説明

ポリアミド樹脂組成物、該ポリアミド樹脂組成物の製造方法、および該ポリアミド樹脂組成物を成形して得られた成形体

【課題】不純物としてのシリコーン樹脂が含有されていても、各種機械特性や操業性が維持された樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部と、シリコーン樹脂0.01〜1.5質量部と、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウム0.01〜3質量部とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂と、シリコーン樹脂と、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムとを含有するポリアミド樹脂組成物に関するものである。さらに、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体のマテリアルリサイクルに適した、ポリアミド樹脂組成物を製造する方法に関するものである。さらに、該ポリアミド樹脂組成物を成形して得られた成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は古くから工業用材料として使用されている。例えば、繊維、フィルム、樹脂成形体などの形態で使用されている。なかでも、ポリアミド6やポリアミド66は、自動車用部品やOA機器などの、広範な分野で用いられている。
【0003】
このようなポリアミド樹脂の使用量が増加するに伴い、大量廃棄の問題も表面化している。そのため、廃棄されたポリアミド樹脂成形体をリサイクルする方法が広く研究されている。
【0004】
一般に、ポリアミド樹脂などのプラスチック製品のリサイクル方法は、3種類に大別することができる。すなわち、プラスチック製品を焼却することにより熱エネルギーを取り出すサーマルリサイクル、プラスチック製品を原料モノマーにまで化学分解した後、再重合するケミカルリサイクル、プラスチック製品を溶融して新たな製品に再び成形するマテリアルリサイクル、の3種類に大別することができる。
【0005】
ポリアミド樹脂の原料となる石油の枯渇が問題となっている昨今、上記のリサイクル方法のなかでも、資源の再利用という観点からは、ケミカルリサイクルおよびマテリアルリサイクルが好ましいものである。そして、エネルギー消費をより効率よく抑制できるという観点からは、ポリマーをモノマー段階にまで分解して再利用する際に大量のエネルギーを消費するケミカルリサイクルよりも、マテリアルリサイクルがより好ましいものである。
【0006】
マテリアルリサイクルを行う場合には、リサイクルして得られた製品の外観や各種特性を高品位に保つために、材料としてのプラスチック製品の純度を高める必要がある。しかしながら、ポリアミド樹脂製品は、各種添加剤が配合されたり、表面処理が施されていたり、その表面に他の樹脂成分が形成されたりする場合が多い。そのため、ポリアミド樹脂製品から、不純物のより少ないポリアミド樹脂を取り出してリサイクルすることは容易ではなかった。
【0007】
表面に他の樹脂成分が形成されたポリアミド樹脂成形体をリサイクルする方法として、以下のような方法が知られている。すなわち、基布としてポリアミド樹脂などが用いられたエアバッグのスクラップ布を、アルカリ液に浸漬後、脱水し容器内で撹拌することで、スクラップ布表面のシリコーン樹脂層を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。また、一種以上の樹脂成分を不純物として含むポリアミド6製品を、アルカリ水溶液や有機溶媒中で加熱することで、不純物を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3)。
【0008】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および特許文献3の手法では、ポリアミド樹脂成形体表面に形成されたシリコーン樹脂層を完全に分離することは困難であった。このようなシリコーン樹脂層が完全に分離されないポリアミド樹脂成形体をリサイクルする場合は、リサイクルして得られた製品の機械的特性や操業性が大きく低下するという問題があった。また、シリコーン樹脂層を完全に分離しようとすると、大量の薬剤を用いる必要があり、工程の簡易化やコストの観点からは好ましいものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3879348号公報
【特許文献2】特開2008−179816号公報
【特許文献3】特開2008−239985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑み、不純物としてのシリコーン樹脂が含有されていても、各種機械特性や操業性が維持されたポリアミド樹脂組成物を、安定的に提供することを目的とする。さらに、本発明は、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体をマテリアルリサイクルするために、ポリアミド樹脂複合体から、容易にシリコーン樹脂層を分離する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂層を分離した後に得られるシリコーン樹脂が残存したポリアミド樹脂成形体から、ポリアミド樹脂組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、不純物としてのシリコーン樹脂の含有量が特定の範囲であり、さらに特定の割合でベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムを含有するポリアミド樹脂組成物は、不純物が実質的に含有されていないポリアミド樹脂と比較して、ポリアミド樹脂の各種機械的特性や操業性が維持されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
さらに、本発明者らは、不純物としてのシリコーン樹脂の含有量が特定の範囲であるポリアミド樹脂組成物を、簡易な工程で経済的に製造する方法を見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)を要旨とするものである。
