説明

ポリアリレート系光拡散フィルム

【課題】 LED光源の光拡散性と光透過率が高く、防汚性が付与され、耐傷性に優れた、LED照明、あるいはLED表示装置の使用に適した光拡散フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリアリレート系光拡散積層フィルムは、光触媒層2と、ポリアリレート系樹脂の中にシリコーン系微粒子からなる光拡散材が分散したフィルム層1と、粘着層3とを有し、光触媒層2が一方の面の最外層であり、粘着層3がもう一方の面の最外層である。ハードコート層4が付されることもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散フィルムに関し、詳しくはLED光源を有する各種照明装置、各種表示装置等に好適に使用出来る光拡散フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LED(発光ダイオード)を光源に用いた種々の形態のディスプレイや照明装置が提供されている。なかでも照明用光源として利用されている白色LEDについていえば、近紫外LEDを励起源としたものが、その高い演色性から、次世代の照明装置や画像表示装置の光源として期待されている。LEDは、低消費電力であり、長期信頼性に優れている反面、光の指向性が強く照射光が広がりにくい特徴がある。つまりLED光源の照明装置は、一定の方向に対しては高い輝度の光を照射するが、それ以外の方向では輝度が弱くなる。このため、特定の方向から直接照明装置を見た場合には目に対する刺激が強すぎることがあり、照明場所によっては照明輝度のムラが生じるという不都合がある。
【0003】
そこで、LEDから発せられた光を光拡散性の部材に通して、光を様々な方向に拡散させることによって、いずれのLEDから光が発せられたかを分らないようにしている。LED光源を隠蔽することにより、LEDから発せられる光の全体が均一化されるため、照明輝度にムラが生じなくなる。
【0004】
従来、照明に使用される光拡散性のある部材は、酸化チタンなどを練りこんだアクリル成型板の光拡散板が主流であった。しかし、これでLED光源の隠蔽性を高めようとすると、光透過率が低下してしまうという問題があった。また、光拡散性を付与する支持フィルムとして、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートフィルムが、用いられていたが、これらでは耐摩耗性、低複屈折が不十分であり、特に光源からの発熱が大きいLED光源に使用する場合、耐熱性が不十分であった。液晶表示(LCD)用バックライトなどに使用されている拡散フィルムをLED光源の光拡散フィルムとして使用すると、光透過率は高いが、拡散性が低いために隠蔽性が不足する問題があった。
【0005】
特許文献1には、プラスチックフィルム上に透明樹脂層とプラスチックビーズと樹脂からなる光拡散層を設けてなる光拡散シートが提案されている。この光拡散シートは、プラスチックビーズによる光拡散性を効果的に利用するものではあるが、特に光源にLEDを利用した照明装置では、光透過率を維持できるものの、LED光源の隠蔽性は十分とはいえない。用途によっては光拡散シートの表面を他の機能部品でカバーするなどの後加工が施されることもあるため、その表面に傷がつき易く、この傷が輝度ムラなどの原因となるおそれがある。さらに、水系の透明樹脂層を連続塗布して製造する際には、透明樹脂層に傷が付き易く輝度ムラが生じるおそれがある。これに対して、透明樹脂層の塗布温度を高くすることで塗膜の硬化を促進し耐傷性を改善することはできるが、シート表面の耐傷性を高める目的でハードコート層を光拡散層の反対側に形成する場合には、ハードコート層の形成に水性塗布液を使用すると、塗布温度を高くすることによってハードコート層にひび割れが発生するおそれがある。
【0006】
特許文献2ではポリエステルフィルムの上に2層構造の光拡散層を形成し、水系ハードコート層を有する光拡散シートが提案されている。特に光源にLEDを利用した照明装置に用いた場合、光透過率を向上させることはできるものの、光拡散性が十分では無く、輝度ムラが生じるおそれがある。
【0007】
さらに、特許文献1、特許文献2の光拡散シートは、最表面層がハードコート層になっているため、経時により汚れが付着し外観が悪化してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3485613号公報
【特許文献2】特開2011−065139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の光拡散シートのもつ課題を解決するためになされたもので、LED光源の光拡散性と光透過率が高く、防汚性が付与され、耐傷性に優れた、LED照明、あるいはLED表示装置の使用に適した光拡散フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、光触媒層と、ポリアリレート系樹脂の中にシリコーン系微粒子からなる光拡散材が分散したフィルム層と、粘着層とを有し、該光触媒層が一方の面の最外層であり、該粘着層がもう一方の面の最外層であることを特徴とする。
【0011】
