説明

ボトリチスに対して高レベルの耐性を有するトマト植物

本発明は、ボトリチス耐性のドナートマト植物を、非耐性、またはボトリチス感受性のレシピエントトマト植物と交雑させる段階、一つまたは複数の子孫植物を感染量のボトリチスに接触させる段階、該一つまたは複数の子孫植物における発病率および/または病変増殖速度を量的に決定する段階、観察された発病率および/または病変増殖速度を、該一つまたは複数の子孫植物における、該ドナートマト植物の染色体マーカーの存在に連鎖させる遺伝連鎖マップを確立する段階、ならびに発病率の低減および/または病変の増殖速度の低減に連鎖する該マップ上の近接マーカーを一つの量的形質遺伝子座(QTL)に割り当てる段階を含む、トマトにおけるボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)に対する耐性に関連するQTLを検出する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、植物の育種および分子生物学に関する。より具体的には、本発明は、トマトにおけるボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)に対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出するための方法、それによってボトリチス耐性トマト植物を産生する方法、ならびにこのようにして得られたボトリチス耐性トマト植物およびその一部に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ボトリチス・シネレアは、少なくとも235の可能性がある宿主を含む極めて広い宿主範囲を有する壊死栄養性病原性真菌である。その宿主範囲が広いために、および植物の経済的に重要な部分に罹患することから、B.シネレアは、多くの商業栽培される作物における主要な問題である。栽培者の中で、真菌は一般的にボトリチスと呼ばれている。栽培されたトマト(主にリコペルシコン・エスクレンタム(Lycopersicon esculentum))も同様に、ボトリチスによる感染に対して感受性があり、真菌は一般的に、トマト植物の茎、葉、および果実に罹患する。加温された温室では、茎におけるボトリチスによる感染の発生は、特に一般的である。
【0003】
ボトリチスは感染細胞を活発に殺して、腐敗病、胴枯病、斑点病、立枯病、および茎の潰瘍を引き起こす。罹患した葉は、分生子柄および分生子で覆われるようになり、その後崩壊して枯れる。真菌は病気の葉から茎へと増殖して長さが数ミリメートルから数センチメートルに及ぶ乾いたうす茶色の病変部を生成する。病変はまた、茎の剪定跡にも形成されることがある。茎の病変はまた灰色のカビで覆われることがある。重度の場合、感染は茎を取り巻き、植物を殺す。トマト植物の古い老化した組織は通常、若い組織よりボトリチスによる攻撃を受けやすい。
【0004】
温室栽培のトマトにおけるボトリチスの発症を予防するために、温度および相対湿度は厳密に調節しなければならない。さらに、葉に水をかけないように水をやることが重要である。露地栽培される植物の場合、良好な排水および雑草の制御を行うべきである。その上、植物の栄養レベルを高く維持しなければならない。しかし、これらの予防手段は、感染した場合に多量の収量の喪失の発生を完全に防ぐことはできない。
【0005】
温室および露地栽培トマトの双方において、ボトリチスを制御するために抗真菌剤を利用することができる。そのような抗真菌剤の例には、Dowicide A(登録商標)およびクロロタロニルが含まれ、これらは収穫後のトマト植物に適用してもよい。しかし、ボトリチスは、一般的に用いられるいくつかの抗真菌剤に対して耐性を発達させたことが知られている。さらに、抗真菌剤の使用は、経済的および環境的見通しの双方からみて望ましくない。現在のところ、ボトリチスに対して耐性を示す商業的トマト品種が必要である。
【0006】
ボトリチスに対する部分的耐性は、リコペルシコンのいくつかの野生種において見いだされている(Egashira et al. 2000;Nicot et al. 2002;Urbasch 1986(非特許文献1))。しかし、これらの植物は、商業的なトマト作物を産生しない。
【0007】
L.ヒルスータム(L. hirsutum)が、ボトリチスに対する部分的耐性に関係するゲノムの第10染色体上の遺伝領域を含むことは、国際公開公報第02/085105号(特許文献1)から知られている。この遺伝材料を栽培トマト品種へ遺伝子移入することにより、ボトリチスに対して部分的に耐性である栽培トマト植物を提供することができると考えられている。
【0008】
しかし、これまでのところ、トマトにおけるボトリチスに対する耐性を提供することを目的とした育種プログラムは、限られた成功しか収めていない。これらの芳しくない結果の理由は現在のところわかっていない。一部には、このことは、ボトリチス耐性の遺伝的基礎および遺伝に関する知識が不十分であることに起因しうる。別の部分では、このことは育種プログラムにおいて得られたトマト植物においてボトリチス耐性レベルを評価するための適切なバイオアッセイが欠如していることに起因しうる。知識および方法の欠如のために、ボトリチスに対する耐性に関係する遺伝子を含む野生型アクセッションおよび子孫植物の双方における植物の選択も複雑となる。
【0009】
【特許文献1】国際公開公報第02/085105号
【非特許文献1】Egashira et al. 2000;Nicot et al. 2002;Urbasch 198
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、ボトリチスに対して耐性である商業的トマト品種を提供することを目的とする育種プログラムの成功を改善することである。さらに本発明の目的は、商業的トマト品種におけるボトリチスに対するさらなるおよび/または改善された耐性を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、ボトリチスに対する耐性の起源としてさらなる野生型リコペルシコンアクセッションを発見するための方法、および植物のゲノムにおいてボトリチスに対するトマトの耐性に関係するそのようなさらなる遺伝材料を発見するための方法を提供することである。そのようなさらなる起源およびさらなる遺伝材料は、栽培トマトのボトリチス耐性品種の産生のための基礎を広げるために用いてもよい。
【0011】
発明の概要
本発明者らは、分子マーカー検出技術と組み合わせた、トマト植物におけるボトリチス感染の初回および/または進行的パラメータの評価を含む特定の量的バイオアッセイが、野生型リコペルシコンのアクセッションにおけるボトリチスに対する耐性の起源を検出するための、およびそのような植物のゲノムにおいてボトリチスに対するトマトの耐性の改善に関係する遺伝材料を検出するための非常に都合のよい方法を提供することを発見した。
【0012】
この技術の組み合わせを用いることによって、本発明者らは、トマトの野生型相対物の二系統、すなわち リコペルシコン・ヒルスータム(Lycopersicon hirsutum)LYC 4/78およびリコペルシコン・パルビフロラム(Lycopersicon parviflorum)Gl.1601において、ボトリチスに対する部分的耐性の同定に成功した。
【0013】
本発明者らはその後、これらのボトリチス耐性野生型(ドナー)トマト系統からの植物を非耐性のレシピエントトマト植物と交雑することによって、ボトリチス耐性のトマト系統を産生することができた。これらの植物は、国際公開公報第02/085105号に開示されるようにボトリチス耐性に関連するL.ヒルスータムの第10染色体上のゲノム領域を含む植物より高レベルの耐性を示した。
【0014】
これらの新たに産生された交雑の分離集団(F2集団)におけるボトリチスに対する耐性レベルをドナー植物の分子マーカーの存在に関連して評価することによって、本発明者らは、耐性の野生型トマト系統においてボトリチス耐性に連鎖した多数の量的形質遺伝子座(QTL)を同定することができ、およびゲノムにおける多数の耐性付与DNA配列の位置を確立することができた。その結果、本発明者らは、トマトにおけるボトリチス耐性が多遺伝子性で遺伝されることを今回発見し、このことは育種の芳しくない結果を部分的に説明する可能性がある。本知見は、ボトリチス耐性のトマト植物を産生する方法の改善を提供する。以下の記述において、トマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連した量的形質遺伝子座(QTL)を、短縮してボトリチス耐性に関するQTLまたはボトリチス耐性に関連するQTLとして呼ぶ。
【0015】
合計6個のボトリチス耐性に関する新しいQTLを、感染の初回確立を低減させる植物の能力を反映する量的パラメータに連鎖させることができたが、以降これらを発病率に関するパラメータと呼ぶ。これらの6個のQTLのうち2個を、感染の進行を遅らせる植物の能力を反映する量的パラメータに連鎖させることができたが、以降これらを病変増殖速度に関するパラメータと呼ぶ。
【0016】
遺伝連鎖マップを作製することによって、L.ヒルスータムLYC 4/78がボトリチス感染によって誘導された病変の増殖速度の低減に連鎖するQTLを有すること、およびその同じアクセッションの第2および第4染色体がいずれも発病率の低減に連鎖するQTLを有することが見いだされた。L.パルビフロラムG1.1601において、病変増殖速度の低減に関するQTLは、第9染色体に存在することが見いだされたが、発病率の低減に関する異なる二つのQTLは、第3および4染色体上に存在することが見いだされた。先行技術において報告されたように、第10染色体上のQTLは、この方法によって検出することができなかった。上記の量的バイオアッセイを用いることによって、これまで試験したL.ヒルスータムLYC 4/78における全てのQTLを、試験中のQTLに関して分離するBC2S1(戻し交雑2回、自家受粉)後代における病気の耐性を評価することによって確認することができた。
【0017】
本発明は、第一の局面において、成体植物におけるボトリチス・シネレア感染に起因する平均茎病変長が標準的な実践条件で3週間にわたって測定されるバイオアッセイにおいて測定した場合に、ボトリチス・シネレアに対する感受性が、感受性の対照植物よりも少なくとも3倍低い、ボトリチス耐性トマト植物に関する。耐性レベルの測定として、本明細書において用いられるように期間3週間の茎病変長が、本明細書に記述される標準的な実践条件によって決定される。好ましい態様において、該ボトリチス耐性トマト植物は、植物がそのゲノム内に、ボトリチス耐性に関連するリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601における第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される少なくとも一つのQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含むことを特徴とし、該QTLまたはその該ボトリチス耐性付与部分がその天然の遺伝的バックグラウンドに存在しない。
【0018】
本発明は、もう一つの局面においてトマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出するための方法に関する。本方法は、ボトリチス耐性のドナートマト植物を、非耐性または部分的に耐性の(ボトリチス感受性の)レシピエントトマト植物と交雑させる段階;一つまたは複数の子孫植物を感染量のボトリチスに接触させる段階;該一つまたは複数の子孫植物における発病率および/または病変増殖速度を量的に決定する段階;観察された発病率および/または病変増殖速度を、該一つまたは複数の子孫植物における該ドナートマト植物の染色体マーカーの存在に連鎖させる遺伝連鎖マップを確立する段階;ならびに発病率の低減および/または病変増殖速度の低減に連鎖する該マップ上の近接マーカーを量的形質遺伝子座に割り当てる段階を含む。
【0019】
もう一つの局面において、本発明は、先に概要したように本発明によるボトリチス耐性に関するQTLを検出するための方法によって得ることができるQTLに関する。これらのQTLは、先行技術のQTLとは異なる。その理由の一つとして、先行技術のQTLは見いだすことができなかった。さらに、本発明のQTLは、それらが病気の発症に抵抗する植物の能力に関する特徴または病気の進行を遅らせる植物の能力に関する特徴のいずれかを示していることから、先行技術のQTLより有益である。そのような情報の組み合わせは耐性の改善を適切に提供する可能性があることから、および一つの世代からもう一つの世代への耐性形質の適切な遺伝がより良好に制御される可能性があることから、そのような情報は育種プログラムにおいて非常に貴重である。
【0020】
本発明はさらに、ボトリチス耐性に関連する、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される、トマトにおけるボトリチス耐性に関するQTLに関する。これらのQTLは、これまでボトリチスに対する耐性に関連しないゲノムの位置に存在する。これらのQTLに関する詳細は、本明細書において以下により詳細に記述する。
【0021】
これらのQTLによって示されるゲノムの位置に存在する対立遺伝子は本発明の一つの局面である。
【0022】
本発明のQTLは、単離型、好ましくは該QTLまたはその耐性付与部分を含む二本鎖核酸配列であってもよい。非常に適切には、例えば適したドナー植物の染色体から単離される可能性がある核酸配列の大きさは、該染色体において1〜100 cMの遺伝距離、好ましくは10〜50 cMを表してもよい。該核酸は、少なくとも50、より好ましくは少なくとも500、さらにより好ましくは少なくとも1000、なおより好ましくは少なくとも5000塩基対を含んでもよい。本発明によるQTLまたはその耐性付与部分を含む一つまたは複数の核酸配列は、該一つまたは複数の核酸配列に隣接する領域をさらに含み、その領域が該一つまたは複数の核酸配列を適したボトリチス感受性レシピエントトマト植物に移入するために適したベクターに組み入れられうる核酸構築物に含まれてもよい。ベクターはさらに、適したプロモーター領域または他の調節配列を含んでもよい。QTLはまた、トマト植物のゲノム内に存在する形であってもよい。本発明のQTLは好ましくは、該QTLに連鎖する表1および表2のマーカー、ならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択される、ボトリチス耐性に関連する少なくとも一つのマーカー、好ましくは2個、より好ましくは3個、なおより好ましくは4個、なおより好ましくは4個より多いマーカーを含む。
【0023】
本発明は、もう一つの局面において、疑わしいボトリチス耐性トマト植物におけるボトリチス耐性に関するQTLに連鎖する、表1および表2のマーカー、ならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択される少なくとも一つのマーカーを検出する段階を含む、ボトリチス耐性に関するQTLを検出するための方法に関する。
【0024】
本発明はさらに、ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法に関する。本方法は、本発明によるボトリチス耐性に関する量的形質遺伝子座(QTL)を検出するための任意の一つの方法を行う段階、およびドナー植物由来のこのように検出された少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸をボトリチス感受性のレシピエントトマト植物に移入する段階によって、ボトリチス耐性ドナートマト植物におけるボトリチス耐性に関するQTLを検出する段階を含む。
【0025】
少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸の移入は、非常に適切には、該ボトリチス耐性のドナートマト植物をボトリチス感受性のレシピエントトマト植物と交雑させて、子孫植物を産生する段階、および該遺伝子移入された核酸が、本発明による少なくとも一つのボトリチス耐性に関するQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む、ドナートマト植物から遺伝子移入された核酸をそのゲノムに含む植物を、子孫植物の中から選択する段階によって行ってもよい。該遺伝子移入された核酸における、本発明による少なくとも一つのボトリチス耐性に関するQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分の存在は、適切には、ボトリチス耐性に関するQTLに連鎖する、表1および表2のマーカー、ならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択される少なくとも一つのマーカーが検出される、本発明による方法によって検出してもよい。
【0026】
したがって、好ましい選択法は、該QTLに関連する一つまたは複数のマーカーが子孫植物において検出される、遺伝子移入されたDNAのマーカーアシスト選択(MAS)(例えば、Tanksley et al. 1998を参照されたい)を含む。MASは、例えば子孫植物由来の遺伝材料を単離する段階、および一つまたは複数のドナー植物マーカーの存在を分子技術によって決定する段階によって行ってもよい。または、分子マーカー検出法は、遺伝材料を予め単離することなく用いてもよい。任意で、適した植物を選択するために、マーカー検出の他に、ボトリチス耐性に関する表現型試験を行ってもよい。したがって、非常に適した試験は、それによって発病率および/または病変増殖速度のようなパラメータが決定される、本明細書に記述されるような量的バイオアッセイである。耐性表現型の存在の確立と組み合わせて、ボトリチス耐性に関するQTLの少なくとも一つのマーカーの存在が確認されれば、少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸のドナー植物からレシピエント植物への移入が成功したことに関する証拠を提供する。
【0027】
ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法のもう一つの態様において、示される核酸の移入は、非常に適切には、トランスジェニック法(例えば、形質転換によって)によって、プロトプラスト融合によって、ダブルハプロイド技術によって、または胚救出によって行われてもよい。
【0028】
ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法の好ましい態様において、ドナー植物は、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78および/またはリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601であり、これらのドナー植物からレシピエント植物に移入された核酸は、好ましくは、ボトリチス耐性に関与するリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1(QTL-1h)、第2(QTL-2h)および第4(QTL-4h)染色体におけるQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3(QTL-3p)、第4(QTL-4p)、および第9(QTL-9p)染色体上のQTLからなる群より選択される、ボトリチス耐性に関する少なくとも一つのQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む。
【0029】
ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法のもう一つの好ましい態様において、本方法は、ボトリチス耐性ドナートマト植物を、ボトリチス感受性レシピエントトマト植物と交雑させて、第一世代子孫植物を産生する段階;第一世代子孫植物の中から、該ドナートマト植物から移入された核酸をそのゲノムに含む植物を選択する段階であって、該移入された核酸が、本発明によるボトリチス耐性に関する少なくとも一つのQTL、好ましくは二つ、より好ましくは二つより多いQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む段階;該選択された子孫植物を適した商業的トマト系統と交雑させて、第二世代の子孫植物を産生する段階;第二世代の子孫植物の中から、該第一世代子孫トマト植物から移入された核酸をそのゲノムに含む植物を選択する段階であって、該移入された核酸が、本発明によるボトリチス耐性に関する少なくとも一つのQTL、好ましくは二つ、より好ましくは二つより多いQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む段階、および任意で子孫植物のさらなる世代を産生する段階を含む。先に述べた、子孫植物において遺伝子移入されたボトリチス耐性に関する好ましくは二つのQTL、より好ましくは二つより多いQTLは、発病率に関するQTL、病変増殖速度に関するQTL、またはこれらのタイプの組み合わせであってもよい。
【0030】
もう一つの局面において、本発明は、本発明の方法によって得ることができるボトリチス耐性トマト植物またはその一部に関する。
【0031】
なおさらなる局面において、本発明は、QTLがボトリチス耐性に関連するリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択され、該QTLまたはそのボトリチス耐性付与部分がその天然の遺伝的バックグラウンドに存在しない、少なくとも一つのQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分をそのゲノム内に含む、ボトリチス耐性トマト植物またはその一部に関する。
【0032】
さらにもう一つの局面において、本発明は、ボトリチス耐性近交系トマト植物を産生する方法に関する。本方法は、本発明の方法に従ってボトリチス耐性トマト植物を産生する段階、該植物を自家受粉させる段階、該自家受粉させた植物から得た種子を新しい植物に生長させる段階、ボトリチス耐性を示し、商業的に望ましい特徴を保有する植物を該新しい植物の中から同定する段階、およびボトリチス耐性を示して、商業的に望ましい特徴を保有する近交系トマト植物が産生されるまで、自家受粉および選択段階を繰り返す段階を含む。
【0033】
ボトリチス耐性近交系トマト植物を産生する方法はさらに、ボトリチス耐性を示して、商業的に望ましい特徴を保有するホモ接合近交系トマト植物を選択するさらなる段階を含んでもよい。
【0034】
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって得ることができるボトリチス耐性近交系トマト植物またはその一部に関する。
【0035】
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって得ることができるボトリチス耐性近交系トマト植物を、商業的に望ましい特徴を示す近交系トマト植物と交雑させることによって得ることができる、ボトリチスに対して耐性を示すハイブリッドトマト植物またはその一部に関する。
【0036】
本発明はさらに、本発明のトマト植物の再生可能な細胞の組織培養に関する。そのような組織培養の好ましい態様において、細胞または細胞のプロトプラストは、葉、花粉、胚、根、根の先端、葯、花、果実、茎、および種子からなる群より選択される組織から単離されている。
【0037】
本発明はさらに、本発明によるボトリチス耐性に関するQTLを検出するためおよび/またはボトリチス耐性トマト植物を検出するために、表1および表2のマーカーならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択されるマーカーを用いることに関する。
【0038】
本発明の方法において用いられるボトリチス耐性ドナートマト植物は、リコペルシコン・セラシフォルム(Lycopersicon cerasiforme)、リコペルシコン・チーズマニイ(Lycopersicon cheesmanii)、リコペルシコン・キレンセ(Lycopersicon chilense)、リコペルシコン・クミリウスキイ(Lycopersicon chmielewskii)、リコペルシコン・エスクレンタム(Lycopersicon esculentum)、リコペルシコン・ヒルスータム、リコペルシコン・パルビフロラム、リコペルシコン・ペンネリイ(Lycopersicon pennellii)、リコペルシコン・ペルビアナム(Lycopersicon peruvianum)、リコペルシコン・ピンピネリフォリウム(Lycopersicon pimpinellifolium)およびソラナム・リコペルシコイデス(Solanum lycopersicoides)からなる群より選択され、より好ましくは野生型リコペルシコンアクセッションがドナー植物として用いられる。非常に好ましいドナー植物は、リコペルシコン・ヒルスータム、リコペルシコン・パルビフロラムであり、特にリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78およびリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601である。
【0039】
本発明の方法において用いられるボトリチス感受性レシピエントトマト植物は、好ましくは、リコペルシコン・エスクレンタム種の植物であり、より好ましくは商業的に望ましい特徴を保有するL.エスクレンタム栽培品種、またはもう一つの商業的トマト系統である。
【0040】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において提供された見出しは、明細書全体を参照することによって得ることができる本発明の様々な局面または態様の制限ではない。したがって、下記に定義する用語は、明細書全体を参照することによってより十分に定義される。
【0041】
本明細書において用いられる「ボトリチス」という用語は、トマトの茎、葉、および果実において一般的に見いだされる病気である灰色カビまたは灰色斑として知られるボトリチス・シネレアを意味する。一般的に、植物の病原性真菌スクレロチニア・スクレロチオラム(Sclerotinia sclerotiorum)は、B.シネレアと類似の感染メカニズムを有すると考えられる(Prins et al., 2000)。トマトにおけるS.スクレロチオラム感染はB.シネレア感染より経済的な重要度がはるかに低いが、いずれの真菌も広いスペクトルのプロテアーゼ、細胞壁分解酵素、毒素と共にシュウ酸を分泌する。これらの要因のいくつかは、双方の真菌の感染戦略において役割を有することが知られている。その結果、ボトリチスに対する耐性を付与するメカニズムおよび遺伝子は、S.スクレロチオラムによる感染に対する耐性を提供するために等しく有効であると考えられている。したがって、本明細書において「ボトリチス耐性」について参照する場合、そのような耐性は、菌核菌(Sclerotiniaceae)科の任意の真菌に対する耐性、好ましくはS.スクレロチオラムおよびB.シネレアに対する耐性、より好ましくはB.シネレアに対する耐性を含むと理解すべきである。
【0042】
本明細書において用いられる「対立遺伝子」という用語は、その対立遺伝子の全てが少なくとも一つの形質または特徴に関連する、遺伝子の一つまたは複数の任意の代用型を意味する。二倍体細胞または生物において、所定の遺伝子の二つの対立遺伝子は、相同染色体の対上で対応する遺伝子座を占有する。本発明は、QTL、すなわち一つまたは複数の遺伝子を含んでもよいが同様に調節配列を含んでもよいゲノム領域に関することから、いくつかの場合において、「対立遺伝子」の代わりに「ハプロタイプ」(すなわち染色体分節の対立遺伝子)を指すほうがより正確であるが、それらの状況において「対立遺伝子」という用語は、「ハプロタイプ」という用語を含むと理解すべきである。
【0043】
「遺伝子」は本明細書において、染色体上の特異的位置を占有し、生物において特定の特徴または形質に関する遺伝的指令を含むDNA配列からなる遺伝単位として定義される。
【0044】
「遺伝子座」は、本明細書において、所定の遺伝子が所定の種の染色体上で占有する位置として定義される。
【0045】
本明細書において用いられる「ヘテロ接合」という用語は、相同染色体上の対応する遺伝子座に異なる対立遺伝子が存在する場合に存在する遺伝的条件を意味する。
【0046】
本明細書において用いられる「ホモ接合」という用語は、相同染色体上の対応する位置に同一の対立遺伝子が存在する場合に存在する遺伝的条件を意味する。
【0047】
本明細書において用いられる「ハイブリッド」という用語は、二つの近交系のあいだの交雑が含まれるがそれらに限定されるわけではない遺伝的に異なる二つの個体間の交雑の任意の子孫を意味する。
【0048】
本明細書において用いられる「近交系」という用語は、実質的にホモ接合の個体または系統を意味する。
【0049】
本出願において、「組換え事象」は、減数分裂交差を意味すると理解される。
【0050】
本明細書において用いられる「遺伝子移入」、「遺伝子移入された」、および「遺伝子移入している」という用語は、それによって一つの種、品種、または栽培品種の遺伝子が、それらの種の交雑によってもう一つの種、品種、または栽培品種のゲノムに移動する天然および人工的プロセスの双方を指す。プロセスは任意で、反復親への戻し交雑によって終了してもよい。
【0051】
「遺伝子操作」、「形質転換」、および「遺伝子改変」は全て、本明細書において単離およびクローニングされた遺伝子の、もう一つの生物のDNA、通常、染色体DNAまたはゲノムへの移入と同義語として用いられる。
【0052】
本明細書において用いられる「分子マーカー」という用語は、核酸配列の特徴における差を可視化するための方法において用いられる指標を指す。そのような指標の例は、制限断片長多型(RFLP)マーカー、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、一ヌクレオチド多型(SNP)、マイクロサテライトマーカー(例えばSSR)、配列特徴増幅領域(SCAR)マーカー、増幅切断多型配列(CAPS)マーカー、もしくはイソ酵素マーカー、または特異的遺伝子および染色体位置を定義する本明細書に記述のマーカーの組み合わせである。
【0053】
「抵抗性」および「耐性」という用語は、感染に対する部分的または完全な耐性の双方を含む。ボトリチス感受性トマト植物は、非耐性であるか、またはボトリチスによる感染に対して低レベルの耐性を有するかのいずれであってもよい。
【0054】
本明細書において用いられる「植物の一部」という用語は、そこからトマト植物を再生することができる、単細胞ならびに植物において無傷である植物細胞、細胞塊、および組織培養物のような細胞組織を含むトマト植物の一部を意味する。植物の一部の例には、花粉、胚珠、葉、胚、根、根の先端、葯、花、果実、茎のシュート、および種子からの単細胞および組織と共に、花粉、胚珠、葉、胚、根、根の先端、葯、花、果実、茎、シュート、接ぎ木、台木、種子、プロトプラスト、カルス等が含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0055】
本明細書において用いられる「集団」という用語は、共通の遺伝的派生を有する植物の、遺伝的に異種起源の集合を意味する。
【0056】
本明細書において用いられる「トマト」という用語は、リコペルシコン・セラシフォルム、リコペルシコン・チーズマニイ、リコペルシコン・キレンセ、リコペルシコン・クミリウスキイ、リコペルシコン・エスクレンタム(またはソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum))、リコペルシコン・ヒルスータム、リコペルシコン・パルビフロラム、リコペルシコン・ペンネリイ、リコペルシコン・ペルビアナム、リコペルシコン・ピンピネリフォリウム、またはソラナム・リコペルシコイデスが含まれるがそれらに限定されるわけではないリコペルシコンの任意の植物、系統、または集団を意味する。Linnaeusは最初に近代トマトをナス属(Solanum)として分類したが、その科学名は何年ものあいだリコペルシコン・エスクレンタムであった。同様に、近代トマトの野生型相対物は、L.ペンネリイ、L.ヒルスータム、L.ペルビアナム、L.キレンセ、L.パルビフロラム、L.クミリウスキイ、L.チーズマニイ、L.セラシフォルム、およびL.ピンピネリフォリウムのように、リコペルシコン属内に分類されている、過去数年のあいだに、これらの種の名称を細分類するか否かに関してトマトの研究者および植物学者のあいだで論争があった。近代トマトに関して新たに提唱された科学名は、ソラナム・リコペルシカムである。同様に、野生種の名称も変更される可能性がある。L.ペンネリイは、ソラナム・ペンネリイとなる可能性があり、L.ヒルスータムは、S.ハブロカイテス(S. habrochaites)となる可能性があり、L.ペルビアナムはS. 'N ペルビアナム'(S. 'N peruvianum')およびS.'カレヨンデヒュアイレス'(S. 'Callejon de Huayles')、S. ペルビアナムおよびS.コルネリオムエレリ(S. corneliomuelleri)に分割される可能性があり、L. パルビフロラムはS.ネオリッキイ(S. neorickii)となる可能性があり、L.クミリウスキイはS.クミリウスキイとなる可能性があり、L. キレンセはS. キレンセとなる可能性があり、L. チーズマニイはS. チーズマニイまたはS.ガラパゲンス(S. galapagense)となる可能性があり、ならびにL. ピンピネリフォリウムはS.ピンピネリフォリウムとなる可能性がある


