説明

ポリアミド樹脂組成物、および該ポリアミド樹脂組成物からなる成形体

【課題】ウェルド部を有する成形体とした場合に、成形性を維持しつつ、ウェルド部の外観品位や強度の低下を抑制しうるポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、無機充填材1〜150質量部、ベヘン酸金属塩0.01〜5質量部を含有することを特徴とする。該無機充填材は、ガラス繊維および/またはタルクであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェルド部を有する成形体とした場合に、成形性を維持しつつ、ウェルド部の外観品位や強度の低下を抑制しうるポリアミド樹脂組成物、および該ポリアミド樹脂組成物からなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、優れた機械的強度、熱安定性、成形性、耐薬品性などの特性を有する結晶性熱可塑性樹脂である。ポリアミド樹脂は、自動車分野、生活用品関連分野、電子電機分野などで幅広く利用されている。近年、モジュール化などにより、より複雑な形状を有する成形体が求められるようになり、それとともに、1つの成形体により多くのウェルド部を有する形状が求められるようになってきた。ポリアミド樹脂は結晶性であるため、ポリアミド樹脂を主成分とした樹脂組成物は、金型内での固化が非常に早いものである。ウェルド部においては、溶融した樹脂組成物同士が金型内で衝突しあうため、成形体とした場合に、外観、強度などが非ウェルド部より劣るという問題が発生していた。
【0003】
このような問題を解決するため、ポリアミド樹脂組組成物の成形性を改良することを目的として、高級脂肪酸金属塩を配合させることが検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかし、特許文献1および特許文献2の場合は、樹脂組成物の成形初期には、目的とするウェルド部の外観品位や強度が得られる。しかし、該樹脂組成物を成形体とする際に、長期にわたって連続生産する場合においては、ウェルド部の焼け(すなわち、ウェルド部が炭化して黒く変色する状態)などの原因により、該ウェルド部の外観品位や強度が持続しにくいという問題点があった。
【0005】
また、ポリアミド樹脂のブロッキング防止や滑り性の向上、または白化防止を目的として、高級脂肪酸金属塩を用いることが知られている(例えば、特許文献3または特許文献4)。
【0006】
しかし、特許文献3や特許文献4においては、長期間連続生産した場合において、ウェルド部の外観や強度の低下を抑制することについては、何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−266497号公報
【特許文献2】特開平11−42666号公報
【特許文献3】特開2000−238218号公報
【特許文献4】特開2004−352361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ウェルド部を有する成形体としたときに、成形性を維持しつつ、長期の連続生産時においても該ウェルド部の外観品位や強度に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することである。さらに、該ポリアミド樹脂組成物からなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂に、特定量のベヘン酸金属塩と無機充填材とを同時に含有させた樹脂組成物は、ウェルド部を有する成形体としたときに、成形性を維持しつつ、長期の連続生産時においてもウェルド部の外観品位と強度に優れるという事実を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリアミド樹脂100質量部に対し、無機充填材1〜150質量部、ベヘン酸金属塩0.01〜5質量部を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)無機充填材が、ガラス繊維、タルクおよび炭素繊維から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物からなる成形体であって、ウェルド部を有することを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形体としたときに、成形性を維持しつつ、長期の連続生産時においてもウェルド部の焼けを抑制することができ、外観品位や強度に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることが可能となる。さらに、本発明によれば、ウェルド部を有していても、外観品位や強度に優れる成形体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の樹脂組成物から得られるウェルド部を有する成形体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂に、無機充填材とベヘン酸金属塩を同時に含有させてなるものである。
【0013】
本発明において用いられるポリアミド樹脂は、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とし、アミド結合を主鎖内に有する重合体である。
【0014】
その原料の具体例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノカルボン酸;ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等のジアミン;アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等のジカルボン酸などが挙げられる。また上記のジアミンとジカルボン酸は、一対の塩として用いることもできる。
【0015】
このようなポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でも、機械的強度と熱安定性のバランス、経済性にも優れる観点から、ナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0016】
本発明において用いられるポリアミド樹脂の分子量の指標である相対粘度は、特に制限されるものではないが、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が、1.5以上、3.5未満であることが好ましい。さらに好ましくは2.0以上3.5未満である。相対粘度が1.5未満であると、得られたポリアミド樹脂組成物は強度に劣る場合がある。一方、相対粘度が、3.5を超えると、成形加工時の流動性が劣る場合がある。
【0017】
本発明において用いられる無機充填材には、一般に、ポリアミド樹脂に使用できるものを適用できる。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等、さらには、タルク、カオリン、雲母、合成フッ素雲母、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、ゼオライト、ハイドロタルサイト等の層状ケイ酸塩をあげることが出来るが、この中でも、樹脂組成物を成形体としたときに外観品位と強度が良好であるウェルド部を有する成形体を、長期間安定して生産する観点から、ガラス繊維、タルク、炭素繊維が特に好ましい。
【0018】
ここでウェルドについて説明する。ウェルドとは、樹脂を射出成形などにより成形する場合において、溶融した樹脂が金型内を流動する際に、その流動先端部分がぶつかり合う(会合する)部分を示す。
【0019】
具体的には、樹脂を成形する場合に、金型内にボス穴などがあると、溶融した樹脂がボス穴に相当する部分にある金型パーツを避けて流れていくため、最終的に樹脂の流動先端部がある場所でぶつかり合い、ウェルドを形成する。また、樹脂を注入する部分であるゲートが、複数存在する場合でも、樹脂の流動先端部分がある地点でぶつかり合い、ウェルドを形成する。このウェルド部では、樹脂の流れが非ウェルド部と異なるため、一般的に強度低下や外観不良を引き起こしやすいという問題がある。なお、一般的に良好な外観を有するウェルド部は、同時に十分な強度も兼ね備えるものである。
【0020】
無機充填材の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、1〜150質量部であることが必要であり、10〜120質量部であることが好ましく、20〜90質量部であることがより好ましい。1質量部より少ない場合、得られた成形体の強度の向上が十分ではなく、また、150質量部を超えると、得られた成形体はウェルド部の外観品位に劣るという問題がある。
【0021】
本発明においては、無機充填材と同時にベヘン酸金属塩を用いることが必要である。無機充填材とベヘン酸金属塩を併用することにより、得られる樹脂組成物の流動性が顕著に向上し、得られる成形体の強度や、ウェルド部の外観品位に優れるという効果を奏する。さらに、ポリアミド樹脂と無機充填材の親和性、密着性が増すため、ウェルド部の強度が増し、成形サイクルの短縮、および長期の連続生産における成形サイクルを安定させることができるという効果を奏する。
【0022】
なお、ベヘン酸以外の高級脂肪酸の金属塩を、無機充填材と併用したとしても、本発明の目的とする長期の連続生産時においてウェルド部の外観品位と強度に優れるという効果を達成することはできない。これは、ベヘン酸以外の高級脂肪酸金属塩はポリアミドの滑剤としての効果が得られるが、反面、成形時加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物中で、配合された高級脂肪酸がウェルド部で集中的に単離し、ウェルド強度を低下させるためであるためと推測される。
【0023】
ベヘン酸に結合する金属は、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、カリウム、などが挙げられる。この中でも、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムが、汎用性が高いという点から好ましい。
【0024】
ベヘン酸金属塩の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.01〜5質量部であることが必要であり、0.03〜1質量部であることが好ましく、0.05〜0.5質量部であることがより好ましい。ベヘン酸金属塩の含有量が0.01質量部未満の場合、成形性が安定せず、成形サイクルが長くなるという問題がある。また、5質量部を超えると、外観改善効果の長期安定性に劣り、さらに、樹脂の固化が遅くなり成形サイクルが長くなるという問題がある。
【0025】
本発明においては、無機充填材を用いることなく、ベヘン酸金属塩のみを用いた場合は、成形体の熱間剛性が十分に得られず、成形サイクルが長くなるため、本発明の目的である成形性を維持するという効果を達成することはできない。一方、ベヘン酸金属塩を用いることなく、無機充填材のみを用いた場合は、ポリアミド樹脂と無機充填材の親和性、密着性が低下するため、本発明の目的である長期の連続生産時においてもウェルド部の外観品位と強度に優れるという効果を達成することはできない。従って、本発明の効果を達成するためには、無機充填材とベヘン酸金属塩を併用することが必要である。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、本発明で用いられる無機充填材以外の強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等を添加してもよい。
【0027】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0028】
