説明

ボーリング拡孔装置

【課題】掘削水の排水系におけるズリの詰まりによる故障を防止することを可能とする。また、掘削水のボーリング孔内からの排水を効率的に行うことを可能にする。
【解決手段】柱状の筐体と、該筐体に軸回転可能に支持されると共に筐体から軸方向に延出する回転シャフト21と、該回転シャフト21の周囲に配置され筐体に軸回転可能に支持されると共に筐体の下端面の下方に位置するように周方向に配置された掘削ビット32が取り付けられた回転円筒部31とを有すると共に、回転シャフト21に取り付けられた内側マグネット9aと、回転円筒部31に取り付けられた外側マグネット9bとを備え、内側マグネット9aと外側マグネット9bとによってマグネットカップリング9を構成し、駆動装置としてのモータ22によって回転シャフト21を軸回転させて内側マグネット9aを周回転させることによって外側マグネット9bが取り付けられた回転円筒部31を軸回転させて掘削ビット32を周回転させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング拡孔装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、岩盤に掘削されたボーリング孔の拡孔に用いて好適な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
岩盤中のボーリング孔内で各種調査を行う際に、ボーリング掘削に伴うカッティングスやスライム等のズリ或いは掘削水に意図的に混入される粘土やポリマー等で孔壁が汚れていると正確な観測やデータ収集が行えない場合がある。具体的は例えば、ボアホールカメラ等による孔壁の観測においては孔壁が汚れていると岩種や断層といった岩盤の観察・判別ができないといった問題があり、孔内透水試験においては孔壁が汚れていると水が流れにくいために正確な岩盤の透水特性が分からないといった問題があり、また、プレッシャーメータ試験等の孔内力学試験においては孔壁が汚れていると岩盤自体の正確な変形特性が分からないといった問題がある。
【0003】
そして、孔壁が汚れている場合で、実施する調査の内容上問題がある場合には、ボーリング後に清水で孔内の洗浄を行う場合が多い一方でそれだけでは不十分な場合が多い。
【0004】
このため、孔壁に付いたズリ等を洗浄以外の方法で取り除くために再ボーリング即ち拡孔が行われる。
【0005】
ここで、再ボーリングをして拡孔をする際に拡孔に伴うズリが掘削水と一緒に流れて孔壁に再度付着してしまうと再ボーリングの目的を達成することができないので、掘削水の流れを制御することによってズリを含む掘削水を孔壁に回り込ませないようにする仕組みが知られている。
【0006】
ズリを含む掘削水を孔壁に回り込ませないようにする仕組みを採用している従来のボーリング装置としては、例えば、図5に示すように、掘削孔の底部に位置する先頭ケーシング109内に、センターバレル102の一端に装着される掘削ビット101と、掘削ビット101を周回転させるモータ104と、モータ104の下部に連結されるスイベル103とが設けられると共に、地上側に位置するケーシングを支える挟持装置(図示せず)を有し、清水がケーシング内に投入されてセンターバレル102に形成されたケーシングとの間の隙間107から掘削孔の底部に供給されると共に、掘削ビット101に形成された吸込孔106からセンターバレル102とスイベル103とを貫通するように形成された中央孔108及び地上に至る排水管105を経由させて粉砕された土砂を含む掘削水を真空ポンプ(図示せず)によって吸い上げるようにするものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−170087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のボーリング装置のように掘削水の排水系にスイベルを用いた場合には、スイベル内にズリが詰まって故障の原因になってしまうという問題がある。このため、装置の駆動安定性が高いとは言い難い。
【0009】
また、特許文献1のボーリング装置では、ズリを含む掘削水を孔壁に回り込ませないようにすることができる一方で、深部の掘削を行う場合には真空ポンプのみの働きによって掘削水をボーリング孔内から排水することが困難であるので作業効率が低下する或いは高出力の真空ポンプが必要になってしまうという問題がある。このため、装置整備のコストアップにつながる。
