説明

ボンド磁石用コンパウンド

【課題】 耐熱水性を有する高性能SmFeNボンド磁石を提供する。
【解決手段】 本発明は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)とポリアミド12(PA12)とのポリマーアロイと、少なくともSmFeN磁性粉末を含む磁性粉末からなるボンド磁石であり、PPSとPA12の超微細海島構造が形成されていることを特徴とする。本発明により、12MGOe(=95kJ/m)を超える最大エネルギー積BHmaxと、PPS単体でのボンド磁石と同等の耐熱水性を有する高性能SmFeNボンド磁石を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と磁性粉末とからなるコンパウンドを射出成形することにより得られるボンド磁石に係り、特に、磁力と耐熱水性に優れた希土類ボンド磁石用のコンパウンドに関する。
【背景技術】
【0002】
希土類ボンド磁石は、フェライト磁石では得られない高い磁気特性を有しており、また、希土類焼結磁石では得られない成形自由度や寸法安定性を有するがゆえに、近年市場が拡大している。特に、自動車向けの各種モータ、アクチュエータ等において、近年の軽量化、低コスト化のニーズにともない、従来の焼結磁石から高性能の希土類ボンド磁石への置き換えが加速している。特に、ボンド磁石は、樹脂バインダを体積比率で30〜60%含むため、耐食性に優れているという特長がある。そのため、ウォーターポンプのような過酷な条件下で使用されるモータへの応用が特に期待されている。
【0003】
ボンド磁石の樹脂バインダとしては、様々なエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックの中から使用用途や使用環境に応じて、好適なものが使用されている。一般的な希土類ボンド磁石の射出成形用の樹脂バインダとしては、成形性、機械強度、溶媒耐食性に優れることから、ポリアミド12(以下、「PA12」と呼ぶことがある。)が主に使用されている。しかしながら、PA12はアミド基に由来して吸水性が比較的高く、熱水への浸漬といった厳しい環境下では、吸水による寸法変化が大きい。そのため、このような使用環境では、スーパーエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」と呼ぶことがある。)が主に使用されている。
【0004】
しかしながら、PPSは、優れた耐水性を有している一方、磁性粉末の充填性に乏しく、必然的に磁気特性が低くなるという課題がある。市販されている射出成形用の希土類PPSボンド磁石としては、d−HDDR法により製造したRFeB系希土類異方性磁石粉末を使用したものが最も高磁力であるが、最大エネルギー積BHmaxが10MGOe(=80kJ/m)程度となっている。
【0005】
ここで、高磁力のボンド磁石を得るための方法としては、粒子の大きさが異なる2種類以上の磁性粉末を利用した、ハイブリダイゼーション磁石が多く報告されている。これによると、大粒子の磁性粉末間の隙間を小粒子の別の磁性粉末が埋める理想的な配置を取ることにより、機械強度や成形性を損ねることなく、正味の充填率を高めることができる。例えば、射出成形用に報告されているもののうち、最も高い最大エネルギー積BHmaxを示すのは、d−HDDR法により製造したRFeB系希土類異方性磁粉とSmFeN系希土類異方性磁粉のハイブリダイゼーション磁石(樹脂バインダ:PA12)で、20MGOe(=160kJ/m)である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−168602号公報
【特許文献2】特開2003−217915号公報
【特許文献3】特開2005−209947号公報
【特許文献4】特開2000−058311号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2009BMシンポジウム講演要旨「Sm2Fe17N3ボンド磁石の開発状況」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、磁性粉末のハイブリダイゼーションは、PPSを樹脂バインダとするボンド磁石(以下、「PPSボンド磁石」と呼ぶことがある。)の最大エネルギー積BHmaxを高めるための有効な手法といえる。しかしながら、PPSボンド磁石用の磁性粉末として、SmFeN異方性磁性粉末を用いた場合、以下に述べるような大きな課題がある。
【0009】
すなわち、SmFeN異方性磁性粉末は、鉄系微粒子であるため酸化しやすく、表面損傷により固有保磁力(iHc)が著しく低下しやすい性質をもっている。報告されているPPSボンド磁石のプロセス温度は310〜350℃とかなり高く、この温度範囲ではSmFeN磁性粉末の固有保磁力が著しく低下してしまう。この固有保持力の低下は、磁石としての耐熱性の低下に繋がるため、作製したPPSボンド磁石は、高温環境下において5%というモータ用磁石の一般的な合否ラインといわれる不可逆減磁率の目安を超えて、大きく減磁してしまっていた。
