説明

ポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤組成物

【課題】 ポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤組成物を提供し、前記免疫補強剤および抗原を含むワクチン用組成物を提供する。
【解決手段】 前記ポリ−γ−グルタミン酸の分子量は10〜10,000kDaであり、前記抗原性物質は、ペプチド、ポリペプチド、前記ポリペプチドを発現する乳酸菌、タンパク質、前記タンパク質を発現する乳酸菌、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、組み換えバクテリア、および組み換えウイルスで構成された群より選択されたいずれか一つである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤組成物および該免疫補強剤含有ワクチン用組成物に係り、より詳しくは、免疫原性の弱い抗原と共に動物に投与して抗体産生率を高めることができるポリ−γ−グルタミン酸を含むことを特徴とする免疫補強剤、および該免疫補強剤と抗原とを含むワクチン用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在まで、抗原性タンパク質やペプチドを用いたサブユニットワクチン(subunit vaccine)、抗原遺伝子を用いた遺伝子ワクチン(DNA vaccine)、および様々な組み換えワクチンに対する研究が盛んに行われている。これらのワクチン候補物質は副作用が少ないという長所がある反面、免疫原性(immunogenicity)が弱く、これらの免疫反応を効率的に増強させる免疫補強剤(アジュバント;adjuvant)の開発が当該分野で切望されているのが現状である(非特許文献1参照)。
【0003】
ここで、免疫補強剤とは、抗原に対する特定の体液および/または細胞反応を増加させることができる物質をいう。免疫補強剤の体液性反応(B細胞反応)は、特定の抗原に対する強力な抗体反応を現わすもので、その作用は、迅速な分解代謝から抗原を保護する沈着物(deposit)を形成すること、非特異的に免疫反応を刺激することが知られている。沈着物が形成される場合、これは抗原を取り込んで時間が経つにつれて遊離させることができるため、一定の時間、免疫系に対して刺激を延長することで、極めて少ない容量の抗原でありながら抗体反応をより持続的に維持でき、免疫補強剤自体が非特異的に免疫系の細胞を刺激して含まれた抗原に対する反応を増加させる役目、すなわちリンホカイン(lymphokine)のレベルを高めることで免疫反応を刺激する作用をも有する。
【0004】
免疫補強剤の他の特徴である強力なT細胞媒介免疫反応(細胞性反応)の惹起は、抗原と共に投与されるとき、抗原提示細胞(APC)によって認識されて免疫系を活性化させ、予防ワクチンおよび治療ワクチンの効能を増加させる用途を有する。
【0005】
このような免疫補強剤は、感染疾患および癌に対して宿主抵抗性を有する非特異的な刺激作用、予防ワクチンの免疫原性の相乗作用、および治療ワクチンの免疫原性の相乗作用としての用途を有する。
【0006】
既に報告された免疫補強剤のうち代表的なものとして、フロイントアジュバント(Freund’s adjuvant)が挙げられる。フロイントアジュバントは、鉱物質に界面活性剤であるArlacel−A(Acros Organics N.V.、米国)を加えたもので、これに可溶性抗原をよく混合して懸濁液とし、皮内あるいは皮下に注射して抗体産生力を高めることで、抗体産生率が高くて実験動物に最も広く用いられる免疫補強剤としたものであるが、毒性が強くて人には使用できないという短所がある。その他、バクテリア産物であって免疫刺激効果を現わす様々な成分が同定され、免疫補強剤として開発されており(LPS;lipopolysaccharide,muramyl depeptide,Cholera toxin B subunit)、植物から分離したサポニン(Saponin)の一種であるQuilAと、免疫刺激複合体(ISCOMs;immunostimulating complexes)の形態として、特に胆汁酸塩とリン脂質などの組み合わせ調剤などが免疫補強剤として開発されている。しかし、これら大部分は安全性が確保されていない製剤である。
【0007】
現在、免疫補強剤(アジュバント)のうち人体への使用が承認されたものは、アルミニウム(aluminum)類が唯一であるが、これは他の免疫補強剤に比べて、比較的弱い免疫反応増強効果を持っていることを現わしている。アルミニウム類は、免疫反応面においてTh2免疫反応を刺激し、主に体液性免疫を増強させるため(非特許文献2参照)、細胞毒性(cytotoxic)、T細胞免疫反応の増強が必要なワクチンの免疫補強剤として使用するのには限界がある。また、アルミニウムアジュバントを含むワクチンは、生体内でほとんど分解されず、凍結時に凝集沈降するというアルミニウム自体の物性により、凍結乾燥の形で保管することが難しいという短所がある。そして、アルミニウム化合物(硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなど)は、人体用ワクチンとして使用可能であるが、製造時に品質が変わりやすく、精製操作が難しいので大量生産には不向きであるという短所がある。
