説明

ポジ型感光性組成物、ポジ型感光性平版印刷版及びその処理方法

【課題】 画線部と非画線部のコントラストに優れ、耐刷力に優れた感光性平版印刷版を提供する。
【解決手段】 少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質とを含むポジ型感光性組成物に於て、更に、(c)熱の作用により該アルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物を含み、かつ該光熱変換物質の共存下で露光された時に酸を発生する機能を有する化合物を実質的に含まないことを特徴とするポジ型感光性組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は近赤外の波長域の光に対して有用な新規なポジ型感光性組成物に関する。特に半導体レーザーやYAGレーザー等を用いた直接製版に好適なポジ型感光性組成物及びポジ型感光性平版印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】コンピュータ画像処理技術の進歩に伴い、デジタル画像情報から、銀塩マスクフィルムへの出力を行わずに、レーザー光あるいはサーマルヘッド等により、直接レジスト画像を形成する感光または感熱ダイレクト製版システムが注目されている。
【0003】特に、高出力の半導体レーザーやYAGレーザーを用いる、高解像度のレーザー感光ダイレクト製版システムは、小型化、製版作業時の環境光や版材コストの面から、その実現が強く望まれていた。一方、従来より、レーザー感光または感熱を利用した画像形成方法としては、昇華転写色素を利用し色材画像を形成する方法ならびに平版を作成する方法などが知られている。
【0004】近年、化学増幅型のフォトレジストに長波長光線吸収色素を組み合せた技術が散見される様になった。例えば特開平6−43633号明細書には特定なスクアリリウム色素に光酸発生剤およびバインダー等を組合せた感光材料が開示されている。また、更にこれに類する技法として赤外線吸収色素、潜伏性ブレンステッド酸、レゾール樹脂およびノボラック樹脂を含む感光層を半導体レーザー等により像状に露光し平版印刷版を作製する技術が提案されており(特開平7−20629号明細書)、更に、前記潜伏性ブレンステッド酸に代えs−トリアジン化合物を用いる技術も開示されている(特開平7−271029号明細書)。
【0005】また、特開平9−43847号明細書においては赤外線の照射により加熱して感光材の結晶性を変化させるレジスト材およびそれを利用したパターン形成方法が開示されている。又、EP784233には、(a)ノボラック及びポリビニルフェノールから選ばれる樹脂、(b)該樹脂を架橋しうるアミノ化合物誘導体、(c)特定構造の赤外吸収剤及び(d)光酸発生剤を含むネガ型の化学増幅系感光性組成物が開示されている。しかしながら、これら従来の技術は実用上、その特性が必ずしも充分ではなかった。例えば、露光後、加熱処理を要するネガ型感光材は、露光により発生した酸が触媒として作用し、露光後の加熱時に架橋反応が進行してネガ画像が形成されると推定されるものであるが、その場合はその処理条件の振れに起因して得られる画像の品質安定性は必ずしも満足されなかった。一方、その様な露光後の加熱処理を要しないポジタイプの感光材の場合は露光部、未露光部におけるコントラストが不充分であり、その結果、非画線部が充分に除去されなかったり、画線部の残膜率が充分保持されなかった。又、耐刷力が必ずしも十分ではなかった。また、前記の特開平7−20629号公報に記載の平版印刷版はネガ作用又はポジ作用のいずれにも機能を果たすとされ、ポジ版として使用するためには像様露光して露光済み領域をアルカリ可溶性にして水性アルカリ現像液と接触させて露光済み領域を除去すること、ネガ版の場合、像様露光後加熱して露光済み領域の可溶性を減らし、水性アルカリ現像液で処理して未露光領域を除去することが記載されているが、実施例は露光後加熱を行った例、即ち、ネガ版を示すのみで、ポジ版の例は全く示されておらず、まして、ポジ版の耐刷性向上についての記載はなされていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の諸問題に鑑みなされたものであり、即ち、本発明の目的は露光部と未露光部のコントラストに優れかつ画像部の残膜率が十分でありかつ堅牢度が優れたポジ型感光性組成物、耐刷力が優れたポジ型感光性平版印刷版及びその処理方法を提供することにある。他の目的は露光後、現像前加熱を必要とせず、従って画像品質の安定性に優れたポジ型感光性平版印刷版及びその処理方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】かかる本発明の目的は少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質とを含むポジ型感光性組成物に於て、更に、(c)熱の作用により該アルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物を含み、かつ該光熱変換物質の共存下で露光された時に、酸を発生する機能を有する化合物を実質的に含まないことを特徴とするポジ型感光性組成物、及び該ポジ型感光性組成物からなる感光層を支持体上に有する感光性平版印刷版により達成される。又、少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質とを含むポジ型感光性組成物に於て、更に、(c)熱の作用により該アルカリ可溶性樹脂を架橋し有る化合物を含み、かつ該光熱変換物質との増感作用により酸を発生しうる化合物を実質的に含まないことを特徴とするポジ型感光性組成物及び該ポジ型感光性組成物からなる感光層を支持体上に有する感光性平版印刷版により達成される。又、本発明の目的は、上記の感光性平版印刷版を露光後加熱処理することなく現像することを特徴とするポジ型感光性平版印刷版の処理方法により達成される。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明のポジ型感光性組成物のポジ画像形成メカニズムは必ずしも明らかではないが、近赤外光の照射により主として、実質上化学変化を伴わずに、アルカリ可溶性樹脂の近赤外光照射部のコンホメーション変化に起因すると推定される露光部のアルカリ易溶化現象を引き起こし、それを利用するものである。従って、本発明のポジ型感光性組成物は、少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質とを必須成分とし、これらの成分が、露光部と非露光部において主として化学変化以外の変化によってアルカリ現像液に対する溶解性に差異を生じる本質的成分としてポジ型感光性組成物に含まれるものである。
