説明

ポジトロンCT装置

【課題】光子を検出する検出手段の出力の変動を抑制することができ、安定した検出手段による検出精度を得ることができるポジトロンCT装置を提供することを目的とする。
【解決手段】被検体内に投与されたポジトロン放射性薬剤から放出される光子を検出する光子検出器32からの出力を表すエネルギスペクトルをエネルギ変換部52は出力する。外乱によって光子検出器32の出力が変動するが、外乱によるエネルギの変動分をなくすようにエネルギスペクトルを補正するエネルギウィンドウ判定部55を備えることで、光子検出器32の出力の変動を抑制することができ、安定した光子検出器32による検出精度を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体内に投与されたポジトロン放射性薬剤から放出される光子を検出するポジトロンCT装置(Positron Emission Computed-Tomography : 以下、「PET装置」ともいう)に係り、特に、エネルギスペクトルの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PET装置は、陽電子(Positron)、すなわちポジトロンの消滅によって発生する複数本の光子を検出して複数個の検出器で光子を同時に検出したときのみ被検体の断層画像を再構成するように構成されている。
【0003】
具体的には、陽電子放出核種を含んだ放射性薬剤を被検体内に投与して、投与された被検体内から放出される511KeVの対消滅光子を多数の検出素子(例えばシンチレータ)群からなる検出器で検出する。そして、2つの検出器で一定時間内に光子を検出した場合に同時に検出したとして、それを一対の対消滅光子として計数し、さらに対消滅発生地点を、検出した検出器対の直線上と特定する。このような同時計数情報を蓄積して再構成処理を行って、陽電子放出核種分布画像(すなわち断層画像)を得る。
【0004】
このように、検出器の位置情報から光源の情報を求めて、その情報から画像を得て撮像を行う装置では、検出器の詳細な位置情報を得ることで画像の質を向上させている(例えば、特許文献1、2参照)。一般的に、シンチレータや光電子増倍管(PMT: Photo Multiplier Tube)や集積回路(IC: Integrated Circuit)などは温度依存性を持っているので、どんなに厳密な室温管理を実施しても、いかなる時でも検出器の出力を変動させないように制御するのは難しい。
【0005】
このように、外気の温度(気温)や計数率などは常に変動し、気温や計数率などの外乱によって検出器の出力は常に変動する。なお、装置内部のAD変換器などによってもオフセット成分(バックグランドのノイズ)が重畳されるが、この場合にはオフセット成分が定常状態であるので、そのオフセット成分を差し引くことで検出器の出力を求めることができる(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−245592号公報
【特許文献2】特開2007−271428号公報
【特許文献3】国際公開第WO2008−018264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、PET装置では511KeVの光子を検出器で検出する。この検出器からエネルギ情報を生成するが、検出器の出力である電圧や電荷といった情報をエネルギ情報に変換するには、エネルギ変換係数(Energy Calibration: 以下、「EC係数」とも呼ぶ)が必要になる。このEC係数については、エネルギスペクトルを適時取得して更新する必要がある。このエネルギスペクトルの収集を、被検体内に投与された放射性薬剤から放出される光子を検出することで得られるエミッションデータの収集とは別に行った場合には、エミッションデータの収集中にエネルギ情報を取得することができない。したがって、エミッションデータの収集中に検出器の出力が変動した場合には、その変動に対応することができない。以上のように、装置内部のAD変換器などによるオフセット成分が定常状態であるのに相違して、装置外部の外乱による検出器の出力は常に変動するので、その変動を注視する必要がある。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、光子を検出する検出手段の出力の変動を抑制することができ、安定した検出手段による検出精度を得ることができるポジトロンCT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、被検体内に投与されたポジトロン放射性薬剤から放出される光子を検出する検出手段を備えたポジトロンCT装置であって、前記検出手段からの出力を表すエネルギスペクトルを出力する出力手段と、外乱によるエネルギの変動分をなくすように前記エネルギスペクトルを補正する補正手段とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、被検体内に投与されたポジトロン放射性薬剤から放出される光子を検出する検出手段からの出力を表すエネルギスペクトルを出力手段が出力する。外乱によって検出手段の出力が変動するが、外乱によるエネルギの変動分をなくすようにエネルギスペクトルを補正する補正手段を備えることで、検出手段の出力の変動を抑制することができ、安定した検出手段による検出精度を得ることができる。
【0011】
上述した発明において、エネルギスペクトルのピーク位置を検索する検索手段と、外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求める算出手段とを備え、その算出手段で求められた変動量に基づいて補正手段はエネルギスペクトルを補正するのが好ましい(請求項2に記載の発明)。検索手段がエネルギスペクトルのピーク位置を検索し、算出手段が外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求めることで、算出手段で求められた変動量に基づいて補正手段はエネルギスペクトルを容易に補正することができる。以上のように、検索されたピーク位置を基準として変動量を求めることで補正手段による補正を容易に行うことが可能である。
【0012】
上述した検索手段と算出手段とを備えた発明(請求項2に記載の発明)の場合、算出手段で求められた変動量に基づいて装置の状態を診断する診断手段を備えてもよい(請求項3に記載の発明)。例えば、変動量の絶対値が、後述する請求項9に記載の発明のように、予め定められた所定量よりも小さい場合には、その変動量が外乱に起因する量のみだと診断することができ、変動量の絶対値が上述した所定量よりも大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、エネルギスペクトルを改めて出力し直すという診断を行うこともできる。
【0013】
上述した発明(請求項1に記載の発明)や上述した検索手段と算出手段とを備えた発明(請求項2、3に記載の発明)において、検出手段で検出されたデータであるエミッションデータを用いて補正を行ってもよいし(請求項4、5に記載の発明)、外部線源からの放射線が検出手段で検出されたデータであるトランスミッションデータを用いて補正を行ってもよい(請求項6、7に記載の発明)。
【0014】
