説明

ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の製造方法

吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、重合反応の制御が容易で、臭気もなく、かつ着色の少なく高吸収性である吸水性樹脂を生産性高く製造する。本発明では、アクリル酸に対して、10〜200質量ppmのメトキシフェノ−ル類と、0〜10質量ppmの、プロトアネモニンおよびフルフラ−ルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含有するアクリル酸組成物を、鉄が0.2〜5質量ppm(溶媒を除く対塩基性化合物基準)含まれる塩基性組成物で中和した後、重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂およびその製造方法、並びに吸水性樹脂重合用アクリル酸に関する。さらに、詳しくは、吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善する吸水性樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高度の吸水性を有する吸水性樹脂が開発され、紙おむつ、生理用ナプキンなどの吸収物品、さらには、農園芸用保水剤、工業用止水材などとして、主に使い捨て用途に多用されている。かかる吸水性樹脂としては、原料として多くの単量体や親水性高分子が提案されているが、中でも、アクリル酸および/またはその塩を単量体として用いたアクリル酸(塩)系吸水性樹脂がその吸水性能の高さから工業的に最も多く用いられている。
【0003】
吸水性樹脂は一般に使い捨ての用途(紙おむつなど)に使用されるため、安価なことが必須であり、その為に生産性の向上が強く求められている。また、吸収物品での使用においては、安全性や着色の面での問題のないことが当然求められている。すなわち、吸水性樹脂中には数100〜1000質量ppm程度ではあるが未反応のアクリル酸が残存するため、その量の低減が求められている。また、吸収物品中では、白色のパルプと複合化されるため、着色による異物感を与えないように、吸水性樹脂自体が白色であることが求められている。
【0004】
また、吸水性樹脂は水膨潤性水不溶性であるが、特許文献1にあるように、吸水性樹脂中には未架橋の水可溶性重合体(水可溶分)も数質量%〜数10質量%含まれており、その量の低減が求められている。さらに、特許文献2にあるように、吸収物品中の吸水性樹脂は加圧下吸収倍率や加圧下通液量などの加圧下での物性が求められている。
【0005】
上記諸問題を解決するために、不純物の少ない単量体を用いて吸水性樹脂を重合する方法が提案され、例えば、単量体中の重金属含有量を0.1ppm以下に精製して重合する方法(特許文献3)、アクリル酸ダイマーないしオリゴマーの少ないアクリル酸を用いる方法(特許文献4,5)、アクリル酸中の酢酸やプロピオン酸含有量を400ppm未満に精製して重合する方法(特許文献6)、プロトアネモニンの少ないアクリル酸を用いる方法(特許文献7)、フルフラールの少ないアクリル酸を用いる方法(特許文献8)、ハイドロキノンの少ないアクリル酸を用いる方法(特許文献9)などが提案されている。また、吸水性樹脂の原料の不純物を低減する方法として、アクリル酸をアルデヒド処理剤で処理する方法(特許文献10)、アクリル酸塩を活性炭で処理する方法(特許文献11)が提案されている。
【0006】
特許文献3〜11のように、原料アクリル酸などを高純度に精製する製法により高物性の吸水性樹脂を実現する手法が提案されてきたが、コスト面や生産性低下の問題があった。
【0007】
また、物性改善のために一定量の微量成分を添加する吸水性樹脂の重合方法も提案され、例えば、アクリル酸中のメトキシフェノール類を10〜200ppmとする方法(特許文献12)、フルフラールを11〜2000ppm共存させる方法(特許文献13)、金属を用いる方法(特許文献14,15)などが提案されている。しかし、特許文献12,13では、単量体中に含有するメトキシフェノール類やフルフラール類が吸水性樹脂の製造工程中に酸化するために、得られた吸水性樹脂が着色(黄変)するという問題があった。
【特許文献1】米国特許4654039号
【特許文献2】米国特許5562646号
【特許文献3】特開平3−31306号
【特許文献4】特開平6−211934号
【特許文献5】国際公開特許WO04/52949号
【特許文献6】国際公開特許WO03/95510号
【特許文献7】欧州特許1302485号
【特許文献8】米国公開特許2004/0110913号
【特許文献9】米国特許6444744号
【特許文献10】国際公開特許WO03/14172号
【特許文献11】国際公開特許WO04/52819号
【特許文献12】米国公開特許2004/0110914号
【特許文献13】米国公開特許2004/0110897号
【特許文献14】米国特許5439993号
【特許文献15】欧州特許1457541号
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、重合反応を温和に制御し、高吸収物性を維持向上させ、臭気もなく、着色せず、かつ生産性高い吸水性樹脂の製造方法を提供することである。
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を行った結果、吸水性樹脂を製造する際に、特定の微量成分を含有するアクリル酸を用い、かつ、鉄を0.2〜5質量ppm含有する塩基性化合物を用いることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の第1の吸水性樹脂の製造方法は、アクリル酸および/またはその塩を含有するアクリル酸組成物を重合してなる吸水性樹脂の製造方法において、上記アクリル酸組成物を、塩基性組成物で中和した後、重合し、含水ゲル状架橋重合体を形成させる工程(a)を含み、上記アクリル酸組成物は、アクリル酸に対して、10〜200質量ppmのメトキシフェノ−ル類と、0〜10質量ppmの、プロトアネモニンおよびフルフラ−ルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含み、上記塩基性組成物は、塩基性化合物と鉄とを含み、上記塩基性組成物における鉄の含有量は、Fe換算で、0.2〜5.0質量ppmであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の吸水性樹脂の製造方法は、アクリル酸および/またはその塩を含有するアクリル酸組成物を重合してなる吸水性樹脂の製造方法において、上記アクリル酸組成物を重合し、含水ゲル状架橋重合体を形成させた後、当該含水ゲル状架橋重合体を塩基性組成物で中和する工程(a’)を含み、上記アクリル酸組成物は、アクリル酸に対して、10〜200質量ppmのメトキシフェノ−ル類と、0〜10質量ppmの、プロトアネモニンおよびフルフラ−ルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含み、上記塩基性組成物は、塩基性化合物と鉄とを含み、上記塩基性組成物における鉄の含有量は、Fe換算で、0.2〜5.0質量ppmであることを特徴とする。
【0012】
上記構成により、吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、重合反応の制御が容易で、臭気もなく、かつ着色が少なく高吸収性である吸水性樹脂を生産性高く製造することが可能となる。
【0013】
本発明の第1および第2の吸水性樹脂の製造方法は、上記工程(a)または工程(a’)を1工程として含み、当該工程(a)または工程(a’)の後、上記含水ゲル状架橋重合体を加熱乾燥する工程(b)と、次いで、加熱して表面架橋処理する工程(c)とをさらに含むことが好ましい。
【0014】
上記塩基性化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ金属の炭酸塩であることが好ましく、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムであることがより好ましい。
【0015】
また、上記アクリル酸組成物は、溶解度パラメーターが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物を1〜1000質量ppm含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明の第1および第2の吸水性樹脂の製造方法では、上記アクリル酸組成物、または、上記含水ゲル状架橋重合体にキレート剤を添加することが好ましい。
【0017】
また、上記鉄はFeであることが好ましい。
【0018】
また、上記アクリル酸組成物は、アクリル酸に対して、0〜0.1質量ppmのフェノチアジンと、0〜5質量ppmの、フルフラール以外のアルデヒド分およびマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物と、10〜800質量ppmの、酢酸およびプロピオン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの飽和カルボン酸とを含有していることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(1)吸水性樹脂
本発明において、架橋された吸水性樹脂とは、重合体に架橋構造を導入した水膨潤性水不溶性重合体を言う。その水膨潤性とは生理食塩水に対して無加圧下での吸収倍率(GVs)が2倍以上、好ましくは5〜200倍、より好ましくは20〜100倍であることをいう。また、その水不溶性とは樹脂中の水可溶生重合体が、必須に0〜50質量%、好ましくは0〜25質量%、より好ましくは0〜15質量%、さらに好ましくは0〜10質量%の実質水不溶性であることをいう。なお、これらの測定法は後述の実施例で規定する。
【0020】
また、本発明においてポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂とは、アクリル酸および/またはその塩を主成分として含有する単量体を重合してなるものであって、具体的には、重合に用いられる総単量体(架橋剤を除く)において、アクリル酸および/またはその塩の合計モル%が必須に50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、特に好ましくは実質100モル%のものをいう。なお、本明細書において、上記「単量体」なる用語は、アクリル酸および/またはその塩を主成分として含有する単量体を意味し、「アクリル酸組成物」なる用語と置き換え可能に用いられる。
【0021】
