説明

ポリアルキレンエーテルポリアミドの製造方法

【課題】本発明は、重合の粘度上昇速度(重合速度)が安定した製造法を提供し、ポリアルキレンエーテルポリアミドの生産性を向上させることを目的とする。
また、ポリアルキレンエーテルジアミンから低級アミン不純物を除去した後、重合に供することにより、いっそう安定した品質のポリアルキレンエーテルポリアミドを得ることも目的とする。
【解決手段】低級アミン不純物を含むポリアルキレンエーテルジアミンとジカルボン酸とを少なくとも含有するポリアミド形成モノマの重合を行うに際し、添加するジカルボン酸のカルボキシル基量のポリアルキレンエーテルジアミンの低級アミン不純物を含めた全アミノ基量に対するモル比(カルボキシル基量/全アミノ基量)が0.9〜1.0になるようにジカルボン酸を添加し重合を行うことを特徴とするポリアルキレンエーテルポリアミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアルキレンエーテルポリアミドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このポリアミドは一般にポリアルキレンエーテルグリコールのシアノエチル化物を水素化して得られたポリアルキレンエーテルジアミンとジカルボン酸、及び場合によっては他のポリアミド形成モノマとの縮重合反応によって得られる。
【0003】
この重合反応では、重合反応途中での粘度上昇速度すなわち重合速度が低下する現象があった。以前これは重合の出発物質として用いるポリアルキレンエーテルジアミン中に含まれる不純物が原因であることが明らかにされ、そこで不純物が存在しても重合速度を低下させないために、重合触媒としてトリフェニルホスファイトを重合反応系へ添加する方法が見出された(特許文献1)。しかしながら、その後この方法で重合を行っても重合速度が低下することがしばしばあり、著しく生産性が低下することが未だ問題となっている。
【0004】
一方ポリアルキレンエーテルジアミンへのジカルボン酸の添加量は、pHの中和点で決定するのが通常の工業的方法である。
【特許文献1】特公昭60−22035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らはかかる重合速度低下の改善、対策を鋭意検討した結果、ジアミンの不純物が重合速度低下の原因となっていることを見出した。従来、重合速度低下の原因物質として注目されていた不純物は、構造的に末端封鎖剤の効果をもつ低沸のモノアミンおよび2,3級アミンであり、このジアミンの不純物は、ジアミンという構造の関係上、重合への影響は特に問題視されていなかったものである。
【0006】
詳述するとモノアミンや2,3級アミンはポリアルキレンエーテルジアミンに対して0.1wt%以下しか含まれていないのに対し、低級ジアミンのビス(3-アミノプロピルエーテル)は上記ジアミンに対して0.5wt%以上と相当な量が含まれており、ポリアルキレンエーテルジアミンに対するモル数の寄与が大きいことが判明した。一例を挙げると、ポリエチレングリコールジアミンの繰り返し単位が10以上のもので、ビス(3-アミノプロピルエーテル)含量2wt%が10mol%以上に相当する。そのため、ポリアルキレンエーテルジアミンへのジカルボン酸の添加量をpHの中和点で決定する際、ポリアルキレンエーテルジアミン中のビス(3-アミノプロピルエーテル)の存在により、ポリアルキレンエーテルジアミンとカルボン酸の重合バランスが崩れ、重合速度が低下してしまうことを本発明者らは見出したのである。
【0007】
すなわち本発明は、重合の粘度上昇速度(重合速度)が安定した製造法を提供し、ポリアルキレンエーテルポリアミドの生産性を向上させることを目的とする。
【0008】
また、ポリアルキレンエーテルジアミンから低級アミン不純物を除去した後、重合に供することにより、一層安定した品質のポリアルキレンエーテルポリアミドを得ることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、アミン不純物量を減らし、得られたポリアルキレンエーテルジアミンの全アミン価に対応するアミノ基量を求め、カルボキシル基とポリアルキレンエーテルジアミン中の全アミノ基量とのモル比が0.9〜1.0になるようにジカルボン酸を添加して重合を行うことによって達成される。
【0010】
すなわち、本発明は、低級アミン不純物を含むポリアルキレンエーテルジアミンとジカルボン酸とを少なくとも含有するポリアミド形成モノマの重合を行うに際し、添加するジカルボン酸のカルボキシル基量のポリアルキレンエーテルジアミンの低級アミン不純物を含めた全アミノ基量に対するモル比(カルボキシル基量/全アミノ基量)が0.9〜1.0になるようにジカルボン酸を添加し重合を行うことを特徴とするポリアルキレンエーテルポリアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重合途中で粘度上昇速度の低下はなくポリアルキレンエーテルポリアミドの安定した製造ができるようになり生産性が向上する。
