説明

ポジトロン断層撮影法および該方法に用いるポジトロン放出化合物

【課題】 本発明は、具体的な脳疾患の診断に適用することができるポジトロン断層撮影法と、当該方法に用いるポジトロン放出化合物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明方法は、ポジトロンを電子に変換することによってポジトロン放出源の分布と集積度を測定するポジトロン断層撮影法であって、当該ポジトロン放出源として、α7ニコチン受容体の選択的リガンドを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジトロン断層撮影法と当該方法に用いるポジトロン放出化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポジトロン断層撮影法は、ポジトロン放出源から放出されるポジトロン(陽電子)が消滅するときに生成される一対のγ線(消滅放射線)を電子に変換し、この電子を検出器で測定(同時計数)するものである。斯かるポジトロン断層撮影法で使用する装置が、例えば特許文献1と2に開示されている。そして、このポジトロン断層撮影法では、ポジトロン放出源の分布や集積濃度を測定できることから、疾病の診断に利用されている。
【0003】
詳しくは、例えば18Fで標識されたフルオロデオキシグルコースを体内投与すると、ガン細胞は正常細胞よりも盛んに分裂しグルコースを必要とすることから、ガン細胞へより多く取り込まれる。その様子をポジトロン断層撮影装置により撮影すれば、フルオロデオキシグルコースの分布と集積濃度を測定できるため、ガン病巣の有無やその大きさを把握することができる。
【0004】
また、脳細胞も他の細胞よりもエネルギー消費量が大きいことから、18F−フルオロデオキシグルコースを投与すると、脳により多く集積することがポジトロン断層撮影法により分かる。ところが、何らかの原因で一部の脳細胞がダメージを受けていると、その部分ではグルコースの取り込み量が低減する。従って、この場合には、脳機能の不全の有無をポジトロン断層撮影法により診断できることになる。
【0005】
この様に、ポジトロン断層撮影法は、疾病の診断に適用できるものとして、今後の発展が大いに期待されている。
【0006】
ところで、ニコチン受容体としては少なくとも12個のサブタイプ(α2〜10とβ2〜4)が知られており、そのうち、α7とアルツハイマー病との関係が疑われている。即ち、非特許文献1によれば、アルツハイマー病患者の死後脳を用いた免疫組織化学的手法によって、患者の前頭皮質においてα7ニコチン受容体の密度が減少していることが報告されている。また、アルツハイマー病において重要な役割を有すると考えられているβアミロイドタンパク質が、非常に高い親和性でα7ニコチン受容体に結合する一方で、他のサブタイプ(α4β2)への親和性は、それよりも約5.000倍弱いことも知られている。更に、α7ニコチン受容体は、統合失調症(精神分裂病)における注意障害や情報処理障害と関係があると考えられている。
【0007】
このα7ニコチン受容体のリガンドとしては、当然ニコチンが挙げられる。しかし、ニコチンとα7ニコチン受容体との親和性はそれほど高いものではない上に、α7ニコチン受容体に対する特異性も低い。そこで、これまでにも、α7ニコチン受容体の選択的リガンドが種々検討されている。
【0008】
例えば特許文献3には、α7ニコチン受容体リガンドであって、α7ニコチン受容体作動作用またはα7ニコチン受容体部分作動作用を有する化合物が記載されており、当該化合物は、α4β2ニコチン受容体よりもα7ニコチン受容体に対して、顕著に高い選択的親和性を有することを示す実験データが開示されている。また、特許文献4にも、α7ニコチン受容体作動作用またはα7ニコチン受容体部分作動作用を有する化合物が記載されている。しかし特許文献3と4には、ポジトロン放出能を有する置換基により置換されている化合物は記載されておらず、また、その元素の一部がポジトロン放出元素である化合物も一切記載されていない。
【特許文献1】特開平6−273529号公報
【特許文献2】特開平8−211154号公報
【特許文献3】国際公開第01/66546号パンフレット
【特許文献4】特開2002−30084号公報
【非特許文献1】橋本謙二,伊豫雅臣,「アルツハイマー病のアミロイド・カスケード仮説とα7ニコチン受容体」,日本神経精神薬理学雑誌,第22巻,第49〜53頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に、これまでにもポジトロン断層撮影法を脳機能検査に用いた例はあったものの、より具体的な脳疾患の診断に用いられたことはなかった。そこで、本発明が解決すべき課題は、具体的な脳疾患の診断に適用することができるポジトロン断層撮影法と、当該方法に用いるポジトロン放出化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、α7ニコチン受容体の選択的リガンドにポジトロンの放出能を有する置換基を導入してポジトロン断層撮影法を実施すれば、種々の疾病に関係するα7ニコチン受容体の脳内における分布と集積濃度を明らかにできることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明のポジトロン断層撮影法は、ポジトロン放出源の分布と集積度を測定するポジトロン断層撮影法において、当該ポジトロン放出源として、α7ニコチン受容体の選択的リガンドを用いることを特徴とする。なお、本発明はポジトロン放出源から放出されるポジトロンをγ線を介して電子に変換し、これを検出することによってポジトロン放出源の分布と集積度を測定するものであって、あくまで装置内の制御プロセスに止まるものであることから、特許法上における産業上利用することができる発明に該当する。
【0012】
上記方法において、ポジトロン放出源としては、下記化合物(I)または(II)を用いることが好ましい。これらは、α7ニコチン受容体の選択的リガンドとして実績があるものの誘導体だからである。
【0013】
【化1】