【0008】
これらの免疫補強剤の他に、より安全で効果的な免疫補強剤の開発が進行されており、サイトカイン(cytokine)のような補強剤がワクチン抗原と共に投与されるなどの方法が当該分野で研究されている。しかし、これらのサイトカインにおいても、その安全性の面では大きく改善する必要がある。
【0009】
大部分の病原体の浸透経路は粘膜表面であり、多くの感染が粘膜および粘膜下組織で優先的に引き起こされる。通常の非経口ワクチンは粘膜免疫反応の誘発に極めて非効率的であり、したがって、最適の粘膜免疫化のための体系の開発に格段の努力が払われてきた。これらの努力のうち、粘膜下組職の兔疫細胞に対する抗原の伝達を向上させる免疫補強剤(リポソーム、免疫刺激複合体、中心体など)の開発も併行されて、開発・実験した例が報告されている(非特許文献3参照)。しかし、粘膜免疫化が様々な状況で効果的であるとしても、多くの感染で効果的な免疫反応の誘発のためには粘膜および非粘膜免疫化の二つの結合が必要となる。
【0010】
前記技術内容を考慮するとき、商業的に生産可能で有効なワクチンを開発するには、選択された抗原性物質の大規模的な産生をはじめ、この効果を極大化しながら安全に伝達できるような免疫増強剤がコスト面で効果的でなければならない。また、経皮、粘膜または全身投与が可能で免疫反応を適切に調節および集中するための免疫補強剤が必要となる。
【0011】
ここで、本発明者らはより効果的で安全な免疫補強剤を開発するために鋭意努力した結果、バチルス菌が産生するポリ−γ−グルタミン酸が、様々な抗原およびワクチン候補物質の効果を増強させることを立証することで、ポリ−γ−グルタミン酸が免疫補強剤として有用であることを確認し、本発明を完成した。
【0012】
【非特許文献1】O’Hagan,J.Pharm.Pharmacol.,50:1−10,1998
【非特許文献2】Audibert and Lise,Immunol. Today,14:281−284,1993
【非特許文献3】Sjolander et al.,J.Leukocyte Biol.64:713−723,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の主な目的は、ポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、前記免疫補強剤および抗原を含むワクチン用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、ポリ−γ−グルタミン酸と薬学的に許容される担体とを含む免疫補強剤組成物を提供する。本発明において、好ましくは、前記ポリ−γ−グルタミン酸の分子量は10〜10,000kDaであることを特徴とする。
【0016】
本発明は更に、前記免疫補強剤組成物および抗原性物質を含むワクチン用組成物を提供する。本発明において、前記抗原性物質は、好ましくは、ペプチド、ポリペプチド、該ポリペプチドを発現する乳酸菌、タンパク質、該タンパク質を発現する乳酸菌、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、組み換えバクテリア、および組み換えウイルスから構成された群より選択されたいずれか一つであることを特徴とする。
【0017】
また、前記抗原性物質は、好ましくは、豚伝染性胃腸炎ウイルスの核タンパク質(N)、犬パルボウイルス抗原タンパク質VP2、またはB型肝炎ウイルスの表面抗原(L particle)であることを特徴とし、好ましくは、前記核タンパク質(N)抗原性物質は、核タンパク質(N)を発現する乳酸菌であり、VP2抗原性物質はVP2を発現する乳酸菌であることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るワクチン用組成物は、好ましくは、安定剤、乳化剤、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、pH調整剤、界面活性剤、リポソーム、免疫刺激複合体(ISCOM)補助剤、合成グリコペプチド、増量剤、カルボキシポリメチレン、細菌細胞壁、細菌細胞壁の誘導体、細菌ワクチン、動物ポックスウイルスタンパク質、ウイルス性物質(subviral)粒子補助剤、コレラ毒素、N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−プロパンジアミン、モノホスホリル脂質A、ジメチルジオクタデシル−アンモニウムブロマイドおよびこれらの混合物から構成された群より選択されたいずれか一つ以上の第2補助剤を更に含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るワクチン用組成物は、好ましくは、前立腺癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭頚部癌、外陰部癌、膀胱癌、脳癌および神経膠腫で構成された群より選択されたいずれか一つ以上の疾患の予防用または治療用であることを特徴とする。
【0020】
