説明

ポリアミドイミド樹脂

【課題】
ポリアミドイミド樹脂の耐熱性や強度、耐薬品性などの特性を維持しながら水分散性を向上させ、ポリアミドイミド樹脂の酸および/または酸無水物末端の中和に使用する塩基性化合物を低減または不要にした、水系塗料に好適なポリアミドイミド樹脂を提供する。
【解決手段】
ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入していることを特徴とするポリアミドイミド樹脂。好ましくは、かかるポリアミドイミド樹脂は、ポリアルキレングリコール構造を有する下記一般式[I]で表される成分を、酸成分およびアミン/イソシアネート成分と共重合することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入することにより、ポリアミドイミド樹脂の特性を維持しながら水分散性を高めた、水系塗料に好適なポリアミドイミド樹脂に関する。また、本発明は、かかる樹脂を使用してポットライフを向上させた水系エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、耐熱性コーティング剤・接着剤として、電子電気材料分野を中心に種々の用途で広く使用されている。この用途では、ポリアミドイミド樹脂は、N−メチル−2−ピロリドンやN,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトンといった非プロトン性極性有機溶剤に溶解したワニスの状態で使用されるのが一般的である。これらの有機溶剤は、沸点が100℃以上と高く、溶剤を揮発させるために大量の熱量が必要であるのみでなく、溶剤自身の吸水性が高いため、樹脂ワニスが吸水し、保管中や塗工中に樹脂が析出するといった問題点がある。また、近年、環境負荷の低減や化石燃料の枯渇防止のため、有機溶剤の使用を抑制することが広く求められている。
【0003】
有機溶剤の使用を抑制する方法としては、ポリアミドイミド樹脂の有機溶剤のワニスの代わりに水系エマルションを使用する方法が考えられる。例えば、特許文献1では、ポリアミドイミド樹脂の酸および/または酸無水物末端を過剰の塩基性化合物(アミン)で中和して水分散性を高め、水系エマルションとする方法が提案されている。しかしながら、この方法では、過剰に添加したアミンのために水系エマルションが塩基性になり、樹脂中のイミド結合が切断されやすく、得られた水系エマルションのポットライフが悪いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−284993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、ポリアミドイミド樹脂の耐熱性や強度、耐薬品性などの特性を維持しながら水分散性を向上させ、ポリアミドイミド樹脂の酸および/または酸無水物末端の中和に使用する塩基性化合物を低減または不要にした、水系塗料に好適なポリアミドイミド樹脂を提供することにあり、さらにはかかる樹脂を使用してポットライフを向上させた水系エマルションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するためにポリアミドイミド樹脂自体の水分散性を向上させる方法について鋭意検討した結果、ポリアミドイミド樹脂の分子中にポリアルキレングリコール構造を導入することにより、樹脂の水分散性が飛躍的に高まることを見出した。さらに、ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入することによって、主鎖に導入する場合より少量で水分散性向上効果を発揮でき、耐熱性や強度、耐薬品性などのポリアミドイミド樹脂の特性を低下させないことを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)の構成からなるものである。
(1)ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入していることを特徴とするポリアミドイミド樹脂。
(2)ポリアルキレングリコール構造を有する下記一般式[I]で表される成分を、酸成分およびアミン/イソシアネート成分と共重合することによって得られることを特徴とする(1)に記載のポリアミドイミド樹脂。

(式[I]中、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜12個のアルキル基を表し、Rは、水素、または置換されたもしくは置換されていない炭素数1〜12個のアルキル基を表し、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基またはアルコキシ基を表し、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基を表し、Rは、水素、または置換されたもしくは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、nは、3〜500の整数を表し、XおよびXは、それぞれ独立してイソシアネート基、アミン基、水酸基、カルボン酸基、酸無水物基、またはグリシジル基を表す。)
(3)アミン/イソシアネート成分が下記一般式[II]および/または下記一般式[III]で表されることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアミドイミド樹脂。