【0014】
[式中、Rはポジトロン放出元素またはポジトロン放出元素を含む置換基を示す。]。
【0015】
上記ポジトロン放出源に含まれるポジトロン放出元素としては、11C,13N,18F,76Brおよび123Iよりなる群から選択される1種または2種以上が好適である。これらはポジトロン断層撮影法におけるポジトロン放出元素として、適度な半減期を有するからである。
【0016】
また、上記化合物(I)または(II)は、ポジトロン断層撮影法におけるポジトロン放出源として有用である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、α7ニコチン受容体へ選択的に結合するポジトロン放出源を介して、脳内におけるα7ニコチン受容体の分布と集積度を容易に測定することができる。従って、本発明方法は、α7ニコチン受容体と関係を有する疾病、例えばアルツハイマー病,統合失調症,認知機能障害,多動性障害,不安神経症,うつ病、てんかん,無痛覚症,トウレット症候群,パーキンソン氏病,またはハンチントン舞踏病などの診断に適用でき得るものとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明方法は、いわゆるポジトロン断層撮影法である。つまり、ポジトロン放出元素は、ポジトロン(陽電子)を放出しつつ徐々に崩壊する。このポジトロンは数mm以下の距離を進行する間に衝突によってエネルギーを失い、陰電子と結合して消滅する。その際、1対のγ線が互いに180°の反対方向へ放出される。ポジトロン断層撮影法では、これらγ線を電子に変換して同時計測することによって、ポジトロンの消滅した位置を検出し、ポジトロン放出源の分布と集積度を測定するものである。そして本発明方法では、ポジトロン放出源として、α7ニコチン受容体の選択的リガンドを用いることに要旨を有する。
【0019】
α7ニコチン受容体の選択的リガンドとは、ニコチン受容体のリガンドであって、且つ他のニコチン受容体サブタイプよりも選択的にα7へ結合するものをいう。本発明は、ポジトロン放出源である当該リガンドを選択的にα7ニコチン受容体へ結合させ、その分布や集積度を測定するものであるので、当該リガンドは、当然に他の受容体等へ実質的に結合しないことが好ましい。
【0020】
この様なリガンドとしては、例えば公知のα7ニコチン受容体の選択的リガンドの一部をポジトロン放出元素で置換したり、或いはポジトロン放出元素を含む置換基を導入したものを用いることができる。その様な選択的リガンドとしては、特許文献3記載の化合物を挙げることができる。以下にその構造を示す。
【0021】
【化2】

【0022】
[式中、X1は酸素原子,硫黄原子または-CH2-を示し、Y1は酸素原子または硫黄原子を示し、R1は水素原子またはC1-C4アルキル基を示し、m1は2または3を示し、n1は1または2を示し、Ar1は置換基を有してもよい芳香族複素環基,置換基を有してもよい二環式炭化水素残基または1個以上の置換基を有するフェニル基を示す。]。
【0023】
より具体的には、(R)-3'-(2-ナフチル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(5-メチル-2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(5-エチル-2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(5-クロロ-2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(5-ブロモ-2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(5-アセチル-2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(5-シアノ-2-チエニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(4-メチルフェニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(3,4-ジメチルフェニル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(1,3-ベンゾジオキソラン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-[5-(トリフルオロメチル)チオフェン-2-イル]スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2,3-ジヒドロ[b]フラン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(ベンゾ[b]フラン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-メチルベンゾ[b]フラン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-クロロベンゾ[b]フラン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-ブロモベンゾ[b]フラン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-メチルベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-エチルベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-クロロベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-ブロモベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(6-メトキシナフタレン-2-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(2-フルオロベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、
(R)-3'-(3-メチルベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、および
(R)-3'-(3-メチルベンゾ[b]チオフェン-5-イル)スピロ[1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3,5'-オキサゾリジン-2'-オン]、を挙げることができる。
【0024】
また、その他の具体的な選択的リガンドとしては、特許文献4記載の化合物を挙げることができる。以下にその構造を示す。
【0025】
【化3】

【0026】
[式中、X2は存在しないか、または酸素原子,硫黄原子若しくは-NH-を示し、Y2は-CH2-または=COを示し、m2は1または2を示し、n2は1〜3の整数を示し、Ar2は置換基を有してもよい二環式芳香族複素環基または置換基を有してもよいナフチル基を示す。]。
【0027】
より具体的には、3-[(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)メトキシ]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
(R)-3-[(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)メトキシ]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
(S)-3-[(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)メトキシ]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[(ベンゾ[b]チオフェン-3-イル)メトキシ]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[(2-ナフチル)メトキシ]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[(1-ナフチル)メトキシ]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)エチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
(+)-3-[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)エチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
(-)-3-[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)エチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-2-オキソエチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
(+)-3-[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-2-オキソエチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
(-)-3-[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-2-オキソエチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-2-オキソエチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[2-(1-メチルベンゾイミダゾール-2-イル)-2-オキソエチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[2-(ベンゾ[b]フラン-2-イル)-2-オキソエチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)メチル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)カルボニル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、
3-[3-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)プロピル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、および
3-[3-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-3-オキソプロピル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、を挙げることができる。
【0028】
本発明では、α7ニコチン受容体選択的リガンドの一部をポジトロン放出元素で置換したり、或いはポジトロン放出元素を含む置換基を導入したものを、ポジトロン放出源として使用する。この様なポジトロン放出元素としては、11C,13N,18F,76Brおよび123Iよりなる群から選択される1種または2種以上を用いることができる。これらは、半減期が短いポジトロン放出元素のうち比較的長い半減期を有していたり、或いはα7ニコチン受容体リガンドへ導入し易いといった特性を有する。例えば、15Oの半減期は2分であるので、ポジトロン断層撮影法におけるポジトロン放出源として用いるのは難しいが、11Cの半減期は20分である。
【0029】
ポジトロン放出元素の半減期を考慮すれば、最終合成ステップにおいて、α7ニコチン受容体選択的リガンドの誘導体にポジトロン放出元素を含む置換基を導入することが好ましい。その例を以下に示す。
【0030】
【化4】

