説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法及び該樹脂組成物を用いた成形品

【課題】高い剛性と高い靭性とを両立したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造できる方法を提供し、また、当該製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いた成形品を提供する。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位となり得る構造を有する有機化合物(a1)を層状化合物(a2)の層間にインターカレートされた化合物(A)を原料の一部として加えることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法により、ポリアリーレンスルフィド樹脂中に層状化合物を微分散させたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状化合物を用いたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関する。また、当該製造方法により得られた樹脂組成物を用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、剛性、機械的特性を有しており、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして、電気・電子部品、自動車部品、機械部品、構造部品等に広く使用されている。
【0003】
近年、ポリアリーレンスルフィド樹脂の用途が拡大し、金属代替として重要構造部材への適用が検討されている。金属を代替するためには、高い機械的物性が要求され、例えば、高い剛性と高い靭性との両立は、最も強い要求の一つである。しかし、一般的に剛性と靭性は相反する特性であり、例えば、繊維状強化材等の無機フィラーを添加することで剛性を高めた場合は、一方で靭性を大幅に損ない、脆くなるという欠点があった。そこで、この相反する特性の両立を達成するため、従来の繊維状強化材等の無機フィラーを添加するのではなく、ナノサイズのフィラー等を樹脂中に均一分散させたナノコンポジット化が提案されている。ナノコンポジット化が実現できれば、従来の繊維状強化材等の無機フィラーを添加する場合と比較して、大幅に少ないフィラー充填量で弾性率の向上が可能であるため、樹脂組成物中の樹脂の含有比率が高くなり、樹脂が本来有する靭性を大幅に低下させないことが期待される。
【0004】
そこで、ナノコンポジット化を試みた例としては、例えば、陽イオン交換性層状珪酸塩の層間に有機オニウム塩をインターカレートして層間距離の広げた状態にし、樹脂中に層状珪酸塩を微細なサイズで分散させることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。しかしながら、この方法では、層状珪酸塩の層間距離は広がるものの、あくまでも層状珪酸塩の形態を維持しているため、無機フィラーはナノサイズには至っていなかった。このように、ナノコンポジット化を達成した例はほとんど無く、特にポリアリーレンスルフィド樹脂を用いた樹脂組成物でナノコンポジット化に成功した事例は無いのが現状であり、ポリアリーレンスルフィド樹脂とナノサイズの無機フィラーとのナノコンポジット化の達成が課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−331092号公報
【特許文献2】特開2000−160011号公報
【特許文献3】特開2003−96300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高い剛性と高い靭性とを両立したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造できる方法を提供し、また、当該製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いた成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明を完成した。すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位となり得る構造を有する有機化合物(a1)を層状化合物(a2)の層間にインターカレートされた化合物(A)を原料の一部として加えることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法及び当該製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び該組成物を用いた成形品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、高い剛性と高い靱性とを両立し、非常に優れた機械的特性を有するので、従来は金属が用いられていた部材に用いることができるため、軽量化や腐食防止を図ることができる。このような部材の具体的なものとして、ギア、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、プーリー、ローラー、コロ、シャフト、関節、軸、軸受け及び、ガイド、シャーシ、トレー等の機械の機構部品、ポンプ、バルブ、継手、流量計等の流体用配管部材及び計測機器、チェーン、コンベア等の工業部品、ガスケット、パッキン等のシール部材などが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程としては、下記(1)〜(4)の方法の工程が挙げられる。