(1)ポリアミド樹脂100質量部と、シリコーン樹脂0.01〜1.5質量部と、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウム0.01〜3質量部とを含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)シリコーン樹脂が、1分子中に、アルケニル基、およびアルケニル基以外の有機基から選ばれる1種以上を平均2個以上有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)アルケニル基がビニル基であり、アルケニル基以外の有機基がメチル基および/またはフェニル基であることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)いずれかのポリアミド樹脂組成物を製造するに際し、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体から、シリコーン樹脂層をポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜1.5質量部残存するように分離し、表面にシリコーン樹脂が残存しているポリアミド樹脂成形体を粉砕または裁断して、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウム0.01〜3質量部とともに溶融混練することを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(5)(1)〜(3)のポリアミド樹脂組成物を成形して得られた成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、不純物が実質的に含有されていないポリアミド樹脂と比較しても、その特性(機械的強度、剛性、耐衝撃性、操業性)が維持されている。そして、さらに、このようなポリアミド樹脂組成物は、特定量のシリコーン樹脂と、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムを含有しているため、耐吸湿性に優れている。
【0015】
さらにまた、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体から不純物としてのシリコーン樹脂層を分離させて得られた、表面にシリコーン樹脂層が残存しているポリアミド樹脂成形体を、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムとともに溶融混練することで、リサイクルに適したポリアミド樹脂組成物を、簡易な工程で経済的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、シリコーン樹脂と、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムとを含有するものである。
【0018】
ポリアミド樹脂は、アミノカルボン酸、ラクタムを主な原料とするか、ジアミンとジカルボン酸、ジアミンとジカルボン酸を主な原料とするか、あるいはジアミンとジカルボン酸の一対の塩を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。ポリアミド樹脂の原料の具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸;ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等のジアミン;アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等のジカルボン酸などが挙げられる。また、これらジアミンとジカルボン酸は、一対の塩として用いることもできる。
【0019】
このようなポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)およびこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、リサイクルに用いられた際の各種の用途における汎用性の観点から、ナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0020】
ポリアミド樹脂の分子量の指標である相対粘度は、特に制限されるものではないが、1.5〜6であることが好ましく、より好ましくは1.9〜5であり、さらに好ましくは2.3〜4である。なお、上記の相対粘度は、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した値である。
【0021】
相対粘度が1.5未満であると、得られるポリアミド樹脂組成物の強度が低下する場合がある。加えて、ポリアミド樹脂の溶融粘度が低くなるため、ポリアミド樹脂組成物とする場合に、十分な攪拌・剪断力を与えることができず、シリコーン樹脂のポリアミド樹脂組成物中での分散性が低下する場合がある。一方、相対粘度が6を越えると、ポリアミド樹脂組成物を得るために溶融混練に付する場合に、溶融混練が困難となるばかりか、シリコーン樹脂とポリアミド樹脂との親和性が低下することがある。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂組成物で用いるシリコーン樹脂は、通常シリコーンオイル又はシリコーン生ゴムと称されている、平均組成式がRSiO(4−m)/2で示される直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。上記組成式中、mは1.98〜2.02の数を示し、Rはアルケニル基、およびアルケニル基以外の有機基を示す。このシリコーン樹脂は、1分子中に、アルケニル基、およびアルケニル基以外の有機基から選ばれる1種以上を2個以上有するものであることが好ましい。
【0023】
シリコーン樹脂が、1分子中に、アルケニル基、およびアルケニル基以外の有機基から選ばれる1種以上を平均2個以上有するオルガノポリシロキサンであると、オルガノポリシロキサン自体の機械特性、耐熱性に加え、ポリアミド樹脂との相溶性、密着性に優れるという利点がある。
【0024】
このようなアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基を挙げることができる。なかでも、オルガノポリシロキサンの加硫特性、耐熱性の観点から、ビニル基が好ましい。なお、ビニル基の含有量は、通常、オルガノポリシロキサン100mol%中、0.03〜0.3mol%程度である。
【0025】
アルケニル基以外の有機基は、ケイ素原子に結合するものである。このような有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基などのアリール基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基を挙げることができる。なかでも、オルガノシロキサンの性能のバランスに優れ、かつ耐寒性に優れる観点から、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0026】
シリコーン樹脂であるオルガノポリシロキサンにおいては、本発明の効果を損なわない範囲内で、上述のアルケニル基以外の有機基が結合していてもよい。
【0027】