【0031】
[式中、Buはn-ブチル基を示し、Rはポジトロン放出元素またはポジトロン放出元素を含む置換基を示す。]。
【0032】
上記式中の原料化合物の様なポジトロン放出化合物の前駆体は、α7ニコチン受容体選択的リガンドの構造が明らかである場合、当業者であるならば、容易にその合成経路をデザインし、実際に合成できる。つまり、所望の導入位置にハロゲン原子(好適には臭素原子)を導入した化合物を原料化合物として合成を進め、最後にn-ブチルリチウムとクロロトリブチルスズによって、トリ(n-ブチル)スズ化合物とすることができる。
【0033】
上記式において、R基を導入する試薬は、R基の種類による。例えば、R基がハロゲンである場合には、[18F]F-,[ 76Br]Br-または[123I]I-を用いる。また、R基がポジトロン放出元素を含む置換基、例えば11Cを含むアルキル基(例えば、[11C]メチル基)である場合には、対応するハロゲン化アルキルを用いればよい。
【0034】
但し、ポジトロン放出元素の半減期は短いので、サイクロトロン等によりR基導入試薬を調製した後、直ぐにR基導入反応をしなければならない。従って、R基導入反応では、図1に示す様な合成システムを用いる。詳しくは、サイクロトロンにより加速した陽電子を目的とするポジトロン放出元素に応じたターゲット(図1中、TG)に照射して、ポジトロン放出元素を得る。これを、例えばマイクロラボ(MEI)で所望のR基導入試薬に変換し、更に反応器(RV1)で当該R基導入試薬と、スピッチ(VA1)から導入する前駆体とを反応させることによって、α7ニコチン受容体の選択的リガンドであり且つポジトロン放出能を有する化合物を合成することができる。
【0035】
得られたポジトロン放出化合物は、一般的方法により注射剤とすることができる。例えば、生理食塩水に溶解または懸濁する。注射剤とするのは、ポジトロン放出元素の半減期を考慮して、早く化合物を脳内に到達させる必要があるからである。また、その際の濃度は化合物の放射活性等に依存するが、好適には副作用が生じない程度で且つ十分な測定が行える濃度とする。
【0036】
以上で説明した本発明方法は、α7ニコチン受容体に関係する疾患の診断に役立ち得る。また、本発明に係るポジトロン放出化合物は、後述する実施例で実証されている通り、静脈投与により脳へ到達し、α7ニコチン受容体へ結合することによって、α7ニコチン受容体の脳内分布や集積度を測定することができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0038】
製造例1 放射性TSAOO前駆体(化合物8)の合成
下記合成スキームに従って、標記化合物を合成した。
【0039】
【化5】