【0010】
特許文献1乃至4は、SmFeN異方性磁性粉末の固有保磁力や耐酸化性を高めるための先行技術を開示している。
【0011】
特許文献1によると、SmFeN磁性粉末の周囲を非磁性の亜鉛(Zn)でコーティングすることにより、固有保磁力に悪影響を与える、粒子表面の酸化物相に含まれる軟磁性相をZnが取り込んで合金化し、非常に高い固有保磁力を有する磁性粉末を作製している。しかしながら、Zn皮膜自体に酸素拡散を抑える効果はなく、また、Znで被覆された磁性粉末は耐食性に著しく劣る課題があるため、実用化には至っていない。
【0012】
特許文献2によると、SmFeN磁性粉末の周囲をリン酸塩皮膜で被覆することにより、耐酸化性に優れた磁性粉末を得ている。しかしながら、リン酸塩皮膜だけでは、310℃を超えるプロセス温度では磁性粉末の表面酸化が不可避であり、固有保磁力の大きな低下を招いていた。結局のところ、現在までに310℃を超えるプロセス温度に耐え、PPSボンド磁石として実効的な固有保磁力を発現できるSmFeN磁性粉末は開発されていない。
【0013】
特許文献3、4によると、ボンド磁石に使用するPPSの分子量や末端基Na量を規定することで、流動性に優れたSmFeN磁性粉末含有PPSボンド磁石を作製している。しかしながら、これらの手法をもってしても310℃を超えてプロセス温度を下げることは困難であり、SmFeN磁性粉末の酸化劣化は不可避である。
【0014】
そこで、本発明は、高い最大エネルギー積と優れた耐熱水性を持ち、熱水中で使用可能なSmFeN磁性粉末含有PPSボンド磁石用コンパウンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の目的を達成するために本発明に係るボンド磁石用コンパウンドは、PPS、PA12を主成分とするポリマーアロイと、少なくともSmFeN磁性粉末を含む2種類以上の希土類磁性粉末とからなることを特徴とするボンド磁石用コンパウンドである。
【0016】
上記ポリマーアロイに含まれるPPSとPA12の体積比率が、90:10 〜 30:70であることが好ましい。
【0017】
上記SmFeN磁性粉末以外の希土類磁性粉末として、NdFeB系希土類異方性磁石粉末を含むことが好ましい。
【0018】
上記SmFeN磁性粉末と上記NdFeB系希土類異方性磁石粉末の混合重量比率が、80:20 〜 40:60であることが好ましい。また、上記ポリマーアロイに含まれるPPSの数平均分子量が、12,000以上、25,000未満であることが好ましい。また、上記ポリマーアロイに含まれるPA12の数平均分子量が、12,000以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、上記ボンド磁石用コンパウンドを射出成形して得られることを特徴とするボンド磁石成形品である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のボンド磁石によれば、12MGOe(=95kJ/m)を超える高い最大エネルギー積と、PPS単体でのボンド磁石と同等の、優れた長期耐熱水性を持つPPSアロイボンド磁石が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明にかかる磁石成形品の概略図である。
【図2】図2は、PPS/PA12比率別の不可逆減磁率と時間との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、SmFeN/NdFeB比率別の不可逆減磁率と時間との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、ポリマーアロイ樹脂粉末の断面SEM像である。
【図5】図5は、SmFeN磁性粉末10vol%のPPS/PA12ボンド磁石の断面SEM像である。
【図6】図6は、比較例2で作製したボンド磁石の断面SEM像である。
【図7】図7は、比較例1で作製したボンド磁石の断面SEM像である。
【図8】図8は、EPMA−EDXを用いたS元素の元素マッピング像である。
【図9】図9は、図8のS元素の位置のみを示したマッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのボンド磁石用コンパウンドを例示するものであって、本発明はボンド磁石用コンパウンドを以下に限定するものではない。
【0023】
また、本明細書は特許請求の範囲に示される発明を、実施の形態に特定するものでは決してない。実施の形態に記載されている構成は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0024】
上述したように、10MGOe(=80kJ/m)を超える高性能希土類PPSボンド磁石を得るためには、プロセス中のSmFeN磁性粉末の表面損傷を抑制することが重要である。我々は、以上の事実を鑑み、高融点、高プロセス温度で耐熱水性に優れるPPSに低融点のPA12を添加し、ポリマーアロイングすることにより、SmFeN磁性粉末が表面損傷を受けにくい温度までプロセス温度を下げることを目的として研究を行った。
