説明

ボールジョイント

【課題】力の伝達遅れを防止できるとともに、異音の発生を長期に亘って防止でき、且つ、ボールの摺動抵抗のばらつきを小さくすることができるボールジョイントを提供すること。
【解決手段】ボールジョイント1のソケット5とボール7との間にボールシート6が介装されている。ボールシート6は、相対的に柔らかい第1のシート21と、相対的に硬い第2のシート22を互いの組み合わせ部31,32で組み合わせてなる。ボールシート6は、ソケット5からボール7を抜く方向U1の力F1がボール7から働いたときに、その力F1を受ける第1の受圧領域41と、ボール7をソケット5の底壁11に押し付ける方向U2の力F2がボール7から働いたときに、その力F2を受ける第2の受圧領域42とを含む。第1のシート21および第2のシート22を用いて第1の受圧領域41が構成され、第2のシート22を用いて第2の受圧領域42が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
通例、ボールジョイントは、筒状のハウジング内にボールが収容された構成を有している。ハウジングとボールとの間には、弾性体製のシートが介在しており、ボールがシートに対して摺動する。シートは、例えば、2つ割構造をなしている(例えば、特許文献1参照)。シートの一方の部材は軟質に形成されており、ハウジングの底側に配置されている。シートの他方の部材は硬質に形成されており、ハウジングの底側とは反対側であるハウジングの開口側に配置されている。
【特許文献1】特公平6−8645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
軟質のシートは力を受けたときに大きく弾性変形することから、軟質のシートを介してボールとハウジングとの間に力が伝わるとき、力の伝達遅れが生じてしまう。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、力の伝達遅れを防止できるとともに、異音の発生を長期に亘って防止でき、且つ、ボールの摺動抵抗のばらつきを小さくすることができるボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明は、ボール(7)が固定されたスタッド軸(8)と、ボールを収容しボールをボールシート(6;6C)を介して揺動可能に支持するカップ状のソケット(5)とを備え、上記ボールシートおよびソケットには、スタッド軸が挿通された開口部(19,15)がそれぞれ形成され、上記ボールシートは、相対的に柔らかい第1のシート(21;21C)と、相対的に硬い第2のシート(22;22C)とを互いの組み合わせ部(31,32;31A,32A;31B,32B;31C,32C)で組み合わせてなり、上記ボールシートは、スタッド軸を介してソケットの上記開口部からボールを抜く方向(U1)に力(F1)が働いたときに、その力を受ける第1の受圧領域(41)と、スタッド軸を介してボールをソケットの底(11)に押し付ける方向(U2)に力(F2)が働いたときに、その力を受ける第2の受圧領域(42)とを含み、第1のシートおよび第2のシートを用いて上記第1の受圧領域が構成され、第2のシートを用いて上記第2の受圧領域が構成されていることを特徴とするボールジョイント(1;1C)を提供するものである(請求項1)。
【0005】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施の形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
ボールシートには、スタッド軸を挿通させるための開口部が形成されている関係上、通例、第1の受圧領域の面積が、第2の受圧領域の面積よりも狭くなっている。したがって、第1の受圧領域での面圧が、第2の受圧領域での面圧よりも高くなる傾向にある。
【0006】
