説明

ポリアミド樹脂組成物の製造方法

【課題】長期成形性と耐薬品性とを維持しつつ、剛性と導電性とを向上させた導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、酸溶媒を用いて湿式処理が施され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子1〜100質量部、およびε−カプロラクタム0.1〜5質量部を溶融混練し、次いで、二つ以上の減圧ベントを有した二軸押出機を用いて脱気押出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期成形性を維持しつつ、剛性(曲げ弾性率)と導電性とを向上させたポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電子電気部品などの用途に、樹脂に導電性の充填材を含有させて得られた導電性を有する樹脂組成物が幅広く用いられている。このような導電性を有する樹脂組成物は、金属と比較して軽量であり長期成形性に優れるため、上記のような用途に好適である。しかしながら、このような樹脂組成物は、不導体の樹脂に導電性の充填材(すなわち、導電材)を含有させているため、樹脂組成物中の導電材の分散性が悪く、長期成形性や耐薬品性などといった樹脂本来が有する物性が低下してしまうという問題があった。そこで、樹脂組成物中の導電材の分散性を向上させるために導電材と樹脂との親和性を高めることを目的として、導電材に表面処理を施したり、樹脂組成物を製造する際に混練条件を制御したりする改良がなされている。
【0003】
導電材に表面処理を施す技術としては、例えば、潤滑油を用いて導電材としての黒鉛を表面処理すること(特許文献1参照)、電解質化合物を用いて導電材としての炭素繊維を表面処理すること(特許文献2参照)、または、空気やオゾンを含む雰囲気中で25℃〜600℃で導電材としてのカーボン粒子を熱処理して表面を酸化させること(特許文献3参照)が知られている。さらに、導電材に表面処理を施す技術として、硝酸や過マンガン酸カリウムなどの酸化剤中に導電材としてのカーボン粒子を浸漬させることにより、カーボン粒子の表面を酸化させることが知られている(特許文献4参照)。上述のような方法で表面処理された導電材と樹脂とを溶融混練することにより、導電性を有する樹脂組成物が得られる。
【0004】
しかしながら、このようにして作製された樹脂組成物においては、導電材が表面処理されているため導電材と樹脂との界面での電気抵抗が高くなり過ぎる場合があった。さらに、混練条件を強化するために、例えば、二軸押出機の混練度の高いスクリューエレメントを用いたり、スクリューの回転速度を増したりして、溶融した樹脂組成物に対する攪拌の程度や剪断力を増加させるような条件とした場合には、導電性を発現させている導電材同士の接点が切断される場合があった。したがって、樹脂組成物の電気抵抗値を制御することは非常に困難であり、安定して導電性を付与することが困難な場合があった。特に、このような導電性を有する樹脂組成物から形成されたフィルムや糸においては、ロット内における抵抗値のばらつきを制御することが困難であるため、用途が限られていた。
【0005】
また、グラフェンシートの層間に酸イオンを挿入したカーボン粒子を導電材として用い、このカーボン粒子をポリアミド樹脂に含有させて、導電性を有する樹脂組成物を得る方法が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、このようにして得られた樹脂組成物は、優れた導電性を達成し得るものの、剛性向上効果に乏しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−23993号公報
【特許文献2】特開2002−212876号公報
【特許文献3】特開2003−86405号公報
【特許文献4】特開2008−144085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑み、長期成形性を維持しつつ、剛性と導電性とを向上させたポリアミド樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂、酸溶媒を用いて湿式処理が施されたカーボン粒子、およびε−カプロラクタムを溶融混練し、二つ以上の二軸押出機を用いて脱気押出しを行うことにより、上記課題を解決しうるポリアミド樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリアミド樹脂100質量部、酸溶媒を用いて湿式処理が施され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子1〜100質量部、およびε−カプロラクタム0.1〜5質量部を溶融混練し、次いで、二つ以上の減圧ベントを有した二軸押出機を用いて脱気押出することを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(2)カーボン粒子が、天然黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラックからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(3)ポリアミド樹脂がポリアミド6および/またはポリアミド66であることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、ポリアミド樹脂、酸溶媒を用いて湿式処理が施されたカーボン粒子、およびε−カプロラクタムを溶融混練し、二つ以上の二軸押出機を用いて脱気押出しを行うことで、ポリアミド樹脂の長期成形性と耐薬品性とを維持しつつ、剛性と導電性とを向上させたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。