【0010】
そこで、本発明は、掘削水の排水系におけるズリの詰まりによる故障を防止することができ且つ掘削水のボーリング孔内からの排水を効率的に行うことができるボーリング拡孔装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、請求項1記載のボーリング拡孔装置は、柱状の筐体と、該筐体に軸回転可能に支持されると共に筐体から軸方向に延出する回転シャフトと、該回転シャフトの周囲に配置され筐体に軸回転可能に支持されると共に筐体の下端面の下方に位置するように周方向に配置された掘削ビットが取り付けられた回転円筒部とを有すると共に、回転シャフトに取り付けられた内側マグネットと、回転円筒部に取り付けられた外側マグネットとを備え、内側マグネットと外側マグネットとによってマグネットカップリングを構成し、駆動装置によって回転シャフトを軸回転させて内側マグネットを周回転させることによって外側マグネットが取り付けられた回転円筒部を軸回転させて掘削ビットを周回転させるようにしている。
【0012】
したがって、このボーリング拡孔装置によると、マグネットカップリングの働きを利用するようにしているので、ボーリング装置の回転シャフトに対して新たな駆動方式を実現することができる。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のボーリング拡孔装置において、筐体が、下端面に開口部を有して掘削ビットに掘削水を供給するための給水路と、掘削に用いられた後の該掘削水をボーリング孔内から排水するための排水路と、回転シャフトと回転円筒部との間にこれらとの間に隙間を設けて配置されて筐体に固定されるシャフトカバーと、排水路と連通すると共に回転円筒部とシャフトカバーとの間の隙間と連通する排水ポンプ部とを備え、筐体の下端面の給水路の開口部から掘削ビットに掘削水を供給すると共に掘削に用いられた後の該掘削水を回転円筒部の周壁に設けられた貫通口から吸い込んで回転円筒部とシャフトカバーとの間の隙間を通過させて排水ポンプ部に溜めてから排水路に排出するようにしている。
【0014】
したがって、このボーリング拡孔装置によると、給水路及び排水路を有する筐体は拡孔のための掘削を行う際に軸回転せず、すなわち、回転シャフトと回転円筒部との軸回転に給水路及び排水路は影響を受けることがないので、給水路と排水路とがスイベルを用いることなく構成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のボーリング拡孔装置によれば、給水路と排水路とをスイベルを用いることなく構成することができるので、給排水系の構成を単純にすることができ、特にスイベル内におけるズリの詰まりを避けて装置の駆動の安定性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のボーリング拡孔装置の実施形態の一例を示す縦断面図で、特に回転系の構成を説明する図である。
【図2】本発明のボーリング拡孔装置の実施形態の一例を示す縦断面図で、特に給排水系の構成を説明する図である。
【図3】本発明のボーリング拡孔装置の実施形態の一例を示す横断面図である。(A)は図1のI−I線で切断した状態を示す横断面図である。(B)は図1の2−2線で切断した状態を示す横断面図である。(C)は図1の3−3線で切断した状態を示す横断面図である。
【図4】実施形態のボーリング拡孔装置の下側部分の外観斜視図である。
【図5】従来のボーリング装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1から図4に、本発明のボーリング拡孔装置の実施形態の一例を示す。このボーリング拡孔装置1は、柱状の筐体と、該筐体に軸回転可能に支持されると共に筐体から軸方向に延出する回転シャフト21と、該回転シャフト21の周囲に配置され筐体に軸回転可能に支持されると共に筐体の下端面の下方に位置するように周方向に配置された掘削ビット32が取り付けられた回転円筒部31とを有すると共に、回転シャフト21に取り付けられた内側マグネット9aと、回転円筒部31に取り付けられた外側マグネット9bとを備え、内側マグネット9aと外側マグネット9bとによってマグネットカップリング9を構成し、駆動装置としてのモータ22によって回転シャフト21を軸回転させて内側マグネット9aを周回転させることによって外側マグネット9bが取り付けられた回転円筒部31を軸回転させて掘削ビット32を周回転させるものである。
