説明

ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品

【課題】発色性が高く、目ムキ、色泣きがなく、染色堅牢度も高く、ソフト風合を保持したポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品、及び該混用糸条又は布帛染色品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明により、ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品であって、ポリアミド繊維と、第4級アンモニウム塩を予め含有させたポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛が金属錯塩型アゾ系反応染料で染着されていることを特徴とする前記染色品、及びポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛染色品の製造方法であって、以下のステップ:ポリアミド繊維と、第4級アンモニウム塩を予め含有させたポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛を、金属錯塩型アゾ系反応染料で染着する、を含む前記方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、機械強度、耐薬品性、耐熱性、発色性、洗濯耐久性、ソフトな肌触り感などに優れた特性を有する。
一方、ポリウレタン繊維は、快適な伸縮機能、形態保持性、フィット性、成型性、防シワ性などの多くの優れた特性を有する。
そこで、ポリアミド繊維のソフトな肌触り感とポリウレタン繊維の伸縮機能を活かし、両素材が混用されてファンデーションに代表されるインナー衣料、水着に代表されるスポーツ衣料、パンティストッキングに代表されるレッグ衣料など肌側に近い状態で着用される用途に幅広く使用されている。
【0003】
ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用布帛は、一般に酸性染料で染色されており、特に濃色分野においては、酸性染料の中でも含金染料で染色されている。このような酸性染料で染色された場合、ポリウレタン繊維には、酸性染料による染着性が低いために、ポリアミド繊維との同色性が悪いという問題や、ポリウレタン繊維が染まらないことにより、布帛製品が着用時等に伸長されると異色相のポリウレタン繊維が見え、いわゆる「目ムキ」現象が起こる問題がある。またこの目ムキにより、ポリウレタン繊維特有のギラツキ感も見え製品の商品価値を著しく低下させるという問題がある。
【0004】
このためポリウレタン繊維の酸性染料での染色性を向上するために特定粒径のポリアミド微粒子を含有させる方法が以下の特許文献1に開示されており、また、マレイミド構造を有するポリマーを含有させる方法が以下の特許文献2に開示されている。
しかしながら、これらの方法では、目ムキは解消されるものの、濃色染色において含金染料で染色された場合、製品の洗濯時や着用時に雨に濡れた時等に、濃色の染色部から白場や淡色部へ染料が移動するいわゆる「色泣き」現象が起き、特に黒色、紺色、赤色では顕著に起こり商品価値を著しく低下させるという問題がある。
【0005】
また、ポリウレタン繊維そのものを顔料やカーボンブラック等で着色する方法が以下の特許文献3、4に開示されている。
しかしながら、これらの方法は、黒色に限定した色合いでは目ムキには有効なものの、色の鮮明性に欠けることから、深みのある落ち着いた光沢感のある色相は得られないばかりか、エニーカラーにおいては、ポリアミド繊維との同色性が得られないという問題がある。
【0006】
さらに、反応染料を用いてポリアミド繊維の優れた染色物を得る方法が、特許文献5に開示されている。
しかしながら、この方法では、色泣き現象は改善されるものの、ポリウレタン繊維には染着しないことから目ムキ問題は解消されないという問題がある。
従って、目ムキ、色泣きがなく発色性、染色堅牢度に優れた品質のよいポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用布帛染色品として、満足なものは得られていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−46170号公報
【特許文献2】特開2009−74184号公報
【特許文献3】特開2003−268603号公報
【特許文献4】特開2004−60093号公報
【特許文献5】特許第4229653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、このような事情を背景としてなされたものであり、反応染料で染色しても発色性が高く、目ムキがなく、染色堅牢度に優れた品質のよい、ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用布帛の染色品、及びにその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討し、実験を重ねたた結果、ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛において、特定の反応染料で染色する際に、予めポリウレタン繊維に特定の化合物を付与することで、目ムキ、色泣きのない優れた該糸条又は布帛の染色品が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0010】
