ボールペン
【課題】十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部を確実にインキ流出間隙の中心部にガイドすることができるボールペンを提供する。
【解決手段】金属製のチップ本体2の前端に内向きの前端縁部4を設ける。前端縁部4の後方のチップ本体2内面にボール受け座用の複数の内方突出部を設ける。内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙51を形成する。インキ流出間隙51に、ボール3を前方に付勢し且つボール3を前端縁部4の内面に密接させるロッド部71を挿通させる。ボール受け座用の複数の内方突出部を第1の内方突出部5とする。第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面に複数の第2の内方突出部6を設ける。第1の内方突出部5の相互間の後方に第2の内方突出部6が位置する。前端縁部4の内面及び/またはボール3の表面に潤滑被膜層Sを設ける。
【解決手段】金属製のチップ本体2の前端に内向きの前端縁部4を設ける。前端縁部4の後方のチップ本体2内面にボール受け座用の複数の内方突出部を設ける。内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙51を形成する。インキ流出間隙51に、ボール3を前方に付勢し且つボール3を前端縁部4の内面に密接させるロッド部71を挿通させる。ボール受け座用の複数の内方突出部を第1の内方突出部5とする。第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面に複数の第2の内方突出部6を設ける。第1の内方突出部5の相互間の後方に第2の内方突出部6が位置する。前端縁部4の内面及び/またはボール3の表面に潤滑被膜層Sを設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、金属製のチップ本体の先端に内向きの先端縁部を設け、前記先端縁部の後方のチップ本体内面に複数の内方突出部を内方への押圧変形により設け、前記先端縁部と前記内方突出部との間にボールを回転可能に抱持し、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成し、前記インキ流出間隙に、ボールを前方へ付勢し且つボールを先端縁部の内面に密接させるロッド部を挿通させてなるボールペンであって、前記インキ流出間隙の中心部の仮想内接円の直径を、前記ロッド部の外径より大きく設定するとともに、前記インキ流出間隙の最小寸法を、前記ロッド部の外径より小さく設定したことを特徴とするボールペンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−136877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のボールペンは、ロッド部がインキ流出間隙の周縁端部の近傍に入り込むことを防止できるとしても、ボール受け座のインキ流出間隙が小さくなり、インキ流出性が低下するおそれがある。特に、前記特許文献1のボールペンは、比較的粒子径の大きい顔料を含有するインキを採用した場合、十分なインキ流出性が得られないおそれがある。
【0005】
また、前記特許文献1のボールペンは、筆記使用を続けるに従い先端縁部の内面がボールとの接触により摩耗して、ボールと先端縁部とのシール性が低下したり、ボール受け座がボールとの接触により摩耗して、インキ流出性を安定して維持できないおそれがある。
【0006】
本発明は前記従来の問題点を解決するものであって、十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部を確実にインキ流出間隙の中心部にガイドすることができ,しかも、長期にわたり安定したシール性とインキ流出性を維持できるボールペンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本願の第1の発明は、金属製のチップ本体2の前端に内向きの前端縁部4を設け、前記前端縁部4の後方のチップ本体2内面にボール受け座用の複数の内方突出部を内方への押圧変形により設け、前記前端縁部4と前記内方突出部との間で回転可能にボール3を抱持し、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙51を形成し、前記インキ流出間隙51に、ボール3を前方に付勢し且つボール3を前端縁部4の内面に密接させるロッド部71を遊挿させてなるボールペンであって、前記ボール受け座用の複数の内方突出部を第1の内方突出部5とし、前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面に複数の第2の内方突出部6を設け、前記第2の内方突出部6の相互間に中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙61を形成し、前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に前記ロッド部71を遊挿させてなり、前記前端縁部4の内面及び/または前記ボール3の表面に潤滑被膜層Sを設けたことを要件とする。
【0008】
前記第1の発明のボールペン1は、前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面に複数の第2の内方突出部6を設け、前記第2の内方突出部6の相互間に中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙61を形成し、前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に前記ロッド部71を遊挿させてなることにより、従来のようなロッド部がインキ流出間隙の周縁端部の近傍に入り込むことを防止するためにボール受け座のインキ流出間隙を小さくする必要がなくなり、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部(即ちボール受け座の中心部)にガイドすることができる。
【0009】
また、前記第1の発明のボールペン1は、前端縁部4の内面及び/またはボール3の表面に潤滑被膜層Sを設けたことにより、前端縁部4の内面とボール6の表面との接触抵抗を軽減して、ボール6の回転をより円滑にできるとともに、前端縁部4の内面の耐摩耗性を著しく向上させることができ、長期にわたり安定したシール性とインキ流出性を維持できる。
【0010】
