説明

ポリアミド樹脂混合物、ポリアミド樹脂成形体およびそれらの製造方法

【課題】衝撃強度を向上させた強化ポリアミド樹脂成形体やその製造方法を提供する。
【解決手段】層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)100質量部と、ポリアミド樹脂混合物(E)1〜10質量部とを溶融成形してなるポリアミド樹脂成形体。前記ポリアミド樹脂混合物(E)が、粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)5〜25質量部と、無機フィラー(C)10〜40質量部とを含有し、圧縮成形してなる混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状珪酸塩が分散されてなる強化ポリアミド樹脂成形体に関し、特に衝撃強度を向上させた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その優れた物理的および化学的性質から、自動車部品、電気電子部品をはじめ、土木、建築分野などで幅広く用いられてきた。近年、軽量化を目的に、強化材として層状珪酸塩を用い、これをナノ分散させた強化ポリアミド樹脂が提案されている。この強化ポリアミド樹脂は、シリンダーヘッドカバー、エンジンカバー、インテークマニホールドなどの自動車のエンジンルーム内でも使用されている。
【0003】
近年、このような軽量化目的に加えて、さらに、生産コストダウンを目的として、複数部品をモジュラー化させるなどの目的に合致した樹脂素材が求められている。そして、これまでの機械的強度、弾性率、寸法安定性などに加えて、流動性、衝撃強度などの特性が求められている。
【0004】
しかしながら、層状珪酸塩を分散させた強化ポリアミド樹脂は、通常の強度や弾性率は向上するものの、衝撃強度は低下する傾向にあった。そこで、ポリアミド樹脂の衝撃強度を向上させる方法として、特定の有機化合物をポリアミド樹脂に添加してポリアミド樹脂の分子量を向上させる方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、エポキシ基などの反応性を有する官能基を1分子に2個以上持つ有機化合物を用いて、これとポリアミド樹脂とを溶融混練やドライブレンドして成形したり、また、一度溶融混練してマスターチップを製造して用いるなどの方法が提案されている。
しかし、これらの方法は、重合時間が長くなったり、工程数が増えたり、また、エポキシ化合物をドライブレンドして成形すると生産機台のメンテナンス回数が増えるなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−149763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、衝撃強度を向上させた強化ポリアミド樹脂成形体やその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物と、無機フィラーと、粉末状の結晶性ポリアミド樹脂とを混合し、結晶性ポリアミド樹脂の融点以下の温度で圧縮成形してポリアミド樹脂混合物を得ること、そしてこの混合物と、通常の方法で得られた強化ポリアミド樹脂とを成形時に混合して成形することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)5〜25質量部と、無機フィラー(C)10〜40質量部とを含有し、圧縮成形してなることを特徴とするポリアミド樹脂混合物(E)。
(2)1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)が、常温で液体であり、沸点が(結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点+30℃)以上であることを特徴とする(1)に記載のポリアミド樹脂混合物(E)。
(3)無機フィラー(C)が、タルク、カオリン、セピオライト、膨潤性合成フッ素雲母、およびモンモリロナイトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂混合物(E)。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂混合物(E)を製造する方法であって、粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)5〜25質量部と、無機フィラー(C)10〜40質量部とを、結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点以下の温度で圧縮成形することを特徴とするポリアミド樹脂混合物(E)の製造方法。
(5)層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)100質量部と、(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂混合物(E)1〜10質量部とを溶融成形してなることを特徴とするポリアミド樹脂成形体。
