説明

ボビン巻きコイル及びコイル巻き方法

【課題】ボビン巻きコイルの放熱性を向上させる。また、そのようなボビン巻きコイルを作製するコイル巻き方法を提供する。
【解決手段】本発明のボビン巻きコイルは、芯体2cの軸方向に互いに壁2dで仕切られた複数の巻回空間領域S1〜S3を有するボビン2と、巻回空間領域S1〜S3の各々において芯体2c上で内から外へコイル層を形成するように巻回され、2つの巻回空間領域間では、一方の領域の最外コイル層の巻端が他方の領域の最内コイル層の巻端に繋がっていることにより全体として所要のターン数でボビンに巻回されているコイル3とを備えたものである。このようなボビン巻きコイルでは、一方の領域の最外コイル層の巻端が他方の領域の最内コイル層の巻端に繋がっていることにより、当該最内コイル層の熱は、当該最外コイル層へ伝導し、放熱が促進される。すなわち、他の領域の最外コイル層から連続している最内コイル層は温度が低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョークコイル等のインダクタに使用されるボビン巻きコイル及びコイル巻き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョークコイル等のインダクタは、ボビン巻きコイル(ボビンにコイルを巻回したもの)と、コアとを抱き合わせた構成となっている(例えば、特許文献1参照。)。
図7は、ボビン巻きコイルの一例として、ボビン102にコイル103が整列巻きで巻回された状態を示す断面図である。図において、樹脂製のボビン102は、磁心となるコア(図示せず。)を内装する円筒状の芯体102cと、その軸方向両端に設けられた円環状の鍔部102aとを備えている。コイル103は芯体102cの外周上に、内側から例えば図示の順(内層・中層・外層)に、整列巻きで巻回される。図示の例ではコイル103のターン数は27である。インダクタが電源回路等のパワー用途で用いられる場合は、コイル103の発熱が大きいので、外層のさらに外側に、空冷又は水冷の放熱手段(図示せず。)が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−201207号公報(図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のボビン巻きコイルにおいて、放熱手段により放熱をさせやすい外層は、内層より相対的に温度が低い。一方、内層は外層より熱がこもりやすく、相対的に温度が高い。中層は、外層/内層の中間的な熱の状態となる。
図8の(a)は、ボビン巻きコイルにおいて、単純に、内層が高温T、中層が中温T、外層が低温T、と考えた場合のコイルの温度分布を示すグラフである。実際には相互に影響を及ぼし合うので、階段状には温度変化せず、(b)に示すように滑らかに変化する温度分布となる。内層は放熱が悪く、温度が高くなる。内外層で温度差が大きいと、コイルの温度特性に差が生じて好ましくない。また、温度が高いほど、例えばコイル表面の絶縁材料の劣化が早くなる。
【0005】
かかる問題点に鑑み、本発明は、ボビン巻きコイルの放熱性を向上させることを目的とする。また、そのようなボビン巻きコイルを作製するコイル巻き方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明のボビン巻きコイルは、芯体の軸方向に互いに壁で仕切られた複数の巻回空間領域を有するボビンと、前記巻回空間領域の各々において前記芯体上で内から外へコイル層を形成するように巻回され、2つの巻回空間領域間では、一方の領域の最外コイル層の巻端が他方の領域の最内コイル層の巻端に繋がっていることにより全体として所要のターン数で前記ボビンに巻回されているコイルとを備えたものである。
【0007】
上記のようなボビン巻きコイルでは、複数の巻回空間領域の各々において、放熱しにくい内層ほどコイルの温度が相対的に高く、放熱しやすい外層ほどコイルの温度が相対的に低くなる。ここで、一方の領域の最外コイル層の巻端が他方の領域の最内コイル層の巻端に繋がっていることにより、当該最内コイル層の熱は、当該最外コイル層へ伝導し、放熱が促進される。すなわち、他の領域の最外コイル層から連続している最内コイル層は温度が低下する。このように、複数の巻回空間領域を設け、一領域の最外コイル層が他領域の最内コイル層へ繋がる巻き方とすることで、内側にこもりやすい熱を外側へ引き出すことができる。
【0008】