具体的には、検出手段で検出されたデータであるエミッションデータに基づいて、出力手段はエネルギスペクトルを出力し、検出手段によるエミッションデータの収集中に、補正手段はエネルギスペクトルを補正する(請求項4に記載の発明)。あるいは、検索手段と算出手段とを備えた発明(請求項2、3に記載の発明)の場合には、エミッションデータに基づいて、出力手段はエネルギスペクトルを出力し、検出手段によるエミッションデータの収集中に、補正手段はエネルギスペクトルを補正する、あるいは算出手段は変動量を求める(請求項5に記載の発明)。このように、エミッションデータに基づいてエネルギスペクトルを出力するので、エミッションデータ収集中でも補正や算出を行うことができ、いかなるときでも外乱による変動に対応することができる。
【0015】
また、放射線を被検体の外部から照射する外部線源を備え、検出手段は、外部線源で照射された放射線を検出し、その放射線が検出されたデータであるトランスミッションデータに基づいて、出力手段はエネルギスペクトルを出力し、検出手段によるトランスミッションデータの収集中に、補正手段はエネルギスペクトルを補正する(請求項6に記載の発明)。あるいは、検索手段と算出手段とを備えた発明(請求項2、3に記載の発明)の場合には、同じく外部線源を備え、トランスミッションデータに基づいて、出力手段はエネルギスペクトルを出力し、検出手段によるトランスミッションデータの収集中に、補正手段はエネルギスペクトルを補正する、あるいは算出手段は変動量を求める(請求項7に記載の発明)。このように、トランスミッションデータに基づいてエネルギスペクトルを出力するので、トランスミッションデータ収集中でも補正や算出を行うことができ、いかなるときでも外乱による変動に対応することができる。
【0016】
上述したこれらの発明において、補正手段での補正を、所定の更新条件を満たすときに行うのが好ましい(請求項8に記載の発明)。外乱による変動のみの場合には、補正を行ってもよいが、外乱以外の要素が加わった場合には、補正を行うことで却って過補正になる恐れがある。そこで、所定の更新条件を満たすときに補正手段での補正を行い、所定の更新条件を満たさないときには補正手段での補正を行わないようにすればよい。
【0017】
例えば、上述した請求項2に記載の発明のように、エネルギスペクトルのピーク位置を検索する検索手段と、外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求める算出手段とを備え、その算出手段で求められた変動量の絶対値が、予め定められた所定量よりも小さい条件を満たすときに、補正手段での補正を行ってもよい(請求項9に記載の発明)。請求項3に記載の発明でも述べたように、変動量の絶対値が、予め定められた所定量よりも小さい場合には、その変動量が外乱に起因する量のみだと判断して、補正手段での補正を行う。逆に、変動量の絶対値が上述した所定量よりも大きい場合には、外乱以外の要素が加わった(例えばエネルギスペクトル自体が異常である)として、補正手段での補正を行わないようにする。
【0018】
その他に、対象とするエネルギスペクトルのピーク位置を含むエネルギ帯域の他に、別のエネルギ帯域を設定し(請求項10、11に記載の発明)、ピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値が、上述の別のエネルギ帯域での光子の計数値よりも先に、予め定められた所定値に達したときに(請求項10に記載の発明)、または上述の別のエネルギ帯域での光子の計数値の1以上の所定係数倍よりも大きいときに(請求項11に記載の発明)、補正手段での補正を行ってもよい(請求項10、11に記載の発明)。
【0019】
対象とするエネルギスペクトルのピークよりも別のエネルギ帯域においてノイズ等によってピークの方が有意に大きい場合、あるいは例えば対象とするエネルギスペクトルがエミッションデータに関するもので、エミッションデータによるピークよりもトランスミッションデータによるピークの方が有意に大きい場合、逆に対象とするエネルギスペクトルがトランスミッションデータに関するもので、トランスミッションデータによるピークよりもエミッションデータによるピークの方が有意に大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるので補正を行わない方がよい。したがって、前者の発明(請求項10に記載の発明)においても、後者の発明(請求項11に記載の発明)においても、正常とする条件(前者の発明の場合にはピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値が、別のエネルギ帯域での光子の計数値よりも先に、予め定められた所定値に達したとき、後者の発明の場合にはピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値が、別のエネルギ帯域での光子の計数値の1以上の所定係数倍よりも大きいとき)を設定することで、エネルギスペクトルのピークよりも別のエネルギ帯域においてピークの方が有意に大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、補正手段での補正を行わないようにする。特に後者の発明の場合には、1以上の所定係数を乗じることで、正常とする条件を厳しくしている。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係るポジトロンCT装置によれば、外乱によるエネルギの変動分をなくすようにエネルギスペクトルを補正する補正手段を備えることで、検出手段の出力の変動を抑制することができ、安定した検出手段による検出精度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各実施例に係るトランスミッション型のPET装置の側面図である。
【図2】実施例1に係るトランスミッション型のPET装置のブロック図である。
【図3】光子検出器の具体的構成の概略図である。
【図4】エネルギスペクトルの模式図である。
【図5】一連の補正の流れを示すフローチャートである。
【図6】更新条件に関する各条件の説明図である。
【図7】ピーク位置の補正の模式図である。
【図8】実施例2に係るトランスミッション型のPET装置のブロック図である。
【図9】冷却ファンをオン・オフにした場合のエネルギスペクトルの実験結果である。
【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例1に係るトランスミッション型のPET装置の側面図であり、図2は、実施例1に係るトランスミッション型のPET装置のブロック図である。なお、後述する実施例2も含めて、本実施例1では、PET (Positron Emission Computed-Tomography) 装置とトランスミッション装置とを組み合わせたトランスミッション型のPET装置を例に採って説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施例1に係るトランスミッション型のPET装置1は、水平姿勢の被検体Mを載置する天板2を備えている。この天板2は、上下に昇降移動、被検体Mの体軸に沿って平行移動するように構成されている。トランスミッション型のPET装置1は、天板2に載置された被検体Mを診断するPET装置3とトランスミッション装置4とを備えている。トランスミッション型のPET装置1は、この発明におけるポジトロンCT装置に相当する。
【0024】
PET装置3は、開口部31aを有したガントリ31と被検体Mから発生した光子を検出する光子検出器32とを備えている。光子検出器32は、被検体Mの体軸周りを取り囲むようにしてリング状に配置されており、ガントリ31内に埋設されている。光子検出器32は、シンチレータブロック32aとライトガイド32bと光電子増倍管(PMT)32c(図3を参照)とを備えている。シンチレータブロック32aは、複数個のシンチレータからなる。放射性薬剤が投与された被検体Mから発生した光子をシンチレータブロック32aが光に変換して、変換されたその光をライトガイド32bが案内して、光電子増倍管32cが光電変換して電気信号に出力する。光子検出器32は、この発明における検出器に相当する。光子検出器32の具体的な構成については、図3で後述する。後述するトランスミッション装置4のトランスミッション検出器43も、光子検出器32と同様の構成となっている。