【0040】
製造例1−1 化合物2
2 L反応器に無水ジメチルスルホキシド(300 mL)と60%水素化ナトリウム(21.1g, 0.527 mol, 1.1 eq)を加え、窒素雰囲気下において室温で撹拌した。室温において、ヨウ化トリメチルスルホオキソニウム(116 g, 0.527 mol, 1.1 eq.)を徐々に加えた後、室温で1時間撹拌した。水浴を施し、室温で化合物1(60 g, 0.479 mol, 1.0 eq.)の無水ジメチルスルホキシド(200 mL)溶液を滴下した。室温で1時間撹拌後、反応液を氷水(1.5 L)中に少しずつ注いだ。ジクロロメタン(500 mL×2)で抽出し、有機層を合わせて水(500 mL×3)および飽和食塩水(1 L)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を減圧蒸留(bath temp. 115-120℃, vapor:96-100℃, 0.15 mmHg)により精製して、無色アモルファス状の結晶化合物2(46.6 g, 0.335 mol, 70%)を得た。
【0041】
製造例1−2 化合物3
2 L反応器に、上記製造例1−1で合成した化合物2(58 g, 0.417 mol, 1.0 eq)とジオキサン(400 mL)を加えた。この溶液へ蒸留水(400 mL)に溶解させたアジ化ナトリウム(54.2 g, 0.833 mol, 2.0 eq)を加えた後、80℃まで昇温して2時間撹拌した。この溶液からジオキサンを減圧留去し、ここへクロロホルム(300 mL)を加え有機層と水層を分けた。水層をクロロホルム(200 mL×2回)で抽出し、有機層を合わせて市水と飽和食塩水で充分洗浄し、無水MgSO4で乾燥した。この溶液を濃縮し、淡赤色の粘性のある液体である化合物3(45 g, 0.247 mol, 59%)を得た。
【0042】
製造例1−3 化合物4
2 L反応器へ、上記製造例1−2で合成した化合物3(45 g, 0.247 mol, 1.0 eq)とエタノール(500 mL)、および10%パラジウム−炭素(4.5 g)を加えた。水素雰囲気下、この混合液を室温で6時間撹拌後した後、この混合液から触媒を濾別し、濾液を減圧下に濃縮することによって、赤色の粘重の液体である化合物4(30 g, 0.192 mol, 78%)を得た。
【0043】
製造例1−4 化合物5
2 L反応器へ、上記製造例1−3で合成した化合物4(30 g, 0.192 mol, 1.0 eq)とTHF(900 mL)を加えた。この懸濁液にカルボジイミド(CDI)(31.1 g, 0.192 mol, 1.0 eq)をゆっくり加え、室温で2時間撹拌後、80℃まで昇温して1時間撹拌した。この溶液からTHFを減圧留去し、残渣にクロロホルム(300 mL)を加え有機層と水層を分けた。水層をクロロホルム(200 mL×2回)で抽出し、有機層を合わせて、市水と飽和食塩水で充分洗浄した後、無水MgSO4で乾燥した。この溶液を濃縮し、淡赤色の固体(45 g, 0.247 mol, 59%)を得た。これをカラムクロマトグラフィー(SiO2: 600 g, クロロホルム/メタノール=5/1)により精製することによって、淡黄色固体である化合物5(22.5 g, 0.123 mol, 64%)を得た。
【0044】
製造例1−5 化合物6
1 L反応器へ、ヨウ化銅(4.38 g, 23.0 mmol, 0.2 eq)と無水ジオキサン(220 mL)を加えた。この混合液にエチレンジアミン(1.54 mL, 0.023 mmol, 0.2 eq)を滴下し、室温で15分撹拌した。この混合液へ、リン酸カリウム(49.0 g, 0.230 mmol,2.0 eq),2-ヨードチオフェン(50.1 g, 0.230 mol, 2.0 eq),上記製造例1−4で合成した化合物5(20.9 g, 0.115 mol, 1.0 eq)を加え、100℃に昇温して14時間加熱撹拌した。この溶液に5%アンモニア水(400 mL)を加え、室温で1時間撹拌した。この混合液をクロロホルム(300 mL×3)で抽出し、有機層を合わせ市水と飽和食塩水で洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥した後、この溶液を濃縮することによって、淡黄色の固体(51.2 g)を得た。この固体をカラムクロマトグラフィー(SiO2: 800 g, クロロホルム/メタノール=8/1→5/1)により精製することによって、淡黄色結晶(41.7 g)を得た。この結晶をクロロホルム−イソプロピルエーテルで再結晶し、淡黄色結晶である化合物6(26.5 g, 0.10 mol, 87%)を得た。
【0045】
製造例1−6 化合物7
1 L反応器へ、上記製造例1−5で合成した化合物6(25.1 g, 95.3 mmol, 1.0 eq)とDMF(450 mL)、およびN-ブロモスクシミルイミド(17.0 g, 95.3 mmol, 1.0 eq)を加え、70℃で4時間撹拌した。この溶液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2: 800 g, クロロホルム/メタノール=10/1→7/1)によって精製し、淡黄色結晶(30.5 g)を得た。この結晶を少量のエタノールで再結晶することによって、白色の結晶である化合物7(26.4 g, 76.9 mmol, 81%)を得た。
【0046】
製造例1−7 化合物7の光学分割
300 mL反応器へ、上記製造例1−6で合成した化合物7(26.2 g, 76.8 mmol)とエタノール(250 mL)を加え、80℃に加熱して完全に溶解させた。この溶液を80℃まで放冷した後、エタノール(250 mL)へ完全に溶解した(D)-Dibenzoyltartaric acid(13.8 g, 38.5 mmol, 0.5 eq)を加え、50℃で15分間加熱撹拌した。この反応溶液から溶媒であるエタノール(約250 mL)を減圧留去し、残渣を再び80℃に加熱し均一な溶液とした後、放冷すると結晶が析出した。この結晶を濾取し、エタノール(250 mL)に溶解して80℃に加熱した後、放冷することにより結晶を析出させた。この結晶を濾取し、10%炭酸カリウム水溶液(300 mL)加えて溶解した。この混合液をクロロホルム(150 mL×3)で抽出し、有機層を合わせ市水と飽和食塩水で洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥した。この溶液を濃縮することによって、白色の固体(14.3 g, (R)/(S)=66/34)を得た。
【0047】
200 mL反応器へ、得られた白色固体(14.0 g, 40.8 mmol)とエタノール(140 mL)を加え、80℃に加熱することで完全に溶解した。この溶液を50℃まで放冷し、エタノール(140 mL)へ完全に溶解した(D)-Dibenzoyltartaric acid(9.7 g, 27.1 mmol, 0.66 eq)を加え、50℃で15分間熱撹拌した。この溶液から溶媒であるエタノール(約140 mL)を減圧留去し、残渣を再び80℃に加熱して均一な溶液とし、放冷すると結晶が析出した。この結晶を濾取し、再びエタノール(140 mL)に溶解して80℃に加熱し、放冷することにより結晶を析出させた。この結晶を濾取し、10%炭酸カリウム水溶液(200 mL)を加えて溶解させ、この混合液をクロロホルム(100 mL×3)で抽出した。有機層をあわせ市水と飽和食塩水で洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥した後、この溶液を濃縮することによって、白色の固体(7.5 g, (R)/(S)=88/12)を得た。
【0048】
200 mL反応器へ、得られた白色固体(7.5 g, 21.9 mmol)とエタノール(80 mL)を加え、80℃に加熱することで完全に溶解させた。この溶液を50℃まで放冷し、エタノール(100 mL)へ完全に溶解させた(D)-Dibenzoyltartaric acid(5.5 g, 15.3 mmol, 0.70 eq)を加え、50℃で15分間加熱撹拌した。この溶液から溶媒であるエタノール(約90 mL)を減圧留去し、残渣を再び800℃に加熱して均一な溶液とし、放冷すると結晶が析出した。この結晶を濾取し、エタノール(80 mL)に溶解させて80℃に加熱し、放冷することによって結晶を析出させた。この結晶を濾取し、10%炭酸カリウム水溶液(150 mL)加えて溶解させ、この混合液をクロロホルム(70 mL×3)で抽出し、有機層を合わせ市水と飽和食塩水で洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥した後、この溶液を濃縮することによって白色の固体(4.8 g, (R)/(S)=92/8)を得た。この結晶を加熱したエタノールに溶解させ放冷することで、無色の結晶(3.2 g, (R)/(S)=98/2)を析出させた。この結晶を再び加熱したエタノールに溶解させ放冷することによって、無色結晶である化合物(R)-7(2.3 g, (R)/(S)=99.2/0.8)を析出させた。
【0049】
再結晶母液を濃縮し、残渣に10%炭酸カリウム水溶液(150 mL)を加えて溶解した。この混合液をクロロホルムで抽出し、有機層を合わせて市水と飽和食塩水で洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥した後、この溶液を濃縮して白色固体である化合物7(18.9 g)を回収した。この回収した化合物7を、(L)-Dibenzoyltartaric acidで(R)体と同様の手法で光学分割を行なうことによって、化合物(S)-7(2.6 g, (R)/(S)=98.4/1.6)を得た。
【0050】
製造例1−8 化合物8(放射性TSAOO前駆体)
50 mL反応器へ、上記製造例1−7で得た(R)-7(2.1 g, 6.12 mmol, 1.0 eq)とTHF(30 mL)を加え、ドライアイス/アセトン浴で−78℃に冷却した。この溶液へ、n-ブチルリチウム1.58Mヘキサン溶液(4.65 mL, 7.34 mmol, 1.2 eq)をゆっくり滴下した。滴下後、同温で15分間撹拌した後、クロロトリブチルスズ(1.99 mL, 7.34 mmol,1.2 eq)を加えた。同温で30分間撹拌後、冷却バスを外して室温まで昇温し、更に1時間同温で撹拌した。この混合液を濃縮することによって、褐色の液体(2.9 g)を得た。褐色液体をカラムクロマトグラフィー(SiO2: 300 g, ヘキサン/酢酸エチル=2/1→酢酸エチルのみ)により精製することによって、白色の液体(2.2 g)を得た。この白色液体を再度カラムクロマトグラフィー(NH-SiO2: 120 g, ヘキサン/酢酸エチル=2/1→1/1)で精製し、目的物である淡黄色液体の化合物8(1.8 g, 3.25 mmol, 53%)を得た。
【0051】
参考製造例1 Me−TSAOO(化合物9)の合成
標品として、TSAOOのメチル化体(化合物9)を合成した。
【0052】
【化6】

