説明

ポリアミノポリカルボン酸鉄アルカリ塩の製造法

【課題】 本発明の目的は、簡便な操作で、経済的に、少量の廃液排出量で環境負担が少なく、しかも高収率、高純度でポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩結晶を取得できる方法を提供することにある。
【解決手段】 水溶液中で、ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させた後、分子状酸素で酸化処理を行って得たポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩水溶液を濃縮して、スラリー濃度が40〜65質量%になるようにこの塩の結晶を析出させ、次いで結晶と母液を分離回収するポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造において、分離回収された母液の一部または全部を次回以後の製造にリサイクル使用することを特徴とするポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミノポリカルボン酸と第二鉄およびアルカリからなるポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩(以下、鉄アルカリ塩と表記することもある)の製造法に関する。鉄アルカリ塩は、写真用薬品および肥料用微量成分として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等に代表されるポリアミノポリカルボン酸の第二鉄アルカリ金属塩の製法は従来から多くの方法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。これらの鉄アルカリ塩の製造は通常水溶液中で行われるが、輸送効率、塩を配合した製品の形態などから、粉体の製品形態が必要とされる場面が多い。
粉末を取得する手段としては鉄アルカリ塩を製造した後のアルカリ過剰の水溶液に硫酸などの鉱酸の塩を添加することにより鉄アルカリ塩の溶解度を下げて結晶化しやすくし、濃縮、分離、乾燥する方法が開示記載されている(特許文献3及び特許文献4)。これらの方法では、結晶に鉱酸の塩が含まれるため、洗浄工程が必要になり工程が煩雑になる上、ろ液に大量の鉱酸の塩が存在するため、ろ液のリサイクル使用が困難であり、収率の向上がはかれないという難点がある。
【0003】
また、ポリアミノポリカルボン酸のアルカリ部分中和物と酸化鉄との反応液を分子状酸素で酸化し、酸化後の反応液にポリアミノポリカルボン酸(仕込みのポリアミノポリカルボン酸と同一種類のもの)を添加することにより、反応液中のポリアミノポリカルボン酸第二鉄錯体Na塩の溶解度を下げ、塩を析出させる方法も開示されている(特許文献5)。しかし、この方法では、添加したポリアミノポリカルボン酸が、析出したポリアミノポリカルボン酸第二鉄錯体Na塩に混入するため、洗浄工程が必要になる。更に、この方法においては、ろ液をリサイクルしているが、最後の反応で、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄錯体Na塩を析出するために使用するポリアミノポリカルボン酸がろ液とともに処分されることになり、工業的には著しく不利になる。
【0004】
更に、S,S−エチレンジアミン −N,N‘−ジコハク 酸鉄 アンモニウム水溶液を減圧濃縮して一部を結晶化させ、スラリーとする第1工程と、前記スラリーを減圧濃縮しながら、これにS,S−エチレンジアミン −N,N‘−ジコハク 酸鉄 アンモニウム水溶液を供給して、S,S−エチレンジアミン −N,N‘−ジコハク 酸鉄 アンモニウムを連続的に結晶化させるとともに、スラリーの一部を抜き出してスラリー体積を常時略一定に維持する第2工程と、抜き出したスラリーを結晶と母液とに固液分離して、これらを回収する第3工程とを有する製造方法が開示されている(特許文献6)。しかし、この方法を実施するためには複雑な装置が必要になる上に、S,S−エチレンジアミン −N,N‘−ジコハク 酸鉄錯体水溶液の供給とスラリーの抜き出しは、処理容器内の物質収支を考慮して、処理容器内のスラリー体積が略一定となるように行うなどの煩雑な操作が必要になる。また、固液分離により得られた結晶には、遠心分離などの固液分離操作では十分に除去できないスラリー液由来の不純物が付着しているため、洗浄が必要になる。S,S−エチレンジアミン−N,N‘−ジコハク 酸鉄錯体自体も水に溶解するので、洗浄により、1バッチあたりの結晶回収率が大きく低下する。また、洗浄後の洗浄液を再度スラリーに戻して再使用すると、スラリー液由来の不純物が蓄積するため、洗浄水量が増加し1バッチあたりの結晶回収率さらに低下する。固液分離して回収された母液の適量も必要に応じてスラリーに供給して再使用できるが、回収母液には、S,S−エチレンジアミン−N,N‘−ジコハク 酸鉄錯体合成過程での副生成に由来するエチレンジアミンモノコハク酸などの有機不純物が含まれるため、再使用により有機不純物がスラリーに蓄積してスラリーの粘性が上昇したり、S,S−エチレンジアミン−N,N‘−ジコハク 酸鉄錯体結晶の晶癖が変わってハンドリング性の良い結晶が得られなくなったり、あるいは、エチレンジアミンモノコハク酸などの結晶が析出したりする欠点を有する。さらに、S,S−エチレンジアミン−N,N‘−ジコハク酸鉄錯体製造時に過剰に使用した無機塩が蓄積していくため、結晶の純度はさらに悪化する。