よって、本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂組成物は、安定した導電性を必要とする電子・電機分野、あるいは、静電気防止分野や自動車外装材分野などの広範囲の分野において好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)の製造方法は、ポリアミド樹脂、酸溶媒を用いて湿式処理が施されたカーボン粒子、およびε−カプロラクタムを溶融混練し、二つ以上の減圧ベントを有した二軸押出機を用いて脱気押出するものである。
【0012】
本発明において用いられるポリアミド樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とし、アミド結合を主鎖内に有する重合体などが挙げられる。
【0013】
ポリアミド樹脂の原料としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノカルボン酸;ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等のジアミン;アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等のジカルボン酸などが挙げられる。また上記のジアミンとジカルボン酸は、一対の塩として用いることもできる。
【0014】
ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、およびこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、機械的強度と熱安定性と製品外観のバランス、経済性にも優れる観点から、ナイロン6、ナイロン66、およびそれらの混合物が特に好ましい。
【0015】
ポリアミド樹脂の分子量の指標である相対粘度は、特に制限されるものではないが、1.5〜6であることが好ましく、より好ましくは1.9〜5であり、さらに好ましくは2.3〜4である。相対粘度が1.5未満であると、得られるポリアミド樹脂組成物の強度が低下し、加えて、ポリアミド樹脂の溶融粘度が低くなるため、ポリアミド樹脂組成物に対し、十分な攪拌・剪断力を与えることができず、カーボン粒子の樹脂組成物中での分散性が低下するため、得られる樹脂組成物の導電性に劣る場合がある。一方、相対粘度が、6を超えると、樹脂組成物の混練が困難となるばかりか、カーボン粒子とポリアミド樹脂との親和性が低下することにより、導電性が低下する場合がある。なお、上記の相対粘度は、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した値である。
【0016】
本発明の製造方法において用いられるカーボン粒子は、人造黒鉛でも天然黒鉛でもよく、特に制限されない。天然黒鉛としては鱗状黒鉛や塊状黒鉛、膨張黒鉛、キッシュ黒鉛が挙げられ、人造黒鉛としてはカーボンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらを混合して用いることもできる。
【0017】
カーボン粒子は、グラフェンシート(炭素原子を頂点とした六員環のネットワークにより形成されたシート)が複数枚積層された積層体を含有するものが好ましい。なかでも、その構造中に、グラフェンシート積層体が70%以上で存在するカーボン粒子が好ましく、80%以上で存在することがより好ましく、90%以上で存在することが最も好ましい。このようなカーボン粒子においては、不規則に配列していたカーボンの結晶構造が、規則正しく配列し、また、グラフェンシートとして、板状の結晶構造が多数存在するため、グラフェンシート積層体同士の弱い分子間力で結合された層間または層表面に酸イオンを効率良く取り込むことができる。よって、酸イオンが、効率良く、カーボン粒子の層間に挿入または層表面に吸着される。一方で、酸イオンは、ポリアミド樹脂との親和性に富み、酸イオンが挿入または吸着されたカーボン粒子を用いることで、樹脂組成物を得る際に、押出混練時の発熱に起因する酸イオンとポリマーの置換が進むと考えられる。その結果として、樹脂組成物中のカーボン粒子の分散性が向上するという利点がある。
【0018】
挿入または吸着される酸イオン量が多くなるほど、カーボン粒子の分散性がより進行するため、得られる樹脂組成物の導電性や剛性がより向上する。一方、カーボン粒子の層間への酸イオンの挿入量、または層表面への吸着量が過多であると、酸イオンが溶融したポリアミド樹脂と完全に置換せずに、過剰の酸イオンが残存するため、剛性の低下を引き起こすという問題がある。
【0019】
カーボン粒子の層間へ挿入または層表面へ吸着された酸イオン量を示すためには、窒素等の不活性ガス流通下で、25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が指標として用いられる。本発明においては、上記の質量減少率が1〜20質量%のカーボン粒子を用いることが必要であり、2〜16質量%であるカーボン粒子を用いることが好ましい。質量減少率が1質量%未満のカーボン粒子を用いると、カーボン粒子の分散が不足し、導電性、剛性の向上効果が不十分である。一方、質量減少率が20質量%を超えるカーボン粒子を用いると、酸イオンが溶融したポリアミド樹脂と完全に置換せずに、過剰の酸イオンが残存するため、剛性の低下を引き起こすという問題がある。