(1)N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒などの非プロトン性極性有機溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを反応させる方法。
(2)p−ジクロロベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法。
(3)p−ジクロロベンゼンを極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウム又は硫化水素と水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法。
(4)p−クロロチオフェノールの自己縮合による方法。
【0010】
これらの中でも(1)のN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性有機溶媒中で硫化ナトリウムを代表とするスルフィド化剤とp−ジクロロベンゼンを代表とするポリハロ芳香族化合物を反応させる方法が反応の制御が容易であり、工業的生産性に優れる点から好ましい。
【0011】
ここで用いられるポリハロ芳香族化合物は、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド等のポリハロ芳香族化合物、及びこれらのポリハロ芳香族化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を置換基として有する化合物が挙げられる。また、これらのポリハロ芳香族化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが好ましい。
【0012】
前記ポリハロ芳香族化合物の中でも、本発明では線状の高分子量PAS樹脂を効率的に製造できることから、2官能性のジハロ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状のPAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物とともに、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、又は1,3,5−トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0013】
その他、ポリハロ芳香族化合物を2種以上併用して、2種以上の異なる重合単位を含む共重合体を得ることもでき、例えば、p−ジクロルベンゼンと、4,4’−ジクロロベンゾフェノン又は4,4’−ジクロロジフェニルスルホンとを組み合わせて併用することで耐熱性に優れたPAS樹脂が得られるので特に好ましい。
【0014】
本発明におけるポリハロ芳香族化合物の使用量は、得られるPAS樹脂の機械的強度が優れたものなることから、使用するスルフィド化剤中の硫黄原子1モル当たり0.8〜1.3モルの範囲が好ましく、0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0015】
本発明において使用するスルフィド化剤は、特に制限されるものではないが、アルカリ金属硫化物の無水物又は水和物が好ましい。また、アルカリ金属硫化物は、水溶液としても用いることができる。アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属硫化物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらのアルカリ金属硫化物の中でも、反応性に優れる点から硫化ナトリウムと硫化カリウムが好ましく、中でも硫化ナトリウムが特に好ましい。
【0016】
なお、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、アルカリ金属チオ硫酸と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても構わない。
【0017】
また、これらアルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応容器中で事前に反応させることによって得られるが、別途反応容器外で調整したものを用いてもよい。
【0018】
前記アルカリ金属水硫化物は、無水物であっても水和物であっても構わない。また、アルカリ金属硫化物は、水溶液としても用いることができる。アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0019】