(6)層状珪酸塩が、膨潤性合成フッ素雲母、モンモリロナイト、スメクタイト、バーミキュライト、およびセピオライトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(5)記載のポリアミド樹脂成形体。
(7)上記(5)または(6)記載のポリアミド樹脂成形体を製造する方法であって、層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)100質量部と、ポリアミド樹脂混合物(E)1〜10質量部とを、ポリアミド樹脂(A)と結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点のうち、いずれか高い方の融点以上の温度で溶融して成形することを特徴とするポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高分子量体のナノフィラーが分散されてなり、衝撃強度が改善された強化ポリアミド樹脂成形体を、生産性を下げることなく、安価に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂成形体は、層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)と、ポリアミド樹脂混合物(E)とを溶融成形してなるものである。前記層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)とは、ポリアミド樹脂マトリックス中に層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されたものである。ここで珪酸塩層とは、層状珪酸塩を構成する基本単位であり、層状珪酸塩の層構造を崩すこと(以下、「劈開」という)によって得られる板状の無機結晶である。本発明における珪酸塩層とは、この珪酸塩層の一枚一枚、もしくは層間にポリアミド分子鎖が挿入されているが、その積層構造が完全には崩れていない状態を意味し、必ずしも一枚一枚にまで剥離されている必要はない。また分子レベルで分散されるとは、層状珪酸塩の珪酸塩層がポリアミド樹脂マトリックス中に分散する際に、それぞれが平均1nm以上の層間距離を保ち、互いに塊を形成することなく存在している状態をいう。ここで塊とは原料である層状珪酸塩が全く劈開していない状態を指す。また層間距離とは前記珪酸塩層の重心間距離である。かかる状態は、ポリアミド複合材料の試験片について、例えば透過型電子顕微鏡観察を行うことにより確認することができる。
【0011】
本発明において用いる層状珪酸塩は、珪酸塩を主成分とする負に帯電した結晶層とその層間に介在するイオン交換能を有するカチオンとからなる構造を有するものであり、後述する方法で求めた陽イオン交換容量が5ミリ当量/100g以上であることが望ましい。この陽イオン交換容量が5ミリ当量/100g未満のものでは、膨潤能が低いためにポリアミド複合材料の製造時に実質的に未劈開状態のままとなり、性能の向上が認められない。本発明においては陽イオン交換容量の値の上限に特に制限はなく、現実に調製可能な層状珪酸塩の中から適当なものを選べばよい。
【0012】
かかる層状珪酸塩としては、膨潤性層状珪酸塩と微細繊維状マグネシウム層状珪酸塩がある。膨潤性層状珪酸塩は、天然に産出するものでも人工的に合成あるいは変成されたものでもよく、例えばスメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、ソーコナイト等)、バーミキュライト族(バーミキュライト等)、雲母族(フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、レピドライト等)、脆雲母族(マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等)、緑泥石族(ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモナイト、ニマイト等)が挙げられるが、本発明においてはNa型あるいはLi型膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが特に好適に用いられる。
【0013】
本発明において好適に用いられる膨潤性フッ素雲母は一般的に次式で示される構造式を有するものである。
a(MgLib)Si
(式中で、Mはイオン交換性のカチオンを表し、具体的にはナトリウムやリチウムが挙げられる。また、a、b、X、YおよびZはそれぞれ係数を表し、0≦a≦0.5、0≦b≦0.5、2.5≦X≦3、10≦Y≦11、1.0≦Z≦2.0である。)
【0014】
このような膨潤性フッ素雲母の製造法としては、例えば酸化珪素、酸化マグネシウムおよび各種フッ化物とを混合し、その混合物を電気炉あるいはガス炉中で1400〜1500℃の温度範囲で完全に溶融し、その冷却過程で反応容器内に膨潤性フッ素雲母の結晶成長させる溶融法が挙げられる。
【0015】
一方、タルク〔MgSi10(OH)〕を出発物質として用い、これにアルカリ金属イオンをインターカレーションして膨潤性を付与し、膨潤性フッ素雲母を得る方法もある(特開平2−149415号公報)。この方法では、所定の配合比で混合したタルクと珪フッ化アルカリを、磁性ルツボ内で700〜1200℃の温度下に短時間加熱処理することによって、膨潤性フッ素雲母を得ることができる。