オルガノポリシロキサンの分子構造としては、例えば、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、網状が挙げられる。
【0028】
このようなオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルポリシロキサン・メチルビニルシロキサン・フェニルメチルポリシロキサン共重合体、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基で置換したオルガノポリシロキサン、これらのオルガノポリシロキサンのビニル基の一部または全部をアリル基、プロペニル基などのアルケニル基で置換したオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0029】
オルガノポリシロキサンの重合度は、2以上であることが好ましく、3〜300であることがより好ましく、5〜200であることがさらに好ましい。オルガノポリシロキサンの重合度が2未満であると、得られるシリコーン樹脂の柔軟性などの機能性が低下する場合がある。一方、重合度300を越えると、ポリアミド樹脂組成物中において、シリコーン樹脂の分散性が損なわれるため、ポリアミド樹脂組成物とした場合に、機械特性が損なわれる場合がある。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、シリコーン樹脂の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、シリコーン樹脂0.01〜1.5質量部であることが必要であり、0.02〜1.3質量部であることが好ましく、0.03〜1.0質量部であることがより好ましい。ポリアミド樹脂に対するシリコーン樹脂の含有量が0.01質量部未満であると、得られるポリアミド樹脂組成物の吸湿性が増大する。また、シリコーン樹脂の含有量が1.5質量部を越えるとポリアミド樹脂中にシリコーン樹脂を分散させることが困難となり、引張強度、剛性、耐衝撃性が低下する。加えて、溶融混練時にシリコーン樹脂が細かく分散せず、ストランド中に大きな固まりとして内包されるため、ダイより押出したストランドが切断してポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができない。さらに、シリコーン樹脂が未溶融でストランド表面に付着した状態でストランドが引き取られ、ペレタイズ時に回転刃を十分にストランドに食込ませずことができず、ストランドのカッティング不良となりポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができない。つまり、未溶融シリコーン樹脂は、ストランドの切断の原因となったり、ストランドのカッティングの障害になったりするため、操業性が顕著に低下する。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、上記のように、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂に加えて、さらに、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムを含有することが必要である。ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムを含有することで、ポリアミド樹脂とシリコーン樹脂の相溶性を向上させることができる。その結果、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性の低下を、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムを含有しない場合と比較してより効果的に抑制することができる。
【0032】
ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムの含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.01〜3質量部であることが必要であり、0.02〜2.5質量部であることが好ましく、0.03〜2.0質量部であることがより好ましい。ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムの含有量が0.01質量部未満であると、ポリアミド樹脂とシリコーン樹脂の相溶性を向上させる効果に乏しくなる。一方、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムの含有量が3質量部を越えるとポリアミド樹脂の可塑化が必要以上に促進されるため、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性が低下する。
【0033】
ベヘン酸金属塩は、ステアリン酸金属塩、オレイン酸金属塩、ウンデシレン酸金属塩などの高級脂肪酸金属塩と比較すると、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性の低下を抑制する効果に優れる。さらに、金属塩を構成する金属種が、ナトリウムやマグネシウムであるため、ポリアミド樹脂とシリコーン樹脂の相溶性を向上させることができる。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、強化材、顔料、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等などの添加剤が含有されていてもよい。これらの添加剤は、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造における任意の段階で添加されることができる。
【0035】
熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0036】
強化材としては、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、さらには、タルク、カオリン、雲母、合成フッ素雲母、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、ゼオライト、ハイドロタルサイト等の層状ケイ酸塩、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。中でも、ガラス繊維、炭素繊維は、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性を容易に向上させることができるため好ましく用いられる。
【0037】
顔料としては、カーボンブラック、アルミナ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの無機顔料;アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、インダンスレン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0038】