【0053】
1 L反応器へ、ヨウ化銅(80 mg, 0.417 mmol, 0.2 eq)と無水ジオキサン(5 mL)を加えた。この混合液へエチレンジアミン(25 mg, 0.417 mmol, 0.2 eq)を滴下し、室温で15分間撹拌した。この混合液へ、リン酸カリウム(444 mg, 4.17 mmol,2.0 eq),2-メチル-5-ヨードチオフェン(0.934 g, 4.17 mol, 2.0 eq),および上記製造例1−4で合成した化合物5(0.38 g, 2.09 mol, 1.0 eq)を加え、90℃に昇温して16時間加熱撹拌した。この溶液に5%アンモニア水(40 mL)を加え、室温で1時間撹拌した。この混合液をクロロホルム(15 mL×3)で抽出し、有機層を合わせて市水と飽和食塩水で洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥した後、濃縮することによって黄色の固体(0.51 g)を得た。この固体をカラムクロマトグラフィー(SiO2: 50 g, クロロホルム/メタノール=8/1→5/1)により精製することによって、淡黄色結晶(0.436 g, 1.57 mmol, 75%)を得た。この結晶をクロロホルム−イソプロピルエーテルで再結晶し、淡黄色結晶である化合物8(0.436 g, 1.57 mmol, 75%)を得た。
【0054】
製造例2 放射性BTMAO前駆体(化合物20)の合成
下記合成スキームに従って、標記化合物を合成した。
【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
【化9】


