説明

ポリアミド樹脂組成物の成形方法

【課題】キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂組成物の成形サイクルを短縮し、成形効率のよい成形方法を提供する。
【解決手段】キシリレンジアミンとセバシン酸とから得られるポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、融点が、ポリアミド樹脂(A)の融点より51〜120℃高いポリアミド樹脂(B)3〜50質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂(B)の融点以下で、かつ、ポリアミド樹脂(A)の融点以上の樹脂温度で成形することを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物の成形方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物の成形方法に関し、詳しくは、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂組成物の成形サイクルを短縮した成形効率のよい成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、耐衝撃性、耐摩擦・摩耗性などの機械的強度に優れ、耐熱性、耐油性などにも優れたエンジニアリングプラスチックスとして、自動車部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、機械部品、建材・住設関連部品などの分野で広く使用されており、近年更にその使用分野が広がっている。
【0003】
ポリアミド樹脂には、例えばポリアミド6、ポリアミド66など多くの種類が知られているが、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から得られるポリメタキシリレンアジパミド(以下、「MXD6」ともいう。)は、ポリアミド6、ポリアミド66などとは異なって主鎖に芳香族環を有し、高い機械的強度と弾性率を有し、低吸水率で、耐油性に優れ、また成形においては、成形収縮率が小さく、引けやソリが小さいことから精密成形にも適しており、極めて優れたポリアミド樹脂として位置付けられ、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、レジャースポーツ用品、土木建築用部材等の様々な分野での成形材料として、近年ますます広く利用されてきている。
【0004】
しかしながら、MXD6は結晶化速度が遅いため成形サイクルに長時間を要すという問題があり、成形コストの面で不利である。MXD6の結晶化速度を向上させる方法として、本出願人はポリアミド66とガラス繊維を配合することを提案した(特許文献1参照)。しかし、ポリアミド66を添加することは、吸水量の増加や機械的強度の低下等の不都合が生じる場合があり、ガラス繊維を配合することについては成形品の用途面で大きな制約となる。
【0005】
このため、本出願人は、MXD6に結晶核剤としてタルク、あるいは窒化ホウ素を添加することを提案した(特許文献2および特許文献3参照)が、タルクや窒化ホウ素等の添加は機械強度の低下が起きるのでその配合量には制限があり、十分な結晶化速度の向上は達成しにくい。
また、ポリアミド樹脂用の結晶化核剤として、ポリカルボン酸系アミド化合物やポリアミン系アミド化合物等を配合することも提案されている(特許文献4および特許文献5参照)が、これら化合物は高価な上に、結晶化促進効果は必ずしも十分ではない。
【0006】
さらに、近年、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂として、キシリレンジアミンとセバシン酸からのポリアミド樹脂(以下、「キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂」ともいう。)が、MXD6に比べて、耐薬品性や耐衝撃性に優れることから、各種部品用の材料として大いに期待されてきている。
しかしながら、上記した問題点は、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂において、さらに顕著であり、結晶化速度が遅く、成形品を射出成形した場合、結晶化度の低い成形品となる。また、十分な結晶化度の成形品を得るためには、冷却時間を長くする必要があり、成形サイクルも長くなり、成形効率が悪い。また、金型温度を上げて成形をしたり、成形品にアニール処理を施したりすることにより、結晶化度を上げる方法もあるが、金型温度を上げて成形した場合には、樹脂の流動性がよいため、成形品にバリが発生し易くなり、また、アニール処理を施す場合は、処理工程が増えるという問題が発生する。
【0007】
こうした状況下、結晶化速度が速く、成形サイクルを速めることが可能で成形効率に優れたキシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂の成形方法の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭54−32458号公報
【特許文献2】特開2005−2298号公報
【特許文献3】特開2003−327692号公報
【特許文献4】特開平06−271762号公報
【特許文献5】特開2004−35895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂組成物の成形サイクルを短縮し、成形効率のよい成形方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂に、融点が51〜120℃高い高融点ポリアミド樹脂を含有してなるポリアミド樹脂組成物を原料とし、これを、高融点のポリアミド樹脂の融点以下で、かつ、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂の融点以上の樹脂温度で、成形することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、キシリレンジアミンとセバシン酸とから得られるポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、融点が、ポリアミド樹脂(A)の融点より51〜120℃高いポリアミド