【0057】
本明細書において用いられる「品種」または「栽培品種」という用語は、構造的または遺伝的特徴および/または性能によって同じ種の他の品種と区別することができる類似の植物群を意味する。
【0058】
「QTL」という用語は、本明細書において当技術分野において認識される意味で用いられる。「トマトにおけるB.シネレアに対する耐性に関連したQTL」という用語と共にその短縮形「ボトリチス耐性に関するQTL」という用語は、ボトリチス耐性をコードする少なくとも一つの遺伝子に関連するトマトの特定の染色体上に存在する領域、または少なくとも調節領域、すなわちボトリチス耐性に関係する一つもしくは複数の遺伝子の発現を制御する染色体の領域を指す。その遺伝子の表現型発現は、例えば病変増殖速度の低減としておよび/または発病率の低減として観察される可能性がある。QTLは、例えば、その産物が遺伝的耐性を付与する一つまたは複数の遺伝子を含んでもよい。または、QTLは、例えばその産物が植物のゲノムにおける他の遺伝子座における遺伝子の発現に影響を及ぼし、それによってボトリチス耐性を付与する調節遺伝子または配列を含んでもよい。本発明のQTLは、一つまたは複数の分子ゲノムマーカーを用いて、それぞれの野生型リコペルシコンアクセッションのゲノムにおけるその遺伝子の位置を示すことによって定義してもよい。次に、一つまたは複数のマーカーは、特異的遺伝子座を示す。遺伝子座間の距離は通常、同じ染色体上の遺伝子座間の交差頻度によって測定される。二つの遺伝子座が遠くに離れれば、それらのあいだで交差が起こる可能性はより高いであろう。逆に、二つの遺伝子座が互いに近ければ、それらのあいだで交差が起こる可能性はより低い。概して、1センチモルガン(cM)は、遺伝子座(マーカー)間の1%組換えに等しい。QTLが多数のマーカーによって示されうる場合、エンドポイントマーカー間の遺伝距離は、QTLの大きさを示している。
【0059】
「ボトリチス感受性レシピエントトマト植物」という用語は、本明細書においてボトリチス耐性に関するQTLを含むドナートマト植物から得たDNAを受領するトマト植物を示すために用いられる。該「ボトリチス感受性レシピエントトマト植物」という用語は、ボトリチス耐性に関する一つまたは複数のQTLを既に含んでも含まなくてもよく、この場合、この用語はさらなるQTLを受ける植物を示している。
【0060】
「天然の遺伝的バックグラウンド」という用語は、本明細書においてQTLの最初の遺伝的バックグラウンドを示すために用いられる。そのようなバックグラウンドは、例えばトマトのボトリチス耐性野生型アクセッションのゲノムであってもよい。例えば、本発明のQTLは、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上の特定の位置、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上の特定の位置において見いだされた。例として、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78は、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTLの天然の遺伝的バックグランドをを表す。同様に、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78は該QTLの天然の遺伝的バックグラウンドを表す。逆に、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1染色体から、もう一つのトマト種の第1染色体の同じ位置への、QTLまたはその耐性付与部分を含むDNAの移入を伴う方法によって、QTLまたはその耐性付与部分がその天然の遺伝的バックグラウンドに存在しないということが起こるであろう。
【0061】
「発病率」という用語は、本明細書において、感染の確立を低減させる植物の能力を反映するパラメータとして定義され、例えば感染物質と接触した場合の植物の感染を得る成功を決定することによって、確立してもよい。
【0062】
「病変の増殖速度」または「病変増殖速度」という用語は、本明細書において感染の進行を遅らせる、または低減させる植物の能力を反映するパラメータとして定義され、これは例えば拡大しつつある病変の増殖速度を決定することによって確立してもよい。
【0063】
「量的に決定する」という用語は、本明細書において、測定、特に量および数に関して測定可能である局面の測定を伴う方法で確立または評価することとして定義される。重症度の程度の決定、およびより大きい、より多い、より少ない、または等しい、または程度の増加もしくは減少した指標は、本明細書における「量的に決定する」という用語に含まれず、この用語は最終的に、絶対値を決定するための客観的な計数メカニズムの存在を暗示する。したがって、「発病率および/または病変の増殖速度を量的に決定する」とは、好ましくは、それによって測定可能な病変が起こる、植物と感染物質とのあいだの全ての起こりうる感染性の接触の百分率を決定する段階(発病率を評価するため)、および/または真菌の増殖にとって都合のよい条件で該病変の一つまたは複数の直径、外周、表面積、または容積の増加を経時的に決定する段階(病変の増殖速度を評価するため)を含む。
【0064】
「標準的な実践条件」、「標準的な温室条件」、および「標準的な条件」という用語は、例えば標準として病気の耐性の表現型の特徴付けを目的として、その下で植物を生長またはインキュベートする光、湿度、温度等の条件を指す。例えば、温室の場合、これは日照時間16時間、15℃〜25℃を指す。より一般的に、この用語は、日照時間8〜24時間(光合成光子束(PPF)50〜1000μmol m-2 s-1)、好ましくは16時間明所および8時間暗所の光レジメ、昼間の気温約19℃および夜間気温15℃、相対湿度(RH)60%〜85%に対応する飽差約4.4 g m-3、600〜700 ppm CO2、および大気圧O2濃度、ならびに大気圧(一般的に1008 hPa)の標準および参照生長条件を指す。水および栄養は茎の近くで滴下して与えるか、またはスプレーもしくはミストの形で与えてもよい。茎病変長のアッセイ、発病率、および病変増殖速度測定のような、標準的なバイオアッセイ実験条件は、以下の実施例においてさらに詳しく説明される。より詳しく述べると、平均茎病変長のアッセイは、実施例3.10および3.11において記述されるように行われる。
【0065】
トマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連するQTLの同定
野生型リコペルシコン種は、病気および害虫耐性形質の適した起源を提供することが知られており、野生型リコペルシコン種の葉におけるB.シネレアに対する部分的耐性の存在が報告されている(Urbasch, 1986)。過去に、二つの要因によって、トマトにおけるB.シネレア耐性に関する育種が妨害された。第一に、商業的育種系統への部分的耐性の交雑は、限られた成功を収めたに過ぎなかった。第二に、耐性の付与に関与する遺伝材料の同定および局在を可能にするであろう、信頼できかつ再現可能な病気のアッセイが存在しなかった。
【0066】
Urbasch(Urbasch, 1986)は、例えば、感染プロセスに強く影響を及ぼす過剰量の栄養を真菌に提供するアガープラグを用いて、葉を菌糸に感染させた。他の研究者らは、主観的な植物病気指数を用いているが、これは量的形質遺伝子座(QTL)の同定にとって必要な量的分析には不適である。
【0067】
実験条件でのリコペルシコン・エスクレンタムにおけるボトリチス・シネレア感染症は比較的良く研究されている(例えば、Benito et al., 1998)。中程度の温度(15〜20℃)で葉に小滴を接種してその後インキュベートすると、接種部位での壊死斑の急速な(感染後16〜24時間(hpi))発症が起こる。その瞬間から病変の一部(通常5〜10%)が拡大し始める。これらのいわゆる「拡大病変」の派生物は、真菌バイオマスの増加を伴い、それによって続く48時間に小葉全体への定着が起こる。
【0068】
本発明者らは、感染の進行速度および/または感染物質との接触時の感染を達成する成功がトマト植物の一部、より好ましくは脱離した一部、より好ましくは茎の分節について量的に測定される、耐性を測定するバイオアッセイを用いた場合に、トマトにおけるボトリチス耐性に関連する特異的QTLが同定されうることを見いだした。意外にも、ボトリチス耐性に関する多数のQTLがボトリチス耐性トマト植物のゲノムに存在することが見いだされたが、先行技術の方法ではボトリチス耐性に関する一つのみのQTLが仮に同定されたに過ぎなかった。その上、これらの方法を用いて見いだされたQTLは、トマト植物のボトリチス耐性にこれまで関連していない染色体上に存在し、QTLは、耐性の様々な表現型発現に関連した。したがって、本発明の方法は、トマトにおけるボトリチス耐性の遺伝的基礎が多遺伝子性であるという新しい洞察を提供した。
【0069】
例えば、L.ヒルスータムLYC 4/78の第2および第4染色体上に存在する遺伝子領域は発病率の低減に関与するが、第1染色体上に存在する遺伝子領域は病変増殖速度の低減に少なくとも部分的に関与することが見いだされた。これらの表現型に連鎖した類似の遺伝子領域は、L.パルビフロラムG1.1601にも存在することが見いだされたが、これらは必ずしも同じ染色体上に存在しなかった。
【0070】
さらに、新しいQTL領域は、先行技術の第10染色体上のQTLに関連する領域より高レベルの耐性に関連することが発見された。このように、本発明の方法は、これまでに達成されたレベルより高いレベルの耐性を植物に付与する、ボトリチス耐性に関する主要なQTLを発見することができる。このように、本発明の方法の一つの長所は、それによってボトリチスに対してより高レベルの耐性に関連するQTLが発見される点である。このレベルの耐性は、本発明の方法を用いるような、または先行技術の通常の方法を用いるような、利用可能な任意の方法によって決定してもよい。実験のセットアップおよび条件に関する詳細な記述は以下の実施例において提供される。
【0071】
さもなくば量的形質遺伝子座(QTL)を同定または位置特定するための方法として扱うことのできる、本発明によるトマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出する方法は、(部分的に)ボトリチス耐性トマト植物が利用可能であることを必要とする。そのような植物は、当技術分野において公知の任意の手段によって提供されてもよく、該植物における該(部分的)耐性の存在を決定するための任意の方法を用いて提供されてもよい。(部分的)ボトリチス耐性トマト植物(これは本発明の方法においてドナー植物としてさらに役立つであろう)の供給は、該植物の少なくとも一つ、しかし好ましくは全染色体に関するマーカー、好ましくはAFLP、CAPS、および/またはSCARマーカー、最も好ましくはCAPSおよび/またはSCARマーカーの確立または提供を可能にする。染色体の全長にわたって染色体マーカーのコレクションを確立することによって、該染色体の様々な位置が効率的に印される可能性がある。そのような方法は当技術分野において周知であり、例示的な方法は本発明において以下により詳細に記述されるであろう。
【0072】
本発明によるトマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出する方法は、子孫植物を産生するために、第一段階として、該(部分的)ボトリチス耐性ドナートマト植物を非耐性のまたはボトリチス感受性のレシピエントトマト植物と交雑させる段階を含む。その後、一つまたは複数の子孫植物を感染量のボトリチスに接触させる。そのような量は、植物と調べた真菌種とのあいだで変化してもよい。通常、真菌の分生子約1個〜10個から約500個〜5000個の量で十分であろう。
【0073】
その後の段階は、交雑から産生された一つまたは複数の子孫植物における発病率および/または病変増殖速度を量的に決定する段階を含む。該量的決定は、好ましくは多数の子孫植物において行われる。子孫植物は好ましくはボトリチス耐性ドナートマト植物と非耐性またはボトリチス感受性のレシピエントトマト植物との交雑に由来するF2集団の植物である。好ましくは、子孫として、分離F2集団が用いられ、より好ましくはL.エスクレンタム栽培品種MoneymakerとL.ヒルスータムLYC 4/78との交雑に由来するF2集団が用いられる。実践において、該交雑に由来するF1の種子をF1植物に生長させて、単独のF1植物を自家受粉させてF2種子を産生させ、その後誘導されたF2植物を、本発明の方法における発病率および/または病変増殖速度の決定のために用いる。または、F3系統を耐性アッセイのために用いてもよい。
【0074】
一つまたは複数の子孫植物を感染量のボトリチスに接触させる段階および該一つまたは複数の子孫植物における発病率および/または病変増殖速度を量的に決定する段階は、好ましくは、本明細書に記述されるように茎の分節または葉に関する耐性バイオアッセイ、好ましくは茎分節に関する耐性バイオアッセイの一部として行われる。当業者は、本明細書において以下に記述されるようにこれらのアッセイの変法が可能であることを理解するであろう。
【0075】
茎の分節に関する耐性バイオアッセイは以下のように行われる:最初に、子孫植物由来の種子を植えて適した高さ約50 cmの実生/植物まで生長させる。植物の茎の上部5〜10 cmおよび下部5〜10 cmを除去して、残りの30 cmを5〜6 cmの等しい分節に切断してもよい。茎の分節は、好ましくは茎の基部を湿らせた濾紙の上に載せて格子に直立に立てておく。接種の前に、茎の分節を創傷表面全体に接種物が確実に等しく散布されるように、水を適切に噴霧する。次に、それぞれの茎の分節にB.シネレアの分生子浮遊液を接種してもよい。適量の接種物、例えば分生子約106個ml-1を含む約5μlの1滴をそれぞれの茎分節の上部に適用してもよい。次に、茎分節を適切には温度約16℃で、好ましくは暗所で、好ましくは高湿度(例えば100%RH)でインキュベートする。感染の進行はVernierキャリパーによって接種後の様々な間隔で腐敗症状の最大の進行を測定することによって量的に決定してもよい。多くの適した間隔で、例えば感染後(hpi)96、120、および144時間で、茎を病変の形成(発病率)および病変の増殖に関して量的に検分してもよい。非常に適したパラメータは、例えばキャリパーを用いる病変の大きさの測定を含む。季節または植物の栽培によって引き起こされる変動を補正するために、バイオアッセイの量的測定を、感受性のある対照または参照系統における同等の測定と関連させてもよい。発病率は、適切には、拡大しつつある病変の総数を接種小滴の総数で除することによって決定してもよい。特定の遺伝子型に関する拡大しつつある病変の比率を、対照または参照遺伝子型において観察された拡大しつつある病変の比率で除して、百分率で表記してもよい。または、もしくはさらに、適した期間、例えば24時間での病変の大きさ(例えばmm)の増加を計算することによって、病変の増殖速度を決定してもよい。非拡大病変に関するデータを量的分析から除外してもよい。得られた病変増殖速度を任意で、対照または参照遺伝子型において観察された病変増殖速度によって除して、百分率として表記してもよく、または絶対値、例えばミリメートルで表記してもよい。
【0076】
または、植物を葉の感染バイオアッセイを用いて以下のようにスクリーニングすることができる:第一に、トマトの種子を播いて実生/植物まで生長させる。それぞれの個々の植物に関して一つまたは二つの複合葉を主茎から切断して、これを予め湿らせた草花栽培用フォームに移してもよい。次に、草花栽培用フォームを水道水を含むペトリ皿に入れた後、湿らせた濾紙を含む噴霧によって湿らせた容器に入れる。B.シネレア分生子を含む適した接種物は、例えばBenito et al., 1998によって記述されるように当技術分野で公知の方法によって調製してもよい。次に複合葉に、多数の小滴を載せることによって、適切には例えば各2μlの小滴6〜10滴を葉の上表面に載せることによって、B.シネレアの分生子浮遊液を接種する。次に容器を閉じて、葉を適切には温度15℃〜20℃、好ましくは暗所で好ましくは高湿度でインキュベートする。多数の適した間隔で、例えば96、120、および144 hpiで、茎のバイオアッセイに関して先に記述したように量的に、葉を発病率および病変の増殖に関して検分してもよい。
【0077】
本発明によるトマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出する方法はさらに、一つまたは複数の子孫植物において、観察された発病率および/または病変増殖速度を該ドナートマト植物の染色体マーカーの存在に連鎖させる遺伝連鎖マップを確立する段階、ならびに発病率の低減および/または病変増殖速度の低減を量的形質遺伝子座に連鎖させる、マップ上の近接マーカーを割り当てる段階を含む。
【0078】
一つまたは複数の子孫植物において、観察された発病率および/または病変増殖速度を、ドナートマト植物の染色体マーカーの存在に連鎖させる遺伝連鎖マップは、当技術分野で公知の任意の方法によって確立してもよい。当業者は、耐性量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖する分子マーカーを同定するためのおよび遺伝連鎖マップ上でのこれらのマーカーのマッピング方法を承知している(例えばBai et al., 2003;Foolad et al., 2002;van Heusden et al., 1999)。ボトリチス耐性表現型とマーカー遺伝子型との関連は適切には、JoinMap(登録商標)およびMapQTL(登録商標)のようなソフトウェアパッケージ(実施例を参照されたい)を用いることによって、または分散分析を行うことができる任意の標準的な統計パッケージを用いることによって行ってもよい。分子マーカーは、遺伝連鎖マップを構築するために、およびボトリチス耐性に関する量的形質遺伝子座(QTL)を同定するために用いることができる。適したタイプの分子マーカーおよびそれらを得る方法を、本明細書において以下により詳細に記述する。
【0079】
本発明によるトマトにおけるボトリチスに対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出する方法は、バイオアッセイにおける実験的変動を低減させることによって、および/または完全な戻し交雑近交系集団(BIL)を構築することによってさらに改善される可能性がある。本発明の方法と組み合わせてそのようなBIL系統を用いることによって、B.シネレアに対する量的耐性は、さらにより正確に評価される可能性があり、さらなるQTLが同定される可能性がある。
【0080】
分子マーカーとQTL
分子マーカーは、核酸配列における差を可視化するために用いられる。この可視化は、DNA-DNAハイブリダイゼーション技術(RFLP)によっておよび/またはポリメラーゼ連鎖反応(例えば、STS、マイクロサテライト、AFLP)を用いる技術によって可能となる。二つの親遺伝子型のあいだの差は全て、これらの親遺伝子型の交雑に基づいてマッピング集団(例えば、BC1、F2;図2を参照されたい)において分離するであろう。異なるマーカーの分離を比較してもよく、組換え頻度を計算することができる。異なる染色体上の分子マーカーの組換え頻度は一般的に50%である。同じ染色体に存在する分子マーカー間では、組換え頻度はマーカー間の距離に依存する。低い組換え頻度は、染色体上のマーカー間の短い距離に対応する。全ての組換え頻度を比較すると、染色体上の分子マーカーの最も論理的な順序が得られるであろう。この最も論理的な順序を、連鎖マップにおいて描写することができる(Paterson, 1996)。発病率の低減および/または病変増殖速度の低減に関連する連鎖マップにおける隣接または近接マーカー群は、QTLの位置を正確に示す。
【0081】
QTLの同定後、QTL効果(耐性)は、例えば試験中のQTLに関して分離するBC2S1後代におけるボトリチス耐性を評価することによって確認してもよい。ボトリチス耐性の評価は適切には、本明細書に記述の茎または葉のバイオアッセイを用いることによって行ってもよい。
【0082】
本発明の方法を用いることによって得ることができるトマトにおけるボトリチスに対する耐性に関するQTLは、本発明の一つの局面である。そのようなQTLの特徴は、植物に存在する場合、分生子または菌糸の形のような任意の形で提供されてもよいボトリチス材料の感染量に植物を接触させた場合に、それらが発病率の低減および/または病変増殖速度の低減の存在を示すことである。
【0083】
本発明はまた、ボトリチス耐性に関連する、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される、トマトにおけるボトリチスに対する耐性に関するQTLに関する。これらのQTLは、表1および表2において記載されるマーカー、ならびに図1、図5、および図6において示されるマーカーによってより明らかに定義される、または示される可能性がある。表1ならびに図1および6は、F2集団において見いだされたQTLがL.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.ヒルスータムLYC 4/78との交雑に由来することを示している。表2および図5は、F2集団において見いだされたQTLがL.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.パルビフロラムG1.1601との交雑に由来することを示している。双方の表において、QTLが存在するゲノム領域は、記載のAFLPマーカーによって示される。本発明のQTLは、トマト植物における(部分的)ボトリチス発病率またはボトリチス病変増殖速度の低減を付与することに関与するDNAの形で遺伝情報を含む。遺伝情報は、例えば遺伝子または調節要素を含んでもよい。
【0084】
(表1)L.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.ヒルスータムLYC 4/78との交雑の子孫において見いだされるQTLおよび関連する量的耐性情報