(式[II]中、Rは、水素または炭素数1〜3個のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立してアミン基またはイソシアネート基を表す。)

(式[III]中、Rは、炭素数1〜6個のアルキル基を表し、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3個のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立してアミン基またはイソシアネート基を表す。)
(4)(1)〜(3)のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂を水または水/共溶剤に分散して得られることを特徴とする水系エマルション。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、親水性を有するポリアルキレングリコール構造を導入しているので、樹脂自体の水分散性が極めて高く、少量の塩基性化合物で中和するだけで、さらには塩基性化合物で中和しなくても、好適な水系エマルションにすることができる。また、本発明のポリアミドイミド樹脂は、ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入しているので、主鎖に導入する場合と比較して少量で、ポリアルキレングリコール構造の持つ親水性の機能をポリアミドイミド樹脂に顕在化させることができ、ポリアミドイミドが本来持つ耐熱性や強度、耐薬品性をあまり低下させずに水分散性を付与することができる。さらに、本発明のポリアミドイミド樹脂から得られる水系エマルションは、塩基性化合物を過剰に含まないため、優れたポットライフを持ち、また、かかる水系エマルションから得られる塗膜は、樹脂中に屈曲性の高いポリアルキレングリコール構造を有するので、高い柔軟性を持つ。従って、本発明は、ポリアミドイミド樹脂を使用した環境に優しい水系塗料として電子・電気機器等の幅広い分野で好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のポリアミドイミド樹脂について詳述する。
本発明のポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミドの側鎖にポリアルキレングリコール構造が導入されたものであり、この分子構造により、ポリアミドイミドの持つ耐熱性や強度、耐薬品性等をあまり低下させずに、水分散性と柔軟性を持つことを特徴とする。
【0010】
ポリアミドイミドは、酸成分とアミン/イソシアネート成分の共重合により得られる樹脂であり、耐熱性や強度、耐薬品性を有する。ポリアミドイミドは、従来公知の方法で合成されることができ、例えば、イソシアネート法、酸クロリド法、低温溶液重合法、室温溶液重合法によって合成されることができる。これらの合成方法のうち、製造コスト等の観点からは、脱炭酸によるイソシアネート法が好ましい。イソシアネート法では、ポリアミドイミドは一般に、酸成分と、アミン/イソシアネート成分を、非プロトン性極性溶剤中で重合することによって得られる。この際、前記成分以外に、(多価)アルコール成分、(多価)エポキシ成分等を共重合することも可能である。
【0011】
ポリアルキレングリコール構造としては、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリテトラメチレングリコール構造、ポリネオペンチルグリコール構造などが挙げられ、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを、多価アルコール類やヒドロキシカルボン酸類に付加する方法などによって得ることができる。ポリアルキレングリコール構造は、多数の親水性のエーテル結合を含むものであり、本発明のポリアミドイミド樹脂に水分散性や柔軟性を付与する役割を有する。