樹脂(B)3〜50質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂(B)の融点以下で、かつ、ポリアミド樹脂(A)の融点以上の樹脂温度で成形することを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物の成形方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、さらに、ガラス繊維(C)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10〜250質量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物の成形方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、成形を射出成形により行うことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形方法によれば、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂の優れた化学的、機械的性質を損なうことなく、成形時における冷却時間を短縮することができ、成形サイクルを短縮して成形効率を各段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1.概要]
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形方法は、キシリレンジアミンとセバシン酸とから得られるポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、ポリアミド樹脂(A)より融点が51〜120℃高いポリアミド樹脂(B)3〜50質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂(B)の融点以下で、かつ、ポリアミド樹脂(A)の融点以上の樹脂温度で、成形することを特徴とする。
以下、本発明において使用される各成分および成形方法について、詳細に説明する。
【0016】
[2.ポリアミド樹脂(A)]
本発明のポリアミド樹脂組成物に用いるポリアミド樹脂(A)は、ジアミン成分としてキシリレンジアミン、ジカルボン酸成分としてセバシン酸を用いて得られるポリアミド樹脂である。
キシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミン又はパラキシリレンジアミンを単独又はこれらを混合して用いてもよく、メタキシリレンジアミン40〜100モル%とパラキシリレンジアミン60〜0モル%の範囲で用いるのが好ましい。パラキシリレンジアミンが60モル%を越えると得られるキシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂の融点が高くなりすぎ、成形時の加熱による熱劣化を引き起こしやすく、また、結晶化速度が速くなりすぎ外観が悪くなる場合がある。
【0017】
メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを混合して使用する場合は、その混合割合は、好ましくは、パラキシリレンジアミンが15〜60モル%、メタキシリレンジアミンが85〜40モル%、より好ましくはパラキシリレンジアミンが15〜45モル%、メタキシリレンジアミンが85〜55モル%であり、最も好ましくは、パラキシリレンジアミンが20〜40モル%、メタキシリレンジアミンが80〜60モル%である。パラキシリレンジアミンの量が、15モル%未満では、結晶化速度が低下し、成形サイクルが長くなる場合があり、十分な融点の向上が見られにくく耐熱性が不足する場合があり、60モル%を超えると融点が高くなりすぎ、重合時及び成形時に熱劣化等の不都合を生じるおそれがあるので好ましくない。混合ジアミンにおけるジアミンとしては、パラキシリレンジアミンとメタキシリレンジアミン以外に、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及び脂環族ジアミン等の他のジアミンを混合して使用してもよく、他のジアミンの使用割合は、好ましくは全ジアミンの10モル%以下であり、より好ましくは全ジアミンの5モル%以下である。脂肪族ジアミンとしては、例えばテトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等が挙げられ、芳香族ジアミンとしては、例えば、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン等が挙げられ、脂環族ジアミンとしては、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0018】
もう一方のジカルボン酸成分としてのセバシン酸は、セバシン酸を単独で使用するのでもよく、他のジカルボン酸を混合して使用してもよい。
混合して使用する他のジカルボン酸としては、好ましくは炭素数6〜12、より好ましくは6〜9の脂肪族ジカルボン酸であり、具体例としては、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等が挙げられ、このうち特に好ましいのは、アジピン酸である。
他のジカルボン酸の使用割合は、好ましくは全ジカルボン酸の10モル%以下であり、より好ましくは全ジカルボン酸の5モル%以下である。また、脂肪族ジカルボン酸以外に少量の芳香族ジカルボン酸を使用することもでき、芳香族ジカルボン酸としては、1,5−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸を使用する場合の使用量は、好ましくは、全ジカルボン酸の10モル%以下であり、より好ましくは全カルボン酸の5モル%以下である。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)の相対粘度(96%硫酸中、濃度1g/100ml、温度25℃の測定条件)は、好ましくは1.6〜3.5であり、より好ましくは1.7〜3であり、最も好ましくは1.8〜2.8である。相対粘度が低すぎると機械的強度が不十分な場合があり、高すぎると成形性が低下しやすい。
【0020】
[3.ポリアミド樹脂(B)]
