、ボツリヌス神経毒素を含む約2L〜約30LのAPF発酵培地を得るステップと、APF発酵培地を採取して、採取済みのAPF発酵培地を提供するステップと、採取済みのAPF発酵培地上で陰イオン交換クロマトグラフィーを行い、それによって第1の溶離液を提供するステップと、陰イオン交換クロマトグラフィーからの溶離液を陽イオン交換クロマトグラフィー媒体と接触させて陽イオン交換クロマトグラフィーを行い、それによって第2の溶離液を提供するステップと、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体からの第2の溶離液を濾過し、それによって精製されたボツリヌス神経毒素を得るステップと、を含むことができ、得られた精製ボツリヌス神経毒素は、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素の約2.4×10〜約5.9×10単位/mgの効力を有し、使用されるAPF発酵培地1リットル当たり約4mg〜約25mgの量で得ることができる。
【0063】
我々の発明はまた、有効成分が生物学的に活性なボツリヌス神経毒素である、実質的にAPFである医薬組成物を作製するための配合方法であって、(i)実質的に動物性成分を含まない発酵培地を提供するステップと、(ii)発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと、(iii)陰イオン交換クロマトグラフィー培地を使用し、その後に陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用して、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するステップと;次いで、ボツリヌス神経毒素を少なくとも1つの好適な賦形剤と配合し、それによって実質的にAPF医薬組成物を作製することによって、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップとを含む、配合方法も含む。一例において、この方法は、フリーズドライまたは凍結乾燥または真空乾燥により、配合されたボツリヌス神経毒素および少なくとも1つの好適な賦形剤を乾燥させて、有効成分が生物学的に活性なボツリヌス神経毒素である、輸送または保存のための安定した形態を得るステップを含み、発酵培地は植物から得られたタンパク質成分を含む。タンパク質成分を得ることができる植物は、大豆、トウモロコシもしくは麦芽、ルピナス・カンペストリスの脱苦味種子、またはそれらの加水分解産物であってもよい。得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の約2.0×10単位/mg〜ボツリヌス神経毒素の約6.0×10単位/mgの効力を有することができる。ボツリヌス神経毒素は、A、B、C、D、E、F、およびG型ボツリヌス神経毒素からなる群から選択され、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素である。特定の場合、ボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス毒素複合体の複合体形成タンパク質を含まない、約150kDaの分子量のボツリヌス毒素の神経毒成分として得られる。特定の実施形態において、好適な賦形剤は、アルブミン、ヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、ゼラチン、スクロース、トレハロース、ヒドロキシエチル澱粉、コラーゲン、ラクトース、スクロース、アミノ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、多糖、カプリル酸、ポリビニルピロリドン、およびクエン酸カリウムからなる群から選択される。生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップは、陽イオン交換培地の使用後に疎水性相互作用媒体を使用するステップをさらに含むことができる。特定の例において、真空乾燥は約20℃〜約25℃の温度で行われる。いくつかの実施形態において、真空乾燥は、例えば、約70mmHg〜約90mmHgの圧力で行われる。真空乾燥の時間は、例えば、約4時間〜約5時間であってもよい。
【0064】
本開示の特定の態様は、例えば、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素複合体と、アルブミン、ヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、ゼラチン、スクロース、トレハロース、ヒドロキシエチル澱粉、コラーゲン、ラクトース、およびスクロースからなる群から選択される賦形剤とを含む医薬組成物を提供することを対象とし、該医薬組成物は、本質的に核酸を含まない。
【0065】
特定の例において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を含む医薬組成物が提供され、得られたボツリヌス神経毒素は、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素の約2.0×10〜約6.0×10単位/mgの効力と、少なくとも1つの賦形剤とを有し、組成物は、ボツリヌス神経毒素複合体1mg当たり約12ppm未満の核酸、好ましくは1ppm未満の核酸を含む。
【0066】
特定の実施形態において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスは、以下の連続的なステップを含む:約10時間〜約12時間、または培養培地のバイオマス測定値が約540ナノメートル(nm)の波長で約0.8AU〜約4.5AUの光学密度を有するまで、実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと;約65時間〜約75時間、または約890nmの波長でオンラインバイオマスプローブを使用して発酵培地の光学密度を測定することによって発酵の最後に測定されるバイオマス測定値が約0.05AU〜約0.7AUになるまで、実質的にAPFである発酵培地中で培養培地からのクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと;発酵培地を約2.5時間採取するステップであって、発酵培地中の細胞残屑が除去され、発酵培地の重量が採取ステップ開始時の出発重量の約4分の3まで減少するステップと;採取済みの発酵培地を接線流濾過により採取ステップ開始時の出発重量の約4分の1まで濃縮するステップと;濃縮済みの発酵培地を緩衝液を加えることにより希釈するステップであって、濃縮および希釈ステップは、約0.5時間〜約2時間行われ、濃縮中、発酵培地が採取ステップ開始時の出発重量の4分の1まで減少し、次いで、緩衝液の添加により、採取ステップ開始時の元の出発重量まで希釈されるステップと;希釈済みの発酵培地を、初期精製クロマトグラフィー媒体と約4時間〜約5時間の期間接触させ、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップと;初期精製クロマトグラフィー媒体からの溶離液を第1の最終精製クロマトグラフィー媒体と接触させ、そこから不純物を除去するために第1の最終精製運転を約1.5時間〜約2.5時間の期間行うステップと;最終精製クロマトグラフィー媒体からの溶離液を疎水性相互作用培地に約1.5時間〜約2.5時間の期間通過させることによって、第1の最終精製運転を行うステップと;疎水性相互作用媒体からの溶離液をダイアフィルトレーションによって約1時間〜約4時間の期間処理するステップと;処理された溶離液をバイオバーデン減少フィルタに約0.5時間通過させて濾過し、それによって生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップ。
【0067】
別の態様において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィーシステムであって、クロストリジウム・ボツリナム菌を培養するための第1の装置であって、実質的にAPFである培養培地を含有することが可能な第1の装置と;第1の装置において培養されたクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるための第2の装置であって、実質的にAPFである発酵培地を含有することが可能な第2の装置と;発酵培地を採取するための第3の装置と;第3の装置からの採取済みの培地の濃縮および希釈を行うための第4の装置であって、接線流濾過(TFF)を含む、第4の装置と;濃縮および希釈済みの培地からのボツリヌス神経毒素の第1の精製を行うための第5の装置であって、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第1の精製ボツリヌス神経毒素を得る第5の装置と;第1の精製ボツリヌス神経毒素の第2の精製を行うための第6の装置であって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第2の精製ボツリヌス神経毒素を得る第6の装置と、を備えるシステムが開示される。
【0068】
特定の実施形態において、システムは、第6の装置から得られた第2の精製ボツリヌス神経毒素を精製することによりさらなる精製を行うための第7の装置であって、疎水性相互作用媒体を備え、それによって第3の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第7の装置をさらに備えることができる。システムはまた、第6または第7の装置からの溶離液を濾過するための濾過膜を有する第8の装置をさらに備えてもよい。
【0069】
さらに別の実施形態において、直径約8cm〜約15cmのクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を含有し、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は、例えば、約8cm〜約15cmのカラムにおける床高さを有することができる。さらに別の例において、システムの第4の装置は、約125cm/時〜約200cm/時の流速で操作されるクロマトグラフィーカラムを備え、カラムは約500mL〜約1Lのカラム体積を有することができる。一態様において、第5の装置は、例えば、約50mL〜約500mLのカラム体積および約8cm〜約15cmの床高さを有することができる。いくつかの例において、第5の装置のクロマトグラフィーカラムは、例えば、約2cm〜約10cmのカラム直径を有する。第5の装置のクロマトグラフィーカラムは、約100cm〜約200cm/時の例示的流速を有することができる。システムの第7の装置は、濾過膜を備えることができる。
【0070】
別の実施形態において、システムは、第9の装置をさらに備えることができ、第9の装置は、クロストリジウム・ボツリナム菌を培養するための第1の装置がその中に含まれる、嫌気性雰囲気を提供するための嫌気性チャンバを備える。この第9の装置は、好ましくは、そのチャンバ/ワークステーション内に位置する統合型高性能微粒子エア(HEPA)フィルタを含む。システムの(発酵のための)第2の装置は、酸化還元電位またはpHまたは光学密度を検出するための少なくとも1つのプローブを含むことができる。特定の例において、少なくとも1つの使い捨てプローブは、酸化還元プローブ、pHプローブ、および濁度プローブからなる群から選択される。システムの第8の装置は、濃縮および緩衝液交換のための接線流濾過装置を備えることができる。さらなる実施形態において、システムは、バイオバーデンを減少させるためのバイオバーデン減少装置を含む第10の装置を備えることができる。一例において、バイオバーデン減少装置は、約0.1μm〜0.3μm、好ましくは0.2μmの孔径を有するフィルタを備える。システムはまた、精製ボツリヌス神経毒素を保存するように、第2の精製ボツリヌス神経毒素を得た後に使用するための第11の装置を含む。一例において、この保存装置は、約−25℃〜約−80℃の保存温度を提供する。
【0071】
別の態様において、実質的にAPFである発酵培地を提供するステップと、発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと、陰イオン交換クロマトグラフィー培地を使用し、その後に陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用して、発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するステップと、を有するAPFプロセスによって、生物学的に活性なボツリヌス毒素が提供され、得られた生物学的に活性なボツリヌス毒素は、ボツリヌス神経毒素の約2.0×10単位/mg〜ボツリヌス神経毒素の約6.0×10単位/mgの効力を有する。一実施形態において、プロセスは、疎水性相互作用媒体を使用し、その後に陽イオン交換媒体を使用することにより、ボツリヌス神経毒素をさらに精製するステップをさらに含む。
【0072】
別の態様によれば、本明細書に開示される方法にしたがって得られたボツリヌス神経毒素を含む医薬組成物を利用して、患者の状態を治療する方法が提供される。状態は、疾患、不調、病気、または美容的な奇形もしくは外見を含んでもよい。一例において、患者の状態を治療する方法は、ボツリヌス神経毒素および少なくとも1つの好適な賦形剤を含む治療的に有効な量の医薬組成物を患者に投与するステップを含み、ボツリヌス毒素は約1単位約02ピコグラムの効力を有し、それによって患者の状態を治療する。
【0073】
特定の例において、これらの状態を治療するためのボツリヌス神経毒素は、実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養することと;ボツリヌス神経毒素を含有する実質的にAPFである発酵培地を得ることと;培地をイオン交換クロマトグラフィー媒体と接触させ、ボツリヌス神経毒素と接触する精製された溶離液を提供することと;溶離液を陽イオン交換クロマトグラフィー媒体と接触させ、それによってさらに精製された溶離液を得ることと;さらに精製された溶離液を濾過し、それによって実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから精製された生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得ることからなるプロセスによって得ることができる。
【0074】