本発明で用いられる無機充填材以外の強化材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
顔料としては、アルミナ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの無機顔料;アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、インダンスレン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0029】
耐熱安定剤、酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系の耐熱安定剤、または酸化防止剤等が挙げられる。
耐候剤や耐光剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系の光安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0030】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、リン系難燃剤や水酸化金属などが挙げられる。
結晶核剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。
【0031】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物には、他の熱可塑性樹脂が混合されていてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えばポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ブタジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン等のエラストマーまたはこれらの無水マレイン酸等による変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレート等が挙げられる。
【0032】
ポリアミド樹脂と無機充填材の配合方法は、一般的な溶融混練法を用いることが出来る。例えば、単軸または二軸スクリューを有する押出機を用いて、ポリアミド樹脂の融点以上の温度でポリアミド樹脂を可塑化し、無機充填材と溶融混合すればよい。あるいは、押出機の基部からポリアミド樹脂と無機充填材を同時に投入してもよいし、基部からポリアミド樹脂を投入しこれらを可塑化させてから、サイドからサイドフィーダーを用いて、無機充填材を投入してもよい。
【0033】
ポリアミド樹脂とベヘン酸金属塩の配合方法としては、上記に示したポリアミド樹脂と無機充填材とベヘン酸金属塩を同時に配合して、溶融混練させても良いし、あるいは、樹脂組成物を成形する際に、予め無機充填材が配合されたポリアミド樹脂に、ベヘン酸金属塩を配合して成形しても良い。
また、無機充填材が層状ケイ酸塩の場合、ポリアミド樹脂を製造する時に、それぞれのモノマー成分と層状ケイ酸塩を一緒に配合し、各モノマーを重合させてもよい。
【0034】
押出温度は、ポリアミド樹脂の融点により適宜決めることができる。原料として用いるポリアミド樹脂を十分に溶融させる必要はあるが、必要以上に押出温度を上げてしまうと、ウェルド部の外観と強度を長時間維持させるという本発明の効果を十分発揮させることができない。本発明において、溶融混練を行う押出温度は、(ポリアミド樹脂の融点+80)℃以下であることが好ましく、この温度を超えてしまうと、樹脂の分解等が促進され、着色や機械物性の低下を招くため好ましくない。
【0035】
混練時のスクリュー回転は、用いる押出機のスクリュー径によって異なるが、例えば、スクリュー径37mmの押出機を用いた場合、100〜400rpmの範囲で行うことが好ましい。100rpm未満であると、混練が不十分になるばかりか、十分な吐出量を得られない場合がある。400rpmを超えると、混練が過剰となり、着色や機械物性の低下を招く場合がある。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは190〜270℃とし、また、金型温度は100℃以下とするのが適当である。成形温度が低すぎると成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。なかでも、本発明の樹脂組成物は、ウェルド部を有する成形体を得る場合に、好適に使用される。
【0037】
本発明の成形体の具体例としては、パソコン周辺の各種部品および筐体、携帯電話部品および筐体、その他OA機器部品等の電化製品用樹脂部品、バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。また、フィルム、シート、中空成形品などとすることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例において用いた原料は、以下の通りである。
1.原料
(1)ポリアミド樹脂
・ポリアミド6(ユニチカ社製、商品名「A1030BRL」、相対粘度:2.5)
・ポリアミド66(ユニチカ社製、商品名「A125」、相対粘度:2.6)
(2)無機充填材
・ガラス繊維(日東紡社製、商品名「CSG3PE−451」)(チョップ長さ:3mm、直径:13μm)
・タルク(日本タルク社製、商品名「ミクロエースK−1」)
(3)高級脂肪酸金属塩
・ベヘン酸ナトリウム(試薬)
・ベヘン酸カルシウム(試薬)
・リグノセリン酸カルシウム(試薬)
・ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製、商品名「SC−100」)
・モンタン酸ナトリウム(クラリアント社製、商品名「リコモントNaV101」)
成形体の物性の評価方法は、以下の通りである。
2.測定方法
(1)ウェルド部の表面外観