【0019】
ここで、以下の説明においては、ボーリング孔の拡孔のための掘削を行う際のボーリング拡孔装置1の姿勢に基づいて上下を定義する。具体的には、ボーリング拡孔装置1は垂直方向に立てられて図1に示す矢印19の向きに掘進するので、センタライザー6側を下、延長ケーシング連結部8側を上とする。
【0020】
また、図2は、図2中の縦断面に示す4−4線の位置における横断面に示す5−5線の位置における縦断面を表している。
【0021】
ボーリング拡孔装置1は、装置の本体部分を形成する筐体に加え、回転系の構成として、筐体の軸心と平行な軸心を中心として軸回転する内部回転系及び外部回転系と、これら内部回転系と外部回転系とを連動して作動させるためのマグネットカップリング9とを有する。
【0022】
筐体は、大きくは、筐体基部2と、当該筐体基部2の下端部に取り付けられる排水ポンプ部周壁3と、当該排水ポンプ部周壁3の下端に連結される下部ケーシング4と、筐体基部2の上端部に取り付けられる上部ケーシング7と、当該上部ケーシング7の上端に取り付けられる延長ケーシング連結部8とから構成される。そして、これら下部ケーシング4と排水ポンプ部周壁3と筐体基部2と上部ケーシング7と延長ケーシング連結部8とは、積み重ねて連結された状態で全体として円柱形状をなす。
【0023】
また、ボーリング拡孔装置1は、筐体内部から下方に延出する構造として、筐体基部2の下方に取り付けられた排水ポンプ部周壁3及び下部ケーシング4を貫通して下部ケーシング4の下側に延出するシャフトカバー10と、当該シャフトカバー10の下端部に取り付けられるマグネット格納部5とが備えられる。
【0024】
筐体と筐体内部から下方に延出する構造とは、内部回転系を完全に覆うものであり、内部への水の侵入を防止して内部回転系が掘削水、特にズリを含む掘削水に曝されることを防ぐものである。また、筐体と内部回転系及び外部回転系との間にはベアリングが設けられ、ボーリング孔の拡孔のための掘削を行うために装置が駆動する際に、内部回転系及び外部回転系は軸回転する一方で筐体は軸回転しない構造である。
【0025】
内部回転系は、大きくは、回転シャフト21と、当該回転シャフト21を軸回転させるためのモータ22と、当該モータ22の駆動を回転シャフト21に伝達するための減速機23及び伝達軸24とからなる。なお、本実施形態では、ボーリング拡孔装置1は三機のモータ22を備える。
【0026】
また、外部回転系は、大きくは、回転円筒部31と、当該回転円筒部31の周壁の中間部に周方向横並びに配置され取り付けられる掘削ビット32と、回転円筒部31の上端に設けられる排水用羽根33aとからなる。
【0027】
そして、内部回転系の回転シャフト21の下端部外周面に内側マグネット9aが取り付けられると共に、外部回転系の回転円筒部31の下端部内周面の内側マグネット9aと対向する位置に外側マグネット9bが取り付けられ、これら内側マグネット9aと外側マグネット9bとが対になってマグネットカップリング9の主要部分を構成し、モータ22の駆動による回転シャフト21の軸回転に連動して回転円筒部31が軸回転する。
【0028】
筐体基部2は、ボーリング拡孔装置1の概ね中間に位置する部品であり、径に比して短身の円柱形状に形成される。
【0029】
筐体基部2は、連結された状態の伝達軸24と回転シャフト21とを貫通させる軸心方向即ち上下方向の貫通孔2aを軸心位置に有する。
【0030】
筐体基部2は、さらに、拡孔のための掘削時に掘削ビット32に対して掘削水を供給するための給水路11の一部を構成する上下方向の貫通路2bと、掘削水を吸い上げてボーリング孔内から排水するための排水路13の一部を構成する上下方向の貫通路2cとを有する。
【0031】
筐体基部2の外周面の上縁部には、周方向帯状の段差であって上部ケーシング7の下縁部が嵌め合わされる上縁嵌合段差2dが形成される。そして、当該上縁嵌合段差2dには、上部ケーシング7を嵌め合わせた際に両者の連結部分の水密性を確保して上部ケーシング7の防水性を確保するためのOリング2eが取り付けられる。
【0032】
上部ケーシング7は、円柱形状をなし、下端面に対して突起している外周縁部が筐体基部2の上縁嵌合段差2dと嵌合して筐体基部2の上部に取り付けられる。
【0033】