本発明においては、上記ポリアミド樹脂(A)に対して、ポリアミド樹脂(A)より融点が51〜120℃高いポリアミド樹脂(B)を配合することが必要である。ポリアミド(B)は、結晶核剤として作用し、ポリアミド(A)の結晶化速度を高める効果を有する。ポリアミド樹脂(A)の結晶化速度は、他のポリアミド樹脂に比べてかなり遅いため、融点が51〜120℃高いポリアミド樹脂(B)を選択し、かつその量を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、3〜50質量部で含有させる。
ポリアミド樹脂(B)の融点が51℃以上高くないと、ポリアミド樹脂(A)の結晶化促進効果が不十分となる。51℃以上の高融点のポリアミド樹脂を配合することで、得られる成形品を高い結晶化度のものとすることができる。
【0021】
好ましい融点差は、60℃以上であり、また、ポリアミド(B)とポリアミド樹脂(A)との融点差の上限は120℃以下、好ましくは、105℃以下である。
なお、ポリアミド樹脂(A)の融点は、その製造方法や分子量、分岐の有無等によっても異なるが、通常は190℃前後である。
【0022】
ポリアミド樹脂(B)の融点がポリアミド樹脂(A)の融点より51〜120℃高くするためには、ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂(B)の種類を選択する方法や、ポリアミド樹脂組成物を得る際の製造条件、例えば、溶融混練時の温度、時間、スクリュー回転数等の条件を調整する方法等を採用すればよい。
【0023】
本発明で使用できるポリアミド樹脂(B)としては、融点が、ポリアミド樹脂(A)の融点より51〜120℃高いポリアミド樹脂であれば特に制限はない。例えば、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との塩よりなるポリアミド構成単位(ポリアミド66単位)を主成分とする単独重合体又は共重合体であり、単独重合体としてはポリアミド66(通常、融点265℃)が好ましく挙げられ、また共重合体としては、ヘキサメチレンジアミンアジパミド塩とカプロラクタムまたはε−アミノカプロン酸を主原料としたポリアミド66/6共重合体、またテレフタル酸やイソフタル酸を用いたポリアミド66/6T、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6T/6I共重合体等が挙げられ、これらのうち、融点が上記条件を満たすものが使用できる。また、テトラメチレンジアミンとアジピン酸を重縮合してなるポリアミド46(通常、融点290℃)や、ノナンジアミンとテレフタル酸を重縮合してなるポリアミド9T(通常、融点306℃)等も使用できる。
【0024】
このようなポリアミド樹脂(B)の相対粘度(96%硫酸中、濃度1g/100ml、温度25℃の測定条件)は、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1.8〜3.5であり、さらに好ましくは2〜3.2であり、最も好ましくは2〜3である。この範囲を外れるとポリアミド樹脂(B)による核剤効果の発現が不十分となる場合があり、また機械的強度が不十分となったり、成形性が低下したりする場合がある。
【0025】
ポリアミド樹脂(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、3〜50質量部であり、より好ましくは5〜45質量部、特に好ましくは7〜35質量部である。このような含有比率とすることにより、核剤効果に優れ、かつ成形時の成形性が安定しやすい傾向にある。
ポリアミド樹脂(B)の含有量が、3質量部より少ない場合は、期待される結晶化速度の向上効果が得られにくい。また、50質量部より多い場合は、成形時の計量性が低下したり、ポリアミド樹脂(A)の優れた性質である耐薬品性や耐衝撃性が低下しやすい。
【0026】
なお、本発明において、ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂(B)の融点は、示差走査熱量測定(DSC)法において、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で昇温した際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度として定義される。
具体的には、例えば、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)を配合し溶融混練後得られた樹脂組成物ペレットの場合で説明すると、得られた樹脂組成物ペレットを、室温で12時間放置後、ペレットから10mgの試料を切り出し、DSCに供する。条件としては、窒素雰囲気下、30℃からポリアミド樹脂(B)の融点+30℃程度まで10℃/分の速度で昇温し、ポリアミド樹脂(A)成分とポリアミド樹脂(B)成分に対応する吸熱ピークのピークトップの温度からそれぞれの融点が求められる。
【0027】
[4.ガラス繊維]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形品に反り性能及び剛性等の機械的強度を付与させるために、ガラス繊維を含有するのも好ましい。その含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10〜250質量部が好ましく、より好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは30〜120質量部である。ガラス繊維が、10質量部未満では、機械部品等としての強度、剛性を発揮するのが十分でない場合があり、250質量部を超えるとポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が非常に高くなって射出成形等によって成形品を製造するのが困難となりやすい。
【0028】
ガラス繊維の組成は任意であるが、溶融ガラスよりもガラス繊維化が可能な組成が良い。好ましい組成としては、Eガラス組成、Cガラス組成、Sガラス組成、耐アルカリガラス等が挙げられる。通常、入手が容易である点でEガラスが好ましい。ガラス繊維の引張り強度は、任意であるが、290kg/mm以上が好ましい。
【0029】
ガラス繊維は、例えば、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤などで表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、通常ガラス繊維質量の0.01質量%以上であることが好ましい。
