説明

ポリアミドの乾燥及び結晶化方法

【課題】非晶状態の結晶性ポリアミドの結晶化工程において、外部からの熱輻射、熱伝導で所定の温度まで昇温させる方法では、装置内部に熱ムラが生じ、昇温が不均一になることや、反応時間が長いため、生産性の低下につながっている。本発明は、極めて短時間で、高結晶化度のポリアミドを効率的に得る乾燥及び結晶化方法を提供する。
【解決手段】ポリアミドの結晶化工程において、マイクロ波をポリアミドに直接照射して行うことにより課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非晶状態のポリアミドを極めて短時間で、ポリアミドペレット同士の融着もしくは装置壁面へ融着することなく、乾燥する方法及び結晶性ポリアミドの結晶化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形材料に用いられるポリアミドは、溶融状態で重縮合後、反応槽から取り出され、冷却固化の後、適当な形状に切断してペレット等の粒子形状に成形される。上記粒子状物を得る際、冷却水中もしくは空気中で処理されるため、得られたポリアミド粒子は、溶融時の飽和水分率以上の水分を含む。また、反応槽からの取り出し冷却固化する操作は、溶融状態から急冷されるものであり、結晶化速度の極端に速いポリアミド以外は通常非晶状態で固定される。
【0003】
これらのポリアミド粒子状物をそのまま溶融成形に供すると、加水分解等の劣化や水分由来による発泡現象が生じる。更にこれらの粒子に含まれる吸水率の変動は、溶融粘度の変動を招き、成形加工性に重大な影響を与える。このため溶融成形するに先立ち通常、ガラス転移温度から融点未満の温度で真空乾燥あるいは通気乾燥により水分が除去する必要がある。
【0004】
非晶状態にある結晶性ポリアミド粒子を、ガラス転移温度を越えて更に加熱するとき、非晶状態から結晶状態への転移過程を経る。非晶状態ではガラス転移温度付近から粘着性が急激に発現し、結晶化するまでこの粘着現象が見られるので、ポリアミドを乾燥する際、ポリアミド粒子が粒子間であるいは加熱装置の壁面に融着するという不都合が生じる。また、ポリアミド粒子の融着した塊が崩れることなく、そのまま結晶化すると固着という不都合が生じる。
【0005】
非晶状態の結晶性ポリアミドを乾燥するため、一般に次の様な方法が実施されている。(イ)回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて、不活性ガス中もしくは減圧下で加熱し結晶化させた後、更に加熱し、乾燥を一装置で行うバッチ方式。(特許文献1)
(ロ)溝型撹拌加熱装置を用いて、不活性ガス流通下で加熱し、結晶化させた後(予備結晶化処理)、ホッパー形状の加熱装置を用いて、不活性ガス流通下で乾燥する連続方式。
(ハ)溝型撹拌加熱装置を用いて結晶化させた後、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて乾燥を行う半連続方式もある。溝型撹拌加熱装置は主に非晶状態のポリアミドを結晶化するために用いられ、乾燥するためには、別装置での処理工程が必要となる。
【0006】
この様に結晶性ポリアミドの乾燥には予め結晶化工程が必要であり、回分式加熱装置もしくは溝型撹拌加熱装置を用いて行われているが、以下の様な問題点を持つ。(イ)回転ドラム等の回分式加熱装置を用いた場合、ポリアミド粒子が融着および固着したとき、そのポリアミド粒子の塊を崩すのに充分な撹拌混合は得られず、回転ドラムの回転を阻害させ、偏心、動力の振れ等の問題が生じる。このため、結晶化が終了するまで熱媒温度を抑え昇温速度を抑える、あるいは充填率を抑え回転数を高くしてポリマー粒子の移動を積極的に行う等、融着を抑える様な運転条件が設定されている。また、回転ドラム内部に融着および固着したポリアミド粒子の塊を崩すため、邪魔板の様な仕掛が施されている。しかし運転時間が長くなる、生産性が低下する、あるいは粒子が削られ粉が発生する等の不都合が生じる。
【0007】
(ロ)溝型撹拌加熱装置では機械的に融着および固着したポリアミド粒子の塊を崩すのに効果的であるが、やはり、ポリアミド粒子が結晶化するまで、加熱装置の壁面および撹拌翼に融着しないように熱媒温度を抑える工夫がなされている。この溝型撹拌加熱装置は回転ドラムに比較しシールが不十分であるため、不活性ガス流通下であってもポリアミド様な熱酸化を受け黄変し易いポリマーには不向きであり、また多量の高純度な不活性ガスを必要とする。更に粉の発生量は回転ドラムより多く、正規な粒子を汚染する。
【0008】
従来行なわれているこれらの方法では、低分子量ポリアミドを所定の温度まで昇温する手段として、外部からの熱輻射、熱伝導で所定の温度まで昇温させるため、装置内部に熱ムラが生じ、固相重縮合の反応度合が不均一になることや、熱効率が悪いことから反応時間が長くなり、低分子量成分が多く発生し、この低分子量成分が、固相重合装置壁面に付着することで、さらに固相重合中のポリアミドへの熱伝導が低下する問題があった。
【0009】
更には結晶性を有さない非晶性ポリアミドである場合、結晶化させることができないことから乾燥温度をガラス転移温度以上に上げることが出来ないことから、乾燥が非常に難しく、また非常に時間が掛かるという問題があった。
【0010】