本発明で用いられるアクリル酸の塩としては、物性面から好ましくはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、およびアミン塩のようなアクリル酸の1価塩、より好ましくはアクリル酸のアルカリ金属塩、さらに好ましくはナトリウム塩、リチウム塩およびカリウム塩から選ばれるアクリル酸アルカリ金属塩が挙げられる。なお、水膨潤性を有する範囲内でカルシウム塩、およびアルミニウム塩などの多価金属塩を併用してもよい。
【0022】
本発明において得られる吸水性樹脂の中和率は、酸基の20〜99モル%、好ましくは50〜95モル%、より好ましくは60〜90モル%である。この中和は重合前の単量体成分、すなわち、アクリル酸組成物に対して行っても良いし、重合中や重合後に重合体、例えば、含水ゲル状架橋重合体に対して行っても良い。さらには、単量体成分の中和と重合体の中和とを併用しても良いが、好ましくは単量体成分としてのアクリル酸、換言すれば、アクリル酸組成物に含有されるアクリル酸に対して後述のアルカリ処理がなされる。
【0023】
(2)重合不活性有機化合物
重合不活性有機化合物とは、ビニル基やアリル基などの重合性不飽和結合を有しない有機化合物であり、本発明は、溶解度パラメーターが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物を1〜1000質量ppm含む単量体を好ましく使用する。換言すれば、本発明におけるアクリル酸組成物は、溶解度パラメーターが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物を1〜1000質量ppm含有することが好ましい。なお、本発明における重合不活性有機化合物とは、重合性不飽和結合を有しない有機化合物のことで、熱分解あるいは酸化剤/還元剤によるラジカル重合や紫外線、γ線によって重合しない飽和結合を有する化合物または芳香族化合物等の有機化合物を指す。
【0024】
本明細書において、溶解度パラメーター(δ)は、凝集エネルギー密度のことであり、下記の式により算出することができる。
【0025】
δ((Jm-31/2)=ρΣG/M
(式中、ρは密度(g/cm)、GはHollyの凝集エネルギー定数、ΣGは成分原子団の凝集エネルギー定数の和であり、ρおよびGは25±1℃での値を示す。Mは分子量を表す。)
なお、本発明において、δ((cal・cm−31/2)単位系で算出される場合は、適宜((Jm−31/2)に変換されるものとする。
【0026】
本発明では、単量体中に、かかる特定化合物を特定量使用することで吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、重合反応の制御が容易であり、かつ着色が少なく高吸収性である吸水性樹脂を生産性高く製造することが可能になる。溶解度パラメーターが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物の含有量が1質量ppm未満の単量体を使用した場合、重合時の発熱に伴う重合物の過度の温度上昇による重合制御が困難であり、吸収物性の低下を引き起こすために好ましくなく、1000質量ppmを超える単量体を使用した場合、目的を達するうえで過剰であり、また、最終的に得られる吸水性樹脂に臭気などの問題が発生する恐れがある。
【0027】
したがって、かかる重合不活性有機化合物の使用量は、単量体(アクリル酸組成物)に対して、1〜1000質量ppmであればよく、好ましくは1〜500質量ppm、より好ましくは1〜300質量ppmであり、さらに好ましくは5〜300質量ppm、特に好ましくは10〜300質量ppm、最も好ましくは10〜100質量ppmである。
【0028】
また、特定化合物(重合不活性有機化合物)は後述の、特定の加熱工程(乾燥、表面処理等)により最終的に除去され、臭気等発生しない状態とされる。
【0029】
前記重合不活性有機化合物の溶解度パラメーターは通常(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2であり、好ましくは(1.0〜2.2)×10(Jm-31/2、より好ましくは(1.1〜2.0)×10(Jm-31/2、さらに好ましくは(1.3〜2.0)×10(Jm-31/2、最も好ましくは(1.5〜1.9)×10(Jm-31/2である。
【0030】
具体的には、ヘプタン(沸点95℃)、ジメチルシクロヘキサン(同132℃)、エチルシクロヘキサン、トルエン(同110℃)、エチルベンゼン(同136℃)、キシレン(138〜144℃)、ジエチルケトン(同101℃)、ジイソプロピルケトン(同124〜125℃)、メチルプロピルケトン(同102℃)、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、酢酸n−プロピル(同101℃)、酢酸n−ブチル(同124〜125℃)、ジフェニルエーテル(同259℃)、ジフェニル(同255℃)より選ばれた1種または2種以上が挙げられる。かかる重合不活性有機化合物の中でも、芳香族化合物が好ましく、重合特性や生産性の観点からトルエン、ジフェニルエーテル、ジフェニルが特に好ましい。
【0031】
溶解度パラメーターが(1〜2.5)×10(Jm-31/2である有機化合物とは、アクリル酸と相溶性が良く、かつ、重合性不飽和結合を有しない有機化合物のことであり、親油性有機化合物を指す。かかる重合不活性有機化合物のうち、環境負荷という観点から好ましくはハロゲンを含有しない有機化合物であり、さらには、炭素および水素のみで構成された炭化水素である。また、沸点が、好ましくは95〜300℃、より好ましくは130〜260℃の有機化合物である。溶解度パラメーターが2.5×10(Jm-31/2を超える場合は重合制御や反応面から好ましくない。
【0032】
上記重合不活性有機化合物は重合前の単量体(アクリル酸組成物)に含有されていることが好ましく、その調製法としては、単量体、換言すれば、アクリル酸組成物の水溶液の調製後に添加してもよく、単量体、換言すれば、アクリル酸組成物の水溶液の調製時に添加してもよく、また、単量体の原料、換言すれば、アクリル酸組成物の構成成分、例えば、アクリル酸、架橋剤、水、アルカリ化合物などに予め含有ないし添加されていてもよい。これらの中で、上記重合不活性有機化合物は疎水性で一般に水不溶性であるため、予めアクリル酸に溶解ないし含有されることが好ましい。本発明では、単量体の調製に用いられるアクリル酸に、予め上記重合不活性有機化合物が含有ないし添加されていることが好ましい。すなわち、好ましくは、上記重合不活性有機化合物が未中和アクリル酸に予め溶解されており、該未中和アクリル酸を用いて単量体の水溶液が調製される。
【0033】
(3)吸水性樹脂重合用アクリル酸、およびアクリル酸組成物
アクリル酸を製造する方法としては、プロピレンおよび/またはアクロレインの気相接触酸化法、エチレンシアンヒドリン法、高圧レッペ法、改良レッペ法、ケテン法、アクリロニトリル加水分解法等が工業的製造法として知られており、中でもプロピレンおよび/またはアクロレインの気相接触酸化法が最も多く採用されている。そして、本発明においては、かかる気相接触酸化法で得られたアクリル酸が好適に使用される。気相接触酸化法で得られたアクリル酸では、通常約2000ppm量以上のアクリル酸以外の不純物を含有する。このように不純物を含有するアクリル酸を、本明細書では、アクリル酸組成物と称することもある。
【0034】
本発明にかかる吸水性樹脂の製造方法の一つにおいては、アクリル酸に加えて、好ましくは、前記重合不活性有機化合物を1〜1000質量ppm含有し、好ましくは、さらにβヒドロキシプロピオン酸および/またはアクリル酸ダイマーを合計量が1〜1000質量ppm(未中和アクリル酸換算質量基準/以下すべて同じ)、好ましくは1〜500質量ppm、より好ましくは1〜300質量ppm含有し、メトキシフェノール類を10〜200質量ppm含有するアクリル酸組成物を用いる。
【0035】
前記メトキシフェノール類としては、具体的には、o,m,p−メトキシフェノールや、それらにさらにメチル基、t−ブチル基、水酸基などの1個または2個以上の置換基を有するメトキシフェノール類が例示されるが、本発明において特に好ましくはp−メトキシフェノールである。メトキシフェノール類の含有量は、10〜200質量ppmであればよいが、好ましくは10〜100質量ppm、より好ましくは10〜90質量ppm、さらに好ましくは10〜80質量ppm、最も好ましくは10〜70質量ppmである。p−メトキシフェノールの含有量が200質量ppmを越える場合、得られた吸水性樹脂の着色(黄ばみ/黄変)の問題が発生する。また、p−メトキシフェノールの含有量が10質量ppm未満の場合、特に5質量ppm未満の場合、すなわち、蒸留などの精製によって重合禁止剤であるp−メトキシフェノールを除去した場合、意図的に重合を開始させる前に重合が起きる危険があるのみならず、驚くべきことに、重合速度がかえって遅くなるので好ましくない。
【0036】
前記重合不活性有機化合物と、β-ヒドロキシプロピオン酸および/またはアクリル酸ダイマーとの合計量が1ppm未満である場合は重合時の発熱に伴う重合物の過度の温度上昇による重合制御が困難であり、吸収物性の低下を引き起こす可能性があり、また、多くすぎると、吸水性樹脂の残存モノマー(残存アクリル酸)が増加する。
【0037】
また、本発明の製造方法において用いられるアクリル酸組成物には製造工程でp−メトキシフェノール以外の重合禁止剤を用いることもでき、例えば、フェノチアジン、ハイドロキノン、銅塩、メチレンブルー等が有効であるが、これらの重合禁止剤はメトキシフェノールと異なり重合を阻害するため、最終的には少ないほどよく、含有量は0〜0.1質量ppm、好ましくは0質量ppm(検出限界以下)である。
【0038】
また、本発明の製造方法において用いられるアクリル酸組成物は、プロトアネモニン(protoanemonin)および/またはフルフラールを含有していてもよい。プロトアネモニンおよび/またはフルフラールの含有量が増加するに従って、重合時間(重合ピーク温度までの時間)が伸びて残存モノマーが増加するのみならず、吸収倍率の若干の増加に比べて水可溶分が大きく増加して相対的に物性が低下する。吸水性樹脂の物性や特性向上と言う観点からは、アクリル酸組成物中のプロトアネモニンおよび/またはフルフラール含有量は、0〜20質量ppmとすることが好ましい。より具体的には、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは0.01〜5質量ppm、さらに好ましくは0.05〜2質量ppm、特に好ましくは0.1〜1質量ppmの範囲である。
【0039】
