説明

ポリアセタール樹脂製自動車内装用意匠部品

【課題】意匠面にシボ加工が施されたり、成形品にリブが配置されたり、肉厚が不均一である成形品での耐モールドデポジット性に優れ、連続成形した後のホルムアルデヒド発生量が少なく、さらには、紫外線照射時(耐候性試験後)におけるホルムアルデヒド発生量の抑制に優れるポリアセタール樹脂製の自動車内装用意匠部品を提供すること。
【解決手段】
ポリアセタール樹脂と、
第1のヒドラジン誘導体と、
前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物と、
を含有する原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品であって、
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との混合物が下記式(1)及び(2)で表される条件を満足し、かつ
前記ポリアセタール樹脂組成物が、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部、紫外線吸収剤0.1〜5質量部を含む、自動車内装用意匠部品。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的強度・剛性が高く、耐油性・耐有機溶剤性に優れ、広い温度範囲でバランスがとれた樹脂であり、且つその加工性が容易であることから、代表的エンジニアリングプラスチックスとして、OA機器、デジタル家電、自動車部品及びその他工業部品に歯車用材料として多く用いられている。しかしながら、最近では、自動車製造メーカー及び部品供給メーカーの自主規制で、ポリアセタール樹脂が自動車の内装部品等で使用される場合、自動車車室内でのホルムアルデヒド発生の低減を要求されることが多くなっている。
【0003】
この要求に応えるため、特にホルムアルデヒド発生の抑制という要求に応えるため、ポリアセタール樹脂組成物に、グアナミン及びヒドラジド化合物を添加する方法(例えば特許文献1、5参照。)、カルボン酸ヒドラジド化合物を添加する方法(例えば特許文献2、3、4参照。)、ヒドラジド化合物を添加する方法(例えば特許文献6、7参照。)、芳香族ジヒドラジド及び脂肪族ヒドラジド化合物を添加する方法(例えば特許文献8参照。)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7676号公報
【特許文献2】特開平4−345648号公報
【特許文献3】特開平10−298401号公報
【特許文献4】特開2007−91973号公報
【特許文献5】特開2007−51205号公報
【特許文献6】特開2006−306944号公報
【特許文献7】特開2006−45489号公報
【特許文献8】特開2005−325225号公報
【特許文献9】特開昭60−83700号公報
【特許文献10】特開昭59−279896号公報
【特許文献11】特開2009−155418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載されたような一般的にホルムキャッチャーといわれる化合物を添加したポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタールの結晶化状況に影響を与えてしまうという欠点を有する。その結果、従来のポリアセタール樹脂組成物の成形品は、金型への樹脂の充填率が低い条件下での耐モールドデポジット性の観点から改良の余地がある。
特に、自動車内装用意匠部品においては、意匠部分での質感を向上させるため金型表面にシボ加工を施すことが多いが、連続成形することによってモールドデポジット(以下、MDとも言う。)が金型のシボ加工面に堆積した場合、成形品に艶が発生し、質感を損なうという問題がある。また、上記シボ加工した金型表面では樹脂の流動抵抗が大きくなるため、金型への樹脂の充填率が低くなり易い。
さらに、自動車内装用意匠部品においては、製品形状が複雑になることが多く、成形品にリブが配置されたり、肉厚が不均一であると、結果として樹脂の充填が悪くなる箇所が発生し、MDが発生し易くなる。
一方、自動車内装用意匠部品では意匠性を高めるために、ポリアセタール樹脂に着色顔料等を含有させることがある。最近では、自動車内装用意匠部品での意匠性を高める手法として、意匠面に塗装やメッキ処理を施す手法が知られているが、生産性・経済性の観点から効率的ではなく、環境への負荷も問題視されている。そのため、合成樹脂組成物に添加するための特定の粒子径と形状比(厚み/粒径比)を有するメタリック顔料及びその顔料を含む樹脂成形品が提案されている(特許文献9、特許文献10参照)。また、ポリアセタール樹脂に耐候剤、ホルムアルデヒド抑制剤と共にメタリック顔料を添加する方法(特許文献11参照)が提案されている。
しかしながら、上記の着色顔料やメタリック顔料は、一般的に成形体の熱安定性を低下させることにより、成形中でのホルムアルデヒド発生量を増加させるという問題がある。そのため、高い意匠性を必要とされる自動車内装用意匠部品を成形する場合、耐MDが安定しないという問題があり、未だ改良の余地がある。
また、自動車内装用意匠部品においては、一般的に耐候性が必要となるが、上記したようなMDが金型内に発生することにより、連続成形後の成形品の耐候性が安定しないことや、耐候性試験後のホルムアルデヒド発生量が安定しないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリアセタール樹脂と、第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物とを含有し、前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物との混合物が特定の条件を満足し、更に、特定の割合でヒンダードアミン系安定剤、及び紫外線吸収剤を含有するポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者らは、検討を重ねた結果、前記ポリアセタール樹脂組成物に、着色顔料やアルミニウム顔料を更に添加した場合、上記課題を解決するだけではなく、さらに、連続成形後の成形品の耐候性向上効果が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
ポリアセタール樹脂と、
第1のヒドラジン誘導体と、
前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物と、
を含有する原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品であって、
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との混合物が下記式(1)及び(2)で表される条件を満足し、かつ
前記ポリアセタール樹脂組成物が、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部、紫外線吸収剤0.1〜5質量部を含む、自動車内装用意匠部品。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
(式(1)及び(2)中、T1は、示差走査熱量計を用いて前記混合物に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T2は、前記示差走査熱量計を用いて前記第1のヒドラジン誘導体に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記第1のヒドラジン誘導体に対して2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T3は、前記示差走査熱量計を用いて前記ポリアセタール樹脂に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記ポリアセタール樹脂に対して2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。)
[2]
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部の着色顔料を更に含有するポリアセタール樹脂組成物を含む、上記[1]記載の自動車内装用意匠部品。
[3]
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部のアルミニウム顔料を更に含有するポリアセタール樹脂組成物を含む、上記[1]又は[2]記載の自動車内装用意匠部品。
[4]
前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物が、前記第1のヒドラジン誘導体とは異なる1種又は2種以上の第2のヒドラジン誘導体である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[5]
前記第1のヒドラジン誘導体がカルボン酸ヒドラジドであり、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物が、前記第1のヒドラジン誘導体とは異なる1種又は2種以上のカルボン酸ヒドラジドである、上記[1]〜[4]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[6]
前記第1のヒドラジン誘導体が下記一般式(3)で表されるカルボン酸ジヒドラジドであり、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物が、前記第1のヒドラジン誘導体とは異なる1種又は2種以上のカルボン酸ヒドラジドである、上記[1]〜[5]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
【0008】
【化1】

(3)
【0009】
(式(3)中、Rは2価の置換又は無置換の炭化水素基を示す。)
[7]
前記第1のヒドラジン誘導体が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド及びドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種又は2種以上のカルボン酸ジヒドラジドである、上記[1]〜[6]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[8]
前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物とが、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド及びドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる互いに異なるカルボン酸ジヒドラジドを含む、上記[1]〜[7]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[9]
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との合計の含有量が0.03〜0.2質量部である、上記[1]〜[8]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[10]
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との含有比が、質量基準で2:8〜8:2である、上記[1]〜[9]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[11]
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との含有比が、質量基準で3:7〜7:3である、上記[1]〜[10]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[12]
前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との質量比1:1の混合物の吸熱容量が最も大きな吸熱ピークのピーク面積が、前記混合物の全吸熱ピークの総ピーク面積の95%未満である、上記[1]〜[11]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[13]
前記ポリアセタール樹脂が、ポリアセタールコポリマーである、上記[1]〜[12]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[14]
前記ポリアセタール樹脂が、メチラールに連鎖移動させて得られるポリアセタールコポリマーである、上記[1]〜[13]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
[15]
前記自動車内装用意匠部品が、ドア、インストロメンタルパネル、シート、サンルーフ、グローブボックス、ATシフト機構、アシストグリップ、スイッチ類、クリップ類、ワイパーからなる群から選択されるいずれか1種として使用される、上記[1]〜[14]のいずれか記載の自動車内装用意匠部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、意匠面にシボ加工が施されたり、成形品にリブが配置されたり、肉厚が不均一である成形品での耐モールドデポジット性に優れ、連続成形した後のホルムアルデヒド発生量が少なく、さらには、紫外線照射時(耐候性試験後)におけるホルムアルデヒド発生量の抑制に優れるポリアセタール樹脂製の自動車内装用意匠部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アジピン酸ジヒドラジドの示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図2】セバシン酸ジヒドラジドの示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図3】アジピン酸ジヒドラジドとセバシン酸ジヒドラジドの混合物の示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図4】セバシン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドの混合物の示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図5】実施例における各評価に用いた成形品の概略形状・寸法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、本発明は、下記の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本実施形態について説明する。