[1]ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品であって、ポリアミド繊維と、第4級アンモニウム塩を予め含有させたポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛が金属錯塩型アゾ系反応染料で染着されていることを特徴とする前記染色品。
【0011】
[2]大丸法色泣き堅牢度が4〜5級以上である、前記[1]に記載のポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品。
【0012】
[3]ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品の製造方法であって、以下のステップ:
ポリアミド繊維と、第4級アンモニウム塩を予め含有させたポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛を、金属錯塩型アゾ系反応染料で染着する、
を含む前記方法。
【0013】
[4]前記[3]に記載に方法により得られたポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品。
【0014】
[5]大丸法色泣き堅牢度が4〜5級以上である、前記[4]に記載のポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品は、発色性が高く、目ムキがなく、色泣きがなく、染色堅牢度に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明により、ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛を染色するに先立ち又は染色時に、該混用糸条又は布帛を構成するポリウレタン繊維に第4級アンモニウム塩を吸着させることにより、該混用糸条又は布帛を金属錯塩型アゾ系反応染料で染色すれば、発色性が高く、目ムキがなく、色泣きがなく、染色堅牢度に優れる混用糸条又は布帛の染色品を得ることができる。
【0017】
本発明において、「ポリアミド繊維」として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド繊維、キシリレンジアミン系ポリアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維などの芳香族ポリアミド繊維などの合成ポリアミド繊維、絹、ウールなどの天然ポリアミド繊維等を用途に応じて適宜選択して使用することができる。
また、繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空形や不定形なものでもよい。さらに糸条の形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸等の紡績糸、マルチフィラメント原糸(極細糸を含む)、甘撚糸〜強撚糸、混繊糸、仮撚糸、空気噴射加工糸等が挙げられる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化チタン、カーボンブラックなどの顔料、各種耐酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤などが添加されていてもよい。
【0018】
ポリアミド繊維は、単糸デシテックスが0.01〜5デシテックスが好ましく、より好ましくは0.1〜3デシテッックスであり、トータルデシテックスが10〜250デシテックスであることが好ましい。このような繊維を用いると染色性、風合に優れる布帛が得られる。
【0019】
本発明において、「ポリウレタン繊維」として、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールをジオール成分とし、4,4′ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートをジイソシアネート成分とし、エチレンジアミン等をジアミン成分とするポリエーテル系ポリウレタン繊維や、ポリカプロラクトンやアジピン酸/1,6−ヘキサンジオール/ネオペンチルグルコールからなるポリエステル等からなるポリエステルジオールとブタンジオール等の脂肪族ジオール等をジオール成分とし、4,4′ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートをジイソシアネート成分とするポリエステル系ポリウレタン繊維等を用途に応じて適宜選択して使用することができる。
また、ポリウレタン繊維は、鮮明性の高いブライト糸、光沢を抑えたセミダル系等のいずれも、用途によって適宜選択して使用することができる。これらのタイプは、例えば酸化チタンの添加量によって制御することができる。
ポリウレタン繊維には、必要に応じて、金属酸化物、金属水酸化物等の塩素水劣化防止剤を含有させてもよく、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト類化合物等を単独又は二種以上の混合物として用いてもよい。添加量としては0.1〜6.0wt%が好ましい。また、その他公知の安定剤、紫外線吸収剤等が含有されていてもよい。
【0020】
本発明においては、ポリウレタン繊維がマレイミド構造を有するポリマーを0.2wt%〜10wt%含有するのが、反応染料の染着性を高めるとともに堅牢度性能を高める観点から、好ましい。0.2wt%未満では十分な染着性が得られない、一方、10wt%を超えると、濃染しすぎるため逆に目ムキが発生し、堅牢度も悪化する。