尚、本発明に用いる潤滑被膜層Sとしては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト、四フッ化エチレン(PTFE)等の含フッ素高分子、シリコーン樹脂等、従来から知られている固体潤滑剤などを適宜用いることができる。また、潤滑被膜層Sを被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した潤滑剤を含有した被覆層であってもよい。特に前記した潤滑被膜層Sの中でも、耐摩耗性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。
【0011】
<2>本願の第2の発明のボールペン1は、前記第1の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定され、且つ、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定されることを要件とする。
【0012】
前記第2の発明のボールペン1は、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定され、且つ、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定されることにより、ロッド部71を、第1の内方突出部5のインキ流出間隙51の中心部と、第2の内方突出部6のインキ流出間隙61の中心部とに確実に遊挿配置することができる。前記ロッド部71の横断面形状は、円形状、楕円形状、多角形状等のいずれであってもよい。前記ロッド部71の直径Xとは、ロッド部71の外径の最大値をいう。前記ロッド部71とは、それ自体が撓んだり圧縮変形したりしてもよいし、その後端にコイル部またはゴム等の弾性部材を配設してもよい。
【0013】
<3>本願の第3の発明のボールペン1は、前記第1または第2の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5の相互間の後方に前記第2の内方突出部6が位置してなることを要件とする。
【0014】
前記第3の発明のボールペン1は、前記第1の内方突出部5の相互間の後方に前記第2の内方突出部6が位置してなることにより、より一層、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0015】
<4>本願の第4の発明のボールペン1は、前記第1乃至第3の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5と前記第2の内方突出部6とを近接して設けたことを要件とする。
【0016】
前記第4の発明のボールペン1は、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けたことにより、ロッド部71を、より一層確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0017】
<5>本願の第5の発明のボールペン1は、前記第1乃至第4の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5の後端より後方に前記第2の突出部6の前端が位置することを要件とする。
【0018】
前記第5の発明のボールペン1は、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置することにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合うことがない。その結果、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状を得る。もし、第1の内方突出部5の後端よりも前方に第2の突出部6の前端が位置する場合、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合い、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状が得られないおそれがある。また、前記第5の発明のボールペン1は、第4の発明のように第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けた場合でも、第2の突出部6のインキ流出間隙61から第1の内方突出部5のインキ流出間隙51へのインキ流通性が低下するおそれがない。
【0019】
<6>本願の第6の発明のボールペン1は、前記第1乃至第5の発明のボールペン1において、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径より小さく設定されることを要件とする。
【0020】
前記第6の発明のボールペン1は、第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径が、第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径より小さく設定されることにより、ロッド部71を第2の内方突出部6によって、より一層確実に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のボールペンは、十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部を確実にインキ流出間隙の中心部にガイドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態のボールペンの要部拡大縦断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図1のC−C線矢視断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態のボールペンの縦断面図である。
【図6】図5の要部拡大断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態のボールペンの要部拡大縦断面図である。
【図8】図7のD−D線断面図である。
【図9】図7のE−E線断面図である。
【図10】図7のF−F線矢視断面図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態のボールペンの縦断面図である。
【図12】図11の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施の形態>
図1乃至図6に本発明の第1の実施の形態を示す。
【0024】
本実施の形態のボールペン1は、チップ本体2と、該チップ本体2の後端部を保持するホルダー8と、該ホルダー8の後端部が圧入固着されるインキ収容管9と、該チップ本体2内及びホルダー8内に収容されるスプリング7と、インキ収容管9の後端開口部に取り付けられる尾栓10とからなる。前記インキ収容管9内には、インキ91と、該インキ91の消費に伴い前進する追従体92(例えば高粘度流体と固形物)とが収容される。
【0025】