1 マーカーの命名:例えばP-GT M-CAT−412hについて、ここでPおよびMは共通のPstIおよびMseIプライマー配列またはユニバーサルプライマーであり(Vos et al., 1995;Bai et al., 2003)、この後に二桁の拡張コードによって示される2個または3個の余分の選択的塩基が続く。412は、得られた多型断片の塩基対におけるおおよその大きさ(所定の大きさ±2塩基対)である。大きさは通常、概数にされるが、小数で示してもよい。この断片をL.エスクレンタム栽培品種Moneymaker(e)またはL.ヒルスータムLYC 4/78(h)のいずれかにおいて増幅する。プライマーおよびアダプター配列はBai et al., 2003によって詳細に記述されている。
2 それによってAFLPプライマーの組み合わせが一般的に示されるコード。P、Mに関してはマーカーの命名を参照されたい。二桁の拡張コードは以下のとおりである:14:AT;15:CA;18:CT;22:GT;48:CAC;49:CAG;50:CAT;51:CCA;60:CTC;61:CTG。
3 aa、ホモ接合L.エスクレンタムマーカー;ab、ヘテロ接合マーカー;bb、ホモ接合野生型相対物L.ヒルスータムLYC 4/78マーカー。
4 発病率および病変の増殖は、実施例において詳細に説明される方法を用いて決定される。
5 CT128(表25を参照されたい)は、Tanksleyマップ(Tanksley et al., 1992)上の第2染色体の44 cMの位置に存在するマーカーである。
6 TG609(表20を参照されたい)は、S.リコペルシクム栽培品種VF36×S.ペンネリイLA716 F2集団に基づくトマト-EXPEN 1992複合マップ上の第4染色体の38 cMの位置に存在するRFLPマーカーである(Tanksley et al., 1992)。
【0085】
最も確実には、QTL-1hが存在するゲノム領域は、図6に示されるように、マーカーTG301(表11)とTG460.61(表12)のあいだに存在する。したがって、その領域内に存在する任意のマーカーを、コンセンサスマップトマト-EXPEN 1992(Tanksley et al, 1992)、トマト-EXHTR 1997(Bernacchi and Tanksley, 1997)、トマト-EXPEN 2000(Fulton et al, 2002)、またはトマト-EXPIMP 2001(Grandillo and Tanksley, 1996;Tanksley et al. 1996, Doganlar et al. 2002)からのような、公共に入手可能な情報に基づいてその領域に存在することが知られている任意のマーカー同様、植物のゲノムにおけるQTLの存在を評価するために用いることができる。最も好ましい領域は図6におけるバーによって示される。
【0086】
最も確実には、QTL-2hが存在するゲノム領域は、図6において示されるようにマーカーTG145(表15)とAt5g64670(表19)とのあいだに存在する。したがって、その領域に存在する任意のマーカーを、公共に入手可能な情報に基づいてその領域に存在することが公知である任意のマーカー同様、植物のゲノムにおけるQTLの存在を評価するために用いることができる。最も好ましい領域は図6におけるバーによって示される。
【0087】
最も確実には、QTL-4hが存在するゲノム領域は、図6において示されるようにマーカーTG609(表20)およびC2At1g74970(表24)のあいだに存在する。したがって、その領域内に存在する任意のマーカーを、公共の情報に基づいてその領域に存在することが公知である任意のマーカー同様、植物のゲノムにおけるQTLの存在を評価するために用いることができる。
【0088】
(表2)L.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.パルビフロラムG1.1601との交雑の子孫において見いだされたQTLおよび関連する量的耐性情報