同じく請求項2に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記フィルム層と前記光触媒層との間、および前記フィルム層と前記粘着層との間の、少なくとも一方の間にハードコート層を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項2に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記ハードコート層が、シリコーン系ハードコート材よりなることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項3に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記シリコーン系ハードコート材が、光硬化性シリコーン系ハードコート材であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記シリコーン系微粒子からなる光拡散材が、平均粒径0.05μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項5に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記ポリアリレート系樹脂と前記シリコーン系微粒子との屈折率差が、0.01以上0.3以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1または2に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記粘着層が、シリコーン系粘着材よりなることを特徴とする。
【0017】
請求項8に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1または2に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記光触媒層が、光触媒粒子と水溶性バインダーを含む塗工液を塗布して形成されたことを特徴とする。
【0018】
請求項9に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項8に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記光触媒粒子が、n型半導体性を有する金属酸化物の結晶微粒子の上に、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、銀、スズ、タングステン、白金、金からなる群から選ばれる金属、金属の酸化物、または/および金属の化合物を担持した光触媒粒子であることを特徴とする。
【0019】
請求項10に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項8に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、前記水溶性バインダーが、加水分解性ケイ素化合物を、水、塩基性化合物および極性溶媒の混合溶剤中で加水分解した化合物を含有することを特徴とする。
【0020】
請求項11に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1から10のいずれかに記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムの全光透過率が、60%以上であることを特徴とする。
【0021】
さらに、前記の目的を達成するためになされた、請求項12に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1〜11のいずれかに記載されたポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、LED照明に使用されることを特徴とする。
【0022】
同じく請求項13に係る発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、請求項1〜11のいずれかに記載されたポリアリレート系光拡散積層フィルムであって、LED表示装置に使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、LED光源の光拡散性が高いため、光透過率が高いにも拘わらず光源隠蔽性に優れている。全光透過率は、80%を超えるものである。また、最外層に光触媒層を具備していることから、防汚性にも優れている。もう一方の最外層には、粘着層が設けられているので、LED光源に容易に貼り付けすることができる。さらに、ハードコート層を備えた構成では表面に傷が付きにくいポリアリレート系光拡散積層フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用するポリアリレート系光拡散積層フィルムの一例の模式断面図である。
【図2】本発明を適用するポリアリレート系光拡散積層フィルムの別な一例の模式断面図である。
【図3】本発明を適用するポリアリレート系光拡散積層フィルムのさらに別な一例の模式断面図である。
【図4】本発明を適用するポリアリレート系光拡散積層フィルムのさらに別な一例の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るポリアリレート系光拡散積層フィルムについて、実施形態を挙げながら詳細に説明する。ただし、これら実施形態は、本発明に係る好適な適用例であって本発明を限定するものではない。なお、この明細書において「樹脂」とは、専ら高分子化合物を意味しているものである。