前記スプリング7は、前部のロッド部71と、後部のコイル部72とが一体に連設されてなる。前記スプリング7は、ステンレス鋼製線材により形成される。
【0026】
前記チップ本体2は、前端にボール3を回転可能に抱持した金属製(例えばステンレス鋼製)の筒体からなる。前記チップ本体2の前端部には、カシメ変形により内向きの前端縁部4と、内方への押圧変形により形成した複数の第1の内方突出部5よりなるボール受け座とが形成される。前記前端縁部4とボール受け座とによって、ボール3が回転可能且つ前後に移動可能に抱持される。前記ボール3の材料としては、例えば、タングステンカーバイドの焼結体、ジルコニア、アルミナ、シリカ、炭化珪素等のセラミックス、またはステンレス鋼等が挙げられる。
【0027】
前記前端縁部4の内面には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。また、各々の第1の内方突出部5の内面(表面)には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。前記潤滑被膜層Sは、チップ本体の前端にボール6を抱持する前に設けることが好ましい。前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面に潤滑被膜層Sを設けたことにより、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面とボール6の表面との接触抵抗を軽減して、ボール6の回転をより円滑にできるとともに、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面の耐摩耗性を著しく向上させることができ、長期にわたり安定したインキ流出性とシール性を得る。
【0028】
前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面には、複数の第2の内方突出部6が内方への押圧変形により形成される。前記第1の内方突出部5の個数(例えば3個)と第2の内方突出部6の設ける個数(例えば3個)は同数である。
【0029】
前記スプリング7のロッド部71が、チップ本体2の後端開口部より前方に挿入され、最初に、第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に挿通され、次に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51に挿通される。
【0030】
第1の内方突出部5の相互間の軸方向後方の延長線上のチップ本体2内面には、第2の内方突出部6が位置し、第2の内方突出部6の相互間の軸方向前方の延長線上のチップ本体2内面には、第1の内方突出部5が位置する。即ち、前記チップ本体2から仮想的にボール3を除いた状態でチップ本体2の前端開口部から第1の内方突出部5を視認したとき、第1の内方突出部5の相互間に第2の内方突出部6が位置する(図10参照)。それにより、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができ、また、筆記時、ロッド部71がインキ流出間隙51の中心部に維持され、安定したボール3の回転が得られる。
【0031】
前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Yの関係を示す)。さらに、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を、第1の内方突出部5のインキ流出間隙51の中心部と、第2の内方突出部6のインキ流出間隙61の中心部とに確実に遊挿配置することができる。
【0032】
第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが近接して設けられる。それにより、ロッド部71を、より一層確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0033】
また、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置する。それにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合うことがない。その結果、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状を得る。さらに、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置することにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けた場合でも、第2の突出部6のインキ流出間隙61から第1の内方突出部5のインキ流出間隙51へのインキ流通性が低下するおそれがない。
【0034】
前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yより小さく設定される(即ち、Y>Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を第2の内方突出部6によって、より一層確実に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0035】
<第2の実施の形態>
図7乃至図12に本発明の第2の実施の形態を示す。
【0036】
本実施の形態のボールペン1は、チップ本体2と、該チップ本体2の後端部を保持するホルダー8と、該ホルダー8の後端部が圧入固着されるインキ収容管9と、該チップ本体2内及びホルダー8内に収容されるスプリング7と、インキ収容管9の後端開口部に取り付けられる尾栓10とからなる。前記インキ収容管9内には、インキ91と、該インキ91の消費に伴い前進する追従体92(例えば高粘度流体と固形物)とが収容される。
【0037】
前記スプリング7は、前部のロッド部71と、後部のコイル部72とが一体に連設されてなる。前記スプリング7は、ステンレス鋼製線材により形成される。
【0038】
前記チップ本体2は、前端にボール3を回転可能に抱持した金属製(例えばステンレス鋼製)の筒体からなる。前記チップ本体2の前端部には、カシメ変形により内向きの前端縁部4と、内方への押圧変形により形成した複数の第1の内方突出部5よりなるボール受け座とが形成される。前記前端縁部4とボール受け座とによって、ボール3が回転可能且つ前後に移動可能に抱持される。
【0039】