さらに、本発明の製造方法において用いられるアクリル酸組成物にあっては、フルフラール以外のアルデヒド分および/またはマレイン酸も少ないほど良く、アクリル酸に対して、好ましくは0〜5質量ppm、より好ましくは0〜3質量ppm、さらに好ましくは0〜1質量ppm、特に好ましくは0質量ppm(検出限界以下)である。なお、フルフラール以外のアルデヒド分としては、ベンズアルデヒド、アクロレイン、アセトアルデヒドなどが挙げられる。
【0040】
さらに、本発明の製造方法において用いられるアクリル酸組成物にあっては、酢酸および/またはプロピオン酸からなる飽和カルボン酸の含有量は、アクリル酸に対して好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは10〜800質量ppm、特に好ましくは100〜500質量ppmである。飽和カルボン酸は重合せず揮発性を有するため、1000ppmを超えると臭気の問題があるが、少量の添加は安全な抗菌性を吸水性樹脂に付与するもので好ましい。
【0041】
本発明において、上記アクリル酸組成物を得る方法としては、以下の方法(A)〜(D)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上記成分の定量は液体クロマトグラフィーないしガスクロマトグラフィーで行なわれる。
【0042】
方法(A);p−メトキシフェノールを重合禁止剤として200質量ppm以上含有する市販のアクリル酸ないしはその水溶液を蒸留して、前記特定量のメトキシフェノール類(p−メトキシフェノールなど(沸点113〜115℃/5mmHg))に調製する方法。
【0043】
方法(B);p−メトキシフェノール等のメトキシフェノール類を重合禁止剤として含有しないアクリル酸ないしはその水溶液に、メトキシフェノール類を添加する方法。
【0044】
方法(C);アクリル酸の製造工程において、メトキシフェノール類(p−メトキシフェノール)を本願所定量に調製する方法。
【0045】
方法(D);前記メトキシフェノール類(p−メトキシフェノールなど)の含有量が異なるアクリル酸をブレンドして、本願所定量に調製する方法。
【0046】
なお、方法(A)〜(D)などでは、アクリル酸(沸点139℃)中の前記特定量の溶解度パラメーターが3〜5(Jcm-31/2である重合不活性有機化合物、前記特定量のβヒドロキシプロピオン酸および/またはアクリル酸ダイマーも同時に調製してもよい。
【0047】
なお、上記方法(A)において、アクリル酸組成物(別称;微量成分を不純物として含むアクリル酸)を得る方法の具体例としては、例えば、蒸留、晶析、あるいは、イオン交換樹脂による吸着を用いた方法が挙げられる。以下に、蒸留、晶析による方法例を示す。
【0048】
塔頂部にコンデンサー、留出液抜出し管、および還流液供給管、塔下部に釜、原料液供給管、該コンデンサー上部に安定剤供給管を備える蒸留塔を用いて市販のアクリル酸の蒸留を行ない、安定剤供給管よりメトキシフェノール類を投入しつつ、メトキシフェノール類を所定量に調製しアクリル酸組成物を得る方法。
【0049】
市販のアクリル酸を晶析装置に導入して精製後、メトキシフェノール類を特定量含むアクリル酸組成物を得る方法。
【0050】
前者の蒸留時におけるメトキシフェノール類の投入方法は特に限定されない。粉体の形で直接投入してもよいし、アクリル酸の溶液として投入してもよい。後者の晶析装置としては特公昭53−41637号公報に記載されているような装置を用いることができる。
【0051】
吸水性樹脂を製造する際の重合に際してアクリル酸(微量成分を不純物として含むアクリル酸)を精製して、不純物である重合禁止剤やアクリル酸ダイマーなどを除去する技術(特開平6−211934号、特開平3−31306号、欧州特許942014号、欧州特許574260号)も知られている。しかし、アクリル酸を重合に際して蒸留した場合、アクリル酸とp−メトキシフェノールとの沸点差から、蒸留後のアクリル酸中のp−メトキシフェノール含有量は実質ND(Non−Detectable/検出限界1質量ppm/UVで定量)である。したがって、200質量ppmを超えるp−メトキシフェノールを含有する市販のアクリル酸に対して従来一般的に行われているアクリル酸の精製技術を適用しても、p−メトキシフェノールの含有量を10〜200質量ppmという特別の範囲に調整することは不可能あるいは極めて困難であり、このような調整を行うためには例えば上述の(A)〜(D)などのような方法を意図的に行うことが必要となる。
【0052】
(4)塩基性組成物
本明細書において、「塩基性組成物」とは、塩基性化合物を含有する組成物を意味する。本発明では、上記塩基性組成物には、上記塩基性化合物に加えて、後述する鉄、換言すれば、鉄を含有する化合物が含まれていることが好ましい。
【0053】
本発明で用いられる上記塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属の炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンなどが例示されるが、より高物性の吸水性樹脂を得るためには、強アルカリ物質、すなわち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。なお、水酸化ナトリウムには通常0〜5%程度の炭酸ナトリウムや塩化ナトリウムが含まれており、通常含まれている量の炭酸ナトリウムや塩化ナトリウムを含有する水酸化ナトリウムも本発明に好適に用いることができる。
【0054】
特許文献3に記載されているように、単量体水溶液中で0.1ppmを超える重金属は吸水性樹脂の残存モノマーを増加させることが知られていたが、特定の微量成分を含むアクリル酸、および、特定量(0.2〜5ppm)の鉄(Fe換算)を含有する塩基性組成物(好ましくは鉄と苛性ソーダとを含有する塩基性組成物)を用いて単量体を調製する本発明の方法では、重合時間が短縮され、水可溶分も減少し、着色も低減することが見出された。
【0055】
また、特許文献3では重金属を0.1ppm、好ましくは0.02ppm以下に減少させる手法として、アクリル酸の蒸留、および、苛性ソーダの活性炭処理を開示している。しかし、特許文献3では本発明のメトキシフェノール類を開示していないし、仮にアクリル酸にメトキシフェノールが200ppm以上含まれていても、特許文献3のようなアクリル酸(沸点139℃)の蒸留精製で高沸点のメトキシフェノール(p体で沸点113〜115℃/5mmHg)は除去され、蒸留後のアクリル酸中には実質0ppm(検出限界以下)となる。また、特許文献3では重金属が吸水性樹脂の重合に有用であることを開示していない。
【0056】
すなわち、本発明に用いる塩基性組成物は、塩基性化合物と鉄とを含有するものであって、上記塩基性組成物には、必須に鉄(Fe換算)が塩基性組成物固形分に対して0.01〜10.0質量ppmの範囲で含まれ、好ましくは0.2〜5.0質量ppm、より好ましくは0.5〜5.0質量ppmの範囲で含まれる。鉄の含有量が0.01質量ppmより少なくなると、重合開始剤添加前に重合が起きる危険があるだけでなく、開始剤を添加しても重合が逆に遅くなる可能性もある。本発明で用いられる鉄としては、Feイオンでもよいが、効果の面から好ましくは3価の鉄、特にFeである。
【0057】
本発明において、鉄の含有量が0.01〜10.0質量ppmの塩基性組成物を得る方法としては、以下の(A)〜(B)などが挙がられるが、これらに限定されない。
【0058】
方法(A);市販の塩基性化合物の中から、鉄を含有する化合物を、Fe換算で0.01〜10.0質量ppm含有するものを選択して使用する。
【0059】
方法(B);鉄を含有する化合物を、Fe換算で10.0質量ppm以上含有する塩基性化合物を、活性炭、キレ−トイオン交換樹脂、キレ−ト剤等で鉄を除去または低減した後、0.01〜10.0質量ppmの範囲となるように鉄を添加して調製する。
【0060】
なお、本発明でFeなどの鉄を添加する場合、単量体、換言すれば、アクリル酸組成物に添加してもよく、塩基性組成物に添加してもよい。
【0061】
(5)アクリル酸のアルカリ処理
本発明にかかる吸水性樹脂の製造方法においては、微量成分を含有する前記アクリル酸を用いて単量体成分を調製する工程を含むが、その際、前記アクリル酸を前記塩基性組成物で処理することによって、前記アクリル酸を前記塩基性組成物で中和することが好ましい。例えば、前記アクリル酸組成物を前記塩基性組成物で中和することが好ましい。
【0062】
本発明でアルカリ処理とは、アクリル酸の中和において、一定温度以上(高温中和)ないし一定中和率以上(高中和)でアクリル酸を中和処理することであり、かかるアルカリ処理によってアクリル酸の重合が飛躍的に促進されるのである。具体的には例えば、一定量の塩基性組成物に徐々にアクリル酸組成物を添加して強アルカリ領域を得ることや、アクリル酸組成物と強アルカリの塩基性組成物とをラインミキシングで混合して中和と同時にアルカリ処理を行う方法などが例示される。
【0063】
高温中和として、アルカリ処理における温度が通常の中和よりも高温、すなわち、好ましくは30℃以上沸点以下、より好ましくは40℃以上沸点以下、さらに好ましくは50℃以上沸点以下、特に好ましくは60℃以上沸点以下である。アルカリ処理において、温度が低い場合や強アルカリを用いない場合、さらには、未中和の場合には精製アクリル酸を用いても重合性が非常に低く、物性的にも劣ったものになることがある。
【0064】
高中和として、これらアクリル酸の中和率が100モル%を超える状態、すなわち、アルカリ過剰の状態でアルカリ処理がなされることが好ましい。
【0065】
中和に用いられる上記塩基性組成物に含有される塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。アルカリ処理においては、特に強アルカリ処理においては、中和後のアクリル酸塩の濃度が好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量%の水溶液ないしは水分散液となるようにアクリル酸が処理され、その時間、特にアルカリ過剰の状態でアルカリ処理がなされる場合の処理時間は、好ましくは1秒〜2時間、より好ましくは5秒〜1時間の範囲で適宜決定される。
【0066】
さらに、アルカリ処理は安定性のため酸素存在下で行なわれ、好ましくは0.5〜20ppm、より好ましくは1〜15ppm、さらに好ましくは1.5〜10ppmの酸素を、アクリル酸(塩)水溶液、換言すればアクリル酸組成物の水溶液が含有した状態で行なわれる。酸素が少ないとアルカリ処理での単量体の安定性に問題があり、好ましくは酸素ないしは空気雰囲気下、より好ましくは酸素ないしは空気が吹き込まれおよび/または巻き込まれて、アルカリ処理がなされる。なお、酸素量は溶存酸素計(例えば、隔膜指揮ポーラログラフ)で測定できる。こうして得られる単量体の濁度(JIS K−0101で規定)は0.5以下であることが好ましい。