1 マーカーの命名:例えばP-CA M-CAC−234pについて、ここでP、M、およびEは共通のPstI、EcoRI、およびMseIプライマー配列またはユニバーサルプライマーであり(Vos et al., 1995;Bai et al., 2003)、この後に示されるように余分の2個または3個の選択的塩基が続く。234は、得られた多型断片の塩基対におけるおおよその大きさ(所定の大きさ±2塩基対)である。この断片をL.エスクレンタム栽培品種Moneymaker(e)またはL.パルビフロラムG1.1601(p)のいずれかにおいて増幅する。プライマーおよびアダプター配列はBai et al., 2003によって詳細に記述される。
2 それによってAFLPプライマーの組み合わせが一般的に示されるコード。P、Mに関してはマーカーの命名を参照されたい。
3 aa、ホモ接合L.エスクレンタムマーカー;b-、一方の対立遺伝子は野生型相対物(本明細書においては、L.パルビフロラム)および他方の対立遺伝子はL.エスクレンタムまたは野生型相対物のいずれかとなりうる。
【0089】
最も確実には、QTL-3pが存在するゲノム領域は、マーカーP15M48-234、P18M50-167、TG599、P18M51-486、P22M50-151およびP14M60-65によって示される。
【0090】
最も確実には、QTL-4pが存在するゲノム領域は、マーカーP14M48-158およびP14M48-34xCD(表2におけるP14M48-349に等しい)によって示される。
【0091】
最も確実には、QTL-9pが存在するゲノム領域は、マーカーTGl0、P22M50-56、P14M48-56、P14M50-82、P14M50-204、P15M48-138(表2におけるP15M48-137に等しい)、P14M50-174(表2におけるP14M50-176に等しい)、P22M51-201、P15M48-54、TM2a、P22M51-165、P14M48-120、TG551、P15M48-15xCD (表2におけるP15M48-155に等しい)によって示される。
【0092】
本明細書において記述されたL.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.パルビフロラムG1.1601との交雑の子孫において見いだされたQTLに関する全てのマーカーは、公共に入手可能な情報に基づいてその領域に存在することが公知である任意のマーカーと同様、本発明の局面において用いることができる。
【0093】
好ましくは、本発明のQTLは、表1または表2の少なくとも一つのマーカー、または該QTLに関連する図1、図5もしくは図6において示される少なくとも一つのマーカーを含む。ボトリチス耐性の付与に関与するQTLの核酸配列は、本明細書において同定された完全なQTLの画分のみでありうるので、マーカーは単に、遺伝子領域の連鎖遺伝またはそのような遺伝子領域内で観察される組換えの非存在を示しているに過ぎない。したがって、表1および表2に記載したマーカーならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーは、本発明のQTLが明記されたリコペルシコン系統のゲノムに存在する染色体領域を示していること、およびそれらのマーカーが必ずしもそのQTLの境界または構造を定義しないことが示される。このように、本質的な耐性付与核酸配列を含むQTLの一部は、特定のQTLに関して記載された近接マーカーによって示される場合よりかなり小さい可能性がある。そのような部分は、本明細書においてQTLの「耐性付与部分」と呼ばれる。その結果、QTLの耐性付与部分は必ずしも先に記載した任意のマーカーを含む必要はない。同様に、そのようなマーカーが一般的に、QTLに遺伝的に連鎖している限り、様々なQTLを示すために他のマーカーを用いてもよく、当業者は本発明のQTLと類似のQTLを発見しうるまたは用いうるが、該QTLには、表1もしくは表2に記載の、または図1、図5、もしくは図6において示される一つまたは複数のマーカーは連鎖しない。
【0094】
トマトにおけるボトリチスに対する耐性に関するQTLのボトリチス耐性付与部分は、例えば、該QTLに連鎖している、表1もしくは表2に示される、または図1、図5、もしくは図6に示されるQTLに関するマーカーの一つまたは複数を用いる分子マーカー技術を、好ましくは耐性バイオアッセイと併用して、同定されうる。本発明のQTLのボトリチス耐性付与部分を含まないトマト植物は、ボトリチスによる感染に対して比較的感受性である。
【0095】
本発明によって提供されるマーカーは、非常に適切には、疑わしいボトリチス耐性トマト植物における本発明の一つまたは複数のQTLの存在を検出するために用いられてもよく、したがってボトリチス耐性トマト植物のマーカーアシスト育種および選択を伴う方法において用いてもよい。好ましくは、本発明のQTLの存在を検出する段階は、例えば、該QTLに連鎖している、表1もしくは表2に示される、または図1、図5、もしくは図6に示されるQTLに関するマーカーの少なくとも一つによって行われる。したがって、本発明は、もう一つの局面において、その存在が該マーカーを用いることによって検出される可能性がある、疑わしいボトリチス耐性トマト植物における該QTLの核酸配列の存在を検出する段階を含む、ボトリチス耐性に関するQTLの存在を検出するための方法に関する。
【0096】
本発明のQTLの核酸配列は、当業者に公知の方法によって決定してもよい。例えば、該QTLまたはその耐性付与部分を含む核酸配列は、該植物のゲノムを断片化する段階、および該QTLを示す一つまたは複数のマーカーを有するそれらの断片を単離する段階によって、ボトリチス耐性ドナー植物から単離されてもよい。その後、もしくはまたは、該植物から得られたゲノム核酸試料またはゲノム断片から該QTLを含む核酸配列を増幅するために、該QTLを示すマーカー配列(またはその一部)を(PCR)増幅プライマーとして用いてもよい。次に、単離されたQTLを得るために、増幅された配列を精製してもよい。QTLのヌクレオチド配列および/またはその中に含まれるさらなるマーカーのヌクレオチド配列を、標準的なシークエンシング法によって得てもよい。
【0097】
したがって、本発明は本発明のQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む単離核酸(好ましくはDNA)配列に関する。このように、本明細書に記述の様々なQTLを正確に示すマーカーを、ボトリチス耐性をコードするトマトから一つまたは複数の遺伝子を同定、単離、および精製するために用いてもよい。
【0098】
本発明のQTLのヌクレオチド配列は、例えば、該QTLに関連する一つまたは複数のマーカーのヌクレオチド配列を決定する段階、および該マーカー配列に関する内部プライマーを設計する段階によって解明されてもよく、次にこれを該マーカー配列の外側のQTLの配列をさらに決定するために用いてもよい。例えば、表1および表2からのAFLPマーカーのヌクレオチド配列は、本発明の植物のゲノムに該マーカーが存在するか否かを決定するために用いられる電気泳動ゲルからマーカーを単離する段階、および当技術分野で周知である例えばジデオキシチェーンターミネーション法によって、該マーカーのヌクレオチド配列を決定する段階によって得てもよい。
【0099】
疑わしいボトリチス耐性トマト植物におけるQTLの存在を検出するためのそのような方法の態様において、本方法はまた、該QTLに連鎖している、表1および表2に示される、ならびに図1、5、または6に示されるマーカーから選択される、該QTLに連鎖するマーカーの核酸配列と、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを提供する段階、該オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを、疑わしいボトリチス耐性トマト植物のゲノム核酸に接触させる段階、および該オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと該ゲノム核酸との特異的ハイブリダイゼーションの存在を決定する段階を含んでもよい。好ましくは、本方法は、疑わしいボトリチス耐性トマト植物から得た核酸試料について行われるが、インサイチューハイブリダイゼーション法も同様に用いてもよい。または、およびより好ましい態様において、当業者はQTLのヌクレオチド配列が決定された後、該QTLの核酸配列とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズすることができる特異的ハイブリダイゼーションプローブまたはオリゴヌクレオチドを設計してもよく、疑わしいボトリチス耐性トマト植物における本発明のQTLの存在を検出するための方法において、そのようなハイブリダイゼーションプローブを用いてもよい。
【0100】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という句は、プローブまたはポリヌクレオチドが、典型的に核酸の複雑な混合物においてその標的亜配列にハイブリダイズするが、本質的に他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、状況が異なれば異なるであろう。より長い配列は、より高温で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する詳細な指針は、Tijssen(Thijssen, 1993)において見いだされる。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度pHで特異的配列に関する熱融解点(Tm)より約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、標的と相補的であるプローブの50%が平衡時に標的配列とハイブリダイズする温度(定義されたイオン強度、pH、および核酸濃度で)である(標的配列は過剰量存在し、Tmでは平衡時にプローブの50%が占有される)。ストリンジェントな条件とは、pH 7.0〜8.3で塩濃度が約1.0 M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01〜1.0 Mナトリウムイオン濃度(または他の塩)であり、短いプローブ(例えば10〜50ヌクレオチド)に関して温度が少なくとも約30℃、長いプローブ(例えば、50ヌクレオチドより大きい)に関して少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような脱安定化剤を加えることによって得てもよい。選択的または特異的ハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍であり、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、以下であることが多い:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDSで42℃でインキュベート、または5×SSC、1%SDSで65℃でインキュベート、ならびに0.2×SSCおよび0.1%SDSで65℃で洗浄。PCRに関して、温度約36℃は、低ストリンジェンシー増幅に関して典型的であるが、アニーリング温度は、プライマーの長さに応じて約32℃〜48℃のあいだで変化してもよい。ハイブリダイゼーションパラメータを決定するためのさらなるガイドラインは、多数の参考文献において提供され、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, eds. Ausubel, et al. 1995を参照されたい。
【0101】
本明細書において用いられる「核酸」、「オリゴヌクレオチド」、もしくは「ポリヌクレオチド」またはその文法的同等物は、互いに共有結合した少なくとも二つのヌクレオチドを意味する。オリゴヌクレオチドは、典型的に長さが約7、8、9、10、12、15、18、20、25、30、40、50ヌクレオチド、または最大約100ヌクレオチドである。核酸およびポリヌクレオチドは、より長い、例えば200、300、500、1000、2000、3000、5000、7000、10,000等を含む任意の長さのポリマーである。本発明の核酸は一般的に、ホスホジエステル結合を含むが、場合によっては、例えばホスホロアミデート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、またはO-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein, 1991を参照されたい)ならびにペプチド核酸骨格および結合を含む代用骨格を有してもよい核酸類似体が含まれる。天然に存在する核酸および類似体の混合物を用いることができる。特に好ましいオリゴヌクレオチド類似体は、ペプチド核酸(PNA)である。
【0102】
トランスジェニック法によるボトリチス耐性トマト植物の産生
本発明のもう一つの局面に従って、本発明の少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸(好ましくはDNA)配列を、ボトリチス耐性トマト植物の産生のために用いてもよい。この局面において、本発明は、その使用がボトリチス感受性レシピエントトマト植物における該QTLを含む核酸配列の導入を伴う、ボトリチス耐性トマト植物を産生するために本発明のQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を用いることを提供する。先に述べたように、核酸配列は適したボトリチス耐性ドナートマト植物に由来してもよい。本明細書において先に記述したQTLの少なくとも一つ、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸配列を提供することができる二つの適したボトリチス耐性ドナートマト植物は、L.ヒルスータムLYC 4/78およびL.パルビフロラムG1.1601である。ボトリチスに対して耐性を示し、ボトリチス耐性をコードする一つまたは複数の遺伝子を含む他の関連するトマト植物も同様に、本発明がどのようにしてこの材料が同定されるかを記述することから、ボトリチス耐性ドナー植物として利用してもよい。リコペルシコン・セラシフォルム、リコペルシコン・チーズマニイ、リコペルシコン・キレンセ、リコペルシコン・クミリウスキイ、リコペルシコン・エスクレンタム、リコペルシコン・ヒルスータム、リコペルシコン・パルビフロラム、リコペルシコン・ペンネリイ、リコペルシコン・ペルビアナム、リコペルシコン・ピンピネリフォリウム、およびソラナム・リコペルシコイデスが含まれるがそれらに限定されるわけではないトマト種の他のアクセッションを、ボトリチス耐性に関して調べることができる。
【0103】
適したドナートマト植物において同定された後、本発明によるボトリチス耐性に関するQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸配列を、利用可能な任意の方法によって適したレシピエント植物に移入してもよい。例えば、該核酸配列は、ボトリチス耐性ドナートマト植物を感受性のあるレシピエントトマト植物と交雑することによって(すなわち、遺伝子移入によって)、形質転換によって、プロトプラスト融合によって、ダブルハプロイド技術によって、胚救出によって、または任意の他の核酸移入系によって移入した後に、任意でQTLを含み、ボトリチス耐性を示す子孫植物を選択する段階を行ってもよい。トランスジェニック移入法に関して、本発明によるボトリチス耐性に関するQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸配列を、当技術分野で公知の方法を用いてドナー植物から単離してもよく、このように単離された核酸配列を、トランスジェニック法によって、例えばベクターによって、配偶子において、または該核酸配列をコーティングしたバイオリスティック(biolistic)粒子のような任意の他の適した移入要素において、レシピエント植物に移入してもよい。
【0104】
植物の形質転換は一般的に、植物細胞において機能するであろう発現ベクターの構築を伴う。本発明において、そのようなベクターは、本発明のボトリチス耐性に関するQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸配列を含み、ベクターは、プロモーターのような調節要素の制御下である、または機能的に連結しているボトリチス耐性付与遺伝子を含んでもよい。発現ベクターは、組み合わせに含まれる遺伝子の少なくとも一つがボトリチス耐性をコードする限り、一つまたは複数のそのような機能的に連結した遺伝子/調節要素の組み合わせを含んでもよい。ベクターは、プラスミドの形であってもよく、アグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換系のような、当技術分野で公知の形質転換法を用いてボトリチスに対して耐性であるトランスジェニック植物を提供するために、単独で、または他のプラスミドと併用して用いることができる。
【0105】
発現ベクターには、マーカーを含む形質転換細胞を負の選択(選択的マーカー遺伝子を含まない細胞の増殖を阻害することによって)によって、または正の選択(マーカー遺伝子によってコードされる産物に関するスクリーニングによって)によって回収することができる調節要素(プロモーター)に機能的に連結した少なくとも一つのマーカー遺伝子が含まれうる。植物の形質転換に関する多くの一般的に用いられる選択的マーカー遺伝子が当技術分野で公知であり、これには例えば抗生物質もしくは除草剤であってもよい選択的化学物質を代謝的に解毒化する酵素をコードする遺伝子、または阻害剤に対して非感受性である変化した標的をコードする遺伝子が含まれる。マンノース選択のような、いくつかの正の選択法が当技術分野で公知である。または、マーカーを用いない形質転換を用いて、上記のマーカー遺伝子を有しない植物を得ることができ、この技術は当技術分野において公知である。
【0106】
植物に発現ベクターを導入するための一つの方法は、アグロバクテリウムの天然の形質転換系に基づく(例えば、Horsch et al., 1985を参照されたい)。A.ツメファシエンス(A. tumefaciens)およびA.リゾゲネス(A. rhizogenes)は、植物細胞を遺伝的に形質転換する植物病原性土壌細菌である。A.ツメファシエンスおよびA.リゾゲネスのTiおよびRiプラスミドはそれぞれ、植物の遺伝子形質転換に関与する遺伝子を有する(例えば、Kado, 1991を参照されたい)。植物組織に発現ベクターを導入する方法には、アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる植物細胞の直接感染または同時培養が含まれる(Horsch et al., 1985)。アグロバクテリウムベクター系の記述およびアグロバクテリウム媒介遺伝子移入法は、Gruber and Crosby, 1993およびMoloney et al., 1989によって提供された。同様に米国特許第5,591,616号を参照されたい。植物発現ベクター、レポーター遺伝子および形質転換プロトコールに関する全般的記述、ならびにアグロバクテリウムベクター系およびアグロバクテリウム媒介遺伝子移入法に関する記述は、Gruber and Crosby, 1993において見いだされうる。植物組織を培養する全般的方法は、例えば、Miki et al., 1993およびPhillips, et al., 1988によって提供される。分子クローニング技術および適した発現ベクターに関する適切な参考書は、Sambrook and Russell(2001)である。
【0107】
発現ベクターを植物に導入するもう一つの方法は、DNAが微粒子(microprojectile)の表面で運ばれる微粒子媒介形質転換に基づく。発現ベクターは、微粒子を、植物細胞壁および膜を貫通するために十分である速度300〜600 m/sまで加速するバイオリスティック装置によって導入される(Sanford et al., 1987, 1993;Sanford, 1988, 1990;Klein et al., 1988, 1992を参照されたい)。DNAを植物に導入するためのもう一つの方法は、標的細胞の超音波による(Zhang et al., 1991を参照されたい)。または、リポソームもしくはスフェロプラスト融合は、発現ベクターを植物に導入するために用いられている(例えば、Deshayes et al., 1985 and Christou et al., 1987を参照されたい)。CaCl2沈殿、ポリビニルアルコール、またはポリ-L-オルニチンを用いる、プロトプラストへのDNAを植物の直接取り込みも同様に報告されている(例えば、Hain et al., 1985およびDraper et al., 1982を参照されたい)。プロトプラストならびに細胞および組織全体の電気穿孔も同様に記述されている(D'Halluin et al., 1992およびLaursen et al., 1994)。
【0108】
トマト標的組織の形質転換後、上記の選択マーカー遺伝子の発現によって、当技術分野で現在周知の再生および選択法を用いて形質転換細胞、組織、および/または植物の選択的選択が可能となる。表1または表2のマーカーも同様にその目的のために用いてもよい。
【0109】
非トランスジェニック法によるボトリチス耐性トマト植物の産生
ボトリチス耐性トマト植物を産生するためのもう一つの態様において、ドナー植物からレシピエント植物に核酸を移入するために、プロトプラスト融合を用いることができる。プロトプラスト融合は、体細胞ハイブリダイゼーションのような、二つまたはそれより多いプロトプラスト(その細胞壁が酵素処理によって除去されている)間の誘導または自然発生合体であり、一つの二核細胞または多核細胞を生じる。天然において品種間交雑することができない植物種についても得られる可能性がある融合された細胞は、望ましい形質の組み合わせを示すハイブリッド植物へと組織培養される。より具体的には、第一のプロトプラストを、ボトリチスによる感染症に対して耐性を示すトマト植物または他の植物系統から得ることができる。例えば、L.ヒルスータムLYC 4/78からのプロトプラストを用いることができる。第二のプロトプラストは、第二のトマトまたは他の植物品種から、好ましくは耐病性、害虫耐性、貴重な果実特徴等のような、しかしこれらに限定されない商業的に望ましい特徴を含むトマト系統から得ることができる。次に、当技術分野で公知である従来のプロトプラスト融合技法を用いて、プロトプラストを融合させる。
【0110】
または、ドナー植物由来の本発明の一つまたは複数のQTLを含む核酸のレシピエント植物への移入に胚救出を用いてもよい。胚救出は、植物が生存種子を産生できない交雑から胚を単離するための技法として用いることができる。このプロセスでは、植物の受精した子房または未成熟種子を組織培養して、新しい植物が作製される(Pierik, 1999)。
【0111】
本発明はまた、先に記述した本発明によるドナートマト植物においてB.シネレアに対する耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)の存在を検出するための方法を行う段階、該ドナー植物からこのように検出された少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸配列をボトリチス感受性レシピエントトマト植物に移入する段階を含む、ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法に関する。該核酸配列の移入は、本明細書において先に記述した任意の方法によって行ってもよい。
【0112】
そのような方法の好ましい態様は、該植物を交雑させることによって、ボトリチス耐性ドナートマト植物由来の核酸配列を、ボトリチス感受性レシピエントトマト植物に遺伝子移入することによる移入を含む。このように、この移入は適切には従来の育種技術を用いることによって行われてもよい。QTLは好ましくは、マーカーアシスト育種(MAS)を用いることによって商業的トマト品種に遺伝子移入される。マーカーアシスト育種またはマーカーアシスト選択は、所望の形質をコードする遺伝子の一つまたは複数を含む子孫植物を同定および選択するために、分子マーカーの一つまたは複数を用いることを伴う。本発明において、そのような同定および選択は、本発明のQTLまたはそれに関連するマーカーの選択に基づく。MASはまた、関心対象のQTLを有するほぼ同質遺伝子系統(NIL)を作製するために用いることができ、各QTL効果に関するより詳細な研究を可能にして、同様に戻し交雑近交系(BIL)集団を作製するための有効な方法である(例えば、Nesbitt et al., 2001;van Berloo et al., 2001を参照されたい)。この好ましい態様に従って作製されたトマト植物は、レシピエント植物由来のその形質の大部分を都合よく得て、ドナー植物からボトリチス耐性を得ることができる。
【0113】
B.シネレアに対する耐性が多遺伝子的に遺伝されることが見いだされたことから、少なくとも二つ、好ましくは三つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分が、適した移入法によって一つのレシピエント植物に挿入されること、すなわち多数のQTLがレシピエント植物ゲノムにおいて積み重なることが好ましい。本発明のQTLの二つまたはそれ以上が積み重なることによって、ボトリチスに対する耐性の増加が得られる可能性があると考えられる。当業者は容易に理解すると考えられるように、積み重ねは、任意の方法、例えば本発明の多数のQTLを含む核酸構築物によって植物を形質転換することによって行ってもよい。または、得られたハイブリッドに少なくとも二つのQTLが含まれるように、少なくとも一つのQTLが交雑のそれぞれの親植物に存在してもよい。これらの耐性形質を積み重ねることによって、非常に耐性の植物が得られる可能性がある。そのような植物は、本発明の非常に好ましい態様である。
【0114】
先に簡単に考察したように、従来の育種技術は、ボトリチス耐性をコードする核酸配列を、ボトリチス感受性のレシピエントトマト植物に遺伝子移入するために用いることができる。系統育種と呼ばれる一つの方法において、ボトリチスに対して耐性を示し、ボトリチス耐性をコードする核酸配列を含むドナートマト植物を、好ましくは耐病性、害虫耐性、貴重な果実特徴等のような、しかしこれらに限定されない商業的に望ましい特徴を示すボトリチス感受性のレシピエントトマト植物と交雑させる。得られた植物集団(F1ハイブリッドを表す)を自家受粉させて、種子(F2種子)をつけさせる。F2種子から生長したF2植物をボトリチスに対する耐性に関してスクリーニングする。集団を多数の異なる方法でスクリーニングすることができる。
【0115】
第一に、集団を従来の病気のスクリーニングを用いてスクリーニングすることができる。そのような病気のスクリーニングは当技術分野で公知である。好ましくは、量的な茎または葉の感染バイオアッセイを用い、好ましくは本明細書においてこれまでに、および実施例においてより詳細に概要される本発明の方法において用いられる茎のバイオアッセイを用いる。第二に、ボトリチス耐性をコードする核酸配列を含む後代を同定するために本明細書において既に記述された分子マーカーの一つまたは複数を用いて、マーカーアシスト選択を行うことができる。QTLの存在を検出するための方法によって本発明において先に言及された他の方法を用いてもよい。同様に、マーカーアシスト選択を用いて量的バイオアッセイから得られた結果を確認することができ、したがっていくつかの方法を組み合わせて用いてもよい。
【0116】
ボトリチス耐性トマト植物および種子
本発明のボトリチス耐性トマト植物は、高レベルの耐性を有することを特徴とする。これは、感受性がある対照植物に関して観察されたレベルより高い耐性レベルであると定義される。実際に、本発明の植物は、任意の商業的トマト品種、すなわち今日まで知られている商業的に望ましい特徴を有する品種より高い耐性レベルを有する。本発明の植物は、バイオアッセイによって測定した場合に、感受性がある対照植物より少なくとも3倍低いボトリチス・シネレアに対する感受性を有する。例えば、成体植物におけるボトリチス・シネレア感染に起因する平均茎病変長が、実施例3.10および3.11においてより詳細に記述されるような標準的な実践条件で3週間のあいだ測定されるバイオアッセイによって測定した場合。典型的に、本発明の植物は、そのような特徴に基づいて耐性を決定するように設計された耐性バイオアッセイにおける標準的な実践条件を用いて、接種後3週間で成体植物においてボトリチス・シネレア病変の平均茎病変長が3.2 cm未満である耐性レベルを有する。より典型的に、本発明の植物は、2.9 cm未満の平均茎病変長を示す。本発明の植物の中には、平均茎病変長2.0 cmを示すものさえある。その数が初回接種創傷の2 cmを含む病変長を表すことを考慮すると、高レベルの耐性、およびいくつかのQTLの場合では十分な耐性が本発明の植物において観察されると推論されうる。比較すると、感受性対照植物は、同じ条件で約3.6 cm〜約6.0 cmの平均茎病変長を示し、平均値は4.85 cm(表10を参照されたい)である。同様に比較として、L.ヒルスータムLA 1777、国際公開公報第02/085105号の部分的ボトリチス耐性起源を含むQTL-10は、同じ条件で約4.3 cmの平均茎病変長を示す。要約すると、本発明の植物は、一般的に、上記参照耐性バイオアッセイにおいて、感受性対照植物の真の長さの約30%(0.9/2.85×100%)未満である、および一般的に部分的耐性L.ヒルスータムLA 1777の真の長さの約40%(0.9/2.3×100%)未満である真の茎病変を示す。
【0117】
このように、本発明の植物は、バイオアッセイによって測定した場合に、感受性対照植物より3倍低い、または感受性対照植物レベルの1/3未満であるボトリチス・シネレアに対する感受性を有する。相互に、本発明の植物は、本明細書において定義されるように、および記述のバイオアッセイによって決定されるように、感受性対照植物より3倍より高い耐性である。いくつかのQTLまたはQTLの組み合わせ(例えば、QTL-1hおよびQTL-3p+QTL-4pまたはQTP-9p+QTL-4pの組み合わせ)によって、完全な耐性が観察される(表10を参照されたい)。感受性対照植物は、ボトリチス・シネレア感染に対して正常な感受性を示す、または耐性を示さない植物であると定義される。感受性対照植物の例は、ハイブリッドのリコペルシコン・エスクレンタム栽培品種「Tradiro」およびリコペルシコン・エスクレンタム栽培品種「Moneyberg」(De Ruiter Seeds CV, Bergschenhoek, The Netherlands)である。
【0118】
本発明の方法によって得ることができるボトリチス耐性トマト植物、またはその一部も同様に、本発明の一つの局面である。
【0119】
本発明のもう一つの局面は、ボトリチス耐性に関連する、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される、そのゲノムに少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含み、該QTLまたはそのボトリチス耐性付与部分がその天然の遺伝的バックグラウンドに存在しない、ボトリチス耐性トマト植物またはその一部に関する。本発明のボトリチス耐性トマト植物は、近交系、ハイブリッド、半数体、倍数性半数体、単為結実、またはトランスジェニックのような任意の遺伝子型となりうる。さらに、本発明の植物は、耐性形質に関してヘテロ接合またはホモ接合であってもよく、好ましくはホモ接合である。本発明のQTLおよび本発明の方法によって得ることができるQTL、ならびにそのボトリチス耐性付与部分は、ボトリチス耐性植物を提供するために任意の植物に移入されてもよいが、本発明の方法および植物は、好ましくはナス(Solanaceae)科の植物、より好ましくはトマトに関する。
【0120】
反復選択および戻し交雑技術、自家受粉および/または倍数性半数体、または親系統を作製するために用いられる任意の他の技術を用いて、近交系ボトリチス耐性トマト植物系統を作製することができる。選択および戻し交雑法において、反復親を第一のドナー植物(反復親とは異なり、本明細書において「非反復親」と呼ばれる)と交雑させることによって、ボトリチス耐性を標的レシピエント植物(反復親と呼ばれる)に遺伝子移入することができる。反復親は、ボトリチスに対して非耐性であるかまたは低レベルの耐性を有し、耐病性、害虫耐性、貴重な果実特徴等のような、しかしこれらに限定されない商業的に望ましい特徴を保有する植物である。非反復親は、ボトリチス耐性を示し、ボトリチス耐性をコードする核酸配列を含む。非反復親は、反復親と他家受精される任意の植物品種または近交系となりうる。反復親と非反復親との交雑に起因する後代を反復親と戻し交雑する。次に、得られた植物集団をスクリーニングする。集団を多数の異なる方法でスクリーニングすることができる。例えば、集団は、本明細書において既に記述された茎の量的バイオアッセイを用いてスクリーニングすることができる。次に、ボトリチス耐性表現型を示し、ボトリチス耐性をコードする必須の核酸配列を含み、商業的に望ましい特徴を保有するF1ハイブリッド植物を選択して自家受粉させて、トマト植物をますます近交系にするために多数の世代にわたって選択する。連続的自家受粉および選択のこのプロセスは、2〜5世代、またはそれより多い世代に関して行うことができる。そのような育種および選択の結果は、ボトリチス耐性に関連する遺伝子と共に商業的に重要である形質に関連する他の遺伝子に関して遺伝的にホモ接合である系統の産生である。バイオアッセイの表現型病理スクリーニングを用いる代わりに、ボトリチス耐性をコードする核酸配列を含む後代を同定するために、本明細書において先に記述した分子マーカー、ハイブリダイゼーションプローブ、またはポリヌクレオチドの一つまたは複数を用いて、MASを行うことができる。または、MASを用いて、量的バイオアッセイから得られた結果を確認することができる。適当な選択を行った後、プロセスを繰り返す。反復親との戻し交雑およびボトリチス耐性に関して選択するプロセスを、5代またはそれより多い世代に関して繰り返す。このプロセスによって得られた後代はボトリチス耐性をコードする一つまたは複数の遺伝子に関してヘテロ接合である。次に、ボトリチス耐性に関してホモ接合の純粋な育種後代を提供するために、最後の戻し交雑世代を自家受粉させる。
【0121】
本明細書において記述されるボトリチス耐性近交系トマト系統は、ボトリチス耐性ハイブリッド植物を作製するためにさらなる交雑において用いることができる。例えば、本発明の最初のボトリチス耐性近交系トマト植物を、耐病性、害虫耐性、望ましい果実特徴等のような、しかしこれらに限定されない商業的に望ましい形質を保有する第二の近交系トマト植物と交雑させることができる。この第二の近交系トマト系統はボトリチス耐性であってもなくてもよい。
【0122】
本発明のもう一つの局面は、ボトリチス耐性トマト植物に生長させることができる種子を産生する方法に関する。一つの態様において、本方法は、本発明のボトリチス耐性トマト植物を提供する段階、該ボトリチス耐性植物をリコペルシコン・エスクレンタム植物と交雑させる段階、および該交雑から得られた種子を採取する段階を含み、これを播種すると、ボトリチス耐性トマト植物が産生される。
【0123】
もう一つの態様において、本方法は、本発明のボトリチス耐性トマト植物を提供する段階、該ボトリチス耐性植物をリコペルシコン・エスクレンタム植物と交雑させる段階、該交雑から得られた種子を採取する段階、該種子を植物に再生させる段階、本明細書に記述の任意の方法によってボトリチス耐性植物を選択する段階、植物におけるボトリチス耐性を付与する対立遺伝子に関して固定された植物を得るために、選択された植物を十分な世代自家受粉させる段階、このようにして産生された植物を、所望の表現型形質を有するL.エスクレンタム植物と十分な世代戻し交雑して、ボトリチス耐性であって、所望の表現型形質を有するL.エスクレンタム植物を得る段階、および最後の戻し交雑から得られた植物から産生された種子を採取して、これを播種し、ボトリチス耐性であるトマト植物を産生する段階を含む。
【0124】
制限するためではなく例示のために、本発明の実施例を以下に示す。
【0125】
実施例
実施例1.ボトリチス・シネレアに対して耐性である植物を同定する方法
1.1. 緒言
本実施例は、野生型トマト遺伝子型のコレクションのボトリチス・シネレアに対する耐性を評価するための量的バイオアッセイの開発を紹介する。
【0126】
ボトリチス・シネレアに対する部分的耐性は、野生型リコペルシコン植物において報告されているが、これらの報告は、ほとんどが説明的であって定性的であった。部分的耐性遺伝子型の同定は、管理可能な耐性レベルを有する系統を得るために商業的育種系統に耐性を遺伝子移入するための見通しを提供するであろう。再現可能で、客観的な量的アッセイを利用できることと共に、遺伝的に決定された(部分的)灰色カビ耐性を有する遺伝子型の同定は、栽培トマト品種における耐性育種の道を開く。
【0127】
本実施例は、量的な病気のアッセイを記述する。アッセイは、葉(葉接種アッセイ)および茎の分節(茎接種アッセイ)に適用される。病気の感受性に関する二つのパラメータを調べた。第一のパラメータは、発病率(DI)、すなわち拡大しつつある病変が得られる接種小滴の割合であった。最初のB.シネレア病変が特定の宿主遺伝子型において拡大することが(部分的に)できないことが植物の遺伝的形質である場合、そのような形質は、それが作物における病巣数を直接制限することから重要である。試験した第二のパラメータは、24時間での病変増殖速度であった(病変増殖、LG)。最初の接種スポットから拡大した病変は、病変が葉の先端または茎分節の下端に達するまで、均一な速度(mm/日)で経時的に広がるように思われた。本発明のアッセイは、B.シネレア感染の発生(発病率)および発達(病変増殖)の双方を定量することができ、それによって二組の量的形質データが得られる。アッセイを用いて、リコペルシコン種のコレクション(本明細書において以降「アクセッション」と呼ぶ)をその耐性の存在に関してスクリーニングした。
【0128】
1.2. 植物
試験した植物の遺伝子型を表3に記載する。
【0129】
(表3)調べたリコペルシコンの遺伝子型の一覧