本発明によれば、第1の受圧領域が、相対的に柔らかい第1のシートおよび相対的に硬い第2のシートを用いて構成されている。したがって、第1の受圧領域に相対的に硬い第2のシートのみが配置される場合と比較して、下記の利点がある。すなわち、ボールおよびソケットの寸法精度のばらつきに拘らず、相対的に柔らかい第1のシートが相対的に大きく変形し、相対的に硬い第2のシートの変形量が低く抑えられる。したがって、第1の受圧領域での面圧のばらつきが小さい。その結果、ボールがソケット内で回転するときの摺動抵抗のばらつきが小さい。しかも、スタッド軸を介してソケットからボールを抜く方向に強い力が働いても、その力を相対的に硬い第2のシートで受けることができるので、相対的に柔らかい第1のシートのへたり等の劣化を防止することができる。これにより、ボールとボールシートとの間に隙間ができることを長期に亘って防止でき、この隙間に起因するボールのがたつき音(異音)の発生を防止できる。
【0007】
また、スタッド軸を介してソケットからボールを抜く方向に力が働いたときに、その力を受けるソケットの部分(開口部を取り囲む環状の部分)は、通例、ソケットの製造中間体を塑性変形させて形成される。その塑性変形させるときに、上記第1の受圧領域が変形するが、相対的に柔らかい第1のシートが相対的に大きく変形し、相対的に硬い第2のシートの変形量を低く抑えられる。
【0008】
さらに、ボールに、ボールをソケットから抜く方向の力が働いたとき、およびボールをソケットの底に押し付ける方向の力が働いたときのいずれでも、その力を相対的に硬いことから弾性変形し難い第2のシートで受けることができる。その結果、ボールシートの弾性変形に起因するボールとソケットとの間の力の伝達遅れを防止できる。
また、本発明において、上記第1のシートが相対的に厚肉であり、上記第2のシートが相対的に薄肉である場合がある(請求項2)。この場合、ボールおよびソケットの寸法精度のばらつきに拘らず、第1のシートがボールとソケットとの間で確実に大きく弾性変形することができ、その結果、第2のシートの変形量を低く抑える効果をより確実に発揮できる。
【0009】
また、本発明において、上記ボールシートは、第1のシートと第2のシートとがソケットの周方向(P)に交互に配置された領域(30;30C)を含む場合がある(請求項3)。
この場合、第2のシートをボールシートの開口部側へより延ばすことができる。これにより、ボールをソケットから抜く方向の力がボールに作用したときに、硬いことから耐荷重の高い第2のシートがこの力をより確実に受けることができ、ボールシートの実用上の耐荷重をより向上できる。また、第1のシートをソケットの底側へより延ばすことができる。これにより、ボールやソケットの寸法精度のばらつきに拘らず、第1の受圧領域での面圧のばらつきをより小さくできる。また、面圧が高くなる傾向にあるボールシート開口部近傍に第2のシートを配置することができる結果、相対的に柔らかい第1のシートに過大な負荷がかかることを防止でき、第1のシートのへたり等の劣化をより確実に防止できる。
【0010】
また、本発明において、各上記組み合わせ部は、ソケットの径方向(R)からみたときに波形形状をなしている場合がある(請求項4)。この場合、組み合わせ部を波形形状に形成するという簡易な構成により、第1および第2のシートをソケットの周方向に交互に配置することができる。
また、本発明において、上記第1のシートは互いに独立して複数設けられ、これら複数の第1のシートが上記ソケットの周方向に間隔を隔てて並んでいる場合がある(請求項5)。この場合、第1のシートを必要最小限だけ設けることができ、第2のシートをより多くの領域に配置できる。これにより、ボールシートに作用する力を第2のシートがより広い範囲で受けることができ、その結果、ボールシートの実用上の耐荷重をより高くできる。
【0011】
また、本発明において、上記ボールと第1のシートとの間に互いの接触を避けるための逃がし部(53)が形成されている場合がある(請求項6)。この場合、柔らかいことによりボールとの摺動抵抗が相対的に大きくなる傾向にある第1のシートをボールに接触させないようにすることができるので、ボールの摺動抵抗をより少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかるボールジョイント1の概略構成を示す一部断面図である。図2は、ボールジョイント1の製造中の状態を示す一部断面図である。図3は、図1のIII−III線に沿う断面図である。
図1を参照して、ボールジョイント1は、例えば、ラックアンドピニオン式の車両用操舵装置に備えられており、ラック軸2の一端とタイロッド3の一端とを連結する。
【0013】