【0005】
このように従来は、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の結晶を回収した後のろ液を、リサイクル再利用して、高純度、高収率に目的製品を得ることは容易には出来なかった。さらに本発明者らの検討によると、前記従来法で得られたポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩水溶液を濃縮して、この塩の結晶を析出させると、ろ液中に溶解しているポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の一部が還元され、ポリアミノポリカルボン酸第一鉄アルカリ塩となって存在し、製品の純度と性能を低下させていることがわかった。
【特許文献1】特開昭59−167595号公報
【特許文献2】特開昭58−21690号公報
【特許文献3】特開平01−71482号公報
【特許文献4】特開平06−145120号公報
【特許文献5】特開2001−226335号公報
【特許文献6】特開2002−241354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決するものであり、その目的は、簡便な操作で、経済的に、少量の廃液排出量で環境負担が少なく、しかも高収率、高純度でポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩結晶を取得できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題の解決のために鋭意研究した結果、特定の狭い範囲のスラリー濃度で結晶を回収すると高純度の製品結晶が得られ、しかもその分離母液を次回以降の製造にリサイクル使用しても何らの不都合なく利用でき、収率の向上と廃液の減少をもはかれることを見出して本発明に到達した。すなわち、本発明は水溶液中で、ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させた後、分子状酸素で酸化処理を行って得たポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩水溶液を濃縮して、スラリー濃度が40〜65質量%になるようにこの塩の結晶を析出させ、次いで結晶と母液を分離回収するポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造において、分離回収された母液の一部または全部を次回以後の製造にリサイクル使用することを特徴とするポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造法を用いることにより、簡便な操作で、経済的に、少量の廃液排出量で環境負担が少なく、しかも高収率、高純度でポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩結晶を取得できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法はポリアミノポリカルボン酸とアルカリ及び鉄化合物の反応で得たポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の結晶を特定スラリー濃度40〜65質量%で回収した後のろ液をリサイクル使用して、次回以降の新たにポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩を製造した反応液に添加して再利用することにより、高純度のポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩を効率よく回収することを特徴とするものである。
ポリアミノポリカルボン酸と鉄およびアルカリ塩の反応方法としては、公知のものが使用できる。たとえば、前述の特許文献1及び特許文献2に開示された方法などがあげられる。
ポリアミノポリカルボン酸の第二鉄アンモニウム塩の製造は、水、ポリアミノポリカルボン酸、アルカリ水溶液、酸化鉄を常温で仕込んで加熱することにより行なうことができる。ここで、ポリアミノポリカルボン酸とアルカリ水溶液の代わりに、ポリアミノポリカルボン酸とポリアミノポリカルボン酸の部分中和物の水溶液を混合して使用することもできる。
【0010】
本発明に使用するポリアミノポリカルボン酸は特に限定されないが、分子構造中に窒素−水素結合を有しないポリアミノポリカルボン酸がより好ましく、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,4−ブタンジアミン四酢酸、1−メチルプロパンジアミン四酢酸、2−メチルプロパンジアミン四酢酸、2,2−ジメチルプロパンジアミン四酢酸、1,2−プロピレンジアミン四酢酸、などが挙げられる。塩としての安定性の点から、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸が更に好ましく、ジエチレントリアミン五酢酸が特に好ましい。