近年、ポリエステルやポリアミドなどの重縮合系ポリマーの溶融重合及び固相重合行程において、2.45GHzのマイクロ波を照射して、短時間で、分子量を上げる方法が知られている(特許文献2、3)。マイクロ波は、誘電体であるポリエステル及びポリアミドの粉砕物並びに粉砕物内部の水に直接作用して、誘電緩和に基づく、発熱により、内部の水分除去並びに、ポリエステル及びポリアミドの粉砕物の温度を上昇させる。
【0011】
しかしながら、マイクロ波が、ポリエステル及びポリアミドの粉砕物へ作用すると、速い速度で温度上昇が行われるため、連続して同一粉砕物へマイクロ波が照射すると、粉砕物同士の融着、粉砕物の溶融や、粉砕物のコゲ等が発生するため、粉砕物を均質に攪拌し続ける必要があるが、前記特許文献では、これを十二分に考慮していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−073587号公報
【特許文献2】特開2006−225591号公報
【特許文献3】特開2006−104305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、非晶状態のポリアミドを極めて短時間で、ポリアミドペレット同士の融着もしくは装置壁面へ融着することなく、結晶化又は乾燥が可能な方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミドの結晶化及び乾燥工程において、均一攪拌されたポリアミド粉砕物にマイクロ波を照射して行うことにより課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
本発明の第1は、非晶状態にあるポリアミドの結晶化方法であって、攪拌型装置内でポリアミド樹脂ペレットを攪拌しながら、該ペレットにマイクロ波を照射して結晶化することを特徴とするポリアミドの結晶化方法に関するものである。
【0016】
本発明の第2は、攪拌型装置内でポリアミド樹脂ペレットを攪拌しながら、該ペレットにマイクロ波を照射して乾燥することを特徴とするポリアミドの乾燥方法に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の乾燥、結晶化方法と比較して、短時間で分子量を上げることなく、ポリアミド同士の融着や、装置壁面に融着することなく乾燥や結晶化を行うことができ、高結晶性のポリアミドも効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の結晶化方法で用いるポリアミドは、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分から形成されたポリアミド(以下、「ポリアミドX」と称す場合がある)である。キシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンが例示されるが、メタキシリレンジアミンが好ましい。ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとしては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが例示される。キシリレンジアミンとビス(アミノメチル)シクロヘキサンは合計で70モル%以上となる範囲で併用してもよい。
【0019】
本発明において、キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンとして、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明において、使用される炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸の例としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示できるが、これら中でもアジピン酸が好ましい。本発明では、30モル%を超えない範囲で上記以外のジカルボン酸、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を使用することができる。
【0021】
上記以外のポリアミド形成化合物としては、特に限定されないが、カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸を挙げることが出来る。
【0022】
本発明で用いるポリアミドXは少なくとも一の工程が溶融状態で進行する重縮合方法により製造される。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で直接重縮合させる方法、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法等により製造される。重合条件は特に限定されず、ポリマー製造分野において通常知られている知識に基づいて、原料化合物の仕込み比、重合触媒、重合温度、重合時間を適宜選択することが出来る。
【0023】
本発明で用いる溶融重合ポリアミドの相対粘度は1.70以上、4.00以下が好ましく、更に好ましくは1.80以上、3.60以下である。相対粘度を1.80以上とすることにより溶融状態に於ける適当な粘度を維持でき、重合槽から取り出される際のストランドの形成が容易になり、作業性を良好に保つことができる。一方、相対粘度を4.00以下とすることにより、重合槽内の溶融状態を均一に保つことができ、均一な重合度を有するポリアミドを得ることが可能となる。更に溶融状態の熱履歴の増加に伴い、ポリアミド分子が損傷を受けるのを防止でき、非直鎖の分子成長等の異常反応を抑制できる。