【0025】
そして、鋭意研究を重ねた結果、我々は、PPS粉末とPA12粉末を所定の比率で混合し、混練したポリマーアロイを樹脂成分に用いることで、磁石製造プロセス中でのSmFeN磁性粉末の表面損傷を効果的に抑制できることを発見するに至った。
【0026】
ここで、高性能のボンド磁石を得るためには、PPSとPA12を予めミクロレベルで高分散させたポリマーアロイを用いることが重要である。この方式で得られたポリマーアロイ粉末と磁性粉末から磁石コンパウンドを混練する場合、PPS粉末とPA12粉末と磁性粉末を同時に混合して混練する場合と比べて、より低い温度で樹脂成分が溶け始めるため、混練温度を20〜50℃程度下げることが可能となる。結果として、混練プロセス中のSmFeN磁性粉末の酸化劣化が大きく抑制され、実効的な固有保磁力を有するPPSボンド磁石を得ることができる。
【0027】
一般的に、異なる材料の樹脂を混練してポリマーアロイを作製する場合、ポリマーアロイ中の微小領域では所謂海島構造が形成される。機械特性に優れたポリマーアロイを得るためには、この海島構造の島サイズを可能な限り小さくすることが求められる。我々は鋭意研究を重ねる中で、SmFeN磁性粉末が混練中にPPS/PA12のポリマーアロイを高分散させて超微細海島構造を形成し、これによりボンド磁石の耐熱水性を効果的に高められることを見出した。
【0028】
すなわち、SmFeN磁性粉末とPPS/PA12のポリマーアロイを混練することで、平均粒子径が2〜3μmのSmFeN磁性粉末が添加されたことによる増粘作用によって磁性粉末の周辺で局所的なせん断が働き、このせん断力がPPS/PA12を高分散させる。結果として、PPSのガラス転移点である85℃未満の温度において、剛性に優れるPPSとの複合化の作用でPA12の吸水が大きく抑制され、作製したボンド磁石はPPS単体でのボンド磁石と同等の耐熱水性を有する。
【0029】
本発明の磁性粉末の製造方法、原料の磁性粉末と樹脂およびボンド磁石について、以下で詳細に説明する。
【0030】
(磁性粉末)
本発明のボンド磁石に使用する主な磁性粉末は、SmFeN磁性粉末である。SmFeN磁性粉末は、一般式がSmFe100−x−yで表される希土類金属Smと鉄Feと窒素Nからなる窒化物である。ここで、希土類金属Smの原子%のx値は、8.1〜10%の範囲に、Nの原子%のyは、13.5〜13.9(原子%)の範囲に、残部が主としてFeとされる。なお、Smを8.1〜10原子%と規定するのは、3原子%未満では、α−Fe相が分離して窒化物の保磁力が低下し、実用的な磁石ではなくなり、30原子%を越えると、Smが析出し、合金粉末が大気中で不安定になり、残留磁化が低下するからである。他方、窒素Nを13.5〜13.9(原子%)の範囲と規定するのは、3原子%未満では、ほとんど保磁力が発現せず、15原子%を越えるとSm、鉄及びアルカリ金属自体の窒化物が生成するからである。
【0031】
本発明において、SmFeN磁性粉末は、例えば、本出願人が先に出願した特許第3698538号で示された方法で製造されたものであり、平均粒径が2μm〜5μmであり、標準偏差が1.5以内のものを好適に使用することができる。
【0032】
本発明のボンド磁石に使用可能なその他の磁性粉末は、SmFeN異方性磁性粉末よりも平均粒径が大きいものが使用され、等方性NdFeB、異方性NdFeB、1−5型SmCo、2−17型SmCo、等方性SmFeNなどがあるが、磁気特性に優れ、かつSmFeN磁性粉末との組み合わせで高充填化しやすい大粒子であることから、とりわけ異方性NdFeB系合金粉末が好適に使用できる。
【0033】
本発明において、異方性NdFeB系合金粉末は、例えば、特許第3565513号に記載されたd−HDDR処理法により製造され、平均粒径が40〜200μm、最大エネルギー積が34〜42MGOe(270〜335kJ/m)のものが好適に使用できる。
【0034】
(磁性粉末の表面処理)
本発明に使用する磁性粉末は、以下に示す耐酸化、耐水、樹脂との濡れ性改善、耐薬品を改善する目的で表面処理が施されていることが好ましい。なお、これらの処理は必要に応じて組み合わせて用いることが可能である。表面処理方法は、必要に応じて基本的には湿式、ミキサーなどの乾式で行われる。
【0035】
化成処理剤としては、第一に、P−O結合を有するリン化合物が挙げられる。リン酸処理薬としては、例えば、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等のリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸、ポリリン酸系等の無機リン酸、有機リン酸が適用可能である。これらのリン酸源を基本的には水中、またはIPNなどの有機溶媒中に溶解させ、必要に応じて硝酸イオン等の反応促進剤、Vイオン、Crイオン、Moイオン等の結晶微細化剤を添加したリン酸浴中に磁性粉を投入し、粉表面にP−O結合を有する不動態膜を形成させる。
【0036】
