説明

ボルト

【課題】 角孔付ボルトにおいて、ゴミや水等が溜まることなく、かつ工具の当り傷も付きにくいボルトを提供すること。
【解決手段】 ボルト20であって、正多角形の内周を持つ角孔22の各角部に、孔深さの全域に渡り、内周から外周に貫通する溝23を設けたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動二輪車等のフロントフォーク用フォークボルト等として用いて好適なボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントフォーク用フォークボルトとして、締付工具用の六角部を外周に持つものと、六角孔を持つものがある。
【0003】
六角部を外周に持つフォークボルトは、工具による締付作業時に六角部に締付トルクによる傷(圧痕)が付き易く、外観商品性を損なうおそれがある。樹脂等からなる工具を用いても一定の締付トルクを加えると、完全な傷防止は困難であり、更に、有色アルマイト処理等を行なったフォークボルトでは、この外観商品性の問題がより顕著になる。
【0004】
六角孔を持つフォークボルトは、六角孔にゴミや水等が溜まって外観商品性を損ない、溜まった水により六角孔が腐食する等の不都合を生じるため、六角孔にフォークキャップを被着している。フォークキャップの単価、組付作業コストの不利を伴なう。
【0005】
尚、特許文献1に記載のボルトでは、フォークキャップを必要としない六角孔付きボルトとして、六角孔の側面に数箇所の孔を設け、六角孔に入ったゴミや水等をこの孔から排出させるものを開示している。
【特許文献1】実開昭62-92313
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のボルトでは、六角孔の側面に設けた孔により、角孔の底部に入ったゴミや水等を排出することは不十分である。また、工具による締付作業時に、工具の角部が六角孔の側面に傷(圧痕)を付け易く、外観商品性を損なう。
【0007】
本発明の課題は、角孔付ボルトにおいて、ゴミや水等が溜まることなく、かつ工具の当り傷も付きにくいボルトを提供することにある。
【0008】
本発明の他の課題は、角孔付ボルトにおいて、内径用工具だけでなく、外径用工具も使用できるようにし、締付及び分解工具の選択範囲を広げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、正多角形の内周を持つ角孔の各角部に、孔深さの全域に渡り、内周から外周に貫通する溝を設けたボルトである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記角孔を形成する各面の中間点が当該面の両端点を結ぶ直線に対し孔中心寄りに位置付けられ、各面の両端点のそれぞれと中間点を含む平面を工具当り面とするようにしたものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記外周も正多角形をなすようにしたものである。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォーク用フォークボルトである。
【発明の効果】
【0013】
(請求項1)
(a)ボルトにおいて、角孔の各角部に孔深さの全域に渡り、内周から外周に貫通する溝を設けた。従って、角孔の底部に入ったゴミや水等を溝経由で安全に排出できる。また、工具による締付作業時に、工具の角部が角孔の溝に位置するものになり、傷が目立ち難い角孔の内面ではあるが、工具の角部が角孔の面に及ぼす当り傷の発生を回避できる。
【0014】
(請求項2)
(b)ボルトにおいて、角孔を形成する各面の中間点が当該面の両端点を結ぶ直線に対し孔中心寄りに位置付けられ、各面の両端点のそれぞれと中間点を含む平面を工具当り面とする。従って、工具とボルトの角孔との間に該工具の挿入を容易とする適当なクリアランスを形成してあるときに、工具が角孔内でクリアランス分だけ回転した後、工具が角孔の工具当り面に面接触し、強力な締付ができるとともに、締付トルクに起因する工具の面と角孔の面との面圧が低下し、工具の面が角孔の面に及ぼす当り傷の発生を抑制できる。
【0015】
(請求項3)