【0030】
更に、必要に応じ、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩化合物などの帯電防止剤、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などの被膜形成能を有する樹脂混合物、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤などを併用したもの等によって表面処理されたガラス繊維を使用してもよい。
【0031】
ポリアミド樹脂組成物には、さらに他のガラス繊維以外の充填材を配合することができ、炭素繊維、セラミック繊維などの無機繊維類、ステンレススチール繊維などの金属繊維類、液晶性全芳香族ポリアミド等の有機繊維類、マイカ、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、ウォラストナイト等が挙げられる。
【0032】
[5.その他の添加成分]
また、本発明におけるポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じて難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、可塑剤、ハロゲン化銅系(例えば、ヨウ化銅、塩化銅、臭化銅)及び/又はハロゲン化アルカリ金属塩系(例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム等)等の安定剤や、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系等の酸化防止剤、離型剤、核剤、顔料、染料、分散剤、紫外線吸収剤、抗菌剤及びその他の周知の添加剤を配合することができる。
【0033】
成形加工時の離型性の向上、成形サイクルの短縮および良好な表面外観の成形品を得る目的で、離型剤を含有させることが好ましい。離型剤としては、融点が成形時の樹脂温度以下、好ましくはポリアミド樹脂(A)の融点以下のものが、樹脂組成物中での分散性に優れ、離型性の向上効果がより高くなるため好ましい。離型剤としては、高級脂肪酸アルカリ(土類)金属塩、高級脂肪酸(ビス)アミド、ポリオレフィン系ワックス等が挙げられ、高級脂肪酸アルカリ(土類)金属塩、高級脂肪酸(ビス)アミドが好ましい。
【0034】
高級脂肪酸アルカリ(土類)金属塩は、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩であり、その高級脂肪酸としては炭素数10〜30、好ましくは14〜24のものが、揮発性が低く、分散性が良好であることから好ましい。
高級脂肪酸の具体例としては、例えば、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられ、好ましくはステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0035】
高級脂肪酸アルカリ(土類)金属塩としては、これらの高級脂肪酸のカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
高級脂肪酸金属塩の具体例としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
これらの中でも、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0036】
これらの高級脂肪酸アルカリ(土類)金属塩は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0037】
高級脂肪酸(ビス)アミドは、高級脂肪酸のアミド、高級脂肪酸のビスアミドであり、高級脂肪酸及び/又は多塩基酸とジアミンとの脱水反応によって得られる化合物が好ましい。高級脂肪酸としては、炭素数16以上、例えば炭素数16〜30の飽和脂肪族モノカルボン酸が好ましく、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。
多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸類及びフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸並びにシクロヘキシルジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0038】
高級脂肪酸(ビス)アミドとしては、具体的には、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、モンタン酸アミドなどが挙げられる。また、高級脂肪酸ビスアミドとしては、上記の高級脂肪酸と炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の脂肪族ジアミンとの反応により得られる高級脂肪酸ビスアミドが挙げられ、具体的には、メチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリルアミド等が挙げられる。これらのうち、ヤケ、メヤニの発生防止効果の点で、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミドが好ましい。
【0039】
これらの高級脂肪酸(ビス)アミドは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
離型剤の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましく、0.05〜1.2質量部がより好ましく、0.07〜0.8質量部がさらに好ましい。含有量が0.01質量部未満であると、十分な離型性向上効果が得られにくく、2質量部を超えると、機械的強度が低下したり、樹脂組成物の溶融混練時や樹脂組成物の成形時に、押出機や射出成形機のスクリューが滑って十分な練りが得られない場合があるだけでなく、成形時のモールドデポジットが多くなり成形品外観が低下したり、生産性が悪くなったりする等の問題が発生する場合がある。
【0041】