前記前端縁部4の内面には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。また、各々の第1の内方突出部5の内面(表面)には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。前記潤滑被膜層Sは、チップ本体の前端にボール6を抱持する前に設けることが好ましい。前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面に潤滑被膜層Sを設けたことにより、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面とボール6の表面との接触抵抗を軽減して、ボール6の回転をより円滑にできるとともに、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面の耐摩耗性を著しく向上させることができ、長期にわたり安定したインキ流出性とシール性を得る。
【0040】
前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面には、複数の第2の内方突出部6が内方への押圧変形により形成される。前記第1の内方突出部5の個数(例えば4個)と第2の内方突出部6の設ける個数(例えば4個)は同数である。
【0041】
前記スプリング7のロッド部71が、チップ本体2の後端開口部より前方に挿入され、最初に、第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に挿通され、次に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51に挿通される。
【0042】
第1の内方突出部5の相互間の軸方向後方の延長線上のチップ本体2内面には、第2の内方突出部6が位置し、第2の内方突出部6の相互間の軸方向前方の延長線上のチップ本体2内面には、第1の内方突出部5が位置する。即ち、前記チップ本体2から仮想的にボール3を除いた状態でチップ本体2の前端開口部から第1の内方突出部5を視認したとき、第1の内方突出部5の相互間に第2の内方突出部6が位置する(図14参照)。それにより、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができ、また、筆記時、ロッド部71がインキ流出間隙51の中心部に維持され、安定したボール3の回転が得られる。
【0043】
前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Yの関係を示す)。さらに、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を、第1の内方突出部5のインキ流出間隙51の中心部と、第2の内方突出部6のインキ流出間隙61の中心部とに確実に遊挿配置することができる。
【0044】
第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが近接して設けられる。それにより、ロッド部71を、より一層確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0045】
また、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置する。それにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合うことがない。その結果、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状を得る。さらに、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置することにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けた場合でも、第2の突出部6のインキ流出間隙61から第1の内方突出部5のインキ流出間隙51へのインキ流通性が低下するおそれがない。
【0046】
前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yより小さく設定される(即ち、Y>Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を第2の内方突出部6によって、より一層確実に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0047】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、便宜上、チップ本体2の内面のみ(前端縁部4の内面及び各々の第1の内方突出部5の内面)に設けているが、これ以外にも、チップ本体2の内面とボール3表面の両方に設ける構成、またはボール3の表面のみに設ける構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ボールペン
2 チップ本体
3 ボール
4 前端縁部
5 第1の内方突出部
51 インキ流出間隙
6 第2の内方突出部
61 インキ流出間隙
7 スプリング
71 ロッド部
72 コイル部
8 ホルダー
9 インキ収容管
91 インキ
92 追従体
10 尾栓
X ロッド部の直径
Y 第1の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径
Z 第2の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径
S 潤滑被膜層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、金属製のチップ本体の先端に内向きの先端縁部を設け、前記先端縁部の後方のチップ本体内面に複数の内方突出部を内方への押圧変形により設け、前記先端縁部と前記内方突出部との間にボールを回転可能に抱持し、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成し、前記インキ流出間隙に、ボールを前方へ付勢し且つボールを先端縁部の内面に密接させるロッド部を挿通させてなるボールペンであって、前記インキ流出間隙の中心部の仮想内接円の直径を、前記ロッド部の外径より大きく設定するとともに、前記インキ流出間隙の最小寸法を、前記ロッド部の外径より小さく設定したことを特徴とするボールペンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−136877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のボールペンは、ロッド部がインキ流出間隙の周縁端部の近傍に入り込むことを防止できるとしても、ボール受け座のインキ流出間隙が小さくなり、インキ流出性が低下するおそれがある。特に、前記特許文献1のボールペンは、比較的粒子径の大きい顔料を含有するインキを採用した場合、十分なインキ流出性が得られないおそれがある。
【0005】
また、前記特許文献1のボールペンは、筆記使用を続けるに従い先端縁部の内面がボールとの接触により摩耗して、ボールと先端縁部とのシール性が低下したり、ボール受け座がボールとの接触により摩耗して、インキ流出性を安定して維持できないおそれがある。
