説明

ボールねじのシール、ボールねじ

【課題】ボールねじのシールとして、シールが変形してもシールに軸線方向のズレが生じ難く、切断面のズレが発生してもねじ軸にシールが接触し難いものを提供する。
【解決手段】シール1のリングの周方向の一カ所に切断部2を形成する。リングの外周面に見える線(切断面をなす線)3はV字状(折れ線)である。このシール1は、弾性力により、切断部2の対向する切断面21,22を開いて、ねじ軸に嵌めることができる。シール1に軸方向の荷重が加わった場合には、図1(d)および(e)に矢印で示す方向にズレが発生するが、どちらの方向でもシール1は径方向の外側(中心から離れる方向)に移動しようとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シールに特徴を有するボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、ボールねじ100は、内周面に螺旋溝が形成されたナット10と、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸11と、ねじ軸11の外周面に嵌まる突起とナット10の内周面に嵌まる縁部を有するリング状のシール12とを備えている。
ボールねじのシールは、通常、弾性力の高い合成樹脂などでリング状に作製され、ねじ軸の螺旋溝に嵌まる突起(ねじ山)と、ナットの内周面に嵌まる縁部とを有する。このシールは、ボールねじに対して、前記縁部をナットの軸方向両端(一方はフランジ部)に設けた凹部に内嵌させ、前記突起をねじ軸の螺旋溝に外嵌させた状態で取り付けられている。また、シールのねじ山とねじ軸のねじ溝は接触させてもよいし、適度な隙間を持たせてもよい。隙間を持たせて接触抵抗を抑えることにより、切粉などの比較的大きなゴミをナット内に入れないようにすることができる。
【0003】
ボールねじのねじ軸は、図6に示すように、ねじ軸11のねじ溝部の一端111で螺旋溝が「切り抜け」に形成されている場合には、この端部の外周面の螺旋溝にシールのネジ山が嵌まるため、通常のリング状シールをこの端部に外嵌することができる。しかし、図7に示すように、ねじ軸11Aのねじ溝部の両端112で螺旋溝が「切り上げ」に形成されている場合には、両端の外周面にシールのネジ山が嵌まる螺旋溝が形成されていないため、通常のリング状シールをこの両端に外嵌することができない。
【0004】
そのため、一般的には、シールをなすリングの周方向の一カ所に切断部を形成し、この切断部を有するシールを、弾性力により切断部の対向する切断面を開いてねじ軸に嵌めている。このような切断部を有するシールをナットの凹部にビス止めで固定して、ビスから離れた位置に切断部が配置された場合には、外部から圧力が加わったり、内部にグリースを封入する時のグリース圧力によりシールに軸方向の力が加わったりすることで、シールが切断部を起点として変形することがある。
【0005】
また、図8および図9に示すように、通常使用されている切断部2を有するシールは、リングの外周面に見える切断面をなす線が、軸線方向と水平な直線7か、斜めの直線8になっている。この線が、図8に示すように、軸線方向と水平な直線7である場合、シールは図8に破線で示すように軸方向に変形して、シール内周面に形成されているねじ山やリップがねじ軸のねじ溝に接触して、トルク上昇を招く可能性がある。
【0006】
図9に示すように、この線が軸線方向に対して斜めの直線8であって、シールが図9に破線で示すように軸方向にズレた場合、シールは径方向の中心側に移動して、ズレた位置でねじ軸のねじ溝と接触する可能性がある。このようなシール切断部のズレは、ナット内のグリース圧による軸方向の荷重、切粉などの外部圧力による変形、温度の上昇や水分の吸収によるシールの膨張などに起因して生じる。
【0007】
下記の特許文献1には、シール性を向上させる目的で、シールの突起とねじ軸の螺旋溝との嵌合隙間をゼロ以下にするために、リング状のシールを円周方向の複数箇所で分割し、分割面を軸線に対して螺旋溝のねじれ方向に対して傾斜させ、複数の分割体を、それぞれナットのねじ穴にボールプランジャを螺着して内径側に押し付けることが記載されている。