難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤や水酸化金属などが挙げられる。
【0039】
結晶核剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。
【0040】
耐候剤としては、例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類が挙げられる。耐光剤としては、例えば、ヒンダードアミン系安定剤が挙げられる。可塑剤としては、例えば、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミドが挙げられる。離型剤としては、例えば、脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、エチレンビスアミド化合物、ポリエチレンワックスが挙げられる。
【0041】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂が含有されていてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えばポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ブタジエン共重合体、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン等のエラストマーまたはこれらの無水マレイン酸等による変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレート等が挙げられる。このような熱可塑性樹脂は、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造における任意の段階で添加されることができる。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、ガラス繊維や炭素繊維が含有されていてもよい。これにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性が向上するという利点がある。ガラス繊維としては、特に限定されず、通常のものが用いられる。ガラス繊維の断面は、一般的な丸形状や、長方形や、それ以外の異形断面であってもよい。炭素繊維としては、特に限定されず、通常のものが用いられる。
【0043】
ガラス繊維や炭素繊維を含有させる場合、その含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、5〜200質量部であることが好ましく、10〜180質量部であることがより好ましい。含有量が5質量部未満であると、十分な引張強度が得られない場合がある。一方、200質量部を超えると、ポリアミド樹脂組成物中にガラス繊維が均一に分散せず、溶融混練が困難となる場合がある。
【0044】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ガラス繊維や炭素繊維に加えて、シランカップリング剤を同時に含有することもできる。ガラス繊維および/または炭素繊維とシランカップリング剤とを併用することにより、ポリアミド樹脂と、ガラス繊維および炭素繊維との密着性を向上させ、引張強度を向上することができるという利点がある。
【0045】
本発明のポリアミド樹脂組成物に、ガラス繊維や炭素繊維とシランカップリング剤とを併用する場合において、シランカップリング剤の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜3質量部であることが好ましく、0.02〜0.9質量部であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.01質量部未満であると、ポリアミド樹脂と、ガラス繊維および炭素繊維との密着性向上の効果が不十分となり、十分な引張強度が得られない場合がある。一方、シランカップリング剤の含有量が3質量部を超えると、ポリアミド樹脂と、ガラス繊維および炭素繊維の密着性向上の効果が飽和するばかりでなく、ポリアミド樹脂の靭性が損なわれるため、十分な機械特性が得られない場合がある。
【0046】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法について、以下に説明する。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、ポリアミド樹脂複合体を用いるものである。ポリアミド樹脂複合体は、ポリアミド樹脂成形体表面の少なくとも一部にシリコーン樹脂層が形成されたものである。
【0048】
具体的には、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、ポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂層をポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜1.5質量部残存するように分離し、シリコーン樹脂層が表面に残存しているポリアミド樹脂成形体を粉砕または裁断して、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウム0.01〜3質量部とともに溶融混練する方法である。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物をこのように製造することで、不純物としてのシリコーン樹脂が含有されていても、各種機械特性や操業性が低下することなく、安定的にマテリアルリサイクルされうるポリアミド樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0050】
ポリアミド樹脂複合体から、シリコーン樹脂層を分離する具体的な方法としては、特に制限されないが、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体をアルカリ液に浸漬し、必要に応じて加温することで、シリコーン樹脂層を膨潤させ、分離する方法や、ポリアミド樹脂複合体を粉砕した後、密度差によりポリアミド樹脂のみを選り分ける方法、シリコーン樹脂を溶解できる溶液を用いてポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂を除去する方法などが挙げられる。また、アルカリ液以外の薬剤を併用することにより、シリコーン樹脂層の分離効果をより向上させることもできる。
【0051】