【0025】
一方、トランスミッション装置4は、開口部41aを有したガントリ41を備えている。ガントリ41内には放射線を照射させる線源42と、被検体Mを透過した光子を検出するトランスミッション検出器43とを配設している。モータ(図示省略)の駆動によってガントリ41内で線源42を被検体Mの体軸の軸心周りに回転させる。トランスミッション検出器43については被検体Mの体軸の軸心周りにリング状に配設しており、静止させている。もちろん、線源42と同様に、トランスミッション検出器43を被検体Mの体軸の軸心周りに回転させてもよい。
【0026】
図1(a)では、PET装置3のガントリ31とトランスミッション装置4のガントリ41とを互いに別体としたが、上述した実施例1と同様に、図1(b)に示すように、一体型に構成してもよい。
【0027】
続いて、トランスミッション型のPET装置1のブロック図について説明する。図2に示すように、トランスミッション型のPET装置1は、上述した天板2やPET装置3やトランスミッション装置4の他に、コンソール7を備えている。PET装置3は、上述したガントリ31や光子検出器32の他に、増幅器33とAD変換器34とエミッションデータ収集基板5とを備えている。トランスミッション装置4は、上述したガントリ41や線源42やトランスミッション検出器43の他に、AD変換器45とエミッションデータ収集基板6とを備えている。
【0028】
エミッションデータ収集基板5は、プログラムデータに応じて内部の使用するハードウェア回路(例えば論理回路)が変更可能なプログラマブルデバイス(例えばFPGA(Field Programmable Gate Array))で構築される。エミッションデータ収集基板5は、光子検出器32で検出されたデータであるエミッションデータを収集し、同時計数回路51とエネルギ変換部52とピーク位置検索部53と補正係数算出・適用部54とエネルギウィンドウ判定部55とを備えている。エネルギ変換部52は、この発明における出力手段に相当し、ピーク位置検索部53は、この発明における検索手段に相当し、補正係数算出・適用部54は、この発明における算出手段に相当し、エネルギウィンドウ判定部55は、この発明における補正手段に相当する。なお、補正係数は、この発明における(ピーク位置の)変動量に相当する。
【0029】
トランスミッションデータ収集基板6は、エミッションデータ収集基板5と同様にプログラマブルデバイスで構築される。トランスミッションデータ収集基板6は、線源42からの放射線がトランスミッション検出器43で検出されたデータであるトランスミッションデータを収集する。
【0030】
コンソール7は、データ収集部71と画像再構成部72とメモリ部73と入力部74と出力部75とコントローラ76とを備えている。その他に、本実施例1では、コンソール7は、トランスミッション型のPET装置1の状態を診断する診断部77を備えている。診断部77は、この発明における診断手段に相当する。
【0031】
増幅器33は、光子検出器32で検出されて出力された電気信号を増幅させる。AD変換器34は、増幅器33で増幅された電気信号のアナログ値をディジタル値に変換してディジタル出力する。
【0032】
同時計数回路51は、光子が光子検出器32で同時に検出(すなわち同時計数)されたか否かを判定する。同時計数回路51で同時計数されたエミッションデータをデータ収集部71に送り込む。
【0033】
光子検出器32で検出された光子のうち所望のエネルギ幅を持った光子のみを取り出すために、光子検出器32で検出された光子の計数値の分布をエネルギ・チャンネル軸上で表したエネルギ・チャンネル・スペクトル(図4を参照)を光子検出器32ごとに蓄積し、エネルギ変換部52は、単位エネルギ当たりのチャンネル数であるエネルギ変換係数(EC係数)を用いて、光子の計数値の分布をエネルギ軸上で表したエネルギスペクトルとして出力する。すなわち、エネルギ変換部52は、光子検出器32からの出力を表すエネルギスペクトルを出力する。
【0034】
具体的には、エネルギ変換係数の単位は[ch/KeV]で表わされ、本実施例1のようにエミッションデータの場合には、エネルギのピークに相当するチャンネル[ch]からエミッションデータにおけるピークのエネルギ511KeVを除算することでエネルギ変換係数[ch/KeV]が得られる。したがって、エネルギ・チャンネル・スペクトルをエネルギスペクトルにするには、チャンネル[ch]からエネルギ変換係数[ch/KeV]を除算すれば得られる。
【0035】
エネルギ変換係数[ch/KeV]は、チャンネルとエネルギとが予め対応づけられている。図4では、エネルギ・チャンネル・スペクトルを併記したエネルギスペクトルとしているが、便宜上、エミッションデータにおけるピークのエネルギ511KeVを512KeVとする。また、ピークのエネル512KeVに対応するチャンネルを128[ch]とすると、エネルギ変換係数[ch/KeV]は1/4[ch/KeV](=128[ch]/512KeV)となる。したがって、設定されたチャンネル帯域が、図4に示すように、122[ch]〜134[ch]の場合には、それに対応するエネルギ帯域は488KeV〜536KeVとなる。
【0036】
ピーク位置検索部53は、エネルギスペクトルのピーク位置を検索する。本実施例1のようにエミッションデータの場合には、エネルギに換算すれば511KeV(図4では512KeV)であり、チャンネルに換算すれば128[ch]である。補正係数算出・適用部54は、エネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求める。チャンネルに換算した変動量を補正係数αとする。
【0037】
エネルギウィンドウ判定部55は、補正係数算出・適用部54で求められた補正係数αに基づいて、エネルギスペクトルのエネルギ・チャンネル軸上で補正係数αを加算することで、エネルギスペクトルを補正する。そして、補正されたエネルギスペクトルからピーク位置にある光子のみを取り出すことで、そのピーク位置にある光子のみが同時計数回路51にて同時計数される。なお、光子検出器32から増幅器を通さずに同時計数回路51に送られた情報は時間情報であって、タイミングウィンドウ(例えば10nsec)が設けられており、そのタイミングウィンドウ内のタイミングで2つの光子が光子検出器32でそれそれ検出された場合には、同時に検出(すなわち同時計数)されたと判定する。
【0038】
一方、トランスミッション装置4の増幅器44は、PET装置3の増幅器33と同様に、トランスミッション検出器43で検出されて出力された電気信号を増幅させ、トランスミッション装置4のAD変換器45は、PET装置3のAD変換器34と同様に、増幅器44で増幅された電気信号のアナログ値をディジタル値に変換してディジタル出力する。トランスミッションデータ収集基板6は、トランスミッション検出器43で検出された光子に基づいて光子吸収係数の分布データをトランスミッションデータ(吸収補正データ)として収集する。トランスミッションデータ収集基板6で収集されたトランスミッションデータをデータ収集部71に送り込む。なお、トランスミッションデータ収集基板6については、後述する実施例2のように、エミッションデータ収集基板5と同様の機能(補正機能、検索機能、算出機能など)を有してもよい。
【0039】
