ボールねじ装置
【課題】ナット内に潤滑剤を供給する際にナット内の内圧が大きくなることを防ぐことができると共に、ナット外部からの異物の混入も防ぐことができるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ラビリンスシール25の外径はナット112の凹部26の内径よりも若干小さくされており、シール25の外周部と凹部26の内周部には半径方向隙間34が形成されている。この半径方向隙間34の大きさは0.125mm〜0.5mmである。潤滑剤がナット112内に充填されてナット112内にいっぱいに満たされると潤滑剤は半径方向隙間34及び軸方向隙間35を通って、余分な潤滑剤はナット112外に排出される。
【解決手段】ラビリンスシール25の外径はナット112の凹部26の内径よりも若干小さくされており、シール25の外周部と凹部26の内周部には半径方向隙間34が形成されている。この半径方向隙間34の大きさは0.125mm〜0.5mmである。潤滑剤がナット112内に充填されてナット112内にいっぱいに満たされると潤滑剤は半径方向隙間34及び軸方向隙間35を通って、余分な潤滑剤はナット112外に排出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来ボールねじ装置には、外部から異物がナット内に入り込まないように、シールが取り付けられているものがほとんどである。そのシールの中で、ねじ軸に非接触(僅かな隙間)のシール(以下ラビリンスシールと言う)がある。
【0003】
しかしながらラビリンスシールでは、ねじ軸と非接触でありながらもナット内に潤滑剤を補給する際にシールの移動によりシールとねじ軸のねじ溝とが接触し、ナットの内圧が高くなってしまう。
【0004】
内圧が上昇するとナットとねじ軸の間の空間(潤滑剤が供給される空間)に通じた(圧力の影響を受ける)循環部品やシールなどの付属部品が外れたり、変形したり、破損したりする場合が考えられる。特に小型のボールねじで循環部品として樹脂の循環コマをナットに嵌合するタイプのボールねじについて循環コマが浮き上がるという問題が生じている。
【0005】
ナットの内圧の上昇を防止する先行技術としては、図10に示すボールねじ装置(特許文献1:特開2003−343686号公報)がある。
【0006】
図10に示すように、ボールねじ装置10は、ねじ軸11と、このねじ軸11の外周に螺合するナット12と、このナット12の両端部に組み付けられた一対のシールユニット13とを備えており、ねじ軸11の外周面には螺旋状の転動体転動溝(以下、「ボールねじ溝」という。)14が形成されている。
【0007】
このボールねじ溝14はナット12の内周面に形成されたボールねじ溝15と対向しており、ねじ軸11又はナット12のいずれか一方が回転するとナット12に組み込まれた多数のボール16が上記ボールねじ溝14,15間を転動するようになっている。なお、ボールねじ溝14,15間を転動したボール16は、ナット12に組み付けられたリターンチューブ17内を転動して元の位置に戻されるようになっている。また、ボールねじ溝15の溝面には、ナット12に設けた潤滑剤供給孔18からグリース等の潤滑剤が供給されるようになっている。
【0008】
シールユニット13は、図11に示すように、リング状のシールハウジング131と、このシールハウジング131をナット12に固定するための複数の固定ピン132とを備えており、シールハウジング131内には環状シール体133が設けられている。
【0009】
環状シール体133は、ねじ軸11を構成する材料よりも軟質の材料(例えば樹脂等)で形成されている。また、この環状シール体133は0.5mm程度の厚さで薄型に形成され、ねじ軸11の外周面に形成されたボールねじ溝14の溝面と摺接する内周縁部を有している。なお、シールハウジング131内には上述した環状シール体133の他に、環状シール体133をシールハウジング131の内面に押圧するC字形の押え部材134が設けられている。
【0010】
図12は環状シール体133の正面図であり、同図に示すように、環状シール体133には、環状シール体133が取り付けられるナット12内の空気を外部に逃がすために、通気孔19が穿設されている。このように、環状シール体133に通気孔19を設けると、環状シール体133によって密封されたナット12の内部が通気孔19を介して外部と連通することになる。
【0011】
これにより、潤滑剤供給孔18からナット12の内部にグリース等の潤滑剤を供給してもナット12の内部に封入された空気によって潤滑剤の流動が妨げられることがなく、潤滑剤供給孔18からナット12の内部に供給された潤滑剤がボールねじ溝15の溝面を滑らかに流動するので、ナット12の内部が環状シール体133により密封されていてもナット12の内周面に形成されたボールねじ溝15の溝面全体にグリース等の潤滑剤を均一に供給することができる。