前記アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属水酸化物の中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、さらにその中でも水酸化ナトリウムが特に好ましい。これらのアルカリ金属水酸化物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物はともに、固体状態、液体状態、溶融状態のどの形態で反応に用いてもよく、特に制限はない。アルカリ金属水酸化物の使用量は、アルカリ金属硫化物の生成が促進されることから、アルカリ金属水硫化物1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において反応溶媒として用いる上記の非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシルピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類等が挙げられる。これらの非プロトン性極性有機溶媒は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの非プロトン性極性有機溶媒の中でも、N−メチル−2−ピロリドンはスルフィド化剤の反応性を向上させる点から特に好ましい。
【0021】
本発明の製造方法における非プロトン性極性有機溶媒の使用量は、使用する溶媒の種類及び反応系内の溶媒に対する水分量によって異なるが、反応系を撹拌可能な状態に維持するためには、重合に用いる有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤中の硫黄原子1モル当たり1.0〜6.0モルの範囲であることが好ましく、2.5〜4.5モルの範囲であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の製造方法においては、必要に応じて重合反応を行う前に、例えば、非プロトン性極性有機溶媒とアルカリ金属硫化物、又はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を反応容器に加え、昇温しながら反応系内の水を反応系外に留去して脱水を行った後に反応容器を密閉し、ポリハロ芳香族化合物を仕込んで重合反応を行うことが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、上記のポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程で、ポリアリーレンスルフィド樹脂の原料であるp−ジクロロベンゼン等と反応し、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位となり得る構造を有する有機化合物(a1)を層状化合物(a2)の層間にインターカレートされた化合物(A)を原料の一部として加える。製造工程での前記化合物(A)を加える時期としては、特に限定されないが、層状化合物(a2)の層と共有結合又はイオン結合を形成し得る官能基がポリマー分子鎖中に非局在化することにより、ナノサイズの層状化合物を樹脂中に均一分散させる効果がより顕著となる点から、p−ジクロロベンゼンと同時に加えることが好ましい。
【0024】
前記有機化合物(a1)としては、−SNa基や−ONa基を有する化合物、ハロゲン基を有する化合物等が挙げられるが、ハロゲン基を有するものが好ましい。また、ハロゲン基を有するものとしては、耐熱性に優れることから芳香族化合物が好ましい。特に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の合成反応である−SNaと−Clとの脱NaClの反応性が高いことから、ベンゼン環にハロゲン基(X)及び電子吸引基を有する有機化合物(a1−1)、又は、ベンゼン環にハロゲン基(X)及びハロゲン基(X)と同一又は異なるハロゲン基(X’)を有する有機化合物(a1−2)が好ましい。また、前記有機化合物(a1−2)は、ベンゼン環にハロゲン基(X)及びハロゲン基(X’)の他に電子吸引基を有していてもよい。なお、電子吸引基としては、例えば、ニトロ基、シアノ基、アセチル基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0025】
前記層状化合物(a2)としては、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、ノントロナイト、サポナイト、バーミキュライト、カオリン、アタパルジャイト等の陽イオン性粘土;層状複水酸化物であるハイドロタルサイト等の陰イオン性粘土などが挙げられる。
【0026】
前記層状化合物(a2)としては、その層間にインターカレートされた前記有機化合物(a1)を250℃以上の高温でも保持できることから陰イオン性粘土が好ましく、中でも層状複水酸化物であるハイドロタルサイトが好ましい。
【0027】
前記層状化合物(a2)の層間に前記有機化合物(a1)をインターカレートするために、前記有機化合物(a1)は、層状化合物(a2)の層と共有結合又はイオン結合を形成し得る官能基を有するものが好ましい。例えば、層状化合物(a2)の層とイオン結合を形成し得る官能基としては、層状化合物(a2)が陽イオン性粘土である場合、アンモニウムイオン基(−NH)、ホスホニウムイオン基(−PH)、スルホニウムイオン基(−R;2つのRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基)等のイオン性基が挙げられる。また、層状化合物(a2)が陰イオン性粘土の場合、カルボン酸金属塩(−COOM;Mは金属)、スルホン酸金属塩(−SOM;Mは金属)等のイオン性基が挙げられる。カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩の金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。これらのカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩の中でも、前記層状化合物(a2)の層間に前記有機化合物(a1)をインターカレートさせやすいことから、カルボン酸ナトリウム塩(−COONa)、スルホン酸ナトリウム塩(−SONa)が好ましい。