【0012】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入していることを特徴とする。ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入すると、ポリアミドイミドの長い主鎖の外側(表面)にポリアルキレングリコール構造が突き出した形態をとることができる。この形態では、主鎖の表面に突き出したポリアルキレングリコール構造のモビリティーが高く、周囲の水と接触しやすいため、ミセル形成(水分散化)が容易である。一方、ポリアルキレングリコール構造を主鎖に導入すると、この構造は、ポリアミドイミドの長い主鎖内に取り込まれてしまうため、周囲の水と接触しにくく、水分散効果を十分に発揮することができない。このようにポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入することによって、主鎖への導入と比較して少量のポリアルキレングリコール構造で水分散性を付与することができ、結果として、樹脂中のポリアミドイミドの量を十分多くすることができ、ポリアミドイミドが本来持つ耐熱性や強度、耐薬品性をあまり低下させないで済む。具体的には、本発明のポリアミドイミド樹脂は、50℃以上のTg、および30MPa以上の引張破断強度を達成することができ、また、酢酸エチル中への25℃での1日間の浸漬でも溶解したり膨潤したりしない。
【0013】
また、ポリアルキレングリコール構造は、多数のエーテル結合を有するため、屈曲性が高い。このため、本発明のポリアミドイミド樹脂は、ポリアルキレングリコール構造を有さない従来のポリアミドイミド樹脂と比較して柔軟性に優れる。具体的には、本発明のポリアミドイミド樹脂は、30%以上の引張破断伸度および300MPa以上の引張弾性率を達成することができる。
【0014】
本発明のポリアミドイミド樹脂中のポリアルキレングリコール構造(後述の一般式[I]中の(−R−O−)で表される構造)の含有量は、1重量%〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは3重量%〜70重量%、更に好ましくは5重量%〜50重量%である。ポリアルキレングリコール構造の含有量が少なすぎる場合、樹脂の親水性が不十分なため、過剰の塩基性化合物による中和無しでは水分散が困難になるおそれがあり、多すぎる場合、ポリアミドイミドの含有量が不足し、樹脂の耐熱性や強度、耐薬品性が不十分になるおそれがある。
【0015】
本発明のポリアミドイミド樹脂の対数粘度は、N−メチル−2−ピロリドン中(ポリマー濃度0.5g/dl、30℃)で測定した場合、0.1〜2.0dl/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.15〜1.8dl/g、更に好ましくは0.2〜1.5dl/gである。対数粘度が上記下限未満の場合、機械的特性が不十分となるおそれがある。また、対数粘度が上記上限を超える場合、重合制御が困難になるおそれや、樹脂溶液の粘度が高くなり、水系エマルションの作成が困難となるおそれがある。
【0016】
本発明のポリアミドイミド樹脂の酸価および/またはアミン価は、10〜2000eq/10gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは20〜1000eq/10gの範囲にある。酸価および/またはアミン価が上記下限未満の場合、親水性が不足し分散性が不良になるおそれがある。また、酸価および/またはアミン価が上記上限を超える場合、分子量が低すぎて塗膜物性が低くなるおそれや、塗膜の耐水性が不足するおそれもある。
【0017】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、(1)ポリアルキレングリコール構造を側鎖に有する原料をポリアミドイミドの酸成分およびアミン/イソシアネート成分と一緒に溶媒中で共重合する方法や、(2)ポリアミドイミドに、ポリアルキレングリコール構造を有する原料をグラフトする方法、(3)分岐状ポリアミドイミドを変性する方法などによって製造することができる。これらの中でも、(1)の方法が、工程の簡便性や得られたポリアミドイミド樹脂の水分散性の点で特に好ましい。
【0018】
(1)の方法で使用する、ポリアルキレングリコール構造を側鎖に有する原料としては、具体的には、下記一般式[I]で表されるものが挙げられる。