【0012】
また、潤滑剤供給孔18からナット12の内部に潤滑剤を供給したときにナット12内に封入された空気によって環状シール体133が弾性変形し、ナット12の内部と外部との間に圧力差が生じるようなこともないので、ボールねじ溝面での潤滑剤の漏出や異物の吸い込み等を防止することもできる。また、潤滑剤供給孔18を塞ぐことによって作動中に起きる圧力変化を回避することができるというものである。
【0013】
この先行技術に記載された発明はナット内の空気を抜くものであり、潤滑剤の供給時に潤滑剤が封入されるにしたがって生じるナット内の空気による内圧の上昇は防ぐことができる。
【0014】
しかしながら、ナット内に潤滑剤がいっぱいに充填された時に通気孔19では潤滑剤を排出するには十分な大きさではなく、封入される潤滑剤の圧力上昇によって環状シール体133の変形や破損が考えられる。
【0015】
また、特許文献1に記載の発明ではナット内に直接通じた通気孔を環状シール体に設けていることによりナット外部から異物が入る可能性があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−343686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ナット内に潤滑剤を供給する際にナット内の内圧が大きくなることを防ぐことができると共に、ナット外部からの異物の混入も防ぐことができるボールねじ装置を提供することを課題とする。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るボールねじ装置は内周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたナットと、外周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの転動体転動溝と前記ねじ軸の転動体転動溝で形成される転動体軌道溝の間に配置されたボールと、該ボールを循環させる循環部品と、前記ナットの軸方向両端に配置されたシールとを備えたボールねじ装置であって、前記ナットは該ナット内に潤滑剤を供給するための潤滑剤供給口を有しており、前記シールは、前記ナットの両端部に設けられた凹部に配置され、前記シールの外周部と前記凹部の内周部との間には半径方向隙間が形成されており、該隙間は前記ナットに設けられた潤滑剤供給口から潤滑剤を供給したときに、潤滑剤がその隙間から漏れ出る程度の大きさとされていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係るボールねじ装置においては、前記隙間は0.125mm乃至0.5mmであることを特徴としている。
【0020】
さらに本発明に係るボールねじ装置は循環コマ式のボールねじ装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ナット内に潤滑剤を供給する際にナット内の内圧が大きくなることを防ぐことができ、循環部品などの付属部品が外れたり、破損したりするおそれが無くなると共に、ナット外部からの異物の混入も防ぐことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】循環コマ式ボールねじの構造を示す斜視図である。
【図2】循環コマ式ボールねじのナットの部分断面図である。
【図3】循環コマの斜視図である。
【図4】循環コマ式ボールねじの部分断面図を示すものである。
【図5】図4のシール部の部分拡大断面図である。
【図6】図5においてシールが軸方向に移動した状態を示す図である。
【図7】図4のシールの正面図である。
【図8】シールの変形例を示す図である。
【図9】シールの他の変形例を示す図である。
【図10】従来のボールねじ装置の部分断面図である。
【図11】図10に示すシールユニットの断面図である。
【図12】図11に示す環状シール体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るボールねじ装置の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明が好適に適用できる循環コマ式ボールねじの構造を示す斜視図である。図2は循環コマ式ボールねじのナットの部分断面図である。また、図3は循環コマの斜視図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、循環コマ式ボールねじ装置110は、ナット112の内周面に循環部品である循環コマ30を有する。循環コマ30に設けられたバイパス路32は、ねじ軸114の転動体転動溝116とナット112の転動体転動溝20が対向してなす螺旋状の転動体軌道溝22の両端を連結し、無限循環回路24を構成する。そして、多数の転動体Bが無限循環回路24内に充填されており、転動体Bは無限循環回路24内を無限循環する。