【0011】
分子構造中に窒素−水素結合を有するポリアミノポリカルボン酸では、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩製造時の分解物が多くなる傾向があり、ろ液の再使用の効果が低減することがある。また、分子構造中に窒素−水素結合を有するポリアミノポリカルボン酸や副生成物が存在すると、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の結晶を回収した後のろ液中に溶解しているポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の一部が還元され、ポリアミノポリカルボン酸第一鉄アルカリ塩を副生しやすくなる傾向がある。以上の理由から、出来る限り窒素−水素結合を有する化合物を含まない、ポリアミノポリカルボン酸を使用することが好ましい。
【0012】
本発明で使用するアルカリとしては、アンモニア、アルカリ金属水酸化物などが挙げられるが、塩の結晶性の点から水酸化カリウム、水酸化ナトリウムまたはアンモニア水が好ましい。アルカリ量が少ない場合、反応時にポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩が分解したり、晶析時に分解物や未反応のポリアミノポリカルボン酸が析出しやすくなる傾向がある。ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の収率や純度の点から、反応時のアルカリ/ポリアミノポリカルボン酸モル比は0.9以上が好ましく、0.92以上がより好ましい。アルカリ成分が多いとポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の結晶に分解物などの不純物が付着しやすくなることから、反応時のアルカリ/ポリアミノポリカルボン酸モル比は0.99以下が好ましく、0.98以下がより好ましい。この際、分離回収された母液の一部または全部を次回以後の製造バッチにリサイクル使用する際に、アルカリの使用量を母液のリサイクル使用を行わない初回製造時のモル比よりも小さくすることが収率の点から望ましい。また、以降のリサイクル使用時に、前のバッチよりアルカリのモル比を小さくすることがより望ましい。
【0013】
本発明に使用される鉄化合物としては、特に限定されないが、金属鉄、酸化第一鉄、酸化第二鉄、四三酸化鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄などが好ましい例としてあげられる。これらの鉄化合物は複数の種類を併用しても良い。硫酸や塩酸、硝酸などの鉱酸あるいは酢酸やクエン酸などの有機酸の鉄塩などの形態の鉄化合物は、これらの酸とアルカリとの塩がポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩に付着しやすくなり、純度面での効果が低減する場合がある。ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の収率の点から、反応時の鉄化合物/ポリアミノポリカルボン酸モル比は0.9以上が好ましく、0.95以上がより好ましい。過剰な鉄が存在するとろ液中で還元が進み、金属鉄となって沈殿する可能性があることから、反応時の鉄化合物/ポリアミノポリカルボン酸モル比は1.05以下が好ましく、0.98以下がより好ましい。
【0014】
ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物とを反応させる場合には、反応を効率よく進めるために好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上で加熱する。反応温度の上限は水溶液の沸点である。反応時間は、好ましくは0.1時間から10時間、更に好ましくは0.5時間から8時間である。
【0015】
この反応により、鉄化合物は溶解し、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩とポリアミノポリカルボン酸第一鉄アルカリ塩になる。その後、反応液を公知の方法に従い分子状酸素で酸化する。この酸化は、一般的には空気により行なうことが好ましい。酸化反応を効率よく進めるために好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上で加熱する。酸化反応時の分解反応を抑えるためには、75℃以下、より好ましくは65℃以下で加熱する。上記の酸化反応においては、酸化反応開始から酸化反応終了までの時間は、金属の酸化度合いの点から通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。鉄錯体の分解抑制の点から通常24時間以下、好ましくは12時間以下である。
