説明

ポリアミドイミド樹脂ワニス及びその製造方法

【課題】 高沸点のアミド系溶剤、ラクトン系溶剤の含有量が極めて少なく、本発明の樹脂ワニスを耐熱性の低いフイルム、例えばポリエチレンテレフタレートフイルム等に直接塗布乾燥することで容易に耐熱、耐薬品性を有する保護層を形成した積層体を得る。
【解決手段】 ポリアミドイミド樹脂と溶剤からなるポリアミドイミド樹脂ワニスにおいて、溶剤にケトン系溶剤を含有し、且つアミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の含有量の合計が1重量%未満であり、ポリアミドイミド樹脂を構成するモノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドイミド樹脂ワニス及びその製造方法、それを用いた積層体等に関する。更に詳しくは高沸点のアミド系溶剤、ラクトン系溶剤を含有量が極めて少ない樹脂ワニス及びその製造方法であり、本発明の樹脂ワニスまたはそれから製造される組成物を耐熱性の低いフイルム、例えばポリエチレンテレフタレートフイルム等に直接塗布乾燥することで容易に耐熱、耐薬品性を有する保護層を形成した積層体を得ることが可能である。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は耐熱性、耐薬品性、機械的特性に優れており、成形材料、コーティング材料、接着剤等に用いられている。しかし、ポリアミドイミド樹脂は耐薬品性に優れる反面、溶解可能な溶剤は限られており、沸点の高いN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤等にしか溶解しない問題があった。このため耐熱性の低いフイルム、例えばポリエチレンテレフタレートフイルムにポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布、乾燥する際、フイルムが収縮したり溶融したりしてしまうため実用化は困難であった。また、沸点の高いラクトン系溶剤含有量を減らすためγ−ブチロラクトン中で重合した後、ケトン系溶剤のシクロヘキサノンで希釈する方法(例えば特許文献1)が開示されているが、重合時に使用したγ−ブチロラクトンがポリアミドイミド樹脂ワニス中33%を占めており問題を解決することは困難である。
【0003】
上記問題を解決するために沸点の低いアルコール溶剤可溶のポリアミドイミド樹脂(例えば特許文献2)、ポリアミドイミドエステル樹脂(例えば特許文献3)が開示されている。しかし、これらのポリアミドイミド樹脂は高沸点溶剤中での重合が必須であり、溶剤置換が必要であった。具体的にはポリアミドイミド樹脂ワニスの製造方法(例えば特許文献4)が開示されているように、高沸点溶剤を含むポリアミドイミド樹脂ワニスを貧溶剤からなる凝固浴中で凝固させこれを乾燥した後、低沸点溶剤に再溶解させる手順が必要である。しかし、上記手順では手順が煩雑な上、高沸点溶剤を完全に取り除くことは困難であるといった問題があった。
【0004】
【特許文献1】特許第3134956号公報
【特許文献2】特許第3536945号公報
【特許文献3】特許第3589316号公報
【特許文献4】特許第3296056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高沸点のアミド系溶剤、ラクトン系溶剤の含有量が極めて少なく、本発明の樹脂ワニスを耐熱性の低いフイルム、例えばポリエチレンテレフタレートフイルム等に直接塗布乾燥することで容易に耐熱、耐薬品性を有する保護層を形成した積層体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。即ち本発明は、以下のものである。
【0007】
(1)ポリアミドイミド樹脂と溶剤からなるポリアミドイミド樹脂ワニスにおいて、溶剤にケトン系溶剤を含有し、且つアミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の含有量の合計が1重量%未満であり、ポリアミドイミド樹脂を構成するモノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニス。
【0008】
(2)(1)に記載のポリアミドイミド樹脂ワニスに、レベリング剤、消泡剤、硬化剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤およびマット剤からなる群のうち少なくとも1種以上を添加したポリアミドイミド樹脂組成物。
【0009】
(3)(1)に記載のポリアミドイミド樹脂ワニスまたは(2)に記載したポリアミドイミド樹脂組成物を基材に塗布、乾燥して得られた積層体。
【0010】
(4)(3)に記載の積層体を用いた熱転写記録媒体。
【0011】
(5)モノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であるポリアミドイミド樹脂を、以下1)および2)を満足する条件で重合するポリアミドイミド樹脂ワニスの製造方法。
1)50重量%以上がケトン系溶剤である。
2)アミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の合計が1重量%未満である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスは高沸点のアミド系溶剤、ラクトン系溶剤の含有量が極めて少なく、本発明の樹脂組成物を耐熱性の低いフイルム、例えばポリエチレンテレフタレートフイルム等に直接塗布乾燥することで容易に耐熱、耐薬品性を有する保護層を形成した積層体を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。本発明はポリアミドイミド樹脂と溶剤からなるポリアミドイミド樹脂ワニスにおいて、溶剤にケトン系溶剤を含有し、且つアミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の含有量の合計がワニス全体に対して1重量%未満であり、ポリアミドイミド樹脂を構成するモノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニスである。アミド系溶剤、ラクトン系溶剤が1重量%以上であるとポリアミドイミド樹脂ワニスをフイルムに塗布、乾燥して積層体を作成した際、溶剤が残留することにより耐熱性が劣る可能性がある。アミド系溶剤、ラクトン系溶剤は好ましくは0.5重量%未満、更に好ましくは0.3重量%未満、もっとも好ましくは0.1重量%未満である。