【0024】
本発明で用いるポリアミドXは分子間水素結合を有する他の結晶性ポリマーと同様、その非晶部分に水が取り込まれるとガラス転移温度が低下し、それにともない結晶化開始温度が低下し結晶化速度が速くなる。水分を含まなくても極端に結晶化速度の速いポリマー(ナイロン6、ナイロン66等)、結晶化速度が水分の影響を受け難いポリマー、吸水率が低いポリマー(ポリエステル)、あるいは水分を含まなくてもガラス転移温度と結晶化温度が近接したポリマーでは、これら水分の影響が大きすぎるかあるいは小さ過ぎるため、水分濃度の調整による効果はほとんど認められない。しかし、ポリアミドXが水分濃度の調整により受ける影響は、ナイロン6より穏やかでありポリエチレンテレフタレートよりは大きく、本発明の効果が顕著に現れる。つまり、結晶化度が13%以下のポリアミドXを特定の水分濃度に調整すると、加熱による粘着性の発現する温度域が低下すると共に粘着性の現れている時間が短縮する。そのため、融着が抑えられ、その結果固着が生じない。
【0025】
本発明の結晶化方法では、ポリアミドXの結晶化工程を水の存在下で実施することが好ましい。結晶化工程における水分濃度は、固着と融着防止の為に、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、更に好ましくは0.2質量%以上8質量%以下である。水分濃度が10質量%よりも高いと乾燥工程に時間が掛かることから適切ではない。
【0026】
水分濃度の調整方法としては、ポリアミドの吸水性を利用して予めポリアミドに吸湿あるいは吸水させて目的とする水分濃度となるよう調整した後、装置に供給する方法が挙げられる。また、装置にポリアミドとともに氷、水あるいはスチームを仕込んで水分濃度を調整する方法等が挙げられる。このときポリアミドに吸収されない過剰の水分が装置内に存在してもかまわない。本発明はこれらの水分濃度の調整方法に限定されるものではない。
【0027】
ポリアミドXはDSC測定(示差走査熱量測定)において融解に起因する明瞭な吸熱ピークが確認される結晶性ポリアミドであり、固相重縮合後の結晶化度は20%以上に達する。溶融状態で重縮合して得られるポリアミドXは重合後、水冷槽によって造粒されるのが一般的であり、そのときの結晶化度は通常13%以下である。なお、本発明において、結晶化度は、DSC測定における結晶融解熱量より求めることができる。
【0028】
結晶化工程はポリアミドの結晶化度が少なくとも10%以上に到達するまでの工程である。結晶化工程では、水分により結晶化を促進すると共に融着を抑える。本発明では結晶化工程を減圧、常圧、加圧のいずれでも実施できるが、装置内部の水分が装置外部に容易に散逸するのを防ぐためには減圧操作よりも常圧操作が好ましい。また、この温度域での熱伝導を有利にして、短時間で昇温するためにも常圧操作が好ましい。水分濃度を調整するために加えた水分が装置外に容易に散逸しないような構造であれば、特に加圧は必要としない。
【0029】
本発明の乾燥方法では、上記結晶化方法で使用するポリアミドが同様に使用できる。また、上記以外のポリアミドとして、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン6IT、ナイロン66/6T、ナイロン66/6I、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T、ナイロン66/6T/6I、ナイロン6T/12等の非晶性ポリアミドが使用でき、中でもナイロン6ITが好ましい。
【0030】
本発明の乾燥方法は、減圧、常圧のいずれでも実施できる。ポリアミドXを乾燥する場合、同時に結晶化を行っても良い。乾燥させるだけの工程であれば、減圧下で操作することにより更に乾燥効率を上げることができるが、常圧であっても乾燥は可能である。
【0031】
本発明の結晶化方法及び乾燥方法で用いられる攪拌型装置としては、バッチ式もしくは連続式の装置により、気密性に優れポリアミドと酸素との接触を高度に絶つことができる回分式装置が好ましい。タンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置およびナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型及び円筒型の装置が好適に使用できるが、これらに限定されるものではない。特に、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合装置が、マイクロ波を照射するには、好適であり、大平洋機工株式会社製のプロシェアミキサーやさらに混合性に優れるアペックスグラニュエーターなどが好ましい。
【0032】