本実施形態の自動車内装用意匠部品は、
ポリアセタール樹脂と、
第1のヒドラジン誘導体と、
前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物と、
を含有する原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品であって、
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との混合物が下記式(1)及び(2)で表される条件を満足し、かつ
前記ポリアセタール樹脂組成物が、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部、紫外線吸収剤0.1〜5質量部を含む、自動車内装用意匠部品である。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
(式(1)及び(2)中、T1は、示差走査熱量計を用いて前記混合物に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T2は、前記示差走査熱量計を用いて前記第1のヒドラジン誘導体に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記第1のヒドラジン誘導体に対して2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T3は、前記示差走査熱量計を用いて前記ポリアセタール樹脂に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記ポリアセタール樹脂に対して2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。)
【0014】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)と、かつ前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(D)ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部と、(E)紫外線吸収剤を0.1〜5質量部とを含有する原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物であって、ヒドラジン誘導体(B)とヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)との混合物が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満足するものである。ここで、「原料組成物」とは、上記5つの成分(A)〜(E)を含む組成物を意味し、その原料組成物に何らかの処理(例えば、混合、溶融、混練など)を施して本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物が得られる。ただし、何らかの処理を施して得られるポリアセタール樹脂組成物は、引き続き、上記5つの成分を含有すると好ましい。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
【0015】
ここで、式(1)及び(2)中、T1は、示差走査熱量計を用いて上記ヒドラジン誘導体(B)と、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)との混合物に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、上記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T2は、上記示差走査熱量計を用いてヒドラジン誘導体(B)に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T3は、上記示差走査熱量計を用いてポリアセタール樹脂(A)に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。
【0016】
また、上述の「所定の温度プログラム」とは、上記混合物、ヒドラジン誘導体(B)、ポリアセタール樹脂(A)の吸熱ピークよりも低い温度から上記混合物が融解する温度まで2.5℃/分の速度で昇温し、次いで、2分間その温度で保持し、その次に、100℃まで10℃/分の降温速度で降温する温度プログラムを意味する。
【0017】
[ポリアセタール樹脂(A)]
ポリアセタール樹脂(A)としては、従来知られているものであれば特に限定されず、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーが挙げられる。ポリアセタールホモポリマーとしては、例えば、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られる、実質的にオキシメチレン単位のみからなるポリアセタールホモポリマーが挙げられる。また、ポリアセタールコポリマーとしては、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)若しくは4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソラン及び1,4−ブタンジオールホルマールからなる群より選ばれる1種又は2種以上のコモノマーである、グリコール若しくはジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル又は環状ホルマールとを共重合させて得られるポリアセタールコポリマーが挙げられる。さらに、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒド単量体又は上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー;ホルムアルデヒド単量体又は上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーが挙げられる。
【0018】
また、両末端若しくは片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば、ポリアルキレングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体又は上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマー;同じく、両末端若しくは片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体又は上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテル、環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーも、ポリアセタール樹脂(A)として挙げられる。上述のとおり、ポリアセタール樹脂(A)として、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマーのいずれも用いることが可能である。これらの中では熱安定性と機械物性とのバランスの観点から、ポリアセタールコポリマーが好ましい。ポリアセタール樹脂(A)は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0019】
ポリアセタール樹脂(A)が、トリオキサンと上記1,3−ジオキソラン等のコモノマーとのポリアセタールコポリマーである場合、一般的には、トリオキサン1molに対してコモノマーの共重合割合が0.001〜0.6molの範囲であれば、熱安定性が良好となる傾向にあるので好ましい。コモノマーの共重合割合は0.001〜0.2molであるとより好ましく、0.0013〜0.1molであると更に好ましい。
【0020】
ポリアセタールコポリマーを共重合により得る際に用いられる重合触媒としては特に限定されないが、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。ただし、ルイス酸としてはこれらに限定されない。また、プロトン酸、そのエステル又は無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、トリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられるが、これらに限定されない。これらのカチオン活性触媒の中でも、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素水和物、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましい。そのようなカチオン活性触媒の中でも、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートが重合収率向上の観点からより好ましい。また、上記ポリアセタールコポリマーを得る際には、カチオン活性触媒に加えて、メチラール等の重合連鎖剤(連鎖移動剤)を適宜用いてもよい。メチラールを用いる場合には、含有水分量が100ppm以下であり且つ含有メタノール量が1質量%以下のもの、より好ましくは、含有水分量が50ppm以下であり且つ含有メタノール量が0.7質量%以下のメチラールが好ましい。
【0021】
ポリアセタールコポリマーの重合方法としては特に制限されないが、従来公知の方法、例えば、米国特許第3027352号明細書、米国特許第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、独国特許発明第1495228号明細書、独国特許発明第1720358号明細書、独国特許発明第3018898号明細書、特開昭58−98322号公報、特開平7−70267号公報に記載の方法が挙げられる。
【0022】
また、特公昭55−42085号公報には、洗浄・除去を行う必要のない触媒失活剤として三価のリン化合物が提案されているが、さらに高い熱安定性のポリアセタールコポリマーを得るためには不安定末端の除去が必要となる。
【0023】
上記重合方法により得られたポリアセタールコポリマーには、熱的に不安定な末端部(−(OCH−OH基)が存在するため、その実用性を向上させるために、下記に示す特定の不安定末端部の分解除去処理を施すことが好ましい。
【0024】
特定の不安定末端部の分解除去処理(以下、単に「不安定末端部除去処理」という。)の方法としては、例えば下記一般式(7)で表わされる少なくとも1種の第4級アンモニウム化合物の存在下で、ポリアセタールコポリマーの融点以上260℃以下の温度で、ポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理する方法が挙げられる。
[Rn− (7)
ここで、式(7)中、R、R、R及びRは、各々独立して、炭素数1〜30の置換又は非置換アルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の置換又は非置換アルキル基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;炭素数6〜20のアリール基の少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜30の置換又は非置換アルキル基で置換されたアルキルアリール基を示し、前記置換又は非置換アルキル基は直鎖状、分岐状、又は環状である。上記置換アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はアミド基である。また、上記非置換アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基はその水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数を示す。Xは水酸基、又は炭素数1〜20のカルボン酸、ハロゲン化水素以外の水素酸、オキソ酸、無機チオ酸若しくは炭素数1〜20の有機チオ酸の酸残基を示す。
【0025】