【0012】
さらに、本発明の方法によれば、重合触媒であるトリフェニルホスファイトを使用する必要はなく、環境への負荷低減およびコスト削減を達成できる。
【0013】
また、ポリアルキレエーテルンジアミン中に含まれる低級アミン不純物を除去した後、重合に供することにより一層安定した品質のポリアルキレンエーテルポリアミドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いるポリアルキレンエーテルジアミンは、ポリアルキレングリコールのOH基末端がアミノ基末端に置き換わったものである。
【0015】
このようなポリアルキレンエーテルジアミンの製造方法としては、ポリアルキレンエーテルグリコールのシアノエチル化物を水素化する方法が挙げられる。
【0016】
上記ポリアルキレングリコールはアルキレンエーテル繰り返し単位が2以上、好ましくは4以上のグリコールであり、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等がある。なかでもポリエチレングリコールが好ましい。
【0017】
上記ポリアルキレングリコールはアクリロニトリルによってシアノエチル化し、さらに水素化してポリアルキレンエーテルジアミンとするが、シアノエチル化はポリアルキレングリコールに適当な水およびアルカリ触媒の存在下でアクリロニトリルを添加し行うのが好ましい。その後得られたポリアルキレンエーテルのシアノエチル化物は水添触媒との混合スラリーとしてオートクレーブに仕込み、溶媒を添加して水素を吹き込み水素化すればよい。
【0018】
上記水素化反応で得られたポリアルキレンエーテルジアミンは通常これに対して0.5〜4wt%程度のビス(3-アミノプロピル)エーテル、0.1wt%以下のモノアミン、2,3級アミンなどの低級アミンを含んでいる。本発明においては、上記水素化反応で得られたポリアルキレンエーテルジアミンをそのまま使用してもよいし、それらの低級アミン不純物の一部または全部を除去してもよい。中でもより一層の品質の安定化ができる点で後者の方が好ましい。
【0019】
低級アミン不純物を除去するには、例えば窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下280〜60℃好ましくは200〜80℃、更に好ましくは180〜100℃の温度で、30kPa以下好ましくは15kPa以下でポリアルキレンエーテルジアミンを加熱する方法が挙げられる。その際濃縮も同時に行うことができる。加熱濃縮後のポリアルキレンエーテルジアミン中の低級アミン不純物量としては、ビス(3-アミノプロピルエーテル)含量がポリアルキレンエーテルジアミンに対して3wt%以下、好ましくは2wt%以下のものとするのがよい。この操作によりビス(3-アミノプロピルエーテル)より低沸点のモノアミン、2,3級アミン類の含量は結果的に検出限界(数ppm)以下のものとなる。
【0020】
一方、本発明に使用されるジカルボン酸としてはアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、スベリン酸、ドデカン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。好ましくは脂肪族のジカルボン酸、更に好ましくはアジピン酸が使用される。
【0021】
上記の重合反応に、他のポリアミド形成モノマ、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ドデカラクタムなどのラクタム類、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカンジアミンなどのジアミン類とジカルボン酸類の塩を使用して、共重合体を製造してもよい。他のポリアミド形成モノマとしては、特にε-カプロラクタム、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸やイソフタル酸との塩が好ましい。
【0022】
上記の如き、共重合体とする場合、その共重合比はポリアルキレンエーテルジアミンとジカルボン酸とからなるポリアミド成分が全ポリアミド中99〜20wt%を占めることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する不純物が含まれるポリアルキレンエーテルジアミンと上記のジカルボン酸との塩は、上記ポリアルキレンエーテルジアミンの全アミン価に対応するアミノ基量とこれに対して0.9〜1.0モル当量、好ましくは0.95〜1.0モル当量のジカルボン酸を添加する方法で調整すればよい。ここでいうポリアルキレンエーテルジアミンの全アミン価は低級アミン不純物を含むものであり、全アミン価はこれら低級アミン不純物を含むポリアルキレンエーテルジアミン中の全アミン価である。
【0024】
