説明

ボールペン用インキ組成物

【課題】筆記部材としてボールをボールホルダーにて回転自在に抱持し、ボールの回転に伴ってインキ組成物を吐出させる、いわゆるボールペン用のインキ組成物に関し、下向けで、長期間放置しても、インキ吐出部よりインキ組成物漏れがしないボールペン用インキ組成物を提供する。
【解決手段】長径が5μm以上、短径が1.0μm以下である粒子を少なくとも含み、剪断速度1s−1 の粘度が20000mPa・s(25℃)以上であるボールペン用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてボールをボールホルダーにて回転自在に抱持し、ボールの回転に伴ってインキ組成物を吐出させる、いわゆるボールペン用のインキ組成物に関し、下向けで、長時間放置されても、インキ吐出部よりのインキ組成物の漏れが少なく、また、書き出し時のインキ組成物のボテの少ないボールペン用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンは、不使用時にボールペンチップ先端部のインキ吐出口よりインキ組成物が漏れ、書き出し時に、インキ組成物のボテとして発生することがある。又、圧縮気体などの圧力によって、筆記する際のインキ組成物の吐出を支援するボールペンの場合、それが密閉構造中に常に圧力を高めるよう気体を圧縮封入したもののみならず、必要に応じてポンピング機構などにて気体を圧縮して導入するようなものであっても、高められた圧力が筆記にてすべて消費されなかった場合など、蓄積された圧力によってインキ吐出口よりインキ組成物が漏れる欠点が起こり易かった。
【0003】
このような欠点を解決しようとして、従来より種々の工夫が試されている。例えば、特開2002−3772公報(特許文献1)に記載の発明では、平均分子量が25万以上のポリビニルピロリドンを1〜5%使用したボールペン用の油性インキ組成物が開示されており、インキ組成物のボタ落ちを改善したとしている。また、特開平10−195365号公報(特許文献2)に記載の発明では、一次平均粒子径7〜40nmで、比表面積50〜380m/gのシリカを使用したボールペン用油性インキ組成物が開示されており、インキ吐出口を下向けにした状態で長時間放置した際のインキ組成物の漏れを改善したとしている。
【特許文献1】特開2002−003772公報
【特許文献2】特開平10−195365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の各特許文献に記載された発明においても、ボールペンのインキ吐出口を下向けにした状態で長時間放置した場合、インキ組成物の漏れ、ボタ落ちが発生し、未だ十分とは言えるものではなかった。特に、圧縮気体などの圧力によって、筆記する際のインキ組成物の吐出を支援するボールペンであればなおさら不十分なものであった。
本発明は、ボールペンのインキ吐出口を下向けにした状態で長時間放置した場合でも、圧縮気体などの圧力によって、筆記する際のインキ組成物の吐出を支援するボールペンに使用しても、インキ組成物が漏れないボールペン用インキ組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、長径が5μm以上、短径が1.0μm以下である粒子を少なくとも含み、粘度が20000mPa・s(25℃)以上であるボールペン用インキ組成物を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のボールペン用インキ組成物は、5μm以上の長い一辺を有する異方性を持った粒子を含有していて、該粒子は5μm以上の長い一辺を有しているために、粒子同士が互いに立体障害となり、粘度が20000mPa・s以上という流動性の低い環境下では、ボールペンチップ内の狭い隙間にて複数の粒子がランダムに重なり合って網目状の構造を形成するものと考えられる。この網目状に重なった粒子の堆積物が、高粘度インキ組成物の流動に対するさらなる抵抗となって、非筆記時にインキ組成物の流れを堰き止め、インキ組成物の漏れが防止されるものと推察される。
尚、筆記時にはボールの回転によって、網目状に堆積した粒子にインキ吐出口方向へ向かう力が加えられ、網目状に堆積した粒子の構造物が容易に破壊されスムーズにインキ組成物が吐出する。
【0007】
尚、本発明でいう長径、短径とは、ガラス板上に粒子を置き顕微鏡写真を撮影したときに、撮影された粒子の画像上に引ける直線の長さが最大になるところを計測したものを長径とし、粒子の長径方向に対して直角方向で最も長い径を短径とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用される長径が5μm以上、短径が1.0μm以下である粒子は、インキ組成物中でランダムに重なり合って網目状の構造を形成してインキ組成物の流動に対する抵抗となり、ボールペン先端部よりのインキ組成物の漏れを防ぐ働きがある。