上述の第4級アンモニウム化合物は、上記一般式(7)で表わされるものであれば特に限定されないが、一般式(7)におけるR、R、R、及びRが、各々独立して、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、R、R、R、及びRの少なくとも1つが、ヒドロキシエチル基であるものが特に好ましい。具体的には、テトラメチルアンモニウム、テトエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクタデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化物(Xn−=OH);塩酸、臭酸、フッ酸等の水素酸塩;硫酸(Xn−=HSO、SO2−)、硝酸、燐酸、炭酸(Xn−=HCO、CO2−)、ホウ酸(Xn−=B(OH))、塩素酸、ヨウ素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸等のオキソ酸塩;チオ硫酸等のチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、シュウ酸等のカルボン酸塩が挙げられる。これらの中でも、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩のなかでは、蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩が特に好ましい。そのような第4級アンモニウム化合物としては、例えば、水酸化コリン蟻酸塩(トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート、トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート等)が挙げられる。これらの第4級アンモニウム化合物は、1種を単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記第4級アンモニウム化合物に加えて、公知の不安定末端部の分解促進剤であるアンモニアやトリエチルアミン等のアミン類等を併用してもよい。
【0026】
上記熱処理する方法に用いる第4級アンモニウム化合物の量は、ポリアセタールコポリマーと第4級アンモニウム化合物との合計質量に対する下記式(8)で表わされる第4級アンモニウム化合物由来の窒素の量に換算して、0.05〜50質量ppmであると好ましく、1〜30質量ppmであるとより好ましい。
P×14/Q (8)
ここで、式(8)中、Pは第4級アンモニウム化合物のポリアセタールコポリマーに対する濃度(質量ppm)を示し、14は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を示す。
【0027】
第4級アンモニウム化合物の添加量が、第4級アンモニウム化合物由来の窒素の量に換算して0.05質量ppm未満であると不安定末端部の分解除去速度が低下する傾向にあり、50質量ppmを超えると不安定末端部除去処理後のポリアセタールコポリマーの色調が悪化する傾向にある。
【0028】
ポリアセタールコポリマーの不安定末端部除去処理は、そのポリアセタールコポリマーの融点以上260℃以下の温度でポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理することにより達成される。この熱処理に用いる装置としては特に制限はないが、押出機、ニーダー等を用いて熱処理することが好適である。また、分解により発生したホルムアルデヒドは減圧下で除去される。第4級アンモニウム化合物の添加方法には特に制約はなく、重合触媒を失活する工程において水溶液として加える方法、重合で生成したポリアセタールコポリマーパウダーに吹きかける方法などが挙げられる。いずれの添加方法を用いても、ポリアセタールコポリマーを熱処理する工程で添加されていればよく、押出機の中に注入してもよい。あるいは、ポリアセタール樹脂組成物に押出機等を用いてフィラーやピグメントの配合を行う場合、樹脂ペレットに該化合物を添着し、その後の配合工程で不安定末端部除去処理を行ってもよい。
【0029】
不安定末端部除去処理は、重合により得られたポリアセタールコポリマー中の重合触媒を失活させた後に行ってもよく、重合触媒を失活させずに行ってもよい。重合触媒の失活処理としては特に制限されないが、アミン類等の塩基性の水溶液中で重合触媒を中和失活する方法を代表例として挙げることができる。また、重合触媒を失活させずに、ポリアセタールコポリマーの融点以下の温度で不活性ガス雰囲気下にて加熱し、重合触媒を揮発により低減した後、該不安定末端部除去処理を行うことも有効な方法である。
【0030】
上述した不安定末端部除去処理を行うことで、窒素雰囲気下、200℃で50分間加熱したときのホルムアルデヒド発生量が、ポリアセタール樹脂の量に対して100ppm以下のポリアセタール樹脂を得ることができる。
【0031】
[ヒドラジン誘導体(B)]
本実施形態に係るヒドラジン誘導体(B)は、窒素原子間の単結合を有するヒドラジン構造(N−N)を有するものであれば特に限定されず、例えば、ヒドラジン;ヒドラジン水和物;コハク酸モノヒドラジド、グルタル酸モノヒドラジド、アジピン酸モノヒドラジド、ピメリン酸モノヒドラジド、スペリン酸モノヒドラジド、アゼライン酸モノヒドラジド、セバシン酸モノヒドラジド等のカルボン酸モノヒドラジド;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド等の飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸のジヒドラジド;イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボジヒドラジド等の芳香族カルボン酸ジヒドラジド;ピロメリット酸のジヒドラジド;トリマー酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド、ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド等のトリヒドラジド;ピロメリット酸テトラヒドラジド、ナフトエ酸テトラヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド等のテトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジン又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラート)と反応させてなるポリヒドラジド等のポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド;ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート及びそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジン及び/又は上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド;上記ポリイソシアネート化合物とポリエーテルポリオール類又はポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に、上記のいずれかのジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド;上記多官能セミカルバジドと上記水系多官能セミカルバジドとの混合物;ビスアセチルジヒドラゾン等が挙げられる。
【0032】
[ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)]
本発明者らは、種々のヒドラジン誘導体(B)を検討した結果、ヒドラジン誘導体(B)がホルムアルデヒドと効率よく反応するためには、その分子内に複数のヒドラジド基を有する化合物が有効であるものの、分子内に複数のヒドラジド基を有しているとヒドラジド誘導体(B)自体の融点は上昇する傾向にあり、ポリアセタール樹脂(A)の融点よりも高くなることを知見した。さらに、ポリアセタール樹脂(A)の融点とヒドラジン誘導体(B)の融点との差が広がるとモールドデポジットになりやすいことが判明した。そこで、本発明者らは、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物に着目した。
【0033】
ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)としては、ヒドラジン誘導体(B)への添加により上記融点を低下できるものであれば特に制限はない。中でも、化合物(C)としては、ヒドラジン誘導体(B)とは異なる1種又は2種以上のヒドラジン誘導体であることが好ましい。例えば、ヒドラジン誘導体(B)がモノヒドラジドの場合の化合物(C)は、ヒドラジン誘導体(B)とは異なる1種又は2種以上のモノヒドラジド及び/又はジヒドラジドであることがより好ましく、ヒドラジン誘導体(B)がジヒドラジドの場合の化合物(C)は、ヒドラジン誘導体(B)とは異なる1種又は2種以上のジヒドラジド及び/又はモノヒドラジドであることがより好ましい。このように、化合物(C)もヒドラジン誘導体であって、ヒドラジド誘導体(B)と化合物(C)との組合せが、互いに異種の構造を有するヒドラジド誘導体の組合せである場合、ヒドラジド誘導体(B)の融点を低下させるのに効果的であることを見出した。
【0034】
ヒドラジド誘導体(B)と化合物(C)との好ましい組合せは、ジヒドラジド化合物同士の組合せであり、より好ましいのは、飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド化合物同士の組合せ、すなわち、ヒドラジン誘導体(B)が飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドの場合、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)としては、ヒドラジン誘導体(B)とは異なる飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドであることがより好ましい。
【0035】
本発明者らが、ヒドラジン誘導体(B)とヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)について種々検討した結果、種々の2種のカルボン酸ヒドラジドの質量比1:1の混合物を、示差走査熱量計を用いて昇温速度2.5℃/分で加熱して融解し、融解した温度で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で再び昇温した時に、その混合物の融点が、混合前の各々のカルボン酸ヒドラジドの融点とは異なる挙動を示すことを見出した。
【0036】
例えば、テレフタル酸ジヒドラジドを示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて速度2.5℃/分で昇温すると、324℃に吸熱ピークの頂点が認められた。同様にしてイソフタル酸ジヒドラジドを昇温すると、226℃に吸熱ピークの頂点が認められた。また、アジピン酸ジヒドラジドでは181℃に、セバシン酸ジヒドラジドでは188℃に、ドデカン二酸ジヒドラジドも188℃に、それぞれ吸熱ピークの頂点が認められた。
【0037】
さらに、1種のカルボン酸ヒドラジド、あるいは2種のカルボン酸ヒドラジドを質量比1:1で乳鉢に入れ混合及び粉砕して得られる混合物を、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて200℃まで昇温速度2.5℃/分で昇温し、200℃で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で昇温して吸熱ピークの頂点を確認することにより融点を測定した。
【0038】
例えば、アジピン酸ジヒドラジド単体を、上述のようにして示差走査熱量測定に供したしたところ、2つの吸熱ピークが認められ、それらのピークの頂点から176℃と171℃とに融点が認められた。また、各々の吸熱ピークの面積から算出した吸熱容量(以下「ΔH」という)は、それぞれ5.4J/g、229.2J/gであった。それらのΔHの合計量に対する、171℃の融点を示す吸熱ピークのΔHの割合、すなわち、それらの吸熱ピークの総ピーク面積に対する171℃の融点を示す吸熱ピークのピーク面積の割合は、98%であった(図1参照)。また、セバシン酸ジヒドラジド単体を同様に示差走査熱量測定に供したところ、185℃、180℃及び172℃に融点が認められ、各々のΔHは、5.4J/g、32.4J/g及び16.4J/gであった。さらに、それらのΔHの合計量に対するそれぞれの融点を示す吸熱ピークのΔHの割合は、185℃が10%、180℃が60%、172℃が30%であった(図2参照)。同様にしてドデカン二酸ジヒドラジド単体を測定したところ、183℃、177℃及び171℃に融点が認められ、各々のΔHは、2.4J/g、18.1J/g及び32.4J/gであった。さらに、それらのΔHの合計量に対するそれぞれの融点を示す吸熱ピークのΔHの割合は、183℃が5%、177℃が34%、171℃が61%であった。ΔHが最も大きな吸熱ピークの頂点が示す温度を「融点のメインピーク温度」とした場合、アジピン酸ジヒドラジドの融点のメインピーク温度は171℃、セバシン酸ジヒドラジドの融点のメインピーク温度は180℃、ドデカン二酸ジヒドラジドの融点のメインピーク温度は171℃であった。
【0039】
アジピン酸ジヒドラジドとセバシン酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物を上述のようにして示差走査熱量測定に供したところ、融点のメインピーク温度は154℃を示し、そのときのΔHは、ΔHの合計量に対して91%であった(図3参照)。アジピン酸ジヒドラジドとドデカン二酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物の融点のメインピーク温度は151℃を示し、そのときのΔHは、ΔHの合計量に対して98%であった。セバシン酸ジヒドラジドとドデカン二酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物の融点のメインピーク温度は144℃を示し、そのときのΔHは、ΔHの合計量に対して80%であった。すなわち、これらの混合物においては、上記の質量比1:1の混合物を昇温速度2.5℃/分で加熱して融解し、融解した温度で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で昇温した時に、融点(吸熱ピークの頂点)が存在することが分かった。