(式[I]中、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜12個のアルキル基を表し、Rは、水素、または置換されたもしくは置換されていない炭素数1〜12個のアルキル基を表し、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基またはアルコキシ基を表し、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基を表し、Rは、水素、または置換されたもしくは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、nは、3〜500の整数を表し、XおよびXは、それぞれ独立してイソシアネート基、アミン基、水酸基、カルボン酸基、酸無水物基、またはグリシジル基を表す。)
【0019】
この式では、XおよびXが反応点であるので、この原料が他の成分と共重合されると、X−R−Xの部分が主鎖となり、−R−(−R−O−)−Rの部分が側鎖となる。
【0020】
上記一般式[I]で表される原料としては、例えば、下記の式[IV]で表されるトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(Perstorp社製YMER N−120)などが挙げられる。

(式[IV]中、mは、3〜500の整数を表す。)
【0021】
ポリアミドイミドの酸成分としては、特に限定されないが、例えば、トリメリット酸無水物、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸無水物、シクロペンタン−1,2、3,4−テトラカルボン酸無水物、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテートなどの酸無水物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサン−4,4’−ジカルボン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、トリメリト酸等のトリカルボン酸を挙げることができる。これらの酸成分は、1種類単独でも2種類以上組み合わせても使用することができる。
【0022】
ポリアミドイミドのアミン/イソシアネート成分としては、特に限定されないが、例えば、ジアミン化合物として示すと、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノエチルベンゼン、2,5−ジアミノエチルベンゼン、2,6−ジアミノエチルベンゼンなどのジアミノジアルキルベンゼン類、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび異性体、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)などのアルキレンビス(アルキレンアニリン)類、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4、4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3、3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4、4’−ジアミノジフェニルプロパン、3、3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、P−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、2,7−ナフタレンジアミン、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジエチル−4、4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジエチル−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジエトキシ−4、4’−ジアミノビフェニル、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン(トランス/シス混合物)、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(トタンス体、シス体、トランス/シス混合物)、イソホロンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルシクロヘキシルアミン)、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン等を挙げることができる。また、これらのジアミン化合物に対応するジイソシアネート化合物も同様に使用することができる。これらのアミン/イソシアネート成分は、1種類単独でも2種類以上組み合わせても使用することができる。
【0023】
柔軟性や水分散性の点では、下記一般式[II]および/または下記一般式[III]で表されるアミン/イソシアネート成分が好ましい。

(式[II]中、Rは、水素または炭素数1〜3個のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立してアミン基またはイソシアネート基を表す。)