【0016】
前回以前の製造で保存したろ液をリサイクル使用する際には、酸化反応は、リサイクルのため保存したろ液を加える前に実施しても、加えた後に実施しても良いが、ポリアミノポリカルボン酸第一鉄アルカリ塩の副生を低減するためには、保存したろ液を加えた後に実施する方がより好ましい。また、保存したろ液を加える前と加えた後に各々酸化反応を実施しても良いが、酸化反応時に分解反応も進行するため、過度な酸化反応は避けた方が良い。
酸化工程の後、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩水溶液を濃縮して、この塩の結晶を析出させ、結晶を回収する。このときの、スラリー濃度は、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の回収率の点から40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましい。結晶中に分解物などの不純物が付着することを避ける目的で、スラリー濃度は、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が特に好ましい。濃縮は公知の各種濃縮法で行えるが、減圧濃縮がより好ましく、そのときの温度は、濃縮効率の点から濃縮温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。分解反応を抑制する点から、濃縮温度は80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0017】
なお、濃縮前に、ポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩水溶液をろ過して未溶解の鉄などの不溶物を除去することが望ましい。ろ過には公知のろ過方法および手段を用いることができる。0.1〜10μm程度の目開きのフィルターを使用するのがより好ましい。
所定スラリー濃度まで濃縮した後、減圧ろ過、遠心分離等の方法で結晶を分離することにより、高純度のポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩を得ることができる。このポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩は、洗浄無しで十分に製品として使用可能であるが、より高純度なポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩を得たい場合は、少量の冷水で洗浄しても良い。
【0018】
結晶を回収するときの温度は、結晶の析出量の点から、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。スラリーの粘度の点から温度は、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。結晶回収後のろ液は保管し、次回以降、新たに同種のポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させた後に全量または一部を添加しリサイクル使用する。前述のように酸化反応の前または後に添加するのがより好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、収率は高速液体クロマトグラフの分析結果から算出し、第一鉄イオンの量は分光光度計の分析結果から算出した。
【0020】
1)高速液体クロマトグラフ分析
(1)測定試料の調整:反応液2gを100mlのメスフラスコに入れ、水を加えて溶解させる。20%水酸化ナトリウム水溶液を20ml加え、超音波洗浄器で20分間振とうした後、水を加えて、メスアップし、ろ過する。ろ液を10mlとり、100mlのメスフラスコに入れ、試料希釈液を80ml加える。85%リン酸を添加し、pH3前後にした後、試料希釈液でメスアップする。
(2)試料の分析:高速液体クロマトグラフを使用し、波長254nmで測定する
(3)測定条件:カラム・・・Inertsil‐C4 4.6×150mm (GLサイエンス社製)、キャリア液流速・・・1ml/min、カラム温度・・・40℃
(4)キャリアの組成:0.2%トリ−n−プロピルアミン−40ppm硫酸銅水溶液(リン酸でpH 3.0に調整)。
(5)試料希釈液の組成:0.2%トリ−n−プロピルアミン−0.2%硫酸銅水溶液(リン酸でpH 3.0に調整)
【0021】
2)鉄の分析
(1)試料溶液の調製:試料25gを75gの純水に溶解する。
(2)測定用検液の調製:試料溶液3gを精秤し、250 mlのメスフラスコに移し、純水でメスアップする。
(3)全鉄の測定:20ml蓋付きガラス瓶に発色液10mlと検液をマイクロシリンジで50μl取り、Lーアスコルビン酸0.01gを加える。蓋をして4〜5回強く振り60分間放置後、分光光度計で535 nmの吸光度を測定する。
