説明

ポリアミド短繊維

【課題】アルカリ電解液の吸液性、電気絶縁性、ガス透過性に優れた電池セパレーター用不織布に好適なポリアミド短繊維を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂からなり、単糸繊度が0.3〜2.2dtex、繊維長が1〜15mmであり、実質的に捲縮が付与されておらず、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状が3〜20個の凸部を有する多葉形状を呈しているポリアミド短繊維。そして、単糸の断面形状が下記式を満足する。
D1<D2COS(θ/2)
D1:内接円の直径(μm) D2:外接円の直径(μm)
θ:隣接する凸部間の角度のうち最小のもの

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス透過性、吸液・保液性に優れ、電池セパレーター用の不織布に好適に使用できるポリアミド短繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然パルプ、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドなどの合成繊維の短繊維は、これらを単独、あるいは他の繊維と併用して、水中に分散させ、抄紙して、湿式不織布を得ることが行われている。
【0003】
中でも、ポリアミド繊維は、繊維強力が高く、ヤング率がポリエステル繊維に比べ低いことで柔軟性に優れていることや、染色性に優れているため、汎用素材として産業資材や衣料用、一般家庭資材、土木、農業資材、衛生材料などに幅広く用いられている。また、ポリアミドはポリエステルに比べ耐アルカリ性に優れることから、耐アルカリ性が求められる用途に好適に用いられている。
【0004】
近年、携帯電話、モバイルコンピューター、デジタルカメラ等の小型電子機器、玩具、携帯型電動工具等の普及により、その電源として、充電式電池の需要が増しており、アルカリ電解液に侵されにくいポリアミド繊維を用いた不織布が電池セパレーターとして使用されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】
電池セパレーター用不織布として要求される特性としては、アルカリ電解液の吸液・保液性、電気絶縁性、ガス透過性に優れることや正負極活物質より発生した放電生成物等により劣化されないことが挙げられる。
【0006】
上記の特性を満足させるためには、不織布を構成するポリアミド繊維の表面積を増大させることが必要である。繊維の表面積を増やすには、単糸繊度を小さくし、構成本数を増加させることが考えられる。しかしながら、極細繊維を製造するには、特に紡糸工程での操業性の悪化を招き、また、得られる不織布が高密度になりすぎるため、逆に吸液性やガス透過性に劣るようになるという問題点がある。
【0007】
このように、電池セパレーター用不織布に好適な性能を満足する素材が提案されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2001−84986号公報
【特許文献2】特開2004−103459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決し、アルカリ電解液の吸液・保液性、電気絶縁性、ガス透過性に優れた電池セパレーター用不織布を得ることができるポリアミド短繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリアミド樹脂からなり、単糸繊度が0.3〜2.2dtex、繊維長が1〜15mmであり、実質的に捲縮が付与されておらず、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状が3〜20個の凸部を有する多葉形状を呈していることを特徴とするポリアミド短繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド短繊維は、特定の形状を有するものであるため、繊維の表面積が大きく、かつ不織布を得る際の繊維の分散性にも優れている。このため、アルカリ電解液の吸液・保液性、電気絶縁性、ガス透過性が要求される電池セパレーター用不織布用途に好適であり、均一性に優れた不織布を生産性よく得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリアミド短繊維を構成するポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等が挙げられ、また、これらを複数用いた共重合ポリマーや混合物であってもよい。中でも、汎用性に優れ、比較的安価なナイロン6を用いることが好ましい。