(c)角孔付ボルトにおいて、外周も正多角形をなすものとすることにより、内径用工具だけでなく外径用工具も使用でき、組付及び分解工具の選択範囲を広げることができる。例えば、工場組立段階では、傷を目立たなくするように、角孔に対して内径用レンチ等の内径用工具を使用する。他方、ユーザーによる分解、組付段階では、入手容易なスパナ等の外径用工具を使用できる。
【0016】
(請求項4)
(d)自動二輪車等のフロントフォーク用フォークボルトにおいて、上述(a)〜(c)を実現できる。二輪車用フロントフォークでは、フォーク中心軸が通常、地面に対して60度前後の傾斜角度で配置されているため、ボルトの角孔の底面が傾斜してゴミや水等がそれらの自重で溝から落下可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1はフロントフォークに設けたフォークボルトを示し、(A)は一部破断の側面図、(B)は斜視図、図2はフォークボルトを示し、(A)は一部破断の側面図、(B)は平面図、図3はフォークボルトの角孔構成要素を示し、(A)は角孔構成要素の平面図、(B)は工具当り面を備えた角孔構成要素の平面図、図4は工具と角孔の当り面の当接状態を示す平面図である。
【実施例】
【0018】
フロントフォーク10は、図1に示す如く、車体側の内筒(又は外筒)11を車輪側の不図示の外筒(又は内筒)に挿入し、内筒11の上端めねじ部にはアルミ製の鍛造等により単一体に一体成形されたフォークボルト20のおねじ部が螺着される。フォークボルト20はOリング12を介して内筒11の上端開口を封止し、内筒11と外筒の内部に油圧緩衝構造を内蔵している。
【0019】
フォークボルト20の頭部21には、図1、図2に示す如く、正六角形の内周を持つ角孔22の各角部に、角孔22の孔深さの全域(角孔22の底面22Aから上端面22Bに渡る範囲)に渡り、内周から外周に貫通する溝23を成形している。このとき、フォークボルト20の頭部21は、溝23により周方向6分割され、6個の短柱状の角孔構成要素24から構成され、各角孔構成要素24の内側面25により角孔22の六辺の各一辺を形成するものになる。溝23は、角孔22の底部に入ったゴミや水等の排出溝になる。
【0020】
フォークボルト20は、六角レンチ等の内径用工具1(図4)を角孔22に挿着して螺動操作される。このとき、内径用工具1は角孔22との間にあるクリアランスを形成し、これにより工具1を角孔22に容易に挿着できる。
【0021】
フォークボルト20は、より詳細には、図3に示す如く、角孔22の六辺の各一辺を形成する各面、換言すれば各角孔構成要素24の角孔22を形成する内側面25の中間点26Cが、当該内側面25の左右の両端点26A、26Bを結ぶ直線に対し、該角孔22の孔中心寄りに位置付けられる。そして、内側面25において、両端点26A、26Bのそれぞれと中間点26Cを含む左右の平面を左右の工具当り面25L、25Rとする。即ち、各角孔構成要素24の内側面25は左右の工具当り面25L、25Rからなるものになる。そして、各角孔構成要素24において、工具当り面25L、25Rが両端点26A、26Bを結ぶ直線に対してなす角度は例えば0.5〜1.5度が好適であって、工具当り面25Lと工具当り面25Rが交わるそれらの中間点26Cでの折れ曲がり角度は微小であり、工具当り面25Lと工具当り面25Rはともに角孔22の六辺のうちの一辺を形成する。このとき、内径用工具1の正六角形の各締付面1Aは、フォークボルト20の角孔22の各内側面25(工具当り面25L及び工具当り面25R)との間に前述のクリアランスを形成し、内径用工具1をそのクリアランス分だけ回転させたとき、工具1の締付面1Aが工具当り面25L又は工具当り面25Rに当たる(図4)。左工具当り面25Lは工具1を時計回りに回転させるときに工具1が当たる当たり面となり、右工具当り面25Rは工具1を反時計回りに回転させるときに工具1が当たる当り面となる。
【0022】
フォークボルト20は、図1、図2に示す如く、頭部21の外周の正六角形をなすものにした。本実施例においては、頭部21に設けられる溝23が、角孔22の各角部から外周の各角部に向けて直線状をなすように延在される。これにより、頭部21の各角孔構成要素24は五角形をなすものになり(図3(A))、角孔構成要素24の五辺の内の一辺を前述の内側面25(工具当り面25L、25R)とし、内側面25の両側の二辺により溝23を形成し、残る外側の二辺を互いに120度で交差する外側面27A、27Bとする。相隣る角孔構成要素24の一方の外側面27Aと他方の外側面27Bは溝23を挟んで面一をなし、スパナ等の外径用工具の正六角形の各一辺をなす各締付面が当たる工具当り面になる。