本発明においては、SmFeN磁性粉末を予め低濃度の塩酸でエッチングした後、引き続いて、水溶媒にオルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、結晶微細化剤としてMoイオンを添加し、pHを3〜5の範囲になるよう調整したリン酸処理液を反応槽に投入した後攪拌し、表面に10nm程度のリン酸塩皮膜で被覆されたSmFeN磁性粉末を作製している。
【0037】
このリン酸塩皮膜に加えて、湿式、乾式により、シリカ、アルミナ、チタニア膜等の無機酸化物膜をサブミクロン、ナノオーダーの粒子を用いて、磁性粉末表面に吸着させて膜を形成させる処理法や、有機金属を用いたゾルゲル法、磁性粉末表面に膜を形成させる無機酸化物処理膜形成処理が適用できる。本発明においては、エチルシリケートの加水分解により、磁性粉表面にシリカ膜を形成させる処理方法が好適に使用される。
【0038】
次に、カップリング剤による磁性粉の被覆処理について述べる。結合樹脂と磁性粉末を混練する前に磁性粉末を、アミノ系、メタクリル系、ビニル系、エポキシ系シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、フッ素系カップリング剤を用いてカップリング剤処理することが好ましい。カップリング剤を例示すると、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチレンジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−}アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロヒシレトリエトキシシラン、N−フェニルーγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、オレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ポリエトキシジメチルシロキサン、ポリエトキシメチルシロキサン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、t−ブチルカルバメートトリアルコキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイノルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピル(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクタチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラオクチルビス(トリオクチルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクチルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)、イソプロピルジメタクリレートイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスヘート)エチレンチタネート等のチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤が挙げられる。本発明においては、ポリアミド樹脂と馴染みの良いアミノ基をもつカップリング剤を使用するのが好ましく、特に、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0039】
また、本発明において、使用されるSmFeN磁性粉末は2〜5μm程度の比較的小さな平均粒径をもつ微粒子であり、表面処理によりその表面に樹脂と馴染みの良い親水基を導入することで樹脂バインダをその表面上に固定できる。そして、この樹脂バインダが保護膜もしくは粒子間の絶縁膜として粒子の分断に効果的に利用されることで、結果として優れた耐食性を発揮する成形体が得られる。このような効果が発現する磁石成形体を得るために、磁性粉末の単位表面積あたりのカップリング剤由来のアミノ基重量が0.5〜5mg/mであることがより好ましい。0.5mg/m未満では上記の粒子間の絶縁は不十分であり、一方5mg/mを超えると磁性粒子同士の親和性が高くなりすぎて粒子同士が凝集してしまい磁気特性、耐食性とも低下する虞があるからである。
【0040】
さらに、アミノ基をもつカップリング剤は、SmFeN磁性粉末の表面に親水性を与えるため、水素結合を介して磁性粉末とポリアミド樹脂との間に強い吸着力が働く。このため、混練プロセスにおいて、2〜5μmの微粒子SmFeN粒子は、自身が分散するとともにナイロン樹脂をPPS樹脂中へ高分散させ、超微細海島構造の形成をアシストする効果を発揮する。結果として、SmFeN磁性粉末を添加することによりPA12樹脂とPPS樹脂の超微細海島構造が形成されたコンパウンドを得られ、これを成形することでPPSと同様の耐熱水性をもつボンド磁石を作製することができる。
【0041】
(ポリアミド12樹脂)