【0040】
一方、セバシン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物を250℃まで昇温速度2.5℃/分で昇温すると181℃に吸熱ピークが認められた。ところが、引き続き250℃で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で250℃まで昇温したところ、融点(吸熱ピーク)が認められず、最初の融解後に結晶化しなかった(図4参照)。同様にしてアジピン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物、アジピン酸ジヒドラジドとテレフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物、並びに、テレフタル酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物を、350℃まで昇温速度2.5℃/分で昇温し、350℃で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で350℃まで昇温したが、いずれも融点(吸熱ピーク)が認められなかった。このことは、上記の混合物を昇温速度2.5℃/分で加熱して融解し、2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で昇温した時に融点(吸熱ピーク)が消失したことを示している。
【0041】
本発明者らが、更に検討を進めたところ、ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)とを含有する原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物であって、ヒドラジン誘導体(B)と、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)との混合物が下記式(1)及び(2)で表される条件を満足し、かつ、前記ポリアセタール樹脂組成物が、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(D)ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部と、(E)紫外線吸収剤を0.1〜5質量部とを含有する場合に、そのポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品において、耐モールドデポジット性に優れ、連続成形した後のホルムアルデヒド発生量が少なく、さらには、紫外線照射時(耐候性試験後)におけるホルムアルデヒド発生量の抑制に優れることを見出した。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
ここで、式(1)及び(2)中、T1は、示差走査熱量計を用いて上記ヒドラジン誘導体と、ヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物との混合物に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、上記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T2は、上記示差走査熱量計を用いてヒドラジン誘導体(B)に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T3は、上記示差走査熱量計を用いてポリアセタール樹脂(A)に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。また、上述の「所定の温度プログラム」とは、上記混合物又はヒドラジン誘導体(B)の吸熱ピークよりも低い温度から上記混合物又はヒドラジン誘導体(B)が融解する温度まで2.5℃/分の速度で昇温し、次いで、2分間その温度で保持し、その次に、100℃まで10℃/分の降温速度で降温する温度プログラムを意味する。ポリアセタール樹脂(A)の場合、上述の「所定の温度プログラム」とは、ポリアセタール樹脂(A)の吸熱ピークよりも低い温度から200℃まで速度320℃/分で昇温し、200℃で2分間保持した後に、速度10℃/分で100℃まで降温する温度プログラムを意味する。
【0042】
上記検討から好ましいヒドラジン誘導体(B)としては、飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジドであり、具体的には、コハク酸モノヒドラジド、グルタル酸モノヒドラジド、アジピン酸モノヒドラジド、ピメリン酸モノヒドラジド、スペリン酸モノヒドラジド、アゼライン酸モノヒドラジド、セバシン酸モノヒドラジド等のカルボン酸モノヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド等のカルボン酸ジヒドラジドである。
【0043】
また、飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジドが、下記一般式(3)で表される飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドを含むことがより好ましい。
【0044】
【化3】

(3)
【0045】
ここで、式中、Rは2価の置換又は無置換の炭化水素基を示し、好ましくは炭素数2〜20のアルキレン基を示す。
【0046】
ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)としては、上述のとおり、ヒドラジン誘導体(B)への添加により上記融点を低下できるものであれば特に制限はない。中でも、ヒドラジン誘導体(B)が飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジドである場合、化合物(C)は、ヒドラジン誘導体(B)とは異なる1種又は2種以上の飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジドであることが好ましい。ヒドラジン誘導体(B)が飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドである場合、化合物は(C)は、好ましくは、ヒドラジン誘導体(B)とは異なる1種又は2種以上の飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド及び/又は飽和脂肪族カルボン酸であり、これらはヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させるのに効果的である。
【0047】
より具体的には、ヒドラジン誘導体(B)とヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)とが、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド及びドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる互いに異なるカルボン酸ジヒドラジドを含むことが好ましい。例えば、ヒドラジン誘導体(B)がアジピン酸ジヒドラジドの場合、化合物(C)は、セバシン酸ジヒドラジド及び/又はドデカン二酸ジヒドラジドであり、ヒドラジン誘導体(B)がセバシン酸ジヒドラジドの場合、化合物(C)は、アジピン酸ジヒドラジド及び/又はドデカン二酸ジヒドラジドであることが好ましい。そのようなヒドラジン誘導体(B)と化合物(C)との組合せとしては、ヒドラジン誘導体(B)としてアジピン酸ジヒドラジド、化合物(C)としてセバシン酸ジヒドラジドの組合せ、ヒドラジン誘導体(B)としてセバシン酸ジヒドラジド、化合物(C)としてドデカン二酸ジヒドラジドの組合せが好ましい。
【0048】
また、ヒドラジン誘導体(B)とヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)との含有比((B):(C))が、質量基準で2:8〜8:2であると好ましく、より好ましくは3:7〜7:3である。その含有比が、上記範囲内にあることにより、(B)と(C)の混合物の固化物について、メインピーク温度がポリアセタール樹脂(A)の融点よりも低下する傾向にある。
【0049】
また、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を得るための原料組成物におけるヒドラジン誘導体(B)とヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)との合計の含有割合は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.03〜0.2質量部であると好ましく、より好ましくは0.04〜0.2質量部であり、更に好ましくは0.05〜0.2質量部である。ヒドラジン誘導体(B)とヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)との合計の含有割合が0.03質量部未満であると、リサイクル成形時のホルムアルデヒド放出量が増加する傾向にあり、0.2質量部を超えると、自動車内装用意匠部品において、金型での耐モールドデポジット性が低下する傾向にある。
【0050】
また、第1のヒドラジン誘導体と、第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物との質量比1:1の混合物の吸熱容量が最も大きな吸熱ピークのピーク面積が、前記混合物の全吸熱ピークの総ピーク面積の95%未満であることが好ましい。
【0051】
[ヒンダードアミン系安定剤(D)]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部のヒンダードアミン系安定剤を含有する。ヒンダードアミン系安定剤としては、立体障害性基を有するピペリジン誘導体が挙げられ、例えば、エステル基含有ピペリジン誘導体、エーテル基含有ピペリジン誘導体及びアミド基含有ピペリジン誘導体が挙げられる。本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、特定量のヒンダードアミン系安定剤を含むことにより、特に、流動性、成形体の耐衝撃性などの機械的特性、及び耐候性(光安定性)に優れたものとなる。
【0052】
エステル基含有ピペリジン誘導体としては、例えば、脂肪族アシルオキシピペリジン、芳香族アシルオキシピペリジン、脂肪族ジ又はトリカルボン酸−ビス又はトリスピペリジルエステル、及び芳香族ジ、トリ又はテトラカルボン酸−ビス、トリス又はテトラキスピペリジルエステルが挙げられる。脂肪族アシルオキシピペリジンの具体例としては、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのC2−20脂肪族アシルオキシ−テトラメチルピペリジンが挙げられる。芳香族アシルオキシピペリジンの具体例としては、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのC7−11芳香族アシルオキシテトラメチルピペリジンが挙げられる。脂肪族ジ又はトリカルボン酸−ビス又はトリスピペリジルエステルの具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)オギザレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)マロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(1−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルセパケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルなどのC2−20脂肪族ジカルボン酸−ビスピペリジルエステルが挙げられる。芳香族ジ、トリ又はテトラカルボン酸−ビス、トリス又はテトラキスピペリジルエステルの具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)テレフタレート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレートなどの芳香族ジ又はトリカルボン酸−ビス又はトリスピペリジルエステルが挙げられる。上記の他にも、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートもエステル基含有ビペリジン誘導体として例示される。なお、本明細書において「Ca−b」は炭素数がa〜b(a、bは整数を示す。)であることを意味し、例えば「C2−20」は炭素数が2〜20であることを意味する。
【0053】
エーテル基含有ピペリジン誘導体としては、例えば、C1−10アルコキシピペリジン、C5−8シクロアルキルオキシピペリジン、C6−10アリールオキシピペリジン、C6−10アリール−C1−4アルキルオキシピペリジン、及びアルキレンジオキシビスピペリジンが挙げられる。C1−10アルコキシピペリジンの具体例としては、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのC1−6アルコキシ−テトラメチルピペリジンが挙げられ、C5−8シクロアルキルオキシピペリジンの具体例としては、4−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられる。C6−10アリールオキシピペリジンの具体例としては、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられ、C6−10アリール−C1−4アルキルオキシピペリジンの具体例としては、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられ、アルキレンジオキシビスピペリジンの具体例としては、1,2−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)エタンなどのC1−10アルキレンジオキシビスピペリジンが挙げられる。