【0026】
本発明の第1の実施態様である図1には、光拡散フィルム層1の片面に光触媒層2を有し、もう一方の面に粘着層3を有したポリアリレート系光拡散積層フィルムが示されている。光拡散フィルム層1はポリアリレート系樹脂の中に光拡散材が分散したものである。
【0027】
本発明の第2の実施態様である図2には、光拡散フィルム層1の両面にハードコート層4・4を有し、さらにその最表面の片面に光触媒層2を有し、もう一方の最表面に粘着層3を有したポリアリレート系光拡散積層フィルムが示されている。
【0028】
本発明の第3の実施態様である図3には、光拡散フィルム層1の片面にハードコート層4を有し、さらにその最表面に粘着層3を有し、光拡散フィルム層1のもう一方の面に光触媒層2を有したポリアリレート系光拡散積層フィルムが示されている。
【0029】
本発明の第4の実施態様である図4には、光拡散フィルム層1の片面にハードコート層4を有し、さらにその最表面に光触媒層2を有し、光拡散フィルム層1のもう一方の面に粘着層3を有したポリアリレート系光拡散積層フィルムが示されている。
【0030】
(1:光拡散フィルム層)
本発明の光拡散フィルム層を構成するポリアリレート系樹脂は、特に制限されるものではなく、光学用途に用いることができるポリアリレートとして公知のものを使用することができる。ポリアリレート系樹脂は、光拡散フィルム層のベースとして多用されていたポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートフィルムよりも、耐摩耗性、低複屈折が優れており、特に光源からの発熱が大きいLED光源に使用するのに十分な耐熱性がある。
【0031】
ポリアリレート系樹脂は二価フェノールと芳香族ジカルボン酸との重合物からなる芳香族ポリエステル樹脂であり、このようなポリアリレート系樹脂には、例えばユニチカ社製U−100、P−1001、P−1001Aなどが存在する。
【0032】
光拡散フィルム層としてポリアリレート系樹脂に添加されて分散する光拡散材は、シリコーン系微粒子が好ましい。例えば信越化学工業社製シリコーンパウダーX−52−7077、KSP−300、KMP−597、X−52−1621などが使用できる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
シリコーン系微粒子からなる光拡散材の平均粒径は0.05μm以上10μm以下が好ましく、さらには0.1μm以上8μm以下が好ましい。平均粒径を0.1μm以上5μm以下とすることで、十分な光の透過率と、製造過程における十分な耐傷性、十分な光拡散能を発現するとともに、より均一に形成することができる。
【0034】
シリコーン系微粒子からなる光拡散材の添加量は、100質量部のポリアリレート系樹脂(固形分)に対して、1質量部以上300質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは5質量部以上200質量部以下とする。微粒子の添加量をこの範囲とすることによって、LED光源の光拡散性と光透過率との両立が可能となる。添加量を1質量部以下では、LED光源の光拡散性が十分に得られず、300質量部以下とすると、LED光源の光透過率を十分に得ることができず、フィルムが非常に脆くなってしまうきらいがある。
【0035】
光拡散フィルム層のポリアリレート系樹脂と、光拡散材であるシリコーン系微粒子との屈折率差が0.01以上0.3以下であることが好ましい。屈折率差が0.01以上0.3以下とすることで、LED光源の光拡散性と光線透過率を向上することができる。
【0036】
光拡散フィルム層は、ポリアリレート系樹脂に光拡散材を添加混練し分散させたものを製膜して得られる。製膜には、経済性の点から溶融押し出し成型法が好ましい。溶融押し出し成型法で実施する場合の、その成型方法等は特に制限されない。例えばTダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。また、未延伸フィルムでもよいが、溶融押し出し成型中又は成型後に120〜160℃の温度範囲内で、少なくとも一方向に延伸されてなることが好ましい。この延伸操作によりフィルムの耐熱性や光学特性の向上を図ることができる。
【0037】
光拡散フィルム層の厚みは、目的に応じて任意で選べるが、LED照明用途としては150μm以上であることが好ましい。より好ましくは、200μm以上である。さらにはポリアリレート系光拡散積層フィルムの剛性が要求される用途においては250μm以上とすることが好ましい。なお、光拡散フィルム層は、他の層(ハードコート層、光触媒層、粘着層)のいずれの層よりも厚い。
【0038】
(2:光触媒層)
本発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムにおける光触媒層としては、光触媒粒子と水溶性バインダーからなる光触媒塗工液を塗布して乾燥硬化した光触媒膜が好適である。ポリアリレート系光拡散積層フィルムに防汚効果をもたらす。
【0039】