【0021】
本発明で用いられるマレイミド構造を有するポリマーとしては、下記式(I):
【化1】

で表されるイソブチレン単位と下記式(II):
【化2】

{式中、Rは、炭素数2〜6の直鎖又は分岐アルキレン基であり、そしてR、及びRは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基である。}で表されるマレイミド単位とからなるものであり、イソブチレン単位とマレイミド単位とが交互に反復してなるものが好ましい。
【0022】
本発明に係るポリウレタン繊維に含まれるマレイミド構造を有するポリマーの重量平均分子量Mwは、80,000〜150,000であることが好ましく、Mw/Mn(Mnは数平均分子量)が3.5以下であることが好ましい。
また、マレイミド構造を有するポリマーの剪断粘度は、50%ジメチルアセトアミド溶液にしたとき、80〜300ポイズの範囲にあることが好ましい。
【0023】
本発明に係るポリアミド繊維とポリウレタン繊維の混用の割合は、用途により適宜決めることができるが、概ねポリウレタン繊維を40wt%以下で混用した場合に好ましい結果が得られる。また、本発明の混用染色品はポリアミド繊維とポリウレタン繊維とからなるが、この両繊維以外に、綿、絹、麻、キュプラ、ビスコースレーヨン等を混用しても構わない。
【0024】
本発明の混用染色品の形態としては、糸条形態と布帛形態に大別される。糸条の形態としては、ポリウレタン繊維の裸糸すなわちベア糸(10〜500dtex)をポリアミド繊維で被覆した糸条、例えば、いわゆるカバリングヤーン(シングル又はダブルカバリング)、合撚糸、コアヤーン、交絡糸等、公知の被覆糸の形態が挙げられる。
【0025】
一方、布帛形態としては、編物、織物、不織布、これらの複合布帛(例えば、積層布等)がある。具体例としては、いわゆる機上混用品があり、製編織時に、ポリウレタン繊維の裸糸(裸糸の場合は編成や製織時、2〜4倍程度に伸長させながら)又は被覆糸を機上にてポリアミド繊維と引き揃えて、又は合糸して混用した編織物が挙げられる。
通常、ポリウレタン繊維には、反応染料は染着しないので、目ムキ対策より染着させる必要があり、しかも高堅牢に染着させる必要がある。
【0026】
本明細書中、用語「ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品」とは、上記形態を含むが、これらに限定されない。
【0027】
本発明者は、ポリウレタン繊維に反応染料を容易に染着させ、且つ、高堅牢度が得られる方法につき、鋭意検討し実験を重ねたところ、ポリウレタン繊維に第4級アンモニウム塩を吸着させ、その後に反応染料で染色することが最適な方法であることを予想外に発見した。
本発明者は、反応染料として金属錯塩型アゾ系反応染料を用いることにより、ポリウレタン繊維に高堅牢度に染着するばかりか、ポリアミド繊維にも染着性が良好で、高発色、高堅牢度が得られることを、さらに発見し、これらの発見に基づき、本発明を完成したものである。
【0028】
本発明における「第4級アンモニウム塩」としては、長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウムクロライド、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられ、中でもアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドが好ましく使用できる。
本発明における長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウムクロライドの水溶液は、ほぼ中性であることから、酢酸等の酸によりpH4〜5の酸性側に調整した水溶液にポリウレタン繊維を浸漬処理することで、ポリウレタン繊維に第4級アンモニウム塩を容易に吸着させることができる。
【0029】
長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウムクロライドの具体例として、例えば、エリオナールEL(ハンツマン社製、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)、サニゾールC(花王社製、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)、コータミンD−86P(花王社製、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド)が挙げられる。
本発明における第4級アンモニウム塩の使用量は、製品濃度で0.3wt%〜4wt%であり、好ましくは0.5wt%〜2wt%であり、これ未満では反応染料の染着性が不十分で目ムキが解消されず、これを超えても効果は向上せずコスト面で不経済となる。
【0030】
第4級アンモニウム塩でポリウレタン繊維を処理する法は、第4級アンモニウム塩を含有する水溶液中に、ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用品を浸漬する方法が好ましく、処理温度としては40℃〜70℃が好ましく、50℃〜60℃がより好ましい。処理時間は、10分〜30分が好ましい。この際、処理溶液のpHを3〜5に酢酸等のpH調整剤にて調整しておくのが好ましい。また、処理時の浴比は、1:10〜50が好ましく、前記処理は、染色前又は染色工程における初期段階で行えばよく、染色前に実施した場合、処理後は、軽く水洗を行い、染色を行えばよい。