【0054】
アミド基含有ピペリジン誘導体としては、例えば、4−(フェニルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのカルバモイルオキシピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレン−1,6−ジカルバメートなどのカルバモイルオキシ置換アルキレンジオキシ−ビスピペリジンが挙げられる。
【0055】
また、ヒンダードアミン系安定剤として、例えば、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、並びに、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)−ジエタノールとの縮合物などの高分子量のピペリジン誘導体重縮合物を用いることもできる。
【0056】
その他にも、ヒンダードアミン系安定剤として、例えば、N,N’,N’’,N’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒロドキシフェニル)プロピオニルオキシ}−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び、過酸化処理した4−ブチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの反応生成物とシクロヘキサンとの反応生成物と、N,N’−エタン−1,2−ジイルビス(1,3−プロパンジアミン)と、の反応生成物が挙げられる。
【0057】
ヒンダードアミン系安定剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、ヒンダードアミン系安定剤の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部であり、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部である。ヒンダードアミン系安定剤の含有量を上記範囲に調整することで、ポリアセタール樹脂組成物から得られる成形体は、更に優れた外観を保持することが可能となる。
【0058】
[紫外線吸収剤(E)]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部の紫外線吸収剤を含有する。上記特定量の紫外線吸収剤を含有することにより、そのポリアセタール樹脂組成物から得られる成形体は、耐候性(光安定性)が向上する。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、及びヒドロキシフェニル−1,3,5−トリアジン系化合物が挙げられる。
【0059】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジイソアミルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのヒドロキシル基とアルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)置換アリール基とを有するベンゾトリアゾール類;2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾールなどのヒドロキシル基とアラルキル基又はアリール基置換アリール基とを有するベンゾトリアゾール類;2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどのヒドロキシル基とアルコキシ基(好ましくはC1−12アルコキシ基)置換アリール基とを有するベンゾトリアゾール類が挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物としては、上記の中でも、ヒドロキシル基とC3−6アルキル基置換C6−10アリール基(特にフェニル基)とを有するベンゾトリアゾール類、並びに、ヒドロキシル基とC6−10アリール−C1−6アルキル基(特にフェニルC1−4アルキル基)置換アリール基とを有するベンゾトリアゾール類が好ましい。
【0060】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、複数のヒドロキシル基を有するベンゾフェノン類;ヒドロキシル基とアルコキシ基(好ましくはC1−16アルコキシ基)とを有するベンゾフェノン類が挙げられる。複数のヒドロキシル基を有するベンゾフェノン類の具体例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンなどのジ、トリ又はテトラヒドロキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノンなどのヒドロキシル基とヒドロキシル置換アリール又はアラルキル基とを有するベンゾフェノン類が挙げられる。また、ヒドロキシル基とアルコキシ基とを有するベンゾフェノン類の具体例としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンが挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、上記の中でも、ヒドロキシル基とヒドロキシル基置換C6−10アリール基又はC6−10アリール−C1−4アルキル基とを有するベンゾフェノン類、特に、ヒドロキシル基とヒドロキシル基置換フェニルC1−2アルキル基とを有するベンゾフェノン類が好ましい。
【0061】
シュウ酸アニリド系化合物としては、例えば、N−(2−エチルフェニル)−N’−(2−エトキシ−5−t−ブチルフェニル)シュウ酸ジアミド、N−(2−エチルフェニル)−N’−(2−エトキシ−フェニル)シュウ酸ジアミドが挙げられる。
【0062】
ヒドロキシフェニル−1,3,5−トリアジン系化合物としては、例えば、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0063】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部であり、好ましくは0.1〜2質量部であり、より好ましくは0.1〜1.5質量部である。
【0064】
上記の中でも、ヒンダードアミン系安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサビス[5,5’]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物が特に好ましく、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物がより好ましく、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾールが特に好ましい。
【0065】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系安定剤とを含有しており、そのヒンダードアミン系安定剤と紫外線吸収剤との割合は、前者/後者(質量比)で10/90〜80/20が好ましく、より好ましくは10/90〜70/30、更に好ましくは20/80〜60/40の範囲である。
【0066】
[着色顔料(F)]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、着色顔料を更に含むことが好ましい。着色顔料としては、例えば、無機系顔料及び有機系顔料、メタリック系顔料、蛍光顔料が挙げられる。無機系顔料とは樹脂の着色用として一般的に使用されているものをいい、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、りん酸塩、酢酸塩、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラックが挙げられる。有機系顔料としては、例えば、縮合アゾ系、キノン系、フタロシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ペリレン系、ジオキサジン系の顔料が挙げられる。
【0067】
着色顔料の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部であり、より好ましくは0.01〜2質量部であり、更に好ましくは0.01〜1.5質量部である。
【0068】
[アルミニウム顔料(G)]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、アルミニウム顔料を更に含むことが好ましい。アルミニウム顔料は、アルミニウムが粒子状になっているもので、適度にその表面に酸化皮膜を有するものが好ましい。アルミニウム顔料が適度な酸化皮膜を有することで、アルミニウム特有の高反射率を維持し、より粒子の耐食性及び経時的安定性を保持することができる。また、本実施形態のアルミニウム顔料は、その純度を特に限定していないが、本発明の効果を妨げない限り、他の金属が不純物又は合金成分として含まれていてもよい。不純物又は合金成分としては、例えば、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Znが挙げられる。
【0069】
本実施形態のアルミニウム顔料は、公知の方法により作製することができる。例えば、アトマイズ粉、切削粉、箔粉、蒸着粉、その他の方法により得られたアルミニウム粉末を予め一次分級等により選別し、粉砕助剤及び溶剤等を含む粉砕媒体の共存下で、ボールミル、アトライター、遊星ミル、振動ミル等により湿式粉砕処理し、湿式状態下で篩分級した後、フィルタープレスなどにより固液分離して得られる。これにより、フレーク端部に存在する凹凸状の破断面が極めて少ないアルミニウム顔料を製造することができる。ここで用いられる粉砕媒体は、過剰に添加すると粒子の含有酸素量が多くなるため、できるだけ少なくすることが好ましい。
【0070】
本実施形態のアルミニウム顔料の形状は、球状、柱状、鱗片状など、表面が滑らかなものであれば特に限定されない。その形状は、ポリアセタールコポリマーと溶融混合する際に分散が良好であり、粒子の破損や折損も生じ難いことから、鱗片状であると好ましい。鱗片状のアルミニウム顔料はポリアセタール樹脂組成物中に容易に均一に分散するため、より少量の添加量で効率よく成形体の明度を高めることができる。
【0071】
本実施形態のアルミニウム顔料の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.2〜5質量部であり、更に好ましくは0.3〜4質量部である。アルミニウム顔料の含有量を上記範囲に調整することにより、ポリアセタール樹脂が本来有する機械的特性である靭性がより良好に保持され、また濃淡のない外観を有することにより、安定した明度を発現することが可能となる。
【0072】
本実施形態で用いられるアルミニウム顔料としては、その体積平均粒子径が15〜50μmであり、かつ10μm以下の粒子径を有する粒子を4〜25体積%含有することが好ましい。より好ましくは、アルミニウム顔料は、その体積平均粒径が15〜40μmであり、かつ10μm以下の粒子径を有する粒子を6〜20体積%含有する。アルミニウム顔料の粒子径及び粒子径分布を上記範囲に調整することにより、ポリアセタール樹脂が本来有する機械物性を保持しつつ、優れたアルミ光沢を有し、しかも目視角度による色目変化が小さく、ウエルド性能に優れた成形品が得られる傾向にある。また、ポリアセタール樹脂組成物の流動性及び得られる成形体の耐候性が一層優れたものとなる傾向にある。ここで、本明細書で規定している体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される体積粒径分布の50%の値(D50)を示し、10μm以下の粒子径を有する粒子の割合は、その積分値から求められるものである。
【0073】
また、本実施形態のアルミニウム顔料は、炭素数10〜30の脂肪酸により、その表面が改質されていることが好ましい。アルミニウム顔料の表面を改質する際の脂肪酸の使用量は、アルミニウム顔料100質量部に対して、0.3〜10質量部であると好ましく、より好ましくは0.5〜8質量部である。脂肪酸の使用量を上記範囲に調整することにより、アルミニウム顔料の表面を良好に改質することができ、ポリアセタール樹脂との混合時の安定性を高め、成形体の外観を向上させることが可能となる。
【0074】
炭素数10〜30の脂肪酸としては、特に限定されないが、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、及びステアリン酸が好ましく、オレイン酸、ベヘニン酸、及びステアリン酸がより好ましい。
【0075】
また、アルミニウム顔料の表面の改質を補助するために、少量の熱硬化性樹脂を併用してもよい。そのような熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂及びエポキシ樹脂が挙げられる。
【0076】
脂肪酸によるアルミニウム顔料表面の改質は、好ましくは、それらを混合して行われる。この際、アルミニウム顔料及び脂肪酸、並びに必要に応じて熱硬化性樹脂の混合には、一般的に使用されている混合機を用いることができる。混合機としては、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーが挙げられる。また、アルミニウム顔料の表面を効率的に改質するため、使用する脂肪酸の融点によっては、これらの混合機は加熱できる装置であることが好ましい。また、この混合は、粉状アルミニウムの粒径や形状を壊さないように緩やかな条件で実施することが好ましい。