【0006】
本発明は前記従来の問題点を解決するものであって、十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部を確実にインキ流出間隙の中心部にガイドすることができ,しかも、長期にわたり安定したシール性とインキ流出性を維持できるボールペンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本願の第1の発明は、金属製のチップ本体2の前端に内向きの前端縁部4を設け、前記前端縁部4の後方のチップ本体2内面にボール受け座用の複数の内方突出部を内方への押圧変形により設け、前記前端縁部4と前記内方突出部との間で回転可能にボール3を抱持し、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙51を形成し、前記インキ流出間隙51に、ボール3を前方に付勢し且つボール3を前端縁部4の内面に密接させるロッド部71を遊挿させてなるボールペンであって、前記ボール受け座用の複数の内方突出部を第1の内方突出部5とし、前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面に複数の第2の内方突出部6を設け、前記第2の内方突出部6の相互間に中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙61を形成し、前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に前記ロッド部71を遊挿させてなり、前記前端縁部4の内面及び/または前記ボール3の表面に潤滑被膜層Sを設けたことを要件とする。
【0008】
前記第1の発明のボールペン1は、前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面に複数の第2の内方突出部6を設け、前記第2の内方突出部6の相互間に中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙61を形成し、前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に前記ロッド部71を遊挿させてなることにより、従来のようなロッド部がインキ流出間隙の周縁端部の近傍に入り込むことを防止するためにボール受け座のインキ流出間隙を小さくする必要がなくなり、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部(即ちボール受け座の中心部)にガイドすることができる。
【0009】
また、前記第1の発明のボールペン1は、前端縁部4の内面及び/またはボール3の表面に潤滑被膜層Sを設けたことにより、前端縁部4の内面とボール6の表面との接触抵抗を軽減して、ボール6の回転をより円滑にできるとともに、前端縁部4の内面の耐摩耗性を著しく向上させることができ、長期にわたり安定したシール性とインキ流出性を維持できる。
【0010】
尚、本発明に用いる潤滑被膜層Sとしては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト、四フッ化エチレン(PTFE)等の含フッ素高分子、シリコーン樹脂等、従来から知られている固体潤滑剤などを適宜用いることができる。また、潤滑被膜層Sを被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した潤滑剤を含有した被覆層であってもよい。特に前記した潤滑被膜層Sの中でも、耐摩耗性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。
【0011】
<2>本願の第2の発明のボールペン1は、前記第1の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定され、且つ、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定されることを要件とする。
【0012】
前記第2の発明のボールペン1は、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定され、且つ、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定されることにより、ロッド部71を、第1の内方突出部5のインキ流出間隙51の中心部と、第2の内方突出部6のインキ流出間隙61の中心部とに確実に遊挿配置することができる。前記ロッド部71の横断面形状は、円形状、楕円形状、多角形状等のいずれであってもよい。前記ロッド部71の直径Xとは、ロッド部71の外径の最大値をいう。前記ロッド部71とは、それ自体が撓んだり圧縮変形したりしてもよいし、その後端にコイル部またはゴム等の弾性部材を配設してもよい。
【0013】
<3>本願の第3の発明のボールペン1は、前記第1または第2の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5の相互間の後方に前記第2の内方突出部6が位置してなることを要件とする。
【0014】
前記第3の発明のボールペン1は、前記第1の内方突出部5の相互間の後方に前記第2の内方突出部6が位置してなることにより、より一層、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0015】
<4>本願の第4の発明のボールペン1は、前記第1乃至第3の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5と前記第2の内方突出部6とを近接して設けたことを要件とする。
【0016】
前記第4の発明のボールペン1は、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けたことにより、ロッド部71を、より一層確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0017】
<5>本願の第5の発明のボールペン1は、前記第1乃至第4の発明のボールペン1において、前記第1の内方突出部5の後端より後方に前記第2の突出部6の前端が位置することを要件とする。
【0018】