【0025】
次に、循環コマ30の構成を図2及び図3を参照して説明する。循環コマ30の上面31は、細長い小判形の面をなし、ナット112の内周面をなす曲面に応じた曲率で湾曲しており、ナット112の内周面上のねじ山21と同じ高さ位置にある。そして、循環コマ30の高さは転動体Bの直径の寸法よりも大きな寸法を有している。この上面31にバイパス路32をなす溝が形成されており、循環コマ30の一端にある出入り口34から他端にある出入り口34bまで連なっている。バイパス路32の断面はUの字形をなし、バイパス路32の底は転動体Bの球面に対応した曲面からなっている。
【0026】
また、バイパス路32は、出入り口34a側にある出入り通路36a、出入り口34b側にある出入り通路36b、出入り通路36a及び36bをつなぐ中間通路38とからなる。
【0027】
上面31上で出入り通路36a及び出入り通路36bは大きく湾曲しており、およそSの字を裏返した形となっている。また、出入り口34aが転動体転動溝22の一端と連なっており、出入り口34bが転動体転動溝22の他端と連なっている。転動体転動溝22の一端から他端までは、ねじ軸114の外周沿いにほぼ1旋回しており、出入り口34aと出入り口34bとの間には、ねじ軸114のねじ山118及びナットのねじ山21が各1条存在している。中間通路38は、出入り口34aと出入り口34bとの間にあるねじ山118を乗り越えるように、ナット112の外周側へ緩やかに湾曲している。
【0028】
そして、転動体Bは、転動体転動溝22の一端へ移動し、出入り口34aを通って出入り通路36aに入り、出入り通路36aにそって進行方向を曲げて中間通路38へ入る。中間通路38へ入った転動体Bは、中間通路38沿いにねじ山118を乗り越えて出入り通路36bへ入り、出入り通路36bに沿って進行方向を曲げて進み、出入り口34bを通って転動体転動溝22の他端へ戻る。循環コマ式ボールねじ110は、かかる転動体転動溝22と循環コマ30内のバイパス路32とからなる無限循環回路24を複数有する。
【0029】
循環コマ30はナット112の内周面上に存在するので、ナット112の外径が小さくなり、コンパクトな構造の循環コマ式ボールねじ装置110を得ることができる。
【0030】
以上説明した循環コマ式ボールねじ装置においても通常、シールがナット112の両端部に装着されている。図4に示す例ではシールとしてシールの内径部がねじ軸の軸線と直角な断面形状と同じ形状を有し(図7参照)、内径部がねじ軸114の外径部及び転動体転動溝116と僅かな隙間(およそ0.1mm)を有するラビリンスシール25が装着されている。
【0031】
図7に示す様にラビリンスシール25の外径部は円形形状である。
【0032】
ナット112の両端部には凹部26が形成され、ナット112の外周部からこの凹部26に亘ってねじ孔28が貫通している。そしてこのねじ孔28には先端が細いピン状に形成された先端部を有する止めねじ29が挿入されている。
【0033】
ラビリンスシール25の外周部には窪み27が形成されており、ラビリンスシール25を凹部26内に配置し、窪み27に止めねじ29の先端部を挿入してラビリンスシール25がナット112に固定される。窪み27の内径は止めねじ29の先端部の外径より大きく(直径でおよそ0.4mm)されており、ラビリンスシール25はねじ軸114の軸方向に若干動き得る。
【0034】
ラビリンスシール25の外径は凹部26の内径よりも若干小さくされており、ラビリンスシール25の外周部と凹部26の内周部には半径方向隙間34が形成されている。この半径方向隙間34の大きさは0.125mm〜0.5mmである。図5及び図6ではこの半径方向隙間34は誇張して示されている。
【0035】
潤滑剤供給口18からグリース等の潤滑剤をグリースガン等の潤滑剤供給機器を用いてナット112内に供給すると、ナット112内に徐々に潤滑剤が充填され、それに伴ってナット112内部の空気が徐々にラビリンスシール25の内周面と転動体転動溝116との間の隙間、もしくは空気圧によってラビリンスシール25がナット112の軸方向外側に少し移動した場合に生じる軸方向隙間35を通って外部に出て行く。
【0036】
さらに潤滑剤がナット112内に充填されてナット112内にいっぱいに満たされるとナット内に入り切らない潤滑剤は軸方向隙間35及び半径方向隙間34を通って、ナット112外に排出される。
【0037】
従来のラビリンスシール25を用いたボールねじ装置では半径方向隙間34は0.05mm〜0.1mmと0.1mm以下に設定していた。これはナット112内部に異物か侵入しないように、ラビリンスシール25の内周部と転動体転動溝116との隙間を0.1mm位と小さく設定するため、半径方向隙間34が大きいとラビリンスシール25の内周部と転動体転動溝116が接触してしまうからである。
【0038】
