説明

ポリイミドの分解・回収方法

【課題】特殊な設備が不要であって、速度的に有利なポリイミドの加水分解による回収方法を提供する。
【解決手段】尿素を含む処理液中において、95℃〜200℃の温度でポリイミドを加水分解するポリイミドの分解・回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年大量に廃棄されている産業廃棄物におけるポリイミドまたはポリイミドを含む廃棄物や、生産時における商品とならなかったポリイミドを加水分解・回収処理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドの成形品あるいはフィルムは、優れた耐薬品性を有しており、溶媒に溶けない、非熱可塑性である場合が多く、ポリスチレンなどの熱可塑性プラスチックのように溶融して再利用することができなかった。
これらの優れた性能を有するポリイミドは多くの工業製品に使用されており、使用済み製品や不良製品の再生処理や再資源化が困難であり、現状は残念ながら、そのまま埋め立て廃棄処分されるか又は焼却廃棄処分されている。
埋め立て廃棄処分には用地の確保や、あるいは焼却処分には焼却炉が必要であり、地球環境に対する影響が大きい。特に近年の地球環境汚染問題や資源枯渇の問題が叫ばれるようになって以来、有効に再利用する回収方法が重要な課題となってきている。
この課題解決のために、ポリイミドを化学的に分解するケミカルリサイクルの手段や技術が提案されている。
【0003】
例えば、オートクレーブなどを用いて、ポリイミドを水またはアルコールと共存させて110℃以上、1MPa以上の高温高圧条件で低分子量体に分解する方法(特許文献1参照)、ポリイミド系樹脂を有する部材と水を入れたオートクレーブ中で200℃以上400℃以下、かつその温度での水の飽和水蒸気圧以上の条件で分解する方法(特許文献2参照)、ポリイミドなどの高分子含有固体を、溶解パラメータが18(MJ/m1/2以上の溶解パラメータを有する溶剤を含有する高分子分解材料に、200℃以上の温度で接触させて、前記高分子固体を分解する方法(特許文献3参照)、高分子分解材料として極性の大きい溶剤を用いるかまたは超臨界水又は亜臨界水などを用いて、200〜700℃の高温、および2〜100MPaの高圧状態で保持することで、ポリイミドを加水分解する方法(特許文献4参照)などが提案されている。これらの提案手段においては、高温高圧条件であるが故に工業的には大容量の高温高圧反応容器などの特殊な設備を必用とするために、設備投資が高額となり、安全に維持する為のメンテナンスが必須で高度な運転技術も必要とするなど、実用上課題が多い。
【0004】
また、ポリイミドをアルカリ加水分解して低分子量体にすると共にこの低分子量体を回収する手段において、高温高耐圧反応容器などの特殊な設備や溶媒の使用を不要とし、分解や中和に用いる薬品に起因する不純物が少ない状態で低分子量体にし、かつこの低分子量体を回収する方法として、ポリイミドをイミド基1モルに対して2〜80倍モルの水酸イオン(OH)を生成する量の塩基性物質の存在下アルカリ加水分解して低分子量体に分解するポリイミドのアルカリ加水分解方法(特許文献5参照)も提案されているが、酸およびアルカリによる加水分解手段については、一般的に古来知られており分解速度の観点から実用上の課題を有している場合が多く、水酸化アルカリのようなアルカリ使用による処理においては処理後のアルカリ除去に多大のエネルギーを要する。
【0005】
【特許文献1】特開2001−163973号公報
【特許文献2】特開2002−284924号公報
【特許文献3】特開2002−256104号公報
【特許文献4】特開平 10−287766号公報
【特許文献5】特開2006−124530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大容量の高温高圧反応容器などの特殊な設備、高度な運転技術を必要とすることなく、分解速度の観点からも実用性のある、不用ポリイミド製品やポリイミドフィルムを埋め立て処理や焼却処理することなく、使用アルカリの処理後の除去にも有利で効率的な、低分子物に速やかに加水分解し回収する方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記の構成によるものである。
1. ジアミン類と、カルボン酸類とを重縮合して得られたポリイミドを、尿素と水を含む処理液中において、加水分解する工程を少なくとも含むことを特徴とするポリイミドの分解・回収方法。
2. 加水分解が95℃を超え、200℃未満の温度でなされる1.のポリイミドの分解・回収方法。
3. ポリイミドのカルボン酸類の主成分がピロメリット酸である1.〜2.いずれかのポリイミドの分解・回収方法。
4. ポリイミドのジアミン類の主成分がベンゾオキサゾール骨格を有するジアミンである1.〜3.いずれかのポリイミドの分解・回収方法。
・ 尿素を、ポリイミド1000000質量部に対し、2600〜5200当量
となるように用いる1.〜4.いずれかのポリイミドの分解・回収方法。
6. ポリイミドの処理液に対する濃度が20質量%以上である1.〜5.いずれかのポリイミドの分解・回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のジアミン類と、カルボン酸類とを重縮合して得られるポリイミドを、尿素と水を含む処理液中において、加水分解するポリイミドの分解・回収方によれば、以下に説明するとおり、ポリイミドを加水分解して低分子量体にすると共にこの低分子量体を回収する手段において、従来技術における高温高耐圧反応容器などの特殊な設備や溶媒が不要であって、かつ水酸化アルカリのようにこのアルカリを除去するために中和や水洗などの多大のエネルギー消費を伴わない、尿素が加水分解工程で炭酸ガスとアンモニアに分解してこれらがポリイミド分解に効果的に作用して、速度的に実用上有利となり、ポリイミドの低分子量体を速やかに比較的安直に回収することができ、ポリイミドまたはポリイミドを含む廃棄物や、生産時における商品とならなかったポリイミドを加水分解・回収処理することが容易となり、近年要求される環境問題においても多大の貢献が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるポリイミドは、その形態はさまざまであり、フィルム状態、フィルムに