データ収集部71は、同時計数回路51で同時計数されて収集されたエミッションデータに、トランスミッションデータ収集基板6で収集されたトランスミッションデータを作用させて、被検体Mの体内での光子の吸収を考慮した投影データに補正する。すなわち、トランスミッションデータをエミッションデータに作用させてエミッションデータの吸収補正を行う。データ収集部71は、吸収補正された投影データ(エミッションデータ)を画像再構成部72に送り込む。画像再構成部72は、吸収補正された投影データを再構成して断層画像を生成する。
【0040】
メモリ部73は、コントローラ76を介して、エミッションデータ収集基板5やトランスミッションデータ収集基板6やデータ収集部71で収集された各々のデータや画像再構成部72で再構成された断層画像などのデータを書き込んで記憶し、適宜必要に応じて読み出して、コントローラ76を介して、各々のデータを出力部75に送り込んで出力する。メモリ部73は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)などに代表される記憶媒体で構成されている。
【0041】
入力部74は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ76に送り込む。入力部74は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。出力部75は、モニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。
【0042】
コントローラ76は、実施例1に係るトランスミッション型のPET装置1を構成する各部分を統括制御する。コントローラ76は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。エミッションデータ収集基板5やトランスミッションデータ収集基板6やデータ収集部71で収集された各々のデータや画像再構成部72で再構成された断層画像などのデータを、コントローラ76を介して、メモリ部73に書き込んで記憶、あるいは出力部75に送り込んで出力する。出力部75が表示部の場合には出力表示し、出力部75がプリンタの場合には出力印刷する。
【0043】
なお、診断部77は、補正係数算出・適用部54で求められた補正係数αに基づいて、実施例1に係るトランスミッション型のPET装置1の状態を診断する。例えば、補正係数αの絶対値が、予め定められた所定量よりも小さい場合には、その補正係数αが外乱に起因する量のみだと判断することができ、補正係数αの絶対値が上述した所定量よりも大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、エネルギスペクトルを改めて出力し直すという診断を行うこともできる。また、診断部77での結果をブザーやランプなどの報知手段(図示省略)に送り込んで、結果をオペレータに聴覚や視覚で喚起してもよい。なお、診断部77をコンソール7内でなく、エミッションデータ収集基板5内に備えてもよい。
【0044】
放射性薬剤が投与された被検体Mから発生した光子を光子検出器32のうち該当する光子検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)が光に変換して、変換されたその光を光子検出器32の光電子増倍管32c(図3を参照)が光電変換して電気信号に出力する。その電気信号を画像情報(画素値)として同時計数回路51とともに増幅器33に送り込む。
【0045】
具体的には、被検体Mに放射性薬剤を投与すると、ポジトロン放出型のRIのポジトロンが消滅することにより、2本の光子が発生する。同時計数回路51は、光子検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)の位置と光子の入射タイミングとをチェックし、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック32aで光子が同時に入射したとき(すなわち同時計数したとき)のみ、送り込まれた画像情報を適正なデータと判定する。一方のシンチレータブロック32aのみに光子が入射したときには、同時計数回路51は、ポジトロンの消滅により生じた光子ではなくノイズとして扱い、そのときに送り込まれた画像情報もノイズと判定してそれを棄却する。
【0046】
同時計数回路51に送り込まれた画像情報を投影データ(エミッションデータ)として、データ収集部71に送り込む。一方、線源42から被検体Mに光子を照射して、被検体Mの外部から照射されて被検体Mを透過した光子をトランスミッション検出器43が電気信号に変換することで光子を検出する。トランスミッション検出器43で変換された電気信号を画像情報(画素値)として、増幅器44およびAD変換器45を介してトランスミッションデータ収集基板5に送り込む。トランスミッションデータ収集基板5は、送り込まれた画像情報に基づいてトランスミッションデータ(吸収補正データ)を求める。トランスミッションデータ収集基板5は、光子またはX線の吸収係数とエネルギとの関係を表す演算を利用することで、CT用の投影データ、すなわちX線吸収係数の分布データを光子吸収係数の分布データに変換して、光子吸収係数の分布データをトランスミッションデータ(吸収補正データ)として収集する。トランスミッションデータ収集基板6は、トランスミッションデータをデータ収集部71に送り込む。
【0047】
データ収集部71は、エミッションデータの吸収補正を行って、画像再構成部72に送り込み、送り込まれた吸収補正後の投影データを画像再構成部72は再構成して、被検体Mの体内での光子の吸収を考慮した断層画像を生成する。
【0048】
次に、後述する実施例2も含めて、本実施例1に係る光子検出器32の具体的な構成について、図3を参照して説明する。図3は、光子検出器の具体的構成の概略図である。
【0049】
光子検出器32は、深さ方向に減衰時間が互いに異なる検出素子であるシンチレータを複数組み合わせて構成されたシンチレータブロック32aと、シンチレータブロック32aに光学的に結合されたライトガイド32bと、ライトガイド32bに光学的に結合された光電子増倍管32cとを備えて構成されている。シンチレータブロック32a中の各シンチレータは、入射された光子によって発光して光に変換することでγ線を検出する。なお、シンチレータブロック32aについては、必ずしも深さ方向(図3ではr)に減衰時間が互いに異なるシンチレータを組み合わせる必要はない。また、深さ方向に2層のシンチレータを組み合わせたが、単層のシンチレータでシンチレータブロック32aを構成してもよい。
【0050】
続いて、エネルギスペクトルについて、図4を参照して説明する。図4は、エネルギスペクトルの模式図である。
【0051】
エミッションデータの場合には、図4に示すように、128[ch]にピークが現れる。エネルギに換算した場合には511KeV(図4では512KeV)にピークが現れる。また、トランスミッションデータの影響により128[ch]のピークとは別にピークが現れる。エネルギに換算すれば662KeVにトランスミッションデータの影響によるピークが現れる。その他にもノイズ等により、ピークが現れる可能性がある。そこで、後述するように、エネルギ帯域(チャンネルに換算した場合にはチャンネル帯域でもよい)を複数に設定して、補正係数αによる補正の要否を決定する更新条件を設定する。
【0052】
次に、補正係数による補正について、図5〜図7を参照して説明する。図5は、一連の補正の流れを示すフローチャートであり、図6は、更新条件に関する各条件の説明図であり、図7は、ピーク位置の補正の模式図である。
【0053】
(ステップS1)A&Bの条件を満たす?
