説明

ポリアクリロニトリル系透明シートおよびその製造方法

【課題】ポリアクリロニトリル系繊維からなるシート状物としては紙や不織布などが挙げられる。これらは、ポリアクリロニトリル系繊維の特徴である優れた耐酸性、耐薬品性を持ち、強度にも優れているが、不透明で密度の低いものである。本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、ポリアクリロニトリル系繊維及びフィブリル化アクリル系繊維からなる透明感の優れた高密度のシート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなり、透明度が60%以上、密度が0.9g/cm以上であることを特徴とするポリアクリロニトリル系透明シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなるポリアクリロニトリル系透明シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリロニトリル系繊維は低ヤング率で肌触りがやさしくソフト感があり、鮮やかに染色可能で耐候性も良好で、かつ親水性と親油性を兼備するという他ポリマーでは例のない特徴的性質を有しており、3大合繊の1つとして衣料分野などには大量に使用されている。さらに最近はポリアクリロニトリル系繊維からなる紙、不織布等のシート状物も知られている。例えば、特許文献1では、熱接着性を有するアクリル系繊維からなる熱接着性バインダー繊維を用いたシート状製品が開示されている。また、特許文献2には、少なくとも97重量%のアクリロニトリル(AN)よりなりろ水度が450ml以下であるフィブリル化アクリル繊維と、ポリアクリロニトリル繊維を複合してなるシート状材料が開示されている。これらのシートはポリアクリロニトリル系繊維の有する優れた耐酸性、耐薬品性を持ち、強度にも優れているが、通常の抄紙方法で作成された所謂紙であり、当然に不透明で密度の低いものであった。
【特許文献1】特開2002−69744号公報
【特許文献2】特開2001−20195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなる透明感に優れた高密度のシートは得られていない。本発明の目的は、かかる問題点を克服したシート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上述の目的を達成すべく鋭意検討を進めた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の手段によって達成される。
(1)ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなり、透明度が60%以上、密度が0.9g/cm以上であることを特徴とするポリアクリロニトリル系透明シート。
(2)シートの少なくとも一方の表面がフイルム状であり、かかるフイルム状の層と繊維状の層からなることを特徴とする(1)に記載のポリアクリロニトリル系透明シート。
(3)ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなる紙をカレンダーロールで熱圧処理することを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアクリロニトリル系透明シートの製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリアクリロニトリル系透明シートは、ポリアクリロニトリル系重合体が本来有している耐熱性、耐薬品性、ガスバリア性などの性能をそのまま維持しており、また高密度であり、透明性も高く、加えて、それらのコントロールも容易であることから、紙あるいはフイルムとしてさまざまな用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳述する。本発明のポリアクリロニトリル系透明シートは、ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなり、透明度が60%以上、好ましくは70%以上、密度が0.9g/cm以上、好ましくは0.95g/cm以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明のポリアクリロニトリル系繊維に使用するポリアクリロニトリル系重合体は、少なくとも60重量%以上、好ましくは75重量%、更に好ましくは85重量%以上のアクリロニトリルを含んだ共重合体あるいはアクリロニトリル単独重合体である。共重合成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸およびこれらの水溶性塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩)、アリルアルコール、メタアリルアルコール、オキシプロピオンアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α−メチレングルタロニトリル、イソプロペニルアセテート、アクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、アクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、酢酸ビニル、アリルクロライド、メタアリルスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸カリウム等の周知のエチレン系不飽和化合物を挙げる事が出来る。
【0008】
かかるポリアクリロニトリル系重合体からなる本発明のポリアクリロニトリル系繊維は、通常のアクリル繊維用溶剤に溶解して紡糸原液となし、湿式紡糸後、水洗、延伸、緻密化乾燥工程を経た最終製品であっても、緻密化乾燥工程を施さない含水ゲル糸であってもよい。なお、繊度としては、0.1〜20dtex、好ましくは0.2〜11dtexである。
【0009】
本発明に採用するフィブリル化アクリル系繊維は、上述したポリアクリロニトリル系繊維を、ビーターやレファイナーで叩解することによって得ることができるが、ポリアクリロニトリル系重合体としてはアクリロニトリルの含有率が高いほうが好ましく、97重量%以上、最も好ましくは単独重合体である。また、叩解のし易さあるいはシート強度を高めるため含水ゲル糸を叩解したものであることが好ましい。
【0010】