【0014】
そして、本発明のポリアミド短繊維は、複数本の単繊維から構成されるものであるが、短繊維を構成する単糸は、1種類のポリアミド樹脂からなる単一型のものであっても、2種類以上のポリアミド樹脂からなる複合型のものであってもよい。
【0015】
複合型の場合は、芯鞘形状、サイドバイサイド形状等の複合繊維が挙げられる。そして、複合繊維を構成する2種類以上のポリアミド樹脂の融点を異なるものとし、一方のポリアミド樹脂を溶融させて接着成分とし、他方のポリアミド樹脂を溶融させずに主体繊維とするバインダー繊維としてもよい。この場合には、一方のポリアミド樹脂の融点が他方のポリアミド樹脂の融点よりも20℃以上低いことが好ましい。
【0016】
また、本発明のポリアミド短繊維中には、各種顔料、染料、着色剤、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、無機化合物粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤が含有されていてもよい。
【0017】
本発明のポリアミド短繊維は、電池セパレーター用の不織布に好適なものであり、電池セパレーター用の不織布としては、湿式抄紙法により得られる不織布(抄紙)とすることが好ましい。このため、本発明のポリアミド短繊維は、押込式捲縮付与装置等による機械捲縮等の捲縮が付与されていない、実質的に捲縮が付与されていないものとする。
【0018】
また、本発明のポリアミド短繊維は、単糸繊度が0.3〜2.2dtexであることが必要であり、中でも0.5〜1.1dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.3dtex未満であると、溶融紡糸時に繊度斑が生じやすく、生産性が悪化する。また、得られる不織布が高密度になりすぎて、アルカリ電解液の吸液・保液性、ガス透過性に劣るようになる。一方、2.2dtexを超えると、得られる不織布の厚みが厚くなり、ガス透過性に劣り、電池用セパレーター用途に適さないものとなる。
【0019】
さらに、本発明のポリアミド短繊維は、繊維長が1〜15mmであり、中でも3〜10mmであることが好ましい。繊維長を1mm未満にすると、カットするときの摩擦熱で繊維同士の接着が発生し、未離解部分が生じ、不織布を得る際の分散性が悪化し、斑のある均一性に劣った不織布となる。一方、15mmを超えると、特に電池セパレーターに用いる場合は湿式不織布とするが、不織布を得る際に、水中でポリアミド短繊維が再凝集を起こしやすくなり、得られる不織布は斑のある均一性に劣った不織布となる。このように斑のある均一性に劣る不織布は、アルカリ電解液の吸液・保液性やガス透過性に劣り、電池セパレーター用途に不適なものとなる。
【0020】
そして、本発明のポリアミド短繊維は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状が、3〜20個の凸部を有する多葉形状を呈している。中でも6〜12個の凸部を有する多葉形状のものとすることが好ましい。凸部の数が3個未満の場合、表面積の増加効果が不十分であり、得られる不織布は、アルカリ電解液の吸液・保液性やガス透過性に劣るものとなる。一方、凸部の数が20個を超えると、このような断面形状が複雑となるため操業性が悪化したり、ノズル作製等のコストが高くなる。さらには、隣接する単糸同士での凹凸部の嵌り合いによる密着が生じ、繊維の開繊性が低下し、斑のある均一性に劣った不織布となる。
【0021】
本発明のポリアミド短繊維の単糸の断面形状を図面を用いて説明する。図1は4個の凸部を有する4葉形状のものであり、図2は6個の凸部を有する6葉形状のものであり、図3は8個の凸部を有する8葉形状のものである。
【0022】
なお、図1〜3に示す多葉断面形状のものは、各凸部(葉部)の長さが同じであるものを示しているが、同一の単繊維で凸部の長さが異なっていてもよい。もちろん、本発明のポリアミド短繊維を構成する単糸ごとに凸部の長さが異なっていてもよい。
【0023】
そして、本発明のポリアミド短繊維においては、単糸の断面形状が下記式(1)を満足するものであることが好ましい。
D1<D2COS(θ/2)・・・(1)
D1:内接円の直径(μm) D2:外接円の直径(μm)
θ:隣接する凸部間の角度のうち最小のもの
【0024】