この従来のラビリンスシール25を用いた循環コマ式ボールねじ装置において循環コマが浮き上がるという問題が生じ,本発明者等は実験の結果以下の知見を得た。
【0039】
潤滑剤がナット112内にいっぱいに満たされた後、さらに潤滑剤が供給されると、その潤滑剤の圧力によってラビリンスシール25は転動体転動溝116に軸方向に沿って押し付けられる。
【0040】
その結果、ラビリンスシール25の内面と転動体転動溝116との間の隙間は閉ざされ、潤滑剤は軸方向隙間35に流れようとする。しかし、従来の場合には半径方向隙間34が0.05mm〜0.1mmと小さいため、潤滑剤はこの半径方向隙間34からはほとんど流出せず、潤滑剤の圧力が循環部品である循環コマ30に加わり、循環コマ30が浮いてしまうということが分った。
【0041】
そして実験の結果、この半径方向隙間34の大きさが現状の最大の0.1mmでは循環コマの浮き上がりが確認されたが、この隙間よりも0.025mm大きい0.125mm以上に設定すれば循環コマの浮き上がりを防止できることが確認された。
【0042】
ただし、半径方向隙間34が大き過ぎるとラビリンスシール25の内周部と転動体転動溝116が接触しないように調整するのが難しくなること、及び異物がナット内に入り込みにくくする為に半径方向隙間34は0.5mm以下とするのが望ましい。
【0043】
従来のボールねじ装置に対して、本発明のボールねじ装置によれば、潤滑剤の圧力によってラビリンスシール25はねじ軸114の転動体転動溝114に軸方向に押し付けられ、ラビリンスシール25の内面と転動体転動溝114との間の隙間は閉ざされてしまっても潤滑剤が流れ出るのに必要な半径方向隙間34が確保されている。したがって、循環コマ30が浮いてしまい、その結果循環コマが外れてしまったり、破損したりするおそれはない。
【0044】
また、潤滑剤の流出出口がラビリンスシール25の外周部とナット112の凹部26の内周部との間であり、直接ナット112の内部に通ずる隙間でなく、しかもその隙間も0.125mm〜0.5mmと小さいため外部からナット112内に異物が入り込む可能性も少ない。
【0045】
また、潤滑剤が漏れ出してナット112の内圧が下がると、シール25が図6に示す様に、転動体転動溝116に押し付けられ、軸方向隙間35が生じている状態から、図5に示す様に軸方向隙間35が生じなくなる状態又は小さくなる状態に戻るため、外部からの異物混入経路は遮断される。
【0046】
以上、本発明の実施の形態としてラビリンスシール25の形状を外周部が円形とした例を示したが、円形に限らず図8に示すラビリンスシール25aの様に外周部に1箇所以上の凹部を設けたり、図9に示すラビリンスシール25bの様に楕円形状とするなど凹部26の内周形状と異なる形状としても良い。これらの凹部、楕円形状によっても凹部26の内周部との間に半径方向隙間34が形成され、潤滑剤の供給によって溢れ出る潤滑剤をナット112外に排出することができる。
【0047】
また、凹部26の内周部に1箇所以上の凹部を設けても同様な効果が得られる。
更にまた、上記実施の形態では本発明を適用するボールねじ装置としてボールの循環方式がコマ式の例を説明したが、コマ式に限らずチューブ式、エンドキャップ式、エンドデフレクタ式のボールねじ装置に適用してもナット内部の圧力上昇の影響を受ける部品に悪影響を及ぼすことを防止できるという効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のシール構造は、各種ボールねじに適用できる。
【符号の説明】
【0049】
18 潤滑剤供給口
20 転動体転動溝(ナット側)
22 転動体軌動溝
25 シール(ラビリンスシール)
26 凹部
30 循環部品(循環コマ)
31 半径方向隙間
110 ボールねじ装置
112 ナット
114 ねじ軸
116 転動体転動溝(ねじ軸側)
B ボール
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来ボールねじ装置には、外部から異物がナット内に入り込まないように、シールが取り付けられているものがほとんどである。そのシールの中で、ねじ軸に非接触(僅かな隙間)のシール(以下ラビリンスシールと言う)がある。
【0003】
しかしながらラビリンスシールでは、ねじ軸と非接触でありながらもナット内に潤滑剤を補給する際にシールの移動によりシールとねじ軸のねじ溝とが接触し、ナットの内圧が高くなってしまう。
【0004】
内圧が上昇するとナットとねじ軸の間の空間(潤滑剤が供給される空間)に通じた(圧力の影響を受ける)循環部品やシールなどの付属部品が外れたり、変形したり、破損したりする場合が考えられる。特に小型のボールねじで循環部品として樹脂の循環コマをナットに嵌合するタイプのボールねじについて循環コマが浮き上がるという問題が生じている。
【0005】
ナットの内圧の上昇を防止する先行技術としては、図10に示すボールねじ装置(特許文献1:特開2003−343686号公報)がある。