この際、タルクと混合する珪フッ化アルカリの量は、混合物全体の10〜35質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲をはずれる場合には膨潤性フッ素雲母の生成収率が低下する傾向にある。
【0016】
本発明に用いるモンモリロナイトは次式で表されるもので、天然に産出するものを水ひ処理等を用いて、精製することにより得ることができる。
Si(Al2−aMg)O10(OH)・nH
(式中で、Mはナトリウム等のカチオンを表し、0.25≦a≦0.6である。また層間のイオン交換性カチオンと結合している水分子の数はカチオン種や湿度等の条件によって様々に変わりうるので、式中ではnHOで表した。)
【0017】
またモンモリロナイトにはマグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト等の同型イオン置換体の存在が知られており、これらを用いてもよい。
【0018】
本発明に用いる微細繊維状マグネシウム珪酸塩は、次式で示されるもので、基本的な構造は、酸化マグネシウムの八面体シートを二枚の珪酸四面体シートが挟んだ形を示し、珪酸塩四面体シートが六単位ごとに反転して結合しているため、酸化マグネシウムの八面体シートは不連続層となり、微細繊維状のセピオライト粒子を形成する。
Si12Mg0(OH)(OH・8H
陽イオン交換容量は、10〜15ミリ当量/100gと弱いため低帯電性である。
【0019】
本発明においては上記した膨潤性層状珪酸塩の初期粒子径について特に制限はない。ここで初期粒子径とは本発明において用いるポリアミド樹脂(A)を製造するに当たって用いる原料としての膨潤性層状珪酸塩の粒子径であり、複合材料中の珪酸塩層の大きさとは異なるものである。しかしこの粒子径もまた得られたポリアミド複合材料の物性、特に剛性や耐熱性に少なからず影響を及ぼす。従って、上記した膨潤性層状珪酸塩の混合比率を選択するに当たってはこの点も考慮するのが望ましく、必要に応じてジェットミル等で粉砕して粒子径をコントロールすることは好ましい。
ここで、膨潤性フッ素雲母系鉱物をインターカレーション法により合成する場合には、原料であるタルクの粒子径を適切に選択することにより初期粒子径を変更することができる。粉砕との併用により、より広い範囲で初期粒子径を調節することができる点で好ましい方法である。
【0020】
本発明において、層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)のポリアミド樹脂とは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。その原料の具体例としては、アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。またラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等が挙げられる。またジカルボン酸としては、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。またこれらジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
【0021】
かかるポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0022】
本発明においてはポリアミド樹脂(A)の相対粘度(分子量)は、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が、1.2以上であることが好ましい。相対粘度が1.2未満であると、得られたポリアミド樹脂組成物は強度に劣ることがある。
【0023】
ポリアミド樹脂(A)における膨潤性層状珪酸塩の配合量は、ポリアミド樹脂組成物中に灰分として0.5〜20質量%とすることが好ましい。この配合量が0.5質量%未満では、得られるポリアミド樹脂混合物成形体において、衝撃強度が劣るため好ましくない。一方この配合量が20質量%を超える場合には、オートクレーブから生成したポリアミド樹脂組成物を払い出すことが困難となり、収率が大きく低下するため好ましくない。
【0024】
ポリアミド樹脂(A)の製造方法は、基本的には、適宜選択した膨潤性層状珪酸塩、もしくは、微細繊維状マグネシウム珪酸塩の存在下、所定量のモノマーをオートクレーブに仕込んだ後、水等の開始剤を用い、温度240〜300℃、圧力0.2〜3MPa、1〜15時間の範囲内で溶融重縮合法によればよい。ナイロン6を樹脂マトリックスとする場合には、温度250〜280℃、圧力0.5〜2MPa、3〜5時間の範囲で重合することが好ましい。
【0025】
ポリアミド樹脂(A)の製造において、膨潤性層状珪酸塩とポリアミド樹脂の重合に要するポリアミドモノマーの一部を、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の分散媒中で混合させる工程を設けることが望ましい。一般的に、この工程における温度条件は室温、あるいは必要に応じて室温以上、分散媒の沸点以下で行い、ホモミキサーや超音波式分散機、高圧分散機等を用いることが望ましい。