【0014】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスは、モノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であるポリアミドイミド樹脂を、以下1)および2)を満足する条件で重合することにより得ることが出来る。
1)50重量%以上がケトン系溶剤である。
2)アミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の合計が1重量%未満である。
ケトン系溶剤としては炭素数が3〜8の鎖状または環状のものが好ましく、具体的にはアセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン等が挙げられ、好ましくはブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンであり、更に好ましくはシクロペンタノン、シクロヘキサノンである。重合時のケトン系溶剤:その他溶剤の比率は100:0〜50:50が好ましく、更に好ましくは100:0〜60:40であり、もっとも好ましくは100:0〜70:30である。また、その他に併用しても良い溶剤としてはアミド系溶剤、ラクトン系溶剤以外で反応を阻害しなければ良く、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0015】
本発明においてアミド系溶剤とはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンである。
【0016】
本発明においてラクトン系溶剤とはγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンである。
【0017】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスにおけるケトン系溶剤の含有量は樹脂100部に対し50〜900部が好ましく、更に好ましくは100部〜600部である。また、本ポリアミドイミド樹脂組成物はケトン系溶剤を必須とするが、それ以外にもメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤を併用しても良い。この中で好ましくはアルコール系溶剤である。これらの溶剤を重合中に添加しても良いし、重合完了後の希釈に用いても良い。
【0018】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスに含まれるポリアミドイミド樹脂は酸成分とイソシアネート成分から製造するイソシアネート法、或は酸クロリド成分とアミン成分から製造する酸クロリド法、酸成分とアミン成分から製造する直接法などの公知の方法で製造されるが、製造コストの観点からイソシアネート法が好ましい。
【0019】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスに含まれるポリアミドイミド樹脂をイソシアネート法で合成する場合、酸成分としてトリメリット酸無水物を必須成分とすることが好ましいが、溶剤溶解性を付与するためその一部を他の多塩基酸またはその無水物に置き換えることができる。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメシン酸、シクロヘキサントリカルボン酸等の3官能カルボン酸等が挙げられる。
【0020】
また、酸成分の一部をグリコール、ジアミンに置き換えてウレタン基、ウレア基を分子内に導入することで溶剤溶解性を改良することが出来る。グリコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、上記ジカルボン酸の1種又は2種以上と上記グリコールの1種又は2種以上とから合成される分子量300〜10000の末端水酸基ポリエステル等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスに含まれるポリアミドイミド樹脂をイソシアネート法で合成する場合、ジイソシアネート成分として2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−ジフェニルスルホンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられ、これらの中では反応性、溶剤溶解性の点から2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましく、更に好ましくは2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートである。
【0022】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスはポリアミドイミド樹脂を構成するモノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族及び/又は脂環族成分であることを特徴とする。これらの成分を含むことでケトン系の溶剤への溶解性が向上し、重合時及び組成物のハンドリング性が良くなる。脂肪族、脂環族成分は、酸成分、イソシアネート成分、その他成分(ジオール成分、アミン成分等)のいずれに含まれていてもよい。これらの成分の酸成分としてはシュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。イソシアネート成分としては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。その他成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、末端水酸基ポリエステルで上記原料を含むもの、ポリカプロラクトンジオールで分子量300〜10000のものが挙げられる。