更新条件に関する各条件として、図6に示すようなAの条件を満たし、かつBの条件を満たすか否かを判定する。Aの条件およびBの条件のうち、少なくとも一方を満たさなければ、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにして、ステップS5に跳ぶ。逆に、Aの条件を満たし、かつBの条件を満たす場合には、次のステップS2に進む。
【0054】
Aの条件では、図6(a)に示すように、対象とするエネルギスペクトルのピーク位置を含むエネルギ帯域の他に、別のエネルギ帯域を設定する。本実施例1のようにエミッションデータの場合には、対象とするエネルギスペクトルのピーク位置は、上述したように511KeV(図4(a)、図6では512KeV)(チャンネルに換算すれば128[ch])であるので、例えばエネルギ帯域としては図4(a)、図6に示すように488KeV〜536KeV(チャンネルに換算すれば122[ch]〜134[ch])の範囲を設定する。別のエネルギ帯域としては、トランスミッションデータの影響によるピーク位置を含むエネルギ帯域や、ノイズ等により現れるピーク位置を含むエネルギ帯域を設定すればよい。トランスミッションデータの影響により現れるピーク位置は、上述したように662KeV(チャンネルに換算すれば165.5[ch])であるので、図4(a)に示すように、662KeVを含むようにエネルギ帯域を設定する。ノイズ等により現れるピーク位置が、例えば400KeV(チャンネルに換算すれば100[ch])以下のエネルギ帯域の場合には、400KeV以下のエネルギ帯域を設定する。なお、Luのように自己放射能を有する物質を用いて光子検出器32を形成した場合には、β−崩壊による電子(最大エネルギ580KeV)を放出した後、直ちに307KeVや202KeVや88KeVなどのγ線を放出し、それらのピークが511KeVのピークを上回る可能性があるので、307KeV等を除外すべく300KeV〜400KeV内の任意のエネルギ帯域(ただし307KeVを除く)で、ノイズ等により現れるピーク位置を含むように、エネルギ帯域を設定する。設定については、例えばエミッションデータ収集基板5を構築するプログラマブルデバイスが行えばよい。
【0055】
図4(a)に示すように、511KeV(図4(a)、図6では512KeV)(チャンネルに換算すれば128[ch])のピーク位置を含む488KeV〜536KeV(チャンネルに換算すれば122[ch]〜134[ch])のエネルギ帯域での光子の計数値をPC511とし、別のエネルギ帯域での光子の計数値として、662KeV(チャンネルに換算すれば165.5[ch])のピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値をPC662とするとともに、400KeV(チャンネルに換算すれば100[ch])以下のエネルギ帯域での光子の計数値をPCとする。511KeVのピーク位置を含む488KeV〜536KeVのエネルギ帯域での光子の計数値PC511が、別のエネルギ帯域での光子の計数値PC662,PC511よりも先に、予め定められた所定値に達した条件を、Aの条件とする。所定値としては、例えば100カウントとして、PC511が、PC662,PCよりも先に100カウントに達しなければ、対象とするエネルギのピークよりも別のエネルギ帯域においてピークの方が有意に大きいとして、エネルギスペクトル自体が異常であると判定して、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにする。
【0056】
一方、図6(b)に示すように、511KeVのピーク位置を含む488KeV〜536KeVのエネルギ帯域での光子の計数値PC511が、別のエネルギ帯域での光子の計数値PC662,PCの1以上の所定係数倍よりも大きいときの条件を、Bの条件とする。式にすれば、1以上の所定係数をKとすると、PC511>K×PC662,PC511>K×PCの条件を、Bの条件とする。Kについては1以上であれば、Kは1であってもよいし、例えばK=2としてもよい。もし、PC511≦K×PC662またはPC511≦K×PCであれば、対象とするエネルギのピークよりも別のエネルギ帯域においてピークの方が有意に大きいとして、エネルギスペクトル自体が異常であると判定して、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにする。
【0057】
(ステップS2)補正係数の算出
ステップS1でAの条件を満たし、かつBの条件を満たす場合には、ピーク位置検索部53で検索されたエネルギスペクトルのピーク位置(本実施例1のようにエミッションデータの場合には、エネルギに換算すれば511KeV(図4では512KeV)、チャンネルに換算すれば128[ch])からの変動量、すなわちエネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求める。図7(a)に示すように、ピーク位置が126[ch]の場合には、128[ch]−126[ch]の変動量である補正係数αを補正係数算出・適用部54は求める(この場合にはα=2[ch])。なお、図7では灰色部分が、対象とするエネルギスペクトルのピーク位置を含むエネルギ帯域(ここでは122[ch]〜134[ch])である。
【0058】
(ステップS3)補正係数の絶対値が所定値以下?