一実施形態において、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィーシステムが含まれ、該システムは、クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に培養するための第1の装置であって、約200mL〜約1Lの実質的にAPFである培養培地を含有することが可能な第1の装置と;第1の装置で培養されたクロストリジウム・ボツリナム菌の嫌気性発酵のための第2の装置であって、約5L〜約75L、または約2L〜約75L、または約2L〜約30Lの実質的にAPFである発酵培地を含有することが可能であり、酸化還元プローブ、pHプローブ、および濁度プローブからなる群から選択される少なくとも1つの使い捨てプローブを含む、第2の装置と;嫌気性雰囲気を提供するための、第1の装置を含むことが可能な第9の装置であって、チャンバ内に統合型高性能微粒子エアフィルタを有する嫌気性チャンバを備え、上記チャンバは、クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に培養するための第1の装置を含むことができる、第9の装置と;発酵培地を採取するための第3の装置と;採取済みの培地の濃縮および希釈を行うための第4の装置と、第4の装置から得られたボツリヌス神経毒素の第1の精製を行うための第5の装置であって、陰イオン交換クロマトグラフィー培地を備え、それによって第1の精製ボツリヌス神経毒素を得る第5の装置と;第1の精製ボツリヌス神経毒素の第2の精製を行うための第6の装置であって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第2の精製ボツリヌス神経毒素を得る第6の装置と;第2の精製ボツリヌス神経毒素の第3の精製を行う第7の装置であって、疎水性相互作用媒体を備え、それによって第3の精製ボツリヌス神経毒素を得る第7の装置と;第3の精製ボツリヌス神経毒素の濃縮および緩衝液交換のための第8の装置であって、TFF膜を備える第8の装置とを備える。
【0075】
特定の例において、発酵培地は、例えば、約5%w/v以下の植物由来タンパク質成分、約2%w/v以下の酵母エキス、および約2%w/v以下のグルコースを含み、約72時間の発酵ステップの開始時の発酵培地のpHレベルは、約pH6.8〜約7.6、好ましくは約pH7.3である。一実施形態において、方法は、さらに精製された溶離液を疎水性相互作用培地と接触させて、ボツリヌス神経毒素と接触したなおもさらに精製された溶離液を得るステップをさらに含むことができる。特定の例において、状態を治療する方法は、ボツリヌス毒素複合体の複合体形成タンパク質を含まない、約150kDaの分子量のボツリヌス毒素の神経毒成分として得られたボツリヌス神経毒素を使用することによるものであってもよい。例示的な投与ステップは、筋肉内、皮内、皮下、腺内、くも膜下腔内、直腸内、経口、および経皮投与からなる投与経路の群から選択されてもよく、ボツリヌス神経毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型、またはG型ボツリヌス毒素からなる群から選択される。好ましくは、ボツリヌス神経毒素はA型ボツリヌス神経毒素である。
【0076】
いくつかの例において、このシステムは、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素複合体が、ボツリヌス神経毒素複合体1mg当たり約12ng未満、好ましくはボツリヌス神経毒素複合体1mg当たり1ng未満の核酸を含む、より好ましくは測定可能な核酸を有さない(例えば、検出限界未満)医薬組成物の一部として使用するために得られてもよいプロセスを促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】Aは、実施例1のNAPFプロセスにおける主なステップを示すフロー図である。Bは、実施例2のIAPFプロセスにおける主なステップを示すフロー図であり、初期精製および最終精製クロマトグラフィーステップは、2つのカラム(陰イオン交換の後に陽イオン交換)または3つのカラム(FAPF)(陰イオン交換の後に陽イオン交換、その後に疎水性相互作用カラム)のいずれかを用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0078】
我々の発明は、単純、迅速、かつ経済的なAPFクロマトグラフィーシステムおよびプロセスの使用によって、ボツリヌス神経毒素等の高効力、高純度の生物学的に活性なクロストリジウム神経毒を得ることができるという発見に基づくものである。意義深いことに、我々のシステムおよびプロセスの使用は、たとえ、発酵させたボツリヌス神経毒素を精製するために、RNaseおよびDNase等の動物由来ではない酵素が使用されたとしても、得られた精製ボツリヌス神経毒素1mg当たり1ng(または1ng未満)の核酸(RNAおよびDNA)不純物を含む精製ボツリヌス神経毒素をもたらすことができる。例えば、我々のシステムおよびプロセスの使用は、得られた精製ボツリヌス神経毒素1ミリグラム当たり約0.6ng未満の核酸(RNAおよびDNA)不純物を含む精製ボツリヌス神経毒素をもたらすことができる。得られたボツリヌス神経毒素は、300kDa、500kDa、もしくは900kDa(およその分子量)の複合体、またはそれらの混合物等のA型ボツリヌス毒素複合体であってもよい。得られたボツリヌス神経毒素はまた、約150kDaの分子量のボツリヌス毒素型の神経毒成分(すなわち、複合体タンパク質を含まない)であってもよい。ボツリヌス神経毒素は、血清型A、B、C、D、E、F、もしくはGまたはそれらの混合物のうちのいずれか1つであってもよい。また、改良されたシステムおよびプロセスは、組換え、ハイブリッド、キメラ、または修飾ボツリヌス毒素(軽鎖、重鎖、または両方の鎖を一緒に)と組み合わせて実践されてもよい。
【0079】
我々の発明の重要な態様は、クロストリジウム・ボツリナム菌が発酵されたAPF発酵培地からボツリヌス神経毒素を精製するための、陰イオン交換(初期精製)媒体クロマトグラフィーの使用と、その後の陽イオン交換(最終精製)媒体クロマトグラフィーの使用である。我々は、陰イオン交換の使用後に陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を使用することが、高純度、高収率のボツリヌス神経毒素を得るための効果的かつ迅速な方法を提供することを発見した。以前は、陰イオン交換クロマトグラフィーの使用は、ボツリヌス神経毒素のゲル上のバンドパターンに有害な影響を与えると考えられていたため、ボツリヌス神経毒素精製のための陰イオン交換クロマトグラフィーの使用は奨励されていなかった。例えば、米国特許第7,452,697号、55段目、53〜57行目を参照のこと。
【0080】
我々の発明の別の重要な態様は、上記のように高純度のボツリヌス神経毒素(すなわち、1ngの核酸/得られたボツリヌス神経毒素1mg)をもたらすことである。我々の発明のさらなる重要な態様は、既知のSchantz法がボツリヌス神経毒素の培養、発酵、および精製に数週間(すなわち、典型的には約18〜約22日)を必要とするのに対し、我々の発明の範囲内のシステムおよびプロセスは、全ての培養、発酵、および精製ステップを1週間以内に完了可能にするということである。我々の発明の好ましい実施形態において、全ての培養、発酵、および精製ステップは、6日以内に完了することができる。我々の発明のより好ましい実施形態において、全ての培養、発酵、および精製ステップは、約4日以内に完了することができる(例えば、約80〜約144時間以内、またはその間の時間/範囲内)。我々は、8つまたは9つのステップのプロセス(およびそのプロセスを達成するためのシステム)を開発することにより、また特定の実施形態における8つまたは9つのステップのプロセスの各々は、以下に記載する期間内に完了することができることを発見することにより、我々の発明のこの迅速な実施形態を発明した。
培養に約8時間〜約14時間、
発酵に約60時間〜約80時間、
採取に約2.5時間、
濃縮および希釈に約2時間〜約4時間、
陰イオン交換クロマトグラフィーに約4時間〜約6時間(これには捕捉されたボツリヌス毒素を溶出するための時間も含まれる)、
陽イオン交換クロマトグラフィーに約2時間、
任意の第3のクロマトグラフィーステップ(すなわち、疎水性相互作用クロマトグラフィー)に約2時間、
濃縮およびダイアフィルトレーションに約2時間〜約4時間、
さらなる濾過に約1/2時間。したがって、我々の発明の我々の8つまたは9つのステップの、迅速な、より好ましい実施形態を完了するために必要な合計時間は、約75時間〜約150時間である。
【0081】
我々の発明は、より効率的かつ時間節約的である。一態様において、我々の新しいプロセスは、予め選択された確認済みの細胞株を利用するため、従来技術Shantz法における、細胞のプレーティングおよび増殖、コロニーの選択および採取、ならびに培養およびその後の発酵培地への接種に{しょくきん}必要とされていた採取したコロニーの漸増的細胞株増殖(細胞培養および発酵ステップの前)のステップを排除する。一態様において、我々の発明は、APF培養培地の接種のために予め選択された細胞を培養することから始まるため、時間および処理ステップが省かれる。
【0082】
実験を通して、我々は、発酵培地(クロストリジウム・ボツリナム菌のAPF発酵から生じた発酵培地)に存在するボツリヌス神経毒素を精製するための2つのクロマトグラフィーカラム(「IAPF」)および3つのカラム(「FAPF」/「FIAPF」)を用いたクロマトグラフィーシステムおよびプロセスを開発した。意義深いことに、APF発酵プロセスは、クロストリジウム属菌を培養して発酵させるために使用される培地からの栄養分としての動物由来成分(カゼインおよび肉汁等)を減少するかまたは排除することができるのに対し、既知のAPF発酵プロセスには、典型的には、酵素DNaseおよびRNase等の動物由来成分を利用した1つ以上の精製ステップが続く。APF発酵培地に存在するボツリヌス神経毒素を精製するための我々のシステムおよびプロセスは、動物由来酵素を使用しない。
【0083】
我々の発明は、採取済みの発酵培地(例えば、濾過によって清澄化された)を、Applied Biosystems社製POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂等の陰イオン交換カラムに投入することを包含することができる。一態様において、ポリスチレン/ジビニルベンゼンのベースマトリックスおよび約50μmの粒子径および約60〜70の動的能力(BSAmg/ml)を有する強力な陰イオン交換媒体が使用されてもよい。陰イオン交換カラムは、クロストリジウム神経毒(ボツリヌス毒素複合体等)を捕捉し、不純物レベルを減少させる。陰イオン交換カラムは、ボツリヌス毒素複合体の生物学的活性を保持しつつ、採取済みの発酵培地からのボツリヌス毒素複合体を効率的に捕捉する一方で、発酵培地中のボツリヌス毒素とともに存在する多くの不純物を分離することも明らかになった。捕捉された(結合した)クロストリジウム神経毒を陰イオン交換カラムから溶出するために、好適な緩衝液が使用される。
【0084】
我々の発明の2カラムの実施形態において、ボツリヌス神経毒素を不純物から精製するために、陰イオン交換カラムからの溶離液(ボツリヌス神経毒素を含有する)が陽イオン交換カラムに投入される。陽イオン交換カラムは、Applied Biosystems社製POROS(登録商標)20HS陽イオン交換樹脂であってもよい。一態様において、ポリスチレン/ジビニルベンゼンのベースマトリックスおよび約20μmの粒子径および約>75の動的結合能(リゾチーム(lysozyme)mg/ml)を有する強力な陽イオン交換媒体が使用されてもよい。我々の発明の3カラムの実施形態(FAPF)において、ボツリヌス神経毒素をさらに精製するために、陽イオン交換カラムからの溶離液がGE Healthcare社製Phenyl Sepharose HP樹脂等の疎水性相互作用カラムに投入される。一態様において、フェニル基で誘導体化された、約45の動的結合能(キモトリプシノーゲンmg/ml)を有する、約34μmの粒径の高度架橋アガロースビーズのマトリックスが使用されてもよい。
【0085】
2カラムまたは3カラムのいずれかのプロセス後、高度に精製されたバルクのボツリヌス毒素複合体を得るために、最後に使用されたカラムからの溶離液がさらに処理されてもよい。クロマトグラフィー後の処理ステップは、限外濾過およびダイアフィルトレーションによる濃縮および緩衝液交換、懸濁液(従来技術)の代わりに、好ましくはクエン酸カリウム中、またある例においては濃度10mMのクエン酸カリウム(pH約6.5)中での、精製したボツリヌス毒素複合体の溶液の滅菌濾過および調製を含むことができる。
【0086】
特定の好ましい実施形態において、クロストリジウム・ボツリナムの増殖(嫌気性培養および嫌気性発酵)ならびにボツリヌス毒素の産生のための培地は、使用される培地が実質的にまたは完全に動物由来成分を含まないように、動物由来成分の代わりに大豆由来成分を含むことができる。培養ステップは、その後の発酵のために微生物の量を増加させる。培養により、休眠中の、以前に冷凍されていた菌が、活発に増殖する培養物中で活性化され得る。また、発酵培地に接種するために使用される生きた微生物の体積および量は、保存された非繁殖クロストリジウム・ボツリナムのセルバンクから制御され得るよりも、活発に増殖する培養物からの方がより正確に制御することができる。したがって、APF培地中のワーキングセルバンクのサンプルは、解凍され、選択されたAPF培養培地に配置される。好適なレベルの菌増殖が得られた時点で、発酵培地に接種するために培養培地が使用される。一例として、増殖期のクロストリジウム・ボツリナムを有する培養培地の約1%〜約5%、またはその間の量が、発酵培地に接種するために使用される。大規模な嫌気性環境において最大量の微生物細胞を生産するために発酵が行われる(Ljungdahl et al.,Manual of industrial microbiology and biotechnology(1986),edited by Demain et al,American Society for Microbiology,Washington,D.C.page.84)。代替として、発酵培地中のクロストリジウム・ボツリナムの増殖は、ワーキングセルバンクのサンプルを発酵培地に直接加えることによって進行させることもできる。
【0087】
従来技術では、培養培地におけるクロストリジウム・ボツリナムの増殖は、典型的には2段階で進行する:第1段階は細胞のプレーティング、細胞コロニーの増殖、選択および増殖であり、その後に、第2段階である培養培地の接種(典型的には、2段階の漸増的培養)および発酵培地の接種、ならびにボツリヌス毒素の生産が続く。好ましくは、培養培地における増殖は、いずれの段階においても、発酵培地の接種および培養培地における最終増殖の前に細胞溶解をもたらさない。したがって、我々の発明以前は、発酵ステップが始まる前にクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するために約4日かかっていた。我々の発明によれば、細胞のプレーティング、続いて血液寒天プレート上でコロニー増殖を待つ時間、次いで培養培地に種菌を提供する低体積の培養物(例えば8〜9mL)中で増殖させるためにプレートからコロニーを選択するといった、以前に用いられていたステップの必要性がないため、我々はわずか8〜14時間で全ての培養を完了することができる。我々の発明の一態様によれば、予め選択された細胞が発酵培地に接種するために直接用いられ、それが次いで大規模な発酵培地に接種するために用いられ、そこからボツリヌス毒素が最終的に精製され、したがって、培養培地に接種し、次いで発酵培地に接種するためにそれ自体が用いられる細胞を増殖させるために以前に用いられていたプレーティング、コロニー形成、選択および漸増ステップを排除する。