【0028】
また、前記有機化合物(a1)としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化1】

(式中、Xはハロゲン基、X’はXと同一又は異なるハロゲン基、Eは電子吸引基、Aは前記層状化合物(a2)の層と共有結合又はイオン結合を形成し得る官能基を有する有機基を表す。また、mは0又は1であり、nはmが0のときは1〜4の整数であり、mが1のときは0〜3の整数である。)
【0030】
前記一般式(1)で表される化合物中のハロゲン基であるX及びX’としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造が容易であることから、X及びX’がともに塩素であることが好ましい。また、X及びX’がともに塩素で、かつ前記一般式(1)中のm、すなわちX’の数が1であれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程において、前記化合物(A)がポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位として反応し、ポリアリーレンスルフィド樹脂のポリマー鎖の中間に取り込まれるため好ましい。また、この場合、2つ目の塩素が電子吸引性基として働くため、Eの電子吸引基がなくても(nが0)、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程において、前記化合物(A)がポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位として反応がスムーズに進行する。さらに、反応性を高める場合は、前記一般式(1)で表される化合物中に、電子吸引基Eとしては、ニトロ基、シアノ基、アセチル基、カルボキシル基を導入する好ましい。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物中の有機基Aが有する前記層状化合物(a2)の層とイオン結合を形成し得る官能基としては、上記の通り、層状化合物(a2)が陽イオン性粘土である場合、アンモニウムイオン基、ホスホニウムイオン基、スルホニウムイオン基等のイオン性基が挙げられる。また、層状化合物(a2)が陰イオン性粘土の場合、カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩等のイオン性基が挙げられる。特に、前記層状化合物(a2)が層状複水酸化物であるハイドロタルサイトの場合、前記層状化合物(a2)の層間に前記有機化合物(a1)をインターカレートするのが容易であり、かつインターカレートされた状態を250℃以上の高温でも保持できることから、有機基Aが有する前記層状化合物(a2)の層とイオン結合を形成し得る官能基としてカルボン酸金属塩が好ましく、カルボン酸ナトリウムが特に好ましい。有機基A中のこれらの官能基は、有機基Aが前記一般式(1)の芳香環と結合している末端と反対側の末端にあることが好ましい。
【0032】
また、前記有機化合物(a1)が前記層状化合物(a2)の層間にインターカレートした後に、前記一般式(1)の芳香環が前記層状化合物(a2)の外部にあると、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位として反応しやすいことから、有機基Aは、ある程度の鎖長を有するものが好ましく、鎖長を伸ばすために、有機基A中にアルキレン基を含むものがより好ましい。前記アルキレン基は、炭素原子数2〜18のものが好ましく、炭素原子数3〜12のものがより好ましく、炭素原子数3〜6のものがさらに好ましい。
【0033】
前記有機基A中のアルキレン基は、前記一般式(1)の芳香環と二価連結基を介して結合していても、直接結合していても構わないが、前記有機化合物(a1)の合成が容易な点から、芳香環と二価連結基を介して結合したものが好ましい。この二価連結基としては、例えば、−O−、−S−、−SO−、−COO−、−NH−、−NR−(Rはアルキル基を表す。)等が挙げられる。
【0034】
前記有機化合物(a1)のより具体的な例として、下記式(1−1)及び(1−2)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【化2】

(式中、Yは炭素原子数2〜18のアルキレン基を表す。)
【0036】
前記有機化合物(a1)の中でも好ましい例として、下記式(1−1−1)、(1−1−2)、(1−2−1)及び(1−2−2)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化3】

【0038】
前記層状化合物(a2)の層間に前記有機化合物(a1)をインターカレートする方法としては、有機化合物(a1)を溶解させた温水に層状化合物(a2)を添加、分散させ、所定の時間攪拌した後、生じた沈殿を繰り返し洗浄し、乾燥する方法が簡便である。ただし、層状複水酸化物であるハイドロタルサイトの場合は、層間に炭酸イオンが強く吸着しているためイオン交換による有機化処理が難しい。そこで、予め熱処理により層間水の脱離と−CO2−の分解・脱COを行い、前駆体(固溶体)を形成させる。その後、この前駆体を温水中で分散させ上述の方法を行うことにより、層構造を再生しながら、有機化合物(a1)を前記層状化合物(a2)の層間にインターカレートすることができる。