【0023】
ポリアミドイミド樹脂の組成比の具体例としては例えば下記の通りである。ここで、A〜Eは下記の原料を示し、数字はモル比でA〜D、Ea〜Ebのそれぞれの合計は100である)
A:トリメリット酸無水物
B:脂肪族又は脂環族ジカルボン酸
C:その他成分(脂肪族又は脂環族のジオール成分、脂肪族又は脂環族のジアミン成分 、末端水酸基ポリエステルで脂肪族又は脂環族のジオール成分を原料とするもの等 )
D:四塩基酸無水物
E0:脂肪族又は脂環族ジイソシアネート
E1:芳香族又は脂環族ジイソシアネート
E2:Eaとは異なる芳香族又は脂環族ジイソシアネート
A/E0=100/100
A/B/E1=90〜30/10〜70/100
A/B/E1/E2=90〜30/10〜70/10〜90/90〜10
A/C/E1=90〜30/10〜70/100
A/C/E1/E2=90〜30/10〜70/10〜90/90〜10
A/C/D/E1=80〜50/10〜50/10〜50/100
A/C/D/E1/E2=80〜50/10〜50/10〜50/10〜90/90〜10
【0024】
また、上記以外に積層体の摩擦係数を低下させるため官能基を有する反応性シリコーンを共重合、添加しても良い。共重合量はポリアミドイミド樹脂ユニット100重量%に対して0重量%〜30重量%が好ましい。
【0025】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスに含まれるポリアミドイミド樹脂を酸クロライド法で製造する場合は上記酸成分のカルボン酸をカルボン酸クロライドに、イソシアネート成分を対応するアミンに変更して製造することが出来る。また、直接法で製造する場合は上記酸成分とイソシアネート成分を対応するアミンに変更して製造することが出来る。
【0026】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスに含まれるポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.05dl/g以上2.0dl/gであり、好ましくは0.1dl/g以上1.5dl/gである。0.05dl/g未満では脆くなり積層体の耐久性が不足する恐れがある。また2.0dl/gを超えるとポリアミドイミド樹脂ワニスの粘度が高くなり積層体を製造する際にハンドリングが困難になる恐れがある。
【0027】
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂ワニスはケトン系溶剤を含む溶剤中で固形分濃度が10〜80重量%で60〜180℃に加熱しながら攪拌することで製造することができる。
【0028】
ポリアミドイミド樹脂ワニスを製造する際、反応を促進するため必要に応じて触媒を用いても良く、例えばトリエチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等のアミン類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等のハロゲン化金属、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機塩基が挙げられる。触媒量は酸成分100モル%に対して0モル%以上10モル%以下が好ましく、更に好ましくは0.5モル%以上5モル%以下である。10モル%以上の場合、積層体を形成した際樹脂層から触媒がブリードアウトして表面を汚す恐れがある。
【0029】
イソシアネート法で製造する場合、原料の仕込み順序に制限はないが
(1)酸、イソシアネートの一括仕込み
(2)過剰の酸、イソシアネートを仕込んだ後、更にイソシアネートを添加する。
(3)酸、過剰のイソシアネートを仕込んだ後、更に酸を添加する。
方法が挙げられ、好ましくは(2)である。また、酸成分とイソシアネート成分の仕込みモル比は(酸成分/イソシアネート成分)=0.90〜1.20の範囲が好ましく、更に好ましくは0.95〜1.10である。0.90未満或いは1.20を超える場合、分子量が上がらないため積層体の力学物性が低くなり支障をきたすことがある。
【0030】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスに含まれるポリアミドイミド樹脂はガラス転移温度が100℃以上400℃以下であり、更に好ましくは150℃以上350℃以下である。100℃以下では積層体の耐熱性が低くなる恐れがある。また400℃を超える場合ポリアミドイミド樹脂の溶解性が低くなり、溶解できない恐れがある。
【0031】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスの特性を付与するため、レベリング剤、消泡剤、多官能エポキシ化合物(例えばフェノールノボラック型、ビスフェノールA型で添加量は樹脂固形分に対して0重量%以上30重量%未満)、イソシアネート化合物、メラミン化合物等の硬化剤、カーボンブラック等の帯電防止剤、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル等の滑剤、着色剤、マット剤を樹脂本来の特性を損なわない範囲で添加しても良い。
【0032】
本発明の積層体は上記で得られたポリアミドイミド樹脂ワニスまたは組成物をフイルムを塗布、乾燥することにより得ることが出来る。フイルムとしてはポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド等のフイルムが挙げられる。また、塗布方法としては公知の方法で実施することができ、例えばコンマコーター、ブレードコート、スプレーコート、ダイコート等が挙げられる。乾燥方法としては公知の方法で実施する。例えば熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられる。塗布厚は乾燥後の膜厚で0.01〜200μm、好ましくは0.03〜100μm、更に好ましくは0.05〜50μmである。乾燥温度はフイルムの耐熱性にもよるが50〜200℃、好ましくは80〜160℃、更に好ましくは100〜140℃である。
【0033】