重合反応は、前重合と後重合の2段階に分けて行ってもよいし1段階で行ってもよい。重合反応器に上記のポリアルキレンエーテルジアミンとジカルボン酸の水溶液を、場合によっては他のポリアミド形成モノマとともに供給し、たとえば窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下で加熱して重合を行えばよい。重合反応系の圧力は加圧、常圧、減圧下いずれの場合であってもよい。通常、重合反応系の温度は100〜300℃、好ましくは150〜280℃、圧力は1〜2000 kPaで行うことができるが、この範囲に限らずともよい。
【0025】
重合が終了したポリマは重合反応器から吐出、カッティングをして製品とする。また、ポリマに水などの溶剤を添加し溶液として吐出させてもよい。あるいはポリマの用途に応じた形ならこれに限らずともよい。
【実施例】
【0026】
次に実施例をもって本発明の効果を説明する。
【0027】
なお、以下の実施例中の全アミン価、ビス(3-アミノプロピルエーテル)含量、相対粘度、およびリン含量は次に示す方法で測定した値である。
【0028】
(全アミン価)
ポリアルキレングリコールジアミン約3gを精秤し、メタノール30mlを加えて完全に溶解する。メチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を2〜3滴加えて0.5M塩酸溶液で中和滴定する。滴定の終点は赤紫色から灰色になる点とする。試料採取量と滴定量を用いて、次の式によって計算する。
【0029】
【数1】

【0030】
(ビス(3-アミノプロピルエーテル)含量)
ポリアルキレングリコールジアミン2.5gを採取し、内部標準物質としてジフェニルエーテル約0.05gを加えメタノール25mlに溶解する。この溶液を用いて以下に示す分析条件でガスクロマトグラフィー(GC)分析により定量した値である。
【0031】
分析条件
カラム:キャピラリーカラムTC-5 0.25mmφ×30m
カラム温度: 120℃(10min)→10℃/min→300℃(60min)
注入口温度:300℃
検出器(FID)温度:300℃
全流量: He 30.8 ml/min
Split ratio : 30。
【0032】
(相対粘度)
ポリアルキレンエーテルポリアミドを70wt%の抱水クロラール中に1wt%の濃度となるように溶解し、これをオストワルド粘度計により25℃で測定した値で、70wt%の抱水クロラールに対する相対粘度である。
【0033】
(リン含量)
白金蒸発皿にポリアルキレンエーテルポリアミドを約5g採取して精秤する。10%食塩を0.5g加えてヒーター上で加熱し溶解、燃焼した後、電気炉で灰化する。残留物に濃塩酸を加えて溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH5〜7に中和して蒸留水で100mlに希釈する。希釈液25mlにモリブデン青2mlを加えて発色させ、波長880nmを用いて吸光光度法により定量した値である。
【0034】
(実施例1)
平均分子量600のポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製U-601)をアルカリ触媒の存在下ポリエチレングリコールに対して数%の水を添加し、室温でアクリロニトリル(昭和電工(株)工業用化学品)によりシアノエチル化した。その後これをオートクレーブに仕込み、水素を吹き込んで30〜40℃で水素添加反応を行いポリエチレングリコールジアミンを合成した。得られたジアミンを100℃、0.7kPaで5時間加熱濃縮した後、GCによるビス(3-アミノプロピルエーテル)定量を行った。結果を表1に示した。次に全アミン価を測定して全アミノ基量を出し、それに対応するアジピン酸を添加して塩反応させる事により、ポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を得た。攪拌機付きの重合缶に、上記のポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を120重量部、ε-カプロラクタムの85wt%水溶液を24重量部、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を40重量部投入し、重合缶内に窒素を流しながら加熱を開始した。内温が200℃になった時点から攪拌を行い、常圧、内温235℃で重合を行った。重合終了後、吐出カッティングして製品ポリマを得た。重合反応に要した時間と得られたポリマの相対粘度およびリン含量の測定結果を表1に示した。
【0035】
(実施例2)
ポリエチレングリコールジアミンの加熱濃縮を160℃、3kPaで4時間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で重合反応を行った。結果を表1に示した。
【0036】
(実施例3)