【0006】
図10に示すように、ボールねじ装置10は、ねじ軸11と、このねじ軸11の外周に螺合するナット12と、このナット12の両端部に組み付けられた一対のシールユニット13とを備えており、ねじ軸11の外周面には螺旋状の転動体転動溝(以下、「ボールねじ溝」という。)14が形成されている。
【0007】
このボールねじ溝14はナット12の内周面に形成されたボールねじ溝15と対向しており、ねじ軸11又はナット12のいずれか一方が回転するとナット12に組み込まれた多数のボール16が上記ボールねじ溝14,15間を転動するようになっている。なお、ボールねじ溝14,15間を転動したボール16は、ナット12に組み付けられたリターンチューブ17内を転動して元の位置に戻されるようになっている。また、ボールねじ溝15の溝面には、ナット12に設けた潤滑剤供給孔18からグリース等の潤滑剤が供給されるようになっている。
【0008】
シールユニット13は、図11に示すように、リング状のシールハウジング131と、このシールハウジング131をナット12に固定するための複数の固定ピン132とを備えており、シールハウジング131内には環状シール体133が設けられている。
【0009】
環状シール体133は、ねじ軸11を構成する材料よりも軟質の材料(例えば樹脂等)で形成されている。また、この環状シール体133は0.5mm程度の厚さで薄型に形成され、ねじ軸11の外周面に形成されたボールねじ溝14の溝面と摺接する内周縁部を有している。なお、シールハウジング131内には上述した環状シール体133の他に、環状シール体133をシールハウジング131の内面に押圧するC字形の押え部材134が設けられている。
【0010】
図12は環状シール体133の正面図であり、同図に示すように、環状シール体133には、環状シール体133が取り付けられるナット12内の空気を外部に逃がすために、通気孔19が穿設されている。このように、環状シール体133に通気孔19を設けると、環状シール体133によって密封されたナット12の内部が通気孔19を介して外部と連通することになる。
【0011】
これにより、潤滑剤供給孔18からナット12の内部にグリース等の潤滑剤を供給してもナット12の内部に封入された空気によって潤滑剤の流動が妨げられることがなく、潤滑剤供給孔18からナット12の内部に供給された潤滑剤がボールねじ溝15の溝面を滑らかに流動するので、ナット12の内部が環状シール体133により密封されていてもナット12の内周面に形成されたボールねじ溝15の溝面全体にグリース等の潤滑剤を均一に供給することができる。
【0012】
また、潤滑剤供給孔18からナット12の内部に潤滑剤を供給したときにナット12内に封入された空気によって環状シール体133が弾性変形し、ナット12の内部と外部との間に圧力差が生じるようなこともないので、ボールねじ溝面での潤滑剤の漏出や異物の吸い込み等を防止することもできる。また、潤滑剤供給孔18を塞ぐことによって作動中に起きる圧力変化を回避することができるというものである。
【0013】
この先行技術に記載された発明はナット内の空気を抜くものであり、潤滑剤の供給時に潤滑剤が封入されるにしたがって生じるナット内の空気による内圧の上昇は防ぐことができる。
【0014】
しかしながら、ナット内に潤滑剤がいっぱいに充填された時に通気孔19では潤滑剤を排出するには十分な大きさではなく、封入される潤滑剤の圧力上昇によって環状シール体133の変形や破損が考えられる。
【0015】
また、特許文献1に記載の発明ではナット内に直接通じた通気孔を環状シール体に設けていることによりナット外部から異物が入る可能性があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−343686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ナット内に潤滑剤を供給する際にナット内の内圧が大きくなることを防ぐことができると共に、ナット外部からの異物の混入も防ぐことができるボールねじ装置を提供することを課題とする。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るボールねじ装置は内周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたナットと、外周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの転動体転動溝と前記ねじ軸の転動体転動溝で形成される転動体軌道溝の間に配置されたボールと、該ボールを循環させる循環部品と、前記ナットの軸方向両端に配置されたシールとを備えたボールねじ装置であって、前記ナットは該ナット内に潤滑剤を供給するための潤滑剤供給口を有しており、前記シールは、前記ナットの両端部に設けられた凹部に配置され、前記シールの外周部と前記凹部の内周部との間には半径方向隙間が形成されており、該隙間は前記ナットに設けられた潤滑剤供給口から潤滑剤を供給したときに、潤滑剤がその隙間から漏れ出る程度の大きさとされていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係るボールねじ装置においては、前記隙間は0.125mm乃至0.5mmであることを特徴としている。