回分式装置の運転条件、つまり装置内のポリアミド樹脂ペレットの移動速度は、ポリアミド樹脂ペレットが均一に加熱される範囲で任意に選択され、融着防止を目的として特に速い移動速度を与える必要はない。ポリアミド樹脂ペレットの移動速度はペレットの充填率および撹拌速度に依存するため、ポリアミド樹脂ペレットが均一な加熱を受けるためには、充填率が高くなれば撹拌速度を速くする必要があり、充填率が低くなれば撹拌速度を遅くできる。例えば、回転ドラムの場合、充填率が40%未満のときには0.5rpm〜30rpmの回転数が好ましく、充填率が40%以上のときには2rpm〜60rpmが好ましい。しかし、前述したように、ポリアミド樹脂ペレットが均一に加熱される運転条件であれば特にこの条件に限定されるものではない。特に、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合装置の場合、分散混合性に優れるため、充填率は40%以上90%以下でも良く、混合羽根の周速度は0.1m/s〜10m/sが好ましく、特に、ポリアミド樹脂ペレットに損傷を与えないようにするには、5m/s以下が最適である。
【0033】
本発明の結晶化方法及び乾燥方法では、ポリアミドと酸素が接触することによる劣化を避けるために装置内部の雰囲気の酸素濃度を低く保つ必要がある。従って、装置内部の酸素濃度は5容量%以下が好ましい。更に好ましくは1容量%以下であり、0.1容量%以下が特に好ましい。
【0034】
本発明の結晶化方法及び乾燥方法では、ポリアミドを加熱する際の装置伝熱面の温度は80℃以上200℃以下が好ましく、更に好ましくは100℃以上180℃以下である。なお、装置伝熱面の温度は、ポリアミドの融点に合わせて調節する。当該80℃以上とすることにより全工程の所要時間が相当に長くなるのを防止でき、当該200℃以下とすることによりポリアミドの融点に近くなるのを回避でき、装置内壁へのポリアミドの融着や固着を防止できる。
【0035】
本発明で照射するマイクロ波は、マグネトロンなどのマイクロ波発生装置によって発生させることができ、周波数が、0.3GHzから30GHzの電磁波をいう。市販の電子レンジなどで使用している2.45GHzが入手できる。本装置は、マイクロ波を吸収せず、また、反射しない材料が好ましい。また、マイクロ波は、人体へ悪影響を及ぼすため、マイクロ波の漏洩がないようにする必要がある。
【0036】
本発明で照射するマイクロ波は、装置内のポリアミド樹脂ペレットの昇温速度に合わせて、照射量の調節を行うのが好ましく、連続照射でも、断続照射でも構わない。また、結晶化方法及び乾燥方法の全工程で、マイクロ波のみを利用しなくてもよく、熱媒との併用でも良い。なお、熱媒と併用することで、装置の結露を防げるので、熱媒も併用するのが好ましい。さらに、マイクロ波の照射は、装置内の一か所からだけでなく、装置の容量や効率を鑑みて、数か所から照射しても構わない。
【実施例】
【0037】
以下に実施例、および比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお本発明における評価のための測定は以下の方法によった。
(イ)相対粘度
ペレット1gを精秤し、96%硫酸100ccに20〜30℃で攪拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5ccを取り、25℃±0.03℃の恒温槽中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96%硫酸そのものの落下時間(t0 )も同様に測定した。tおよびt0 の測定値から式(D)により相対粘度を求めた。
式(D) 相対粘度=t/t0
(ロ)水分濃度(質量%)
ペレット1gを、平沼産業株式会社製、平沼微量水分滴定装置(AQ−2000)を用い、融点温度で30分の気化条件で水分量を定量し、水分濃度を求めた。非晶性ポリアミドについては、230℃で30分の気化条件で行った。
(ハ)結晶化度
(株)島津製作所製、DSC-60を用い、昇温速度10℃/分で窒素気流下にDSC測定(示差走査熱量測定)を行い、測定中の結晶化に起因する発熱ピーク(熱量A)と融解に起因する吸熱ピーク(熱量B)から式Eから求めた。結晶融解熱(熱量C)は151J/gとした。
式(E) 結晶化度=((熱量B)―(熱量A))/熱量C×100 (%)
熱量は絶対値を用いた。
【0038】
製造例1
[ポリアミド1の調製]
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、アジピン酸を投入し、十分窒素置換した後、さらに窒素気流下で170℃まで昇温してアジピン酸を溶融状態とした後、メタキシリレンジアミンを撹拌下に滴下した。この間、内温を連続的に245℃まで昇温させ、またメタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、内温を連続的に255℃まで昇温し、15分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600mmHgまで10分間で連続的に減圧し、その後、40分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.2MPaの圧力を掛けポリマーを反応缶下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後に切断し、ペレット形状のポリマー(ポリアミド1)を得た。得られたポリアミド1の相対粘度は2.10、融点は237℃、ガラス転移温度は85℃、水分濃度は0.5質量%、結晶化度は12.1%であった。
【0039】
実施例1
[ポリアミド1の結晶化]