【0009】本発明においては、さらに、かかる組成物が熱の作用によりアルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物を含有することにより特に現像後の加熱により、堅牢度の優れた皮膜を得ることができ、印刷版として用いた場合大巾な耐刷力向上が得られるものである。次に、本発明の構成成分についての詳細を説明する。
【0010】本発明の感光性組成物に適用される感光性組成物のアルカリ可溶性樹脂成分(a)としてはノボラック樹脂またはポリビニルフェノール樹脂が好適に用いられる。ノボラック樹脂としては、フェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、レゾルシン、ピロガロール、ビスフェノール、ビスフェノール−A、トリスフェノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、プロピルフェノール、n−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール等の芳香族炭化水素類の少なくとも1種を酸性触媒下、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類及び、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド類又はケトン類と重縮合させたものがある。
【0011】ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの代わりに、それぞれパラホルムアルデヒド及びパラアルデヒドを使用してもよい。ノボラック樹脂のゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略す)測定によるポリスチレン換算重量平均分子量(以下、GPC測定による重量平均分子量をMwと略す)が好ましくは1,000〜15,000、特に好ましくは1,500〜10,000のものが用いられる。
【0012】ノボラック樹脂の芳香族炭化水素類としては、より好ましくは、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、及び3,5−キシレノール、レジルシンから選ばれる少なくとも1種のフェノール類をホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類の中から選ばれる少なくとも1種と重縮合したノボラック樹脂が挙げられる。
【0013】中でも、m−クレゾール:p−クレゾールP:2,5−キシレノール:3,5−キシレノール:レゾルシンの混合割合がモル比で70〜100:0〜30:0〜20:0〜20:0〜20のフェノール類、または、フェノール:m−クレゾール:p−クレゾールの混合割合がモル比で10〜100:0〜60:0〜40のフェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック樹脂が好ましい。アルデヒド類の中でも、特にホルムアルデヒドが好ましい。
【0014】ポリビニルフェノール樹脂としては、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、2−(o−ヒドロキシフェニル)プロピレン、2−(m−ヒドロキシフェニル)プロピレン、2−(p−ヒドロキシフェニル)プロピレンなどのヒドロキシスチレン類の単独または2種以上の重合体が挙げられる。ヒドロキシスチレン類は芳香環に塩素、臭素、ヨウ素、フッ素等のハロゲンあるいはC1 〜C4 のアルキル置換基等の置換基を有していてもよく、従ってポリビニルフェノール類としては、芳香環にハロゲン又はC1 〜C4 のアルキル置換基を有していても良いポリビニルフェノールが挙げられる。
【0015】ポリビニルフェノール樹脂は、通常、置換基を有していてもよいヒドロキシスチレン類を単独で又は2種以上をラジカル重合開始剤またはカチオン重合開始剤の存在下で重合することにより得られる。かかるポリビニルフェノール樹脂は、一部水素添加を行なったものでもよい。又、t−ブトキシカルボニル基、ピラニル基、フラニル基などでポリビニルフェノール類の一部のOH基を保護した樹脂でもよい。ポリビニルフェノール樹脂のMwは、好ましくは1,000〜100,000、特に好ましくは1,500〜50,000のものが用いられる。
【0016】ポリビニルフェノール樹脂としては、より好ましくは、芳香環にC1 〜C4 のアルキル置換基を有していてもよいポリビニルフェノールが挙げられ、未置換のポリビニルフェノールが特に好ましい。以上のノボラック樹脂またはポリビニルフェノール樹脂の分子量が、上記範囲よりも小さいとレジストとしての十分な塗膜が得られず、この範囲よりも大きいと未露光部分のアルカリ現像液に対する溶解性が小さくなり、レジストのパターンが得られない傾向にある。
【0017】上述の樹脂のうち、特に、ノボラック樹脂が好ましい。本発明の感光性組成物全固形分に対するこれら樹脂の使用割合は、通常40〜95重量%であり、好ましくは60〜90重量%である。本発明のポジ型感光性組成物に用いられる(b)光熱変換物質は、光照射により熱を発生する物質であれば特に限定されないが、より具体的には、波長域650〜1300nmの一部又は全部に吸収帯を有する化合物であり、有機または無機の顔料、有機色素、金属などが挙げられる。具体的には、例えば、カーボンブラック;黒鉛;チタン、クロム等の金属;酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化バナジウム、酸化タングステン等の金属酸化物;チタンカーバイド等の金属炭化物;金属ホウ化物;特開平4−322219号公報に記載されている無機黒色顔料、アゾ系のブラック顔料、「リオノールグリーン2YS」、「緑色顔料7」等の黒または緑の有機顔料が挙げられる。そして、上記のカーボンブラックとしては、三菱化学社の商品である「MA−7」、「MA−100」、「MA−220」、「#5」、「#10」、「#40」、デグッサ社の商品である「カラーブラックFW2」、「FW20」、「プリンテックスV」等が挙げられる。
【0018】また、「特殊機能色素」(池森・柱谷編集、1986年、(株)シーエムシー発行)、「機能性色素の化学」(檜垣編集、1981年、(株)シーエムシー発行)、「色素ハンドブック」(大河・平嶋・松岡・北尾編集、講談社発行)、日本感光色素研究所が1995年に発行したカタログ、Exciton Inc.が1989年に発行したレーザー色素カタログ等に記載の近赤外領域に吸収を有する色素が挙げられる。
【0019】更には、特開平2−2074号、同2075、同2076、特開平3−97590号、同97591号、同63185号、同26593号、同97589号の各公報に記載された有機色素や日本化薬社の商品「IR820B」等が挙げられる。光熱変換物質として用いられる近赤外領域に吸収を有する色素および顔料の代表例を下記に示す。
【0020】
【化3】