ボールジョイント1は、ボールスタッド4と、カップ状のソケット5と、環状のボールシート6とを備えている。ボールスタッド4は、例えば鋼等の金属製の部材であり、ボール7と、ボール7が固定されたスタッド軸8とを含んでいる。
ボール7の表面には、球面の一部を含む球状部9が形成されている。このボール7にスタッド軸8の一端が接続されている。スタッド軸8の他端は、タイロッド3の一端に固定されている。スタッド軸8の中心軸線L1上にボール7の中心Cが配置されている。
【0014】
ソケット5は、ボール7を収容し、且つボールシート6を介してボール7を揺動可能に支持するものである。このソケット5は、例えば鋼等の金属製の単一の部材を用いた一体成形品である。ソケット5は、ボール7を取り囲む環状の周壁10と、周壁10の軸方向の一端に連なる底壁11とを含んでいる。周壁10の内周面12は、ボール7の球状部9に対向している。
【0015】
底壁11の一側面13は、周壁10の内周面12と連なっており、これら一側面13および内周面12によって、ボール7およびボールシート6を収容する収容空間14が区画されている。底壁11には、ラック軸2の一端が固定されている。底壁11とラック軸2の一端との固定は、例えば、底壁11に形成されたねじ軸(図示せず)が、ラック軸2の一端に形成されたねじ孔(図示せず)にねじ込まれることにより達成される。
【0016】
周壁10の他端(先端)には開口部15が形成されており、開口部15を通してボール7が収容空間14に挿通される。開口部15にスタッド軸8が挿通されている。周壁10の開口部15の周縁部16は、周壁10の他端に比べて縮径されており、ボール7およびボールシート6がソケット5から抜けないようにされている。
図1および図2を参照して、この周縁部16は、ソケットの製造中間体17であって、周壁10の外径が略一定の製造中間体17の周壁10の他端(先端)をかしめる(塑性変形させる)ことにより縮径されている。
【0017】
ボールシート6は、互いに別体に形成され且つ互いに組み合わされた環状の第1のシート21および第2のシート22を含んでいる。
図1および図3を参照して、第1のシート21は、ソケット5の開口部15から相対的に近く配置されている。第1のシート21の内周面23は、ボール7の球状部9の形状に沿う形状に形成されている。この内周面23は、ボール7の球状部9のうち、ソケット5の開口部15に近い開口側部24を摺動可能に支持している。スタッド軸8の中心軸線L1とボールシート6の中心軸線L2とが一致しているとき、開口側部24は、ボール7の中心Cを通り中心軸線L2に直交する平面Aに対してソケット5の開口部15側に位置している。
【0018】
第1のシート21の外周面25は、ソケット5の周壁10の内周面12に支持されている。第1のシート21の軸方向の一端には、スタッド軸8が挿通された開口部19が形成されている。この開口部19が、ボールシート6の開口部とされている。
第1のシート21は、例えば、ポリウレタンやポリエステル等のゴム状の材料(エラストマー)を用いて形成されており、相対的に柔らかくされている。第1のシート21の肉厚T1は、相対的に厚くされている。第1のシート21が相対的に厚肉にされている。なお、第1のシート21の肉厚T1は、第1のシート21に外力が作用していない自由状態における厚みをいう(図3において、自由状態のときの第1のシート21は、第1のシート21を示す実線および2点鎖線で示す部分の双方を含む)。ボールシート6が自由状態のとき、第1のシート21の外周面25が第2のシートの外周面27に対して径方向外方に位置している。
【0019】
第1のシート21は、ボール7の中心Cを通りボールシート6の中心軸線L2に直交する平面Aに対してスタッド軸8側に位置している。ソケット5の軸方向Sに関して、第1のシート21は第2のシート22よりも短く形成されている。
第2のシート22は、ソケット5の開口部15から相対的に遠く配置されている。第2のシート22の内周面26は、ボール7の球状部9の形状に沿う形状に形成されている。この内周面26は、ボール7の球状部9のうち、ソケット5の底壁11に近い底側部28、および上記開口側部24の双方を摺動可能に支持している。
【0020】