上部ケーシング7は、連結された状態のモータ22と減速機23とを格納するための貫通孔7aを有する。本実施形態では、ボーリング拡孔装置1は三機のモータ22を備えるようにしており、上部ケーシング7の軸心の周囲に周方向等間隔に、言い換えれば、軸心位置を中心とする正三角形の頂点位置に、軸心に対して平行に三つの貫通孔7a,7a,7aを有する。
【0034】
上部ケーシング7は、さらに、給水路11の一部を構成する軸心方向即ち上下方向の貫通孔7cと、排水路13の一部を構成する上下方向の貫通孔7dとを有する。給水路貫通孔7cと排水路貫通孔7dとは、隣り合うモータ格納貫通孔7a,7aの間であって、上部ケーシング7の軸直角断面外縁寄りの位置に設けられる。
【0035】
また、上部ケーシング7は、下端面に開口部を有して伝達軸24を格納するギヤ格納凹部7bを軸心位置に有する。
【0036】
各モータ22は、上部ケーシング7の各モータ格納貫通孔7a内に固定される。そして、各モータ22の下側に各モータ22の駆動軸と連結されて減速機23が取り付けられる。
【0037】
伝達軸24は、減速機23を介して出力されるモータ22の駆動を回転シャフト21に伝達するものである。伝達軸24は、中心軸から径方向(言い換えれば軸直角断面方向)に突出して減速機23のギヤと噛み合うギヤ24aを上端寄りの位置に有し、下端部には回転シャフト21が差し込まれて嵌められる凹部24bを軸心位置に有する。
【0038】
伝達軸24のうち、減速機23のギヤと噛み合うギヤ24aが形成されている上側部分は上部ケーシング7下端のギヤ格納凹部7b内に格納され、回転シャフト21が連結される下側部分は筐体基部2の貫通孔2a内に格納される。ここで、各減速機23のギヤと伝達軸のギヤ24aとが噛み合うことができるように、各モータ格納貫通孔7aの下端寄りの部分であって減速機23のギヤが位置する部分とギヤ格納凹部7bとは側方において連通して形成される。
【0039】
伝達軸24は、ギヤ格納凹部7bの上面に埋め込まれて取り付けられたボールベアリング等のベアリング24cによってギヤ24aの上部に突出する中心軸が軸回転可能に支持されると共に、貫通孔2aの内周面に取り付けられたベアリング24dによってギヤ24aの下側の中心軸が軸回転可能に支持されることにより、筐体基部2及び上部ケーシング7に対して軸回転可能に支持される。そして、モータ22の駆動を伝達して回転シャフト21を軸回転させる。
【0040】
上部ケーシング7の上端部には延長ケーシング連結部8が取り付けられる。延長ケーシング連結部8は、拡孔のための掘削の進捗に合わせてボーリング拡孔装置1をボーリング孔内に徐々に進入させていく際に上端面に延長ケーシング18を連結するためのジョイントである。延長ケーシング連結部8は、径に比して短身の円柱形状に形成される。
【0041】
延長ケーシング連結部8の外周面の下縁部には、周方向帯状の段差であって上部ケーシング7の上縁部が嵌め合わされる下縁嵌合段差8cが形成される。そして、当該下縁嵌合段差8cには、上部ケーシング7を嵌め合わせた際に両者の連結部分の水密性を確保して上部ケーシング7の防水性を確保するためのOリング8dが取り付けられる。
【0042】
また、延長ケーシング連結部8は、給水路11の一部を構成するものであって上端面から下端面に通じる流路8aと、排水路13の一部を構成するものであって下端面から上端面に通じる流路8bとを有する。
【0043】
一方、筐体基部2の下端面の周縁部には、周方向帯状の段差であって排水ポンプ部周壁3の上端部が嵌め合わされる下縁嵌合段差2fが形成される。
【0044】
排水ポンプ部周壁3は帯状の周壁3aと底面3bとから構成される。底面3bの中央部には、回転シャフト21とシャフトカバー10と回転円筒部31とを貫通させるための貫通孔が形成される。また、排水ポンプ部周壁3は、給水路11の一部を構成する上下方向の貫通孔3eを周壁3aに有する。
【0045】
ここで、排水ポンプ部周壁3の内部は、掘削ビット32に供給されて拡孔のための掘削に用いられた後にボーリング孔内から排水される掘削水が溜められる空間である排水ポンプ部33としての役割を果たす。なお、排水ポンプ部周壁3の上端部が筐体基部2の下端に嵌め合わされた状態で、排水ポンプ部周壁3の内部空間である排水ポンプ部33と筐体基部2の貫通路2cとが連通する。
【0046】