【0088】
動物由来(非APFまたは「NAPF」)の培養培地は、通常、ブレインハートインフュージョン培地(BHI)、バクトペプトン、NaCl、およびグルコースを含む。本発明の範囲内の培養培地は、APF培養培地である。例えば、培養および発酵培地中のBHIおよびバクトペプトンの代わりに、大豆由来成分を使用することができる。好ましくは、大豆由来成分は水溶性であり、加水分解された大豆を含むが、クロストリジウム・ボツリナムは、不溶性の大豆を含有する培地中でも増殖することができる。本発明にしたがって、大豆由来成分のいずれの源が使用されてもよい。好ましくは、大豆は加水分解された大豆であり、加水分解は非動物性酵素を使用して行われる。加水分解された大豆または可溶性大豆の源は、Hy−Soy(Quest International)、Soy peptone(Gibco)Bac−soytone(Difco)、AMISOY (Quest)、NZ soy(Quest)、NZ soy BL4、NZ soy BL7、SE50M(DMV International Nutritionals)、およびSE50MK(DMV)を含む。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は、我々の発明の特定の実施形態を記載するものであって、我々の発明の範囲を限定することを意図するものではない。実施例において別途記載のない限り、「毒素」または「ボツリヌス毒素」とは、約900kDaの分子量のA型ボツリヌス毒素複合体を意味する。約900kDaの分子量のA型ボツリヌス毒素複合体を精製するための本明細書に開示されるシステムおよび方法は、約150kDa、約300kDa、約500kDaおよび他の分子量の毒素、複合体、ボツリヌス毒素の血清型、およびボツリヌス毒素の神経毒成分の精製への容易な適用性を有する。
【0090】
実施例1
ボツリヌス毒素を得るための非APF(Schantz)プロセス
この実施例では、ボツリヌス神経毒素を得るための従来技術であるSchantz法について記載する。このプロセスは、動物由来培地および試薬を使用する非APFプロセスである(すなわち、培養のためのウシ血液寒天プレート、発酵培地中のカゼイン、ボツリヌス神経毒素の精製のためのRNaseおよびDNase酵素の使用)。図1Aは、Schantz法の主なステップを示すフロー図である。Schantz法は、約16〜20の主なステップを有し、生産規模の作業には115L発酵槽を使用し、完了するまで約3週間かかる。Schantz法は、非APFであるクロストリジウム・ボツリナムのマスターセルバンク(MCB)バイアルを室温まで解凍し、続いて4つの培養ステップを行うことによって開始される。最初に、好適な形態のコロニーを選択するために、予め還元したコロンビア血液寒天(CBA)プレート上に、解凍したMCBバイアルからのアリコートを画線塗抹し、34℃±1℃で30〜48時間嫌気的にインキュベートした。2番目に、選択したコロニーを、カゼイン増殖培地を含有する9mL試験管に34℃で6〜12時間接種した。次いで、最も急激な増殖および最高密度(増殖選択ステップ)を有する9mL管の内容物を、2段階漸増した嫌気性インキュベーション(第3および第4の培養ステップ)によりさらに培養した:600mL〜1Lの種培養瓶内にて、34℃で12〜30時間のインキュベーション、その後、カゼイン増殖培地を含有する15L〜25Lの種発酵槽中、35℃で6〜16時間の培養。これらの2段階漸増による培養は、pH7.3の水中、2%カゼイン加水分解物(カゼイン[乳タンパク質]消化物)、1%酵母エキスおよび1%グルコース(デキストロース)を含有する栄養培地中で行った。
【0091】
漸増による培養後、商業規模(すなわち115L)の発酵槽中、制御された嫌気性雰囲気下、カゼイン含有培地にて、35℃で60〜96時間さらにインキュベーションを行った。菌の増殖は、通常24〜36時間後に完了し、約65〜約72時間行われる発酵ステップの間に、ほとんどの細胞が溶解し、ボツリヌス神経毒素を放出する。毒素は、細胞溶解によって遊離させられ、培養液中に存在するプロテアーゼによって活性化されると考えられる。培養培地の濾液は、全不純物(すなわち全細胞および破裂した細胞)を除去するための単層の深層フィルタを用いて、清澄化培養物と称される透明な溶液を得ることによって調製することができる。清澄化培養物からのボツリヌス神経毒素の収集は、3M硫酸で清澄化培養物のpHを3.5まで低下させ、粗毒素を20℃で沈殿させる(酸性化沈殿)ことにより達成される。次いで、粗ボツリヌス神経毒素を超限外濾過(精密濾過)(MFまたはUFと称される)によって濃縮し(体積の減少を達成するため)、続いてダイアフィルトレーション(DF)を行った。精密濾過には0.1μmフィルタを使用した。
【0092】
採取した未精製毒素または粗毒素を、次いで消化用容器に移し、プロテアーゼ阻害剤であるベンズアミジン塩酸塩の添加によって安定化した。DNaseおよびRNaseを加え、核酸を消化(加水分解)した。次いで、加水分解した核酸および低分子量の不純物をさらなるUFおよびDFステップにより除去した。次いで、pH6.0リン酸緩衝液で毒素を抽出し、清澄化により細胞残屑を除去した。次に、3つの連続的な沈殿ステップ(冷エタノール、塩酸、および硫酸アンモニウムによる沈殿)を行った。精製したボツリヌス神経毒素複合体(バルク毒素)を、リン酸ナトリウム/硫酸アンモニウム緩衝液中、2℃〜8℃で懸濁液として保存した。
【0093】
採取および精製ステップを含む、この実施例1のSchantz(非APF)法の完了には約1〜3週間かかる。結果として生じたバルクのボツリヌス神経毒素は、2×10U/mgの特異的な効力、0.6未満のA260/A278、およびゲル電気泳動における特徴的なバンドパターンを有し、ボツリヌス毒素医薬組成物の配合に使用するのに好適な、クロストリジウム・ボツリナムのホールA菌株から作製された900kDaのA型ボツリヌス毒素複合体の高品質懸濁液であった。
【0094】
ボツリヌス神経毒素はまた、米国特許第7,452,697号の実施例7に記載されるように、APF非クロマトグラフィープロセスから得ることもでき、完全APF非クロマトグラフィープロセス(培養の開始から全ての精製および処理ステップまで)は、完了するまで2〜3週間かかる。代替として、ボツリヌス神経毒素は、米国特許第7,452,697号の実施例16に記載されるように、APFクロマトグラフィープロセスから得ることもでき、APFクロマトグラフィープロセス(培養の開始から全ての精製および処理ステップまで)は、完了するまで1週間以上かかる。
【0095】
実施例2
ボツリヌス神経毒素を得るためのAPF、2カラムおよび3カラムクロマトグラフィーシステムおよびプロセス
我々は、高収率、高純度のボツリヌス神経毒素を得るための、迅速な、APF陰イオン‐陽イオンクロマトグラフィーに基づくシステムおよびプロセスを開発した。この実施例2のプロセスは、わずか8〜10個の主なステップを有し、生産のために(つまり、最終的なボツリヌス神経毒素のグラム量を得るために)20Lの発酵容器を使用し、培養の開始から最終的な精製および毒素の保存まで、プロセスの全ステップを完了するためにわずか4〜7日、好ましくは約4〜約6日かかる。本明細書に開示されるシステムにおいて用いられる装置について以下に考察する。2カラムクロマトグラフィー媒体プロセスおよび3カラムクロマトグラフィー媒体プロセスの両方が開発され、本明細書に記載される。2媒体プロセスは、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に陽イオン交換クロマトグラフィーを使用した。3媒体プロセスは、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に陽イオン交換クロマトグラフィー、その後に疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用した。HICにより、49kDaの不純物等の不純物をさらに除去した(後に考察されるように、それは宿主細胞のグルコースリン酸イソメラーゼであった)。

【0096】
ワーキングセルバンクの調製
我々は、コロンビア血液寒天プレートを使用しない、新しいクロストリジウム・ボツリナムのセルバンク(培養ステップを開始するために使用するため)を開発し、それによって培養前のコロニー選択の必要性を排除し、またShantz法の漸増的な試験管培養および複数の播種(培養)ステップを行う必要性をも排除した。
【0097】
この目的のために、以前に確立されたSchantzマスターセルバンク(MCB)を使用してAPFリサーチセルバンク(RCB)を作製し、そこから新しいAPFマスターセルバンク(MCB)およびそれに続くワーキングセルバンク(WCB)を作製した。リサーチセルバンク(RCB)は、Schantz(NAPF)MCBに由来するコロニーから作製した。MCBバイアルから動物由来タンパク質を除去するために、2%w/vSPTII(Soy Peptone Type II)、1%w/v酵母エキス、および1%w/vグルコースを含有するAPF培地中で細胞を2回洗浄した。モジュール式雰囲気制御型システム(MACS)の嫌気性チャンバを使用した厳重な嫌気性条件下で、細胞をAPF培地にプレーティングした。単離したコロニーをさらに増殖させ、約20%グリセロールを含有するAPF培地に−135℃未満で保存した。
【0098】
酸素を含まないAPF培地(200mL、最低12時間嫌気性チャンバ内で還元した)中にRCBを増殖させることにより、GMP条件下でAPF−MCBを作製し、MACS嫌気性チャンバ中、34.5℃±1℃(60rpmで撹拌)で培養物のOD540が2.5±1.0AUに達するまで培養した。結果として得られた培養物に、最終濃度が約20%になるまで滅菌グリセロールを加え、その後、混合物を1mL/バイアル(APF−MCBバイアル)でクライオバイアルに移した。液体窒素中でバイアルを瞬間冷凍し、次いで−135℃未満で保存した。APF−WCBは、上記のように増殖させることによりGMP条件下で作製した。結果として得られたAPFセルバンクを、同一性、精度、生存率、および遺伝的安定性について特徴付けを行った。
【0099】
上流ステップ(培養および発酵)
我々の実施例2のプロセスは、概して上流段階および下流段階の2段階を有していた。上流段階は、清澄化した、採取済みの培養物(次いで濃縮および希釈される)を提供するための、出発細胞株の増殖(実質的にAPFである培養培地中でのクロストリジウム・ボツリナム菌の増殖および再生産)、発酵、採取(細胞残屑の除去)を含む。したがって、この例において、我々の2カラムプロセスにおける9つのステップは、培養、発酵、採取濾過、濃縮、初期精製(陰イオン)クロマトグラフィー、最終精製(陽イオン)クロマトグラフィー、緩衝液の交換、バイオバーデンの減少、およびバイアルの充填である。
【0100】
上流段階は、400mLの(嫌気性チャンバ内で)還元したAPF種培養培地(2%w/vSPTII、1%w/v酵母エキス(オートクレーブ前に1N水酸化ナトリウムおよび/または1N塩酸でpH7.3に調整した))、培養培地のオートクレーブ後に加えられた1%w/v滅菌グルコース)を含有する1L瓶内での培養培地の使用を含んでいた。培養(種)培地に、400μLの解凍したクロストリジウム・ボツリナムWCBを接種した。インキュベーション/培養は、嫌気性チャンバ内で34.5℃±1.0℃、150rpmで撹拌して行った。
【0101】
540nmでの培養培地の光学密度が1.8±1.0AUになったとき、1L瓶の全内容物(約400mL)を、1N水酸化ナトリウムおよび/または1N塩酸による蒸気滅菌後にpH7.3に調整したAPF発酵培地と、3.25%w/vSPTII、1.2%w/v酵母エキス、1.5%w/v滅菌グルコース(滅菌(例えば、約122℃で0.5時間の滅菌)後に加えられた)からなる発酵培地とを含有する20L生産発酵槽に移した。温度および撹拌は、それぞれ35℃±1℃および70rpmで制御した。窒素オーバーレイを12slpmに設定し、ヘッドスペース圧力を5psigに設定して、細胞増殖のための嫌気性環境を維持した。発酵のpHおよび細胞密度は、それぞれpHプローブおよびオンライン濁度プローブによりモニタリングした。生産発酵の3相は、指数関数的成長相、定常相、および自己融解相を含む。35時間目から発酵の終了時にかけて、培養培地中に活性BoNT/A複合体を放出する細胞の自己融解が一貫して起こるのが観察された。発酵終了時に、採取のために培養物を25℃に冷却した。
【0102】
発酵培地を25℃に冷却してから、ライセートを含有するA型ボツリヌス神経毒素複合体から深層濾過により細胞残屑を分離した:最初に、名目上の保持率勾配5-0.9μmの前置フィルタを通して細胞残屑を除去し、次いで、正電荷を帯びた名目上の保持率勾配0.8-0.2μによりDNAを除去した(約80%まで除去)。使用前に、両方のフィルタを20Lの注射用水(WFI)で一緒にすすいだ。さらなる処理には最低15Lの濾液が必要であり、インプロセスでのサンプル採取終了後、あらゆる余分な材料を除染した。濾液を限外濾過によりすぐに処理しない場合は、4℃で保存した。
【0103】
バイオセーフティキャビネット
(BSC)内で、採取ステップからの濾液を中空ファイバ、GE Healthcare社製接線流濾過(TFF)膜を使用して15Lから5±0.5Lに濃縮した。次いで、限外濾過した材料を10mMリン酸ナトリウムのpH6.5緩衝液で最終体積20Lまで希釈した。この材料を2カラム(陰イオン、次いで陽イオン)または3カラムクロマトグラフィーカラム(陰イオン、陽イオン、次いで疎水性相互作用)のいずれかを使用して精製した。希釈した、限外濾過した採取材料をすぐに精製によって処理しない場合は4℃で保存した。
【0104】
Schantz法では、時間および培養増殖の目視観測に基づいて培養ステップを終了し、発酵ステップを開始する。対照的に、我々の実施例2のプロセスでは、培養ステップをいつ終了するかの決定は培養液の光学密度の分析に基づいており、それによって、培養物が発酵ステップの開始時に対数増殖期にあることを確実にし、培養ステップの期間を約8時間〜約14時間に削減することを可能にする。我々のODパラメータによって終了した培養ステップは、培養細胞の健康を最大化し、発酵ステップから頑強かつ豊富なボツリヌス毒素が得られるのを助長した。培養終了時の培養培地の平均光学密度(540nmでの)は1.8AUであった。発酵ステップの平均期間は72時間、発酵ステップ終了時の発酵培地の平均最終濁度(A890)は0.15AUであった。発酵ステップの終了時に20L発酵培地(全部ロス)中に存在したA型ボツリヌス毒素複合体の平均量(ELISAにより判定した)は、A型ボツリヌス毒素複合体約64μg/発酵培地1mLであった。