スタッド軸8の中心軸線L1とボールシート6の中心軸線L2とが一致しているとき、底側部28は、ボール7の中心Cを通りボールシート6の中心軸線L2に直交する平面Aに対して、ソケット5の開口部15から遠くに位置している。第2のシート22の外周面27は、ソケット5の周壁10の内周面12に支持されている。第2のシート22の底面51は、ソケット5の底壁11の一側面13に支持されている。
【0021】
第2のシート22は、例えば、ホモポリマーやコポリマー等のポリアセタール(POM)を用いて形成されており、相対的に硬くされている。なお、第2のシート22は、ポリアセタール以外のエンジニアリングプラスチックを用いて形成されていてもよい。第2のシート22の肉厚T2は、相対的に薄くされている。第2のシート22が相対的に薄肉にされている。
【0022】
なお、第2のシート22の肉厚T2は、第2のシート22に外力が作用していない自由状態における厚みをいう。
第2のシート22には、通孔29が形成されている。この通孔29は、ボールシート6の中心軸線L2と同心に形成されている。通孔29には、グリース等の潤滑剤が充填されており、ボール7の摺動抵抗を低減するようになっている。
【0023】
ボールシート6は、第1のシート21と第2のシート22とがソケット5の周方向Pに交互に配置された領域30を含んでいる。この領域30は、上記平面Aに対してソケット5の開口部15側に形成されている。
第1および第2のシート21,22は、互いに組み合わされた組み合わせ部31,32をそれぞれ含んでいる。これら組み合わせ部31,32が互いに組み合わされることにより、上記領域30が形成されている。
【0024】
第1のシート21の組み合わせ部31は、第1のシート21の軸方向の他端面を含んでいる。第2のシート22の組み合わせ部32は、第2のシート22の軸方向の一端面を含んでいる。各上記組み合わせ部31,32が互いに当接している。
ソケット5の径方向Rから見たとき、各上記組み合わせ部31,32は、波形形状、例えば、正弦波形状をなしている。ソケット5の軸方向Sに関して、ボールシート6のうち各上記組み合わせ部31,32が存在している領域が領域30となる。
【0025】
第1のシート21および第2のシート22のうち、ボール7の中心Cを通り中心軸線L2に直交する平面Aに対してソケット5の開口部15側に位置している領域が、第1の受圧領域41とされている。
第1の受圧領域41は、スタッド軸8を介してソケット5の開口部15からボール7を抜く方向U1(例えば、ボールシート6の中心軸線L2に沿う方向の一方)に力F1が働いたときに、この力F1を受ける領域である。
【0026】
第1の受圧領域41は、第1のシート21と第2のシート22の一部43とによって構成されている。上記第2のシート22の一部43とは、第2のシート22のうち、上記平面Aに対してソケット5の開口部15側に配置されている部分をいう。
第2のシート22のうち、ボール7の中心Cを通り中心軸線L2に直交する平面Aに対してソケット5の開口部15から遠くに位置している部分52が、第2の受圧領域42を構成している。
【0027】
第2の受圧領域42は、スタッド軸8を介してボール7をソケット5の底壁11に押し付ける方向U2(例えば、ボールシート6の中心軸線L2に沿う方向の他方)に力F2が働いたときに、その力F2を受ける受圧領域である。
図1および図2を参照して、ソケットの製造中間体17の周壁10の開口周縁部がかしめられることにより、ボールシート6およびボール7が収容されたソケット5が形成されるとき、第1および第2のシート21,22のうちの第1のシート21のみが、ソケット5とボール7との間で弾性変形する。
【0028】
すなわち、ボールジョイント1に外力が作用していない状態のとき、ボールシート6のうち、第1のシート21のみが、ソケット5とボール7との間で弾性変形している。
このとき、第2のシート22は弾性変形しない。すなわち、ボールジョイント1に外力が作用していない状態のとき、第2のシート22は、ソケット5とボール7との間で弾性変形していない。なお、このとき、第2のシート22がソケット5とボール7との間でわずかに弾性変形されるようにしてもよい。
【0029】
ボール7からボールシート6に、ボール7を抜く方向U1の力F1が作用したとき、この力F1の値が所定値以下であれば、第1および第2のシート21,22のうちの第1のシート21が主にこの力F1を受ける。一方、力F1の値が所定値を超えていれば、第1および第2のシート21,22のうちの第2のシート22が主にこの力F1を受ける。
