説明

ポッド推進装置

【課題】ポッド推進装置が旋回したときもそのプロペラ面の中心線は船体の中心線に一致し、ポッド推進装置のプロペラ面には概ね左右対称な流れが流入し、不安定なキャビテーションの発生を抑制可能で、ポッド推進装置の旋回時の船体振動やキャビテーションエロージョンの発生が抑制可能なポッド推進装置を提供する。
【解決手段】ポッド推進装置1において、船舶100の船尾部から後方または前方に傾斜垂下して設置される支柱4と、該支柱の下端部に設置されたポッド本体2と、該ポッド本体の船首部に設置されたプロペラ3から構成され、前記ポッド本体のプロペラのプロペラ面8の中心線を該ポッド本体の旋回中心5と概ね一致する位置に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポッド推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡単な構成でストラットに発生する揚力を小さく抑え、操舵性を良好としたポッド型推進装置としては、例えば、特開2002−193188号公報に開示ものもが知られている。
【0003】
この特開2002−193188号公報に開示のポッド推進装置は、発明名称「ポッド型推進器」に係り、「簡単な構成でストラットに発生する揚力を小さく抑え、操舵性を良好としたポッド型推進器を得ること」を目的として(同公報明細書段落番号0008参照)、「ポッドを支持するストラットのプロペラ後流が当たる部分を、プロペラ後流の流れの向きに傾け、ストラットの船体への取り付け側部分は、船舶の推進方向に向け、ストラットのプロペラ後流が当たる部分とストラットの船体への取り付け側部分との間の部分は、上下の部分の傾きにスムーズに切り変わる捻れた断面形状」とすることにより(同公報)特許請求の範囲請求項1の記載参照)、「ストラットに発生する揚力を小さく抑えることができ、舵効きの左右のアンバランスを解消し、当て舵量を減らすことができるようになった。また、揚力の発生による推進力の低減を抑えることができる」等の効果を奏するもののようである(同公報明細書段落番号0016参照)。
【0004】
この種のポッド推進装置101は、図3に示されるように、一般的に、船舶100の船尾部に、舵の機能を有せしめる支柱104の下端に推進器の役割を果たす装置としてプロペラ103を有するポッド本体102取り付けて構成され、船舶100の推進補助と舵の機能を兼ねさせている。
【0005】
図3は、この種の従来のポッド推進装置101の構成概略を示す図であり、同図3(a)は、その側面図、同図3(b)は、船舶旋回時のポッド推進装置101を上方から見た図である。また、同図3(c)は、当該ポッド推進装置101による船体後方流速分布図である。図3(a)(b)(c)において、符号100は、船体、101は、ポッド推進装置、102は、ポッド本体、103は、当該ポッド本体102の先端に配置されるプロペラ、104は、同ポッド本体102を回動可能に係止する支柱、105は、ポッド本体102の旋回中心線、106は、船体中心線、107は、同ポッド本体102のプロペラ中心線、108は、同ポッド本体102のプロペラ面であり、そのうち、実細線で示される108aは、同ポッド本体102の直進時のプロペラ面、波線で示される108bは、同旋回時のプロペラ面を示す。
【0006】
図3(a)(b)(c)に示すように、従来のポッド推進装置101においては、前記ポッド本体102の旋回中心線105が、前記プロペラ103のプロペラ面108の位置とは離れて構成されているため、前記ポッド本体102が旋回時に前記旋回中心105を中心に回動すると、前記旋回中心105が前記プロペラ面108位置とは距離があるため、プロペラ面108の中心107が前記船体中心線106から外れてしまうこととなる。すなわち、旋回時の船体後方流速分布で示すと、図3(C)に示すように、直進時には、船体中心線106に対して、直進時プロペラ面108aに左右対称な流れが流入するが、旋回時には、旋回時プロペラ面108bには、左右非対称な流れが流入し、特にプロペラ羽根の先端部に船体中心部の遅い流れが流入することとなり不安定なキャビテーションが発生する。
【0007】
このことは、二つのプロペラで推進するハイブリッド推進の場合には、特に、ポッド推進装置101のプロペラ面108の一部が前プロペラ110の後流から外れるが、円周方向の流入速度が前プロペラ110の後流の内外で大きく変化することになり、不安定なキャビテーションが発生することとなる。
【0008】
図4は、船舶プロペラ(前プロペラ)110の後方にポッド推進装置101を配置したイブリッド推進装置において、後方のポッド推進装置101が旋回する場合の概略構成を示す図であり、図4において、109は、プロペラ後流、110は、ハイブリッド推進における前プロペラ、101は、その後方に配置されるポッド推進装置、102は、ポッド本体、103は、同プロペラ、105は、同ポッド推進装置101の旋回中心である。図4に示すように、船体旋回時に前記ポッド推進装置101が前記旋回中心105を中心に回動すると、そのプロペラ面が前記前プロペラ110の後流から外れ、二重反転効果が充分に得られないだけでなく、極端に左右不均等な流れとなり、不安定なキャビテーションが発生することとなる。
