説明

ボールねじ用接触シール及びボールねじ

【課題】ボールねじのトルク上昇や発熱を引き起こすことなくナットの内部への異物の侵入を防止することができるとともに、低コストで製造可能なボールねじ用接触シールを提供する。また、トルク上昇や発熱が生じにくく安価なボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ1は、ねじ軸3と、ナット5と、ねじ溝3a,5aの間に転動自在に配された複数のボール9と、ナット5の軸方向両端部に取り付けられた略環状の接触シール13と、を備えている。接触シール13は、外周部がナット5の内周面に取り付けられ、内周部がねじ軸3の外周面に摺接している。接触シール13の中心孔にはねじ軸3が挿通されているが、この中心孔の内周面の内径はねじ軸3の外周面の外径よりも小さく形成されている。接触シール13は、周方向の一箇所で切断されて断面形状略C字状をなしているとともに、前記切断により形成されているスリットが開閉可能なように弾性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに取り付けて使用する接触シールに関する。また、本発明は、接触シールを備えるボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等に組み込まれるボールねじは、切削粉等の異物がねじ軸の外周面に付着する可能性が高い。このような環境下で使用されるボールねじにおいては、ねじ軸の外周面に付着した異物がナットの内部に侵入し、ボールとねじ溝との間に入り込んで、部品の摩耗、ボールねじの作動特性の低下、寿命低下が引き起こされるおそれがある。
そのため、前記環境下で使用されるボールねじには、ナットの内部への異物の侵入を防ぐために、ねじ軸とナットとの間の隙間の開口を密封する略環状の接触シールが取り付けられる。そして、ねじ軸のねじ溝に接触するような形状となっている接触シールの内周部を、スプリング等のバネ機構による付勢力を用いてねじ軸の外周面に押圧することにより、ナットの内部への異物の侵入がより生じにくくなるようにしていた(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−255661号公報
【特許文献2】特開2000−145917号公報
【特許文献3】特開2005−214407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スプリング等のバネ機構による付勢力を用いて接触シールをねじ軸の外周面に押圧すると、接触シールとねじ軸との接触力が強くなるため、ボールねじのトルクの上昇や発熱が生じるおそれがあった。また、特許文献1に記載のもののように、ガータースプリングで接触シールをねじ軸の外周面に押圧する場合には、接触シールの径方向の剛性を低くするために、略環状の接触シールを周方向の一箇所で切断してスリットを設けたり、接触シールの軸方向長さを長くする必要がある。そのため、接触シールの構造が複雑化して、製造コストが上昇するという問題点を有していた。また、接触シールの軸方向長さが長いことにより、ナットのストロークが小さくなるという問題点も有していた。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ボールねじのトルク上昇や発熱を引き起こすことなくナットの内部への異物の侵入を防止することができるとともに、低コストで製造可能なボールねじ用接触シールを提供することを課題とする。また、トルク上昇や発熱が生じにくく安価なボールねじを提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るボールねじ用接触シールは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝の間に転動自在に配された複数のボールと、を備えるボールねじに使用され、外周部を前記ナットに取り付けて内周部を前記ねじ軸に摺接させる略環状の接触シールであって、下記の条件A,Bを満足することに加えて、下記の条件C,Dのうち少なくとも一方を満足することを特徴とする。
条件A:前記ねじ軸が挿通される中心孔の内周面は、前記ねじ軸の外周面の形状に対応する形状をなしており、前記ねじ軸のねじ溝に対応するシール凸部と、前記ねじ軸のねじ山に対応するシール凹部と、が形成されている。
条件B:周方向の一箇所で切断されて断面形状略C字状をなしているとともに、前記切断により形成されているスリットが開閉可能なように弾性を有する。
条件C:前記中心孔の内周面のうち前記シール凸部が形成されている部分の内径が、前記ねじ軸の外周面のうち前記ねじ溝が形成されている部分の外径よりも小さい。
条件D:前記中心孔の内周面のうち前記シール凹部が形成されている部分の内径が、前記ねじ軸の外周面のうち前記ねじ山が形成されている部分の外径よりも小さい。