さらに、本発明におけるポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、前記した以外の他の樹脂を配合してもよい。このような他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)以外のポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、及び、ポリエステル系、ポリオレフィン系、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)等の変性、未変性エラストマー等が挙げられる。また、配合できる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。この様な他の樹脂を含む場合の他樹脂の含有量は、好ましくはポリアミド樹脂(A)100質量部に対して100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0042】
[6.ポリアミド樹脂組成物の製造]
ポリアミド樹脂組成物を製造する方法は、特に制限はないが、本発明においては、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との混合物を溶融させ、混練して樹脂組成物とする方法を採用することが好ましい。
このような溶融混練により樹脂組成物を製造する方法は、特に制限はないが、押出機を使用して、押出機のホッパーにポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)、必要により、ガラス繊維(C)あるいは他の添加剤等を投入するか、又はガラス繊維(C)はサイドフィードするか、あるいはまた、予めこれらを混合して得られた予備混合物をホッパーに投入し、これを、好ましくはポリアミド樹脂(B)の融点+10℃以上に加熱して、溶融させ混練する。
【0043】
押出機としては、樹脂組成物原料を加熱してスクリューを用いて連続的にダイから押出すタイプのものであって、単軸式押出機、ベント付押出機、多軸式押出機等、通常のものが用いられる。
このような押出機により、ポリアミド樹脂組成物は、溶融混練され、ダイノズルより通常、ストランドとして押出される。ストランドの断面は、円又は楕円等の円に近い形状であることが好ましく、その径は通常1〜5mm、好ましくは1.5〜4.5mmであり、より好ましくは2〜4mmである。
【0044】
ダイノズルより押出されたストランドは、通常はペレット化されるが、ストランドは240〜400℃の高温溶融状態であり、このままではペレタイザーによるカッティングができないため、融点以下の150℃〜常温に冷却固化する。通常、この冷却には水が用いられ、ダイノズルより押出されたストランドは水にて冷却される。水冷するには、通常、水を含有する水槽を用い、ストランドを通過させる方法が一般的であるが、ストランドをコンベアベルト上で搬送しながらシャワーを浴びせ冷却する方法も好ましい。冷却に用いる水の温度としては、通常20〜80℃であり、好ましくは30〜60℃である。
【0045】
冷却されたストランドは、ペレタイザーによりカッティングされることによりペレットとなる。ペレットの形状としては、通常、円筒状であり、その長さは通常1〜25mm、好ましくは2〜15、より好ましくは2〜8mmである。
【0046】
[7.成形方法]
本発明においては、このようにして得られたポリアミド樹脂組成物(通常はペレット)から成形品を得るにあたり、ポリアミド樹脂(B)の融点以下で、かつ、ポリアミド樹脂(A)の融点以上の樹脂温度で、成形することを特徴とする。成形時の樹脂温度を、このような温度範囲とすると、ポリアミド樹脂(A)は十分に融解し、ポリアミド樹脂(B)が融解しないため、ポリアミド樹脂(B)が核剤として有効に機能し、ポリアミド樹脂(A)の結晶化速度の向上効果が十分に生起するものと考えられる。
成形時の樹脂温度の好ましい下限は、ポリアミド樹脂(A)の融点に対して10℃以上、より好ましくは20℃以上、特には40℃以上であり、好ましい上限は、ポリアミド樹脂(B)の融点に対して、5℃以下、より好ましくは10℃以下である。
【0047】
成形の方法は、上記の温度条件を満たす限りにおいて特に限定されず、ポリアミド樹脂組成物について一般に採用されている成形法を採用できる。それらの例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法などが挙げられる。特には、結晶化の効果の大きい射出成形により成形品を製造することが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、実施例及び比較例で用いた測定・評価法および使用材料は、以下のとおりである。なお、ポリアミド樹脂の相対粘度は、96%硫酸溶液中、濃度1g/100ml、温度25℃の条件で測定した。
【0049】
<使用材料>
ポリアミド樹脂(A):
本発明におけるポリアミド樹脂(A)として、以下の方法で製造したものを使用した。
反応缶内でセバシン酸(伊藤製油製、TAグレード)を170℃にて加熱し溶融した後、内容物を攪拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製、MXDA)をセバシン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を240℃まで上昇させた。滴下終了後、260℃まで昇温した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットをタンブラーに仕込み、減圧下で固相重合し、分子量を調整したポリアミド樹脂を得た。
得られたポリアミド樹脂は、下記記載の方法で測定された融点が190℃、相対粘度が2.1であった。
以下、このポリアミドを、「MXD10」と略記する。
【0050】
ポリアミド樹脂(B):
(B−1)ポリアミド66
東レ社製、商品名「アミラン3001N」、下記記載方法で測定された融点が262℃。相対粘度3.0。
以下、このポリアミド樹脂を、「PA66」と略記する。
【0051】
(B−2)ポリアミドMP6
以下の方法で製造したものを使用した。