本発明でいうポリアミド樹脂成形体とは、ポリアミド樹脂を溶融、成形して得られる成形体であれば、特に限定されない。成形体の形態としては、フィルム、シート、繊維、織物、編物、不織布、ボトル、容器などの各種成形体が挙げられる。また、ポリアミド樹脂成形体の成形方法としては、フィルム、シート、ボトルまたは容器などの成形方法として押出成形、射出成形、圧延成形、カレンダー成形、ブロー成形、吹込成形などが挙げられ、繊維、織物、編物または不織布などの成形方法として、(溶融紡糸、シャトル織、ウォータージェット織、エアージェット織、シングルトリコット編、シングルコード編、シングルアトラス編等のたて編、平編、ゴム編、パール編等の横編、ケミカルボンド、サーマルボンド、ニードルパンチ、スパンレース、スパンボンドなどの成形方法が挙げられる。
【0052】
本発明で用いられるポリアミド樹脂複合体は、上述のように、シリコーン樹脂層がポリアミド樹脂成形体の表面上に形成されているものである。シリコーン樹脂層の形成方法は、コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ、スロットダイおよびリップなど)、浸漬法、印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーおよびグラビアなど)、転写法(トランスファー)、ラミネート法、積層法、およびスプレーなどにて噴霧する方法などがあげられる。中でも、ポリマー溶液、ポリマー融液のコーティングやポリマーシートの積層が代表的な形成方法である。
【0053】
本発明で用いられるポリアミド樹脂成形体が、繊維、織物、編物、不織布等の形態で取り扱われる場合においては、ポリアミド樹脂成形体表面に形成されたシリコーン樹脂層のシリコーン樹脂が、繊維、織物、編物、不織布の繊維間の空隙に潜り込んでしまう。そのため、ポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂層を分離する場合に、シリコーン樹脂が繊維間の空隙に潜り込み、残存する場合がある。このような場合であっても、シリコーン樹脂、およびベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムの含有量が本願発明で規定する範囲内であるポリアミド樹脂組成物を得ることで、機械的特性や操業性の低下を抑制し、リサイクルに適したポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0054】
本発明において、ポリアミド樹脂成形体に残存するシリコーン樹脂の質量は、以下のようにして求められる。すなわち、シリコーン樹脂層が形成されていないポリアミド樹脂成形体と、このポリアミド樹脂成形体と同一のポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体とを準備する。そして、該シリコーン樹脂層が形成されていないポリアミド樹脂成形体と、このポリアミド樹脂成形体と同一のポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体の単位面積あたりの質量を求め、両者の差より、単位面積あたりのシリコーン樹脂残存質量を知ることができる。シリコーン樹脂層が形成されていない同一のポリアミド樹脂成形体の準備が困難である場合は、上記の分離方法を用いて、十分に分離を行うか、また、必要に応じて、上記分離方法を複数回繰り返すことで、完全にシリコーン樹脂層を分離したポリアミド樹脂成形体を得、該シリコーン樹脂層が完全に分離されたポリアミド樹脂成形体と、このポリアミド樹脂成形体と同一のポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体の単位面積あたりの質量を比較してもよい。
【0055】
なお、ポリアミド樹脂成形体表面から、シリコーン樹脂層が完全に除去できたことを確認するためには、核磁気共鳴法、誘導結合プラズマ法、X線光電子分光法、蛍光X線分析法、電子線マイクロアナライザ法などの分析手法を用いることができる。このような方法により、シリコーン樹脂に起因するシリコン原子の検出量によって、シリコーン樹脂層が完全に除去できたことを確認することができる。
【0056】
本発明で用いるポリアミド樹脂成形体の形態は、上述のように繊維、織物、編物、不織布などの布帛である場合、ポリアミド樹脂複合体の具体例として、衣料用品としては、雨具、防寒着、スキーウェア、ジャケット、水着、ユニフィーム等が挙げられる。また、工業用品としては、カーテン、カーペット、魚網、船舶用ロープ、エアバッグ等が挙げられる。
【0057】
本発明で用いるポリアミド樹脂成形体の形状が布帛以外である場合、このようなポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂が形成されたポリアミド樹脂複合体の具体例としては、電線ケーブル、チューブ、ホース等の押出成形品、センサー、コネクタ等の電気、電子部品で用いられる射出成形品などが挙げられる。
【0058】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、バージン材(不純物を実質的に含有していないポリアミド樹脂)と比較して、その機械的強度や、リサイクルに付される際の操業性が低下せず維持されている。そのため、該ポリアミド樹脂組成物を成形して得られた成形体は、主に建材、OA機器、自動車部品、雑貨等の分野において、好適に用いられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0060】
1.評価方法
(1)ポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂を分離した後の、ポリアミド樹脂成形体に残存するシリコーン樹脂量
ポリアミド樹脂成形体(シート)の表面にシリコーン樹脂が形成されたポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂層の分離がなされたシート(つまり、処理されたシート)、および上記のポリアミド樹脂複合体に用いられるシートと同一のシート(つまり、処理されていないシート)について、300×300mm角サイズに切り出した。該切断されたシートの質量を、それぞれ正確に秤量した。そして、処理されたシートと処理されていないシートの質量差より、シリコーン樹脂残存量を求めた。なお、秤量は5回行い、5回における平均値を、処理されたシートと処理されていないシートにおける平均シリコーン樹脂量として算出した。また、射出成形品においては、上記方法による残存するシリコーン樹脂量の算出が困難なため、下記(7)の方法で得た結果をもって、シリコーン樹脂残存量とした。
【0061】
(2)操業性
(2−1)ストランドのカッティング性
2軸押出機(東芝機械製、商品名「TEM37BS」)を用いて、シリンダー温度280℃、生産量25kg/hの条件で、50kgの処理後シートを溶融混練し、ペレット化した。ダイから押し出されたストランド表面に未溶融シリコーン樹脂が付着し、ストランドのカッティングの障害になっているか、またその障害によってストランドが1個1個の樹脂ペレットに切断されず、つながった状態になっていないかを目視で観察した。