【0020】
本発明において、層間へ酸イオンを挿入または層表面へ吸着させるために、カーボン粒子に酸溶媒を用いて湿式処理を施すことが必須である。例えば、酸溶媒と、カーボン粒子とを、室温で混合撹拌する。次いで、洗浄液として純水を用い、この洗浄液が中性になるまでカーボン粒子を洗浄した後、50〜100℃で24時間以上真空乾燥させる方法が例示される。使用される酸は、カーボン粒子に対して酸化力のあるものであればよく、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム、りん酸、塩酸、酢酸などの無機酸、ギ酸などの有機酸が挙げられる。これらの酸は単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。また、これらの酸の水溶液であってもよい。酸溶媒として、酸の水溶液を用いる場合、その濃度は、効率的な酸イオン挿入または吸着の観点から、70質量%以上であることが好ましい。
【0021】
この方法は、前記した特許文献3に記載されたカーボン粒子の表面を酸化処理する方法とは異なるものである。その差異点を以下に説明する。本発明では、高濃度の酸を好ましく用いることで、酸イオンを、カーボン粒子の層間へ挿入または層表面へ吸着している。それに対して、特許文献3では、0.3%過マンガン酸カリウム等の低濃度の酸を用いることで、カーボン粒子の表面のみに水酸基やカルボキシル基を導入している。本発明においては、酸イオンを、カーボン粒子の層間へ挿入または層表面へ吸着することにより、ポリアミド樹脂中へのカーボン粒子の分散が向上するという効果が顕著に奏される。
【0022】
酸イオンをカーボン粒子の層間へ挿入または層表面へ吸着させる方法として、その他にも、電解法を挙げることができる。これは、一方の電極にカーボン粒子を付着させて、酸溶媒中で電気を流すことにより、酸イオンをカーボン粒子の層間へ挿入または層表面へ吸着させるものである。しかしながら、この方法は、酸イオン挿入または吸着の効率が劣るという問題があるため、本発明においては、上述のように、酸溶媒を用いて湿式処理を施すことにより、カーボン粒子に酸イオンを挿入または吸着させる方法が必須である。
【0023】
本発明において用いられるカーボン粒子の平均粒径は特に制限されず、例えば、ケッチェンブラックなどの数百ナノメートルのものから、天然鱗状黒鉛などの数百マイクロメートルのものを使用することができる。
【0024】
カーボン粒子の添加量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して1〜100質量部であることが必要であり、好ましくは2質量部〜95質量部、さらに好ましくは5質量部〜90質量部である。カーボン粒子の添加量が1質量部未満であると、導電性や剛性の向上効果が発現しない。一方、カーボン粒子の添加量が100質量部を超えると、ポリアミド樹脂中における嵩高いカーボン粒子の均一分散性が低下し、樹脂組成物を混練および押出することが困難となり、生産性に劣る。
【0025】
本発明においては、樹脂組成物中のカーボン粒子の分散性を向上させることを目的として、いわゆる分散助剤として、ε−カプロラクタムを用いることが必要である。ε−カプロラクタムは、通常、ナイロン6のモノマーとして用いられるものであり、工業的および試薬として入手できるものであれば制限はない。ε−カプロラクタムを粉体で使用してもよいし、加熱溶融することにより得られた液体を使用してもよい。また、水やエタノール、エーテル、ベンゼンなどの溶剤に溶解させて用いてもよい。
【0026】
ε−カプロラクタムを溶剤に溶解させて用いる場合は、その溶液濃度は、カーボン粒子分散性向上の観点から、25〜95質量%であることが好ましく、50〜95質量%であることがより好ましい。
【0027】
ε−カプロラクタムの添加量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部である必要があり、好ましくは0.3〜4質量部であり、より好ましくは0.5〜3質量部である。ε−カプロラクタムの添加量が0.1質量未満であると、カーボン粒子の分散性が低下し、導電性や剛性の向上効果が不十分である。一方、ε−カプロラクタムの添加量が5質量部を超えると、長期成形性が悪化する。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、上述のポリアミド樹脂、酸溶媒を用いて湿式処理されたカーボン粒子およびε−カプロラクタムを溶融混練し、次いで、二つ以上の減圧ベントを有した二軸押出機を用いて、脱気押出するものである。この製造方法によれば、脱気押出することで、減圧ベントから酸イオン、未反応のε−カプロラクタムなどが揮発し、樹脂組成物中のカーボン粒子の分散性を高めることができる。加えて、二つ以上の減圧ベントを有する押出機を用いることで、脱揮効率が高まり、導電性と剛性を向上できるという効果を奏する。さらに、一軸ではなく、二軸押出機を用いることで、十分な混練効果が得られ、導電性と剛性が向上し、生産性も優れるという効果を奏する。
【0029】