本発明において使用されるポリアミド12(PA12)樹脂としては、UBEナイロン(宇部興産(株))、ダイアミド(ダイセル・エボニック(株))、オルガソール(アルケマ(株))などが挙げられ、特にパウダー状のものが好適に使用できる。本発明において、PA12樹脂の数平均分子量は16,000を下回るものが好ましく、12,000以下がより好ましい。数平均分子量が16,000以上のPA12樹脂を使用した場合、ボンド磁石の溶融粘度が高くなり、成形温度が300℃を超えてSmFeN磁性粉末が酸化劣化してしまう虞があるからである。
【0042】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂)
本発明において使用されるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂としては、トレリナ(東レ(株))、DICPPS(DIC(株))、東洋紡PPS(東洋紡績(株))、フォートロン(ポリプラスチックス(株))などが挙げられ、特にパウダー状のものが好適に使用できる。本発明において、PPS樹脂の数平均分子量は12,000以上、25,000未満が好ましい。数平均分子量が12,000を下回るPPS樹脂を使用した場合は機械強度に劣り、また、数平均分子量が25,000以上のPPS樹脂を使用した場合、ボンド磁石の溶融粘度が高くなり、プロセス温度が300℃を超えてSmFeN磁性粉末が酸化劣化してしまう虞があるからである。
【0043】
(相溶化剤)
また、PA12とPPS樹脂の相溶性を高める目的で、相溶化剤を必要に応じて添加することができる。本発明に使用可能な相溶化剤としては、モディパーA(ポリオレフィン系グラフトコポリマー)、モディパーC(ポリカーボネート系グラフトコポリマー)(以上、日油(株))、エポフレンドAT501・CT310(エポキシ基熱可塑性エラストマー)(ダイセル化学(株))、エポクロスRPS(オキサゾリン含有反応性ポリスチレン)(日本触媒(株))、タテレックH(水添スチレン系熱可塑性エラストマー)、タフテックM(水添スチレン系熱可塑性エラストマー(変性タイプ))、タフテックP(水添スチレン系熱可塑性エラストマー)(以上、旭化成ケミカルズ(株))、ダイナロン6200P(オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー)(JSR(株))、レゼダGP−301(アクリル、スチレン系グラフトポリマー)(東亜合成(株))、アドマー(変性ポリオレフィン)(三井化学(株))、ハイミラン(エチレン・メタクリル酸共重合体金属塩)(三井・デュポン ポリケミカル(株))などが挙げられる。
【0044】
さらに、滑剤や安定剤等といった添加剤も必要に応じて使用することができる。例えば、公知の特開2004−266151で挙げられたものを使用できるが、混練・成形温度が280℃以上と比較的高温のため、揮発する事を考慮し使用する必要がある。
【0045】
(樹脂の混練方法)
本発明においては、まずPA12樹脂とPPS樹脂を所定の比率で混合後混練し、ポリマーアロイを作製することが重要である。混練方法は、特に限定されるものではないが、粗大なホモポリマーの凝集体を解砕し、微細海島構造を形成する観点から、押出混練機等により強制的に混練することが好ましい。押出混練機としては二軸押出混練機が好適に使用される。
【0046】
本発明においては、予め作製したポリマーアロイの混練物を粉砕した後、この粉砕粉を上述した希土類磁性粉末と混合した後に混練することが重要である。例えば、PPS粉末とPA12粉末と磁性粉末を同時に混合して混練した場合は、数百μm級のPPS樹脂粒子が溶融するために大きな熱量を必要とするため、300℃〜330℃ほどの混練温度を必要としていた。一方、本発明の方式で磁石コンパウンドを混練した場合は、樹脂成分中にPPS樹脂とPA12樹脂が高次に複合化しているため、より低い温度で樹脂成分が溶け始める。結果として、混練温度を20〜50℃程度下げることが可能となり、混練プロセス中のSmFeN磁性粉末の酸化劣化が大きく抑制され、実効的な固有保磁力を有するPPSボンド磁石を得ることができる。
【0047】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、各材料の詳細及び試験方法、評価方法例示するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらに限定されるものでは無い。
【実施例】
【0048】
1.使用原料
1−1.磁性粉末
SmFeN系異方性磁性粉末(日亜化学工業(株)製)
平均粒径:2.8μm(FSSS)

NdFeB系異方性磁性粉末 MF−18P(愛知製鋼(株)製)
平均粒径: 130.5μm(VMD)
D50: 124.9μm
D90: 211.3μm

1−2.PPS樹脂粉末
(P−1) 数平均分子量: 20000(GPC)
(P−2) 数平均分子量: 25000(GPC)
(P−3) 数平均分子量: 11000(GPC)

1−3.PA12樹脂粉末
(A−1)数平均分子量: 12000(GPC)