ステップS2で求められた補正係数αの絶対値が所定値以下である否かを判定する。補正係数αの絶対値が所定値を超えていたら、外乱以外の要素が加わった(例えばエネルギスペクトル自体が異常である)として、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにして、ステップS5に跳ぶ。逆に、補正係数αの絶対値が所定値以下では、次のステップS4に進む。所定値としては、例えばピーク位置からエネルギ帯域外に変動している場合(ここでは134[ch]−128[ch]=128[ch]−122[ch]=6[ch]を超えた場合)の値を設定して、補正係数αの絶対値が6[ch]を超えていたら、外乱以外の要素が加わった(エネルギスペクトル自体が異常である)として、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにする。
【0059】
(ステップS4)ピーク位置の補正
ステップS3で補正係数αの絶対値が所定値以下である場合には、エネルギウィンドウ判定部55はエネルギスペクトルのエネルギ・チャンネル軸上で補正係数αを加算することで、図7(b)に示すようにエネルギスペクトルを補正する。このようにして一連のステップS1〜S4を終了する。
【0060】
(ステップS5)エネルギスペクトルの再出力
ステップS1でAの条件およびBの条件のうち、少なくとも一方を満たさない場合や、ステップS3で補正係数αの絶対値が所定値を超えていたら、外乱以外の要素が加わった(例えばエネルギスペクトル自体が異常である)として、エネルギスペクトルを再出力する。
【0061】
上述の構成を備えた本実施例1に係るトランスミッション型のPET装置1によれば、被検体M内に投与されたポジトロン放射性薬剤から放出される光子を検出する光子検出器32からの出力を表すエネルギスペクトルをエネルギ変換部52は出力する。外乱によって光子検出器32の出力が変動するが、外乱によるエネルギの変動分をなくすようにエネルギスペクトルを補正するエネルギウィンドウ判定部55を備えることで、光子検出器32の出力の変動を抑制することができ、安定した光子検出器32による検出精度を得ることができる。
【0062】
本実施例1では、好ましくは、エネルギスペクトルのピーク位置を検索するピーク位置検査部53と、外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量(本実施例1では補正係数α)を求める補正係数算出・適用部54とを備え、その補正係数算出・適用部54で求められた変動量(補正係数α)に基づいてエネルギウィンドウ判定部55はエネルギスペクトルを補正している。ピーク位置検索部53がエネルギスペクトルのピーク位置を検索し、補正係数算出・適用部54が外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量(補正係数α)を求めることで、補正係数算出・適用部54で求められた変動量(補正係数α)に基づいてエネルギウィンドウ判定部55はエネルギスペクトルを容易に補正することができる。以上のように、検索されたピーク位置を基準として変動量(補正係数α)を求めることでエネルギウィンドウ判定部55による補正を容易に行うことが可能である。
【0063】
本実施例1のように、ピーク位置検索部53と補正係数算出・適用部54とを備えた場合、補正係数算出・適用部54で求められた変動量(本実施例1では補正係数α)に基づいて装置の状態を診断する診断部77を備えている。例えば、変動量(補正係数α)の絶対値が、予め定められた所定量(例えば6[ch])よりも小さい場合には、その変動量(補正係数α)が外乱に起因する量のみだと診断することができ、変動量(補正係数α)の絶対値が上述した所定量(6[ch])よりも大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、エネルギスペクトルを改めて出力し直すという診断を行うこともできる。
【0064】
本実施例1では、光子検出器32で検出されたデータであるエミッションデータを用いて補正を行っている。具体的には、エミッションデータに基づいて、エネルギ変換部52はエネルギスペクトルを出力し、光子検出器32によるエミッションデータの収集中に、エネルギウィンドウ判定部55はエネルギスペクトルを補正する、あるいは補正係数算出・適用部54は変動量(本実施例1では補正係数α)を求める。このように、エミッションデータに基づいてエネルギスペクトルを出力するので、エミッションデータ収集中でも補正や算出を行うことができ、いかなるときでも外乱による変動に対応することができる。なお、図2に示すブロック図の場合には、同時計数されたデータ(「ダブルイベントデータ」とも言う)のみならず、同時計数されなかったデータ(「シングルイベントデータ」とも言う)をも用いて補正や算出を行うことができるので、基となるデータが溜まるのが早く、外乱による変動に対してもすばやく対応することができるという効果をも奏する。
【0065】
本実施例1では、好ましくは、エネルギウィンドウ判定部55での補正を、所定の更新条件を満たすときに行っている。外乱による変動のみの場合には、補正を行ってもよいが、外乱以外の要素が加わった場合には、補正を行うことで却って過補正になる恐れがある。そこで、所定の更新条件を満たすときにエネルギウィンドウ判定部55での補正を行い、所定の更新条件を満たさないときにはエネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにする。
【0066】
例えば、補正係数算出・適用部54で求められた変動量(本実施例1では補正係数α)の絶対値が、予め定められた所定量(例えば6[ch])よりも小さい条件を満たすときに、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行う。上述したように、変動量(補正係数α)の絶対値が、予め定められた所定量(6[ch])よりも小さい場合には、その変動量(補正係数α)が外乱に起因する量のみだと判断して、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行う。逆に、変動量(補正係数α)の絶対値が上述した所定量(6[ch])よりも大きい場合には、外乱以外の要素が加わった(例えばエネルギスペクトル自体が異常である)として、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにする。
【0067】
また、本実施例1では、対象とするエネルギスペクトル(本実施例1ではエミッションデータに関するエネルギスペクトル)のピーク位置(本実施例1では128[ch])を含むエネルギ帯域(本実施例1では122[ch]〜134[ch])の他に、別のエネルギ帯域(トランスミッションデータによる場合には165.5[ch]を含む帯域、ノイズによる場合には例えば100[ch]以下の帯域)を設定し、ピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値(本実施例1ではPC511)が、上述の別のエネルギ帯域での光子の計数値(本実施例1ではPC662,PC)よりも先に、予め定められた所定値(例えば100カウント)に達したとき(Aの条件を満たしたとき)に、または上述の別のエネルギ帯域での光子の計数値(PC662,PC)の1以上の所定係数倍よりも大きいとき(Bの条件を満たしたとき)にエネルギウィンドウ判定部55での補正を行う。
【0068】
対象とするエネルギスペクトル(本実施例1ではエミッションデータに関するエネルギスペクトル)のピークよりも別のエネルギ帯域においてノイズ等(本実施例1ではトランスミッションデータによる影響も含む)によってピークの方が有意に大きい場合、あるいは例えば対象とするエネルギスペクトルがエミッションデータに関するもので、エミッションデータによるピークよりもトランスミッションデータによるピークの方が有意に大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるので本実施例1のように補正を行わないようにする。したがって、前者のAの条件においても、前者のBの条件においても、正常とする条件(前者のAの条件、後者のBの条件)を設定することで、エネルギスペクトルのピークよりも別のエネルギ帯域においてピークの方が有意に大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、エネルギウィンドウ判定部55での補正を行わないようにする。特に後者のBの条件の場合には、1以上の所定係数を乗じることで、正常とする条件を厳しくしている。