【0039】
また、このポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程での反応温度は、180〜300℃の範囲が好ましく、200〜280℃の範囲が特に好ましい。重合反応は定温で行うこともできるが、段階的にまたは連続的に昇温しながら行うこともできる。
【0040】
さらに、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の前記化合物(A)の分散性が良好となり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の高い剛性と高い靱性とを両立できることから、本発明の製造方法で用いる前記化合物(A)の使用量は、当該製造方法によって得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の灰分が0.5〜20質量%となる範囲であることが好ましく、1〜10質量%となる範囲であることがより好ましい。なお、本発明での灰分は、樹脂組成物を空気環境下において550℃で3時間処理した後に測定したものである。
【0041】
本発明の製造方法において、前記化合物(A)中の層状化合物(a2)の層間にインターカレートされた有機化合物(a1)がポリアリーレンスルフィド樹脂のモノマとして反応し、層状化合物(a2)の各層に共有結合又はイオン結合で結合した有機化合物(a1)が、別々のポリアリーレンスルフィド樹脂のポリマー鎖を形成しながら反応が進行することで、層状化合物(a2)の各層が剥がれて単層となり、非常に薄いナノサイズの無機フィラーとして、ポリアリーレンスルフィド樹脂中に分散できる。したがって、本発明の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ナノコンポジット化を図ることができるため、高い剛性と高い靱性とを両立が可能となる。
【0042】
本発明の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物には、必要に応じて、離型剤、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤等の添加剤を配合してもよい。また、本発明の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の剛性と靭性を損なわない範囲で、繊維状または非繊維状の無機フィラー、エラストマーを配合してもよい。
【0043】
また、本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、その後、成形品とするためにペレット形状とすることが好ましい。該樹脂組成物をペレット形状とするには、例えば、得られた樹脂組成物を押出機等で溶融混練後、ストランド状に押し出して、カットすることで可能である。
【0044】
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いた成形品を作製する方法としては、上記のようにして得た樹脂ペレットを、射出成形、圧縮成形、押出成形、中空成形、発泡成形、トランスファー成形等の各種成形機を用いて成形する方法が挙げられる。また、金型内にインサートする金属を先に設置して、その後樹脂を射出成形することで、金属インサート成形品を成形することもできる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお、後述する各測定の方法は下記の通りである。
【0046】
(GC−MSの測定)
ガスクロマトグラフ(GC)として株式会社島津製作所製「GC−2010」、質量分析(MS)検出器として同社製「QP2010」を用いたGC−MS測定装置を用いて分析した。
【0047】
(FT−IRの測定)
パーキンエルマー社製「Spectrum One」を用いて、粉体のまま全反射法(ATR法)により、分解能4cm−1、積算回数16回にて測定した。
【0048】
(広角X線回折の測定)
株式会社リガク製「RINT ULTAMA+」を用いて、測定範囲2°〜40°、測定ステップ0.02°、測定速度2°/分、測定波長0.1542nmの条件で測定した。明確なピークを有する場合に、ブラッグの式を用いて層間距離を算出した。
【0049】
(溶融粘度の測定法)
得られたポリマーの溶融粘度(η)は、フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用い、300℃、1.96MPa、L/D=10で6分間保持した後に測定した値である。
【0050】
(合成例1)4−{(3,5−ジクロロフェニル)−N−メチルアミノ}酪酸の合成
1Lのチタン製オートクレーブ中に、N−メチルピロリドン300gと49%水酸化ナトリウム163.3gを仕込み、攪拌しながら窒素でパージングした。次に、オートクレーブを密閉して、230℃に昇温し、2時間攪拌した。その後、コンデンサーを備えた開放弁を開放し、オートクレーブ中の圧力が0.87MPaから0.098MPaになるまで水を留出させた。次いで、1,3,5−トリクロロベンゼン181.45gをN−メチルピロリドン50gとともに加え、再度、オートクレーブを密封して230℃に昇温して3時間攪拌した後、冷却した。次に、得られたスラリー104.5gに300mlの純水を加え、析出する未反応の1,3,5−トリクロロベンゼンをろ別した。得られたろ液に、pHメーターで測定しながらpHが4になるまで塩酸を加えたところ油状物が析出した。この油状物にクロロホルムと純水を加えて抽出操作を行い、クロロホルム層を濃縮し、沈殿を析出させた。得られた析出物を再度水洗し、50℃で3時間真空乾燥した。生成物の乾燥質量は38.8gであった。得られた化合物は、GC−MS測定から、下式(1−1−1’)で表される化学構造の4−{(3,5−ジクロロフェニル)−N−メチルアミノ}酪酸(以下、「DCP−MABA」という。)であると同定した。