【0009】
このため、船が変針するとき、舵(不図示)と同様に前記ポッド推進装置101を旋回させ、前記旋回軸心105から離れた位置にプロペラ面108があるため、ポッド推進装置101を旋回させたときに、プロペラ面108の中心線107は船体中心線106から外れ、プロペラ面108には左右非対称な流れが流入し、このためポッド推進装置101のプロペラ103には不安定なキャビテーションが発生し、船体振動を誘起する力が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−193188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本願発明は、上記の従来技術上の問題点に鑑み、ポッド推進装置が旋回したときもそのプロペラ面108の中心線107は船体の中心線106に一致し、ポッド推進装置101のプロペラ面108には概ね左右対称な流れが流入し、不安定なキャビテーションの発生を抑制可能で、ポッド推進装置101の旋回時の船体振動やキャビテーションエロージョンの発生が抑制可能なポッド推進装置101を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願請求項1に係る発明は、ポッド推進装置において、船舶の船尾部から後方または前方に傾斜垂下して設置される支柱と、該支柱の下端部に設置されたポッド本体と、該ポッド本体の船首部に設置されたプロペラから構成され、前記ポッド本体のプロペラのプロペラ面の中心線を該ポッド本体の旋回中心と概ね一致する位置に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、上述のとおり構成されているので、次に記載する効果を奏する。
ポッド推進装置が旋回したときもプロペラ面の中心線は船体の中心線に一致し、プロペラ面には概ね左右対称な流れが流入し、不安定なキャビテーションの発生を抑制可能で、ポッド推進装置の旋回時の船体振動やキャビテーションエロージョンの発生が抑制可能という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施例1に係るポッド推進装置1の構成概略を示す図であり、同図1(a)は、その側面図、同図1(b)は、同船舶旋回時のポッド推進装置1を上方から見た図、同図1(c)は、同当該ポッド推進装置1による船体後方流速分布図である。
【図2】図2は、船舶プロペラ(前プロペラ)110の後方に本実施例1に係るポッド推進装置1を配置したハイブリッド推進装置において、本実施例1に係るポッド推進装置1を旋回させて船舶進路を変更する場合の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、従来のポッド推進装置101の構成概略を示す図であり、同図3(a)は、その側面図、同図3(b)は、船舶旋回時のポッド推進装置101を上方から見た図である。また、同図3(c)は、当該ポッド推進装置101による船体後方流速分布図である。
【図4】図4は、船舶プロペラ(前プロペラ)110の後方にポッド推進装置101を配置したハイブリッド推進装置において、後方のポッド推進装置101が旋回する場合の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るポッド推進装置を実施するための最良の形態として一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本実施例1に係るポッド推進装置1の構成概略を示す図であり、前述の従来のポッド推進装置1の構成概略を示す図3に相当し、同図1(a)は、前述同様、その側面図、同図1(b)は、同船舶旋回時のポッド推進装置1を上方から見た図である。また、同図1(c)は、本実施例1に係るポッド推進装置1による船体後方流速分布図である。図1(a)(b)(c)において、符号1は、ポッド推進装置、2は、同ポッド推進装置1のポッド本体、3は、同プロペラ、4は、船体100の船尾部に配置されるポッド推進装置1の取付支柱であり、5は、旋回中心である。なお、従来のポッド推進装置101を示す図3(a)(b)(c)において示した同一の部材は、同一の符号で示すものとし、基本的構成及びその機能が同じ場合にはその説明を省略し、図3に示した従来のポッド推進装置101の構成概略と相違するときのみ説明するものとする。
【0017】
本実施例1に係るポッド推進装置1は、図1(a)(b)に示されるように、船舶100の船尾部から垂下して設置される支柱4と、該支柱4の下端部に設置されたポッド本体2と、該ポッド本体2の船首部に設置されたプロペラ3から構成され、ポッド推進装置1の旋回中心5と当該ポッド推進装置1のプロペラ3のプロペラ面8の中心線7が概ね一致するようにした。このため、前記支柱4は、従来のポッド推進装置101に使用される支柱104のように直線的な垂下構造ではなく、図1(a)に示すように、船舶船体に対して後方に傾斜して垂下される構造の支柱4となる。