ポリアミド1のペレット20kgと水0.2kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製の回転ドラム式の50L容量装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、5rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から130℃まで昇温した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド2)の結晶化度は35%、水分濃度は0.3質量%、相対粘度は2.15であった。所要時間は40分であった。
【0040】
比較例1
[ポリアミド1の結晶化]
ポリアミド1のペレット20kgと水0.2kgをステンレス製の回転ドラム式の50L容量加熱装置に仕込み、5rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から130℃まで昇温した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド3)の結晶化度は25%、水分濃度は0.3質量%、相対粘度は2.15であった。所要時間は、120分であった。
【0041】
実施例2
[ポリアミド1の結晶化]
ポリアミド1のペレット20kgと水0.2kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から130℃まで昇温した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド4)の結晶化度は39%、水分濃度は0.3質量%、相対粘度は2.14であった。所要時間は30分であった。
【0042】
比較例2
[ポリアミド1の結晶化]
高温熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合装置にポリアミド1のペレット20kgと水0.2kgを仕込み、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から130℃まで昇温した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド5)の結晶化度は25%、水分濃度は0.3質量%、相対粘度は2.12であった。所要時間は120分であった。
【0043】
実施例3
[ポリアミド1の結晶化及び乾燥]
ポリアミド1のペレット20kgと水0.2kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から120℃まで昇温した。ここで、40Torr減圧下で反応系内を140℃まで昇温し60分間保持した。抜き出したペレット(ポリアミド6)の結晶化度は39%、水分濃度は0.1質量%、相対粘度は2.15であった。所要時間は110分であった。
【0044】
比較例3
[ポリアミド1の結晶化]
高温熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合装置にポリアミド1のペレット20kgと水0.2kgを仕込み、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から120℃まで昇温した。ここで、40Torr減圧下で反応系内を140℃まで昇温し300分間保持した。抜き出したペレット(ポリアミド7)の結晶化度は27%、水分濃度は0.1質量%、相対粘度は2.14であった。所要時間は500分であった。
【0045】
製造例2
[ポリアミド8の調製]
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、モル比でアジピン酸が94モル%とイソフタル酸が6モル%となる様に投入し、十分窒素置換した後、さらに窒素気流下で170℃まで昇温してジカルボン酸を流動状態とした後、メタキシリレンジアミンを撹拌下に滴下した。この間、内温を連続的に245℃まで昇温させ、またメタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。
メタキシリレンジアミン滴下終了後、内温を連続的に255℃まで昇温し、15分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600mmHgまで10分間で連続的に減圧し、その後、40分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.2MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後に切断し、ペレット形状のポリマーを得た(ポリアミド8)。得られたペレットの相対粘度は2.10、融点は229℃、ガラス転移温度は91℃、水分濃度は0.6質量%、結晶化度は6.4%であった。
【0046】
実施例4
[ポリアミド8の結晶化]
ポリアミド8のペレット20kgと水0.2kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から130℃まで昇温した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド9)の結晶化度は20%、水分濃度は0.3質量%、相対粘度は2.12であった。所要時間は30分であった。
【0047】
比較例4
[ポリアミド8の結晶化]