1 DRS:De Ruiter Seeds, Bergschenhoek, The Netherlands;WU PPW:Plantkundig Proefcentrum Wageningen, Wageningen University, Wageningen, The Netherlands;LoPB:Laboratory of Plant Breeding, Wageningen University, Wageningen, The Netherlands;MPIZK:Max Planck Institut fur Zuchtungsforschung an Kulturpflanze, Koln, Germany;TGRC:Tomato Genetics Resource Center, University of California at Davis, Davis CA, USA;IPK:Institut fur Pflanzengenetik und Kulturpflanzenforschung, Gatersleben, Germany。
2 Yは遺伝子型を特定のアッセイにおいて調べたことを示し、Sは、感受性参照対照として役立つ遺伝子型を示す。
(3) B.シネレアに対して耐性であると既に公表されている。
【0130】
植物を、最低温度15℃の温室において12 cmポットにおいてポット用土において生長させた。人工的なナトリウム灯火を10月から3月まで適用した(16時間/日)。発芽後5〜7日目に、FeNaEDTA(3.5 g/l)10 mlを加えて、3日後に微量栄養液(0.286 g/l H3BO3;0.1558 g/l MnSO4-H2O;0.008 g/l CuO4・H2O;0.022 g/l ZnSO4;0.00196 (NH4)6Mo7O24・4H2O)10 mlを加えた。発芽後2週間目から、Hoagland溶液(5 mM Ca(NO3)2;5 mM KNO3;2 mM MgSO4;1 mM KH2PO4)5 mlを毎週加えた。
【0131】
1.3.葉のアッセイ
B.シネレア株B05.10の接種物を、Benito(1998)に従って調製した。それぞれの個々の植物に関して、十分に枝を出した一つまたは複数の複合葉を主茎から鋭利なカミソリの刃で切り離し、予め湿らせた草花栽培フォームに移した。草花栽培フォームを、水道水を含むペトリ皿に入れて、湿らせた濾紙を含むスプレーによって湿らせた容器に入れた。次に、全体で接種物(2μl)6〜10滴をピペットによって葉の上表面に注意深く滴下することによって、複合葉にB.シネレアの分生子浮遊液を接種した。容器をスプレーによって湿らせた蓋によって閉じて100%RHの15℃の暗所で、本質的にBenito et al., 1998によって記述されるとおりにインキュベートした。表4のデータは、一つの複合葉を四つの小葉に分けて、それぞれの小葉に分生子2000個を含む各2μlの10滴を接種した試験に由来した。強く拡大する病変の割合(発病率)および病変増殖速度の双方を数日間モニターした。
【0132】
季節または植物の栽培によって引き起こされる変動を補正するために、各実験において特定の遺伝子型の発病率を、その同じ実験において試験したMoneymakerの発病率と相関させた。
【0133】
病変の大きさは、キャリパーを用いて96、120、および144 hpiで測定した。発病率は、拡大しつつある病変の総数を、接種した小滴の総数によって除することによって決定した。病変増殖速度は、24時間での病変の大きさの増加(mm)を計算することによって決定した。非拡大病変に関するデータは量的分析から除外した。葉のアッセイの結果を表4に紹介する。
【0134】
(表4)B.シネレアを接種したリコペルシコンアクセッションの葉における発病率(DI(%))および病変増殖速度(LG(mm/日±標準偏差))。実験は、示されるように、1999年および2000年の異なる週に実施した。