【0021】
【化4】


【0022】
【化5】


【0023】
【化6】


【0024】
【化7】


【0025】
【化8】


【0026】
【化9】


【0027】
【化10】


【0028】
【化11】


【0029】
【化12】


【0030】
【化13】


【0031】
【化14】


【0032】
【化15】


【0033】
【化16】


【0034】
【化17】


【0035】
【化18】


【0036】
【化19】


【0037】これらの色素は常法に従って合成し得る。また下記色素等は市販品として入手し得る。
S−59 ポリメチン色素:IR−820B(日本化薬社製)
S−60 ニグロシン色素:Colour Index Solvent Black 5 S−61 ニグロシン色素:Colour Index Solvent Black 7 S−62 ニグロシン色素:Colour Index Acid Black 2 S−63 カーボンブラック:MA−100(三菱化学社製)
S−64 一酸化チタン;チタンブラック13M(三菱マテリアル社製)
S−65 一酸化チタン;チタンブラック12S(三菱マテリアル社製)
【0038】これらの内、シアニン色素、ポリメチン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素が好ましい。更に、シアニン色素、ポリメチン色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素がより好ましい。これらの内、特に好ましい色素は、下記一般式〔I〕で表されるシアニン色素または一般式〔II〕で表されるポリメチン色素であり、下記一般式〔III 〕で表わされるピリリウム色素またはチオピリリウム色素である。
【0039】
【化20】


【0040】〔式中、R1 、R2 は置換基を有していても良いC8 以下のアルキル基であり、該置換基は、フェニル基、フェノキシ基、アルコキシ基、スルホン酸基、カルボキシル基であり;Q1 は置換基を有していてもよいヘプタメチン基であり、該置換基は、C6 以下のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基であるか、該ヘプタメチン基がその2つのメチン炭素上の置換基が相互に結合して形成された置換基を有していても良いシクロヘキセン環またはシクロペンテン環を含むものであっても良く、該置換基はC6 以下のアルキル基またはハロゲン原子であり;m1 、m2 は各々が0または1であり;Z1 、Z2 は含窒素複素環を形成するに必要な原子群であり;X- は対アニオンを示す。〕
【0041】
【化21】


【0042】〔式中、R3 〜R6 はC8 以下のアルキル基であり;Z4 、Z5 は置換基を有していてもよいアリール基であり、該アリール基は、フェニル基、ナフチル基、フリル基またはチエニル基であり、該置換基はC4 以下のアルキル基、C8 以下のアルキル基を有するジアルキルアミノ基、C8 以下のアルコキシ基およびハロゲン原子である。Q2 はトリメチン基またはペンタメチン基を示し;X- は対アニオンを示す。〕
【0043】
【化22】


【0044】〔式中、Y1 、Y2 は酸素原子または硫黄原子であり;R7 、R8 、R15およびR16は置換基を有していてもよいフェニル基またはナフチル基であり、該置換基はC8 以下のアルキル基もしくはC8 以下のアルコキシ基であり;l1 とl2 は各々独立に0または1を示し;R9 〜R14は水素原子またはC8 以下のアルキル基を示すかあるいは各々独立にR9 とR10、R11とR12またはR13とR14とが相互に結合して
【0045】
【化23】