(2)また、上記(1)のボビン巻きコイルにおいて、2つの巻回空間領域間とは、軸方向で互いに隣接する2つの巻回空間領域間であることが好ましい。
この場合、最外コイル層から他領域の最内コイル層へ、最短経路で繋ぐことになるので、優れた放熱効果が得られる。
【0009】
(3)また、上記(1)又は(2)のボビン巻きコイルにおいて、壁にはスリットが形成されていてもよい。
この場合、スリットを通して容易に他領域へコイルを引き込むことができる。すなわち、仕切りの壁を乗り越えなくとも、最外コイル層から他領域の最内コイル層へ最短経路で繋ぐことができる。
【0010】
(4)一方、本発明は、芯体の軸方向に互いに壁で仕切られた複数の巻回空間領域を有するボビンに対するコイル巻き方法であって、前記軸方向の一端側における巻回空間領域の前記芯体上で内から外へ整列巻きのコイル層を形成するようにコイルを巻回し、巻回されたコイル層のうちの最外コイル層から連続して、前記軸方向に隣接する巻回空間領域の前記芯体上で内から外へ整列巻きのコイル層を形成するようにコイルを巻回する工程を、順次隣接する巻回空間領域の数だけ実行することにより、全体として所要のターン数でコイルを巻回する、というコイル巻き方法である。
【0011】
上記のようなコイル巻き方法では、複数の巻回空間領域の芯体上で順番にコイルを内から外へ整列巻きで巻回することにより、1本の連続したコイルを、全体として所要のターン数で巻回することができる。このようなコイル巻き方法によって作られたボビン巻きコイルでは、複数の巻回空間領域の各々において、放熱しにくい内層ほどコイルの温度が相対的に高く、放熱しやすい外層ほどコイルの温度が相対的に低くなる。ここで、一方の領域の最外コイル層の巻端が他方の領域の最内コイル層の巻端に繋がっていることにより、当該最内コイル層の熱は、当該最外コイル層へ伝導し、放熱が促進される。すなわち、他の領域の最外コイル層から連続している最内コイル層は温度が低下する。このように、複数の巻回空間領域を設け、一領域の最外コイル層が他領域の最内コイル層へ繋がる巻き方とすることで、内側にこもりやすい熱を外側へ引き出すことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のボビン巻きコイルによれば、内側にこもりやすい熱を外側へ引き出すことにより、放熱性を向上させることができる。また、本発明のコイル巻き方法によれば、このようなボビン巻きコイルを、1本の連続したコイルの巻回によって作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るボビン巻きコイルを、例えばチョークコイルの一部として用いた場合の、分解斜視図である。
【図2】図1におけるボビンのみ(コイル無し)を示す斜視図である。
【図3】コイル巻きの手順を示す、ボビン巻きコイルの断面図である。
【図4】コイル巻きの手順を示す、ボビン巻きコイルの断面図である。
【図5】コイル巻きが完了した状態でのボビン巻きコイルの部分断面図である。
【図6】(a)は、図8の(a)との対比の観点から、本発明の一実施形態に係るボビン巻きコイルにおける単純化した温度分布を示すグラフであり、(b)は実際の温度分布を示すグラフである。
【図7】従来のボビン巻きコイルの一例を示す断面図である。
【図8】(a)は、従来のボビン巻きコイルにおける単純化した温度分布を示すグラフであり、(b)は実際の温度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るボビン巻きコイルを、例えばチョークコイルの一部として用いた場合の、分解斜視図である。チョークコイルは、例えば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)又はハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載される電源回路に用いられる。
【0015】
図において、このチョークコイル10はER型であり、上下一対のコア1と、コイル3が巻回された円筒状のボビン2とを備えている。コア1は、ボビン2の軸方向両端に設けられている環状の鍔部2aの外周形状と、ボビン2の中心に形成されている孔2bの形状とに合わせた凹凸形状となるように、両端の凸部1aと中央の円柱部1bとを有している。孔2bに上下一対のコア1の円柱部1bを入れ、かつ、外側の凸部1a同士を当接させた状態で全体を固定すれば、チョークコイル10が出来上がる。なお、例えば、外側の凸部1a同士を当接させた状態で、円柱部1b同士は当接せず、一定のギャップを形成するように構成されている。ギャップの存在により、磁気飽和が抑制される。