【0067】
(6)単量体
単量体としては、アクリル酸および/またはその塩を前記の範囲で使用するが、その他の単量体を併用してもよい。換言すれば、本発明において、アクリル酸組成物は、上述した範囲内で、アクリル酸および/またはその塩を含有するとともに、その他の単量体を含有していてもよい。
【0068】
併用される単量体としては、例えば、後述の米国特許ないし欧州特許に例示される単量体が挙げられ、具体的には例えば、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリロキシアルカンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソブチレン、ラウリル(メタ)アクリレート等の水溶性または疎水性不飽和単量体等を共重合成分とするものも含まれる。
【0069】
本発明で用いられる架橋方法としては特に制限なく、例えば、重合中や重合後に架橋剤を添加して後架橋する方法、ラジカル重合開始剤によりラジカル架橋する方法、電子線等により放射線架橋する方法、等も挙げられるが、予め所定量の内部架橋剤を単量体に添加して重合を行い、重合と同時または重合後に架橋反応させることが好ましい。
【0070】
本発明で用いられる内部架橋剤としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリオキシエチレン)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(β−アクリロイルオキシプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(β−アクリロイルオキシプロピオネート)、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の内部架橋剤の1種または2種以上が用いられる。なお、1種以上の内部架橋剤を使用する場合には、得られる吸水性樹脂の吸収特性等を考慮して、2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を重合時に必須に用いることが好ましい。
【0071】
前記内部架橋剤は前記単量体に対して好ましくは0.005〜2モル%、より好ましくは0.01〜1モル%、さらに好ましくは0.05〜0.2モル%である。上記架橋剤の使用量が0.005モル%よりも少ない場合、または、2モル%よりも多い場合には、所望の吸収特性が得られない恐れがある。
【0072】
重合工程において逆相懸濁重合や水溶液重合を行う場合で、単量体成分を水溶液とする場合、この水溶液(以下、単量体水溶液と称する)中の単量体成分の濃度は、特に限定されるものではないが、物性面から好ましくは10〜70質量%、より好ましくは15〜65質量%、さらに好ましくは30〜55質量%である。また、上記水溶液重合または逆相懸濁重合を行う際には、水以外の溶媒を必要に応じて併用してもよく、併用して用いられる溶媒の種類は、特に限定されるものではない。
【0073】
なお、重合に際して単量体に対して、水溶性樹脂ないし吸水性樹脂を例えば0〜50重量%、好ましくは0〜20重量%、各種の発泡剤(炭酸塩、アゾ化合物、気泡など)、界面活性剤、キレート剤、連鎖移動剤などを例えば0〜5重量%、好ましくは0〜1重量%添加して、吸水性樹脂の諸物性を改善してもよい。
【0074】
(7)重合する工程(a)
上記単量体成分を重合するに際して、性能面や重合の制御の容易さから、通常上記単量体成分を水溶液とすることによる水溶液重合または逆相懸濁重合による行われる。これらの重合は、好ましくは空気下でも実施できるが、窒素やアルゴンなどの不活性気体雰囲気(例えば,酸素1%以下)で行われ、また、単量体成分は、その溶解酸素が不活性気体で十分に置換(例えば、酸素1ppm未満)された後に重合に用いられることが好ましい。本発明では、高生産性で高物性だが重合制御が困難であった水溶液重合に特に好適であり、特に好ましい水溶液重合として、連続ベルト重合、連続またはバッチニーダー重合が挙げられる。
【0075】
なお、逆相懸濁重合とは、単量体水溶液を疎水性有機溶媒に懸濁させる重合法であり、例えば、米国特許4093776号、同4367323号、同4446261号、同4683274号、同5244735号などの米国特許に記載されている。水溶液重合は分散溶媒を用いずに単量体水溶液を重合する方法であり、例えば、米国特許4625001号、同4873299号、同4286082号、同4973632号、同4985518号、同5124416号、同5250640号、同5264495号、同5145906号、同5380808号などの米国特許や、欧州特許0811636号、同0955086号,同0922717号、同1178059号などの欧州特許に記載されている。これらに記載の単量体、架橋剤、重合開始剤、その他添加剤も本発明では適用できる。
【0076】
さらに本発明では前記単量体を重合するに際して、本発明の課題でもある吸収特性の向上や低着色を達成するため、単量体成分を調製後および/またはアクリル酸を中和後の重合開始までの合計時間は短いほど好ましく、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、さらに好ましくは3時間以内、特に好ましくは1時間以内に重合を開始する。工業的には大量にタンクで中和や単量体成分の調製を行うため、滞留時間が24時間を越えることも通常であるが、単量体成分を調製後および/またはアクリル酸を中和後の時間が長いほど、残存モノマーや低着色が悪化することが見出された。よって、滞留時間の短縮を図るためには、好ましくは、連続中和および連続単量体成分調製して回分式重合または連続重合を行い、さらに好ましくは連続重合を行う。
【0077】
上記単量体水溶液を重合する際には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2−ヒドロキシ−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾインメチルエーテル等の重合開始剤の1種または2種以上を用いることができる。さらに、これら重合開始剤の分解を促進する還元剤を併用し、両者を組み合わせることによりレドックス系開始剤とすることもできる。上記の還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の(重)亜硫酸(塩)、L−アスコルビン酸(塩)、第一鉄塩等の還元性金属(塩)、アミン類等が挙げられ、好ましくは過硫酸塩および/または過酸化物とのレドックス重合開始剤であるが、特に限定されるものではない。これらの重合開始剤や還元剤の使用量は、単量体成分に対して、通常0.001〜2モル%が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5モル%である。
【0078】
これら重合開始剤の中でも、本発明において、より低着色を達成するためには、好ましくは、過酸化水素および/または亜硫酸(水素)塩、さらに好ましくは過酸化水素が使用され、これらに加えてさらに他の重合開始剤、特に過硫酸塩ないしアゾ化合物が併用されてもよい。過酸化水素および/または亜硫酸(水素)塩の使用量は、好ましくは0.00001〜0.1g/単量体mol、さらに好ましくは0.0001〜0.01g/単量体molの範囲であり、さらには併用される重合開始剤より少ない量である。なお、アゾ化合物は低着色に効果を示すが、過剰な過硫酸塩の使用は物性低下や着色を招き、好ましくは前述の範囲で併用される。
【0079】
また、重合開始剤を用いる代わりに、反応系に放射線、電子線、紫外線などの活性エネルギー線を照射することにより重合反応を行ってもよいし、それらを重合開始剤と併用してもよい。
【0080】
なお、上記重合反応における反応温度や反応時間も特に限定されるものではなく、親水性単量体や重合開始剤の種類、反応温度などに応じて適宜決定すればよいが、通常、沸点以下で3時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以内、さらに好ましくは0.5時間以内であり、ピーク温度で好ましくは150℃以下、より好ましくは90〜120℃の重合がなされる。また、重合時の蒸発する水やアクリル酸は、必要により保集して、さらに吸水性樹脂の製造工程にリサイクルすることも好ましい。
【0081】
また、本発明は、1ライン当り一定量以上の大規模な生産、特に連続生産に適している。実験室レベルの生産やPilotや小規模なプラントでの生産では本発明の効果が十分に発揮されない場合があるが、単量体の安定性や重合の速度などからも、大規模な生産、特に1ライン当りの生産量が、好ましくは300Kg/時間以上、より好ましくは500Kg/時間以上、さらに好ましくは700Kg/時間以上では、本発明を適用しないと十分な物性の目的とする吸水性樹脂が得られないことが見出された。
【0082】
(8)重合後に中和
本願の第1の製造方法では、通常、予め中和された酸基含有不飽和単量体で重合(中和重合法)されるが、本発明の第2の製造方法では、重合方法として、未中和の酸基含有不飽和単量体、特に未中和アクリル酸を主成分とされ、さらに重合後の酸基が中和、いわゆる酸重合&後中和法(例えば、米国特許6187872号、同6060557号、同5145906号、同5453323号、同6602950号、同4985514号、および前記特許文献1など)が適用される。
【0083】
製法2では、未中和アクリル酸が特に30〜100モル%、さらには90〜100モル%、特に100モル%の単量体からの架橋重合体についても、前記の塩基性組成物、特に塩基性化合物としてアルカリ金属化合物を含有する塩基性組成物を添加して部分的にアルカリ金属塩基とすることで本発明の吸水性樹脂として用いることが出来る。本重合方法により得られた吸水性樹脂はさらに「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、吸収能が高く、尿に対する安定性に優れた吸収体を得ることが可能になる。また、前記の塩基性組成物を用いる場合、着色や劣化も低減される。
【0084】
製法2において、重合後の含水ゲル状架橋重合体は必須に中和される。得られる吸水性樹脂の性能、工業的入手の容易さ、安全性等の面からナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。本発明においては、重合体中の酸基の50〜90モル%、好ましくは60〜80モル%がアルカリ金属化合物との中和反応によりアルカリ金属塩に変換される。含水ゲル状架橋重合体をアルカリ金属化合物で中和する方法としては溶媒を使用して重合した場合、得られた含水ゲル状架橋重合体を約1cm以下の小片に裁断しながらアルカリ金属化合物の水溶液を添加し、ゲルをさらにニーダーやミートチョパーで混練する方法がある。また、本発明の吸水剤を得る上で、中和温度は50〜100℃、さらには60〜90℃であり、中和は米国特許6187872号の請求項1に記載の第一中和指数(粒子200個の中和度合いで規定)が10以下の均一さを示すことが好ましい。