このような断面形状について図4を用いて説明する。図4は5個の凸部を有する5葉形状のものである。なお、内接円とは、多葉形状の内側で最も多くの凹部の頂点Lに接して描ける円のうち、最大のものをいう。また外接円とは、最も多くの凸部(葉部)の頂点Mに接して描ける円のうち、最小のものをいう。そして、隣接する凸部間の角度は、凸部の頂点M1と内接円の中心Oとを結んだ線と、隣接する凸部の頂点M2と内接円の中心Oとを結んだ線からなる角度θをいうものであって、それぞれの凸部において測定した角度θのうち最小となる角度θをいう。
【0025】
本発明のポリアミド短繊維の単糸の断面形状が上記式(1)を満足することによって、繊維の表面積が増大し、電解液の吸液・保液性、ガス透過性がより向上する。さらには、多葉断面形状が安定したものとなるため、繊維の製造工程及び不織布の製造工程において凸部(葉部)の切断が生じにくくなり、また、単糸同士での凹凸部の嵌り合いによる密着が生じにくく、開繊性を悪化させることもない。
【0026】
なお、単糸の断面形状は、ポリアミド短繊維から任意に単糸(サンプル)を選び、繊維の長手方向に対して垂直に切断し、その断面形状を写真撮影することにより、D1、D2、θを測定するものであり、サンプル数10個の平均値とする。
【0027】
次に、本発明のポリアミド短繊維の製造方法について説明する。
【0028】
本発明のポリアミド短繊維の単糸の断面形状を多葉断面形状とするには、紡糸口金の吐出孔の形状を調整することにより可能であり、特定の形状とするには、紡糸時の冷却条件や延伸時の延伸倍率、熱処理条件等を調整することにより可能である。
【0029】
まず、ポリアミド樹脂を目的とする多葉断面形状となるように作成した紡糸口金を用いて溶融紡糸を行い、糸条を冷却固化した後、延伸することなく、一旦収納容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。このとき、必要に応じて熱処理し、次いで仕上げ油剤を付与後、捲縮を施すことなく目的とする繊維長にカットして本発明のポリアミド短繊維とする。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各特性値の測定及び評価は次の通りに行った。
(1)単糸繊度
JIS L1015 8.5.1(正量繊度)A法に基づき測定した。
(2)繊維長
JIS L1015 8.4.1(平均繊維長)C法に基づき測定した。
(3)操業性
紡糸時の操業状況により下記の2段階で判断した。
○:紡糸時の切れ糸回数が3回/日・錘以下である。
×:紡糸時の切れ糸回数が3回/日・錘を超える。
(4)分散性
1000cm のビーカーに30℃の水を1kg秤取し、得られたポリアミド短繊維1gを投入し、DCスターラー(撹拌ペラは3枚スクリュー型で直径は約50mm)で回転数3000rpm、1分間撹拌し、撹拌後の分散を目視にて下記の2段階で評価した。
○:分散せずに結束している繊維の数が0〜5個
×:分散せずに結束している繊維の数が6個以上
(5)吸液・保液性、通気性の評価
〔吸液・保液性〕
得られた湿式不織布の吸液・保液性を、JIS L 1907(バイレック法)に基づいてタテ方向、ヨコ方向を測定し、大きい方の値の数値を用い、以下のように2段階で評価した。
○:75mm以上
×:75mm未満
〔通気性〕
得られた湿式不織布を織物通気度試験機(大栄科学精機製作所製AP−360型)を用いて通気度を測定した。測定を測定点を変更して5回行い、その平均値を求め、以下のように2段階で評価した。
○:通気度が30cc/cm/sec以上、65cc/cm/sec未満の場合
×:通気度が30cc/cm/sec未満又は65cc/cm/sec以上の場合
(6)単糸の断面形状
前記の方法で測定した。
【0031】
実施例1
ポリアミド樹脂として、相対粘度が2.50、融点が215℃のナイロン6を使用し、断面形状が図2に示す6葉形状となるように設計した、孔数800孔の紡糸口金より、紡糸温度270℃、紡糸速度1200m/分で溶融紡糸した。一旦未延伸糸を収納容器に収納した後、複数本取り出して集束し、延伸温度50℃、延伸倍率2.70倍で延伸した。その後、油剤を付与し、捲縮を付与することなく、繊維長を5mmとしてカットしてポリアミド短繊維を得た。
次に、得られたポリアミド短繊維2.0gと、実施例2のポリアミド短繊維(バインダー繊維)0.5gを混合し、パルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製角型シートマシン)に移し、増粘剤(ポリアクリルアマイド)を5ppm滴下した後に付帯の撹拌羽根にて撹拌を行い、湿式不織布ウエブとした。25×25cmの湿式不織布ウエブを、プレス機(熊谷理機工業製)にて余分な水分を脱水した後、表面温度145℃、熱処理時間100秒、プレス線圧0.1MPaの条件の回転乾燥機(熊谷理機工業社製;卓上型ヤンキードライヤー)にて熱処理し、目付40g/m の湿式不織布を得た。
【0032】