【0031】
本発明の混用染色品は、大丸法色泣き堅牢度測定において4〜5級以上が得られ、各種用途において問題なく使用可能である。
本発明における大丸法色泣き試験とは、洗濯時や雨に濡れた時に乾くまでの間に染料が移動して、或る色が別の色のところに移ってしまう現象を評価する試験法であり、業界においては、繊維製品の品質を簡単な方法で的確に判定できることから、衣料品全般にわたり広く用いられている方法である。具体的な試験方法は後記する。
【0032】
本発明の混用染色品を得る方法は、上記のようにポリウレタン繊維に第4級アンモニウム塩を吸着させた後、反応染料で染色することに特徴がある。
【0033】
本発明における反応染料としては、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維への染着性が良好で、且つ、高堅牢度が得やすい染料として、金属錯塩型アゾ系反応染料が適用される。
金属錯塩型アゾ染料は、分子吸光係数が高く、色相が鮮明であり、ポリアミド繊維に対しても、鮮明で色の深み感の色相が得られる特徴がある。一般には、1:2型金属錯塩酸性染料の色素母体に反応基を導入したものであり、例えば、耐光堅牢度が改善されたタイプとして、特公平4−20951号公報に記載された染料が適用される。また、本発明においては、混用染色品の発色性、堅牢度を高めるために、例えばCAS番号として854270−57−8の染料が特に好ましく適用される。
【0034】
本発明に係る混用品は、金属錯塩型アゾ系反応染料で、90〜120℃、好ましくは95〜110℃の反応温度で染色される。染色時間は、染料の染着性、ポリウレタン繊維の脆化面より30〜60分が好ましい。染色時の昇温速度は、1〜2℃が好ましく適用できる。染色操作は、ウインス、ジッガー、ビーム染色機、液流染色機等の装置を用いて、実施することができる。
この際の染料水溶液のpHは、酢酸等のpH調整剤を用いて4近辺に調整するのが好ましい。この際に併用する均染剤は、反応染料に適用されているものであれば特に制限はなく、一般に、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、高級アミンのアルキレンオキサイド付加物などのノニオン界面活性剤を挙げることができ、反応染料と親和性の強い両性界面活性剤やアニオン界面活性剤が好ましい。このような両性界面活性剤としては、特に、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物から誘導されるベタインを挙げることができ、アニオン界面活性剤としては、特に脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物から誘導される硫酸エステル塩を挙げることができる。
【0035】
金属錯塩型アゾ系反応染料のポリアミド繊維、ポリウレタン繊維への染着を増進させる目的で、塩化カルシウムの併用が特に好ましく、塩化カルシウムの使用濃度は、2〜10%が好ましく、昇温後、65〜80℃に、好ましくは70〜75℃に達した時点で水に溶解させた塩化カルシウムを添加するのがよい。本発明においては、混用染色品は、染色操作の完了後、残留した酸や塩化カルシウムの除去、堅牢度の増進を目的として、熱アルカリ剤存在下にフィックス処理を行う。
【0036】
本発明に用いるフィックス剤は、アルキルアミンを用いるのが好ましく、ヘキサメチレンジアミンがより好ましく使用できる。フィックス剤の処理法は、金属錯塩型アゾ系反応染料濃度に対し、0.5〜2倍量の濃度を溶解した水溶液中に混用品を浸漬する方法が好ましく、処理温度としては80〜95℃が好ましく、より好ましくは90℃であり、処理時間は、10〜30分が好ましい。この際、処理溶液のpHを11近辺に苛性ソーダ等のアルカリ剤にて調整しておくことが好ましい。フィックス処理後は、湯洗、中和、水洗を行えばよいが、フィックス処理時に固着できなかった少量の金属錯塩型アゾ系反応染料は、アルカリ下で簡単に除去できるので、フィックス処理後にソーダ灰1g/Lを用い、90℃で10〜20分の洗浄を行ってもよい。
【0037】
一般に、ポリアミド繊維を濃色に染色した場合、染色後にタンニン酸や合成フィックス剤を用い酸性浴にて後処理されるが、この場合、処理後の風合はキシミ感が強く、ソフト風合が得られないという問題がある。これに対し、本発明においては、染色後の後処理は、このような化学物質を用いずにアルカリ浴での処理であることからソフト風合が得られるという特徴も有している。
【0038】
本発明に用いるポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用品が布帛の場合は、編成、製織後、リラックス精練してから、染色することが好ましい。この場合、精練は60〜98℃の温度でできるだけ布帛をリラックスさせた状態で行うことが布帛の伸縮回復性を高めるなどの理由でから好ましい。尚、染色前に形態固定が必要とされる場合は、170〜195℃の温度で乾熱プレセットを行って、フィックス処理後は、常法に従って通常使用されている柔軟剤や帯電防止剤、可縫性向上剤等を付与し、乾燥後、プレセット温度より10℃以上低くしてファイナルセットをすると好ましい結果が得られる。
【0039】
このようにして染色されたポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用品は、発色性が高く、ソフト風合を有し、目ムキがなく、大丸法色泣き堅牢度が4〜5級以上と優れた堅牢度性能を有し、商品価値の高い混用染色品が得られる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例、比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