また、ボール7からボールシート6に、ボール7をソケット5の底壁11に押し付ける方向U2の力F2が作用したとき、第2のシート22がこの力F2を受ける。
【0030】
ボールシート6には、スタッド軸8を挿通させるための開口部19が形成されている関係上、第1の受圧領域41の面積が、第2の受圧領域42の面積よりも狭くなっている。したがって、第1の受圧領域41での面圧が、第2の受圧領域42での面圧よりも高くなる傾向にある。
本実施の形態によれば、第1の受圧領域41が、相対的に柔らかい第1のシート21および相対的に硬い第2のシート22を用いて構成されている。したがって、第1の受圧領域41に相対的に硬い第2のシート22のみが配置される場合と比較して、下記の利点がある。
【0031】
すなわち、ボール7およびソケット5の寸法精度のばらつきに拘らず、相対的に柔らかい第1のシート21が相対的に大きく変形し、相対的に硬い第2のシート22の変形量が低く抑えられる。したがって、第1の受圧領域41での面圧のばらつきが小さい。その結果、ボール7がソケット5内で回転するときの摺動抵抗のばらつきが小さい。
しかも、スタッド軸8を介してソケット5からボール7を抜く方向U1に強い力F1が働いても、その力F1を相対的に硬い第2のシート22で受けることができるので、相対的に柔らかい第1のシート21のへたり等の劣化を防止することができる。これにより、ボール7とボールシート6との間に隙間ができることを長期に亘って防止でき、この隙間に起因するボール7のがたつき音(異音)の発生を防止できる。
【0032】
また、スタッド軸8を介してソケット5からボール7を抜く方向U1に力F1が働いたときに、その力F1を受けるソケット5の部分(開口部を取り囲む環状の部分)は、ソケットの製造中間体17の周壁10の開口周縁部を塑性変形させて形成される。その塑性変形させるときに、上記第1の受圧領域41が変形するが、相対的に柔らかい第1のシート21が相対的に大きく変形し、相対的に硬い第2のシート22の変形量を低く抑えられる。
【0033】
さらに、ボール7に、ボール7をソケット5から抜く方向U1の力F1が働いたとき、およびボール7をソケット5の底壁11に押し付ける方向U2の力F2が働いたときのいずれでも、その力を、相対的に硬いことから弾性変形し難い第2のシート22で受けることができる。その結果、ボールシート6の弾性変形に起因するボール7とソケット5との間の力の伝達遅れを防止できる。しかも、剛性の高い第2のシート22で上記力F1,F2を受けることができるので、ボールシート6としての耐荷重をより高くでき、ボールジョイント6の耐荷重をより高くできる。
【0034】
また、第1のシート21を相対的に厚肉にするとともに、第2のシート22を相対的に薄肉にしていることにより、ボール7とソケット5の寸法精度のばらつきに拘らず、第1のシート21がボール7とソケット5との間で確実に大きく弾性変形することができ、その結果、第2のシート22の変形量を低く抑える効果をより確実に発揮できる。
さらに、ボールシート6に、第1のシート21と第2のシート22とがソケット5の周方向Pに交互に配置された領域30が形成されていることにより、第2のシート22をボールシート6の開口部19側へより延ばすことができる。これにより、ボール7をソケット5から抜く方向U1の力F1がボール7に作用したときに、硬いことから耐荷重(許容荷重)の高い第2のシート22がこの力をより確実に受けることができ、ボールシート6の実用上の耐荷重をより向上できる。
【0035】
また、ボールシート6のうち、面圧が最も高くなる開口部19の周縁部を、相対的に硬い第2のシート22で構成することができ、ボールシート6のへたり等の劣化をより少なくできる。
さらに、第1のシート21をソケット5の底壁11側へより延ばすことができる。これにより、ボール7やソケット5の寸法精度のばらつきに拘らず、第1の受圧領域41での面圧のばらつきをより小さくできる。また、面圧が高くなる傾向にあるボールシート6の開口部19の近傍に第2のシート22を配置することができる結果、相対的に柔らかい第1のシート21に過大な負荷がかかることを防止でき、第1のシート21のへたり等の劣化をより確実に防止できる。
【0036】