【0026】
ポリアミド樹脂(A)を製造するに当たっては酸を添加してもよい。一般的に言って、酸を添加することにより、膨潤性層状珪酸塩の劈開が促進されポリアミド樹脂マトリックス中への珪酸塩層の分散がより進行するため好ましい。
【0027】
上記の酸としては、pKa(25℃、水中での値)が0〜6または負の酸であるなら有機酸でも無機酸でもよく、具体的には安息香酸、セバシン酸、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等が挙げられる。
【0028】
酸の添加量は、使用する膨潤性層状珪酸塩の全陽イオン交換容量に対して1.0〜5.0モル量程度とすることが、膨潤性層状珪酸塩の劈開およびポリアミド樹脂マトリックスにおける重合触媒としての作用の点から好ましい。
【0029】
ポリアミド樹脂の重合後、ポリアミド樹脂(A)に残留しているポリアミドモノマーを除去するために、該ポリアミド樹脂(A)のペレットに対して熱水による精練を行うことが好ましい。この場合、好ましくは90〜100℃の熱水中で8時間以上の処理を行えばよい。
【0030】
本発明においてポリアミド樹脂(A)を製造するに当たっては、その特性を大きく損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等を添加してもよい。
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
本発明において、上記層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド樹脂混合物(E)とともに溶融成形してポリアミド成形体を製造する。ここで使用するポリアミド樹脂混合物(E)は、粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)5〜25質量部と、無機フィラー(C)10〜40質量部とを含有し、これらを圧縮成形してなるものである。
【0032】
ポリアミド樹脂混合物(E)を構成する1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)としては、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。このうち、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好適に用いられる。化合物(B)は、常温で液体であり、その沸点は、(結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点+30℃)以上であることが好ましい。常温で固体であると圧縮成形が困難となり、沸点が(結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点+30℃)未満であると圧縮成形されたポリアミド樹脂混合物を用いて溶融成形する際に、ポリアミド樹脂と1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物との反応性が過剰に促進してしまうため、外観に優れたポリアミド樹脂成形体を得ることができない。
【0033】
ポリアミド樹脂混合物(E)を構成する無機フィラー(C)としては、上記化合物(B)と混ざり合い、かつ、ポリアミド樹脂とも相溶性が良好なものが好ましい。具体的には、タルク、カオリン、セピオライト、膨潤性合成フッ素雲母、モンモリロナイト、マイカ、ワラストナイト、シリカ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ガラスビーズ、ガラスバルーン、カーボンブラック、窒化ホウ素、グラファイトなどや、前述の層状珪酸塩が挙げられる。
無機フィラー(C)は、板状、または粒状であることが好ましく、無機フィラーの平均粒径は、10μm以下であることが好ましい。ガラスビーズは、顆粒状であり、圧縮成形した際の形状保持特性が劣ることがある。以上の点を考慮すると、無機フィラーとしては、タルク、カオリン、セピオライト、膨潤性合成フッ素雲母、およびモンモリロナイトが好ましい。
【0034】
ポリアミド樹脂混合物(E)を構成する結晶性ポリアミド樹脂(D)の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0035】
結晶性ポリアミド樹脂(D)を粉末状にする方法としては、冷凍粉砕法等で、粉砕する方法が挙げられる。粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)の平均粒径は30μm以下が好ましく、さらには10μm以下が好ましい。平均粒径が30μmを超えると、化合物(B)、無機フィラー(C)とを混合して圧縮成形する際に、圧縮されたペレットが一定形状を保つことが困難となることがある。
【0036】
上述のように、本発明のポリアミド樹脂混合物(E)は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)、無機フィラー(C)、および粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)の混合物であり、これらを、結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点以下の温度で圧縮成形することによって得られる。
