説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】 本発明の課題は、高温高湿度処理後の電気絶縁性の低下を防止した熱伝導性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】 上記の課題は、以下に示す本発明によって解決される。
即ち、本発明は、構成単位としてジカルボン酸単位(x)およびジアミン単位(y)を含むポリアミド樹脂(A)並びに金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種を含むポリアミド樹脂組成物であり、
ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸単位(x)が、ポリアミド樹脂(A)の全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上蓚酸であるポリアミド樹脂組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
熱伝導性に優れたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6やポリアミド66に代表されるポリアミド樹脂は、その優れた特性と溶融成形の容易さから、汎用のエンジニアプラスチックとして広く用いられており、そのポリアミド樹脂に、酸化マグネシウムを配合することにより、熱伝導性が向上することが引用文献1や引用文献2に開示されている。
【0003】
一方、電子機器の高密度化や小型化が進むにつれ、電子機器の部品1個あたりに使用されるポリアミド樹脂の量も少なくなり、使用されるポリアミド樹脂の特性に依存する電子機器の部品の性能への影響が大きくなっている。それに伴い、ポリアミド樹脂の特性の向上要求も高くなってきている。その中でも、部品の性能への影響が大きいポリアミド樹脂の例えば日本の夏を想定した高温多湿時(高温高湿度処理後)の電気絶縁性の低下防止に対する要求が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−213356号公報
【特許文献2】特開平3−79666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高温高湿度処理後の電気絶縁性の低下を防止した熱伝導性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、以下に示す本発明によって解決される。
即ち、本発明は、構成単位としてジカルボン酸単位(x)およびジアミン単位(y)を含むポリアミド樹脂(A)並びに金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種を含むポリアミド樹脂組成物であり、
ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸単位(x)が、ポリアミド樹脂(A)の全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上蓚酸であるポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高温高湿度処理後も電気絶縁性に優れ、熱伝導性や機械物性も優れたポリアミド樹脂組成物を提供できる。特に高温高湿度処理後の電気絶縁性に優れることから、電気絶縁性材料として、電気絶縁性部品に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、構成単位としてジカルボン酸単位(x)およびジアミン単位(y)を含むポリアミド樹脂(A)並びに金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種を含むポリアミド樹脂組成物であり、
ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸単位(x)が、ポリアミド樹脂(A)の全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上蓚酸であるポリアミド樹脂組成物である。
【0009】
[ポリアミド樹脂(A)]
本発明のポリアミド樹脂(A)は、そのジカルボン酸単位(x)が全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上蓚酸であり、80モル%以上蓚酸であることが好ましく、90モル%以上蓚酸であることがより好ましく、98モル%以上100モル%以下蓚酸であることがさらに好ましい。
【0010】
ジカルボン酸単位(x)の蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば、特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(またはi−)プロピル、蓚酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0011】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルがより好ましい。
【0012】
ポリアミド樹脂(A)は、そのジカルボン酸単位(x)が全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上蓚酸である限り、他のジカルボン酸単位(x)、ラクタム単位およびアミノカルボン酸単位も含むことができる。
【0013】
他のジカルボン酸単位としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−/1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン−4,4’−ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−/2,6−/2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0014】
ラクタム単位としては、例えば、カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ドデカンラクタム、α−ピロリドン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
アミノカルボン酸単位としては、例えば、アミノカプロン酸やアミノドデカン酸が挙げられる。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂(A)のジアミン単位(y)としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,15−ペンタデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,17−ヘプタデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、1,19−ノナデカメチレンジアミン、1,20−エイコサメチレンジアミン、2−/3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−/1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−/1,4−シクロヘキサンジメチルアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)プロパン、5−アミノ−2,2,4−トリメチル−1−シクロペンタンメチルアミン、5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミン等の脂環式ジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンが挙げられる。なかでも、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンが好ましく、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、m−キシリレンジアミンがより好ましく、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミンがさらに好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