さらに、第1および第2のシート21,22の組み合わせ部31,32は、ソケット5の径方向Rからみたときに波形形状をなしている。このように、組み合わせ部31,32を波形形状に形成するという簡易な構成により、第1および第2のシート21,22をソケット5の周方向Pに交互に配置することができる。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。なお、以下では、図1〜図3に示す実施の形態と異なる点について主に説明し、同様の構成には図に同様の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
例えば、図4に示すように、ソケット5の径方向Rに沿ってみたとき、第1および第2のシート21,22の互いの組み合わせ部31A,32Aが、三角波形状をなしていてもよい。また、図5に示すように、ソケット5の径方向Rに沿ってみたとき、第1および第2のシート21,22の互いの組み合わせ部31B,32Bが、矩形波形状をなしていてもよい。
【0038】
また、図6に示すように、ボール7と第1のシート21との間に互いの接触を避けるための逃がし部53が形成されていてもよい。第1のシート21の内周面23は、第2のシート22の内周面26と比べてソケット5の径方向Rの外側に位置しており、これによりボールシート6とボール7との間に逃し部53が形成されている。逃がし部53には、グリース等の潤滑剤が充填されており、ボール7の摺動抵抗がより低くなるようにされている。第1のシート21とボール7とは直接接触しないようにされている。
【0039】
この場合、柔らかいことによりボール7との摺動抵抗が相対的に大きくなる傾向にある第1のシート21をボール7に接触させないようにすることができるので、ボール7の摺動抵抗をより少なくできる。また、逃がし部53に潤滑剤が充填されていることにより、ボール7の摺動抵抗をより少なくでき、且つボールシート6の負担の低減を通じてボールシート6の長寿命化を達成できる。
【0040】
なお、各上記実施の形態において、ボールシート6の第1のシート21と第2のシート22は、2色成形等によって互いに溶着される等により、一体化されていてもよい。
また、図7に示すボールシート6Cを用いてもよい。ボールシート6Cの第1のシート21Cは、互いに独立して設けられた複数の第1のシート21Cと、第2のシート22Cとを含んでいる。
【0041】
このボールシート6Cは、例えば、2色成形によって形成されており、第1のシート21Cと第2のシート22Cとが互いに溶着する等して一体化されている。なお、第2のシート22Cの成形後に、第2のシート22Cとは別途成形された各第1のシート21Cの組み合わせ部31Cを、第2のシート22Cの対応する組み合わせ部32Cにそれぞれ固定することにより、ボールシート6Cを形成してもよい。
【0042】
スタッド軸8の中心軸線L1とボールシート6Cの中心軸線L2とが一致しているとき、第2のシート22Cは、ボール7の底側部28から開口側部24に亘って延びている。
このとき、第2のシート22Cの内周面33が、ボール7の開口側部24および底側部28の双方に摺接している。第2のシート22Cの外周面34は、ソケット5の周壁10の内周面12に支持されており、第2のシート22Cの底面54は、底壁11の一側面13に支持されている。
【0043】
図7および図8を参照して、ボールジョイント1Cに外力が作用していない状態のとき、第1および第2のシート21C,22Cのうちの、第1のシート21Cのみが、ソケット5とボール7とに挟まれて弾性変形している。なお、第2のシート22Cは、わずかに弾性変形されていてもよい。
各第1のシート21Cは、ソケット5の径方向Rに沿ってみたとき、例えば矩形形状をなしている。各第1のシート21Cは、互いに離隔して配置されており、ソケット5の周方向Pに沿って等間隔に配置されている。ソケット5の軸方向Sに関して、ボールシート6Cのうち第1のシート21Cが設けられている部分が、第1および第2のシート21C,22Cがソケット5の周方向Pに交互に配置された領域30Cとされている。この領域30Cにおいて、第2のシート22Cと対応する第1のシート21Cとの互いの組み合わせ部31C,32Cは、ソケット5の径方向Rに沿ってみて矩形形状をなしている。
【0044】