市販品としては、ウィスカルA、同AS−3(以上、長径20μm以上30μm以下、短径0.5μm以上1.0μm以下の繊維状炭酸カルシウム、丸尾カルシウム(株)製)、FTL−300(長径5.15μm、短径0.27μmの針状酸化チタン、石原産業(株)製)、モスハイジ(塩基性硫酸マグネシウム無機繊維、長径10μm以上30μm以下、短径0.5μm以上1.0μm以下、宇部マテリアルズ(株)製)、ティスモD、同N(以上、チタン酸カリウム繊維、長径10μm以上20μm以下、短径0.2μm以上0.6μm以下、大塚化学(株)製)、デントールWK200B(長径10μm以上20μm以下、短径0.4μm以上0.7μm以下)、同WK300R(長径10μm以上20μm以下、短径0.4μm以上0.7μm以下)、同WK500(長径5μm以上15μm以下、短径0.1μm以上0.5μm以下)(以上、チタン酸カリウム繊維、大塚化学(株)製)等がある。
粒子の長径は長すぎると目詰まりの原因になる恐れがあるため、50μm以下が好ましい。
長径が5μm以上、短径が1.0μm以下である粒子の使用量は、インキ組成物全量に対して0.1重量%以上1重量%以下で、好ましくは0.2重量%以上0.5重量%以下である。使用量が0.1重量%未満だと、立体障害効果が弱く、インキ組成物が漏れてしまう恐れがあり、1重量%以上使用すると、インキ組成物の吐出が悪くなる恐れがある。
この粒子の製造方法は、例えば、ウィスカルで説明すると、水酸化カルシウム水スラリー中に種晶となる長径1〜2μm程度の針状アラゴナイト結晶と、結晶を長径方向に成長し易くする燐酸系の物質を添加し、そこに二酸化炭素を導入して繊維状結晶としている。
【0009】
本発明のインキ組成物を使用するボールペンの形態としては一般的に使用されているボールペンチップを備えたもので良く、ボールを抱持するボールホルダーは、ステンレス、真鍮、青銅、洋白等の金属を切削、圧延加工されたものが使用でき、筆記部材としてのボールは、タングステンカーバイトや炭化ケイ素、ジルコニア等の焼結体が使用できる。前述したボールホルダーとボールとの組み合わせは適宜である。図1にボールペンチップの一例について要部縦断面図をしめす。筆記部材としてのボール1を先端より一部突出して抱持するボールホルダー2とを備えており、ボールホルダー2は、インキ組成物の通り道としての貫通孔3を有している。貫通孔3はボール1を抱持するボール抱持室3aとボール1の後退規制をなす内方突出部4の中心部分として形成されている中孔3bとインキタンクへとつながる後孔3cとを有しており、内方突出部4のボール抱持室3a側のボール受け座面4aに開口する放射状溝5と連通している。ボール1が最も後退して内方突出部4と接触した状態で、ボール1の最大径部分の近傍部からボールホルダー2の開口部までの部分は、筆記時を想定してボール1がボールホルダー2の中心線に沿って位置していると仮定すると、インキ組成物の通り道としては隙間が最も狭い部分となっており、概ね2.0μm以下となっている。中でも最も狭い隙間部分は、ボール1の最大径部分の近傍(図中I部として円形で囲んだ部分)であり、ほぼゼロに近い隙間となっており、開口部における隙間はこれよりいくらか大きい5.0μm程度となっている。
【0010】
着色材としては、染料及び/または顔料が特に限定無く使用できる。
着色材として油溶性染料を用いる場合は、従来公知の油溶性染料を使用することが出来、具体例として、ローダミンBベース(C.I.45170B、田岡染料製造(株)製)、ソルダンレッド3R(C.I.21260、中外化成(株)製)、メチルバイオレット2Bベース(C.I.42535B、米国、National Aniline Div.社製)、ビクトリアブルーF4R(C.I.42563B)、ニグロシンベースLK(C.I.50415)(以上、独国、BASF社製)、バリファーストイエロー♯3104(C.I.13900A)、バリファーストイエロー♯3105(C.I.18690A)、オリエントスピリットブラックAB(C.I.50415)、バリファーストブラック♯3804(C.I.12195)、バリファーストイエロー♯1109、バリファーストオレンジ♯2210、バリファーストレッド♯1320、バリファーストブルー♯1605、バリファーストバイオレット♯1701(以上、オリエント化学工業(株)製)、スピロンブラックGMHスペシャル、スピロンイエローC−2GH、スピロンイエローC−GNH、スピロンレッドC−GH、スピロンレッドC−BH、スピロンブルーC−RH、スピロンバイオレットC−RH、S.P.T.オレンジ6,S.P.T.ブルー111(以上、保土ヶ谷化学工業(株)製)などが例示できる。更に、C.I.ベーシックブルー1、同7、同8、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、C.I.ベーシックレッド1などの塩基染料とC.I.アシッドイエロー23、同36などから選ばれる酸性染料との造塩染料なども用いることができる。上記例示した油溶性染料は、1種又は2種以上混合して使用でき、その使用量はインキ組成物全量に対して6重量%以上45重量%以下が好ましい。