【0077】
[添加剤]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物には、用途に応じて適当な添加剤を配合することができる。具体的には、添加剤として、酸化防止剤、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体又は化合物、蟻酸捕捉剤、離型剤等が挙げられる。
【0078】
なお、ポリアセタール樹脂組成物における各添加剤の配合量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜0.8質量部、より好ましくは0.01〜0.7質量部である。
【0079】
[酸化防止剤]
酸化防止剤としてはヒンダートフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、例えば、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。上記の中でも好ましい酸化防止剤は、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用てもよい。
【0080】
[ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体又は化合物]
ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体又は化合物は、ホルムアルデヒドと反応可能な窒素原子を分子内に有する重合体又は化合物(単量体)であり、その具体例としては、ナイロン4−6、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン6−12、ナイロン12等のポリアミド樹脂、及びこれらの重合体、例えば、ナイロン6/6−6/6−10、ナイロン6/6−12が挙げられる。また、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体又は化合物として、アクリルアミド及びその誘導体、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。より具体的には、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとを金属アルコラートの存在下で重合して得られるポリ−β−アラニン共重合体が挙げられる。さらに、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体又は化合物として、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、尿素、尿素誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物が挙げられる。
【0081】
アミド化合物の具体例としては、イソフタル酸ジアミドなどの多価カルボン酸アミド、アントラニルアミドが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、2,4−ジアミノ−sym−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−sym−トリアジン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4−ジアミノ−6−フェニル−sym−トリアジン)、アセトグアナミン(2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン)、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジンが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物の具体例としては、N−メチロールメラミン、N,N’−ジメチロールメラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミンが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物の具体例としては、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。尿素誘導体としては、例えば、N−置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物が挙げられる。N−置換尿素の具体例としては、アルキル基等の置換基が置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素が挙げられる。尿素縮合体の具体例としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合体が挙げられる。ヒダントイン化合物の具体例としては、ヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、5,5−ジフェニルヒダントインが挙げられる。ウレイド化合物の具体例としては、アラントインが挙げられる。イミド化合物の具体例としてはスクシンイミド、グルタルイミド、フタルイミドが挙げられる。
【0082】
これらのホルムアルデヒド反応性窒素原子を有する重合体又は化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
[蟻酸捕捉剤]
蟻酸捕捉剤は蟻酸を効率的に中和し得るものであり、例えば、上記のアミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。
【0084】
また、蟻酸捕捉剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩又はアルコキシドが挙げられる。例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウムなどの金属の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。上記カルボン酸塩のカルボン酸としては、10〜36個の炭素原子を有する飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、これらのカルボン酸は水素原子が水酸基で置換されていてもよい。飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸塩の具体的な例としては、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸−パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸−ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸−ステアリン酸)カルシウムが挙げられる。これらの中でも好ましくは、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、珪酸マグネシウムが挙げられる。
【0085】
[離型剤]
離型剤としては、アルコール、脂肪酸及びそれらの脂肪酸エステルが好ましく用いられるが、特に好ましい離型剤としては、エチレングリコールジステアレートが挙げられる。
【0086】
[その他の添加剤]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に適当な公知の添加剤を必要に応じて配合することができる。具体的には、無機充填剤、結晶核剤、導電材、熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0087】
[無機充填剤]
無機充填剤としては、繊維状、粉粒子状、板状及び中空状の無機充填剤が挙げられる。繊維状無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シリコーン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮などの金属繊維等の無機質繊維が挙げられる。また、繊維長の短いチタン酸カリウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー類も繊維状無機充填剤として例示される。
【0088】
粉粒子状無機充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのような珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、アルミナのような金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような金属硫酸塩、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、その他炭化珪素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。
【0089】
板状無機充填剤としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔が挙げられる。中空状無機充填剤としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、金属バルーンが挙げられる。これらの無機充填剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの無機充填剤は表面処理を施されていても施されていなくてもよいが、成形表面の平滑性、機械的特性の観点から表面処理を施されたものが好ましい場合がある。無機充填剤の表面処理に用いられる表面処理剤としては従来公知のものが使用可能である。表面処理剤としては、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコニウム系等の各種カップリング処理剤が挙げられる。より具体的には、表面処理剤として、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリスステアロイルチタネート、ジイソプロポキシアンモニウムエチルアセテート、n−ブチルジルコネートが挙げられる。
【0090】
なお、無機充填剤に加えて/代えて、芳香族ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機繊維状物質が用いられてもよい。
【0091】
[結晶核剤]
結晶核剤としては、例えば、窒化ホウ素、タルク等が挙げられる。
【0092】
[導電剤]
導電剤としては、例えば、導電性カーボンブラック、金属粉末又は繊維が挙げられる。
【0093】
[熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマー]
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーネート樹脂、未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の変性物も熱可塑性樹脂に含まれる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーが挙げられる。
【0094】
[分散剤]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、分散剤を更に含んでもよい。上記着色顔料を前記ポリアセタール樹脂組成物に混合し、押出し機により造粒する際に使用する分散剤として、ポリアルキレングリコールが挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、代表的なものとして、ポリエチレングリコールが挙げられる。また、ポリエチレングリコールは、ポリアセタール樹脂同士の摺動形態の場合に、音鳴きを防止にも有効である。ポリエチレングリコールの分子量は特に限定されないが、5000〜20000のものが好ましい。
【0095】
[ポリアセタール樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を製造する方法は特に制限されない。例えば、ポリアセタール樹脂(A)とヒドラジン誘導体(B)と化合物(C)とヒンダードアミン系安定剤(D)と紫外線吸収剤(E)をヘンシェルミキサー、タンブラー、V字型ブレンダーなどで予め混合してそれらを含有する原料組成物を得た後、1軸又は多軸混錬押出機等を用いて溶融混錬するなど、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法として一般的に知られている方法により製造することができる。それらの中でも、減圧装置を備えた2軸混練押出機を用いる方法が好ましい。また、上記(A)〜(E)成分を予め混合することなく、定量フィーダーなどで各成分を単独又は数種類ずつまとめて押出機に連続供給することにより、押出機内にて原料組成物を得、その原料組成物からポリアセタール樹脂組成物を製造することも可能である。また、予め上記(A)〜(E)成分からなる高濃度マスターバッチを作製しておき、押出溶融混練時又は射出成形時に更にポリアセタール樹脂(A)で希釈することによりポリアセタール樹脂組成物を得ることもできる。
【0096】
なお、得られるポリアセタール樹脂組成物中には、カルボン酸ジヒドラジドからの反応生成物が含まれてもよい。そのような反応生成物としては、例えば、カルボン酸ジヒドラジドとホルムアルデヒドとの反応生成物が挙げられる。
【0097】
[ポリアセタール樹脂組成物の成形方法]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品を成形する方法は特に制限されるものではなく、公知の成形方法、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法のいずれかによって成形することができる。
