説明

ボールねじの製造方法及びボールねじ

【課題】デフレクタをナットに固定する際に、ねじ軸とナットとのねじ溝間でねじ溝に沿ったデフレクタの位置ずれが生じにくいボールねじの製造方法とボールねじを提供することを課題とする。
【解決手段】ボールねじは、デフレクタ7を、位置決めピン8を用いてナット2のねじ溝2aに位置決めした後、ボルト10でナット2に固定する。そのため、従来のように、ボルト10と、ボルト10が貫通している孔との径差があっても、位置決めピン8で位置決めされるから、デフレクタ7をナット2に取り付ける際に、デフレクタ7のねじ溝に沿う方向への位置ずれが生じにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの製造方法及びボールねじに関し、特にねじ軸とナットの両ねじ溝に沿って装着され、且つ、ナットにボルト止めされているデフレクタを備えたボールねじの製造方法とボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記のデフレクタを備えたボールねじとしては、例えば特許文献1に記載されたようなものがある。これは、ねじ軸のねじ溝とこれに対向するナットのねじ溝との間に形成される空間に、これらのねじ溝に沿って(つまり螺旋方向に)、細長いデフレクタを装着してなるものである。このデフレクタの中央には柄のように突出した取付ボルトが固着されており、この取付ボルトは突出する先端に雄ねじが形成されている。このようにしてこの取付ボルトはボールねじのナットを内側から外方向に貫通するようになっている。
【0003】
そして、この取付ボルトにナット外面側で雌ねじを螺合して締めつけることによってデフレクタをナットに固定している。またこのデフレクタには、ナットのねじ溝に係合するように位置決めボスが突設されて、前記の柄のような取付ボルトの軸線まわりにデフレクタが揺動ないし移動することのないように配慮されている。この状態では、デフレクタを固定するための前記の柄のような取付ボルトと、これに螺合する雌ねじとによる締めつけで得られたグリップ力で、デフレクタをボールねじ装置のナットに固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−228963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、取付ボルトの円筒部径と、同取付ボルトが貫通しているナットの孔との径差があるので、デフレクタをナットに取り付ける際に、同取付ボルトの径方向の位置が前記径差の分だけ特定されない。すると、前記デフレクタは、それが内在するねじ溝に沿う方向に位置がずれるという不具合を発生する。
この位置ずれは、ナットに設けられたボール循環路に連続させるすくい上げ面がデフレクタ端面に形成されている場合には、デフレクタのすくい上げ面とボール循環路の内面との間に段差が発生するという不具合となる。
【0006】
またボール循環路を形成する循環チューブの端部を両ねじ溝間に延べ出させてこれにより転動体のすくい上げ部とされているボールねじ装置において、前記すくい上げ部の裏面にデフレクタの端面が当てられている場合には、デフレクタの位置ずれによって循環チューブ端部のすくい上げ部が押されて位置ずれを起こしたり、デフレクタ端面がすくい上げ部の裏面から離れてしまい、すくい上げ部のバックアップにならないという不具合となる。
【0007】
これによって、ボールねじのボール循環が円滑でなくなり、騒音ないし振動の発生とこれによる循環チューブなどの部品の劣化などの不具合が発生するという欠点がある。
そこで、本発明は、デフレクタをナットに固定する際に、ねじ軸とナットとのねじ溝間でねじ溝に沿ったデフレクタの位置ずれが生じにくいボールねじの製造方法とボールねじを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係るボールねじの製造方法は、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸の外側にあり前記ねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して前記両ねじ溝間に負荷領域を形成するナットと、前記負荷領域内に転動可能に装填される複数のボールと、前記両ねじ溝間に両ねじ溝に沿って装着され前記ナットにボルト止めされるデフレクタと、を備えるボールねじの製造方法であって、前記ナットのねじ溝に前記デフレクタを配置し、このデフレクタに予め形成されたピン穴に、前記ナットの外周面から、同ナットに予め形成されたピン挿入孔を経て位置決めピンを差し入れて、この位置決めピンにより前記デフレクタを前記ナットに位置決めした後、前記デフレクタを前記ナットに前記ボルトで固定することを特徴とする。
【0009】