まず、本発明で用いた特性値の測定法を以下に示す。
(1)染色物の発色性L値の測定
染色布帛の表面の色濃度を、分光測色計(グレタグマクベス社製CE−7000A)を使用して、Lab表色系におけるL値を測定した。L値が低い程、発色性が高い。なお、L値20以下は、濃色染色品であることを示す。
【0041】
(2)汗アルカリ堅牢度
混用染色品について、JIS L−0844に準じてアルカリ性人工汗液を用いて評価した。試験片の変褪色と添付白布片の汚染の程度を、それぞれ変褪色用グレースケール、汚染用グレースケールと比較して判定した。
【0042】
(3)大丸法色泣き堅牢度
ビーカーに、0.05%非イオン界面活性剤水溶液を入れ、混用染色布帛2.5×3cmの試験片に、JIS綿布の端を、2.5cm×10cm以上、縫い合わせ、試験片の一端を垂直に浸漬し、室温で2時間放置した後、ビーカーを取り除き、そのままの状態で乾燥し、綿布の白場部分の汚染で一番強い所の汚染の程度を汚染用グレースケールで判定した。
判定は次のようにした:
汚染用グレースケール 5級 : 色泣きなし;
汚染用グレースケール 4〜5級 : 色泣きなしと判定;
汚染用グレースケール 4級 : 色泣き僅かにあり;
汚染用グレースケール 4級未満 : 色泣き有り。
【0043】
(4)目ムキ
混用染色品(布帛)を目視判定して目ムキの状態を、以下の1級〜4級として判定した:
4級 : ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との色濃度、色相差が全く認識できないレベル;
3級 : ポリウレタン繊維が十分に染まっているが、ポリアミド繊維との濃淡、色相差がわずかに確認できるレベル;
2級 : ポリウレタン繊維は染まっているが、ポリアミド繊維との濃淡差、色相差が大きいレベル;
1級 : ポリウレタン繊維がほとんど染まっていないと認識できるレベル。
【0044】
(5)風合い評価
検査者(30人)によって評価した。Fix処理後を織編物の感触を、次の基準で相対評価した:
○(良好) : ソフトである;
△(普通) : ソフト感がやや劣る;
×(不良) : キシミ感があり、ソフト感が全くない。
【0045】
[実施例1〜3]
ナイロン6(東レ[株]製商品名 ミラコスモ)56デシテックス/17フィラメントと311デシテックスのポリエーテル系ポリウレタン繊維(旭化成せんい[株]製商品名ロイカSC)を用いて、通常の編成条件で、6コースサテンネット編地(コース密度175ループ数/2.54cm、ウエル密度44ループ数/2.54cm)を調整した。このポリウレタン繊維混用編地のポリウレタン繊維の混用率は、22%であった。
この混用編地を、拡布状90℃で精練リラックスした後、190℃でプレセットを行い、下記に示す条件:
(前処理の条件)
エリオナール EL(アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド):表1記載濃度
酢酸:1ml/リットル
浴比:1:25
処理温度:50℃
処理時間:20分
で前処理を行った。
【0046】
前処理後は、残液を排水し水洗を行い、下記の染色条件:
(染色条件)
染料:エリオファースト ブラック M(ハンツマン社製)(CAS番号 854270―57−8 の金属錯塩型アゾ系反応染料):4.5%omf
助剤:アルベガール SET(ハンツマン社製):1g/リットル
酢酸:1ml/L
浴比:1:17
染色温度、時間:染色浴液を75℃まで1℃/分にて昇温し、染色温度が75℃に到達時に、15分キープし、塩化カルシウム2%omf添加し、再び1℃/分にて昇温し、100℃で40分間染色;
で染色した。
【0047】
染色後、60℃まで降温し、染色機から染色残液を排出し、染色機に水を入れ、下記薬剤:
エリオファーストFix(ヘキサメチレンジアミン含有品、ハンツマン社製):3.6%omf
苛性ソーダ−:0.2g/リットル
浴比:1:25。
を添加して、90℃で20分間のアルカリフィックス処理を実施した。
【0048】
フィックス後、残液を排出し、60℃で湯洗、中和、水洗をした後、脱水後、可縫製向上剤、帯電防止剤を付与、乾燥後、150℃で40秒間の乾熱セットを行い仕上げた。
仕上げた染色編地の発色性、汗アルカリ堅牢度、大丸法色泣き試験、目ムキ、風合の評価結果を以下の表1に示す。
【0049】
[比較例1、2]
比較例1として、実施例1の編地を、前処理を施さずに実施例1と同様の条件にて染色し、同様に仕上げた。
比較例2として、実施例1の編地を、前処理を施さずに下記の条件にて、染色、Fix処理を施し、実施例1と同様に仕上げた:
(染色条件)
染料:イソラン ブラック 2S−LD(ダイスター社製、1:2型含金酸性染料):3.5%omf
助剤(アルベガール SW(ハンツマン社製)):0.5g/リットル
メイサン FT(明成化学社製):0.5g/リットル
浴比:1:20
染色温度:100℃
染色時間:40分
(Fix条件)
Fix剤(ハイフィックス SWA):5%omf
酢酸:0.5ml/リットル
浴比:1:20
処理温度:80℃
処理時間:15分
【0050】
得られた各染色品の発色性、汗アルカリ堅牢度、大丸法色泣き試験、目ムキ、風合の評価結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果より、本発明の実施例1、2、3で得られた染色編地は、比較例1、2で得られた染色編地に比べ、大丸法色泣き試験にて色泣きがなく、かつ発色性に優れており、ソフト感のある風合を有し、商品価値の高い染色編地であることが分かる。