【0011】
また着色材として、顔料を用いる場合は、顔料は従来公知の顔料を使用することができ、有機顔料としては、C.I.PIGMENT RED2、同3、同5、同8、同17、同22、同31、同38、同41、同48:1、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同202、同206、同207、同208、同209、同211、同213、同216、同245、同254、同255、同264、同270、同272、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、同61、同64、同71、同73、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同37、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同9、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同15:6、同16、同17、同22、同25、同28、同29、同36、同60、同66、同68、同76、C.I.PIGMENT BROWN 23、同25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同83、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同128、同139、同147、同151、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36、C.I.PIGMENT BLACK 7等の有機顔料等が挙げられる。これらの有機顔料は1種又は2種以上混合して使用することができ、その使用量は、インキ組成物全量に対して1重量%以上45重量%以下が使用でき、十分な筆跡濃度を得る為に、好ましくは6重量%以上40重量%以下である。使用量が、少ないと筆跡が薄くなり、多くなるとインキ組成物のボールペン先からの追従性が悪くなりカスレがでたりインキ組成物が吐出しなくなることがある。
【0012】
また、無機顔料としては、黒色酸化鉄、ファーネストブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン等の無機顔料が挙げられる。
これらの無機顔料は、1種又は2種以上混合して使用することができ、その使用量は、インキ組成物全量に対して1重量%以上50重量%以下が使用でき、好ましくは、10重量%以上40重量%以下である。
その他の顔料として、蛍光顔料、パール顔料、蓄光顔料、金属顔料、複合金属顔料、金属酸化物顔料等を使用しても良い。例えば、蛍光顔料としては、FZ−5000シリーズ(シンロイヒ(株)製)などが挙げられる。パール顔料としては、パールグレイズMRY−100や同ME−100等(日本光研化学(株)製)が挙げられる。蓄光顔料としては、GSS(根本特殊化学(株))などが挙げられる。また、金属顔料としては、筆跡の色と異なる光輝感を醸し出す目的として使用するもので、アルミニウム粉やブロンズ粉、亜鉛粉等が、具体例として、市販されているアルミニウム粉末としては、スーパーファインNo.22000、同No.18000、ファインNo.900、同No.800(以上、大和金属粉工業(株)製)等が挙げられる。
これらの顔料は、1種又は2種以上混合して使用することができ、その使用量は、インキ組成物全量に対して1重量%以上45重量%以下が使用でき、好ましくは、10重量%以上40重量%以下である。
【0013】
顔料の分散効率を上げるため、前記高分子化合物中に顔料をあらかじめ微分散したものを粒子化したものを使用しても良い。特に、このような顔料を用いた場合は、製造上容易に分散できるので、製造上有用な手段として用いることが出来る。