(4)第一鉄イオンの測定:20ml蓋付きガラス瓶に発色液10mlと検液をマイクロシリンジで50μl取り、蓋をして4〜5回強く振り60分間放置後、分光光度計で535nmの吸光度を測定する。
(5)第一鉄イオン/全鉄比の計算下記の式を用いて第一鉄イオン/全鉄の比を計算する。
第一鉄イオン/全鉄(%)=D1/D2 ×100
D1・・・第一鉄イオンの吸光度測定からの定量値
D2・・・全鉄の測定の吸光度測定からの定量値
(6)発色液の調製:発色液は以下の組成で調整。
バソフェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム(第一鉄イオン用)0.5 g
酢酸ナトリウム1.5 g
酢酸 1.0 g
以上を純水200 mlに溶解する。
【0022】
<参考例1>
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた1Lのセパラブルフラスコ中に、常温下、水150g、99.6%ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)150g(0.38mol)、15%アンモニア水42.3g(0.373mol)、鉄含量71%の四三酸化鉄27.94g(0.355mol)、鉄粉0.279g(0.005mol)仕込み、攪拌しながら昇温し、85〜90℃で2.5時間熟成した。この反応液を目開き1μmのフィルターを使用し、ろ過して不溶物をろ別した。50〜55℃でボールフィルターを用いて空気を1.5L/分の流量で10時間吹き込むことにより、反応液中の錯体を酸化し、ジエチレントリアミン五酢酸第二鉄アンモニウム塩(DTPA・Fe・NH3塩)とした。この水溶液を攪拌しながら50℃で減圧濃縮した後、10℃まで冷却して3時間かけて、結晶を析出させた。このときのスラリー濃度は51%であった。この結晶を遠心分離して、結晶を回収し、ろ液129.6gを褐色瓶に保管した(室温で一日)。結晶を120℃で2時間減圧乾燥し、純度98.7%のDTPA・Fe・NH3塩一水和物結晶140.4g(DTPAベースの収率77.1%)を得た。全鉄イオンに対する第一鉄イオンの量は0.08%であった。
【0023】
<実施例1>
15%アンモニア水を41.8g(0.369mol)に変えた以外は、参考例1と同様に仕込んで反応を行った。この反応液に参考例1で保管したろ液を少量の水と共に加え、目開き1μmのフィルターを使用し、ろ過して不溶物をろ別した。50〜55℃でボールフィルターを用いて空気を1.5L/分の流量で10時間吹き込むことにより、反応液中の錯体を酸化し、DTPA・Fe・NH3塩とした。以降、参考例1と同様に処理した。
この結果を表1に示す。
【0024】
<実施例2>
15%アンモニア水を41.4g(0.365mol)に変えた以外は、実施例1と同様に仕込んで反応を行った。この反応液に実施例1で保管したろ液を少量の水と共に加え、実施例1と同様に処理した。
この結果を表1に示す。
【0025】
<実施例3〜5>
15%アンモニア水の仕込み量を表1のように変えた以外は、実施例2と同様に反応、処理を行った。
この結果を表1に示す。
【0026】
<参考例2>
15%アンモニア水を30%水酸化ナトリウム水溶液49.73g(0.373mol)に変えた以外は、参考例1と同様に仕込んで反応、処理を行った。このときのスラリー濃度は51%、保管したろ液は131.0gであった。
その結果、純度98.4%のジエチレントリアミン五酢酸第二鉄ナトリウム塩(DTPA・Fe・Na塩)一水和物結晶141.0g(DTPAベースの収率76.2%)を得た。全鉄イオンに対する第一鉄イオンの量は0.06%であった。
【0027】
<実施例6>
30%水酸化ナトリウム水溶液を49.15g(0.369mol)に変えた以外は、参考例2と同様に仕込んで反応を行った。この反応液に参考例2で保管したろ液を少量の水と共に加え、目開き1μmのフィルターを使用し、ろ過して不溶物をろ別した。50〜55℃でボールフィルターを用いて空気を1.5L/分の流量で10時間吹き込むことにより、反応液中の錯体を酸化し、DTPA・Fe・NH3塩とした。以降、参考例2と同様に処理した。
この結果を表1に示す。
【0028】
<実施例7>
30%水酸化ナトリウム水溶液を48.64g(0.365mol)に変えた以外は、実施例6と同様に仕込んで反応を行った。この反応液に実施例6で保管したろ液を少量の水と共に加え、実施例6と同様に処理した。
この結果を表1に示す。
【0029】
<参考例3>
15%アンモニア水を47.4g(0.418mol)に変えた以外は、参考例1と同様に仕込んで反応、処理を行った。
その結果、純度96.5%のDTPA・Fe・NH3塩一水和物結晶144.2g(DTPAベースの収率77.4%)を得た。全鉄イオンに対する第一鉄イオンの量は0.10%であった。このときのスラリー濃度は51%、保管したろ液は132.5gであった。
【0030】
<比較例1>
参考例3と同様に仕込み、反応を行った。この反応液を目開き1μmのフィルターを使用し、ろ過して不溶物をろ別した。50〜55℃でボールフィルターを用いて空気を1.5L/分の流量で10時間吹き込むことにより、反応液中の錯体を酸化し、DTPA・Fe・NH3塩とした。この水溶液に、参考例3で保管したろ液を少量の水と共に加えて、攪拌しながら50℃で減圧濃縮した後、10℃まで冷却して3時間かけて、結晶を析出させた。以降は参考例1と同様に処理を行った。