【0006】
また、本発明に係るボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝の間に転動自在に配された複数のボールと、前記ナットに取り付けられ前記ねじ軸に摺接する接触シールと、を備えるボールねじにおいて、前記接触シールを前記ボールねじ用接触シールとしたことを特徴とする。
このようなボールねじにおいては、前記ボールねじ用接触シールが径方向に変位可能なように、前記ボールねじ用接触シールの外周部と前記ナットの内周面との間に隙間を設けて、前記ボールねじ用接触シールを前記ナットに取り付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るボールねじ用接触シールは、シール自体の弾性力により、接触シールの内周部をねじ軸に押圧するようになっているので、ボールねじのトルク上昇や発熱を引き起こすことなくナットの内部への異物の侵入を防止することができる。また、構造が単純であるため、低コストで製造可能である。
また、本発明のボールねじは、上記のようなボールねじ用接触シールを備えているので、トルク上昇や発熱が生じにくく安価である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るボールねじの一実施形態の構造を説明する断面図である。
【図2】接触シールの変形例を示す斜視図である。
【図3】接触シールの別の変形例を示す斜視図である。
【図4】接触シールの別の変形例を示す斜視図である。
【図5】接触シールをナットに取り付ける方法を説明する断面図である。
【図6】接触シールをナットに取り付ける別の方法を説明する断面図である。
【図7】接触シールをナットに取り付ける別の方法を説明する断面図である。
【図8】接触シールをナットに取り付ける別の方法を説明する断面図である。
【図9】接触シールの内周部を図2のA矢視方向から見た図である。
【図10】接触シールとねじ軸のねじ溝との接触部分及びその周辺部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るボールねじ用接触シール及びボールねじの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態であるボールねじの断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図1に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転動路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転動路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11(図1には、リターンチューブの例が図示されている)と、ナット5の軸方向両端部に取り付けられた略環状の接触シール13,13と、を備えている。
【0010】
このようなボールねじ1においては、ボール9は、ボール転動路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転動路7の終点に至り、そこでボール転動路7から掬い上げられてボール循環路11の一方の端部に入る。ボール循環路11に入ったボール9はボール循環路11内を通ってボール循環路11の他方の端部に達し、そこからボール転動路7の始点に戻されるようになっている。
【0011】
よって、ボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対直線移動するようになっている。そして、ボール転動路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転動路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対直線移動することができる。
【0012】
なお、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の素材は特に限定されるものではなく、ボールねじに一般的に用いられる材料を使用可能であり、例えば鋼等の金属やセラミックや樹脂があげられる。また、ねじ溝3a,5aの断面形状は、単一の円弧からなる曲線状でもよいし、曲率中心の異なる2つの円弧を組合せた略V字状をなすゴシックアーク状でもよい。
【0013】
次に、接触シール13について説明する。ナット5の軸方向両端部には、ねじ軸3とナット5との間の隙間の開口を密封する略環状の接触シール13,13が装着されている。そして、接触シール13は、その外周部がナット5の内周面に取り付けられ、ねじ軸3の外周面の形状に対応する形状をなしている内周部の全周が、ねじ軸3の外周面に滑り接触している。すなわち、接触シール13の内周部の全周が、ねじ軸3の外周面のうち、ねじ溝3aの溝面及びねじ溝3aが形成されていない部分に滑り接触する。ただし、接触シール13の内周部は、ねじ溝3aの溝面及びねじ溝3aが形成されていない部分の両方に滑り接触する必要はなく、いずれか一方のみに滑り接触すればよい。