(2−2)ストランド切れの回数
2軸押出機(東芝機械製、商品名「TEM37BS」)を用いて、シリンダー温度280℃、生産量25kg/hの条件で、50kgの処理後シートを溶融混練した後にストランド状に押し出し、冷却、カッティングをおこなってペレットを得た。この間にストランドが切れた回数を計測した。
(2−3)生産安定性
上記(2−1)および(2−2)の結果を用いて、以下の基準で評価した。
○:シリコーン樹脂の付着が無く、かつストランド切れの回数が5回以下である。
×:シリコーン樹脂の付着が有り、および/またはストランド切れの回数が5回を超える。
【0062】
(3)引張強度、引張伸度(機械的強度)
ISO527−1、ISO527−2に従って測定した。
(4)曲げ強度、曲げ弾性率(剛性)
ISO178に従って測定した。
(5)シャルピー衝撃強度(耐衝撃性)
ISO179−1に従って測定した。
【0063】
(6)成形体の相対粘度
上記(3)で用いた試験片から、それぞれ適当な大きさ(例えば、3×3mm程度のサイズ)に切片を切り出した。この切片を、96質量%濃硫酸中に濃度が1g/dlになるように溶解させ、G−3ガラスフィルターにより不溶成分を濾別した後、測定に供した。測定はウベローデ型粘度計を用い、25℃で行った。本発明においては、成形体の相対粘度が3.0以上である場合、実用に耐えうるものであるとした。
(7)ポリアミド樹脂組成物中のシリコーン樹脂濃度
上記(3)で用いた試験片において、蛍光X線分析装置(理学電機社製、「System3370E型」)を用い、シリコン原子の定量分析を行った。なお、X線源はRh−Kα線、出力は50kV、50mAで測定を行った。ここで、ポリジメチルシロキサン中のシリコン原子が37%であるとし、分析により得られたシリコン原子量より、ポリアミド樹脂組成物中のシリコーン樹脂濃度を算出した。
【0064】
(8)耐吸湿性
成形機(東芝機械社製、商品名「EC−100 N−II」)を用いて、50×70×2mmサイズの試験片を成形した直後、該試験片の質量であるWを測定した。そして、該試験片の23℃、50%RHで1000時間処理した後の質量であるWを測定した。下記式により吸湿率を算出し、以下の基準で評価した。
吸水率(%)=(W−W)/W×100
○:吸湿率が1.5%未満である。
×:吸湿率が1.5%を超える。
【0065】
実施例および比較例にて使用した材料を、以下に示す。
(1)ポリアミド樹脂複合体
・ポリアミド66基布を含むポリアミド樹脂複合体(a)
ポリアミド66製基布(平組織、相対粘度:3.1、単糸デニール:6デニール、トータルデニール:420デニール、経密度:45本/吋、緯密度:45本/吋、目付:300g/m、厚さ:0.35mm)をポリアミド樹脂成形体とした。
【0066】
該ポリアミド樹脂成形体の片面に、メチルビニル系シリコーン樹脂(信越化学社製、「X−32−1124」)100質量部に対して、架橋剤(信越化学社製、商品名「CX−32−1124」)(ジメチルポリシロキサン・メチルビニルポリシロキサン・フエニルメチルポリシロキサン等の共重合体)を10質量部含有した樹脂組成物から形成されたシリコーン樹脂を、ナイフコーテイング法を用いて100μmの厚さに付与し、120℃で1分間乾燥した。その後、185℃で2分間のキユアリングを行って、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層を形成し、ポリアミド樹脂複合体(a)とした。このポリアミド樹脂複合体(a)における、シリコーン樹脂層が形成されたポリアミド66基布の表面の経密度、緯密度共に46本/吋であった。
【0067】
・ポリアミド46基布を含むポリアミド樹脂複合体(b)
ポリアミド66製基布の代わりに、ポリアミド46製基布(平組織、相対粘度:3.4、単糸デニール:6デニール、トータルデニール:420デニール、経密度:45本/吋、緯密度:45本/吋、目付:300g/m、厚さ:0.35mm)を用いた。それ以外は、上記(a)と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂複合体(b)を得た。
【0068】
・コネクタ部品
タルク30質量%が配合されたポリアミド66樹脂成形体の表面に、シリコーン樹脂層が形成された質量15gのコネクタ部品(シリコーン樹脂層の量:ポリアミド66樹脂成形体100質量部に対して、30質量部)を用いた。なお、このシリコーン樹脂層は、フェニル基を5モル%含有するメチルフェニルシリコーンゴムから形成されたものである。
【0069】
・センサー部品
ポリアミド6樹脂からなる筺体の表面に、シリコーン樹脂層が形成された質量20gのセンサー部品(シリコーン樹脂層の量:ポリアミド6樹脂筐体100質量部に対して、30質量部)を用いた。なお、このシリコーン樹脂層は、主剤としてジメチルポリシロキサン95質量%に対して硬化剤としてメチルハイドロジェンシロキサン5質量%を含有し、封止がなされたシリコーン樹脂から形成されたものである。
【0070】
【表1】

【0071】
(2)ベヘン酸金属塩、およびベヘン酸金属塩以外の高級脂肪酸金属塩
・ベヘン酸ナトリウム(試薬)(以下、「Bh−Na」と称する場合がある)
・ベヘン酸マグネシウム(試薬)(以下、「Bh−Mg」と称する場合がある)
・ステアリン酸カルシウム(試薬)(以下、「St−Ca」と称する場合がある)
(3)ガラス繊維
・チョップドストランドガラス繊維(日東紡社製、商品名「CS3H459」)(ガラス繊維径10μm、繊維長3mm)(以下、「GF−1」と称する場合がある)
【0072】
(シリコーン樹脂層を分離したシートの作製)
上記5種のポリアミド樹脂複合体(S−1)〜(S−5)を、300×300mm角サイズに切り出した。容積8Lのガラス製容器に水酸化ナトリウム750g、エチレンジアミン100g、水4150mlを入れ15%水酸化ナトリウム水溶液を作成し、この水溶液中に、上記切片をそれぞれ浸漬させ、液温60℃を保って2時間加温した。この処理を処理(X)とする。
【0073】
上記処理(X)によって、ポリアミド樹脂複合体(S−1)〜(S−5)からシリコーン樹脂層の分離をおこない、処理されたシート(つまり、ポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂層が分離され、表面にシリコーン樹脂が残存するポリアミド樹脂成形体)である、(R−1)〜(R−4)、(R−9)を得た。
【0074】
さらに、(S−1)において、上記処理(X)を終えた後、一旦15%水酸化ナトリウム水溶液から引き上げ、再び新たな15%水酸化ナトリウム水溶液を用いて上記処理(X)と同様にして、シリコーン樹脂層の分離をおこなって[つまり、上記処理(X)を2回行って]、処理されたシートである(R−8)を得た。(R−1)〜(R−4)、(R−8)、(R−9)のシリコーン樹脂残存量を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