光触媒粒子としては、現在上市されている酸化チタン系、酸化タングステン系、酸化亜鉛系、酸化ニオブ系等、n型半導体である金属酸化物の結晶微粒子が使用できる。例えば、アナターゼ型の二酸化チタン(TiO2)、ルチル型の二酸化チタン(TiO2)、三酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、Gaドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ(Nb25)等が使用し得る。中でも、可視光活性の高いものとしてこれら金属酸化物の結晶内に窒素、硫黄、リン、炭素等をドーピングしたもの、又は表面に銅、鉄、ニッケル、金、銀、白金、炭素等を担持したものが好適に使用し得る。更に詳しくは、白金を担持したルチル型酸化チタン、鉄を担持したルチル型酸化チタン、銅を担持したルチル型酸化チタン、水酸化銅を担持したルチル型酸化チタン、金を担持したアナターゼ型酸化チタン、白金を担持した三酸化タングステン等である。更に、該微粒子の一次粒子径が微細なもの、即ち一次粒径が1〜100nmの範囲、好ましくは1〜50nmの範囲にあるものが好適に使用される。一次粒径が100nmより大きいと塗膜の透明度が低下し外観を損ねることがある。
【0040】
このような、可視光活性が高い光触媒微粒子としては、MPT−623(可視光応答光触媒、粉体状、白金を担持したルチル型二酸化チタン;石原産業(株)製)、MPT−625(可視光応答光触媒、粉体状、鉄を担持したルチル型二酸化チタン;石原産業(株)製)等が挙げられる。
【0041】
光触媒塗工液の水溶性バインダーは、水、塩基性化合物、および極性溶媒中で、下記式(1)で示される珪素アルコキシド、またはその縮合物を加水分解する手法で好適に得られる。
Si(OR)(OH)4−X・・・(1)
【0042】
式(1)中Rは、独立に水素原子または官能基である。Rは互いに同一であっても異なっていても良い。官能基Rとして具体的には、例えば、水素原子(H)、メチル基(CH)、エチル基(CHCH)、プロピル基(CHCHCH)、イソプロピル基(CH(CH)CH)、ブチル基(CHCHCHCH)、アルコキシシリル基(Si(OCHCH))などが挙げられる。
【0043】
これらのうち、テトラメトキシシラン(上記Rが全てメチル)、テトラエトキシシラン(上記Rが全てエチル)が特に好ましい。
【0044】
光触媒塗工液の水溶性バインダーに含まれ、珪素アルコキシドの加水分解に使用される塩基性化合物としては、下記式(2)で示される
−NH4−X・・・(2)
【0045】
式(2)中Rは独立に水素原子または官能基である。Rは互いに同一であっても異なっていても良い。官能基Rとして具体的には、例えば、水素原子(H)、メチル基(CH)、エチル基(CHCH)、プロピル基(CHCHCH)、イソプロピル基(CH(CH)CH)、ブチル基(CHCHCHCH)、メチロール基(CHOH)、エチロール基(CHCHOH)が挙げられる。なお、水素原子以外の官能基で置換され、下記式(3)で示す4級アミンの形態を取る。
+-・・・(3)
【0046】
式(3)のX-で表される対アニオンとの塩類になっていても良い。具体的に、Xとしてヒドロキシ基(OH)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)等が挙げられる。これらのうち、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドが好適に使用できる。
【0047】
水溶性バインダーの一部で、ケイ素アルコキシド、塩基性化合物と共に反応に供される極性溶媒として、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、グリコール類(例えば、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、またはこれらの酢酸エステル類)、ケトン類(例えば、アセトン、ダイアセトンアルコール、アセチルアセトン、メチルエチルケトン)が挙げられる。上記極性溶媒は、1種単独又は2種以上を併用してもよい。これらのうち、アセトンが好適に使用できる。
【0048】
ケイ素アルコキシド、塩基性化合物、極性溶媒、水を混合・攪拌し、得られた生成物を水にまたはアルコールに溶解し、酸添加またはイオン交換によってpH=5〜8に調整したものを、バインダー液として使用し、ケイ素アルコキシドの加水分解がなされる。
【0049】
光触媒塗工液は、光触媒粒子が分散され、かつ上記条件にて調製した加水分解シリケートが溶解または分散している。あらかじめ溶媒に光触媒粒子を分散させた光触媒分散液を調製し、混合撹拌することで調製される。このような光触媒塗工液は、具体的には信越化学工業社製 TA−801−G、TA−802−G、TA−803−Gなどがある。
【0050】
光触媒塗工液中の光触媒固形分濃度は、0.01〜10質量%であり、好ましくは0.1〜5質量%である。光触媒固形分濃度が0.01質量%より少ないと光触媒による防汚活性が低下することがあり、10質量%より多いと透明性が低下し外観を損ねることがある。また、塗工液中の光触媒と加水分解シリケートの固形分濃度は、光触媒固形分質量:シリケート固形分質量比として、0.05:99.5〜99.5:0.05であり、好ましくは5:95〜95:5である。光触媒質量比が5より少ないと十分な親水性・酸化分解による防汚活性が得られず、また95より多いと膜の強度が低く剥離、割れが生じることがある。
【0051】
光触媒塗工液が塗布される基材は、薄膜を形成することができる限り、特に制限されない。光触媒塗工液を基材に塗布するには、従来公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、印毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法、インクジェット法等を利用して塗膜を基材上に形成させることができる。