(式[III]中、Rは、炭素数1〜6個のアルキル基を表し、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3個のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立してアミン基またはイソシアネート基を表す。)
【0024】
一般式[II],[III]で表されるアミン/イソシアネート成分の中でも、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンが、水分散性の点で特に好ましい。
【0025】
共重合に使用する溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N、N’−ジメチルホルムアミド、N、N’−ジメチルアセトアミド、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチルウレア、スルホラン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどを挙げることができ、これらの中でもN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。また、これらの溶媒の一部を、トルエン、キシレンなどの炭化水素系有機溶剤、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤で置き換えることも可能である。
【0026】
次に、本発明の水系エマルションについて説明する。本発明の水系エマルションは、本発明のポリアミドイミド樹脂を水または水/共溶剤に分散することによって得ることができる。
【0027】
共溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N、N’−ジメチルホルムアミド、N、N’−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、1、3−プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルアセテート等のグライム系・セロソルブ系溶剤などを挙げることができる。
【0028】
本発明のポリアミドイミド樹脂を水または水/共溶剤に分散する方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、(1)溶剤系ワニスに水を添加して相転移させる方法、(2)重合中に水を添加する方法、(3)水中重合法、(4)固形化したポリアミドイミド樹脂を水に分散させる方法、(5)乳化剤やホモジナイザーを用い強制的に乳化させる方法などを挙げることができる。これらの中でも、(1)の方法が、簡便性の点で好ましい。(1)で使用する溶剤系ワニスは重合したポリアミドイミド樹脂が重合溶媒中に溶解された樹脂溶液であってもよい。
【0029】
本発明では、ポリアルキレングリコール構造をポリアミドイミド樹脂の側鎖に導入することによりポリアミドイミド樹脂自体の水分散性を高めているため、塩基性化合物による中和無しでも水系エマルションを得ることができるが、水分散性をさらに高めるために、必要に応じて、ポリアミドイミド樹脂の酸末端、および/または酸無水物末端を塩基性化合物で中和することも可能である。この場合、塩基性化合物の添加量は、ポリマー酸価に対して1.5倍当量未満であることが好ましく、より好ましくは、1.0倍当量以下である。塩基性化合物の添加量が上記上限を超える場合、得られた水系エマルション中に残留する過剰の塩基性化合物が水系エマルションの保管中にイミド結合を分解し、ポットライフが悪くなるおそれがある。
【0030】
中和に使用する塩基性化合物としては、アンモニア、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−アミノプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0031】
水系エマルション中でのポリアミドイミド樹脂の粒径は、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下である。粒径が上記上限を超える場合、水系エマルション保管時に、樹脂が沈降するおそれがある。
【0032】
水系エマルションのpHは、3〜11であることが好ましく、より好ましくは4〜10である。pHが上記範囲外である場合、水系エマルションのポットライフが悪くなるおそれがある。
【0033】
水系エマルションの固形分濃度は、1重量%〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは3重量%〜70重量%、更に好ましくは5重量%〜60重量%である。固形分濃度が上記下限未満の場合、塗工が困難になるおそれがあり、上記上限を超える場合、ポットライフが不十分になるおそれがある。
【0034】
水系エマルションには、必要により、水系エマルションや乾燥塗膜の諸特性、例えば、機械的特性、電気的特性、耐熱性、難燃性、塗料特性などを改良する目的で、他の樹脂や有機化合物、及び無機化合物を混合させたり、あるいは反応させてもよく、例えば、レベリング剤、消泡剤、滑剤、接着促進剤、難燃剤(リン系やトリアジン系、水酸化アルミ等)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤等)、増粘剤などの粘度調整剤、有機や無機の充填剤(カーボン、タルク、酸化チタン、フッ素系ポリマー微粒子、顔料、染料、炭化カルシウム等)、その他、シリコーン化合物、フッ素化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂のような樹脂や有機化合物、或いはこれらの硬化剤、酸化珪素、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化鉄などの無機化合物を本発明の目的を阻害しない範囲で併用することができる。
【0035】
本発明の水系エマルションは、過剰量の塩基性化合物を含まないため、保管中にポリアミドイミド樹脂中のイミド結合の切断が生じにくく、ポットライフに優れる。具体的には、本発明の水系エマルションは、40℃で1ヶ月保管した後でも80%以上の対数粘度保持率を達成することができる。
【実施例】
【0036】
本発明の効果を示すために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0037】
<対数粘度>
ポリアミドイミド樹脂を、ポリマー濃度が0.5g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。得られた溶液の溶液粘度及び溶媒粘度を30℃で、ウベローデ型粘度管により測定して、下記の式に従って対数粘度を計算した。
対数粘度(dl/g)=[ln(V/V)]/V
上記式中、Vは、ウベローデ型粘度管により測定した溶液粘度を示し、Vは、ウベローデ型粘度管により測定した溶媒粘度を示す。V及びVは、ポリマー溶液及び溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)が粘度管のキャピラリーを通過する時間から求めた。また、Vは、ポリマー濃度(g/dl)である。
【0038】
<酸価>
固形化したポリアミドイミド樹脂0.2gを、20mlのN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、チモールフタレインを指示薬にしてKOHで滴定し、樹脂10g当たりのカルボキシル基当量を測定して酸価とした。
【0039】
<引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度>