排水ポンプ部33には、底面3bの貫通孔を通過して排水ポンプ部周壁3の内部に進入する回転円筒部31の上側部分の上部円筒部31aの外周面に取り付けられた排水用羽根33aが備えられる。排水用羽根33aは可撓性の部材によって排水ポンプ部周壁3の周壁3aと同等の高さを有するものとして形成される。そして、排水用羽根33aは排水ポンプ部33としての排水ポンプ部周壁3の内部空間を分割するものとして機能する。本実施形態では、回転円筒部31の上部円筒部31aの外周面に周方向等間隔に三つの排水用羽根33aが取り付けられる。
【0047】
また、排水ポンプ部周壁3の周壁3aの内周面の一部に三日月突起部33bが形成される。三日月突起部33bは、排水ポンプ部周壁3の上端部に嵌め合わされる筐体基部2の貫通路2cの開口位置と、上部円筒部31aの内周面とシャフトカバー10の外周面との間の排水空間12と連通する吸入開口部33cの開口位置との間に形成される。なお、吸入開口部33cは排水ポンプ部33の上面に開口部を有する。
【0048】
これにより、回転円筒部31が軸回転して排水用羽根33aが排水ポンプ部33内を周回転すると(実施例では、図3(B)に示す断面において時計回りに回転する)、各排水用羽根33aによって区分される空間の容積が三日月突起部33b部分とその前後とにおいてでは変わる。そして、三日月突起部33b部分とその前後とにおいて空間の容積が変化することによって圧力が変化するので、図3(B)に示す断面において、排水用羽根33aによって区分される空間のうち、吸入開口部33cの位置を含む空間の体積は増加するので排水空間12から掘削水を吸い上げて排水ポンプ部33に吸い込み、貫通路2cの位置を含む空間の体積は減少するので排水ポンプ部33から掘削水を貫通路2cへと排出する。なお、排水空間12と排水ポンプ部33とは吸入開口部33cのみによって連通しており、その他の箇所においてはお互いの水密性が確保されている。この排水ポンプ部33の働きによって本発明のボーリング拡孔装置では、掘削水をボーリング孔内から排水するための例えば真空ポンプなどが不要になる。
【0049】
そして、筐体基部2の上端に上部ケーシング7が嵌め合わされると共に当該上部ケーシング7の上端に延長ケーシング連結部8が嵌め合わされて連結された状態で、筐体基部2の貫通路2cと上部ケーシング7の貫通孔7dと延長ケーシング連結部8の流路8bとが連通して排水路13を形成する。なお、延長ケーシング連結部8の流路8bの上端開口部は延長ケーシング連結部8の上端に連結される延長ケーシング18内に設けられる排水路13を形成する貫通孔と連通し、これにより、ボーリング拡孔装置1及び延長ケーシング18内の排水路13を通過して掘削水はボーリング孔内から排水される。
【0050】
排水ポンプ部周壁3の下端面の周縁部には、周方向帯状の段差であって下部ケーシング4の周壁上端部が嵌め合わされる下縁嵌合段差3dが形成される。
【0051】
下部ケーシング4は、軸心方向の貫通孔4aを中央に有する円筒形状に形成される。また、下部ケーシング4は、給水路11の一部を構成する軸心方向即ち上下方向の貫通孔4eを円筒周壁に有する。
【0052】
そして、下部ケーシング4と排水ポンプ部周壁3と筐体基部2と上部ケーシング7とがそれぞれ嵌め合わされて繋ぎ合わされた状態で、下部ケーシング4の貫通孔4eと排水ポンプ部周壁3の貫通孔3eと筐体基部2の貫通路2bと上部ケーシング7の貫通孔7cと延長ケーシング連結部8の流路8aとが連通して給水路11を形成する。なお、延長ケーシング連結部8の流路8aの上端開口部は延長ケーシング連結部8の上端に連結される延長ケーシング18内に設けられる給水路11を形成する貫通孔と連通し、これにより、ボーリング孔外に設けられたポンプなどの給水設備(図示せず)から延長ケーシング18内及びボーリング拡孔装置1の給水路11を通過して掘削水が掘削ビット32に供給される。
【0053】
なお、本実施形態では、筐体基部2の下端面の周縁部(即ち下縁嵌合段差2f部分)に、周方向等間隔・上下方向に六つの雌ねじ孔が形成される。また、排水ポンプ部周壁3の周壁3a部分に、周方向等間隔・上下方向に六つの貫通孔が形成される。さらに、下部ケーシング4の円筒周壁に、周方向等間隔・上下方向に六つの貫通孔が形成される。そして、筐体基部2と排水ポンプ部周壁3と下部ケーシング4とを繋ぎ合わせ、先端部分に雄ねじが形成された連結軸14を下部ケーシング4側から貫通孔に挿通させると共に連結軸14の先端の雄ねじ部分を筐体基部2の雌ねじ孔にねじ止めすることによってこれら三つの部品2,3,4を固定する。