前記第5の発明のボールペン1は、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置することにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合うことがない。その結果、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状を得る。もし、第1の内方突出部5の後端よりも前方に第2の突出部6の前端が位置する場合、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合い、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状が得られないおそれがある。また、前記第5の発明のボールペン1は、第4の発明のように第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けた場合でも、第2の突出部6のインキ流出間隙61から第1の内方突出部5のインキ流出間隙51へのインキ流通性が低下するおそれがない。
【0019】
<6>本願の第6の発明のボールペン1は、前記第1乃至第5の発明のボールペン1において、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径より小さく設定されることを要件とする。
【0020】
前記第6の発明のボールペン1は、第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径が、第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径より小さく設定されることにより、ロッド部71を第2の内方突出部6によって、より一層確実に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のボールペンは、十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部を確実にインキ流出間隙の中心部にガイドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態のボールペンの要部拡大縦断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図1のC−C線矢視断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態のボールペンの縦断面図である。
【図6】図5の要部拡大断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態のボールペンの要部拡大縦断面図である。
【図8】図7のD−D線断面図である。
【図9】図7のE−E線断面図である。
【図10】図7のF−F線矢視断面図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態のボールペンの縦断面図である。
【図12】図11の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施の形態>
図1乃至図6に本発明の第1の実施の形態を示す。
【0024】
本実施の形態のボールペン1は、チップ本体2と、該チップ本体2の後端部を保持するホルダー8と、該ホルダー8の後端部が圧入固着されるインキ収容管9と、該チップ本体2内及びホルダー8内に収容されるスプリング7と、インキ収容管9の後端開口部に取り付けられる尾栓10とからなる。前記インキ収容管9内には、インキ91と、該インキ91の消費に伴い前進する追従体92(例えば高粘度流体と固形物)とが収容される。
【0025】
前記スプリング7は、前部のロッド部71と、後部のコイル部72とが一体に連設されてなる。前記スプリング7は、ステンレス鋼製線材により形成される。
【0026】
前記チップ本体2は、前端にボール3を回転可能に抱持した金属製(例えばステンレス鋼製)の筒体からなる。前記チップ本体2の前端部には、カシメ変形により内向きの前端縁部4と、内方への押圧変形により形成した複数の第1の内方突出部5よりなるボール受け座とが形成される。前記前端縁部4とボール受け座とによって、ボール3が回転可能且つ前後に移動可能に抱持される。前記ボール3の材料としては、例えば、タングステンカーバイドの焼結体、ジルコニア、アルミナ、シリカ、炭化珪素等のセラミックス、またはステンレス鋼等が挙げられる。
【0027】
前記前端縁部4の内面には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。また、各々の第1の内方突出部5の内面(表面)には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。前記潤滑被膜層Sは、チップ本体の前端にボール6を抱持する前に設けることが好ましい。前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面に潤滑被膜層Sを設けたことにより、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面とボール6の表面との接触抵抗を軽減して、ボール6の回転をより円滑にできるとともに、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面の耐摩耗性を著しく向上させることができ、長期にわたり安定したインキ流出性とシール性を得る。
【0028】
前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面には、複数の第2の内方突出部6が内方への押圧変形により形成される。前記第1の内方突出部5の個数(例えば3個)と第2の内方突出部6の設ける個数(例えば3個)は同数である。
【0029】
前記スプリング7のロッド部71が、チップ本体2の後端開口部より前方に挿入され、最初に、第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に挿通され、次に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51に挿通される。
【0030】
第1の内方突出部5の相互間の軸方向後方の延長線上のチップ本体2内面には、第2の内方突出部6が位置し、第2の内方突出部6の相互間の軸方向前方の延長線上のチップ本体2内面には、第1の内方突出部5が位置する。即ち、前記チップ本体2から仮想的にボール3を除いた状態でチップ本体2の前端開口部から第1の内方突出部5を視認したとき、第1の内方突出部5の相互間に第2の内方突出部6が位置する(図10参照)。それにより、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができ、また、筆記時、ロッド部71がインキ流出間隙51の中心部に維持され、安定したボール3の回転が得られる。
【0031】
前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Yの関係を示す)。さらに、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を、第1の内方突出部5のインキ流出間隙51の中心部と、第2の内方突出部6のインキ流出間隙61の中心部とに確実に遊挿配置することができる。