【0052】
形成される塗膜の膜厚は、1〜500nm、特には、50〜300nmの範囲にあることが好ましい。膜厚が薄すぎると強度が低い場合があり、また厚すぎると割れが生じる場合がある。
【0053】
光触媒塗工液を塗布して塗膜を乾燥硬化させるためには、50〜200℃の温度範囲で1〜120分間処理することが好ましく、特には、60〜110℃の温度範囲で5〜60分間処理することが好ましい。
【0054】
(3:粘着層)
LED光源にポリアリレート系光拡散積層フィルムを貼り付けるための粘着層の材としては、シリコーン粘着材が好適である。
【0055】
シリコーン粘着材としては、一般的に使用されている加熱硬化型の鎖状のオルガノポリシロキサンと、固体状のシリコーンレジンからなる粘着材を用いることができる。加熱硬化型のシリコーン粘着材としては、有機過酸化物硬化型と白金付加硬化型があるが、基材として延伸性のポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルムを用いる場合、熱により変形することがあるため、比較的低温で硬化することのできる白金付加硬化型のシリコーン粘着材を用いることが特に好ましい。シリコーン粘着材の硬化条件としては、通常80〜150℃である。
【0056】
有機過酸化物硬化型のシリコーン粘着材は、鎖状のオルガノポリシロキサンと(R3SiO1/2)単位と(SiO2)単位(Rは置換もしくは非置換の一価炭化水素基)からなるオルガノポリシロキサン共重合体レジン((SiO2)単位に対する(R3SiO1/2)単位のモル比が0.5〜1.5)とのオルガノポリシロキサン混合物、及び架橋硬化剤としてのベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物を含有するものである。白金付加硬化型のシリコーン粘着材は、鎖状のビニル基含有オルガノポリシロキサン、前記オルガノポリシロキサン共重合体レジン、及び架橋硬化剤としてケイ素結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、触媒として塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、白金のビニルシロキサンとの錯体等の白金族金属系触媒を含有するものである。
【0057】
このようなシリコーン系粘着材としては、例えば信越化学工業社製 X−40−3270/CAT−PL−50T=100/0.5、X−40−3229/CAT−PL−50T=100/0.5、X−40−3323/CAT−PL−50T=100/0.25などがある。
【0058】
シリコーン粘着材の層の厚さは、5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
【0059】
(4:ハードコート層)
本発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムに設けられるハードコート層は、シリコーン系ハードコート材が好ましい。形成の作業性の面から、光硬化性シリコーン系ハードコート材であることがさらに好ましい。光反応性基含有シロキサン化合物、(メタ)アクリル基含有化合物、ラジカル系光重合開始剤から形成される。具体的には、信越化学工業社 KP-1001、X−12−2437などがある。この塗布液からなる塗布膜を光拡散フィルム層上にコーティングし、UVランプ照射により硬化させ、ハードコート層を得る。
【0060】
ハードコート層の形成方法は特に制限されるものではなく、公知の塗布機を目的に応じて適宜選択して塗布すればよい。例えば、リバースロールコータ、ワイヤーバー、カーテンコータによる塗布が挙げられる。形成された被膜の膜厚は、0.1〜50μm、特に0.5〜30μmの範囲にあることが好ましい。膜厚が薄すぎると耐摩耗性が低下する場合があり、また厚すぎると耐クラック性が低下する場合がある。
【0061】
ハードコート層を硬化させるための光源としては、通常、200〜450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯等を使用することができる。照射量は特に制限されないが、10〜5,000mJ/cm2、特に20〜2,000mJ/cm2であることが好ましい。硬化時間は、通常0.5秒〜2分、好ましくは1秒〜1分である。
【0062】
本発明のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、耐傷性を求めない場合には、ハードコート層を必ずしも備える必要はないし、光拡散フィルム層の片面にのみ備えるなど任意である。
【0063】
ポリアリレート系光拡散積層フィルムの各層には、さらに添加剤を含んでもよい。さらに別の層を設けて、設けた層に添加剤を含ませてもよい。また、複数の層に含ませてもよい。中でも、光拡散フィルム層のポリアリレート系樹脂に含ませることが好ましい。他の層よりも厚いポリアリレート系樹脂に含有させることにより、添加剤濃度が低くても十分な含有効果が得られるからである。例えば添加剤として後述のように紫外線吸収剤を用いた場合には、ポリアリレート系樹脂に含ませることにより、紫外線吸収剤の濃度が低くても十分な紫外線吸収効果が得られるからである。