ポリエチレングリコールジアミンを加熱濃縮せずに、それ以外は実施例1と同様の方法で重合反応を行った。結果を表1に示した。
【0037】
(比較例1)
ポリエチレングリコールジアミンを加熱濃縮せずに、pHによる塩調製法でアジピン酸を添加し塩反応させることによりポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を得た。測定したポリエチレングリコールジアミンの全アミン価から求めた全アミノ基に対する中和点(pH=7.3)までに要したアジピン酸のカルボキシル基のモル比を計算すると0.84であった。その後実施例1と同様の方法で重合を行う際、更に重合触媒としてトリフェニルホスファイトを0.01重量部添加して重合を実施した。結果を表1に示した。
【0038】
表1の結果から、比較例1の場合には、全アミノ基に対する中和点までに要したアジピン酸のカルボキシル基のモル比が小さいことから、重合バランスが崩れ、重合速度が十分に上がらず、結果として重合時間が長く、生産性が低いものと考えられる。
【0039】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で得たポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を85重量部、ε-カプロラクタムの85wt%水溶液を15重量部、攪拌機付きの前重合缶に投入し、窒素気流下、常圧、内温270〜280℃で重合を行った。得られたプレポリマを後重合缶に供給し、攪拌機で練りながら窒素気流下、常圧、内温230℃で後重合を行った。結果を表1に示した。
【0040】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で得たポリエチレングリコールジアミンの全アミン価から求めた全アミノ基に対して、カルボキシル基のモル比(カルボキシル基/アミノ基)が1.06となるようにアジピン酸を添加しポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートを得た。
得られたポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を使用して、更に重合触媒としてトリフェニルホスファイトを0.01重量部添加し、実施例4と同様の方法で重合を行った。結果を表1に示した。
【0041】
表1の結果から、比較例2の場合のように全アミノ基に対するカルボキシル基のモル比が大きい場合にも重合バランスが崩れ、重合速度が十分に上がらず、結果として重合時間が長く生産性が低いものと考えられる。
【0042】
(実施例5)
平均分子量4000のポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製U-101)を使用して、実施例1と同様の方法で得たポリエチレングリコールジアンモニウムアジペートの50wt%水溶液を94重量部、ε-カプロラクタムの85wt%水溶液を59重量部およびヘキサメチレンジアンモニウムイソフタレートの50wt%水溶液を6重量部、前重合缶に投入し、280〜245℃、常圧下で重合反応を行いプレポリマを得た。得られたプレポリマを溶融状態でエクストルーダに供給し2.7kPaの減圧下245℃で後重合を行った。結果を表1に示した。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級アミン不純物を含むポリアルキレンエーテルジアミンとジカルボン酸とを少なくとも含有するポリアミド形成モノマの重合を行うに際し、添加するジカルボン酸のカルボキシル基量のポリアルキレンエーテルジアミンの低級アミン不純物を含めた全アミノ基量に対するモル比(カルボキシル基量/全アミノ基量)が0.9〜1.0になるようにジカルボン酸を添加し重合を行うことを特徴とするポリアルキレンエーテルポリアミドの製造方法。
【請求項2】
ポリアルキレエーテルンジアミン中に含まれる低級アミン不純物の一部または全部を除去した後、重合に供することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
低級アミン不純物を含むポリアルキレンエーテルジアミンがポリアルキレンエーテルグリコールのシアノエチル化物を水素化して得られたものである請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
ポリアルキレンエーテルジアミン中に含まれる低級アミン不純物がビス(3-アミノプロピル)エーテルである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−269837(P2007−269837A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93721(P2006−93721)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】