【0018】
この結果、本実施例1に係るポッド推進装置1においては、ポッド推進装置1の旋回中心5と当該ポッド推進装置1のプロペラ3のプロペラ面8の中心線7が概ね一致する構造となり、本実施例1に係るポッド推進装置1のプロペラ面8の位置は、常に前記旋回中心5に位置するように旋回可能に配置されることとなる。
【0019】
なお、本実施例1に係るポッド推進装置1においては、前記支柱4は、船舶船体に対して後方に傾斜して垂下される構造の支柱4としたが、これは、船舶船体に対して後方に傾斜して垂下される構造の支柱4に限られるものではなく、ポッド推進装置1の旋回中心5と当該ポッド推進装置1のプロペラ3のプロペラ面8の中心線7が概ね一致する構造のものであれば、船舶船体に対して前方に傾斜して垂下される構造の支柱4であっても良い。
【0020】
また、プロペラ面8の中心線7とは、プロペラ面内の回転中心を通る線のうちポッドの回転軸と平行な線をいう。
そして、このようにすることにより、本実施例1に係るポッド推進装置1が旋回したときでも、そのプロペラ面8には常に左右対称な流れが流入するようになる。
【0021】
これを、本実施例1に係るポッド推進装置1が旋回するときの船体後方流速分布で説明すると、図1(C)に示すように、本実施例1に係るポッド推進装置1のプロペラ面8には、船舶直進時には、船体中心線6に対して、船舶直進時のプロペラ面8aが示すように、左右対称な流れが流入し、さらに、船舶旋回時には、図1(c)に示すように、旋回時プロペラ面8bも、船体中心線6に対して若干小さくはなるが、その流れは左右対称な流れが流入することとなる。この結果、左右非対称な流れが流入することによって発生する船舶旋回時の不安定なキャビテーションの発生を抑制することが可能となる。
【0022】
このことは、主プロペラの後方にポッド推進装置を配置する二つのプロペラで推進するハイブリッド推進の場合には、特に、顕著の表れることとなる。すなわち、前プロペラ110の後方に本実施例1に係るポッド推進装置1を配置した船舶100が本実施例1に係るポッド推進装置1を回動させて旋回したとしても、本実施例1に係るポッド推進装置1のプロペラ3のプロペラ面8は、前記前プロペラ110の後流から外れることはなく、前記前プロペラ110の後流の中で常に前記ポッドプロペラ3が作動することとなる.したがって、船舶旋回時であっても、いわゆる二重反転効果が得られることとなる。
【0023】
図2は、船舶主プロペラ(前プロペラ)110の後方に本実施例1に係るポッド推進装置1を配置したハイブリッド推進装置において、本実施例1に係るポッド推進装置1を旋回させて船舶進路を変更する場合の概略構成を示す図であり、図2において、109は、前述の図4に示したと同様のプロペラ後流、110は、同ハイブリッド推進における前プロペラ、1は、その後方に配置される本実施例1に係るポッド推進装置、2は、ポッド本体、3は、同プロペラ、5は、同ポッド推進装置1の旋回中心である。図2に示すように、船体旋回時に前記ポッド推進装置1が前記旋回中心5を中心に回動する場合であっても、そのプロペラ面8は、常に前記前プロペラ110の後流から外れることがなく、当該プロペラ面8には概ね左右対称な流れを流入させることができ、不安定なキャビテーションが発生することもなくなり、また、充分な二重反転効果が得られることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ポッド推進装置を有する船舶及び主プロペラ(前プロペラ)の後方にポッド推進装置を配置したハイブリッド推進装置を有する船舶の推進装置として利用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 ポッド推進装置
2 ポッド本体
3 プロペラ
4 支柱
5 旋回中心
6 船体中心線
7 ポッド本体中心線
8 プロペラ面
8a 直進時プロペラ面
8b 旋回時プロペラ面
100 船舶
101 ポッド推進装置
102 ポッド本体
103 プロペラ
104 支柱
105 旋回中心線
106 船体中心線
107 ポッド本体中心線
108 プロペラ面
108a 直進時プロペラ面
108b 旋回時プロペラ面
110 前プロペラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船尾部から後方または前方に傾斜垂下して設置される支柱と、該支柱の下端部に設置されたポッド本体と、該ポッド本体の船首部に設置されたプロペラから構成され、前記ポッド本体のプロペラのプロペラ面の中心線を該ポッド本体の旋回中心と概ね一致する位置に配置したことを特徴とするポッド推進装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−31858(P2011−31858A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183052(P2009−183052)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)