金属薄膜や無機薄膜やそれらの複合体が積層された状態、などがその例として挙げられる。ポリイミドは、ジアミン類と、カルボン酸類(テトラカルボン酸類)とを重縮合して得
られるポリイミドであれば特に限定されるものではないが、好ましくは芳香族ジアミン類
と、芳香族テトラカルボン酸類との反応によって得られるポリイミドであり、より好まし
くは下記の芳香族ジアミン類(ジアミンやイミド結合性ジアミン誘導体、以下同)と芳香
族テトラカルボン酸(酸や二無水物やイミド結合性酸誘導体、以下同)類との組み合わせ
が好ましい例として挙げられるが、カルボン酸としては、ピロメリット酸が好ましいもの
であり、ジアミン類としてはベンゾオキサゾール骨格(構造)を有するジアミンが好まし
い。
A.ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
B.ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
D.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
また、上記のABCDの一種以上の組み合わせが好ましい。
これらの芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とはポリイミド(フィルム)に
おいて、それぞれの残基としてイミド結合を構成する。
本発明で好ましく使用できるジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類は、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが挙げられそれらのイミド結合性誘導体を含めてジアミン類と称する(以下同)ものであり、これらの中で4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類が好ましく使用でき、本発明における各上記例のポリイミド中で70モル%以上使用することが好ましい。
また、フェニレンジアミン類としては、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンが挙げられるが中でもp−フェニレンジアミン類が好ましく使用でき、本発明における各上記例のポリイミド中で70モル%以上使用することが好ましい。
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするポリイミドベンゾオキサゾールに使用される、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類として、下記の化合物が例示できる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを70モル%以上使用することが好ましい。
【0014】
本発明は、前記事項に限定されず下記の芳香族ジアミンを使用してもよいが、好ましくは全芳香族ジアミン類の30モル%未満であれば下記に例示される前記ベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種または二種以上、併用してのポリイミドフィルム(A.ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせの場合)である。
同様に、B.ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリッ
ト酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせや、C.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせの場合においても、全芳香族ジアミン類の30モル%未満であれば下記に例示されるジアミン類の中で該当ジアミン類以外のものを併用してのポリイミドフィルムであってもよい。
そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン。
【0015】
3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン。
【0016】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン。
【0017】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド。
【0018】
2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルフォン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン。
【0019】
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0020】
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸類は例えば芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられるが、ポリイミド中で70モル%以上使用することが好ましく、特にピロメリット酸を70モル%以上使用することが好ましい。
【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%未満であれば前記限定に係らず下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物。
【0024】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
前記芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸(無水物)類とを反応(重合)させてポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。 これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0026】
ポリアミド酸を得るための重合反応の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。
【0027】
高温処理によるイミド化方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができる。