【0046】(但しR17〜R19は水素原子またはC6 以下のアルキル基であり、nは0または1を示す。)の連結基を形成しても良く;Z3 はハロゲン原子または水素原子、Xは対アニオンを示す。〕
以上の〔I〕、〔II〕および〔III 〕式における対アニオンX- を具体的に示すに、例えば、Cl- 、Br- 、I- 、ClO4 - 、BF4 - 、PF6 - 等の無機酸アニオン、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、酢酸、有機ホウ酸の様な有機酸アニオンを挙げることができる。
【0047】次に本発明に使用される、熱の作用により(a)のアルカリ可溶性樹脂を架橋し得る作用を有する化合物(以下、熱架橋性化合物と略すことがある)について説明する。熱架橋性化合物は熱の作用によりアルカリ可溶性樹脂を架橋する性質を有すれば特に限定されないが、本発明の好ましい態様である感光性平版印刷版においては、該印刷版の露光、現像により露光部を溶解してポジ画像を形成した後、加熱によって上記成分(a)を架橋するため、熱架橋性化合物は画像露光後のアルカリ溶解性に不都合を生じない化合物であるのが好ましい。本発明の感光性組成物の全固型分に対する光熱変換物質の使用割合は通常0.1〜30重量%であり、好ましくは1〜20重量%、特に1〜10重量%である。
【0048】又、本発明の感光性組成物は、後述の如く、支持体上に該感光性組成物からなる層を有する感光性平版印刷版を露光、現像後加熱処理を施すことにより画像部の強度が増加し、いわゆる耐刷力向上に効果を有するため、熱架橋性化合物は、より具体的には該加熱処理温度、即ち、通常150℃〜300℃に加熱することによりアルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物が挙げられる。熱架橋性化合物としては、熱架橋性を有する含窒素化合物が挙げられ、好ましくは、アミノ基を含有する化合物であり、より具体的には例えば、官能基としてメチロール基、それのアルコール縮合変性したアルコキシメチル基、その他、アセトキシメチル基等を少なくとも二個有するアミノ化合物が挙げられる。アミノ基を有する化合物は、更に具体的には下式(T)
【0049】
【化24】


【0050】(式中、T1 、T2 は独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアシル基を表わす)で表わされる基を構造中に少なくとも2個有する化合物である。尚、式(T)に於けるT1 、T2 で示されるアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4であり、アルケニルの炭素数は2〜18、好ましくは2〜4、アシル基の炭素数は2〜18、好ましくは2〜4である。式(T)で表わされる基としては具体的には、例えばメトキシメチロールアミノ基、ジメトキシメチルアミノ基、ジメチロールアミノ基(ジヒドロキシメチルアミノ基)、ジエトキシメチルアミノ基等が挙げられる。
【0051】上記式(T)で示される基を構造中に少なくとも2個有する化合物としては、メラミン骨格を有する化合物、ベンゾグアナミン骨格を有する化合物、グリコールウリル骨格を有する化合物、尿素骨格を有する化合物が挙げられ、(T−2)、(T−3)、(T−4)で示される化合物又は式(T−1)〜(T−4)で示される化合物が2価の連結基を介して縮合した化合物(以下、単に縮合物という)が挙げられる。
【0052】
【化25】


【0053】(式中、A1 〜A6 は独立に−CH2 OUを示し、Uは、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアシル基を表わす)
【0054】
【化26】


【0055】(式中、A7 〜A10は独立に−CH2 OUを示し、Uは式(T−2)に於けるUと同義を示す)
【0056】
【化27】


【0057】(式中、A11〜A14は独立に−CH2 OUを示し、Uは式(T−2)に於けるUと同義を示す)
【0058】
【化28】


【0059】(式中、A15〜A18は独立に−CH2 OUを示し、Uは水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアシル基を表わす)
尚、上記式(T−1)〜(T−4)に於けるUで表わされる基の炭素数は、式(T)におけるT1 、T2 と同様のものが好ましい。式(T−1)で示される化合物及びその縮合物としては、下記のものが例示される。
【0060】
【化29】