銅箔上に重合後のポリアミドイミド樹脂の溶液を塗工し、100℃3分間、粗乾燥させた後、250℃30分間、窒素雰囲気下で乾燥させることにより、樹脂付き銅箔を得た。その後、銅箔をエッチングすることにより、厚み20μmのポリアミドイミド樹脂フィルムを作成した。
このようにして作成した樹脂フィルムから幅10mm、長さ100mmのサンプルを作成し、引張試験機(商品名「テンシロン引張試験機」、東洋ボールドウィン社製)を使用して、引張速度20mm/分、チャック間距離40mmで引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0040】
<ガラス転移温度(Tg)>
<引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度>の欄で作成したポリアミドイミド樹脂フィルムのガラス転移点を、TMA(熱機械分析/理学株式会社製)引張荷重法により以下の条件で測定した。なお、ポリアミドイミド樹脂フィルムは、窒素中、昇温速度10℃/分で、一旦、変曲点まで昇温し、その後室温まで冷却してから測定に供した。
荷重:5g
サンプルサイズ:4mm幅×20mm長
昇温速度:10℃/分
雰囲気:窒素
【0041】
<耐薬品性>
<引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度>の欄で作成したポリアミドイミド樹脂フィルムを酢酸エチル中に25℃で1日間浸漬し、浸漬後のフィルムの外観で耐薬品性を判定した。
○;溶解および膨潤なし
△;僅かに溶解および膨潤あり
×;溶解および膨潤あり
【0042】
<ポリアルキレングリコール構造の含有量>
<引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度>の欄で作成したポリアミドイミド樹脂フィルムをDMSO−d6に溶解し、H−NMR、13C−NMRによって、ポリアルキレングリコール構造を定量し、ポリアミドイミド樹脂中のポリアルキレングリコール構造の含有量を求めた。
【0043】
<水系エマルションの粒径>
水系エマルションを、イオン交換水/N−メチル−2−ピロリドン=75/25重量%溶液で、固形分濃度が0.1重量%となるまで希釈し、水系エマルションの粒径をレーザー光散乱粒度分布計 Coulter model N4(Coulter社製)により20℃で測定した。
【0044】
<ポットライフ>
水系エマルションを40℃で1ヶ月間、インキュベーター内で保管し、保管後の対数粘度保持率を測定してポットライフとした。
【0045】
<実施例1>
反応容器にトリメリット酸無水物153.7g(0.8モル)、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(分子量1000,Perstorp社製YMER N−120)200g(0.2モル)、2,4−トリレンジイソシアネート163.7g(0.94モル)、ジアザビシクロウンデセン1.4gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン447gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で6時間反応させた。反応終了後、383gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0046】
<実施例2>
反応容器にトリメリット酸無水物134.5g(0.7モル)、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(分子量1000,Perstorp社製YMER N−120)300g(0.3モル)、2,4−トリレンジイソシアネート165.5g(0.95モル)、ジアザビシクロウンデセン1.5gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン538gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で6時間反応させた。反応終了後、718gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度30重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0047】
<実施例3>
反応容器にトリメリット酸無水物182.5g(0.95モル)、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(分子量1000,Perstorp社製YMER N−120)50g(0.05モル)、2,4−トリレンジイソシアネート165.5g(0.95モル)、ジアザビシクロウンデセン1.5gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン314gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で6時間反応させた。反応終了後、269gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0048】
<実施例4>
反応容器にトリメリット酸無水物134.5g(0.7モル)、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(分子量1000,Perstorp社製YMER N−120)300g(0.3モル)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート235.2g(0.94モル)、ジアザビシクロウンデセン1.4gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン608gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で6時間反応させた。反応終了後、521gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0049】
<実施例5>
反応容器に1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸無水物138.7g(0.7モル)、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(分子量1000,Perstorp社製YMER N−120)300g(0.3モル)、2,4−トリレンジイソシアネート163.7g(0.94モル)、ジアザビシクロウンデセン1.4gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン541gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で6時間反応させた。反応終了後、464gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0050】
<比較例1>
反応容器にトリメリット酸無水物96.1g(0.5モル)、エチレングリコール31.0g(0.5モル)、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート237.8g(0.95モル)、ジアザビシクロウンデセン1.5gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン321gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で5時間反応させた。反応終了後、275gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0051】