【0105】
採取ステップは、細胞残屑および核酸を除去するために深層濾過を使用し、その後、限外濾過および希釈によりプロセスの次のステップのために発酵培地を調製した。この採取/細胞残屑の除去は、さらなる処理のための調製において濃縮および緩衝液を交換するために、酸性化による沈殿、その後に精密濾過およびダイアフィルトレーションを使用するSchantzの採取プロセスとは根本的に異なる。
【0106】
下流ステップ(精製)
下流ステップは、陰イオン交換カラム上でのボツリヌス神経毒素の捕捉;陽イオン交換カラム上での最終精製による、カラムからの溶出および不純物のさらなる分離;そして好ましくは(3カラムプロセスにおいて)、所望のボツリヌス神経毒素を含有する溶離液の第3カラム、好ましくは疎水性相互作用カラムの通過(例えばクロマトグラフィー);その後の接線流濾過(TFF)を用いた濃縮および緩衝液の交換;冷却保存、好ましくは冷凍のために最適化された最終的なA型ボツリヌス神経毒素複合体になるまでのバイオバーデンの減少(例えば、0.2μmフィルタを使用したさらなる濾過による);ならびにA型ボツリヌス神経毒素複合体医薬組成物への最終的な配合を含んでいた。クロマトグラフィーおよび濾過の段階の手順は、より安定した原体を提供するために、生成物およびプロセスに関連する不純物を除去すること、潜在的な外来性物質を除去すること、ならびにA型ボツリヌス神経毒素複合体の濃度および最終的なA型ボツリヌス神経毒素の緩衝液マトリックスを制御することを目的とするものであった。
【0107】
実行した3カラム下流プロセスのより具体的な実施形態は以下の通りである。清澄化された(希釈された)限外濾過した材料(上に開示するように20L)をPOROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させ、捕捉されたボツリヌス神経毒素を陰イオン交換カラムから溶出し、次いでPOROS(登録商標)20HS陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に流し、そこからの溶離液をPhenyl Sepharose HPクロマトグラフィー樹脂に流した。HICカラムからの溶離液を100kDa接線流濾過、続いて0.2μm濾過に供した。得られたA型ボツリヌス神経毒素複合体を保存のために冷凍した。
【0108】
この実施例では、我々は、下流プロセスの第1のクロマトグラフィーステップにおいて、内径約8cmおよびカラム高さ約15cmのカラムに充填したPOROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を使用した。全部のPOROS(登録商標)50HQカラムの操作を周囲温度で完了し、流れは下向き方向であった。核酸(例えばDNAおよびRNA)ならびに他の宿主細胞タンパク質等のより負電荷を帯びた成分が陰イオン交換カラムに結合したままになっている陰イオンカラムから、pHの段階的変化を用いてA型ボツリヌス神経毒素複合体を溶出した。
【0109】
陰イオン交換ステップの詳細:0.1N水酸化ナトリウム(少なくとも約3カラム体積、230cm/時)を最短接触時間の30分間使用した、POROS(登録商標)50HQカラムの使用。次いで、50mMリン酸ナトリウム、pH6.5緩衝液(少なくとも5カラム体積)でカラムを平衡化した。次に、清澄化した限外濾過および希釈した材料(すなわち処理したライセートのAPF発酵材料)を230cm/時でPOROS(登録商標)50HQ陰イオン交換カラムに投入し、その後、280nmでのカラム流出液の吸高度が0.10AUに減少するまで、少なくとも約20カラム体積の50mMリン酸ナトリウム、pH6.5を用いて230cm/時で洗浄し、その後、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて230cm/時で溶出した。280nmでの吸高度(A280)が少なくとも約0.15AUに増加し、ピーク最大値を経て立ち下がり区間で約0.2AU以下になったときに生成物プールを収集し、1カラム体積の50mM酢酸ナトリウム、pH4.8を含有する容器に入れた。この溶出プールを約2℃〜約8℃で48時間保存した。
【0110】
この実施例2の下流プロセスにおける第2のクロマトグラフィーステップは、内径8cmおよびカラム高さ5cmのカラムに充填したPOROS(登録商標)20HS陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂を使用した。全部のPOROS(登録商標)20HSカラムの操作を周囲温度で完了し、流れは下向き方向であった。A型ボツリヌス神経毒素複合体はPOROS(登録商標)20HSカラム樹脂に結合する。次いで、塩の段階的変化を用いてA型ボツリヌス神経毒素複合体をカラムから溶出した。生成物に関連する不純物を、洗浄緩衝液および除染溶液で溶出した。
【0111】
陽イオン交換ステップの詳細:0.1N水酸化ナトリウム溶液(少なくとも約3カラム体積、230cm/時)を最短接触時間の用いた、30分間使用した、POROS(登録商標)20HSカラムの使用。次いで、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8緩衝液(少なくとも5カラム体積)でカラムを平衡化した。次に、POROS(登録商標)50HQ生成物プール(上記のように収集されたか、新しいか、または冷蔵していたもの)をPOROS(登録商標)20HSカラムに投入した。次いで、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8緩衝液(少なくとも約3カラム体積)でカラムを洗浄し、次いで50mM酢酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH4.8緩衝液で再度洗浄した。A型ボツリヌス神経毒素複合体を、50mM酢酸ナトリウム、250mM塩化ナトリウム、pH4.8緩衝液を用いて200mL/分でPOROS(登録商標)20HSカラムから溶出し、A280が約0.1AUに増加してピーク最大値を迎え、溶出ピークの立ち下がり区間のA280が立ち下がり値約0.1AUまで減少したときに、溶出液をバイオプロセス収集袋(1カラム体積の50mM NaH、pH4.8を含有する)に誘導した。POROS(登録商標)20HS生成物プールを、周囲温度で最長約6時間、収集袋内に保存した。
【0112】
この実施例2の3カラムクロマトグラフィー媒体プロセスにおいて、第2の(陽イオン交換)カラムからの溶離液をHICカラムに通過させた。使用したHICカラムは、内径約8cmおよびカラム高さ約5cmのカラムに充填したPhenyl Sepharose HP疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂であった。全部のPhenyl Sepharose HPカラムの操作を周囲温度で完了し、流れは下向き方向であった。減少する塩の段階的変化を用いて、A型ボツリヌス神経毒素複合体をカラムから溶出した。投入する間に、洗浄緩衝液および除染溶液で不純物を溶出した。
【0113】
疎水性相互作用クロマトグラフィーステップの詳細:
最初に、Phenyl Sepharose HPカラムを0.1N水酸化ナトリウム溶液で最短接触時間の30分間(少なくとも約3カラム体積の0.1N水酸化ナトリウム溶液を用いて200cm/時で)殺菌した。次いで、少なくとも約5カラム体積の50mM酢酸ナトリウム、0.4M硫酸アンモニウム、pH4.8緩衝液でカラムを平衡化した。次に、POROS(登録商標)20HS(陽イオン交換カラム)生成物プール(上記の)を1:1で50mM酢酸ナトリウム、0.8M硫酸アンモニウム、pH4.8緩衝液と合わせ、Phenyl Sepharose HPカラムに投入した。最初にカラムを少なくとも約3カラム体積の50mM酢酸ナトリウム、0.4M硫酸アンモニウム、pH4.8緩衝液で洗浄し、次いで50mMリン酸ナトリウム、0.4M硫酸アンモニウム、pH6.5緩衝液で洗浄した。A型ボツリヌス神経毒素複合体を10mMリン酸ナトリウム、0.14M硫酸アンモニウム、pH6.5緩衝液でカラムから溶出した。A2800.05AUまで増加したときに、溶出液をバイオプロセス収集袋に誘導した。溶出ピークの立ち下がり区間のA2800.05AUの値に減少するまで溶出液を収集した。Phenyl Sepharose HP生成物プールを、周囲温度で最長約6時間、収集袋内に保存した。
【0114】
接線流濾過システムを使用して、Phenyl Sepharose HPクロマトグラフィーステップの生成物プールを原体調合緩衝液中に濃縮およびダイアフィルトレーションした。濃縮およびダイアフィルトレーションステップには、分子量100kDaのカットオフ膜を有するPall(登録商標)Filtron Minimateカセットを使用した。次いで調合した材料をPall Mini Kleenpak(登録商標)0.2μmフィルタに通過させて潜在的なバイオバーデンを減少させた。前述したように、UF/DFステップでPhenyl Sepharose HP生成物プール(HICカラムの溶離液)を0.7g/Lの濃度のBoNT/A複合体に濃縮し、濃縮した材料を10mMクエン酸カリウム、pH6.5緩衝液でダイアフィルトレーションした。
【0115】
使用した限外濾過/ダイアフィルトレーションプロセスの詳細は次の通りである。UF/DFユニットおよびPall製100kDaポリエーテルスルホン膜を、最初に最低5Lの注射用水(WFI)でフラッシュして充填溶液を除去し、再循環条件下で最低10分間、好ましくは少なくとも30分間、最低200mLの1N水酸化ナトリウム溶液で殺菌して、UF/DFユニットを殺菌した。次に、十分な体積の10mMクエン酸カリウム、pH6.5製剤緩衝液で、透過液および保持液のpHがpH6.5になるまで膜およびUF/DFシステムを平衡化した。その後、Phenyl Sepharose HP生成物プールをMinimate(登録商標)接線流濾過カセットに投入し、HIC溶出液を0.7g/Lに濃縮した。濃縮ステップの後、保持液プールを、透過膜圧7.5psig(毎平方インチ当たりポンド)で、最低5ダイアフィルトレーション体積の原体調合緩衝液(10mMクエン酸カリウム、pH6.5)に対してダイアフィルトレーションした。次いで、透過液出口を閉じ、UF/DFシステムを少なくとも2分間稼動させ、50mLの10mMクエン酸カリウム、pH6.5調合緩衝液でシステムをすすいだ。すすぎの後、オフラインのA278を測定することおよびA278の読み取り値に基づいて保持液中のBoNT/A複合体の濃度を決定し、10mMクエン酸カリウム、pH6.5緩衝液で保持液プールの濃度を0.5g/Lに調整した。濃度を調整した保持液プールを、今度はPall Mini Kleenpak0.2μmフィルタに通過させて、潜在的バイオバーデンを減少させた。濾過した濃度調整済の保持液プールを、2℃〜8℃で最長2日間、収集袋内に保存した。
【0116】
得られた最終的な精製A型ボツリヌス神経毒素複合体を、1mLのNunc(登録商標)クライオバイアルにバイアル当たり700μLで充填し、冷凍保存した。充填操作は、クラス100バイオセーフティキャビネット内において周囲温度で行った。
【0117】
下流プロセス(2つまたは3つのクロマトグラフィーカラムの使用を含む)は、わずか1〜3日で完了し、得られたA型ボツリヌス神経毒素複合体を、クエン酸カリウム、pH6.5緩衝液中、濃度0.5g/Lの溶液として冷凍保存した。それに引き換え、従来技術であるSchantzの下流(毒素精製)プロセスは、A型ボツリヌス神経毒素複合体を精製するために複数の濾過、沈殿、抽出、および遠心分離ステップを用い、下流ステップだけで完了するのに1〜2週間を必要とし、結果として得られた原体(回収されたボツリヌス神経毒素)は、約2.7g/Lの濃度の硫酸アンモニウム懸濁液として冷蔵される。沈殿に代わるクロマトグラフィーの使用と処理時間の短縮により、本明細書に開示されるように、有意に改良された、一貫性のある下流プロセスをもたらした。
【0118】
一態様によれば、大豆由来成分等の植物由来成分の濃縮物は、培養および発酵培地中のSoy Peptone Type II、Hy−Soy(登録商標)またはSE50MK(コーシャー対応大豆ペプトン)であってもよい。種培養培地中のHy−Soy(登録商標)は、10〜200g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、種培地中のHy−Soy(登録商標)の濃度は、15〜150g/Lの範囲である。最も好ましくは、種培地中のHy−Soy(登録商標)の濃度は、約20〜30g/L、またはその間の量である。種培地中のグルコースの濃度は、0.1g/L〜20g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、グルコースの濃度は、0.5〜15g/Lの範囲である。最も好ましくは、培養培地中のグルコースの濃度は、約10g/Lである。酵母エキスの量は、約5〜20g/L、より好ましくは約10〜15g/L、またはその間の量であってもよい。例えば、クロストリジウム・ボツリナム増殖前の培養培地のpHは、約pH7.0〜7.5、またはその間、好ましくはpH7.3であってもよい。
【0119】
一例として、生産発酵培地におけるHy−Soy(登録商標)の量は、10〜200g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、発酵培地におけるHy−Soy(登録商標)の濃度は、15〜150g/Lの範囲である。最も好ましくは、発酵培地におけるHy−Soy(登録商標)の濃度は、約20〜40g/L、またはその間の量である。発酵培地におけるグルコースの濃度は、0.1g/L〜20g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、グルコースの濃度は、0.5〜15g/Lの範囲であるか、またはその間の量であってもよい。必ずしも必要ではないが、上記のように、グルコースは、発酵培地の他の成分と一緒にオートクレーブすることにより滅菌されてもよい。増殖前の発酵培地のpHレベルはpH7.0〜7.8、好ましくは約7.0〜7.5、またはその間、より好ましくはpH7.3であってもよい。
【0120】
図1の右側によって示されるように、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素複合体を得るためにこの実施例2で用いられる2カラムAPFプロセスは、以下のステップを含んでいた:(a)APF WCBバイアルからのクロストリジウム・ボツリナム菌等の菌を種/培養瓶内で培養するステップと、(b)次いで、細胞株を増殖させるためにAPF発酵培地を有する発酵槽(毒素生産発酵槽)においてクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させ、所望の細胞溶解段階に到達するまで発酵およびボツリヌス毒素の生産を進めるステップ。次に、(c)APF発酵培地を採取(例えば、濾過による清澄化)して、採取済みの発酵培地を得るステップと、(d)濃縮および希釈を進め、希釈された採取済みの発酵培地をもたらすステップであって、それを(e)不純物を除去するために初期精製カラムに通過させる、ステップと、(f)初期精製カラムからの溶離液を、最終精製カラムと、また任意選択で第2の最終精製カラムと接触させ、さらに不純物を除去するステップと、(g)最終精製カラムの溶離液の濃縮および緩衝液交換、ならびにその後の(h)バイオバーデン減少濾過および(i)バイアルを充填するステップ。