このシールをなすリングの外周面に見える前記分割面をなす線は、軸方向で斜めの直線になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】登録実用新案第2579381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、を備えたボールねじの、ねじ軸の外周面に嵌まる突起とナットの内周面に嵌まる縁部を有するリング状のシールであって、リングの周方向の一カ所に切断部が形成され、弾性力によりこの切断部の対向する切断面を開いてねじ軸に嵌めて使用される、ボールねじのシールとして、シールが変形してもシールに軸線方向のズレが生じ難く、切断面のズレが発生してもねじ軸にシールが接触し難いものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様のボールねじのシールは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、を備えたボールねじの、ねじ軸の外周面に嵌まる突起とナットの内周面に嵌まる縁部を有するリング状のシールであって、シールのねじ山とねじ軸のねじ溝に隙間を有するように構成され、リングの周方向の一カ所に切断部が形成され、この切断部はリングに軸方向の荷重が加わっていない状態で切断面間に隙間を有し、弾性力によりこの切断部の対向する切断面を開いてねじ軸に嵌めて使用され、リングの外周面に見える前記切断面をなす線が、軸方向でV字状または円弧状になっていることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために提供されるボールねじのシールは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、を備えたボールねじの、ねじ軸の外周面に嵌まる突起とナットの内周面に嵌まる縁部を有するリング状のシールであって、リングの周方向の一カ所に切断部が形成され、弾性力によりこの切断部の対向する切断面を開いてねじ軸に嵌めて使用され、リングの外周面に見える前記切断面をなす線が、軸方向で折れ線または曲線になっていることを特徴とする。前記切断面をなす線はV字状であることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、ナットとねじ軸とシールを備えたボールねじであって、本発明のシールが取り付けられていることを特徴とするボールねじを提供する。
本発明のボールねじのシールによれば、シールをなすリングの外周面に見える前記切断面をなす線が軸方向でV字状または円弧状になっているため、前記切断面をなす線が軸線方向と水平な直線か、斜めの直線である場合と比較して、シールが変形してもシールに軸線方向のズレが生じ難く、切断面のズレが発生してもねじ軸にシールが接触し難い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、を備えたボールねじの、ねじ軸の外周面に嵌まる突起とナットの内周面に嵌まる縁部を有するリング状のシールであって、リングの周方向の一カ所に切断部が形成され、弾性力によりこの切断部の対向する切断面を開いてねじ軸に嵌めて使用される、ボールねじのシールであって、シールのねじ山とねじ軸のねじ溝に隙間を有するように構成されたシールとして、シールが変形してもシールに軸線方向のズレが生じ難く、切断面のズレが発生してもねじ軸にシールが接触し難いものが提供される。
そして、このシールを使用することで、ねじ軸のねじ溝部の両端で螺旋溝が「切り上げ」に形成されているボールねじのシール性能が向上するとともに、切断面を密着させて使用する場合には、シールの軸方向の剛性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態のシールを示す斜視図(a)と、このシールの外周面を示す側面図(b)と、このシールを示す正面図(c)と、このシールにズレが発生した状態を示す側面図(d,e)である。
【図2】第2実施形態のシールを示す図であって、シールの外周面を示す側面図である。
【図3】第3実施形態のシールを示す図であって、シールの外周面を示す側面図である。
【図4】第4実施形態のシールを示す図であって、シールの外周面を示す側面図である。
【図5】ボールねじの構成を示す側面図である。
【図6】ボールねじのねじ軸を示す側面図である。
【図7】ボールねじのねじ軸を示す側面図である。
【図8】切断部を有するシールの従来例を示す斜視図と側面図である。
【図9】切断部を有するシールの従来例を示す斜視図と側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ボールねじ用シールの実施形態について説明する。
第1実施形態(本発明例)のシールを図1を用いて説明する。
図1(a)は、第1実施形態のシールを示す斜視図であり、図1(b)は、シールの外周面を示す側面図である。図1(c)は、第1実施形態のシールの正面図であり、図1(d)と図1(e)は、ズレが発生した状態を示す側面図である。
図1(a)、(b)に示すように、第1実施形態のシール1は、リングの周方向の一カ所に切断部2が形成されている。リングの外周面に見える線(切断面をなす線)3はV字状(折れ線)である。