【0098】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品は、意匠面にシボ加工が施されたり、成形品にリブが配置されたり、肉厚が不均一である成形品での耐モールドデポジット性に優れ、連続成形した後のホルムアルデヒド発生量が少なく、さらには、紫外線照射時におけるホルムアルデヒド発生量の抑制に優れる。
【実施例】
【0099】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施列及び比較例における各種物性の測定及び評価は次のようにして行った。
【0100】
(1)樹脂の評価
ASTM−D1238に準じて、190℃、2169gの条件下でメルトフローレートを測定したところ、後述するポリアセタール樹脂(a−1)〜(a−4)と、それらより得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレートは同等であることを確認した。
【0101】
(2)評価金型
自動車内装用意匠部品を想定して、長さ100mm、幅30mm、高さ20mmの箱型形状を有し、かつ、成形品の上面にシボ加工を施し、製品の裏面にリブを施した金型を用いて、後述する評価を行った。成形品の概略形状・寸法を図5に示す(図中の寸法の単位はmmである)。
【0102】
(3)ホルムアルデヒド発生量(VDA275)
後述する、MD性の評価に用いた成形品の内、30ショット目の成形品を用いて、下記方法(VDA275法)により、試験片から放出されるホルムアルデヒド量を求めた。
500mLのポリエチレン容器に蒸留水50mLと試験片とを入れて密閉し、60℃で3時間加熱した。その後、蒸留水中のホルムアルデヒドをアンモニウムイオン存在下においてアセチルアセトンと反応させた。その反応物について、UV分光計にて波長412nmの吸収ピークを測定し、ホルムアルデヒド発生量(mg/kg)を求めた。
【0103】
(4)耐モールドデポジット(MD)性の評価
射出成形機(東芝機械株式会社製、商品名「IS−100GN」)を用いて、シリンダー温度を180℃、金型温度を60℃に設定し、射出圧力80MPa、射出時間40秒、冷却時間20秒の射出条件で、前述(2)の評価用金型にて、後述のポリアセタール樹脂からなるポリアセタール樹脂組成物を金型内に樹脂組成物を完全に充填させない条件にて成形した。この試験片の質量は、金型内に樹脂組成物を完全に充填させて得られる試験片の97質量%であった。但し、ポリアセタール樹脂(a−2)のように、メルトフローレートが異なる場合は、成形品重量が同等になるように、射出圧力を調整した。
成形品を500ショット成形した後の金型内のモールドデポジット(MD)を目視にて観察した。「A」は、MDが認められなかったことを示し、「C」は、明らかな析出物が認められたことを示す。
【0104】
(5)耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価
前述の耐MD性の評価(4)で5ショット目、100ショット目、300ショット目に得られた成形品を用いて、下記の条件で耐候性の評価を実施した。
スーパーキセノンウエザーメーター(商品名「XAL−2WL」、スガ試験機(株)製)を用いて、立ち上がり波長320nm、試料面光強度162w/m(光強度制御300〜400nm)、ブラックパネル温度89℃、明暗サイクルなしの条件で、評価用サンプルのシボを施した意匠面に光照射した。評価用サンプルにクラックが生じるまでの時間(h)を測定した。
【0105】
(6)耐候性試験後のホルムアルデヒド発生量
前述の耐候性試験(5)における、耐MD性の評価(4)300ショット目、照射時間500時間後のサンプルを用いて、前述(3)と同様の方法で、ホルムアルデヒド発生量を得た。但し、光照射から500時間の時点で成形品にクラックが発生しているサンプルについては、ホルムアルデヒド発生量を測定しなかった。
【0106】
[ポリアセタール樹脂組成物]
実施例及び比較例において、ポリアセタール樹脂組成物に含有される成分には下記のものを用いた。
【0107】
〈ポリアセタール樹脂(a−1)〉
熱媒を通すことができるジャケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8)を80℃に調整した。次いで、トリオキサンを4kg/hr、コモノマーとして1,3−ジオキソランを42.8g/hr(トリオキサン1molに対して、0.039mol)、連鎖移動剤としてメチラール(水分量1.3%、メタノール量0.99%)をトリオキサン1molに対して1.50×10−3molにて連続的に添加した。さらに、重合触媒として三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1molに対して1.5×10−5molにて連続的に添加し重合を行った。重合機より排出されたポリアセタールコポリマーをトリエチルアミン0.1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。重合触媒が失活したポリアセタールコポリマーを遠心分離機でろ過して分離回収した後、ポリアセタールコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物として水酸化コリン蟻酸塩(トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート)を含有した水溶液1質量部を添加して、均一に混合し、さらに120℃で乾燥した。水酸化コリン蟻酸塩の添加量の調節は、添加する水酸化コリン蟻酸塩を含有した水溶液中の水酸化コリン蟻酸塩の濃度を調整することにより行った。上記式(8)で表わされる水酸化コリン蟻酸塩由来の窒素の量に換算して20質量ppmとなる量の水酸化コリン蟻酸塩を添加した。乾燥後のポリアセタールコポリマーをベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中で溶融しているポリアセタールコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分間で不安定末端部の分解除去処理を行った。不安定末端部が分解されたポリアセタールコポリマーは、ベント真空度20Torrの条件下で脱揮され、押出機ダイス部よりストランドとして押し出され、ペレット化した。こうして、ペレット化したポリアセタール樹脂(a−1)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−1)のメルトフローレートをASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で9g/10分であった(メルトフローレートの測定は以下同様。)。また、ポリアセタール樹脂(a−1)について、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて200℃まで速度320℃/分で昇温し、200℃で2分間保持した後に、速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で測定した融点(以下同様。)は165℃であった。
【0108】
〈ポリアセタール樹脂(a−2)〉
メルトフローレートが9g/10分になるように連鎖移動剤のメチラールの量を変更したこと以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−2)を得た。その融点は165℃であった。
【0109】
〈ポリアセタール樹脂(a−3)〉
連鎖移動剤のメチラールとして上記に代えてメチラール(水分量45ppm、メタノール量0.58%)を用いたこと以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−3)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−3)のメルトフローレートは9g/10分であった。その融点は165℃であった。
【0110】
〈ポリアセタール樹脂(a−4)〉
熱媒を通すことができるジャッケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8)を80℃に調整した。次いで、トリオキサンを4kg/hr、コモノマーとして1,3−ジオキソランを42.8g/h(トリオキサン1molに対して、0.039mol)にて連続的に添加した。さらに、重合触媒として三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1molに対して1.5×10−5molにて連続的に添加し重合を行った。得られた粗ポリアセタール1000質量部にトリフェニルホスフィン0.8質量部を添加し、均一に混合してポリアセタール樹脂(a−4)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−4)のメルトフローレートは9g/10分であった。その融点は165℃であった。
【0111】
〈ヒドラジン誘導体(B)及びヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)〉
カルボン酸ヒドラジド(bc−1)としてアジピン酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−2)としてセバシン酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−3)としてドデカン二酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−4)としてイソフタル酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−5)としてテレフタル酸ジヒドラジドをそれぞれ準備した。これらを、ヒドラジン誘導体(B)及び/又はヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)として用いた。
【0112】
また、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて上記のカルボン酸ヒドラジド単体に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(融点のメインピーク温度)(℃)を測定した。ここで、上述の「所定の温度プログラム」とは、上記化合物の吸熱ピークよりも低い温度から上記化合物が融解する温度まで2.5℃/分の速度で昇温し、次いで、2分間その温度で保持し、その次に、100℃まで10℃/分の降温速度で降温する温度プログラムを意味する。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
[ヒンダードアミン系安定剤]
(d−1)ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート
(d−2)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサビス[5,5’]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物
【0115】
[紫外線吸収剤]
(e−1)2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール
【0116】
[着色顔料]
(f−1)カーボンブラック 商標名:Acetylen Black(電気化学工業株式会社製)
(f−2)酸化チタン 商標名:TITANIX JR−600A(テイカ株式会社製)
【0117】
[アルミニウム顔料]
市販されている燐片状のアルミニウム粉をタイラー標準篩にて目的の粒径に分級して、アルミニウム顔料を得た。詳細な粒子径分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、商品名「SALD−1100」)により測定し、得られた粒子径分布の50%値によりアルミニウム顔料の体積平均粒子径D50を求めた。また、10μm以下の粒子径を有する粒子の割合(以下、「10μm以下の割合」という。)は、上記粒子径分布に基づいて積分値から求めた。
上記分級後のアルミニウム顔料とベヘン酸(アルミニウム粉100質量部に対し、ベヘン酸2質量部の割合)とをジャケット付きのリボンブレンダー(80℃・80rpm)で3分間混合して、表面を改質したアルミニウム顔料(g−1)及び(g−2)を作製し、そのアルミニウム顔料(g−1)及び(g−2)を所定の割合で混合して、アルミニウム顔料(g−3)〜(g−6)を得た。
(g−1)体積平均粒子径D50=23μm、10μm以下の割合=0.4体積%のアルミニウム顔料
(g−2)体積平均粒子径D50=12μm、10μm以下の割合=40体積%のアルミニウム顔料
(g−3)体積平均粒子径D50=22μm、10μm以下の割合=6体積%のアルミニウム顔料
(g−4)体積平均粒子径D50=20μm、10μm以下の割合=12体積%のアルミニウム顔料
(g−5)体積平均粒子径D50=18μm、10μm以下の割合=20体積%のアルミニウム顔料
(g−6)体積平均粒子径D50=16μm、10μm以下の割合=25体積%のアルミニウム顔料
【0118】
[ベント付2軸押出機]
実施例及び比較例において、ベント付2軸押出機として東芝機械社製TEM26SSを用いた。
【0119】
[実施例1〜20]
表2に示した割合で、ポリアセタール樹脂(a−1)、(a−2)、(a−3)又は(a−4)100質量部に、カルボン酸ヒドラジド(bc−1)、(bc−2)及び(bc−3)から選ばれたヒドラジン誘導体(B)及びヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)、ヒンダードアミン系安定剤0.5質量部(D)、紫外線吸収剤0.5質量部(E)、着色顔料0.2質量部(F)、アルミニウム顔料2質量部(G)とを添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。その原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った