本発明は更に、前記ワクチン用組成物を、人間を除いた動物に注入し、抗原に対する抗体産生率を高める方法を提供する。本発明において、好ましくは、前記動物は哺乳類または鳥類であることを特徴とし、前記注入は、好ましくは、皮下注射、筋肉内注射、皮下内注射、腹膜内注射、鼻腔投与、口腔投与、経皮投与および経口投与から構成された群より選択されたいずれか一つの方法で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ポリ−γ−グルタミン酸を含有する免疫補強剤組成物を提供する効果がある。本発明は更に、前記免疫補強剤と抗原とを含むワクチン用組成物を提供する効果がある。
【0022】
本発明に係る免疫補強剤は、毒性および副作用がほとんどなく、免疫原性の不良な抗原と共に用いても高い抗体価を発揮することができ、癌、特に前立腺癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭頚部癌、外陰部癌、膀胱癌、脳癌および神経膠腫のみならず、非伝染性慢性疾患の予防用あるいは治療用ワクチンを含む医薬組成物に添加して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤は、薬学的組成物の製造に通常用いられる適切な賦形剤および希釈剤を更に含んでも良い(Remington’s Pharmaceutical Science,Mack Publishing Co.,Easton PA)。また、本発明に係るポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤は、通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形および滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用することができる。
【0024】
本発明のポリ−γ−グルタミン酸含有免疫補強剤組成物に含まれることが可能な担体、賦形剤、希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、澱粉、グリセリン、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニールピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油が挙げられる。
【0025】
製剤化する場合は、普段使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記ポリ−γ−グルタミン酸に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤することができる。また、単純な賦形剤の他にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用できる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁液剤、内用液剤、油剤、シロップ剤などを使用することができ、頻繁に用いられる単純希釈剤である水、液体パラフィンの他に様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれても良い。非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水溶性製剤、懸濁液剤、油剤、凍結乾燥製剤が含まれる。非水溶性製剤、懸濁液剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどを使用することができる。
【0026】
本発明のポリ−γ−グルタミン酸含有免疫増強剤は、投与対象の年齢、性別、体重などによって投与量を変更でき、投与経路、疾患の度合い、性別、体重、年齢などによってもワクチン投与量を増減することができる。
【0027】
本発明で用いられるポリ−γ−グルタミン酸そのものは、毒性および副作用がほとんどないので、予防目的で安心して使用することができる免疫補強剤である。本発明のポリ−γ−グルタミン酸をワクチン用免疫補強剤として使用し、共に作成することができる抗原性成分としては、免疫原性が不良である抗原やペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはこれらに相応する核酸配列、またはワクチンの関心対象である対象細胞、またはこれらの組み合わせで構成された群、そしてワクチンとして使用可能な組み換えバクテリアやウイルスから選択することができる。
【0028】
本発明のワクチン用免疫補強剤は、非経口、粘膜(経口や鼻腔など)および経皮性経路によるワクチン投与の際に共に使用することができる。抗原性タンパク質を発現する微生物をワクチンの用途として使用する場合、本発明のポリ−γ−グルタミン酸を免疫補強剤として使用することが好ましい。特に、前記抗原性タンパク質を発現する乳酸菌を経口用ワクチンとして使用する場合、本発明のポリ−γ−グルタミン酸をワクチン用免疫補強剤として共に使用することが好ましい。
【0029】