【0051】
【化4】

【0052】
(合成例2)DCP−SMAB変性LDHの調製
ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製「DHT−4A−2」)100gを520℃で2時間加熱して、仮焼とした(得られたものを「仮焼LDH」という。)。次に、煮沸後80℃とした純水1000mlに水酸化ナトリウム6.9gを窒素気流下で加えて溶解し、合成例1で得られたDCP−MABA22.5g加えて溶解するまで窒素気流下で攪拌した。さらに、この溶液に仮焼LDH7.5gを加え、窒素気流下で、80℃で3時間攪拌した。その後、煮沸後80℃に調整した純水で希釈しながらろ別し、煮沸後80℃に調整した純水で繰り返し洗浄した。次いで、メタノール100mlで洗浄した後、減圧乾燥機で乾燥した。乾燥後の質量は13.3gであった。なお、この合成例2では、水酸化ナトリウムとDCP−MABAとが反応し、DCP−MABAのナトリウム塩である下式(1−1−1)の化合物となった後に、ハイドロタルサイトの層間にインターカレートされる。
【0053】
【化5】

【0054】
得られた化合物は、仮焼LDHを基準とした質量換算の膨潤率が1.8倍であった。また、広角X線回折の結果から、層間が2.1nm(原料のハイドロタルサイトでは0.76nm)と算出された。FT−IRの結果からも、ハイドロタルサイトの特性吸収とDCP−MABAのナトリウム塩(以下、「DCP−SMAB」という。)の特性吸収を有することを確認した。これらの結果から、得られた化合物はハイドロタルサイトの層間にDCP−SMABがインターカレートした「DCP−SMAB変性LDH」と同定した。
【0055】
(合成例3)ポリフェニレンスルフィド樹脂の合成
1Lオートクレーブに、NaSH(有効S:47.6質量%)94.29g、N−メチルピロリドン213.7g及びNaOH(濃度49.1質量%)62.73gを仕込み、攪拌しながら窒素でパージングした。その後、2時間かけて210℃まで昇温し、水を留出させた。次いで、120℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン115.84g及びN−メチルピロリドン130gを加えて密閉し、3時間かけて250℃に昇温し、250℃で2時間攪拌した。その後、冷却した後に開封し、純水を加えてろ過により液を除き、さらに、80℃の純水で洗浄、ろ取を4回繰り返した後、150℃で20時間乾燥して、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS−1」という。)を得た。
【0056】
(実施例1)
1Lオートクレーブに、NaSH(有効S:47.6質量%)94.29g、N−メチルピロリドン213.7g、NaOH(濃度49.1質量%)62.73g及びDCP−SMAB変性LDH4.36gを仕込み、攪拌しながら窒素でパージングした。その後、2時間かけて210℃まで昇温し、水を留出させた。次いで、120℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン114.80g及びN−メチルピロリドン130gを加えて密閉し、3時間かけて250℃に昇温し、250℃で2時間攪拌した。
【0057】
その後、冷却した後開封し、純水を加えてろ過により液を除き、さらに、80℃の純水で洗浄、ろ取を4回繰り返した後、150℃で20時間乾燥して、ポリフェニレンスルフィド樹脂とハイドロタルサイトとのコンポジットであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(以下、「PPS/LDH」という。)を得た。このPPS/LDHの空気環境下550℃で3時間焼成して残った灰分は5.7質量%であり、溶融粘度は40Pa・sであった。
【0058】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の調製)
実施例1で得られたPPS/LDHを、混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを実施例1の樹脂組成物とした。
【0059】
(比較例1)
合成例3で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を、混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを比較例1の樹脂組成物とした。
【0060】
(比較例2)
合成例3で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂95質量部及びハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製「DHT−4A−2」)5質量部を、混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを比較例2の樹脂組成物とした。
【0061】
(比較例3)