【0135】
1.4. 茎のアッセイ(標準化技法)
茎のアッセイは以下のように実施した:高さ約50 cmの植物の茎の上部5〜10 cmおよび下部5〜10 cmを除去して、残りの30 cmを5〜6 cmの等しい分節に切断した。それぞれの茎の分節を、茎の基部を湿らせた濾紙の上に載せて格子の上で直立に立てておく。接種の前に、創傷表面全体に接種物が確実に等しく散布されるように、茎の分節に水道水を噴霧する。接種物は葉のアッセイに関して記述したとおりに調製した。分生子約106個ml-1を含む約5μlの1滴をそれぞれの茎分節の上部に適用した。次に、茎分節を温度約15±2℃で、相対湿度100%の暗所でインキュベートする。感染の進行は、Vernierキャリパーによって接種後の様々な時間間隔で腐敗症状の最大進行を測定することによって量的に決定した。
【0136】
それぞれの遺伝子型に関して、感染した茎片の百分率を計算した。発病率は、拡大しつつある病変を有する茎分節の総数を、接種した分節の総数で除することによって決定した。病変増殖速度は、24時間での病変の大きさの増加を計算することによって決定し、それによって非拡大病変のデータを分析から除外した。茎アッセイの結果を表5に紹介する。
【0137】
(表5)B.シネレアを接種したリコペルシコンアクセッションの茎分節における発病率(DI(%))および病変増殖速度(LG(mm/日±標準偏差))。実験は、示されるように、1999年および2000年の異なる週に実施した。

【0138】
1.5. 結果
切り落とされた葉の感染実験における発病率および病変増殖速度を、各遺伝子型に関して、通常感染後2〜4日から数日間決定した。参照として役立つL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerの発病率は、これらの実験において15%〜78%のあいだで変動した。表4は、少なくとも5個体の個々の植物を起源とする切り離した複合葉に、葉あたり接種スポット40個(小葉あたり10個)を接種した14の遺伝子型の結果を示す。これらの14の遺伝子型における発病率を、同じ実験/週において決定した対照系統L.エスクレンタム栽培品種Moneymakerにおける発病率と比較しなければならない。
【0139】
遺伝子型82/2577および83/2896(いずれも種L.エスクレンタム)を除き、試験した遺伝子型は、全ての実験において、Moneymakerより低い発病率を示した。遺伝子型G1.1556、G1.1560、およびG1.1601は、これらの独立した実験において、0〜21%の範囲のより低い発病率を示した。統計分析から、遺伝子型78/1604、91/4311、96/4326、G1.1556、GI 1558、G1.1560、Gl.1601、LA716およびLYC 4/78における発病率が、対照系統のL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerより有意に低いことが示された(p<0.05)。しかし、週による変動が大きく、週/実験のあいだでの発病率の変動のために、切り離した葉のアッセイにおいて観察された差のいくつかは実際にはそれほど強くない可能性がある。
【0140】
これらの耐性の遺伝子型(発病率はMoneymaker参照の場合より有意に低い)において、拡大に成功した病変はしばしば、Moneymaker(例えば、96/4326、G1.1560、LA716)と類似の割合で発生した。逆の状況は見いだされなかった:いずれの遺伝子型も、Moneymakerと類似の発病率を示したが、病変増殖速度はMoneymakerより遅かった。
【0141】
表4は、24時間(48〜72 hpiのあいだ)のあいだにそれぞれの遺伝子型に関して拡大しつつある病変の平均生長速度に関するデータを表す。ほとんどの遺伝子型における病変増殖速度は、Moneymakerと同じ範囲内であった。5種のアクセッション(91/4311、160/79、Gl.1556、Gl.1601およびLYC 4/78)は、より遅い病変増殖速度を示したが、これはL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerと統計学的に有意差を示した。
【0142】
茎分節の感染アッセイ(表5)は、異なる季節に行われた実験間の再現性に関して、葉のアッセイより強いように思われた。茎分節によるデータポイント数(分節5〜8個/植物)は、葉のアッセイのデータポイント数(接種物小滴40個/複合葉、植物あたり葉1または2枚を試験することができる)よりかなり少ないが、実験間の変動は一般的に茎分節アッセイではより低かった。対照遺伝子型L.エスクレンタム栽培品種Moneymakerに関する茎アッセイにおける発病率は、52〜95%の範囲であった。17の遺伝子型(表5)における発病率を、同じ実験/週において決定した対照系統L.エスクレンタム栽培品種Moneymakerの発病率と比較しなければならない。ほとんどの遺伝子型は、対照系統Moneymakerと類似の範囲の発病率を示した。遺伝子型G1.1556(29%および41%)およびG1.1560(28%および7%)は、発病率の低減を示した。G1.1560のみが対照に対して統計学的有意差を示した(p<0.05)。
【0143】
対照遺伝子型L.エスクレンタム栽培品種Moneymakerに関する茎アッセイにおける病変増殖速度(表5)は、5.4〜9.2 mm/日の範囲であった。多くの遺伝子型の病変増殖速度は、対照と類似の範囲内であった。しかし、アクセッション89/3793、G1.1601、LYC 4/78、T566-81では、病変増殖速度は対照栽培品種Moneymakerと統計学的に有意差を示した(p<0.01)。
【0144】
茎分節アッセイにおいて部分的耐性であると採点された多くの遺伝子型において、温室においてRockwool(登録商標)において生長させた植物全体に関して量的アッセイを行った。目的は、実験室条件で茎分節において実際に耐性であるように思われた遺伝子型が、半商業的作物生産系において対照系統より耐性であるか否かを評価することであった。植物をRockwool(登録商標)の列において無作為に生長させて、温室の区画を胞子形成時のB.シネレアによって強く感染した柑橘系果実で満たした。床に1日2回水道水を噴霧して、ドアおよび窓を閉めたままにすることによって、温室の区画を高湿度に維持した。定期的に全ての植物に関して枝を払ったあとの傷をつけて、灰色カビの発生を経時的にモニターした。
【0145】
双方のパラメータの重度の低減を示す多数の野生型リコペルシコンアクセッションが同定され、このようにL.エスクレンタムに対して部分的耐性に関する可能性がある独立した二つのメカニズムを遺伝子移入するための可能性がある起源が提供された。
【0146】
実施例2.種間リコペルシコン交雑(L.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×リコペルシコン・パルビフロラムG1.1601)におけるボトリチス・シネレアに対する耐性に関するQTLマッピング
2.1. 緒言
多様な起源のリコペルシコンアクセッションの組を、実施例1において記述されるように真菌病原体ボトリチス・シネレアに対する耐性に関してスクリーニングした。アクセッションリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601は、葉のアッセイにおいてより低い発病率および同様により遅い病変増殖を示した(上記の表4および5を参照されたい)。L.パルビフロラムG.1601とL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerとの交雑を起源とする130のF2由来F3集団からなる分離集団を、茎のアッセイにおいてB.シネレアに対する耐性に関して評価した。
【0147】
増幅断片長多型マーカーを用いて連鎖マップを構築して、量的形質遺伝子座分析を行った。発病率および病変の増殖の双方に関するQTLを検出した。
【0148】
2.2. 植物材料
耐性のアクセッションを同定した後、創始親としてこのアクセッションを有する分離集団であるリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601(Huang, 2001)をさらなる分析に用いた。分離集団は、130のF2由来F3集団からなった。
【0149】
2.3. 病気の評価
130のF3集団のそれぞれから、実生5個を生長させて、実施例1(1.4を参照されたい)に記述されるように茎のアッセイに供した。実践的な理由から、完全な組の測定を等しい大きさの13個の部分に分けた(無作為に)。毎週、植物50個体からなる一つの部分を測定した。感受性のあるMoneymaker対照植物の大きい組を用いて、週毎の環境的な差を補正した。実践的な理由から、L.パルビフロラムG1.1601は、実験に含めなかった。測定は、実施例1において記述されるように行った。
【0150】
感染の進行は、接種後二つの時点で記録した(感染後96および120時間)。このようにして、最終観察時に病気の症状を示した、接種した茎の一部の百分率として定義される発病率、および24時間の期間でのトマトの茎における平均病変発生速度として定義される病変の増殖の双方を、実施例1において記述されるように決定した。
【0151】
測定分布を図4に示す。分布は正常な量的形質特徴を示唆し、したがってQTLマッピングアプローチにとって適している。
【0152】
2.4. 分子マーカー
F2葉の材料は利用できなかった;したがって、130のF2由来植物のそれぞれに由来するF3植物12個体の葉をプールしてDNA単離のために用いた。AFLP決定は、Pst/Mseプライマーの組み合わせ10組を用いてVos et al.(1995)に従って実施した。
【0153】
2.5. 連鎖分析およびQTLマッピング
AFLPマーカーの優性的性質のために、父(L.パルビフロラム)および母(L.エスクレンタム)連鎖群を個別に計算した。
【0154】
マーカーデータを分析して、遺伝連鎖マップをJoinMap(登録商標)ソフトウェアパッケージ(バージョン3.0;Plant Research International, Wageningen, The Netherlands)を用いて計算した。様々な対数尤度(LOD)閾値で連鎖群を形成した。Kosambi関数(Kosambi, 1944)を用いて組換え分画をマップ距離に変換した。プログラムMapChart(Plant Research International)を用いて、JoinMap(登録商標)からの出力を連鎖マップおよびQTLプロットのグラフの形に変換した。表現型データを分析して、MapQTL(登録商標)(バージョン4.0;Kyazma B.V., Wageningen, The Netherlands)を用いてインターバルマッピング(IM)および多数のQTLマッピング(MQM)によって(Jansen, 1993, 1994)QTLを計算した。F2集団に関して計算された表現型データは、F3系統内の全ての植物の病気のアッセイの平均値から得た。逆正弦変換を用いて、発病率データを標準化した。QTLは、インターバルマッピングアルゴリズムを用いて計算した。
【0155】
F3集団130個体のそれぞれに関して、MapQTL(登録商標)を用いてマーカーと病気データとの複合データをQTL分析に供した。インターバルマッピングの初回ラウンドを行って、LODプロフィールにおけるピークを同定した。一つまたは他の親を起源とするマーカーは全て、独立した連鎖マップを計算するために直接用いられた。全体で192個のAFLPマーカーが、父および母側の連鎖マップ上に配置された。雄性および雌性連鎖マップを、QTLマッピングのために個々に用いた。QTL 3個が決定された(表6を参照されたい)。
【0156】
(表6)非統合マップに基づくQTLマッピング結果の要約

aaは、完全な染色体領域に関してホモ接合L.エスクレンタムである。b-は、QTL領域に関してヘテロ接合またはホモ接合のL.パルビフロラムである。
【0157】
ヘテロ接合またはホモ接合のL.パルビフロラム(b-)の三つ全てのQTL領域を有する植物11個体の平均ボトリチス耐性は、発病率40%および病変増殖5.0 mm/日を表した。植物一つのみが、三つ全てのQTL領域に関するホモ接合L.エスクレンタムであり、発病率72%および病変増殖7.2 mm/日を有した。植物5個体は、QTL 3個中2個に関してホモ接合L.エスクレンタムであり、その平均発病率は67%で病変増殖は5.8 mmであった(データは示していない)。
【0158】
本実施例は、L.パルビフロラムG1.1601のような遺伝子源を用いて、トマトにおけるB.シネレアに対する耐性を増加させることができることを示している。発病率と共に病変増殖の双方に関するいくつかのQTLを同定することができた(表6)。これらのQTLは、戻し交雑系統のようなより進行した育種材料において確認される可能性がある。
【0159】
表7は、L.エスクレンタム栽培品種MoneymakerとL.パルビフロラムG1.1601の交雑から得られた様々なF3系統の耐病性試験の実験結果を示す。この実験において用いられたBChirs5参照系統は、列挙されたL.パルビフロラム(L. parv)系統より高レベルの耐性を示すことが明らかに示される。しかし、QTL効果の存在はまた、パルビフロラムQTLに関しても確立することができた。
【0160】
(表7)接種後3週間でのL.パルビフロラムアクセッションG1.1601の成体植物におけるボトリチス・シネレア病変の平均茎病変長