【0061】式(T−2)で示される化合物及びその縮合物としては、下記のものが例示される。
【0062】
【化30】


【0063】式(T−3)で示される化合物及びその縮合物としては、下記のものが例示される。
【0064】
【化31】


【0065】式(T−4)で示される化合物及びその縮合物としては、下記のものが例示される。
【0066】
【化32】


【0067】後述の本発明の感光性平版印刷版をあまりに高温で処理した場合には、支持体のアルミニウムの変形を生じ、画像再現性が劣る怖れがある。これに対し、熱架橋性化合物がアミノ基含有化合物の場合、200℃前後の比較的低温かつ短時間で十分な架橋効果が表われ、十分な耐薬品性、耐刷性が得られるためより好ましい。
【0068】アミノ基を有する化合物の中でも、構造中に複素環構造、特に含窒素複素環構造を有するのが好ましく、より好ましくは前記式(T−1)で示されるメラミン化合物又はその縮合物が好ましく、特に、前記式(T−1)で示される化合物が好ましい。又、式(T−1)の化合物の中でも、A1 〜A6 が独立に−CH2 OUを示し、Uが水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であるのが好ましく、更にアルコキシ化率(A1 〜A6 で示される−CH2 OUの合計に対する−CH2OUのUが炭素数1〜4のアルキル基である割合(モル比))が70%以上、好ましくは80%〜100%であるのが有利である。また、更にUが水素原子又はメチル基であり、メトキシ化率(−CH2 OUの合計に対する−CH2 OUのUがメチル基である割合(モル比)が80%〜100%であるのが特に有利である。
【0069】該アミノ化合物としては、具体的には、メラミン誘導体、例えばメトキシメチル化メラミン、〔三井サイテック(株)(元、三井サイアナミッド(株))製サイメル300シリーズ(1)等〕ベンゾグアナミン誘導体〔メチル/エチル混合アルコキシ化ベンゾグアナミン樹脂(三井サイテック(株)製サイメル1100シリーズ(2)等)〕、グリコールウリル誘導体〔テトラメチロールグリコールウリル樹脂、(三井サイテック(株)製サイメル1100シリーズ(3)等)〕その他尿素樹脂誘導体が挙げられる。これらの内、メラミン誘導体が特に好ましい。
【0070】本発明における感光性組成物全固形分中におけるこれら熱架橋性化合物(c)の使用割合は好ましくは0.1〜50重量%、特に好ましくは0.5〜30重量%である。上記熱架橋性化合物の含有量が少なすぎると本発明の感光性組成物を後述の感光性平版印刷版に使用した場合皮膜の耐薬品性、強度等の堅牢性が劣り、従って耐刷性が劣り、多すぎると露光部のアルカリ可溶性を低下し画線部と非画線部の溶解コントラストが劣るおそれがある。
【0071】本発明の感光性組成物は(a)アルカリ可溶性樹脂、(b)光熱変換物質及び(c)熱の作用によりアルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物を必須の成分とするが、該組成物を用いたポジ画像形成は前述の如く、アルカリ可溶性樹脂の近赤外光照射部のコンホメーション変化に起因すると推定される露光部のアルカリ易溶化現象を利用するため、公知の化学増幅系のネガ型感光性組成物による画像形成システムとは明確に区別される。従って本発明の感光性組成物は、化学増幅系のネガ型感光性組成物が必須成分とする、光熱変換物質の共存下で露光された時に酸を発生する機能を有する化合物(以下、光酸発生剤と称す)を含む必要がなく、本発明の感光性組成物は光酸発生剤を実質的に含まない。
【0072】尚、上記で“露光された時”とは、より具体的には“650〜1300nmの光により露光された時”を意味する。上記光酸発生剤としては、上記機能を有する化合物であれば特に限定されず、具体的には、特開平7−20629号公報に記載の如き潜伏性ブロンステッド酸(分解してブロンステッド酸を生成する先駆体)、特開平7−271029号公報に記載の如きハロアルキル置換されたs−トリアジン、EP784233号公報に記載の如きphoto sensitive acid−formingagent等が挙げられる。
【0073】換言すると特開平7−20629号に記載の潜伏性ブロンステッド酸の如き、感光性組成物の露光条件下で酸を発生する化合物及び/又は光熱変換物質との増感作用により酸を発生しうる化合物を実質的に含有しない。この相異は、特開平7−20629号記載の組成物がポジネガ両用であるのに対し、本願発明の組成物がポジ用であること、及び画像形成メカニズムが異なるためと推定される。
【0074】尚、本発明の組成物は上述の如き潜伏性ブロンステッド酸や、ハロアルキル置換されたs−トリアジン化合物等を含有しないため、白色灯下での取り扱いが可能であるという利点がある。即ち、本発明のポジ型感光性組成物(後述の感光性平版印刷版の感光性層)は、白色蛍光灯(三菱電機株式会社製36W白色蛍光灯ネオルミスーパーFLR40S−W/M/36)下、400ルクスの光強度の光照射下において10時間放置しても、アルカリ現像液に対する溶解性に実質的有意差を生じない性質を有する。尚、溶解性に実質的有意差を生じないとは、支持体上に本発明のポジ型感光性組成物からなる層を有する印刷版を上記条件で10時間放置前後で、3%の網点が形成される条件で露光現像した時に得られる画像の膜厚変化が10%以内であることを意味する。
【0075】本発明の感光性組成物は、画像部と非画像部の溶解コントラスト向上のために、添加剤、例えば少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質との混合物のアルカリ溶解性を抑制し得る化合物(d)を含んでいてもよい。(d)の化合物は得られる画像コントラストに対ししばしば有利に作用するものでアルカリ可溶性抑制作用のある物質であれば特に限定されないが、例示すれば、例えば、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル等が挙げられる。さらに好適な例としてラクトン環含有色素、例えば以下の例が挙げられる。これらラクトン環含有色素は優れた現像可視画剤としての機能をも兼ねた化合物である。それはこの種のラクトン環を有する色素類はそれ自体殆んど無色または淡色の物質であるがノボラック樹脂の様なアルカリ可溶性樹脂中においては強く発色する特性を有しているからである。このラクトン環含有色素がアルカリ溶解抑止効果をもたらす機能は明白ではないが、例えばアルカリ可溶性樹脂とのプロトン移動錯体の形成が考えられる。
【0076】
【化33】