また、加温時の液温を40℃とした以外は、上記処理(X)と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂複合体(S−3)からシリコーン樹脂層を分離し、処理されたシート(R−5)を得た。さらに、加温時間を1時間とした以外は、上記処理(X)と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂複合体(S−3)および(S−4)からシリコーン樹脂層を分離し、処理されたシート(R−6)および(R−7)をそれぞれ得た。(R−5)〜(R−7)のシリコーン樹脂残存量を表2に示す。
【0077】
(シリコーン樹脂層を分離したシートの作製)
上記5種のポリアミド樹脂複合体(S−1)〜(S−5)を、300×300mm角サイズに切り出した。容積8Lのガラス製容器に水酸化カリウム750g、エチレンジアミン100g、水4150mlを入れ15%水酸化ナトリウム水溶液を作成し、この水溶液中に、上記切片をそれぞれ浸漬させ、液温90℃を保って2時間加温した。この処理を処理(Y)とする。
【0078】
上記処理(Y)によって、ポリアミド樹脂複合体(S−1)〜(S−5)からシリコーン樹脂層の分離をおこない、処理されたシート(つまり、ポリアミド樹脂複合体からシリコーン樹脂層が分離され、表面にシリコーン樹脂が残存するポリアミド樹脂成形体)である、(R−10)〜(R−13)、(R−18)を得た。
【0079】
さらに、(S−1)において、上記処理(Y)を終えた後、一旦15%水酸化カリウム水溶液から引き上げ、再び新たな15%水酸化カリウム水溶液を用いて上記処理(Y)と同様にして、シリコーン樹脂層の分離をおこなって[つまり、上記処理(Y)を2回行って]、処理されたシートである(R−17)を得た。(R−10)〜(R−13)、(R−17)、(R−18)のシリコーン樹脂残存量を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
また、加温時の液温を70℃とした以外は、上記処理(X)と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂複合体(S−3)からシリコーン樹脂層を分離し、処理されたシート(R−14)を得た。さらに、加温時間を1時間とした以外は、上記処理(X)と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂複合体(S−3)および(S−4)からシリコーン樹脂層を分離し、処理されたシート(R−15)および(R−16)をそれぞれ得た。(R−14)〜(R−16)のシリコーン樹脂残存量を表3に示す。
【0082】
比較例1
55kgの(R−1)を細かく裁断し、2軸押出機(東芝機械社製、「TEM37BS」)を用いて、シリンダー温度280℃、生産量25kg/hの条件で溶融混練した。次いで、ダイよりストランド状に押出し、冷却、カッティングを行い、50kgのポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。この間にストランドが切れたのは3回であった。得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形機(東芝機械社製、商品名「EC−100 N−II」)にて、樹脂温度280℃、金型温度80℃、射出圧力100MPaで射出成形を行い、試験片を得た。得られた試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
比較例2〜4
(R−1)に代えて、(R−2)〜(R−4)を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って、(R−2)〜(R−4)から試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0085】
実施例1
処理シートの溶融混練時に、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.2質量部のベヘン酸ナトリウムを添加した以外は、比較例1と同様の操作を行って、試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0086】
比較例5
ベヘン酸ナトリウムに変えてステアリン酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0087】
実施例2
処理シートの溶融混練時に、ポリアミド樹脂100質量部に対して、さらに、43質量部のガラス繊維を添加した以外は、実施例1と同様の操作を行って試験片を得、各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0088】
実施例3
ベヘン酸ナトリウムをベヘン酸マグネシウムに代えた以外は、実施例1と同様の操作を行って試験片を得、各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0089】
比較例6
(R−1)に代えて、(R−8)を用い、シリコーン樹脂の含有量を0.01質量部ちとした以外は、比較例1と同様の操作を行って試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0090】
比較例7
(R−1)に代えて、(R−9)を用い、溶融混練時のシリンダー温度、および射出成形時の樹脂温度としては310℃とした以外は、比較例1と同様の操作を行って試験片を得て各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0091】
比較例8
ポリアミド樹脂複合体としてコネクタ部品を使用した。まず、水酸化ナトリウム750g、エチレンジアミン100g、水4150mlを混合し、15%水酸化ナトリウム水溶液を作成した。この水溶液中に細かく粉砕したコネクタ部品を浸漬し、液温60℃を保って2時間加温した。コネクタ部品からシリコーン樹脂層の分離を行い、シリコーン樹脂が残存するポリアミド樹脂成形体を回収した。回収したポリアミド樹脂成形体を用い、実施例1と同様の操作を行って試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0092】
比較例9
ポリアミド樹脂複合体としてセンサー部品を使用した。比較例9と同様の操作をおこなって、センサー部品からシリコーン樹脂を分離し、シリコーン樹脂が残存するポリアミド樹脂成形体(ポリアミド樹脂の筐体)を回収した。回収したポリアミド樹脂成形体を用い、比較例1と同様の操作をおこなって試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0093】