高温熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型装置にポリアミド8のペレット20kgと水0.2kgを仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、0.5rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて装置内を室温から130℃まで昇温した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド10)の結晶化度は19%、水分濃度は0.3質量%、相対粘度は2.11であった。所要時間は120分であった。
【0048】
[ポリアミド11]
非晶性ポリアミドとして、ナイロン6IT(三菱エンジニアリングプラスチックス製、ノバミッドX21、以下「ポリアミド11」と称す)を用いた。DSC法によるガラス転移温度は125℃、融点ピークは示さない。尚、硫酸を用いた相対粘度を測定することは出来なかった。
【0049】
実施例5
[ポリアミド11の乾燥]
吸湿して水分濃度が0.5%となったポリアミド11のペレット20kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、40Torr減圧下で装置内を室温から90℃まで昇温し60分間保持した。このとき熱媒温度は90℃とした。60分後に抜き出したペレット(ポリアミド12)の水分濃度は0.1質量%、所要時間は90分であった。
【0050】
比較例5
[ポリアミド11の乾燥]
吸湿して水分濃度が0.5%となったポリアミド11のペレット20kgをステンレス製の回転ドラム式の加熱装置に仕込み、5rpmで回転させた。十分窒素置換した後、40Torr減圧下で装置内を室温から90℃まで昇温し300分間保持した。ここで、抜き出したペレット(ポリアミド13)の水分濃度は0.2質量%、所要時間は420分であった。
【0051】
比較例6
[ポリアミド1の結晶化]
攪拌羽根を停止し、攪拌しない以外は実施例2と同様に実施した。内温が110℃まで上昇した際、マイクロ波の局所照射により、ポリアミド樹脂ペレットの温度が部分的に融点を超え溶融してしまった。
【0052】
実施例1〜4は、マイクロ波を攪拌しながら照射することにより、従来方法である比較例1〜4と比較して、短時間でかつ効率的に、結晶化及び乾燥を行うことが出来た。実施例5は、乾燥が困難である非晶性ポリアミドについても、従来の乾燥方法よりも短時間でかつ効率的に乾燥することが出来た。比較例6では、マイクロ波照射時に攪拌していないことから、マイクロ波照射により部分的に温度が上がり、一部溶融が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶状態にあるポリアミドの結晶化方法であって、攪拌型装置内でポリアミド樹脂ペレットを攪拌しながら、該ペレットにマイクロ波を照射して結晶化することを特徴とするポリアミドの結晶化方法。
【請求項2】
前記ポリアミドが、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分から形成されるポリアミドである請求項1に記載の結晶化方法。
【請求項3】
水の存在下でマイクロ波を照射する請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【請求項4】
攪拌型装置の熱源として、マイクロ波と熱媒を併用する請求項1から3のいずれかに記載の結晶化方法。
【請求項5】
前記攪拌型装置が、回分式である請求項1から4のいずれかに記載の結晶化方法。
【請求項6】
前記攪拌型装置が、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合装置である請求項1から5のいずれかに記載の結晶化方法。
【請求項7】
攪拌型装置内でポリアミド樹脂ペレットを攪拌しながら、該ペレットにマイクロ波を照射して乾燥することを特徴とするポリアミドの乾燥方法。
【請求項8】
前記ポリアミドが、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分から形成されるポリアミドである請求項7に記載の乾燥方法。
【請求項9】
前記ポリアミドが非晶性ポリアミドである請求項7に記載の乾燥方法。
【請求項10】
減圧下で乾燥を行う請求項7から9のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項11】
攪拌型装置の熱源として、マイクロ波と熱媒を併用する請求項7から10のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項12】
前記攪拌型装置が、回分式である請求項7から11のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項13】
前記攪拌型装置が、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合装置である請求項7から12のいずれかに記載の乾燥方法。

【公開番号】特開2010−215683(P2010−215683A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60549(P2009−60549)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】