上記ボールねじの製造方法においては、前記デフレクタを前記ナットのねじ溝に前記ボルトで固定した後に、前記位置決めピンをピン穴に差し入れたままにして、前記デフレクタを前記ボルトに加えて前記位置決めピンによっても固定することができる。また、前記デフレクタを前記ナットのねじ溝に前記ボルトで固定した後に、前記位置決めピンを取り外すこともできる。
【0010】
さらに、本発明の一態様に係るボールねじは、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸の外側にあり前記ねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して前記両ねじ溝間に負荷領域を形成するナットと、前記負荷領域内に転動可能に装填された複数のボールと、前記両ねじ溝間に両ねじ溝に沿って装着され前記ナットにボルト止めされたデフレクタと、を備えたボールねじにおいて、前記ナットのねじ溝に前記デフレクタを配置し、このデフレクタのピン穴に、前記ナットの外周面から、同ナットのピン挿入孔を経て位置決めピンを差し入れて、この位置決めピンにより前記デフレクタを前記ナットに位置決めして、前記デフレクタを前記ナットのねじ溝に前記ボルトで固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、デフレクタを、位置決めピンでナットに位置決めした後に、ボルトでナットのねじ溝に固定する。このため、デフレクタをボルトでナットに固定する際に、デフレクタがねじ溝間でねじ溝に沿って位置を変化させることがない。よってデフレクタの位置がねじ溝に沿ってずれる事により発生する不具合を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るボールねじの平面図である。
【図2】図1のA−A線における断面拡大該略図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に用いるデフレクタの断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に用いるナットの断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に用いる位置決めピンの断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るボールねじの図2同様の断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るボールねじの図2同様の断面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の他の応用例を示す平面図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係るデフレクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るボールねじ及びボールねじの製造方法の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
まず、第1の実施形態について、図1〜4を用いて説明する。図1はボールねじの平面図であり、図2はボールねじを図1におけるA−A線において断面し拡大した状態の概略図である。
【0014】
本実施形態のボールねじは、外周面に螺旋状のねじ溝1aを有するねじ軸1に、内周面に前記ねじ溝1aに対応する螺旋状のねじ溝2aを有するナット2が外嵌されている。ナット2のねじ溝2aとねじ軸1のねじ溝1aとは互いに対向して両者の間に螺旋状の負荷領域3を形成している。ここで、負荷領域3とは、ねじ軸1とナット2の一方の回転力がボール4によって他方の直線運動に変換されるに際して、ボール4を介して相対的に力が負荷される領域を言う。
したがって、該負荷領域3には複数のボール4が転動可能に装填されており、潤滑剤、例えばグリース等が封入され、ねじ軸1とナット2の相対回転により、ボール4の転動を介してねじ軸1とナット2とが軸方向に相対直線移動するようになっている。
【0015】
ナット2の外周面の一部は面取りされていて平面部5が形成されている。該平面部5に2対で合計4個の循環孔5aが形成されており、各循環孔5aは、両ねじ溝1a,2a間に連通している。また、各対の循環孔5a,5aにはこれらを連通させる循環チューブ6A,6Bの両端開口部6aが挿入されて固定されている。これにより両ねじ溝1a,2aと循環チューブ6A,6Bとからなるボール循環路が形成され、かかるボール循環路のうち、両ねじ溝1a,2a部分によって負荷領域3が形成される。図では2対で合計4個の循環孔5aが形成されており、循環チューブが2本となっているが、循環チューブ6は1本でも、3本以上でも構わない。なお、その場合には循環チューブ6の数に対応した循環孔5aが形成されることは勿論である。