射出成形機(ファナック社製、商品名「α−100iA」)にて、樹脂温度270℃〜300℃、金型温度80℃〜100℃、射出圧力:(100MPa)で、図1に示す1のゲート部から樹脂を射出し、厚み0.4mm、幅40mm、長さ70mmの図1に示す中央が開いているロの字型形状の成形体を得た。図1中の2の部分に現れるウェルド部の表面を目視で観察し、ガラスの浮き状態を調べた。3,000個の成形体を連続して成形し、初期成形体と3,000個目の成形体を、それぞれ観察した。評価方法を下記に示す。
◎:成形体のウェルド部表面に無機充填材に由来する凹凸が全く見られず、光が十分に反射している。
○:成形体のウェルド部表面に無機充填材に由来する凹凸が見られないが、光の反射が、十分でない。
△:成形体のウェルド部表面に無機充填材に由来する凹凸がわずかに見られる。
×:成形体のウェルド部表面に無機充填材に由来する凹凸が観察され、光の反射も悪い。
本発明においては、○以上を実用に耐えうるものとした。
(2)成形サイクル性
射出成形機(ファナック社製、商品名「α−100iA」)にて、樹脂温度270℃〜300℃、金型温度80℃〜100℃で、最大射出圧力を120MPaで、厚み0.4mm、幅40mm、長さ70mmの図1に示す形状の成形体を成形した。射出時間を5秒として、金型から成形体を取り出せる最小の冷却時間を測定し、成形サイクル性を下記のように評価した。3,000個の成形体を連続して成形し、初期成形体と3,000個目の成形体を、それぞれ観察した。
◎:冷却時間が4秒未満である。
○:冷却時間が4秒以上6秒未満である。
×:冷却時間が6秒以上である。
本発明においては、○以上を実用に耐えうるものとした。
<実施例1〜7、10〜13>
表1に示した割合で、ポリアミド樹脂、無機充填材、およびベヘン酸金属塩を配合し、250℃〜270℃で溶融混練してポリアミド樹脂組成物を調製した。このポリアミド樹脂組成物を、射出成形機(ファナック社製、商品名「α−100iA」)にて、樹脂温度270℃、金型温度80℃、射出圧力:(100MPa)で、図1における1の部分から樹脂組成物を射出し、厚み0.4mm、幅40mm、長さ70mmの図1に示す形状の成形体を得た。得られた成形体についての評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

<実施例8〜9>
表1に示した割合で、ポリアミド樹脂、無機充填材、およびベヘン酸金属塩を配合し、270℃〜300℃で溶融混練してポリアミド樹脂組成物を調製した。このポリアミド樹脂組成物を、射出成形機(ファナック社製、商品名「α−100iA」)にて、樹脂温度300℃、金型温度100℃、射出圧力:(100MPa)で、図1における1の部分から樹脂組成物を射出し、厚み0.4mm、幅40mm、長さ70mmの図1に示す形状の成形体を得た。これらの成形体のウェルド部の表面外観と成形サイクル性を評価した。
<比較例1〜9>
表2に示した割合で、ポリアミド樹脂、無機充填材、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸以外の高級脂肪酸の金属塩を配合し、実施例1と同様にして、成形体を得た。得られた成形体についての評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
比較例1は、ベヘン酸ナトリウムの配合量が過少であり、またベヘン酸以外の高級脂肪酸の金属塩を併用したため、3,000個目のウェルド外観が劣っていた。
【0042】
比較例2は、ベヘン酸金属塩に変えて、ステアリン酸カルシウムを用いたため、3,000個目のウェルド外観、および3,000個目の成形サイクルにおいて劣ったものとなった。
【0043】
比較例3は、ベヘン酸ナトリウムの配合量が過多であったため、得られた成形体は、3,000個目のウェルド外観と初期、および、3,000個目の成形サイクル性に劣っていた。
【0044】
比較例4は、ベヘン酸金属塩を配合せずに成形体を得たため、得られた成形体は3,000個目の成形サイクル性に劣っていた。
比較例5は、無機充填材の配合量が過多であったため、得られた成形体は、初期、および、3,000個目の成形体のウェルド外観に劣っていた。
【0045】
比較例6は、ベヘン酸金属塩に変えて、リグノセリン酸カルシウムを用いたため、3,000個目のウェルド外観、および3,000個目の成形サイクル性において劣ったものとなった。
【0046】
比較例7は、ベヘン酸ナトリウムの配合量が過少であったため、初期、および3,000個目の成形サイクル性において劣ったものとなった。
比較例8は、無機充填材の配合量が過少であったため、初期、および3,000個目の成形サイクル性において劣ったものとなった。
【0047】
比較例9は、無機充填材の配合が過大であったため、ポリアミド樹脂組成物の溶融混練ができず、樹脂組成物が得られなかった。
【符号の説明】
【0048】
1.樹脂組成物を注入するゲート部
2.ウェルド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、無機充填材1〜150質量部、ベヘン酸金属塩0.01〜5質量部を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
無機充填材が、ガラス繊維、タルクおよび炭素繊維から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形体であって、ウェルド部を有することを特徴とする成形体。


【図1】
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【公開番号】特開2011−195790(P2011−195790A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67104(P2010−67104)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】