【0020】
さらに本発明に係るボールねじ装置は循環コマ式のボールねじ装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ナット内に潤滑剤を供給する際にナット内の内圧が大きくなることを防ぐことができ、循環部品などの付属部品が外れたり、破損したりするおそれが無くなると共に、ナット外部からの異物の混入も防ぐことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】循環コマ式ボールねじの構造を示す斜視図である。
【図2】循環コマ式ボールねじのナットの部分断面図である。
【図3】循環コマの斜視図である。
【図4】循環コマ式ボールねじの部分断面図を示すものである。
【図5】図4のシール部の部分拡大断面図である。
【図6】図5においてシールが軸方向に移動した状態を示す図である。
【図7】図4のシールの正面図である。
【図8】シールの変形例を示す図である。
【図9】シールの他の変形例を示す図である。
【図10】従来のボールねじ装置の部分断面図である。
【図11】図10に示すシールユニットの断面図である。
【図12】図11に示す環状シール体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るボールねじ装置の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明が好適に適用できる循環コマ式ボールねじの構造を示す斜視図である。図2は循環コマ式ボールねじのナットの部分断面図である。また、図3は循環コマの斜視図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、循環コマ式ボールねじ装置110は、ナット112の内周面に循環部品である循環コマ30を有する。循環コマ30に設けられたバイパス路32は、ねじ軸114の転動体転動溝116とナット112の転動体転動溝20が対向してなす螺旋状の転動体軌道溝22の両端を連結し、無限循環回路24を構成する。そして、多数の転動体Bが無限循環回路24内に充填されており、転動体Bは無限循環回路24内を無限循環する。
【0025】
次に、循環コマ30の構成を図2及び図3を参照して説明する。循環コマ30の上面31は、細長い小判形の面をなし、ナット112の内周面をなす曲面に応じた曲率で湾曲しており、ナット112の内周面上のねじ山21と同じ高さ位置にある。そして、循環コマ30の高さは転動体Bの直径の寸法よりも大きな寸法を有している。この上面31にバイパス路32をなす溝が形成されており、循環コマ30の一端にある出入り口34から他端にある出入り口34bまで連なっている。バイパス路32の断面はUの字形をなし、バイパス路32の底は転動体Bの球面に対応した曲面からなっている。
【0026】
また、バイパス路32は、出入り口34a側にある出入り通路36a、出入り口34b側にある出入り通路36b、出入り通路36a及び36bをつなぐ中間通路38とからなる。
【0027】
上面31上で出入り通路36a及び出入り通路36bは大きく湾曲しており、およそSの字を裏返した形となっている。また、出入り口34aが転動体転動溝22の一端と連なっており、出入り口34bが転動体転動溝22の他端と連なっている。転動体転動溝22の一端から他端までは、ねじ軸114の外周沿いにほぼ1旋回しており、出入り口34aと出入り口34bとの間には、ねじ軸114のねじ山118及びナットのねじ山21が各1条存在している。中間通路38は、出入り口34aと出入り口34bとの間にあるねじ山118を乗り越えるように、ナット112の外周側へ緩やかに湾曲している。
【0028】
そして、転動体Bは、転動体転動溝22の一端へ移動し、出入り口34aを通って出入り通路36aに入り、出入り通路36aにそって進行方向を曲げて中間通路38へ入る。中間通路38へ入った転動体Bは、中間通路38沿いにねじ山118を乗り越えて出入り通路36bへ入り、出入り通路36bに沿って進行方向を曲げて進み、出入り口34bを通って転動体転動溝22の他端へ戻る。循環コマ式ボールねじ110は、かかる転動体転動溝22と循環コマ30内のバイパス路32とからなる無限循環回路24を複数有する。
【0029】
循環コマ30はナット112の内周面上に存在するので、ナット112の外径が小さくなり、コンパクトな構造の循環コマ式ボールねじ装置110を得ることができる。
【0030】