【0016】
循環チューブ6A,6Bは、例えば金属又は樹脂材料等で形成されており、循環孔5a,5aに平面部5側から挿入されてナット2に固定されている。本実施形態では、ボール循環路は2つ形成されており、したがって循環チューブ6A,6Bも2本使用されている。なお、循環孔5a,5aと循環チューブ6A,6Bの内径は同一寸法となっており、ナット2において循環チューブ6A,6Bが挿入される孔は、循環チューブ6A,6Bの厚み寸法だけ循環孔5a,5aより径大になっている。
【0017】
そして、ナット2のねじ溝2aとねじ軸1のねじ溝1aとの間で、2つのボール循環路を夫々形成する2つの負荷領域3にデフレクタ7を備える。図3は、デフレクタ7の図1におけるA−A線の断面を示した図である。また、図4は、ナット2の図1におけるA−A線の断面を示した図である。
デフレクタ7は、両ねじ溝1a,2aの連続方向に延びた形状を有しており、材質としては、例えば樹脂材料や金属材料等があげられる。デフレクタ7の長手方向(すなわち、ねじ溝1a,2aの螺旋方向)両端面は、ボール4をすくい上げて循環チューブ6A,6Bへ移送するためのすくい上げ面7aを形成している。また、この両すくい上げ面7aが、循環孔5aに挿入された循環チューブ6A,6Bの内面に連続するように、デフレクタ7がナット2に後述のように固定されている。
【0018】
すなわち、デフレクタ7は、位置決めピン8によってナット2のねじ溝2a(溝底)に位置決めされ、ボルト10によって、ナット2に固定されている。デフレクタ7には、特に図3に示すように、ナット2のねじ溝2a(溝底)に接する面に、デフレクタ7の長手方向両端面(すくい上げ面7a)から等しい距離Xの位置に1個のピン穴7bが形成されている。つまり、デフレクタ7の長手方向の一端面からピン穴7bまでの距離Xと、デフレクタ7の長手方向の他の端面からピン穴7bまでの距離Xが等しくなるよう形成されている。
【0019】
また、特に図4に示すように、ナット2におけるピン挿入孔5bは、平面部5上で、循環孔5a,5aの円の中心線B,Bどうしを結ぶ直線上で同中心線B,Bから等しい距離Yの位置に、ナット2の外周面からその中心に向けて貫通するように形成されている。つまり、一方の循環孔5aの円の中心線Bからピン挿入孔5bの中心までの距離Yと、他方の循環孔5aの円の中心線Bからピン挿入孔5の中心までの距離Yが等しくなるように形成されている。さらに、ピン挿入孔5bは、デフレクタ7をナット2に位置決め及び固定する際に、デフレクタ7に形成されたピン穴7bに重なるように形成されている。
【0020】
そして、デフレクタ7は、位置決めピン8をピン挿入孔5bを経てこのピン挿入孔5bの奥側とピン穴7b内に挿入することにより、ナット2のねじ溝2a(溝底)に位置決めされている。
位置決めピン8は、デフレクタ7をナット2にボルト10で固定した後にボールねじから撤去することができる。ここで使用されている位置決めピン8には、図5に拡大して示されるように、これに雄ねじやノック抜き治具等を螺合させるための抜きタップ8aが形成されている。
【0021】
また、デフレクタ7にはボルト10を螺入するための2つのねじ孔7c,7cが形成されており、デフレクタ7は、前記位置決めピン8と平行な2本のボルト10によりナット2に固定されている。本実施形態においてねじ孔7c,7cは、ピン穴7bを中心として、デフレクタ7の長手方向に対称の位置に形成されている。さらに、ナット2にも、前記ボルト10が貫通する孔5c,5cが形成されている。これら孔5c,5cは、デフレクタ7をナット2に固定する際に、前記ねじ孔7c,7cと同軸になるように形成されている。
【0022】
このようなボールねじは次のように動作する。すなわち、ねじ軸1とナット2との相対的な回転により、ねじ軸1とナット2とが軸方向に相対直線移動する。この時、負荷領域3内では、ねじ軸1とナット2のいずれか一方の回転力がボール4を介して他方の直進力に変換され、ここで転動するボール4は、循環チューブ6A,6Bを通って循環されるようになっている。すなわち、ボール4は負荷領域3内を移動し、ねじ軸1の回りを回ってから、デフレクタ7のすくい上げ面7aに当たり、進路を変更されて一方の循環チューブ6Aの一方の端部である開口部6aから、循環チューブ6A内にすくい上げられる。すくい上げられたボール4は、循環チューブ6Aの中を通って、循環チューブ6Aの他方の開口部6aから負荷領域3の始点に戻される。このように、負荷領域3内を転動するボール4が、負荷領域3の始点と終点とを連通させる循環チューブ6Aにより無限に循環されるようになっているので、ねじ軸1とナット2とは継続的に相対直線移動することができる。この時、他方の循環チューブ6Bにおいては、その端部からデフレクタ7の反対側の端面であるすくい上げ面7a(この場合はすくい上げていないが)を経て、負荷領域3内にボールが循環されていることは勿論である。