次に本発明の透明シートの製造方法について詳述する。まず、1〜30mm程度の目的に応じた長さに切ったポリアクリロニトリル系繊維とフィブリル化アクリル系繊維とを水中に分散させ、通常の湿式抄造を行うか、捲縮加工を施したポリアクリロニトリル系繊維でウエブを作り、フィブリル化アクリル繊維を振り撒いた後でウォーターパンチ等を施す等、公知の技術で紙あるいは不織布等を作製する。かかる、紙あるいは不織布等を乾燥後、カレンダーロールで熱圧処理することによって本発明の透明シートを得ることができる。
【0011】
かかる製造方法は、ポリアクリロニトリル系繊維とフィブリル化アクリル系繊維とを併用するものであるが、本発明の透明シートは、ポリアクリロニトリル系繊維単独でも、フィブリル化アクリル系繊維単独でも製造することができる。上述のごとく併用する場合においても、その配合割合は特に限定するものではないが、製造のし易さ、あるいは寸法安定性等の観点から、フィブリル化アクリル系繊維を5〜80重量%含有させることが好ましい。
【0012】
なお、ポリアクリロニトリル系繊維単独で製造する場合は、細繊度の含水ゲル糸をウォーターパンチ等で交絡させ、乾燥後カレンダーロールで熱圧処理することによって本発明の透明シートを得ることができる。また、フィブリル化アクリル系繊維単独で製造する場合は、収縮による破断等に注意する必要があるが、通常の湿式抄造を行い、乾燥後カレンダーロールで熱圧処理することによって本発明の透明シートを得ることができる。
【0013】
ここで、カレンダーロールでの熱圧条件については、ポリアクリロニトリル系重合体のアクリロニトリル比率、使用する繊維の含水率にもよるが、一般に130℃〜280℃、好ましくは150℃〜260℃の範囲内で、線圧100kg/cm、好ましくは150kg/cm以上で、必要とされる透明度あるいは密度等を考慮して適宜設定される
【0014】
なお、本発明の透明シートには、該シートの密度、透明度等を阻害しない限り、他の無機繊維、有機合成繊維、無機粉体等を目的に応じて配合したり、必要に応じて更に耐電解液性を上げるためシートの表面に樹脂エマルジョン等を塗布もしくはスプレーしたりすることもできる。
【0015】
かくして得られる本発明のポリアクリロニトリル系透明シートは、透明度60%以上で、密度が0.9g/cm以上のものであるが、さらに、シートの少なくとも一方の表面がフイルム状であり、かかるフイルム状の層と繊維状の層からなるものであることが好ましい。かかる構造のシートは、アクリロニトリル系高分子のアクリロニトリル比率、使用する繊維の含水率、紙の坪量あるいは不織布の目付等を考慮して、熱圧条件を設定することにより得ることができる。例えば、アクリロニトリル比率が90重量%であり、内部水分率が30重量%〜400重量%の含水ゲル糸とアクリロニトリル単独重合体のフィブリル化アクリル系繊維を用い、紙の坪量が10〜50g/mのケースであれば、概ね150℃以上、線圧200kg/cm以上とすることにより得ることができる。
【実施例】
【0016】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、これらはあくまでも例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。以下に実施例中の測定方法、評価方法を示す。
【0017】
[含水ゲル糸の内部水分率]
十分に水を含ませた含水ゲル糸を加速度1000Gで2分間脱水した後の重量Aと、該繊維をさらに絶乾した後の重量Bとから以下の式を用いて算出されるものである。
内部水分率(重量%)=[(A−B)/B]×100
【0018】
[透明度]
日本分光(株)製分光光度計V−570を用い、波長380〜780nmのシートの全光線透過率を測定し、透明度とした。
【0019】
[ポリアクリロニトリル系繊維の製造例]
アクリロニトリル90部とアクリル酸メチル10部からなる単量体混合物を水系懸濁重合し、得られた重合体をロダン酸ナトリウムの濃厚水溶液を溶剤として、湿式紡糸した。
続いて水洗、延伸を施しポリアクリロニトリル系繊維(繊維A及び繊維B)を得た。得られた繊維A、Bの内部水分率はそれぞれ40%、38%であり、繊度は0.7dtex、0.4dtexであった。
【0020】
[フィブリル化アクリル系繊維の製造例]
アクリロニトリル単独重合体ロダン酸ナトリウムの濃厚水溶液を溶剤として、湿式紡糸した。続いて水洗、延伸を施しポリアクリロニトリル系繊維(含水ゲル糸)を得た。次いで、かかるポリアクリロニトリル系繊維を5mmにカットした後、レファイナーで叩解し、カナダ標準濾水度160mlのフィブリル化アクリル系繊維を作製した。
【0021】
[実施例1〜5]
6mmにカットしたポリアクリロニトリル系繊維(繊維Aまたは繊維B)70重量部とフィブリル化アクリル系繊維30部を水中に均一分散させ、円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、110℃で乾燥して、坪量の異なる3種類の試験紙を得た。続いて、かかる試験紙をカレンダーロールにて表1に示す処理条件で熱圧処理して、本発明のポリアクリロニトリル系透明シート実施例1〜5を得た。得られた透明シートの透明度、密度の測定結果は表1にまとめた。
【0022】
【表1】

【0023】
[比較例1]
実施例1に使用した試験紙を、温度120℃、線圧200kg/cmで熱圧処理してポリアクリロニトリル系シートを得た。透明度、密度の測定結果は表1に併記した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなり、透明度が60%以上、密度が0.9g/cm以上であることを特徴とするポリアクリロニトリル系透明シート。
【請求項2】
シートの少なくとも一方の表面がフイルム状であり、かかるフイルム状の層と繊維状の層からなることを特徴とする請求項1に記載のポリアクリロニトリル系透明シート。
【請求項3】
ポリアクリロニトリル系繊維及び/又はフィブリル化アクリル系繊維からなる紙をカレンダーロールで熱圧処理することを特徴とする請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系透明シートの製造方法。

【公開番号】特開2006−132014(P2006−132014A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319977(P2004−319977)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】