【0014】
また、略環状の接触シール13の中心孔にはねじ軸3が挿通されているが、この中心孔の内周面の内径はねじ軸3の外周面の外径よりも小さく形成されている。さらに、略環状の接触シール13は、周方向の一箇所で切断されて断面形状略C字状をなしている。さらに、接触シール13は弾性体で構成されており、前記切断により形成されているスリットが開閉可能なように弾性を有している。
【0015】
また、接触シール13は上記のような弾性を有しているので、中心孔の内周面の内径がねじ軸3の外周面の外径よりも小さく形成されているものの、スリットを拡開することにより中心孔にねじ軸3を挿通することができる。また、接触シール13をねじ軸3に装着した際には、接触シール13が有する弾性力により付勢されて、接触シール13の内周部はねじ軸3の外周面に押圧されている。よって、接触シール13の密封性(防塵性)が優れている。
【0016】
ここで、接触シール13の中心孔の内周面の内径と、ねじ軸3の外周面の外径との関係について、さらに詳細に説明する。ねじ軸3が挿通される接触シール13の中心孔の内周面は、ねじ軸3の外周面の形状に対応する形状をなしており、ねじ軸3のねじ溝3aに対応するシール凸部と、ねじ軸3のねじ山(ねじ溝3aが形成されていない部分)に対応するシール凹部と、が形成されている。
【0017】
そして、前記中心孔の内周面のうち前記シール凸部が形成されている部分の内径が、ねじ軸3の外周面のうちねじ溝3aが形成されている部分の外径よりも小さく形成されているとともに、前記中心孔の内周面のうち前記シール凹部が形成されている部分の内径が、ねじ軸3の外周面のうち前記ねじ山が形成されている部分の外径よりも小さく形成されている。ただし、上記のような中心孔の内周面の内径とねじ軸3の外周面の外径との2つの関係は、両方が満足される必要性は必ずしもなく、一方のみが満足され他方は満足されなくても差し支えない。
【0018】
このように、ボールねじ1の内部が接触シール13で密封されているので、塵埃,切削粉,摩耗粉等の異物が外部からナット5の内部に侵入しにくい。また、接触シール13の内周部はねじ軸3の外周面に押圧されているが、接触シール13が有する弾性力により付勢されて適度な押圧力で押圧されているので、ボールねじ1のトルク上昇や発熱を引き起こすことなくナット5の内部への異物の侵入を抑制することができる。
【0019】
さらに、接触シール13の内周部をねじ軸3の外周面に押圧する付勢力を発現する付勢手段(例えばバネ機構)を接触シール13に設ける必要がないので、接触シール13の構造が単純である。よって、接触シール13を低コストで製造することが可能であり、ひいてはボールねじ1を低コストで製造することが可能である。さらに、接触シール13の軸方向長さを長くして接触シール13の径方向の剛性を低くする必要はないので、ナット5のストロークを大きく取ることができる。
このようなボールねじ1は、切削粉等の異物がねじ軸3の外周面に付着する可能性が高いような環境下で使用されるボールねじとして好適である。例えば、工作機械等に組み込まれるボールねじとして好適である。
【0020】
接触シール13の中心孔の内周面の内径は、ねじ軸3の外周面(ねじ溝3aが形成されている部分とねじ溝3aが形成されていない部分との両方を含む)の外径よりも小さければ特に限定されるものではないが、接触シール13の中心孔の内周面の内径とねじ軸3の外周面の外径との差によって、接触シール13の内周部がねじ軸3の外周面に押圧される押圧力の大きさを調整することができるので、ねじ軸3の外周面の外径の0.5%以上5%以下小さいことが好ましい。
【0021】
0.5%未満であると、接触シール13の内周部がねじ軸3の外周面に押圧される押圧力が不十分となり、接触シール13の密封性(防塵性)が不十分となるおそれがある。一方、5%超過であると、前記押圧力が強すぎてボールねじ1のトルク上昇や発熱が引き起こされるおそれがある。例えば、ねじ軸3の外周面の外径が40mmである場合は、接触シール13の中心孔の内周面の内径は39mmとすればよい。
【0022】
なお、接触シール13の内周部は、ねじ軸3の外周面の形状に対応する形状をなしているので、ねじ軸3のねじ溝3aに対応するシール凸部と、ねじ軸3のねじ山に対応するシール凹部を有しているが、接触シール13の中心孔の内周面の内径は、シール凸部とシール凹部のいずれの部分においても、対応するねじ溝3aとねじ山の部分におけるねじ軸3の外周面の外径の0.5%以上5%以下小さく形成されていることが好ましい。
【0023】