また、本発明のポリ−γ−グルタミン酸は癌、特に前立腺癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭頚部癌、外陰部癌、膀胱癌、脳癌および神経膠腫のみならず、非伝染性慢性疾患を予防・治療する目的で用いられる予防用あるいは治療用ワクチンを含む医薬組成物に添加して使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を通じて本発明を更に詳しく説明する。これらの実施例は専ら本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるとして解釈されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとっては自明なことであろう。
【0031】
[実施例1]ポリ−γ−グルタミン酸の製造
ポリ−γ−グルタミン酸製造用基本培地(5%のL−グルタミン酸が添加されたGS培地;グルコース:5%、(NHSO:41%、KHPO:0.27%、NaHPO・12HO:0.42%、NaCl:0.05%、MgSO・7HO:0.3%、ビタミン溶液:1ml/L、pH:6.8)3Lが満たされた5L発酵器に、バチルス・サブチルス清麹醤(Bacillus subtilis var.chungkookjang,KCTC0697BP)菌株の培養液を1%接種し、攪拌速度150rpm、空気注入速度1vvmにて、37℃で72時間培養した後、2N硫酸溶液を加えてpHが3.0になるように調節し、ポリ−γ−グルタミン酸の含まれた試料液を得た。
【0032】
前記試料液を4℃で10時間定置させて発酵液内の多糖類を取り除き、これに、エタノールを発酵液の2倍量になるように添加した後、充分に混合した。前記混合液を4℃で10時間定置した後、遠心分離し、ポリ−γ−グルタミン酸沈殿物を得た。前記沈殿物に蒸留水を加えて溶解させ、タンパク質分解酵素を100μg/mlになるように加え、37℃恒温器で6時間定置反応させ、試料に存在する細胞外タンパク質を分解させた。前記ポリ−γ−グルタミン酸の含まれた試料を充分量の蒸留水で透析し、遊離したグルタミン酸を取り除いた後、濃縮させ、純粋なポリ−γ−グルタミン酸を得た。
【0033】
用途に応じて、必要な場合は、前記製造されたポリ−γ−グルタミン酸を適切な方法で切断し、所定の分子量に製造して使用したり、適切な方法で分離して所定の分子量別に回収して使用することができる。以下の実施例では、分子量が、5kDa、10kDa、20kDa、50kDa、1,000kDaおよび2,000kDaのポリ−γ−グルタミン酸を使用した。
【0034】
[実施例2]ポリ−γ−グルタミン酸によるTGEウイルス抗原に対する抗体産生
本実施例では、本発明のポリ−γ−グルタミン酸が可溶性抗原に対して特異的免疫増強効果を現わしているか否かを調査するために、抗体特異的な免疫反応中、特に抗体産生と連関のあるB細胞による体液性免疫反応(humoral immune response)に及ぼす影響を調べた。抗原としては、豚の伝染性消火器疾患を誘発する豚伝染性胃腸炎ウイルス(Transmissible Gastroenteritis virus,TGE)の核タンパク質(N)を使用し、実験動物としてはウサギを使用した。
【0035】
まず、対照群として、TGEN抗原(400μg/PBS ml)を単独で皮下注射したウサギを使用し、TGEN抗原(400μg/PBS ml)と、分子量がそれぞれ5kDa、10kDa、20kDaおよび50kDaであるポリ−γ−グルタミン酸を混合し、皮下注射で投与して実験群として用いた。
【0036】
最初の皮下注射してから2週間後、同量の抗原および分子量別のポリ−γ−グルタミン酸を投与した。最初の皮下注射してから2週間毎にウサギの血清を採り、血清中のTGEN抗原に対する抗体の力価(titer)をELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法で測定した。
【0037】
前記ELISA法は、TGEN抗原(0.1μg/PBS ml)がコーティングされたプレートをPBS/5%牛胎児血清を用いてブロッキングした後、対照群および実験群のウサギの血清を様々な一連の希釈率で培養した。その後、HRP(Horse raddish peroxidase) が付着されたウサギ抗IgG抗体(Fcに対して特異的である。)を添加した。前記すべての培養は37℃で1時間行い、言及された各段階後にはPBS/0.05% Tween20を用いて3回洗浄した。基質としては、ABTS{2,2−azinobis(3−ethyl−benzthiazoline sulfonic acid)}1mg/mlを添加して反応を展開させ、30分後450nmでの吸光度をELISA測定装置で測定した。
【0038】
その結果、図1に示すように、分子量別のポリ−γ−グルタミン酸とTGEN抗原とを共に皮下注射したウサギでのTGEN抗原に対する抗体力価は、TGEN抗原のみを皮下注射したウサギでのTGEN抗原に対する抗体力価より高く現れた。特に、50kDaのポリ−γ−グルタミン酸を共に処理したウサギの抗体力価が最も高く現れた。そして抗体力価の上昇に対する持続性は、最初の注射後、少なくとも6週間までは、対照群に比べて有意に増強されるような結果を示した。
【0039】
[実施例3]ポリ−γ−グルタミン酸によるHBVウイルス抗原に対する抗体産生