【0032】
第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが近接して設けられる。それにより、ロッド部71を、より一層確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0033】
また、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置する。それにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合うことがない。その結果、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状を得る。さらに、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置することにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けた場合でも、第2の突出部6のインキ流出間隙61から第1の内方突出部5のインキ流出間隙51へのインキ流通性が低下するおそれがない。
【0034】
前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yより小さく設定される(即ち、Y>Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を第2の内方突出部6によって、より一層確実に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0035】
<第2の実施の形態>
図7乃至図12に本発明の第2の実施の形態を示す。
【0036】
本実施の形態のボールペン1は、チップ本体2と、該チップ本体2の後端部を保持するホルダー8と、該ホルダー8の後端部が圧入固着されるインキ収容管9と、該チップ本体2内及びホルダー8内に収容されるスプリング7と、インキ収容管9の後端開口部に取り付けられる尾栓10とからなる。前記インキ収容管9内には、インキ91と、該インキ91の消費に伴い前進する追従体92(例えば高粘度流体と固形物)とが収容される。
【0037】
前記スプリング7は、前部のロッド部71と、後部のコイル部72とが一体に連設されてなる。前記スプリング7は、ステンレス鋼製線材により形成される。
【0038】
前記チップ本体2は、前端にボール3を回転可能に抱持した金属製(例えばステンレス鋼製)の筒体からなる。前記チップ本体2の前端部には、カシメ変形により内向きの前端縁部4と、内方への押圧変形により形成した複数の第1の内方突出部5よりなるボール受け座とが形成される。前記前端縁部4とボール受け座とによって、ボール3が回転可能且つ前後に移動可能に抱持される。
【0039】
前記前端縁部4の内面には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。また、各々の第1の内方突出部5の内面(表面)には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。前記潤滑被膜層Sは、チップ本体の前端にボール6を抱持する前に設けることが好ましい。前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面に潤滑被膜層Sを設けたことにより、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面とボール6の表面との接触抵抗を軽減して、ボール6の回転をより円滑にできるとともに、前端縁部4の内面及び第1の内方突出部5の内面の耐摩耗性を著しく向上させることができ、長期にわたり安定したインキ流出性とシール性を得る。
【0040】
前記第1の内方突出部5より後方のチップ本体2内面には、複数の第2の内方突出部6が内方への押圧変形により形成される。前記第1の内方突出部5の個数(例えば4個)と第2の内方突出部6の設ける個数(例えば4個)は同数である。
【0041】
前記スプリング7のロッド部71が、チップ本体2の後端開口部より前方に挿入され、最初に、第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61に挿通され、次に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51に挿通される。
【0042】
第1の内方突出部5の相互間の軸方向後方の延長線上のチップ本体2内面には、第2の内方突出部6が位置し、第2の内方突出部6の相互間の軸方向前方の延長線上のチップ本体2内面には、第1の内方突出部5が位置する。即ち、前記チップ本体2から仮想的にボール3を除いた状態でチップ本体2の前端開口部から第1の内方突出部5を視認したとき、第1の内方突出部5の相互間に第2の内方突出部6が位置する(図14参照)。それにより、前記第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51、及び前記第2の内方突出部6の相互間のインキ流出間隙61を十分に大きく設定でき、チップ本体2の前端からの十分なインキ流出性が得られるとともに、ロッド部71を確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができ、また、筆記時、ロッド部71がインキ流出間隙51の中心部に維持され、安定したボール3の回転が得られる。
【0043】
前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Yの関係を示す)。さらに、前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記ロッド部71の直径Xより大きく設定される(即ち、X<Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を、第1の内方突出部5のインキ流出間隙51の中心部と、第2の内方突出部6のインキ流出間隙61の中心部とに確実に遊挿配置することができる。
【0044】
第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが近接して設けられる。それにより、ロッド部71を、より一層確実にインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0045】