1,9−ノナメチレンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンは、混合する場合、1,9−ノナメチレンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは5:95〜40:60又は60:40〜95:5、特に5:95〜30:70又は70:30〜90:10である。1,9−ノナメチレンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記の特定量共重合することにより、成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、かつ、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れたポリアミド樹脂(A)が得られる。
【0018】
本発明のポリアミド樹脂(A)の具体例としては、ポリアミド62、ポリアミド82、ポリアミド92、ポリアミド102、ポリアミド122、ポリアミド62/92共重合体、ポリアミド62/102共重合体、ポリアミド62/122共重合体、ポリアミド92/102共重合体、ポリアミド92/122共重合体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。耐加水分解性および成形加工上の観点から、ポリアミド92、ポリアミド122、ポリアミド62/92共重合体が好ましく、ポリアミド92がより好ましい。
【0019】
尚、本発明のポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸である蓚酸とジアミンとの塩を重合単位として含む重合体である為、一般的にポリアミドと称されるが、蓚酸とジアミンの塩をオキサミドと称すことから、これを重合単位とした重合体をポリオキサミドとも称す。
【0020】
本発明に用いるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法、例えば、溶液重合法、界面重合法、溶融重合法及び固相重合法などの方法を用いて製造することができる。具体的には、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で反応させることにより得ることができ、以下の操作で示されるような、(i)前重合工程、(ii)後重合工程の順で行うのが好ましい。
【0021】
(i)前重合工程は、反応器内を窒素置換した後、もしくは窒素置換しながら、ジカルボン酸単位(x)およびジアミン単位(y)を混合する。混合する場合にジカルボン酸単位(x)およびジアミン単位(y)が共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン単位(y)及びジカルボン酸単位(x)である蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミン(モル比)で、0.8以上1.5以下、好ましくは0.91以上1.1以下、更に好ましくは0.99以上1.01以下である。
【0022】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素を用いて気泡流噴射しながら、常圧下で昇温を開始し、本工程の最終的な反応器内の温度を100℃以上270℃以下に、反応器内の最終的な圧力を常圧にするのが好ましい。
【0023】
(ii)後重縮合工程:前工程で生成した重合物の分子量をさらに向上させるために、前工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。到達時間を含めて1時間以上8時間以下、好ましくは2時間以上6時間以下保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。
【0024】
ポリアミド樹脂(A)を製造する際、触媒として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、またはそれらの塩やエステルなどを使用することができる。具体的な触媒としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属塩やアンモニウム塩、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルが挙げられる。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂(A)の相対粘度に特別の制限はないが、96質量%硫酸を溶媒とし、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの溶液を用い、25℃で測定した相対粘度、成形加工性や衝撃特性の観点から、1.8以上6.0以下であることが好ましく、2.0以上5.5以下であることがより好ましく、2.5以上4.5以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明のポリアミド樹脂(A)の融点に特別の制限はないが、150℃以上350℃以下であることが好ましく、成形加工の観点から200℃以上300℃以下であることがより好ましい。
【0027】
ポリアミド樹脂(A)の粒形は、特に制限はないが、金属酸化物(B1)を均一に混合させる観点から、平均粒径1mm以下の粉末状が好ましい。尚、粉末状にする方法としては、特に制限はないが、粉末の生産性の観点から冷凍粉砕が好ましい。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂(A)には、得られる成形品の特性を損なわない範囲において、他のポリアミド樹脂も使用できる。
【0029】
他のポリアミド樹脂としては、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリウンデカンラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカンラクタム(ポリアミド12)、ポリエチレンアジパミド(ポリアミド26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ポリアミド611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド6T(H))、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンアゼラミド(ポリアミド99)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリノナメチレンテレフタラミド(ポリアミド9T)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミドTMHT)、ポリノナメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド9T(H))、ポリノナメチレンナフタラミド(ポリアミド9N)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンアゼラミド(ポリアミド109)、ポリデカメチレンデカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド10T)、ポリデカメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド10T(H))、ポリデカメチレンナフタラミド(ポリアミド10N)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ポリアミド129)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリドデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド12T)、ポリドデカメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド12T(H))、ポリドデカメチレンナフタラミド(ポリアミド12N)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリメタキシリレンスベラミド(ポリアミドMXD8)、ポリメタキシリレンアゼラミド(ポリアミドMXD9)、ポリメタキシリレンセバカミド(ポリアミドMXD10)、ポリメタキシリレンドデカミド(ポリアミドMXD12)、ポリメタキシリレンテレフタラミド(ポリアミドMXDT)、ポリメタキシリレンイソフタラミド(ポリアミドMXDI)、ポリメタキシリレンナフタラミド(ポリアミドMXDN)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンテレフタラミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンイソフタラミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリイソホロンアジパミド(ポリアミドIPD6)、ポリイソホロンテレフタラミド(ポリアミドIPDT)やこれらのポリアミド共重合体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。この中でも、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体(ポリアミド6とポリアミド66の共重合体、以下、共重合体は同様に記載)、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体がより好ましい。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂(A)には、得られる成形品の特性を損なわない範囲内で、通常配合される各種の添加剤及び改質剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、フィラー、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、結晶核剤、離型剤、可塑剤、架橋剤、発泡剤、着色剤(顔料、染料等)等を重合時、またはその後に添加することができる。
【0031】
[金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種]
本発明で使用される金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種の平均粒子径は、特に制限はないが、耐衝撃性等の物性上の観点から、0.1μm以上200μm以下が好ましく、1μm以上150μm以下がより好ましく、5μm以上100μm以下がさらに好ましい。また、その粒形も、特に制限はないが、生産性や成形性の観点から、粒状特に丸みを帯びた比表面積の小さい粒状物が好ましい。
【0032】
金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種の比表面積は、特に制限はないが、5m/g以下が好ましく、1m/g以下がより好ましい。
【0033】
金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種の純度は、特に制限はないが、電気絶縁性と熱伝導性の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0034】
金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種の見掛け比重は、特に制限はないが、生産時取扱い(飛散対策)の観点から、0.1g/cm以上が好ましい。
【0035】
金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種の表面処理については、特に制限はなく、例えば、シランカップリング剤やオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0036】
金属酸化物(B1)としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタンが挙げられ、電気絶縁性と熱伝導性の観点から、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが好ましく、酸化マグネシウムがより好ましい。
窒素化合物(B2)としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウムが挙げられ、窒化ホウ素が好ましい。
珪素化合物(B3)としては、ケイ酸カルシウムウィスカが挙げられる。
これは1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種としては、原料調達性の観点から、金属酸化物(B1)が好ましい。
【0038】
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種が25質量部以上900質量部以下であることが好ましく、33質量部以上600質量部以下であることがより好ましく、42質量部以上300質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以上250質量部以下であることが特に好ましい。
【0039】
ポリアミド樹脂組成物には、効果を損なわない範囲で、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー、エラストマー、フィラーや、補強繊維を前記のポリアミド樹脂(A)と同様に添加することができる。
【0040】
さらに、必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤などを添加することもできる。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に制限はないが、通常、以下の製造方法を挙げることができる。
先ず、ポリアミド樹脂並びに金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選ばれる少なくとも1種、及び/または任意成分として上記で説明した種々の添加剤を用意する。