また、接触シール13の中心孔にねじ軸3が挿通されている状態では、スリットが若干開いた状態、すなわち隙間がある状態となるので、この隙間からナット5の内部へ異物が侵入するおそれがある。例えば、略環状の接触シール13を周方向の一箇所で切断して断面形状略C字状とする際に、接触シール13の中心又は中心近傍を通り且つ軸方向に沿う平面で切断した場合に形成されるスリットは、異物の侵入が比較的生じやすい。そこで、異物の侵入が生じにくいように、スリット形状を工夫することが好ましい。
【0024】
例えば、図2〜4に示すようなスリット形状が好ましい。図2は、接触シール13の中心又は中心近傍を通り且つ軸方向に対して所定の角度を有する平面で切断した場合に形成されるスリットを示す、接触シール13の斜視図である。また、図3は、接触シール13の中心又は中心近傍を通り且つ軸方向に対して所定の角度を有する平面を2つ用いて切断した場合に形成されるスリットを示す、接触シール13の斜視図である。図3から分かるように、2つの平面は交差しているため、接触シール13を径方向外方から見たスリット形状は略V字状をなす。さらに、図4は、接触シール13の中心又は中心近傍を通らず且つ軸方向に沿う平面で切断した場合に形成されるスリットを示す、接触シール13の斜視図である。図4から分かるように、該平面は径方向に対して所定の角度を有する。
さらに、接触シール13の材質は、弾性変形可能なものであれば特に限定されるものではないが、樹脂,エラストマー,ポリテトラフルオロエチレン等が好ましい。
【0025】
次に、接触シール13をナット5に取り付ける方法について説明する。図1のボールねじ1においては、ナット5の外周面と内周面とを貫通する貫通孔5bに外周面側から挿通されたビス15により、接触シール13の外周部がナット5の内周面に取り付けられている。
ただし、接触シール13は、軸方向及び周方向には変位がなるべく生じないように取り付けられている。これにより、接触シール13がナット5から脱落することが防止されている。ただし、前述した接触シール13の弾性変形可能性が失われないように取り付ける必要がある。また、接触シール13が径方向に変位可能なように、接触シール13の外周部とナット5の内周面との間には隙間(図1には図示せず)が設けられている。すなわち、ナット5の内周面のうち接触シール13が取り付けられる部分については、その内径が接触シール13の外径よりも大きく設定されている。これにより、接触シール13の外周部が前記隙間内に変位することが可能となっているので、スリットが開く方向に接触シール13が弾性変形することが可能である。そして、このように接触シール13が径方向外方に変位可能となっているため、接触シール13の内周部がねじ軸3の外周面を押圧する押圧力が過大となることが防止される。
【0026】
なお、接触シール13が軸方向にはなるべく変位しないように、且つ、周方向及び径方向には変位可能なように、接触シール13の外周部をナット5の内周面に取り付けてもよい。例えば、図5に示すように、ナット5の内周面に形成した円周溝17にリング状のストッパー21を嵌め込み、ナット5の内周面に設けた壁部5cとストッパー21とで接触シール13の外周部を挟むことにより、軸方向の変位が小さくなるように接触シール13を取り付けてもよい。
【0027】
接触シール13の外周部とナット5の内周面との間には隙間が設けられているので、接触シール13は径方向に変位可能となっている。また、接触シール13の外周部は、壁部5cとストッパー21との間に完全には固定されていないので、接触シール13は周方向に変位可能(回転可能)となっている。なお、ストッパー21はリング状でなくても差し支えなく、平板状又は棒状のストッパーの複数を周方向に並べて取り付けてもよい。この場合には、円周溝17の代わりに、平板状又は棒状のストッパーを嵌め込む凹部を周方向に複数並べて設けてもよい。
【0028】
また、図6に示すように、ナット5の内周面に形成した円周溝23に接触シール13の外周部を嵌め込むことにより、軸方向にはなるべく変位しないように接触シール13を取り付けてもよい。接触シール13の外周部と円周溝23の内周面との間には隙間が設けられているので、接触シール13は径方向に変位可能となっている。また、接触シール13の外周部は、円周溝23に完全には固定されていないので、接触シール13は周方向に変位可能(回転可能)となっている。
【0029】
さらに、図7に示すように、ナット5の軸方向端面にリング状のストッパー25を固定し、ナット5の内周面に設けた壁部5cとストッパー25のうちナット5の内周面よりも径方向内方に突出した部分とで接触シール13の外周部を挟むことにより、軸方向にはなるべく変位しないように接触シール13を取り付けてもよい。接触シール13の外周部とナット5の内周面との間には隙間が設けられているので、接触シール13は径方向に変位可能となっている。また、接触シール13の外周部は、壁部5cとストッパー25との間に完全には固定されていないので、接触シール13は周方向に変位可能(回転可能)となっている。