【0077】
【化34】


【0078】
【化35】


【0079】
【化36】


【0080】
【化37】


【0081】
【化38】


【0082】
【化39】


【0083】
【化40】


【0084】化合物(d)としては、これらの例の中でも特にラクトン環含有色素化合物が好適である。これら本発明の溶解抑止剤(d)成分は所望により用いられるがその配合率は感光性組成物の全固形分に対して0〜50重量%、好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは2〜30重量%である。
【0085】また、感光性組成物中には、必要に応じ、前記以外の着色材料を含有させることが出来る。着色材料としては、顔料または染料が使用され、例えば、ビクトリアピュアブルー(42595)、オーラミンO(41000)、カチロンブリリアントフラビン(ベーシック13)、ローダミン6GCP(45160)、ローダミンB(45170)、サフラニンOK70:100(50240)、エリオグラウシンX(42080)、ファーストブラックHB(26150)、No.120/リオノールイエロー(21090)、リオノールイエローGRO(21090)、シムラーファーストイエロー8GF(21105)、ベンジジンイエロー4T−564D(21095)、シムラーファーストレッド4015(12355)、リオノールレッドB4401(15850)、ファーストゲンブルーTGR−L(74160)、リオノールブルーSM(26150)等が挙げられる。なお、上記の( )内の数字はカラーインデックス(C.I.)を意味する。
【0086】該着色材料の配合率は全感光性層組成物の固形分に対して0〜50重量%、好ましくは2〜30重量%である。本発明に使用する感光性組成物は、通常、上記各成分を適当な溶媒に溶解して用いられる。溶媒としては、使用成分に対して十分な溶解度を持ち、良好な塗膜性を与える溶媒であれば特に制限はないが、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのセロソルブ系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのプロピレングリコール系溶媒、酢酸ブチル、酢酸アミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル−2−ヒドロキシブチレート、エチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、2−メトキシプロピオン酸メチルなどのエステル系溶媒、ヘプタノール、ヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコールなどのアルコール系溶媒、シクロヘキサノン、メチルアミルケトンなどのケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの高極性溶媒、あるいはこれらの混合溶媒、さらにはこれらに芳香族炭化水素を添加したものなどが挙げられる。溶媒の使用割合は、感光性組成物の総量に対して通常重量比として1〜20倍程度の範囲である。
【0087】なお、本発明の感光性組成物は、その性能を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば塗布性改良剤、現像改良剤、密着性改良剤、感度改良剤、感脂化剤等を含有することも可能である。本願の第2の発明は、感光性平版印刷版にあり、上記の本発明の感光性組成物を支持体上に塗設して、支持体上に上記のポジ型感光性組成物からなる感光層を有する感光性平版印刷版として有利に使用できる。支持体表面に感光性層を設ける際に用いる塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、回転塗布、ワイヤーバー塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、ブレード塗布及びカーテン塗布等を用いることが可能である。その乾燥温度または加熱温度としては、例えば20〜170℃、好ましくは30〜150℃が採用される。
【0088】感光性層の膜厚は、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜7μm、更に好ましくは1.5〜5μmである。本発明に使用する感光性組成物を用いた感光層を設ける支持体としては、アルミニウム、亜鉛、鋼、銅等の金属板、並びにクロム、亜鉛、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄等がメッキ又は蒸着された金属板、紙、プラスチックフィルム及びガラス板、樹脂が塗布された紙、アルミニウム等の金属箔が張られた紙、親水化処理したプラスチックフィルム等のシート等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、アルミニウム板である。感光性平版印刷版用の支持体としては、塩酸または硝酸溶液中での電解エッチングまたはブラシ研磨による砂目立て処理、硫酸溶媒中での陽極酸化処理および必要に応じて封孔処理等の表面処理が施されているアルミニウム板を用いることがより好ましい。
【0089】支持体表面の粗面度に関しては、一般的に、表面粗さRaの値で示される。これは表面粗度計を用いて測定することができる。本発明において用いられる支持体としてはその平均粗さRaとして0.3〜1.0μmのアルミニウム板が好ましく、更に、0.4〜0.8μmのものがより好ましい。本支持体は、必要に応じ、更に有機酸化合物による表面処理を施して用いることができる。
【0090】一方、本願の第3の発明は、上記感光性平版印刷版の処理方法に関する。本発明の感光性組成物及び感光性平版印刷版を画像露光する光源としては光熱変換物質が所期の目的を達成しうるものであれば良いが特に、650〜1300nmの近赤外レーザー等の光線を発生する光源が好ましく、例えばルビーレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、LED、その他の固体レーザー等を挙げることが出来、特に小型で長寿命な半導体レーザーやYAGレーザーが好ましい。これらのレーザー光源により、通常、走査露光後、現像液にて現像し画像を得ることができる。
【0091】また、レーザー光源は、通常、レンズにより集光された高強度の光線(ビーム)として感光材表面を走査するが、それに感応する本発明のポジ型平版印刷版の感度特性(mJ/cm2 )は感光材表面で受光するレーザービームの光強度(mJ/s・cm2 )に依存することがある。ここで、レーザービームの光強度(mJ/s・cm2 )は、版面上でのレーザービームの単位時間当たりのエネルギー量(mJ/s)を光パワーメーターにより測定し、また感光材表面におけるビーム径(照射面積;cm2 )を測定し、単位時間当たりのエネルギー量を照射面積で除することにより求めることができる。レーザービームの照射面積は、通常、レーザーピーク強度の1/e2 強度を超える部分の面積で定義されるが、簡易的には相反則を示す感光材を感光させて測定することもできる。
【0092】本発明に用いられる光源の光強度としては、2.0×106 mJ/s・cm2以上であることが好ましく、1.0×107 mJ/s・cm2 以上であることが更に好ましい。光強度が上記の範囲であれば、本発明のポジ型感光性組成物の感度特性が向上し、走査露光時間を短くすることができ実用的に大きな利点が得られる。
【0093】本発明の感光性組成物の現像に用いる現像液としては特にアルカリ水溶液を主体とするアルカリ現像液が好ましい。上記アルカリ現像液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩の水溶液が挙げられる。アルカリ金属塩の濃度は0.1〜20重量%が好ましい。又、該現像液中に必要に応じアニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等やアルコール等の有機溶媒を加えることができる。
【0094】本発明のポジ型感光性平版印刷版は、上述の如き光源で露光後加熱することなく現像処理することによりポジ画像を得ることが可能であり、更に現像後加熱処理を行うことで強固な画像を得ることができる。現像後の加熱処理は、通常150℃〜300℃の範囲で加熱することが好ましいが、前述の如く、あまりに高温で処理した場合には、支持体のアルミニウムの変形を生じ、画像再現性が劣る怖れがあるため、特に180℃〜230℃の範囲が好ましい。好適な加熱時間は加熱温度との兼ね合いで決まるが、通常150〜300℃で30秒〜30分程度であり、好ましくは180℃〜230℃に於て1分〜20分例えば200℃では3〜10分程度が好ましい。
【0095】
【実施例】以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
〔アルミニウム板の作製〕厚さ0.24mmのアルミニウム板(材質1050、調質H16)を、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で60℃で1分間脱脂処理を行なった後、0.5モル/リットルの濃度の塩酸水溶液中において、温度25℃、電流密度60A/dm2 、処理時間30秒の条件で電解エッチング処理を行なった。次いで5重量%水酸化ナトリウム水溶液中で60℃、10秒間のデスマット処理を施した後、20重量%硫酸溶液中で、温度20℃、電流密度3A/dm2 、処理時間1分の条件で陽極酸化処理を行なった。更に、80℃の熱水で20秒間熱水封孔処理を行ない、平版印刷版用支持体のアルミニウム板を作製した。
【0096】実施例−1下記の成分からなる感光液を前述の方法で作製したアルミニウム支持体上に、ワイヤーバーにて塗布した。85℃で2分間オーブンで乾燥させ、更に55℃にて安定化させ感光性平版印刷版を得た。
感光液: アルカリ可溶性樹脂:フェノール:m−クレゾール:p−クレゾール(20: 50:30モル比)をホルムアルデヒドと共縮合させた ノボラック樹脂(Mw7000) 100重量部 IR吸収色素:前記のS−53の化合物 4重量部 ラクトン環含有色素化合物:クリスタルバイオレットラクトン (東京化成(株)製) 10重量部 架橋性化合物:サイメル300(三井サイテック(株)製) 5重量部 溶媒:シクロヘキサノン 1054重量部 塗膜量は25mg/dm2 であった。
【0097】この試料を830nmの半導体レーザーを光源とする感光性平版印刷版露光装置(クレオ社製Trend setter 3244T)を用いて各種の露光エネルギーで212線/インチ、3〜97%の網点画像を画像露光し、次いでアルカリ性現像液(コニカ社製SDR−1)を5倍に希釈し、25℃で現像を行った。各露光エネルギーでの3%及び97%の網点の解像性及び非画線部の抜け性につき目視により評価を行った。結果を表−1(製版特性)として示した。
【0098】次に、画像部の強度を評価するために同様に作成した感光性平版印刷版を上記の方法で露光、現像後、200℃オーブンで6分間加熱(バーニング処理と略記する)し、松井洗い油(松井化学社製)に1分間浸漬した。その画線部について浸漬部と未浸漬部の各反射濃度から、浸漬後の残膜率を求めた。尚、ここで使用した松井洗い油は、印刷版上のインクを除去するためのプレートクリーナーの一種でこれに対する耐薬品性は本評価の残膜率の評価の指標となる。更に3%網点の残存率を目視にて評価した。比較として、200℃6分間の加熱(バーニング処理)をしない版について同様の評価を行った。結果を表−1(洗い油浸漬後の特性)に示した。
【0099】実施例−2実施例−1のサイメル300の量を10重量部に変えた以外は実施例−1と同様の操作を行った。結果を表−1に示す。
比較例−1実施例−1のサイメル300を使用しなかった以外は実施例−1と同様の構成、操作を行った。結果を表−1に示す。
【0100】
【表1】