【0016】
図2は、上記ボビン2のみ(コイル無し)を示す斜視図である。ボビン2は、磁心となるコア1の円柱部1bが内装される円筒状の芯体2cと、軸方向両端の鍔部2aと、鍔部2aと同様な環状の壁2dとを有している。芯体2cの軸方向には、互いに壁2dで仕切られた複数(この例では3)の巻回空間領域S1,S2,S3が形成されている。各壁2dには、外周側から見て斜め向きのスリット2eが形成されている。
【0017】
次に、コイル巻き方法について説明する。図3及び図4は、コイル巻きの手順を示す、ボビン巻きコイルの断面図である。まず、図3の(a)において、巻回空間領域S1の左詰めからコイル3をボビン2の芯体2c上に巻き始める。巻き方は、内から外へ整列巻きのコイル層を形成するように行われる。例えば、わかりやすい例として内層、中層、外層の3層を形成する場合、(b)に示すように巻回空間領域S1について内層、中層、外層の3層を巻き終わると、壁2dのスリット2e(図2)を通して隣の巻回空間領域S2に入り、左詰めでコイル3を芯体2c上に巻く。スリット2eにコイル3を通す際に、スリット2eが巻き方向に沿った斜め向きになるようにすることによりコイル3を無理なく通すことができる。
【0018】
図4の(a)に示すように巻回空間領域S2について内層、中層、外層の3層を巻き終わると、壁2dのスリット2e(図2)を通して隣の巻回空間領域S3に入り、左詰めでコイル3を芯体2c上に巻く。そして、図4の(b)に示すように巻回空間領域S3について内層、中層、外層の3層を巻き終わると、コイル巻き完了となる。図示の例では、コイル3の断面は27個、すなわち、ターン数は27ターンである(図7と同じ。)。このようにして、所要のターン数を、複数の巻回空間領域S1〜S3の合計で確保することができる。
【0019】
図5は、コイル巻きが完了した状態でのボビン巻きコイルの部分断面図であり、上述の巻き順を矢印付きの実線で示している。このようなボビン巻きコイルを含むチョークコイルが電源回路等のパワー用途で用いられる場合は、コイル3の発熱が大きいので、外層のさらに外側に、空冷又は水冷の放熱手段(図示せず。)が設けられる。
【0020】
このようなボビン巻きコイルに電流が流れると、3つ巻回空間領域S1〜S3の各々において、放熱しにくい内層ほどコイル3の温度が相対的に高く、放熱しやすい外層ほどコイル3の温度が相対的に低くなる。ところが、巻回空間領域S1の外層(最外コイル層)の巻端3aが、隣接する巻回空間領域S2の内層(最内コイル層)の巻端3bに繋がっていることにより、巻回空間領域S2の内層の熱は、巻回空間領域S1の外層へ伝導し、放熱が促進される。すなわち、他の巻回空間領域の最外コイル層から連続している最内コイル層は温度が低下する。
【0021】
同様に、巻回空間領域S2の外層(最外コイル層)の巻端3cが、隣接する巻回空間領域S3の内層(最内コイル層)の巻端3dに繋がっていることにより、巻回空間領域S3の内層の熱は、巻回空間領域S2の外層へ伝導し、放熱が促進される。
なお、巻回空間領域S1の内層の巻端は、他領域と繋がっていないが、巻回空間領域を複数に分けたことにより当該領域S1における内層のターン数が少なくなることで、内層における熱のこもり方が緩和される。
【0022】
図6の(a)は、図8の(a)との対比の観点から、上記構成のボビン巻きコイルにおける温度分布を示すグラフである。前述のように、巻回空間領域S2の内層及び巻回空間領域S3の内層は、それぞれが繋がっている隣接の巻回空間領域S1の外層及び巻回空間領域S2の外層への放熱効果により、温度がTよりかなり低くなる。また、巻回空間領域S1の内層の温度も、Tよりは低くなる。放熱手段に依存している外層の温度Tは、ほぼ、図8の(a)と同じである。
【0023】
但し、実際には層間で相互に影響を及ぼし合うので、階段状には温度変化せず、図6の(b)に示すように滑らかに変化する温度分布となる。二点鎖線で示す図8の(b)の温度分布と比較すると、コイル全体としての平均的温度レベルが下がり、内外層の温度差も低減される。従って、ボビン巻きコイルの放熱性が改善されている。
【0024】
以上のように、複数の巻回空間領域を設け、一領域の最外コイル層が他領域の最内コイル層へ繋がる巻き方として、内側にこもりやすい熱を外側へ引き出すことにより、ボビン巻きコイルの放熱性を向上させることができる。