本実施例では、ポリ−γ−グルタミン酸が他の可溶性抗原に対し、腹腔投与方法によって特異的免疫(体液性免疫反応;humoral immune response)増強効果を現わしているか否かを酵母来由B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)の表面抗原(surface antigen;L particle)を用いてBalb/c miceを実験動物として用いて確認した。
【0040】
まず、対照群は精製されたHBsAg(hepatitis B virus surface antigen)L particle抗原(1μg/PBS ml)を単独で腹腔注射した6週齢のBalb/cの雌マウスを用い、実験群はHBsAg L particle抗原(1μg/PBS ml)と、分子量がそれぞれ10kDa、50kDaおよび1,000kDaであるポリ−γ−グルタミン酸とを混合して腹腔注射した。また、抗原の濃度を変化させて精製されたHBsAg L particle抗原(0.5μg/PBS ml)を単独で腹腔注射したマウスおよびHBsAg L particle抗原(0.5μg/PBS ml)と、分子量がそれぞれ10kDa、50kDaおよび1,000kDaであるポリ−γ−グルタミン酸とを混合し、腹腔注射で投与した実験群に分けた。前記実験群と対照群とは、腹腔接種してから5週間目に採血し、血清内のHBsAg L particleに対する陽転率および抗体の力価をELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法で測定した。
【0041】
ELISAは、HBsAg L particle 抗原(1mg/ml)がコーティングされたプレートを用いて実施例2と同様の方法で行った。その結果、図2に示すように、本発明の分子量別のポリ−γ−グルタミン酸を複合したHBsAg L particle抗原を腹腔注射したマウスでのHBsAg L particle抗原に対する抗体陽転率および力価は、HBsAg L particle抗原の量と比例するように、抗原のみを皮下注射したマウスでの抗原に対する抗体陽転率および力価よりも高く現れた。特に、ポリ−γ−グルタミン酸1,000kDaを共に処理したマウスの抗体陽転率および力価が最も高く現れた。
【0042】
[実施例4]ポリ−γ−グルタミン酸による犬パルボウイルスの抗原タンパク質が表面発現された乳酸菌のワクチン効果の分析
本実施例では、可溶性抗原の他に抗原性タンパク質を発現する微生物をワクチンの用途として用いる場合、本発明のポリ−γ−グルタミン酸が免疫補強剤として用いられて各抗原に対する特異的免疫{体液性免疫反応(humeral immune response)および粘膜免疫反応(mucosal immune response)}増強効果を現わすか否かを確認した。
【0043】
抗原としては、犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2を使用した。本発明者らは、前記カプシド抗原タンパク質であるVP2を表面発現する乳酸菌を新しい経口ワクチンとして開発しようと試み、これに対する特許を出願した経緯がある(大韓民国特許出願第2004−007321号)。本実施例では、前記犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2を表面発現する乳酸菌を用い、ポリ−γ−グルタミン酸の抗体産生率が増強されるか否かを調べた。
【0044】
具体的には、本発明において犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2を表面発現する乳酸菌を一定の細菌濃度になるように獲得した後、細胞を緩衝溶液(PBS buffer,pH7.4)で洗浄し、抗原が表面発現されたラクトバチルス5×10菌を4〜6週齢のC57BL/6マウスの口腔に1日おきに5回、次いで1週間後再び1日おきに5回、そして2週間後再び1日おきに5回投与した。また、抗原が表面発現されたラクトバチルス1×10菌をマウスの鼻腔に一日おきに3回、次いで一週間後再び1日おきに3回、そして2週間後再び1日おきに3回投与し、対照群にした。また、前記対照群と同様の群を作成し、この群のマウスにはそれぞれの投与乳酸菌に分子量2,000kDaのポリ−γ−グルタミン酸100μgずつを混合して投与した後、ポリ−γ−グルタミン酸非投与群と混合投与群のマウス内のカプシド抗原タンパク質であるVP2に対する抗体産生率を測定・比較した。
【0045】
経口、鼻腔投与後、2週間おきにそれぞれのマウス群の血清を採って血清内のカプシド抗原タンパク質に対するIgG抗体価と、マウスの内腸部位を採って腸の内部を洗浄した浮遊液内および気管支と肺胞の内部を洗浄した浮遊液内でのカプシド抗原タンパク質に対するIgA抗体価とを、ELISA法にて測定した。
【0046】
図3は、マウス血清内の犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原に対するIgG抗体価を示したもので、Aはカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原を表面発現する乳酸菌を単独でそれぞれ経口および鼻腔に投与したマウス群の抗体価を示し、Bはカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原を表面発現する乳酸菌とポリ−γ−グルタミン酸とを混合し、それぞれ経口および鼻腔に投与したマウス群の抗体価を示す。