撹拌装置、温度計、還流冷却器、原料滴下装置、加熱装置などを装備した容量が3リットルのフラスコに、アジピン酸730gを仕込み、窒素雰囲気下、フラスコ内温を160℃に昇温してアジピン酸を溶融させた。フラスコ内に、パラキシリレンジアミンを30モル%、メタキシリレンジアミンを70モル%含有する混合キシリレンジアミン680gを、約2.5時間かけて逐次滴下した。この間、撹拌下、内温を生成物の融点を常に上回る温度に維持して反応を継続し、反応の終期には270℃に昇温した。反応によって発生する水は、分縮器によって反応系外に排出させた。滴下終了後、275℃の温度で攪拌し反応を続け、1時間後反応を終了した。生成物をフラスコより取り出し、水冷しペレット化した。得られたポリアミド樹脂は、下記記載の方法で測定された融点は258℃であった。また、相対粘度は2.1であった。
以下、このポリアミド樹脂を、「MP6」と略記する。
【0052】
その他のポリアミド樹脂:
(B−3)ポリアミド6
三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ノバミッド(登録商標)1013J」、下記記載方法で測定された融点223℃。相対粘度2.5。
以下、このポリアミド樹脂を、「PA6」と略記する。
【0053】
ガラス繊維(C):
(C−1)日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−296GH」
(C−2)日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−275H」
【0054】
離型剤(D):
モンタン酸カルシウム
クラリアントジャパン社製、商品名「リコモントCaV102」
【0055】
無機系核剤(E):
林化成社製、商品名「ミクロンホワイト#5000S」
【0056】
(実施例1〜8、比較例1〜10)
<樹脂組成物ペレットの製造>
ガラス繊維(C)を除く上記(A)、(B)、(D)、(E)成分を下記表1〜表2に記した割合(質量部)で配合し、ガラス繊維(C)を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製「TEM35B」)の基部から投入して溶融した後、ガラス繊維(C)を含有する場合はこれをサイドフィードして、樹脂組成物ペレットを作成した。押出機の温度設定は、サイドフィード部まで280℃、サイドフィード部からは260℃とした。得られたペレットを用い、下記記載の方法で融点を測定した。
【0057】
<評価方法>
[融点]
上記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを室温で12時間放置後、10mgの試料を切り出し、セイコーインスツルメンツ社製「DSC−6200」を用いて、窒素雰囲気下、比較例3〜5は30℃から260℃、比較例3〜5以外は30℃から300℃まで10℃/分の速度で昇温し、MXD10、PA66、MP6又はPA6成分に相当する吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めた。
【0058】
<成形性>
上記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを85℃で12時間乾燥した後、ファナック社製射出成形機「100T」を使用し、シリンダー温度設定を下記表に記載の温度とし、計量値55mm、計量初期設定時間5秒、回転数80rpm、背圧3MPaの条件で100×100×2mm厚の試験片を20ショット成形し、変形せずに安定して離型できる最短の冷却時間の平均値を求めた。冷却時間が短い程、成形性に優れているといえる。
なお、成形時の樹脂温度は、射出成形機からパージされた溶融物を熱電対で直ちに測定することで行った。
結果を下記の表1〜表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜8から分かるように、本発明の成形方法を採用して得られた成形品は、結晶化速度が速く、冷却時間が短いため、成形性に優れたものであることがわかる(実施例1〜8)。
一方、本発明の範囲内の樹脂組成物であっても、成形時の樹脂温度がポリアミド樹脂(B)の融点を超える場合(比較例1、2)は、冷却速度が長く、成形性に劣るものであることがわかる。
また、ポリアミド樹脂(B)の含有量が本発明の範囲外の場合(比較例6〜10)は、成形時の樹脂温度が本発明の範囲内であっても(比較例6、9)、範囲外であっても(比較例7、8、10)、冷却時間が長く、成形性に劣るものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の成形方法は、キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂組成物の成形サイクルを短縮し、成形効率のよい成形方法であるので、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、レジャースポーツ用品、土木建築用部材等の広い分野の成形品の成形に利用でき、産業上の利用性は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシリレンジアミンとセバシン酸とから得られるポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、融点が、ポリアミド樹脂(A)の融点より51〜120℃高いポリアミド樹脂(B)3〜50質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂(B)の融点以下で、かつ、ポリアミド樹脂(A)の融点以上の樹脂温度で成形することを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物の成形方法。
【請求項2】
さらに、ガラス繊維(C)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10〜250質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物の成形方法。
【請求項3】
成形を射出成形により行うことを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物の成形方法。

【公開番号】特開2012−62418(P2012−62418A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208716(P2010−208716)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】