一例を挙げると、マイクロリスYellow 3G−K、同Yellow 4G−K、同Yellow 3R−K、同Scarlet R−K、同DPP Red B−K、同Magenta 5B−K、同Violet B−K、同Blue A3R−K、同Blue 4G−K、同Green G−K、同Black C−K、同White R−K(以上、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂に微分散させた顔料、チバ スペシャルティ ケミカルズ(株)製)、IKイエロー、IKレッド、IKブルー、IKグリーン、IKブラック (以上、塩化ビニル・酢酸ビニル樹脂に微分散させた顔料、富士色素(株)製)、マイクロリス Yellow 2G−T、同Yellow 3R−T、同Brown 5R−T、同Scarlet R−T、同Red BR−T、同Blue GS−T、同Green G−T、同Black C−T(以上、ロジンエステル樹脂に微分散させた顔料、チバ スペシャルティ ケミカルズ(株)製)、マイクロリス Yellow 4G−A、同Yellow MX−A、同Yellow 2R−A、同Brown 5R−A、同Scarlet R−A、同 Red 2C−A、同Red 3R−A、同Magenta 2B−A、同Violet B−A、同Blue 4G−A、同Green G−A、同Black C−A、同White R−A(以上、エチルセルロース樹脂に微分散させた顔料、チバ スペシャルティ ケミカルズ(株)製)、L1/SイエローNIF、L1/8レッドF3RK−70、L1/8バイオレットRN50、L1/8オレンジ501、L1/8ブラウン5R、L1/8ブラックMA100、NC790ホワイト(以上、ニトロセルロース樹脂に微分散させた顔料、太平化学製品(株)製)、RenolイエローGG−HW、同イエローHR−HW、同オレンジRL−HW、同レッドFGR−HW、同レッドHF2B−HW、同レッドF5RK−HW、同カーミンFBB−HW、同バイオレットRL−HW、同ブルーB2G−HW、同グリーンGG−HW、同ブラウンHFR−HW、同ブラックR−HW、同ホワイトT−HW(以上、ポリビニルブチラール樹脂に微分散させた顔料、クラリアントジャパン(株)製)、フジASブラック810、同ASレッド575、同ASブルー650、同ASグリーン737、同ASホワイト165(以上、ポリビニルブチラール樹脂に微分散させた顔料、冨士色素(株)製)等が挙げられる。
尚、上記染料、有機顔料、無機顔料等は混合して使用することもできる。
【0014】
本発明のボールペン用インキ組成物は、有機溶剤を使用した油性インキ組成物としたときに、セルロース系高分子化合物及び/又はポリビニルブチラール樹脂を使用することによって、ボールペンにしたときの高湿環境下での経時安定性が保たれ、セルロース系化合物の中でもエチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート及びセルロースアセテートプロピオネートを用いることによって、より高湿環境下での影響を受けにくいインキ組成物にすることが出来る。また、本発明の粒子とセルロース系及びポリビニルブチラール樹脂との馴染みが良く、分散された粒子を安定にさせる働きがあると考えられる。
【0015】
またインキ組成物の製造方法として、前記セルロース系高分子化合物及び/又はポリビニルブチラール樹脂に顔料をあらかじめ微分散したものを粉砕するなどして、粒子化し、この粒子を前記セルロース系高分子化合物及び/又はポリビニルブチラール樹脂が可溶な有機溶剤又は前記セルロース系高分子化合物及び/又はポリビニルブチラール樹脂が可溶な有機溶剤を含有する組成物中に配合することで、顔料が細かく、均一に分散されるため、通常の生顔料から分散するものより、経時的に安定なインキ組成物得ることができる。前記ボールペン用インキ組成物は、上記成分をラボミキサー、ビーズミル、3本ロール等を用いて溶解・分散してインキ組成物を得ることができる。
本発明に使用する長径が5μm以上、短径が1μm以下の粒子は、前述したセルロース系高分子化合物及び/又はポリビニルブチラール樹脂の溶剤に溶解した樹脂液に混合し、ボールミル、ビーズミル、3本ロール等で分散処理したものを顔料分散時に混入し、分散すると、粒子の分散効率が上がる。
【0016】
セルロース系化合物は、有機溶剤に溶解した状態で水分に対して強靱な界面を作るため好ましい。セルロース系化合物の中でもエチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート及びニトロセルロースは、特に良好な効果をもたらす。市販品で、一例を挙げると、エトセル4、同7、同10、同20、同45、同50、同70、同100(以上、エチルセルロース、ダウ・ケミカル日本(株)製)、セルロースアセテートCA−320S、同CA−394−60S、同CA−398−3、同CA−398−6、同CA−398−10、同CA−398−30(以上、セルロースアセテート、イーストマン・ケミカル社製)、セルロースアセテートブチレートCAB−171−15、同CAB321−0.1、同CAB−381−0.1、同CAB−381−2、同CAB−500−5、同CAB−551−0.01(以上、セルロースアセテートブチレート、イーストマン・ケミカル社製)、セルロースアセテートプロピオネートCAP−482−0.5、同CAP−482−20、同CAP−504−0.2(以上、セルロースアセテートプロピオネート、イーストマン・ケミカル社製)等が挙げられる。尚、セルロース系化合物でも、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースは、水に溶解するが、有機溶剤に可溶で水に溶解しない高分子化合物と併用して、本発明の効果以外の目的、例えば洩れ防止剤などのために、本発明の作用効果に対して悪影響を及ぼさない範囲で使用することは可能である。