【0058】
製造例2−1 化合物11(3-(4-Bromothiophenoxy)-2-chloro-1-propene)の合成
1 Lの反応容器に4-ブロモチオフェノール(50.0 g, 0.265 mol)と炭酸カリウム(44.2 g, 0.319 mol)、および乾燥THF(500 mL)を仕込み、1時間加熱還流させた。この反応混合物に、還流下で2,3-ジクロロ-1-プロペン(29.4 g, 0.265 mol)を15分間かけて滴下した。滴下後、2時間加熱還流した。反応混合物を冷却し、減圧濃縮した。残渣に水(400 mL)を加え、エーテル抽出(200 mL×3)し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することによって、化合物11(66.0 g, 94.5%)を得た。それ以上の精製をすることなく、次工程に用いた。
【0059】
製造例2−2 化合物12(5-Bromo-2-methylbenzothiophene)の合成
300 mL反応容器へ、上記製造例2−1で得た化合物11(20.1 g, 0.0762 mol)とN,N-ジエチルアニリン(100 mL)を仕込み、210℃で48時間反応させた。反応混合物を冷却後、エーテル(110 mL)で希釈し、10%塩酸で洗浄し(110 ml×3回)、その後中性になるまで水洗した。無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、溶媒を留去し、16.2 gの粗体を得た。これを、n-ヘキサンにてシリカゲルカラム精製し、化合物12を得た。(8.9 g, 純度:97.6%, 収率:85.2%)。
【0060】
製造例2−3 化合物13(2-Bromomethyl 5-bromobenzothiophene)の合成
10 L反応容器にN-ブロモスクシンイミド(301.0 g, 1.69 mol)と四塩化炭素(3.4 L)を仕込み、加熱還流した。この反応混合液に、還流下で2,2'-アゾビス-(2-メチル-プロピオニトリル)(18.7 g, 0.114 mol)を加えた。次に還流下、上記製造例2−1で得た化合物12(251.7 g, 1.11 mol)の四塩化炭素(1.7 L)溶液を、35分間かけて滴下した。滴下後、2時間加熱還流した。反応混合物を0℃まで冷却し、析出結晶をろ別した。ろ液を減圧濃縮することにより粗体(387.9 g)を得た。この粗体をn-ヘキサンにてシリカゲルカラム精製し、134.3gの化合物13を得た。(134.3 g, 純度:92.0%, 収率:39.5%)。
【0061】
製造例2−4 化合物15(3-Acetoxy quinuclidine)の合成
3 L反応コルベンに3-キヌクリジノール(化合物14)(700 g, 5.50 mol)と無水酢酸(1130 g)を仕込み、100℃で3時間加熱撹拌した。反応混合物を冷却後、減圧留去した。残渣を水(700 mL)で希釈し、飽和炭酸カリウムでpHを7.5〜8.0にした。これをクロロホルム抽出し(1 L×5回)、無水炭酸カリウムにて乾燥後、濃縮することによって、化合物15(878.0 g, 収率:94.3%)を得た。
【0062】
製造例2−5 化合物16の合成(化合物15の光学分割)
5 Lの反応コルベンにD-(-)-酒石酸(750.7 g, 5.00 mol)と80%エタノール(2.5 L)を仕込み、加熱溶解した。この溶液に、上記製造例2−4で得た化合物15(878.0 g, 5.19 mol)を加えた。一晩冷蔵庫にて放置し、析出した結晶をろ過した後、80%エタノールで洗浄し、乾燥させた。得られた結晶を80%エタノール(3 L)で2回再結晶し、化合物16をD-(-)-酒石酸塩として得た(収率:33.4%, 光学純度:98%ee)。
【0063】
製造例2−6 化合物17((S)-3-Quinuclidinol)の合成
10Lの反応コルベンに、上記製造例2−5で得た化合物16のD-(-)-酒石酸塩(532.7 g, 1.668 mol)を仕込み、35℃で2N-NaOH(5.2 L)に溶解した。この溶液に炭酸カリウム(約1.2 kg)を加えて飽和させ、その後60℃まで加熱し、1時間撹拌した。反応混合物を酢酸エチル/ブタノール=1/1にて抽出(2 L×3回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をアセトンで再結晶し、化合物17を得た(128.2 g, 60.4%)。得られた化合物17の比旋光度は、[α] +45.2°(c 3.24,1N-HCl) (文献値 +44.2°)であった。
【0064】
製造例2−7 化合物18((S)-3-Quinuclidinol−BH3錯体)の合成
1 Lの反応コルベンに、上記製造例2−6で得た化合物17(60.0 g, 0.472 mol)と乾燥THF(315 mL)を仕込み、10℃以下に冷却した。これにBH3-THF溶液(474 ml)1時間かけて滴下した。その後、1時間同温にて撹拌し、室温に戻して4時間撹拌した。反応混合物を水(1.1 L)に注入し、クロロホルムで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後に溶媒を留去した。残渣をエーテル(250 ml)に溶解し、ヘキサン(1.05 L)に再沈殿させた。析出結晶をろ過し、乾燥することによって、化合物18を得た(40.3 g,収率:60.6%)。
【0065】
製造例2−8 化合物19((S)-3-[(5-Bromobenzo[b]thiophen-2-yl)methoxy]-1-azabicyclo[2.2.2]-octane−BH3錯体)の合成
500 mL反応容器に、上記製造例2−7で得られた化合物18(28.0 g, 0.199 mol)と乾燥DMF(280 mL)を仕込み、10℃以下に冷却した。これに水素化ナトリウム(60%oil suspension)(9.52 g, 0.238 mol)を10℃以下で30分かけて添加した。1時間同温にて撹拌した後、製造例2−3で得られた化合物13(61.0 g, 0.199 mol)を70分間かけて添加した。その後、同温にて6時間撹拌した。反応混合物を氷水(2.1 L)に注入し、析出結晶をろ過した。ろ別された結晶を水洗した後、乾燥した。この粗結晶をn-ヘキサン/酢酸エチル=3/1→1/1にてシリカゲルカラム精製し、1次精製品(28.0 g)を得た。これをクロロホルム−ヘキサンにて再結晶し、化合物19を得た(21.5 g, 純度:99.0%,収率:29.6%)。
【0066】
製造例2−9 化合物20((S)-3-[(5-Tributhyltin-benzo[b]thiophen-2-yl)methoxy]-1-azabicyclo[2.2.2]octane−BH3錯体)の合成
500 mL反応容器に、アルゴン気流下、1.6M n-ブチルリチウム ヘキサン溶液(25.8 mL, 0.0413 mol)と乾燥THF(150 mL)を仕込み、−65℃に冷却した。この混合物に、上記製造例2−8で得られた化合物19(15.0 g, 0.0411 mol)の乾燥THF(200 mL)溶液を同温にて40分間かけて滴下した。滴下後、同温にて80分間撹拌し、次に塩化トリ-n-ブチルスズ(15.0 g, 0.0461 mol)を−65℃で10分間かけて滴下した。その後、同温にて5時間撹拌した。反応混合物を氷水に注入し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた粗結晶をn-ヘキサン/酢酸エチル=3/1にてシリカゲルカラム精製し、化合物20を得た(10.9 g, 純度:99.8%,収率:47.2%)。
【0067】
参考製造例2 BTMAO(化合物21)の合成
標品として、BTMAO(化合物21)を合成した。
【0068】
【化10】