(A−2)数平均分子量: 16000(GPC)

<実施例1>
(リン酸処理工程)
上記1−1に示すSmFeN系異方性磁性粉末100重量部をHCl:1重量部の希塩酸中で1分間攪拌した後、上澄み液を排水し、室温の水溶媒を注水した。続いて、オルトリン酸:リン酸二水素ナトリウム=1:35(wt%)、pH3.5、PO:20wt%に濃度調整したリン酸処理液5重量部を処理槽中に添加し、10分間攪拌した後に吸引濾過し、真空乾燥した。このようにして得られた磁性粉末は、表面に約10nmの微細なリン酸塩皮膜が確認され、固有保磁力は16.2kOeであった。
【0049】
(表面処理工程)
この磁性粉末300gに、3gのテトラメトキシシランと、1gの水を添加してミキサーで混合した。その混合物を真空中200℃で加熱して、粒子表面に酸化珪素膜を形成した。次に、シランカップリング剤y―アミノプロピルトリエトキシシラン1.5gと、エタノールと水を10:1に混合した液3.6gを噴霧添加して、ミキサーで窒素ガス中1分間混合した。次に、磁粉を取り出し、減圧下90℃で30分間加熱処理することで、カップリング処理された磁性粉末を得た。
【0050】
(ポリマーアロイング工程)
PPS樹脂(P−1)とPA12樹脂(A−1)を樹脂体積比が50:50となるよう混合し、300℃の二軸押出機で混練した。得られた樹脂コンパウンドを粉砕して、ポリマーアロイ樹脂粉末を得た。
【0051】
(混練・成形工程)
以上のようにして得られたSmFeN磁性粉末と、NdFeB磁性粉末(粉重量比50:50)に、樹脂バインダとしてP−1、A−1からなるポリマーアロイ樹脂粉末を磁性粉末充填率60vol%となるよう混合し、二軸押出機で混練してボンド磁石用組成物であるコンパウンドを得た。このときの混練温度は280℃であった。このコンパウンドを射出成形機で磁場印加しながら成形し、図1に示す、外径(Φ)35mm−内径(Φ)25mm−高さ(t)20mmの8極リング磁石成形品と径(Φ)10mm−高さ(t)7mmの円筒状成形品を得た。
【0052】
以上のようにして得られた実施例1に係るボンド磁石と同様に、バインダや磁性粉末の含有量を変化させたボンド磁石を作製した。
【0053】
<実施例2>
PPS(P−1):PA12(A−1)の体積比率を90:10とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0054】
<実施例3>
PPS(P−1):PA12(A−1)の体積比率を70:30とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0055】
<実施例4>
PPS(P−1):PA12(A−1)の体積比率を30:70とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0056】
<実施例5>
SmFeN磁性粉末:NdFeB磁性粉末の体積比率を80:20とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0057】
<実施例6>
SmFeN磁性粉末:NdFeB磁性粉末の体積比率を60:40とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0058】
<実施例7>
SmFeN磁性粉末:NdFeB磁性粉末の体積比率を40:60とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0059】
以上のようにして得られた実施例1〜7のボンド磁石の比較例として、以下に示す条件でボンド磁石を作製した。
【0060】
<比較例1>
実施例1の比較例として、磁性粉末をSmFeN磁性粉末単体、充填率を55vol%とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0061】
<比較例2>
実施例1の比較例として、磁性粉末をNdFeB磁性粉末単体、充填率を55vol%とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0062】
<比較例3>
樹脂成分をPA12(A−1)単体とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0063】
<比較例4>
樹脂成分をPPS(P−1)単体とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0064】
<比較例5>
SmFeN磁性粉末:NdFeB磁性粉末の比率を20:80とした以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製した。
【0065】
<比較例6>
樹脂粉末としてSmFeN磁性粉末とNdFeB磁性粉末(粉重量比50:50)を、樹脂バインダとしてP−1、A−1の樹脂粉末(体積比50:50)を、磁性粉末充填率60vol%となるよう全ての原料を同時に混合し、二軸押出機で混練してボンド磁石用組成物であるコンパウンドを得た以外は、実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製したが、混練温度が300℃と実施例1と比べて20℃高くなった。結果として、固有保磁力(iHc)10.2kOeの低特性のボンド磁石しか得られなかった。