【0017】
ポリビニルブチラール樹脂は、セルロース系化合物と同様、有機溶剤に溶解した状態で水分に対して強靱な界面を作ることと、顔料の分散性を向上する働きがある。一例を挙げると、デンカブチラール#2000L、同#3000−1、同#3000−2、同#3000−3、同#3000−4、同#3000−K、同#4000−1、同#4000−2、同#5000−A、同#6000−C(以上、電気化学工業(株)製)、エスレックBL−1、同BL−2、同BL−3、同BL−S、同BX−L、同BM−1、同BL−2、同BM−5、BM−S、同BH−3、同BX−1、同BX−2、同BX−5、同BX−55、同BH−S(以上、積水化学工業(株)製)等が挙げられる。その使用量は、インキ組成物全量に対して0.5重量%以上15重量%以下が使用でき、好ましくは5重量%以上10重量%以下である。
【0018】
樹脂として上記高分子化合物以外にも、通常ボールペンインキ組成物に定着剤や分散剤として使用されている樹脂、例えばケトン樹脂、スルフォアミド樹脂、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレンとアクリル酸又はそのエステルとの共重合体、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等を併用することが出来る。これらの樹脂は単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良く、その配合量は、インキ組成物全量に対して、0.1重量%以上30重量%以下の範囲である。これらの樹脂は、インキ組成物の粘度を調整したり、固着性、耐水性等を向上させる作用がある。
【0019】
本発明において使用する有機溶剤は、沸点が150℃以上であることが望ましく、前記溶剤は、従来公知のボールペン用溶剤を使用することが出来る。例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルグリコール、プロピレングリコールノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、等のグリコールエーテル系溶剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等のグリコール系溶剤、酢酸−2−エチルへキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、等のエステル系溶剤、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−メチルベンジルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソドデシルアルコール、イソトリドデシルアルコール、等のアルコール系溶剤等が使用可能である。上記溶剤の中でも、好ましくはグリコールエーテル系溶剤がセルロース系樹脂の溶解性が良く、また経時安定性に効果がある。これらは、単独で用いても2種以上混合して用いても良く、配合量はインキ組成物全量に対し20重量%以上90重量%以下が使用でき、好ましくは35重量%以上75重量%以下である。
【0020】
これらの有機溶剤と高分子化合物との可溶する例として、一例をあげると、高分子化合物として、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール等の樹脂と、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤や、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系の溶剤との組み合わせが挙げられる。
【0021】
その他必要に応じて、水添ヒマシ油、脂肪酸アマイドワックス、ベントナイト、合成微粉シリカ等の粘性調節剤や有機リン酸エステル、ジシクロヘキシルアミンのオレイン酸塩、脂肪族多価カルボン酸のエステル等の防錆剤、ポリシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等の消泡剤、ラウロイルサルコシン、オレオイルサルコシン等の潤滑剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、アルキルエーテルソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、紫外線吸収剤、分散剤、カスレ防止剤、洩れ防止剤等のインキ組成物に慣用されている助剤を含有させても良い。