合成例3で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂95質量部、ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製「DHT−4A−2」)5質量部及びN−メチルピロリドン400質量部を1Lオートクレーブに仕込み、攪拌しながら窒素でパージングした。その後、2時間かけて250℃まで昇温し、1時間攪拌した。次いで、冷却した後開封し、純水で洗浄、ろ取を5回繰り返した後、150℃で24時間乾燥してポリフェニレンスルフィドとハイドロタルサイトの混合物を得た。さらに、得られた混合物を混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを比較例3の樹脂組成物とした。
【0062】
(比較例4)
合成例3で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂95質量部及び有機変性モンモリロナイト(株式会社ホージュン製「エスベンN−400」)5質量部を、混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを比較例4の樹脂組成物とした。
【0063】
(比較例5)
合成例3で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂95質量部、有機変性モンモリロナイト(株式会社ホージュン製「エスベンN−400」)5質量部及びN−メチルピロリドン400質量部を1Lオートクレーブに仕込み、攪拌しながら窒素でパージングした。その後、2時間かけて250℃まで昇温し、1時間攪拌した。次いで、冷却した後開封し、純水で洗浄、ろ取を5回繰り返した後、150℃で24時間乾燥してポリフェニレンスルフィドとハイドロタルサイトの混合物を得た。さらに、得られた混合物を混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを比較例5の樹脂組成物とした。
【0064】
(比較例6)
合成例3で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂94.5質量部、ガラス繊維(日本電気硝子株式会社製「ECS−03−T−717H」)5質量部、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.5質量部を、混練装置(株式会社東洋精機製作所製「ラブプラストミルKF−6」)を用いて、300℃、100回転/分の混練条件で10分間混練し、取り出して冷却し、ペレット状に加工したものを比較例6の樹脂組成物とした。
【0065】
上記の実施例1及び比較例1〜6で調製した樹脂組成物のペレットを用いて、剛性の指標として曲げ弾性率、靭性の指標として曲げ破断伸び、各種フィラー分散性の指標として光透過率を測定した。
【0066】
(曲げ弾性率測定用サンプルの作製)
上記で得られた樹脂組成物のペレットを用いて、3.1×3.1×35mmのキャビティーを有する金型を用いて、射出成形により曲げ試験用サンプルを作製した。なお、成形条件は、樹脂温度300℃、金型温度140℃とした。
【0067】
(曲げ弾性率の測定)
上記で得られた測定用サンプルを用いて、ASTM D790に準拠して、23℃での曲げ弾性率を測定した。なお、測定スパンは25mmとした。
【0068】
(光透過率測定用サンプルの作製)
上記で得られた樹脂組成物のペレットを用いて、100×100×0.2mmの中央部を60×60×0.2mmにくり抜いたスペーサーを用い、プレス成形により光透過率試験用サンプルを作製した。なお、プレス成形は、樹脂温度320℃、予熱時間2分、プレス力7.7ton、プレス時間1分とし、プレス力解放後瞬時に常温の6mm厚のステンレス板に挟み込み急冷する方法で行った。また、上記の広角X線回折測定を行い、サンプルが結晶化していないことを確認した。
【0069】
(光透過率の測定)
上記で得られた測定用サンプルを用いて、分光光度計(株式会社島津製作所製「UV−3150」)にて、波長600nmでの光透過率を測定した。なお、光透過率は、サンプルの厚さは正確に測定し、厚さ0.2mmに換算したものとした。
【0070】
実施例1及び比較例1〜6の樹脂組成物の組成及び測定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
本発明の製造方法で製造した樹脂組成物である実施例1のものは、高い曲げ弾性率を有しながらも比較例1のPPS−1と同等の伸びを有しており、高い剛性と高い靱性を両立していることが分かった。また、光透過率が単にポリフェニレンスルフィド樹脂とハイドロタルサイトとを溶融混練して混合した比較例2のものと比較して高いことから、ポリフェニレンスルフィド樹脂中にハイドロタルサイトの各層が分離した状態のほぼナノサイズで分散して、コンポジット化していることが確認できた。
【0073】
一方、比較例1〜5の結果から、下記のことが分かった。
【0074】
比較例1は、無機フィラーを配合せず、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみの例であるが、曲げ弾性率が低いことから剛性に乏しいことが分かった。
【0075】