以上説明した循環コマ式ボールねじ装置においても通常、シールがナット112の両端部に装着されている。図4に示す例ではシールとしてシールの内径部がねじ軸の軸線と直角な断面形状と同じ形状を有し(図7参照)、内径部がねじ軸114の外径部及び転動体転動溝116と僅かな隙間(およそ0.1mm)を有するラビリンスシール25が装着されている。
【0031】
図7に示す様にラビリンスシール25の外径部は円形形状である。
【0032】
ナット112の両端部には凹部26が形成され、ナット112の外周部からこの凹部26に亘ってねじ孔28が貫通している。そしてこのねじ孔28には先端が細いピン状に形成された先端部を有する止めねじ29が挿入されている。
【0033】
ラビリンスシール25の外周部には窪み27が形成されており、ラビリンスシール25を凹部26内に配置し、窪み27に止めねじ29の先端部を挿入してラビリンスシール25がナット112に固定される。窪み27の内径は止めねじ29の先端部の外径より大きく(直径でおよそ0.4mm)されており、ラビリンスシール25はねじ軸114の軸方向に若干動き得る。
【0034】
ラビリンスシール25の外径は凹部26の内径よりも若干小さくされており、ラビリンスシール25の外周部と凹部26の内周部には半径方向隙間34が形成されている。この半径方向隙間34の大きさは0.125mm〜0.5mmである。図5及び図6ではこの半径方向隙間34は誇張して示されている。
【0035】
潤滑剤供給口18からグリース等の潤滑剤をグリースガン等の潤滑剤供給機器を用いてナット112内に供給すると、ナット112内に徐々に潤滑剤が充填され、それに伴ってナット112内部の空気が徐々にラビリンスシール25の内周面と転動体転動溝116との間の隙間、もしくは空気圧によってラビリンスシール25がナット112の軸方向外側に少し移動した場合に生じる軸方向隙間35を通って外部に出て行く。
【0036】
さらに潤滑剤がナット112内に充填されてナット112内にいっぱいに満たされるとナット内に入り切らない潤滑剤は軸方向隙間35及び半径方向隙間34を通って、ナット112外に排出される。
【0037】
従来のラビリンスシール25を用いたボールねじ装置では半径方向隙間34は0.05mm〜0.1mmと0.1mm以下に設定していた。これはナット112内部に異物か侵入しないように、ラビリンスシール25の内周部と転動体転動溝116との隙間を0.1mm位と小さく設定するため、半径方向隙間34が大きいとラビリンスシール25の内周部と転動体転動溝116が接触してしまうからである。
【0038】
この従来のラビリンスシール25を用いた循環コマ式ボールねじ装置において循環コマが浮き上がるという問題が生じ,本発明者等は実験の結果以下の知見を得た。
【0039】
潤滑剤がナット112内にいっぱいに満たされた後、さらに潤滑剤が供給されると、その潤滑剤の圧力によってラビリンスシール25は転動体転動溝116に軸方向に沿って押し付けられる。
【0040】
その結果、ラビリンスシール25の内面と転動体転動溝116との間の隙間は閉ざされ、潤滑剤は軸方向隙間35に流れようとする。しかし、従来の場合には半径方向隙間34が0.05mm〜0.1mmと小さいため、潤滑剤はこの半径方向隙間34からはほとんど流出せず、潤滑剤の圧力が循環部品である循環コマ30に加わり、循環コマ30が浮いてしまうということが分った。
【0041】
そして実験の結果、この半径方向隙間34の大きさが現状の最大の0.1mmでは循環コマの浮き上がりが確認されたが、この隙間よりも0.025mm大きい0.125mm以上に設定すれば循環コマの浮き上がりを防止できることが確認された。
【0042】
ただし、半径方向隙間34が大き過ぎるとラビリンスシール25の内周部と転動体転動溝116が接触しないように調整するのが難しくなること、及び異物がナット内に入り込みにくくする為に半径方向隙間34は0.5mm以下とするのが望ましい。
【0043】
従来のボールねじ装置に対して、本発明のボールねじ装置によれば、潤滑剤の圧力によってラビリンスシール25はねじ軸114の転動体転動溝114に軸方向に押し付けられ、ラビリンスシール25の内面と転動体転動溝114との間の隙間は閉ざされてしまっても潤滑剤が流れ出るのに必要な半径方向隙間34が確保されている。したがって、循環コマ30が浮いてしまい、その結果循環コマが外れてしまったり、破損したりするおそれはない。
【0044】
また、潤滑剤の流出出口がラビリンスシール25の外周部とナット112の凹部26の内周部との間であり、直接ナット112の内部に通ずる隙間でなく、しかもその隙間も0.125mm〜0.5mmと小さいため外部からナット112内に異物が入り込む可能性も少ない。
【0045】
また、潤滑剤が漏れ出してナット112の内圧が下がると、シール25が図6に示す様に、転動体転動溝116に押し付けられ、軸方向隙間35が生じている状態から、図5に示す様に軸方向隙間35が生じなくなる状態又は小さくなる状態に戻るため、外部からの異物混入経路は遮断される。