【0066】
<比較例7>
PPS樹脂粉末として、P−2を用いた以外は実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製したが、成形温度が320℃と高くなり、固有保磁力(iHc)9.5kOeの低特性のボンド磁石しか得られなかった。
【0067】
<比較例8>
PPS樹脂粉末として、P−3を用いた以外は実施例1と同様の方法でボンド磁石の作製を試みたが、成形時にウェルド部で破断し、成形品を得ることはできなかった。
【0068】
<比較例9>
PA12樹脂粉末として、A−2を用いた以外は実施例1と同様の方法でボンド磁石を作製したが、成形温度が310℃と高くなり、固有保磁力(iHc)10kOeの低特性のボンド磁石しか得られなかった。
【0069】
2.評価方法
2−1.磁気特性評価
各実施例・比較例の径(Φ)10mm‐高さ(t)7mm形状の円筒状ボンド磁石成形品について、BHトレーサーを用いて磁気特性を求めた。
【0070】
2−2.耐熱水性評価
各実施例・比較例の外径(Φ)35mm−内径(Φ)25mm−高さ(t)20mmの8極リング磁石成形品について、80℃恒温槽中で熱水に浸し、1000hrまでの不可逆減磁率、吸水率、耐食性を評価した。なお、不可逆減磁率、吸水率は、下に示す式から導出した。また、錆の評価方法としては、成形品の外観を目視観察することで行った。
不可逆減磁率(%)=《表面磁束密度(0hrの値)−表面磁束密度(所定時間後の値)》/表面磁束密度(0hrの値)×100
吸水率(%)=《成形品重量(0hrの値)−成形品重量(所定時間後の値)》/成形品重量(0hrの値)×100
3.テストの詳細
3−1.ボンド磁石の高特性化の検討
表1は、充填率別のボンド磁石の特性を示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1によると、実施例1で最大エネルギー積BHmax:13.2MGOe、固有保磁力(iHc):13.1kOeであった。SmFeNとNdFeBのハイブリッド化によって、高磁気特性のボンド磁石が得られた。
【0073】
3−2.ボンド磁石のPPS/PA12比率の検討
表2は、PPS/PA12比率別のボンド磁石の特性を示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2、図2によると、実施例1〜4のPPS(P−1):PA12(A−1)の体積比率が30:70〜90:10のボンド磁石については、いずれも1000hrでの不可逆減磁率5%未満をクリアした。一方、バインダとしてPA12(A−1)単体を用いた比較例3は、吸水率が大きく増加するに伴い、不可逆減磁率が大きく減少した(40%)。また、バインダとしてPPS(P−1)単体を用いた比較例4では、不可逆減磁率5%を超え(5.7%)、80℃温水への浸漬で使用できるモータ用磁石として不適格であった。
【0076】
3−3.ボンド磁石のSmFeN/NdFeB比率の検討
表3は、SmFeN/NdFeB比率別のボンド磁石の特性を示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3、図3によると、実施例5〜7のSmFeN磁性粉末:NdFeB磁性粉末の重量比率が80:20〜40:60のボンド磁石については、1000hrでの不可逆減磁率5%未満をクリアした。しかしながら、比較例5のSmFeN磁性粉末:NdFeB磁性粉末の重量比率20:80のボンド磁石は200hr以降に、吸水率の増加に伴って不可逆減磁率の大きな上昇が見られた。1000hrでの不可逆減磁率は5%を超え(6.5%)、更には表面に顕著な錆の発生が認められたため、80℃温水への浸漬で使用できるモータ用磁石として不適格であった。
【0079】
3−4.ポリマーアロイ海島構造
以上より、本発明によって12MGOe(=95kJ/m)を超える高い最大エネルギー積と、PPS単体でのボンド磁石と同等の、優れた長期耐熱水性を持つPPS/PA12アロイボンド磁石が得られることを示した。注目すべきは、PA12単体をバインダとして用いた比較例3が大きく吸水したのに対して、実施例に挙げた配合では、この吸水しやすいPA12を樹脂バインダ成分中10〜70vol%の範囲で含みながら、PPS単体をバインダとして用いた比較例4と同程度の低吸水率を示したことである。実際に、80℃温水への浸漬1000hr後の吸水率は、比較例3で1.4%であったのに対し、本発明のPPS/PA12アロイボンド磁石では全て0.3%未満の低い値であった。このように、吸水しやすいPA12を樹脂バインダ成分中10〜70vol%の範囲で含みながらも吸水が抑えられている要因としては、PPS/PA12ポリマーアロイが超微細海島構造を形成していることが挙げられる。すなわち、PPSとPA12が微小領域で混ざり合っているため、耐水性と剛性に優れるPPS成分がPA12成分を強く束縛することで、PA12分子への水分子の進入を抑制していることが推察される。