【0054】
回転シャフト21は、筐体基部2の貫通孔2a内で上端部分が伝達軸24と連接すると共に、貫通孔2aから筐体基部2の下側に向かって延出する。
【0055】
また、回転シャフト21は、下端寄りの位置に、他の部分よりも径が一回り大きく形成されたマグネット固定部21aを有する。
【0056】
そして、角柱形状の内側マグネット9aが、回転シャフト21の軸心方向と平行に、マグネット固定部21aの外周面に周方向等間隔に取り付けられる。なお、内側マグネット9aは、本実施形態では8本取り付けられる。
【0057】
筐体基部2の貫通孔2aの下側部分は、回転シャフト21の径よりも径が大きく形成される。そして、回転シャフト21の側面を囲う円筒形状のシャフトカバー10が、貫通孔2a下側部分の径が大きくなっている部分に差し込まれて筐体基部2の下側に向かって延出して固定される。そして、貫通孔2aの内周面には、シャフトカバー10を差し込んで嵌め合わせた際の両者の連結部分の水密性を確保するためのOリング2iが取り付けられる。ここで、回転シャフト21が自在に軸回転することができるようにシャフトカバー10の内周面と回転シャフト21の外周面との間には隙間が設けられる。
【0058】
シャフトカバー10の下端部分にマグネット格納部5が取り付けられる。マグネット格納部5は、回転シャフト21の下端寄りの位置に取り付けられたマグネット固定部21a及び内側マグネット9aを内部に格納する。
【0059】
マグネット格納部5は、上端面に開口部を有して回転シャフト21を挿入させるための挿通孔5aを有する。この挿通孔5aの上側部分は、回転シャフト21の径よりも径が大きく形成される。そして、挿通孔5aの径が大きくなっている部分にシャフトカバー10が差し込まれて固定されることによってマグネット格納部5がシャフトカバー10の下端部に取り付けられる。そして、挿通孔5aの内周面には、シャフトカバー10を嵌め合わせた際に両者の連結部分の水密性を確保するためのOリング5bが取り付けられる。
【0060】
マグネット格納部5は挿通孔5aと連通する中空部5cを有し、当該中空部5cにマグネット固定部21a及び内側マグネット9aを格納する。ここで、回転シャフト21及び当該シャフトに取り付けられた内側マグネット9aが自在に周回することができるように中空部5cの壁面(即ちマグネット格納部5の内周面)と内側マグネット9aの外周面との間には隙間が設けられる。
【0061】
回転シャフト21は、中空部5c上部の挿通孔5a内周面に取り付けられたベアリング5dによって軸回転可能に支持されると共に中空部5cの下面に埋め込まれて取り付けられたベアリング5eによってマグネット固定部21aの下部に突出する部分が軸回転可能に支持され、これによってマグネット格納部5に対して軸回転可能に支持される。
【0062】
回転円筒部31は、大きくは、上部円筒部31aと、当該上部円筒部31a下端に形成される掘削ビット取付部31bと、当該掘削ビット取付部31bの下側に形成される下部円筒部31cとからなる。
【0063】
回転円筒部31の上部円筒部31aは下部ケーシング4とシャフトカバー10との間に挿入される。また、上部円筒部31aの上端部分が排水ポンプ部33内に進入する。
【0064】
上部円筒部31aは、下部ケーシング4の中央貫通孔4aの内周面の、上部開口部及び下部開口部に取り付けられた一対のベアリング4b,4cによって軸回転可能に支持される。
【0065】
掘削ビット取付部31bは、上部円筒部31aの下端に連接して形成され、下部ケーシング4の下端面に近接した位置において上部円筒部31aに対して径方向に張り出して形成される。そして、掘削ビット取付部31bの側面(即ち周面)に、周方向横並び等間隔に、本実施形態では8個の掘削ビット32がねじ止めされて取り付けられる。なお、本発明においては、掘削ビット32はボーリング孔の掘削や拡孔に用いられる一般的なビットが用いられる。
【0066】
回転円筒部31の周壁であって掘削ビット取付部31bと下部円筒部31cとの境界部分に、拡孔のための掘削時に掘削ビット32に対して供給された掘削水をボーリング孔内から排水するために回転円筒部31内に取り入れるための貫通口31dが設けられる。貫通口31dは各掘削ビット32の取り付け位置の下側に設けられ、本実施形態では8個の貫通口31dが周方向に横並びで設けられる。
【0067】