本ポリアミドイミド樹脂ワニスは従来のポリアミドイミド樹脂ワニスよりも低温で加工出来るためフイルム、金属に塗布した後乾燥することで容易に耐熱、耐薬品性を有する保護層を有する積層体が得ることが出来、またポリアミドイミド樹脂ワニスと帯電防止剤、着色剤等を併用することでさらに機能を付与した積層体を得ることが出来る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例で本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例で制限されるものではない。実施例で示される評価は以下の方法で測定した。
【0035】
1.対数粘度
ポリイミドアミドイミド樹脂ワニスを50μmのポリプロピレンフイルム(東洋紡製パイレンフイルムOT)に100μmアプリケーターを用いて塗布し、熱風乾燥機(ヤマト科学製DH42)130℃で1時間乾燥して固形樹脂を得た。この固形樹脂0.5gを100mlのN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液を用いて、ウベローデ粘度管で25℃において測定した。
【0036】
2.ガラス転移温度
上記で得られた固形樹脂を5mg測り採り、アルミ製マイクロセルに入れた。このマイクロセルを示差走査熱量計(セイコーインスツル製SSC/5200)で20℃/分で20℃から160℃まで昇温、室温まで冷却した後20℃/分で20℃から300℃まで測定し屈曲点をガラス転移温度とした。
【0037】
3.基材密着性
ポリアミドイミド樹脂ワニスをポリエチレンテレフタレートフイルム(東洋紡製E5001)に乾燥膜厚が約10μmになるように塗布し、熱風乾燥機(ヤマト科学製DH42)130℃で10分乾燥して積層体を得た。このサンプルにカッターナイフで1辺1cmの十字の切れ込みを入れセロハンテープ剥離により基材密着性を評価した。セロハンテープに付着したポリアミドイミド樹脂量で ○:樹脂付着なし △:樹脂僅かに付着 ×:基材より剥離とした。
【0038】
4.耐ブロッキング性
上記3で得られた積層体のコート面同士を合わせヒートシーラー(テスター産業製)で温度120℃、圧力0.1MPa、10秒熱圧着した後の引き剥がし易さで耐ブロッキング性を評価した。引き剥がし易さにより○、△、×の3段階で評価した。
【0039】
実施例1
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)0.5モル、セバシン酸(豊国製油製)0.5モル、ミリオネートMT(日本ポリウレタン工業製)0.46モル、コロネートT100(日本ポリウレタン工業製)0.5モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)を仕込み固形分濃度50%で140℃1時間反応させた後、触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン0.02モルをゆっくり添加し140℃3時間反応させた。分子量を調整するためミリオネートMTを0.02モル追加して更に140℃で2時間反応させた後、冷却し固形分濃度が25重量%となるようシクロヘキサノンで希釈してポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。
【0040】
実施例2
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)0.6モル、1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマンケミカル製)0.3モル、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)(新日本理化製TMEG200)0.1モル、ミリオネートMT(日本ポリウレタン工業製)0.5モル、コロネートT100(日本ポリウレタン工業製)0.48モル、触媒としてフッ化カリウム0.01モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)を仕込み固形分濃度50%で120℃5時間反応させた後、冷却し固形分濃度が25%、シクロヘキサノンとエタノール(ナカライテスク製)の重量比が70対30になるようシクロヘキサノンとエタノールで希釈した後、アミド系溶剤のN−メチル−2−ピロリドンを0.3重量%の含有量になるように加えてポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。
【0041】
実施例3
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)0.8モル、1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマンケミカル製)0.18モル、バイロン220(東洋紡製水酸基末端ポリエステル)0.02モル、コロネートT100(日本ポリウレタン工業製)0.98モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)仕込み固形分濃度50%で120℃5時間反応させた後、冷却し固形分濃度が25重量%となるようシクロヘキサノン(関東電化工業製)で希釈してポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0042】
実施例4
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)0.7モル、1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマンケミカル製)0.3モル、ミリオネートMT(日本ポリウレタン工業製)0.5モル、コロネートT100(日本ポリウレタン工業製)0.49モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)を仕込み固形分濃度50%で100℃0.5時間反応させた後、触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン0.02モルをゆっくり添加して100℃1時間反応させた。KF8008(信越化学工業製末端水酸基シリコーン)を樹脂固形分に対し12%添加した後120℃4時間反応させた。冷却し固形分濃度が25重量%、シクロヘキサノンとエタノール(ナカライテスク製)の比が80対20になるようシクロヘキサノンとエタノールで希釈してポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。