上述のポリアミド樹脂、酸溶媒を用いて湿式処理されたカーボン粒子およびε−カプロラクタムは、二軸押出機の溶融ゾーンにて溶融混練されることができる。分散させる、該混練ゾーンにおいては、カーボン粒子の分散性を向上させる観点から、複数のスクリューエレメントを用いることが好ましい。スクリューエレメントとして、フライトスクリューエレメントまたはニーディングエレメントを用いることで、樹脂組成物の混練度を高め、カーボン粒子の分散性を高めることができる。
【0030】
フライトスクリューエレメントは、ネジ構造が連続したスクリューエレメントであり、この条数(フライト数)によって混練度を変え得るものである。好ましい条数は、樹脂組成物の混練度を高める観点から、1〜3条である。フライトスクリューエレメントのうち、回転方向が右ネジ方向である順方向フライトスクリューエレメントを用いると、順方向の回転によって、混練時に樹脂組成物が進行方向に搬送される。回転方向が右ネジ方向と逆の逆方向である、逆方向フライトスクリューエレメントを用いると、混練時に樹脂組成物が、進行方向とは逆向きに搬送される。
【0031】
ニーディングエレメントは、複数の擬楕円形ディスクが、回転軸に対して連続して一定間隔でずれながら配置されたエレメントであり、この擬楕円形ディスクの枚数によって混練度を変えることができるものである。好ましい擬楕円形ディスクの枚数は、樹脂組成物の混練度を高める観点から、3枚以上である。ニーディングエレメントのうち、右回転に擬楕円形ディスクがずれたものは順方向ニーディングエレメントと称され、右方向の回転によって、混練時に樹脂組成物が進行方向に搬送される。一方、左回転に擬楕円形ディスクがずれた逆方向ニーディングエレメントを用いた場合は、混練時に樹脂組成物が進行方向とは逆向きに搬送される。また、ニュートラルニーディングエレメントといわれる回転方向を持たないニーディングエレメントもあり、該ニュートラルニーディングエレメントを逆方向フライトスクリューエレメント等と組み合わせると、混練効果向上の点において効果的である。
【0032】
混練ゾーンの構成においては、二軸押出機のL/Dに応じて、用いるエレメントの数と、用いるエレメントの条数、擬楕円形ディスクの枚数、エレメント方向の組み合わせを適宜選択することができる。好ましいスクリューエレメントの組み合わせの例としては、順方向ニーディングエレメント/順方向ニーディングエレメント/ニュートラルニーディングエレメント/ニュートラルニーディングエレメント/逆方向ニーディングエレメント、順方向フライトスクリューエレメント/順方向ニーディングエレメント/逆方向ニーディングエレメント、順方向フライトスクリューエレメント/順方向ニーディングエレメント/逆方向フライトスクリューエレメントなどがあげられる。なかでも、混練効果が高いという観点から、順方向ニーディングエレメント/順方向ニーディングエレメント/ニュートラルニーディングエレメント/ニュートラルニーディングエレメント/逆方向ニーディングエレメントの組み合わせが好ましい。なお、L/Dとは、スクリューのサイズを規定するもので、スクリューの直径(D)に対するスクリュー長さ(L)の比率のことである。
【0033】
混練ゾーンにおいては、効率的な脱揮を目的として、スクリューの上記ディメンジョンを減圧ベントの直前に設置することが好ましい。
【0034】
混練ゾーンにおいては、樹脂を十分可塑化できる温度設定でバレルを加熱し、スクリュー回転100〜700rpmで溶融混練を行うことが好ましい。スクリュー回転100rpmが未満であると、混練が弱く、樹脂組成物中のカーボン粒子の分散が不十分となる。スクリュー回転が700rpmを越えると混練が過剰となり樹脂組成物の強度が低くなり好ましくない。
【0035】
二軸押出機においては、カーボン粒子の分散性を向上させるために、カーボン粒子から酸イオンを効果的に脱揮することを目的として、減圧ベントを上記の混練ゾーンの直後に配置することが好ましい。したがって、混練ゾーンと減圧ベントは、隣接させてセットで配置することが好ましい。混練ゾーンと減圧ベントは、効果的な脱揮の観点から、押出機全体で2セットが好ましく、3セット以上がより好ましい。
【0036】
減圧ベントの開口部の面積は特に限定されるものではないが、大きいほど好ましく、例えば10cm以上であることが好ましい。減圧ベントの開口部が大きいと脱揮効率が向上し、相対的にカーボン粒子の分散が向上することになる。
【0037】
また、減圧ベント部の真空圧は、20kPa以下であることが好ましく、より好ましくは10kPa以下である。減圧部の真空圧が20kPaを超えると脱揮能力が乏しくなる場合がある。
【0038】
二軸押出機は、L/Dが30以上の二軸押出機を用いることが好ましく、より好ましくはL/Dが40以上である。L/Dが30未満の二軸押出機では、混練ゾーンと減圧ベントの配置数が少なくなり、カーボン粒子の分散が不十分になるため、その結果として樹脂組成物の特性が低下する。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等などの添加剤を任意の段階で添加してもよい。
【0040】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。強化材としては、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、さらには、タルク、カオリン、雲母、合成フッ素雲母、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、ゼオライト、ハイドロタルサイト等の層状ケイ酸塩、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