【0023】
前記デフレクタ7の組付けは以下のようになされる。すなわち、デフレクタ7は、ピン穴7bを基準として、デフレクタ7の長手方向の一端面からピン穴7bまでの距離Xと、デフレクタ7の長手方向の他の端面からピン穴7bまでの距離Xが等しくなるように加工される。また、ナット2は、一方の循環孔5aの円の中心線Bからピン挿入孔5bの中心までの距離Yと、他方の循環孔5aの円の中心線Bからピン挿入孔5の中心までの距離Yが等しくなるように加工される。
【0024】
デフレクタ7を、ピン穴7bとピン挿入孔5bとが同軸となるようにナット2のねじ溝2aに配置した後、位置決めピン8をピン挿入孔5bに挿入する。この挿入は、位置決めピン8の抜きタップ8aに、先端に雄ねじを形成した治具を螺合させた状態で行うと容易であるが、他の方法を用いて挿入することもできる。デフレクタ7は、位置決めピン8がピン挿入孔5bの奥まで挿入され、且つ位置決めピン8の長手方向途中までがピン穴7bに挿入されることによりナット2のねじ溝2a(溝底)に位置決めされる。また、この時、デフレクタ7は、デフレクタ7のねじ孔7c,7cとナット2の孔5c,5cが同軸になるように位置決めされている。このように位置決めされた状態で、ボルト10を孔5c,5cからねじ孔7c,7cに螺入してデフレクタ7をナット2に固定する。
【0025】
また、デフレクタ7をボルト10によりナット2に固定した後に、雄ねじやノック抜き治具等を抜きタップ8aに螺合させて締め込み、引き抜くことによって、位置決めピン8をボールねじから撤去することができる。なお、抜きタップ8aは、その下穴が位置決めピン8を貫通するタイプのものでもよい。また、前記位置決めピン8は、前記挿入状態のまま残留させることもできる。この場合には位置決めピン8は、抜きタップ8aのないものを使用することも可能である。
上記のようにデフレクタ7を固定したナット2を用いてボールねじを組立てるには、ナット2にねじ軸1を挿入し、さらにボール4を負荷領域3に挿入する。次に、ナット2の平面部5側から循環孔5a,5aに循環チューブ6A,6Bを挿入して、循環チューブ6A,6Bをナット2に固定することにより、ボールねじとすることができる。
【0026】
また、他のボールねじの組立て手順としては、まず、デフレクタ7をナット2に固定した後、このナット2に仮軸を挿入する方法もある。この場合には、さらにボール4を負荷領域3に挿入する。次に、ナット2の平面部5側から循環孔5a,5aに循環チューブ6A,6Bを挿入して、循環チューブ6A,6Bをナット2に固定する。このナット2を、内部に配置されたボール4の組み込み状態を保持した仮軸からねじ軸1に移す。具体的には、仮軸の端部にねじ軸1を接続して、仮軸をナット2に対して相対的に回転することで、ナット2及びボール4を仮軸からねじ軸1に移すことにより、ボーねじとすることができる。
【0027】
このように、本実施形態のボールねじは、デフレクタ7を、位置決めピン8を用いてナット2のねじ溝2aに位置決めした後、ボルト10でナット2に固定している。そのため、従来のように、ボルト10と、ボルト10が貫通している孔との径差があっても、位置決めピン8で位置決めされているから、デフレクタ7をナット2に取り付ける際に、デフレクタ7のねじ溝に沿う方向への位置ずれが生じにくい。
【0028】
また、デフレクタ7をボルト10によりナット2に固定した後も、位置決めピン8をピン穴7bに差し入れたままにすることにより、ボルト10の他、位置決めピン8によってもデフレクタ7をナット2に固定することができる。したがって、ボールねじの作動時にボール4が繰り返しすくい上げ面7aに当たっても、ボルト10と併せて位置決めピン8によりナット2に固定されているため、デフレクタ7はねじ溝に沿う方向への位置ずれが生じにくい。さらに、デフレクタ7をボルト10によりナット2に固定した後に、位置決めピン8を撤去することにより、位置決めピン8を他のボールねじの製造にも用いることができる。このため、コストを低くすることが可能となる。
【0029】
また、デフレクタ7のピン穴7bに関する前記の距離X,Xを等しく、また、ナット2の前記の距離Y,Yを等しくしているから、デフレクタ7、ナット2といった部品単体の寸法を管理することにより、ボールねじの組立て時の位置の精度を管理するための基準とすることができる。したがって、各部品を合わせてその寸法を調整する、現物合わせによる調整加工が不要となり、組立て時の位置ずれを最小にすることができる。