【0085】
(9)乾燥工程(b)
重合工程で得られた含水ゲル状架橋重合体は、必要によりゲル粉砕機などを用いて必要により細分化される。さらに特定の温度条件下で乾燥され、必要により粉砕や分級、さらには造粒し特定の温度条件下で表面架橋される。本発明の吸水性樹脂は高物性であり、かかる工程を経ることでさらに物性が改良され、臭気も抑えられる。
【0086】
また、本発明の課題でもある残存モノマーの低減や低着色を達成するため、重合終了後に必要によりゲル粉砕工程を経て乾燥を開始するまでの時間も短いほど好ましい。すなわち、重合後の含水ゲル状架橋重合体は、好ましくは1時間以内、より好ましくは0.5時間以内、さらに好ましくは0.1時間以内に乾燥を開始(乾燥機に投入)される。また、残存モノマーの低減や低着色を達成するため、重合後から乾燥開始までの含水ゲル状架橋重合体の温度は好ましくは50〜80℃、さらに好ましくは60〜70℃に制御される。工業的な場面においては大量に重合を行うため、重合後の滞留時間が3時間を越えることも通常であるが、乾燥開始までの時間が長いほど/または上記の温度から外れるほど、残存モノマーが増加したり、着色が顕著になったりすることが見出された。よって、好ましくは、連続重合および連続乾燥され、滞留時間の短縮が行われることである。
【0087】
本発明において乾燥とは主として水分を除去する操作のことであり、さらに同時に前記溶解度パラメーターを有する重合不活性有機化合物が除去される。
【0088】
その乾燥減量(粉末ないし粒子1gを180℃で3時間加熱)から求められる樹脂固形分が好ましくは80質量%以上、より好ましくは85〜99質量%、さらに好ましくは90〜98質量%、特に好ましくは92〜97質量%の範囲に調整される。また、乾燥温度は特に限定されるものではないが、工程(b)が重合不活性有機化合物の沸点以上の加熱となる温度であることが好ましい。具体的には、100〜300℃の範囲内とすることが好ましく、150〜250℃の範囲内とすることがより好ましい。
【0089】
乾燥方法としては、加熱乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、ドラムドライヤー乾燥、疎水性有機溶媒との共沸による脱水、高温の水蒸気を用いた高湿乾燥等、種々の方法を採用することができるが、吸水性樹脂の物性および不活性有機化合物の除去から、好ましくは露点が40〜100℃、より好ましくは露点が50〜100℃、さらには60〜90℃の気体による熱風乾燥である。
【0090】
(10)表面架橋工程(c)
次いで、本発明の表面架橋についてさらに説明する。吸水性樹脂の表面架橋とは、重合体内部に均一な架橋構造を有する吸水性樹脂の表面層(表面近傍:通常数10μm以下の近傍)にさらに架橋密度の高い部分を設けることである。本発明で得られる吸水性樹脂は水可溶分が少なく、また吸収倍率が高いため、優れた表面架橋効果が得られ、さらに高い物性や特性を発揮し、加圧下吸収倍率(AAP)や加圧下通液性効率(PPUP)が高まり、さらに、臭気も低減する。
【0091】
上記表面架橋を行うための表面架橋剤としては、種々のものがあるが、物性の観点から、カルボキシル基と反応しうる架橋剤、一般的には、多価アルコール化合物、エポキシ化合物、多価アミン化合物またはそのハロエポキシ化合物との縮合物、オキサゾリン化合物、モノ、ジ、またはポリオキサゾリジノン化合物、多価金属塩、アルキレンカーボネート化合物等が用いられている。
【0092】
本発明で用いられる表面架橋剤としては、具体的には、米国特許6228930号、同6071976号、同6254990号などに例示されている。例えば、モノ,ジ,トリ,テトラまたはポリエチレングリコール、モノプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2,3,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノールなどの多価アルコール化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテルやグリシドールなどのエポキシ化合物、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン等の多価アミン化合物;エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、α−メチルエピクロロヒドリン等のハロエポキシ化合物;上記多価アミン化合物と上記ハロエポキシ化合物との縮合物、2−オキサゾリジノンなどのキサゾリジノン化合物、エチレンカボネートなどのアルキレンカーボネート化合物等が挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明の効果を最大限にするために、これらの架橋剤の中でも少なくとも多価アルコールを用いることが好ましく、炭素数2〜10、好ましくは炭素数3〜8の多価アルコールが用いられる。
【0093】
表面架橋剤の使用量は、用いる化合物やそれらの組み合わせ等にもよるが、樹脂の固形分100質量部に対して、0.001質量部〜10質量部の範囲内が好ましく、0.01質量部〜5質量部の範囲内がより好ましい。本発明において、表面架橋には水を用いることが好ましい。この際、使用される水の量は、使用する吸水性樹脂の含水率にもよるが、通常、吸水性樹脂100質量部に対し、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部の範囲である。また、本発明において、水以外に親水性有機溶媒を用いてもよい。この際、使用される親水性有機溶媒の量は、通常、吸水性樹脂100質量部に対し、好ましくは0〜10質量部、より好ましくは0〜5質量部、さらに好ましくは0〜3質量部の範囲である。架橋剤溶液の温度は混合性や安定性から、好ましくは0℃〜沸点、より好ましくは5〜50℃、さらに好ましくは10〜30℃にする。また、混合前の吸水性樹脂粉末の温度は、混合性から好ましくは0〜80℃、より好ましくは40〜70℃の範囲である。
【0094】
さらに、本発明では種々の混合方法のうち、必要により水及び/または親水性有機溶媒とを予め混合した後、次いで、その水溶液を吸水性樹脂に噴霧あるいは滴下混合する方法が好ましく、噴霧する方法がより好ましい。噴霧される液滴の大きさは平均で好ましくは1〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。また混合に際し、本発明の効果を妨げない範囲、例えば、0〜10質量%以下、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜1質量%で、水不溶性微粒子粉体や界面活性剤を共存させてもよい。用いられる界面活性剤やその使用量は国際出願番号WO2005JP1689(国際出願日2005/02/04)に例示されている。
【0095】
前記混合に用いられる好適な混合装置は、均一な混合を確実にするため大きな混合力を生み出せることが必要である。本発明に用いることのできる混合装置としては種々の混合機が使用されるが、好ましくは、高速攪拌形混合機、特に高速攪拌形連続混合機が好ましく、例えば、商品名タービュライザー(日本の細川ミクロン社製)や商品名レディゲミキサー(ドイツのレディゲ社製)などが用いられる。
【0096】
表面架橋剤を混合後の吸水性樹脂は好ましくは加熱処理される。上記加熱処理を行う際の条件としては、加熱温度は工程(c)が重合不活性有機化合物の沸点以上の加熱であることが好ましく、好ましくは120〜250℃、より好ましくは150〜250℃であり、加熱時間は、好ましくは1分〜2時間の範囲である。加熱処理は、通常の乾燥機又は加熱炉を用いて行うことができる。乾燥機としては、例えば、溝型混合乾燥機、ロータリー乾燥機、ディスク乾燥機、流動層乾燥機、気流型乾燥機、赤外線乾燥機等が挙げられる。また、加熱後の吸水性樹脂は必要に応じて冷却してもよい。
【0097】
なお、これらの表面架橋方法は、欧州特許0349240号、同0605150号、同0450923号、同0812873号、同0450924号、同0668080号などの各種欧州特許や、日本国特開平7−242709号、同7−224304号などの各種日本特許、米国特許5409771号、同5597873号、同5385983号、同5610220号、同5633316号、同5674633号、同5462972号などの各種米国特許、国際公開特許WO99/42494号、WO99/43720号、WO99/42496号などの各種国際公開特許にも記載されており、これらの表面架橋方法も本発明に適用できる。
【0098】
(11)吸水性樹脂の物性および形状
本発明の方法で得られる吸水性樹脂の形状については、特に制限がなく、不定形破砕状や球状等の粒子状ないし粉末、ゲル状、シート状、棒状、繊維状、フィルム状であってもよく、また、繊維基材などに複合化や担持させてもよいが、通常、その用途である吸収物品や園芸緑化を考慮した場合、粒子状ないし粉末状が好ましい。吸水性樹脂が粉末の場合、造粒された造流粒子でもよいし、1次粒子でもよい。また、表面架橋前または表面架橋後の質量平均粒子径としては通常10〜2000μm、物性面から、好ましくは100〜1000μm、より好ましくは200〜600μm、特に好ましくは300〜500μmの範囲であり、粒子径850〜150μmの割合が90〜100質量%、95〜100質量%、特に98〜100質量%である。
【0099】
本発明の吸水性樹脂は吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善されているため、表面架橋によってさらに高物性となる。
【0100】
すなわち、本発明にかかる吸水性樹脂は生理食塩水に対する加圧下吸収倍率(4.8kPa)が好ましくは15g/g以上、より好ましくは20g/g以上、次に好ましくは23g/g以上、さらに好ましくは25g/g以上である。また、生理食塩水に対する加圧下吸収倍率(1.9Pa)も通常15g/g以上好ましくは20g/g以上、次に好ましくは25g/g以上、さらに好ましくは28g/g以上、特に好ましくは32g/g以上である。無荷重下での吸収倍率(GVs)も25g/g以上、さらには好ましくは28g/g以上、特に好ましくは32g/g以上である。これら荷重下または無荷重下吸収倍率の上限は特にないが、他の物性とのバランスおよびコスト面から通常60g/g程度である。
【0101】