【0041】
顔料としては、カーボンブラック、アルミナ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの無機顔料;アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、インダンスレン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0042】
難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤や水酸化金属などが挙げられる。
結晶核剤としては、結晶核剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。
【0043】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意の段階で、他の熱可塑性樹脂が添加されていてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えばポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ブタジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン等のエラストマーまたはこれらの無水マレイン酸等による変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレート等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
実施例および比較例において用いた原料、測定条件、装置は以下の通りである。
1.原料
(1)ポリアミド樹脂
・(A−1)
ポリアミド6(ユニチカ社製、商品名「A1030BRT」、相対粘度:3.5)
・(A−2)
ポリアミド6(ユニチカ社製、商品名「A1015」、相対粘度:2.0)
・(A−3)
ポリアミド66(ユニチカ社製、商品名「A125」、相対粘度:2.6)
【0046】
(2)ε−カプロラクタム
・(B−1)
ε−カプロラクタム(試薬)(宇部興産社製)
【0047】
(3)カーボン粒子
カーボン粒子の酸溶媒での湿式処理は、表1に示した条件で行った。なお、以下の(C−1)〜(C−5)のカーボン粒子について、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率を測定する際に、不活性ガスとして窒素を使用した。
【0048】
【表1】

【0049】
・(C−1)
天然鱗状黒鉛50g(日本黒鉛社製 平均粒径380μm)を、2000mL90%硫酸と1000mL80%硝酸との混合溶媒に投入し、室温で20分間混合撹拌させた。その後、大量の純水を洗浄液としてその内部に投入し、洗浄液のpHが6〜7となるまで洗浄作業を繰り返して行った。次いで、80℃、24hで熱風乾燥を実施し、その後、80℃、48hで真空乾燥を実施してカーボン粒子(C−1)を得た。このカーボン粒子(C−1)は、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が3.0質量%であった。
【0050】
・(C−2)
酸溶媒を、2000mL97%硫酸と1000mL94%硝酸との混合溶媒に変更した。それ以外は(C−1)と同様にして、カーボン粒子(C−2)を得た。得られたカーボン粒子(C−2)の質量減少率は15.0質量%であった。
【0051】
・(C−3)
原料カーボン粒子として、人造のカーボンブラック(東海カーボン社製、品番:#3800)を用いた。それ以外は(C−2)と同様にして、カーボン粒子(C−3)を得た。得られたカーボン粒子(C−3)の質量減少率は6.1質量%であった。
【0052】
・(C−4)
原料カーボン粒子として、人造のケッチェンブラック(ライオン社製、品番:EC600JD)を用いた。また酸溶媒を90%硝酸に変更した。それ以外は(C−2)と同様にして、カーボン粒子(C−4)を得た。得られたカーボン粒子(C−4)の質量減少率は4.5質量%であった。
【0053】
・(C−5)
酸溶媒を、2000mL10%硫酸と1000mL25%硝酸との混合溶媒に変更した。それ以外は(C−1)と同様にして、カーボン粒子(C−5)を得た。得られたカーボン粒子(C−5)の質量減少率は0.5質量%であった。
【0054】
・(C−6)
酸溶媒を、2000mL20%硫酸と1000mL40%硝酸との混合溶媒に変更した。それ以外は(C−1)と同様にして、カーボン粒子(C−6)を得た。得られたカーボン粒子(C−6)の質量減少率は1.0質量%であった。
【0055】
・(C−7)
酸溶媒を、2000mL98%硫酸と1000mL94%硝酸との混合溶媒に変更した。それ以外は(C−1)と同様にして、カーボン粒子(C−7)を得た。得られたカーボン粒子(C−7)の質量減少率は25質量%であった。
【0056】
上述のカーボン粒子(C−1)〜(C−7)について、上記の表1にまとめて示す。
【0057】
各種の特性について、以下の方法で測定または評価した。
2.評価方法
(1)曲げ弾性率
ASTM D638の条件に従って測定した。本発明においては、曲げ弾性率が4GPa以上であるものが実用に耐えうるものであるとした。
【0058】
(2)体積抵抗率
ASTM D257の条件に従って測定した。本発明においては、体積抵抗率が10Ωcm以下であるものが実用に耐えうるものであるとした。
【0059】
(3)成形性