【0053】
[実施例4〜6]
平均分子量約60,000のイソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体(クラレ社製イソバン04)40g、ジエチルアミノプロピルアミン33.8g、及びジメチルアセトアミド160gを混合し、窒素雰囲気下、50℃で1時間、そして100℃で1時間撹拌し、次いで180℃環流下で生成する水を留去しながら4時間加熱した。残留揮発分を減圧下で留去し、これによって得られたポリマーをジメチルアセトアミドに溶解し、50%溶液とした。得られたポリマーは、重量平均分子量Mw=1.0×10、分子量分布Mw/Mn=2.7、剪断粘度104ポイズであった。
【0054】
平均分子量1,800のポリテトラメチレンエーテルグリコール1,500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート312gを、窒素ガス気流下60℃において90分間撹拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミド2,700gを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
エチレンジアミン23.4g及びジエチルアミン3.7gを乾燥ジメチルアセトアミド1,570gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2,200ポイズ(30℃)のポリウレタン重合体溶液を得た。
【0055】
このポリウレタン重合体溶液に、ポリウレタン固形分に対して、p−クレゾールとジシクロペンタジエンの重付加体のイソブチレン付加物1.0重量%、Sumilizer
GA−80(住友化学社製)0.4重量%、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノール0.2重量%、ハイドロタルサイト5.0重量%、及び作製した上記マレイミド構造を有するポリマー1.0重量%を、混合して紡糸原液とした。
この紡糸原液を紡糸速度800m/分及び熱風温度325℃で乾式紡糸して、311デシテックスのポリウレタン繊維を得た。
【0056】
次に、実施例1と同様に、ナイロン6 56デシテックス/17フィラメントと得られたポリウレタン繊維を用い、実施例1と全く同様にして、6コースサテンネット編地を作製し、精練リラックス、プレセット後に、前処理、染色、仕上処理を実施した。
仕上げた染色編地の発色性、汗アルカリ堅牢度、大丸法色泣き試験、目ムキ、風合の評価結果を以下の表2に示す。
【0057】
[比較例3、4]
比較例3として、実施例2の編地を、前処理を施さずに実施例1と同様の条件にて染色し、同様に仕上げた。
比較例4として、実施例2の編地を、前処理を施さずに比較例2と同様の条件にて、染色、Fix処理を施し、実施例1と同様に仕上げた。
得られた各染色品の発色性、汗アルカリ堅牢度、大丸法色泣き試験、目ムキ、風合の評価結果を以下の表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果より、本発明の実施例4、5、6で得られた染色編地は、比較例3、4で得られた染色編地に比べ、大丸法色泣き試験にて色泣きがなく、かつ発色性に優れており、ソフト感のある風合を有し、商品価値の高い染色編地であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品は、優れた堅牢度性能を有し、汗や洗濯等により布帛全体が濡れたときに色泣きがなく、目ムキがなく、ソフト風合を有しており、スポーツ衣料、肌着などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品であって、ポリアミド繊維と、第4級アンモニウム塩を予め含有させたポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛が金属錯塩型アゾ系反応染料で染着されていることを特徴とする前記染色品。
【請求項2】
大丸法色泣き堅牢度が4〜5級以上である、請求項1に記載のポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品。
【請求項3】
ポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品の製造方法であって、以下のステップ:
ポリアミド繊維と、第4級アンモニウム塩を予め含有させたポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛を、金属錯塩型アゾ系反応染料で染着する、
を含む前記方法。
【請求項4】
請求項3に記載に方法により得られたポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品。
【請求項5】
大丸法色泣き堅牢度が4〜5級以上である、請求項4に記載のポリアミド繊維とポリウレタン繊維との混用糸条又は布帛の染色品。

【公開番号】特開2011−1652(P2011−1652A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145729(P2009−145729)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】