この結果を表1に示す。
【0031】
<参考例4>
15%アンモニア水を36.6g(0.323mol)に変えた以外は、参考例1と同様に仕込んで反応、処理を行った。
その結果、純度95.1%のDTPA・Fe・NH3塩一水和物結晶147.1g(DTPAベースの収率77.7%)を得た。全鉄イオンに対する第一鉄イオンの量は0.10%であった。このときのスラリー濃度は51%、保管したろ液は135.7gであった。
【0032】
<比較例2>
参考例4と同様に仕込み、反応を行った。この反応液を目開き1μmのフィルターを使用し、ろ過して不溶物をろ別した。50〜55℃でボールフィルターを用いて空気を1.5L/分の流量で10時間吹き込むことにより、反応液中の錯体を酸化し、DTPA・Fe・NH3塩とした。この水溶液に、参考例4で保管したろ液を少量の水と共に加えて、攪拌しながら50℃で減圧濃縮した後、10℃まで冷却して3時間かけて、結晶を析出させた。以降は参考例1と同様に処理を行った。
この結果を表1に示す。
【0033】
<比較例3>
実施例1と同様の条件で反応を行い、この反応液に参考例1と同様の方法で取得し、保管したろ液を少量の水と共に加え、実施例1と同様に処理し、スラリー濃度68%になるようにこの水溶液を攪拌しながら50℃で減圧濃縮した。10℃まで冷却したところ、粘張性のスラッジとなりろ過できなかった。
【0034】
<比較例4>
実施例1と同様の条件で反応を行い、この反応液を目開き1μmのフィルターを使用し、ろ過して不溶物をろ別した。50〜55℃でボールフィルターを用いて空気を1.5L/分の流量で10時間吹き込むことにより、反応液中の錯体を酸化し、DTPA・Fe・NH3塩とした。この水溶液に、参考例1と同様の方法で取得し、保管したろ液を少量の水と共に加えて、攪拌しながら50℃で減圧濃縮した後、10℃まで冷却して3時間かけて、結晶を析出させた。このときのスラリー濃度は33%であった。以後、実施例1と同様に処理した。
この結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法で製造されるポリアミノポリカルボン酸鉄アルカリ塩は、写真用薬品、肥料添加剤、分析試薬及び各種添加薬として使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中で、ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させた後、分子状酸素で酸化処理を行って得たポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩水溶液を濃縮して、スラリー濃度が40〜65質量%になるようにこの塩の結晶を析出させ、次いで結晶と母液を分離回収するポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造において、分離回収された母液の一部または全部を次回以後の製造にリサイクル使用することを特徴とするポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造法。
【請求項2】
分離回収された母液の一部または全部を次回以降の製造の、ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させた後に添加して、分子状酸素で酸化処理を行った後、濃縮することを特徴とする請求項1記載のポリアミノポリカルボン酸第二鉄の製造法。
【請求項3】
ポリアミノポリカルボン酸が、分子構造中に窒素−水素結合を持たない化合物であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造法。
【請求項4】
ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させる際の、アルカリ/ポリアミノポリカルボン酸モル比が0.9〜0.99であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造法。
【請求項5】
母液のリサイクル使用を行う2回目以降の製造で、ポリアミノポリカルボン酸とアルカリおよび鉄化合物を反応させる際のアルカリ/ポリアミノポリカルボン酸モル比を、母液のリサイクル使用を行わない初回製造時のモル比よりも小さくすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のポリアミノポリカルボン酸第二鉄アルカリ塩の製造法。

【公開番号】特開2007−191423(P2007−191423A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10832(P2006−10832)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】