*) 参照系統は太字で示される:Tradiroは、育種者によればボトリチス耐性のハイブリッドである;Durinthaは、育成者によれば部分的耐性を有するハイブリッドである。MoneybergおよびMoneymakerは、類似のタイプの感受性系統である;GTはTMV耐性を有するMoneybergである;BChirs5は、L.ヒルスータムLYC 4/78遺伝子移入に起因する戻し交雑系統であり、病変の増殖に関するヒルスータムQTL-1hを含む。(+):ヘテロ接合またはホモ接合の存在;(-)存在しない;n.d.:決定していない。
【0161】
実施例3.種間特異的トマト集団(L.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.ヒルスータムアクセッションLYC 4/78)におけるボトリチス・シネレアに対する部分的耐性のマッピング
本実施例において、L.ヒルスータムLYC 4/78を起源とするB.シネレアに対して部分的耐性を付与する二つのQTL遺伝子座を示す。結果の確認は、二つのQTL遺伝子座の一つに関してそれぞれ分離する二つのBC2S1集団においてB.シネレアに対する耐性レベルを評価することによって得た。
【0162】
3.1. 植物材料
リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78(以降、LYC 4/78と呼ぶ)の種子は、Plant Genetics and Crop Plant Research, Gatersleben, Germanyに存在する遺伝子バンクから得た。
【0163】
リコペルシコン・エスクレンタム栽培品種Moneymaker(以降Moneymakerと呼ぶ)は、De Ruiter Seeds栽培品種Bergschenhoek, The Netherlandsの種子バンクから得た。
【0164】
MoneymakerとLYC 4/78との種間交雑を行って、F1種子を得た。F1種子をF1植物に生長させた。一つのF1植物の自家受粉に由来するF2種子を播いて、174個体のF2集団を得た。反復および雌性親としてMoneymakerとの2ラウンドの戻し交雑によってBC2(戻し交雑2)集団59個体を作製した。MASを用いて、同定された二つのQTLの一つを含むBC2、BC3、およびBC4遺伝子型を選択して、いくつかのBC2を自家受粉させてBC2S1種子を産生した(図2を参照されたい)。二つのBC2S1集団を生長させた:発病率に関するQTLに関して分離したBC2S1の60個体中1個体、および病変の増殖に関するQTLに関して分離したBC2S1の47個体中1個体。
【0165】
3.2. 茎のアッセイ
B.シネレア株B05.10からの接種物をBenito(1998)に従って調製した。茎のアッセイを実施例1に記述するように実施した。
【0166】
3.3. DNA単離およびマーカーの分析
ゲノムDNAを、1 ml micronicチューブ(Micronic BV, Lelystad, The Netherlands)を用いてハイスループットDNA単離に適合させた、Steward and Via(1993)による臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)に基づくプロトコールを用いて、若い葉(巻いた)2枚から単離して、Retsch 300 mmシェーカー(Retsch BV, Ochten, The Netherlands)を最高速度で用いてすりつぶした。F2、BC2、BC3、BC4、およびBC2S1集団のAFLP分析(Vos et al., 1995)を行って、本質的にMyburg(Myburg et al., 2001)によって公表された方法に従って、AFLP断片をLI-COR 4200 DNAシークエンサーにおいて分解した。選択的PstプライマーをIRD 700またはIRD 800蛍光標識によって標識した。AFLPゲル画像を、AFLP-Quantar Proソフトウェアパッケージ(Keygene BV, Wageningen, The Netherlands)を用いて採点した。Bai et al. (2003)によって記述されるように、以下の10個のプライマーの組み合わせおよびアダプター配列を遺伝子タイピングのために用いた:P14M48、P14M49、P14M50、P14M60、P14M61、P15M48、P18M50、P18M51、P22M50およびP22M51。
【0167】
3.4. F2集団の表現型分析
異なるボトリチスアッセイ間の発病率の変動が観察された(実施例1、前記を参照されたい)。したがって、7回の独立した連続的な茎の病気のアッセイを、Moneymaker×LYC 4/78との交雑に由来するF2集団の174個体中172個体に関して行った。これによって、ほぼそれぞれのF2遺伝子型に関する病気のバイオアッセイの少なくとも5個の独立した評価が得られた。それぞれの個々の病気のアッセイにおいて、茎分節6個が病変増殖の計算に貢献した。F2集団の発病率および病変増殖の平均値は、正規分布を示した(データは示していない)。Moneymakerに関する平均発病率は59%であり、病変増殖は9.2 mm/日であった。F2集団における平均発病率は10%〜97%の範囲であり、集団の平均値は48%であった。病変の増殖は、3.3 mm〜11.5 mm/日の範囲にわたり、平均値は7.8 mm/日であった。
【0168】
それぞれの個々の実験の平均発病率は31%〜73%であったが、平均病変増殖は6.2〜7.9 mm/日(表8)の範囲であった。病変増殖は、茎小片6個中1個において少なくとも感染が存在する場合に限って計算することができる。その結果、発病率が高くなれば、病変増殖に関して有益である遺伝子型の数の増加を観察することができた。例えば、低い平均発病率(31%)の場合、遺伝子型の52%のみが病変の増殖に関して有益であった。
【0169】
(表8)実施例3.4による7回の実験の平均発病率および平均病変増殖。週の平均値は発病率の百分率に従って並べる。

【0170】
3.5. 分子マーカー&遺伝連鎖マップ
Moneymaker×LYC 4/78の交雑に由来するF2集団(n=174)に関して遺伝連鎖マップを計算した。10個のプライマーの組み合わせを用いて、F2集団(n=174)において増幅断片長多型(AFLP)マーカー218個を得た。全体でマーカー69個(31.7%)を容易に相互優性であると採点することができ、このように統合されたF2遺伝連鎖マップの計算が可能となった。BC2、BC3、およびBC2S1遺伝子型に関して行ったマーカー分析により、さらに145個のAFLPマーカーの付加が可能となった。これらの145個のさらなるAFLPマーカーのうち合計102個は、これまでF2ゲルの複雑さのために採点されなかった。全体的な遺伝連鎖マップは連鎖群14個のAFLPマーカー315個からなり、全長958 cMを有する。種における同時移動AFLPマーカーは、一般的に対立遺伝子特異的であることから、他のAFLP連鎖マップとの共直線性を用いて連鎖群を染色体に割り当てた。いくつかのMoneymaker特異的AFLPマーカーは、公表された(Haanstra et al. 1999;Bai et al. 2003)遺伝連鎖マップと共通であり、したがっていくつかの連鎖群を、同定されたQTLを有する連鎖群を含む染色体に割り当てることができた。QTLインターバルにおける連鎖マップを改善するために、公表されたL.エスクレンタム×L.ペンネリイマップ(Tanksley et al. 1992;Haanstra et al. 1999)に基づいて診断的CAPSマーカーをこれらの領域に加えた。
【0171】
3.6. 連鎖分析およびQTLマッピング
マーカーデータを分析して、遺伝連鎖マップを実施例2に記載されるように計算した。
【0172】
F2連鎖マップの全長は958 cMであり、これは遺伝子の長さが1200〜1400 cMの範囲である他の公表された種間リコペルシコンマップより短い(Foolad et al. 2002;Haanstra et al.1999;Tanksley et al. 1992)。戻し交雑およびBC2S1集団から得られたAFLPマーカーデータを用いてさらなるAFLPマーカーを採点した。46%より多いマーカーが連鎖マップ上に配置されたが、遺伝連鎖マップの長さは増加しなかった。この理由は、用いたデータがいくつかの小さいサブファミリーから得られ、このように遺伝距離の計算にとって有益ではないためであるが、位置の推定は、グラフによる遺伝子型の肉眼的検分によって可能である(Van Berloo, 1999)。
【0173】
3.7. F2集団におけるQTLマッピング
表現型およびマーカーデータを、インターバルマッピング(IM、実施例2を参照されたい)によるQTLの同定のために用いた。IMを、個々の複製物から得られたデータおよび複製物の平均値の双方に適用した。
【0174】
発病率
平均発病率が50%未満である個々の病気の試験に関して、および全ての病気の試験から得られた平均値データに関して、F2集団における発病率に関するインターバルマッピングを行った(表8)。全ての試験の平均値データは、インターバルマッピング技法において、発病率に関して単一の有意なQTL(尤度比(LOD)スコアは、ゲノム全体の信頼レベルp<0.05に関して3.4より高くなければならない)を与えた。このQTLは、LODスコア4.5を有し、全ての表現型変動の13%を説明した(表9)。耐性に関与する対立遺伝子は、耐性の親LYC 4/78を起源とした。それぞれの個々の実験におけるQTLマッピングは、四つ全ての場合において同じQTL領域を与えた。それぞれの独立した実験において、時に他の「軽微なQTL」が観察された。
【0175】
病変の増殖
病変の増殖は、高い発病率を有する病気の試験において最善に測定することができる。QTLマッピングに関して、7個全ての病気の試験の平均値を用いて、B.シネレアの病変の増殖に関して閾値より高いQTL 1個を同定した(ゲノム全体の信頼レベルP<0.05に関してLOD 3.4)。このQTLは、LODスコア4.2を有し、全表現型変動の12%を説明した(表9)。正の効果は、耐性の親LYC 4/78を起源とした。1回のみの反復において、閾値を超えてLODプロフィールが見いだされたことから、多数の病気の試験を行う必要性が明らかにされる。
【0176】
(表9)ホモ接合Moneymaker(A)、ヘテロ接合LYC 4/78(H)またはホモ接合LYC 4/78(B)植物に関して計算された効果の推定。F2集団に関するスコアは、インターバルマッピング技法によって計算したが、BC2S1集団に関するスコアは、クラスカル・ウォリス分析によって計算した。

a ND=決定していない。
【0177】
3.8. バイオアッセイにおけるQTLの確認
Moneymaker×LYC 4/78との交雑のF1植物をMoneymakerと2回戻し交雑して、AFLPマーカーを用いて、後代植物59個体を同定された二つのQTL領域(一つは発病率に関して、もう一つは病変増殖に関して)の存在に関してスクリーニングした。同定された二つのQTLの一つに関してヘテロ接合である植物を選択して、自家受粉させて、二つのBC2S1集団を得た。全体で4個の病気のバイオアッセイを、それぞれのBC2S1遺伝子型に関して行った。SPSSによって分析した双方のBC2S1亜集団のデータは、病変増殖に関して正規分布を示したが、いくつかのサブクラスとしての発病率に関しては観察されなかった(図2)。
【0178】
BC2S1植物を全て、先の3.3章におけるF2集団に関して記述したように、同じ10個のプライマーの組み合わせによってAFLP遺伝子タイピングした。病変増殖遺伝子座に関して分離する集団における平均病変増殖は、5.3 mm/日であったのに対し、他の集団では平均病変増殖6.3 mm/日が観察された。一つの植物が耐性の親LYC 4/78と同じほど低い病変の増殖を有したわけではなかった。しかし、発病率に関して、より低い発病率を有する植物の次に、耐性の親LYC 4/78が観察された。双方のBC2S1集団に関する平均発病率は等しかった(57〜59%)。
【0179】
それぞれのQTLの正の効果をBC2S1集団において確認した。発病率に関するQTLは、感染の機会を17%減少させ(親の変動の46%)、病変増殖に関するQTLは真菌の増殖を1.3 mm/日に低減させた(親の変動の33%)。
【0180】
F2集団から得られたデータの比較を表8に紹介する。双方のQTLの効果によって説明することができたのは、変動のごく一部であった。いくつかのさらなる「軽微な」QTL遺伝子座が同定された。
【0181】
F2およびBC2S1遺伝子型の双方から得られた病気の試験に関するデータの分析の際に、発病率に関する一つの主要なQTLが同定された(QTL-2h)。このQTLの他に、他の「推定の」発病率に関するQTL遺伝子座が同定された。この情報を用いて、F2データセットにおいて、限定された「多数のQTLマッピング」(MQM)技法を行うために共因子を選択した。この分析において、発病率に関して一つのさらなる「軽微なQTL遺伝子座」が同定された(QTL-4h)。QTLは、そのスコアがLOD 3.4の有意性閾値より低い場合に「軽微」と命名される。しかし、効果は真のQTL効果であると考えられる。
【0182】
QTL-4hは、第4染色体上に存在して、発病率を低減させる(表1を参照されたい)。QTLは、LODスコア2.9を有し、以下のAFLPマーカーと共役する:P18M51-169.5e、P18M51-305.4h、Pl4M60-262.9e、およびP14M61-292.7h。この遺伝子座の正の効果は、耐性の親L.ヒルスータムに由来する。正の効果は、F2およびBC2S1集団の双方において同定された。このQTLは、当初、QTL-2hの分離を欠損するBC2S1集団において同定され、同様に、AFLPマーカーP14M48-345e、P14M48-177e、およびPl8M50-147eに共役する。この領域に関する相互優性CAPSマーカーの分離を、第2および第4染色体の双方に存在する遺伝子座に関してBC2S1集団とF2集団の双方において評価した。第2染色体上のCAPSマーカーAT4G30930は、第2染色体上のQTLに堅固に連鎖するが、第4染色体に関して、この染色体上に等しく分布するCAPSマーカー10個の組に関する分離データを分析した。第4染色体上のCAPSマーカーAT4G30930およびCAPSマーカーTG609を含むANOVA分析により、CAPSマーカーTG609が発病率形質に有意に連鎖することが示された。
【0183】
それぞれの「軽微な」QTLの効果を確認するために、QTL効果を含む領域に関してほぼ同質遺伝子型の系統(NIL)を作製してもよい。これと平行に、L.エスクレンタム栽培品種Moneymakerの遺伝的バックグラウンドにおけるL.ヒルスータムLYC 4/78の戻し交雑近交系(BIL)集団を作製してもよい。
【0184】
3.9. 病気のアッセイおよびQTLマッピングの結論
B.シネレアに対する耐性を測定するためのバイオアッセイは、貴重なツールであることが証明された。しかし、なお大きい未知の変動が感染プロセスの発生に影響を及ぼすように思われる。この大きい非遺伝的変動は、標準化された技法を用いることによって、および多くの独立した複製を行うことによって最小限にすることができる。変動は、茎の生理的条件における差を引き起こす、週によって変化する温室条件(昼間の長さ、太陽光の時間および温度)によって引き起こされうる。同様に、真菌接種物の調製における小さい変動も感染プロセスの変動において役割を有する可能性がある。もう一つの知見は、茎小片が置かれるトレイにおける微小気候によって発病が影響されうる点である。異なる実験トレイ10個をBC2S1バイオアッセイのために用いた。統計分析を用いて、実験間および実験内の変動を補正した。最高の平均発病率を有する実験は、病変増殖を測定するために最も有益であったが、より中程度の発病率を有する実験はより有益であった。二つの形質のあいだに比例的相関が観察されなかったことから、発病率および病変増殖は独立した形質である。
【0185】
トマトにおけるB.シネレアに対する耐性に関する量的形質遺伝子座が、F2において同定された。これらの同定されたQTLは、BC2S1集団において確認され、発病率および病変の増殖に関してそれぞれ、親の変動の46%および33%を説明した。これらの結果は、B.シネレアに対して耐性を付与する必ずしも全てのQTLが当初のF2マッピング集団において検出されたわけではないことを示唆している。双方のBC2S1集団において、植物は、耐性の親LYC 4/78より高レベルの耐性を有することが見いだされた。このことは、BC2S1集団において分離するさらなる耐性遺伝子座の存在を示している。さらなる耐性の分離は、二つのBC2S1集団のゲノムの既に大きい部分がホモ接合Moneymakerであったと予想されていた可能性があることから、意外であった。
【0186】
3.10. 温室条件における個々のQTLの効果の確認
先に記述されたQTLのいずれかを含む植物を、図2において記述される方法を用いて、L.エスクレンタムバックグラウンドに置いた。BC2S2系統を温室において土に入れて、オランダにおいて標準的な実践条件で生長させた。3ヶ月後、ボトリチスを含む寒天ディスクを主茎の創傷に載せることによって植物に接種した。創傷をその後Parafilm(登録商標)を用いて閉じた。接種3週間後、茎の病変の長さ(cm)を測定した(より詳しくは下記を参照されたい)。結果を表10に記載する。明らかに、病変増殖に関するQTLを含む系統は病変の大きさの極端な低減を示す。
【0187】
(表10)接種3週間後でのL.ヒルスータムアクセッションLYC 4/78およびLヒルスータムLA 1777の成体植物におけるボトリチス・シネレア病変の平均茎病変長