化合物(B)の配合量は、結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部に対して、5〜25質量部であることが必要であり、10〜20質量部であることが好ましい。配合量が5質量部未満であると、ポリアミド樹脂(A)の分子量を上げて衝撃強度を改善する効果は少なく、25質量部を超えると、ポリアミド樹脂混合物(E)の成形が困難になるなど作業性にも問題があるため好ましくない。
無機フィラー(C)の配合量は、結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部に対して、10〜40質量部であることが必要であり、15〜30質量部であることが好ましい。配合量が10質量部未満であると、化合物(B)となじみにくくなり、ポリアミド樹脂混合物(E)の成形性や作業性が低下するので好ましくない。配合量が40質量部を超えると、ポリアミド樹脂混合物(E)の成形性や作業性が低下するので好ましくない。また、無機フィラー(C)の配合量は、化合物(B)の配合量より多いほうが好ましい。
【0037】
ポリアミド樹脂混合物(E)の製造においては、化合物(B)と無機フィラー(C)を配合した後、粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)と混合することが好ましい。次いで、結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点以下の温度で、混合物を圧縮して成形する。結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点以上の温度で圧縮すると、化合物(B)と結晶性ポリアミド樹脂(D)が、架橋反応を起こし、その後のポリアミド樹脂(A)との反応性が低下し、得られた成形体の分子量が上がらず、衝撃強度も向上しないため好ましくない。
ポリアミド樹脂混合物(E)の圧縮成形方法は、単動式圧縮成形機、複動式圧縮成形機、スライド式圧縮成形機、ロータリー式圧縮成形機、連立式圧縮成形機、さらには押出し成形機などの成形機を使用する方法が挙げられ、量産性を考慮してロータリー式圧縮成形機や2軸押出し成形機などを使用することが好ましい。圧縮成形体の大きさは、ポリアミド樹脂(A)のペレットサイズに近いほうが好ましい。
【0038】
本発明において、ポリアミド樹脂成形体は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、ポリアミド樹脂混合物(E)を1〜10質量部を混合し、通常の成形加工方法を用いて製造することが出来る。ポリアミド樹脂混合物(E)が1質量部未満であると、得られた成形体の衝撃強度の向上が十分でなく、10質量部を超えると、成形時の溶融粘度が高くなりすぎて、成形性が悪くなるので好ましくない。成形方法としては、射出成形、押出し成形、吹き込み成形などがあるが、どれを使用してもよく、ポリアミド樹脂(A)と結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点のうち、いずれか高い方の融点以上の温度で溶融して成形すればよい。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂成形体の製造方法によれば、衝撃強度を向上させた成形体を得ることができるため、特に高度な衝撃特性が要求される自動車部品、電気・電子部品用途で用いることができる。具体的には、自動車のトランスミッション周りの部品として、シフトレバー、ギアボックス等の台座に用いるベースプレート、エンジン周りの部品として、シリンダーヘッドカバー、エンジンマウント、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ラジエータホース、ウォーターポンプレンレット、ウォーターポンプアウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、タイミングベルトカバー、エンジンカバー等、ランプ周りの部品として、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケット等に好適に用いられる。また、電気・電子部品としては、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
1.原料
(1)層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)
・(A−1)
膨潤性フッ素雲母500gを、ε−カプロラクタム1kgおよび水1kgとを混合して得た溶液中に加え、室温下、ホモミキサーを用いて1.5時間攪拌した。この膨潤性フッ素雲母分散液の全量を、予めε−カプロラクタム9kgおよび85質量%リン酸水溶液63.4gを仕込み、これらを95℃で溶融させておいた内容積30リットルのオートクレーブに投入し、撹拌しながら260℃に加熱し、圧力0.7MPaまで昇圧した。その後、徐々に水蒸気を放出しつつ温度260℃、圧力0.7MPaを1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに10分間重合した。