【0101】但し、表−1の記号の説明は次の通り。
製版特性の欄3%又は97%網点○:ほぼ完全に再現△:50〜90%程度再現×:画像殆どなし抜け性○:非画線部残膜なし△:50%未満の非画線部残膜有り×:50%以上の非画線部残膜有り洗い油浸漬後の特性残膜率:現像後の画線部分の浸漬前後の反射濃度をマクベス社製反射濃度計にて測定し、下記の式にて算出
【0102】
【数1】


【0103】3%網点○:ほぼ完全に残存△:50〜90%残存×:50〜画像殆んどなし
【0104】表1より明らかな様に、熱架橋性化合物サイメル300の添加でバーニング処理により松井洗い油に対する耐薬品性が大巾に向上し、しかも解像性等他の性能は良好で悪影響を及ぼしていないことが分かる。これは良好な画像特性を保持しつつ画線部の強度が向上していることを示し、換言すれば高耐刷力を達成しうることを示している。
【0105】実施例−3〜8及び比較例−2下記組成の感光液を調製し、実施例−1と同様の操作で、感光性平版印刷版を得た。
組 成 重量部 m−クレゾール/p−クレゾール(90/10モル比) 100 組成のノボラック Mw4000 IR吸収色素 前記のS−53の化合物 4 クリスタルバイオレットラクトン(東京化成(株)製) 10 架橋剤(表−2に記載) 5 メチルセロソルブ 1054この印刷版を、実施例−1と同様に処理し、バーニング処理後の耐薬品性を評価した。評価方法及び評価基準は実施例−1と同様に行った。比較例−2として、架橋剤を添加しなかった以外は上記感光液組成と同一の感光液を用い感光性平版印刷版を作成し、上記と同様に評価を行った。結果を表−2に示す。
【0106】
【表2】