【0047】
図4は、腸の内部を洗浄した浮遊液および気管支と肺胞の内部を洗浄した浮遊液内でのカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原に対するIgA抗体価をELISA法にて示したもので、AおよびCはカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原を表面発現する乳酸菌を単独で経口投与および鼻腔投与した群でのIgA抗体価を示し、BおよびDはカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原を表面発現する乳酸菌とポリ−γ−グルタミン酸とを混合し、それぞれ経口および鼻腔に投与したマウス群のIgA抗体価を示す。
【0048】
図3および図4に示すように、カプシド抗原タンパク質であるVP2抗原を表面発現する乳酸菌とポリ−γ−グルタミン酸とを共に投与したC57BL/6マウス群の血清、内腸洗浄液および気管支洗浄液において、犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原に対するIgG抗体価およびIgA抗体価が、対照群に比べて非常に高く現れることを確認することができた。
【0049】
この結果から、本発明に係る犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2抗原を表面発現する乳酸菌と混合され適用されたポリ−γ−グルタミン酸は、経口用粘膜ワクチンの効能を極大化させることのできる免疫補強剤であることが分かった。
【0050】
[実施例5]ポリ−γ−グルタミン酸による伝染性胃腸炎ウイルスの抗原タンパク質が表面発現された乳酸菌のワクチン効果の分析
本実施例では、豚の伝染性消火器疾患を誘発する豚伝染性胃腸炎ウイルス(Transmissible Gastroenteritis virus,TGE)の核タンパク質(N)抗原を表面発現する乳酸菌をポリ−γ−グルタミン酸と共に豚に経口投与するとき、免疫補強剤としての効果があるか否かを調べた。
【0051】
具体的には、本発明において豚伝染性胃腸炎ウイルスのヌクレオカプシド抗原タンパク質であるNを表面発現する乳酸菌を一定の細菌濃度になるように獲得した後、細胞を緩衝溶液(PBS buffer,pH7.4)で洗浄し、抗原が表面発現された乳酸菌を粉末化した。対照群は粉末化された乳酸菌を豚の飼料の0.3%になるように混合した後、該混合飼料を3ヶ月齢の豚3匹に2kg/日になるように4週間摂取させた。ポリグルタミン酸実験群は、粉末化された乳酸菌の3%になるように2,000kDaのポリ−γ−グルタミン酸を混合した後、該粉末を豚の飼料の0.3%になるように混合し、同様に、該混合飼料を3ヶ月齢の豚3匹に2kg/日になるように4週間摂取させた。摂取後、2週間おきに血清を採り、血清内のN抗原タンパク質に対するIgG抗体価をELISA法で測定した。
【0052】
その結果、図5に示すように、ヌクレオカプシド抗原タンパク質であるN抗原を表面発現する乳酸菌を単独で与えた豚の血清のIgG抗体価が、N抗原を表面発現する乳酸菌にポリ−γ−グルタミン酸を混合して与えた豚の血清でのIgG抗体価よりも高い数値であることを確認することができた。
【0053】
上記の結果から、本発明に係るポリ−γ−グルタミン酸は、経口用粘膜ワクチンの効能を極大化させることのできる免疫補強剤であることを確認することができた。
【0054】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したが、当業界で通常の知識を有する者にとっては、かかる具体的な技術は単なる好ましい実施態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されないことは明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付された各請求項とそれらの等価物のみによって定義されるものではないと言えよう。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上、説明したように、本発明は、ポリ−γ−グルタミン酸を含有する免疫補強剤組成物を提供する効果がある。本発明は更に、前記免疫補強剤と抗原とを含むワクチン用組成物を提供する効果がある。又、本発明に係る免疫補強剤は、毒性および副作用がほとんどなく、免疫原性の不良な抗原と共に用いても高い抗体価を発揮することができ、癌、特に前立腺癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭頚部癌、外陰部癌、膀胱癌、脳癌および神経膠腫のみならず、非伝染性慢性疾患の予防用あるいは治療用ワクチンを含む医薬組成物に添加して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ポリ−γ−グルタミン酸と豚伝染性胃腸炎ウイルスである核タンパク質(N)抗原をウサギの皮下に注射した後、一定の時間が過ぎた後、血清内の核タンパク質抗原に対する特異IgG抗体価を測定したグラフである。