【0022】
本発明のボールペン用インキ組成物は、上記各成分をダイノーミル、ボールミル、ロールミル、アトライター、サンドグラインダー、ターボミキサー、ラボミキサー、ホモミキサー等の分散機を使用して分散混合することによって得られる。
尚、粘度測定は、全て、Bohlin社製STRESSレオメーターを用い、25℃の測定環境で剪断速度1s−1で測定し求めた。
【実施例】
【0023】
(ウィスカル分散液A)
ウィスカルA(ウィスカー状炭酸カルシウム、長径20〜30μm、短径0.5〜1.0μm、丸尾カルシウム(株)製) 8重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 64重量部
エトセル7のエチレングリコールモノフェニルグリコール10重量%溶解液(エチルセルロース、ダウ・ケミカル日本(株)製) 28重量部
上記配合をラボミキサーで攪拌混合した後、3本ロールで、分散処理をし、ウィスカル分散液Aを得た。
【0024】
(ウィスカル分散液B)
ウィスカルA(ウィスカー状炭酸カルシウム、長径20〜30μm、短径0.5〜1.0μm、丸尾カルシウム(株)製) 8重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 64重量部
デンカブチラール2000Lのエチレングリコールモノフェニルグリコール10重量%溶解液(ポリビニルブチラール樹脂、電気化学工業(株)製) 28重量部
上記配合をラボミキサーで攪拌混合した後、3本ロールで、分散処理をし、ウィスカル分散液Bを得た。
【0025】
(針状酸化チタンFTL−300分散液)
針状酸化チタンFTL−300(長径5.15μm、短径0.27μm、石原産業(株)製) 8重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 64重量部
デンカブチラール2000Lのエチレングリコールモノフェニルグリコール10重量%溶解液(ポリビニルブチラール樹脂、電気化学工業(株)製) 28重量部
上記配合をラボミキサーで攪拌混合した後、3本ロールで、分散処理をし、針状酸化チタン分散液を得た。
【0026】
(実施例1)
マイクロリス BLACK C−A(エチルセルロースに微分散した加工顔料、C.I.PIGMENT BLACK7とエチルセルロースの重量比率が6:4、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製) 25重量部
ハイラック110H(ケトン樹脂、日立化成工業(株)製) 3重量部
ウィスカル分散液A 5重量部
オレイン酸 2重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 60重量部
ベンジルアルコール 5重量部
上記各成分中のマイクロリス BLACK C−Aを除いた成分をラボミキサーで加熱攪拌し、完全に溶解が確認できた時点でマイクロリス BLACK C−Aを徐々に添加し、80℃で1時間高速分散し、粘度27600mPa・s(25℃)黒色油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0027】
(実施例2)
RenolブラックR−HW(ポリビニルブチラール樹脂に微分散した加工顔料、カーボンブラック40重量%、ポリビニルブチラール樹脂60重量%、クラリアントジャパン(株)製) 25重量部
ハイラック111(ケトン樹脂、日立化成工業(株)製) 3重量部
ウィスカル分散液B 5重量部
オレイン酸 2重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 60重量部
ベンジルアルコール 5重量部
上記各成分中RenolブラックR−HWを除いた成分をラボミキサーで加熱攪拌し、完全に溶解が確認できた時点で、RenolブラックR−HWを徐々に添加し、80℃で1時間高速分散し、粘度37100mPa・s(25℃)の黒色油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0028】
(実施例3)
RenolレッドFGR−HW(ポリビニルブチラール樹脂に微分散した加工顔料、Pigment Red112、50重量%、ポリビニルブチラール樹脂50重量%、クラリアントジャパン(株)製) 9重量部
スピロンオレンジ#6(油溶性染料、保土ヶ谷化学(株)製) 15重量部
スピロンレッドC−GH(油溶性染料、保土ヶ谷化学(株)製) 12重量部