【0046】
以上、本発明の実施の形態としてラビリンスシール25の形状を外周部が円形とした例を示したが、円形に限らず図8に示すラビリンスシール25aの様に外周部に1箇所以上の凹部を設けたり、図9に示すラビリンスシール25bの様に楕円形状とするなど凹部26の内周形状と異なる形状としても良い。これらの凹部、楕円形状によっても凹部26の内周部との間に半径方向隙間34が形成され、潤滑剤の供給によって溢れ出る潤滑剤をナット112外に排出することができる。
【0047】
また、凹部26の内周部に1箇所以上の凹部を設けても同様な効果が得られる。
更にまた、上記実施の形態では本発明を適用するボールねじ装置としてボールの循環方式がコマ式の例を説明したが、コマ式に限らずチューブ式、エンドキャップ式、エンドデフレクタ式のボールねじ装置に適用してもナット内部の圧力上昇の影響を受ける部品に悪影響を及ぼすことを防止できるという効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のシール構造は、各種ボールねじに適用できる。
【符号の説明】
【0049】
18 潤滑剤供給口
20 転動体転動溝(ナット側)
22 転動体軌動溝
25 シール(ラビリンスシール)
26 凹部
30 循環部品(循環コマ)
31 半径方向隙間
110 ボールねじ装置
112 ナット
114 ねじ軸
116 転動体転動溝(ねじ軸側)
B ボール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたナットと、外周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの転動体転動溝と前記ねじ軸の転動体転動溝で形成される転動体軌道溝の間に配置されたボールと、該ボールを循環させる循環部品と、前記ナットの軸方向両端に配置されたシールとを備えたボールねじ装置であって、
前記ナットは該ナット内に潤滑剤を供給するための潤滑剤供給口を有しており、前記シールは、前記ナットの両端部に設けられた凹部に配置され、前記シールの外周部と前記凹部の内周部との間には半径方向隙間が形成されており、該隙間は前記ナットに設けられた潤滑剤供給口から潤滑剤を供給したときに、潤滑剤がその隙間から漏れ出る程度の大きさとされていることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記隙間は0.125mm乃至0.5mmであることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記ボールねじ装置は循環コマ式のボールねじ装置であって、循環コマが樹脂で形成されてことを特徴とする請求項1及び請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項1】
内周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたナットと、外周面に螺旋状の転動体転動溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの転動体転動溝と前記ねじ軸の転動体転動溝で形成される転動体軌道溝の間に配置されたボールと、該ボールを循環させる循環部品と、前記ナットの軸方向両端に配置されたシールとを備えたボールねじ装置であって、
前記ナットは該ナット内に潤滑剤を供給するための潤滑剤供給口を有しており、前記シールは、前記ナットの両端部に設けられた凹部に配置され、前記シールの外周部と前記凹部の内周部との間には半径方向隙間が形成されており、該隙間は前記ナットに設けられた潤滑剤供給口から潤滑剤を供給したときに、潤滑剤がその隙間から漏れ出る程度の大きさとされていることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記隙間は0.125mm乃至0.5mmであることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記ボールねじ装置は循環コマ式のボールねじ装置であって、循環コマが樹脂で形成されてことを特徴とする請求項1及び請求項2に記載のボールねじ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−133049(P2011−133049A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293788(P2009−293788)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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