【0043】
実施例5
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)0.9モル、プラクセル205(ダイセル化学製ポリカプロラクトンジオール)0.1モル、コロネートT100(日本ポリウレタン工業製)0.98モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)仕込み固形分濃度50%で120℃5時間反応させた後、冷却し固形分濃度が25重量%となるようシクロヘキサノン(関東電化工業製)で希釈してポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0044】
比較例1
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)1モル、ミリオネートMT(日本ポリウレタン工業製)0.95モル、触媒としてフッ化カリウム0.01モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)仕込み固形分濃度50重量%で120℃5時間反応させたが、反応途中でポリアミドイミド樹脂が析出して正常なワニスを得ることが出来なかった。
【0045】
比較例2
窒素導入管と冷却装置の付いた反応容器に無水トリメリット酸(三菱ガス化学製)1モル、TODI(日本曹達製トリジンジイソシアネート)0.95モル、触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン0.01モル、溶剤としてシクロヘキサノン(関東電化工業製)仕込み固形分濃度50重量%で120℃5時間反応させたが、反応途中でポリアミドイミド樹脂が析出して正常なワニスを得ることが出来なかった。
【0046】
比較例3
実施例1で得られたポリアミドイミド樹脂ワニスにアミド系溶剤のN−メチル−2−ピロリドンを20重量%の含有量になるように加えてポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。
【0047】
比較例4
トリメリット酸無水物0.5モル、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメテート)0.5モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1モル、γ−ブチロラクトン398gを仕込み、攪拌しながら約30分で180℃に昇温した。その後、180℃で約5時間攪拌を続けた後100℃まで冷却して反応を完了した。その後、341gのシクロヘキサノンを加えて更に攪拌しながら均一に希釈してポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0048】
比較例5
ポリエステル樹脂溶液(東洋紡製バイロン20SS MEK/トルエン=50/50 固形分濃度30重量%)を使用した。
【0049】
以上のようにして得られた樹脂ワニスを用いて評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
表1より実施例1〜5はポリアミドイミド樹脂ワニス中のアミド系、ラクトン系溶剤含有量が少ないため、乾燥後の残留溶剤量を抑えることが出来、基材密着性、耐ブロッキング性が良好である。これに対し、比較例3〜4は乾燥後の残留溶剤量が多くなり基材密着性が劣る。また比較例5はポリエステル樹脂でガラス転移温度が低いため耐ブロッキング性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスは高沸点のアミド系溶剤、ラクトン系溶剤の含有量が極めて少なく、耐熱性の低いフイルム、例えばポリエチレンテレフタレートフイルム等に直接塗布乾燥することで容易に耐熱、耐薬品性を有する保護層を形成した積層体を得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂と溶剤からなるポリアミドイミド樹脂ワニスにおいて、溶剤にケトン系溶剤を含有し、且つアミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の含有量の合計がワニス全体に対して1重量%未満であり、ポリアミドイミド樹脂を構成するモノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニス。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂ワニスに、レベリング剤、消泡剤、硬化剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤およびマット剤からなる群のうち少なくとも1種以上を添加したポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂ワニスまたは請求項2に記載したポリアミドイミド樹脂組成物を基材に塗布、乾燥して得られた積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の積層体を用いた熱転写記録媒体。
【請求項5】
モノマー成分のうち少なくとも1成分が脂肪族および/または脂環族成分であるポリアミドイミド樹脂を、以下1)および2)を満足する条件で重合するポリアミドイミド樹脂ワニスの製造方法。
1)50重量%以上がケトン系溶剤である。
2)アミド系溶剤および/またはラクトン系溶剤の合計が1重量%未満である。

【公開番号】特開2007−138000(P2007−138000A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332912(P2005−332912)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】