【0121】
一例において、発酵体積は20Lであり、全部のステップの処理時間合計はわずか4〜6日であり、ボツリヌス神経毒素の高い収率が得られた。
【0122】
以下に、我々の発明の範囲内である特定の実施形態のさらなる詳細を提供する。発酵ステップは、30Lステンレススチール発酵槽を使用してAPF培地において行った。
【0123】
以下のこの実施例では、はるかに少ない体積の発酵培地を使用しながら、なおも効力の高いA型ボツリヌス神経毒素複合体の高い収率を提供する。以下のプロトコルを用いることにより、商業的に有用な量のボツリヌス神経毒素を生産するために必要とされていた、従来の典型的により大きな体積(例えば115L)の発酵培地の代わりに、例えば、わずか20L以下のAPF発酵培地が必要になる。
【0124】
エアロック付きMACS嫌気性ワークステーション(Don Whitley)により、嫌気性微生物を操作するための、酸素が欠乏した環境が提供された。チャンバへのアクセスおよびそこからの脱出は、内側および外側のドアからなるポートホールシステムを介して行った。このユニットは、チャンバ内のユーザ設定を維持するよう温度制御されていた。恒湿器で制御された凝縮液プレートにより、チャンバ内の過剰水分を効果的に除去することを確実にした。チャンバは、作業者の使用のため、ならびにガス圧低下、持続的ガス流、および電力条件損失の警報のために点灯された。チャンバは、嫌気性チャンバ内の生存可能および生存不可能な微粒子レベルを減少させるためのHEPAフィルタを備えていた。「Anotox」およびPalladium Deoxo「D」Catalyst大気洗浄システムを用いて嫌気性条件を維持した。凝縮液プレートから凝縮水を収集し、外部貯蔵容器に配管して除去した。
【0125】
上で開示したように、APF WCBの調製のためにAPFプロセスを使用し、セルバンクのバイアルを−135℃未満で保存した。APF WCBセルバンクのバイアルは、培養培地への接種前に約15分間室温で解凍し、その後、上記開示した単一培養ステップにより「種」培養物を確立した。これは、バイオバーデンを最小限に抑えるために、終始、無菌技術を用いてモジュール式雰囲気制御型システムにおいて行った。APF WCBバイアルの内容物とともに完成した種培養バイアルの接種を行う前に、モジュール式雰囲気制御型システムを洗浄した。培養培地は、1N塩酸および1N水酸化ナトリウム(pH調整用)、D(+)グルコース、Anhydrous(Mallinckrodt Baker、カタログ番号7730、4.00g)、Soy Peptone Type II(SPTII)(Marcor、カタログ番号1130、8.00g)、注射用水(WFI)400.0mL、および酵母エキス(YE)(BDカタログ番号212730、4.00g)を使用して調製した。500mLメスシリンダーで300mLのWFIを測定することによりSoy Peptone Type IIおよび酵母エキス溶液を作製し、種培養瓶に注いだ。種培養瓶をスターラーに乗せてスターラーを作動させた。種培養瓶にSPTII8.00gおよび酵母エキス4.00を加え、溶解するまで混合した。混合後に溶解が完了していなかったときは、混合物を低温設定で加熱した。pHを測定し、約7.30±0.05に調整した。WFIを用いて培地溶液を約360mLにした。適切に種培養瓶の通気を行い、蒸気とガスの移動を可能にした。100mLメスシリンダーで約30mLのWFIを測定することにより10%グルコース溶液(w/v)を調製し、予め構築されたグルコース添加瓶に入れ、スターラーに乗せてスターラーを作動させた。グルコース添加瓶に約4.00gのグルコースを加え、溶解するまで(溶解するまで必要に応じて低温を用いた)、および40mLのqs(十分な量)になるまで、グルコース溶液をWFIと混合した。次いで、通気キャップでグルコース添加に緩く蓋をした。グルコース瓶および種培養瓶の両方を、滅菌のために123℃で30分間オートクレーブした。滅菌後、両方のアイテムをオートクレーブから取り出し、バイオセーフティキャビネット内で放置冷却した。無菌的に冷却した後、グルコース溶液の10%を酵母エキスおよびSoy Peptone II溶液を含有する種培養瓶に移して混合し、それによって完成した種培養瓶を提供する。
【0126】
この完成した種培養瓶を予め洗浄した(調製済みの嫌気性インジケータが置かれた)MACSに入れた。完成した種培養瓶のキャップを緩めた。次いで、完成した種培養瓶をMACS内の撹拌プレートに置き(撹拌プレートは約150rpmで作動)、MACS内で、完成した種培養瓶内の培地を最低12時間、約34.5℃+/−1℃で還元し、その後、1mLの培地ブランクを光学密度測定(540nmでのバイオマス測定のため)のためにサンプル採取した。その後、完成した種培養瓶を(嫌気性)MACS内で接種した。冷凍セルバンクからAPF WCB培養バイアルを得、MACS内に入れた。約10〜15分間バイアルを解凍し、その後、完成した種培養瓶内の培地にバイアル内容物約400μLを直接入れた。完成した種培養瓶上のキャップを完全に緩め、キャップを瓶の頂上部に載置し、撹拌速度を150rpmに設定した。MACS内で少なくとも約11時間インキュベーションした後、下に記載するように発酵生産を行った。
【0127】
プローブ(例えば、Broadley JamesおよびOptek社製の、例えば、酸化還元プローブ、pHプローブ、濁度プローブ)および発酵槽(30Lステンレススチール発酵槽等)の手順構成を確認して調整し、それら各々の発酵槽ポートに挿入し、所定の位置で締めた。例えば、発酵槽は、体積30Lの発酵槽容器、撹拌機駆動システム、ユーティリティ接続のための配管アセンブリ(CIP、清潔な蒸気、CDA、窒素、酸素、プロセス冷却水、バイオ廃棄物、および工場の蒸気)、計装(pH、温度、圧力、酸化還元、光学密度、およびマスフロー)、ならびに4つの蠕動ポンプからなる、ABEC30L(VT)発酵槽システムであってもよい。下方に取り付けた撹拌機の速度は、Allen−Bradley可変周波数駆動(VFD)を使用して制御した。システムの半自動および自動制御は、Allen−Bradley ControlLogix PLCをプログラミングして対応した。システムは、発酵操作中に培養温度、圧力、pH、および酸化還元の閉ループPID(比例・積分・微分)制御を提供するように設計した。スキッド上のデバイスおよびセンサを用いた制御および通信のためにAllen−Bradley DeviceNet(登録商標)(オープンデバイスレベルネットワーク)を用いた。
【0128】
滅菌保持、平衡化、実行、および採取モードのために、以下の設定点で撹拌、温度、圧力、および窒素オーバーレイを操作する。
【0129】
滅菌保持および平衡化モード
【表1】


実行モード
【表2】


採取モード
【表3】

【0130】
発酵培地を調製するために必要であった材料は、D(+)グルコース、Anhydrous(Mallinckrodt Baker、カタログ番号7730、300.0g)、Soy Peptone Type II(SPTII)(Marcor、カタログ番号1130、650.0g)、注射用水(WFI、13L)、および酵母エキス(YE)(BDカタログ番号212730、240.0g)、ならびに標準的な天秤、カーボーイ(例えば20L)、ガラス瓶(5L)、メスシリンダー、撹拌棒、およびスターラーを含む。約10LのWFIを撹拌棒とともにカーボーイに加えた。カーボーイをスターラーに乗せてスターラーを作動させ、その後、約240.00gのYEとともに約650.0gのSoy Peptone Type IIを加えた。発酵培地は、WFIで13Lまでq.s.(十分な量)であり、カーボーイに蓋をした。次いで、約2LのWFIを5Lガラス瓶(中に撹拌棒を有する)に加えることにより10%グルコース溶液(w/v)を調製した。スターラーに乗せ、撹拌棒を回転させながら、約300.00gのグルコースを瓶に加え、溶解するまで混合した。グルコース溶液は、WFIで3Lまでq.s.であり、瓶に蓋をし、それによって10%グルコース溶液が得られた。
【0131】
カーボーイ内の発酵培地を発酵槽に加え、所定の位置で発酵槽に予め蒸気を当て、体積を記録し、発酵操作手順を開始した。SIP(所定の位置での蒸気)(122℃、+/−1℃)の終了時に、SIP後の発酵槽の体積を記録した。管を有する容器、直列0.2μmフィルタ(PALL Corp.)、および蠕動ポンプを備えるグルコース添加アセンブリを発酵槽に接続し、ラインをSIPに供し、冷却した。添加バルブポートを開放し、約3Lのグルコース(濾過滅菌済み)を加え、発酵槽の全体積を20Lまでq.sにするために適量であるWFI(濾過滅菌済み)をグルコース添加瓶に加え、同じグルコース濾過ラインを通して発酵槽にポンプで送り込んだ。添加バルブポートを閉鎖した。その後、必要に応じて、添加ラインのSIPを用いて、滅菌1N水酸化ナトリウムまたは1N塩酸で生産発酵培地のpHを約pH7.3+/−0.05に調整した。その後、滅菌保持のためのパラメータを設定し、接種前に約12時間維持した。代謝物分析器を使用して培地の出発グルコース濃度を測定し、グルコース濃度を記録した。
【0132】
上述したように、種培養インキュベーション(約11±1時間)の終了時に、光学密度(OD)測定のために1mLのサンプルを採取した。分光光度計を使用して540nmでのODをオフラインで測定し、適切な範囲内であればOD値を記録し、培養物を発酵に使用した。発酵槽濁度プローブは、それに応じてゼロにした。嫌気性チャンバからの種菌瓶を発酵槽の上に配置し、発酵槽のバルブを種菌移動アセンブリ(その中にAPF培養培地を含む種容器であり、該容器はPALL Corp.またはMilliporeから入手可能な滅菌Kleenpak(商標)Connectorアセンブリを含む培養種菌移動ラインを有する)と交換し、ポンプ1への管を固定した。発酵槽の圧力を2psigに低下させ、種菌瓶の全体積を発酵槽内にポンプで送り込んだ。接種の最後に、発酵槽からのオンライン吸高度単位(AU)を記録し、発酵槽のパラメータを「実行」モードに設定し、時間を記録した。
【0133】
次いで発酵を進め(発酵の実行は、約60時間〜約80時間、好ましくは約68時間〜約76時間、最も好ましくは約72時間であってもよい)、例えば、24および48時間後に、無菌条件を維持しながら発酵槽からサンプルを採取した。発酵中に採取した少なくとも1つのサンプルに対して行った試験は、例えば、オフライン光学密度測定、グルコース測定、ELISA、SDS−PAGE、ウエスタンブロットを含むが、これらに限定されない。発酵終了時(発酵終了時のブロス体積は、例えば約18〜19Lである)にサンプルを採取してもよい(例えば、オフライン光学密度測定、グルコース測定、ELISA、SDS−PAGE、ウエスタンブロット、およびDNA/RNA定量化による試験のため)。
【0134】
発酵終了時に、オンライン光学密度、EFT(所要発酵時間)、および発酵終了時刻、また撹拌(rpm)、温度(℃)、圧力(psig)、ならびに窒素オーバーレイ(slpm)および酸化還元(mV)を記録した。次に、生産発酵ブロスを採取に供した、すなわち、生産発酵ブロスを濾過により清澄化し、例えば、約15Lの濾液を収集した。発酵パラメータを採取用に設定し、前置フィルタ、深層フィルタ、および少なくとも1つの圧力ゲージを含む清澄化のためのフィルタアセンブリ(CUNO、3M濾過)を調製した。約20Lの水で前置フィルタおよび深層フィルタを注射のためにフラッシュした。フラッシング後、濾過アセンブリを発酵槽の採取/排水ポートに取り付けた。発酵温度を約25℃に下げ、その後、発酵ブロスの清澄化を開始した(清澄化開始時刻、初期オンラインOD、初期pH、初期温度、および発酵槽の初期体積を記録)。濾過の間、発酵槽内の圧力を約10分ごとに約1psi(毎平方インチ当たりポンド)の割合で、圧力が約6psiに達するまで増加させ、その時点で、採取終了時まで圧力を維持した。このフィルタは、APF発酵培地中のRNA/DNAを約80%除去し(残りは、後のクロマトグラフィーステップの間に本質的に除去される(後に考察する))、したがって、発酵ブロスからそのような成分を除去するための従来の依存性/RNaseおよび/またはDNaseの使用を排除する。前置フィルタ入り口圧力、深層フィルタ入り口圧力、発酵槽圧力、撹拌、および濾液体積等のプロセスパラメータを、2Lの濾液が収集されるごとにモニタリングし、最後に、清澄化終了時刻および収集された濾液の体積を記録した。採取ステップ完了後、システムを除染および洗浄した。
【0135】
濾液の入ったカーボーイをサンプル採取のためにBSC内に入れ、オフラインOD測定および他の分析(例えば、ELISA、SDS−PAGE、DNA/RNA、およびウエスタンブロット)のために、そこから約10mLの濾液をサンプル採取した。
【0136】
次いで、フィルタを限外濾過/希釈に供した。接線流濾過(TFF)ユニットアセンブリを組み立てた。1分当たり約2Lの好ましい速度で、TFFユニットをWFIで約90分間すすぎ、次いで、0.1N水酸化ナトリウムを(再循環させて)約60分間流すことによりTFFユニットを殺菌し、その後、1Lの10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5を流し、続いてWFIで約30分間すすいだ。次いで、採取ステップからの濾液(約15L)をTFFに通過させ(バイオセーフティキャビネット内で行われる)、約5L+/−0.5Lまで濾液を濃縮した(濃縮ステップは、1分当たり約2L、透過膜圧力約5psigで進行する)。透過液のサンプルを採取し、例えば、ELISA、dsDNA、SDS−PAGE、およびウエスタンブロット試験に供してもよい。約5L+/−0.5Lまで濃縮してから、1分当たり約2Lの速度で、約15Lの滅菌濾過した10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5をTFFに通し、保持液プールを約20Lまで希釈した。次いで、再度サンプルを採取し、例えば、ELISA、DNA/RNA、SDS−PAGE、およびウエスタンブロット試験に供してもよい。限外濾過/希釈材料(保持液)を4℃で保存した。
【0137】
使用後は、1N水酸化ナトリウムまたは滅菌(蒸気)温度のいずれかを使用して、全てのシステムを除染および洗浄した。
【0138】