下部円筒部31cは、マグネット格納部5の外周を取り巻いて覆うように、掘削ビット取付部31bの下側に連接して形成される。
【0068】
下部円筒部31cの内周面には、角柱形状の外側マグネット9bが、下部円筒部31cの軸心方向と平行に、周方向等間隔に且つ内側マグネット9aに対向する高さに取り付けられる。また、下部円筒部31cの内周面の内側マグネット9aが取り付けられた位置の上側と下側とに、内側マグネット9aが取り付けられた空間に大きなズリが入ることを防ぐためのダストシール31eが周方向に取り付けられる。これにより、マグネット格納部5の外周面と内側マグネット9aの内周面との間に大きなズリが入り込んでしまって下部円筒部31cの回転が阻害されることが防がれ、下部円筒部31cの円滑な回転が確保される。
【0069】
本実施形態では、内側マグネット9aに対応させて8本の外側マグネット9bが取り付けられる。そして、内側マグネット9aと外側マグネット9bとによってマグネットカップリング9が構成される。
【0070】
ここで、拡孔のための掘削時に掘削ビット32に供給され掘削に伴って発生したズリが含められた掘削水を貫通口31dから吸い込んで排水ポンプ部33へと送るために回転円筒部31の内周面とシャフトカバー10及びマグネット格納部5の外周面との間にズリを含んだ掘削水を通過させるための空隙が設けられ、当該空隙によって排水空間12が形成される。
【0071】
マグネット格納部5の下端部にはセンタライザー6が取り付けられる。センタライザー6は拡孔のための掘削を行う際にボーリング拡孔装置1を既に掘削されているボーリング孔の中心に位置させるためのものであり、これにより、既に掘削されているボーリング孔の周囲を均等に掘削して拡孔することができる。本実施形態では、センタライザー6はマグネット格納部5の下端面にねじ止めされて取り付けられる。
【0072】
以上の構成により、本発明のボーリング拡孔装置1は、筐体である筐体基部2と排水ポンプ部周壁3と下部ケーシング4と上部ケーシング7と延長ケーシング連結部8とが、下部ケーシング4の下端面に開口部を有して掘削ビット32に掘削水を供給するための給水路11と、掘削に用いられた後の掘削水をボーリング孔内から排水するための排水路13と、回転シャフト21と回転円筒部31との間にこれらとの間に隙間を設けて配置されて筐体基部2に固定されるシャフトカバー10と、排水路13と連通すると共に回転円筒部31とシャフトカバー10との間の隙間である排水空間12と連通する排水ポンプ部33とを備え、下部ケーシング4の下端面の給水路11の開口部から掘削ビット32に掘削水を供給すると共に掘削に用いられた後の掘削水を回転円筒部31の周壁に設けられた貫通口31dから吸い込んで回転円筒部31とシャフトカバー10との間の隙間である排水空間12を通過させて排水ポンプ部33に溜めてから排水路13に排出することができる。
【0073】
そして、以上の構造により、本発明のボーリング拡孔装置1においては、内部回転系を構成するモータ22,減速機23,伝達軸24及び回転シャフト21並びに内側マグネット9aが、筐体を構成する延長ケーシング連結部8,上部ケーシング7及び筐体基部2並びにシャフトカバー10,マグネット格納部5によって水密性が保たれて防水状態で完全に覆われる。
【0074】
そして、本発明のボーリング拡孔装置1においては、掘削水15a(例えば清水;図2において白抜き矢印で表す)が、給水路11を経由し、下部ケーシング4の下端に達する給水路11の下端開口部であって具体的には貫通孔4eの下端開口部から掘削ビット32に供給される。なお、掘削水15aが供給される貫通孔4eの下端開口部は掘削ビット32近接した位置に位置している。そして、掘削ビット32が掘削を行うことによってズリが発生し、掘削ビット32に供給された掘削水はズリを含んだ状態になる。
【0075】
掘削のズリを含んだ掘削水15b(図2において黒矢印で表す)は掘削ビット32の下方に開口部を有する貫通口31dから回転円筒部31内の排水空間12に吸い込まれる。そして、ズリを含んだ掘削水15bはシャフトカバー10の外周面と上部円筒部31aの内周面との間の空隙即ち排水空間12を通過して排水ポンプ部33に吸い上げられる。
【0076】