実施例4〜6、および比較例10〜18
表5に示したように(R−10)〜(R−13)、(R−17)、(R−18)、コネクタ部品、センサー部品を用いた以外は、それぞれ、実施例1〜3、比較例1〜10と同様の操作を行って試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表5に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
比較例19
(R−1)に代えて、(R−5)を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って、ポリアミド樹脂組成物を得た。このポリアミド樹脂組成物においては、シリコーン樹脂の含有量が本発明において規定する範囲よりも多かったため、溶融混練時の操業状態が悪く、ストランドの切断が多発した。ポリアミド樹脂組成物ペレットを得て、試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表6に示す。
【0096】
【表6】

【0097】
比較例20、比較例21
(R−1)に代えて、(R−6)、(R−7)をそれぞれ用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って、ポリアミド樹脂組成物を得た。いずれも、シリコーン樹脂の含有量が本発明において規定する範囲よりも多かったため、溶融混練時の操業状態が悪く、ストランドに未溶融シリコーン樹脂が巻き付いたり、ストランドの切断が多発したりした状態となり、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができなかった。なお、比較例22および比較例23においては、成形体を用いてシリコーン樹脂濃度を求めることができないため、押出機から回収したスクラップ品を用いて、シリコーン樹脂濃度を求めた。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表6に示す。
【0098】
比較例22
ポリアミド66樹脂ペレットを単独で用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表6に示す。
【0099】
比較例23〜26
(R−14)〜(R−16)を用いた以外は、比較例19〜22と同様の操作を行って試験片を得、この試験片を各種評価に付した。その評価結果を表6に示す。
【0100】
実施例1〜5で得られた樹脂組成物は、バージン材(不純物を実質的に含有していないポリアミド樹脂)である比較例22と比較して、その機械的強度や操業性を維持していた。よって、コストアップや工程の煩雑化を抑制しつつ、マテリアルリサイクルに適したポリアミド樹脂組成物を、簡易な工程で経済的に得ることができた。さらに、実施例1〜5で得られた樹脂組成物は、特定量のシリコーン樹脂を含有しているため、吸湿性にも優れるものであった。さらに、シリコーン樹脂の分離性能や、シリコーン樹脂の回収率も良好であった。
【0101】
ベヘン酸ナトリウムを用いた実施例1や4、およびベヘン酸マグネシウムを用いた実施例3や実施例20は、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウムを用いていない比較例1、10、およびベヘン酸ナトリウムやベヘン酸マグネシウム以外の高級脂肪酸金属塩であるステアリン酸カルシウムを用いた比較例5や14と比較すると、それぞれ操業性、耐衝撃性により優れるものであった。
【0102】
ガラス繊維とベヘン酸ナトリウムを併用した実施例2や5は、ベヘン酸ナトリウムのみが用いられた実施例1や4と比較すると、それぞれ引張強度、剛性が向上していた。
【0103】
15%水酸化ナトリウム水溶液を用いたシリコーン樹脂層の分離、除去操作を2回繰り返した比較例6や15は、分離、除去操作を1回しか行っていない比較例1や11に比べ、シリコーン樹脂残存量は少なくなり、また、操業性、耐衝撃性が向上していた。
【0104】
比較例19、比較例23においては、シリコーン樹脂の含有量が過多であった。そのため、操業性が悪く、また引張強度、剛性、耐衝撃性が劣っていた。
【0105】
比較例20、21、24および25においては、シリコーン樹脂の含有量が過多であった。そのため、成形体を得ることができず、操業性に著しく劣るものであった。この結果から、シリコーン樹脂層を全く除去せずにリサイクルに付した場合は、リサイクルが困難であることが明らかである。
【0106】
比較例22や26においては、シリコーン樹脂を含有していないため、吸湿性に劣るものであった。また、原料として、バージン材であるポリアミド樹脂を用いているため、リサイクル性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部と、シリコーン樹脂0.01〜1.5質量部と、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウム0.01〜3質量部とを含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
シリコーン樹脂が、1分子中に、アルケニル基、およびアルケニル基以外の有機基から選ばれる1種以上を平均2個以上有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
アルケニル基がビニル基であり、アルケニル基以外の有機基がメチル基および/またはフェニル基であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造するに際し、ポリアミド樹脂成形体の表面にシリコーン樹脂層が形成されたポリアミド樹脂複合体から、シリコーン樹脂層をポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜1.5質量部残存するように分離し、表面にシリコーン樹脂が残存しているポリアミド樹脂成形体を粉砕または裁断して、ベヘン酸ナトリウムおよび/またはベヘン酸マグネシウム0.01〜3質量部とともに溶融混練することを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形して得られた成形体。

【公開番号】特開2012−82391(P2012−82391A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151321(P2011−151321)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2011−521401(P2011−521401)の分割
【原出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】