<比較例2>
トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(分子量1000,Perstorp社製YMER N−120)200g(0.2モル)をポリエチレングリコール(分子量1000)200g(0.2モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0052】
<比較例3>
反応容器にトリメリット酸無水物19.2g(0.1モル)、ポリエチレングリコール(分子量1000)900g(0.9モル)、2,4−トリレンジイソシアネート163.7g(0.94モル)、ジアザビシクロウンデセン1.4gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン1074gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で6時間反応させた。反応終了後、921gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度35重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0053】
<比較例4>
反応容器にトリメリット酸無水物192.1g(1モル)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート242.8g(0.97モル)、ジアザビシクロウンデセン1.5gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン520gを添加して溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜120℃で5時間反応させた。反応終了後、520gのN−メチル−2−ピロリドンで希釈することにより、固形分濃度25重量%の粘稠なポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の特性を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
次に、実施例1〜5、比較例1〜4で得たポリアミドイミド樹脂溶液を、表2に示す条件で水に分散して水系エマルションを作成した。具体的には、中和なしの場合は、ポリアミドイミド樹脂溶液を4ツ口フラスコに入れ、60℃に昇温後、イオン交換水を徐々に滴下した。中和ありの場合は、ポリアミドイミド樹脂溶液およびトリエチルアミンを4ツ口フラスコに入れ、中和を行った後、60℃に昇温し、イオン交換水を徐々に滴下した。得られた水系エマルションの特性を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表1および表2から理解されるように、ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入している実施例1〜5のポリアミドイミド樹脂は、水分散性に優れ、塩基性化合物で中和しなくてもまたは少量の塩基性化合物で中和するだけで水系エマルションにすることができ、得られた水系エマルションは、良好なポットライフを示す。また、実施例1〜5のポリアミドイミド樹脂は、耐熱性や強度、耐薬品性と柔軟性とのバランスにも優れる。一方、ポリアルキレングリコール構造ではなくアルキレングリコール構造を有する比較例1のポリアミドイミド樹脂、および実施例1と同じモル比率のポリアルキレングリコール構造を主鎖に有する比較例2のポリアミドイミド樹脂は、水分散性に劣り、過剰量の塩基性化合物での中和が水系エマルションの作成に必要であり、得られた水系エマルションはポットライフに劣る。また、比較例1,2のポリアミドイミド樹脂は、耐熱性などのバランスにも劣る。多量のポリアルキレングリコール構造を主鎖に有する比較例3のポリアミドイミド樹脂は、水分散性に優れるものの、ポリアミドイミドの割合が少ないため、耐熱性などに劣る。ポリアルキレングリコール構造を有さない比較例4のポリアミドイミド樹脂は、耐熱性などに優れるが、水分散性に劣り、過剰量の塩基性化合物での中和が水系エマルションの作成に必要であり、得られた水系エマルションはポットライフに劣る。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、水分散性に優れ、少量の塩基性化合物で中和するだけで、さらには塩基性化合物で中和しなくても、好適な水系エマルションにすることができる。また、本発明のポリアミドイミド樹脂は、柔軟性に優れるとともに、ポリアミドイミド本来の耐熱性や強度、耐薬品性を維持している。さらに、本発明のポリアミドイミド樹脂から得られた水系エマルションは、優れたポットライフを持つ。従って、本発明は、環境調和型の水系塗料として、自動車・電気電子機器等の幅広い分野でコーティング剤、接着剤、バインダーとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール構造を側鎖に導入していることを特徴とするポリアミドイミド樹脂。
【請求項2】
ポリアルキレングリコール構造を有する下記一般式[I]で表される成分を、酸成分およびアミン/イソシアネート成分と共重合することによって得られることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂。

(式[I]中、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜12個のアルキル基を表し、Rは、水素、または置換されたもしくは置換されていない炭素数1〜12個のアルキル基を表し、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基またはアルコキシ基を表し、Rは、置換されたまたは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基を表し、Rは、水素、または置換されたもしくは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、nは、3〜500の整数を表し、XおよびXは、それぞれ独立してイソシアネート基、アミン基、水酸基、カルボン酸基、酸無水物基、またはグリシジル基を表す。)
【請求項3】
アミン/イソシアネート成分が下記一般式[II]および/または下記一般式[III]で表されることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミドイミド樹脂。

(式[II]中、Rは、水素または炭素数1〜3個のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立してアミン基またはイソシアネート基を表す。)

(式[III]中、Rは、炭素数1〜6個のアルキル基を表し、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3個のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立してアミン基またはイソシアネート基を表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂を水または水/共溶剤に分散して得られることを特徴とする水系エマルション。

【公開番号】特開2011−57845(P2011−57845A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208803(P2009−208803)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】