したがって、本実施形態のボールねじは、デフレクタ7をナット2に取り付ける際に、デフレクタ7のねじ溝に沿う方向の位置ずれが生じにくいため、ボール循環の円滑性を劣化させることがない。また、位置のずれにより生じる騒音ないし振動、及び、循環チューブ6などの部品の劣化などの不具合が生じにくい。
【0030】
〔第2実施形態〕
次に、第2の実施形態について、図6を用いて説明する。図6は、説明のために一部を破断して示している。なお、第2の実施形態のボールねじの構成、作用及び製造方法等は、第1の実施形態のボールねじとほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
図6は、本実施形態に係るボールねじの断面図であり、第1の実施形態の図2に対応する。ここで、ねじ軸1、ナット2、負荷領域3、ボール4、循環チューブ6A、6B、デフレクタ7については、第1の実施形態と同じである。
【0031】
本実施形態では、デフレクタ7は、2本の位置決めピン8,8によりナット2に位置決めされている。具体的には、デフレクタ7には、ナット2のねじ溝2aの溝底に接する面に、デフレクタ7の長手方向両端面から夫々等しい位置に2本のピン穴7b,7bが形成されている。
また、ナット2におけるピン挿入孔5bも2本あって、これらは、平面部5上であり、各循環孔5a,5aの円の各中心線から等しい距離の位置に、ナット2の外周面から内周面に貫通するように形成されている。勿論、ピン挿入孔5bは、デフレクタ7をナット2に固定する際に、デフレクタ7に形成されたピン穴7bに重なるように形成されている。
【0032】
また、デフレクタ7を止めるボルト10は1本であり、これが螺入されるねじ孔7cは、ナット2のねじ溝2aの溝底に接する面に、デフレクタ7の長手方向中央位置に形成されている。孔5cは、ボルト10を通すためのナット2に形成された孔である。
このように、本実施形態のボールねじは、デフレクタ7を2本の位置決めピン8,8を用いて位置決めしている。そのため、第1の実施形態のボールねじに比して、デフレクタ7をナット2に取り付ける際に、取付ボルト10が径方向にさらに移動しにくくなり、デフレクタ7のねじ溝に沿う方向への位置ずれがより生じにくい。
【0033】
また、第1の実施形態のように位置決めピン8,8は撤去することもできるが、デフレクタ7をボルト10によりナット2に固定した後も、位置決めピン8,8をピン穴7b,7bに差し入れたままにすることにより、ボルト10の他、位置決めピン8,8によってもデフレクタ7をナット2に固定することができる。したがって、ボールねじの作動時にボール4が繰り返しすくい上げ面7aに当たっても、第1の実施形態のボールねじに比して、デフレクタ7はねじ溝に沿う方向への位置ずれがより生じにくい。
【0034】
ピン挿入孔5bとピン穴7bの位置を前記のように形成したため、本実施形態でもデフレクタ7、ナット2といった部品単体の寸法を管理することにより、ボールねじの組立て時の位置の精度を管理するための基準とすることができる。したがって、各部品を合わせてその寸法を調整する、現物合わせによる調整加工が不要となり、組立て時の位置ずれを最小にすることができる。
【0035】
〔第3実施形態〕
次に、第3の実施形態について、図7を用いて説明する。図7は、説明のために一部を破断して示している。なお、第3の実施形態のボールねじの構成、作用及び製造方法は、第1及び第2の実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
図7は、本実施形態に係るボールねじの断面図であり、第1の実施形態の図2及び第2の実施形態の図6に対応する。
【0036】
循環チューブ6A,6Bの開口部6aは、U字状の内側の部分が長く、外側の部分が短くなるように斜めに開口し、前記内側の部分が負荷領域3に延べ出されて、デフレクタ7の端面を覆うように形成されている。この負荷領域3に延べ出た循環チューブ6の端部は、ボールをすくい上げて循環チューブ6の奥へ移送するためのすくい上げ部6bを形成している。
【0037】
デフレクタ7の長手方向両端面は、すくい上げ部6bの裏面に当てて、すくい上げ部6bをバックアップするようにナット2のねじ溝2aに固定されている。よって、デフレクタ7の長さは、その両端のすくい上げ部6bの厚み寸法だけ、第1及び第2の実施形態のものより短くなっている。
循環チューブ6A,6Bの一部によりすくい上げ部6bを形成したので、すくい上げ部6bから循環チューブ6A,6B内までが一体の部材により構成されているから、これらの間のボール4の案内が、途中に段差を生じることがないため円滑になる。
【0038】
また、すくい上げ部6bの裏をバックアップするデフレクタ7は、位置決めピン8を用いてナット2のねじ溝2aに位置決めした後、ボルト10でナット2に固定されている。そのため、デフレクタ7をボルト10でナット2に取り付ける際に、デフレクタ7のねじ溝に沿う方向への位置ずれが生じにくい。このため、すくい上げ部6bを負荷領域3方向に押し出したり、すくい上げ部6bとの間に隙間を生じたりすることもない。