【0064】
第1の添加剤としては、紫外線吸収剤があり、第2の添加剤としては、光や熱によって生じる酸化を防止するための酸化防止剤やHALS(ヒンダードアミン光安定剤,Hinderd Amine Light Stabilizer)がある。第1の添加剤と第2の添加剤とは互いに異なる層に含ませてもよいし、同一の層中に含ませてもよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限を受けるものではない。本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
なお、実施例で採用した測定・評価方法は次の通りである。また、実施例中で「部」とあるのは断りのない限り「質量部」を意味し、「%」とあるのは断りのない限り「質量%」を意味する。
【0067】
1.透過光の拡散度の測定
自動変角光度計(GP−200:株式会社村上色彩研究所製)を用いて測定を行う。
透過測定モード、光線入射角:60°、受光角度:−90°〜90°、SENSITIVITY:150、HIGH VOLTON:500、フィルター:ND10使用、光束絞り:10.5mm(VS−1 3.0)、受光絞り:9.1mm(VS−3 4.0)及び変角間隔0.1度の条件で測定し得られる透過ピークの立ち上がりの開始角度より立下りの終了角度までの角度幅(度)及びピーク高さを求める。角度幅が拡散度であり、ピーク高さが透過度である。
【0068】
2.全光線透過率
日本電色工業株式会社製ヘーズ測定器「NDH−2000」を用いて、JIS K 7105−1981に準拠して測定した。
【0069】
3.フィルム外観
フィルムの表面を目視で観察して、うねり状模様の有無などの外観不良の有無で判定した。該外観不良のないものを良、あるものを不良とした。
【0070】
4.防汚性の確認
防汚性は、10μmol/Lに調整したメチレンブルー水溶液を、5cm×5cmに切り出した拡散フィルム上に1mL塗り広げ、試料表面での光量が10000Luxとなるように白色LEDの光を3時間照射したのち、青色が消色したものを○、変化の見られなかったものを×とした。
【0071】
(実施例1)
ポリアリレート樹脂(ユニチカ社製、U−100)100質量部、シリコーンパウダー(信越化学工業社製、X−52−7077;平均粒子径5μm)10質量部を予め2軸の押し出し機で溶融押し出しすることにより得た混練されたポリアリレート系樹脂組成物を、60mmφ単軸押出機(L/D;22)内で樹脂温度350℃にて溶融混合してTダイで押出した後、130℃のキャスティングロールで冷却することにより未延伸シートを得た。次いでこの未延伸シートを縦延伸機のロール周速差を利用して延伸温度120℃で4倍に延伸して厚み250μmのポリアリレート系光拡散フィルムを得た。このポリアリレート系光拡散フィルムの片面にワイヤーバー法により溶媒に光触媒粒子が分散され、かつ水溶性シリケートバインダーを含有している光触媒塗工液(信越化学工業社製、TA−801−G)を塗布し、100℃のオーブン中で30分間熱処理し、厚さ200nmの光触媒層を得た。ポリアリレート系光拡散フィルムのもう一方の面にはワイヤーバー法によりシリコーン系粘着材(信越化学工業社製、X−40−3270/CAT−PL−50T=100/0.5)を塗布し、130℃のオーブン中で2分間熱処理し、厚さ30μmの粘着層を得た。
【0072】
このようにして得られた実施例1のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、図1に示す断面を持ち、その測定値、特性を表1に示す。このポリアリレート系光拡散積層フィルムは、LED光源の隠蔽性は良好で、かつ、透過度、拡散度、全光線透過率いずれも優れており、さらにフィルムの外観が良好であり高品質であった。
【0073】
(実施例2)
実施例1で調製した一軸延伸フィルムを、さらに横方向に3倍に延伸すること以外は実施例1と同様の工程でポリアリレート系光拡散積層フィルムを得た。このようにして得られた実施例2のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、図1に示す断面を持ち、その測定値、特性を表1に示す。このポリアリレート系光拡散積層フィルムはLED光源の隠蔽性は良好で、かつ、透過度、拡散度、全光線透過率いずれも優れており、さらにフィルムの外観が良好であり高品質であった。
【0074】
(実施例3)
実施例1で調製した一軸延伸フィルムの両面にワイヤーバー法により光硬化型シリコーン系ハードコート材(信越化学工業社、KP-1001)を塗布し、高圧水銀灯にて375nmの波長の光を1200mJ/cm2、1分照射し、厚さ3μmのハードコート層を得た。さらにこのポリアリレート系光拡散フィルムの片面にワイヤーバー法により溶媒に光触媒粒子が分散され、かつ水溶性シリケートバインダーを含有している光触媒塗工液(信越化学工業社製、TA−801−G)を塗布し、100℃のオーブン中で30分間熱処理し、厚さ200nmの光触媒層を得た。ポリアリレート系光拡散フィルムのもう一方の面にはワイヤーバー法によりシリコーン系粘着材(信越化学工業社製、X−40−3270/CAT−PL−50T=100/0.5)を塗布し、130℃のオーブン中で2分間熱処理し、厚さ30μmの粘着層を得た。このようにして得られた実施例3のポリアリレート系光拡散積層フィルムは、図2に示す断面を持ち、その測定値、特性を表1に示す。このポリアリレート系光拡散積層フィルムはLED光源の隠蔽性は良好で、かつ、透過度、拡散度、全光線透過率いずれも優れており、さらにフィルムの外観が良好であり高品質であった。