次に、ポリアミド樹脂、金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群、及び任意成分としての添加剤の混合を円筒型混合機等にて行う。その混合物を二軸押出機、単軸押出機、多軸押出機、バンバリミキサー、ロールミキサー、ニーダー等の公知の押出機で溶融混練することで製造することができる。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物を成形品に成形する方法としては、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、プレス成形、ロール成形、発泡成形、真空・圧空成形、延伸成形などが挙げられ、これらの中でも、射出成形、押出成形、中空成形、プレス成形、ロール成形、発泡成形などの溶融加工による方法が好ましい。これらの成形法によって、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形品、フィルム、シート、繊維などに加工することができる。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いた成形物は、従来ポリアミド樹脂組成物の成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、自動車、コンピューター及び関連機器、光学機器、情報・通信機器、精密機器の電気・電子機器部品、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。とりわけ、ポリアミド樹脂本来の特性に加え、電気絶縁性及び熱伝導性が必要になる電気・電子機器部品の用途に有用である。
【実施例】
【0044】
以下において例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の例に限定されるものではない。各種評価方法と使用した原材料を次に示す。
【0045】
(評価方法)
(1)相対粘度
相対粘度は、96質量%硫酸を溶媒にポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの溶液を使用し、オストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
(2)融点(Tm)
融点(Tm)は、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSCを用いて窒素雰囲気下で測定した。その中で得られる吸熱ピーク温度を融点とした。
(3)電気絶縁性
電気絶縁性は、ASTM D−257に準拠して測定した。
(4)熱伝導性
熱伝導性は、JIS R−2616(非定常熱線プローブ法)に準拠して測定した。
(5)引張り強さ
引張り強さは、ASTM D−638に準拠して測定した。
【0046】
(使用原料)
[ポリアミド樹脂(A)]
・ポリアミド樹脂(A−1):ポリアミド92
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が150リットルの圧力容器内に蓚酸ジブチル28.18kg(139.3モル)を仕込み、さらに圧力容器の内部を純度99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナメチレンジアミン18.74kg(118.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.31kg(20.9モル)の混合物(1,9−ノナメチレンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を0.11MPa(常圧)にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化し、蓚酸単位が、全ジカルボン酸単位に対し、100モル%であるポリアミド樹脂(A−1)(ポリアミド92)を得た。液体窒素で得られたペレットを冷凍し、ピンミル粉砕機を用いて粉砕後、16メッシュのスクリーンメッシュを通過する平均粒径1mm以下の粉末を得た。得られたポリアミド樹脂(A−1)の相対粘度、融点は、それぞれ、2.76、230℃であった。
・ポリアミド樹脂(A−2):粉末状のポリアミド6(宇部興産株式会社製P1011F、相対粘度2.22。)
【0047】
[金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種]
・金属酸化物(B1)
・金属酸化物(B1−1):粒状酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社製RF−50−SC、平均粒径:63μm、純度:98重量%、見掛け比重1.5g/cm、比表面積0.1m/g。)
【0048】
実施例1
ポリアミド樹脂(A−1)(ポリアミド92)100質量部に対して金属酸化物(B−1)(宇部マテリアルズ株式会社製酸化マグネシウム)213質量部を円筒型混合機にて混合した。この混合物をシリンダー径44mm、L/D35である二軸混練機を用い、設定温度280℃で溶融混練し、紐状に押出し、水槽で冷却後、ペレタイザーを用いて、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。得られたポリアミド樹脂組成物をシリンダー温度290℃、金型温度80℃、冷却時間20秒の条件で射出成形により、熱伝導率及び体積固有抵抗測定用は150mm×150mm×3mmの試験片を、引張強さ用は厚み3.2mmのASTM1号ダンベル片を作成した。得られた試験片について、温度85℃、相対湿度85%RHの条件の恒温恒湿槽の中で試験片を72時間処理したものとしてないものの熱伝導性、体積固有抵抗及び引張り強度を測定した。その評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例2
実施例1において、金属酸化物(B1−1)(宇部マテリアルズ株式会社製酸化マグネシウム)の量を133質量部に変えた以外は、実施例1と同様に行った。その評価結果を表1に示す。
【0050】
比較例1
実施例1において、ポリアミド樹脂(A−1)(ポリアミド92)をポリアミド樹脂(A−2)(宇部興産株式会社製ポリアミド6)に変えた以外は、実施例1と同様に行った。その評価結果を表1に示す。
【0051】
比較例2
実施例2において、ポリアミド樹脂(A−1)(ポリアミド92)をポリアミド樹脂(A−2)(宇部興産株式会社製ポリアミド6)に変えた以外は、実施例2と同様に行った。その評価結果を表1に示す。
【0052】
表1

【0053】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高温高湿度処理による電気絶縁性を示す体積固有抵抗や機械強度を示す引張強さの低下が抑えられることが表1より明らかであり、高温高湿時においても、電気絶縁性、熱伝導性、機械強度が発揮でき、特に高温高湿度処理後の電気絶縁性に優れることから、電気絶縁性材料として、電気絶縁性部品に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単位としてジカルボン酸単位(x)およびジアミン単位(y)を含むポリアミド樹脂(A)並びに金属酸化物(B1)、窒素化合物(B2)、および珪素化合物(B3)の群より選らばれる少なくとも1種を含むポリアミド樹脂組成物であり、
ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸単位(x)が、ポリアミド樹脂(A)の全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上蓚酸であるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
金属酸化物(B1)が酸化マグネシウムである請求項1のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
電気絶縁性部品用であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物から得られる成形品。

【公開番号】特開2012−72339(P2012−72339A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220330(P2010−220330)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】