また、上記のようなコイル巻き方法では、複数の巻回空間領域の芯体2c上で順番にコイル3を内から外へ整列巻きで巻回することにより、1本の連続したコイルを、全体として所要のターン数で巻回することができる。
【0025】
また、上記実施形態では、互いに隣接する2つの巻回空間領域(S1−S2,S2−S3)において、一領域の最外コイル層が他領域の最内コイル層へ繋がる巻き方としている。この場合、最外コイル層から他領域の最内コイル層へ、最短経路で繋ぐことになるので、優れた放熱効果が得られる。また、領域間の壁2dにはスリット2eが形成されているので、スリット2eを通して容易に他領域へコイル3を引き込むことができる。すなわち、仕切りの壁2dを乗り越えなくとも、最外コイル層から他領域の最内コイル層へ最短経路で繋ぐことができる。
【0026】
但し、一領域の最外コイル層が他領域の最内コイル層へ繋がる巻き方は、必ずしも上記の例に限定されず、例えば、巻回空間領域S1の最外コイル層から巻回空間領域S3の最内コイル層へ繋がり、さらに、巻回空間領域S3の最外コイル層から巻回空間領域S2の最内コイル層へ繋がる、という巻き方も可能ではある。
【0027】
なお、上記実施形態におけるボビン2の巻回空間領域S1〜S3の各幅は、図示するコイル3の直径との関係で、図示しやすい状態を示したものであって、各幅は均一でもよいし、互いに異なっていてもよい。また、領域数が3であることも、一例に過ぎず、複数であればよい。一方、コイル3に関しても、直径、1層あたりのターン数、層数、総ターン数は、単に説明の便宜上、一例を示すものであって、実際の当該数値は製品によって異なる。層数が3より大きい場合は、最内コイル層から複数層の中層を経て、最外コイル層を形成する構成になる。
【0028】
なお、上記実施形態のボビン巻きコイルは、ER型コアのチョークコイルに用いられるものとして説明したが、EE型であっても、角形のボビンに同様の巻き方を適用することができる。
また、上記実施形態に係るボビン巻きコイルの構成は、チョークコイルに限らず、各種のインダクタ、リアクタ、変成器に適用することができる。
さらに、上記実施形態における2つの巻回空間領域間でのコイルは、1本が連続していることが好ましいが、各巻回空間領域S1〜S3でそれぞれ独立して巻回されたコイルの巻端同士を上記実施形態と同様の巻き方となるように接続してもよい。
【0029】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0030】
2 ボビン
2c 芯体
2d 壁
2e スリット
3 コイル
S1〜S3 巻回空間領域
3a,3b,3c,3d 巻端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯体の軸方向に互いに壁で仕切られた複数の巻回空間領域を有するボビンと、
前記巻回空間領域の各々において前記芯体上で内から外へコイル層を形成するように巻回され、2つの巻回空間領域間では、一方の領域の最外コイル層の巻端が他方の領域の最内コイル層の巻端に繋がっていることにより全体として所要のターン数で前記ボビンに巻回されているコイルと
を備えていることを特徴とするボビン巻きコイル。
【請求項2】
前記2つの巻回空間領域間とは、前記軸方向で互いに隣接する2つの巻回空間領域間である請求項1記載のボビン巻きコイル。
【請求項3】
前記壁にはスリットが形成されている請求項1又は2に記載のボビン巻きコイル。
【請求項4】
芯体の軸方向に互いに壁で仕切られた複数の巻回空間領域を有するボビンに対するコイル巻き方法であって、
前記軸方向の一端側における巻回空間領域の前記芯体上で内から外へ整列巻きのコイル層を形成するようにコイルを巻回し、
巻回されたコイル層のうちの最外コイル層から連続して、前記軸方向に隣接する巻回空間領域の前記芯体上で内から外へ整列巻きのコイル層を形成するようにコイルを巻回する工程を、順次隣接する巻回空間領域の数だけ実行することにより、全体として所要のターン数でコイルを巻回する、
ことを特徴とするコイル巻き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−38258(P2013−38258A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173854(P2011−173854)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【Fターム(参考)】