精製されたA型ボツリヌス神経毒素複合体を得るために、例示的なプロセス、つまり実施例2のプロセスによって得られた発酵培地の精製において使用するための、後に記載する溶液、緩衝液等を作製するために、以下の材料、設備、および手順を使用した。用いた例示的な緩衝液は(0.2ミクロン真空フィルタを通して濾過し、記録のためにそれらの伝導率をmS/cmで測定した)、10mMリン酸ナトリウム、pH6.5;50mMリン酸ナトリウム、pH6.5;50mM酢酸ナトリウム、pH4.8;50mM酢酸ナトリウム、170mM塩化ナトリウム、pH4.8;50mM酢酸ナトリウム、250mM塩化ナトリウム、pH4.8;50、mM酢酸ナトリウム、1M塩化ナトリウム、pH4.8;50mM酢酸ナトリウム、pH4.0、および10Mmクエン酸塩、pH6.5を含む。
【0139】
以下は、実施例2のプロセスからA型ボツリヌス神経毒素を精製するためおよび得るための操作の例である。全ての生成物接触部品は、それらが非反応性および非吸収性であることを確実にするように設計および構築される。また、全ての設備は、単回使用使い捨てシステムの利用を可能にするように設計したか、または実証および確認済みの方法にしたがって殺菌、洗浄、および除染を促進するように設計および構築した。システムまたはスキッドを生成物に接触しないように設計したのに対し、クロマトグラフィーカラムおよび全ての関連する管を含む流路は、単回使用使い捨てであるように設計した。クロマトグラフィーコンポーネントはAlphaBioから調達し、UF/DFコンポーネントはScilog Inc.から調達した。使用したクロマトグラフィーの設定は、可変速度駆動による溶液送達のための蠕動ポンプ、5つの入り口を有する入り口バルブマニホールド、3つの自動化バルブのアレイを有するカラムバルブマニホールド、3つの出口を有する出口バルブマニホールド、pH、伝導性、およびUVを含むカラム排水のモニタリング、UV吸光度に基づくピーク分取、ならびに精製操作を完了するために必要な計装および制御を含んでいた。制御システムは、精製プロセスを制御するように設計されたソフトウェアおよびハードウェアの両方を有していた。コマンドおよびデータは、HMI(Human Machine Interface)端末を介して入力した。操作者は、HMIにおけるコマンドにより全ての自動化プロセス機能を開始し、供給量速度、圧力、伝導率、pH、UV吸光度、および個々のバルブ位置等のプロセスパラメータをモニタリングし、調整した。
【0140】
UF/DFシステムは、再循環ポンプ、ダイアフィルトレーションポンプ、2つの天秤、接線流フィルタ(TFF)ホルダを含んだ。再循環ポンプは、3つの使い捨て圧力センサおよび天秤のうちの1つ(透過液貯蔵容器の下に位置する)と連結して、透過膜圧力を維持するために流速を制御し、透過液貯蔵容器の重量に基づいて停止する。ダイアフィルトレーションポンプは、第2の天秤(透過液貯蔵容器の下に位置する)と連結して、透過液貯蔵容器の一定重量を維持することに基づいて稼動および停止する。
【0141】
採取ステップ(動物性タンパク質を含まない発酵培地の採取)からの保持液材料の濃縮および希釈後、該材料を陰イオン交換カラムに投入した。以下は、実施例2の2カラムプロセスにおいて有用な陰イオン交換カラムを充填および試験するために使用される手順である。
【0142】
予め充填したカラムを3つ全てのクロマトグラフィーステップに使用した。最初に、供給材料(限外濾過/希釈に供した採取済みのAPF培地)を陰イオン交換カラム(上記のようにABI社製Poros50HQ)に通過させた。少なくとも5カラム体積(CV)の50mMリン酸ナトリウム、pH6.5を用いて、陰イオン交換カラム(この例では捕捉カラム)を平衡化した。
【0143】
平衡化の後に投入ステップを行い、供給材料(例えば約20Lの発酵ブロスを採取した、採取ステップ後)を、例えば約200cm/時の速度で陰イオン交換カラムに投入した。0.5カラム体積の投入材料が陰イオン交換カラムを通過してから、素通り画分(FT)プールをポリエーテルスルホン容器等の受容器に収集する一方で、毒素複合体が陰イオン交換カラム材料に結合する。その後に洗浄ステップが続き、少なくとも約15カラム体積の洗浄緩衝液(例えばpH6.5の50mMリン酸ナトリウム)を陰イオン交換カラムに通過させた。リアルタイムでカラム出口で測定したUVが約80mAU以下に減少したときに洗浄ステップを停止した。洗浄緩衝液の体積および素通り画分/洗浄プールの体積を記録し、素通り画分/洗浄プールのサンプル1mLを採取し、例えば、毒素の濃度、核酸内容物、全細胞タンパク質、SDS−PAGE、qPCR、2D LC、およびELISAについて試験を行った。
【0144】
次のステップは溶出ステップであり、溶出緩衝液(例えば50mM酢酸ナトリウム、pH4.8)をポンプで陰イオン交換カラムに送った。カラム出口でのリアルタイムのUV読み取り値が約150mAU以上に増加したときに、1CVの溶出緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH4.8)で予め充填した容器内への溶出液の収集を開始した。UV読み取り値が約200mAU以下に減少したときに溶出液プールの収集を停止した(この時点で収集された体積は約1〜約2CV)。次いでクロマトグラフィーシステムを除染し、1N水酸化ナトリウムを使用して洗浄した。
【0145】
次いで、陰イオン交換カラムからの溶出液プールを、陽イオン交換カラムに添加するために調製した。陰イオン交換溶出液の体積、pH、伝導率、および供給温度を記録し、陰イオン交換カラムからの溶出液プールを1CVの50mM酢酸ナトリウム、pH4.8で希釈した。
【0146】
陰イオン交換カラムに流過させた後、陽イオン交換クロマトグラフィー操作を行った。陽イオン交換カラム(例えばPoros(登録商標)20HS)は、最低5CVの平衡化緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH4.8)で平衡化した。平衡化後、陰イオン交換カラムからの希釈した溶出液プールを陽イオン交換カラムに投入し、合計投入体積を記録した。0.5カラム体積の投入した希釈溶出液プールが陽イオン交換カラムを通過してから、素通り画分(FT)プールを収集した。陽イオン交換カラムの第1の洗浄を行い、約3〜5CVの50mM酢酸ナトリウム、pH4.8を陽イオン交換カラム(用いた第1の洗浄緩衝液の体積を記録した)に通過させた。第2の洗浄を行い、約3CVの170mM塩化ナトリウム、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8をポンプでカラムに通し、この溶出液を「WASH 2 Peak」と表記した新しい容器に収集した。UV読み取り値が50mAU以上に増加したときに収集を開始した。1CVを収集し、用いた第2の洗浄緩衝液の体積を記録した。
【0147】
ポンプで陽イオン交換カラムに送った溶出緩衝液(例えば、50mM酢酸ナトリウム中の250mM塩化ナトリウム、pH4.8)を用いて、陽イオン交換カラムからバルク毒素複合体の溶出を行った。溶出のUV読み取り値が少なくとも約100mAUに達したときに、希釈緩衝液(40mLの100mMリン酸カリウム、pH6.8、および60mLの10mMクエン酸カリウム、pH6.5)で予め充填した容器内への溶出液の収集を開始した。UV読み取り値が約100mAU以下に減少するまで陽イオン交換カラムからの溶出液の収集を続けた。希釈後の溶離液の合計体積を記録した。次いで、陽イオン交換クロマトグラフィーシステムを除染および洗浄した。
【0148】
陽イオン交換カラムからの溶出後、溶出液を濾過に供した。一方の上に他方が重なった3つの100K MWCO膜(Sartorius AG、Goettingen,Germany)を使用して、接線流濾過(TFF)システムを用いた。陽イオン交換溶出液プールの初期体積、ならびにダイアフィルトレーション/平衡化および殺菌溶液の詳細を記録した。例えば、ダイアフィルトレーション溶液は10mMクエン酸カリウム、pH6.5であってもよく、殺菌溶液は0.1N水酸化ナトリウムであってもよい。システム設定は、陽イオンカラム(IAPF)またはHICカラム(FAPF)のいずれかからの溶出液(溶出液はボツリヌス毒素を含有する)を含有する貯蔵容器から、1本の管を、限外濾過ポンプヘッドを通って接線流濾過膜の入り口に接続することにより進行した。接線流濾過膜の透過液出口からの第2の管を、限外濾過(UF)透過液容器に接続した。接線流濾過膜の保持液出口から保持液貯蔵容器への管を固定し、ダイアフィルトレーション(DF)緩衝液からダイアフィルトレーションポンプヘッドを通って保持液貯蔵容器へと入り込む第4の管もまた固定した。膜と同様に、保持液を廃棄しながら、少なくとも約720mLの注射用水(WFI)で膜をフラッシュすることにより、システムの保存緩衝液をフラッシュし、その後、保持液を貯蔵容器に再循環させながら、少なくとも約4200mLの注射用水で膜をさらにフラッシュした。この後、保持液を廃棄しながら、少なくとも約200mLの1N水酸化ナトリウムで膜をフラッシュし、続いて、最低30分間保持液を貯蔵容器に再循環させながら、少なくとも約200mLの1N NaOHで膜をフラッシュすることにより、膜の殺菌を行った(必要である場合)。次いで、保持液および透過液のpHが平衡化緩衝液のpHの+/−0.2単位以内(例えば、pH6.5の+/−0.2ユニット以内)になるまで、平衡化緩衝液(10mMクエン酸カリウム、pH6.5)で膜をフラッシュすることにより平衡化を行った。
【0149】
材料(陽イオン交換カラムからの溶出液(生成物プール))の濃度を測定し、希釈または濃縮(例示的な処理)が適切であったかどうかを確認した(例示的な標的濃度は約0.7mg/mLであってもよい)。10mMクエン酸カリウム、pH6.5を用いて希釈を達成した。例えば、生成物濃度0.7mg/mLに対して標的体積を決定した(標的体積=(出発濃度/出発体積)/0.7mg/mL)。
【0150】
生成物プール(陽イオン交換カラムからの(しかるべく処理された、または処理されていない)溶出液)を膜に投入し、システム(TFFシステム)の再循環(透過液出口を閉じた状態で)を背圧なしで少なくとも2分間行い、その後、約7psigの透過圧を標的として保持液の背圧弁を調節しながら、透過液弁を徐々に開放した。希釈のために、10mMクエン酸カリウム、pH6.5を標的体積まで加え、限外濾過を行わずにダイアフィルトレーションに移行し、濃縮のために限外濾過を開始した。ダイアフィルトレーション:透過廃液を新しい容器(標的ダイアフィルトレーション体積は5×ダイアフィルトレーション体積)に収集し、少なくとも5ダイアフィルトレーション体積の10mMクエン酸カリウム、pH6.5でダイアフィルトレーションを行った。最短10分間隔でダイアフィルトレーションプロセスのデータを収集した(透過液重量g/vol mL、入り口圧力(psig)、保持液圧力(psig)、透過液圧力(psig)、および透過膜圧力(psig))。再循環/およびすすぎ:透過液出口フィルタを閉じた状態で、背圧なしで少なくとも2分間システムを再循環/稼動させ、少なくとも20mLの10mMクエン酸カリウム、pH6.5でシステムをすすいだ。生成物プールは、保持液およびすすぎ液を含む。生成物プールからサンプルを採取し、検証分析(例えば、278nmでのUV、SDS−Page、LcHPLC、SE−HPLC、qPCR、RP−HPLC、Native−Page、AUC、カブトガニアメーバ様細胞溶解物、ウエスタンブロットおよびELISA試験を含む)に供してもよい。使用後の洗浄のために、1N水酸化ナトリウムでシステムをフラッシュし、少なくとも10分間再循環させ、その後システムをフラッシュし、その中に0.1N水酸化ナトリウムを入れて保存した。
【0151】
次いで、バルク神経毒を保存および分割するために滅菌濾過および充填を行った。すすぎ後のサンプルの毒素濃度を約0.5mg/mLに調整するために、10mMクエン酸カリウム、pH6.5を用いて濃度調整を行った。毒素濃度が約0.5mg/mLである場合は、濃度調整は必要ではない。
滅菌ピペットを使用して、15mL/1.5mL滅菌サンプル管の各々に10mL/0.75mLを含まれるアリコートを作製した。生成物の入った容器を手で穏やかに撹拌し、必要量の溶液(バルク原体、すなわち、バルクのボツリヌス毒素を含有する)を各バイアルに移した。サンプルは、最長5日間、2℃〜8℃の冷蔵庫に保存するか、または0.75mLの濾液生成物プールをクライオバイアルに移した。クライオバイアルを−70℃+/−5℃で保存した。
【0152】
実施例3
配合方法
患者への投与に好適な医薬組成物は、実施例2のプロセスから得られたボツリヌス神経毒素を1つ以上の賦形剤と配合することによって作製することができる。賦形剤は、配合プロセスおよびその後の使用前の保存期間の間にボツリヌス毒素を安定化する役割を果たすことができる。賦形剤はまた、増量剤として、および/または医薬組成物にある程度の浸透圧を与えるために作用することもできる。配合は、実施例2のプロセスから得られたボツリヌス神経毒素を何倍にも希釈すること、1つ以上の賦形剤(アルブミン[ヒト血清アルブミンまたは組換えヒトアルブミン等]および塩化ナトリウム等)と混合し、それによって毒素組成物を形成すること、該組成物を凍結乾燥、フリーズドライ、または真空乾燥することにより、毒素組成物の保存および輸送用の安定した形態を調製することを必要とする。したがって、約1.5〜1.9ngの実施例2で得られたA型ボツリヌス毒素複合体は、約0.5ミリグラムの組換えヒトアルブミン(Delta Biotechnologies)および約0.9ミリグラムの塩化ナトリウムと(これらの3つの成分を一緒に混合し、その後真空乾燥することによって)配合される。真空乾燥は、約20℃〜約25℃で、約80mmHgの圧力で約5時間行われてもよく、その時点で、その中にこれらの成分が真空乾燥されたバイアルが真空下で密封されて蓋をされ、それによって約100単位のA型ボツリヌス神経毒素複合体を含むバイアルが得られる。得られた固体(粉末状)の真空乾燥生成物は、使用時に標準的な(0.9%)生理食塩水で再構成され、頸部ジストニアおよび多汗症等の種々の適応症に罹患する患者を治療するために使用される。凍結乾燥、真空乾燥またはフリーズドライにより、配合されたボツリヌス神経毒素の保存および輸送用の安定した形態を調製する。
【0153】