さらに、加圧下通液性効率(PPUP)は、好ましくは20〜100%、より好ましくは30〜100%、さらに好ましくは40〜100%、最も好ましくは50〜100%となる。
【0102】
なお、加圧下通液効率とは、加圧下吸収倍率(AAP:0.9g)とは異なり、吸水性樹脂量(測定の単位面積あたりの樹脂量)を0.90gから5.0gに増加させた際の加圧下吸収倍率(AAP)の安定性(低下のなさ)指標である。本発明の思想で新たに規定される新規パラメーターである。例えば、おむつ中では吸水性樹脂量(測定の単位面積あたりの樹脂量)が部分的に異なっており、その樹脂量の変化による加圧下吸収倍率(AAP)変化が、実使用時のおむつ物性低下原因であり、後述の実施例記載方法で規定される(PPUP)が非常に高い場合、いかなるおむつ中の吸水性樹脂量(濃度)でも安定的に高物性を発揮し、さらに通液性も高いことを示すものである。加圧下通液効率(PPUP)については日本国特願2005−109779号(2005年4月6日出願)に詳細に記載され、かかる記載も本願に準用される。
【0103】
また、本発明の製造方法で得られる吸水性樹脂の水可溶分量は好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。さらに、吸収倍率(GVs)と可溶分の関係で規定されるGEX値(実施例で規定)は17以上、さらには18以上、特に19以上である。
【0104】
また、後述の実施例や前述の本発明の課題に示すように、本発明の吸水性樹脂は低着色(黄ばみもなく)、且つ残存モノマーも少ない。具体的には、着色状態がYI値(Yellow Index/欧州特許942014号および同1108745号参照)で好ましくは0〜15、より好ましくは0〜13、さらに好ましくは0〜10、最も好ましくは0〜5を示し、殆ど黄ばみもない。さらに、残存モノマーも少なく、好ましくは0〜400ppm以下、より好ましくは0〜300ppm以下を示す。
【0105】
本発明の吸水性樹脂には、種々の機能を付与させるため、キレート剤、酸化剤、亜硫酸(水素)塩などの還元剤、アミノカルボン酸などのキレート剤、水不溶性無機ないし有機粉末、消臭剤、抗菌剤、高分子ポリアミンなどを0〜10質量%、好ましくは0〜1質量%添加してもよい。
【0106】
(12)キレート剤の添加
本発明では重合促進、着色防止や劣化防止などのため、好ましくはキレート剤、特に多価カルボン酸およびその塩を重合前の単量体、または重合後の含水ゲル状架橋重合体の中和前もしくは中和後に、0ppmを超えて、好ましくは10ppm〜1%で配合することが出来る。かかる添加は好ましくは水溶液(吸水性樹脂に水0.1〜10%)で行なわれる。
【0107】
本発明の粒子状吸水剤に用いることが出来るキレート剤としては、好ましくは、FeやCuに対するイオン封鎖能やキレート能が高いキレート剤、具体的にはFeイオンに対する安定度定数が10以上、好ましくは20以上のキレート剤が好ましく、さらに好ましくは、アミノ多価カルボン酸およびその塩、特に好ましくは、カルボキシル基を3個以上有するアミノ多価カルボン酸およびその塩である。
【0108】
これらアミノ多価カルボン酸は具体的には、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸、シクロヘキサン−1,2−ジアミンテトラ酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸、エチレンジアミンテトラプロピオン酢酸、N−アルキル−N‘−カルボキシメチルアスパラギン酸、N−アルケニル−N’−カルボキシメチルアスパラギン酸、およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩もしくはアミン塩が挙げられる。中でも、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸およびその塩が最も好ましい。
【0109】
(13)用途
本発明の方法によれば、無加圧下の吸収倍率(GVs)、加圧下の吸収倍率(AAP)、可溶分のバランスに優れた良好な吸収特性を備えた吸水性樹脂を簡便に製造することができ、農園芸保水剤、工業用保水剤、吸湿剤、除湿剤、建材、などで広く用いられるが、本願の吸水性樹脂は、紙おむつ、失禁パット、母乳パット、生理用ナプキンなどの衛生材料に特に好適に用いられる。
さらに、本発明の吸水性樹脂は物性のバランスがよいため、吸水性樹脂の濃度(吸水性樹脂および繊維基材の合計に対する吸水性樹脂の質量比)が高濃度の衛生材料(例えば、紙おむつ)に好適に使用でき、具体的には吸水性樹脂が好ましくは30〜100質量%、より好ましくは40〜100質量%、さらに好ましくは50〜95質量%で使用可能である。
【実施例】
【0110】
以下、実施例に従って発明を説明するが、本発明は実施例に限定され解釈させるものではない。また、本発明の特許請求の範囲や実施例に記載の諸物性は、以下の測定法に従って求めた。
(1)無加圧下での吸収倍率(GVs/Gel Volume Saline)
吸水性樹脂0.2gを不織布製袋(60×60mm)に均一に入れシールをして、25(±3)℃の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液100gに浸漬した。60分後に袋を引き上げ、遠心分離機を用いて250Gで3分間水切りを行った後、前記不織布製袋の質量W1を測定した。同様の操作について吸水性樹脂を用いないで行い、そのときの質量W2を求め、式1により吸収倍率を算出した。
【0111】
式1:GVs=(W1−W2)/0.2−1
(2)水可溶性重合体量(可溶分量、可溶分とも略すことがある)
250ml容量の蓋付きプラスチック容器に、0.90重量%塩化ナトリウム水溶液の184.3gを測り取り、その水溶液中に吸水性樹脂1.00gを加え16時間攪拌することにより樹脂中の可溶分を抽出した。この抽出液を濾紙1枚(ADVANTEC東洋株式会社、品名:(JIS P 3801、No.2)、厚さ0.26mm、保留粒子径5μm)を用いて濾過することにより得られた濾液の50.0gを、測り取り測定溶液とした。
【0112】
はじめに生理食塩水だけを、まず、0.1NのNaOH水溶液でpH10まで滴定を行い、その後、0.1NのHCl水溶液でpH2.7まで滴定して空滴定量([bNaOH]ml、[bHCl]ml)を得た。同様の滴定操作を測定溶液についても行うことにより滴定量([NaOH]ml、[HCl]ml)を求めた。例えば既知量のアクリル酸とそのナトリウム塩とからなる吸水性樹脂の場合、そのモノマーの平均分子量と上記操作により得られた滴定量とをもとに、吸水性樹脂中の可溶分量(抽出された水溶性重合体が主成分)を下式2により算出することができる。未知量の場合は滴定により、下式3に基づき求めた中和率を用いてモノマーの平均分子量を算出する。
式2:可溶分(重量%)=0.1×(平均分子量)×184.3×100×([HCl]−[bHCl])/1000/1.0/50.0
式3:中和率(mol%)=(1−([NaOH]−[bNaOH])/([HCl]−[bHCl]))×100
(3)GEX値
通常、吸収倍率(GVs)が高いほど水可溶分量が増加する傾向にあり、吸水性樹脂では相反するGVs値と水可溶分量(x)との関係が重要である。xが1重量%を超える場合において、その関係の指標として下記GEX値を評価した。下記のGEX値が大きいほど高性能である。
【0113】
前記GVs値y(g/g)および前記可溶分量をx(重量%)で表す時、GEX値を次式4で定義した。
式4:GEX値=(y)/ln(x)
なお、GEX値を算出するために必要なGVs値y(g/g)、可溶分量(質量%)については、前記(1)および(2)で測定した値を用いる。
【0114】
(4)残存モノマー
乾燥後の吸水性樹脂粉末の残存モノマー(残存アクリル酸および塩)は、上記(2)において、別途、調製した2時間攪拌後の濾液を液体クロマトクラフィーでUV分析することで、吸水性樹脂の残存モノマー量ppm(対吸水性樹脂)も分析した。また、乾燥前の含水ゲル重合体の残存モノマーは、樹脂固形分約500mg分を含む細分化された含水ゲル重合体を16時間攪拌して、その濾液を同様に液体クロマトクラフィーでUV分析し、固形分補正することで求めた。
【0115】
(5)加圧下吸収倍率(AAP)
(b)0.90質量%塩化ナトリウム水溶液に対する4.8kPaの圧力下での加圧下吸収倍率(AAP:0.90g/Absorbency Against Pressure)
400メッシュのステンレス製金網(目の大きさ38μm)を円筒断面の一辺(底)に溶着させた内径60mmのプラスチック製支持円筒の底の金網上に、吸水性樹脂(または粒子状吸水剤)0.900gを均一に散布し、その上に外径が60mmよりわずかに小さく支持円筒との壁面に隙間が生じず、かつ上下の動きは妨げられないピストン(cover plate)を載置し、支持円筒と吸水性樹脂(または粒子状吸水剤)とピストンの質量W3(g)を測定した。このピストン上に、吸水性樹脂(または粒子状吸水剤)に対して、ピストンを含め4.9kPaの荷重を均一に加えることができるように調整された荷重を載置し、測定装置一式を完成させた。直径150mmのペトリ皿の内側に直径90mm、厚さ5mmのガラスフィルターを置き、25±2℃に調温した生理食塩水をガラスフィルターの上部面と同レベルになるように加えた。その上に直径9cmの濾紙(トーヨー濾紙(株)製、No.2)を1枚載せて表面が全て濡れるようにし、かつ過剰の液を除いた。
【0116】
上記測定装置一式を上記湿った濾紙上にのせ、液を荷重下で吸収させた。液面がガラスフィルターの上部から低下したら、液を追加し、液面レベルを一定に保った。1時間後に測定装置一式を持ち上げ、荷重を取り除いた質量W4(g)(支持円筒と膨潤した吸水性樹脂(または粒子状吸水剤)とピストンの質量)を再測定した。そして、これら質量W3、W4から、次式に従って加圧下吸収倍率(g/g)を算出した。
【0117】
加圧下吸収倍率(AAP:0.90g)(g/g)=(質量W4(g)−質量W3(g))/吸水性樹脂(または粒子状吸水剤)の質量(g)
(c)加圧下通液効率(PPUP/Permeability Potential Under Pressure)
上記(b)4.9kPaでの加圧下吸収倍率(AAP:0.90g)の測定において、吸水性樹脂の量を0.900gから5.000gに変えた以外は同様の操作をして、加圧下吸収倍率(AAP:5.0g)の値をもとめた。この時、加圧下吸収倍率(AAP:5.0g)が高いものは、膨潤した吸水性樹脂(または粒子状吸水剤)の層の高さが非常に高くなる可能性があるので、使用する支持円筒の高さは十分余裕を持たせておく必要がある。以上の操作で求められた加圧下吸収倍率(AAP:0.90g)、(AAP:5.0g)を用いて、下式により加圧下通液効率(PPUP)が求められる。