【0069】
なお、図7に示すような帯域を設定しているが、この帯域についてはピーク位置を検知するのに必要十分な範囲であればよく、範囲が狭い方が算出・補正の負荷は小さくなる。また、補正された光子検出器32からの出力をさらに補正するものでないので、エミッションデータにおいて、511KeVの光子が入射されずに補正係数αが不適切な値であったとしても、測定開始前に511KeVの光子が入射されれば補正係数αが適切に求められて、補正を行うことができる。
【実施例2】
【0070】
次に、図面を参照してこの発明の実施例2を説明する。
図8は、実施例2に係るトランスミッション型のPET装置のブロック図である。なお、本実施例2でも、図1と同様のPET装置を用いているので、図1に関する説明を省略する。
【0071】
図8に示すように、トランスミッション型のPET装置1は、上述した天板2やPET装置3やトランスミッション装置4の他に、コンソール7を備えている。PET装置3およびコンソール7のブロック図については、上述した実施例1と同じであるので、その説明を省略する。
【0072】
トランスミッションデータ収集基板6は、エミッションデータ収集基板5と同様の機能(補正機能、検索機能、算出機能など)を有している。すなわち、トランスミッションデータ収集基板6は、線源42(図1を参照)からの放射線がトランスミッション検出器43で検出されたデータであるトランスミッションデータを収集し、エネルギ変換部62とピーク位置検索部63と補正係数算出・適用部64とエネルギウィンドウ判定部65とを備えている。本実施例2では、エネルギ変換部52,62は、この発明における出力手段に相当し、ピーク位置検索部53,63は、この発明における検索手段に相当し、補正係数算出・適用部54,64は、この発明における算出手段に相当し、エネルギウィンドウ判定部55,65は、この発明における補正手段に相当する。
【0073】
エネルギ変換部62とピーク位置検索部63と補正係数算出・適用部64とエネルギウィンドウ判定部65とについては、実施例1ではエネルギ変換部52とピーク位置検索部53と補正係数算出・適用部54とエネルギウィンドウ判定部55との対象がエミッションデータであったのに対して、本実施例2では対象がトランスミッションデータであるのを除けば、各機能は同じなのでその説明を省略する。なお、トランスミッションデータの場合には、同時計数する必要はないので、同時計数回路はない。また、トランスミッションデータの場合には、165.5[ch]にピークが現れる。エネルギに換算した場合には662KeVにピークが現れる。本実施例2では、光子検出器32およびトランスミッション検出器43は、この発明における検出手段に相当し、線源42(図1を参照)は、この発明における外部線源に相当する。
【0074】
本実施例2に係るトランスミッション型のPET装置1の作用・効果については、上述した実施例1と同じなので、その説明を省略する。
【0075】
本実施例2では、好ましくは、エネルギスペクトルのピーク位置を検索するピーク位置検査部53,63と、外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量(本実施例2では補正係数α)を求める補正係数算出・適用部54,64とを備え、その補正係数算出・適用部54,64で求められた変動量(補正係数α)に基づいてエネルギウィンドウ判定部55,65はエネルギスペクトルを補正している。ピーク位置検索部53,63がエネルギスペクトルのピーク位置を検索し、補正係数算出・適用部54,64が外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量(補正係数α)を求めることで、補正係数算出・適用部54,64で求められた変動量(補正係数α)に基づいてエネルギウィンドウ判定部55,65はエネルギスペクトルを容易に補正することができる。以上のように、検索されたピーク位置を基準として変動量(補正係数α)を求めることでエネルギウィンドウ判定部55,65による補正を容易に行うことが可能である。
【0076】
本実施例2のように、ピーク位置検索部63と補正係数算出・適用部64とを備えた場合、上述した実施例1と同様に、補正係数算出・適用部64で求められた変動量(本実施例2では補正係数α)に基づいて装置の状態を診断する診断部77を備えている。変動量(補正係数α)の絶対値が所定量(例えば6[ch])よりも大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるとして、エネルギスペクトルを改めて出力し直すという診断を行うこともできる。
【0077】
本実施例2では、エミッションデータの他に、トランスミッション検出器43で検出されたデータであるトランスミッションデータも用いて補正を行っている。具体的には、トランスミッションデータに基づいて、エネルギ変換部62はエネルギスペクトルを出力し、トランスミッション検出器43によるトランスミッションデータの収集中に、エネルギウィンドウ判定部65はエネルギスペクトルを補正する、あるいは補正係数算出・適用部64は変動量(本実施例2では補正係数α)を求める。このように、トランスミッションデータに基づいてエネルギスペクトルを出力するので、トランスミッションデータ収集中でも補正や算出を行うことができ、いかなるときでも外乱による変動に対応することができる。
【0078】
実施例1と同様に、本実施例2では、エネルギウィンドウ判定部65での補正を、所定の更新条件を満たすときに行っている。例えば、補正係数算出・適用部64で求められた変動量(本実施例2では補正係数α)の絶対値が、予め定められた所定量(例えば6[ch])よりも小さい条件を満たすときに、エネルギウィンドウ判定部65での補正を行う。また、本実施例1では、対象とするエネルギスペクトル(本実施例2ではトランスミッションデータに関するエネルギスペクトル)のピーク位置を含むエネルギ帯域の他に、別のエネルギ帯域を設定し、ピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値(本実施例2ではPC622)が、上述の別のエネルギ帯域での光子の計数値(本実施例2ではPC511,PC)よりも先に、予め定められた所定値(例えば100カウント)に達したときに、または上述の別のエネルギ帯域での光子の計数値(PC511,PC)の1以上の所定係数倍よりも大きいときにエネルギウィンドウ判定部65での補正を行う。
【0079】
実施例1とは逆に、対象とするエネルギスペクトル(本実施例2ではトランスミッションデータに関するエネルギスペクトル)のピークよりも別のエネルギ帯域においてノイズ等(本実施例2ではエミッションデータによる影響も含む)によってピークの方が有意に大きい場合、あるいは例えば対象とするエネルギスペクトルがトランスミッションデータに関するもので、トランスミッションデータによるピークよりもエミッションデータによるピークの方が有意に大きい場合には、エネルギスペクトル自体が異常であるので本実施例2のように補正を行わないようにする。
【0080】
[実験結果]
また、図9に示すように、エミッションデータ収集基板5の冷却ファンをオフにした場合とオンにした場合とでエネルギスペクトルが変動したか否かを実験にて確認している。図9は、冷却ファンをオン・オフにした場合のエネルギスペクトルの実験結果である。
【0081】