***) a、b、c、およびdはそれによってそれぞれの反復が植物5個体を表す反復である;eおよびfはそれによってそれぞれの反復が植物3個体を表す反復である;GTはTMV耐性を有するMoneybergである;Durinthaは、育成者によれば部分的耐性を有するハイブリッドである;Tradiroは、育成者によればボトリチスに対して感受性であるハイブリッドである;BChirsは、L.ヒルスータムLYC4/78遺伝子移入に起因する戻し交雑系統を示す;LA 1777は、野生種アクセッションL.ヒルスータムLA 1777である;BChrs 10は、L.ヒルスータムLA 1777の第10染色体で遺伝子移入された戻し交雑系統を示す;parvはL.パルビフロラムの遺伝子移入に起因する系統を示す。
【0188】
3.11. 第10染色体でのL.ペルビアナムLA 1777 QTLによって付与された耐性レベルよりも高い、L.ヒルスータムLYC 4/78 QTLによって付与された、ボトリチスに対する耐性レベル
本明細書において記述されるL.ヒルスータムLYC 4/78 QTLを含む植物における耐性レベルを、第10染色体上で部分的ボトリチス耐性に関するQTLを含む国際公開公報第02/085105号の起源であるL.ヒルスータムLA 1777のレベルと、および第10染色体で遺伝子移入を有するそれに由来する遺伝子移入系統のレベルと比較した。
【0189】
系統を温室において土に入れて、オランダでは標準的な実践条件で生長させた。3ヶ月後、主茎における長さ2 cmの垂直な茎の傷にボトリチスを含む0.5 cm×0.5 cmの寒天ディスクを載せることによって、植物に接種した。次に、傷をParafilm(登録商標)を用いて閉じた。接種3週間後、茎病変長(真菌増殖によって斑点状になった変色した組織の長さ(cm))を病変の上部から病変の下部まで測定した。結果を表10に示す。L.ヒルスータムLYC 4/78からのQTLを含む系統は、LA 1777起源およびIL-系統よりボトリチスに対して高レベルの耐性を示すことが観察された。さらに、第4染色体上の発病率に関するQTLおよび第9染色体上の病変増殖に関するQTL(系統68)、または第3および第4染色体上での発病率に関する双方のQTLの組み合わせ(系統78)のいずれかを含むL.パルビフロラム系統を、LA 1777起源およびIL-系統と比較した。前者の系統は、茎における病変のより少ない生長を示し、したがってLA 1777に由来する系統より高いレベルのボトリチスに対する耐性を示す(表10を参照されたい)。病変の長さが2.0 cmを記録した場合、最初の傷のみが測定されえて、真菌の増殖を観察せず、このことは、高レベルの耐性を示している。このように、2 cmの茎病変長は真の増殖が存在しないことを示している。
【0190】
本明細書において用いられるマーカー配列
以下の表は、様々な連鎖マップにおいて示されるように、および本発明のQTLに関連して示されるように、様々なRFLPおよびCOS-IIマーカーに関する詳細な情報を提供する。情報は、Cornell UniversityをホストとするSOLゲノムネットワーク(SGN)データベース、2005年10月7日のバージョンから直接コピーした。
【0191】
【表11】

【0192】
【表12】

【0193】
【表13】

【0194】
【表14】

【0195】
【表15】

【0196】
【表16】

【0197】
【表17】

【0198】
【表18】

【0199】
【表19】

【0200】
【表20】

【0201】
【表21】

【0202】
【表22】

【0203】
【表23】

【0204】
【表24】

【0205】
【表25】

【0206】
【表26】

【0207】
【表27】

【0208】
【表28】

【0209】
【表29】

【0210】
参考文献





【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】第1および第2染色体を表す連鎖マップと共に、L.ヒルスータムLYC 4/78を起源とするB.シネレアに対する耐性に関する量的形質遺伝子座(QTL)の位置を示す。マップの位置は、cMで示す。第1染色体上で検出されたQTLは、病変の増殖に関するものであり、第2染色体上で検出されたQTLは、発病率に関するものである。バーは、QTLインターバルを示す。四角は、LOD1インターバルを示し、線はLOD2インターバルを示す。AFLPマーカーのコードを、表1においてより詳しく記述する。QTLに関連することが示されたマーカーは全て、本発明の局面におけるマーカーとして用いられる可能性がある。
【図2】L.エスクレンタム×L.ヒルスータムLYC 4/78集団の発生に関する概略図を示す。BC4系統をL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerと戻し交雑させて、F2集団において同定された二つの主効果に関してQTL-NIL系統の発生において役立つようにBC5系統を得る。BC3およびBC4系統をL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerと戻し交雑させて、戻し交雑近交系(BIL)集団を得る(実施例3を参照されたい)。
【図3】病変の増殖(図3Bおよび3D)および発病率(図3Aおよび3C)に関して分離する二つのBC2S1集団(集団の大きさはそれぞれ60と47)における分離を示す。病変の増殖はx軸にmm(図3Bおよび3D)で示し、クラスは0.5 mm(2.75〜3.25;3.25〜3.75等)であり、発病率(図3Aおよび3C)は、5%のクラスで示す(12.5〜17.5%;17.5〜22.5%等)。y軸は、それぞれのクラスにおける植物数である。親の平均値を、それぞれMMとLyc 4/78に関して矢印で示す。
【図4】L.エスクレンタム栽培品種Moneymaker×L.パルビフロラムG1.1601の交雑の結果を示す。発病率(図4A)および病変の増殖(図4B)に関するF2集団における分離(F3系統の平均値に基づく)。発病率をx軸に百分率として示し(図4A)、クラスは5%(12.5〜17.5%;17.5〜22.5%等)である。病変の増殖をx軸にmmで示し(図4B)、クラスは0.5 mm(2.75〜3.25;3.25〜3.75等)である。y軸に、それぞれのクラスにおける植物数を表す。
【図5】本明細書において記述されるL.パルビフロラムQTLの連鎖マップを示す。QTL-3pは、マーカーP15M48-234、P18M50-167、TG599、P18M51-486、P22M50-151およびP14M60-65によって示される領域に存在する。 QTL-4pは、マーカーP14M48-158およびP14M48-34xCD(表2におけるP14M48-349に等しい)によって示される領域に存在する。QTL-9pは、マーカーTGlO、P22M50-56、P14M48-56、P14M50-82、P14M50-204、P15M48-138(表2におけるP15M48-137に等しい)、P14M50-174(表2におけるP14M50-176に等しい)、P22M51-201、P15M48-54、TM2a、P22M51-165、P14M48-120、TG551、P15M48-15xCD(表2におけるP15M48-155に等しい)によって示される領域に存在する。
【図6】本明細書において記述されるL.ヒルスータムQTLの連鎖マップおよびQTLプロットを示す。マップは図1のマップの更新版であり、ゲノム領域をより明確に示す。QTLに関連することが示されたマーカーは全て(C1におけるTG301からTG460まででそれも含むマーカー;C2におけるTG145からAt5g64670まででそれも含むマーカー;およびC4におけるTG339からT1405まででそれも含むマーカー)、本発明の局面においてマーカーとして用いてもよい。この更新版は、本発明の局面における好ましい態様の基礎を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成体植物におけるボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)感染に起因する平均茎病変長が標準的な実践条件下で3週間測定されるバイオアッセイによって測定した場合に、ボトリチス・シネレアに対する感受性が、感受性の対照植物よりも少なくとも3倍低い、ボトリチス耐性トマト植物。
【請求項2】
ボトリチス耐性に関連する、リコペルシコン・ヒルスータム(Lycopersicon hirsutum)LYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラム(Lycopersicon parviflorum)G1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分をゲノム内に含むことを特徴とする植物であって、該QTLまたはそのボトリチス耐性付与部分が天然の遺伝的バックグラウンドに存在しない、請求項1記載の植物。
【請求項3】
以下の段階を含む、トマトにおけるボトリチス耐性の改善に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を検出するための方法:
a)ボトリチス耐性ドナートマト植物を、非耐性またはボトリチス感受性のレシピエントトマト植物と交雑する段階;
b)一つまたは複数の子孫植物をボトリチスの感染量に接触させる段階;
c)該一つまたは複数の子孫植物における発病率および/または病変増殖速度を量的に決定する段階;
d)観察された発病率および/または病変増殖速度を、該一つまたは複数の子孫植物における該ドナートマト植物の染色体マーカーの存在に連鎖させる遺伝連鎖マップを確立する段階;ならびに
e)発病率の低減および/または病変増殖速度の低減に連鎖する、該マップ上の近接マーカーをQTLに割り当てる段階。
【請求項4】
上記ボトリチス耐性ドナートマト植物が、リコペルシコン・セラシフォルム(Lycopersicon cerasiforme)、リコペルシコン・チーズマニイ(Lycopersicon cheesmanii)、リコペルシコン・キレンセ(Lycopersicon chilense)、リコペルシコン・クミリウスキイ(Lycopersicon chmielewskii)、リコペルシコン・エスクレンタム(Lycopersicon esculentum)、リコペルシコン・ヒルスータム、リコペルシコン・パルビフロラム、リコペルシコン・ペンネリイ(Lycopersicon pennellii)、リコペルシコン・ペルビアナム(Lycopersicon peruvianum)、リコペルシコン・ピンピネリフォリウム(Lycopersicon pimpinellifolium)およびソラナム・リコペルシコイデス(Solanum lycopersicoides)からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ボトリチス耐性ドナートマト植物が、リコペルシコン・ヒルスータムまたはリコペルシコン・パルビフロラムの野生型アクセッションであり、より好ましくはリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78またはリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601である、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
ボトリチス感受性レシピエントトマト植物が、リコペルシコン・エスクレンタム種の植物、好ましくはL.エスクレンタム栽培品種Moneymakerである、請求項3〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
発病率の量的決定が、感染物質と植物とのあいだの潜在的な感染性接触の総数に対する感染成功(病変)数の比を決定する段階を含み、かつ、病変増殖速度の量的決定が、一つまたは複数の該病変の直径、外周、表面積、または体積の経時的な増加を決定する段階を含む、請求項3〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
発病率および/または病変増殖速度の量的決定が、多数の子孫植物において行われる、請求項3〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
子孫植物が、ドナー植物とレシピエント植物との交雑に由来する分離F2集団の植物である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
F2集団が、F1集団の植物の自家受粉から得られる種子に由来する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
QTLを単離する段階をさらに含む、請求項3〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
請求項3〜11のいずれか一項記載の方法によって得ることができるトマトにおけるボトリチス耐性に関連するQTL。
【請求項13】
ボトリチス耐性に関連する、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される、トマトにおけるボトリチス耐性に関連するQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分。
【請求項14】
QTLに連鎖している、表1および表2のマーカー、ならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択される少なくとも一つのマーカーを含む、請求項13記載のQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分。
【請求項15】
ボトリチス耐性ドナートマト植物由来の請求項12〜14のいずれか一項記載の少なくとも一つのQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸を、ボトリチス感受性レシピエントトマト植物に移入する段階を含む、ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法であって、該核酸の該移入が、形質転換、プロトプラスト融合、ダブルハプロイド技術、または胚救出によって行われる、方法。
【請求項16】
ボトリチス耐性ドナートマト植物において請求項3〜11のいずれか一項記載のトマトにおけるボトリチス耐性に関連するQTLを検出するための方法を行う段階、および、ボトリチス耐性ドナートマト植物由来のこのように検出された少なくとも一つのQTL、またはそのボトリチス耐性付与部分を含む核酸を、ボトリチス感受性レシピエントトマト植物に移入する段階を含む、ボトリチス耐性トマト植物を産生する方法。
【請求項17】
ボトリチス耐性ドナートマト植物が、リコペルシコン・セラシフォルム、リコペルシコン・チーズマニイ、リコペルシコン・キレンセ、リコペルシコン・クミリウスキイ、リコペルシコン・エスクレンタム、リコペルシコン・ヒルスータム、リコペルシコン・パルビフロラム、リコペルシコン・ペンネリイ、リコペルシコン・ペルビアナム、リコペルシコン・ピンピネリフォリウム、およびソラナム・リコペルシコイデスからなる群より選択される、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
ボトリチス耐性ドナートマト植物が、リコペルシコン・ヒルスータムまたはリコペルシコン・パルビフロラムの野生型アクセッションであり、より好ましくはリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78またはリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601である、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
ボトリチス感受性レシピエントトマト植物が、リコペルシコン・エスクレンタム種の植物、より好ましくは商業的に望ましい特徴を保有するL.エスクレンタム系統である、請求項15〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
核酸の移入が、ボトリチス耐性ドナートマト植物をボトリチス感受性レシピエントトマト植物と交雑させて、子孫植物を産生する段階、および、そのゲノムに該少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む植物を子孫植物の中から選択する段階を含む、請求項16〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
選択が、QTLに連鎖している表1および表2のマーカー、ならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択されるマーカーによるマーカーアシスト選択を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ドナー植物が、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78および/またはリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601であって、該ドナー植物からレシピエント植物に移入されたDNAが、ボトリチス耐性に関連する、リコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択される、トマトにおけるボトリチス耐性に関連する少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分を含む、請求項15〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
請求項13〜22のいずれか一項記載の方法によって得ることができる、ボトリチス耐性トマト植物またはその一部。
【請求項24】
QTLが、ボトリチス耐性に関連するリコペルシコン・ヒルスータムLYC 4/78の第1、第2、および第4染色体上のQTL、ならびにリコペルシコン・パルビフロラムG1.1601の第3、第4、および第9染色体上のQTLからなる群より選択され、かつ、該QTLまたはそのボトリチス耐性付与部分が天然の遺伝的バックグラウンドに存在しない、少なくとも一つのQTLまたはそのボトリチス耐性付与部分をゲノム内に含む、ボトリチス耐性トマト植物またはその一部。
【請求項25】
QTLが、QTLに連鎖している表1および表2のマーカーならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択される少なくとも一つのマーカーによって示される、請求項24記載の植物または植物の一部。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか一項記載のトマト植物を、商業的に望ましい特徴を示すトマト植物と交雑させることによって得ることができる、ハイブリッドトマト植物またはその一部。
【請求項27】
請求項23〜26のいずれか一項記載のトマト植物を生長させることによって産生されるトマトの種子。
【請求項28】
望ましい表現型形質を有するL.エスクレンタム植物と請求項26記載の植物を戻し交雑して、ボトリチス耐性でありかつ望ましい表現型形質を有するL.エスクレンタム植物を得る段階、および、該植物によって産生された種子を採取する段階によって産生されたトマト種子。
【請求項29】
ボトリチス耐性トマト植物を産生するための請求項11または12記載のQTLの使用。
【請求項30】
ボトリチス耐性トマト植物を検出するための、ボトリチス耐性に関連するQTLに連鎖している表1および表2のマーカー、ならびに図1、図5、および図6に示されるマーカーからなる群より選択されるマーカーの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−517621(P2008−517621A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538841(P2007−538841)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000762
【国際公開番号】WO2006/046861
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507107899)デルイター シーズ アール アンド ディー ビー.ブイ. (4)
【Fターム(参考)】