【0118】
加圧下通液効率(PPUP)(%)=(AAP:5.0g(g/g)/AAP:0.90g(g/g))×100
なお、上記荷重4.9kPa(吸水性樹脂0.90g)ではAAP4.9kPaとも呼ぶが、荷重を1.9kPaに変更する場合、AAP1.9kPaと呼ぶ。
【0119】
(7)ピーク時間および誘導時間
重合中の単量体ないし重合ゲルの温度を温度計で測定し、開始剤添加から温度の上昇までの時間(分)を誘導時間、さらに、重合系の最高温度(ピーク温度)までの時間をピーク時間とした。
【0120】
(8)質量平均粒子径(D50)
吸水性樹脂粉末ないし吸水剤を850μm、710μm、600μm、500μm、425μm、300μm、212μm、150μm、106μm、75μmなどのJIS標準篩(JIS Z8801−1(2000)ないしその相当品)で篩い分けし、残留百分率を対数確率紙にプロットした。これにより、重量平均粒子径(D50)を読み取った。
【0121】
篩い分けは吸水性樹脂粉末ないし吸水剤10gを室温(20〜25℃)、相対湿度50±5%RHの条件下で上記JIS標準ふるい(The IIDA TESTING SIEVE:内径80mm)に仕込み、ロータップ型ふるい振盪機(株式会社飯田製作所製ES−65型ふるい振盪機)により10分間分級した。なお、重量平均粒子径(D50)とは、米国特許5051259号公報などにあるように一定目開きの標準ふるいで粒子全体の50重量%の粒子が通過することができる標準ふるいの一定目開きの大きさのことである。
【0122】
(9)吸水性樹脂の着色評価(YI値)
欧州特許942014号および同1108745号に準じた。すなわち、吸水性樹脂粉末の着色評価は、日本電色工業株式会社製の分光式色差計SZ−Σ80COLOR MEASURING SYSTEMを用いた。設定条件(反射測定/付属の粉末:ペースト試料台(内径30mm/標準として粉末:ペースト用標準丸白板No.2/30Φ投光パイプ)で、吸水性樹脂を備え付けの試料台に約6gの吸水性樹脂を充填し(備え付け試料台の約6割程度の充填)、室温(20〜25℃)、湿度50RH%の条件下で上記分光式色差計にて表面色(YI値(Yellow Index))を測定した。
【0123】
また、同じ装置の同じ測定法によって、同時に他の尺度の物体色(L,a,b)ないしWB(ハンターカラー)も測定できる。L/WBは大きいほど、a/bは小さいほど、低着色で実質白色に近づくことを示す。
【0124】
(10)臭気評価
サンプルは、吸水性樹脂粒子2gを内径55mm高さ70mmのポリプロピレン製カップに散布し、イオン交換水50g投入してゲル化させた。ゲル化後、密栓して30℃で1時間加熱後、成人被験者10人による臭気評価を行った。なお、重合ゲルについては、イオン交換水を投入せずに、そのままゲルを該ポリプロピレン製カップに投入して評価した。
【0125】
成人被験者10人による評価方法は、不快な臭気がない(0点)から不快な臭気がある(5点)まで、被験者の不快度合いに応じて点数を報告してもらい、平均を臭気ポイントとした。この臭気ポイントは、低い値を示す場合は不快臭が少ないことを示す。
【0126】
(11)紫外線光量測定
紫外線積算光量計UIT−150(ウシオ電機株式会社製)に、受光機UVD−S365(ウシオ電機株式会社製)を取り付け、吸水性樹脂の重合時と同様の照射位置、照射時間における紫外線光量を測定した。
【0127】
(12)p−メトキシフェノールの定量
液体クロマトグラフィーを用いてUV分析した。
【0128】
(13)プロトアネモニン量、フルフラール量
ガスクロマトグラフ((株)島津製作所社製、GC−7A型)とデータ処理装置((株)島津製作所社製、C−R6A型)を使用し、以下の条件にて、標準試料を用いて定量分析した。
【0129】
検出器:FID、水素量:30mL/min、空気量:0.5L/min、カラム:内径3mm、長さ3.1mの硬質ガラス管、充填剤:Chromosorb Wカラム、恒温槽温度:100℃、試料導入部温度:150℃、キャリヤーガス流量:窒素40mL/min
〔製造例1〕アクリル酸組成物の調製
気相接触酸化で得られた市販のアクリル酸(和光純薬、試薬特級)を、無堰多孔板50段を有する高沸点不純物分離塔の塔底に供給して、還流比を1として蒸留し、さらに再蒸留することで、アクリル酸99%以上および微量の不純物(主に水)からなるアクリル酸組成物(A)(別称;精製アクリル酸)を得た。
【0130】
アクリル酸組成物(A)中のp−メトキシフェノール量はND(1質量ppm未満)およびプロトアネモニン(protoanemonin)量、フルフラール量もND(1質量ppm未満)であった。また、アクリル酸組成物(A)中でフェノチアジンが0ppm、アルデヒド分、マレイン酸は1ppm以下、酢酸、プロピオン酸は各々200ppmであった。
【0131】
上記アクリル酸組成物(A)にp−メトキシフェノールを80質量ppm、プロトアネモニンを5質量ppm、フルフラ−ルを2質量ppm添加(それぞれ対アクリル酸固形分)することで、アクリル酸組成物(A1)を得た。同様に、アクリル酸組成物(A)にp−メトキシフェノールを80質量ppm、プロトアネモニンを14質量ppm、フルフラ−ルを2質量ppm添加することでアクリル酸組成物(A2)を得た。
【0132】
〔製造例2〕水酸化ナトリウム水溶液の調製
市販の48%水酸化ナトリウム水溶液(鐘淵化学工業株式会社)をJISK1200−6に記載の、ICP発光分析方法でFe量を測定したところ、0.5ppmであった。この値から鉄含有量を計算で求め、0.35ppmとした。(0.5×55.85×2÷158.7=0.35)水酸化ナトリウム固形分に対しては、0.35×100÷48=0.72ppmとした。この水酸化ナトリウム水溶液を(S1)とする。この水酸化ナトリウム水溶液(S1)に、それぞれ5ppm,8ppm,11ppm(対水酸化ナトリウム固形分)の鉄含有量となるようにFeを添加し、水酸化ナトリウム水溶液(S2)、(S3)、(S4)を得た。
【0133】
〔製造例3〕アクリル酸ナトリウム水溶液の調製
2本の滴下漏斗、pHメーター、温度計および攪拌羽根を備えた5Lの5つ口フラスコに、イオン交換水1598gを仕込んだ。また、別途、製造例1で得られた室温のアクリル酸組成物(A1)1280gおよび製造例2記載の48質量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)1488gをそれぞれ2本の滴下漏斗に入れ、また、5Lフラスコは水冷バスに漬けた。
【0134】
次いで、5Lフラスコ内の中和反応系を35℃以下に保ち且つ攪拌しながら、48質量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)およびアクリル酸組成物(A1)をフラスコ内に同時に滴下した。アクリル酸組成物(A1)の滴下は約35分で終了し、48質量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)の滴下は約45分で終了した。アクリル酸組成物(A1)の滴下終了後、100gのイオン交換水で滴下漏斗を洗浄して、洗浄水はすべてフラスコに入れた。さらに、48質量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)の滴下終了後、同様に100gのイオン交換水で滴下漏斗を洗浄して、洗浄水はすべてフラスコに入れた。
【0135】
すべての滴下終了後、液温を20〜35℃に調整し、20分間の熟成を行い、熟成後、アクリル酸組成物(A1)をごく少量滴下して、pHを10(±0.1)に調整することで、濃度37質量%で中和率100モル%のアクリル酸ナトリウム水溶液(SA1)を得た。
【0136】
〔製造例4〜7〕
製造例3において、アクリル酸組成物(A1)、48質量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)の組み合わせに替えて、アクリル酸組成物(A1)と48質量%水酸化ナトリウム水溶液(S2)、(A1)と(S3)、(A1)と(S4)、(A2)と(S1)、の組み合わせで同様に中和することで、それぞれ濃度37質量%で中和率100モル%のアクリル酸ナトリウム水溶液、(SA2)、(SA3)、(SA4)、(SA5)、を得た。
【0137】
〔吸水性樹脂の製造〕
(実施例1)
2本のシグマ型ブレ−ドを備えたニーダーに、製造例1で得られたアクリル酸組成物(A1)、製造例3で得られたアクリル酸ナトリウム水溶液(SA1)、イオン交換水からなるモノマー濃度38質量%、中和率75mol%のアクリル酸塩系単量体水溶液を調製し、内部架橋剤としてのポリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト(n=9)を該モノマ−に対して0.05mol%となるように溶解せしめた。
【0138】
次いで、該水溶液に窒素ガスを吹き込むことで、該単量体水溶液の酸素濃度を1ppm未満に低減するとともに、反応容器内全体を窒素置換した。次いで、2本のシグマ型ブレ−ドを回転させながら、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.05mol%およびL−アスコルビン酸0.0006mol%となるように添加して、該ニーダー内で攪拌重合を行い、平均粒径:約2mmの含水ゲル状架橋重合体(1)を得た。得られた含水ゲル状重合物(1)は重合後即座に170℃に設定した熱風乾燥機中で45分間乾燥した。乾燥物はロ−ルミル粉砕機で粉砕し、JIS標準篩850μmの通過物を分級して、質量平均粒子径390μm、150μm以下が3%の吸水性樹脂粉末(P1)を得た。
【0139】
(実施例2)
実施例1において、アクリル酸ナトリウム水溶液のSA1に替えて、SA2を用いるほかは同じ方法で吸水性樹脂粉末(P2)を得た。
【0140】
(実施例3)
アクリル酸組成物(A1)229g、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)0.75g、45重量%ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム水溶液0.014g、およびイルガキュア184(チバ・スペシャルティケミカルズ製)0.028gを混合した溶液(I)、48重量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)187.6gとイオン交換水200gとを混合して作成した水酸化ナトリウム水溶液(II)をそれぞれ調製した。攪拌しながら(I)に(II)を混合することで、中和熱と溶解熱で液温が約98℃まで上昇した単量体溶液が得られた。さらにこの単量体溶液に10重量%過硫酸ナトリウム水溶液3.86gを加え数秒間攪拌したあと直ぐに、130℃のホットプレート上に置かれ内面にテフロン(登録商標)テープを貼り付けた底面250×250mmのアルミ製容器に、開放系で注入した。水蒸気が発生して上下左右に膨張発泡しながら重合が進行し、3分間放置した後、薄いシート状の含水重合体を得た。なお、注入後1.5分後から、3分までの間、UVランプ(TOSCURE401:東芝製)を用いて照射強度1.15mW/cmで紫外線を照射した。重合体は、はさみで細断した後、180℃に調温した熱風乾燥機で40分間乾燥した。乾燥物はロ−ルミル粉砕機で粉砕し、JIS標準篩目開き850μm通過物を分級して、質量平均粒子径390μm、150μm以下が3%の吸水性樹脂粉末(P3)を得た。