【0069】
50 mL反応容器中、上記製造例2−9で得られた化合物20(500 mg, 0.00166 mol)をアセトン(10 mL)に溶解し、氷冷下で2N塩酸(1.5 mL)を加え、その後室温に戻し、1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、生成した塩酸塩に飽和K2CO3水溶液(50 mL)を加え、室温で30分撹拌した。次いで、酢酸エチルで抽出し、乾燥した後に溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,移動相:酢酸エチル)により精製し、化合物21(200 mg, 収率:82.3%)を得た。
【0070】
参考製造例3 Me−BTMAO(化合物23)の合成
標品として、BTMAOのメチル化体(化合物23)を合成した。
【0071】
【化11】

【0072】
参考製造例3−1 化合物22((S)-3-[(5-Methylbenzo[b]thiophen-2-yl)methoxy]-1-azabicyclo-[2.2.2]-octane−BH3錯体)の合成
100 mL反応容器に、アルゴン気流下で1.6 M n-ブチルリチウム ヘキサン溶液3.5ml(3.5 mL,0.0056 mol)と乾燥THF(20 mL)を仕込み、−65℃に冷却した。ここへ、上記製造例2−8で得た化合物19(2.0 g, 0.0055 mol)の乾燥THF(40 mL)溶液を、同温にて20分間かけて滴下した。滴下後、同温で1時間撹拌し、次いでヨウ化メチル(0.88 g, 0.0062 mol)を、−65℃で5分間かけて滴下した。その後、同温で5時間撹拌した。反応混合物を氷水に注入し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/イソプロピルエーテル=1/1)で精製することによって、化合物22(750 mg, 収率:45.6%,純度:99.8%)を得た。
【0073】
参考製造例3−2 化合物23((S)-3-[(5-Methylbenzo[b]thiophen-2-yl)methoxy]-1-azabicyclo[2.2.2]-octane)の合成
50 mL反応容器中、上記参考製造例3−1で得た化合物22(500 mg,0.00166 mol)をアセトン(10 mL)10mlに溶解し、氷冷下で2N塩酸(3 mL)を加え、その後室温に戻し、2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、生成した塩酸塩に飽和K2CO3水溶液(50 mL)を加えて室温で30分撹拌した。酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,移動相:酢酸エチル)で精製することによって、化合物23(370 mg, 収率:77.6%,純度:97.1%)を得た。
【0074】
参考製造例4 Br−BTMAO(化合物24)の合成
標品として、BTMAOのブロモ体(化合物24,(S)-3-[(5-Bromobenzo[b]thiophen-2-yl)methoxy]-1-azabicyclo[2.2.2]-octane)を合成した。
【0075】
【化12】

【0076】
50 mL反応容器中、上記製造例2−8で得た化合物19(550 mg, 0.00150 mol)をアセトン(20 mL)20mlに溶解し、氷冷下で2N塩酸(2 mL)を加え、その後室温に戻し、2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、生成した塩酸塩に飽和K2CO3水溶液(50 mL)を加えて室温で30分撹拌した。酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,移動相:酢酸エチル)で精製することによって、化合物24(480 mg, 収率:90.9%,純度:99.3%)を得た。
【0077】
製造例3 [11C]Me−TSAOOと[11C]Me−BTMAOの合成
【0078】
【化13】

【0079】
以下、図1に示す合成システムを用いて、ポジトロン放出化合物を合成した例を記載する(但し、図1自体は概念図である)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)(4.6 mg)とトリ-o-トルイルフォスフィン((o-Tol)3P)(6.2 mg)をジメチルホルムアミド(0.4 mL)に溶解し、第一反応器(図1中、RV1)にセットした。別途、CuCl(1.0 mg)とK2CO3(1.4 mg)、および上記製造例1で合成した放射性TSAOO前駆体(化合物8)または上記製造例2の放射性BTMAO前駆体(化合物20)(共に、6 mg)をジメチルホルムアミド(0.4 mL)に溶解し、スピッチ(VA1)にセットした。
【0080】
サイクロトロンにより加速した陽電子を、純窒素ガスを封入したターゲット(TG)に照射し、[11C]CO2を得た。マイクロラボ(MEI)中、[11C]CO2から[11C]ヨウ化メチルを合成し、室温で第一反応器(RV1)へ導入した。導入後、[11C]ヨウ化メチルを1分間反応させた。次いで、前駆体を含む溶液をスピッチ(VA1)から第一反応器(RV1)へ導入し、100℃で3分間メチル化反応を行った。反応終了後、反応液をグラスフィルター(Filter, 直径:13 mm, 孔径:0.7μm)で濾過し、濾液をHPLCにより分離した。[11C]Me-TSAOOまたは[11C]Me-BTMAOが含まれる分画からエバポレーターを用いて溶媒を留去した。それぞれのHPLC結果を図2と3に示す。分析条件は、以下の通りである。
カラム : 日本分光Finepak SIL C18S 4.6×150mm([11C]Me-TSAOO)
日本分光Megapak SIL C18-10 7.6×250mm([11C]Me-BTMAO)
溶出液 : CH3CN:30mM AcONH4:AcOH=780:220:2
流速 : 2 mL/min([11C]Me-TSAOO)
6 mL/min([11C]Me-BTMAO)
【0081】
また、[11C]Me-BTMAOについては、ポジトロン放出能のない標品との比較をHPLCで行った(図4)。分析条件は、以下の通りである。
カラム : 日本分光Finepak SIL C18S 4.6×150mm
溶出液 : CH3CN:30mM AcONH4:AcOH=500:500:2
流速 : 2 mL/min
【0082】
更に、それぞれの特性を表1に示す。
【0083】
製造例4 [76Br]Br−BTMAOの合成
【0084】
【化14】