*1:サイメル300、サイメル1123、UFR−65:三井サイテック社製 N8101,N1311,MW30HM:三和ケミカル社製 尚、メトキシ化率はNMR(H)のピーク比より算出。
*2:残膜率評価基準: 80%より大 ◎ 50%以上80%未満 ○ 20%以上50%未満 △ 20%未満 ×
【0107】実施例−9実施例−1のサイメル300を1重量部とした以外は実施例−1と同様の操作で製版し、ダイヤ印刷機(三菱重工(株)製)にて印刷評価を行った。バーニング処理(200℃、6分間オーブンで加熱)した版は5万枚で印刷物上で3%網点が初期と同様の形状を保っていた。尚、上記実施例1〜9で用いた平版印刷版は、いずれも白色灯下、400ルックスの光強度の光照射下10時間放置してもアルカリ現像液に対する溶解性が実質的に変化しないものである。
【0108】
【発明の効果】本発明のポジ型感光性組成物は、これを用いて感光性平版印刷版を作成した場合画線部と非画線部のコントラストに優れ、画像部の残膜率が十分であり、且つバーニング処理によって画線部の強度に優れ耐刷力を大巾に改善される感光性平版印刷版を提供することができる。特に本発明の感光性平版印刷版は、現像後加熱処理を行う製版処理に有利に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質とを含むポジ型感光性組成物に於て、更に、(c)熱の作用により該アルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物を含み、かつ該光熱変換物質の共存下で露光された時に酸を発生する機能を有する化合物を実質的に含まないことを特徴とするポジ型感光性組成物。
【請求項2】 光熱変換物質が650〜1300nmの一部又は全部に吸収帯を有する化合物であり、かつ650〜1300nmの全部または一部の光露光により熱発生するものであることを特徴とする請求項1に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項3】 前記(c)の化合物が含窒素化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項4】 前記(c)の化合物がアミノ基含有化合物であることを特徴とする請求項3に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項5】 アミノ基含有化合物がメチロール基又はアルコキシメチル基を少なくとも2個有するアミノ化合物であることを特徴とする請求項4に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項6】 アミノ基含有化合物が複素環構造を有することを特徴とする請求項4に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項7】 前記(c)の化合物が下式(T)で表される構造を有する基を分子内に少なくとも2個有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポジ型感光性組成物。
【化1】


(式中、T1 、T2 は各々独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、又はアシル基を示す)
【請求項8】 前記(c)の化合物がメラミン誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポジ型感光性組成物。
【請求項9】 メラミン誘導体が、下記式(T−1)及び/又は式(T−1)で表される構造が2価の連結基を介して縮合した化合物である請求項8に記載のポジ型感光性組成物。
【化2】


(式中、A1 −A6 は各々独立して基−CH2 OUを示し、Uは水素原子、アルキル基、アルケニル基、又はアシル基を示す。)
【請求項10】 Uが水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、アルコキシ化率が70%以上(モル比)である請求項9に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項11】 更に、少なくとも(a)と(b)との混合物のアルカリ溶解性を制御し得る化合物(d)を含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポジ型感光性組成物。
【請求項12】 ポジ型感光性組成物が露光部と非露光部において、主として化学変化以外の変化によってアルカリ現像液に対する溶解性に差異を生じる性質を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のポジ型感光性組成物。
【請求項13】 少なくとも(a)アルカリ可溶性樹脂と(b)光熱変換物質とを含むポジ型感光性組成物に於て、更に、(c)熱の作用により該アルカリ可溶性樹脂を架橋しうる化合物を含み、かつ該光熱変換物質の増感作用により酸を発生しえる化合物を実質的に含まないことを特徴とするポジ型感光性組成物。
【請求項14】 支持体上に、請求項1〜13のいずれかに記載のポジ型感光性組成物から成る感光層を有することを特徴とするポジ型感光性平版印刷版。
【請求項15】 請求項14に記載のポジ型感光性平版印刷版を650〜1300nmの光により露光することを特徴とするポジ型感光性平版印刷版の処理方法。
【請求項16】 請求項14又は15に記載のポジ型感光性平版印刷版を露光後加熱処理することなく現像することを特徴とするポジ型感光性平版印刷版の処理方法。
【請求項17】 現像後、加熱することを特徴とする請求項16に記載のポジ型感光性平版印刷版の処理方法。
【請求項18】 加熱温度が150〜300℃である請求項17に記載のポジ型感光性平版印刷版の処理方法。

【公開番号】特開平11−202481
【公開日】平成11年(1999)7月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−299373
【出願日】平成10年(1998)10月21日
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)