この場合、第1のシート21Cを必要最小限だけ設けることができ、第2のシート22Cをより多くの領域に配置できる。これにより、ボールシート6Cに作用する力F1,F2を第2のシート22Cがより広い範囲で受けることができ、その結果、ボールシート6の実用上の耐荷重をより高くできる。
なお、本実施の形態において、第1のシート21Cとボール7との間に逃がし部を設けることにより両者が直接接触しないようにされていてもよい。
【0045】
その他、本発明のボールジョイントは、ラック軸とタイロッドとを連結する用途以外の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるボールジョイントの概略構成を示す一部断面図である。
【図2】ボールジョイントの製造中の状態を示す一部断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】本発明の別の実施の形態のシートの要部の展開図である。
【図5】本発明のさらに別の実施の形態のシートの要部の展開図である。
【図6】本発明のさらに別の実施の形態の要部の断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施の形態にかかるボールジョイントの概略構成を示す一部断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1,1C…ボールジョイント、5…ソケット、6,6C…ボールシート、7…ボール、8…スタッド軸、11…底壁(ソケットの底)、15…(ソケットの)開口部、19…(ボールシートの)開口部、21,21C…第1のシート、22,22C…第2のシート、30,30C…領域、31,31A,31B,31C…(第1のシートの)組み合わせ部、32,32A,32B,32C…(第2のシートの)組み合わせ部、41…第1の受圧領域、42…第2の受圧領域、53…逃がし部、F1,F2…力、P…周方向、R…径方向、U1,U2…方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールが固定されたスタッド軸と、ボールを収容しボールをボールシートを介して揺動可能に支持するカップ状のソケットとを備え、
上記ボールシートおよびソケットには、スタッド軸が挿通された開口部がそれぞれ形成され、
上記ボールシートは、相対的に柔らかい第1のシートと、相対的に硬い第2のシートとを互いの組み合わせ部で組み合わせてなり、
上記ボールシートは、スタッド軸を介してソケットの上記開口部からボールを抜く方向に力が働いたときに、その力を受ける第1の受圧領域と、スタッド軸を介してボールをソケットの底に押し付ける方向に力が働いたときに、その力を受ける第2の受圧領域とを含み、
第1のシートおよび第2のシートを用いて上記第1の受圧領域が構成され、第2のシートを用いて上記第2の受圧領域が構成されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1において、上記第1のシートが相対的に厚肉であり、上記第2のシートが相対的に薄肉であるボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または2において、上記ボールシートは、第1のシートと第2のシートとがソケットの周方向に交互に配置された領域を含むボールジョイント。
【請求項4】
請求項3において、各上記組み合わせ部は、ソケットの径方向からみたときに波形形状をなしているボールジョイント。
【請求項5】
請求項3において、上記第1のシートは互いに独立して複数設けられ、これら複数の第1のシートが上記ソケットの周方向に間隔を隔てて並んでいるボールジョイント。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項において、上記ボールと第1のシートとの間に互いの接触を避けるための逃がし部が形成されているボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−24774(P2009−24774A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188390(P2007−188390)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】