別の例において、約1.5〜1.9ngのバルクA型ボツリヌス毒素が、約0.5ミリグラムのヒト血清アルブミン(Baxter/Immuno、OctapharmaおよびPharmacia&Upjohn)ならびに約0.9ミリグラムの塩化ナトリウムと(これらの3つの成分を一緒に混合し、その後真空乾燥することによって)配合される。例示的な真空乾燥は、約20℃〜約25℃で、約80μm Hgの圧力で約5時間行われてもよく、その時点で、これらの成分が真空乾燥されたバイアルが真空下で密封されて蓋をされ、それによって約100単位のボツリヌス毒素を含むバイアルが得られる。得られた固体(粉末状)の真空乾燥生成物は、使用時に標準的な(0.9%)生理食塩水で再構成され、頸部ジストニアおよび多汗症等の種々の適応症に罹患する患者を治療するために使用される。さらに、医薬品としてのボツリヌス毒素組成物は、例えば、ヒト血清アルブミンおよび/またはラクトースを含有することができる。一例において、約1.5〜1.9ngのA型ボツリヌス毒素が、例えば、約125マイクログラムのヒト血清アルブミンおよび2.5ミリグラムのラクトースと配合され、保存安定性のために真空乾燥、凍結乾燥、およびフリーズドライされてもよい。さらに別の例において、本明細書に開示されるプロセスによって得られた約1.5〜1.9ngのボツリヌス神経毒素が、約10mgのトレハロースおよび約0.5mgの血清アルブミン(天然または組換えヒト血清アルブミン等)と、また任意で約1ミリグラムのメチオニンと配合されて、約100単位のボツリヌス毒素の乾燥生成物を提供してもよい。この組成物は、例えば、凍結乾燥されて、約1mLの滅菌蒸留水または滅菌した保存剤を含まない生理食塩水(注射用の0.9%塩化ナトリウム)で、後に、使用前に再構成されてもよい。特定の例において、医薬品としてのボツリヌス毒素組成物は、ヒト血清アルブミン20%およびスクロースと組み合わされた、本明細書に開示されるプロセスによって得られた約1.5〜1.9ngのボツリヌス神経毒素を有する例示的な製剤のように、スクロースを含むことができ、同様に、約100単位のA型ボツリヌス毒素を提供するように凍結乾燥して、後に、保存剤を含まない生理食塩水(例えば、約0.5mL〜約8.0mLの体積)で再構成することができる。特定の例において、200単位のボツリヌス神経毒素は、1mL当たり約10mgのスクロースおよび2mgのヒト血清アルブミンと組み合わされてもよく、結果として得られた組成物は、後に、使用前に生理食塩水で再構成するように、バイアルに入れてフリーズドライしてもよい。
【0154】
また、配合には、本明細書に開示されるIAPFプロセスによって得られたA型ボツリヌス毒素複合体の神経毒成分(すなわち、複合体形成タンパク質を含まない、A型ボツリヌス毒素複合体の約150kDaの成分)を用いることもできる。関連する非毒性タンパク質(例えば、HA、NTNH)から約150kDaの神経毒成分を精製するある方法において、Tse et al.(1982)(Goodnough,M.C.,1994,Thesis,UW,Wis.)の方法の改良例を用いて、複合体の関連する非毒性タンパク質からA型神経毒が生成される。我々のIAPFプロセス(上で考察したように、2カラム陰イオン‐陽イオンHICステップ、または3カラム陰イオン‐陽イオンHICステップのいずれかを利用する)によって得られたボツリヌス神経毒素複合体を、DEAE−Sephadex A50(Sigma Chemical Co.、St.Louis,Mo.)カラム(pH5.5)から回収し、39gの固形硫酸アンモニウム/100mLの添加によって沈殿させる。沈殿した毒素複合体を遠心分離により収集し、25mMのリン酸ナトリウム(pH7.9)に対して透析し、同じ緩衝液で平衡化したDEAE−Sephadex A50カラムに適用する。複合体の非毒性タンパク質から神経毒成分を分離し、直線勾配0〜0.5Mの塩化ナトリウムでカラムから溶出する。部分的に精製された神経毒成分をDEAE−Sephadex A50カラム(pH7.9)から回収し、25mMリン酸ナトリウム、pH7.0に対して透析する。透析した毒素を25mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中のSP−Sephadex C50(Sigma Chemical Co.)に適用する。これらの条件下では、汚染物質はカラムに結合しない。純粋な神経毒(約150kDaの成分)を直線勾配0〜0.25Mの塩化ナトリウムで溶出する。約150kDaの純粋な神経毒は、金属アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過、または他のタンパク質のクロマトグラフィーの方法によってさらに精製することができる。上記のように、この純粋な神経毒(ボツリヌス毒素複合体の約150kDaの神経毒成分)は、上述した種々の賦形剤(例えば、血清アルブミン、スクロース、ラクトース、塩化ナトリウム、トレハロース等)を用いて凍結乾燥、真空乾燥、またはフリーズドライすることができる。
【0155】
我々のIAPFプロセスによって得られたバルクのボツリヌス神経毒素複合体は、多くの様式で配合することができる。ボツリヌス毒素の種々の製剤を開示する例示的な特許、例えば、米国特許第6,087,327号(ゼラチンを用いて調合されるA型およびB型ボツリヌス毒素の組成物を開示);米国特許第5,512,547号(Johnson et al)、標題「Pharmaceutical Composition of Botulinum Neurotoxin and Method of Preparation」(1996年4月30日発行、37℃で保存可能なアルブミンおよびトレハロースを含む純粋なA型ボツリヌス製剤について請求);米国特許第5,756,468号(Johnson et al)(「Pharmaceutical Compositions of Botulinum Toxin or Botulinum Neurotoxin and Method of Preparation」)(1998年5月26日発行、25℃〜42℃で保存可能なチオアルキル、アルブミン、およびトレハロースを含む凍結乾燥ボツリヌス毒素製剤について請求);米国特許第5,696,077号(Johnson et al)、標題「Pharmaceutical Composition Containing Botulinum B 複合体」(1997年12月9日発行、B型複合体およびタンパク質賦形剤を含むB型ボツリヌス複合体のフリーズドライされた、塩化ナトリウムを含まない形態について請求);ならびに米国特許出願公開第2003 0118598号(Hunt)(ボツリヌス毒素を安定化するための組換えアルブミン、コラーゲン、または澱粉等の種々の賦形剤の使用を開示)(これらの米国特許出願または米国特許の全ては、参照により、それらの全体が本明細書に組み込まれる)は皆、我々のIAPFプロセスによって提供されるバルクのボツリヌス神経毒素を配合し、医薬組成物を提供するために使用されてもよい、種々の有用な製剤/賦形剤の例を提供する。
【0156】
得られたボツリヌス毒素複合体をpH7〜8の緩衝液中のイオン交換カラムから溶出し、ボツリヌス毒素分子から非毒素複合体タンパク質を解離させ、それによって(発酵させたクロストリジウム・ボツリナム菌の種類に応じて)約150kDaの分子量および1〜2×10LD50U/mg以上の特異的な効力を有するA型ボツリヌス毒素の神経毒成分、または約156kDaの分子量および1〜2×10LD50U/mg以上の特異的な効力を有する精製されたB型ボツリヌス毒素、または約155kDaの分子量および1〜2×10LD50U/mg以上の特異的な効力を有する精製されたF型ボツリヌス毒素を提供する。
【0157】
我々の発明は多くの利益を提供する。まず、実施例2の2つおよび3つのカラムを用いるプロセスが、動物源の試薬および培地(例えば、カゼイン加水分解物およびコロンビア血液寒天プレート)の使用を排除し、したがって、患者がプリオン様物質または他の感染性病原体に曝露される理論上のリスクを著しく減少させる。2番目に、実施例2の2つおよび3つのカラムを用いたクロマトグラフィープロセス(ならびに関連するシステムおよび装置)は、バッチ間の優れた一貫性によって明らかなように、高度に再現可能である。この改良は、化合物を含有する市販のボツリヌス毒素を用いた治療を何年にもわたって繰り返し必要とする患者における、より一貫した臨床プロファイルを意味する。本明細書に開示されるIAPFプロセス(2つおよび3つのカラム)からの原体(ボツリヌス神経毒素)の分析的研究により、タンパク質および核酸不純物の負荷がより低くなることを明らかにした。このタンパク質不純物の負荷が低いということは、免疫原性(抗体産生)のリスクがより低いことを意味する。また、IPAFプロセスの純度の向上は、一般に生物学的薬剤と関連する非特異的症状(例えば、上咽頭炎、上気道の症状、筋骨格の症状、頭痛等)の発生率がより低いことを意味する。さらに、改良された小規模なこのプロセスは、研究室および製造施設の人員におけるBoNT/A曝露のリスクを低減する。
【0158】
本発明の例示的な利点は、例えば、以下を含む:
1.プロセスにおいて動物源(例えば、ヒトまたは動物)に由来する成分または物質が使用されず、DNaseおよびRNase、コロンビア血液寒天プレート、カゼインの使用が排除されるため、安全性が向上する(例えば、清澄化/採取ステップの間の帯電濾過および最新のクロマトグラフィー技術によって、ワーキングセルバンクからの細胞(つまり、以前に選択され、APF培地中で増殖/維持された細胞)を直接含む播種培養培地によって置き換えられ、ペプトン源として、培養瓶および発酵培地がSoy Peptone Type II (SPTII)によって置き換えられる)。
2.発酵培地10L当たり約50mg〜約200mgの高品質なA型ボツリヌス毒素複合体を得ることができる。
3.頑健な、一貫性のある、拡張可能、検証可能、およびcGMPに適合するプロセスから精製されたバルク毒素が得られる。頑健であるとは、プロセスが、プロセスパラメータのうちの1つ以上におけるたとえ約±10%の変化でも再現可能であることを意味する。検証可能であるとは、プロセスが、一貫した収率の精製毒素を再現可能に提供することを意味する。cGMP適合とは、プロセスが、FDAが要求する医薬品適正製造基準に準拠する製造プロセスに容易に変換され得ることを意味する。
4.最終的な精製ボツリヌス毒素複合体の効力は、Schantz法または改良されたSchantz法によって得られる精製ボツリヌス毒素複合体の効力(例えば、MLD50アッセイによって判定される)を満たすかまたはそれを超える。
5.精製プロセスの特異性を向上させる、バルクのボツリヌス毒素複合体を精製するためのクロマトグラフィーステップによる、任意の沈殿ステップの置き換え。
6.新しい改良プロセスは、規模の縮小を促進し、その結果、取扱いの改良および>95%の操作成功率の達成がもたらされる(例えば、典型的に用いられる発酵培地の体積が110L〜120Lの約10L〜約50Lまで、さらには約2L〜約30Lの発酵培地まで、またはその間の量まで減少された。原薬の典型的な現在の生産規模は、115Lの非APF発酵培地であるが、我々の発明の一態様として、20Lの発酵培地まで減少された。この規模の縮小は、BoNT/A複合体の合成および細胞放出、ならびに精製ステップを通じて全収率を最適化することによって可能となり、その結果、例えば、5×またはさらに多い発酵体積(例えば115L)を必要とする従来プロセスにおいて得られるのと同様の量の最終バルクボツリヌス毒素(原体)がもたらされる。この規模の縮小は、発酵作業体積の管理をより容易にし、したがって、作業者がBoNT/A複合体に曝露される潜在的リスクを最小限に留める:これは重要な操作および安全上の利点である。
7.潜在的に致死性であるBoNT/A複合体の性質のために、本明細書に開示される製造ステップを通してクローズドシステムが実装されてきた。従来技術の方法とは異なり、本発明の態様にしたがって生成される原体物質は、単位操作間の移動の間、環境に曝露されない:全ての作業者は完全に封じ込められる。
8.本明細書に開示されるバルクボツリヌス毒素の製造プロセスは、製造中の原体の同一性、品質、純度、または効力を犠牲にすることなく、全てのステップにおいて簡素化される。再設計されたIAPFプロセスでは、非APFプロセスにおいて用いられるステップ数が削減されるため、生産期間が、例えば21日から6日以内に短縮される。
9.冷凍液としてのバルクボツリヌス毒素の保存条件が、原体の安定性を大幅に向上させる。
【0159】
種々の刊行物、特許、および/または参考文献を本明細書に引用してきたが、参照により、それらの内容全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に開示される本発明の代替の要素または実施形態の分類は、限定として解釈されるべきではない。各グループの構成メンバーは、個別に、または本明細書に見出されるグループの他の構成メンバーまたは他の要素と任意に組み合わせて、言及および請求されてもよい。利便性および/または特許性の理由から、グループのうちの1つ以上の構成メンバーが、グループに含まれてもよいか、または削除されてもよいことが予測される。さらに、本明細書において別途記載のない限り、または文脈による明らかな矛盾のない限り、本明細書において別途記載のない限り、または文脈による明らかな矛盾のない限り、その全ての可能な変形例における上記要素の任意の組み合わせが本明細書に包含される。
【0160】
特定の好ましい方法に関連して本発明を詳細に記載してきたが、本発明の範囲内で他の実施形態、バージョン、および変更が可能である。したがって、以下の特許請求の範囲の主旨および範囲は、上述した特定の実施形態の説明に限定されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るためにクロマトグラフィーを利用する、実質的に動物性成分を含まない(APF)プロセスであって、前記プロセスは、以下の連続的なステップ:
(a)実質的にAPFである発酵培地を提供するステップと、
(b)前記発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップと、
(c)前記発酵培地を陰イオン交換クロマトグラフィー媒体と接触させ、その後、前記陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からの溶離液を陽イオン交換クロマトグラフィーと接触させることによって、前記発酵培地から前記生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するステップと、を含み、それによって、前記実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから前記生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得る、プロセス。
【請求項2】
前記得られたボツリヌス神経毒素は、前記得られたボツリヌス神経毒素の100万分の1未満の残留核酸を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記プロセスは1週間以内に行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
請求項1に記載のプロセスによって得られる、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素。
【請求項5】
生物学的に活性なA型ボツリヌス神経毒素複合体を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスであって、前記プロセスは、以下の連続的なステップ:
(a)実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと、
(b)約2L〜約75Lの実質的にAPFである発酵培地中で前記培養培地からのクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるステップであって、前記培養培地および前記発酵培地のうちの少なくとも1つは植物性タンパク質を含む、ステップと、