また、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置する。それにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とが互いに影響し合うことがない。その結果、第1の内方突出部5及び第2の内方突出部6の各々の適正な形状を得る。さらに、第1の内方突出部5の後端より後方に第2の突出部6の前端が位置することにより、第1の内方突出部5と第2の内方突出部6とを近接して設けた場合でも、第2の突出部6のインキ流出間隙61から第1の内方突出部5のインキ流出間隙51へのインキ流通性が低下するおそれがない。
【0046】
前記第2の内方突出部6の頂点に接する仮想内接円の直径Zが、前記第1の内方突出部5の頂点に接する仮想内接円の直径Yより小さく設定される(即ち、Y>Zの関係を示す)。それにより、ロッド部71を第2の内方突出部6によって、より一層確実に、第1の内方突出部5の相互間のインキ流出間隙51の中心部にガイドすることができる。
【0047】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、便宜上、チップ本体2の内面のみ(前端縁部4の内面及び各々の第1の内方突出部5の内面)に設けているが、これ以外にも、チップ本体2の内面とボール3表面の両方に設ける構成、またはボール3の表面のみに設ける構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ボールペン
2 チップ本体
3 ボール
4 前端縁部
5 第1の内方突出部
51 インキ流出間隙
6 第2の内方突出部
61 インキ流出間隙
7 スプリング
71 ロッド部
72 コイル部
8 ホルダー
9 インキ収容管
91 インキ
92 追従体
10 尾栓
X ロッド部の直径
Y 第1の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径
Z 第2の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径
S 潤滑被膜層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のチップ本体の前端に内向きの前端縁部を設け、前記前端縁部の後方のチップ本体内面にボール受け座用の複数の内方突出部を内方への押圧変形により設け、前記前端縁部と前記内方突出部との間で回転可能にボールを抱持し、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成し、前記インキ流出間隙に、ボールを前方に付勢し且つボールを前端縁部の内面に密接させるロッド部を遊挿させてなるボールペンであって、
前記ボール受け座用の複数の内方突出部を第1の内方突出部とし、前記第1の内方突出部より後方のチップ本体内面に複数の第2の内方突出部を設け、前記第2の内方突出部の相互間に中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成し、前記第2の内方突出部の相互間のインキ流出間隙に前記ロッド部を遊挿させてなり、前記前端縁部の内面及び/または前記ボールの表面に潤滑被膜層を設けたことを特徴とするボールペン。
【請求項2】
前記第1の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記ロッド部の直径より大きく設定され、且つ、前記第2の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記ロッド部の直径より大きく設定される請求項1記載のボールペン。
【請求項3】
前記第1の内方突出部の相互間の後方に前記第2の内方突出部が位置してなる請求項1または2記載のボールペン。
【請求項4】
前記第1の内方突出部と前記第2の内方突出部とを近接して設けた請求項1乃至3の何れかに記載のボールペン。
【請求項5】
前記第1の内方突出部の後端より後方に前記第2の突出部の前端が位置する請求項1乃至4の何れかに記載のボールペン。
【請求項6】
前記第2の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記第1の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径より小さく設定される請求項1乃至5の何れかに記載のボールペン。
【請求項1】
金属製のチップ本体の前端に内向きの前端縁部を設け、前記前端縁部の後方のチップ本体内面にボール受け座用の複数の内方突出部を内方への押圧変形により設け、前記前端縁部と前記内方突出部との間で回転可能にボールを抱持し、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成し、前記インキ流出間隙に、ボールを前方に付勢し且つボールを前端縁部の内面に密接させるロッド部を遊挿させてなるボールペンであって、
前記ボール受け座用の複数の内方突出部を第1の内方突出部とし、前記第1の内方突出部より後方のチップ本体内面に複数の第2の内方突出部を設け、前記第2の内方突出部の相互間に中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成し、前記第2の内方突出部の相互間のインキ流出間隙に前記ロッド部を遊挿させてなり、前記前端縁部の内面及び/または前記ボールの表面に潤滑被膜層を設けたことを特徴とするボールペン。
【請求項2】
前記第1の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記ロッド部の直径より大きく設定され、且つ、前記第2の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記ロッド部の直径より大きく設定される請求項1記載のボールペン。
【請求項3】
前記第1の内方突出部の相互間の後方に前記第2の内方突出部が位置してなる請求項1または2記載のボールペン。
【請求項4】
前記第1の内方突出部と前記第2の内方突出部とを近接して設けた請求項1乃至3の何れかに記載のボールペン。
【請求項5】
前記第1の内方突出部の後端より後方に前記第2の突出部の前端が位置する請求項1乃至4の何れかに記載のボールペン。
【請求項6】
前記第2の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径が、前記第1の内方突出部の頂点に接する仮想内接円の直径より小さく設定される請求項1乃至5の何れかに記載のボールペン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−43343(P2013−43343A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182140(P2011−182140)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】
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