比較例2は、ポリフェニレンスルフィド樹脂にハイドロタルサイトを単純に配合して溶融混練して製造した樹脂組成物の例であるが、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較すると曲げ弾性率が若干向上するものの、コンポジット化した実施例1のものと比較すると低いことから、剛性に十分でないことが分かった。また、曲げ破断伸びがポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較して低下しており、光透過率が実施例1と比較して低いことから、溶融混練ではハイドロタルサイトの分散性が十分でないことが分かった。
【0076】
比較例3は、ポリフェニレンスルフィド樹脂にハイドロタルサイトを単純に配合して、より分散性を向上する目的で溶液混合して製造した樹脂組成物の例であるが、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較すると曲げ弾性率が若干向上するものの、コンポジット化した実施例1のものと比較すると低いことから剛性に十分でないことが分かった。また、曲げ破断伸びの低下は比較例2より小さいものの、光透過率が実施例1と比較して低いことから、溶液混合でもハイドロタルサイトの分散性が十分でないことが分かった。
【0077】
比較例4は、ポリフェニレンスルフィド樹脂に有機変性モンモリロナイトを単純に配合して溶融混練して製造した樹脂組成物の例であるが、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較すると曲げ弾性率が若干向上するものの、コンポジット化した実施例1のものと比較すると低いことから剛性に十分でないことが分かった。また、曲げ破断伸びがポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較して低下しており、光透過率が実施例1と比較して低いことから、溶融混練では有機変性モンモリロナイトの分散性が十分でないことが分かった。
【0078】
比較例5は、ポリフェニレンスルフィド樹脂に有機変性モンモリロナイトを単純に配合して、より分散性を向上する目的で溶液混合して製造した樹脂組成物の例であるが、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較すると曲げ弾性率が若干向上するものの、コンポジット化した実施例1のものと比較すると低いことから剛性に十分でないことが分かった。また、曲げ破断伸びの低下は比較例2より小さいものの、光透過率が実施例1と比較して低いことから、溶液混合でも有機変性モンモリロナイトの分散性が十分でないことが分かった。
【0079】
比較例6は、ポリフェニレンスルフィド樹脂にガラス繊維を単純に配合して溶融混練して製造した樹脂組成物の例であるが、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみと比較すると曲げ弾性率が若干向上するものの、コンポジット化した実施例1のものと比較すると低いことから剛性に十分でないことが分かった。さらに、ポリフェニレン樹脂のみの比較例1と比較すると曲げ破断伸びが低下しており、靭性に劣ることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する工程において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合単位となり得る構造を有する有機化合物(a1)を層状化合物(a2)の層間にインターカレートされた化合物(A)を原料の一部として加えることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記有機化合物(a1)が、前記層状化合物(a2)と共有結合又はイオン結合を形成し得る官能基を有する化合物である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物(a1)が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【化1】

(式中、Xはハロゲン基、X’はXと同一又は異なるハロゲン基、Eは電子吸引基、Aは前記層状化合物(a2)の層と共有結合又はイオン結合を形成し得る官能基を有する有機基を表す。また、mは0又は1であり、nはmが0のときは1〜4の整数であり、mが1のときは0〜3の整数である。
【請求項4】
上記一般式(1)中のAが、炭素原子数2〜18のアルキレン基を含み、アンモニウムイオン基、ホスホニウムイオン基、スルホニウムイオン基、カルボン酸金属塩及びスルホン酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのイオン性基を有する有機基である請求項3記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
上記一般式(1)中のAが、芳香環と二価連結基を介して結合するか又は直接結合した炭素原子数2〜18のアルキレン基の末端にカルボン酸金属塩又はスルホン酸金属塩を官能基として有する有機基であり、かつ前記層状化合物(a2)が層状複水酸化物である請求項4記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いて成形したことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−140586(P2011−140586A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2794(P2010−2794)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】