【0141】
(実施例4)
重合容器として容積1Lの蓋のついたポリプロポリレン製円筒容器を用意した。製造例1で得られたアクリル酸組成物(A1)72.07gおよびイオン交換水293.06g、および内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数n=8.2)0.05モル%(対全単量体)を混合することで、p−メトキシフェノール20質量ppm含有する濃度20質量%で中和率0モル%の単量体水溶液(4)を得た。さらに、単量体水溶液(1)を20℃に保ち、上記円筒容器に仕込み、窒素ガスを吹き込んで系を溶存酸素1ppm以下に窒素置換した。次に、円筒容器を断熱状態に保温して、単量体水溶液(4)に重合開始剤として過硫酸ナトリウム(0.12g/全単量体mol(以下g/molと略す))およびL−アスコルビン酸(0.0018g/mol)を水溶液で添加して、静置重合を開始させた。所定時間で重合が開始し、さらに重合を進行させ、ピーク温度を迎えてからさらに30分間重合を行うことで、円筒状の含水ゲル状架橋重合体(4)を得た。得られた含水ゲル状架橋重合体(4)を約1mmに細分化したのち、48重量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)62.5gを添加して、重合体の酸基の75モル%を中和した。
【0142】
上記して得られた中和された含水ゲル状架橋重合体(4)の重合率は98.4%(残存モノマー16000質量ppm)であった。次いで、該含水ゲルを850μm金網上に広げ、160℃で露点60℃の気体で60分間熱風乾燥した後、振動ミルを用いて粉砕し、さらにJIS850μm標準篩の通過物を分級することにより、質量平均粒子径380μm、150μm以下が2%の吸水性樹脂粉末(P4)を得た。
【0143】
(実施例5)
吸水性樹脂粉末(P4)100質量部に1,4−ブタンジオール0.4質量部、プロピレングリコール0.6質量部、イオン交換水3.0質量部、イソプロパノール0.5質量部、ジエチレントリアミンペンタ五酢酸塩0.01質量部からなる表面架橋剤を噴霧混合し、さらに、210℃で40分間加熱処理することで、表面架橋された吸水性樹脂粉末(P5)を得た。吸水性樹脂粉末(P5)の物性は、AAP1.9kPa=28g/g、AAP4.9kPa=25g/gおよびPPUP=50%であった。
【0144】
(実施例6)
実施例5において吸水性樹脂粉末(P4)の代わりに吸水性樹脂(P1)を用いる以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂粉末(P10)を得た。吸水性樹脂粉末(P10)の物性はAAP1.9kPa=30g/g、AAP4.9kPa=28g/gおよびPPUP=60%であった。
【0145】
(実施例7)
実施例5において吸水性樹脂粉末(P4)の代わりに吸水性樹脂粉末(P2)を用いる以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂粉末(P11)を得た。吸水性樹脂粉末(P11)の物性はAAP1.9kPa=29g/g、AAP4.9kPa=24g/gおよびPPUP=58%であった。
【0146】
(比較例1)
実施例1において、アクリル酸ナトリウム水溶液のSA1に替えて、SA3を用いるほかは同じ方法で吸水性樹脂粉末(P6)を得た。
【0147】
(比較例2)
実施例1において、アクリル酸ナトリウム水溶液のSA1に替えて、SA4を用いるほかは同じ方法で吸水性樹脂粉末(P7)を得た。
【0148】
(比較例3)
実施例1において、アクリル酸組成物(A1)に替えて(A2)、アクリル酸ナトリウム水溶液(SA1)に替えてアクリル酸ナトリウム水溶液(SA2)を用いるほかは同じ方法で吸水性樹脂粉末(P8)を得た。
【0149】
(比較例4)
実施例3で、48重量%水酸化ナトリウム水溶液(S1)に替えて、(S4)を用いるほかは同じ方法で吸水性樹脂粉末(P9)を得た。
【0150】
(比較例5)
実施例5において吸水性樹脂粉末(P4)の代わりに吸水性樹脂粉末(P9)を用いる以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂粉末(P12)を得た。吸水性樹脂粉末(P12)の物性はAAP1.9kPa=15g/g、AAP4.9kPa=12g/gおよびPPUP=11%であった。
【0151】
(吸水性樹脂の分析結果)表1
実施例1〜4および比較例1〜4で得られた吸水性樹脂の重合時間、水可溶分、色相を表1に示す。
【0152】
特許文献3では単量体水溶液中で0.1ppmを超える重金属は吸水性樹脂の残存モノマーを増加させることが知られていたが、同じ重合方法の実施例1、2および比較例1〜4の対比より明らかであるが、「特定の微量成分を含むアクリル酸」および「特定量(0.2〜5ppm)の鉄(Fe)と塩基性化合物(苛性ソーダ)とを含有する塩基性組成物」を用いて単量体を調製する本発明の方法では、重合時間が短縮され、水可溶分も減少し、GEX値は向上し、臭気もなく、着色も低減する。なお、表1には記載しないが、比較例1、2で得られた吸水性樹脂とは異なり、実施例1、2で得られた吸水性樹脂では、37℃で25倍に膨潤させ、16時間放置後においても、ゲル劣化(尿劣化)は見られない。
【0153】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0154】
吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、重合反応の制御が容易で、臭気もなく、かつ着色の少なく高吸収性である吸水性樹脂を生産性高く製造する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸および/またはその塩を含有するアクリル酸組成物を重合してなる吸水性樹脂の製造方法において、
上記アクリル酸組成物を、塩基性組成物で中和した後、重合し、含水ゲル状架橋重合体を形成させる工程(a)を含み、
上記アクリル酸組成物は、アクリル酸に対して、10〜200質量ppmのメトキシフェノ−ル類と、0〜10質量ppmの、プロトアネモニンおよびフルフラ−ルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含み、
上記塩基性組成物は、塩基性化合物と鉄とを含み、
上記塩基性組成物における鉄の含有量は、Fe換算で、0.2〜5.0質量ppmであることを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
【請求項2】
アクリル酸および/またはその塩を含有するアクリル酸組成物を重合してなる吸水性樹脂の製造方法において、
上記アクリル酸組成物を重合し、含水ゲル状架橋重合体を形成させた後、当該含水ゲル状架橋重合体を塩基性組成物で中和する工程(a’)を含み、
上記アクリル酸組成物は、アクリル酸に対して、10〜200質量ppmのメトキシフェノ−ル類と、0〜10質量ppmの、プロトアネモニンおよびフルフラ−ルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含み、
上記塩基性組成物は、塩基性化合物と鉄とを含み、
上記塩基性組成物における鉄の含有量は、Fe換算で、0.2〜5.0質量ppmであることを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の工程(a)または請求項2に記載の工程(a’)を1工程として含み、
当該工程(a)または工程(a’)の後、上記含水ゲル状架橋重合体を加熱乾燥する工程(b)と、次いで、加熱して表面架橋処理する工程(c)とをさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項4】
上記塩基性化合物が、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ金属の炭酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項5】
上記塩基性化合物が、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項6】
上記アクリル酸組成物は、溶解度パラメーターが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物を1〜1000質量ppm含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
上記アクリル酸組成物、または、上記含水ゲル状架橋重合体にキレート剤を添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項8】
上記鉄がFeである請求項1〜7のいずれか1項に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項9】
上記アクリル酸組成物は、アクリル酸に対して、0〜0.1質量ppmのフェノチアジンと、
0〜5質量ppmの、フルフラール以外のアルデヒド分およびマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物と、
10〜800質量ppmの、酢酸およびプロピオン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの飽和カルボン酸と、を含有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の吸水性樹脂の製造方法。

【公表番号】特表2008−537553(P2008−537553A)
【公表日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529400(P2006−529400)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/JP2006/307792
【国際公開番号】WO2006/109842
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】