スピロンレッドC−BH(油溶性染料、保土ヶ谷化学(株)製) 0.6重量部
スピロンイエローC−2GH(油溶性染料、保土ヶ谷化学工業(株)製) 3重量部
ハイラック110H(ケトン樹脂、日立化成工業(株)製) 12重量部
ウィスカル分散液B 6重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 38重量部
ベンジルアルコール 4.4重量部
RenolレッドFGR−HWとスピロンオレンジ#6、スピロンレッドC−GH、スピロンレッドC−BH、スピロンイエローC−2GHを除いた上記各成分をラボミキサーで加熱攪拌し、完全に溶解が確認できた時点で、RenolレッドFGR−HWを徐々に添加し、80℃で1時間高速分散し、残りの成分を配合し、1時間高速攪拌し、粘度が20500mPa・s(25℃)の赤色油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0029】
(実施例4)
RenolブラックR−HW(ポリビニルブチラール樹脂に微分散した加工顔料、カーボンブラック40重量%、ポリビニルブチラール樹脂60重量%、クラリアントジャパン(株)製) 25重量部
ニグロシンEX(染料、オリエント化学工業(株)製) 8重量部
ルビスコールK−90(前述) 0.3重量部
ハイラック111(ケトン樹脂、日立化成工業(株)製) 16重量部
ウィスカル分散液B 5重量部
オレイン酸 2重量部
エチレングリコールモノベンジルエーテル 33重量部
ベンジルアルコール 10.7重量部
上記各成分中RenolブラックR−HWとニグロシンEXを除いた成分をラボミキサーで加熱攪拌し、完全に溶解が確認できた時点で、RenolブラックR−HWを徐々に添加し、80℃で1時間高速分散後、更にニグロシンEXを加え、1時間高速攪拌し、粘度69300mPa・s(25℃)の黒色油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0030】
(実施例5)
RenolブルーB2G−HW(ポリビニルブチラール樹脂に微分散した加工顔料、フタロシアニンブルー50重量%、ポリビニルブチラール樹脂50重量%、クラリアントジャパン(株)製) 17重量部
スピロンブルーBPNH(染料、保土ヶ谷化学(株)製) 5重量部
スピロンブルーC−RH(染料、保土ヶ谷化学(株)製) 3重量部
スピロンバイオレットC−RH(染料、保土ヶ谷化学(株)製) 2重量部
レジンSK(ケトン樹脂、ヒュルス社製) 7重量部
ウィスカル分散液B 4重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 46重量部
エチレングリコールモノヘキシルエーテル 16重量部
上記各成分中のRenolブルーB2G−HWとスピロンブルーBPNHとスピロンブルーC−RHとスピロンバイオレットC−RHを除いた成分をラボミキサーで加熱攪拌し、完全に溶解が確認できた時点でRenolブルーB2G−HWを徐々に添加し、80℃で1時間高速分散後、更に残りの成分を加え、1時間高速攪拌し、粘度56500mPa・s(25℃)の青色油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0031】
(実施例6)
RenolブラックR−HW(ポリビニルブチラール樹脂に微分散した加工顔料、カーボンブラック40重量%、ポリビニルブチラール樹脂60重量%、クラリアントジャパン(株)製) 25重量部
ハイラック111(ケトン樹脂、日立化成工業(株)製) 3重量部
針状酸化チタン分散液 5重量部
オレイン酸 2重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 60重量部
ベンジルアルコール 5重量部
上記各成分中RenolブラックR−HWを除いた成分をラボミキサーで加熱攪拌し、完全に溶解が確認できた時点で、RenolブラックR−HWを徐々に添加し、80℃で1時間高速分散し、粘度37100mPa・s(25℃)の黒色油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0032】
(比較例1)
実施例1において、ウィスカル分散液Aの中のウィスカルAを除き、除いた分だけのエチレングリコールモノフェニルエーテルを加えた他は、実施例1と同様になして、粘度が27400mPa・s(25℃)の黒色ボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0033】
(比較例2)
実施例4において、ウィスカル分散液Bの中のウィスカルAを除き、除いた分だけのエチレングリコールモノベンジルエーテルを加えた他は、実施例6と同様になして、粘度が69000mPa・s(25℃)の黒色ボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0034】