【0023】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ボルト20において、角孔22の各角部に孔深さの全域に渡り、内周から外周に貫通する溝23を設けた。従って、角孔22の底部に入ったゴミや水等を溝23経由で安全に排出できる。また、工具1による締付作業時に、工具1の角部が角孔22の溝23に位置するものになり、傷が目立ち難い角孔22の内面ではあるが、工具1の角部が角孔22の面に及ぼす当り傷の発生を回避できる。
【0024】
(b)ボルト20において、角孔22を形成する各面25の中間点26Cが当該面25の両端点26A、26Bを結ぶ直線に対し孔中心寄りに位置付けられ、各面25の両端点26A、26Bのそれぞれと中間点26Cを含む平面を工具当り面25L、25Rとする。従って、工具1とボルト20の角孔22との間に該工具1の挿入を容易とする適当なクリアランスを形成してあるときに、工具1が角孔22内でクリアランス分だけ回転した後、工具1が角孔22の工具当り面25L、25Rに面接触し、強力な締付ができるとともに、締付トルクに起因する工具1の締付面1Aと角孔22の工具当り面25L、25Rとの面圧が低下し、工具1の締付面1Aが角孔22の内側面25(工具当り面25L、25R)に及ぼす当り傷の発生を抑制できる。
【0025】
(c)角孔付ボルト20において、外周も正六角形をなすものとすることにより、内径用工具1だけでなく、外径用工具も使用でき、組付及び分解工具の選択範囲を広げることができる。例えば、工場組立段階では、傷を目立たなくするように、角孔22に対して内径用レンチ等の内径用工具1を使用する。他方、ユーザーによる分解、組付段階では、入手容易なスパナ等の外径用工具を使用できる。
【0026】
(d)自動二輪車等のフロントフォーク用フォークボルト20において、上述(a)〜(c)を実現できる。二輪車用フロントフォーク10では、フォーク中心軸が通常、地面に対して60度前後の傾斜角度で配置されているため、ボルト20の角孔22の底面が傾斜してゴミや水等がそれらの自重で溝23から落下可能になる。
【0027】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。本発明は、六角ボルト以外の多角ボルトに広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1はフロントフォークに設けたフォークボルトを示し、(A)は一部破断の側面図、(B)は斜視図である。
【図2】図2はフォークボルトを示し、(A)は一部破断の側面図、(B)は平面図である。
【図3】図3はフォークボルトの角孔構成要素を示し、(A)は角孔構成要素の平面図、(B)は工具当り面を備えた角孔構成要素の平面図である。
【図4】図4は工具と角孔の当り面の当接状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 フロントフォーク
20 フォークボルト
22 角孔
23 溝
24 角孔構成要素
25 内側面
25L、25R 工具当り面
26A、26B 両端点
26C 中間点
27A、27B 外側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正多角形の内周を持つ角孔の各角部に、孔深さの全域に渡り、内周から外周に貫通する溝を設けたボルト。
【請求項2】
前記角孔を形成する各面の中間点が当該面の両端点を結ぶ直線に対し孔中心寄りに位置付けられ、各面の両端点のそれぞれと中間点を含む平面を工具当り面とする請求項1に記載のボルト。
【請求項3】
前記外周も正多角形をなす請求項1又は2に記載のボルト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォーク用フォークボルト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−8128(P2009−8128A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168000(P2007−168000)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】