また、各実施例で用いたヒドラジン誘導体(B)及びヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)の混合物を上述の示差走査熱量測定に供した際の融点のメインピーク温度を表2に示した。
【0120】
[比較例1]
ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部を、ベント付2軸押出機で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0121】
[比較例2]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−2)を用いたこと以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0122】
[比較例3]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−3)を用いたこと以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0123】
[比較例4]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−4)を用いたこと以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0124】
[比較例5〜12]
ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部に、表3に示した割合でカルボン酸ヒドラジド(bc−1)、(bc−2)、(bc−4)及び(bc−5)のうち1種又は2種と、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部(D)、紫外線吸収剤を0.1〜5質量部(E)を添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。その原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
比較例5、12で用いたカルボン酸ヒドラジド単独の融点のメインピーク温度は比較例5では171℃、比較例12では180℃であった。比較例6〜9では、それぞれ、用いた2種のカルボン酸ヒドラジドの混合物を上述の示差走査熱量測定に供した際の融点のメインピーク温度は存在しなかった。比較例10、11で用いた2種のカルボン酸ヒドラジドの混合物の融点のメインピーク温度は、それぞれ172℃、168℃であった。
【0125】
[比較例13]
表2に示した割合で、ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部に、カルボン酸ヒドラジド(bc−1)、(bc−2)のヒドラジン誘導体(B)及びヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)を添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。その原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0126】
[比較例14]
表2に示した割合で、ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部に、カルボン酸ヒドラジド(bc−1)、(bc−2)のヒドラジン誘導体(B)及びヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部(D)を添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。その原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0127】
[比較例15]
表2に示した割合で、ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部に、カルボン酸ヒドラジド(bc−1)、(bc−2)のヒドラジン誘導体(B)及びヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)、紫外線吸収剤を0.1〜5質量部(E)を添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。その原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上述のようにして、自動車内装用意匠部品を想定した評価金型により、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価を行った。
【0128】
上記実施例1〜20のポリアセタール樹脂組成物の組成、及び自動車内装用意匠部品を想定した評価金型を用いた、ホルムアルデヒド発生量、耐モールドデポジット(MD)性、耐MD評価用サンプルでの耐候性の評価、耐候試験後サンプルのホルムアルデヒド発生量の評価結果を表2に示す。また、比較例1〜15の組成及び評価結果を表3に示す。
【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
表に示す結果より、本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、自動車内装用意匠部品において、意匠面にシボ加工が施されたり、成形品にリブが配置されたり、肉厚が不均一である成形品した金型での耐モールドデポジット性に優れ、連続成形した後のホルムアルデヒド発生量が少なく、さらには、紫外線照射時(耐候性試験後)でのホルムアルデヒド発生量の抑制に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のポリアセタール樹脂組成物を用いると、意匠面にシボ加工が施されたり、成形品にリブが配置されたり、肉厚が不均一である成形品での耐モールドデポジット性に優れ、連続成形した後のホルムアルデヒド発生量が少なく、さらには、紫外線照射時でのホルムアルデヒド発生量の抑制に優れるため、特に自動車内装用意匠部品に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂と、
第1のヒドラジン誘導体と、
前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物と、
を含有する原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物を含む自動車内装用意匠部品であって、
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との混合物が下記式(1)及び(2)で表される条件を満足し、かつ
前記ポリアセタール樹脂組成物が、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜5質量部、紫外線吸収剤0.1〜5質量部を含む、自動車内装用意匠部品。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
(式(1)及び(2)中、T1は、示差走査熱量計を用いて前記混合物に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T2は、前記示差走査熱量計を用いて前記第1のヒドラジン誘導体に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記第1のヒドラジン誘導体に対して2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T3は、前記示差走査熱量計を用いて前記ポリアセタール樹脂に対して所定の温度プログラムで加熱及び冷却を施した後に、前記ポリアセタール樹脂に対して2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。)
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部の着色顔料を更に含有するポリアセタール樹脂組成物を含む、請求項1記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項3】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部のアルミニウム顔料を更に含有するポリアセタール樹脂組成物を含む、請求項1又は2記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項4】
前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物が、前記第1のヒドラジン誘導体とは異なる1種又は2種以上の第2のヒドラジン誘導体である、請求項1〜3のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項5】
前記第1のヒドラジン誘導体がカルボン酸ヒドラジドであり、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物が、前記第1のヒドラジン誘導体とは異なる1種又は2種以上のカルボン酸ヒドラジドである、請求項1〜4のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項6】
前記第1のヒドラジン誘導体が下記一般式(3)で表されるカルボン酸ジヒドラジドであり、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物が、前記第1のヒドラジン誘導体とは異なる1種又は2種以上のカルボン酸ヒドラジドである、請求項1〜5のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【化1】

(3)
(式(3)中、Rは2価の置換又は無置換の炭化水素基を示す。)
【請求項7】
前記第1のヒドラジン誘導体が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド及びドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種又は2種以上のカルボン酸ジヒドラジドである、請求項1〜6のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項8】
前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物とが、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド及びドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる互いに異なるカルボン酸ジヒドラジドを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項9】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との合計の含有量が0.03〜0.2質量部である、請求項1〜8のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項10】
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との含有比が、質量基準で2:8〜8:2である、請求項1〜9のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項11】
前記第1のヒドラジン誘導体と、前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との含有比が、質量基準で3:7〜7:3である、請求項1〜10のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項12】
前記第1のヒドラジン誘導体と前記第1のヒドラジン誘導体の融点を低下させる前記化合物との質量比1:1の混合物の吸熱容量が最も大きな吸熱ピークのピーク面積が、前記混合物の全吸熱ピークの総ピーク面積の95%未満である、請求項1〜11のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項13】
前記ポリアセタール樹脂が、ポリアセタールコポリマーである、請求項1〜12のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項14】
前記ポリアセタール樹脂が、メチラールに連鎖移動させて得られるポリアセタールコポリマーである、請求項1〜13のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。
【請求項15】
前記自動車内装用意匠部品が、ドア、インストロメンタルパネル、シート、サンルーフ、グローブボックス、ATシフト機構、アシストグリップ、スイッチ類、クリップ類、ワイパーからなる群から選択されるいずれか1種として使用される、請求項1〜14のいずれか1項記載の自動車内装用意匠部品。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231206(P2011−231206A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102143(P2010−102143)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】