(c)前記発酵培地に存在する細胞残屑を除去することにより前記発酵培地を採取するステップと、
(d)前記採取済みの発酵培地を濾過により濃縮するステップと、
(e)緩衝液を加えることにより、前記濃縮済みの発酵培地を希釈するステップと、
(f)前記生物学的に活性なボツリヌス神経毒素が前記陰イオン交換媒体に捕捉されるように、前記希釈した採取済みの発酵培地を前記陰イオン交換媒体と接触させる、第1の接触ステップと、
(g)前記陰イオン交換媒体から前記捕捉されたボツリヌス神経毒素を溶出し、それによって第1の溶離液を得るステップと、
(h)前記第1の溶離液から不純物を除去するために、前記第1の溶離液を陽イオン交換媒体と接触させ、それによって第2の溶離液を得る、第2の接触ステップと、
(i)前記第2の溶離液をダイアフィルトレーションによって処理するステップと、
(j)前記処理した第2の溶離液を濾過し、それによって実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスを使用して生物学的に活性なA型ボツリヌス神経毒素複合体を得るステップと、を含み、前記得られたA型ボツリヌス神経毒素複合体は、A型ボツリヌス神経毒素複合体の2.0×10〜約6.0×10単位/mgの効力を有する、プロセス。
【請求項6】
前記発酵培地は、約5%w/v以下の植物由来タンパク質成分、約2%w/v以下の酵母エキス、および約2%w/v以下のグルコースを含み、前記発酵培地のpHレベルは、前記発酵ステップの開始時に約pH6.5〜約pH8.0である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記培養ステップは、約540nmでの前記培養培地の光学密度が約0.8AU〜約4.5AUになるまで行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記発酵ステップは、約60〜80時間、および約890nmでの前記発酵培地の光学密度が約0.05AU〜約0.7AUに減少するまで行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項9】
前記培養ステップは、クロストリジウム・ボツリナムのAPFワーキングセルバンクの内容物を前記培養培地に導入することによって開始され、前記ワーキングセルバンクは、前記ワーキングセルバンク1ミリリットル当たり少なくとも約1×10〜5×10コロニー形成単位のクロストリジウム・ボツリナムを含み、前記ワーキングセルバンク中の前記クロストリジウム・ボツリナム菌は、実質的に均一な形態を有する、請求項5に記載のプロセス。
【請求項10】
前記得られたボツリヌス神経毒素は、前記得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含む、請求項5に記載のプロセス。
【請求項11】
前記プロセスは1週間以内に行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項12】
生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るためのAPFクロマトグラフィープロセスであって、前記プロセスは以下の連続的なステップ:
(a)APFワーキングセルバンクからのクロストリジウム・ボツリナム菌をAPF培養培地に加えるステップと、
(b)前記培養培地中で前記クロストリジウム・ボツリナム菌を培養するステップと、
(c)ステップ(b)からの前記クロストリジウム・ボツリナム菌を、クロストリジウム・ボツリナムの細胞溶解が起こるまでAPF発酵培地中で発酵させるステップと、
(d)前記発酵培養物を採取して、採取済みの発酵培地を提供するステップと、
(e)前記採取済みの発酵培地を濾過による濃縮に供するステップと、
(f)緩衝液の添加により前記濾過済みの発酵培地を希釈して、希釈済みの発酵培地を得るステップと、
(g)前記希釈済みの発酵培地を初期精製クロマトグラフィーと接触させ、前記初期精製クロマトグラフィー媒体は陰イオン交換媒体である、第1の接触ステップと、
(h)前記第1の接触ステップからの溶離液を最終精製クロマトグラフィー媒体と接触させ、前記最終精製クロマトグラフィー媒体は陽イオン交換媒体である、第2の接触ステップと、
(i)第2の接触ステップからの溶離液を濾過し、それによって前記改良されたAPFプロセスにより生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るステップと、を含み、前記得られたボツリヌス神経毒素は、前記得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含み、前記プロセスは1週間以内に行われる、プロセス。
【請求項13】
生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的に動物性成分を含まない(APF)クロマトグラフィーシステムであって、前記システムは、
(a)実質的にAPFである発酵培地と、
(b)前記発酵培地中で発酵させるためのクロストリジウム・ボツリナム菌と、
(c)前記発酵培地から生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するための、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体と、
(d)前記陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からの溶離液から、さらに生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するための、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体と、を備え、それによって、実質的にAPFであるクロマトグラフィープロセスから生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得る、システム。
【請求項14】
実質的にAPFである培養培地中で、前記クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に培養するための第1の装置をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記実質的にAPFである発酵培地中で前記クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に発酵させるための第2の装置をさらに備え、前記クロストリジウム・ボツリナム菌は、前記第1の装置から得られる、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記第2の装置から得られた前記発酵培地から細胞残屑を除去するための採取装置をさらに備え、それによって、採取済みの発酵培地を提供する、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記採取済みの発酵培地を濃縮し、続いて希釈するための、濃縮および希釈装置をさらに備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記陽イオン交換クロマトグラフィー媒体からの溶離液から、さらに精製された生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を回収するための、疎水性相互作用媒体をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
前記得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素のバイオバーデンを減少させるための濾過装置をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項20】
前記得られた生物学的に活性なボツリヌス神経毒素のバイオバーデンを減少させるための濾過装置をさらに備える、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
実質的にAPFである培養培地中でクロストリジウム・ボツリナム菌を培養するために、そのワークスペース内に統合型高性能微粒子エアフィルタを有する嫌気性チャンバをさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項22】
前記得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約2.0×10単位/mgの効力を有し、前記得られたボツリヌス神経毒素は、前記得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項23】
前記実質的にAPFである発酵培地は、約2L〜約75Lの量で提供される、請求項13に記載のシステム。
【請求項24】
約2L〜約75Lの前記実質的にAPFである発酵培地が用いられ、約200mL〜約1Lの実質的にAPFである培養培地が用いられる、請求項14に記載のシステム。
【請求項25】
生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィーシステムであって、前記システムは、
クロストリジウム・ボツリナム菌を培養するための第1の装置であって、実質的にAPFである培養培地を含有することが可能な第1の装置と、
前記第1の装置において培養されたクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させるための第2の装置であって、実質的にAPFである発酵培地を含有することが可能な第2の装置と、
前記発酵培地を採取するための第3の装置と、
前記採取済みの発酵培地を濃縮し、濾過済みの発酵培地を希釈するための、第4の装置と、
前記採取済みの培地からの前記ボツリヌス神経毒素の第1の精製を行うための第5の装置であって、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第1の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第5の装置と、
前記第1の精製ボツリヌス神経毒素の第2の精製を行うための第6の装置であって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第2の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第6の装置と、を備え、前記得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の少なくとも約2.0×10単位/mgの効力を有し、前記得られたボツリヌス神経毒素は、前記得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、1ngまたは1ng未満の残留核酸を含み、前記プロセスは1週間以内に行われる、システム。
【請求項26】
前記第6の装置から得られた前記ボツリヌス神経毒素のさらなる精製を行うための第7の装置をさらに備え、前記第7の装置は、疎水性相互作用媒体を備え、それによって第3の精製ボツリヌス神経毒素を得る、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記第6または第7の装置のいずれかからの溶離液を濾過するための濾過膜を備える、第8の装置をさらに備える、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
請求項25に記載のシステムを用いて得られる、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素。
【請求項29】
生物学的に活性なボツリヌス神経毒素を得るための、実質的にAPFであるクロマトグラフィーシステムであって、前記システムは、
クロストリジウム・ボツリナム菌を嫌気的に培養するための第1の装置であって、約200mL〜約1Lの実質的にAPFである培養培地を含有することが可能な第1の装置と、
前記第1の装置において培養されたクロストリジウム・ボツリナム菌の嫌気的発酵のための第2の装置であって、約2L〜約75Lの実質的にAPFである発酵培地を含有することが可能であり、酸化還元プローブ、pHプローブ、および濁度プローブからなる群から選択される少なくとも1つの使い捨てプローブを含む、第2の装置と、
前記発酵培地を採取するための第3の装置と、
前記採取済みの発酵培地を濃縮し、濾過済みの発酵培地を希釈するための、第4の装置と、
前記採取済みの発酵培地から得られたボツリヌス神経毒素の第1の精製を行うための第5の装置であって、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第1の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第5の装置と、
前記ボツリヌス神経毒素の第2の精製を行うための、第6の装置であって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒体を備え、それによって第2の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第6の装置と、
ボツリヌス神経毒素の第3の精製を行うための第7の装置であって、疎水性相互作用媒体を備え、それによって第3の精製ボツリヌス神経毒素を得る、第7の装置と、
前記第3の精製ボツリヌス神経毒素を濾過するための、第8の装置であって、濾過膜を備える、第8の装置と、を備え、前記得られたボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素の約2.0x107〜約6.0×10単位/mgの効力を有し、前記得られたボツリヌス神経毒素は、前記得られたボツリヌス神経毒素各1mgにつき、約1ngまたは約1ng未満の残留核酸を含み、前記プロセスは1週間以内に行われる、システム。
【請求項30】
第1の装置を含むことが可能な嫌気性チャンバを含む、モジュール式雰囲気制御型システムをさらに備えるシステムであって、前記嫌気性チャンバは、前記嫌気性チャンバ内に統合型高性能微粒子エアフィルタを有する、請求項29に記載のシステム。

【図1】
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【公表番号】特表2012−532932(P2012−532932A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520707(P2012−520707)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/041745
【国際公開番号】WO2011/008713
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】