【0016】
このシール1は、例えば、超高分子量ポリエチレンや熱可塑性エラストマー等の弾性変形し易い合成樹脂を、射出成形法で円環形状に成形した後、切断面と同一の折れ線または曲線の刃を有する鋏等で切断することにより作製できる。また、切断面部分に樹脂が流れないように工夫された金型を用いれば、射出成形法のみで作製することもできる。
図1(c)に示すように、このシール1は、弾性力により、切断部2の対向する切断面21,22を開いて、ねじ軸に嵌めることができる。シール1に軸方向の荷重が加わった場合には、図1(d)および(e)に矢印で示す方向にズレが発生するが、どちらの方向でもシール1は径方向の外側(中心から離れる方向)に移動しようとするため、図8および9の場合と比較して、シール1がねじ軸のねじ溝に食い込む可能性が低くなる。
【0017】
図2は、第2実施形態(本発明例)のシールを示す図であって、シールの外周面を示す側面図である。このシール1Aは、リングの周方向の一カ所に切断部2が形成されている。リングの外周面に見える線(切断面をなす線)4は円弧状(曲線)である。
図3は、第3実施形態(参考例)のシールを示す図であって、シールの外周面を示す側面図である。このシール1Bは、リングの周方向の一カ所に切断部2が形成されている。リングの外周面に見える線(切断面をなす線)5は複数のV字をつなげた形状(折れ線)である。
【0018】
図4は、第4実施形態(参考例)のシールを示す図であって、シールの外周面を示す側面図である。このシール1Cは、リングの周方向の一カ所に切断部2が形成されている。リングの外周面に見える線(切断面をなす線)6は波線(曲線)である。
これらのシール1A〜1Cは、例えば、超高分子量ポリエチレンや熱可塑性エラストマー等の弾性変形し易い合成樹脂を、射出成形法で円環形状に成形した後、切断面と同一の折れ線または曲線の刃を有する鋏等で切断することにより作製できる。また、切断面部分に樹脂が流れないように工夫された金型を用いれば、射出成形法のみで作製することもできる。
【0019】
第2実施形態のシール1Aは、第1実施形態のシール1と同じ効果が期待できる。
第3実施形態のシール1Bおよび第4実施形態のシール1Cは、第1実施形態のシール1および第2に実施形態のシール1Aと比較して、軸方向の剛性を高くすることができ、切断面からのグリース漏れを低減するラビリンス効果も期待できる。
第1および第2実施形態のシール1、1Aの何れかを、図5のボールねじ100のシール12として備えているボールねじが、本発明のボールねじの実施形態である。
【符号の説明】
【0020】
1 シール
1A シール
1B シール
1C シール
2 切断部
3 リングの外周面に見えるV字状線(切断面をなす線、折れ線)
4 リングの外周面に見える円弧状線(切断面をなす線、曲線)
5 リングの外周面に見える複数のV字をつなげた形状の線(切断面をなす線、折れ線)
6 リングの外周面に見える波線(切断面をなす線、曲線)
10 ナット
11 ねじ軸
12 シール
100 ボールねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、を備えたボールねじの、ねじ軸の外周面に嵌まる突起とナットの内周面に嵌まる縁部を有するリング状のシールであって、
シールのねじ山とねじ軸のねじ溝に隙間を有するように構成され、
リングの周方向の一カ所に切断部が形成され、この切断部はリングに軸方向の荷重が加わっていない状態で切断面間に隙間を有し、弾性力によりこの切断部の対向する切断面を開いてねじ軸に嵌めて使用され、リングの外周面に見える前記切断面をなす線が、軸方向でV字状または円弧状になっていることを特徴とするボールねじのシール。
【請求項2】
前記切断面をなす線がV字状である請求項1記載のボールねじのシール。
【請求項3】
ナットとねじ軸とシールを備えたボールねじであって、請求項1または2に記載のシールが取り付けられていることを特徴とするボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−100920(P2013−100920A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−45843(P2013−45843)
【出願日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【分割の表示】特願2007−264039(P2007−264039)の分割
【原出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】