【0075】
(比較例1)
実施例1の方法において、シリコーンパウダーをアクリルパウダー(綜研化学社製、ケミスノー MX−500;平均粒子径5μm)10質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で光拡散フィルムを得た。得られた比較例1のポリアリレート系光拡散積層フィルムの特性を表1に示す。このポリアリレート系光拡散積層フィルムは、拡散度は優れているが、全光線透過率が良くなかった。
【0076】
(比較例2)
厚み250μmのポリアリレートフィルムの片面にアクリル樹脂ビーズよりなる拡散層を塗工法で積層することにより光拡散フィルムを得た。得られた比較例2の光拡散フィルムの特性を表1に示す。この光拡散フィルムはいずれもが拡散度比が低く、かつ透過度と拡散度のバランスが良くなかった。
【0077】
(比較例3)
厚み250μmのポリアリレートフィルムの片面にポリスチレンポリマービーズよりなる拡散層を塗工法で積層することにより光拡散フィルムを得た。得られた比較例3の光拡散フィルムの特性を表1に示す。この光拡散フィルムはいずれもが拡散度比が低く、かつ透過度と拡散度のバランスが良くなかった。また、表面にうねり状模様の不良が観察された。
【0078】
【表1】

【符号の説明】
【0079】
1:光拡散フィルム層
2:光触媒層
3:粘着層
4:ハードコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層と、ポリアリレート系樹脂の中にシリコーン系微粒子からなる光拡散材が分散したフィルム層と、粘着層とを有し、該光触媒層が一方の面の最外層であり、該粘着層がもう一方の面の最外層であることを特徴とするポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項2】
前記フィルム層と前記光触媒層との間、および前記フィルム層と前記粘着層との間の、少なくとも一方の間にハードコート層を有することを特徴とする請求項1に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層が、シリコーン系ハードコート材よりなることを特徴とする請求項2に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項4】
前記シリコーン系ハードコート材が、光硬化性シリコーン系ハードコート材であることを特徴とする請求項3に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項5】
前記シリコーン系微粒子からなる光拡散材が、平均粒径0.05μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項6】
前記ポリアリレート系樹脂と前記シリコーン系微粒子との屈折率差が、0.01以上0.3以下であることを特徴とする請求項5に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項7】
前記粘着層が、シリコーン系粘着材よりなることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項8】
前記光触媒層が、光触媒粒子と水溶性バインダーを含む塗工液を塗布して形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項9】
前記光触媒粒子が、n型半導体性を有する金属酸化物の結晶微粒子の上に、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、銀、スズ、タングステン、白金、金からなる群から選ばれる金属、金属の酸化物、または/および金属の化合物を担持した光触媒粒子であることを特徴とする請求項8に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項10】
前記水溶性バインダーが、加水分解性ケイ素化合物を、水、塩基性化合物および極性溶媒の混合溶剤中で加水分解した化合物を含有することを特徴とする請求項8に記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のポリアリレート系光拡散積層フィルムの全光透過率が、60%以上であることを特徴とするポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項12】
LED照明に使用されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。
【請求項13】
LED表示装置に使用されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のポリアリレート系光拡散積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7782(P2013−7782A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138683(P2011−138683)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】