(比較例3)
実施例1において、ウィスカル分散液Aの中のウィスカルAを除き、除いた分だけ針状酸化チタンFTL−200(長径2.86μm、短径0.21μm、石原産業(株)製)を用いた他は、実施例1と同様になして、粘度が27500mPa・s(25℃)の黒色ボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0035】
(比較例4)
実施例1において、マイクロリス BLACK C−Aを3重量部減らし、エチレングリコールモノフェニルグリコールを3重量部加えた他は、実施例1と同様になして、粘度が14500mPa・s(25℃)の黒色ボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0036】
以上、実施例1〜6、比較例1〜4で得られたインキ組成物を市販の油性ボールペン(BP107、ぺんてる(株)製、ペン先はステンレスチップとタングステンカーバイトを主成分とした超硬合金のボールよりなっている)と同様の筆記具に0.3g充填し、試験サンプルとした。
但し、筆記する場合、上記サンプルのリフィル後端に圧力機を取り付け、大気圧に対して差圧が50kPaで加圧している状態で筆記できるように工夫改造して、実施した。
試験項目としては、インキ漏れ試験を行った。結果を表1に示す。
尚、実施例、比較例のインキ組成物の粘度測定は、全て、Bohlin社製STRESSレオメーターを用い、25℃の測定環境で剪断速度1s−1で測定し求めた。
【0037】
インキ漏れ試験 実施例1〜6及び比較例1〜4のインキ組成物を充填した上記サンプルを、リフィル後端に圧力機を取り付け、大気圧に対して差圧が50kPaで加圧している状態で下向け室内放置した。キャップ外し、試し書きをしてカスレないことを確認し後、ボールペンチップの表面に付着しているインキ組成物があればこれを拭き取り、キャップをしないで、露出したボールが他の何者にも触れていない状態で、ボールが下向きになるようにして室温にて12時間放置後、各々のサンプルのボールペンチップを目視してインキ組成物の漏れ状態を確認する。漏れたインキ組成物の量を評価するため、ボールペンチップの表面に付着した漏れたインキ組成物をマイクロスライドガラスS−7224(松浪硝子工業(株)製)の中央部にこすりつけて、その上に同ガラスを同方向に静かに載せ、2分間放置する。自重で円状に広がったインキ組成物上に引ける直線の長さが最大になるところと、その直線と直角方向に引ける直線の長さが最大になるところを測定する。そして、各々の長さを乗じた値を、漏れたインキ組成物量の代用とした。
【0038】
【表1】

【0039】
上記の表1より、実施例におけるインキ組成物は、比較例のインキ組成物に比べボールペンチップから漏れ出したインキ組成物の量が少ないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ボールペンチップを示す要部断面図。
【符号の説明】
【0041】
1 ボール
2 ボールホルダー
3 貫通孔
3a ボール抱持部屋
3b 中孔
3c 後孔
4 内方突出部
4a ボール受け座面
5 放射状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長径が5μm以上、短径が1.0μm以下である粒子を少なくとも含み、剪断速度1s−1の粘度が20000mPa・s(25℃)以上であるボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
着色材と有機溶剤と該有機溶剤に可溶な樹脂とを含む請求項1に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記樹脂がセルロース系高分子化合物及び/又はポリビニルブチラール樹脂である請求項2に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記セルロース系高分子化合物が、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート及びセルロースアセテートプロピオネートから選ばれる一種もしくは二種以上の混合物を含有する請求項3に記載のボールペン用油性インキ組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−206784(P2006−206784A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22216(P2005−22216)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】