成形機(東芝機械社製、「EC100型」)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出および保圧時間10秒、冷却時間15秒の条件で、ASTM曲げ試験片を成形した際の、成形1ショット目と100ショット目の離型性を以下の基準で評価した。
○:正常に離型した。
×:金型から正常に離型せず、試験片が変形した。
【0060】
二軸押出機は、以下のものを用いた。
3.二軸押出機
・(D−1)
混練ゾーンと減圧ベントを3セット有する二軸押出機(スクリュー径26mm、L/D=48)(東芝機械社製、「TEM26SS」)
・(D−2)
混練ゾーンと減圧ベントを2セット有する二軸押出機(スクリュー径37mm、L/D=35)(東芝機械社製、「TEM37BS」)
・(D−3)
混練ゾーンと減圧ベントを1セット有する二軸押出機(スクリュー径37mm、L/D=35)(東芝機械社製、「TEM37BS」)
【0061】
(実施例1〜5、7、8)(比較例1〜5)
表2に示す配合割合にて、(D−1)の基部から、ポリアミド樹脂、ε−カプロラクタム、およびカーボン粒子をすべて投入した。次いで、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量30kg/h、真空圧10kPaで混練し、水冷した後、長さ3mmのペレットにカットして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットは100℃で2時間乾燥し、成形機(東芝機械社製、「EC100型」)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出および保圧時間10秒、冷却時間15秒の条件で、ASTM曲げ試験片を成形した。得られた成形体についての結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
(実施例6)
二軸押出機として(D−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして試験片を作成し評価に付した。
(実施例9)
二軸押出機として(D−2)を用い、表2に示す割合にて(A−1)、(B−1)および(C−1)を配合した以外は、実施例1と同様にして試験片を作成し評価に付した。
【0064】
(比較例6)
二軸押出機として(D−3)を用いた以外は、実施例1と同様にして試験片を作成し評価に付した。
(比較例7)
二軸押出機として(D−3)を用いた以外は、実施例3と同様にして試験片を作成し評価に付した。
【0065】
(比較例8)
二軸押出機として(D−2)を用い、表2に示す割合にて(A−1)、(B−1)および(C−7)を配合した以外は実施例1と同様にして試験片を作成し評価に付した。
【0066】
(比較例9)
表2に示す割合にて(A−1)、(B−1)および(C−1)を配合した以外は実施例1と同様にして試験片を作成し評価に付した。
【0067】
実施例1〜9は、高い剛性を示すとともに、体積抵抗率が低く十分な導電性を示しており、長期成形性が良好であった。
【0068】
比較例1および比較例2は、カーボン粒子が過少であったため、剛性、導電性に劣っていた。
【0069】
比較例3はε−カプロラクタムが添加されなかったため、剛性、導電性に劣っていた。
【0070】
比較例4は不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が過小であるカーボン粒子を用いたため、剛性、導電性に劣っていた。
【0071】
比較例5は配合したε−カプロラクタムが過多であっため、長期成形性に劣っていた。
【0072】
比較例6と7は、混練ゾーンと減圧ベントを1セットしか有していない二軸押出機を用いたため、導電性および長期成形性に劣っていた。
【0073】
比較例8は不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率過多であるカーボン粒子を用いたため、剛性および成形性に劣っていた。
【0074】
比較例9はカーボン粒子の配合量が過多であったため、混練ができず、樹脂組成物が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部、酸溶媒を用いて湿式処理が施され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子1〜100質量部、およびε−カプロラクタム0.1〜5質量部を溶融混練し、次いで、二つ以上の減圧ベントを有した二軸押出機を用いて脱気押出することを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
カーボン粒子が、天然黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラックからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
ポリアミド樹脂がポリアミド6および/またはポリアミド66であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2012−1633(P2012−1633A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137797(P2010−137797)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】