【0085】
上記製造例2の放射性BTMAO前駆体(化合物20)(6 mg,10μmol)を1%酢酸/エタノール溶液(0.5mL)に溶解した。別途、[76Br]Br溶液を、アルゴンガス気流下で70℃に加熱し、約0.2 mLまで濃縮した。この[76Br]Br溶液に、上記BTMAO前駆体溶液,水(50μL)および200 mM クロラミン-T エタノール溶液(100μL,20μmol)を加えた。ヒーティングブロックを用いて反応液を100℃に加熱し、60分間反応させた後、HPLCで分離した。次いで、[76Br]Me-BTMAOが含まれる分画からエバポレーターを用いて溶媒を留去した。精製前と精製後におけるHPLC分析チャートを図5に示す。なお、分析条件は、以下の通りである。
カラム : 日本分光Finepak SIL C18S 4.6×150mm
溶出液 : CH3CN:30mM AcONH4:AcOH=500:500:2
流速 : 2 mL/min
【0086】
また、それぞれの特性を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
試験例1
先ず、上記製造例3と4で得た[11C]Me-TSAOO,[11C]Me-BTMAOおよび[76Br]Me-BTMAOをそれぞれ生理食塩水に溶解し(濃度:14.3μM、3.0μMおよび3.3μM)、100 MBq前後のポジトロン放出源溶液を調製した。次いで、体重5 kg前後のアカゲザルを無麻酔下にポジトロン断層撮影装置(浜松ホトニクス(株)社製,SHR-7700 )に固定し、吸収補正のためのトランスミッション計測後、各ポジトロン放出源溶液(2〜5 mL)を静脈から投与し、180分間のダイナミック計測を行なった。
【0089】
同一個体について、核磁気共鳴断層画像装置(東芝メディカル社製,MRT-50A/II)により断層画像を得、その結果より関心領域(以下、「ROI」という)を決定し、各ROIにおけるポジトロン放出化合物の分布を求めた。結果を図6〜8に示す。
【0090】
当該結果より、本発明のポジトロン放出化合物は、静脈投与により脳内に速やかに取り込まれ、基底核と後頭葉に高く分布し、また、前頭葉と側頭葉にも比較的高い分布することが明らかにされた。この結果は、従来から知られているα7ニコチン受容体の脳内分布と対応するものである。
【0091】
従って、本発明に係るポジトロン断層撮影法によれば、脳内におけるα7ニコチン受容体の分布や集積度を測定できることから、本発明方法はα7ニコチン受容体に関係する疾患の診断に応用できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係るポジトロン放出化合物を合成するシステムの概念図である。
【図2】[11C]Me−TSAOOの精製前(A)と精製後(B)におけるHPLCチャートである。
【図3】[11C]Me−BTMAOの精製前(A)におけるHPLCチャートである。
【図4】ポジトロン放出能のない標品(A)と[11C]Me−BTMAO(B)の精製後(B)のHPLCチャートである。
【図5】[76Br]Br−BTMAOの精製前(A)と精製後(B)におけるHPLCチャートである。
【図6】[11C]Me−TSAOOのポジトロン断層撮影結果を示す図と、脳各部における[11C]Me−TSAOO分布の経時的変化を示す図である。
【図7】[11C]Me−BTMAOのポジトロン断層撮影結果を示す図と、脳各部における[11C]Me−BTMAO分布の経時的変化を示す図である。
【図8】[76Br]Br−BTMAOのポジトロン断層撮影結果を示す図と、脳各部における[76Br]Br−BTMAO分布の経時的変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポジトロン放出源の分布と集積度を測定するポジトロン断層撮影法において、当該ポジトロン放出源として、α7ニコチン受容体の選択的リガンドを用いることを特徴とするポジトロン断層撮影法。
【請求項2】
上記ポジトロン放出源として、化合物(I)または(II)を用いる請求項1に記載のポジトロン断層撮影法。
【化1】


[式中、Rはポジトロン放出元素またはポジトロン放出元素を含む置換基を示す。]
【請求項3】
上記ポジトロン放出源に含まれるポジトロン放出元素として、11C,13N,18F,76Brおよび123Iよりなる群から選択される1種または2種以上を用いる請求項1または2に記載のポジトロン断層撮影法。
【請求項4】
ポジトロン放出源である化合物(I)または(II)。
【化2】


[式中、Rはポジトロン放出元素またはポジトロン放出元素を含む置換基を示す。]


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−76891(P2006−76891A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259669(P2004−259669)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000134637)株式会社ナード研究所 (31)
【Fターム(参考)】