実施例2
ポリアミド樹脂として、相対粘度が2.50、融点が140℃のナイロン6、12共重合ポリアミドを鞘成分とし、相対粘度が2.57、融点が257℃のナイロン66を芯成分として、断面形状が図2に示す6葉形状となるように設計した、孔数560孔の複合紡糸口金より、紡糸温度255℃、紡糸速度800m/minで溶融紡糸した。一旦未延伸糸を収納容器に収納した後、複数本集束し、延伸温度50℃、延伸倍率2.60倍で延伸した。その後、油剤を付与し、捲縮を付与することなく、繊維長を5mmとしてカットして短繊維(バインダー繊維)を得た。
【0033】
実施例3〜7、比較例1〜4
単糸繊度(吐出量を変更)、繊維長、ポリアミド樹脂の種類を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして行いポリアミド短繊維を得た。そして、実施例1と同様にして湿式不織布を得た。
【0034】
実施例8
紡糸口金を変更し、単糸の断面形状が図3に示す8葉形状となるようにした以外は、実施例1と同様にして行いポリアミド短繊維を得た。そして、実施例1と同様にして湿式不織布を得た。
【0035】
比較例5
紡糸口金を変更し、単糸の断面形状が丸形状となるようにした以外は、実施例1と同様にして行いポリアミド短繊維を得た。そして、実施例1と同様にして湿式不織布を得た。
【0036】
実施例1〜8、比較例1〜5で得られたポリアミド短繊維及び湿式不織布の特性値、評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜8のポリアミド短繊維は、操業性、分散性評価ともに優れており、実施例1、3〜8のポリアミド短繊維から得られた不織布は、吸液・保液性、通気性の評価ともに優れており、電池セパレーター用不織布として好適なものであった。
【0039】
一方、比較例1のポリアミド短繊維は、単糸繊度が小さかったため、溶融紡糸時に繊度斑が生じ、生産性、分散性とも悪かった。さらに、得られた不織布は吸液・保液性、通気性の評価ともに劣っていた。比較例2のポリアミド短繊維は、単糸繊度が大きかったため、得られた不織布は厚みのあるものとなり、吸液・保液性に劣るものとなった。比較例3のポリアミド短繊維は、繊維長が短すぎたため、カット時の摩擦熱で繊維の密着がおこり、分散性が悪かった。比較例4のポリアミド短繊維は、繊維長が長すぎたため再凝集がおこり、分散性が悪かった。このため、比較例3、4の繊維から得られた不織布は斑のある均一性に劣った不織布となり、吸液・保液性、通気性の評価ともに劣っていた。比較例5のポリアミド短繊維は、断面形状が丸形状のものであったため、得られた不織布は吸液・保液性、通気性の評価ともに劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のポリアミド短繊維(4葉形状)の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状の一実施態様を示す断面模式図である。
【図2】本発明のポリアミド短繊維(6葉形状)の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図3】本発明のポリアミド短繊維(8葉形状)の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図4】本発明のポリアミド短繊維(5葉形状)の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状の他の実施態様を示す断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂からなり、単糸繊度が0.3〜2.2dtex、繊維長が1〜15mmであり、実質的に捲縮が付与されておらず、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の断面形状が3〜20個の凸部を有する多葉形状を呈していることを特徴とするポリアミド短繊維。
【請求項2】
単糸の断面形状が下記式を満足する請求項1記載のポリアミド短繊維。
D1<D2COS(θ/2)
D1:内接円の直径(μm) D2:外接円の直径(μm)
θ:隣接する凸部間の角度のうち最小のもの


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−186813(P2007−186813A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4945(P2006−4945)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】