左側の図9(a)、図9(c)、図9(e)、図9(g)は冷却ファンをオフにしたとき(「冷却ファン・オフ」を参照)であり、図9(b)、図9(d)、図9(f)、図9(h)は冷却ファンをオンにしたとき(「冷却ファン・オン」を参照)であり、上段2つの図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)は、従来の補正を行わないとき(「従来」を参照)であり、下段2つの図9(e)、図9(f)、図9(g)、図9(h)は、補正を行ったとき(「補正を行ったとき」を参照)である。また、従来の補正を行わないときの冷却ファン・オフの場合の図9(a)に対する冷却ファン・オンが図9(b)の結果であり、従来の補正を行わないときの冷却ファン・オフの場合の図9(c)に対する冷却ファン・オンが図9(d)の結果である。さらに、補正を行ったときの冷却ファン・オフの場合の図9(e)に対する冷却ファン・オンが図9(f)の結果であり、補正を行ったときの冷却ファン・オフの場合の図9(g)に対する冷却ファン・オンが図9(h)の結果である。図9では64[ch]でピーク位置が現れる。
【0082】
従来のように、補正を行わない場合には、外乱として温度が変動することにより、ピーク位置も変動することが図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)から確認されている。冷却ファンがオンのときには66[ch]〜67[ch]程度まで変動している。一方、補正を行った場合には、外乱として温度が変動したとしても、ピーク位置が補正されることにより、ピーク位置がほとんど変動していないことが図9(e)、図9(f)、図9(g)、図9(h)から確認されている。冷却ファンがオフのときでも約64[ch]で保っている。
【0083】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0084】
(1)上述した各実施例では、PET装置とトランスミッション装置とを組み合わせた装置を例に採って説明したが、PET装置単体に適用してもよいし、PET装置とX線CT装置とを組み合わせた装置や、PET装置とMR装置とを組み合わせた装置などに例示されるように、PET装置と他の装置を組み合わせた組み合わせ型PET装置に適用してもよい。
【0085】
(2)上述した各実施例では、変動量を求めるのに、チャンネルに換算した補正係数αを例にとって説明したが、エネルギに換算した値を用いてもよい。
【0086】
(3)上述した実験結果では、外乱として基板の温度を例に採って説明したが、外気の温度(気温)や計数率に対しても対応することができる。したがって、外乱の種類としては特に限定されない。
【0087】
(4)上述した各実施例では、ピーク位置を検索してピーク位置の変動量を求めることで補正を行ったが、ピーク位置以外の参照位置からの変動量に基づいて補正を行ってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 … トランスミッション型のPET装置
32 … 光子検出器
42 … 線源
43 … トランスミッション検出器
52,62 … エネルギ変換部
53,63 … ピーク位置検索部
54,64 … 補正係数算出・適用部
55,65 … エネルギウィンドウ判定部
77 … 診断部
α … 補正係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に投与されたポジトロン放射性薬剤から放出される光子を検出する検出手段を備えたポジトロンCT装置であって、前記検出手段からの出力を表すエネルギスペクトルを出力する出力手段と、外乱によるエネルギの変動分をなくすように前記エネルギスペクトルを補正する補正手段とを備えることを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポジトロンCT装置において、前記エネルギスペクトルのピーク位置を検索する検索手段と、前記外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求める算出手段とを備え、その算出手段で求められた前記変動量に基づいて前記補正手段は前記エネルギスペクトルを補正することを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項3】
請求項2に記載のポジトロンCT装置において、前記算出手段で求められた前記変動量に基づいて装置の状態を診断する診断手段を備えることを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項4】
請求項1に記載のポジトロンCT装置において、前記検出手段で検出されたデータであるエミッションデータに基づいて、前記出力手段は前記エネルギスペクトルを出力し、前記検出手段による前記エミッションデータの収集中に、前記補正手段は前記エネルギスペクトルを補正することを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のポジトロンCT装置において、前記検出手段で検出されたデータであるエミッションデータに基づいて、前記出力手段は前記エネルギスペクトルを出力し、前記検出手段による前記エミッションデータの収集中に、前記補正手段は前記エネルギスペクトルを補正する、あるいは前記算出手段は前記変動量を求めることを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項6】
請求項1に記載のポジトロンCT装置において、前記放射線を前記被検体の外部から照射する外部線源を備え、前記検出手段は、前記外部線源で照射された放射線を検出し、その放射線が検出されたデータであるトランスミッションデータに基づいて、前記出力手段は前記エネルギスペクトルを出力し、前記検出手段による前記トランスミッションデータの収集中に、前記補正手段は前記エネルギスペクトルを補正することを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項7】
請求項2または請求項3に記載のポジトロンCT装置において、前記放射線を前記被検体の外部から照射する外部線源を備え、前記検出手段は、前記外部線源で照射された放射線を検出し、その放射線が検出されたデータであるトランスミッションデータに基づいて、前記出力手段は前記エネルギスペクトルを出力し、前記検出手段による前記トランスミッションデータの収集中に、前記補正手段は前記エネルギスペクトルを補正する、あるいは前記算出手段は前記変動量を求めることを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載のポジトロンCT装置において、前記補正手段での前記補正を、所定の更新条件を満たすときに行うことを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項9】
請求項8に記載のポジトロンCT装置において、前記エネルギスペクトルのピーク位置を検索する検索手段と、前記外乱によるエネルギの変動分であるピーク位置の変動量を求める算出手段とを備え、その算出手段で求められた変動量の絶対値が、予め定められた所定量よりも小さい条件を満たすときに、前記補正手段での前記補正を行うことを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のポジトロンCT装置において、対象とする前記エネルギスペクトルのピーク位置を含むエネルギ帯域の他に、別のエネルギ帯域を設定し、前記ピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値が、前記別のエネルギ帯域での光子の計数値よりも先に、予め定められた所定値に達したときに、前記補正手段での前記補正を行うことを特徴とするポジトロンCT装置。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載のポジトロンCT装置において、対象とする前記エネルギスペクトルのピーク位置を含むエネルギ帯域の他に、別のエネルギ帯域を設定し、前記ピーク位置を含むエネルギ帯域での光子の計数値が、前記別のエネルギ帯域での光子の計数値の1以上の所定係数倍よりも大きいときに、前記補正手段での前記補正を行うことを特徴とするポジトロンCT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249534(P2010−249534A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96160(P2009−96160)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】