【図2】ポリ−γ−グルタミン酸とB型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)の表面抗原(surface antigen;L particle)とをマウスの腹腔に注射した後、一定の時間が過ぎた後、血清内のHBs抗原に対する特異IgG抗体価を測定したグラフである。
【図3】ポリ−γ−グルタミン酸と、犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2を表面発現する乳酸菌とをマウスの経口および鼻腔に投与した後、一定の時間が過ぎた後、血清内のVP2抗原に対する特異IgG抗体価を測定したグラフである。
【図4】ポリ−γ−グルタミン酸と、犬パルボウイルスのカプシド抗原タンパク質であるVP2を表面発現する乳酸菌とをマウスの経口および鼻腔に投与した後、一定の時間が過ぎた後、マウスの腸、気管支および肺胞洗浄液内でのVP2抗原に対するIgA抗体価を測定したグラフである。
【図5】ポリ−γ−グルタミン酸と、豚伝染性胃腸炎ウイルスの核タンパク質(N)抗原を表面発現する乳酸菌とを飼料と共に豚に経口投与した後、一定の時間が過ぎた後、血清内の核タンパク質抗原に対する特異IgG抗体価を測定したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−グルタミン酸と薬学的に許容される担体を含む免疫補強剤組成物。
【請求項2】
請求項1において、ポリ−γ−グルタミン酸の分子量は10〜10,000kDaであることを特徴とする免疫補強剤組成物。
【請求項3】
請求項1の免疫補強剤組成物および抗原性物質を含むワクチン用組成物。
【請求項4】
請求項3において、前記抗原性物質はペプチド、ポリペプチド、該ポリペプチドを発現する乳酸菌、抗原タンパク質、該抗原タンパク質を発現する乳酸菌、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、組み換えバクテリアおよび組み換えウイルスから構成された群より選択されたいずれか一つであることを特徴とするワクチン用組成物。
【請求項5】
請求項3において、前記抗原性物質は豚伝染性胃腸炎ウイルスの核タンパク質(N)、犬パルボウイルス抗原タンパク質VP2、またはB型肝炎ウイルスの表面抗原(L particle)であることを特徴とするワクチン用組成物。
【請求項6】
請求項5において、前記核タンパク質(N)抗原性物質は、核タンパク質(N)を発現する乳酸菌であり、前記VP2抗原性物質はVP2を発現する乳酸菌であることを特徴とするワクチン用組成物。
【請求項7】
請求項3において、安定剤、乳化剤、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、pH調整剤、界面活性剤、リポソーム、免疫刺激複合体(ISCOM)補助剤、合成グリコペプチド、増量剤、カルボキシポリメチレン、細菌細胞壁、細菌細胞壁の誘導体、細菌ワクチン、動物ポックスウイルスタンパク質、ウイルス性物質(subviral)、粒子補助剤、コレラ毒素、N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−プロパンジアミン、モノホスホリル脂質A、ジメチルジオクタデシル−アンモニウムブロマイドおよびこれらの混合物から構成された群より選択されたいずれか一つ以上の第2補助剤を更に含むことを特徴とするワクチン用組成物。
【請求項8】
請求項3において、前立腺癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭頚部癌、外陰部癌、膀胱癌、脳癌および神経膠腫で構成された群より選択されたいずれか一つ以上の疾患の予防用または治療用であることを特徴とするワクチン用組成物。
【請求項9】
請求項3の組成物を、人間を除いた動物に注入し、抗原に対する抗体産生率を高める方法。
【請求項10】
請求項9において、前記動物は哺乳類または鳥類であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9において、注入は皮下注射、筋肉内注射、皮下内注射、腹膜内注射、鼻腔投与、口腔投与、経皮投与および経口投与から構成された群より選択されたいずれか一つの方法で行われることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−232799(P2006−232799A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128003(P2005−128003)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(505011419)バイオリーダーズ コーポレイション (3)
【出願人】(505012690)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (7)
【出願人】(504051342)エム・ディ・ラボ・カンパニー・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】M. D. LAB CO., LTD.
【Fターム(参考)】