【0028】
本発明における尿素としては、尿素や尿素水溶液や尿素含有有機物などの形態が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明における、尿素と水を含む処理液(以下尿素水ともいう)を使用しての加水分解処理は95℃を超えて200℃未満であることが好ましい。
加水分解処理温度も95℃以下であれば加水分解速度が遅すぎて実用上問題が生じる場合が多く、200℃以上の場合には耐圧性や技術的な課題が多くなる。尿素水を使用しての加水分解処理は、さらには98℃以上180℃未満、なおさらには105℃以上150℃未満の温度で行うことが好ましい。
【0030】
処理液中の尿素の使用量は、ポリイミド1000000質量部に対し、尿素が2600〜5200当量となるように用いることが好ましく、ポリイミドの処理液に対する濃度が20質量%以上である処理が好ましい。
ポリイミドの処理液に対する濃度の上限は好ましくは42質量%、なお好ましくは33質量%である。
処理液中の尿素の絶対量は、処理されるポリイミド中のイミド基1当量に対し、2当量未満に抑えることが好ましい。尿素量を増すことにより分解速度を上げることが可能であるが、必要以上に尿素量を増すと、最終的に得られた分解物から当該尿素を含む化合物を除去することが困難となり、回収された分解物のリサイクルに支障を来す場合がある。また、処理容器などの耐食性に問題が生じる場合があり、不必要に高価な耐食性材料を用いた設備としなければならないなど工業化に当たって支障がでる場合がある。
【0031】
本発明においては、分解対象のポリイミドの切断あるいは粉砕による微細化や、加水分解処理後のポリイミドからの低分子物を回収するにあたっての、未分解物の濾過、酸性水溶液の添加による沈殿分離、晶析、イオン交換処理、活性炭処理、酸化剤処理、還元剤処理などの従来技術を適応することができる。
従来のアルカリ、特に無機アルカリを使用した場合には、それらアルカリ成分が塩の形になって残存し、回収物に不純物として混入する。水洗などで塩濃度を下げることは可能であるが、完全に除去することは極めて難しい。かかる導電性の塩からなる不純物は、回収した低分子化合物をポリイミド等に再利用する際に反応を阻害する場合があり、また得られたポリイミドフィルムの電気特性を低下せしめるものである。
本発明で使用する尿素は、処理環境下にて加水分解してアンモニアを生成し、かかるアンモニアによりポリイミドの加水分解が行われる。処理後のアンモニアの除去は加熱などによって比較的容易に系外に出すことができ従来のアルカリ使用に対して優位である。
また仕込み段階にて固体で比較的安定な尿素を用いることにより、作業環境の安全衛生生を保つことができる。
【0032】
本発明においてポリイミドフィルムを処理する場合、当該ポリイミドフィルムを細片化して処理することが好ましく、より好ましくは細片の平均サイズが最大辺30mm以下、さらに好ましくは10mm以下、なお好ましくは4mm以下程度にと微細片化すると良い。細片サイズが大きすぎると処理槽内での攪拌や輸送に支障を来す場合がある。
本発明におけるポリイミドフィルムの処理量は、処理液に対して20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、21質量%以上65質量%以下がなお好ましく、24質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。処理量がこの範囲に満たないと処理効率が悪くなる。処理量がこの範囲を超えると、処理後の流動性が悪化し、回収作業に支障が出る場合がある。
本発明におけるプロセスとしては、(1)開放系の反応缶を用い、常圧下にて処理液を加熱攪拌し、環流を行う方法、(2)密閉系の反応缶を用い、加熱・加圧下で反応を行う方法を、それぞれ例示することができる。反応効率の上では後者が好ましいが、装置が大がかりになるため、実用にそくしたスケールにて(1)、(2)を、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0034】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン(又は、N,N−ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。(ポリアミド酸溶液の調製に使用した溶媒がN,N−ジメチルアセトアミドの場合は、N,N−ジメチルアセトアミドを使用してポリマーを溶解し、測定した。)
【0035】
2.ポリイミドフィルムの厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1254D)を用いて測定した。
【0036】
〔参考例1〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後,5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部、N,N−ジメチルアセトアミド4416質量部を加えて完全に溶解させた後,コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックスDMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)40.5質量部(シリカを8.1質量部含む)、ピロメリット酸二無水物217質量部を加え,25℃の反応温度で24時間攪拌すると,褐色で粘調なポリアミド酸溶液aが得られた。このもののηsp/Cは4.0dl/gであった。
【0037】
〔参考例2〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を7.6質量部、N−メチル−2−ピロリドン390質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、3800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を390質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液bが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7dl/gであった。
【0038】