【0080】
そして、我々はSmFeN磁性粉末が、混練中にPPS/PA12のポリマーアロイを高分散させて超微細海島構造の形成を促す作用があることを見出した。図4は、実施例の(ポリマーアロイング工程)で得られたポリマーアロイ樹脂粉末の断面SEM像である。黒い部分はPA12、白い部分はPPSを示すが、島サイズ:20〜100μm程度の海島構造が確認できる。また、図5は、磁性粉末をSmFeN磁性粉末単体、充填率を10vol%とした以外は実施例1と同様の方法で作製したボンド磁石の断面SEM像であるが、島サイズ:10〜20μm程度の海島構造が確認できる。このように、SmFeN磁性粉末の比率が増えるにつれて、海島構造が微細になっていることが確認できる。
【0081】
続いて、リファレンスとしてNdFeB系磁性粉末を用いた場合について説明する。図6は、比較例2の配合で作製したボンド磁石の断面SEM像である。磁性粉末充填率は55vol%であり、図の白い塊状部はNdFeB系磁性粉末を示している。図6より、樹脂成分に島サイズ:数μmの海島構造が確認できる。一方、図7は比較例1の配合で作製したボンド磁石の断面SEM像である。磁性粉末充填率は55vol%であり、図の白い部分はSmFeN系磁性粉末を示しているが、分散粒子のコントラストが強すぎるため、樹脂成分の海島構造は確認できない。
【0082】
図7の微細部分の海島構造を調査するため、EPMA−EDX(電子プローブマイクロアナライザー・エネルギー分散型X線分析装置)を用いたS元素の元素マッピングを行った。代表的な画像を図8、図9に示す。また、図7に示す材料領域から10個の測定点を選び、図8、図9と同様のエリア面積でS元素マッピングを行った結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
表4では、各測定点について、S原子が均一に分散していれば「○」、S原子が分散していなければ「×」と評価した。ここで、「○」はS原子(=PPS)が存在していることを意味し、「×」はS原子が少ない、つまり、PA12がメインで存在していることを意味する。表4より、磁性粉末にSmFeN磁性粉末を使用した比較例1の配合で、「○」のPPS成分は、樹脂バインダ成分の全体にわたって分散していることが確認できた。残念ながら、正確な島サイズは確認できなかったが、図8、9より、島サイズは1,2ミクロンからサブミクロンオーダーであることが推察される。以上の事実より、我々はSmFeN磁性粉末が、混練中にPPS/PA12のポリマーアロイを高分散させて超微細海島構造の形成を促す作用があることを見出し、本発明に至った。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のボンド磁石は、ウォーターポンプ、燃料ポンプなど、特に耐食性が求められる分野でのモータ用磁石として使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド12を主成分とするポリマーアロイと、少なくともSmFeN磁性粉末を含む2種類以上の希土類磁性粉末とからなることを特徴とするボンド磁石用コンパウンド。
【請求項2】
前記ポリマーアロイに含まれるポリフェニレンサルファイドとポリアミド12の体積比率が、90:10 〜 30:70である請求項1に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項3】
前記SmFeN磁性粉末以外の希土類磁性粉末として、NdFeB系希土類異方性磁石粉末を含む請求項1または2に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項4】
前記SmFeN磁性粉末と前記NdFeB系希土類異方性磁石粉末の混合重量比率が、80:20 〜 40:60である請求項3に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項5】
前記ポリマーアロイに含まれるポリフェニレンサルファイドの数平均分子量が、12,000以上、25,000未満である請求項1から4のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項6】
前記ポリマーアロイに含まれるポリアミド12の数平均分子量が、12,000以下である請求項1から5のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンドを射出成形して得られることを特徴とするボンド磁石成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−98254(P2013−98254A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237804(P2011−237804)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】