なお、以上の各本実施形態は本発明の夫々の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、デフレクタ7を固定する位置決めピン8の数を1本ないし2本としたが、3本以上で固定してもよい。また、ボルト10の数も限定されない。
【0039】
〔第1実施形態の他の応用例〕
前記図1〜図5に示した第1の実施形態は循環チューブ6Aの一方の端部と循環チューブ6Bの一方の端部との間にのみデフレクタ7を装着したものであるが、図8は前記図1〜図5のボールねじに3個のデフレクタ7を装着した例である。この図8の例では、図1〜図5の例に加えて、循環チューブ6Aの他方の端部が臨む循環穴5aとこれに連なる負荷領域3との間、及び循環チューブ6Bの他方の端部が臨む循環穴5aとこれに連なる負荷領域3との間にもそれぞれデフレクタ7を装着している。このように全ての循環穴5aに望ませてデフレクタ7を備えることが好ましい。
【0040】
〔第4実施形態〕
次に第4の実施形態について、図9を用いて説明する。この実施形態はデフレクタ7の構造が前記のものと相違している。すなわち、デフレクタ7のピン穴7bをねじ軸1に向けて貫通穴にしたことがこの実施形態の特徴である。こうすることで、位置決めピン8(図2、5参照)を抜いた後に、このピン穴7によりグリースや潤滑油等を外部から負荷領域3内に供給することも可能である。なお、図9は前記した図3のデフレクタ7のピン穴7bを貫通穴にしたものであるが、図6に示したようにピン穴7bが2つあるデフレクタ7の場合にも、これらピン穴7bの一方又は両方を貫通穴とすることができるのは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 ねじ軸
1a ねじ溝
2 ナット
2a ねじ溝
3 負荷領域
4 ボール
5 平面部
5a 循環孔
5b ピン挿入孔
5c 孔
6 循環チューブ
6b すくい上げ部
7 デフレクタ
7a すくい上げ面
7b ピン穴
7c ねじ孔
8 位置決めピン
10 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸の外側にあり前記ねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して前記両ねじ溝間に負荷領域を形成するナットと、前記負荷領域内に転動可能に装填される複数のボールと、前記両ねじ溝間に両ねじ溝に沿って装着され前記ナットにボルト止めされるデフレクタと、を備えるボールねじの製造方法であって、
前記ナットのねじ溝に前記デフレクタを配置し、このデフレクタに予め形成されたピン穴に、前記ナットの外周面から、同ナットに予め形成されたピン挿入孔を経て位置決めピンを差し入れて、この位置決めピンにより前記デフレクタを前記ナットに位置決めした後、前記デフレクタを前記ナットに前記ボルトで固定することを特徴とするボールねじの製造方法。
【請求項2】
前記デフレクタを前記ナットのねじ溝に前記ボルトで固定した後に、前記位置決めピンをピン穴に差し入れたままにして、前記デフレクタを前記ボルトに加えて前記位置決めピンによっても固定することを特徴とする請求項1に記載のボールねじの製造方法。
【請求項3】
前記デフレクタを前記ナットのねじ溝に前記ボルトで固定した後に、前記位置決めピンを取り外すことを特徴とする請求項1に記載のボールねじの製造方法。
【請求項4】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸の外側にあり前記ねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して前記両ねじ溝間に負荷領域を形成するナットと、前記負荷領域内に転動可能に装填された複数のボールと、前記両ねじ溝間に両ねじ溝に沿って装着され前記ナットにボルト止めされたデフレクタと、を備えたボールねじにおいて、
前記ナットのねじ溝に前記デフレクタを配置し、このデフレクタのピン穴に、前記ナットの外周面から、同ナットのピン挿入孔を経て位置決めピンを差し入れて、この位置決めピンにより前記デフレクタを前記ナットに位置決めして、前記デフレクタを前記ナットのねじ溝に前記ボルトで固定したことを特徴とするボールねじ。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−50208(P2013−50208A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168496(P2012−168496)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】