〔参考例3〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を3.7質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミンを入れた。次いで、3600質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と292.5質量部のビフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて12時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液cが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.5dl/gであった。
【0039】
<フィルムの製造例1>
ポリアミド酸溶液aをステンレスベルトに、スキージ/ベルト間のギャップを950μmとしてコーティングし、110℃にて15分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離しグリーンフィルムを得た。得られたグリーンフィルムを連続式の熱処理炉に通し、第1段が150℃で2分、続いて200℃にて2分間熱処理した後、495℃にて4分間熱処理し、イミド化反応を進行させ厚さ38μmポリイミドフィルムAを得た。ポリイミドフィルムAのイミド結合当量は概ね5235m当量/kgである。
【0040】
<フィルムの製造例2>
ポリアミド酸溶液bをステンレスベルトに、スキージ/ベルト間のギャップを950μmとしてコーティングし、100℃にて20分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離しグリーンフィルムを得た。得られたグリーンフィルムを連続式の熱処理炉に通し、第1段が130℃で2分、続いて180℃にて2分間熱処理した後、400℃にて4分間熱処理し、イミド化反応を進行させ厚さ38μmポリイミドフィルムBを得た。ポリイミドフィルムBのイミド結合当量は概ね5465m当量/kgである。
【0041】
<フィルムの製造例3>
ポリアミド酸溶液cをステンレスベルトに、スキージ/ベルト間のギャップを950μmとしてコーティングし、110℃にて15分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離しグリーンフィルムを得た。得られたグリーンフィルムを連続式の熱処理炉に通し、100℃から450℃にかけて50℃/分の速度にて昇温し、450℃にて2分保持し、約1分間にて50℃程度まで冷却するプロファイルにて熱処理を行い厚さ38μmポリイミドフィルムCを得た。ポリイミドフィルムCのイミド結合当量は概ね5222m当量/kgである。
【0042】
<実施例1〜、比較例1〜>
ポリイミドフィルムAおよびポリイミドフィルムAを作製する際に生じたフィルムクズを裁断機にて平均辺長5mm程度の細片に破砕した。得られた細片を、攪拌羽根と環流管を備えたフラスコに入れ、表1に示す組成となるように尿素、水を仕込み、表1に示す温度、時間にて処理した。結果を表1に示す。
表中、「尿素/ポリイミド」は尿素とポリイミドの質量の比である。表中、ポリイミド欄のA、B、Cは各ポリイミドフィルムおよび各ポリイミドフィルムを作製する際に生じたフィルムクズの使用量を示す。
「処理後の流動性」については、処理後サンプルの状態を目視判定したものである。
「未分解物量」は処理後の容器内容物を100メッシュのステンレス網で濾過し、ステンレス網上に残った固形物を水洗乾燥して求めた固形物質量部である。
ステンレスメッシュでの濾過により得られた濾液に尿素当量の2.4倍の塩酸を加え、生じた沈殿を5B濾紙で濾過・水洗・乾燥し、回収物とした。得られた回収物量を表1.に示す。
得られた回収物10質量部を脱イオン水90質量部に分散させ、電気伝導性不純物量を評価するため24時間静置後の上澄み液の電気伝導度を堀場製作所製導電率系DS−51にて測定した。
以下同様に、ポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルムを作製する際に生じたフィルムクズの使用量、尿素、水の量を表1〜3に示すように変えて実験を行った。結果を表1〜表3に示す。なお、処理環境が「密閉」で、温度条件が100℃以上125℃未満の場合に於いては、回転式染色試験機ミニカラー(テクサム技研社製)を用い、同試験機のステンレス製ポットを用いて処理を行った。処理温度が125℃以上の場合は、密閉したミニカラー試験機用ポットを、PCT試験器(平山製作所製)に入れて処理を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のポリイミド加水分解方法は、ポリイミドを加水分解して低分子量体にすると共にこの低分子量体を回収する手段であり、従来技術における高温高耐圧反応容器などの特殊な設備や溶媒が不要であって、速度的に実用上有利となり、ポリイミドの低分子量体を速やかに比較的安直に回収することができる方法として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン類と、カルボン酸類とを重縮合して得られたポリイミドを、尿素と水を含む処理液中において、加水分解工程を少なくとも含むことを特徴とするポリイミドの分解・回収方法。
【請求項2】
加水分解工程が95℃を超え、200℃未満の温度でなされる請求項1記載のポリイミドの分解・回収方法。
【請求項3】
ポリイミドのカルボン酸類の主成分がピロメリット酸である請求項1〜2いずれかに記載のポリイミドの分解・回収方法。
【請求項4】
ポリイミドのジアミン類の主成分がベンゾオキサゾール骨格を有するジアミンである請求項1〜3いずれかに記載のポリイミドの分解・回収方法。
【請求項5】
尿素を、ポリイミド1000000質量部に対し、2600〜5200当量となるように用いる請求項1〜4いずれかに記載のポリイミドの分解・回収方法。
【請求項6】
ポリイミドの処理液に対する濃度が20質量%以上である請求項1〜5いずれかに記載のポリイミドの分解・回収方法。

【公開番号】特開2009−51958(P2009−51958A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220667(P2007−220667)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】