そして、排水ポンプ部33に吸い上げられたズリを含んだ掘削水15bは、マグネットカップリング9の働きによる回転円筒部31の軸回転に伴って排水用羽根33aが排水ポンプ部33内で回転することによって排水路13の下端開口部(具体的には筐体基部2の貫通路2cの下端開口部)から排水路13へと送り出される。そして、ズリを含んだ掘削水15bは更に延長ケーシング内の排水路を経由してボーリング孔内から排水される。
【0077】
本発明のボーリング拡孔装置1によれば、以上の構成により、筐体基部2に取り付けられる上部ケーシング7と排水ポンプ部周壁3及びこれに取り付けられる下部ケーシング4とは拡孔のための掘削中に軸回転することがなく、さらに、筐体基部2に取り付けられるシャフトカバー10及びこれに取り付けられるマグネット格納部5及びこれに取り付けられるセンタライザー6は拡孔のための掘削中に軸回転することがない。
【0078】
そして、本発明のボーリング拡孔装置1によれば、以上の構成により、モータ22の駆動が減速機23と伝達軸24と回転シャフト21とを介して伝達されて内側マグネット9aが周回転(言い換えれば、回転シャフトの軸心を中心として公転)し、当該内側マグネット9aと外側マグネット9bとによって形成されるマグネットカップリング9の働きによって外側マグネット9bが周回転する。これにより、回転円筒部31が軸回転し、それに伴って掘削ビット32が周回転することによってボーリング孔の周壁が掘削されて拡孔が行われる。
【0079】
以上の構成を有する本発明のボーリング拡孔装置によれば、給水路11と排水路13とをスイベルを用いることなく構成することができる。このため、給排水系の構成を単純にすることができ、特にスイベル内におけるズリの詰まりを避けて装置の駆動の安定性の向上を図ることができる。
【0080】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 ボーリング拡孔装置
2 筐体基部
3 排水ポンプ部周壁
4 下部ケーシング
5 マグネット格納部
7 上部ケーシング
9 マグネットカップリング
9a 内側マグネット
9b 外側マグネット
21 回転シャフト
22 モータ
31 回転円筒部
32 掘削ビット
33 排水ポンプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の筐体と、該筐体に軸回転可能に支持されると共に前記筐体から軸方向に延出する回転シャフトと、該回転シャフトの周囲に配置され前記筐体に軸回転可能に支持されると共に前記筐体の下端面の下方に位置するように周方向に配置された掘削ビットが取り付けられた回転円筒部とを有すると共に、前記回転シャフトに取り付けられた内側マグネットと、前記回転円筒部に取り付けられた外側マグネットとを備え、前記内側マグネットと前記外側マグネットとによってマグネットカップリングを構成し、駆動装置によって前記回転シャフトを軸回転させて前記内側マグネットを周回転させることによって前記外側マグネットが取り付けられた前記回転円筒部を軸回転させて前記掘削ビットを周回転させることを特徴とするボーリング拡孔装置。
【請求項2】
前記筐体が、前記下端面に開口部を有して前記掘削ビットに掘削水を供給するための給水路と、掘削に用いられた後の該掘削水をボーリング孔内から排水するための排水路と、前記回転シャフトと前記回転円筒部との間にこれらとの間に隙間を設けて配置されて前記筐体に固定されるシャフトカバーと、前記排水路と連通すると共に前記回転円筒部とシャフトカバーとの間の隙間と連通する排水ポンプ部とを備え、前記筐体の下端面の前記給水路の開口部から前記掘削ビットに前記掘削水を供給すると共に掘削に用いられた後の該掘削水を前記回転円筒部の周壁に設けられた貫通口から吸い込んで前記回転円筒部とシャフトカバーとの間の隙間を通過させて前記排水ポンプ部に溜めてから前記排水路に排出することを特徴とする請求項1記載のボーリング拡孔装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−203069(P2010−203069A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46929(P2009−46929)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 経済産業省 地層処分技術調査等委託費(地層処分共通技術調査:ボーリング技術高度化開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】