【0030】
さらに、図8に示すように、ナット5の外周面と内周面とを貫通する貫通孔5bに外周面側から挿通されたビス15により、軸方向にはなるべく変位しないように接触シール13を取り付けてもよい。すなわち、接触シール13の外周部に円周方向の全周に渡って溝部13aを形成し、該溝部13a内にビス15の先端を配することにより、軸方向にはなるべく変位しないように接触シール13が取り付けられている。接触シール13の外周部とナット5の内周面との間には隙間が設けられているので、接触シール13は径方向に変位可能となっている。また、ビス15の先端と溝部13aとの間には多少の隙間があるので、接触シール13は周方向に変位可能(回転可能)となっている。
【0031】
ナット5が軸方向に相対直線移動した際には、ねじ軸3のねじ山とストッパーに相当する部分(図1,8の場合はビス15、図5,7の場合はリング状のストッパー21,25、図6の場合は円周溝23)との間に接触シール13が挟まれるが、ねじ軸3のねじ溝3aによって、スリットが開く方向の分力が接触シール13に付与されるため、接触シール13がねじ溝3aに食い込むことはなく、接触シール13の内周部がねじ軸3の外周面に一定の押圧力で押圧される。
【0032】
また、図9は、接触シール13の内周部を図2のA矢視方向から見た図である。ねじ軸3と接触した接触シール13は、周方向には変位不可なように取り付けられている場合は、ねじ軸3が回転した際に周方向(図9におけるx方向)の力を受けながら、軸方向(図9におけるy方向)に移動していくこととなる。これにより、接触シール13のシール凸部はねじ溝3aに楔のように入り込んで行くこととなる。接触シール13は、この食い込んで行く際の力と自身の弾性力とによりねじ軸3の外周面に押圧される。
【0033】
ただし、この食い込んで行く際の力が大きくなり過ぎると発熱が生じるおそれがあるが、図10に示すように、接触シール13の内周部とねじ溝3aとの接触角は鈍角であり、食い込んで行く際の力が大きくなるとスリットが開く方向の力が接触シール13に作用するため、接触シール13の外周部とナット5の内周面との間に隙間が存在すれば、食い込んで行く際の力が極端に大きくなり過ぎることはない。
【符号の説明】
【0034】
1 ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝
5 ナット
5a ねじ溝
7 ボール転動路
9 ボール
13 接触シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝の間に転動自在に配された複数のボールと、を備えるボールねじに使用され、外周部を前記ナットに取り付けて内周部を前記ねじ軸に摺接させる略環状の接触シールであって、下記の条件A,Bを満足することに加えて、下記の条件C,Dのうち少なくとも一方を満足することを特徴とするボールねじ用接触シール。
条件A:前記ねじ軸が挿通される中心孔の内周面は、前記ねじ軸の外周面の形状に対応する形状をなしており、前記ねじ軸のねじ溝に対応するシール凸部と、前記ねじ軸のねじ山に対応するシール凹部と、が形成されている。
条件B:周方向の一箇所で切断されて断面形状略C字状をなしているとともに、前記切断により形成されているスリットが開閉可能なように弾性を有する。
条件C:前記中心孔の内周面のうち前記シール凸部が形成されている部分の内径が、前記ねじ軸の外周面のうち前記ねじ溝が形成されている部分の外径よりも小さい。
条件D:前記中心孔の内周面のうち前記シール凹部が形成されている部分の内径が、前記ねじ軸の外周面のうち前記ねじ山が形成されている部分の外径よりも小さい。
【請求項2】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝の間に転動自在に配された複数のボールと、前記ナットに取り付けられ前記ねじ軸に摺接する接触シールと、を備えるボールねじにおいて、前記接触シールを請求項1に記載のボールねじ用接触シールとしたことを特徴とするボールねじ。
【請求項3】
前記ボールねじ用接触シールが径方向に変位可能なように、前記ボールねじ用接触シールの外周部と前記ナットの内周面との間に隙間を設けて、前記ボールねじ用接触シールを前記ナットに取り付けたことを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−159121(P2012−159121A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18060(P2011−18060)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】