重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してポリアミド樹脂組成物からなるペレットを得た。次いでこのペレットを95℃の熱水で8時間精錬した後、乾燥した。
灰分測定によるポリアミド樹脂(A−1)中の無機灰分率は、5.3質量%であった。また相対粘度は2.5であり、融点は220℃であった。
【0041】
・(A−2)
ε−カプロラクタム10kgを80℃で加熱溶融させた後、セピオライト1kgを加え、ホモミキサーを用いて1.5時間攪拌し、セピオライト分散液を得た。さらに、前記セピオライト分散液に対し、純水1kgおよび85質量%リン酸水溶液63.4gを添加し、95℃条件下で攪拌を続けた。これらを内容積30リットルのオートクレーブに投入し、撹拌しながら260℃に加熱し、圧力0.7MPaまで昇圧した。その後、徐々に水蒸気を放出しつつ温度260℃、圧力0.7MPaを1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに10分間重合した。
重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してポリアミド樹脂組成物からなるペレットを得た。次いでこのペレットを95℃の熱水で8時間精錬した後、乾燥した。
灰分測定によるポリアミド樹脂(A−2)中の無機灰分率は、9.2質量%であった。また相対粘度は2.6であり、融点は220℃あった。
【0042】
(2) エポキシ基を有する化合物(B)
・化合物(B−1):グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス EX−314)、エポキシ当量144g/eq、粘度170mPa・s、1分子中のエポキシ基数3個、常温液体、沸点250℃以上。
・化合物(B−2):トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(阪本薬品工業 SR−TMP)、エポキシ当量137g/eq、粘度125mPa・s、1分子中のエポキシ基数3個、常温液体、沸点250℃以上。
・化合物(B−3):ブチルグリシジルエーテル(阪本薬品工業 BGE−R)、エポキシ当量131g/eq、粘度1mPa・s、1分子中のエポキシ基数1個、常温液体、沸点164℃。
【0043】
(3)無機フィラー(C)
・無機フィラー(C−1):タルク 平均粒径4μm
・無機フィラー(C−2):モンモリロナイト 平均粒径2.5μm
・無機フィラー(C−3):ガラスビーズ 平均粒径25μm
【0044】
(4)結晶性ポリアミド樹脂(D)
・結晶性ポリアミド樹脂粉末(D−1):ポリアミド6樹脂の粉末(ユニチカ社製 A1012、相対粘度1.5、融点220℃、平均粒径5μm)
【0045】
2.測定方法
(1)ポリアミド樹脂(A)の無機灰分率
ポリアミド樹脂(A)中に含まれる珪酸塩の配合量は、ε−カプロラクタムの重合度が100%でなく、未反応物を精錬工程で除くため、仕込値と異なる。そのため、得られたポリアミド樹脂(A)の乾燥ペレットを磁性ルツボに精秤し、500℃に保持した電気炉で空気中15時間焼却処理した後の残渣を無機灰分として、次式に従って無機灰分率を求めた。
無機灰分(質量%)={無機灰分質量(g)}/{焼却処理前の試料の全質量(g)}×100
【0046】
(2)ポリアミド樹脂混合物(E)の成形性
プレス機を用い、150℃にて5mmφ×4mmのサイズにポリアミド樹脂混合物を圧縮成形した。型内から成形体がきれいに出て、容易に崩れたりしない場合は、成形性○と評価した。型内から成形体が出てきて、成形体の形状保持特性が劣る場合は、成形性△と評価した。型内からきれいに出てこなかったり、出てきてもすぐに形状が崩れる場合は、成形性×とした。
【0047】
(3)相対粘度(分子量)
ポリアミド樹脂(A)および成形体より、それぞれ適当な大きさに切片を切り出した。96質量%濃硫酸中に、前記切片を濃度が1g/dlになるように溶解させ、G−3ガラスフィルターにより無機成分を濾別した後測定に供した。測定はウベローデ型粘度計を用い、25℃で行った。成形体の相対粘度が3.0以上である場合、合格とした。
【0048】
(4)成形体の面衝撃強度
ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂混合物(E)とを混合し、100mmφ×0.4mmtのサイズに成形し、20℃にて6.5kgの荷重を60cmから自然落下させたときの衝撃エネルギーを測定した。衝撃エネルギーが、ポリアミド樹脂混合物(E)を混合しないポリアミド樹脂(A)のそれの2倍以上の値となった場合を合格とした。
【0049】
(5)成形体の成形性
射出成形時に金型から容易に成形体の取り出しができ、また、成形体の金型転写が良好で成形体の外観がきれいな場合は、成形体の成形性○とした。金型からの成形体の取り出しが容易でなかったり、成形体の外観にヒケ等生じた場合は、成形性×とした。
【0050】
実施例1
粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D−1)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B−1)10質量部と、無機フィラー(C−1)15質量部とを混合し、ロータリー圧縮成形機(古河産機システムズ K−102A型)を用いて150℃にて圧縮成形し、5mmφ×4mmのサイズのポリアミド樹脂混合物(E)を得た。
次に、層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A−1)と、上記方法にて製造したポリアミド樹脂混合物(E)とを、表1に記載した配合量で混合し、樹脂温度260℃にて射出成形し、成形体を得た。
ポリアミド樹脂混合物(E)についての成形性評価結果と、成形体についての相対粘度、面衝撃強度測定結果とを、それぞれ表1に示した。
【0051】
実施例2〜13、比較例1〜10
表1、2記載の配合量にて、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂混合物(E)を得、次いで成形体を製造した。結果を表1、2に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例で得られた成形体では、ポリアミド樹脂の分子量が増加し、相対粘度の向上にともなって面衝撃強度の向上が認められた。
【0055】
比較例1では、ポリアミド樹脂混合物(E)中に含まれる化合物(B)の配合量が少ないため、相対粘度や面衝撃強度の向上がみられなかった。
比較例2〜6では、ポリアミド樹脂混合物(E)中に含まれる無機フィラー(C)の配合量が本発明で規定する範囲外であったり、また化合物(B)の配合量が多いため、ポリアミド樹脂混合物(E)の成形性に劣るものであった。
比較例7では、ポリアミド樹脂混合物(E)中に含まれる化合物(B)は1分子中にエポキシ基を1つしか持たないため、相対粘度や面衝撃強度の向上がみられなかった。
比較例8では、ポリアミド樹脂混合物(E)の配合量が多いため、成形体の成形性に劣るものであった。
比較例9、10では、ポリアミド樹脂混合物(E)を用いないで、ポリアミド樹脂(A−1)または(A−2)のみを用いて成形体の成形を行ったため、相対粘度や面衝撃強度の向上がみられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)5〜25質量部と、無機フィラー(C)10〜40質量部とを含有し、圧縮成形してなることを特徴とするポリアミド樹脂混合物(E)。
【請求項2】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)が、常温で液体であり、沸点が(結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点+30℃)以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂混合物(E)。
【請求項3】
無機フィラー(C)が、タルク、カオリン、セピオライト、膨潤性合成フッ素雲母、およびモンモリロナイトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂混合物(E)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂混合物(E)を製造する方法であって、粉末状の結晶性ポリアミド樹脂(D)100質量部と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物(B)5〜25質量部と、無機フィラー(C)10〜40質量部とを、結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点以下の温度で圧縮成形することを特徴とするポリアミド樹脂混合物(E)の製造方法。
【請求項5】
層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)100質量部と、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂混合物(E)1〜10質量部とを溶融成形してなることを特徴とするポリアミド樹脂成形体。
【請求項6】
層状珪酸塩が、膨潤性合成フッ素雲母、モンモリロナイト、スメクタイト、バーミキュライト、およびセピオライトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載のポリアミド樹脂成形体。
【請求項7】
請求項5または6記載のポリアミド樹脂成形体を製造する方法であって、層状珪酸塩が分散されてなるポリアミド樹脂(A)100質量部と、ポリアミド樹脂混合物(E)1〜10質量部とを、ポリアミド樹脂(A)と結晶性ポリアミド樹脂(D)の融点のうち、いずれか高い方の融点以上の温度で溶融して成形することを特徴とするポリアミド樹脂成形体の製造方法。



【公開番号】特開2012−12446(P2012−12446A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148406(P2010−148406)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】